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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】補強済建物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017209356
(22)【出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2019082030
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】宇部興産建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】柿原 巧弥
(72)【発明者】
【氏名】河本 孝紀
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-044396(JP,A)
【文献】特開2014-136926(JP,A)
【文献】特開平03-025131(JP,A)
【文献】特開2004-300799(JP,A)
【文献】特開平09-221719(JP,A)
【文献】特開2016-044393(JP,A)
【文献】特開平01-154923(JP,A)
【文献】特開2015-045127(JP,A)
【文献】特開平04-094905(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0260601(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物と、
前記既存建物を補強する補強構造物とを備え、
前記既存建物は、
鉄筋を内部に含む基礎部と、
鉄筋を内部に含み且つ前記基礎部上に設けられた柱部と、
鉄筋を内部に含む梁部と、
前記柱部及び梁部が交差する箇所に位置し且つ前記柱部の端部及び前記梁部の端部にそれぞれ接続された交差部とを有し、
前記補強構造物は、
前記柱部に沿って配置され、鉄筋が埋設されたコンクリート硬化体を含む補強柱部と、
前記柱部に沿って配置され、前記補強柱部と前記基礎部とを接続する補強脚部と、
前記梁部に沿って配置され、鉄筋が埋設されたコンクリート硬化体を含む補強梁部と、
前記交差部に対応する位置に配置され、前記補強柱部の端部と前記補強梁部の端部とを接続する補強交差部とを有し、
前記補強脚部は、コンクリート硬化体以上の圧縮強度を示す硬化体であって、内部に鉄筋が配置された硬化体を含み、
前記補強交差部は、コンクリート硬化体よりも高い圧縮強度を示す硬化体であって、内部に鉄筋が配置された硬化体を含み、
前記補強脚部及び前記基礎部の内部には、これらを連通するように延びる少なくとも一つのアンカー筋が設けられており、
前記基礎部の上面には下方に向けて窪む凹部が設けられており、
前記補強脚部の下端面には、下方に向けて突出する凸部が設けられており、
前記凹部と前記凸部とは嵌合しており、
パラメータA,Bをそれぞれ
A:上方から見たときの前記凹部の面積
B:上面から見て、前記凹部の応力集中部から前記基礎部の外周縁に向けて拡がるように前記梁部及び前記補強梁部の延在方向に対して45°で延びる一対の仮想直線と、前記凹部の外周縁と、前記基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
と定義した場合に
B/A≧1.0を満たす、補強済建物。
【請求項2】
既存建物と、
前記既存建物を補強する補強構造物とを備え、
前記既存建物は、
鉄筋を内部に含む基礎部と、
鉄筋を内部に含み且つ前記基礎部上に設けられた柱部と、
鉄筋を内部に含む梁部と、
前記柱部及び梁部が交差する箇所に位置し且つ前記柱部の端部及び前記梁部の端部にそれぞれ接続された交差部とを有し、
前記補強構造物は、
前記柱部に沿って配置され、鉄筋が埋設されたコンクリート硬化体を含む補強柱部と、
前記柱部に沿って配置され、前記補強柱部と前記基礎部とを接続する補強脚部と、
前記梁部に沿って配置され、鉄筋が埋設されたコンクリート硬化体を含む補強梁部と、
前記交差部に対応する位置に配置され、前記補強柱部の端部と前記補強梁部の端部とを接続する補強交差部とを有し、
前記補強脚部は、コンクリート硬化体以上の圧縮強度を示す硬化体であって、内部に鉄筋が配置された硬化体を含み、
前記補強交差部は、コンクリート硬化体よりも高い圧縮強度を示す硬化体であって、内部に鉄筋が配置された硬化体を含み、
前記補強脚部及び前記基礎部の内部には、これらを連通するように延びる少なくとも一つのアンカー筋が設けられており、
前記基礎部の上面には下方に向けて窪む第1の凹部及び第2の凹部が設けられており、
前記補強脚部の下端面には、下方に向けて突出する第1の凸部及び第2の凸部が設けられており、
前記第1の凹部と前記第1の凸部とは嵌合し、前記第2の凹部と前記第2の凸部とは嵌合しており、
前記第1及び第2の凹部は前記柱部及び前記補強柱部が並ぶ方向に沿って並んでおり、
前記第1及び第2の凸部は前記柱部及び前記補強柱部が並ぶ方向に沿って並んでおり、
パラメータA1,B1,A2,B2,Cをそれぞれ
A1:上方から見たときの前記第1の凹部の面積
B1:上面から見て、前記第1の凹部の応力集中部から前記基礎部の外周縁に向けて拡がるように前記梁部及び前記補強梁部の延在方向に対して45°で延びる一対の第1の仮想直線と、前記第1の凹部の外周縁と、前記基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
A2:上方から見たときの前記第2の凹部の面積
B2:上面から見て、前記第2の凹部の応力集中部から前記基礎部の外周縁に向けて拡がるように前記延在方向に対して45°で延びる一対の第2の仮想直線と、前記第2の凹部の外周縁と、前記基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
C:面積B1の領域と面積B2の領域とが重なり合う部分の面積
と定義した場合に、
(B1+B2-C)/(A1+A2)≧1.0を満たす、補強済建物。
【請求項3】
既存建物と、
前記既存建物を補強する補強構造物とを備え、
前記既存建物は、
鉄筋を内部に含む基礎部と、
鉄筋を内部に含み且つ前記基礎部上に設けられた柱部と、
鉄筋を内部に含む梁部と、
前記柱部及び梁部が交差する箇所に位置し且つ前記柱部の端部及び前記梁部の端部にそれぞれ接続された交差部とを有し、
前記補強構造物は、
前記柱部に沿って配置され、鉄筋が埋設されたコンクリート硬化体を含む補強柱部と、
前記柱部に沿って配置され、前記補強柱部と前記基礎部とを接続する補強脚部と、
前記梁部に沿って配置され、鉄筋が埋設されたコンクリート硬化体を含む補強梁部と、
前記交差部に対応する位置に配置され、前記補強柱部の端部と前記補強梁部の端部とを接続する補強交差部とを有し、
前記補強脚部は、コンクリート硬化体以上の圧縮強度を示す硬化体であって、内部に鉄筋が配置された硬化体を含み、
前記補強交差部は、コンクリート硬化体よりも高い圧縮強度を示す硬化体であって、内部に鉄筋が配置された硬化体を含み、
前記補強脚部及び前記基礎部の内部には、これらを連通するように延びる少なくとも一つのアンカー筋が設けられており、
前記基礎部の上面には下方に向けて窪む第1の凹部及び第2の凹部が設けられており、
前記補強脚部の下端面には、下方に向けて突出する第1の凸部及び第2の凸部が設けられており、
前記第1の凹部と前記第1の凸部とは嵌合し、前記第2の凹部と前記第2の凸部とは嵌合しており、
前記第1及び第2の凹部は前記梁部及び前記補強梁部の延在方向に沿って並んでおり、
前記第1及び第2の凸部は前記梁部及び前記補強梁部の延在方向に沿って並んでおり、
パラメータA1,B1,A2,B2をそれぞれ
A1:上方から見たときの前記第1の凹部の面積
B1:上面から見て、前記第1の凹部の応力集中部から前記第2の凹部に向けて拡がるように前記延在方向に対して45°で延びる一対の第1の仮想直線と、前記第1の凹部の外周縁と、前記第2の凹部のうち前記第1の凹部寄りの外周縁に接し且つ前記延在方向に直交する第2の仮想直線とで囲まれる領域の面積
A2:上方から見たときの前記第2の凹部の面積
B2:上面から見て、前記第2の凹部の応力集中部から前記基礎部の外周縁側で且つ前記第1の凹部から離れる側に向けて拡がるように前記延在方向に対して45°で延びる一対の第3の仮想直線と、前記第2の凹部の外周縁と、前記基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
と定義した場合に、
(B1+B2)/(A1+A2)≧1.0を満たす、補強済建物。
【請求項4】
前記補強脚部及び前記補強交差部はそれぞれ、ポリマーセメントモルタルが硬化した硬化体、超高強度モルタルが硬化した硬化体又は高強度コンクリートが硬化した硬化体で構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の補強済建物。
【請求項5】
材齢28日における前記補強脚部及び前記補強交差部の圧縮強度が60N/mm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の補強済建物。
【請求項6】
パラメータl,tをそれぞれ
l:前記梁部及び前記補強梁部の延在方向における前記凹部の幅
t:前記凹部の深さ
と定義した場合に
l/t≧3.5を満たす、請求項1~のいずれか一項に記載の補強済建物。
【請求項7】
深さtが7cm以下である、請求項に記載の補強済建物。
【請求項8】
鉄筋を内部に含む基礎部と、鉄筋を内部に含み且つ前記基礎部上に設けられた柱部と、鉄筋を内部に含む梁部と、前記柱部及び梁部が交差する箇所に位置し且つ前記柱部の端部及び前記梁部の端部にそれぞれ接続された交差部とを有する既存建物に補強構造物を設けて前記既存建物が前記補強構造物によって補強された補強済建物を製造する方法であって、
前記基礎部の上面を斫ることにより、前記上面に凹部を設ける第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記柱部、前記梁部及び前記交差部にそれぞれ対応する位置に鉄筋を配置すると共に、アンカー筋の上端部が前記柱部の下端部と対向するように前記基礎部に前記アンカー筋を埋設する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記柱部に配置された前記鉄筋及び前記アンカー筋を覆うように第1の型枠を設け、前記第1の型枠内に第1の補強材料を充填することにより、前記アンカー筋の上端部が内部に埋設された補強脚部を前記柱部の下端部に形成する第3の工程と、
前記第3の工程の後に、前記第1の型枠内にコンクリートを打設することにより補強柱部を形成する第4の工程と、
前記第2の工程の後に、前記梁部に配置された前記鉄筋を覆うように第2の型枠を設け、前記第2の型枠内にコンクリートを打設することにより補強梁部を形成する第5の工程と、
