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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】溶融金属保持容器
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/02 20060101AFI20220118BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B22D41/02 D
B22D41/02 B
F27D1/00 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018018685
(22)【出願日】2018-02-05
(65)【公開番号】P2019135065
(43)【公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩川 将人
(72)【発明者】
【氏名】寺森 邦明
(72)【発明者】
【氏名】水野 豊
(72)【発明者】
【氏名】山本 建三
(72)【発明者】
【氏名】式 義巳
(72)【発明者】
【氏名】淵本 博之
(72)【発明者】
【氏名】福田 政人
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-143665(JP,U)
【文献】特開2007-260699(JP,A)
【文献】特開昭57-068265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/02
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側に開口する開口部を有する容器状の鉄皮と、
前記鉄皮の内周面を覆うレンガ層と、
前記開口部の内側に設けられ、前記レンガ層を上側から押える押えレンガと、
を備え、
前記押えレンガの下面には、前記押えレンガの内周側と外周側との間の一部に下側に突出する凸部が形成され、
前記レンガ層の上面には、前記凸部が係合された被係合部が形成され、
前記凸部を含む前記押えレンガの下面と、前記被係合部を含む前記レンガ層の上面との間の目地は、前記レンガ層の内周面から前記レンガ層の径方向に延びる水平目地と、前記水平目地に対する前記レンガ層の外周側に位置すると共に前記レンガ層の高さ方向に延びて前記水平目地と繋がる垂直目地とを含んで屈曲しており、
前記凸部は、前記押えレンガの下面における内周側と外周側との間の中央部に形成され、
前記被係合部は、前記レンガ層の上側に開口する凹部である、
溶融金属保持容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、溶銑鍋、溶鋼鍋、及び、取鍋の少なくともいずれかとして適用可能な溶融金属保持容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記種類の溶融金属保持容器としては、次のものがある(例えば、特許文献1、2参照)。すなわち、従来の溶融金属保持容器は、上側に開口する開口部を有する容器状の鉄皮と、鉄皮の内周面を覆うレンガ層と、鉄皮の開口部の内側に設けられ、レンガ層を上側から押える押えレンガとを備える。
【0003】
押えレンガの下面、及び、この下面に押さえられるレンガ層の上面は、レンガ層の径方向に沿って平面状に形成されている。このため、押えレンガの下面とレンガ層の上面との間の目地は、レンガ層の径方向に沿って直線状に延びる通し目地となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平2-93063号公報
【文献】実開平2-93064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の溶融金属保持容器では、次の問題がある。すなわち、従来の溶融金属保持容器では、レンガ層のうち内周側のレンガが例えば溶銑や溶鋼などの溶融金属の熱によって熱膨張すると、この熱膨張に伴う押上力によって、押えレンガが上側かつ鉄皮の径方向外側に迫り出す。そして、押えレンガの下面とレンガ層の上面との間の目地に地金が侵入する。
【0006】
このとき、押えレンガの下面とレンガ層の上面との間の目地は、レンガ層の径方向に沿って直線状に延びる通し目地となっているので、この目地に地金が侵入しやすい。このため、目地への地金の侵入に伴い押えレンガの迫り出しが大きくなり、地金が鉄皮に近い側の奥深くまで侵入することがあった。
【0007】
