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  • 特許-電力変換装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/14 20060101AFI20220118BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220118BHJP
【FI】
H02M1/14
H02M7/48 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018078467
(22)【出願日】2018-04-16
(65)【公開番号】P2019187176
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】515098886
【氏名又は名称】サンデン・オートモーティブコンポーネント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】特許第3044650(JP,B2)
【文献】国際公開第2007/125989(WO,A1)
【文献】特開2008-187759(JP,A)
【文献】特公昭48-34445(JP,B1)
【文献】特開昭62-128470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電圧をインバータ回路のスイッチングにより任意の周波数の交流電圧に変換して負荷に供給する電力変換装置において、
前記負荷からグランドに流れる漏れ電流を検出するためのコモンモードコイルと、前記漏れ電流を打ち消すように、当該漏れ電流とは逆相の補償電流を流すための補償電流供給回路を有するアクティブEMIフィルタ回路を備え、
前記補償電流供給回路は、共通接続されたベースと共通接続されたエミッタを有するコンプリメンタリトランジスタと、
前記直流電源を分圧して前記コンプリメンタリトランジスタを構成する各トランジスタのエミッタ-コレクタ間にそれぞれ印加するための抵抗分圧回路と、
前記直流電源と前記各トランジスタのコレクタ間にそれぞれ接続されたカップリングコンデンサを有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記コンプリメンタリトランジスタは、NPN型の正側トランジスタとPNP型の負側トランジスタから成り、
前記正側トランジスタのコレクタが前記カップリングコンデンサを介して前記直流電源の正側電源ラインに接続され、前記負側トランジスタのコレクタが前記カップリングコンデンサを介して前記直流電源の負側電源ラインに接続されており、
前記正側電源ライン及び前記負側電源ラインと前記各トランジスタのエミッタ間に前記抵抗分圧回路がそれぞれ接続され、各抵抗分圧回路を構成する複数の抵抗の接続点が前記各トランジスタのコレクタと前記カップリングコンデンサとの接続点にそれぞれ接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記直流電源は車両に搭載されたバッテリであり、前記負荷は前記車両の車室内を空調するための空気調和装置の電動圧縮機を駆動する電動機であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により負荷に任意の周波数の交流を供給する際に、漏れ電流を打ち消す補償電流を流す機能を有する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境問題の顕在化から、ハイブリッド自動車や電気自動車が開発されて来ているが、これら自動車の車室内を空調するための空気調和装置では、エンジン駆動の圧縮機に代わり、車載バッテリ(直流電源)から給電される電動圧縮機が使用される。そして、通常はIGBT等の複数のスイッチング素子から構成されたインバータ回路を用い、バッテリの直流電圧をPWM変調により任意の周波数の交流電圧に変換して、電動圧縮機を駆動する電動機の巻線に供給する。
【0003】
また、このようなインバータ回路を用いた電動機の駆動系では、各スイッチング素子の高速スイッチングによる電動機の巻線へのパルス的な電圧印加に伴い、電動機の巻線と電動圧縮機の筐体との寄生容量を介し、グランド(車体)経路で高周波の漏れ電流(コモンモード電流)が還流し、コモンモードのノイズが発生する。
【0004】
このコモンモード電流(電動機の巻線から電動圧縮機の筐体に流れる漏れ電流のうち、実際にグランドに流れる分)を低減する装置として、アクティブEMIフィルタが開発されている。このアクティブEMIフィルタは、コモンモードコイルに流れるディファレンシャルモード電流の不平衡分、即ち、コモンモード電流をコモンモードコイルに付加した検出コイルで検出する。
