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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】電極触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20220203BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20220203BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220203BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017189200
(22)【出願日】2017-09-28
(65)【公開番号】P2018060790
(43)【公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2016197621
(32)【優先日】2016-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 雄一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 行一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 彦睦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 直彦
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-119685(JP,A)
【文献】特表2015-502646(JP,A)
【文献】特開2010-089032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、
前記分散液を加熱して、前記触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる工程であって、当該工程を前記分散液中に蟻酸化学種が存在する状態下に行う担持工程と、
を有する電極触媒の製造方法であって、
前記触媒担体粉として酸化スズを含むセラミックス材料を用いる、電極触媒の製造方法
【請求項2】
前記分散液作製工程において水又は水含有化合物を混合して、前記分散液中に水を存在させ、
前記担持工程において、前記分散液中に存在する前記水と前記有機化合物とを反応させて蟻酸化学種を生成させる請求項1に記載の電極触媒の製造方法。
【請求項3】
前記水含有化合物として、結晶水を有する前記遷移金属化合物を用いる請求項2に記載の電極触媒の製造方法。
【請求項4】
(i)ホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、(v)水又は水含有化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、
前記分散液を加熱して、前記触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる担持工程と、
を有する電極触媒の製造方法であって、
前記触媒担体粉として酸化スズを含むセラミックス材料を用いる、電極触媒の製造方法
【請求項5】
前記水含有化合物として、結晶水を有する前記遷移金属化合物を用いる請求項4に記載の電極触媒の製造方法。
【請求項6】
前記分散液作製工程において、カルボキシル基を含む芳香族化合物を更に混合する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の電極触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に好適に用いられる電極触媒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、パーフルオロアルキルスルホン酸型高分子などのプロトン伝導性を有する高分子膜を固体電解質とし、該固体高分子膜の各面に電極触媒が施されてなる酸素極及び燃料極が形成された膜電極接合体を備えている。
【0003】
電極触媒は、一般に担体となるカーボンブラック等の導電性炭素材料の表面に、白金を始めとする各種貴金属触媒が担持されてなる。電極触媒は、燃料電池の運転時の電位変化により、カーボンが酸化腐食し、担持されている金属触媒の凝集や脱落が起こることが知られている。その結果、運転時間の経過とともに燃料電池の性能が低下してくる。そこで、燃料電池の製造においては、実際に必要な量よりも多量の貴金属触媒を担体に担持させておくことで、性能にゆとりを持たせて、高寿命化を図っている。しかし、このことは経済性の観点から有利とは言えない。
【0004】
そこで、固体高分子形燃料電池の高性能化や高寿命化や経済性の改善などを図ることを目的として、電極触媒に関する種々の検討がなされている。例えば、これまで担体として用いられてきた導電性炭素に代えて、非炭素系の材料である導電性酸化物担体を用いることが提案されている(特許文献1参照)。同文献においては、電極触媒の担体として酸化スズが用いられている。この担体の表面には、白金等の貴金属の微粒子が担持されている。この電極触媒は、優れた電気化学的触媒活性を有し、且つ高い耐久性を有する、と同文献には記載されている。同文献において、貴金属の微粒子は、貴金属のコロイドを還元雰囲気下にて80℃ないし250℃で熱処理することで生成させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2009/060582号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電極触媒の性能について本発明者が検討したところ、活性支配電流密度等の触媒性能に改善の余地があることが見出された。そこで、白金より触媒活性が高い白金ニッケル合金を酸化スズに担持させることで、電極触媒の触媒性能が向上すると考え、特許文献1に記載の方法で、酸化スズの表面に白金ニッケル合金を担持した電極触媒の製造を試みた。しかしながら、当該文献に記載の方法では、白金中にニッケルを固溶させることを目的として、白金金属及びニッケル金属の前駆体が酸化スズに担持された試料を還元雰囲気下にて例えば200℃以上の高温で熱処理を行う必要があるため、熱処理の際に、白金がニッケルのみならず酸化スズ中のスズと合金化してしまい、所望の触媒性能が得られなかった。
