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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】往復動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20220118BHJP
   F16J 9/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
F04B39/00 104D
F04B39/00 107J
F04B39/00 107A
F16J9/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018015129
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019132191
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100157808
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 耕平
(72)【発明者】
【氏名】大塚 友裕
(72)【発明者】
【氏名】山崎 亮輔
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-020284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0186365(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F16J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダの内周面に摺接するピストンと、
前記ピストンの先端との間に圧縮室が形成されるように前記ピストンの先端側の前記シリンダの開口を閉じる第1リアヘッドと、
前記ピストンの基端との間に空間が形成されるように前記ピストンの基端側の前記シリンダの開口を閉じる第2リアヘッドと、
前記ピストンを駆動すためのクランク機構と、
前記第2リアヘッドを貫通し、駆動力を前記クランク機構から前記ピストンに伝達するように前記ピストンと前記クランク機構と連結するピストンロッドと
記シリンダ内のガスが前記第2リアヘッドと前記ピストンロッドとの間の空隙から漏出することを防ぐロッドリング部と、を備え、
前記ピストンロッドの外周面には、前記ピストンロッドの中心軸を取り囲む環状の溝部が形成され、
前記ロッドリング部は、前記溝部に嵌め込まれた内周部と、前記ピストンロッドが前記ピストンとともに前記中心軸の延設方向に往復動している間、前記第2リアヘッドの内周面に摺接される外周部と、を含む
往復動圧縮機。
【請求項2】
前記シリンダは、前記第2リアヘッドと前記ピストンの前記基端との間の前記空間が他の圧縮室になるように構成されている、請求項1に記載の往復動圧縮機。
【請求項3】
前記ピストンロッドは、第1ロッド部と、前記第1ロッド部と前記ピストンとの間で延設されているとともに前記第1ロッド部と同径の第2ロッド部と、を含み、
前記溝部は、前記第2ロッド部に形成されている
請求項1又は2に記載の往復動圧縮機。
【請求項4】
前記ピストンとともに往復動する前記ピストンロッドの前記第1ロッド部の外周面に摺接される内周縁を有する環状のロッドパッキン部を更に備える
請求項に記載の往復動圧縮機。
【請求項5】
前記ロッドリング部は、前記中心軸の前記延設方向において間隔を空けて配列された複数のロッドリングを含み、
前記溝部は、前記複数のロッドリングにそれぞれ対応して前記ピストンロッドの前記外周面に形成された複数の環状溝を含み、
前記ロッドパッキン部は、前記複数のロッドリングよりも少数であり、且つ、前記第1ロッド部に沿って配列されたロッドパッキンを含む
請求項に記載の往復動圧縮機。
【請求項6】
前記ピストンは、前記ピストンロッドよりも直径において大きく、
前記ロッドリング部は、前記シリンダ、前記ピストン及び前記第2リアヘッドによって囲まれた前記空間から前記ピストンロッドと前記第2リアヘッドとの間の空隙への前記ガスの漏出を防ぐ
請求項1乃至のいずれか1項に記載の往復動圧縮機。
【請求項7】
前記ピストンとともに往復動する前記ロッドリング部のストローク区間において前記第2リアヘッドの前記内周面を冷却する冷却機構を更に備える
請求項1乃至のいずれか1項に記載の往復動圧縮機。
【請求項8】
前記冷却機構は、前記第2リアヘッドを冷却する冷却媒体を、前記ストローク区間において前記第2リアヘッドに形成された流路に送り出す送出装置を含む
請求項に記載の往復動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを圧縮する往復動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
往復動圧縮機(以下、「圧縮機」と称される)は、ピストンをシリンダ内で往復動させ、シリンダ内のガスを圧縮する。クランクシャフトの回転力を、ピストンを往復動させる力としてピストンへ伝達するピストンロッドは、シリンダの下端に形成された開口部を閉じるリアヘッドを貫通する。一般的に、ピストンロッドとリアヘッドとの間の境界空間を通じたガスの漏出は、環状のロッドパッキンによって防がれる(特許文献1及び2を参照)。ロッドパッキンの内周部がピストンロッドの外周面に押しつけられるようにロッドパッキンは形成される。ロッドパッキンの内周部はピストンロッドの外周面に圧接されるので、シリンダ内のガスが、ロッドパッキンの内周部とピストンロッドの外周面との間の境界を通じて漏出することが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-65693号公報
