(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】アクティブ除振システム
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220118BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20220118BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20220118BHJP
F16F 9/04 20060101ALI20220118BHJP
F16F 9/50 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/023 Z
F16F15/04 A
F16F9/04
F16F9/50
(21)【出願番号】P 2018082012
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000201869
【氏名又は名称】倉敷化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 亘平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 伸悟
(72)【発明者】
【氏名】明石 卓也
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-014159(JP,A)
【文献】特開2013-190070(JP,A)
【文献】特開2000-065128(JP,A)
【文献】特表2015-518947(JP,A)
【文献】特開2013-036511(JP,A)
【文献】特開2011-038565(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0127400(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1914436(CN,A)
【文献】特開2015-94192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02-15/08
F16F 9/00- 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアクティブ除振装置と、前記複数のアクティブ除振装置を各々制御するコントローラと、を備え、前記複数のアクティブ除振装置を上下に積み重ねて成るアクティブ除振システムであって、
前記複数のアクティブ除振装置は、それぞれ、
基礎に対して被支持体を下方から支持する弾性体と、
前記弾性体を介して前記被支持体を昇降させるとともに、該被支持体に対し、前記弾性体を介して制御力を付与するアクチュエータと、を備え、
前記複数のアクティブ除振装置は、それぞれの起動に際して、前記被支持体を所定位置に昇降させる工程と、該所定位置に昇降させた被支持体に生じる振動を抑制するように前記アクチュエータを制御可能なアクティブ状態へ移行する工程とを実施するよう構成され、
前記コントローラは、前記複数のアクティブ除振装置をそれぞれ起動させるときには、該複数のアクティブ除振装置を1つずつ順番に前記アクティブ状態へと移行させる
ことを特徴とするアクティブ除振システム。
【請求項2】
請求項1に記載されたアクティブ除振システムにおいて、
前記コントローラは、前記複数のアクティブ除振装置をそれぞれ起動させるときには、前記被支持体を前記所定位置に昇降させる工程を1つずつ順番に完了させる
ことを特徴とするアクティブ除振システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたアクティブ除振システムにおいて、
前記コントローラは、前記複数のアクティブ除振装置をそれぞれ起動させる際には、上段側に位置するアクティブ除振装置から、下段側に位置するアクティブ除振装置へと順に、前記アクティブ状態へ移行させるよう構成されている
ことを特徴とするアクティブ除振システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたアクティブ除振システムにおいて、
