(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220118BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/36
(21)【出願番号】P 2017559174
(86)(22)【出願日】2016-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2016088617
(87)【国際公開番号】W WO2017115736
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2015257295
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513164624
【氏名又は名称】フラニクス テクノロジーズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 潤
(72)【発明者】
【氏名】沼田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】ファン ベルケル ヤスパー ガブリエル
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200546(JP,A)
【文献】国際公開第2014/100265(WO,A1)
【文献】特開2012-229395(JP,A)
【文献】特開平11-010725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 55/00-55/30;
61/00-61/10
C08G 63/00-64/42
B29K 67/00
B29L 9/00
C08J 7/04-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムと、無機化合物を主たる成分とする薄膜層とを備えた積層ポリエステルフィルムであって、
上記ポリエステルフィルムは、フランジカルボン酸を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするグリコール成分とからなる二軸配向ポリエステルフィルムであり、
上記薄膜層は、上記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に備えられており、
上記無機化合物は、酸化アルミニウム及び酸化珪素の少なくとも一方であり、
上記積層ポリエステルフィルムの面配向係数ΔPが0.100以上、0.200以下であり、厚さが1μm以上、300μm以下であり、温度23℃、湿度65%下における酸素透過度が0.1mL/m
2/day/MPa以上、80mL/m
2/day/MPa以下であり、破断強度がMD方向及びTD方向とも150MPa以上であり、破断伸度がMD方向及びTD方向とも40%以上であ
り、150℃、30分間加熱したときの熱収縮率がMD方向およびTD方向とも0.01%以上、30%以下であることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が
MD方向およびTD方向とも0.01%以上、20%以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が
MD方向およびTD方向とも0.01%以上、10%以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムと、無機化合物を主たる成分とする薄膜層とを備えた積層ポリエステルフィルムに関する。詳しくは、優れた機械物性、透明性、耐熱性を有するとともに、ガスバリア性に特に優れる積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性や機械物性に優れた熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂は、プラスチックフィルム、エレクトロニクス、エネルギー、包装材料、自動車等の非常に多岐な分野で利用されている。プラスチックフィルムのなかでも、二軸延伸PETフィルムは機械特性強度、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、光学特性などとコストのバランスに優れることから、工業用,包装用分野において幅広く用いられている。
【0003】
工業用フィルムの分野では、優れた透明性を有することから液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)向けの機能フィルムとして用いることができる。また耐加水分解性を付与したPETフィルムは太陽電池バックシート用フィルムとしても利用されており、機能性フィルム、ベースフィルムとして様々な目的で使われている。
【0004】
包装用フィルムの分野では、食品包装用、ボトル用シュリンクラベル、ガスバリアフィルム用途として利用されている。特に、ガスバリア性に優れるフィルムは、食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料として使用され、近年需要が高まっている。
【0005】
一方、環境配慮型または環境持続型材料として、生分解性を有する樹脂やバイオマス由来の原料を用いた樹脂が注目されている。
上述の観点から、PET等の石油誘導体を代替する再生可能なポリマーを提供することを目指して、多くの検討がなされている。フランジカルボン酸(FDCA)は、熱湯における溶解性や酸性試薬に対する安定性の点で、テレフタル酸に似ており、また平面構造であることも知られていることから、FDCAとジオールとが重縮合されたフラン系の材料が提案されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0006】
これら開示されている高分子の物性は融点のみであり、機械強度は明らかになっておらず、フランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物が工業用、包装用フィルムの分野で使用できるか不明であった。
【0007】
ポリブチレンフランジカルボキシレート(PBF)を中心とした数種のフランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物について、重合度を規定し電気・電子部品等の用途に使用できる高分子化合物の提案がされている(特許文献2)。さらに、還元粘度、末端酸価を規定し機械強度に優れるポリエステルの提案がされている(特許文献3、4)。
【0008】