前記第4の工程の後に、前記交差部に配置された前記鉄筋を覆うように第3の型枠を設け、前記第3の型枠内に第2の補強材料を充填することにより補強交差部を形成する第6の工程とを含み、
前記補強脚部は、コンクリート硬化体以上の圧縮強度を示す硬化体であり、
前記補強交差部は、コンクリート硬化体よりも高い圧縮強度を示す硬化体であり、
前記第3の工程において前記凹部に充填された前記第1の補強材料により、前記補強脚部の下端面には下方に向けて突出し且つ前記凹部と嵌合する凸部が形成され
パラメータA,Bをそれぞれ
A:上方から見たときの前記凹部の面積
B:上面から見て、前記凹部の応力集中部から前記基礎部の外周縁に向けて拡がるように前記梁部及び前記補強梁部の延在方向に対して45°で延びる一対の仮想直線と、前記凹部の外周縁と、前記基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
と定義した場合に
B/A≧1.0を満たす、補強済建物の製造方法。
【請求項9】
鉄筋を内部に含む基礎部と、鉄筋を内部に含み且つ前記基礎部上に設けられた柱部と、鉄筋を内部に含む梁部と、前記柱部及び梁部が交差する箇所に位置し且つ前記柱部の端部及び前記梁部の端部にそれぞれ接続された交差部とを有する既存建物に補強構造物を設けて前記既存建物が前記補強構造物によって補強された補強済建物を製造する方法であって、
前記基礎部の上面を斫ることにより、前記上面に第1の凹部及び第2の凹部を設ける第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記柱部、前記梁部及び前記交差部にそれぞれ対応する位置に鉄筋を配置すると共に、アンカー筋の上端部が前記柱部の下端部と対向するように前記基礎部に前記アンカー筋を埋設する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記柱部に配置された前記鉄筋及び前記アンカー筋を覆うように第1の型枠を設け、前記第1の型枠内に第1の補強材料を充填することにより、前記アンカー筋の上端部が内部に埋設された補強脚部を前記柱部の下端部に形成する第3の工程と、
前記第3の工程の後に、前記第1の型枠内にコンクリートを打設することにより補強柱部を形成する第4の工程と、
前記第2の工程の後に、前記梁部に配置された前記鉄筋を覆うように第2の型枠を設け、前記第2の型枠内にコンクリートを打設することにより補強梁部を形成する第5の工程と、
前記第4の工程の後に、前記交差部に配置された前記鉄筋を覆うように第3の型枠を設け、前記第3の型枠内に第2の補強材料を充填することにより補強交差部を形成する第6の工程とを含み、
前記補強脚部は、コンクリート硬化体以上の圧縮強度を示す硬化体であり、
前記補強交差部は、コンクリート硬化体よりも高い圧縮強度を示す硬化体であり、
前記第3の工程において前記第1及び第2の凹部に充填された前記第1の補強材料により、前記補強脚部の下端面には下方に向けて突出し且つ前記第1及び第2の凹部とそれぞれ嵌合する第1の凸部及び第2の凸部が形成され、
前記第1及び第2の凹部は前記柱部及び前記補強柱部が並ぶ方向に沿って並んでおり、
前記第1及び第2の凸部は前記柱部及び前記補強柱部が並ぶ方向に沿って並んでおり、
パラメータA1,B1,A2,B2,Cをそれぞれ
A1:上方から見たときの前記第1の凹部の面積
B1:上面から見て、前記第1の凹部の応力集中部から前記基礎部の外周縁に向けて拡がるように前記梁部及び前記補強梁部の延在方向に対して45°で延びる一対の第1の仮想直線と、前記第1の凹部の外周縁と、前記基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
A2:上方から見たときの前記第2の凹部の面積
B2:上面から見て、前記第2の凹部の応力集中部から前記基礎部の外周縁に向けて拡がるように前記延在方向に対して45°で延びる一対の第2の仮想直線と、前記第2の凹部の外周縁と、前記基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
C:面積B1の領域と面積B2の領域とが重なり合う部分の面積
と定義した場合に、
(B1+B2-C)/(A1+A2)≧1.0を満たす、補強済建物の製造方法。
【請求項10】
鉄筋を内部に含む基礎部と、鉄筋を内部に含み且つ前記基礎部上に設けられた柱部と、鉄筋を内部に含む梁部と、前記柱部及び梁部が交差する箇所に位置し且つ前記柱部の端部及び前記梁部の端部にそれぞれ接続された交差部とを有する既存建物に補強構造物を設けて前記既存建物が前記補強構造物によって補強された補強済建物を製造する方法であって、
前記基礎部の上面を斫ることにより、前記上面に第1の凹部及び第2の凹部を設ける第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記柱部、前記梁部及び前記交差部にそれぞれ対応する位置に鉄筋を配置すると共に、アンカー筋の上端部が前記柱部の下端部と対向するように前記基礎部に前記アンカー筋を埋設する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記柱部に配置された前記鉄筋及び前記アンカー筋を覆うように第1の型枠を設け、前記第1の型枠内に第1の補強材料を充填することにより、前記アンカー筋の上端部が内部に埋設された補強脚部を前記柱部の下端部に形成する第3の工程と、
前記第3の工程の後に、前記第1の型枠内にコンクリートを打設することにより補強柱部を形成する第4の工程と、
前記第2の工程の後に、前記梁部に配置された前記鉄筋を覆うように第2の型枠を設け、前記第2の型枠内にコンクリートを打設することにより補強梁部を形成する第5の工程と、
前記第4の工程の後に、前記交差部に配置された前記鉄筋を覆うように第3の型枠を設け、前記第3の型枠内に第2の補強材料を充填することにより補強交差部を形成する第6の工程とを含み、
前記補強脚部は、コンクリート硬化体以上の圧縮強度を示す硬化体であり、
前記補強交差部は、コンクリート硬化体よりも高い圧縮強度を示す硬化体であり、
前記第3の工程において前記第1及び第2の凹部に充填された前記第1の補強材料により、前記補強脚部の下端面には下方に向けて突出し且つ前記第1及び第2の凹部とそれぞれ嵌合する第1の凸部及び第2の凸部が形成され、
前記第1及び第2の凹部は前記梁部及び前記補強梁部の延在方向に沿って並んでおり、
前記第1及び第2の凸部は前記梁部及び前記補強梁部の延在方向に沿って並んでおり、
パラメータA1,B1,A2,B2をそれぞれ
A1:上方から見たときの前記第1の凹部の面積
B1:上面から見て、前記第1の凹部の応力集中部から前記第2の凹部に向けて拡がるように前記延在方向に対して45°で延びる一対の第1の仮想直線と、前記第1の凹部の外周縁と、前記第2の凹部のうち前記第1の凹部寄りの外周縁に接し且つ前記延在方向に直交する第2の仮想直線とで囲まれる領域の面積
A2:上方から見たときの前記第2の凹部の面積
B2:上面から見て、前記第2の凹部の応力集中部から前記基礎部の外周縁側で且つ前記第1の凹部から離れる側に向けて拡がるように前記延在方向に対して45°で延びる一対の第3の仮想直線と、前記第2の凹部の外周縁と、前記基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
と定義した場合に、
(B1+B2)/(A1+A2)≧1.0を満たす、補強済建物の製造方法。
【請求項11】
前記第1及び第2の補強材料はそれぞれ、ポリマーセメントモルタル、超高強度モルタル又は高強度コンクリートである、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
材齢28日における前記補強脚部及び前記補強交差部の圧縮強度が60N/mm以上である、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
パラメータl,tをそれぞれ
l:前記梁部及び前記補強梁部の延在方向における前記凹部の幅
t:前記凹部の深さ
と定義した場合に
l/t≧3.5を満たす、請求項~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
深さtが7cm以下である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、既存建物が補強構造物によって補強された補強済建物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、工場などで予め製造されたコンクリート部品(プレキャストコンクリート製の補強ユニット)を組み立てながら既存建物の外側(外壁)と一体化させ、既存建物を補強する補強工法を開示している。これらのコンクリート部品を組み立てる際には、補強柱となるコンクリート部品(補強柱ユニット)と補強梁となるコンクリート部品(補強梁ユニット)とを挿通する横PC鋼材により、これらに対して予め圧縮応力(プレストレス)を付与し、補強ユニットの耐震性能の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-155137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示するような補強ユニットを用いた補強工法の場合、重量物であるコンクリート部品を工場から現場に運搬する必要が生ずる。加えて、同補強工法の場合、補強ユニットを製造するための設備や、プレストレスを補強ユニットに付与する工程を要する。従って、補強工法の煩雑化や高コスト化を招いていた。
【0005】
そこで、本開示は、既存建物の補強を簡易且つ低コストに行うことが可能な補強済建物及びその製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示の一つの観点に係る補強済建物は、既存建物と、既存建物を補強する補強構造物とを備える。既存建物は、鉄筋を内部に含む基礎部と、鉄筋を内部に含み且つ基礎部上に設けられた柱部と、鉄筋を内部に含む梁部と、柱部及び梁部が交差する箇所に位置し且つ柱部の端部及び梁部の端部にそれぞれ接続された交差部とを有する。補強構造物は、柱部に沿って配置され、鉄筋が埋設されたコンクリート硬化体を含む補強柱部と、柱部に沿って配置され、補強柱部と基礎部とを接続する補強脚部と、梁部に沿って配置され、鉄筋が埋設されたコンクリート硬化体を含む補強梁部と、交差部に対応する位置に配置され、補強柱部の端部と補強梁部の端部とを接続する補強交差部とを有する。補強脚部は、コンクリート硬化体以上の圧縮強度を示す硬化体であって、内部に鉄筋が配置された硬化体を含む。補強交差部は、コンクリート硬化体よりも高い圧縮強度を示す硬化体であって、内部に鉄筋が配置された硬化体を含む。補強脚部及び基礎部の内部には、これらを連通するように延びる少なくとも一つのアンカー筋が設けられている。基礎部の上面には下方に向けて窪む凹部が設けられている。補強脚部の下端面には、下方に向けて突出する凸部が設けられている。凹部と凸部とは嵌合している。