前記コントローラは、前記アクティブ状態においては、前記制御力によって前記被支持体の振動を抑制するように、前記被支持体の振動状態に基づいて前記アクチュエータをフィードバック制御することができる
ことを特徴とするアクティブ除振システム。
【請求項5】
請求項4に記載されたアクティブ除振システムにおいて、
前記コントローラは、前記アクティブ状態においては、前記制御力によって前記被支持体の振動を減殺するように、前記基礎に対する前記被支持体の相対変位に基づいて前記アクチュエータをフィードバック制御することができる
ことを特徴とするアクティブ除振システム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載されたアクティブ除振システムにおいて、
前記コントローラは、前記アクティブ状態においては、前記制御力によって前記被支持体の振動が減衰するように、前記被支持体の加速度に基づいて前記アクチュエータをフィードバック制御することができる
ことを特徴とするアクティブ除振システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載されたアクティブ除振システムにおいて、
前記コントローラは、前記複数のアクティブ除振装置の各々につき1つずつ設けられている
ことを特徴とするアクティブ除振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、複数のアクティブ除振装置を上下に積み重ねて成るアクティブ除振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブタイプの除振装置(いわゆるアクティブ除振装置)は、例えば特許文献1に開示されている。具体的に、この特許文献1に開示されたアクティブ除振装置(アクティブ精密除振台)は、基礎に対して被支持体(定盤)を下方から支持する弾性体(同文献では「気体ばね」が例示)と、この弾性体を介して被支持体を昇降させるとともに、この被支持体に対し、弾性体を介して制御力を付与するアクチュエータ(同文献では「サーボ弁」が例示)と、を有している。このアクティブ除振装置は、コントローラから出力された制御信号に基づいて、被支持体に生じる振動を抑制するように、アクチュエータを制御することができる。
【0003】
また、前記特許文献1には、より高度な除振性能を得るべく、複数のアクティブ除振装置を組み合わせて用いることも開示されている。具体的に、この特許文献1には、複数のアクティブ除振装置を上下に積み重ねて成るアクティブ除振システムの一例として、上段側のアクティブ除振装置(上段アクチュエータ)と、下段側のアクティブ除振装置(下段アクチュエータ)とを直列配置することが開示されている。この場合、下段側のアクティブ除振装置には、上段側のアクティブ除振装置が搭載されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なアクティブ除振装置においては、被支持体に生じる振動を抑制するための制御(以下、「振動抑制制御」ともいう)を開始するのに先立って、予め、被支持体を所定位置(例えば、変位フィードバック制御における被支持体の目標位置)まで昇降させる必要がある。
【0006】
ここで、前記特許文献1に記載されているようなアクティブ除振システムの場合、前述の振動抑制制御を速やかに開始するためには、上下のアクティブ除振装置の双方において被支持体を同時に昇降させるような構成が考えられる。
【0007】
しかし、そのような構成を採用した場合、昇降中は振動抑制制御を実行することができないため、上下のアクティブ除振装置が各々不安定な状態となり、各々が発振する可能性がある。これにより、振動抑制制御を実行可能な状態(以下、「アクティブ状態」ともいう)へ移行するのが、結果的に遅れてしまう可能性がある。
【0008】
こうした問題は、前記特許文献1のように、空気ばねとサーボ弁とを組み合わせた除振装置に限らず、例えば、コイルばねとリニアモータとを組み合わせたアクティブ除振装置にも共通の問題である。
