(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】常温成形性に優れたマグネシウム合金板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 23/04 20060101AFI20220203BHJP
C22C 23/02 20060101ALI20220203BHJP
C22F 1/06 20060101ALI20220203BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C22C23/04
C22C23/02
C22F1/06
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 685A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2017212945
(22)【出願日】2017-11-02
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000230869
【氏名又は名称】日本金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508080609
【氏名又は名称】不二ライトメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 一正
(72)【発明者】
【氏名】赤石 拓治
(72)【発明者】
【氏名】島崎 英樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 正士
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐規
(72)【発明者】
【氏名】枳原 健吾
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美波
(72)【発明者】
【氏名】小村 章吾
(72)【発明者】
【氏名】後澤 洋平
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/161566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00-23/06
C22F 1/00、1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Znを1.6~2.3%含有し、Caを0.65%以下で、かつZn/Caの比が2.5~10の範囲で含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム合金の板材であって、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、圧延方向及び圧延方向と直角方向にそれぞれ2以上の極を持ち、前記極のうちの最大値がバックグラウンド値の3倍以下であり、かつ圧延方向及び圧延方向と直角方向に曲げたときの最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下であることを特徴とする常温成形性に優れたマグネシウム合金板。
【請求項2】
質量%で、Znを1.6~2.3%含有し、Caを0.65%以下で、かつZn/Caの比が2.5~10の範囲で含有し、さらにAlを2.5%以下及び/又はMnを0.6%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム合金の板材であって、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、圧延方向及び圧延方向と直角方向にそれぞれ2以上の極を持ち、前記極のうちの最大値がバックグラウンド値の3倍以下であり、かつ圧延方向及び圧延方向と直角方向に曲げたときの最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下であることを特徴とする常温成形性に優れたマグネシウム合金板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の化学成分を含有するマグネシウム合金を板状とし、その後室温で
ローラレベラによる曲げ変形を与える工程と再結晶熱処理とをそれぞれ1回以上行うことを特徴とする、
請求項1又は請求項2記載の常温成形性に優れたマグネシウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温成形性に優れたマグネシウム合金板並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、実用金属の中で最も比重が小さいため、航空機、自動車、電子機器の分野において軽量化材料としてその適用が期待されているものの、結晶構造は稠密六方構造を有し、常温付近でのすべり系の数が少なく、常温での加工性が低いという課題を有している。これは、マグネシウム合金板は、結晶集合組織において、稠密六方構造の(0001)面が板面に平行に配位していることによる。この(0001)面の配向を極力ランダムにすれば加工性が向上することが知られている。