しかしながら、特許文献2において、開示されているPBFの熱プレス成形品の透明性は低く、工業用、包装用フィルムの分野での使用は制限される。特許文献3、4に開示されているフランジカルボン酸構造の200μmシート品の機械特性について、破断伸び、破断強度ともに低く、工業用、包装用フィルムの分野で使用することは考えられなかった。
【0009】
ポリエチレンフランジカルボキシレート(PEF)、PEF誘導体およびPEF誘導体と共重合ポリエステルなどのブレンドによって得られたシートの一軸延伸フィルムの検討がなされている(特許文献5、6)。
【0010】
特許文献5では、配合物の種類、配合比率によりフランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物からなるシートに比べて、それを5~16倍に一軸延伸したフィルムの破断伸びが向上することが記載されている。しかし、破断伸びが向上することが広く知られているシクロヘキサンジメタノール共重合PETを配合しない限り、破断伸びの大きな向上は認められず、限定的な配合比率による効果と言わざるを得ず、工業用、包装用フィルムの分野で使用されることもなかった。
【0011】
特許文献6では圧延ロールを用いて1.6倍程度に一軸延伸を行ったPEFフィルムが開示されている。ガスバリア性に優れるプラスチックフィルムであることが示されているものの、PEFのもつ化学構造由来のバリア性の利点を示したに過ぎず、包装材料として重要な機械強度は明らかになっておらず、フランジカルボン酸ユニットを有する包装用ガスバリアフィルムの分野で使用されることもなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第2551731号公報
【文献】特許第4881127号公報
【文献】特開2013-155389号公報
【文献】特開2015-098612号公報
【文献】特表2015-506389号公報
【文献】特開2012-229395号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Y. Hachihama, T.Shono, and K. Hyono, Technol. Repts. Osaka Univ., 8, 475 (1958)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現在、上記特許文献に提案のフランジカルボン酸を有する樹脂組成物がPET代替として検討されている。しかし、機械特性に劣ることから、工業用、包装用フィルムに用いることができていない。さらに耐熱性、透明性の検討も行われておらず、工業用、包装用フィルムとして適用できるかが不明である。
【0015】
また、食品包装においては、酸素や水蒸気などが内部に透過することによって、内容物を変質させてしまうため、優れたバリア性が求められる。近年、災害用備蓄食料の需要の高まりもあり、内容物を長期間変質させないために、さらに高いバリア性が求められる。
【0016】
さらに、環境意識の高まりもあり、バイオマス由来原料からなるフィルムの需要が高まってきている。
【0017】
本発明は、バイオマス由来のフランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムと、無機化合物を主たる成分とする薄膜層とを備えており、工業用、包装用などに用いることができる積層ポリエステルフィルムであって、優れた機械物性、透明性、耐熱性を有するとともに、ガスバリア性に特に優れる積層ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち本発明のフィルムは、ポリエステルフィルムと、無機化合物を主たる成分とする薄膜層とを備えた積層ポリエステルフィルムであって、上記ポリエステルフィルムは、フランジカルボン酸を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするグリコール成分とからなる二軸配向ポリエステルフィルムであり、上記薄膜層は、上記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に備えられており、上記無機化合物は、酸化アルミニウム及び酸化珪素の少なくとも一方であり、上記積層ポリエステルフィルムの面配向係数ΔPが0.005以上、0.200以下であり、厚さが1μm以上、300μm以下であり、温度23℃、湿度65%下における酸素透過度が0.1mL/m2/day/MPa以上、80mL/m2/day/MPa以下であることを特徴とする積層ポリエステルフィルムである。
【0019】
本発明のフィルムは、好ましくは、150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が0.01%以上、30%以下であり、より好ましくは、0.01%以上、20%以下であり、さらに好ましくは、0.01%以上、10%以下である。
【0020】
また、本発明のフィルムは、面配向係数ΔPが0.100以上、0.200以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムを備えた積層ポリエステルフィルムとすることによって、優れた機械物性、透明性、耐熱性に優れるため、工業用、包装用フィルムとして好適に使用することができる。また、さらに好ましい実施態様によれば、驚くことにPETフィルム並みの強度と熱安定性を有し、さらにはPETフィルムをはるかにしのぐガス遮断性を有し、食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムと、無機化合物を主たる成分とする薄膜層とを備えており、上記薄膜層は、上記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に備えられる。
【0023】
<ポリエステルフィルム>
本発明で用いられるポリエステルフィルムは、ジカルボン酸成分として主にフランジカルボン酸が含まれ、グリコール成分として主にエチレングリコールが含まれるポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂よりなる二軸配向ポリエステルフィルムである。ここで、ポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂は、エチレングリコールおよびフランジカルボン酸を主な構成成分として含有する。「主に」とは、ジカルボン酸全成分100モル%中、フランジカルボン酸が80モル%以上であり、グリコール全成分100モル%中、エチレングリコールが80モル%以上である。
本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。他のジカルボン酸成分およびグリコール成分の共重合量は、全ジカルボン酸成分あるいは全グリコール成分に対して、それぞれ20モル%未満であり、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