【0007】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る電極触媒を製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(i)ホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、
前記分散液を加熱して、前記触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる工程であって、当該工程を、前記分散液中に蟻酸化学種が存在する状態下に行う担持工程と、
を有する電極触媒の製造方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、(i)ホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、(v)水又は水含有化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、
前記分散液を加熱して、前記触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる担持工程と、
を有する電極触媒の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、活性支配電流密度等の触媒性能に優れた電極触媒を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明において製造の対象となる電極触媒は、担体の表面に触媒が担持された構造を有している。担体としては、導電性を有する金属酸化物が好適に用いられる。本発明において「導電性を有する」とは金属酸化物の57MPaの圧力下における体積抵抗率が1×10Ω・cm以下であることを言う。担体の表面に担持される触媒としては、白金と遷移金属との白金合金が好適に用いられる。本発明の方法によって製造された電極触媒は、各種の燃料電池の触媒として好適に用いられる。そのような燃料電池としては、例えば固体高分子形燃料電池が典型的なものとして挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法は、(i)ホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、分散液を加熱して、触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる工程であって、当該工程を、分散液中に蟻酸化学種が存在する状態下に行う担持工程とを、有するものである。
【0013】
本発明の製造方法の採用によって、触媒性能に優れた電極触媒を得ることができる理由は、分散液を加熱することで、ホルムアミド基を有する有機化合物の還元作用により、一層低温で白金化合物及び遷移金属化合物が還元されて両者の合金を生成することができ、白金と触媒担体を構成する金属酸化物の当該金属元素との合金化を抑制できるからであると、本発明者は考えている。そして、更に、蟻酸の存在下に分散液を加熱していることにより、現在のところ必ずしも明確ではないが、分散液中に含まれている白金化合物及び遷移金属化合物の還元が蟻酸化学種によって促進され、そのことに起因して合金の固溶が促進され、白金合金の触媒活性が高まるからではないかと、本発明者は考えている。
【0014】
以上のように、本発明の製造方法は、(イ)分散液作製工程と、(ロ)担持工程とに大別される。以下それぞれの工程について詳述する。
【0015】
(イ)の分散液作製工程において、分散液は、その構成成分として以下の(i)-(iv)を混合することで作製される。
(i)ホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒。
(ii)金属酸化物の触媒担体粉。
(iii)白金化合物。
(iv)遷移金属化合物。
【0016】
(i)-(iv)は例えばこれらを一括して容器等に投入し、混合することができる。あるいは、(i)に、(ii)-(iv)を添加し、混合することができる。添加の順序は本発明において臨界的ではなく、各成分の性状や配合比率に応じて添加の順序を適宜決定することができる。
【0017】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の全質量に対して、(i)のホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒の割合が、好ましくは30質量%以上99.9質量%以下、更に好ましくは40質量%以上99.7質量%以下、一層好ましくは50質量%以上99質量%以下となるように、該溶媒を添加することが好ましい。なお、分散液中には、本発明の効果を奏する限度において、前記溶媒以外の溶媒を含んでいてもよい。
【0018】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の溶媒体積に対して、(ii)の金属酸化物の触媒担体粉の割合が、好ましくは0.1g/L以上500g/L以下、更に好ましくは1g/L以上150g/L以下、一層好ましくは2g/L以上100g/L以下となるように、該担体粉を添加することが好ましい。
【0019】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の溶媒体積に対して、(iii)の白金化合物の割合が、好ましくは2.5×10-4mol/L以上1.2mol/L以下、更に好ましくは6.0×10-4mol/L以上8.0×10-1mol/L以下、一層好ましくは1.5×10-3mol/L以上8.0×10-2mol/L以下となるように、該白金化合物を添加することが好ましい。
