(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】車両用部材の取付構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20220118BHJP
F16B 5/06 20060101ALI20220118BHJP
F16B 19/00 20060101ALI20220118BHJP
B62D 25/16 20060101ALI20220118BHJP
B60R 19/03 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B62D25/08 E
F16B5/06 D
F16B19/00 J
B62D25/16 B
B60R19/03 C
(21)【出願番号】P 2018002147
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】596002767
【氏名又は名称】トヨタ自動車九州株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】江藤 康郎
(72)【発明者】
【氏名】南竹 一生
(72)【発明者】
【氏名】北芝 真之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一久
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-106779(JP,A)
【文献】特開2010-228729(JP,A)
【文献】特開2008-162411(JP,A)
【文献】特開2012-046087(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19856579(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
F16B 5/06
F16B 19/00
B62D 25/16
B60R 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側の被取付部に
、車両の側面視で前輪の周囲に位置するフェンダ部と、車両の側面視で前輪の前側に位置するバンパ部とを有する一体の樹脂成形品により構成された車両用部材を取り付けるための車両用部材の取付構造であって、
前記車両用部材および前記被取付部のいずれか一方側に装着され、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか他方側に形成された被係合部に係合する係合部材と、
前記車両用部材および前記被取付部のいずれか一方側に設けられ、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか他方側に形成された
挿入孔部に
挿入される
ピン状の突起部分である係止突部と、を備え
、
前記挿入孔部は、内周面により前記係止突部を挿入させる貫通孔を形成する筒状突部を有し、
前記係止突部による係合部は、前記係合部材による係合部に対して前方に位置している
ことを特徴とする車両用部材の取付構造。
【請求項2】
前記係合部材は、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか一方側に装着された状態で、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか他方側に向けて突出する突起部をなし、該突起部を前記被係合部に挿入させることで、前記被係合部に係合するものであり、
前記突起部の突出方向は、車両の幅方向に沿う方向である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項3】
前記係止突部の前記
挿入孔部に対する挿入方向は、車両の幅方向に沿う方向である
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項4】
前記係合部材は、該係合部材を装着させる係合部材取付体を介して前記車両用部材に装着されるものであり、
前記係止突部は、前記係合部材取付体に設けられている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の車両用部材の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の外装をなす樹脂製の部材に好適に用いられる車両用部材の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両においては、軽量化や意匠自由度の向上等を目的として、バンパやフェンダ等の車両の外装をなす部材を樹脂製の部材により構成したものがある。このような樹脂製の車両用部材については、その熱膨張率が鋼板等の金属製の部材の熱膨張率と比べて大きく、車両の使用環境下等において熱伸び(熱膨張)が生じるという問題がある。
【0003】
このような樹脂製の車両用部材の熱膨張に対応する技術として、例えば、特許文献1に開示された技術がある。特許文献1には、車体本体を構成する鋼板製のサイドアウタパネルと、サイドアウタパネルの外側に設けられた樹脂製のフェンダとの前後方向への相対移動を許容するスライドクリップを設けた構成が開示されている。
【0004】
具体的には、特許文献1に開示されたスライドクリップは、サイドアウタパネル側に装着されるピン部材と、フェンダ側に装着されるベース部材とから構成されており、ピン部材をベース部材に対して前後方向に相対移動可能に挿入・係合させる。そして、スライドクリップにおけるピン部材とベース部材との相対移動により、サイドアウタパネルに対するフェンダの熱伸びが許容(吸収)される。また、スライドクリップは、サイドアウタパネルに対するフェンダの取付部分となり、ピン部材のベース部材に対する挿脱により、車両の幅方向を着脱方向とするフェンダの着脱が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、鋼板製のサイドアウタパネルに対して樹脂製のフェンダの相対移動を許容することでフェンダの熱伸びを許容(吸収)するものである。このため、かかる技術によれば、フェンダの熱伸び自体を抑制することはできない。
【0007】
一方で、例えばフェンダの取付部分においてボルト等の締結具による締結構造を用いることで、フェンダの熱伸びは抑制できると考えられる。しかしながら、自動車の外装をなす部材であるフェンダにおいては、自動車の外観上あるいは構造上、締結具による締結構造の適用が困難な部位がある。また、締結具による固定構造は、フェンダの着脱作業性を低下させる原因となる。
【0008】
樹脂製の部材の熱伸びに対しては、その部材の伸び量分、自動車の外装において部材間に存在するクリアランスである見切り隙を広げる必要が生じる。つまり、樹脂製の部材の熱伸びによって見切り隙が狭まると、部材同士のかじりや塗装の剥がれ等の不具合が生じることになるため、見切り隙の大きさを、あらかじめ熱伸びを考慮した大きさに設定する必要がある。しかしながら、見切り隙を広げることは、自動車の見栄えを低下させ、商品力の低下に繋がる。なお、フェンダの場合、見切り隙は、例えば、フェンダとヘッドランプとの間や、フェンダとフロントドアとの間等に存在する。