上記の他のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸やイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の脂環族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
上記の他のグリコール成分としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、ジメチロールトリシクロデカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールAP、4,4’-ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0024】
このようなポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂の重合法としては、フランジカルボン酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を直接反応させる直接重合法、およびフランジカルボン酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のグリコール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0025】
本発明で用いられるポリエステルフィルムの樹脂成分として、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、及び上記以外のポリエステルなどの他の樹脂を含んでも良いが、ポリエステルフィルムの機械特性、耐熱性の点で、他の樹脂の含有量はポリエステルフィルムの全樹脂成分に対して30質量%以下、さらには20質量%以下、またさらには10質量%以下、特には5質量%以下であることが好ましく、0質量%(ポリエステルフィルムの全樹脂成分が実質的にポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂)であることが最も好ましい。
【0026】
また、前記ポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂の固有粘度は、0.30dl/g以上、1.20dl/g以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.55dl/g以上、1.00dl/g以下であり、さらに好ましくは0.70dl/g以上、0.95dl/g以下である。固有粘度が0.30dl/gよりも低いと、ポリエステルフィルムが裂けやすくなり、1.20dl/gより高いと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となり、フィルタを介して樹脂を押出すことが困難となる。
また、前記ポリエステルフィルムの樹脂の固有粘度は、0.30dl/g以上、1.20dl/g以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.55dl/g以上、1.00dl/g以下であり、さらに好ましくは0.70dl/g以上、0.95dl/g以下である。固有粘度が0.30dl/gよりも低いと、ポリエステルフィルムが裂けやすくなり、固有粘度が1.20dl/gより高いと、機械的特性を高くする効果が飽和状態となる。
【0027】
<薄膜層>
本発明で用いられる薄膜層は、無機化合物を主たる成分としており、無機化合物は、酸化アルミニウム及び酸化珪素の少なくとも一方である。ここでの「主たる成分」とは、薄膜層を構成する成分100質量%に対し、酸化アルミニウム及び酸化珪素の合計量が50質量%超であることを意味し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%(酸化アルミニウム、酸化珪素以外の成分が薄膜層を構成する成分として含有されていない)である。ここでいう酸化アルミニウムとは、AlO,Al2O,Al2O3等の各種アルミニウム酸化物の少なくとも1種以上からなり、各種アルミニウム酸化物の含有率は薄膜層の作製条件によって調整することができる。酸化珪素とは、SiO,SiO2,Si3O2等の各種珪素酸化物の少なくとも1種以上からなり、各種珪素酸化物の含有率は薄膜層の作製条件によって調整することができる。酸化アルミニウム又は酸化珪素には、成分中に、特性が損なわれない範囲で微量(全成分に対して高々3質量%まで)の他成分を含んでいてもよい。
【0028】
薄膜層の厚さとしては、特に限定されないが、フィルムのガスバリア性及び可撓性の点からは、5~500nmが好ましく、より好ましくは10~200nmであり、さらに好ましくは15~50nmである。薄膜層の膜厚が5nm未満では、満足のいくガスバリア性が得られ難くなるおそれがあり、一方、500nmを超えても、それに相当するガスバリア性の向上の効果は得られず、耐屈曲性や製造コストの点でかえって不利となる。
【0029】
<積層ポリエステルフィルムの物性>
本発明の積層ポリエステルフィルムの面配向係数(ΔP)は0.005以上、0.200以下であり、好ましくは0.020以上、0.195以下であり、より好ましくは0.100以上、0.195以下であり、さらに好ましくは0.110以上、0.195以下であり、よりさらに好ましくは0.120以上、0.195以下であり、より一層好ましくは0.130以上、0.190以下であり、さらに一層好ましくは0.135以上、0.180以下であり、特に好ましくは0.140以上、0.170以下であり、最も好ましくは0.145以上、0.160以下である。面配向係数(ΔP)が0.005未満では、フィルムの機械特性が不十分となり、フィルムの印刷や製袋などの後加工が困難となること、後の印刷やコーティングを行うときに印刷機やコーター上でフィルムが切れることなどが発生するため好ましくない。面配向係数は、JIS K 7142-1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源としてアッベ屈折計によりフィルム面内の機械方向(MD方向)の屈折率(nx)、その直角方向(TD方向)の屈折率(ny)、および厚み方向の屈折率(nz)を測定し、下記式によって面配向係数(ΔP)を算出できる。
ΔP={(nx+ny)-2nz}÷2
両面に薄膜層が備えられている場合も同様の方法で測定できる。
