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特許7009228連続鋳造用モールドフラックス及び連続鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】連続鋳造用モールドフラックス及び連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20220118BHJP
   B22D 11/111 20060101ALI20220118BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B22D11/108 F
B22D11/111
B22D11/16 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018007019
(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公開番号】P2019123007
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】松島 光宏
(72)【発明者】
【氏名】峰田 暁
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-239352(JP,A)
【文献】特開2006-175472(JP,A)
【文献】特開2008-264791(JP,A)
【文献】特開2005-169488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドフラックスの総質量に対する質量%で、15質量%<SiO2≦30質量%、NaO≦2.0質量%、F≦2.0質量%、Al>20.0質量%、LiO+B≧2質量%となり、
塩基度<1.10となることを特徴とする、連続鋳造用モールドフラックス。
【請求項2】
モールドフラックスの総質量に対する質量%で、
SrO+ZrO+MgO+BaO≧3.0質量%となることを特徴とする、請求項1記載の連続鋳造用モールドフラックス。
【請求項3】
請求項1または2記載のモールドフラックスを使用することを特徴とする、連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用モールドフラックス及び連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属を鋳造する方法として、連続鋳造が知られている。連続鋳造では、鋳型の上方から溶融金属(例えば溶鋼)を鋳型に供給する。ここで、鋳型は、例えば鋳型内に冷却水を循環させることで冷却されている。このため、鋳型内の溶融金属のうち、鋳型に対向する部分が冷却され、凝固シェルとなる。これにより、鋳型内で表層のみ凝固させた鋳片を作製する。ついで、鋳型の下端からこの鋳片を引き抜く。ついで、鋳型から引き抜かれた鋳片を複数対の支持ロールによって支持及び搬送しながらさらに冷却する。
【0003】
ここで、連続鋳造を安定して行うためには、鋳片と鋳型との潤滑性を良好な状態に維持する必要がある。そこで、溶融金属とともにモールドフラックスを鋳型の上方から鋳型に供給する。モールドフラックスは、鋳型内の溶融金属から供給される熱によって溶融して液体となり(すなわちスラグ化し)、液体のモールドフラックス(すなわち溶融スラグ)は、鋳片と鋳型との間に入り込む。鋳型は冷却されているため、鋳片と鋳型との間に入りこんだ溶融スラグの一部は固化して固着層となる。このようなモールドフラックスの固着層は、鋳片の冷却をコントロールする。一方、固化しなかった溶融スラグは、鋳片と鋳型との潤滑性を良好な状態に維持する。また、溶鋼湯面(すなわち、鋳型の上端面)は溶融スラグと未溶融のモールドフラックスによって覆われているので、溶鋼湯面からの放熱が抑制される。モールドフラックスはモールドパウダーとも称される。
【0004】
ところで、近年では、鋳片の表面品質向上、操業安定化(ブレークアウト抑制)が求められており、このような要求に応えるために、高粘度モールドフラックスが提案されている。特許文献1には、高粘度モールドフラックスに関する技術が開示されている。モールドフラックスの粘度(具体的には、溶融スラグの粘度)を高めることで、溶融スラグを鋳型と鋳片との間により確実に充填させることができる。すなわち、連続鋳造中では、鋳片は下方に引き抜かれるので、鋳型と鋳片との間に存在する溶融スラグは、鋳片によって下方に引っ張られる。このような状況であっても、溶融スラグの粘度が高いので、溶融スラグは分断されにくく、鋳型と鋳片との間にとどまることができる。この結果、鋳型と鋳片との潤滑性が維持され、ひいては、鋳片の表面品質向上、操業安定化が図られる。