そして、この地金を除去する際には、レンガ層のレンガが脱落することがあった。このようにレンガが脱落すると、このレンガが脱落した箇所において溶融金属が鉄皮に接することにより鉄皮に開口が生じ、この開口から湯漏れ(溶融金属の漏れ)が生じる虞がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであって、レンガ層のレンガの脱落を防止して、湯漏れの危険性を解消できる溶融金属保持容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る溶融金属保持容器は、上側に開口する開口部を有する容器状の鉄皮と、前記鉄皮の内周面を覆うレンガ層と、前記開口部の内側に設けられ、前記レンガ層を上側から押える押えレンガと、を備え、前記押えレンガの下面には、前記押えレンガの内周側と外周側との間の一部に下側に突出する凸部が形成され、前記レンガ層の上面には、前記凸部が係合された被係合部が形成され、前記凸部を含む前記押えレンガの下面と、前記被係合部を含む前記レンガ層の上面との間の目地は、前記レンガ層の内周面から前記レンガ層の径方向に延びる水平目地と、前記水平目地に対する前記レンガ層の外周側に位置すると共に前記レンガ層の高さ方向に延びて前記水平目地と繋がる垂直目地とを含んで屈曲している。
【0010】
本発明の一態様に係る溶融金属保持容器によれば、押えレンガの下面には、押えレンガの内周側と外周側との間の一部に下側に突出する凸部が形成されており、レンガ層の上面には、凸部が係合された被係合部が形成されている。そして、この凸部を含む押えレンガの下面と、被係合部を含むレンガ層の上面との間の目地は、レンガ層の内周面からレンガ層の径方向に延びる水平目地と、この水平目地に対するレンガ層の外周側に位置すると共にレンガ層の高さ方向に延びて水平目地と繋がる垂直目地とを含んで屈曲している。
【0011】
したがって、水平目地に地金が侵入しても、この水平目地と垂直目地との接続部で地金の侵入を阻止することができる。これにより、地金の侵入に伴う押えレンガの迫り出しを抑制し、地金が鉄皮に近い側の奥深くまで侵入することを防止できる。この結果、地金を除去する際には、レンガ層のレンガの脱落を防止して、溶融金属が鉄皮に接することを回避できるので、湯漏れの危険性を解消できる。
【0012】
なお、本発明の一態様に係る溶融金属保持容器において、前記凸部は、前記押えレンガの下面における内周側に形成され、前記被係合部は、前記レンガ層の内周側に開放する段差部でも良い。
【0013】
また、本発明の一態様に係る溶融金属保持容器において、前記凸部は、前記押えレンガの下面における内周側と外周側との間の中央部に形成され、前記被係合部は、前記レンガ層の上側に開口する凹部でも良い。
【0014】
また、本発明の一態様に係る溶融金属保持容器において、前記凸部は、前記押えレンガの下面における外周側に形成され、前記被係合部は、前記レンガ層の外周側に開放する段差部でも良い。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る押えレンガは、溶融金属保持容器に設けられた鉄皮の内周面を覆うレンガ層を上側から押える押えレンガであって、前記押えレンガの下面には、前記押えレンガの内周側と外周側との間の一部に下側に突出する凸部が形成されている。
【0016】
本発明の一態様に係る押えレンガによれば、この押えレンガの下面には、押えレンガの内周側と外周側との間の一部に下側に突出する凸部が形成されている。この押えレンガが溶融金属保持容器に適用された状態では、押えレンガの下面に形成された凸部が、レンガ層の上面に形成された被係合部と係合される。そして、この状態では、凸部を含む押えレンガの下面と、被係合部を含むレンガ層の上面との間の目地が、レンガ層の内周面からレンガ層の径方向に延びる水平目地と、この水平目地に対するレンガ層の外周側に位置すると共にレンガ層の高さ方向に延びて水平目地と繋がる垂直目地とを含んで屈曲する。
【0017】
したがって、水平目地に地金が侵入しても、この水平目地と垂直目地との接続部で地金の侵入を阻止することができる。これにより、地金の侵入に伴う押えレンガの迫り出しを抑制し、地金が鉄皮に近い側の奥深くまで侵入することを防止できる。この結果、地金を除去する際には、レンガ層のレンガの脱落を防止して、溶融金属が鉄皮に接することを回避できるので、湯漏れの危険性を解消できる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、本発明によれば、レンガ層のレンガの脱落を防止して、湯漏れの危険性を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第一実施形態に係る溶融金属保持容器を一部切り欠いて示す正面図である。
図2図1のA部の拡大図である。
図3図2の押えレンガの側面図である。
図4図3の押えレンガの隅部にR形状を追加した変形例を示す側面図である。
図5図2の押えレンガに二重のリブに対応して凹部を二重に設けた変形例を示す図である。
図6】第二実施形態に係る溶融金属保持容器における図1のA部に相当する拡大図である。
図7】第三実施形態に係る溶融金属保持容器における図1のA部に相当する拡大図である。
図8】比較例に係る溶融金属保持容器を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第一実施形態]