【0005】
そして、この検出コイルの出力電流を、直流電源間に接続したコンプリメンタリトランジスタのベースに流して増幅する。このコンプリメンタリトランジスタは、NPN型のトランジスタとPNP型のトランジスタのベースとエミッタが共通接続されたものであり、電動機の巻線からの漏れ電流を打ち消すように、各トランジスタで増幅された補償電流を、電動機の巻線からの漏れ電流とは逆相でグランドに対して供給する。
【0006】
そして、打ち消された漏れ電流、即ち、コモンモード電流と、検出コイルで検出されるコモンモード電流による補償結果とがバランスするように、フィードバック動作するものであった(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3044650号公報
【文献】特開2000-92861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電気自動車の如く電圧がDC400Vや600Vとなるバッテリが用いられる場合、特許文献1のようなコンプリメンタリトランジスタを構成するNPN型及びPNP型のトランジスタが相互にOFFする際に、各トランジスタのエミッタ-コレクタ間には直流電源の高電圧が印加されるため、各トランジスタとしては特別に高耐圧のものを使用しなければならず、素子の選定や部品の入手が困難となる。
【0009】
また、これを解消するために特許文献2のようにコンプリメンタリトランジスタ用の低電圧の電源を別途設けることも考えられるが、回路構成が複雑化するため、基板面積上の問題と、コストが高騰する問題が発生する。
【0010】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、DC400VやDC600Vなどの高電圧を電源入力とするコンプリメンタリトランジスタとして、特別に高耐圧のトランジスタを用いること無く、入手可能で比較的簡単な構成で負荷からの漏れ電流を打ち消す補償電流を円滑に供給することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電力変換装置は、直流電源から供給される直流電圧をインバータ回路のスイッチングにより任意の周波数の交流電圧に変換して負荷に供給するものであって、負荷からグランドに流れる漏れ電流を検出するためのコモンモードコイルと、漏れ電流を打ち消すように、当該漏れ電流とは逆相の補償電流を流すための補償電流供給回路を有するアクティブEMIフィルタ回路を備え、補償電流供給回路は、共通接続されたベースと共通接続されたエミッタを有するコンプリメンタリトランジスタと、直流電源を分圧してコンプリメンタリトランジスタを構成する各トランジスタのエミッタ-コレクタ間にそれぞれ印加するための抵抗分圧回路と、直流電源と各トランジスタのコレクタ間にそれぞれ接続されたカップリングコンデンサを有することを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明の電力変換装置は、上記発明においてコンプリメンタリトランジスタは、NPN型の正側トランジスタとPNP型の負側トランジスタから成り、正側トランジスタのコレクタがカップリングコンデンサを介して直流電源の正側電源ラインに接続され、負側トランジスタのコレクタがカップリングコンデンサを介して直流電源の負側電源ラインに接続されており、正側電源ライン及び負側電源ラインと各トランジスタのエミッタ間に抵抗分圧回路がそれぞれ接続され、各抵抗分圧回路を構成する複数の抵抗の接続点が各トランジスタのコレクタとカップリングコンデンサとの接続点にそれぞれ接続されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明の電力変換装置は、上記各発明において直流電源は車両に搭載されたバッテリであり、負荷は車両の車室内を空調するための空気調和装置の電動圧縮機を駆動する電動機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、直流電源から供給される直流電圧をインバータ回路のスイッチングにより任意の周波数の交流電圧に変換して負荷に供給する電力変換装置において、負荷からグランドに流れる漏れ電流(コモンモード電流)を検出するためのコモンモードコイルと、漏れ電流を打ち消すように、当該漏れ電流とは逆相の補償電流を流すための補償電流供給回路を有するアクティブEMIフィルタ回路を設け、補償電流供給回路を、共通接続されたベースと共通接続されたエミッタを有するコンプリメンタリトランジスタから構成したので、コンプリメンタリトランジスタの働きによって、負荷からグランドに流れる漏れ電流を打ち消す補償電流をグランドに対し流し、漏れ電流のうち、実際にグランドに流れるコモンモード電流を低減して、このコモンモード電流により発生するノイズを低減することができるようになる。