【0003】
この課題を解消するために、ローラレベラにより常温でせん断変形を加え、その後、再結晶熱処理を複数回行う方法が特許文献1に開示されている。しかしながらこの方法では、同文献実施例1、
図9の(0002)面の極点図に示されるように、同文献の構成要件である「複数回の<せん断変形(曲げ変形)+再結晶熱処理>」を施す際の曲げを加えた方向においてのみ、極大値の分離が起き、曲げ性の向上が図れる。同実施例2にはさらに圧延方向と直角方向に「せん断変形(曲げ変形)+再結晶熱処理」を加えて、
図10に示されるように(0002)面の正極点図に極大値が4つに分離した例が見られ、圧延方向とその直角方向の成形性の差、すなわち、最小曲げ半径の差が小さくなり、圧延方向と直角な方向の成形性が向上している例が見られる。しかし、この方法は通常の帯状のマグネシウム合金板を製造するには生産性が悪く、また、広幅のマグネシウム合金板を連続的に生産することは困難であるという欠点を有している。また、同文献では、常温成形性を向上させるためには「せん断変形(曲げ変形)+再結晶熱処理」を複数回実施する必要があり、生産コストが上昇するという課題も有している。
【0004】
また、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4には、マグネシウム合金の化学成分と圧延条件を適切に選び常温成形性を向上させるという方法が提案されている。特許文献2には、Mg-Zn系合金に軽希土類元素を適量添加して常温成形性を高める方法が開示されている。特許文献3には、Mg-Zn系合金に適量のCa、Sr、Zrを添加し、やや高めの温度で温間圧延を施すことによって常温成形性を高める方法が開示されている。特許文献4にはMg-Al-Zn系合金に微量のCaを添加し、やや高温の温間圧延を施すことによって、常温成形性を高める方法が開示されている。しかしながら、これらの文献の実施例である特許文献2の
図1から
図3、及び特許文献3の
図1、特許文献4の
図1に示されている極点図を見ると、極大値を取る極は圧延方向あるいは圧延方向と直角方向に分離しているものの、その個数はいずれも2つであり、極が現れる方向と直角方向の成形性が劣ることを示している。したがって、これらの方法においても、圧延方向と圧延方向に直角な方向の双方向の成形性を同時に高めための手段としては不十分であったといえる。
【0005】
同様な例は非特許文献1及び非特許文献2にも見られ、いずれも極の分離は2つであり、その直角方向の成形性は劣るということが予想される。
【0006】
以上述べたように、マグネシウム合金板の常温成形性を高める方法は多数提案されているものの、現状では常温成形性における板面内の異方性を無くすことが依然として課題であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-298885
【文献】特開2010-013725
【文献】特開2012-122102
【文献】特開2011-179075
【非特許文献】
【0008】
【文献】千野靖正ら:日本金属学会誌、第75巻、第1号(2011)35-41
【文献】Q.Li、G.J.Huang、X.D.Huang、S.W.Pan、C.L.Tan、Q.Liu:Journal of Magnesium and Alloys 5(2017)166-172
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上述べたマグネシウム合金の常温成形性における異方性が大きいという課題を改善するためになされたものである。
本発明はまた、従来のマグネシウム合金板の製造方法では、圧延方向と、圧延方向に直角な方向の双方向の成形性を同時に高めたマグネシウム合金板を得ることが困難であり、生産性が悪いという課題を改善するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、マグネシウム合金の常温成形における面内異方性を改善する手段を鋭意検討した結果、Mg-Zn系合金、及びMg-Al-Zn系合金に少量のCaを添加し、さらにZnとCaの比を2.5~10の範囲とすることにより、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、圧延方向(以下RD方向と称す)及び圧延方向と直角方向(以下TD方向と称す)にそれぞれ2以上の極を持ち、前記極のうちの最大値がバックグラウンド値の3倍以下であり、かつRD方向及びTD方向に曲げたときの最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下であることを特徴とする常温成形性に優れたマグネシウム合金板が得られることを知見した。