【0020】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の溶媒体積に対して、(iv)の遷移金属化合物の割合が、好ましくは4.0×10-4mol/L以上2.0×10-1mol/L以下、更に好ましくは6.0×10-4mol/L以上1.2×10-1mol/L以下、一層好ましくは2.0×10-3mol/L以上6.0×10-2mol/L以下となるように、該遷移金属化合物を添加することが好ましい。
【0021】
分散液作製工程においては、上述の成分に加えてカルボキシル基を含む芳香族化合物を更に混合してもよい。分散液中にカルボキシル基を含む芳香族化合物が含まれていることによって、(ロ)の担持工程において、白金及び遷移金属の還元が一層首尾よく行われ、そのことに起因して合金の固溶状態が一層均一になる。その結果、目的とする電極触媒の触媒性能が一層向上する。
【0022】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の溶媒体積に対して、前記のカルボキシル基を含む芳香族化合物の割合が、好ましくは4.0×10-4mol/L以上4.0mol/L以下、更に好ましくは2.0×10-2mol/L以上3.0mol/L以下、一層好ましくは4.0×10-2mol/L以上2.0mol/L以下となるように、該芳香族化合物を添加することが好ましい。
【0023】
分散液作製工程において、(i)のホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒は、(iii)の白金化合物や(iv)の遷移金属化合物を溶解する溶媒として用いられる。また
(iii)の白金化合物や(iv)の遷移金属化合物を還元する還元剤としても用いられる。これらの観点から、(i)のホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒としては、例えばホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、及びN-エチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
分散液作製工程において、(ii)の金属酸化物の触媒担体粉は、金属酸化物の担体の粒子(以下「担体粒子」とも言う。)の集合体からなる。担体粒子としては、導電性を有する金属酸化物の粒子を用いることができる。導電性を有する金属酸化物としては、例えばインジウム系酸化物、スズ系酸化物、チタン系酸化物、ジルコニウム系酸化物、セレン系酸化物、タングステン系酸化物、亜鉛系酸化物、バナジウム系酸化物、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物及びレニウム系酸化物が挙げられる。更に好ましい無機酸化物としては、例えばスズ酸化物に、フッ素及び塩素などのハロゲン、ニオブ、タンタル、アンチモン、タングステンのうち1種以上の元素が含まれているものが挙げられる。具体的には、スズ含有インジウム酸化物や、アンチモン含有スズ酸化物、フッ素含有スズ酸化物、タンタル含有スズ酸化物、アンチモン及びタンタル含有スズ酸化物、タングステン含有スズ酸化物、フッ素及びタングステン含有スズ酸化物、並びにニオブ含有スズ酸化物のような金属ないし非金属含有(ドープ)スズ酸化物などが挙げられる。特に担体粒子は、酸化スズを含むセラミックス材料であることが、固体高分子形燃料電池の発電環境下における物質の安定性の点から好ましい。
【0025】
導電性を有する金属酸化物からなる担体粒子は種々の方法で製造することができる。製造方法は湿式法及び乾式法に大別される。微粒の担体粒子を製造する観点からは、湿式法を採用することが有利である。湿式法の一例として、ハロゲンを含有する酸化スズからなる担体粒子を製造するには、以下の方法を採用することが好ましい。この製造方法の詳細は、例えばWO2016/098399に記載されている。
【0026】
担体粒子の一次粒子径は5nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上100nm以下であることが更に好ましく、5nm以上50nm以下であることが一層好ましい。担体の一次粒子径は、電子顕微鏡像や小角X線散乱から測定される担体の一次粒子径の平均値により得ることができる。例えば、担体粒子を電子顕微鏡像で観察し、500個以上の粒子を対象として最大横断長を測定し、その平均値を算出することで求められる。
【0027】
分散液作製工程において、(iii)の白金化合物としては、(i)のホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒に溶解可能なものを用いることが好ましいが、それに限られない。(iii)の白金化合物としては、例えば白金錯体や白金塩を用いることができる。白金化合物の具体例としては、白金錯体の一種であるビス(アセチルアセトナト)白金(II)や、ヘキサクロリド白金(IV)酸、テトラクロリド白金(II)酸、ジニトロジアンミン白金(II)、ジクロロテトラアンミン白金(II)水和物、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸などが挙げられる。
【0028】
分散液作製工程において、(iv)の遷移金属化合物としては、(i)のホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒に溶解可能なものを用いることが好ましいが、それに限られない。(iv)の遷移金属化合物としては、例えば遷移金属錯体や遷移金属塩を用いることができる。遷移金属の例としては、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、チタン、バナジウム、マンガン、銅、亜鉛、スカンジウムなどが挙げられるが、これらに限られない。また、遷移金属化合物は1種を単独で用いることもでき、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。以上の遷移金属のうち、白金との合金の触媒活性が高い点から、ニッケル、コバルト、鉄又はクロムの化合物を用いることが好ましい。