【0030】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、150℃で30分間加熱したときの熱収縮率(以下、単に熱収縮率という)がMD方向およびTD方向とも50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、よりさらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは8%以下であり、最も好ましくは4.5%以下である。熱収縮率が大きいと印刷時の色ズレ、印刷機やコーター上でのフィルムの伸びの発生により、印刷やコーティング実施が困難になったり、および高熱化でのフィルムの変形による外観不良などが発生したりする。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から0.01%が下限と考える。
【0031】
本発明において、温度23℃、湿度65%下における積層ポリエステルフィルムの酸素透過度は、0.1mL/m2/day/MPa以上、80mL/m2/day/MPa以下であり、好ましくは0.1mL/m2/day/MPa以上、50mL/m2/day/MPa以下であり、より好ましくは0.1mL/m2/day/MPa以上、30mL/m2/day/MPa以下であり、さらに好ましくは0.1mL/m2/day/MPa以上、10mL/m2/day/MPa以下である。80mL/m2/day/MPaを超えると、フィルムを透過した酸素により物質が劣化したり食品の保存性が不良になるおそれがある。また、フィルムの製造上の点から、0.1mL/m2/day/MPaが下限と考える。
なお、フィルムに印刷、コーティングなどの方法および共押出しなどによる方法などを付与することで、さらに酸素透過度を改善することは可能である。
【0032】
本発明において、温度37.8℃、湿度90%下におけるポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、好ましくは0.1g/m2/day以上、20g/m2/day以下であり、より好ましくは10g/m2/day以下であり、より好ましくは8g/m2/day以下であり、さらにより好ましくは5g/m2/day以下である。20g/m2/dayを超えると、フィルムを透過した水蒸気により物質が劣化したり食品の保存性が不良になるおそれがある。フィルムの製造上の点から0.1g/m2/dayが下限と考える。なお、フィルムに印刷、コーティングなどの方法および共押出しなどによる方法などを付与することで、さらに水蒸気透過度を改善することは可能である。
【0033】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルそのものが高い酸素バリア性(低い酸素透過度)の特性を持つが、後で述べる延伸工程の条件を満たしたポリエステルフィルムとすることで、酸素バリア性はさらに良化する。
【0034】
積層ポリエステルフィルム面内のMD方向およびその直角方向(TD方向)の屈折率(nx)(ny)が、1.5700以上が好ましく、より好ましくは1.6000以上であり、さらに好ましくは1.6200以上である。nxとnyを1.5700以上とすることによって、十分なフィルム破断強度や破断伸度が得られるため、フィルムの機械特性が十分となり、フィルムへの印刷や製袋などの後加工が容易となること、後の印刷やコーティングを行うときに印刷機やコーター上でフィルムが切れることなどが発生しにくいため好ましい。なお、製造上の点や熱収縮率の点から、nxとnyは1.7000未満が好ましい。
【0035】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、その破断強度がMD方向及びTD方向とも75MPa以上であることが好ましい。破断強度の好ましい下限は100MPa、より好ましい下限は150MPa、さらに好ましい下限は200MPa、さらにより好ましい下限は220MPaである。破断強度が75MPa未満では、フィルムの力学的強度が不十分となり、フィルムの加工工程で伸び、ズレ等の不具合を生じやすくなるので好ましくない。製造上の点を考慮して、破断強度の上限は1000MPaである。
【0036】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、その破断伸度がMD方向及びTD方向とも10%以上であることが好ましい。破断伸度の好ましい下限は15%、さらに好ましい下限は20%、特に好ましい下限は30%である。破断伸度が10%未満では、フィルムの力学的伸度が不十分となり、フィルムの加工工程で割れ、破れ等の不具合を生じやすくなるので好ましくない。製造上の点を考慮して、破断伸度の上限は300%である。破断伸度の上限は、好ましくは150%、より好ましくは100%、さらに好ましくは80%である。
【0037】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、全光線透過率が75%以上であることが好ましい。フィルムの欠点となる内部異物の検出精度を向上させるためには、透明性が高いことが望ましい。そのため、本発明の積層ポリエステルフィルムの全光線透過率は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、88.5%以上がさらに好ましく、89%以上が特に好ましい。フィルムの欠点となる内部異物の検出精度を向上させるためには、全光線透過率は高ければ高いほど良いが、100%の全光線透過率は技術的に達成困難である。
【0038】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ヘイズが15%以下であることが好ましい。食品包装用途において内容物の欠点検査を行うためには、フィルムの濁りが少ないことが望ましい。そのため、本発明の積層ポリエステルフィルムにおけるヘイズは15%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。ヘイズは低い方が好ましいが、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルム固有の屈折率から、0.1%が下限であると思われる。
【0039】
本発明の積層ポリエステルフィルムの厚みは1μm以上、300μm以下であり、好ましくは5μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上100μm以下、特に好ましくは10μm以上40μm以下である。厚さが300μmを超えるとコスト面で問題があり、包装材料として用いた場合に視認性が低下しやすくなる。また、厚さが1μmに満たない場合は、機械的特性が低下し、フィルムとしての機能が果たせないおそれがある。
【0040】
本発明の積層ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。PEFペレットを用いた代表例について詳しく説明するが、当然これに限定されるものではない。