【0007】
本開示の一つの観点に係る補強済建物では、少なくとも一つのアンカー筋が補強脚部と基礎部とを連通していると共に、補強脚部の下端面に設けられている凸部が基礎部の上面の凹部と嵌合している。そのため、地震等の発生によって補強済建物に対し水平方向の外力が作用した場合であっても、補強柱部に作用するせん断力が、アンカー筋と互いに嵌合された凸部及び凹部とを介して基礎部に伝達される。従って、水平方向において隣り合う補強脚部同士が補強梁部で接続されていなくても、既存建物の柱部の十分な補強が図られる。その結果、既存建物の補強を簡易且つ低コストに行うことが可能となる。
【0008】
[2]上記第1項に記載の補強済建物において、補強脚部及び補強交差部はそれぞれ、ポリマーセメントモルタルが硬化した硬化体、超高強度モルタルが硬化した硬化体又は高強度コンクリートが硬化した硬化体で構成されていてもよい。この場合、補強済建物の耐震性をより向上させることが可能となる。
【0009】
[3]上記第1項又は第2項に記載の補強済建物は、材齢28日における補強脚部及び補強交差部の圧縮強度が60N/mm以上であってもよい。この場合、補強済建物の耐震性をより向上させることが可能となる。
【0010】
[4]上記第1項~第3項のいずれか一項に記載の補強済建物において、パラメータl,tをそれぞれ
l:梁部及び補強梁部の延在方向における凹部の幅
t:凹部の深さ
と定義した場合に
l/t≧3.5を満たしてもよい。この場合、凹部と凸部との間でせん断力が伝達する際に、凸部が極めて破損し難くなる。
【0011】
[5]上記第4項に記載の補強済建物において、深さtが7cm以下であってもよい。この場合、比較的浅い凹部が得られる。そのため、基礎部に凹部を形成しやすくなると共に、基礎部に凹部を形成する際に基礎部内の鉄筋が露出することを抑制できる。換言すれば、基礎部に凹部を形成する際に、基礎部内の鉄筋が極めて破損し難くなる。
【0012】
[6]上記第1項~第5項のいずれか一項に記載の補強済建物において、パラメータA,Bをそれぞれ
A:上方から見たときの凹部の面積
B:上面から見て、凹部の応力集中部から基礎部の外周縁に向けて拡がるように梁部及び補強梁部の延在方向に対して45°で延びる一対の仮想直線と、凹部の外周縁と、基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
と定義した場合に
B/A≧1.0を満たしてもよい。この場合、凹部と凸部との間でせん断力が伝達する際に、凹部の近傍において基礎部が極めて破損し難くなる。
【0013】
[7]上記第1項~第5項のいずれか一項に記載の補強済建物において、基礎部の上面には下方に向けて窪む第1の凹部及び第2の凹部が設けられており、補強脚部の下端面には、下方に向けて突出する第1の凸部及び第2の凸部が設けられており、第1の凹部と第1の凸部とは嵌合し、第2の凹部と第2の凸部とは嵌合していてもよい。この場合、複数の凹部及び複数の凸部の嵌合により補強脚部と基礎部とが接続されるので、補強柱部に作用するせん断力が基礎部にいっそう伝達されやすくなる。そのため、既存建物の柱部のさらなる補強が図られる。
【0014】
[8]上記第7項に記載の補強済建物において、第1及び第2の凹部は柱部及び補強柱部が並ぶ方向に沿って並んでおり、第1及び第2の凸部は柱部及び補強柱部が並ぶ方向に沿って並んでおり、パラメータA1,B1,A2,B2,Cをそれぞれ
A1:上方から見たときの第1の凹部の面積
B1:上面から見て、第1の凹部の応力集中部から基礎部の外周縁に向けて拡がるように梁部及び補強梁部の延在方向に対して45°で延びる一対の第1の仮想直線と、第1の凹部の外周縁と、基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
A2:上方から見たときの第2の凹部の面積
B2:上面から見て、第2の凹部の応力集中部から基礎部の外周縁に向けて拡がるように延在方向に対して45°で延びる一対の第2の仮想直線と、第2の凹部の外周縁と、基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
C:面積B1の領域と面積B2の領域とが重なり合う部分の面積
と定義した場合に、
(B1+B2-C)/(A1+A2)≧1.0を満たしていてもよい。この場合、第1の凹部と第1の凸部との間と、第2の凹部と第2の凸部との間とでせん断力が伝達する際に、各凹部の近傍において基礎部が極めて破損し難くなる。
【0015】
[9]上記第7項に記載の補強済建物において、第1及び第2の凹部は梁部及び補強梁部の延在方向に沿って並んでおり、第1及び第2の凸部は梁部及び補強梁部の延在方向に沿って並んでおり、パラメータA1,B1,A2,B2をそれぞれ
A1:上方から見たときの第1の凹部の面積
B1:上面から見て、第1の凹部の応力集中部から第2の凹部に向けて拡がるように延在方向に対して45°で延びる一対の第1の仮想直線と、第1の凹部の外周縁と、第2の凹部のうち第1の凹部寄りの外周縁に接し且つ延在方向に直交する第2の仮想直線とで囲まれる領域の面積
A2:上方から見たときの第2の凹部の面積
B2:上面から見て、第2の凹部の応力集中部から基礎部の外周縁側で且つ第1の凹部から離れる側に向けて拡がるように延在方向に対して45°で延びる一対の第3の仮想直線と、第2の凹部の外周縁と、基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
と定義した場合に、
(B1+B2)/(A1+A2)≧1.0を満たしていてもよい。この場合、第1の凹部と第1の凸部との間と、第2の凹部と第2の凸部との間とでせん断力が伝達する際に、各凹部の近傍において基礎部が極めて破損し難くなる。
【0016】
[10]本開示の他の観点に係る補強済建物の製造方法は、鉄筋を内部に含む基礎部と、鉄筋を内部に含み且つ基礎部上に設けられた柱部と、鉄筋を内部に含む梁部と、柱部及び梁部が交差する箇所に位置し且つ柱部の端部及び梁部の端部にそれぞれ接続された交差部とを有する既存建物に補強構造物を設けて既存建物が補強構造物によって補強された補強済建物を製造する方法である。当該製造方法は、基礎部の上面を斫ることにより、上面に凹部を設ける第1の工程と、第1の工程の後に、柱部、梁部及び交差部にそれぞれ対応する位置に鉄筋を配置すると共に、アンカー筋の上端部が柱部の下端部と対向するように基礎部にアンカー筋を埋設する第2の工程と、第2の工程の後に、柱部に配置された鉄筋及びアンカー筋を覆うように第1の型枠を設け、第1の型枠内に第1の補強材料を充填することにより、アンカー筋の上端部が内部に埋設された補強脚部を柱部の下端部に形成する第3の工程と、第3の工程の後に、第1の型枠内にコンクリートを打設することにより補強柱部を形成する第4の工程と、第2の工程の後に、梁部に配置された鉄筋を覆うように第2の型枠を設け、第2の型枠内にコンクリートを打設することにより補強梁部を形成する第5の工程と、第4の工程の後に、交差部に配置された鉄筋を覆うように第3の型枠を設け、第3の型枠内に第2の補強材料を充填することにより補強交差部を形成する第6の工程とを含む。補強脚部は、コンクリート硬化体以上の圧縮強度を示す硬化体である。補強交差部は、コンクリート硬化体よりも高い圧縮強度を示す硬化体である。第3の工程において凹部に充填された第1の補強材料により、補強脚部の下端面には下方に向けて突出し且つ凹部と嵌合する凸部が形成される。この場合、上記第1項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【0017】
[11]上記第10項に記載の方法において、第1及び第2の補強材料はそれぞれ、ポリマーセメントモルタル、超高強度モルタル又は高強度コンクリートであってもよい。この場合、上記第2項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【0018】
[12]上記第10項又は第11項に記載の方法において、材齢28日における補強脚部及び補強交差部の圧縮強度が60N/mm以上であってもよい。この場合、上記第3項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【0019】
[13]上記第10項~第12項のいずれか一項に記載の方法において、パラメータl,tをそれぞれ
l:梁部及び補強梁部の延在方向における凹部の幅
t:凹部の深さ
と定義した場合に
l/t≧3.5を満たしてもよい。この場合、上記第4項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【0020】
[14]上記第13項に記載の方法において、深さtが7cm以下であってもよい。この場合、上記第5項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【0021】
[15]上記第10項~第14項のいずれか一項に記載の方法において、パラメータA,Bをそれぞれ
A:上方から見たときの凹部の面積
B:上面から見て、凹部の応力集中部から基礎部の外周縁に向けて拡がるように梁部及び補強梁部の延在方向に対して45°で延びる一対の仮想直線と、凹部の外周縁と、基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
と定義した場合に
B/A≧1.0を満たしてもよい。この場合、上記第6項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【0022】
[16]上記第10項~第14項のいずれか一項に記載の方法において、第1の工程では、基礎部の上面を斫ることにより、上面に第1の凹部及び第2の凹部を設け、第3の工程において第1の凸部及び第2の凹部に充填された第1の補強材料により、補強脚部の下端面には下方に向けて突出し且つ第1及び第2の凹部とそれぞれ嵌合する第1及び第2の凸部が形成されてもよい。この場合、上記第7項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【0023】
[17]上記第16項に記載の方法において、第1及び第2の凹部は柱部及び補強柱部が並ぶ方向に沿って並んでおり、第1及び第2の凸部は柱部及び補強柱部が並ぶ方向に沿って並んでおり、パラメータA1,B1,A2,B2,Cをそれぞれ
A1:上方から見たときの第1の凹部の面積
B1:上面から見て、第1の凹部の応力集中部から基礎部の外周縁に向けて拡がるように梁部及び補強梁部の延在方向に対して45°で延びる一対の第1の仮想直線と、第1の凹部の外周縁と、基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