【0029】
後述するとおり、(iv)の遷移金属化合物は結晶水を有するものであってもよい。結晶水を有する遷移金属化合物としては、例えばニッケル錯体の一種であるビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)・2水和物及びヘキサフルオロアセチルアセトナトニッケル(II)水和物、また例えばニッケル塩である酢酸ニッケル・4水和物、硝酸ニッケル・6水和物及び塩化ニッケル・6水和物などが挙げられる。
【0030】
付加的に用いられる前記のカルボキシル基を含む芳香族化合物は、芳香族環を少なくとも1個有し、且つ芳香族環に直接に、又は結合基を介して間接的に結合したカルボキシル基を少なくとも1個有する化合物である。芳香族環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環などが挙げられる。また、窒素や酸素を少なくとも1個含み、且つ芳香族性を有するヘテロ環も芳香族環の範疇に含まれる。カルボキシル基を含む芳香族化合物の具体例としては、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸などが挙げられる。これらの芳香族化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
以上の各成分を用いて調製された分散液を(ロ)の担持工程に付して、触媒担体粉の粒子の表面に白金と遷移金属との白金合金からなる触媒を担持させる。触媒の担持は、分散液を加熱することで達成される。分散液の加熱は、大気圧に開放下にて行うことができ、あるいは密閉下にて行うこともできる。大気圧に開放下にて加熱を行う場合には、揮発成分を環流させながら加熱してもよい。
【0032】
担持工程における分散液の加熱に先立ち、分散液中に含まれている各成分を十分に均一分散させておくことが、触媒を担体粒子の表面に均一に担持させ得る点から好ましい。この目的のために、担持工程における分散液の加熱に先立ち、分散液に超音波を印加する分散処理を行うことが好ましい。超音波による分散処理は非加熱下で行うことが好ましく、例えば15℃以上25℃以下で行うことが好ましい。
【0033】
上述した分散液の分散処理後で、且つ担持工程における分散液の加熱前に、分散液を予備撹拌することが好ましい。予備撹拌は、主として担体とその他の原料との均一な混合や前駆体の担体への吸着の目的で行われる。予備撹拌は、例えば分散液中に磁性を有する撹拌子を沈めておき、これを外部に設置された磁性撹拌装置によって回転させることで行うことができる。あるいは分散液中に撹拌翼を配置し、これを回転させることで行うことができる。いずれの場合であっても、予備撹拌は非加熱下で行うことが好ましく、例えば15℃以上25℃以下で行うことが好ましい。
【0034】
予備撹拌の時間は、分散液の体積や、粘度等の性状、分散液に含まれる触媒担体粉の濃度等に応じて適切に設定され、一般に30分以上120時間以下とすることが好ましく、4時間以上120時間以下とすることが更に好ましく、12時間以上120時間以下とすることが一層好ましい。
【0035】
予備撹拌は各種の雰囲気下で行うことができる。例えば大気下などの含酸素雰囲気下や、アルゴン又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。白金化合物及び遷移金属化合物を還元させる還元剤を失活させない観点からは、不活性ガス雰囲気下で分散液を予備撹拌することが好ましい。
【0036】
予備撹拌の完了後、担持工程に移行し、分散液を加熱する。予備撹拌と同様に、分散液の加熱も各種の雰囲気下で行うことができる。例えば大気下などの含酸素雰囲気下や、アルゴン又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。白金化合物及び遷移金属化合物を還元させる還元剤を失活させない観点、並びに担体粒子に担持される触媒の活性を極力低下させないようにする観点からは、不活性ガス雰囲気下で分散液を加熱することが好ましい。操作の簡便化の点からは、予備撹拌の雰囲気と加熱の雰囲気とは同一とすることが好ましい。
【0037】
担持工程において、分散液の加熱温度は、白金と担体を構成する金属酸化物の当該金属元素とが過度に合金化しない温度以下であれば、分散液に含まれる各成分の種類や配合比率に応じて適切に選択することができ、一般に120℃以上200℃未満とすることが好ましく、120℃以上175℃以下とすることが更に好ましい。この加熱温度を条件として、加熱時間は3時間以上120時間以下であることが好ましく、6時間以上72時間以下であることが更に好ましく、12時間以上48時間以下であることが一層好ましい。
【0038】
分散液を加熱することで、分散液中に含まれている白金化合物及び遷移金属化合物が熱分解するとともに、ホルムアミド基を有する有機化合物の還元作用によって、白金及び触媒担体を構成する金属酸化物の当該金属元素が過度に合金化することなく、白金及び遷移金属が還元されて両者の合金が生成する。生成した白金合金は担体粒子の表面に付着して、目的とする電極触媒が得られる。
【0039】
担持工程においては、触媒である白金と遷移金属との白金合金の担持量が、電極触媒の質量に対して、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、更に好ましくは1質量%以上30質量%以下となるように触媒を担持する。触媒の担持量の調整は、分散液作製工程において金属酸化物の触媒担体粉、白金化合物、遷移金属化合物の濃度を適切に調整するとともに担持工程において、例えば加熱温度と加熱時間をコントロールすることで達成される。
【0040】