【0009】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数のアクティブ除振装置を上下に積み重ねて成るアクティブ除振システムにおいて、安定的にかつ速やかな起動を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここに開示する技術は、複数のアクティブ除振装置と、前記複数のアクティブ除振装置を各々制御するコントローラと、を備え、前記複数のアクティブ除振装置を上下に積み重ねて成るアクティブ除振システムに係る。前記複数のアクティブ除振装置は、それぞれ、基礎に対して被支持体を下方から支持する弾性体と、前記弾性体を介して前記被支持体を昇降させるとともに、該被支持体に対し、前記弾性体を介して制御力を付与するアクチュエータと、を備え、前記複数のアクティブ除振装置は、それぞれの起動に際して、前記被支持体を所定位置に昇降させる工程と、該所定位置に昇降させた被支持体に生じる振動を抑制するように前記アクチュエータを制御可能なアクティブ状態へ移行する工程とを実施するよう構成される。
【0011】
そして、前記コントローラは、前記複数のアクティブ除振装置をそれぞれ起動させるときには、該複数のアクティブ除振装置を1つずつ順番に前記アクティブ状態へと移行させる。
【0012】
ここで、「所定位置」とは、アクティブ除振装置毎に定められる、各被支持体の目標位置等を示す。
【0013】
この構成によれば、複数のアクティブ除振装置をそれぞれ起動させるときには、各アクティブ除振装置を1つずつ順番にアクティブ状態へと移行させる。例えば、上段側のアクティブ除振装置をアクティブ状態へと移行させた後、下段側のアクティブ除振装置を所定位置に向けて昇降させると、その昇降に伴い生じる振動が、上段側のアクティブ除振装置に揺れをもたらす可能性がある。しかし、上段側のアクティブ除振装置は、アクティブ状態への移行が完了しているため、下段側からもたらされる揺れを減殺することができる。これにより、アクティブ除振システムを安定して起動させることができ、また、その起動を結果的に速やかに行うことができる。
【0014】
また、前記コントローラは、前記複数のアクティブ除振装置をそれぞれ起動させるときには、前記被支持体を前記所定位置に昇降させる工程を1つずつ順番に完了させる、としてもよい。
【0015】
この構成によれば、上下のアクティブ除振装置を安定して昇降させ、ひいてはアクティブ除振システムをより安定的に起動させることができる。
【0016】
また、前記コントローラは、前記複数のアクティブ除振装置をそれぞれ起動させる際には、上段側に位置するアクティブ除振装置から、下段側に位置するアクティブ除振装置へと順に、前記アクティブ状態へ移行させるよう構成されている、としてもよい。
【0017】
通常、最上段に位置するアクティブ除振装置には、半導体関連の製造装置等の除振対象が搭載される。よって、上段側に位置するアクティブ除振装置は、下段側に位置するアクティブ除振装置に比して、そうした除振対象に近接することになる。したがって、上段側に位置するアクティブ除振装置から順にアクティブ状態へと移行させることにより、除振対象を揺れから守る上で有利になる。
【0018】
また、前記コントローラは、前記アクティブ状態においては、前記制御力によって前記被支持体の振動を抑制するように、前記被支持体の振動状態に基づいて前記アクチュエータをフィードバック制御することができる、としてもよい。
【0019】
この構成によれば、アクティブ状態において、被支持体の振動を抑えることができる。
【0020】
また、前記コントローラは、前記アクティブ状態においては、前記制御力によって前記被支持体の振動を減殺するように、前記基礎に対する前記被支持体の相対変位に基づいて前記アクチュエータをフィードバック制御することができる、としてもよい。
【0021】
この構成によれば、アクティブ状態において、被支持体の振動を抑えることができる。
【0022】
また、前記コントローラは、前記アクティブ状態においては、前記制御力によって前記被支持体の振動が減衰するように、前記被支持体の加速度に基づいて前記アクチュエータをフィードバック制御することができる、としてもよい。
【0023】
この構成によれば、アクティブ状態において、被支持体の振動を抑えることができる。
【0024】
また、前記コントローラは、前記複数のアクティブ除振装置の各々につき1つずつ設けられている、としてもよい。
【発明の効果】
【0025】
前記の構成によれば、複数のアクティブ除振装置を上下に積み重ねて成るアクティブ除振システムにおいて、安定的にかつ速やかな起動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、アクティブ除振システムの概略構成を例示する図である。
