(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】乗物用シート及びパーティション
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20220118BHJP
B60N 2/02 20060101ALI20220118BHJP
B60N 2/30 20060101ALI20220118BHJP
B60N 2/75 20180101ALI20220118BHJP
A47C 7/54 20060101ALI20220118BHJP
A47C 7/60 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B60N2/90
B60N2/02
B60N2/30
B60N2/75
A47C7/54 C
A47C7/54 G
A47C7/60
(21)【出願番号】P 2017195849
(22)【出願日】2017-10-06
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸林 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 尚武
(72)【発明者】
【氏名】権藤 憲治
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-270306(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0376007(US,A1)
【文献】米国特許第04913487(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - B60N 2/90
A47C 7/54 - A47C 7/60
A47C 1/12 - A47C 1/13
A47C 9/00 - A47C 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックと、
着座面が上方を向く展開状態と、格納状態と、に切り替え可能に設けられたシートクッションと、
前記シートバックの側方に位置するパーティションと、を備え、
前記パーティションは、
前記シートバックに対して移動不能に設けられ、前記シートバックより前方に張り出した張出部を有する固定部と、
前記張出部に隣接する格納位置と、前記格納位置から前方に展開した展開位置との間で変位可能に設けられた可動部と、を含み、
前記可動部が、前記展開位置において、上方を向く肘掛け面を有するアームレストを構成
し、
前記固定部は、前記張出部の下方に、前記可動部が前記格納位置において配置される配置空間を有し、
前記可動部は、前記展開位置において前記肘掛け面から後方に向かうにつれて下方に向かう延設面を有する形状をなすとともに、前記延設面の延設先端側に回動軸を有し、前記格納位置において前記延設面を上下方向に沿わせた姿勢で前記配置空間に配置される乗物用シート。
【請求項2】
前記可動部は、前記肘掛け面の前端部に突設された突出部を有し、前記格納位置において、前記突出部が前記張出部に当接することにより、前記肘掛け面及び前記延設面と前記固定部との間に隙間を有して前記配置空間に配置される請求項
1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記可動部を前記格納位置側に付勢する付勢部材を備える請求項1
または請求項
2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記シートクッションが前記格納状態と前記展開状態との間で回動することに連動して前記可動部を回動させる連動機構を備え、
前記可動部は、前記シートクッションが前記格納状態でロックされることにより、前記連動機構を介して前記格納位置にロックされるように構成されている請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記シートクッションは、前記格納状態において、前記シートバックに対して対向配置されるように構成され、
前記張出部は、前記シートクッションの前記格納状態において、前記シートクッションより前方に張り出している請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項6】
シートバックに対して移動不能に設けられ、前記シートバックより前方に張り出した張出部を有する固定部と、
前記張出部に隣接する格納位置と、前記格納位置から前方に展開した展開位置との間で変位可能に設けられた可動部と、を含み、
前記可動部が、前記展開位置において、上方を向く肘掛け面を有するアームレストを構成
し、
前記固定部は、前記張出部の下方に、前記可動部が前記格納位置において配置される配置空間を有し、