はじめに、本発明の第一実施形態について説明する。
【0021】
図1に示される溶融金属保持容器10は、例えば、溶銑鍋、溶鋼鍋、及び、取鍋の少なくともいずれかとして適用されるものである。図1では、溶融金属保持容器10が概略的に示されている。各図に示される矢印IN及び矢印OUTは、溶融金属保持容器10の周壁部の内周側及び外周側をそれぞれ示している。
【0022】
溶融金属保持容器10は、上側に開口する開口部を有する容器状の鉄皮12と、鉄皮12の内周面を覆うレンガ層14と、鉄皮12の開口部の内側に設けられ、レンガ層14を上側から押える押えレンガ16とを備える。レンガ層14及び押えレンガ16は、鉄皮12の内周面の全周に亘って設けられている。
【0023】
図2に示されるように、鉄皮12とレンガ層14との間、及び、鉄皮12と押えレンガ16との間には、パッチング材18が介在されている。レンガ層14は、複数のパーマレンガ20と、複数のウェアーレンガ22とを有する。
【0024】
複数のパーマレンガ20及び複数のウェアーレンガ22は、それぞれ鉄皮12の高さ方向に積層されている。複数のウェアーレンガ22は、複数のパーマレンガ20の内側に設けられている。複数のパーマレンガ20は、レンガ層14の外周側を構成しており、複数のウェアーレンガ22は、レンガ層14の内周側を構成している。
【0025】
最上部のパーマレンガ20の上面と、最上部のウェアーレンガ22の上面とは、レンガ層14の上面を形成している。このレンガ層14の上面は、後に詳述する押えレンガ16の下面によって上側から押さえられている。
【0026】
図3に示されるように、押えレンガ16の側面には、金網状のメタルケース24が設けられている。隣り合う押えレンガ16は、メタルケース24を介して固定される。
【0027】
図2に示されるように、鉄皮12の内周面には、上下一対のリブ26が設けられている。この上下一対のリブ26は、鉄皮12の周方向に沿うリング状に形成されている。各リブ26は、鉄皮12の内周側に突出している。上側のリブ26は、鉄皮12の開口部に位置する。
【0028】
押えレンガ16には、鉄皮12の内周面と対向する外周面が形成されており、この外周面には、押えレンガ16の外周側に開口する凹部28が形成されている。この凹部28には、上側のリブ26がパッチング材18を介して係合されている。押えレンガ16は、凹部28に上側のリブ26が係合されることで、鉄皮12の開口部に固定されている。また、押えレンガ16には、外周面と反対側に内周面が形成されている。この内周面は、レンガ層14の内周面と面一状に形成されている。
【0029】
押えレンガ16の下面には、下側に突出する凸部30が形成されている。この凸部30は、押えレンガ16の下面のうち、押えレンガ16の内周側と外周側との間の一部、つまり、押えレンガ16の内周側と外周側とを繋ぐ方向の一部に形成されている。この押えレンガ16の内周側と外周側とを繋ぐ方向は、鉄皮12の径方向に相当する方向である。本実施形態では、一例として、凸部30は、押えレンガ16の下面における内周側に形成されている。この凸部30は、側面視で矩形状に形成されている。
【0030】
押えレンガ16の下面のうち凸部30を除く面は、支持面32として形成されている。この支持面32及び凸部30は、鉄皮12の径方向に相当する方向に並んで形成されており、凸部30は、支持面32に対して下側に突出している。支持面32は、凸部30よりも押えレンガ16の外周側に位置する。押えレンガ16は、上述の凹部及び凸部30を有することにより、側面視で概略F字状を成している。
【0031】
レンガ層14の上面には、凸部30に対応してレンガ層14の内周側に開放する段差部34が形成されている。この段差部34は、本発明における「被係合部」の一例である。段差部34は、凸部30の下面と対向する対向面と、凸部30の外周側の面と対向する対向面とによって形成されている。
【0032】
この段差部34には、凸部30が上側から係合されている。これにより、凸部30を含む押えレンガ16の下面と、段差部34を含むレンガ層14の上面との間の目地は、レンガ層14の径方向に延びる水平目地36A、36Bと、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地38とを含んで屈曲している。
【0033】
すなわち、凸部30の下面と、該下面と対向する段差部34の対向面(最上部のパーマレンガ20の上面)との間には、レンガ層14の内周面からレンガ層14の径方向に延びる水平目地36Aが形成されている。この水平目地36Aは、本発明における「水平目地」の一例である。また、支持面32と、この支持面32と対向する最上部のパーマレンガ20の上面との間には、レンガ層14の径方向に延びる水平目地36Bが形成されている。
【0034】
なお、レンガ層14及び押えレンガ16の内周側は、溶損するため、レンガ層14及び押えレンガ16の導入時における内周側の水平目地36Aの長さは、鉄皮12の径方向に沿ったレンガ層14及び押えレンガ16の厚さに対して50%以上の寸法であることが望ましい。