【
図2】
図2は、アクティブ除振システムの制御系を例示するブロック図である。
【
図3】
図3は、アクティブ除振システムの起動に関する制御を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
【0028】
-アクティブ除振システムの全体構成-
図1は、本実施形態に係るアクティブ除振システムS(以下、単に「除振システム」と呼称する)の概略構成を例示する図である。また、
図2は、除振システムSの制御系を例示するブロック図である。
【0029】
除振システムSは、2つのアクティブ除振装置1(以下、単に「除振装置」と呼称する)と、2つの除振装置1を各々制御するコントローラ100と、を備えており、2つの除振装置1を上下に積み重ねて成る。2つの除振装置1は、双方とも、いわゆるアクティブタイプの除振装置であり、これらを上下に積み重ねることによって、後述のように、より高度な除振性能を発揮することができる。
【0030】
以下、上段側に配置された除振装置1を「第1除振装置1A」と呼称する一方、下段側に配置された除振装置1を「第2除振装置1B」と呼称する。第1除振装置1Aには、半導体関連の製造装置等、除振対象としての搭載物Dが搭載される一方、第2除振装置1Bには、第1除振装置1Aが搭載されるように構成されている。すなわち、第1除振装置1Aは、搭載物Dの振動を抑えるように作動する一方、第2除振装置1Bは、そうした搭載物Dおよび第1除振装置1Aの振動を抑えるように作動する。なお、第1除振装置1Aは、「上段側に位置するアクティブ除振装置」の例示であり、第2除振装置1Bは、「下段側に位置するアクティブ除振装置」の例示である。
【0031】
-アクティブ除振装置の全体構成-
以下、各除振装置1の構成について詳細に説明する。以下の説明は、第1除振装置1Aと、第2除振装置1Bとで共通である。
【0032】
具体的に、本実施形態に係る除振装置1は、除振対象が搭載される除振台10と、基礎を介して除振台10を下方から支持する複数の空気ばねユニット2と、この空気ばねユニット2を介して除振台10を昇降させるとともに、除振台10に対し、空気ばねユニット2を介して制御力を付与するサーボ弁25と、を備えている。
【0033】
除振台10は、いわゆる定盤として構成されており、複数(通常は4個であるが、3個以上であればよい)の空気ばねユニット2によって下方から弾性的に支持されている。以下の説明において、第1除振装置1Aにおける除振台10を「第1除振台10A」と呼称する一方、第2除振装置1Bにおける除振台10を「第2除振台10B」と呼称する場合がある。第1及び第2除振台10A,10Bは、双方とも「被支持体」の例示である。
【0034】
空気ばねユニット2は、上下方向の荷重を支持する空気ばねSv(弾性体)によって構成されている。この空気ばねSvは、ベースプレート(基礎)21の上に配設されて上端が開口するケース20と、その上端の開口にダイヤフラム22を介して気密状に内挿されて、ケース20内に空気室23を区画するピストン24と、を備えている。こうして空気ばねSvを用いて荷重を支持することから、除振装置1は優れた除振性能を有するものであるが、さらに、この実施形態では、空気ばねSvの空気圧(内圧)を制御することにより、除振台10に対して振動を減殺するような制御力を付与することができる。
【0035】
そのために、各空気ばねユニット2には、その支持位置(所定位置)の近傍における除振台10の加速度と、その変位とをそれぞれ検出するためのFB加速度センサS1及び変位センサS2が付設されている。また、ベースプレート21における加速度(床振動)を検出するためのFF加速度センサS3も設けられており、それら各センサS1~S3から出力される検知信号が、それぞれコントローラ100に入力される。
【0036】
また、各空気ばねユニット2には、図外の空気圧源から圧縮空気を供給するための配管が接続され、この配管に介設されたサーボ弁25により空気ばねSvの空気圧を調整することができる。このサーボ弁25は、空気ばねSvを介して除振台10を昇降させることができる。
【0037】