【0015】
特に、本発明では補償電流供給回路に、直流電源を分圧してコンプリメンタリトランジスタを構成する各トランジスタのエミッタ-コレクタ間にそれぞれ印加するための抵抗分圧回路を設けたので、コンプリメンタリトランジスタを構成するトランジスタのエミッタ-コレクタ間には直流電源の電圧が抵抗分圧回路で分圧されて印加されることになり、コンプリメンタリトランジスタを構成するトランジスタとして特別に高耐圧のものを用意する必要が無くなる。
【0016】
また、特許文献2にあるような補償電流供給用に格別な低電圧電源を設ける必要も無くなるので、構造も簡素化され、回路面積の縮小とコストの削減を図ることが可能となる。更に、直流電源と各トランジスタのコレクタ間にはカップリングコンデンサをそれぞれ接続しているので、グランドへの補償電流の経路も支障無く確保されるものである。
【0017】
具体的には、請求項2の発明の如くコンプリメンタリトランジスタを、NPN型の正側トランジスタとPNP型の負側トランジスタから構成し、正側トランジスタのコレクタをカップリングコンデンサを介して直流電源の正側電源ラインに接続し、負側トランジスタのコレクタをカップリングコンデンサを介して直流電源の負側電源ラインに接続すると共に、正側電源ライン及び負側電源ラインと各トランジスタのエミッタ間に抵抗分圧回路をそれぞれ接続し、各抵抗分圧回路を構成する複数の抵抗の接続点を各トランジスタのコレクタとカップリングコンデンサとの接続点にそれぞれ接続する。
【0018】
特に、請求項3の発明の如く車両に搭載されたバッテリを直流電源とし、電動圧縮機を駆動する電動機を負荷として車両の車室内を空調する空気調和装置では、電動圧縮機筐体内における電力変換装置の設置スペースも制限されるため、上記本発明は極めて好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を適用した実施例の電力変換装置の電気回路図である。
図2図1のアクティブEMIフィルタ回路の電気回路図である。
図3図2の補償電流供給回路の電気回路図である。
図4図1の電力変換装置の電動機から電動圧縮機の筐体に流れる漏れ電流と、補償電流、及び、実際にグランドに流れるコモンモード電流の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例の電力変換装置1の電気回路図を示している。実施例の電力変換装置1は、電気自動車やハイブリッド自動車等の車両に搭載されて車室内を空調する車両用空気調和装置の冷媒回路を構成する電動圧縮機の電動機2を負荷とし、直流電源として車両に搭載されたバッテリ3からの直流電圧を任意の周波数の交流電圧に変換して電動機2に供給し、運転するものである。
【0021】
尚、適用する車両としては上記に限らず、エンジンで走行する通常の自動車にも本発明の電力変換装置1は適用可能である。
【0022】
図1において、実施例の電力変換装置1は、バッテリ3の正側電源ライン6(+)と負側電源ライン7(-)に接続されたアクティブEMIフィルタ回路8と、このアクティブEMIフィルタ回路8に接続された平滑コンデンサ9と、この平滑コンデンサ9に接続された三相のインバータ回路11とから構成されており、このインバータ回路11に電動機2の三相のステータ巻線2U、2V、2Wが接続されている。
【0023】
尚、図中C1は、これら巻線2U~2Wと電動圧縮機の筐体間に存在する寄生容量である。また、車両では電動圧縮機の筐体が車体に接続されて車体がグランドとなる。
【0024】
上記インバータ回路11は、三相ブリッジ接続されたIGBT等の6個のスイッチング素子12から成り、図示しないゲート駆動回路により各スイッチング素子12のPWM変調制御により、パルス幅制御された矩形波の電圧を電動機2の各相の巻線2U~2Wに供給するものである。
【0025】
前述した如く電動機2の各巻線2U~2Wと電動圧縮機の筐体の間には寄生容量C1が存在する。そのため、インバータ回路11の各スイッチング素子12のON/OFFに伴い、バルス状の電圧が電動機2の各巻線2U~2Wに印加されると、各巻線2U~2Wとグランド(車体)間にもパルス的な電圧が印加される。このときの電圧変化率により、巻線2U~2Wと電動圧縮機の筐体との間で寄生容量C1を通じて漏れ電流I1が流れる。この漏れ電流I1はノイズ電流であるコモンモード電流I3となってグランド(車体)を通り、直流電源側に還流する。
【0026】
このコモンモード電流I3を低減する目的で、アクティブEMIフィルタ回路8が設けられている。本発明におけるアクティブEMIフィルタ回路8の具体的な電気回路を図2に示す。実施例のアクティブEMIフィルタ回路8は、コモンモードコイル16(コモンモード電流検出器)と、本発明を適用した補償電流供給回路17と、カップリングコンデンサCoを有している。