【文献】特開2015-40519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロッドパッキンの内周部とピストンロッドの外周面との間に僅かな空隙が生ずることがある。この場合、ガスは、ロッドパッキンの内周部とピストンロッドの外周面との間の僅かな空隙に入り込み、ロッドパッキンを押し拡げようとする。シリンダ内のガスの圧力が高いならば、ロッドパッキンを押し拡げようとする力は強くなるので、ロッドパッキンの内周部がピストンロッドの外周面から僅かに離れてしまうこともある。この場合、シリンダ内の高圧のガスは、ロッドパッキンの内周部とピストンロッドの外周面との間に形成された微小な隙間を通じて、シリンダの内部空間からリアヘッドによって仕切られた隣接空間へ漏出してしまうこともある。
【0005】
多数のロッドパッキンがピストンロッドに沿って連設されるならば、シリンダからのガスの漏出のリスクは低くなる。この場合、多数のロッドパッキンが配設される領域が圧縮機内に形成されることが必要とされるので、圧縮機はピストンロッドの延設方向に大きくなりやすい。
【0006】
本発明は、ピストンロッドとリアヘッドとの間の境界を通じたガスの漏出のリスクを低減する構造を有する小型の往復動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に係る往復動圧縮機は、シリンダと、前記シリンダの内周面に摺接するピストンと、前記ピストンの先端との間に圧縮室が形成されるように前記ピストンの先端側の前記シリンダの開口を閉じる第1リアヘッドと、前記ピストンの基端との間に空間が形成されるように前記ピストンの基端側の前記シリンダの開口を閉じる第2リアヘッドと、前記ピストンを駆動すためのクランク機構、前記第2リアヘッドを貫通し、駆動力を前記クランク機構から前記ピストンに伝達するように前記ピストンと前記クランク機構と連結するピストンロッドと、前記シリンダ内のガスが前記第2リアヘッドと前記ピストンロッドとの間の空隙から漏出することを防ぐロッドリング部と、を備える。前記ピストンロッドの外周面には、前記ピストンロッドの中心軸を取り囲む環状の溝部が形成されている。前記ロッドリング部は、前記溝部に嵌め込まれた内周部と、前記ピストンロッドが前記ピストンとともに前記中心軸の延設方向に往復動している間、前記第2リアヘッドの内周面に摺接される外周部と、を含む。
【0008】
上記の構成によれば、ロッドリング部は、シリンダ内のガスが第2リアヘッドとピストンロッドとの間の空隙から漏出することを防ぐために用いられる。ロッドリング部は、ピストンロッドの外周面に形成された溝部に嵌め込まれた内周部を含むので、ロッドリング部とピストンロッドとの間隙間が溝部内で形成される。シリンダ内でのピストンの往復動によって高圧化されたガスは、溝部内の境界に入り込み、ロッドリング部を押し拡げるように作用する。この結果、ロッドリング部の外周部は、第2リアヘッドの内周面に強く押し当てられる。
【0009】
ロッドリング部の内周部は、ピストンロッドの外周面に形成された環状の溝部に嵌め込まれるので、ピストンロッドがピストンとともに往復動している間、ロッドリング部はピストンロッドとともに往復動する。この間、ロッドリング部の外周部は、第2リアヘッドの内周面に摺接される。上述の如く、ロッドリングの外周部は強い力で第2リアヘッドの内周面に押しつけられるので、ピストンロッドとともに往復動するロッドリング部の外周部が第2リアヘッドの内周面に摺接されている間も、ロッドリング部は、シリンダ内のガスが第2リアヘッドとピストンロッドとの間の空隙から漏出することを防ぐことができる。すなわち、ピストンロッドと第2リアヘッドとの間の境界を通じたガスの漏出のリスクは非常に小さくなる。
【0010】
ピストンロッドの中心軸に向かう力によってガスの漏出を防ぐ従来のロッドパッキンとは異なり、シリンダ内のガスの圧力が高いほど、ロッドリング部の外周部から第2リアヘッドの内周面へ作用する圧接力は強くなるので、シリンダ内のガスの圧力が高くても、ロッドリング部は、シリンダ内のガスが第2リアヘッドとピストンロッドとの間の空隙から漏出することを防ぐことができる。したがって、ピストンロッドに沿って連設された多数のロッドパッキンを要することなく、シリンダからのガスの漏出は防止される。多数のロッドパッキンを配置するための空間は往復動圧縮機に要求されないので、往復動圧縮機は、ピストンロッドの延設方向において小さな寸法を有し得る。
上記の構成において、前記シリンダは、前記第2リアヘッドと前記ピストンの前記基端との間の前記空間が他の圧縮室になるように構成されていてもよい。
【0011】
上述の構成に関して、前記ピストンロッドは、第1ロッド部と、前記第1ロッド部と前記ピストンとの間で延設されているとともに前記第1ロッド部と同径の第2ロッド部と、を含んでもよい。前記溝部は、前記第2ロッド部に形成されていてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、溝部が形成された第2ロッド部は第1ロッド部と同径であるので、ピストンロッドは容易に製造される。
【0013】
上記の構成に関して往復動圧縮機は、前記ピストンとともに往復動する前記ピストンロッドの前記第1ロッド部の外周面に摺接される内周縁を有する環状のロッドパッキン部を更に備えてもよい。