また、その製造方法において、当該成分を有するマグネシウム合金に少なくとも1回の曲げ変形と再結晶熱処理を加えれば、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、RD方向及びTD方向にそれぞれ2以上の極を持ち、前記極の最大値がバックグラウンド値の3倍以下であり、かつかつRD方向及びTD方向に曲げたときの最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下であることを特徴とする常温成形性に優れたマグネシウム合金板が容易に得られることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
すなわち、上記課題を解決するため本発明は、以下の技術要素から構成される。
(1)質量%で、Znを1.6~2.3%含有し、Caを0.65%以下で、かつZn/Caの比が2.5~10の範囲で含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム合金の板材であって、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、圧延方向及び圧延方向と直角方向にそれぞれ2以上の極を持ち、前記極のうちの最大値がバックグラウンド値の3倍以下であり、かつ圧延方向及び圧延方向と直角方向に曲げたときの最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下であることを特徴とする常温成形性に優れたマグネシウム合金板。
(2)質量%で、Znを1.6~2.3%含有し、Caを0.65%以下で、かつZn/Caの比が2.5~10の範囲で含有し、さらにAlを2.5%以下及び/又はMnを0.6%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム合金の板材であって、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、圧延方向及び圧延方向と直角方向にそれぞれ2以上の極を持ち、前記極のうちの最大値がバックグラウンド値の3倍以下であり、かつ圧延方向及び圧延方向と直角方向に曲げたときの最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下であることを特徴とする常温成形性に優れたマグネシウム合金板。
(3)請求項1又は請求項2記載の化学成分を含有するマグネシウム合金を板状とし、その後室温での曲げ変形を与える工程と再結晶熱処理とをそれぞれ1回以上行うことを特徴とする、常温成形性に優れたマグネシウム合金板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマグネシウム合金板は異方性が小さいため常温成形性に優れる。また、加工や成形の際に加熱する必要がないので、コスト、成形加工における環境対策にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例15の極点図を示す。図中の○印は極の存在箇所を示す。
【
図2】実施例15の材料のエリクセン試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明について詳細に説明する。
(マグネシウム合金の成分)
本発明のマグネシウム合金の成分は以下のとおりである。
(1)質量%で、Znを1.6~2.3%含有し、Caを0.65%以下で、かつZn/Caの比が2.5~10の範囲で含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなる、または
(2)質量%で、Znを1.6~2.3%含有し、Caを0.65%以下で、かつZn/Caの比が2.5~10の範囲で含有し、さらにAlを2.5%以下又はMnを0.6%以下又はAlを2.5%以下でかつMnを0.6%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなる。
【0014】
以下において含有量の「%」は「質量%」を意味する。
本発明のマグネシウム合金は、Znを、1.6~2.3%で含有する。また、Caを、0.65%以下で、かつZn/Caの比において、2.5~10の範囲で含有する。本発明者らは、Zn-Caの比を変えて検討した結果、この比が2.5~10の範囲で常温成形性における異方性の少ないマグネシウム合金板が得られることを知見した。ZnとCaの組み合わせにおいて、この範囲外の含有量では、常温成形における異方性が改善できない。この理由は明確ではないが、マグネシウム合金の鋳造時に形成されたCa-Zn系析出物が、圧延用の素材を造る工程で実施される温間における押し出し、もしくは粗圧延等の展伸加工において、結晶粒を微細化し、また、変形双晶の導入量を最適化するため、その後の圧延、及び/又は圧延後の曲げ変形+再結晶熱処理工程で結晶方位の分散に寄与するものと考えられる。Znが少なすぎても、多すぎても、適切な析出物量が得られないので、Zn/Caの比は2.5~10の範囲とすることが重要である。好ましくは2.5~8の範囲である。ただし、Caの含有量が0.65%を超えると板を圧延する際に板のエッジが割れるなど幅歩留まりの低下が問題になるので、Caの上限を0.65%以下とする。
【0015】