【0009】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、車両用部材の取付けに関して良好な作業性を得ることができるとともに、車両用部材の熱伸びを抑制することができ、部材間の見切り隙の観点から見栄えを向上することができる車両用部材の取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両用部材の取付構造は、車体側の被取付部に、車両の側面視で前輪の周囲に位置するフェンダ部と、車両の側面視で前輪の前側に位置するバンパ部とを有する一体の樹脂成形品により構成された車両用部材を取り付けるための車両用部材の取付構造であって、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか一方側に装着され、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか他方側に形成された被係合部に係合する係合部材と、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか一方側に設けられ、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか他方側に形成された挿入孔部に挿入されるピン状の突起部分である係止突部と、を備え、前記挿入孔部は、内周面により前記係止突部を挿入させる貫通孔を形成する筒状突部を有し、前記係止突部による係合部は、前記係合部材による係合部に対して前方に位置しているものである。
【0011】
また、本発明に係る車両用部材の取付構造の他の態様は、前記車両用部材の取付構造において、前記係合部材は、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか一方側に装着された状態で、前記車両用部材および前記被取付部のいずれか他方側に向けて突出する突起部をなし、該突起部を前記被係合部に挿入させることで、前記被係合部に係合するものであり、前記突起部の突出方向は、車両の幅方向に沿う方向であるものである。
【0012】
また、本発明に係る車両用部材の取付構造の他の態様は、前記車両用部材の取付構造において、前記係止突部の前記挿入孔部に対する挿入方向は、車両の幅方向に沿う方向であるものである。
【0013】
また、本発明に係る車両用部材の取付構造の他の態様は、前記車両用部材の取付構造において、前記係合部材は、該係合部材を装着させる係合部材取付体を介して前記車両用部材に装着されるものであり、前記係止突部は、前記係合部材取付体に設けられているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両用部材の着脱に関して良好な作業性を得ることができるとともに、車両用部材の熱伸びを抑制することができ、部材間の見切り隙の観点から見栄えを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動車の前部の右側の部分を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るバンパ一体樹脂フェンダを示す外側の側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るバンパ一体樹脂フェンダの一部およびリテーナを示す内側の側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る車両用部材の取付構造を示す平面断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るクリップの一例を示す縦断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る車両用部材の取付構造の分解状態を示す平面断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る車両用部材の取付構造による取付けについての説明図である。
【
図8】本実施形態に係る取付構造に対する比較例の取付構造を示す平面断面図である。
【
図9】本実施形態に係る取付構造の第1の変形例を示す平面断面図である。
【
図10】本実施形態に係る取付構造の第2の変形例を示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、車体側の被取付部に車両用部材を取り付けるための車両用部材の取付構造において、係合部材による車両用部材の係合固定部と、係止突部による係止部とを設けることにより、車両用部材の良好な取付作業性を得ながら、車両用部材の熱伸びを抑制しようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
本実施形態では、車両用部材の取付構造(以下単に「取付構造」ともいう。)を、車両としての自動車1の外装をなす樹脂製のパネル部材に適用した場合を例にとって説明する。具体的には、
図1および
図2に示すように、本実施形態に係る車両用部材は、バンパとフェンダとが一体に形成されたバンパ一体樹脂フェンダとしてのバンパ一体フェンダ20である。すなわち、自動車においては、例えば、車体の外装部品として、車体の前下端部を構成する合成樹脂製のバンパと、バンパの後側に連続するように設けられた金属製のフェンダ(フロントフェンダパネル)とを有する構成のように、バンパとフェンダが互いに別部材である構成が広く用いられているが、本実施形態に係る自動車1は、その前部における外装をなす部材として、樹脂製のバンパ一体フェンダ20を備える。
【0019】
したがって、バンパ一体フェンダ20は、上述したようなバンパとフェンダが互いに別部材である構成におけるフェンダに対応する部分であるフェンダ部21と、同構成におけるバンパに対応する部分であるバンパ部22とを有する。そして、バンパ一体フェンダ20は、自動車1において左右対称な構成として左右両側に設けられている。
【0020】
このように、バンパ一体フェンダ20は、自動車1の側面視で前輪2の周囲に位置するフェンダ部21と、自動車1の側面視で前輪2の前側に位置するバンパ部22とを有する一体の樹脂成形品により構成されている。本実施形態では、バンパ一体フェンダ20は、自動車1の前部の左右両側のそれぞれにおいてフェンダ部21およびバンパ部22をなす部材として構成されている。ただし、バンパ一体フェンダ20は、例えば、左右のバンパ部22の前端部間に架設されて左右のバンパ部22同士を繋ぐ架設部分を有することで、左右のフェンダ部21およびバンパ部22をなす一体の部材として構成されたものであってもよい。
【0021】