【0014】
ロッドリング部はピストンロッドに取り付けられているため、第2リアヘッドの内周面側に摺動面を確保しなければならない。ロッドリング部としてロッドリングを多くつけすぎると、第2リアヘッドが軸長方向に長くなり、反って往復動圧縮機の構造が大きくな。上記の構成によれば、第1ロッド部の外周面に摺接される内周部を有する環状のロッドパッキン部が追加的に設けられているので、第2リアヘッドの軸長を長くし、第2リアヘッド上の摺動面を別途長くするといった問題を生じず、往復動圧縮機の大型化が防止される。このように、要求されるシール性能と、ロッドリングの過度な取り付けによる往復動圧縮機の大型化を防止するという2つの観点に基づき、ロッドパッキンが付加的に選択されてもよい。
【0015】
上記の構成に関して、前記ロッドリング部は前記中心軸の前記延設方向において間隔を空けて配列された複数のロッドリングを含んでもよい。前記溝部は、前記複数のロッドリングにそれぞれ対応して前記ピストンロッドの前記外周面に形成された複数の環状溝を含んでもよい。前記ロッドパッキン部は、前記複数のロッドリングよりも少数であり、且つ、前記第1ロッド部に沿って配列されたロッドパッキンを含んでもよい。
【0016】
上記の構成によれば、ロッドリング部は、ピストンロッドの延設方向において間隔を空けて配列された複数のロッドリングを含み、且つ、溝部は複数のロッドリングにそれぞれ対応してピストンロッドの外周面に形成された複数の環状溝を含むので、複数のロッドリングは複数の環状溝に嵌め込まれる。この結果、第2リアヘッドの内周面は、ピストンロッドの延設方向において異なる位置において複数のロッドリングの外周部によって圧接される。したがって、シリンダからのガスの漏出のリスクは非常に低くなる。複数のロッドリングがガスの漏出を防止するための高い能力を発揮するので、ロッドパッキン部は、複数のロッドリングよりも少数のロッドパッキンにより構成されてもよい
【0017】
第1ロッド部に沿って配列された少数のロッドパッキンはピストンロッドの第1ロッド部の外周面に摺接されるので、ピストンロッドがピストンとともに往復動している間も変位しない。したがって、少数のロッドパッキンを配置するための配置領域は小さくてもよい。すなわち、往復動圧縮機は、ピストンロッドの延設方向において小さな寸法を有することができる。
【0018】
上記の構成に関して前記ピストンは、前記ピストンロッドよりも直径において大きくてもよい。前記ロッドリング部は、前記シリンダ、前記ピストン及び前記第2リアヘッドによって囲まれた前記空間から前記ピストンロッドと前記第2リアヘッドとの間の空隙への前記ガスの漏出を防いでもよい。
【0019】
上記の構成によれば、ピストンは、ピストンロッドよりも直径において大きいので、シリンダ、ピストン及び第2リアヘッドによって囲まれた空間が形成される。ピストンが上死点に向かうとき、当該空間は広くなる一方で、ピストンが下死点に向かうとき、当該空間は狭くなる。この空間内のガスは、下死点に向かうピストンによって、ピストンロッドの外周面と第2リアヘッドの内周面との間の空隙に押し出されようとする。しかしながら、ロッドリング部がピストンロッドに取り付けられているので、当該空間からピストンロッドの外周面と第2リアヘッドの内周面との間の空隙へのガスの漏出はロッドリング部によって防止される。
【0020】
上記の構成に関して往復動圧縮機は、前記ピストンとともに往復動する前記ロッドリング部のストローク区間において前記第2リアヘッドの前記内周面を冷却する冷却機構を更に備えてもよい。
【0021】
上述の如く、ロッドリング部はピストンとともに往復動するピストンロッドに取り付けられているので、ロッドリング部もピストンとともに往復動する。この間、ロッドリング部の外周部は、第2リアヘッドの内周面に摺接されるので、第2リアヘッド及びロッドリング部に摩擦熱が発生する。上記の構成によれば、往復動圧縮機は、ピストンとともに往復動するロッドリング部のストローク区間において、第2リアヘッドの内周面を冷却する冷却機構を備えるので、ロッドリング部のストローク区間における第2リアヘッド及びロッドリング部の過度の昇温は生じない。この結果、第2リアヘッド及びロッドリング部の熱変形のリスクも低減される。第2リアヘッド及びロッドリング部の熱変形のない状態でロッドリング部の外周面が第2リアヘッドの内周面に摺接されるので、第2リアヘッドの内周面とロッドリング部の外周部との間の高いシール性能は維持される。
【0022】
上記の構成に関して前記冷却機構は、前記第2リアヘッドを冷却する冷却媒体を、前記ストローク区間において前記第2リアヘッドに形成された流路に送り出す送出装置を含んでもよい。
【0023】
上記の構成によれば、送出装置は、第2リアヘッドを冷却する冷却媒体を、ストローク区間において第2リアヘッドに形成された流路に送り出すので、第2リアヘッドは冷却媒体によって冷却される。ロッドリング部の外周部は、ストローク区間においてシリンダの内周面に接触しているので、ロッドリング部も冷却媒体によって間接的に冷却される。したがって、ロッドリング部のストローク区間における第2リアヘッド及びロッドリング部の過度の昇温は生じない。
【発明の効果】
【0024】
上述の技術は、設計者が、ピストンロッドとリアヘッドとの間の境界を通じたガスの漏出のリスクを低減する構造を有する小型の往復動圧縮機を設計することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態の往復動圧縮機の概略的な断面図である。
図2】一般的なロッドパッキンの概略的な斜視図である。