A2:上方から見たときの第2の凹部の面積
B2:上面から見て、第2の凹部の応力集中部から基礎部の外周縁に向けて拡がるように延在方向に対して45°で延びる一対の第2の仮想直線と、第2の凹部の外周縁と、基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
C:面積B1の領域と面積B2の領域とが重なり合う部分の面積
と定義した場合に、
(B1+B2-C)/(A1+A2)≧1.0を満たしてもよい。この場合、上記第8項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【0024】
[18]上記第16項に記載の方法において、第1及び第2の凹部は梁部及び補強梁部の延在方向に沿って並んでおり、第1及び第2の凸部は梁部及び補強梁部の延在方向に沿って並んでおり、パラメータA1,B1,A2,B2をそれぞれ
A1:上方から見たときの第1の凹部の面積
B1:上面から見て、第1の凹部の応力集中部から第2の凹部に向けて拡がるように延在方向に対して45°で延びる一対の第1の仮想直線と、第1の凹部の外周縁と、第2の凹部のうち第1の凹部寄りの外周縁に接し且つ延在方向に直交する第2の仮想直線とで囲まれる領域の面積
A2:上方から見たときの第2の凹部の面積
B2:上面から見て、第2の凹部の応力集中部から基礎部の外周縁側で且つ第1の凹部から離れる側に向けて拡がるように延在方向に対して45°で延びる一対の第3の仮想直線と、第2の凹部の外周縁と、基礎部の外周縁とで囲まれる領域の面積
と定義した場合に、
(B1+B2)/(A1+A2)≧1.0を満たしてもよい。この場合、上記第9項に記載の補強済建物と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本開示に係る補強済建物及びその製造方法によれば、既存建物の補強を簡易且つ低コストに行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、ピロティを有する既存建物に補強構造物が施工された補強済建物の一例を概略的に示す斜視図である。
図2図2は、主としてピロティ及び補強構造物を示す正面図である。
図3図3は、主として柱部の下端部、補強脚部及び基礎部を示す斜視図である。
図4図4は、主として柱部の下端部、補強脚部及び基礎部を示す平面図である。
図5図5は、図4のV-V線断面図である。
図6図6は、他の例に係る補強済建物において、主として柱部の下端部、補強脚部及び基礎部を示す平面図である。
図7図7は、他の例に係る補強済建物において、主として柱部の下端部、補強脚部及び基礎部を示す平面図である。
図8図8は、他の例に係る補強済建物を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に説明される本開示に係る実施形態は本発明を説明するための例示であるので、本発明は以下の内容に限定されるべきではない。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0028】
[補強済建物の構成]
まず、図1図5を参照して、既存建物1に補強構造物2が施工された補強済建物3の構造について説明する。既存建物1は、1階部分(地上部分)に位置するピロティ4と、ピロティ4の上部に位置する上部構造5とを備える。
【0029】
ピロティ4は、基礎4a(基礎部)と、基礎梁4bと、ピロティ柱4c(柱部)と、ピロティ梁4d(梁部)と、直交壁4hとを有する。基礎4a及び基礎梁4bは、地面(地盤)GL(図2参照)内に埋め込まれており、補強済建物3全体の荷重を地盤に伝達する。基礎4a、基礎梁4b、ピロティ柱4c及びピロティ梁4dは、例えば鉄筋コンクリートで構成されている。すなわち、これらは、コンクリート硬化体の内部に鉄筋(図示せず)が配筋されたものである。既存建物1におけるコンクリート硬化体の材齢28日における圧縮強度は、例えば、13.5N/mm以上であってもよい。
【0030】
図1の例において、基礎4aは、補強済建物3の外周に沿って並ぶように配置されている。図2図5に示されるように、基礎4aの上面には、下方に向けて窪む凹部6が設けられている。凹部6は、ピロティ柱4cの前方に位置しており、四角形状を呈している。基礎梁4b及び直交壁4hは、隣り合う基礎4aの間において一方向(本例では既存建物1の奥行き方向)に沿って延在している。
【0031】
ピロティ柱4cは、基礎4a上に立設されており、鉛直方向に沿って延びている。ピロティ柱4cは、基礎4aと上部構造5とを接続しており、上部構造5を支持している。ピロティ柱4cの上端部は、ピロティ梁4dと接続されており、交差部4eとしても機能する。ピロティ梁4dは、隣り合うピロティ柱4cの間において延在している。ピロティ梁4dは、ピロティ柱4cと共に上部構造5を支持している。直交壁4hは、基礎梁4bと、既存建物1の奥行き方向に並ぶピロティ柱4cと、既存建物1の奥行き方向に延びるピロティ梁4dとで囲まれる領域に設けられている。
【0032】
[補強構造物の構成]
次に、図1図4を参照して、補強構造物2について詳細に説明する。補強構造物2は、補強柱部21と、補強脚部22と、補強梁部23と、補強交差部24とを有する。
【0033】
補強柱部21は、ピロティ柱4cの表面側に配置されており、ピロティ柱4cに沿って鉛直方向に延びている。補強柱部21は、コンクリート硬化体21a内に鉄筋21bが配筋されて構成されている。補強柱部21におけるコンクリート硬化体の材齢28日における圧縮強度は、例えば、27N/mm以上であってもよい。
【0034】
鉄筋21bは、ピロティ柱4cの表面から離間して位置している。鉄筋21bは、複数の主筋21cと、複数のせん断補強筋21dとを有する。主筋21cは、鉛直方向に沿って延びるように補強柱部21内を縦断している。主筋21cは、鉛直方向から見て、補強柱部21内において矩形を呈するように互いに離間して並んでいる。
【0035】
せん断補強筋21dは、矩形状を呈しており、主筋21cを取り囲むように主筋21cと接続されている。せん断補強筋21dと主筋21cとの接続は、例えば、溶接や、フック等の係合部材を用いた係合により行われてもよい。
【0036】
補強柱部21の下端部は、補強脚部22としても機能する。補強脚部22は、ピロティ柱4cの表面側に配置されており、ピロティ柱4cの下端部に沿って鉛直方向に延びている。補強脚部22は、凹部6の上方に位置している。補強脚部22は、補強部材22a内に鉄筋21bが配置されて構成されている。補強部材22aの一部は、凹部6内に埋め込まれている。換言すれば、補強脚部22の下端面には、下方に向けて突出する凸部25(図2参照)が設けられている。凸部25は、基礎4aの凹部6と嵌合している。
【0037】
補強部材22aの圧縮強度は、同日の材齢で比較した場合、コンクリート硬化体21a及び後述するコンクリート硬化体23aの圧縮強度以上であってもよい。補強部材22aは、例えば、ポリマーセメントモルタルが硬化した硬化体であってもよいし、超高強度モルタルが硬化した硬化体であってもよし、高強度コンクリートが硬化した硬化体(高強度コンクリート硬化体)であってもよいし、コンクリートが硬化した硬化体(コンクリート硬化体)であってもよい。
【0038】
補強部材22a内には、鉄筋21bの下端部に加えて、複数のアンカー筋30と、少なくとも一つのアンカー筋31とが配置されている。複数のアンカー筋30は、主筋21cと同様に、鉛直方向から見て、補強脚部22内において矩形を呈するように互いに離間して並んでいる。複数のアンカー筋30の上端部はそれぞれ、対応する主筋21cの下端部と接続されている。
【0039】
少なくとも一つのアンカー筋31は、鉛直方向から見て、複数のアンカー筋30の内側に位置している。本実施形態では、一つのアンカー筋31が、凹部6及び凸部25を通るように、鉛直方向から見て補強脚部22の略中央に位置している。アンカー筋31の上端部は、いずれの主筋21cとも接続されていない状態で、補強部材22a内に配置されている。アンカー筋30,31の下端部は、基礎4a内に配置されている。すなわち、アンカー筋30,31は、補強脚部22と基礎4aとを連通している。
【0040】
アンカー筋30,31は、既存建物1から補強構造物2に伝達された振動エネルギー(例えば、地震エネルギー)を基礎4aに伝える役割を果たす。アンカー筋30,31は、例えば、接着系アンカーであってもよい。この場合、鉛直方向に延びるように基礎4aに設けられた孔内にアンカー筋30,31の下端部が挿入された状態で、エポキシ樹脂系又はセメント系の接着剤が当該孔内に充填されることで、アンカー筋30,31が基礎4aに対して定着される。アンカー筋30,31の基礎4aに対する定着長さは、基礎4aに対する十分な定着が図れる長さであれば特に限定はされないが、例えばアンカー筋30,31の直径の12倍(12D)以上であってもよいし、アンカー筋30,31の直径の16倍(16D)以上であってもよい。アンカー筋30,31は、例えば、SD345、SD295、SD420、SD280であってもよい。なお、SD345及びSD295は、JIS G 3112:2010「鉄筋コンクリート用棒鋼」に準拠する。SD420及びSD280は、CNS560「中華民國國家標準 鋼筋混凝土用鋼筋」に準拠する。
【0041】
補強梁部23は、ピロティ梁4dの表面側に配置されており、ピロティ梁4dに沿って水平方向に延びている。補強梁部23は、コンクリート硬化体23a内に鉄筋23bが配筋されて構成されている。補強梁部23におけるコンクリート硬化体の材齢28日における圧縮強度は、例えば、27N/mm以上であってもよい。
【0042】
鉄筋23bは、ピロティ梁4dの表面から離間して位置している。鉄筋23bは、複数の主筋23cと、複数のせん断補強筋23dとを有する。主筋23cは、水平方向に沿って延びるように補強梁部23内を縦断している。主筋23cは、水平方向から見て、補強梁部23内において矩形を呈するように互いに離間して並んでいる。
【0043】
せん断補強筋23dは、矩形状を呈しており、主筋23cを取り囲むように主筋23cと接続されている。せん断補強筋23dと主筋23cとの接続は、例えば、溶接や、フック等の係合部材を用いた係合により行われてもよい。
【0044】
補強交差部24は、交差部4eの表面側に配置されている。補強交差部24は、補強柱部21及び補強梁部23の端部同士を接続している。そのため、補強交差部24は、補強柱部21と補強梁部23との交点に位置している。従って、補強構造物2は、補強柱部21、補強脚部22、補強梁部23及び補強交差部24によって、全体としてU字形状を呈している。
【0045】