本発明のマグネシウム合金はさらにAlを2.5%以下、及び/又はMnを0.6%以下含有してもよい。本発明の特徴を損なうことはなく、マグネシウム合金板の強度を高めることができるためである。必要に応じてAl、Mnを上記範囲内で含有させることができる。この範囲を超えると、Al-Ca系析出物、Al-Ca-Zn系析出物が必要以上に析出し、本発明の特徴である4方向への極の分離が弱くなる傾向にある。
【0016】
本発明のマグネシウム合金板は、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、存在する複数の極のうちの最大値(すなわち、(0002)面の強度の最大値)がバックグラウンド値の3倍以下である。
極点図の測定は、XRD(反射法)により実施する。以下に限定されるものではないが、本明細書の実施例では、X線回折による極点図の測定は、株式会社リガク製X線回折装置 RINT2000/PCを用いて、シュルツ反射法により行った。測定面を(0002)面とし、管電流40mA、管電圧40KVにて測定した。(0002)面のX線反射強度は、2θ=34.5度付近にピークが出るが、2θ=30度では反射強度のピークを現れないので、この角度で測定した値をバックグラウンドの値とした。極の最大値とは、面極点図において最も高い極の値を意味し、極の最大値の反射強度は、バックグラウンド値と比較した値とする。
【0017】
本発明のマグネシウム合金板は、板の圧延方向及び圧延方向と直角方向にそれぞれ2以上の極を持つ。通常少なくとも4つの極を有し、4以上有していてもよい。本発明において「極」とは、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、周囲の値よりも高い値を示す箇所(ピーク値)である。
【0018】
極点図における極は、必ずしもRD方向とTD方向に厳密に限定されるものではない。理想的には(0002)極点図において、円周方向全体に(0002)面が傾斜した状態が好ましいが、これを実現することが難しいため、本発明においては、RD方向、TD方向から±30度外れていても本発明の範囲内であるとする。また、本発明においては、極はRD方向、TD方向およびその近傍に存在するようになるが、製造条件によってはその中間にわずかに高い値を示す部分が存在することがあるが、むしろこれは異方性を改善する意味では好ましいので、このような極はあっても構わない。
【0019】
本発明のマグネシウム合金板はさらに、RD方向及びTD方向曲げたときの最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下である。
曲げ試験は、JIS Z 2248に従い、常温において、先端に90度の角度を有するVブロックを用いるVブロック法により実施し、曲げ外面から観察して、割れのない最小の曲げ半径を最小曲げ半径とする。
最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下であるため、常温成形性に優れているということができる。
【0020】
本発明においては、上記成分を含有するマグネシウム合金を、例えば押し出しや圧延等により、切り板あるいはコイル状の板とした後、曲げ変形を加え、その後に再結晶熱処理を施す。この「曲げ変形+再結晶熱処理」は少なくとも1回は施す。さらに成形性を向上させるために、複数回の処理を施すこともできる。
この方法により、板の表面方向からXRD(反射法)により測定した(0002)面極点図において、圧延方向及び圧延方向と直角方向にそれぞれ2以上の極を持ち、前記極の最大値がバックグラウンド値の3倍以下であり、かつRD方向及びTD方向曲げたときの最小曲げ半径rと板厚tとの比r/tが1.0以下であることを特徴とする常温成形性に優れたマグネシウム合金板を容易に得ることができる。
本発明の特徴は、合金の化学成分を上述のとおり調整し、かつ「曲げ変形+再結晶熱処理」を少なくとも1回行うことであり、それにより高い常温成形性と異方性の少ないマグネシウム合金板を得ることができる。
【0021】
本発明のマグネシウム合金板を得るための方法としては、まず上記成分を有するマグネシウム合金を鋳造し、鋳塊となす。その後、温間における押し出し、及び/又は粗圧延を施し、板厚数mm程度の圧延用素材を製造する。好ましくは、板厚4mmから10mmの板を製造する。
その後に、所望の板厚まで温間圧延を施す。通常は、電子機器、自動車などに適用される板厚である、0.5mmから2.0mm程度にまで圧延する。ここまでの製造条件については特に限定するものではない。
温間圧延により板状、すなわち切り板又はコイル状の板とした後、常温にてローラレベラあるいは小径ロールに板を巻き付けて通板することにより曲げ変形を加える。レベラの径、もしくは巻き付けるロールの径は、板厚によってその最適値が変わるが、好ましくは板厚の20倍以下で、レベラの押し込み量は板厚と同等以上とする。
その後、300℃程度の温度で数分から1時間程度の再結晶熱処理を施す。熱処理温度が高い場合には、短時間で良い。この「曲げ変形+再結晶熱処理」を1セットとして、さらに複数回実施することができる。この場合は、さらに成形性の向上が図れる。
【実施例】
【0022】