図3】ロッドリング周りの往復動圧縮機の概略的な拡大断面図である。
図4】第2実施形態の往復動圧縮機の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の往復動圧縮機(以下、「圧縮機100」と称される)の概略的な断面図である。図1を参照して、圧縮機100が説明される。
【0027】
圧縮機100は、圧縮処理対象のガスが流れる吸引流路(図示せず)に連結され、圧縮機100内に流入したガスを圧縮する。その後、圧縮機100は、圧縮されたガスを蓄える蓄圧器や圧縮されたガスを利用する所定の装置に連結された吐出流路に、圧縮処理後のガスを吐出する。
【0028】
図1は、圧縮機100の一部として、シリンダ110を示す。加えて、図1は、鉛直方向に延びる鉛直軸線VAXを示す。シリンダ110は、鉛直軸線VAXに略一致する中心軸を有する略円筒状の部位である。鉛直軸線VAXは、シリンダ110の端部(上端及び下端)に形成された開口部に直交する仮想的な直線である。上述の吸引流路に連結された吸引口111,112及び上述の吐出流路に連結された吐出口113,114は、シリンダ110に形成される。シリンダ110の内部空間は、吸引口111,112を通じて流入したガスを圧縮するために利用される。
【0029】
図1は、圧縮機100の一部として、ピストン120と2つのリアヘッド131,132とを更に示す。シリンダ110、ピストン120及びリアヘッド131,132は、吸引口111,112を通じてシリンダ110内に流入したガスが閉じ込められる空間を形成する。ピストン120は、ガスが閉じ込められた空間内で往復動し、ガスを圧縮する。圧縮されたガスは、吐出口113,114を通じて上述の吐出流路へ送り出される。
【0030】
ピストン120は、シリンダ110内に配置され、且つ、鉛直軸線VAXに略一致する中心軸を有する円柱状の部位である。ピストン120は、シリンダ110内で鉛直軸線VAXの延設方向において往復動する。リアヘッド131は、シリンダ110の下端に形成された開口部を閉じる。リアヘッド132は、シリンダ110の上端の開口部を閉じる。したがって、シリンダ110及びリアヘッド131,132は、吸引口111,112及び吐出口113,114を除いて閉じられた空間を形成する。図1に示されるように、シリンダ110の内周面とピストン120の下面とリアヘッド131の上面とによって囲まれた変容空間115がシリンダ110内に形成される。吸引口111及び吐出口113は変容空間115に連なる。ガスは吸引口111を通じて変容空間115に流入する。ピストン120は、図1に示される位置から下方に移動し、変容空間115を縮め、変容空間115内のガスを圧縮する。圧縮されたガスは、吐出口113を通じて上述の吐出流路へ排出される。本実施形態に関して、変容空間115は、ガスを圧縮するための圧縮室として利用されることができる。
【0031】
図1は、圧縮機100の一部として、クランク機構140とピストンロッド150とを更に示す。クランク機構140は、シリンダ110内でピストン120を往復動させるための駆動力を生成する。ピストンロッド150は、クランク機構140が生成した駆動力をピストン120に伝達する。
【0032】
クランク機構140は、ピストン120の下方に配置されている。クランク機構140は、クランクシャフトと、コネクティングロッドと、クロスヘッドと、筒状のヘッドケースと、を含むことができる。クランクシャフトは、鉛直軸線VAXに直交する回転軸周りに回転する。コネクティングロッドは、クランクシャフトとヘッドケース内に配置されたクロスヘッドとに連結される。クロスヘッドは、鉛直軸線VAXに略一致する中心軸を有する柱体である。ヘッドケースは、鉛直軸線VAXに沿う方向のクロスヘッドの変位のみを許容する一方で、水平方向のクロスヘッドの変位を許容しない。クランクシャフトが回転する間、コネクティングロッドは、水平方向のクランクシャフトの変位成分を吸収するように姿勢を変える。したがって、クランクシャフトの回転運動は、コネクティングロッドとクロスヘッドとヘッドケースとによって、クロスヘッドの往復動に変換される。ピストンロッド150は、ピストン120の下面から下方に延び、クロスヘッドの上面に連結される。したがって、クロスヘッドの往復動は、ピストンロッド150を通じてピストン120に伝達される。この結果、ピストン120は上述の如く鉛直軸線VAXに沿って往復動することができる。
【0033】
ピストンロッド150の中心軸は鉛直軸線VAXに略一致する。鉛直軸線VAXに沿って穿設された貫通孔が、シリンダ110の下端の開口部を閉じるリアヘッド131に形成される。シリンダ110の下端の開口部に直交する鉛直軸線VAXに沿って延設されたピストンロッド150は、リアヘッド131の貫通孔に挿通され、クランク機構140のクロスヘッドとピストン120とに連結される。
【0034】
ピストンロッド150がリアヘッド131の貫通孔に挿通される結果、環状の境界がピストンロッド150の外周面とリアヘッド131の内周面との間に形成される。クランク機構140のクランクシャフトが上死点にあるとき、ピストン120は図1に示される位置に到達する。クランクシャフトがその後上死点から下死点へ移動すると、ピストン120はリアヘッド131に向けて下方に変位する。このとき、変容空間115は小さくなるので、変容空間115内のガスは圧縮される。この結果、変容空間115内のガスの一部は、ピストンロッド150の外周面とリアヘッド131の内周面との間の境界に形成された薄い環状空隙に押し出される。従来の往復動圧縮機に関して、ピストンロッド150の外周面とリアヘッド131の内周面との間の境界の空隙を通じて押し出されようとするガスを押し留めるために環状のロッドパッキンが用いられている。