【0035】
一方、凸部30の外周側の面と、該外周側の面と対向する段差部34の対向面(最上部のパーマレンガ20の内周側の面)との間には、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地38が形成されている。この垂直目地38は、水平目地36Aに対するレンガ層14の外周側に位置している。垂直目地38の下端は、水平目地36Aと繋がっており、垂直目地38の上端は、水平目地36Bと繋がっている。この垂直目地38は、本発明における「垂直目地」の一例である。
【0036】
なお、レンガ層14では、最上部のパーマレンガ20と上から二番目のパーマレンガ20とは、一重の構造になっているが、上から三番目以降の複数のパーマレンガ20は、二重の構造になっている。最上部のパーマレンガ20と上から二番目のパーマレンガ20との間、及び、上から二番目のパーマレンガ20と上から三番目のパーマレンガ20との間には、レンガ層14の径方向に延びる水平目地40が形成されている。
【0037】
また、上から三番目以降の複数のパーマレンガ20では、内周側の複数のパーマレンガ20の間に、レンガ層14の径方向に延びる水平目地42が形成され、外周側の複数のパーマレンガ20の間に、レンガ層14の径方向に延びる水平目地44が形成されている。また、複数のウェアーレンガ22の間には、レンガ層14の内周面からレンガ層14の径方向に延びる水平目地46が形成されている。
【0038】
一方、複数のウェアーレンガ22と複数のパーマレンガ20との間には、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地48が形成されている。また、上から三番目以降の複数のパーマレンガ20では、内周側の複数のパーマレンガ20と外周側の複数のパーマレンガ20との間に、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地50が形成されている。
【0039】
複数のパーマレンガ20及び複数のウェアーレンガ22の各々の形状が適宜設定されることにより、最上部のパーマレンガ20と上から二番目のパーマレンガ20との間、及び、上から二番目のパーマレンガ20と三番目のパーマレンガ20との間の水平目地40は、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。
【0040】
また、上から三番目以降の複数のパーマレンガ20のうち内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42は、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。さらに、上から三番目以降の複数のパーマレンガ20では、外周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地44も、内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。
【0041】
そして、最上部のパーマレンガ20と上から二番目のパーマレンガ20との間、及び、上から二番目のパーマレンガ20と三番目のパーマレンガ20との間の水平目地40は、複数のパーマレンガ20と複数のウェアーレンガ22との間の垂直目地48を介して、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46と繋がっている。
【0042】
また、上から三番目以降の複数のパーマレンガ20では、内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42が、内周側の複数のパーマレンガ20と外周側の複数のパーマレンガ20との間の垂直目地50を介して、外周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地44と繋がっている。
【0043】
次に、第一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0044】
先ず、第一実施形態の作用及び効果を明確にするために、比較例について説明する。図8には、比較例に係る溶融金属保持容器110が示されている。図8の上図に示されるように、比較例に係る溶融金属保持容器110は、上側に開口する開口部を有する容器状の鉄皮112と、鉄皮112の内周面を覆うレンガ層114と、鉄皮112の開口部の内側に設けられ、レンガ層114を上側から押える押えレンガ116とを備える。
【0045】
鉄皮12の開口部の内周面には、リング状のリブ126が形成されており、押えレンガ116は、パッチング材118を介してリブ126が係合された凹部128を有するコ字状(C字状)に形成されている。また、コ字状に形成された押えレンガ116の下面、及び、この下面に押さえられるレンガ層114の上面は、レンガ層114の径方向に沿って平面状に形成されている。このため、押えレンガ116の下面とレンガ層114の上面との間の目地は、レンガ層114の径方向に沿って直線状に延びる通し目地となっている。