前記可動部は、前記展開位置において前記肘掛け面から後方に向かうにつれて下方に向かう延設面を有する形状をなすとともに、前記延設面の延設先端側に回動軸を有し、前記格納位置において前記延設面を上下方向に沿わせた姿勢で前記配置空間に配置されるパーティション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、乗物用シート及びパーティションに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物に設けられる乗物用シートとして、下記特許文献1に開示のものが知られている。特許文献1に開示の構成では、シートは、乗員が着座可能な使用姿勢と、車体側壁に沿って立設した格納姿勢との間で回動自在となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乗物の発進及び停止時、並びに旋回時等には、乗物用シートに着座した着座者に加速度が作用する。このため、そのような時に、着座者の上体が側方に移動したり前方に飛び出したりしないように、着座者の姿勢を保持し易い乗物用シートが求められている。
【0005】
一方、乗物内の限られた空間では、着座者の姿勢を保持し易い乗物用シートであっても、非使用時には、使用姿勢において占有するスペースを、荷物を搭載するためのスペースとして利用し、また、立席を設けることが可能な乗物においては、人が立つためのスペースとして利用することへの強いニーズがある。
【0006】
本明細書に開示の技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、非使用時には、乗物内のスペースを有効に活用することができ、使用時には、着座者の姿勢を保持し易い乗物用シート又はパーティションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本明細書で開示される技術の乗物用シートは、シートバックと、着座面が上方を向く展開状態と、格納状態と、に切り替え可能に設けられたシートクッションと、前記シートバックの側方に位置するパーティションと、を備え、前記パーティションは、前記シートバックに対して移動不能に設けられ、前記シートバックより前方に張り出した張出部を有する固定部と、前記張出部に隣接する格納位置と、前記格納位置から前方に展開した展開位置との間で回動可能に設けられた可動部と、を含み、前記可動部が、前記展開位置において、上方を向く肘掛け面を有するアームレストを構成する。
【0008】
このような乗物用シートによれば、シートクッションの展開状態では、着座者に上体を側方に変位させるような力が掛かる場合に、張出部により上体を拘束し、その姿勢を保持可能とされるとともに、着座者に上体を前方に変位させるような力が掛かる場合に、着座者がアームレストを構成する可動部を支えとして、前後方向における上体の姿勢を自ら保持することができる。そして、シートクッションの格納状態では、可動部を格納位置に配することで、各部をコンパクトに配置することができる。
【0009】
上記構成において、前記固定部は、前記張出部の下方に、前記可動部が前記格納位置において配置される配置空間を有し、前記可動部は、前記展開位置において前記肘掛け面から後方に向かうにつれて下方に向かう延設面を有する形状をなすとともに、前記延設面の延設先端側に回動軸を有し、前記格納位置において前記延設面を上下方向に沿わせた姿勢で前記配置空間に配置されてもよい。このような構成によれば、格納位置において、張出部の下方の配置空間に延設面を上下方向に沿わせた姿勢で可動部が配置されることで、可動部と固定部とをコンパクトに配置することができる。さらに、張出部が配置空間の上方に位置する構成上、張出部により着座者の肩から上腕付近を支持することができ、張出部により着座者の上体を好適に拘束することができる。そのうえで、可動部の回動軸が延設面の延設先端側に設けられるから、例えば、展開位置において回動軸が肘掛け面の後端部に設けられる構成に比べて、小さい回動角度で肘掛け面をより前方まで展開することができる。このため、コンパクトに格納可能でありながら、展開位置において着座者を好適に支持可能な可動部の構成を実現することができる。
【0010】
上記構成において、前記可動部は、前記肘掛け面の前端部に突設された突出部を有し、前記格納位置において、前記突出部が前記張出部に当接することにより、前記肘掛け面及び前記延設面と前記固定部との間に隙間を有して前記配置空間に配置されてもよい。このような構成によれば、シートクッションの展開状態では、着座者が突出部を把持することにより、より一層、前後方向における上体の姿勢を自ら保持し易くなる。さらに、格納位置において、突出部が張出部に当接することにより、肘掛け面及び延設面と固定部との間に隙間を有するから、可動部と固定部との間に被服等が挟まれる事態を回避することができる。