【0035】
上述の圧縮機100の構造に従来のロッドパッキンが用いられるならば、ロッドパッキンの外周部はリアヘッド131の内周面に固定される一方で、ロッドパッキンの内周部はピストンロッド150の外周面に圧接される。すなわち、ピストンロッド150がピストン120とともに往復動している間、ロッドパッキンはリアヘッド131に対して相対的に変位しない一方で、ピストンロッド150に対して相対的に変位し、ピストンロッド150の外周面に摺接される。
【0036】
<ロッドパッキンが有する課題>
図2は、一般的なロッドパッキン200の概略的な斜視図である。図2を参照して、ロッドパッキン200が有する課題が説明される。
【0037】
ロッドパッキン200は、パッキンリング210とコイルスプリング220とを含む。コイルスプリング220はパッキンリング210の外周全体に亘ってパッキンリング210の外周縁に沿って延設され、パッキンリング210の内径が低減されるようにパッキンリング210を変形させる力をパッキンリング210に与える。したがって、ピストンロッドがロッドパッキン200に挿通されると、パッキンリング210の内周部はピストンロッドの外周面に圧接される。しかしながら、パッキンリング210の加工精度や他の原因によって、パッキンリング210の内周部がピストンロッドの外周面から離れ、パッキンリング210の内周部とピストンロッドの外周面との間の空隙にガスが流入することがある。ひとたび、パッキンリング210の内周部とピストンロッドの外周面との間の境界にガスが流入すると、ガスは、パッキンリング210の内周部を押し拡げるように作用する。この結果、パッキンリング210の内周部とピストンロッドの外周面との間の空隙はますます広くなる。この結果、ガスの漏出量は更に増大する。したがって、従来のロッドパッキンを用いたシーリング技術は高圧ガスを生成する往復動圧縮機に不向きである。
【0038】
ガスの漏出のリスクを低減するために、多数のロッドパッキンが往復動圧縮機内のピストンロッドに沿って連設されることもある。この場合、多数のロッドパッキンを連設するための空間が往復動圧縮機に必要とされる。この結果、往復動圧縮機はピストンロッドの延設方向において大きくなる。
【0039】
<ロッドリング部を有する往復動圧縮機>
図1に示されるように、圧縮機100は、ガスの高い圧力の下でも高いシール性能を発揮し、変容空間115内の高圧のガスがピストンロッド150の外周面とリアヘッド131の内周面との間の空隙から漏出することを防止するロッドリング部160を備える。図1は、ロッドリング部160として、3つのロッドリング161を示す。しかしながら、ロッドリング部160は、3未満のロッドリング161であってもよいし、3を超えるロッドリング161であってもよい。
【0040】
3つのロッドリング161それぞれは、円環状に湾曲した細長い線状部材であり、ロッドリング161の直径が大きくなる方向への付勢力を発揮するように形成される。
【0041】
ピストンロッド150は、第1ロッド部151と第2ロッド部152とを含む。第1ロッド部151は、クランク機構140のクロスヘッドから上方に延設される。第2ロッド部152は、ロッドリング部160をピストンロッド150に固定するための溝部153が形成された部位であり、第1ロッド部151の上方に位置する。すなわち第2ロッド部152は、第1ロッド部151とピストン120との間で鉛直軸線VAXに沿って延設される。第2ロッド部152は第1ロッド部151と同径であるので、ピストンロッド150は容易に製造される。
【0042】
図1は、溝部153として第2ロッド部152の外周面に凹設された3つの環状溝154を示す。3つの環状溝154それぞれは、鉛直軸線VAXを取り巻くように形成される。3つのロッドリング161は3つの環状溝154にそれぞれ嵌め込まれる。3つの環状溝154は、鉛直軸線VAXの延設方向において所定の間隔を空けて形成されている。したがって、3つの環状溝154にそれぞれ嵌め込まれた3つのロッドリング161は鉛直軸線VAXの延設方向において所定の間隔を空けて配列される。3つの環状溝154の間隔(すなわち、3つのロッドリング161の間隔)は、ピストンロッド150の機械的強度に基づいて決定されることができる。
【0043】
3つのロッドリング161の内周部は、ピストンロッド150に形成された3つの環状溝154にそれぞれ嵌め込まれるので、ピストンロッド150が鉛直軸線VAXに沿って往復動している間、3つのロッドリング161はピストンロッド150とともに往復動する。すなわち、3つのロッドリング161はピストンロッド150に対して相対的に変位しない。一方、3つのロッドリング161は、ピストンロッド150がピストン120とともに鉛直軸線VAXに沿って往復動している間、リアヘッド131に対して相対的に変位する。
【0044】
3つのロッドリング161それぞれの外周部は、第2ロッド部152の外周面から第2ロッド部152の半径方向において外方に位置し、リアヘッド131の内周面に圧接される。ピストンロッド150がピストン120とともに鉛直軸線VAXに沿って往復動している間、3つのロッドリング161それぞれの外周部は、リアヘッド131の内周面に摺接される。
【0045】
図3は、ロッドリング161周りの圧縮機100の概略的な拡大断面図である。図3は、ロッドリング161への力のかかり方を説明するために、ロッドリング161及びピストンロッド150を模式的に示している。図1乃至図3を参照して、ロッドリング161が説明される。