【0046】
しかしながら、上記比較例に係る溶融金属保持容器110では、次の問題がある。すなわち、図8の下図に示されるように、比較例に係る溶融金属保持容器110では、レンガ層114のうち内周側のレンガが例えば溶銑や溶鋼などの溶融金属の熱によって熱膨張すると、この熱膨張に伴う押上力Fによって、押えレンガ116が上側かつ鉄皮112の径方向外側に迫り出す。そして、押えレンガ116の下面とレンガ層114の上面との間の目地に地金が侵入する。
【0047】
このとき、押えレンガ116の下面とレンガ層114の上面との間の目地は、レンガ層114の径方向に沿って直線状に延びる通し目地となっているので、この目地に地金が侵入しやすい。このため、目地への地金の侵入に伴い押えレンガ116の迫り出しが大きくなり、地金が鉄皮112に近い側の奥深くまで侵入することがあった。
【0048】
そして、この地金を除去する際には、レンガ層114のレンガが脱落することがあった。このようにレンガが脱落すると、このレンガが脱落した箇所において溶融金属が鉄皮112に接することにより鉄皮112に開口が生じ、この開口から湯漏れ(溶融金属の漏れ)が生じる虞がある。
【0049】
これに対し、図2に示される第一実施形態に係る溶融金属保持容器10によれば、押えレンガ16の下面における内周側には、下側に突出する凸部30が形成されており、レンガ層14の上面には、凸部30が係合された段差部34が形成されている。そして、この凸部30を含む押えレンガ16の下面と、段差部34を含むレンガ層14の上面との間の目地は、レンガ層14の内周面からレンガ層14の径方向に延びる水平目地36Aと、この水平目地36Aに対するレンガ層14の外周側に位置すると共にレンガ層14の高さ方向に延びて水平目地36Aと繋がる垂直目地38とを含んで屈曲している。
【0050】
したがって、内周側の水平目地36Aに地金が侵入しても、この水平目地36Aと垂直目地38との接続部で地金の侵入を阻止することができる。これにより、地金の侵入に伴う押えレンガ16の迫り出しを抑制し、地金が鉄皮12に近い側の奥深くまで侵入することを防止できる。この結果、地金を除去する際には、レンガ層14のレンガの脱落を防止して、溶融金属が鉄皮12に接することを回避できるので、湯漏れの危険性を解消できる。
【0051】
次に、第一実施形態の変形例について説明する。
【0052】
上記第一実施形態では、図3に示されるように、押えレンガ16の凹部28の内側に形成された隅部、及び、凸部30と支持面32との間の隅部は、いずれも直角に形成されている。しかしながら、図4に示されるように、押えレンガ16の凹部28の内側に形成された隅部、及び、凸部30と支持面32との間の隅部には、R形状(円弧状)のR形状部52が形成されていても良い。
【0053】
このように、上述の各隅部にR形状部52が形成されていると、各隅部に作用する応力を緩和することができる。これにより、各隅部に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0054】
また、上記第一実施形態では、図2に示されるように、押えレンガ16の外周面には、鉄皮12の開口部に形成された上側のリブ26に対応して、一つの凹部28が形成されている。しかしながら、図5に示されるように、押えレンガ16の外周面には、鉄皮12の開口部に形成された上下一対のリブ26に対応して、上下一対の凹部28が形成されていても良い。
【0055】
また、上記第一実施形態では、図2に示されるように、鉄皮12の内周面には、上下一対のリブ26が形成されているが、下側のリブ26は省かれても良い。
【0056】
また、上記第一実施形態では、図2に示されるように、押えレンガ16の下面には、凸部30が一つのみ形成されているが、鉄皮12の径方向に相当する方向に並んで凸部30が複数形成されていても良い。
【0057】
また、上記複数の変形例は、適宜、組み合わされても良い。
【0058】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
【0059】
第二実施形態では、上述の第一実施形態に対し、押えレンガ16及びその周辺の構造が次のように変更されている。すなわち、図6に示されるように、第二実施形態では、凸部30が押えレンガ16の下面における内周側と外周側との間の中央部に形成されている。
【0060】
押えレンガ16の下面のうち凸部30を除く面は、支持面32A、32Bとして形成されている。この支持面32A、32B及び凸部30は、鉄皮12の径方向に相当する方向に並んで形成されている。凸部30は、両側の支持面32A、32Bに対して下側に突出している。支持面32Aは、凸部30よりも押えレンガ16の内周側に位置し、支持面32Bは、凸部30よりも押えレンガ16の外周側に位置する。なお、第二実施形態では、下側のリブ26が省かれている。