【0011】
上記構成において、前記可動部を前記格納位置側に付勢する付勢部材を備えてもよい。このような構成によれば、付勢部材の付勢力により、可動部が遊動する事態を抑制することができ、可動部の動作をより安定させることができる。
【0012】
上記構成において、前記シートクッションが前記格納状態と前記展開状態との間で回動することに連動して前記可動部を回動させる連動機構を備え、前記可動部は、前記シートクッションが前記格納状態でロックされることにより、前記連動機構を介して前記格納位置にロックされるように構成されていてもよい。このような構成によれば、連動機構を備えることにより、可動部をシートクッションとは別に回動させる構成に比べて、可動部のみを回動させる手間がなく、利便性に優れる。さらに、シートクッションが格納状態でロックされた状態では、可動部が展開位置に回動することがなく、可動部が不要な時に展開されて邪魔になる事態を抑制することができる。
【0013】
上記構成において、前記シートクッションは、前記格納状態において、前記シートバックに対して対向配置されるように構成され、前記張出部は、前記シートクッションの前記格納状態において、前記シートクッションより前方に張り出していてもよい。このような構成によれば、シートクッションの展開状態において、張出部により着座者の姿勢を側方から十分に保持可能とされるとともに、シートクッションの格納状態において、張出部をシートクッションの前に立つ乗員の支えとしても用いることができる。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本明細書で開示される技術のパーティションは、シートバックに対して移動不能に設けられ、前記シートバックより前方に張り出した張出部を有する固定部と、前記張出部に隣接する格納位置と、前記格納位置から前方に展開した展開位置との間で変位可能に設けられた可動部と、を含み、前記可動部が、前記展開位置において、上方を向く肘掛け面を有するアームレストを構成する。
【0015】
このようなパーティションによれば、シートバックを備えた乗物用シートに着座する着座者に上体を側方に変位させるような力が掛かる場合に、張出部により上体を拘束し、その姿勢を保持可能とされるとともに、着座者に上体を前方に変位させるような力が掛かる場合に、着座者がアームレストを構成する可動部を支えとして、前後方向における上体の姿勢を自ら保持することができる。そして、可動部を格納位置に配することで、各部をコンパクトに配置することができる。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で開示される技術によれば、非使用時には、乗物内のスペースを有効に活用することができ、使用時には、着座者の姿勢を保持し易い乗物用シート又はパーティションを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る乗物用シートの格納状態を示す斜視図
【
図5】ベースフレーム、クッションフレーム及びアームレストフレームを示す分解斜視図
【
図6】シートクッション及びアームレストがそれぞれ格納位置にある状態を示す側面図(固定部を一部切り欠いて示す)
【
図7】シートクッションが途中位置にあり、アームレストが格納位置にある状態を示す側面図(固定部を一部切り欠いて示す)
【
図8】シートクッション及びアームレストがそれぞれ展開位置にある状態を示す側面図(固定部を一部切り欠いて示す)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を
図1から
図8によって説明する。本実施形態では、乗物用シート10として、バスなどの立席を設けることが可能な車両に搭載されるシートについて例示する。なお、各図面にはX軸、Y軸及びZ軸を示している。X軸が車両前後方向(乗物用シート10の幅方向に対応)であり、Y軸が車幅方向(乗物用シート10の前後方向に対応)であり、Z軸が車両上下方向である。
【0019】
乗物用シート10は、
図1及び
図2に示されるように、シートバック30と、シートクッション40と、シートバック30の側方に位置するパーティション50と、を備える。シートバック30及びシートクッション40は、ベースフレーム20を介してバスの壁面11に取り付けられる(
図5参照)。また、パーティション50は、後述する固定部51が図示しない固定部材を介してバスの壁面11に取り付けられるとともに、可動部60が固定部材70等を介してバスの壁面11に取り付けられる(
図5参照)。
【0020】
シートバック30は、
図1及び
図2に示されるように、バスの壁面11に対して移動不能に設けられている。シートバック30は、ベースフレーム20等の骨格部材を覆う軟質材(図示せず)と軟質材を覆う表皮材30Bとを備える。シートバック30は、鉛直方向に延びる姿勢で配され、前面に背もたれ面30Aを有する。背もたれ面30Aは、上端部が着座者の背中の上部付近に位置するとともに、車両下方に向かうにつれてやや前方に向けて傾斜した傾斜面とされる(