【0041】
まず、フィルム原料を水分率が200ppm未満となるように、乾燥あるいは熱風乾燥する。次いで、各原料を計量、混合して押し出し機に供給し、シート状に溶融押出を行う。さらに、溶融状態のシートを、静電印加法を用いて回転金属ロール(キャスティングロール)に密着させて冷却固化し、未延伸PEFシートを得る。
【0042】
また、溶融樹脂が220~280℃に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行うことができる。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れ好適である。
【0043】
表層(a層)と中間層(b層)とを共押出し積層する場合は、2台以上の押出し機を用いて、各層の原料を押出し、多層フィードブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて両層を合流させ、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。あるいは多層フィードブロックを用いる代わりにマルチマニホールドダイを用いても良い。
【0044】
次に、前記の方法で得られた未延伸フィルムを二軸延伸し、次いで熱処理を行う。
【0045】
例えば、フランジカルボン酸ユニットを有する二軸配向ポリエステルフィルムを製造する場合、MD方向またはTD方向に一軸延伸を行い、次いで直交方向に延伸する逐次二軸延伸方法、MD方向及びTD方向に同時に延伸する同時二軸延伸方法、さらに同時二軸延伸する際の駆動方法としてリニアモーターを用いる方法を採用することができる。逐次二軸延伸方法の場合、MD延伸は加熱ロールを用いて速度差をつけることでMD方向に延伸することで可能となる。加熱に赤外線ヒーターなどを併用することも可能である。引き続き行うTD延伸は、MD延伸したシートをテンターに導き、両端をクリップで把持し、加熱しながらTD方向に延伸することで可能となる。TD延伸後のフィルムは、テンター内で引き続き熱処理を行う。熱処理は、TD延伸で引っ張ったまま行うことも可能であるが、TD方向に弛緩させながら処理することも可能である。熱処理後のフィルムは、両端を切り落としてワインダーで巻き上げることも可能である。
【0046】
特許文献5、6には、1.6~16倍の一軸延伸を行ったPEF・PEF誘導体フィルムの製造方法が開示されている。しかしながら、上記開示の方法では、工業用、包装用として利用できる機械特性を達成することはできない。そこで、本願発明者は鋭意検討を行なった結果、以下のような延伸方法(i)~(vii)を行なうことにより、高い機械特性を達成するに至った。また、以下の(viii)に記載のとおりに薄膜層を作製することにより、高いバリア性を達成するに至った。
【0047】
(i)フィルムのMD方向の延伸倍率の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには1.1~10.0倍の範囲でMD方向に延伸を行うことが望ましい。1.1倍以上(好ましくは1.5倍以上)でMD方向に延伸することで、面配向係数ΔPが0.005以上であるフィルムを作製することができる。好ましくは、MD方向の延伸倍率が2.5倍以上、より好ましくは3.5倍以上、さらに好ましくは4.0倍以上、特に好ましくは4.5倍以上である。2.5倍以上とすることで、ΔPが0.02以上、さらにはMDおよびTD方向の屈折率nx、nyが1.5700以上となり、フィルム破断強度が100MPa以上かつフィルム破断伸度が15%以上の力学的特性に優れたフィルムとすることができる。MD方向の延伸倍率が10.0倍以下であると破断の頻度が少なくなり好ましい。MD延伸倍率を高くし適度に分子鎖を配向させることにより、熱固定工程の温度を高くでき、熱収縮率を下げることが出来る。
【0048】
(ii)フィルムのMD方向の延伸温度の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには90℃以上150℃以下の範囲でMD方向に延伸を行うことが望ましい。さらに好ましくは100℃以上125℃以下である。MD方向の延伸温度が90℃以上では破断の頻度が少なくなり好ましい。150℃以下であると均一に延伸ができるため好ましい。
【0049】
(iii)フィルムのTD方向の延伸倍率の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには1.1~10.0倍の範囲でTD方向に延伸を行うことが望ましい。1.1倍以上(好ましくは1.5倍以上)TD延伸することで、面配向係数ΔPが0.005を超えるフィルムを作製することができる。好ましくは、TD方向の延伸倍率が3.0倍以上、より好ましくは3.5倍以上、さらに好ましくは4.0倍以上、特に好ましくは4.5倍以上である。TD方向の延伸倍率を3.0倍以上とすることで、ΔPが0.02以上、さらにはMD方向及びTD方向の屈折率nx、nyが1.5700以上となり、フィルム破断強度が75MPa以上かつフィルム破断伸度が15%以上の力学的特性に優れたフィルムとすることができる。TD方向の延伸倍率が10.0倍以下であると破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0050】
(iv)TD方向の延伸温度の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには80℃以上200℃以下の範囲でTD方向に延伸を行うことが望ましい。さらに好ましくは95℃以上135℃以下である。TD方向の延伸温度が80℃以上では破断の頻度が少なくなり好ましい。200℃以下であると均一に延伸ができるため好ましい。
【0051】
(v)フィルムの熱固定温度の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには110℃以上、220℃以下の範囲で熱固定処理を行うことが好ましい。熱固定処理の温度が220℃以下(好ましくは210℃以下)であるとフィルムが不透明になり難く、溶融破断の頻度が少なくなり好ましい。熱固定温度を高くすると熱収縮率が低減するため好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましく、160℃以上がまたさらに好ましく、175℃以上が特に好ましく、185℃以上が最も好ましい。熱固定処理により面配向係数ΔPが大きくなる傾向にある。
【0052】
(vi)TD方向の緩和温度の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには100℃以上200℃以下の範囲でTD方向に緩和処理を行うことが望ましい。TD方向の緩和温度は、好ましくは165℃以上195℃以下、さらに好ましくは175℃以上195℃以下である。これにより、熱収縮率を低減できるため望ましい。