説明の便宜上、図面に記載した矢印UPの方向、矢印FRの方向、および矢印RHの方向を、それぞれ自動車1の上方向、前方向、および右方向とする。また、自動車1における前後方向、上下方向、および左右方向(車幅方向)の各記載には、各記載が示す厳密な方向からずれた方向、つまり略前後方向、略上下方向、および略左右方向の意味が含まれる。さらに、図面においては、主に自動車1の右側の部分を示しているが、本実施形態に係る取付構造は、自動車1の左側でも同様に適用される。
【0022】
図1に示すように、自動車1において、その前部には、前輪2が位置するホイルハウス3が形成されている。ホイルハウス3内には、前輪2の上半部を覆うように形成されたフェンダライナ4が設けられている。前輪2の周囲に、自動車1の側面視で前輪2の上側の部分を囲むように、フェンダ部21およびバンパ部22を有するバンパ一体フェンダ20が設けられている。
【0023】
左右のバンパ一体フェンダ20のフェンダ部21間には、ボンネット5が設けられている。バンパ一体フェンダ20のフェンダ部21の後端部の上側には、上方に向けて延設されたフロントピラー6が設けられている。バンパ一体フェンダ20の後側には、フロントドア7が設けられている。バンパ一体フェンダ20のフェンダ部21の後端部の下側には、前後方向に延設されたロッカ(サイドシル)8の前端部が位置している。
【0024】
また、バンパ一体フェンダ20におけるフェンダ部21の前側であってバンパ部22の上側には、自動車1の左右に配置されるヘッドランプ9が設けられている。ヘッドランプ9の下方には、フォグランプ10が設けられている。
【0025】
バンパ一体フェンダ20は、合成樹脂材料の射出成形等により成形された樹脂製の一体成形部材である。バンパ一体フェンダ20の材料は、例えばポリプロピレン系の樹脂である。
【0026】
図2に示すように、バンパ一体フェンダ20は、その後部をフェンダ部21とし、前部をバンパ部22とする。バンパ一体フェンダ20における主にフェンダ部21側の部分の下側には、前輪2の外形に沿うように側面視でアーチ状をなすホイルアーチ部23が形成されている。
【0027】
バンパ一体フェンダ20においては、その前上部に、ヘッドランプ9の外形に沿うヘッドランプ用開口凹部24が形成されている。つまり、ヘッドランプ9は、その周囲の大部分をバンパ一体フェンダ20により囲繞されており、ヘッドランプ用開口凹部24を介して外部に露出している。
【0028】
ヘッドランプ用開口凹部24は、側面視において、略平行四辺形状に沿う形状を有し、前下がり状に傾斜した前辺部24aと、前辺部24aと鋭角状の角部をなすとともに略水平状の下辺部24bと、下辺部24bと鈍角状の角部をなし後上がり状に傾斜した後辺部24cと、後辺部24cと鋭角状の角部をなし緩やかに前下がり状に傾斜した上辺部24dとを有する。ヘッドランプ用開口凹部24の前上側には、前辺部24aの上端(後端)と上辺部24dの前端との間を非連続とした開放部24eが形成されている。
【0029】
バンパ一体フェンダ20の上側には、ボンネット5の左右側部の形状に沿うボンネット側縁部25が形成されている。ボンネット側縁部25は、ヘッドランプ用開口凹部24の開放部24eを介して、フェンダ部21の上縁部であるフェンダ側縁部25aと、バンパ部22の上縁部であるバンパ側縁部25bとを有する。フェンダ側縁部25aは、その前部により、ヘッドランプ用開口凹部24の上辺部24dとともに、前側に突出した後尖鋭部26aを形成している。また、バンパ側縁部25bは、ヘッドランプ用開口凹部24の前辺部24aとともに、後側に突出した前尖鋭部26bを形成している。後尖鋭部26aと前尖鋭部26bとは、互いに対向し、互いの間を、ヘッドランプ用開口凹部24の開放部24eとする。
【0030】
バンパ一体フェンダ20の後側には、フロントドア7の前側の形状に沿うドア側縁部27が形成されている。バンパ一体フェンダ20の後部の上側には、バンパ一体フェンダ20の外形において、ドア側縁部27の上端とフェンダ側縁部25aの後端とを繋ぐピラー側縁部28が形成されている。
【0031】
バンパ一体フェンダ20において、ドア側縁部27の下部と、ホイルアーチ部23の後部とは、側面視で下方への矩形状の突出部分を形成し、その突出側の端部には、ロッカ8を取り付けるためのフランジ部29が形成されている。フランジ部29は、ロッカ8の前端部に対して上側から対向するロッカ側縁部30から車幅方向の内側に段差状に形成されている。また、バンパ一体フェンダ20においては、自動車の左右のフォグランプ10を配置するためのフォグランプ用開口部31が形成されている。
【0032】
以上のようなバンパ一体フェンダ20において、ヘッドランプ用開口凹部24は、ヘッドランプ9との間で見切り隙(
図4、見切り隙S1参照)を形成する部分となる。また、ボンネット側縁部25は、ボンネット5との間で見切り隙を形成する部分となる。また、ドア側縁部27は、フロントドア7との間で見切り隙を形成する部分となる。また、ピラー側縁部28は、フロントピラー6との間で見切り隙を形成する部分となる。なお、これらのバンパ一体フェンダ20が有する各縁部には、バンパ一体フェンダ20の外形に沿って内側への屈曲部分であるフランジ部20aが形成されている。
【0033】
以上のような構成において、本実施形態に係る取付構造は、車体側の被取付部であるボデー側取付板部41にバンパ一体フェンダ20を取り付けるための取付部40において採用されている。取付部40は、自動車1の車体に対するバンパ一体フェンダ20の取付部として複数存在するバンパ一体フェンダ20の固定部のうちの一部である。バンパ一体フェンダ20の固定部としては、取付部40のほか、例えば、ボルト等の締結部材による締結部が存在しており、これらの固定部は、ボンネット側縁部25やドア側縁部27等のバンパ一体フェンダ20の外縁において適宜の間隔を隔てて配設されている。
【0034】
本実施形態に係る取付構造を採用した取付部40は、ヘッドランプ9の周囲において複数箇所に配設されている。具体的には、
図3に示すように、取付部40は、ヘッドランプ用開口凹部24の後辺部24cの内側(後側)において、後辺部24cに沿って略等間隔を隔てた3箇所に設けられている。3箇所の取付部40のうち、上の取付部40Aは、後辺部24cの上端部の近傍(後辺部24cと上辺部24dとの角部分の近傍)に設けられており、下の取付部40Cは、後辺部24cの下端部の近傍に設けられており、中間の取付部40Bは、後辺部24cの中央部の近傍に設けられている。
【0035】
本実施形態に係る取付構造は、
図4に示すように、ボデー側取付板部41に対するバンパ一体フェンダ20の係合部分として、係合部材としてのクリップ42による第1の係合部51と、バンパ一体フェンダ20側に設けられた係止突部としての係止ピン43による第2の係合部52とを備える。なお、
図4は、
図3におけるA-A断面図であり、中間の取付部40Bの部分を示した平面断面図である。
【0036】