【0061】
レンガ層14の最上部は、ウェアーレンガ62によって形成されている。ウェアーレンガ62は、複数のパーマレンガ20の上側から複数のウェアーレンガ22の上側に亘って設けられている。ウェアーレンガ62の上面は、レンガ層14の上面を形成している。このレンガ層14の上面は、押えレンガ16の下面によって上側から押さえられている。
【0062】
レンガ層14の上面(ウェアーレンガ62の上面)には、凸部30に対応してレンガ層14の上側に開口する凹部64が形成されている。この凹部64は、本発明における「被係合部」の一例である。凹部64は、レンガ層14の上側を向く底面と、レンガ層14の径方向に対向する一対の対向面とによって形成されている。
【0063】
この凹部64には、凸部30が上側から係合されている。これにより、凸部30を含む押えレンガ16の下面と、段差部34を含むレンガ層14の上面との間の目地は、レンガ層14の径方向に延びる水平目地66A、66B、66Cと、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地68A、68Bとを含んで屈曲している。
【0064】
すなわち、内周側の支持面32Aと、レンガ層14の上面のうち支持面32Aと対向する対向面との間には、レンガ層14の内周面からレンガ層14の径方向に延びる水平目地66Aが形成されている。この水平目地66Aは、本発明における「水平目地」の一例である。また、凸部30の下面と、凹部64の底面との間には、レンガ層14の径方向に延びる水平目地66Bが形成されている。さらに、外周側の支持面32Bと、レンガ層14の上面のうち支持面32Bと対向する対向面との間には、レンガ層14の径方向に延びる水平目地66Cが形成されている。
【0065】
なお、レンガ層14及び押えレンガ16の内周側は、溶損するため、レンガ層14及び押えレンガ16の導入時における内周側の水平目地66Aの長さは、鉄皮12の径方向に沿ったレンガ層14及び押えレンガ16の厚さに対して50%以上の寸法であることが望ましい。
【0066】
一方、凸部30の内周側の面と、凹部64に形成された一方の対向面との間には、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地68Aが形成されている。この垂直目地68Aは、本発明における「垂直目地」の一例である。また、凸部30の外周側の面と、凹部64に形成された他方の対向面との間には、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地68Bが形成されている。
【0067】
垂直目地68Aは、水平目地66Aに対するレンガ層14の外周側に位置しており、垂直目地68Bは、水平目地66Bに対するレンガ層14の外周側に位置している。内周側の垂直目地68Aの上端は、内周側の水平目地66Aと繋がっており、外周側の垂直目地68Bの上端は、外周側の水平目地66Cと繋がっている。また、一対の垂直目地68A、68Bの下端は、水平目地66Bと繋がっている。
【0068】
また、ウェアーレンガ62の下面には、凹部70が形成されており、複数のウェアーレンガ22のうち最上部のウェアーレンガ22の上面には、凸部72が形成されている。凸部72は、凹部70に係合されている。凹部70を含むウェアーレンガ62の下面と、このウェアーレンガ62の下側に位置するパーマレンガ20及びウェアーレンガ22の上面との間の目地は、レンガ層14の径方向に延びる水平目地76A、76B、76Cと、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地78A,78Bとを含んで屈曲している。
【0069】
なお、第一実施形態と同様に、複数のパーマレンガ20及び複数のウェアーレンガ22の各々の形状が適宜設定されることにより、複数のパーマレンガ20のうち最上部のパーマレンガ20と上から二番目のパーマレンガ20との間の水平目地40は、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。
【0070】
また、上から二番目以降の複数のパーマレンガ20のうち内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42は、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。さらに、上から二番目以降の複数のパーマレンガ20では、外周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地44も、内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。
【0071】
そして、最上部のパーマレンガ20と上から二番目のパーマレンガ20との間の水平目地40は、複数のパーマレンガ20と複数のウェアーレンガ22との間の垂直目地48を介して、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46と繋がっている。