図4参照)。
【0021】
シートクッション40は、
図1及び
図2に示されるように、着座面40Aが上方を向く展開状態と、格納状態と、に切り替え可能に設けられている。本実施形態では、シートクッション40は、格納状態において、シートバック30に対して対向配置されるように構成されている。また、シートクッション40は、着座面40Aが上方を向く展開位置と、着座面40Aが展開位置の着座面40Aに対して上方且つシートバック側に回動されている格納位置との間で回動可能な構成となっている。シートクッション40は、格納位置において、鉛直方向に延びる姿勢で配され、着座面40Aが背もたれ面30Aと対向配置される。着座面40Aは、背もたれ面30Aの傾斜に倣うようにして緩やかに凹んだ形をなしており、格納位置において、シートクッション40とシートバック30とが嵌合される構成となっている。
【0022】
このシートクッション40は、
図5に示されるように、金属製のクッションフレーム41を備える。クッションフレーム41は、シートクッション40の外形骨格をなすパイプフレーム49Aと、一対のサイドプレート43,43と、一対のサイドアーム42,42と、パネル48と、を有している。また、シートクッション40は、クッションフレーム41を覆う軟質材(図示せず)と軟質材を覆う表皮材40B(
図2参照)とを備える。一対のサイドプレート43,43は、ベースフレーム20の両側壁部に対してシート幅方向外側からそれぞれ固定されている。サイドアーム42は、サイドプレート43に対して回動可能且つシート幅方向内側から取り付けられている。
【0023】
図5に示されるように、サイドプレート43には、渦巻き状のばね44(シートクッション付勢部材)が取り付けられ、ばね44の一端は、サイドアーム42に設けられたブラケット42Aに係止されている。これにより、シートクッション40は、格納位置側に回動付勢されている。また、サイドアーム42とサイドプレート43の間には、シートクッション40を格納位置で固定するロック機構49が設けられている。このようなロック機構としては、例えば、ラウンドリクライナを用いることができるが、これに限定されない。具体的には、ラウンドリクライナのシート幅方向外側の面にサイドプレート43を固定する一方、ラウンドリクライナのシート幅方向内側の面にサイドアーム42を固定することで、サイドアーム42がサイドプレート43に対して回動可能となっている。
図1に示されるように、シートクッション40は、レバー45を備える。レバー45は、着座面40Aと反対側の面に設けられており、格納位置において車室内側に露出される構成となっている。レバー45には、シートクッション40に内蔵されたワイヤー46が接続されている。レバー45を引き上げることでワイヤー46を介してロック機構49が作動し、ロック機構49によるシートクッション40のロックが解除される構成となっている。
【0024】
パーティション50は、
図1及び
図2に示されるように、シートバック30に対して移動不能に設けられ、シートバック30より前方に張り出した張出部52を有する固定部51と、張出部52に隣接する格納位置と、格納位置から前方に展開した展開位置との間で変位可能に設けられた可動部60と、を含んで構成されている。パーティション50は、可動部60の格納位置において、バスの壁面11に立設された壁状部材を構成する。パーティション50は、シートバック30の上端部からシートクッション40の下端部に亘って配され、シートバック30及びシートクッション40の側面を側方から覆う構成とされる。パーティション50は、上部(後述する固定部51の張出部52と可動部60の肘掛け面60Aを構成する部分)が格納位置のシートクッション40より前方位置まで立設される一方、その下方の部分(主に可動部60の延設面60Bを構成する部分)がシートクッション40と同等の位置まで立設されている。パーティション50は、可動部60の展開位置において、乗物用シート10の着座空間とその側方の空間とを仕切る構成とされ、特に、乗物用シート10,10が互いに隣接して配される場合には、パーティション50は、各々の着座空間を仕切る構成とされる。
【0025】
張出部52は、
図3及び
図4に示されるように、シートバック30のみならず、シートクッション40の格納状態において、シートクッション40より前方に張り出している(