ボデー側取付板部41は、自動車1の車体において所定の部分に固定された板状の部分である。ボデー側取付板部41は、概ね左右方向を板厚方向とする。ボデー側取付板部41は、例えばポリプロピレン等の樹脂製の部材により構成されている。ボデー側取付板部41は、バンパ一体フェンダ20よりも外形寸法が大幅に小さい板状部材により構成されている。ただし、ボデー側取付板部41を構成する部材は、樹脂製の部材に限定されるものではなく、例えば鋼板等の金属製の部材であってもよい。
【0037】
クリップ42は、樹脂製の部材であり、バンパ一体フェンダ20側に取り付けられるとともにボデー側取付板部41を貫通した状態でバンパ一体フェンダ20をボデー側取付板部41に係合させる挿入型の係合部材である。
【0038】
図5に示すように、クリップ42は、その中心軸部分であってボデー側取付板部41を貫通する挿入部60aをなす軸部60と、軸部60の挿入先端側(
図5において下側)と反対側の端部に設けられた第1鍔部61と、第1鍔部61に対して軸部60の挿入先端側に所定の間隔を隔てて設けられた第2鍔部62とを有する。クリップ42においては、軸部60の第2鍔部62よりも挿入先端側の部分が、ボデー側取付板部41に対する挿入部60aとなる。以下では、クリップ42において、軸部60の軸方向について軸部60の挿入先端側を単に「先端側」、その反対側を「基端側」という。
【0039】
クリップ42は、軸部60の軸心線に一致する中心軸C1を中心とした略回転体形状に沿う外形を有する。クリップ42は、その中心軸C1に沿う方向を、ボデー側取付板部41に対する挿入方向とする。
【0040】
第1鍔部61は、軸方向に垂直な円板状の部分である。第1鍔部61は、
図5に示すようなクリップ42の中心軸C1を通る縦断面視において、軸方向に直交する方向に中心軸C1を中心として両側に突出する舌片状の部分となる薄板状の部分である。
【0041】
第2鍔部62は、中心軸C1に垂直な円板状の部分であり、第1鍔部61よりも大径の部分である。第2鍔部62は、いずれも中心軸C1に垂直な薄い円板状の部分である基端側鍔部64および先端側鍔部65による2枚板形状を有する。第2鍔部62は、その周縁側の部分を軸部60の軸方向に2枚に分離させた態様で基端側鍔部64および先端側鍔部65をなし、全体として扁平な略鼓形状を有する。
【0042】
基端側鍔部64および先端側鍔部65は、いずれも、クリップ42の中心軸C1を通る縦断面視において、軸方向に直交する方向に中心軸C1を中心として両側に突出する舌片状の部分となる薄板状の部分である。先端側鍔部65の外径は、基端側鍔部64の外径よりも若干大きい。基端側鍔部64は、軸方向に直交する平面に略平行であるのに対し、先端側鍔部65は、中心軸C1から外周側にかけて基端側鍔部64との間の間隔を徐々に広げるようにゆるやかに傾斜しており、軸部60の挿入部60aに対して略傘状(扁平な略截頭円錐面状)の形状部分となっている。
【0043】
軸部60の挿入部60aは、その基端側に縮径状の段差凹部60bを有し、先端部にテーパ形状部60cを有する。段差凹部60bの上部は、略傘状の先端側鍔部65により覆われている。つまり、先端側鍔部65は、クリップ42の側面視において、外周縁端を段差凹部60b上に位置させ、段差凹部60bの基端側の一部を覆うように形成されている。
【0044】
挿入部60aは、その中心軸部をなす基部66と、基部66の周りに挿入部60aの周方向について複数箇所(例えば等角度間隔に4箇所)に設けられた架設壁部67とを有する。
【0045】
基部66は、挿入部60aの軸方向の全体にわたって形成されている。架設壁部67は、軸部60の軸方向を長手方向とし、その両端部を挿入部60aの基部66に繋げるとともに、基部66に対して隙間を持った状態で(浮いた状態で)架設された柱状の部分である。架設壁部67は、挿入部60aの外周面となる外周壁面67aを有する。外周壁面67aは、挿入部60aがボデー側取付板部41に挿入される際の摺動面となる。また、架設壁部67の基端側には、段差凹部60bをなす段差面として、挿入部60aの外径を先端側から基端側にかけてテーパ状に縮径させる傾斜面67bが形成されている。
【0046】
軸部60は、第1鍔部61と第2鍔部62(基端側鍔部64)との間の部分である基端軸部60dを有する。基端軸部60dは、円柱面である外周面60eを有する。基端軸部60dの軸心部には、第1鍔部61の中央部において基端側に開口した穴部60fが形成されている。
【0047】
以上のようなクリップ42において、第1鍔部61、基端軸部60d、および第2鍔部62(基端側鍔部64)により、クリップ42の縦断面視で径方向外側を開放側とする凹状部68が軸回りに全周にわたって形成されている。凹状部68は、バンパ一体フェンダ20側に対するクリップ42の装着における係合部分となる。また、クリップ42において、第2鍔部62(先端側鍔部65)および軸部60の段差凹部60bは、ボデー側取付板部41に対するクリップ42の係合部分となる。
【0048】
クリップ42は、バンパ一体フェンダ20とは別体の部材であるリテーナ70を介してバンパ一体フェンダ20に装着される。リテーナ70は、バンパ一体フェンダ20側においてクリップ42を装着させる係合部材取付体である。
【0049】
リテーナ70は、バンパ一体フェンダ20の外形の範囲内に納まる大きさの板状の部材である。リテーナ70は、例えばポリプロピレン等の合成樹脂を材料として射出成形等により形成された樹脂製の部材である。
【0050】
リテーナ70は、バンパ一体フェンダ20に対しその内側から重なった状態で、溶着やボルト等の締結具等によりバンパ一体フェンダ20に固定されている。つまり、リテーナ70は、その外側の板面70cを、バンパ一体フェンダ20の内側面20cに接触させた状態で、バンパ一体フェンダ20に固定されている。リテーナ70は、バンパ一体フェンダ20に固定されることで、バンパ一体フェンダ20とともに、車体側に対する一体的な取付部材20Aを構成する(
図6参照)。
【0051】
リテーナ70は、
図3に示すように、バンパ一体フェンダ20の内側面20cにおいて、ヘッドランプ用開口凹部24とホイルアーチ部23との間の部分に重なるように設けられている。詳細には、リテーナ70は、その外形をなす縁部として、ヘッドランプ用開口凹部24の後辺部24cに沿う前側縁部70aと、ホイルアーチ部23の湾曲形状に沿う後側縁部70bとを有する。そして、リテーナ70は、後側縁部70bを上底側、前側縁部70aを下底側とする略台形状の外形を有する。
【0052】
リテーナ70は、クリップ42の取付け座面部分となる装着面部71を有する。装着面部71は、バンパ一体フェンダ20に対するリテーナ70の装着状態において、内側面20cに対して間隔を隔てて離間した状態(浮いた状態)となる板状部分である。つまり、装着面部71は、リテーナ70において、内側面20cに沿う他の部分に対して左右方向内側に向けて部分的に段差状に突出した板状部分である。
【0053】
装着面部71には、クリップ42の取付部分としての取付凹部72が形成されている。取付凹部72は、
図3に示す例では、上側を開放側とする切欠き状の部分である。取付凹部72には、クリップ42の基端軸部60dを嵌合させる略円形孔状の開口部72aが形成されている。
【0054】