【0046】
コイルスプリング210によって内向きの付勢力を発揮するロッドパッキン200とは異なり、ロッドリング161は外向きの付勢力を発揮するように形成される。したがって、ロッドリング161がピストンロッド150に取り付けられると、ロッドリング161の外周部は、ロッドリング161を取り囲むリアヘッド131に強い力で押し付けられることになる。
【0047】
環状溝154を形成するピストンロッド150の壁面とロッドリング161の表面との間の接触力は、ロッドリング161の外周部とリアヘッド131の内周面との間の圧接力よりも弱い。したがって、高圧のガスは、ロッドリング161の外周部とリアヘッド131の内周面との間の境界よりもむしろ、ロッドリング161の外周部とリアヘッド131の内周面との間の境界に入り込みやすい。この結果、図3に示されるように、ガスの高い圧力は、ロッドリング161の内周部に対して外向きに作用する。ロッドリング161の内周部に対して作用する外向きの力は、ロッドリング161の外径を大きくさせる。ロッドリング161の外径が大きくなるようにロッドリング161が変形すると、ロッドリング161の外周部は、ロッドリング161を取り囲むリアヘッド131に更に強い力で押し付けられることになる。
【0048】
ガスの圧力がシーリング対象(すなわち、ピストンロッド)に対する圧接力を弱めるように作用するロッドパッキン200とは逆に、ガスの圧力は、シーリング対象(すなわち、リアヘッド131)へのロッドリング161の圧接力を強める。この結果、ロッドリング部160を有する圧縮機100は、高い圧力のガスを発生させている間も、優れたシーリング性能を維持することができる。
【0049】
(追加的なロッドパッキンを有する往復動圧縮機)
ピストンロッド150の横ブレ(鉛直軸線VAXからずれる方向への湾曲)を防ぐために、リアヘッド131の内周面は、鉛直軸線VAXの延設方向において所定区間に亘ってピストンロッド150の外周面に近接される。複数のロッドリング161は、リアヘッド131の内周面がピストンロッド150の外周面に近接された区間において鉛直軸線VAXの延設方向において配列される。複数のロッドリング161が配列される区間長は、ピストン120のストローク長及びリアヘッド131の内周面がピストンロッド150の外周面に近接された区間の長さを考慮して決定される。決定された区間長にいくつのロッドリング161が配置されるかは、ピストンロッド150の機械的強度を考慮して決定されてもよい。
【0050】
多数のロッドリング161がピストンロッド150に取り付けられようとするならば、ロッドリング161はピストンロッド150に取り付けられているため、リアヘッド131の内周面側に摺動面を確保しなければならない。多数のロッドリング161がピストンロッド150に装着されると、摺動面の軸長が長くなり、反って圧縮機100の構造が大きくなってしまう。そこで、図1に示されるように、鉛直軸線VAXに沿って連設された複数のロッドパッキン171(図1は2つのロッドパッキン171を示す)又は鉛直軸線VAXと略同軸の1つのロッドパッキン171を有するロッドパッキン部170を追加的に設けてもよい。ロッドパッキン171は、ピストンロッド150の外周面に摺接しているためロッドリング161のようにリアヘッド131に摺動面を別途設ける必要がなく、圧縮機100の大型化を防止することができる。このように、要求されるシール性能と、ロッドリング161の過度な取り付けによる圧縮機の大型化を防止するという2つの観点に基づき、ロッドパッキン171が付加的に選択されてもよい。
【0051】
図1に示される2つのロッドパッキン171それぞれは、図2を参照して説明されたロッドパッキン200と同一の構造を有してもよい。したがって、ロッドパッキン200の説明は、2つのロッドパッキン171それぞれに援用される。
【0052】
ロッドパッキン部170は、ロッドリング部160が取り付けられた第2ロッド部152の下方に配置される。ロッドパッキン部170は、第2ロッド部152とクランク機構140との間に位置するので、第2ロッド部152からクランク機構140に下方に延びる第1ロッド部151によって貫通される。したがって、2つのロッドパッキン171それぞれの内周縁は、ピストンロッド150がピストン120とともに鉛直軸線VAXに沿って往復動している間、第1ロッド部151の外周面に摺接される。
【0053】
上述の如く、ロッドリング部160は、高いシール性能を有するので、ロッドリング部160を超えて、第1ロッド部151とリアヘッド131との間に形成された空隙に流入するガスは微量である。したがって、ロッドパッキン部170は過度に高いガスの圧力に曝されない。したがって、図2を参照して説明されたロッドパッキン200の欠点は無視されてもよい。
【0054】
過度に高いガス圧は第1ロッド部151とリアヘッド131との間に形成された空隙に生じないので、ロッドリング部160に求められるような高いシール性能は、ロッドパッキン部170には求められない。したがって、ロッドパッキン部170として用いられるロッドパッキン171は、ロッドリング部160として用いられるロッドリング161よりも少数であってもよい(本実施形態に関して、2つのロッドパッキン171がロッドパッキン部170として用いられているのに対して、3つのロッドリング161がロッドリング部160として用いられている)。
【0055】