図6参照)。張出部52は、側面視にて略直角三角形状をなし、上面が前後方向に沿って延在するとともに、下面52Aが後方に向かうにつれて下降する傾斜面とされる。そして、張出部52の前端部には、スタンションバー13が接続されている。固定部51は、側面視にて略L字状をなし、シートバック30の側面に沿って延びる基部54の上部から張出部52が前方に突出する形状とされている。そして、固定部51は、張出部52の下方に、可動部60が格納位置において配置される配置空間56を有する。配置空間56は、基部54と張出部52の内側に位置する固定部51の内面56Aで画成され、可動部60を固定部51の前方に隣接させる形で格納可能な構成となっている。内面56Aは、上下方向に沿って延在する基部54の前面から張出部52の下面52Aが鈍角をなして立ち上がる形状をなしている。
【0026】
張出部52は、
図4に示されるように、着座者の肩から上腕に対向する位置に配され、着座者の上体が側方に傾いた際に、肩から上腕がそれ以上側方に変位しないように拘束可能な構成とされる。
図4においては、標準的な体型の日本人成人男性D(例えば、日本人成人男性50パーセントをカバーするJM50型乗員ダミーに相当)が着座した態様を示し、着座者Dの肩関節の位置をD1で示す。張出部52は、そのような着座者Dに対して、上下方向について、上端部が上腕の上部に位置するとともに下端部が肘の上方に位置し、前後方向について、前端部が上腕の前方に位置するように配されている。ここで、着座者Dより小柄な者が着座する場合には、その肩の位置は着座者Dより後方かつ下方となる。本実施形態では、張出部52が後方に向かうにつれて下方に幅広となる形状を有することにより、張出部52は小柄な着座者の肩から上腕についても拘束可能となっている。さらに、着座者Dより大柄な者が着座する場合には、その肩の位置が上方かつ前方となる。本実施形態では、張出部52が上方に向かうにつれて前方に幅広となる形状を有することにより、張出部52は大柄な着座者の肩から上腕についても拘束可能となっている。
【0027】
可動部60は、
図2及び
図8に示されるように、展開位置において、上方を向く肘掛け面60Aを有するアームレストを構成する。可動部60は、展開位置において肘掛け面60Aから後方に向かうにつれて下方に向かう延設面60Bを有する形状をなし、延設面60Bの延設先端側に回動軸L1を有している。そして、可動部60は、格納位置において延設面60Bを上下方向に沿わせた姿勢で配置空間56に配置される(
図6参照)。本実施形態では、可動部60は、全体としては、固定部51の内面56Aに沿って鈍角に屈曲した長手状をなし、下端部に回動軸L1を有している。また、可動部60は、その幅方向(X軸方向)について、固定部51と略同じ幅寸法を有している。このような構成により、可動部60は、格納位置においては、張出部52から前方又は幅方向両側にはみ出すことなく配置空間56に収まるとともに、展開位置においては、回動軸L1から上方に離れる程、固定部51からの離間距離が大きくなる構成となっている。
【0028】
また、可動部60は、
図2及び
図6に示されるように、肘掛け面60Aの前端部に突設された突出部60Cを有し、格納位置において、突出部60Cが張出部52の下面52Aに当接することにより、肘掛け面60A及び延設面60Bと固定部51との間に隙間60Dを有して配置空間56に配置される。突出部60Cは、着座者の手に納まる程度の大きさのグリップ状をなす。突出部60Cは、その突出面が肘掛け面60Aに沿って延在する平面状をなし、可動部60の格納位置において、突出面が張出部52の下面52Aと当接する構成とされている。可動部60は、後述するようにばね63により格納位置側に付勢されており、格納位置において、ばね63の弾性力により可動部60の張出部52の下面52Aとの当接状態が維持される構成となっている。可動部60は、突出部60Cが張出部52の下面52Aに当接した状態では、肘掛け面60Aが張出部52下面52Aにおける突出部60Cと当接する部分より後方の領域と対向するとともに、延設面60Bが基部54の前面と対向するようにして配置される。突出部60Cの突出寸法は、例えば、手指の厚さ寸法よりやや大きい程度とされ、好適に把持可能とされるとともに、肘掛け面60A及び延設面60Bと固定部51の内面56Aとの間に隙間60Dに手指が挟まる事態を回避可能に構成されている。
【0029】
可動部60は、
図1及び
図5に示されるように、アームレストフレーム61と、アームレストカバー62と、を備える。アームレストフレーム61は、可動部60の外形形状に倣う一対のプレート61A,61Bを有している。この可動部60は、固定部材70を介してベースフレーム20の一方の側端部に取り付けられている。固定部材70は、上下方向における中央部に、車室内側に突出する突出部73を有する。一対のプレート61A,61Bは、上述した固定部材70の突出部73を挟み込む形で配されており、突出部73に対して、ヒンジピン65(
図6参照)を介して回動可能に取り付けられている。これにより、可動部60は、
図6及び
図7に示す格納位置と、
図8に示す展開位置との間で回動可能な構成となっている。なお、固定部材70の大部分(アームレストカバー62で覆われていない部分)は