このような装着面部71に対して、クリップ42は、その基端軸部60dを開口部72aに嵌合させた状態で取り付けられる。装着面部71に対するクリップ42の装着状態において、クリップ42は、第1鍔部61と第2鍔部62とにより装着面部71を挟持した状態となる。つまり、クリップ42の装着状態においては、クリップ42の凹状部68に、装着面部71の開口部72aを形成する部分が嵌合した状態となる。このようにリテーナ70においてクリップ42の取付部分となる装着面部71が、3箇所の取付部40(40A,40B,40C)に対応して3箇所に設けられている。なお、装着面部71に対するクリップ42の装着構造は特に限定されるものではなく、クリップ42を所定の位置に固定させることができる構造であればよい。
【0055】
また、ボデー側取付板部41においては、クリップ42に対する被係合部となる係合孔部44が形成されている。係合孔部44は、装着面部71の開口部72aに対応する位置において、開口部72aと同軸心となるように形成された円形状の貫通孔44aを形成する部分である。係合孔部44は、ボデー側取付板部41において、装着面部71に対して左右方向の内側から重なるように装着面部71と平行状をなす平面部45に形成されている。平面部45は、ボデー側取付板部41の前部に形成されている。
【0056】
このように係合孔部44を有するボデー側取付板部41に対して、リテーナ70に装着されたクリップ42は、係合孔部44に挿入部60aを貫通させ、段差凹部60bに係合孔部44を嵌合させた状態で、ボデー側取付板部41に係合する。ボデー側取付板部41に対するクリップ42の係合状態において、クリップ42は、段差凹部60bに係合孔部44を嵌合させるとともに、平面部45の外側面45aに、第2鍔部62(の先端側鍔部65)を圧接させた状態となる。こうしたクリップ42によるボデー側取付板部41に対する係合固定作用により、取付部材20Aの左右外方向(
図4では上方向)への外れが防止される。このようにボデー側取付板部41においてクリップ42の係合部分となる係合孔部44が、3箇所の取付部40(40A,40B,40C)に対応して3箇所に設けられている。
【0057】
以上のように、クリップ42は、リテーナ70によりバンパ一体フェンダ20側に装着され、ボデー側取付板部41側に形成された係合孔部44に係合する。本実施形態では、クリップ42は、バンパ一体フェンダ20側に装着された状態で、係合孔部44側に向けて突出する突起部42Aをなし、この突起部42Aを係合孔部44に挿入させることで、係合孔部44に係合するものである。突起部42Aは、リテーナ70に対するクリップ42の装着状態において、装着面部71の内側面71aに接触した状態となる第2鍔部62から突出した軸部60の挿入部60aにより形成される。
【0058】
そして、本実施形態において、突起部42Aの突出方向は、車両の幅方向、つまり左右方向に沿う方向である。リテーナ70の装着面部71は、左右方向を板厚方向とする板状部分として設けられており、この装着面部71に対して、クリップ42は、突起部42Aを装着面部71に垂直方向に貫通させた状態で装着される。これにより、クリップ42の中心軸C1の軸線方向が、装着面部71の板面に対して垂直方向、つまり左右方向に平行な方向となっている。
【0059】
次に、係止ピン43について説明する。係止ピン43は、クリップ42が装着されるリテーナ70に設けられている。本実施形態では、係止ピン43は、樹脂成形品であるリテーナ70の一部として形成されている。
【0060】
係止ピン43は、リテーナ70の装着面部71においてクリップ42の装着部分となる開口部72aの前方の近傍位置に設けられている。係止ピン43は、例えば、リテーナ70に装着されたクリップ42と同じ高さ位置に設けられる。
【0061】
係止ピン43は、装着面部71の内側面71aに対して左右内側方向に向けて垂直状に突出したピン状の突起部分であり、横断面形状を円形状とする円柱状の部分である。詳細には、係止ピン43は、装着面部71の内側面71aから係止ピン43の先端側にかけて徐々に縮径した円錐台状の外形に沿う基部43aと、基部43aから係止ピン43の先端側への延出部分である円柱状のピン本体部43bとを有する。基部43aの先端側の外径が、ピン本体部43bの基端側の外径となっている。なお、係止ピン43は、ピン本体部43bにおいてあるいはピン全体として、基端側から先端側にかけて徐々に縮径したテーパ形状を有する部分であってもよい。
【0062】
係止ピン43は、ヘッドランプ9等、ボデー側取付板部41の内側に位置する構造物に干渉しない程度の長さを有する。本実施形態では、係止ピン43の長さ、つまり装着面部71の内側面71aから係止ピン43の先端面43cまでの寸法は、クリップ42による突起部42Aの突出長さの略半分の長さである。また、係止ピン43のピン本体部43bの外径は、クリップ42の軸部60の外径の略半分程度である。ピン本体部43bの外径は、例えば5mm程度である。
【0063】
また、ボデー側取付板部41側においては、係止ピン43に対する被係止部となる挿入孔部46が形成されている。挿入孔部46は、装着面部71に形成された係止ピン43に対応する位置において、係止ピン43と同軸心となるように形成された円形状の貫通孔46aを形成する部分である。挿入孔部46は、係合孔部44が形成された平面部45において、係合孔部44の前方の近傍位置に形成されている。
【0064】
挿入孔部46は、平面部45の内側面45bから左右内側に突出した筒状突部46bを有する。つまり、挿入孔部46の貫通孔46aの貫通方向の長さは、筒状突部46b突出長さ分、平面部45の板厚寸法よりも長くなっている。本実施形態では、貫通孔46aの貫通方向の長さは、係止ピン43のピン本体部43bの長さよりも短くなっている。
【0065】
係止ピン43を貫通させる貫通孔46aの内径は、ピン本体部43bの外径に対して、貫通孔46aの内周面とピン本体部43bの外周面との間に例えば0.1~0.3mm程度のわずかなガタ(隙間)(
図4、符号D1参照)が生じる大きさに設定されている。ただし、貫通孔46aに対する係止ピン43の挿入態様としては、貫通孔46aの内周面とピン本体部43bの外周面との間にガタ(隙間)がなく、貫通孔46aとピン本体部43bとが全周にわたって接触する態様であってもよい。
【0066】
また、貫通孔46aに対する係止ピン43の挿入をガイドする部分として、ピン本体部43bの先端部にテーパ部を設けたり、貫通孔46aの受入れ側(左右方向の外側)の開口端部に逆テーパ面状の拡径部を設けたりしてもよい。これにより、貫通孔46aに対する係止ピン43の位置決めおよび挿入が容易となる。
【0067】
このように挿入孔部46を有するボデー側取付板部41に対して、リテーナ70に設けられた係止ピン43は、挿入孔部46の貫通孔46aにピン本体部43bを貫通させ、挿入孔部46に挿入された状態で、ボデー側取付板部41に係合する。ボデー側取付板部41に対する係止ピン43の係合状態において、係止ピン43は、そのピン本体部43bの先端部を、筒状突部46bから突出させる。このようにボデー側取付板部41において係止ピン43の係合部分となる挿入孔部46が、3箇所の取付部40(40A,40B,40C)に対応して3箇所に設けられている。