【0072】
また、上から二番目以降の複数のパーマレンガ20では、内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42が、内周側の複数のパーマレンガ20と外周側の複数のパーマレンガ20との間の垂直目地50を介して、外周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地44と繋がっている。
【0073】
次に、第二実施形態の作用及び効果について説明する。
【0074】
以上説明した第二実施形態によれば、押えレンガ16の下面における内周側と外周側との間の中央部には、下側に突出する凸部30が形成されており、レンガ層14の上面には、凸部30が係合された凹部64が形成されている。そして、この凸部30を含む押えレンガ16の下面と、凹部64を含むレンガ層14の上面との間の目地は、レンガ層14の内周面からレンガ層14の径方向に延びる水平目地66Aと、この水平目地66Aに対するレンガ層14の外周側に位置すると共にレンガ層14の高さ方向に延びて水平目地66Aと繋がる垂直目地68Aとを含んで屈曲している。
【0075】
したがって、内周側の水平目地66Aに地金が侵入しても、この水平目地66Aと垂直目地68Aとの接続部で地金の侵入を阻止することができる。これにより、地金の侵入に伴う押えレンガ16の迫り出しを抑制し、地金が鉄皮12に近い側の奥深くまで侵入することを防止できる。この結果、地金を除去する際には、レンガ層14のレンガの脱落を防止して、溶融金属が鉄皮12に接することを回避できるので、湯漏れの危険性を解消できる。
【0076】
次に、第二実施形態の変形例について説明する。
【0077】
上記第二実施形態において、ウェアーレンガ62の下面には、凹部70が形成され、複数のウェアーレンガ22のうち最上部のウェアーレンガ22の上面には、凸部72が形成されている。しかしながら、ウェアーレンガ62の下面には、凸部が形成され、複数のウェアーレンガ22のうち最上部のウェアーレンガ22の上面には、凸部が係合された凹部又は段差部が形成されていても良い。
【0078】
また、上記第二実施形態において、押えレンガ16の凹部28の内側に形成された隅部、及び、凸部30と支持面32A、32Bとの間の隅部は、いずれも直角に形成されている。しかしながら、これらの隅部には、R形状(円弧状)のR形状部が形成されていても良い。
【0079】
このように、上述の各隅部にR形状部が形成されていると、各隅部に作用する応力を緩和することができる。これにより、各隅部に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0080】
また、上記第二実施形態には、上述の第一実施形態におけるその他の変形例が適用されても良い。
【0081】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。
【0082】
第三実施形態では、上述の第一実施形態に対し、押えレンガ16及びその周辺の構造が次のように変更されている。すなわち、図7に示されるように、第三実施形態では、凸部30が押えレンガ16の下面における外周側に形成されている。
【0083】
押えレンガ16の下面のうち凸部30を除く面は、支持面32として形成されている。この支持面32及び凸部30は、鉄皮12の径方向に相当する方向に並んで形成されており、凸部30は、支持面32に対して下側に突出している。支持面32は、凸部30よりも押えレンガ16の内周側に位置する。
【0084】
レンガ層14の上面には、凸部30に対応してレンガ層14の外周側に開放する段差部84が形成されている。この段差部84は、本発明における「被係合部」の一例である。段差部84は、凸部30の下面と対向する対向面と、凸部30の内周側の面と対向する対向面とによって形成されている。
【0085】
この段差部84には、凸部30が上側から係合されている。これにより、凸部30を含む押えレンガ16の下面と、段差部84を含むレンガ層14の上面との間の目地は、レンガ層14の径方向に延びる水平目地86A、86Bと、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地88とを含んで屈曲している。
【0086】
すなわち、支持面32と、この支持面32と対向する最上部のウェアーレンガ22の上面との間には、レンガ層14の内周面からレンガ層14の径方向に延びる水平目地86Aが形成されている。この水平目地86Aは、本発明における「水平目地」の一例である。また、凸部30の下面と、該下面と対向する段差部84の対向面(最上部のパーマレンガ20の上面)との間には、レンガ層14の径方向に延びる水平目地86Bが形成されている。
【0087】