図1に示されるように、固定部51の外郭を構成する一対の樹脂カバー71,72によって挟み込まれる形で覆われている。
【0030】
続いて、可動部60の回動態様、及び各部の配置態様について、
図6から
図8を参照しつつ説明する。可動部60の展開位置においては、可動部60は肘掛け面60Aが上方を向く姿勢、つまり、着座者が前腕を載せられる程度に略水平方向に沿う形で延びる姿勢とされる。そして、可動部60の格納位置においては、肘掛け面60Aは、回動軸L1を中心として、展開位置の肘掛け面60Aよりも上方且つシートバック30側に回動された位置に配される。本実施形態では、シートクッション40の回動軸及び可動部60の回動軸が水平方向に沿って並ぶ形で配されている。より具体的には、シートクッション40の回動軸及び可動部60の回動軸は、同軸上に配されている。シートクッション40の回動軸及び可動部60の回動軸を各図においてL1で示す。つまり、可動部60は、肘掛け面60Aからシートクッション40の回動軸L1に向かって延びる形状をなしており、可動部60の回動軸L1は、可動部60の延設端部に設けられている。なお、可動部60の格納位置と可動部60の展開位置との間の可動部60の回動角度は、例えば約35度とされる。また、シートクッション40の格納位置とシートクッション40の展開位置との間のシートクッション40の回動角度は、例えば約90度とされる。つまり、可動部60の回動角度は、シートクッション40の回動角度よりも小さい値で設定されている。なお、シートクッション40の回動角度及び可動部60の回動角度は、上述した角度に限定されず適宜変更可能であり、可動部60の回動角度がシートクッション40の回動角度より小さい値であればよい。また、
図8に示されるように、可動部60の展開位置の肘掛け面60Aは、シートクッション40の展開位置の着座面40Aよりも高い位置に配されている。
【0031】
アームレストフレーム61の下端部には、ばね63(付勢部材)の一端が固定されている。ばね63の他端は、ベースフレーム20に設けられたブラケット21に固定されている。これにより、可動部60は、ばね63によって格納位置側に回動付勢されている。また、突出部73の上面には、スリット73Aが形成されている。このスリット73Aには、可動部60が備える位置決めピン68が嵌合されている。
【0032】
スリット73Aは、上方に開口されると共に、可動部60の回動軌跡に沿って延びている。可動部60の格納位置では、位置決めピン68がスリット73Aにおける車室外側の内面に当接することで、可動部60のシートバック30側への回動が規制されている。可動部60の展開位置では、位置決めピン68がスリット73Aにおける車室内側の内面に当接することで、可動部60のシートクッション40側への回動が規制されている。
【0033】
本実施形態の乗物用シート10は、シートクッション40が格納状態と展開状態との間で回動することに連動して可動部60を回動させる連動機構80を備える。連動機構80は、シートクッション40のサイドアーム42に設けられたピン47と、アームレストフレーム61(より詳しくはプレート61A)の下端部に形成されたスリット64と、を備える。スリット64は、
図6に示されるように、回動軸L1を中心としたピン47の回動軌跡に沿う円弧状をなしている。ピン47は、サイドアーム42から可動部60側に向かって突出されており、スリット64に嵌合されている。ピン47は、シートクッション格納位置において、回動軸L1よりも下方に配されている。
【0034】
次に連動機構80の作用について
図4から
図6によって説明する。
図6に示されるように、シートクッション40及び可動部60がそれぞれ格納位置にある場合には、ピン47は、スリット64の延設方向における車室内側の端部(スリットの延設方向における一端部)に配されている。この状態からシートクッション40をシートクッション展開位置に向かって(
図6の時計回りに)回動させると、ピン47は、スリット64内を移動しつつ、時計回りに回動する。
図7に示されるように、シートクッション40が、シートクッション格納位置とシートクッション展開位置との間の途中位置まで回動すると、ピン47(係止部)は、スリット64における車室外側の内面64A(被係止部、アームレストフレーム61におけるスリット64の孔縁部)に当接する。なお、シートクッション格納位置から途中位置までのシートクッション40の回動角度は、シートクッション格納位置とシートクッション展開位置との間のシートクッション40の回動角度と、アームレスト格納位置とアームレスト展開位置との間の可動部60の回動角度の差と同じである。
【0035】