【0068】
以上のように、係止ピン43は、リテーナ70の一部としてバンパ一体フェンダ20側に設けられ、ボデー側取付板部41側に形成された被挿入部としての挿入孔部46に挿入される。
【0069】
そして、本実施形態において、係止ピン43の挿入孔部46に対する挿入方向は、リテーナ70に装着された状態のクリップ42の突起部42Aの突出方向と同様、車両の幅方向に沿う方向である。つまり、係止ピン43の中心軸C2の軸線方向と、装着状態のクリップ42の中心軸C1の軸線方向とは互いに平行となっている。左右方向を板厚方向とする板状部分である装着面部71において、係止ピン43は、装着面部71の内側面71aから垂直方向に突設されている。これにより、係止ピン43の中心軸C2の軸線方向が、装着面部71の板面に対して垂直方向、つまり左右方向に平行な方向となっている。
【0070】
以上のような構成を備えた本実施形態に係る取付構造における、ボデー側取付板部41に対するバンパ一体フェンダ20の取付け、つまり取付部40におけるバンパ一体フェンダ20の取付けについて説明する。
【0071】
バンパ一体フェンダ20は、
図6に示すように、リテーナ70とともに一体的な取付部材20Aを構成し、取付部材20Aとして、ボデー側取付板部41に取り付けられる。取付部材20Aは、左右方向の外側から内側に向けてボデー側取付板部41に対して押し付けられることで、ボデー側取付板部41に取り付けられる(矢印E1参照)。
【0072】
取付部材20Aの取付けにおいては、クリップ42がその突起部42Aの先端を係止ピン43の先端よりも左右方向の内側に位置させていることから、まず、
図7(a)に示すように、クリップ42の先端が、ボデー側取付板部41の係合孔部44に到達する。その後、取付部材20Aが左右方向の内側に移動してボデー側取付板部41に近付くことで、
図7(b)に示すように、係止ピン43がボデー側取付板部41の挿入孔部46に到達する。
【0073】
そして、さらに取付部材20Aが左右方向の内側に移動することで、
図4に示すように、クリップ42が貫通孔44aに突起部42Aを貫通させて段差凹部60bに係合孔部44を嵌合させた状態でボデー側取付板部41に係合するとともに、係止ピン43がそのピン本体部43bを貫通孔46aに貫通させて挿入孔部46に挿入された状態となる。これにより、取付部40におけるボデー側取付板部41に対する取付部材20Aの取付け、つまりバンパ一体フェンダ20の取付けが完了する。
【0074】
バンパ一体フェンダ20の取付けの過程において、クリップ42は、その先端のテーパ形状部60cにより、貫通孔44aに対するガイド作用を得ながら、係合孔部44に挿入される。また、クリップ42の係合孔部44に対する挿入の過程においては、外周壁面67aが貫通孔44aの内周面に対する摺動面となり、突起部42A(挿入部60a)が架設壁部67の弾性変形をともなって貫通孔44aの内径に応じて一時的に縮径して貫通孔44aを通過し、段差凹部60bに係合孔部44を係合させる。
【0075】
そして、クリップ42がボデー側取付板部41に係合した状態においては、基端側鍔部64および先端側鍔部65を含む2枚構造の第2鍔部62(
図5参照)の弾性による反力等により、クリップ42によるボデー側取付板部41に対する十分な係合力が得られる。これにより、取付部40においては、クリップ42の係合作用によって、取付部材20Aの左右外方向への外れを防止する作用が得られる。
【0076】
また、係止ピン43の挿入孔部46に対する挿入係合により、特に前後方向(
図4における左右方向)について、ボデー側取付板部41に対するバンパ一体フェンダ20の固定作用が得られる。
【0077】
以上のような本実施形態に係る取付構造によれば、バンパ一体フェンダ20の着脱(特に取付け)に関して良好な作業性を得ることができるとともに、バンパ一体フェンダ20の熱伸びを抑制することができ、部材間の見切り隙の観点から見栄えを向上することができる。このような効果が得られることについて具体的に説明する。
【0078】
バンパ一体フェンダ20は樹脂製の部材であるため、その熱膨張率が鋼板等の金属製の部材と比べて大きく、自動車1の使用環境下等において熱伸びが生じるという問題がある。特に、バンパ一体フェンダ20は、一般的にそれぞれ独立した部材として設けられるフェンダ部21とバンパ部22とを有する比較的大きい部材であるため、その分、熱伸びの量も大きくなる。
【0079】
特に、バンパ一体フェンダ20においては、ヘッドランプ9との間で見切り隙S1を形成する部分となるヘッドランプ用開口凹部24の後辺部24cを前方へ変位させる熱伸び(矢印F1参照)が、見栄えの観点から重要となる。すなわち、バンパ一体フェンダ20の熱伸びによって見切り隙S1が狭まることは、ヘッドランプ9周囲の見切り隙の幅のバラツキ等による見栄えの低下や、バンパ一体フェンダ20とヘッドランプ9との間で部材同士のかじりや塗装の剥がれ等の不具合の原因となるため、見切り隙の大きさを、あらかじめ熱伸びを考慮した大きさに設定する必要がある。しかしながら、見切り隙を広げることは、自動車1の見栄えを低下させ、商品力の低下に繋がる。ここで、見切り隙S1は、ヘッドランプ9の側面見切り部であり、ヘッドランプ用開口凹部24の後辺部24cと、これに対向するヘッドランプ9の外側面部9aの後端縁部9bとの間に形成される。
【0080】
一方、本実施形態に係る自動車1のようにバンパ一体フェンダ20を備えた構成の場合、ヘッドランプ9との関係において、車体側に対する組付け順序は、部品の構成上、先にヘッドランプ9が組み付けられた状態で、バンパ一体フェンダ20が組み付けられる。このことは、バンパ一体フェンダ20(特にバンパ部22)が、ヘッドランプ9に対して、例えばヘッドランプ9の下方の部位等においてくわえ込み構造(印籠構造)等の係合構造を有することに起因する。つまり、かかる係合構造が存在するため、ヘッドランプ9よりも先にバンパ一体フェンダ20の組付けを行うという逆の組付け順序は成立しないことになる。
【0081】
したがって、バンパ一体フェンダ20において、見切り隙S1をなすヘッドランプ用開口凹部24の後辺部24cに沿って配設される取付部40の構造として、部品構成上、ヘッドランプ9と関係を持つ機械締結(例えばボルト・スクリュー・リベット等の締結具による締結構造)を設定することが難しい。このため、取付部40に対応する固定部においては、クリップ42等の嵌合のみによる取付構造によって対応する必要がある。
【0082】
ここで、
図8に、本実施形態に係る取付構造に対する比較例の取付構造を示す。
図8に示すように、比較例の取付構造は、係止ピン43による係合部を備えず、クリップ42による係合部のみを備える。また、クリップ42の中心軸C1の方向は、左右方向に対して、左右方向の外側を前方、内側を後方に位置させる向きに傾斜している。なお、