補強交差部24は、補強部材24a内に鉄筋21b,23bが配置されて構成されている。補強部材24aの圧縮強度は、同日の材齢で比較した場合、コンクリート硬化体21a,23aの圧縮強度よりも大きくてもよい。補強部材24aは、例えば、ポリマーセメントモルタルが硬化した硬化体であってもよいし、超高強度モルタルが硬化した硬化体であってもよし、高強度コンクリートが硬化した硬化体(高強度コンクリート硬化体)であってもよいし、コンクリートが硬化した硬化体(コンクリート硬化体)であってもよい。
【0046】
[凹部の詳細]
ここで、図4及び図5を参照して、凹部6についてさらに詳細に説明する。
【0047】
地震等の発生によって凸部25から凹部6に対してせん断力が作用する際、基礎4aが破壊されないことが望ましい。ここで、図4に示されるように、仮に、凸部25から凹部6に対して図4の左方向にせん断力が作用し、凹部6と基礎4aとの間の領域Rが水平に破壊される場合を想定する。最大せん断応力の向きは凹部6の応力集中部である角部Pから45°であると考えられるので、基礎梁4b及び補強梁部23の延在方向(水平方向)に対して45°の角度で角部Pから基礎4aの左外周縁4fに向けて互いに拡がるように延びる一対の仮想直線がせん断帯SBである。そのため、領域Rは、凹部6の左外周縁6aと、一対のせん断帯SBと、基礎4aの左外周縁4fとで囲まれて構成される。パラメータA,Bをそれぞれ
l:凹部6の幅[cm]
b:凹部6の奥行[cm]
L:凹部6と左外周縁4fとの離間距離(領域Rの高さ)[cm]
A:上方から見たときの凹部6の面積[cm
B:上方から見たときの領域Rの面積[cm
c-ex:基礎4aを構成するコンクリート硬化体の圧縮強度[kg/cm
:補強脚部22を構成する補強部材22aの圧縮強度[kg/cm
PA:領域Rの終局せん断耐力[kg]
Q:凸部25の終局せん断耐力[kg]
と定義すると、A,B,QPAQはそれぞれ式1~4で表される。
A=b×l ・・・(1)
【数1】

【数2】

【数3】
【0048】
式5が満たされれば、凸部25よりも先に基礎4aの領域Rがせん断破壊されない。
【数4】

そこで、式3~5をA,Bで整理すると式6が得られる。
【数5】

従って、凹部6の面積A及び領域Rの面積Bは、少なくとも式6を満たしていてもよい。
【0049】
以下に、基礎4aを構成するコンクリート硬化体の代表的なFc-exの値と、補強脚部22を構成する補強部材22aの代表的なFの値とを式6に代入したときのB/Aの値を示す。
【表1】

表1より、B/A≧1.0であってもよいし、B/A≧1.2であってもよいし、B/A≧1.4であってもよい。この場合、凹部6と凸部25との間でせん断力が伝達する際に、基礎4aの領域Rが極めて破損し難くなる。
【0050】
地震等の発生によって凸部25から凹部6に対してせん断力が作用する際、凸部25が破壊されないことが望ましい。ここで、パラメータt,Nをそれぞれ
t:凹部6の深さ(図5参照)[cm]
N:メカニズム時の軸力[kg]
とすると、Nは式7で表される。
N=t×b×0.8Fc-ex ・・・(7)
【0051】
式8が満たされれば、凸部25がせん断破壊されない。
【数6】

そこで、式1,4,7,8をl,tで整理すると式9が得られる。
【数7】

従って、凹部6の幅l及び深さtは、少なくとも式9を満たしていてもよい。
【0052】
以下に、基礎4aを構成するコンクリート硬化体の代表的なFc-exの値と、補強脚部22を構成する補強部材22aの代表的なFの値とを式9に代入したときのl/tの値を示す。
【表2】

表2より、l/t≧3.5であってもよいし、l/t≧4.5であってもよいし、l/t≧5.5であってもよい。この場合、凹部6と凸部25との間でせん断力が伝達する際に、凸部25が極めて破損し難くなる。
【0053】
一方、凹部6の深さtは、7cm以下であってもよいし、5cm以下であってもよいし、3cm以下であってもよい。この場合、比較的浅い凹部6が得られる。そのため、基礎4aに凹部6を形成しやすくなると共に、基礎4aに凹部6を形成する際に基礎4a内の鉄筋が露出することを抑制できる。換言すれば、基礎4aに凹部6を形成する際に、基礎4a内の鉄筋が極めて破損し難くなる。
【0054】
図5に示されるように、凹部6の底壁と側壁とがなす角度θは、90°であってもよいし、90°未満であってもよいし、90°を超えていてもよい。角度θは、例えば、70°~110°程度であってもよいし、80°~100°程度であってもよい。角度θがこの範囲内であると、そのような角度θを有する凹部6を比較的容易に形成することができる。
【0055】
[既存建物の補強方法(補強済建物の製造方法)]
続いて、図4を参照して、既存建物1に補強構造物2を施工して既存建物1を補強する方法、すなわち補強構造物2の製造方法について説明する。まず、基礎4aの上面であって補強脚部22が設けられる予定の箇所を斫り、凹部6を形成する(第1の工程)。
【0056】
次に、基礎4aに対してアンカー筋30,31を設ける。次に、ピロティ柱4cの表面側に鉄筋21bを配筋すると共に、ピロティ梁4dの表面側に鉄筋23bを配筋する(第2の工程)。なお、アンカー筋30,31と、鉄筋21b,23bの設置順序はこれに限られず、鉄筋21b,23bの配筋後にアンカー筋30,31が基礎4aに設けられてもよい。次に、アンカー筋30の上端部を主筋21cの下端部と接続する。
【0057】
次に、鉄筋21bの下端部を取り囲むように型枠(第1の型枠)を構成する。次に、型枠内に補強部材22aとなる補強材料(第1の補強材料)を充填する。補強材料は、型枠の上部から流し込まれてもよいし、型枠の下部から圧入されてもよい。補強材料の硬化後に型枠を取り外すことで、補強脚部22が構成される(第3の工程)。
【0058】
次に、鉄筋21bのうち交差部4eよりも下方の部分を取り囲むように型枠(第1の型枠)を構成する。次に、型枠内にコンクリートを打設する。コンクリートの硬化後に型枠を取り外すことで、補強柱部21が構成される(第4の工程)。
【0059】
なお、補強柱部21及び補強脚部22が同じ補強材料で構成される場合、鉄筋21bのうち交差部4eよりも下方の部分を取り囲むように型枠(第1の型枠)を構成し、型枠内にコンクリートを打設してもよい。この場合、コンクリートの硬化後に型枠を取り外すことで、補強柱部21及び補強脚部22が同時に構成される。
【0060】
次に、鉄筋23bのうちピロティ梁4dに対応する部分を取り囲むように型枠(第2の型枠)を構成する。次に、型枠内にコンクリートを打設する。コンクリートの硬化後に型枠を取り外すことで、補強梁部23が構成される(第5の工程)。
【0061】
次に、鉄筋21b,23bのうち交差部4eに対応する部分を取り囲むように型枠(第3の型枠)を構成する。次に、型枠内に補強部材24aとなる補強材料(第2の補強材料)を充填する。補強材料は、型枠の上部から流し込まれてもよいし、型枠の下部から圧入されてもよい。補強材料の硬化後に型枠を取り外すことで、補強交差部24が構成される(第6の工程)。
【0062】
こうして、補強柱部21、補強脚部22、補強梁部23及び補強交差部24で構成される補強構造物2が得られる。以上により、既存建物1に補強構造物2が設けられ、補強済建物3が完成する。
【0063】
[ポリマーセメントモルタルの詳細]
(1)ポリマーセメント組成物
続いて、ポリマーセメントモルタルの詳細について説明する。当該ポリマーセメントモルタルとなるポリマーセメント組成物は、補強工法用のポリマーセメント組成物であって、セメント、細骨材、流動化剤、再乳化形粉末樹脂、無機系膨張材、及び、合成樹脂繊維を含有する。
【0064】
セメントは、水硬性材料として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。それらの中でも、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されるポルトランドセメントを含むことが好ましい。流動性と速硬性の観点から、早強ポルトランドセメントを含むことがより好ましい。
【0065】
強度発現性の観点からセメントのブレーン比表面積は、
好ましくは3000cm/g~6000cm/gであり、
より好ましくは3300cm/g~5000cm/gであり、
さらに好ましくは3500cm/g~4500cm/gである。
【0066】
細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂及び砕砂等の砂類を例示することができる。細骨材は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、ポリマーセメントモルタルの型枠への充填性を一層円滑にする観点から、珪砂を含むことが好ましい。
【0067】
細骨材をJIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」に規定される方法でふるい分けた場合、連続する各ふるいの間にとどまる質量分率(%)が、ふるい目開き2000μmにおいて、0質量%であることが好ましい。ふるい目開き2000μmのふるいを細骨材がすべて通過する場合、上記質量分率は0質量%である。
【0068】
連続する各ふるいの間にとどまる質量分率(%)が、
ふるい目開き1180μmにおいて、5.0~25.0であり、
ふるい目開き600μmにおいて、20.0~50.0であり、
ふるい目開き300μmにおいて、20.0~50.0であり、
ふるい目開き150μmにおいて、5.0~25.0であり、
ふるい目開き75μmにおいて、0~10.0であることが好ましく、
連続する各ふるいの間にとどまる質量分率(%)が、
ふるい目開き1180μmにおいて、10.0~20.0であり、
ふるい目開き600μmにおいて、25.0~45.0であり、
ふるい目開き300μmにおいて、25.0~45.0であり、
ふるい目開き150μmにおいて、10.0~20.0であり、
ふるい目開き75μmにおいて、0~5.0であることがより好ましい。
【0069】
細骨材を上記規定でふるい分けた場合、連続する各ふるいの間にとどまる質量分率(%)が上述の範囲内であることにより、より良好な材料分離抵抗性及び流動性を有するモルタルや、より高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0070】
細骨材をJIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」に規定される方法でふるい分けた場合、細骨材の粗粒率が
好ましくは、2.00~3.00であり、
より好ましくは、2.20~2.80であり、
さらに好ましくは、2.30~2.70である。
【0071】
細骨材の粗粒率が上述の範囲であることにより、より良好な材料分離抵抗性や流動性を有するポリマーセメントモルタルや、より良好な強度特性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0072】