一方、溶融スラグの粘度が低いと、溶融スラグは容易に分断される。そして、溶融スラグが分断された領域では鋳型と鋳片とが直接接触する可能性があり、そのような領域で鋳片に疵がつく可能性がある。また、ブレークアウトが生じる可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-239352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モールドフラックスの粘度を高める方法として、モールドフラックス中のSiO濃度を高めることが知られている。しかし、単にモールドフラックス中のSiO濃度を高めただけでは、溶融金属-モールドフラックス(より具体的には溶融スラグ)間の界面張力(以下、単に「界面張力」とも称する)が低下するという問題があった。界面張力が低下すると、モールドフラックスが溶融金属に巻き込まるという内部欠陥の発生頻度が増加する。さらに、モールドフラックスには、スラグベアの過剰な成長を抑制するという機能も求められる。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、モールドフラックスの粘度を高い値に維持し、スラグベアの過剰な発達を抑制し、かつ巻き込みを低減することが可能な、新規かつ改良された連続鋳造用モールドフラックス及び連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、モールドフラックスの総質量に対する質量%で、15質量%<SiO2≦30質量%、NaO≦2.0質量%、F≦2.0質量%、Al>20.0質量%、LiO+B≧2質量%となり、塩基度<1.10となることを特徴とする、連続鋳造用モールドフラックスが提供される。
【0009】
ここで、モールドフラックスの総質量に対する質量%で、SrO+ZrO+MgO+BaO≧3.0質量%となってもよい。
【0010】
本発明の他の観点によれば、上記のモールドフラックスを使用することを特徴とする、連続鋳造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、モールドフラックスが上記の組成を有するので、モールドフラックスの粘度を高い値に維持し、スラグベアの過剰な発達を抑制し、かつ巻き込みを低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
<1.連続鋳造用モールドフラックスの組成>
まず、本実施形態に係る連続鋳造用モールドフラックス(以下、単に「モールドフラックス」とも称する)の組成について説明する。本実施形態に係るモールドフラックスでは、モールドフラックスの総質量に対する質量%で、15質量%<SiO2≦30質量%、NaO≦2.0質量%、F≦2.0質量%、Al>20.0質量%、LiO+B≧2質量%となり、塩基度<1.10となる(必須要件)。
【0014】
(1-1.SiO
SiOは、モールドフラックスの粘度を維持するために必要な成分である。SiOの質量%は、モールドフラックスの総質量に対する質量%で、15質量%<SiO≦30質量%となる。これにより、モールドフラックスの粘度を高い値(具体的には、8poise以上)に維持しつつ、界面張力を高めることができる。つまり、本発明者は、モールドフラックスの粘度及び界面張力を考慮し、SiOの適正な濃度範囲を見出すことに成功した。なお、上記のSiOの含有量では、モールドフラックスの粘度が不足する場合があるが、本発明者は、他の成分(例えばAl)の含有量を調整することで、モールドフラックスの粘度を維持することができた。本実施形態に係るモールドフラックスは、このような知見により完成したものである。
【0015】
SiOの質量%が15%以下となる場合、モールドフラックスの粘度が不足し、鋳片の品質低下、ブレークアウトの発生頻度上昇といった問題が発生しうる。一方、SiOの質量%が30質量%を超えると、溶融金属-モールドフラックス間の界面張力が低下し、巻き込みの発生頻度が上昇しうる。SiOの質量%の下限値は、好ましくは18質量%以上である。SiOの質量%の上限値は、好ましくは27質量%以下である。
【0016】
(1-2.NaO)
NaOは、モールドフラックスの粘度及び界面張力に影響を与える成分であり、NaOの含有量が少ないほど粘度及び界面張力が上昇する傾向がある。粘度が高いほど、鋳型-凝固シェル間への溶融スラグの流入が均一となりやすい。この結果、鋳型-凝固シェルの焼きつき(すなわちブレークアウト)が抑制される。また、鋳片の冷却が均一になりやすくなり、鋳片縦割れが抑制される。そこで、本実施形態では、NaOの質量%は、モールドフラックスの総質量に対する質量%で、NaO≦2.0質量%となる。NaOの質量%が2.0質量%を超えると、モールドフラックスの粘度及び界面張力が低下し、鋳片の品質低下、巻き込みの発生頻度上昇と行った問題が生じうる。NaOの質量%の上限値は、好ましくは1質量%以下である。NaOの質量%の下限値は特に制限はなく、NaOはモールドパウダーに含まれていなくても良い。つまり、NaOの質量%の下限値は0質量%であってもよい。