なお、レンガ層14及び押えレンガ16の内周側は、溶損するため、レンガ層14及び押えレンガ16の導入時における内周側の水平目地86Aの長さは、鉄皮12の径方向に沿ったレンガ層14及び押えレンガ16の厚さに対して50%以上の寸法であることが望ましい。
【0088】
一方、凸部30の内周側の面と、該内周側の面と対向する段差部84の対向面(最上部のウェアーレンガ22の外周側の面)との間には、レンガ層14の高さ方向に延びる垂直目地88が形成されている。この垂直目地88は、水平目地86Aに対するレンガ層14の外周側に位置している。垂直目地88の上端は、水平目地86Aと繋がっており、垂直目地88の下端は、水平目地86Bと繋がっている。この垂直目地88は、本発明における「垂直目地」の一例である。
【0089】
なお、第一実施形態と同様に、複数のパーマレンガ20及び複数のウェアーレンガ22の各々の形状が適宜設定されることにより、複数のパーマレンガ20のうち最上部のパーマレンガ20と上から二番目のパーマレンガ20との間の水平目地40は、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。
【0090】
また、上から二番目以降の複数のパーマレンガ20のうち内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42は、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。さらに、上から二番目以降の複数のパーマレンガ20では、外周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地44も、内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42に対してレンガ層14の高さ方向にずれている。
【0091】
そして、最上部のパーマレンガ20と上から二番目のパーマレンガ20との間の水平目地40は、複数のパーマレンガ20と複数のウェアーレンガ22との間の垂直目地48を介して、複数のウェアーレンガ22の間の水平目地46と繋がっている。
【0092】
また、上から二番目以降の複数のパーマレンガ20では、内周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地42が、内周側の複数のパーマレンガ20と外周側の複数のパーマレンガ20との間の垂直目地50を介して、外周側の複数のパーマレンガ20の間の水平目地44と繋がっている。
【0093】
次に、第三実施形態の作用及び効果について説明する。
【0094】
以上説明した第三実施形態によれば、押えレンガ16の下面における外周側には、下側に突出する凸部30が形成されており、レンガ層14の上面には、凸部30が係合された段差部84が形成されている。そして、この凸部30を含む押えレンガ16の下面と、段差部84を含むレンガ層14の上面との間の目地は、レンガ層14の内周面からレンガ層14の径方向に延びる水平目地86Aと、この水平目地86Aに対するレンガ層14の外周側に位置すると共にレンガ層14の高さ方向に延びて水平目地86Aと繋がる垂直目地88とを含んで屈曲している。
【0095】
したがって、内周側の水平目地86Aに地金が侵入しても、この水平目地86Aと垂直目地88との接続部で地金の侵入を阻止することができる。これにより、地金の侵入に伴う押えレンガ16の迫り出しを抑制し、地金が鉄皮12に近い側の奥深くまで侵入することを防止できる。この結果、地金を除去する際には、レンガ層14のレンガの脱落を防止して、溶融金属が鉄皮12に接することを回避できるので、湯漏れの危険性を解消できる。
【0096】
次に、第三実施形態の変形例について説明する。
【0097】
上記第三実施形態において、押えレンガ16の凹部28の内側に形成された隅部、及び、凸部30と支持面32との間の隅部は、いずれも直角に形成されている。しかしながら、これらの隅部には、R形状(円弧状)のR形状部が形成されていても良い。
【0098】
このように、上述の各隅部にR形状部が形成されていると、各隅部に作用する応力を緩和することができる。これにより、各隅部に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0099】
また、上記第三実施形態には、上述の第一実施形態におけるその他の変形例が適用されても良い。
【0100】
以上、本発明の第一乃至第三実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0101】
10 溶融金属保持容器
12 鉄皮
14 レンガ層
16 押えレンガ
20 パーマレンガ
22 ウェアーレンガ
30 凸部
34 段差部(被係合部の一例)
36A 水平目地
38 垂直目地
64 凹部(被係合部の一例)
66A 水平目地
68A 垂直目地
84 段差部(被係合部の一例)
86A 水平目地
88 垂直目地
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8