図1に示されるように、圧縮機100は、保持板部181と、アダプタ筒182と、を備える。保持板部181は、アダプタ筒182とリアヘッド131との間に配置される。ロッドパッキン部170は、保持板部181によって保持される。保持板部181は、リアヘッド131の内周面と第1ロッド部151の外周面との間で形成された空隙をアダプタ筒182によって囲まれた空間から離隔する。ロッドリング部160を超えたガスは、リアヘッド131の内周面と第1ロッド部151の外周面との間で形成された空隙に流入するけれども、保持板部181によって保持されたロッドパッキン部170は、リアヘッド131の内周面と第1ロッド部151の外周面との間で形成された空隙からアダプタ筒182によって囲まれた空間への漏出を防ぐ。したがって、ガスが、アダプタ筒182によって囲まれた空間へ漏出するリスクは低減される。アダプタ筒182は、保持板部181を介してリアヘッド131に固定される。摩耗や破損がロッドパッキン部170及びロッドリング部160に生ずると、ガスは、アダプタ筒182と保持板部181とによって囲まれた空間に流入することがある。アダプタ筒182内に漏出したガスを排出するための不燃性のパージガス(たとえば、窒素ガス)をアダプタ筒182の内部空間に送り込むための管部材(図示せず)及びアダプタ筒182内のガス及びパージガスを排出するための管部材(図示せず)は、アダプタ筒182に取り付けられる。アダプタ筒182に取り付けられた管部材は、ロッドパッキン部170を超えて漏出したガス及びパージガスの排出を許容するので、アダプタ筒182内の漏出ガス及びパージガスの大部分は、アダプタ筒182に取り付けられた管部材を通じて、圧縮機100の外に排出されることになる。この結果、ヘッドケースへの漏出ガス及びパージガスの流入のリスクは非常に低くなる。したがって、漏出ガスが可燃性であっても、クランク機構140は、安全に動作することができる。
【0056】
ロッドパッキン部170は、保持板部181に取り付けられるので、保持板部181に対して相対的に移動しない。一方、ロッドパッキン部170は、ピストンロッド150に対して相対的に移動することができる。したがって、ロッドリング部160とは異なり、設計者は、ストローク長を考慮することなく、ロッドパッキン部170を保持板部181に配置することができる。
【0057】
設計者は、ピストンロッド150のストローク長、鉛直軸線VAXの延設方向におけるリアヘッド131の長さ及び保持板部181の厚さを考慮して、いくつのロッドリング161をロッドリング部160として用い、いくつのロッドパッキン171をロッドパッキン部170として用いるかを決定することができる。たとえば、設計者は、鉛直軸線VAXの延設方向における圧縮機100の長さが短くなるように、ロッドリング161及びロッドパッキン171の数を決定してもよい。
【0058】
(冷却機構)
ロッドリング部160は、リアヘッド131の内周面に摺接されるので、摩擦熱がロッドリング部160とリアヘッド131の内周面との間で発生する。したがって、摩擦熱を消失させる冷却技術が、圧縮機100に組み込まれることが好ましい。本実施形態に関して、摩擦熱を消失させる冷却媒体(たとえば、水)を送り出す送出装置190が圧縮機100に組み込まれている。送出装置190は、一般的なポンプであってもよいし、冷却媒体を送り出すことができる他の装置であってもよい。
【0059】
図1に示されるように、流路133が、ロッドリング部160のストローク区間においてリアヘッド131に形成されている。送出装置190は、管部材(図示せず)によって、流路133に連結されている。送出装置190は、冷却媒体を、管部材を通じて流路133へ送り出す。流路133に冷却した冷却媒体はリアヘッド131から熱を奪い、熱を奪った冷却媒体は所定の冷却装置(図示せず)を経由して送出装置190に戻る。この結果、ロッドリング部160とリアヘッド131の内周面との間の摩擦に起因する摩擦熱は冷却媒体の低温によって相殺され、リアヘッド131の過度の昇温は生じない。冷却媒体の冷却効果は、リアヘッド131の内周面を通じてロッドリング部160へも伝達されるので、ロッドリング部160の過度の昇温も生じない。リアヘッド131及びロッドリング部160の過度の昇温が防止されるので、これらの熱変形のリスクも低減される。したがって、リアヘッド131及びロッドリング部160の熱変形の防止の結果、これらの間に隙間が生じたり、ロッドリング部160がリアヘッド131に過度に強く押し付けられ、これらが過度に摩耗されたりするといった不都合な現象のリスクは低減される。
【0060】
本実施形態に関して、送出装置190、リアヘッド131に形成された流路133及び冷却媒体を冷却する冷却装置は、リアヘッド131及びロッドリング部160を冷却する冷却機構として用いられている。しかしながら、冷却機構は、ロッドリング部160のストローク区間に対応する位置においてリアヘッド131の外周面に空気を吹き付ける送風装置(図示せず)であってもよい。この場合、リアヘッド131の外周面と内周面との間に急な温度勾配が形成される。したがって、リアヘッド131の内周面で発生した摩擦熱はリアヘッド131の外周面に伝導され、送風装置からの空気流によって消失される。
【0061】
(圧力差による逆流ガスの防止技術)
ロッドリング部160及びロッドパッキン部170は、圧縮機100の内部空間を仕切るので、圧力差がこれらによって仕切られた空間間で生ずる。アダプタ筒182内のガスが変容空間115へ向かう逆流は、圧縮機100内で生じた圧力差によって防止される。
【0062】