詳しくは、各サーボ弁25は、コントローラ100からの制御信号を受けて開閉するようになっており、各サーボ弁25が開閉することにより、空気ばねユニット2毎に空気ばねSvに対する空気の給排流量が調整されて、その空気ばねSvの空気圧が速やかに変更されるようになっている。空気ばねSvの空気圧を変更することで、その空気ばねSvのケース20内に挿入されたピストン24が上下に移動する。これにより、除振台10を昇降させたり、除振台10に対して制御力を付与したりすることができる。
【0038】
また、各サーボ弁25は、圧搾空気を貯留するリザーバタンク(不図示)に接続されている。このリザーバタンクには、不図示の電動ポンプが接続されていて、その電動ポンプが作動することによって、リザーバタンク内の空気圧が所定値に維持されるようになっている。
【0039】
なお、
図1では、右側の空気ばねユニット2のみに、その制御系を成す上下方向のFB加速度センサS1、変位センサS2、FF加速度センサS3、サーボ弁25等を示しているが、同様の制御系は、各空気ばねユニット2に付設されている。
【0040】
また、図示しないが、同様の空気ばねユニット2を水平方向の制御力を発生するためのアクチュエータとして除振台10の周囲に設けたり、或いは、複数の空気ばねSvを水平方向のアクチュエータとして設けたりして、その内圧を制御することにより、除振台10の水平方向の振動も抑制することができる。
【0041】
-振動の抑制に関する制御-
コントローラ100は、各センサS1~S3から入力される信号等に基づいて、サーボ弁25を制御する。これにより圧縮空気の供給流量及び排気流量を調整することで、空気ばねSvの内圧を調整するようになっている。このコントローラ100は、第1及び第2除振装置1A,1Bの各々につき、1つずつ設けられている。
【0042】
以下、第1除振装置1Aのコントローラ100を「第1コントローラ100A」と呼称するとともに、第2除振装置1Bのコントローラ100を「第2コントローラ100B」と呼称する場合がある。
【0043】
以下、サーボ弁25を介した除振台10の制御について具体的に説明する。便宜上、第1除振装置1Aについてのみ説明するが、第2除振装置1Bについても同様の制御が行われる。
【0044】
この構成例では、コントローラ100は、除振FB制御部101、制振FB制御部102、除振FF制御部103等を有しており、サーボ弁25へと制御信号を入力することにより、除振台10に対し、その振動を抑えるような制御力を付与するよう構成されている。
【0045】
図2に示すように、サーボ弁25への入力は、主に、FB加速度センサS1からの出力に基づいて除振FB制御部101により演算される除振フィードバック操作量と、変位センサS2からの出力に基づいて制振FB制御部102により演算される制振フィードバック操作量と、FF加速度センサS3からの出力に基づいて除振FF制御部103により演算される除振フィードフォワード操作量と、を含んで成る。
【0046】
除振FB制御部101は、FB加速度センサS1の検出値、すなわち除振台10の上下方向における加速度に基づいて、その振動が減衰するような制御力を空気ばねSvにより発生させるものである。例えば、加速度の検出値、その微分値及び積分値にそれぞれフィードバックゲインを乗算し、それら三者を足し合わせた後に反転することにより、サーボ弁25への制御入力(除振フィードバック操作量)とすることができる。これにより、除振台10に剛性を加えたり、除振台10の質量を増やしたりするのと同様の効果が得られる。
【0047】
また、制振FB制御部102は、変位センサS2の検出値、すなわち除振台10の上下位置の変化量(相対変位)に基づいて、これが小さくなるように空気ばねSvの内圧を制御することにより、この除振台10の傾きや、この傾きにより発生する揺れを抑える(減衰させる)ものである。例えば、変位の検出値を目標値(零)から減算した後にPID制御則にしたがって、サーボ弁25への制御入力(制振フィードバック操作量)を求めることができる。これにより、除振台10の上下位置を、前述の支持位置に収束させることができる。
【0048】
さらに、除振FF制御部103は、FF加速度センサS3による検出値、すなわち床(
図1の斜線部を参照)の振動状態に基づいて、そこから除振対象物へ伝わる振動を打ち消すような逆位相の振動を発生させるためのものであり、例えばディジタルフィルタを用いてサーボ弁25への制御入力を求めることができる。このディジタルフィルタの特性は、床振動が空気ばねユニット2を介して除振台10に伝わるときの伝達関数H(s)と、該空気ばねユニット2によって構成される補償系の伝達関数K(s)を用いて、-H(s)・K(s)