【0027】
コモンモードコイル16は、二つの一次巻線L1、L2と、二次巻線L3(検出コイル)から成るコモンモードトランスであって、正側電源ライン6と負側電源ライン7の電流の差、即ち、ディファレンシャルモード電流の不平衡分から成るコモンモード電流I3を検出する。そのため、二つの一次巻線L1、L2は正側電源ライン6と負側電源ライン7に直列に接続されている。そして、二次巻線L3(検出コイル)に出力電流I4が流れる構成とされている。
【0028】
一方、補償電流供給回路17の具体的な電気回路を図3に示す。尚、図3中のA~Eで示す接続点は、図2中のA~Eの接続点に対応している。実施例の場合、補償電流供給回路17は、コンプリメンタリトランジスタ18を構成する正側トランジスタTr1及び負側トランジスタTr2と、第1及び第2のダイオードD1、D2と、抵抗R1とR2から成る第1の抵抗分圧回路21と、抵抗R3とR4から成る第2の抵抗分圧回路22と、二つのカップリングコンデンサCsとから構成されている。
【0029】
この場合、正側トランジスタTr1はNPN型のトランジスタであり、負側トランジスタTr2はPNP型のトランジスタである。従って、正側トランジスタTr1と負側トランジスタTr2は互いに逆の極性を有する。そして、正側トランジスタTr1と負側トランジスタTr2のエミッタは共通接続され、接続点E及びカップリングコンデンサCoを介し、電動圧縮機の筐体に接続されている。
【0030】
また、第1の抵抗分圧回路21は、正側トランジスタTr1のエミッタとバッテリ3(直流電源)の正側電源ライン6との間に接続点Cを介して接続されている。更に、カップリングコンデンサCsは正側トランジスタTr1のコレクタと正側電源ライン6との間に接続点Cを介して接続されている。そして、第1の抵抗分圧回路21の抵抗R1とR2の接続点が正側トランジスタTr1のコレクタとカップリングコンデンサCsとの接続点に接続されている。
【0031】
これにより、正側トランジスタTr1のエミッタ-コレクタ間には、バッテリ3(直流電源)の正側電源ライン6の電圧を抵抗R1とR2で分圧した値(電圧)が印加されることになる。尚、第1のダイオードD1は正側トランジスタTr1を保護するために、正側トランジスタTr1のエミッタとカップリングコンデンサCsの接続点C側との間に、正側トランジスタTr1とは逆並列の関係で接続されている。
【0032】
また、第2の抵抗分圧回路22は、負側トランジスタTr2のエミッタとバッテリ3(直流電源)の負側電源ライン7との間に接続点Dを介して接続されている。更に、もう一つのカップリングコンデンサCsは負側トランジスタTr2のコレクタと負側電源ライン7との間に接続点Dを介して接続されている。そして、第2の抵抗分圧回路22の抵抗R3とR4の接続点が負側トランジスタTr2のコレクタとカップリングコンデンサCsとの接続点に接続されている。
【0033】
これにより、負側トランジスタTr2のエミッタ-コレクタ間にも、バッテリ3(直流電源)の負側電源ライン7の電圧を抵抗R3とR4で分圧した値(電圧)が印加されることになる。尚、第2のダイオードD2は負側トランジスタTr2を保護するために、負側トランジスタTr2のエミッタとカップリングコンデンサCsの接続点D側との間に、負側トランジスタTr2とは逆並列の関係で接続されている。
【0034】
コンプリメンタリトランジスタ18を構成する上記正側トランジスタTr1と負側トランジスタTr2のベースは共通接続されており、この共通接続されたベースには、接続点Bを介してコモンモードコイル16の二次巻線L3(検出コイル)の一方の出力ラインが接続され、ここに出力電流I4が流れる構成とされると共に、正側トランジスタTr1と負側トランジスタTr2の共通接続されたエミッタは、接続点Aを介して二次巻線L3の他方の出力ラインに接続されている。従って、正側トランジスタTr1と負側トランジスタTr2は、二次巻線L3の出力極性に応じて、互いに逆に動作することになる。
【0035】
次に、実施例の電力変換装置1の動作を説明する。バッテリ3の出力(直流)は平滑コンデンサ9で平滑されてインバータ回路11の入力電圧となる。インバータ回路11の6個のスイッチング素子12は周知のPWMパルスでON/OFF制御される。電動機2はこのインバータ回路11の出力電圧で駆動される。
【0036】
前述したように負荷としての電動機2の巻線2U~2Wと電動圧縮機の筐体との間には寄生容量C1が存在する。従って、インバータ回路11からパルス的に電圧が印加される毎に寄生容量C1を通って漏れ電流I1が電動圧縮機の筐体へ流れ、これがコモンモード電流I3となってグランド(車体)に流れる。
【0037】