上記ふるい分けは、JIS Z 8801-1:2006「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に規定される目開きの異なる数個のふるいを用いて行うことができる。
【0073】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは80質量部~170質量部であり、
より好ましくは90質量部~160質量部であり、
さらに好ましくは100質量部~150質量部である。
【0074】
細骨材の含有量を上述の範囲とすることにより、より高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0075】
流動化剤は、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、及びポリカルボン酸系のもの等を例示することができる。流動化剤は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、高い減水効果を得る観点から、ポリカルボン酸系の流動化剤を含むことが好ましい。ポリカルボン酸系の流動化剤を用いることによって、水粉体比を低減して、モルタル硬化体の強度発現性を一層良好にすることができる。
【0076】
流動化剤の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは0.02質量部~0.70質量部であり、
より好ましくは0.05質量部~0.65質量部であり、
さらに好ましくは0.10質量部~0.60質量部である。
【0077】
流動化剤の含有量を上述の範囲とすることにより、より良好な流動性を有するポリマーセメントモルタルを得ることができる。また、一層高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0078】
再乳化形粉末樹脂は、特にその種類及び製造方法は限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができる。再乳化形粉末樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、及び酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のものが挙げられる。再乳化形粉末樹脂は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、再乳化形粉末樹脂は、表面にブロッキング防止剤を有していてもよい。モルタル硬化体の耐久性の観点から、再乳化形粉末樹脂は、アクリルを含有することが好ましい。さらに、接着性及び圧縮強度の観点から、再乳化形粉末樹脂のガラス転移温度(Tg)は、5~20℃の範囲であることが好ましい。
【0079】
再乳化形粉末樹脂の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは0.5質量部~5.0質量部であり、
より好ましくは0.7質量部~4.0質量部であり、
さらに好ましくは1.0質量部~3.0質量部である。
【0080】
再乳化形粉末樹脂の含有量を上述の範囲とすることにより、ポリマーセメントモルタルの接着性と、モルタル硬化体の圧縮強度を一層高水準で両立することができる。
【0081】
無機系膨張材としては、生石灰-石膏系膨張材、石膏系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材、及び生石灰-石膏-カルシウムサルフォアルミネート系膨張材等を例示することができる。無機系膨張材は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、モルタル硬化体の圧縮強度をより向上する観点から、生石灰-石膏-カルシウムサルフォアルミネート系膨張材を含むことが好ましい。
【0082】
無機系膨張材の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは0.1質量部~7.0質量部であり、
より好ましくは0.3質量部~5.0質量部であり、
さらに好ましくは0.5質量部~3.0質量部である。
【0083】
無機系膨張材の含有量を上述の範囲とすることにより、一層適正な膨張性が発現され、モルタル硬化体の収縮を抑制することができると共に、モルタル硬化体の圧縮強度を一層高くすることができる。
【0084】
合成樹脂繊維としては、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ビニロン及びポリ塩化ビニル等を例示することができる。合成樹脂繊維は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
合成樹脂繊維の繊維長は、モルタル中での分散性、及びモルタル硬化体の耐クラック性向上の点から、
好ましくは6mm~18mmであり、
より好ましくは8mm~16mmであり、
さらに好ましくは10mm~14mmである。
【0086】
合成樹脂繊維の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは0.10質量部~0.70質量部であり、
より好ましくは0.20質量部~0.60質量部であり、
さらに好ましくは0.25質量部~0.55質量部である。
【0087】
合成樹脂繊維の繊維長及び含有量を上述の範囲にすることにより、モルタル中での分散性やモルタル硬化体の耐クラック性をより向上することができる。すなわち、合成樹脂繊維の存在により、モルタル硬化体のひび割れを抑制することができると共に、モルタル硬化体の曲げ耐力を向上することができる。また、硬化時の乾燥収縮が小さくなって、モルタル硬化体の強度が発現するまでの期間を短縮することができる。このため、工期の短期化を図ることができる。
【0088】
本実施形態のポリマーセメント組成物は、用途に応じて、凝結調整剤、増粘剤、金属系膨張材、及び消泡剤等を含有してもよい。
【0089】
(2)ポリマーセメントモルタル
ポリマーセメントモルタルは、上述のポリマーセメント組成物と水とを含む。ポリマーセメントモルタルは、上述のポリマーセメント組成物と水とを配合し混練することによって調製することができる。このようにして調製されるポリマーセメントモルタルは、優れた流動性(フロー値)を有する。このため、補強構造物2を形成するための型枠内への充填(流し込み)を円滑に行うことができる。したがって、補強構造物2の製造用のポリマーセメントモルタルとして好適に用いることができる。ポリマーセメントモルタルを調製する際に、水粉体比(水量/ポリマーセメント組成物量)を適宜変更することによって、ポリマーセメントモルタルのフロー値を調整することができる。
【0090】
水粉体比は、
好ましくは、0.08~0.16であり、
より好ましくは、0.09~0.15であり、
さらに好ましくは、0.10~0.14である。
【0091】
水粉体比を上述の範囲とすることにより、硬化前のポリマーセメントモルタルが良好な流動性を発現すると共に、ポリマーセメントモルタルが硬化したモルタル硬化体が十分な強度を発現する。従って、硬化したモルタル硬化体によって既存建物1を十分に補強することができる。
【0092】
本明細書におけるフロー値は、以下の手順で測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ100mmの円筒形状の塩化ビニル製パイプを配置する。このとき、塩化ビニル製パイプの一端がみがき板ガラスと接触し、他端が上向きとなるように配置する。他端側の開口からポリマーセメントモルタルを注入して、塩化ビニル製パイプ内にポリマーセメントモルタルを充填した後、塩化ビニル製パイプを垂直に引き上げる。モルタルの広がりが静止した後、互いに直交する2つの方向における直径(mm)を測定する。測定値の平均値をフロー値(mm)とする。
【0093】
ポリマーセメントモルタルのフロー値は、
好ましくは、170mm~250mmであり、
より好ましくは、190mm~240mmであり、
さらに好ましくは、200mm~230mmである。
【0094】
フロー値が上述の範囲であることにより、材料分離抵抗性及び充填性に優れたポリマーセメントモルタルを得ることができる。また、硬化前のポリマーセメントモルタルの流動性を確保することができる。
【0095】
(3)モルタル硬化体
モルタル硬化体は、上記のポリマーセメントモルタルを硬化して形成することができる。このようにして形成されるモルタル硬化体は、ピロティ柱4cの下端部又は交差部4eをなすコンクリートと一体化するに際し、強度発現性に優れる。このため、補強工法の工期を短縮することができる。また、優れた強度特性及び優れた耐久性を有することから、既存建物1の耐震性を向上することができる。
【0096】
本明細書における圧縮強度は、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」の「7.硬化したポリマーセメントモルタルの試験」に準拠して得られる値(N/mm)である。本明細書における曲げ強度は、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」の「7.硬化したポリマーセメントモルタルの試験」に準拠して得られる値(N/mm)である。
【0097】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢28日における圧縮強度は、
好ましくは、60N/mm以上であり、
より好ましくは、70N/mm以上である。
モルタル硬化体の材齢28日以降における圧縮強度も、上述の範囲であることが好ましい。
【0098】
圧縮強度が上述の範囲であることにより、ピロティ柱4cの下端部又は交差部4eをなすコンクリートと一体化した際に、一層優れた耐震性能を発揮することができる。
【0099】
[超高強度モルタルの詳細]
続いて、超高強度モルタルについて説明する。超高強度モルタルの一例として、セメント、シリカフューム、細骨材、無機質微粉末、減水剤及び消泡剤を含む水硬性組成物に繊維及び水を添加して製造されるモルタル組成物が挙げられる。
【0100】
上記セメントの鉱物組成に関して、CS量は、
好ましくは40.0質量%~75.0質量%であり、
より好ましくは45.0質量%~73.0質量%であり、
さらに好ましくは48.0質量%~70.0質量%であり、
特に好ましくは50.0質量%~68.0質量%である。
【0101】
S量が40.0質量%未満では圧縮強度が低くなる傾向があり、75.0質量%を超えるとセメントの焼成自体が困難となる傾向がある。
【0102】
上記セメントの鉱物組成に関して、CA量は、
好ましくは2.7質量%未満であり、
より好ましくは2.3質量%未満であり、
さらに好ましくは2.1質量%未満であり、
特に好ましくは1.9質量%未満である。
【0103】