-1として表される。
【0049】
そして、前述のような制御入力を受けてサーボ弁25が作動し、空気ばねユニット2の内圧が制御されることで、除振対象物である除振台10に適切な制御力が付与されることになる。すなわち、床から伝わる振動については、除振FF制御部103が除振フィードフォワード制御を行うことによって振動の伝達を抑えつつ、それでも伝達される微小な振動については、除振FB制御部101が除振フィードバック制御を行うことによって減殺することで、非常に高い除振性能が得られる。
【0050】
一方で、比較的大きな振動、つまり、搭載物Dの作動等に伴って除振台10に生じる振動(揺れ)については、前述の除振フィードバック制御に加えて、制振FB制御部102が制振フィードバック制御を行うことで減殺されることになる。
【0051】
前述のように、こうした構成は、第1除振装置1Aと、第2除振装置1Bとで共通である。ただし、第1除振装置1Aは、第1除振台10Aの上下方向における加速度z2”に基づいて除振フィードバック制御を実行し、第1除振台10Aの上下方向における相対変位z2-z1に基づいて制振フィードバック制御を実行し、第1除振装置1Aのベースプレート21の上下方向における加速度z1”に基づいて除振フィードフォワード制御を実行する。
【0052】
なお、z0、z1およびz2は、それぞれ、第2除振装置1Bが載置された床面の上下位置、第2除振装置1Bにおける第2除振台10Bの上下位置、第1除振装置1Aにおける第1除振台10Aの上下位置に等しい。
図1に示すように、第1除振装置1Aのベースプレート21は、第2除振台10Bの上に固定されている。よって、z1の時間微分は、第1除振装置1Aにおけるベースプレート21の上下位置の時間微分に等しい。
【0053】
一方、第2除振装置1Bは、第2除振台10Bの上下方向における加速度z1”に基づいて除振フィードバック制御を実行し、第2除振台10Bの上下方向における相対変位z1-z0に基づいて制振フィードバック制御を実行し、第2除振装置1Bのベースプレート21の上下方向における加速度z0”に基づいて除振フィードフォワード制御を実行する。
【0054】
-アクティブ除振システムの起動に関する構成-
ところで、前述の第1及び第2除振装置1A,1Bにおいては、前記のような除振フィードバック制御、制振フィードバック制御および除振フィードフォワード制御(以下、これらを「振動抑制制御」と総称する場合がある)を開始するのに先立って、予め、第1及び第2除振装置1A,1Bのそれぞれの除振台10を所定の支持位置まで昇降させる必要がある。
【0055】
すなわち、第1及び第2除振装置1A,1Bは、それぞれの起動に際して、各々の除振台10を支持位置まで浮上させる工程と、支持位置まで昇降させた除振台10に生じる振動を抑制するために、前述の振動抑制制御を開始する工程とを、を順次実行する必要がある。以下の記載では、第1及び第2除振装置1A,1Bの各々において、振動抑制制御を実行可能な状態を「アクティブ状態」と呼称する。つまり、後者の工程は、第1及び第2除振装置1A,1Bをそれぞれアクティブ状態へと移行させることに等しい。アクティブ状態においては、第1及び第2除振装置1A,1Bは、それぞれ、前記のような除振フィードバック制御、制振フィードバック制御および除振フィードフォワード制御を実行することができる。また、第1及び第2除振装置1A,1Bは、いずれも、除振台10の昇降が完了次第、速やかにアクティブ状態へと移行するように構成されている。
【0056】
本実施形態に係る除振システムSにおいては、第1及び第2除振装置1A,1Bが双方ともアクティブ状態へと移行することにより、各々が独立して振動抑制制御を実行することができる。
【0057】
ここで、そうした振動抑制制御を速やかに開始するためには、すなわち各除振装置1A,1Bをアクティブ状態へと速やかに移行させるためには、第1及び第2除振装置1A,1Bの双方において、除振台10を同時に昇降させるような構成が考えられる。
【0058】
しかし、そのような構成を採用した場合、除振台10の昇降中は振動抑制制御が実行されないため、第1及び第2除振装置1A,1Bが各々不安定な状態となり、各々が発振する可能性がある。これにより、アクティブ状態へ移行するのが、結果的に遅れてしまうことになる。