図8に示す比較例の取付構造において、クリップ42は、バンパ一体フェンダ20に固定されたリテーナ170が有する所定形状の板状部分である装着面部171に装着され、リテーナ170を介してバンパ一体フェンダ20に取り付けられている。また、クリップ42は、車体側に設けられた所定の形状を有するボデー側取付板部141に形成された係合孔部144に挿入係合している。
【0083】
図8に示す比較例の取付構造によれば、自動車1の熱環境下において、バンパ一体フェンダ20の車両前方への熱伸び(矢印F1参照)を抑制することができない。つまり、クリップ42による係合作用のみでは、クリップ42の撓みやガタ等の影響により、バンパ一体フェンダ20の熱伸びに起因する車両前方へのせん断荷重(矢印F2参照)に対し、ボデー側取付板部41に対する拘束力が十分に得られず、バンパ一体フェンダ20の前端部が前方へと変位することになる。このため、熱伸びによる伸び量分、見切り隙S1を広げる必要があり、このことは商品力の低下に繋がる。
【0084】
また、
図8に示す比較例の取付構造によれば、クリップ42の中心軸C1の方向が、左右方向の外側(バンパ一体フェンダ20側)が前側に位置するように傾斜していることから、クリップ42が、バンパ一体フェンダ20の熱伸びによる前方への荷重の影響を受けやすくなる。このことは、クリップ42の撓みや転び(傾倒)を生じさせる要因となり、バンパ一体フェンダ20の車両前方への熱伸びを抑制することを妨げる。
【0085】
このような比較例の取付構造に対し、本実施形態に係る取付構造は、機械締結を用いず、クリップ42による第1の係合部51と併せて、係止ピン43による第2の係合部52を備える。そして、第1の係合部51においては、主にバンパ一体フェンダ20が左右外方向に外れることを規制する作用が得られ、第2の係合部52においては、主にバンパ一体フェンダ20の車両前方への熱伸びを抑制する作用が得られる。したがって、係止ピン43は、バンパ一体フェンダ20の熱伸びによる前方への荷重の作用により変形しない程度の剛性を有する部分として設けられる。
【0086】
このような本実施形態に係る取付構造によれば、市場熱環境下におけるバンパ一体フェンダ20の熱伸び、特に車両前方への熱伸びを大幅に抑制することが可能となる。これにより、ヘッドランプ9の側面見切り部(見切り隙S1)を広げる必要がなくなり、商品力の低下を防ぐことができる。具体的には、例えば、見切り隙S1を、バンパとは別部材として鋼板製のフェンダを備えた構成の場合の見切り隙と同等の大きさにすることが可能となる。なお、取付部材20Aが固定されるボデー側取付板部41は、上記のとおりバンパ一体フェンダ20よりも外形寸法が大幅に小さい板状部材により構成されていることから、ボデー側取付板部41の熱伸びによる変位量は、バンパ一体フェンダ20に比べて十分に少ない。
【0087】
また、本実施形態に係る取付構造によれば、バンパ一体フェンダ20を含む取付部材20Aを左右方向の内側に向けて押し付ける操作のみにより、係合孔部44に対するクリップ42の係合にともなってほぼ自動的に係止ピン43を挿入孔部46に挿入させることができる。これにより、バンパ一体フェンダ20と取付作業において良好な作業性を得ることができる。そして、バンパ一体フェンダ20の取付けにおいて、ヘッドランプ9周辺の取付部40の部位の建付調整が容易となる。このことは、生産性の向上につながる。
【0088】
また、本実施形態に係る取付構造において、クリップ42は、バンパ一体フェンダ20側に装着された状態で突起部42Aをなし、この突起部42Aをボデー側取付板部41の係合孔部44に係合させることで係合するものであり、突起部42Aの突出方向は、車両の幅方向に沿う方向となっている。このような構成によれば、クリップ42が受けるバンパ一体フェンダ20の熱伸びによる前方への荷重の影響を小さくすることができ、クリップ42の撓みを抑制することができる。これにより、バンパ一体フェンダ20の車両前方への熱伸びを効果的に抑制することができる。
【0089】
また、突起部42Aの突出端は、係止ピン43の突出端よりも左右方向の内側に位置し、突起部42Aおよび係止ピン43は、前後方向に平行に設けられた平面部45に対して挿入される。このような構成によれば、バンパ一体フェンダ20の取付作業において、係止ピン43の挿入に際し、クリップ42が先に平面部45に到達して挿入されることでガイド作用を得ることができるので、良好な取付作業性を得ることができる。
【0090】
また、本実施形態に係る取付構造において、係止ピン43の挿入孔部46に対する挿入方向、つまり係止ピン43の突出方向は、車両の幅方向に沿う方向となっている。このような構成によれば、ボデー側取付板部41に対して、クリップ42を係合させるためのバンパ一体フェンダ20の移動操作方向と共通の方向により、係止ピン43を係合させることが可能となり、バンパ一体フェンダ20の取付作業について良好な作業性を得ることができる。また、ボデー側取付板部41に対する係止ピン43の係合部位において、バンパ一体フェンダ20の熱伸びによる車両前方への変位に対して高い拘束力を得ることができるので、バンパ一体フェンダ20の車両前方への熱伸びを効果的に抑制することができる。
【0091】
また、本実施形態に係る取付構造において、クリップ42は、リテーナ70を介してバンパ一体フェンダ20に装着されており、このリテーナ70に、係止ピン43が設けられている。このような構成によれば、バンパ一体フェンダ20とは別体のリテーナ70にクリップ42の取付座面部分および係止ピン43が設けられていることから、バンパ一体フェンダ20に直接、つまりバンパ一体フェンダ20の一部として、クリップ42の取付座面部分あるいは係止ピン43を設けた場合に懸念されるヒケ等の樹脂部品特有の面品質不良を解消することができる。ここで、ヒケは、射出成形における射出圧力の不足や冷却不足等に起因して生じる窪みであり、例えば数マイクロメートル程度の深さであっても外観不良の原因となるものである。ただし、クリップ42の取付座面部分および係止ピン43は、バンパ一体フェンダ20の一部として形成されてもよい。
【0092】
また、本実施形態に係る取付構造において、車体側に取り付けられる車両用部材は、バンパ一体フェンダ20である。このような構成によれば、例えば、樹脂製のバンパと金属製のフェンダとを別部材として備えた別体構成の場合と比べて、軽量化を図ることができるとともに、自動車1の外装をなす部材に関して意匠自由度を向上させて複雑な意匠への対応が可能となる。また、バンパ一体フェンダ20によれば、別体構成の場合にバンパおよびフェンダをそれぞれを成形するために必要となる金型を一つにすることができるので、型費の低減を図ることができる。
【0093】
そして、本実施形態に係る取付構造によれば、比較的大きい樹脂製の部材であるバンパ一体フェンダ20において問題となりやすい熱伸び(特に、車両前方への熱伸び)を抑制することができ、ヘッドランプ9の側面見切り部を小さくすることができる。具体的には、ヘッドランプ9の側面見切り部について、例えば別体構成のように樹脂製の部材と比べて熱膨張率が小さい鋼板製のフェンダを備えた構成の場合と同等あるいはそれよりも小さい見切り隙を実現することが可能となる。結果として、高い商品力を得ることができる。