スリット64は、シートクッション40がシートクッション格納位置と途中位置まで回動する際のピン47の回動軌跡に沿って延びている。このため、ピン47は、シートクッション40がシートクッション格納位置から途中位置まで回動する過程では、ピン47が内面64Aに係止せず、可動部60を回動させることがない。そして、シートクッション40が途中位置からシートクッション展開位置まで回動する過程では、ピン47が内面64Aに係止した状態で、ピン47が回動する結果、ピン47によって押圧された可動部60が時計回りに回動し、可動部60がアームレスト格納位置からアームレスト展開位置に回動する。この結果、
図8に示されるように、シートクッション40及び可動部60がそれぞれ展開位置に配される。
【0036】
続いて、乗物用シート10の非使用時及び使用時の態様について、
図3及び
図4を参照しつつ説明する。乗物用シート10は、非使用時には、シートクッション40がロック機構49により格納位置にロックされている。そして、可動部60は、シートクッション40が格納状態でロックされることにより、連動機構80を介して格納位置にロックされるように構成されている。この状態では、乗物用シート10の下方にはシートバック30とシートクッション40の厚さに相当する空間が確保され、バスの壁面11と対面して立つ乗員は、そこに足先を進入させた姿勢で、乗物用シート10の前方に立つことができるようになっている。さらに、シートクッション40の前方に、バスの壁面11に背を向けて立つ乗員は、シートクッション40の着座面40Aとは反対側の面に凭れるようにして立つことができるようになっている。つまり、乗物用シート10は、非使用時には、無理のない姿勢で多くの立席の乗員をバスに搭乗させたり、荷物を搭載するスペースを確保したりすることが可能な構成とされている。また、パーティション50は、可動部60の格納位置において、張出部52及び可動部60の肘掛け面60Aを構成する部分が、シートクッション40より前方に位置して、シートクッション40前方に立つ乗員に車両の前後方向に変位させるような力が掛かる場合に、当該部分により乗員を支持し、乗員の姿勢を保持する効果も期待される。
【0037】
次に、乗物用シート10を使用する際には、レバー45を引いてロック機構49によるシートクッション40のロックを解除して、シートクッション40を展開位置に変更する。すると、連動機構80により、シートクッション40と連動して、可動部60が展開位置に変更される。そして、着座者Dは、シートクッション40及び可動部60の展開状態において、臀部に着座面40Aにおける緩やかに凹んだ部分を宛がうようにしてシートクッション40に着座する(
図4参照)。この際、着座者Dは、固定部51の上端部や可動部60の肘掛け面60Aを支えとして、立ち姿勢から着座姿勢に移行してもよい。そして、着座者Dは、背中に背もたれ面30Aを宛がった状態では、上体がやや後傾した安定した姿勢で乗物用シート10に着座可能となっている。着座者Dが着座した状態では、上腕に対して側方に離間して、固定部51の張出部52が位置している。また、着座者Dは、配置空間56を一部利用するようにして、展開した可動部60と固定部51との間に腕を進入させた無理のない姿勢で肘掛け面60Aに前腕を載置可能とされる。さらに、着座者Dは、肘掛け面60Aに前腕を載置した状態で、突出部60Cに手を載置可能とされる。つまり、着座者Dは、自身の上体に加速度が作用する場合には、肘掛け面60Aを支えとしたり、突出部60Cを把持したりして、その姿勢を保持自ら保持することが可能な構成とされている。
【0038】
続いて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態によれば、シートクッション40の格納状態では、可動部60を格納位置に配することで、各部をコンパクトに配置することができる。そして、シートクッション40の展開状態では、着座者に上体を側方に変位させるような力が掛かる場合に、張出部52により上体を拘束し、その姿勢を保持可能とされる。このため、バスの急発進又は急停止時等に、乗物用シート10に対して、着座者の上体が側方(車両前方又は後方)に移動する事態を抑制することができるとともに、乗物用シート10,10が互いに隣接して配される場合に、着座者同士がぶつかる事態を抑制することができる。さらに、着座者に上体を前方に変位させるような力が掛かる場合に、着座者がアームレストを構成する可動部60を支えとして、前後方向における上体の姿勢を自ら保持することができる。このため、バスの旋回時等に、着座者の上体が前方に飛び出す事態の発生を抑制することができる。つまり、バスの急発進又は急停止並びに旋回時における、着座者の安全性を向上することができる。したがって、非使用時には、バス内のスペースを有効に活用することができ、使用時には、着座者の姿勢を保持し易い乗物用シート10又はパーティション50を提供することができる。
【0039】