【0053】
(vii)TD方向の緩和率の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためにはTD方向の緩和率を0.5%以上10.0%以下の範囲で行うことが望ましい。TD方向の緩和率は、好ましくは2%以上6%以下である。これにより、熱収縮率を低減できるため望ましい。
【0054】
(viii)薄膜層の作製方法
薄膜層の作製には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレ-ティングなどのPVD法(物理蒸着法)、あるいは、CVD法(化学蒸着法)などの公知の製法が適宜用いられるが、物理蒸着法であることが好ましく、中でも真空蒸着法であることがより好ましい。例えば、真空蒸着法においては、蒸着源材料としてAl2O3とSiO2の混合物やAlとSiO2の混合物等が用いられ、加熱方式としては、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビ-ム加熱等を用いることができる。また、反応性ガスとして、酸素、窒素、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を用いてもよい。また、基板にバイアス等を加えたり、基板温度を上昇、あるいは、冷却したり等、本発明の目的を損なわない限りにおいて、作製条件を変更してもよい。スパッタ法やCVD法等のほかの作製法でも同様である。
【0055】
本発明で用いられるポリエステルフィルムは、未延伸フィルムを機械方向及びその直角方向に延伸して延伸フィルムとする延伸工程と、上記延伸フィルムを緩和する緩和工程とを備えるポリエステルフィルムの製造方法により製造されるものであるが、上記技術思想の範囲であれば、上記具体的に開示された方法に限定されるものではない。本発明のフィルムを製造する上で重要なのは、上記技術思想に基づき、上述の製造条件について極めて狭い範囲で高精度の制御をすることである。
【0056】
本発明で用いられるポリエステルフィルムは、フィルムの破断強度、破断伸度と熱収縮率は、前述した延伸と熱処理条件を独立に、かつ組み合わせて制御することが可能である。それらは任意に選べるが、好ましい条件として、上記(i)~(vii)を組み合わせることで、面配向係数(ΔP)が0.100以上(好ましくは0.140以上)、熱収縮率が8%以下(好ましくは4.5%以下)、フィルム破断強度が150MPa以上(より好ましくは250MPa以上)、破断伸度が40%以上のフィルムを得ることが出来る。
例えば、MD方向の延伸倍率及びTD方向の延伸倍率を高くし、より高い温度で熱固定処理を行なうことが、熱収縮率が8%以下、フィルム破断強度が150MPa以上のフィルムを得るために有効である。具体的には、MD方向の延伸倍率を4.0倍以上(好ましくは4.5倍以上)、TD方向の延伸倍率を4.0倍以上(好ましくは4.5倍以上)にし、熱固定工程の温度を165℃以上とすることにより、フィルムの破断強度が150MPa以上、熱収縮率が8%以下、面配向係数(ΔP)が0.100以上のフィルムを得ることが出来る。
【0057】
また、作製した延伸フィルム上に上記(viii)の製造方法によって薄膜層を上記ポリエステルフィルムと組み合わせることで、温度23℃、湿度65%下における酸素透過度が0.1~80mL/m2/day/MPaである積層ポリエステルフィルムとすることが可能である。
【0058】
本フィルムの延伸工程中または延伸終了後に、コロナ処理やプラズマ処理を行うことも可能である。また、樹脂や架橋剤、粒子などを適宜混合し、溶剤で溶かした液または分散液をコーティングすることで、滑り性、アンチブロッキング性、帯電防止性、易接着性などを付与することも可能である。また、本発明のフィルム中に各種安定剤、顔料、UV吸収剤など入れても良い。
【0059】
また、延伸、熱処理が終了したフィルムを表面処理することで、機能を向上させることができる。例えば印刷やコーティングなどがあげられる。
【0060】
また、延伸、熱処理が終了したフィルムや表面処理されたフィルムを紙と張り合わせることで、包装体、ラベル、意匠シートなどに用いることができる。
【0061】
本願は、2015年12月28日に出願された日本国特許出願第2015-257295号に基づく優先権の利益を主張するものである。2015年12月28日に出願された日本国特許出願第2015-257295号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で使用した特性値の評価方法を下記に示す。なお、(1)~(6)及び(8)~(10)においては、実施例では積層ポリエステルフィルムを用いて各種物性を測定し、比較例ではポリエステルフィルムを用いて各種物性を測定した。
【0063】
(1)破断強度、破断伸度
フィルムのMD方向及びTD方向に対して、それぞれ長さ140mm及び幅10mmの短冊状に試料を片刃カミソリで切り出した。次いで、オートグラフAG-IS(株式会社島津製作所製)を用いて短冊状試料を引っ張り、得られた荷重-歪曲線から各方向の破断強度(MPa)および破断伸度(%)を求めた。
【0064】
なお、測定は25℃の雰囲気下で、チャック間距離40mm、クロスヘッドスピード100mm/min、ロードセル1kNの条件にて行った。なお、この測定は5回行い、評価には平均値を用いた。
【0065】
(2)面配向係数(ΔP)
JIS K 7142-1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源としてアッベ屈折計によりポリエステルフィルムのフィルム面内のMD方向の屈折率(nx)、およびその直角方向の屈折率(ny)、厚み方向の屈折率(nz)を測定し、下記式によって面配向係数(ΔP)を算出した。なお、接触液はヨウ化メチレンを用いた。
ΔP={(nx+ny)-2nz}÷2
薄膜層が片面の場合:薄膜層と反対側の面を3回測定し、それらの平均値とした。
薄膜層が両面の場合:薄膜層の面をそれぞれ3回測定し、それらの平均値とした。
【0066】
(3)全光線透過率、ヘイズ
JIS K 7136「プラスチック 透明材料のヘイズの求め方」に準拠して測定した。測定器には、日本電色工業社製NDH-5000型濁度計を用いた。
【0067】
(4)熱収縮率(MD方向及びTD方向の熱収縮率)
測定すべき方向に対し、フィルムを幅10mm、長さ250mmに切り取り、150mm間隔で印を付け、5gfの一定張力下で印の間隔(A)を測定した。次いで、フィルムを150℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で150±3℃で30分間加熱処理した後、5gfの一定張力下で印の間隔(B)を測定した。以下の式より熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)={(A-B)/A}×100