【0094】
また、本実施形態に係る取付構造によれば、ボデー側取付板部41に対する取付部材20Aの拘束点から見切り隙S1までの部分の前後方向の距離G1(
図3参照)を短くすることができる。ここで、前後方向の距離G1を規定する前後の位置に関し、後側の位置、つまり上記の拘束点の位置は、係止ピン43が挿入される貫通孔46aの内周面の前側端の位置であり、前側の位置は、ヘッドランプ9との間の見切り隙S1を形成するヘッドランプ用開口凹部24の後辺部24cの前面の位置である。
【0095】
このような拘束点から見切り隙S1までの部分は、取付部材20Aにおいてボデー側取付板部41に対して拘束されていない(フリーな)無拘束部となる。こうした無拘束部の前後方向の長さが長いと、バンパ一体フェンダ20の前方への熱伸びによる変位量が大きくなる。無拘束部に関し、
図8に示す比較例の取付構造においては、無拘束部の前後方向の距離G2が、本実施形態に係る取付構造における距離G1と比べて長くなる。このため、
図8に示す比較例の取付構造は、バンパ一体フェンダ20の前方への熱伸び抑制の観点から不利である。なお、距離G2は、ボデー側取付板部141に対するクリップ42の係合部位の前端位置から、ヘッドランプ用開口凹部24の後辺部24cの前面の位置である。
【0096】
そこで、本実施形態に係る取付構造は、クリップ42による第1の係合部51の前方の部位に、係止ピン43による第2の係合部52を備えることから、無拘束部の前後方向の長さを短くすることができ、バンパ一体フェンダ20の車両前方への熱伸びを効果的に抑制することが可能となる。したがって、係止ピン43による第2の係合部52は、無拘束部の前後方向の長さを短くする観点からは、本実施形態に係る取付構造のように、クリップ42による第1の係合部51に対して前方に配置することが好ましい。
【0097】
以上のように実施形態を用いて説明した本発明に係る車両用部材の取付構造は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。
【0098】
上述した実施形態において、係止ピン43は、バンパ一体フェンダ20側の構成として設けられているが、車両の本体側に設けられてもよい。具体的には、
図9に示す第1の変形例のように、係止ピン43は、ボデー側取付板部41に設けられてもよい。
【0099】
図9に示す第1の変形例では、係止ピン43は、ボデー側取付板部41において、クリップ42が係合する係合孔部44の前方位置、つまり平面部45の前部に、左右方向の外側に向けて突設されている。そして、リテーナ70の装着面部71に、係止ピン43を挿入させるための貫通孔246aを形成する挿入孔部246が設けられている。
【0100】
このように、係止ピン43は、ボデー側取付板部41側に設けられ、バンパ一体フェンダ20側に形成された被係止部としての挿入孔部246に挿入される部分であってもよい。
【0101】
また、上述した実施形態において、クリップ42は、バンパ一体フェンダ20側の構成として設けられているが、車両の本体側に設けられてもよい。具体的には、
図10に示す第2の変形例のように、クリップ42は、ボデー側取付板部41に装着されてもよい。
【0102】
図10に示す第2の変形例では、クリップ42は、ボデー側取付板部41において、平面部45がクリップ42の装着面部となり、係止ピン43が挿入される挿入孔部46の後方位置、つまり平面部45の後部に形成された取付凹部372の開口部372aに、左右方向の外側に向けて突出するように装着されている。そして、平面部45と平行なリテーナ70の平面部371に、クリップ42を係合させるための貫通孔344aを形成する係合孔部344が設けられている。
【0103】
このように、クリップ42は、ボデー側取付板部41側に装着され、バンパ一体フェンダ20側に形成された被係合部としての係合孔部344に挿入される部分であってもよい。つまり、
図10に示す第2の変形例において、クリップ42は、ボデー側取付板部41側に装着された状態で、バンパ一体フェンダ20側に向けて突出する突起部42Aをなし、この突起部42Aを係合孔部344に挿入させることで、係合孔部344に係合する。
【0104】
また、図示は省略するが、他の変形例としては、
図9に示すように係止ピン43がボデー側取付板部41側に設けられるとともに、
図10に示すようにクリップ42がボデー側取付板部41側に装着される構成がある。
【0105】
また、クリップ42の形状は、上述した実施形態に限定されない。クリップ42としては、バンパ一体フェンダ20をボデー側取付板部41側に係合固定させる作用が得られるものであればよい。
【0106】
また、係止ピン43は、上述した実施形態のように円柱状の形状のものに限らず、例えば、四角柱状や六角柱状等の多角形の横断面形状を有する柱状のもの等であってもよい。また、係止突部としては、係止ピン43のようなピン状の突起部分に限定されず、例えば凹凸嵌合することで相手側に係止される部分等であってもよい。さらに、係止ピン43は、上述した実施形態のようにリテーナ70等の樹脂成形品の一部としてではなく、例えばスタッド等のボルトを固定することで設けた部分であってもよい。
【0107】
また、上述した実施形態では、車体側に取り付けられる車両用部材は、バンパ一体フェンダ20であるが、これに限定されず、例えば、樹脂製のバンパと金属製のフェンダとを別部材として備えた別体構成において、フェンダの取付構造として本発明は適用可能である。
【0108】
また、上述した実施形態では、クリップ42による第1の係合部51の前方に、係止ピン43による第2の係合部52を設けた配置構成が採用されているが、これらの係合部の位置関係は特に限定されない。例えば、第1の係合部51の下方あるいは上方の位置に第2の係合部52を設けた配置構成や、第1の係合部51の斜め上方あるいは斜め下方の位置に第2の係合部52を設けた配置構成等であってもよい。ただし、上述したような無拘束部の前後方向の長さを短くする観点からは、上述した実施形態のように第1の係合部51と第2の係合部52は前後方向に隣り合うように設けた配置構成が好ましい。
【0109】
また、上述した実施形態では、第1の係合部51および第2の係合部52を有する取付部40が、ヘッドランプ9の後側の部位においてヘッドランプ用開口凹部24の後辺部24cに沿って3箇所に設けられているが、取付部40の配置場所、配置態様、および箇所数は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0110】
1 自動車
9 ヘッドランプ
20 バンパ一体フェンダ(車両用部材)
21 フェンダ部
22 バンパ部
24 ヘッドランプ用開口凹部
24c 後辺部
40 取付部
41 ボデー側取付板部(被取付部)
42 クリップ(係合部材)
42A 突起部
43 係止ピン(係止突部)
44 係合孔部(被係合部)
46 挿入孔部(被係止部)
70 リテーナ(係合部材取付体)
S1 見切り隙