このようにして得られる電極触媒の触媒性能、特に活性支配電流密度を一層高める観点から、担持工程においては、分散液中に蟻酸化学種が存在する状態下に分散液を加熱することが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。蟻酸の存在下に分散液を加熱することで電極触媒の触媒性能が一層高まる理由は現在のところ必ずしも明確ではないが、分散液中に含まれている白金化合物及び遷移金属化合物の還元が蟻酸化学種によって促進され、そのことに起因して白金合金の固溶状態が一層均一になるからではないかと、本発明者は考えている。
【0041】
蟻酸化学種としては、例えば蟻酸(HCOOH)、蟻酸塩((HCOO)X(Xはアニオンを示し、nはXの価数を示す。))、蟻酸イオン(HCOO)などが挙げられる。これらの蟻酸化学種はそれぞれ単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。加熱中の分散液中に存在する蟻酸化学種の総濃度は、分散液の溶媒体積に対して、1×10-5mol/L以上1mol/L以下とすることが好ましく、1×10-4mol/L以上1×10-1mol/L以下とすることが更に好ましく、1×10-3mol/L以上1×10-1mol/L以下とすることが一層好ましい。この濃度範囲で蟻酸化学種が分散液中に存在することで、目的とする電極触媒における活性支配電流密度等の触媒性能が一層向上する。
【0042】
加熱中の分散液中に存在する蟻酸化学種の総濃度は、例えば液体クロマトグラフィー等によって測定することができる。
【0043】
加熱中の分散液中に蟻酸化学種を存在させるには、(a)分散液に所定量の蟻酸化学種を添加する方法が一例として挙げられる。別法として、(b)分散液作製工程において、水又は水含有化合物を混合して、作製後の分散液中に水を存在させる方法が挙げられる。(b)の方法によれば、水又は水含有化合物が分散液中に存在した状態下に分散液を加熱することで、分散液に含まれる溶媒である(i)のホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒と水とが反応して蟻酸化学種(例えば蟻酸)が生成する。
【0044】
前記の(b)の方法を採用すると、(a)の方法を採用した場合に比べて、担持工程での加熱過程において、分散液中における蟻酸の存在量が徐々に増加していくので、白金と遷移金属との合金化が緩やかに進行し易くなる。このことに起因して、白金原子と遷移金属原子がより均一に合金化するとともに、担体粒子の表面に白金合金の微粒子が均一に分散して担持された触媒を製造することができる場合がある。
【0045】
前記の(b)の方法を採用する場合、水含有化合物としては、分散液の作製によって分散液中に水を存在させ得る化合物を用いることができる。そのような化合物としては、例えば分散液に含まれる物質である(iv)の遷移金属化合物として、結晶水を有するものを用いることができ、当該化合物が遷移金属化合物と水含有化合物とを兼ねるため、簡便である。結晶水を有する遷移金属化合物を用いて分散液を作製することで、分散液中に結晶水が溶出して、分散液中に水が存在することになる。この水は、分散液の加熱工程において、溶媒である(i)のホルムアミド基を有する有機化合物と反応する。この反応の結果、分散液中に蟻酸化学種が生成する。
【0046】
前記の(b)の方法を採用する場合、水を添加するよりも、結晶水を有する遷移金属化合物を添加する方が、白金と遷移金属との合金化がより一層促進され、白金原子と遷移金属原子が均一に合金化した電極触媒を製造することができる場合がある。この理由は、結晶水を有する遷移金属化合物を添加すると、遷移金属イオンの周りに水が配位し易いことに起因して、担持工程の際に生じる蟻酸も遷移金属イオンの周りに配置し易くなる。それによって、白金より還元し難い元素である遷移金属イオンの周りに、還元剤がより多く存在することになるので、白金と遷移金属との合金化がより一層促進されるからであると本発明者は考えている。
【0047】
前記の(b)の方法を採用する場合、水又は水含有化合物の添加量は、分散液中に存在する水の濃度が、分散液の溶媒体積に対して、1×10-3mol/L以上10mol/L以下となるような量とすることが好ましく、1×10-2mol/L以上5mol/L以下となるような量とすることが更に好ましく、1×10-2mol/L以上5×10-1mol/L以下となるような量とすることが一層好ましい。このような添加量を採用することで、蟻酸化学種を分散液中に所望の濃度で存在させることができる。
【0048】
以上のとおり、本発明の電極触媒の製造方法は、大別して以下の<I>及び<II>の2つの実施形態を有する。
<I>
(i)ホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、
前記分散液を加熱して、前記触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる担持工程と有する。
担持工程を、前記分散液中に蟻酸化学種が存在する状態下に行う。
<II>
(i)ホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、(v)水又は水含有化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、
前記分散液を加熱して、前記触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる担持工程とを有する。
【0049】
前記の<I>又は<II>の方法で電極触媒が得られたら、分散液から、分散質である電極触媒を分離する固液分離工程を行う。この工程によって、触媒担体粉に、白金と遷移金属との白金合金が担持された電極触媒が得られる。固液分離工程には、公知の各種の固液分離手段を特に制限なく用いることができる。例えばフィルターを用いた濾過、遠心分離及びデカンテーションなどが挙げられる。
【0050】