A量が2.7質量%以上では流動性が不十分となりやすい。なお、CA量の下限値は特に限定されないが、0.1質量%程度である。
【0104】
上記セメントの鉱物組成に関して、CS量は、
好ましくは9.5質量%~40.0質量%であり、
より好ましくは10.0質量%~35.0質量%であり、
さらに好ましくは12.0質量%~30.0質量%である。
【0105】
上記セメントの鉱物組成に関して、CAF量は、
好ましくは9.0質量%~18.0質量%であり、
より好ましくは10.0質量%~15.0質量%であり、
さらに好ましくは11.0質量%~15.0質量%である。
【0106】
このようなセメントの鉱物組成の範囲であれば、モルタル組成物の高い流動性及びその硬化体の高い圧縮強度を確保しやすくなる。
【0107】
セメントの粒度に関して、45μmふるい残分の上限は、
好ましくは25.0質量%であり、
より好ましくは20.0質量%であり、
さらに好ましくは18.0質量%であり、
特に好ましくは15.0質量%である。
【0108】
セメントの粒度に関して、45μmふるい残分の下限は、
好ましくは0.0質量%であり、
より好ましくは1.0質量%であり、
さらに好ましくは2.0質量%であり、
特に好ましくは3.0質量%である。
【0109】
セメントの粒度がこの範囲であれば、高い圧縮強度を確保できる。また、このセメントを使用して調製したスラリーは適度な粘性があるため、後述の繊維を添加した場合であっても十分な分散性が確保できる。
【0110】
セメントのブレーン比表面積は、
好ましくは2500cm/g~4800cm/gであり、
より好ましくは2800cm/g~4000cm/gであり、
さらに好ましくは3000cm/g~3600cm/gであり、
特に好ましくは3200cm/g~3500cm/gである。
【0111】
セメントのブレーン比表面積が2500cm/g未満ではモルタル組成物の強度が低くなる傾向があり、4800cm/gを超えると低水セメント比での流動性が低下する傾向にある。
【0112】
上記セメントの製造にあたっては、通常のセメントと特に異なる操作を行う必要はない。上記セメントは、石灰石、珪石、スラグ、石炭灰、建設発生土、高炉ダスト等の原料の調合を目標とする鉱物組成に応じて変え、実機キルンで焼成した後、得られたクリンカーに石膏を加えて所定の粒度に粉砕することによって製造することができる。焼成するキルンには、一般的なNSPキルンやSPキルン等を使用することができ、粉砕には一般的なボールミル等の粉砕機が使用可能である。また、必要に応じて、2種以上のセメントを混合することもできる。
【0113】
上記シリカフュームは、金属シリコン、フェロシリコン、電融ジルコニア等を製造する際に発生する排ガス中のダストを集塵して得られる副産物であり、主成分は、アルカリ溶液中で溶解する非晶質のSiOである。
【0114】
シリカフュームの平均粒子径は、
好ましくは0.05μm~2.0μmであり、
より好ましくは0.10μm~1.5μmであり、
さらに好ましくは0.18μm~0.28μmであり、
特に好ましくは0.20μm~0.28μmである。
【0115】
このようなシリカフュームを用いることで、モルタル組成物の高い流動性及びその硬化体の高い圧縮強度を確保しやすくなる。
【0116】
上記モルタル組成物は、セメント及びシリカフュームの合計量を基準として、シリカフュームを、
好ましくは3質量%~30質量%含み、
より好ましくは5質量%~20質量%含み、
さらに好ましくは10質量%~18質量%含み、
特に好ましくは10質量%~15質量%含む。
【0117】
上記細骨材としては、特に制限されないが、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、石灰石細骨材、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材等を使用してもよい。細骨材の吸水率は、好ましくは5.00%以下であり、より好ましくは4.00%以下であり、さらに好ましくは3.00%以下であり、特に好ましくは2.80%以下である。これにより、より安定した流動性を得ることができる。また、「吸水率」とは、JIS A 1109:2006に規定されている骨材の吸水率(単位:%)の測定方法に準じて測定した値をいう。また、細骨材の粒度は、10mmふるいを全部通り、5mmふるいを85質量%以上通過することが好ましい。
【0118】
また、繊維を含まないモルタル組成物中の細骨材量は、
100kg/m~800kg/mが好ましく、
200kg/m~600kg/mがより好ましく、
250kg/m~500kg/mがさらに好ましい。
【0119】
無機質微粉末としては、石灰石粉、珪石粉、砕石粉、スラグ粉等の微粉末を使用してもよい。無機質微粉末は、石灰石粉、珪石粉、砕石粉、スラグ粉等をブレーン比表面積が2500cm/g以上となるまで粉砕又は分級した微粉末であり、モルタル組成物の流動性を改善することが期待される。
【0120】
無機質微粉末のブレーン比表面積は、
好ましくは3000cm/g~5000cm/gであり、
より好ましくは3200cm/g~4500cm/gであり、
さらに好ましくは3400cm/g~4300cm/gであり、
特に好ましくは3600cm/g~4300cm/gである。
【0121】
細骨材と無機質微粉末の混合物は、粒径0.15mm以下の粒群を、
好ましくは40質量%~80質量%含み、
より好ましくは45質量%~80質量%含み、
さらに好ましくは50質量%~75質量%含む。
【0122】
上記混合物は、粒径0.075mm以下の粒群を、
好ましくは30質量%~80質量%含み、
より好ましくは35質量%~70質量%含み、
さらに好ましくは40質量%~65質量%含む。
【0123】
細骨材と無機質微粉末との混合物に含まれる粒径0.075mm以下の粒群が30質量%未満であるとモルタル組成物の粘性が不十分で材料分離となる虞がある。
【0124】
細骨材と無機質微粉末の混合物は、セメント及びシリカフュームの合計量100質量部に対して、
好ましくは細骨材を10質量部~60質量部、無機質微粉末を5質量部~55質量部
含み、
より好ましくは細骨材を15質量部~45質量部、無機質微粉末を10質量部~40質量部含み、
さらに好ましくは細骨材を20質量部~35質量部、無機質微粉末を15質量部~30質量部含む。
【0125】
また、繊維を含まないモルタル組成物1m当たりの細骨材及び無機質微粉末の混合物の単位量は、
好ましくは200kg/m~1000kg/mであり、
より好ましくは400kg/m~900kg/mであり、
さらに好ましくは500kg/m~800kg/mである。
【0126】
減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、アミノスルホン酸系、ポリカルボン酸系の減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等を使用してもよい。低水セメント比での流動性確保の観点から、減水剤として、ポリカルボン酸系の減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を用いてもよいし、ポリカルボン酸系の高性能減水剤を用いてもよい。また、減水剤が予め混和されたプレミックスタイプのモルタル組成物とするためには、減水剤の性状は粉体であることが好ましい。
【0127】
上記モルタル組成物は、セメントとシリカフュームの合量100質量部に対して、減水剤を
好ましくは0.01質量部~6.0質量部含み、
より好ましくは0.05質量部~4.0質量部含み、
さらに好ましくは0.07質量部~3.0質量部含み、
特に好ましくは0.10質量部~2.0質量部含む。
【0128】
上記消泡剤としては、特殊非イオン配合型界面活性剤、ポリアルキレン誘導体、疎水性シリカ、ポリエーテル系等が挙げられる。この場合、上記モルタル組成物は、セメントとシリカフュームの合量100質量部に対して、消泡剤を、
好ましくは0.01質量部~2.0質量部含み、
より好ましくは0.02質量部~1.5質量部含み、
さらに好ましくは0.03質量部~1.0質量部含む。
【0129】
モルタル組成物は、必要に応じて、膨張材、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、増粘剤、再乳化形樹脂粉末、ポリマーエマルジョン等を1種以上含有してもよい。
【0130】
上記モルタル組成物において、水の添加量は、セメントとシリカフュームの合量100質量部に対し、
好ましくは10質量部~25質量部であり、
より好ましくは12質量部~20質量部であり、
さらに好ましくは13質量部~18質量部である。
【0131】
繊維を含まないモルタル組成物の単位水量は、
好ましくは180kg/m~280kg/mであり、
より好ましくは200kg/m~270kg/mであり、
さらに好ましくは210kg/m~260kg/mである。
【0132】
モルタル組成物(超高強度モルタル)は、上述のとおり、繊維を含む。繊維としては、有機繊維及び無機繊維が挙げられる。有機繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維等が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0133】
繊維の標準繊維長は、
好ましくは2mm~50mmであり、
より好ましくは3mm~40mmであり、
さらに好ましくは4mm~30mmであり、
特に好ましくは5mm~20mmである。
【0134】
繊維の切断伸度の上限値は、
好ましくは200%以下であり、
より好ましくは100%以下であり、
さらに好ましくは50%以下であり、
特に好ましくは30%以下である。
【0135】
繊維の切断伸度の下限値は、好ましくは1%以上である。
【0136】
繊維の比重は、
好ましくは0.90~3.00であり、
より好ましくは1.00~2.00であり、
さらに好ましくは1.10~1.50である。
【0137】
繊維のアスペクト比(標準繊維長/繊維径)は、
好ましくは5~1200であり、
より好ましくは10~600であり、
さらに好ましくは20~300であり、
特に好ましくは30~200である。
【0138】
これらの条件を満たす繊維を使用することで、モルタル組成物の高い流動性を確保することができ、耐火性能を向上することも可能となる。また、角欠け等、衝撃に対する欠損を抑制することも可能となる。
【0139】
繊維の添加量は、繊維を含まないモルタル組成物に対し外割りで、
好ましくは0.05体積%~4体積%であり、
より好ましくは0.1体積%~3体積%であり、
さらに好ましくは0.3体積%~2体積%である。
【0140】
繊維の添加量が0.05体積%以上であると、十分な耐火爆裂性、耐衝撃性が得られやすい傾向にある。有機繊維の添加量が4体積%以下であると、モルタル組成物中に有機繊維を練混ぜしやすい傾向にある。