変容空間115は、ピストン120の変位によって大きくなったり、小さくなったりするので、ピストン120の下面、リアヘッド131の上面、シリンダ110及び第2ロッド部152の外周面によって形成された空間内の圧力は、たとえば、0.7MPaから2MPaの圧力範囲で変動する。ロッドリング部160は、第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間を、変容空間115から離隔するので、変容空間115内での圧力変動は、第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間へ伝達されない。本実施形態に関して、第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間内の圧力が、約0.7MPaに維持されるように、圧縮機100は設計されている。第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間内の圧力は、変容空間115内の圧力を下回っているので、第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間内のガスは、変容空間115に流入しない。
【0063】
アダプタ筒182の内部空間は、ロッドパッキン部170によって、第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間から仕切られているので、ロッドパッキン部170によって、第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間よりも低い圧力に設定されることができる。本実施形態に関して、アダプタ筒182の内部空間内の圧力が約0.4MPaに維持されるように、アダプタ筒182内へのパージガスの流入量が調整される。アダプタ筒182の内部空間内の圧力は、第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間の圧力よりも低いので、アダプタ筒182内に供給されたパージガスは、第1ロッド部151の外周面、リアヘッド131の内周面及び保持板部181の上面によって囲まれた空間に流入しない。
【0064】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態の往復動圧縮機(以下、「圧縮機100A」と称される)の概略的な断面図である。図1及び図4を参照して、圧縮機100Aが説明される。
【0065】
圧縮機100Aは、ピストンロッドの形状において圧縮機100(図1を参照)とは相違する。圧縮機100Aの他の部位は圧縮機100と同一である。したがって、第1実施形態の説明はピストンロッド以外の部位に援用される。
【0066】
圧縮機100Aは、第1実施形態に関連して説明された圧縮機100のピストンロッド150とは形状において相違するピストンロッド150Aを備える。第1実施形態のピストンロッド150の第1ロッド部151及び第2ロッド部152は同径であるのに対し、ピストンロッド150Aは溝部153が形成された部位(以下、「第2ロッド部152A」と称される)と第2ロッド部152Aよりも細い第1ロッド部151Aとを有する。第1実施形態の第1ロッド部151と同様に、第1ロッド部151Aはクランク機構140のクロスヘッドから上方に延設される。第1実施形態の第2ロッド部152と同様に、第2ロッド部152Aは、第1ロッド部151Aとピストン120との間で鉛直軸線VAXに沿って延設される。
【0067】
第2ロッド部152Aは第1ロッド部151Aよりも太いので、第2ロッド部152Aの外周面に溝部153が形成されても高い機械的強度を有することができる。したがって、3つの環状溝154の間隔は短くてもよい。あるいは、溝部153として多数の環状溝が第2ロッド部152Aの外周面に凹設されてもよい。
【0068】
上述の実施形態に関して、変容空間115は、ガスを圧縮するための圧縮室として利用される。しかしながら、変容空間115は圧縮室でなくてもよい。たとえば、逆止弁付きの管部材が吐出口113と吸引口111とに連結されてもよい。
【0069】
上述の実施形態に関して、圧縮機100は、ロッドパッキン部170を有している。しかしながら、往復動圧縮機は、ロッドパッキン部170を有さなくてもよい。
【0070】
上述の実施形態に関して、圧縮機100は、冷却機構(すなわち、流路133や送出装置190)を有している。しかしながら、往復動圧縮機は、冷却機構を有さなくてもよい。
【0071】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
上述の往復動圧縮機は、圧縮されたガスが必要とされる様々な技術分野に好適に利用される。
【符号の説明】
【0073】
100,100A・・・・・・・・・・圧縮機(往復動圧縮機)
110・・・・・・・・・・・・・・・シリンダ
115・・・・・・・・・・・・・・・変容空間
120・・・・・・・・・・・・・・・ピストン
131・・・・・・・・・・・・・・・リアヘッド
133・・・・・・・・・・・・・・・流路(冷却機構)
140・・・・・・・・・・・・・・・クランク機構
150,150A・・・・・・・・・・ピストンロッド
151,151A・・・・・・・・・・第1ロッド部
152,152A・・・・・・・・・・第2ロッド部
153・・・・・・・・・・・・・・・溝部
154・・・・・・・・・・・・・・・環状溝
160・・・・・・・・・・・・・・・ロッドリング部
161・・・・・・・・・・・・・・・ロッドリング
170・・・・・・・・・・・・・・・ロッドパッキン部
171・・・・・・・・・・・・・・・ロッドパッキン
190・・・・・・・・・・・・・・・送出装置(冷却機構)
図1
図2
図3
図4