【0059】
対して、本実施形態に係る除振システムSは、第1及び第2除振装置1A,1Bをそれぞれ起動させるときには、第1及び第2除振装置1A,1Bを1つずつ順番にアクティブ状態へと移行させる。さらに詳しくは、除振システムSは、上段側に位置する第1除振装置1Aから、下段側に位置する第2除振装置1Bへと順に、アクティブ状態へと移行させる。
【0060】
例えば、上段側の除振装置1Aをアクティブ状態へと移行させた後、下段側の除振装置1Bを支持位置に向けて浮上させると、その浮上に伴い生じる振動が、上段側の除振装置1Aに揺れをもたらす可能性がある。しかし、上段側の除振装置1Aは、アクティブ状態への移行が既に完了しているため、下段側からもたらされる揺れを減殺することができる。これにより、除振システムSを安定して起動させることができ、また、その起動を結果的に速やかに行うことができる。
【0061】
また、上段側に位置する第1除振装置1Aは、除振対象としての搭載物Dを直に支持している。この第1除振装置1Aから順にアクティブ状態へと移行させることにより、搭載物Dを揺れから守る上で有利になる。
【0062】
また、本実施形態に係る除振システムSは、第1及び第2除振台10A,10Bを所定位置に昇降させる工程を、1つずつ順番に完了させるように構成されている。すなわち、除振システムSは、第1除振台10Aを昇降させる工程を完了した後に、第2除振台10Bの昇降を開始する。その結果、本実施形態では、第1除振台10Aが浮上している期間と、第2除振台10Bが浮上している期間とがオーバーラップしないようになっている。これにより、第1及び第2除振装置1A,1Bを安定して昇降させ、ひいては除振システムSをより安定的に起動させることができる。
【0063】
また、前記のような制御態様を実現するべく、第1コントローラ100Aは、第1除振装置1Aの起動を開始してから(具体的には、第1除振台10Aの昇降を開始してから)所定時間が経過すると、第2コントローラ100Bへタイミング信号を出力する。この所定時間は、第1除振台10Aの昇降に要する時間と、第1除振台10Aの昇降を完了してからアクティブ状態へ移行するのに要する時間との総和として規定されている。よって、第1コントローラ100Aがタイミング信号を出力した時点で、第1除振装置1Aは、アクティブ状態への移行を実質的に完了している。
【0064】
前記のタイミング信号が入力されると、第2コントローラ100Bは、第2除振装置1Bの起動を開始する(具体的には、第2除振台10Bの昇降を開始する)。前記のように、第1コントローラ100Aがタイミング信号を出力した時点で、第1除振装置1Aはアクティブ状態への移行を実質的に完了している。よって、第1除振装置1Aがアクティブ状態への移行を完了している状態で、第2除振装置1Bを起動させることができる。そのことで、仮に、第2除振装置1Bの除振台10(第2除振台10B)が発振したとしても、それに伴う揺れを第1除振装置1Aによって減殺することができる。
【0065】
-制御フローの具体例-
以下、除振システムSの起動に際して実施される制御プロセスについて説明する。
【0066】
図3のステップS1に示すように、除振システムSを起動させる前は、第1及び第2除振装置1A,1Bは、双方とも待機状態にある。この待機状態においては、各装置の空気ばねSvには圧縮空気が供給されておらず、第1及び第2除振台10A,10Bは双方とも沈降状態にある。
【0067】
続くステップS2に示すように、除振システムSを起動させると、第1コントローラ100Aが、第1除振装置1Aのサーボ弁25へ制御信号を出力する。そして、この制御信号を受けたサーボ弁25が、第1除振台10Aを浮上(昇降)させる。このとき、第2除振装置1Bは、ステップS1に引き続いて待機状態にある。
【0068】
そして、続くステップS3において、第1除振台10Aの浮上を開始してから所定時間が経過すると、第1コントローラ100Aは、第2コントローラ100Bにタイミング信号を出力する。このタイミング信号が入力されると、第2コントローラ100Bは、第2除振装置1Bのサーボ弁25へ制御信号を出力する。そして、この制御信号を受けたサーボ弁25が、第2除振台10Bを浮上(昇降)させる。ここで、第2除振台10Bの浮上が開始する直前に、第1除振装置1Aは、第1除振台10Aの浮上を完了してアクティブ状態へと移行する。アクティブ状態へと移行した第1除振装置1Aは、前述の除振フィードバック制御、制振フィードバック制御および除振フィードフォワード制御を開始する。