【0141】
上記モルタル組成物の製造方法は、特に限定されないが、水及び有機繊維以外の材料の一部又は全部を予め混合しておき、次に、水を添加してミキサに入れて練り混ぜることによって製造してもよい。モルタル組成物の練混ぜに使用するミキサは特に限定されず、モルタル用ミキサ、二軸強制練りミキサ、パン型ミキサ、グラウトミキサ等を使用してもよい。モルタル組成物は、現場で標準熱処理をしなくて済むように、常温硬化型を採用してもよい。
【0142】
超高強度モルタルによるモルタル硬化体の材齢28日における圧縮強度は、耐震性、コスト及び耐久性の観点から、
80N/mm~200N/mmが好ましく、
100N/mm~200N/mmがより好ましく、
150N/mm~200N/mmがさらに好ましい。
【0143】
[高強度コンクリートの詳細]
続いて、高強度コンクリートの詳細について説明する。高強度コンクリートは、JIS A 5308:2014「レディーミクストコンクリート」に記載の高強度コンクリートに準拠し、セメント、骨材、混和材料及び、水を含有する。
【0144】
セメントは、水硬性材料として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。それらの中でも、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」、JIS R 5211:2009「高炉セメント」、JIS R 5212:2009「シリカセメント」、JIS R 5213:2009「フライアッシュセメント」に規定されるセメントを含むことが好ましい。
【0145】
骨材は、JIS A 5308:2014「レディーミクストコンクリート」付属書A「レディーミクストコンクリート用骨材」に記載の砕石及び砕砂あるいは砂利及び砂を用いることが好ましい。
【0146】
砕石及び砂利の最大寸法は、25mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。
【0147】
混和材料は、JIS A 6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」、JIS A 6202:2017「コンクリート用膨張材」、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」、JIS A 6205:2013「コンクリート用防せい剤」、JIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」及びJIS A 6207:2016「コンクリート用シリカフューム」に規定されるフライアッシュ、膨張材、化学混和剤、防せい剤、高炉スラグ微粉末及びシリカフュームから選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0148】
高強度コンクリートのスランプは6cm~20cmが好ましい。また、スランプフローは42.5cm~70cmが好ましい。
【0149】
高強度コンクリートの空気量は3.0%~6.0%が好ましい。
【0150】
高強度コンクリートによるコンクリート硬化体の材齢28日における圧縮強度は、50N/mm以上が好ましく、55N/mm以上がより好ましく、60N/mm以上がさらに好ましい。
【0151】
[作用]
以上のような本実施形態では、アンカー筋30,31が補強脚部22と基礎4aとを連通していると共に、補強脚部22の下端面に設けられている凸部25が基礎4aの上面の凹部6と嵌合している。そのため、地震等の発生によって補強済建物3に対し水平方向の外力が作用した場合であっても、補強柱部21に作用するせん断力が、アンカー筋30,31と互いに嵌合された凸部25及び凹部6とを介して基礎4aに伝達される。従って、水平方向において隣り合う補強脚部22同士が補強梁部で接続されていなくても、既存建物1のピロティ柱4cの十分な補強が図られる。従って、既存建物1の補強を簡易且つ低コストに行うことが可能となる。
【0152】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0153】
(1)例えば、ピロティ4を備えない既存建物1に対して補強構造物2を設けることで、補強済建物3を構成してもよい。
(2)補強脚部22内を延びるアンカー筋30,31の長さは、補強部材22aの圧縮強度が大きいほど小さくすることができる。例えば、ポリマーセメントモルタル硬化体(圧縮強度が60N/mm)で補強部材22aが構成されていると、コンクリート硬化体(圧縮強度が35N/mm)で補強部材22aが構成されている場合に対して、補強脚部22内を延びるアンカー筋30,31の長さを約0.76倍とすることができる。
【0154】
(3)上記の実施形態では凹部6が上方から見て四角形状を呈していたが、凹部6の形状はこれに限られず種々の形状を有していてもよい。例えば、凹部6は上方から見て円形状であってもよい。
【0155】
(4)アンカー筋30,31は、凹部6及び凸部25を通るように補強脚部22及び基礎4a内に配置されていてもよいし、凹部6及び凸部25を通らないように補強脚部22及び基礎4a内に配置されていてもよい。
【0156】
(5)凹部6は、上方から見て補強脚部22の中央部に位置していてもよいし、上方から見て補強脚部22の周縁寄りに位置していてもよい。
【0157】
(6)上記実施形態では、上方から見たときの凹部6の大きさは、補強脚部22の大きさよりも小さかったが、補強脚部22の大きさと同程度であってもよいし、補強脚部22の大きさよりも大きくてもよい。
【0158】
(7)上記実施形態では、基礎4aの上面に一つの凹部6が設けられていたが、基礎4aの上面に複数の凹部6が設けられていてもよい。この場合、補強脚部22の下端面には、各凹部6とそれぞれ嵌合する複数の凸部25が設けられていてもよい。複数の凹部6及び複数の凸部25の嵌合により補強脚部22と基礎4aとが接続されるので、補強柱部21に作用するせん断力が基礎4aにいっそう伝達されやすくなる。そのため、既存建物1のピロティ柱4cのさらなる補強が図られる。
【0159】
例えば、図6に示されるように、ピロティ柱4c及び補強脚部22が並ぶ方向に沿って並ぶように2つの凹部6が基礎4aの上面に設けられていてもよい。ここで、仮に、補強脚部22寄りに位置する凹部61(第1の凹部)と、凹部61よりも補強脚部22から離れた側に位置する凹部62(第2の凹部)とに対して、凹部61,62内にそれぞれ嵌合された凸部25(第1の凸部及び第2の凸部)から図6の左方向にせん断力が作用し、凹部61,62と基礎4aとの間の領域R1,R2が水平に破壊される場合を想定する。領域R1は、凹部61の応力集中部である角部Pから45°の方向に拡がりつつ延びる一対のせん断帯SB1(第1の仮想直線)と、凹部61の左外周縁6aと、基礎4aの左外周縁4fとで囲まれて構成される。領域R2は、凹部62の応力集中部である角部Pから45°の方向に拡がりつつ延びる一対のせん断帯SB2(第2の仮想直線)と、凹部62の左外周縁6aと、基礎4aの左外周縁4fとで囲まれて構成される。パラメータA1,A2,B1,B2,Cをそれぞれ
A1:上方から見たときの凹部61の面積
A2:上方から見たときの凹部62の面積
B1:上方から見たときの領域R1の面積
B2:上方から見たときの領域R2の面積
C:領域R1と領域R2とが重なり合う部分の面積
と定義した場合、(B1+B2-C)/(A1+A2)が1.0以上であってもよいし、1.2以上であってもよいし、1.4以上であってもよい。この場合も、凹部61,62と凸部25との間でせん断力が伝達する際に、各凹部61,62の近傍において基礎4aが極めて破損し難くなる。3つ以上の凹部6がピロティ柱4c及び補強脚部22が並ぶ方向に沿って並んでいる場合も同様である。
【0160】
あるいは、例えば、図7に示されるように、基礎梁4b及び補強梁部23の延在方向(水平方向)に沿って並ぶように2つの凹部6が基礎4aの上面に設けられていてもよい。ここで、仮に、図7の左側に位置する凹部63(第2の凹部)と右側に位置する凹部64(第1の凹部)とに対して、凹部63,64内にそれぞれ嵌合された凸部25(第1の凸部及び第2の凸部)から図7の左方向にせん断力が作用し、凹部63,64と基礎4aとの間の領域R3,R4が水平に破壊される場合を想定する。領域R3は、凹部63の応力集中部である角部Pから45°の方向に拡がりつつ延びる一対のせん断帯SB3(第3の仮想直線)と、凹部63の左外周縁6aと、基礎4aの左外周縁4fとで囲まれて構成される。領域R4は、凹部64の応力集中部である角部Pから45°の方向に拡がりつつ延びる一対のせん断帯SB4(第1の仮想直線)と、凹部64の左外周縁6aと、凹部63のうち凹部64側に位置する右外周縁6bに接し且つ基礎梁4b及び補強梁部23の延在方向に直交する方向(ピロティ柱4c及び補強脚部22が並ぶ方向)に延びる仮想直線SB5(第2の仮想直線)とで囲まれて構成される。パラメータA3,A4,B3,B4をそれぞれ
A3:上方から見たときの凹部63の面積
A4:上方から見たときの凹部64の面積
B3:上方から見たときの領域R3の面積
B4:上方から見たときの領域R4の面積
と定義した場合、(B3+B4)/(A3+A4)が1.0以上であってもよいし、1.2以上であってもよいし、1.4以上であってもよい。この場合も、凹部63,64と凸部25との間でせん断力が伝達する際に、各凹部63,64の近傍において基礎4aが極めて破損し難くなる。3つ以上の凹部6が基礎梁4b及び補強梁部23の延在方向(水平方向)に沿って並んでいる場合も同様である。
【0161】
(8)図8に示されるように、ピロティ4は、隣り合う基礎4aの間において一方向(図8では既存建物1の幅方向)に沿って延在する基礎梁4gをさらに備えていてもよい。この場合、補強柱部21及び補強脚部22の存在によりピロティ柱4cが補強されているので、地震等の発生によって補強済建物に対し水平方向の外力が作用した場合、ピロティ柱4cよりも基礎梁4gが先に破壊に至る。そのため、一般に、強度に余裕がある基礎梁4gの性能を、基礎梁4gが破壊に至るまで発揮させることが可能となる。
【0162】
(9)上記の実施形態及び変形例(8)のいずれにおいても、既存建物1に直交壁4hが設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0163】
1…既存建物、2…補強構造物、3…補強済建物、4…ピロティ、4a…基礎(基礎部)、4b…基礎梁、4c…ピロティ柱(柱部)、4d…ピロティ梁(梁部)、4e…交差部、6…凹部、21…補強柱部、21b…鉄筋、22…補強脚部、23…補強梁部、23b…鉄筋、24…補強交差部、25…凸部、30,31…アンカー筋。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8