【0068】
(5)酸素透過率
酸素透過度は、JIS K7126-2A法に準じて、酸素透過度測定装置(MOCON社製OX-TRAN2/21)を用いて、温度23℃、湿度65%の条件にて測定を行った。薄膜層と反対側の面を調湿側になるように装着した。
【0069】
(6)水蒸気透過率
水蒸気透過率は、JIS K7129B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製PERMATRAN-W3/33)を用いて、温度37.8℃、湿度90%の条件にて測定を行った。薄膜層と反対側の面を高湿度側になるように装着した。
【0070】
(7)固有粘度(IV)
ポリエステル樹脂を粉砕して乾燥した後、パラクロロフェノール/テトラクロロエタン=75/25(重量比)の混合溶媒に溶解した。ウベローデ粘度計を用いて、30℃で0.4g/dlの濃度の溶液の流下時間及び溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用い、Hugginsの定数が0.38であると仮定してポリエステル樹脂の固有粘度を算出した。
【0071】
(8)フィルム厚み
ミリトロンを用い、測定すべきフィルムの任意の4箇所より5cm角サンプル4枚を切り取り、一枚あたり各5点(計20点)測定して平均値をフィルム厚みとした。
【0072】
(9)包装容器の酸素透過性試験
i)呈色液の作製
水2Lと粉寒天6.6gをガラス容器に入れ95℃の湯中に容器を浸し1時間以上温め寒天を完全に溶解させる。50メッシュの金網を用いて溶液をろ過しゲル化した異物を取り除く。溶液にメチレンブルー0.04gを加える。事前に窒素を15分以上流通させたグローブボックス内で溶液にハイドロサルファイトナトリウム1.25gを加え均一に混ぜることで呈色液(無色)を得ることができた。
ii)フィルム包装容器の作製
実施例で作製した積層ポリエステルフィルム又は比較例で作製したポリエステルフィルムにポリエステル系接着剤を塗布後、厚み40μmの線状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPEフィルム:東洋紡社製L4102)をドライラミネートし、40℃の環境下で3日間エージングを行いラミネートフィルムとした。このラミネートフィルムを用い、内寸:横70mm×縦105mmの三方シール袋を作製した。
iii)呈色液の充填
事前に窒素を15分以上流通させたグローブボックス内で三方シール袋に約30mLの呈色液を入れ、窒素を充填した後にシーラーで袋を閉じ、呈色液が充填された包装容器を得ることができた。
iv)酸素透過性試験
寒天を室温で固めた後、呈色液が充填された包装容器を40℃の恒温室に移し72時間後の色変化を観察する。色変化について下記の基準で判定し、Aを合格とした。
A: 色の変化がほとんどない。
B: 色の変化が大きい。
【0073】
(10)積層ポリエステルフィルムの耐熱性試験
積層ポリエステルフィルムを縦100mm×横100mmにカットしたフィルムサンプルを準備する。フィルムサンプルを130℃に加熱したオーブン内に5分入れ、外観の変化を観察する。外観変化について下記の基準で判定し、A、B、及びCを合格とした。
A: 外観の変化がほとんどない。
B: 概ね上記Aのレベルであるが、フィルム端部にのみ変形が見られる。
C: 外観の変化が少しある。
D: 外観の変化が大きい。
【0074】
(11)薄膜層の組成・膜厚
無機化合物の組成膜厚は蛍光X線分析装置(リガク社製ZSX100e)を用いて、予め作成した検量線により膜厚組成を測定した。なお、励起X線管の条件として50kV、70mAとした。
検量線は以下の手順で求めたものである。
酸化アルミニウムと酸化珪素とからなる無機化合物薄膜を持つフィルムを数種類作製し、誘導結合プラズマ発光法(ICP法)で酸化アルミニウムと酸化珪素それぞれの付着量を求めた。次いで、付着量を求めた各フィルムを蛍光X線分析装置(リガク社製ZSX100e、励起X線管の条件:50kv、70mA)で分析することにより各サンプルの酸化アルミニウムと酸化珪素との蛍光X線強度を求めた。そして、蛍光X線強度とICPで求めた付着量の関係を求めて検量線を作成した。
ICPで求めた付着量は基本的に質量であるのでこれを膜厚組成とするため以下のように変換した。
膜厚は、無機酸化薄膜の密度がバルク密度の8割であるとし、かつ酸化アルミニウムと酸化珪素とが混合された状態であってもそれぞれ体積を保つとして算出した。
膜中における酸化アルミニウムの含有率wa(質量%)、膜中における酸化珪素の含有量ws(質量%)は、酸化アルミニウムの単位面積当たりの付着量をMa(g/cm2)、酸化珪素の単位面積当たりの付着量をMs(g/cm2)とすると、各々下記式(1)、(2)で求められる。
wa=100×[Ma/(Ma+Ms)] (1)
ws=100-wa (2)
すなわち、酸化アルミニウムの単位面積当たりの付着量をMa(g/cm2)、そのバルクの密度をρa(3.97g/cm3)とし、酸化珪素の単位面積当たりの付着量をMs(g/cm2)、そのバルクの密度をρs(2.65g/cm3)とすると、膜厚t(nm)は下記式(3)で求められる。
t=((Ma/(ρa×0.8)+Ms/(ρs×0.8))×107 (3)
蛍光X線分析装置で測定した膜厚の値は、TEMで実際に計測した膜厚と近いものであった。
【0075】
(比較例1)
原料として、Avantium社製ポリエチレン2,5-フランジカルボキシレート、IV=0.90を用いた。100℃で24時間減圧乾燥(1Torr)した後、二軸押出機(スクリュー径30mm、L/D=25)に供給した。二軸押出機に供給された原料を、押出機の溶融部、混練り部、配管、ギアポンプまでの樹脂温度は270℃、その後の配管では275℃とし、Tダイ(口金)よりシート状に溶融押し出した。
【0076】
そして、押し出した樹脂を、表面温度20℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ250μmの未延伸フィルムを作製した。
【0077】
得られた未延伸シートを、120℃に加熱されたロール群でフィルム温度を昇温した後周速差のあるロール群で、MD方向に5倍に延伸した。
【0078】
次いで、得られた一軸延伸フィルムをテンターに導きクリップで把持し、TD延伸を行った。搬送速度は5m/minとした。TD延伸温度は105℃、TD延伸倍率は5倍とした。次いで、200℃で12秒間の熱処理を行い、190℃で5%の弛緩処理を行い、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0079】