【0017】
(1-3.F)
Fは、モールドフラックスの粘度及び界面張力に影響を与える成分であり、Fの含有量が少ないほど粘度及び界面張力が上昇する傾向がある。粘度が高いほど、鋳型-凝固シェル間への溶融スラグの流入が均一となりやすい。この結果、鋳型-凝固シェルの焼きつき(すなわちブレークアウト)が抑制される。また、鋳片の冷却が均一になりやすくなり、鋳片縦割れが抑制される。そこで、本実施形態では、Fの質量%は、モールドフラックスの総質量に対する質量%で、F≦2.0質量%となる。Fの質量%が2.0質量%を超えると、モールドフラックスの粘度及び界面張力が低下し、鋳片の品質低下、巻き込みの発生頻度上昇と行った問題が生じうる。Fの質量%の上限値は、好ましくは1質量%以下である。Fの質量%の下限値は特に制限はなく、Fはモールドパウダーに含まれていなくても良い。つまり、Fの質量%の下限値は0質量%であってもよい。なお、Fは連続鋳造機の腐食、及び浸漬ノズルの溶損の原因となりうる。したがって、本実施形態のようにFの含有量を低減することで、連続鋳造機の腐食、及び浸漬ノズルの溶損を抑制することができる。Fの質量%が1質量%以下となる場合、連続鋳造機の腐食、及び浸漬ノズルの溶損がより確実に低減される。
【0018】
(1-4.Al
Alは、モールドフラックスの粘度及び界面張力に影響を与える成分であり、Alの含有量が多いほど粘度及び界面張力が上昇する傾向がある。そこで、本実施形態では、Alの質量%は、モールドフラックスの総質量に対する質量でAl>20.0質量%となる。Alの質量%が20.0質量%以下となると、モールドフラックスの粘度及び界面張力が低下し、鋳片の品質低下、ブレークアウトの発生頻度上昇、巻き込みの発生頻度上昇と行った問題が生じうる。Alの質量%の下限値は、好ましくは25質量%以上である。Alの質量%の上限値は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下である。Alの質量%が40質量%を超えると、モールドフラックスの溶融温度が高すぎて、モールドフラックスが連続鋳造中に溶融しにくくなる、あるいは溶融したモールドフラックスが容易に凝固してスラグベアが発達するといった可能性がある。
【0019】
(1-5.LiO、B
LiO、Bは、モールドフラックスの粘度あるいは溶融温度を調整するための成分である。これらの成分の含有量が多いほど、粘度が低下し、溶融温度が下がる傾向にある。なお、LiOは特に粘度に影響を与え、Bは特に溶融温度に影響を与える傾向がある。そこで、本実施形態では、LiO+Bの質量%(すなわち、これらの成分の質量%の総和)がモールドフラックスの総質量に対する質量でLiO+B≧2質量%となる。LiO+Bの質量%の下限値は、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。LiO+Bの含有量が多すぎると粘度が過剰に低くなる可能性がある。このため、LiO+Bの質量%の上限値は、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0020】
(1-6.塩基度)
塩基度は、モールドフラックスに含まれるCaOの質量%(モールドフラックスの総質量に対する質量%)を上述したSiOの質量%で除算した値である。モールドフラックス中のCaOは、モールドフラックスの潤滑性を阻害する結晶析出成分である。例えば、CaOの含有量が多いと、スラグベアが過剰に発達する可能性がある。そこで、モールドフラックスの結晶化を抑制するために、塩基度は1.10未満となる。塩基度の上限値は、好ましくは1.0以下である。塩基度の下限値は特に制限されない。
【0021】
(1-7.その他の成分)
SrO+ZrO+MgO+BaOの質量%(すなわち、これらの成分の質量%の総和)は、モールドフラックスの総質量に対する質量%でSrO+ZrO+MgO+BaO≧3.0質量%であることが好ましい(好ましい要件)。これらの成分の質量%の総和が3質量%以上となる場合、成分同士が互いに結晶化を阻害してスラグベアの過剰な発達を抑制することが期待できる。このような観点から、モールドフラックスは、これらの成分のうち2種類以上の成分を含んでいることが好ましい。これらの成分の含有量が大きすぎると結晶化が促進される可能性があることから、これらの成分の質量%の総和は25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