また、本実施形態では、可動部60の格納位置において、張出部52の下方の配置空間56に延設面60Bを上下方向に沿わせた姿勢で可動部60が配置されることで、可動部60と固定部51とをコンパクトに配置することができる。さらに、張出部52が配置空間56の上方に位置する構成上、張出部52により着座者の肩から上腕付近を支持することができ、張出部52により着座者の上体を好適に拘束することができる。そのうえで、可動部60の回動軸L1が延設面60Bの延設先端側に設けられるから、例えば、展開位置において回動軸が肘掛け面の後端部に設けられる構成に比べて、小さい回動角度で肘掛け面60Aをより前方まで展開することができる。このため、コンパクトに格納可能でありながら、展開位置において着座者を好適に支持可能な可動部60の構成を実現することができる。
【0040】
また、本実施形態では、シートクッション40の展開状態では、着座者が突出部60Cを把持することにより、より一層、前後方向における上体の姿勢を自ら保持し易くなる。さらに、可動部60の格納位置において、突出部60Cが張出部52の下面52Aに当接することにより、肘掛け面60A及び延設面60Bが配置空間56の内面56Aとの間に隙間60Dを有して配置されるから、可動部60と固定部51との間に被服等が挟まれる事態を回避することができる。
【0041】
また、本実施形態では、乗物用シート10は、可動部60を格納位置側に付勢するばね63を備える。このため、ばね63の付勢力により、可動部60が遊動する事態を抑制することができ、可動部60の動作をより安定させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、連動機構80を備えることにより、可動部60をシートクッション40とは別に回動させる構成に比べて、可動部60のみを回動させる手間がなく、利便性に優れる。さらに、シートクッション40が格納位置にロックされた状態では、可動部60が展開位置に回動することがなく、可動部60が不要な時に展開されて邪魔になる事態を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、張出部52は、シートクッション40の格納状態において、シートクッション40より前方に張り出している。このため、シートクッション40の展開状態において、張出部52により着座者の姿勢を側方から十分に保持可能とされるとともに、シートクッション40の格納状態において、張出部52をシートクッション40の前に立つ乗員の支えとしても用いることができる。
【0044】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、乗物用シートが搭載される乗物としてバスを例示したが、バス以外の自動車であってもよい。また、その他にも地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの乗物についても上記乗物用シートを適用することができる。
(2)上記実施形態では、連動機構として、ピンとスリットから構成されているものを例示したが、これに限定されない。例えば、歯車やリンク機構によって、シートクッションとアームレストを連動させる構成としてもよい。
(3)上記実施形態では、シートクッション40の回動軸及び可動部60の回動軸が同軸上で配されている構成を例示したが、シートクッション40の回動軸及び可動部60の回動軸は略同軸上であってもよく、例えば、シートクッション40の回動軸及び可動部60の回動軸が上下方向について、僅かにずれていてもよい。
(4)上記実施形態では、固定部材70及び可動部60が、ベースフレーム20の一方の側端部に取り付けられている構成を例示したが、これに限定されない。固定部材70及び可動部60が、ベースフレーム20の両側端部にそれぞれ取り付けられていてもよい。
(5)上記実施形態以外にも、パーティション並びに、固定部及び可動部の形状は適宜変更可能である。上記実施形態では、固定部が張出部の下方に配置空間を有する構成を例示したが、固定部は、張出部の前方や側方に配置空間を有していても構わない。さらに、張出部の張出態様も適宜変更可能である。また、可動部は突出部を有していなくてもよい。
(6)上記実施形態以外にも、可動部及びシートクッションの展開格納態様は適宜変更可能である。例えば、これらは連動していなくてもよく、また、展開位置と格納位置とを変更する際の移動態様は適宜設計可能である。例えば、シートクッションは、着座面を上方に向けた展開状態から、着座面後側が上方にせり上がるようにして格納状態に切り替えられる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…乗物用シート、30…シートバック、40…シートクッション、50…パーティション、51…固定部、52…張出部、52A…下面、56…配置空間、56A…内面、60…可動部、60A…肘掛け面、60B…延設面、60C…突出部、60D…隙間、63…ばね(付勢部材)、80…連動機構、L1…回動軸