溶解鋳造法により表1に示す化学成分を有するマグネシウム合金ビレットを作製した。その後、押し出し加工を行い板厚4mmの板とし、ついで温間圧延を施し、板厚0.8mmの板を得た。
これらの板を用いて、従来の製造工程に沿って圧延後350℃で再結晶熱処理を施したものと、本発明の1つの構成要件である「曲げ変形+再結晶熱処理」を施した板を作製した。曲げ変形の付与はローラレベラにて行った。ローラレベラは、上9ロール、下10ロールを有し、ロール径12mm、ロール芯間距離13mmの構成であり、常温にて押し込み量0.6mmで曲げ変形を付与した。その後、300℃で1時間の再結晶熱処理を施した。また、この「曲げ変形+再結晶熱処理」を2回繰り返した材料も作製した。
【0023】
これらの板を用いて、XRDによる極点図の測定、RD方向、TD方向における曲げ試験を実施し、常温成形性の評価を行った。
XRDによる極点図の測定は、株式会社リガク製X線回折装置 RINT2000/PCを用いて、シュルツ反射法により行った。測定面を(0002)面とし、管電流40mA、管電圧40KVにて測定した。(0002)面のX線反射強度は、2θ=34.5度付近にピークが出るが、2θ=30度では反射強度のピークを現れないので、この角度で測定した値をバックグラウンドの値とした。
また、他の先行技術と比較するために、板厚0.8mm、60mm角の板を用いて、JIS Z 2247に従い、常温におけるエリクセン値も求めた。
曲げ試験は、JIS Z 2248に従い、常温において、先端に90度の角度を有するVブロックを用いるVブロック法により実施し、曲げ外面から観察して、割れのない最小の曲げ半径を最小曲げ半径とした。
【0024】
測定結果を表1に示す。
図1に実施例15の極点図を示す。また、
図2にはエリクセン試験を実施したときの外観を示す。
図1及び表1から、本発明の実施例において、極点図における極が圧延方向及び圧延方向と直角方向にそれぞれ2以上存在し、少なくとも4つ存在していることがわかる。また、エリクセン試験においても9.0mm以上が高い値が得られていることがわかる。
【0025】
表1の比較例1はZn/Caの比が本発明範囲外であり、比較例1~9は、Znの含有量が本発明範囲外である。これら比較例では、極点図における極の最大値がいずれもバックグラウンド値の3倍以上となり、また、その極の数も2であり、異方性の強さが現れている。成形試験の結果においても、RD方向とTD方向の最小曲げ半径の差が1.5以上あり、RD方向とTD方向の異方性の強さが示されている。比較例10は、特にZnの含有量が本発明の範囲の上限値より大きい場合の結果を示しているが、極点図における極の最大値がバックグラウンド値の14倍となり、また、その極の数も2であり、異方性が強いことを示している。成形試験の結果においても、RD方向とTD方向の最小曲げ半径の差が3であり、RD方向とTD方向の異方性の強さが示されている。比較例11は、Znの含有量が本発明の範囲の下限値より小さい場合の結果を示しているが、この場合も極点図における極の最大値がバックグラウンド値の3倍以上となり、また、その極の数も2であり、異方性が強くなった。比較例12は、Caの含有量が本発明の範囲の上限値より大きい場合の結果を示している。この場合、極点図における極の最大値がバックグラウンド値の3倍以上となり、また板のエッジ割れが見られた。比較例13はZn/Caの比が本発明の範囲の上限値より大きい場合の結果を示しているが、極点図における極の最大値がバックグラウンド値の3倍以上となり、また、その極の数も2であり、異方性が強いことを示している。比較例15は、Zn及びCaの含有量並びにZn/Caの比が本発明の範囲内であるが、「曲げ変形+再結晶熱処理」を施していない例である。この場合にも、極点図における極の最大値がバックグラウンド値の3倍以上となり、また極の数が2であり、異方性が強いことを示した。
これに対し、本発明の方法によれば、極点図における極の数は4(圧延方向及び圧延方向と直角方向にそれぞれ2)となり、また、その極の強さも3以下であり、(0002)方位が分散していることが確認できる(実施例15~22)。最小曲げ半径の値を見ても、比較例に比べて低い値を示し、また、RD方向とTD方向の値の差も0.2以下と異方性が小さくなっていることがわかる。エリクセン試験の値においても、比較例に比べて、9.0以上の値を示し、常温成形性の高いことが確認できる。
【0026】
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により得られたマグネシウム合金板は、常温での加工性あるいは成形性に優れているため、従来のマグネシウム合金板持っていた課題、すなわちその加工性の低さから加工は温間で行う必要があるという課題を解決する。さらに、本マグネシウム合金板は異方性が小さいという特徴を有しており、これにより常温においてより複雑な加工が可能となり、電子機器、自動車部品などの複雑な板金加工や成形を必要とする部品に適用することができる。また、加工や成形の際に加熱する必要がないので、コスト、成形加工における環境対策にも有利である。本発明のマグネシウム合金板は、マグネシウム本来の軽いという特徴を生かすことができる素材であり、電子機器、自動車の軽量化に寄与できる素材である。