モールドフラックスは、上述した成分の他、従来のモールドフラックスに含みうる成分(例えば、炭素成分、Fe等)を含んでいても良い。本実施形態に係るモールドフラックスは、上述した成分を上述した質量%の範囲内で混合することで作製される。
【0023】
<2.連続鋳造方法>
次に、本実施形態に係る連続鋳造方法について説明する。本実施形態に係る連続鋳造方法では、本実施形態に係るモールドフラックスを用いて連続鋳造を行う。連続鋳造の具体的な方法は従来と同様であれば良い。連続鋳造の対象となる金属の種類は特に問われない。すなわち、金属は、連続鋳造が可能な金属であればよく、例えば、鉄鋼、特殊鋼、炭素鋼の他、各種の金属であってよい。鋳造速度も特に問われず、従来と同様であってもよい。鋳型のサイズも特に問われないが、小断面サイズの鋳型、例えば「ブルーム」、「ビレット」、「ビームブランク」製造用の鋳型であってもよい。
【実施例
【0024】
<1.モールドフラックスの準備および連続鋳造>
つぎに、本実施形態の実施例について説明する。本実施例では、表1に示す組成を有するモールドフラックスを準備した。ついで、このモールドフラックスを用いて中炭素鋼の連続鋳造を行った。これにより、試験用の鋳片を得た。鋳型のサイズは220mm×220mm(このサイズはビレットあるいはブルームに相当する)とし、鋳造速度は1.2~1.4m/minとした。
【0025】
【表1】
【0026】
<2.評価>
つぎに、モールドフラックスの評価を行った。評価項目は、モールドフラックスの粘性(粘度)、巻き込み、鋳片の表面状態、スラグベア、ノズル溶損とした。以下、各評価項目の詳細を説明する。
【0027】
(2-1.モールドフラックスの粘度)
モールドフラックスの粘度を1300℃での回転円筒法によって測定した。結果を表1に示す。
【0028】
(2-2.巻き込み)
鋳片へのモールドフラックスの巻き込みを以下の方法により評価した。まず、鋳片に含まれる介在物をスライム法により取得した。ここで、介在物は、モールドフラックスの巻き込みにより鋳片内に含まれるもので、SiO、Al等を主成分とする。鋳片に含まれる介在物が少ないほど、巻き込みが少ないと言える。スライム法の工程は、非特許文献(千野ら、「極低酸素鋼中のアルミナ介在物の粒度分布測定法」、鉄と鋼、第77巻(1991)、第12号、p.2163-2170)に従って行った。具体的には、以下の処理を行った。すなわち、鋼片のL面(天側)より50×90×10mmのサンプルを切り出した。ついで、当該サンプルを電解した。電解は約3日間掛けて行った。これにより電解残渣を得た。ついで、水簸により電解残渣からセメンタイト(鋳片の主成分)を除去していき、電解残渣中の介在物濃度を高めた。ついで、電解残渣を乾燥させた。乾燥後の電解残渣を目開き53μm、106μmの篩に掛けることで、電解残渣を分級した。具体的には、まず目開き106μmの篩掛けを行い、篩から落ちた電解残渣に対して目開き53μmの篩掛けを行った。各篩に残った電解残渣の粒度は53μm以上となる。これらの電解残渣から介在物を手選別で探索した。ついで、以下の評価基準により、鋳片へのモールドフラックスの巻き込みを評価した。
【0029】
◎:粒度53μm以上の介在物の検出なし
○:粒度53μm以上の介在物1~5個検出
△:粒度53μm以上の介在物6~10個検出
×:粒度53μm以上の介在物11個以上検出
鋳片に求められる品質を考慮すると、○以上が合格レベルとなる。
【0030】
(2-3.表面割れ)
鋳片の表面割れを以下の方法で評価した。具体的には、鋳片を1200℃の熱延条件で熱延することで、162mm×162mmの試験用鋼片を120本(1本あたりの質量2t)作製した。ついで、試験用鋼片の表面の疵の有無を目視で調査した。
具体的には、試験用鋼片の表面に水膜を形成し、表面に蛍光磁粉分散液を均一に塗布した。ついで、試験用鋼片を磁化させた。試験用鋼片の表面に疵が存在する場合、疵の部分に磁極が発生するので、そこに蛍光磁粉が集中する。ついで、ブラックライトを試験用鋼片の表面に照射することで、蛍光磁粉を発光させた。ついで、長さ2mm以上の疵の有無を目視で判定し、以下の評価基準により、表面割れを評価した。
【0031】
◎:疵が検出された試験用鋼片無し
○:疵が検出された試験用鋼片の数が鋼片総数(=120)の0%超5%以下
△:疵が検出された試験用鋼片の数が鋼片総数の5%超10%以下
×:疵が検出された試験用鋼片の数が鋼片総数の10%超
鋳片に求められる品質を考慮すると、○以上が合格レベルとなる。
【0032】
(2-3.スラグベア)