アクティブEMIフィルタ回路8のコモンモードコイル16は正側電源ライン6及び負側電源ライン7においてコモンモード電流I3を検出し、二次巻線L3に、一次巻線L1、L2と二次巻線L3との巻線比に応じて出力電流I4を出力し、補償電流供給回路17のコンプリメンタリトランジスタ18を構成する正側トランジスタTr1と負側トランジスタTr2を駆動する。
【0038】
コモンモードコイル16の出力電流I4が正側トランジスタTr1及び負側トランジスタTr2のベースに流入すると、これが各トランジスタTr1、Tr2で増幅される。正側トランジスタTr1がONのときには、カップリングコンデンサCsと正側トランジスタTr1とカップリングコンデンサCoと電動機2の寄生容量C1とから成る経路で補償電流I2がグランド(車体)に向かって流れ、電動機2の漏れ電流I1を打ち消すことにより、グランド(車体)に流れるコモンモード電流I3は極めて小さくなる。
【0039】
負側トランジスタTr2がONのときは、カップリングコンデンサCoと負側トランジスタTr2とカップリングコンデンサCsとから成る経路で補償電流I2がグランド(車体)から電動圧縮機の筐体に向かって流れる。この補償電流I2によるコモンモード電流I3の低減効果は正側トランジスタTr1がONのときと同様に生じる。
【0040】
この様子が図4に示されている。漏れ電流I1とそれとは逆相の補償電流I2の和がコモンモード電流I3となる(I1+I2=I3)。この補償電流供給回路17は、漏れ電流I1が補償電流I2と相殺されたコモンモード電流I3の結果がフィードバックされて、アクティブ的に漏れ電流I1を補償する動作を行う。
【0041】
以上詳述した如く、本発明では電動機2から電動圧縮機の筐体に流れる漏れ電流I1のうちのコモンモード電流I3を検出するためのコモンモードコイル16と、漏れ電流I1を打ち消すように、当該漏れ電流I1とは逆相の補償電流I2をグランドへ流すための補償電流供給回路17を有するアクティブEMIフィルタ回路8を設け、補償電流供給回路8を、共通接続されたベースと共通接続されたエミッタを有するコンプリメンタリトランジスタ18(Tr1、Tr2)から構成したので、コンプリメンタリトランジスタ18の働きによって、電動機2から電動圧縮機の筐体に流れる漏れ電流I1を打ち消す補償電流I2を流し、漏れ電流I1のうち、実際にグランド(車体)に流れる漏れ電流であるコモンモード電流I3を減少させ、このコモンモード電流I3により発生するノイズを低減することができるようになる。
【0042】
特に、本発明では補償電流供給回路17に、バッテリ3(直流電源)を分圧してコンプリメンタリトランジスタ18を構成する正側トランジスタTr1及び負側トランジスタTr2のエミッタ-コレクタ間にそれぞれ印加するための第1及び第2の抵抗分圧回路21、22を設けたので、コンプリメンタリトランジスタ18を構成する正側トランジスタTr1及び負側トランジスタTr2のエミッタ-コレクタ間にはバッテリ3の電圧が抵抗分圧回路21、22で分圧されて印加されることになる。
【0043】
これにより、コンプリメンタリトランジスタ18を構成する正側トランジスタTr1と負側トランジスタTr2として特別に高耐圧のものを用意する必要が無くなる。また、従来技術の如く補償電流供給用に格別な低電圧電源を設ける必要も無くなるので、構造も簡素化され、回路面積の縮小とコストの削減を図ることが可能となる。更に、バッテリ3(直流電源)と正側トランジスタTr1及び負側トランジスタTr2のコレクタ間にはカップリングコンデンサCsをそれぞれ接続しているので、グランド(車体)への補償電流の経路も支障無く確保されることになる。
【0044】
特に、車両の車室内を空調する空気調和装置において、実施例の如く車両に搭載されたバッテリ3を直流電源とし、電動圧縮機を駆動する電動機2を負荷とする電動圧縮機の筐体内での電力変換装置1の設置スペースも制限されるため、本発明は極めて好適なものとなる。
【0045】
尚、実施例では車両用空気調和装置の冷媒回路を構成する電動圧縮機の電動機2を負荷とし、直流電源として車両に搭載されたバッテリからの直流電圧を任意の周波数の交流電圧に変換して電動機に供給する電力変換装置に本発明を適用したが、請求項1及び請求項2の発明ではそれに限らず、商用交流電源を整流して直流電源とし、インバータ回路で電動機等の負荷を駆動する家庭用/業務用の機器にも本発明は有効である。
【符号の説明】
【0046】
1 電力変換装置
2 電動機(負荷)
3 バッテリ(直流電源)
6 正側電源ライン
7 負側電源ライン
8 アクティブEMIフィルタ回路
11 インバータ回路
12 スイッチング素子
16 コモンモードコイル
17 補償電流供給回路
18 コンプリメンタリトランジスタ
21、22 抵抗分圧回路
Cs カップリングコンデンサ
Tr1 正側トランジスタ
Tr2 負側トランジスタ
図1
図2
図3
図4