MD方向の延伸温度を120℃としてMD方向に5倍に延伸し、TD方向の延伸温度を105℃としてTD方向に5倍に延伸し、熱固定温度を200℃にして得られたポリエステルフィルムの物性は、熱収縮率がMD方向で3.3%、TD方向で4.3%であり、破断強度がMD方向で275MPa、TD方向で252MPaであり、面配向係数(ΔP)は0.143であった。比較例1のフィルムは酸素透過度が107mL/m2/day/MPa以下と酸素透過度が高いため、ガスバリア性が不十分であった。
【0080】
(比較例2)
未延伸フィルムの厚みを300μmとする以外は、比較例1に記載と同様の方法にてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0081】
(比較例3~6)
ポリエステルフィルムの製膜条件を表2のように変更する以外は比較例1に記載と同様の方法にてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0082】
(比較例7)
使用する原料をAvantium社製ポリ(エチレン2,5-フランジカルボキシレート)、IV=0.80とAvantium社製ポリ(エチレン2,5-フランジカルボキシレート)、IV=0.70を50:50比率でドライブレンドしたものとし、製膜条件を表2のように変更する以外は比較例1に記載と同様の方法にてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0083】
MD方向の延伸温度を95℃としてMD方向に2.5倍に延伸し、TD方向の延伸温度を85℃としてTD方向に3倍に延伸し、熱固定温度を120℃にして得られたポリエステルフィルムの物性は、150℃で30分間の熱収縮率がMD方向で21%、TD方向で27%であり、破断強度がMD方向で94MPa、TD方向で134MPaであり、面配向係数(ΔP)は0.0235であった。比較例7のフィルムは酸素透過度が121mL/m2/day/MPa以下と酸素透過度が高いため、ガスバリア性が不十分であった。
【0084】
(比較例8)
熱固定温度を200℃、TD方向の緩和温度を190℃に変更した以外は比較例7と同様の方法で延伸したが、熱固定処理の工程で破断し延伸フィルムを得ることが出来なかった。MD延伸倍率が2.5倍でTD延伸倍率が3.0倍である場合、熱固定温度を200℃にするとフィルムが耐えられず、破断してしまった。
【0085】
(比較例9)
ポリエステルフィルムの製膜条件を表2のように変更する以外は比較例1に記載と同様の方法にてポリエステルフィルムを製膜しようとしたところ、熱固定工程で破断し延伸フィルムを得ることが出来なかった。MD延伸倍率が3.4倍でTD延伸倍率が4.0倍である場合、熱固定温度を200℃にするとフィルムが耐えられず、破断してしまった。
【0086】
(実施例1)
蒸着源として、3~5mm程度の大きさの粒子状のAl2O3(純度99.5%)とSiO2(純度99.9%)を用い、電子ビーム蒸着法で、比較例1で得られたポリエステルフィルム上にAl2O3とSiO2を同時に蒸着しAl2O3-SiO2系薄膜層の形成を行った。蒸着材料は、直径40mmの円形の坩堝をカーボン板で2つに仕切り、それぞれに粒状のAl2O3、粒状のSiO2を混合せずに投入した。また、上記フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムを支持板に設置した。加熱源として一台の電子銃を用い、Al2O3とSiO2のそれぞれを時分割で電子ビームを照射して加熱し、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルム表面に加熱気化しAl2O3とSiO2とを混合して蒸着させた。その時の電子銃のエミッション電流は205mA、加速電圧は6kV、坩堝に投入された酸化アルミニウムには160mA×6kV相当の、酸化硅素には45mA×6kV相当の電力投入がされた。蒸着時の真空圧は1.1×10-4Paとし、フィルムの支持体の温度を23℃とした。薄膜層の厚みは製膜速度を変更することによって水晶振動子式膜厚計を使い約20nmとなるように蒸着し、積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0087】
MD方向の延伸温度を120℃としてMD方向に5倍に延伸し、TD方向の延伸温度を105℃としてTD方向に5倍に延伸することで、熱固定温度を200℃まで高めることができた。得られた積層ポリエステルフィルムの物性は、厚みが12μm、熱収縮率がMD方向で3.1%、TD方向で4.1%であり、破断強度がMD方向で287MPa、TD方向で251MPaであり、面配向係数(ΔP)は0.146であり、酸素透過度は7.6mL/m2/day/MPaであり、優れた機械物性、透明性、耐熱性を有するとともに、ガスバリア性に特に優れる積層ポリエステルフィルムを得ることができた。
【0088】
(実施例2)
ポリエステルフィルムを比較例2で得られたポリエステルフィルムに変更する以外は実施例1に記載と同様の方法にて積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0089】
MD方向の延伸温度を120℃としてMD方向に5倍に延伸し、TD方向の延伸温度を105℃としてTD方向に5倍に延伸することで、熱固定温度を200℃まで高めることができた。得られた積層ポリエステルフィルムの物性は、厚みが15.5μm、熱収縮率がMD方向で4.1%、TD方向で3.9%であり、破断強度がMD方向で263MPa、TD方向で258MPaであり、面配向係数(ΔP)は0.148であり、酸素透過度は7.8mL/m2/day/MPaであり、優れた機械物性、透明性、耐熱性を有するとともに、ガスバリア性に特に優れる積層ポリエステルフィルムを得ることができた。
【0090】
(実施例3~6)
薄膜層の厚み、組成を表1のように変更するために、電流、電力、製膜速度などの蒸着条件を変更する以外は実施例2に記載と同様の方法にて積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0091】
(実施例7~10)
蒸着に使用するポリエステルフィルムの製膜条件を表1のように変更する以外は実施例1に記載と同様の方法にて積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0092】
(実施例11)
ポリエステルフィルムを比較例7で得られたポリエステルフィルムに変更する以外は実施例1に記載と同様の方法にて積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0093】
【0094】