スラグベアは、鋳型の内壁面に沿って連続して形成されたモールドフラックスの凝固物であり、溶融スラグの鋳型-鋳片間への流入を促進する等の役割を果たす。しかし、例えばメニスカス付近のスラグベアが成長しすぎると、溶融スラグの鋳型-鋳片間への流入を妨げる可能性がある。さらに、過剰に成長したスラグベアは、鋳型が振動した際に鋳片の先端を押し込むといった問題を生じうる。そこで、スラグベアの厚みについても評価した。具体的には、連続鋳造終了後にスラグベアを回収し、その厚みを測定した。具体的には、溶鋼湯面直上部に存在するスラグベアのうち、最も厚いものを回収し、その厚みを測定した。ついで、以下の評価基準により、スラグベアを評価した。
【0033】
◎:スラグベア厚み5mm以下
○:スラグベア厚み5mm超15mm以下
△:スラグベア厚み15mm超25mm以下
×:スラグベア厚み25mm超
鋳片に求められる品質を考慮すると、△以上が合格レベルとなる。
【0034】
(2-4.ノズル溶損)
操業の安定性等を考慮すると、浸漬ノズルの溶損はなるべく少ないことが好ましい。そこで、浸漬ノズルの溶損も評価した。具体的には、連続鋳造後の浸漬ノズルを回収し、浸漬ノズルのパウダーライン部(溶鋼湯面の上側に存在する溶融スラグのプールとの接触部分)のうち、最も溶損している部分の残存厚さを測定した。ついで、パウダーライン部の元の厚さから残存厚さを除算し、これにより得られた値を連続鋳造時間で除算した。これにより、溶損速度を算出した。ついで、以下の評価基準により、ノズル溶損を評価した。
【0035】
◎:溶損速度3mm/h以下
○:溶損速度3mm/h超6mm/h以下
△:溶損速度6mm/h超9mm/h以下
×:溶損速度9mm/h超
操業の安定性等を考慮すると、○以上が合格レベルとなる。
【0036】
(2-5.総合評価)
表1に評価結果をまとめて示した。表1から明らかな通り、発明例1~13は、本実施形態で規定した必須要件を全て満たす。このため、いずれの発明例1~13でも、モールドフラックスが高粘度(8poise以上)となり、巻き込みの評価が○以上となった。他の評価も概ね○以上となった。各成分の質量%の範囲が好ましい範囲となる場合に、評価結果が良好になる傾向にあった。例えば、Alの質量%が25質量%以上となる場合、巻き込み及び表面割れの少なくとも一方が良好になる傾向があり、Fの質量%が1質量%以下となる場合に、ノズル溶損が良好になる傾向にあった。発明例1、2では、スラグベアの評価が△となった。発明例1、2では、SrO+ZrO+MgO+BaOの質量%が3質量%未満となった。このため、連続鋳造中にスラグベアがやや過剰に成長したと推察される。
【0037】
一方で、比較例1では、全ての評価結果が△以下となった。比較例1では、Alの質量%が20質量%以下となり、NaO、Fの質量%が2質量%超となる。さらに、LiO+Bが2質量%未満となる。このため、モールドフラックスの粘度の低下、及び界面張力の低下が顕著となった。界面張力の低下により巻き込みが頻繁に発生したと推察される。さらに、Fは浸漬ノズルを溶損させやすく、このようなFの質量%が大きいため、浸漬ノズルの溶損が進行したと推察される。
【0038】
比較例2では、巻き込みの評価結果が×となった。比較例2では、SiOの質量%が30質量%を超えているので、モールドフラックスの界面張力が低下し、巻き込みが頻繁に発生したと推察される。
【0039】
比較例3では、巻き込みの評価結果が△、スラグベアの評価結果が×となった。比較例3では、Alの質量%が20質量%以下となるので、モールドフラックスの界面張力が低下したと推察される。さらに、塩基度が1.10以上となるので、連続鋳造中にスラグベアが過剰に発達したと推察される。
【0040】
比較例4、5では、巻き込みの評価結果が△となった。いずれもNaOの質量%が2質量%超となるので、界面張力が低下したと推察される。
【0041】
比較例6では、スラグベアの評価結果が×となった。比較例6では、塩基度が1.10を大幅に上回るので、連続鋳造中にスラグベアが極めて過剰に発達したと推察される。なお、比較例6では、SiOの質量%が15質量%以下となっているが、粘度は確保され、表面割れの評価結果が○となった。Alの質量%が20質量%を十分に上回っているからであると推察される。
【0042】
比較例7では、巻き込み及びノズル溶損の評価結果が△となった。比較例7では、Fの質量%が2.0質量%超となるので、界面張力が低下し、巻き込みが頻繁に発生したと推察される。さらに、Fは浸漬ノズルを溶損させやすく、このようなFの質量%が大きいため、浸漬ノズルの溶損が進行したと推察される。
【0043】
以上により、本実施形態に係るモールドフラックスは、モールドフラックスの粘度を高い値に維持し、スラグベアの過剰な発達を抑制し、かつ巻き込みを低減することが可能となる。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。