【0069】
続くステップS4においては、第1除振装置1Aがアクティブ状態にある状態で、第2除振台10Bの浮上が進行する。そして、第2除振台10Bの浮上が終わり次第、第2除振装置1Bは、アクティブ状態へと移行する。
【0070】
こうして、除振システムSの起動が完了すると、第1除振装置1Aは、床から第2除振装置1Bを介して第1除振台10Aに伝わる振動と、搭載物Dの作動等に伴って第1除振台10Aに生じる振動と、の双方を減殺することができる。対して、第2除振装置1Bは、床から第2除振台10Bに伝わる振動と、搭載物Dの作動等に伴って第1除振装置1Aを介して第2除振台10Bに伝わる振動と、の双方を減殺することができる。これにより、本実施形態に係る除振システムSは、良好な除振性能を発揮する。
【0071】
《他の実施形態》
前記実施形態では、2つの除振装置1A,1Bを積み重ねて成る除振システムSについて説明したが、この構成には限定されない。例えば、3つ以上の除振装置を積み重ねて成る除振システムについても、前述の技術を適用することができる。その場合、最上段に位置する除振装置から順に、アクティブ状態へと移行させてもよい。
【0072】
また、前記実施形態では、2つの除振装置1A,1Bは、上下の配置を除いて同様に構成されていたが、この構成には限定されない。例えば、上段側に位置する除振装置1Aを相対的に小型にする一方、下段側に位置する除振装置1Bを相対的に大型にしてもよい。そうすることで、下段側においては、より大きな重量を支持するのに有利になる一方、上段側においては、システム全体の小型化・軽量化に有利になる。特に、下段側の除振装置1Bにおいては、第2除振台10Bを設ける代わりに、いわゆるトッププレートなど、より軽量な板状部材を介在させてもよい。
【0073】
また、前記実施形態では、2つの除振装置1A,1Bは、それぞれ第1及び第2コントローラ100A,100Bを備えていたが、この構成には限定されてない。例えば、第1及び第2除振装置1A,1Bに共通のコントローラを用いてもよい。
【0074】
また、前記実施形態では、アクチュエータとしてサーボ弁25を用いるとともに、弾性体として空気ばねSvを用いる構成について例示したが、この構成には限定されない。例えば、アクチュエータとしてリニアモータを用いるとともに、弾性体としてコイルばねを用いてもよい。コイルばねは、空気ばねのように積分特性を持たないため、アクチュエータとしてリニアモータを用いた場合は、除振FB制御部101まわりの構成が変更される。しかし、基本的な制御態様に関しては、前記実施形態とほぼ同様となる。
【0075】
また、前記実施形態では、振動抑制制御のうち、除振フィードバック制御、制振フィードバック制御および除振フィードフォワード制御を実行可能な状態としてアクティブ状態を定義したが、アクティブ状態の定義は、これに限定されない。アクティブ状態は、少なくとも制振フィードバック制御を実行可能な状態、好ましくは、制振フィードバック制御及び除振フィードバック制御を実行可能な状態としてもよい。
【0076】
また、前記実施形態では、第1除振台10Aが浮上を完了した後に、第2除振台10Bが浮上を開始するように構成されていたが、この構成には限定されない。第1除振台10Aと第2除振台10Bとで、浮上している期間がオーバーラップしていてもよい。例えば、第1除振台10Aが浮上を完了する直前に、第2除振台10Bが浮上を開始するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0077】
S アクティブ除振システム
1 アクティブ除振装置
1A 第1除振装置(上段側に位置するアクティブ除振装置)
1B 第2除振装置(下段側に位置するアクティブ除振装置)
2 空気ばねユニット
Sv 空気ばね(弾性体)
10 除振台(被支持体)
10A 第1除振台(被支持体)
10B 第2除振台(被支持体)
21 ベースプレート(基礎)
25 サーボ弁(アクチュエータ)
100 コントローラ
100A 第1コントローラ(コントローラ)
100B 第2コントローラ(コントローラ)