このようにして電極触媒が分離されたら、リーチングを行い白金合金微粒子の表面に存在している微量の不純物を除去することが好ましい。この操作を行うことによって、電極触媒の触媒活性が一層向上する。リーチングは、一般に電極触媒を酸処理することで達成される。酸処理によって、白金合金微粒子の表面に存在している微量の不純物が溶出して除去される。リーチングに用いられる酸としては例えば過塩素酸、硝酸、硫酸、塩酸及び過酸化水素などが挙げられる。酸の濃度は、0.01mol/L以上10mol/L以下であることが好ましく、0.1mol/L以上1mol/L以下であることが更に好ましい。
【0051】
リーチングは、分散液を加熱した状態下にて行うことができ、あるいは非加熱下にて行うことができる。加熱下にてリーチングを行う場合には、分散液を好ましくは30℃以上100℃以下に加熱することができる。非加熱下でのリーチングは、例えば15℃以上25℃以下で行うことができる。リーチングの時間は、例えば加熱下の場合には、0.1時間以上100時間以下とすることができる。
【0052】
リーチング後の電極触媒は、これを燃料電池の電極触媒として用いることができる。あるいは、更に後処理として加熱処理に付して触媒性能を一層高めることもできる。加熱処理は、例えば真空下、還元ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。電極触媒を加熱処理に付すことで、白金と遷移金属との白金合金微粒子における表面の合金状態が変化し、白金合金の触媒活性が一層向上する。特に加熱処理を真空下又は還元ガス雰囲気下で行うことで、白金合金の触媒活性が更に一層向上する。
【0053】
真空下にて電極触媒を加熱処理する場合、系内の真空の程度は、絶対圧で10Pa以下とすることが好ましく、1×10-3Pa以下とすることが更に好ましい。還元ガス雰囲気下にて電極触媒を加熱処理する場合、還元ガスを系内に流通させた状態で加熱することが好ましい。還元ガスとしては、例えば水素ガス、一酸化炭素ガス及びそれらの混合ガスなどを用いることができる。
【0054】
電極触媒を真空下にて加熱する場合の温度は、60℃以上400℃以下に設定することが好ましく、60℃以上200℃以下に設定することが更に好ましい。電極触媒を還元ガス雰囲気下にて加熱する場合の温度は、25℃以上200℃未満に設定することが好ましく、60℃以上200℃未満に設定することが更に好ましい。いずれの場合も加熱時間は、0.1時間以上20時間以下に設定することが好ましく、0.5時間以上10時間以下に設定することが更に好ましい。
【0055】
以上のとおりの方法によって、活性支配電流密度等の触媒性能に優れた電極触媒を容易に製造することができる。電極触媒の性状としては、例えば粉末状が挙げられる。このようにして得られた電極触媒は、例えば固体高分子電解質膜の一方の面に配置された酸素極及び他方の面に配置された燃料極を有する膜電極接合体における酸素極又は燃料極の少なくとも一方に含有させて用いることができる。電極触媒は、好適には酸素極及び燃料極の双方に含有させることができる。
【0056】
特に、酸素極及び燃料極は、本発明の電極触媒を含む触媒層と、ガス拡散層とを含んでいることが好ましい。電極反応を円滑に進行させるために、電極触媒は固体高分子電解質膜に接していることが好ましい。ガス拡散層は、集電機能を有する支持集電体として機能するものである。更に、電極触媒にガスを十分に供給する機能を有するものである。ガス拡散層としては、この種の技術分野において従来用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えば多孔質材料であるカーボンペーパー、カーボンクロスを用いることができる。具体的には、例えば表面をポリ四フッ化エチレンでコーティングした炭素繊維と、当該コーティングがなされていない炭素繊維とを所定の割合とした糸で織成したカーボンクロスにより形成することができる。
【0057】
固体高分子電解質としては、この種の技術分野において従来用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えばパーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン伝導体膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。
【0058】
前記膜電極接合体は、その各面にセパレータが配されて固体高分子形燃料電池となされる。セパレータとしては、例えばガス拡散層との対向面に、一方向に延びる複数個の凸部(リブ)が所定間隔をおいて形成されているものを用いることができる。隣り合う凸部間は、断面が矩形の溝部となっている。この溝部は、燃料ガス及び空気等の酸化剤ガスの供給排出用流路として用いられる。燃料ガス及び酸化剤ガスは、燃料ガス供給手段及び酸化剤ガス供給手段からそれぞれ供給される。膜電極接合体の各面に配されるそれぞれのセパレータは、それに形成されている溝部が互いに直交するように配置されることが好ましい。以上の構成が燃料電池の最小単位を構成しており、この構成を数十個~数百個並設してなるセルスタックから燃料電池を構成することができる。
【0059】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、本発明の方法で製造された電極触媒を、固体高分子電解質形燃料電池の電極触媒として用いた例を中心に説明したが、本発明の方法で製造された電極触媒を、固体高分子電解質形燃料電池以外の燃料電池、例えばアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池、直接メタノール形燃料電池などの各種燃料電池における電極触媒として用いることができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0061】
〔実施例1〕
(1)担体の製造工程
WO2016/098399に記載の実施例1に基づいて一次粒子径が20nmであるタングステン・フッ素含有酸化スズ粒子を得た。
【0062】
(2)分散液作製工程
容量500mLのメスフラスコに337mLのN,N-ジメチルホルムアミド(略記:DMF、049-32363、和光純薬工業社製)、1.22×10-2mol/L-DMFのビス(アセチルアセトナト)白金(II)(Pt(acac)、028-16853、和光純薬工業社製)、9.37×10-3mol/L-DMFのビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)・2水和物(Ni(acac)・2HO、343-01981、同仁化学研究所社製)、2.99×10-1mol/L-DMFの安息香酸(204-00985、和光純薬工業社製)を加えるとともに、(1)で得られた担体を16g/L-DMFの濃度で加えた。その後、各成分が混合されてなる液を、室温(25℃)で30分間超音波分散器を用いて分散させて分散液となした。この分散液が入ったメスフラスコをアルゴンガスでパージしながら、長径約2cm、短径約1cmのフットボール型の撹拌子を用いて室温、400rpmで20時間の予備撹拌を行った。なお、「mol/L-DMF」又は「g/L-DMF」を単位とする上記の各値は、分散液の溶媒であるDMFに対する割合を意味する。
【0063】
(3)担持工程
前記予備撹拌を行った分散液が入ったメスフラスコをアルゴンガスでパージした状態を保った状態で、オイル温度を160℃に制御したオイルバス中に沈ませて、分散液の昇温を開始した。このとき、メスフラスコ中の溶媒が沸騰するまでに要した時間は約7分であった。沸騰後、オイルバス中のオイル温度を160℃に制御したまま、12時間加熱還流した。その後オイルバスを外して室温まで冷却した後、濾過を行った。次いで、アセトンとエタノールの混合溶媒(体積比で1:1の混合溶媒)で5回、水とエタノールの混合溶媒(体積比で1:1の混合溶媒)で1回洗浄を行った後乾燥した。得られた乾燥粉を400mLの0.5mol/L過塩素酸に分散させ、60℃で2時間加熱撹拌した後、濾過・洗浄・乾燥し白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。分散液中における蟻酸の割合は0.1%であった。
【0064】
〔実施例2〕
実施例1の分散液作製工程を下記方法に変更した以外は、実施例1と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。本実施例では、ビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)・2水和物の代わりに、ビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)と純水を用いている。
【0065】
(2)分散液作製工程
容量500mLのメスフラスコに337mLのN,N-ジメチルホルムアミド(略記:DMF、049-32363、和光純薬工業社製)に、0.8×10-2mol/L-DMFの純水を加えた後、1.22×10-2mol/L-DMFのビス(アセチルアセトナト)白金(II)(Pt(acac)、028-16853、和光純薬工業社製)、9.37×10-3mol/L-DMFのビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)(Ni(acac)、283657-25G、シグマアルドリッチ社製)、2.99×10-1mol/L-DMFの安息香酸(204-00985、和光純薬工業社製)を加えるとともに、(1)で得られた担体を16g/L-DMFの濃度で加えた。その後、各成分が混合されてなる液を、室温(25℃)で30分間超音波分散器を用いて分散させて分散液となした。この分散液が入ったメスフラスコをアルゴンガスでパージしながら、長径約2cm、短径約1cmのフットボール型の撹拌子を用いて室温、400rpmで20時間の予備撹拌を行った。
【0066】
〔実施例3〕
実施例2の分散液作製工程において、0.8×10-2mol/L-DMFの純水の代わりに1.9×10-2mol/L-DMFの純水を用いたこと以外は実施例2と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0067】
〔実施例4〕
実施例2の分散液作製工程において、0.8×10-2mol/L-DMFの純水の代わりに2.5×10-2mol/L-DMFの純水を用いたこと以外は実施例2と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0068】
〔実施例5〕
実施例2の分散液作製工程において、0.8×10-2mol/L-DMFの純水の代わりに3.3×10-2mol/L-DMFの純水を用いたこと以外は実施例2と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0069】
〔実施例6〕
実施例2の分散液作製工程において、0.8×10-2mol/L-DMFの純水の代わりに0.6×10-2mol/L-DMFの蟻酸(063-05895、和光純薬工業社製)を用いたこと以外は実施例2と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0070】
〔実施例7〕
実施例2の分散液作製工程において、0.8×10-2mol/L-DMFの純水の代わりに1.2×10-2mol/L-DMFの蟻酸(063-05895、和光純薬工業社製)を用いたこと以外は実施例2と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0071】
〔比較例1〕
本比較例は、特許文献1の記載に準じ、コロイド法によって白金ニッケル合金触媒を担持させた例である。
5mlのHPtCl溶液(Pt1gに相当)と蒸留水295mLとを混合させ、15.3gのNaHSOによって白金を還元させた後、1400mLの蒸留水で希釈した。次いでNaOH5%水溶液を加えてpHを約5に調整しながら35%過酸化水素(120mL)を滴下し白金のコロイドを含む液を得た。このとき、NaOH5%水溶液を適宜加えて液のpHを約5に維持した。この手順で調製して得られたコロイドを含む液は1g分の白金を含んでいる。この液に硝酸ニッケル・6水和物(Ni(NO・6HO)を添加した。添加量はPtとNiのモル比であるPt/Niが1となるよう1.49gとした。その後、実施例1の(1)の工程で得られた担体を8.7g添加し、90℃で3時間混合した。混合後、液を冷却し、更に固液分離した。固液分離により得られた含水した粉体中から塩化物イオンを除去するために、1500mLの蒸留水で再び希釈し90℃で1時間煮沸を行い、液を冷却し固液分離した。この洗浄作業を4回実施した。最後に、固液分離後、大気下にて60℃で12時間にわたり乾燥させた。これによって、担体の表面に不定比の酸化物を含む白金及び不定比の酸化物を含むニッケルを担持させた。この担体を、窒素で希釈した4体積%水素雰囲気下にて200℃で2時間にわたり熱処理した。
【0072】
〔比較例2〕
実施例1の分散液作製工程において9.37×10-3mol/L-DMFのビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)・2水和物の代わりに9.37×10-3mol/L-DMFのビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)(Ni(acac)、283657-25G、シグマアルドリッチ社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0073】
〔評価〕
各実施例、並びに比較例1及び比較例2で得られた電極触媒について、ICP質量分析装置(ICP-MS)によって測定されたPt担持率(質量%)、Ni担持率(質量%)、PtとNiのモル比[Pt/Ni]、粉末X線回折測定(XRD)により得られた回折パターンにおける白金合金の(200)面のピークの回折角2θ(°)、回転ディスク電極(RDE)を用いたサイクリックボルタンメトリー(CV:Cyclic Voltammetry)及び対流ボルタンメトリー(LSV:Linear Sweep Voltammetry)により求めた0.64V(VS.Ag/AgCl)における活性支配電流密度j(mA/cm -Pt)の値を、以下の表1に示す。具体的には、以下の「電極作製」、「CV測定」及び「ORR活性評価」の順で操作を行った。なお、Pt担持率及びNi担持率はそれぞれPt質量/(Pt質量+Ni質量+担体質量)×100、Ni質量/(Pt質量+Ni質量+担体質量)×100で定義される値である。
XRDはリガク社製 RINT-TTR IIIを用い、X線源としてCu Kα(0.15406nm、50kV、300mA)を用いて測定した。
【0074】
電極作製
直径5mmのグラッシーカーボン(GC)ディスク電極を0.05μmのアルミナペーストを用いて研磨し、その後純水を用いて超音波洗浄を行った。白金ニッケル合金を担持した試料を90vol.%エタノール水溶液に加え、超音波ホモジナイザーにて分散させた。これをGCディスク上へ、当該ディスクの面積当たりPt金属量が12μg-Pt/cm -GCとなる密度で塗布し、常温で乾燥させた。乾燥後、GCディスク上の触媒に5%Nafion(登録商標)溶液(274704-100ML、シグマアルドリッチ社製)を膜厚が50nmになるように滴下し、常温で乾燥させた。
【0075】
CV測定
測定は北斗電工(株)製の電気化学測定システムHZ-7000を用いて実施した。0.1mol/LのHClO水溶液にNを1時間以上パージした後、参照極に銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)を用い、電位範囲-0.25~0.742V(VS.Ag/AgCl)、掃引速度0.5V/sで300回クリーニングを実施した。その後、CV測定を電位範囲-0.25~0.74Vで実施し本測定とした。電気化学的活性表面積(ECSA:Electrochemical Surface Area)の解析は0.4V以下に見られる水素の吸着波を用いて実施した。
【0076】
ORR活性評価
CV測定で用いた前記電解液(HClO水溶液)に酸素ガスを1時間以上パージした後、LSVを行った。温度25℃、電位範囲-0.20~1.00V(VS.Ag/AgCl)、掃引速度10mV/sで回転数は400rpmから2500rpmまで、計6条件のデータを取得した。得られた結果をKoutecky-Levichプロットを用いて解析し、0.64V(VS.Ag/AgCl)における活性支配電流密度j(mA/cm)の値を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示す結果から明らかなとおり、本発明の製造方法を用いた各実施例の方が、特許文献1の製造方法を用いた比較例1及び遷移金属化合物として結晶水を有さないNi化合物を用いた比較例2に比べて、活性支配電流密度jが高くなることが判る。
また、XRDにより得られた各実施例の回折角2θ(°)は比較例2に対してより高角側へシフトすることが判った。通常、面心立方格子構造を有するPtにNiが固溶した場合に2θは高角側へシフトすることが知られている。これらのことから、各実施例で生成した白金ニッケル合金は、比較例2のそれに比べてよりPt中へのNiの固溶が促進されたと解釈できる。
【0079】
一方、各実施例の活性支配電流密度jは比較例1よりも高いものの、その回折角2θ(°)は比較例1よりも必ずしも高角側にシフトしていない。この理由は、比較例1では還元雰囲気下で200℃の熱処理を行うため、Pt中へNiが固溶しやすく、回折角2θ(°)が高角側にシフトしやすいものの、この熱処理により、白金がニッケルのみならず酸化スズ中のスズと合金化してしまうために、比較例1の活性支配電流密度jが、回折角2θ(°)の値の割には低くなるためであると本発明者は考えている。
【0080】
また、各実施例で行った予備撹拌は、担体とその他原料との均一な混合や前駆体の担体への吸着等という形で寄与し、急速昇温が核生成の促進等という形で寄与するため、ECSAの増大に有利に働くと本発明者は推察している。