(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20220118BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B41J2/165 303
B41J2/01 303
(21)【出願番号】P 2018087846
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-254541(JP,A)
【文献】特開2005-199597(JP,A)
【文献】特開平03-240554(JP,A)
【文献】特開2015-145095(JP,A)
【文献】特開平09-150522(JP,A)
【文献】米国特許第05898445(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/165
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体との対向面に、複数のノズル孔が形成されたノズル面を有するヘッドと、
前記ヘッドを保持するヘッド保持部材と、
前記ノズル面を払拭する払拭部材と、
前記払拭部材による前記ノズル面の払拭を制御する制御部と、を有し、
前記制御部が、前記ヘッド保持部材と前記払拭部材とを相対的に移動させて、前記ノズル面に付着したインクを払拭するインクジェット印刷装置であって、
前記ヘッド保持部材において前記ヘッドは、前記ヘッド保持部材と前記払拭部材との相対移動方向で、間隔をあけて並んでおり、
前記制御部は、
前記払拭部材を、前記相対移動方向で並んだ前記ヘッドの間から、前記相対移動方向に移動させて、前記相対移動方向における一方側に位置する前記ヘッドのノズル面の払拭と、他方側に位置する前記ヘッドのノズル面の払拭を行い、
前記払拭部材は、前記相対移動方向における一方側と他方側に、前記インクの掻取面を有しており、
前記払拭部材は、前記相対移動方向における一方側の前記掻取面で、前記相対移動方向における一方側に位置する前記ヘッドのノズル面を払拭し、前記相対移動方向における他方側の前記掻取面で、前記相対移動方向における他方側に位置する前記ヘッドのノズル面を払拭し、
前記ヘッド保持部材では、前記相対移動方向で並んだ前記ヘッドの間に、前記ノズル面から離れる方向に窪んだ凹部が設けられており、
前記払拭部材は、板状の弾性体であり、
前記凹部は、前記払拭部材との干渉を避ける深さで設けられていることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記払拭部材は、前記ノズル面を払拭する一端側が、当該一端に近づくにつれて前記相対移動方向の厚みが厚くなっていることを特徴とする請求項
1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記払拭部材では、前記一方側の掻取面と前記他方側の掻取面に、円弧状に窪んだすくい面領域が形成されていることを特徴とする請求項
2に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
前記ヘッド保持部材では、前記印刷媒体との対向面から突出する突起部を有しており、
前記突起部は、前記相対移動方向で並んだ前記ヘッドにおける前記凹部とは反対側の側縁に沿って、前記相対移動方向に交差する向きで設けられており、
前記突起部は、前記相対移動方向で前記ノズル面に隣接する位置を、前記ノズル面の前記相対移動方向に交差する方向に所定長さで設けられており、
前記突起部の突出方向における先端面は、前記ノズル面よりも前記ヘッド保持部材側に位置しており、
前記突起部の先端面は、前記相対移動方向の幅が、前記相対移動方向に交差する方向の一方側から他方側に向かうにつれて狭くなっていること特徴とする請求項
1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記突起部に、前記相対移動方向で前記ヘッドから離れるにつれて、前記払拭部材からの離間距離が大きくなる向きの傾斜面を有していることを特徴とする請求項
4に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置は、ノズル面に付着したインクを払拭する(掻き取る)ワイピング機構を備える。特許文献1では、複数のヘッドが一列に併設されたキャリッジにおいて、ヘッドの並び方向に沿う一方向へワイパを移動させて、ノズル面に付着したインクを払拭するインクジェット印刷装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
図10は、従来例にかかるインクジェット印刷装置100を説明する図である。(a)は、印刷媒体側からノズル面310を見た図である。ワイパ600は仮想線で示してある。(b)は、(a)のA-A断面図である。
図10の(a)に示すように、従来例にかかるインクジェット印刷装置100のヘッド31は、キャリッジ300に搭載されており、主走査方向Xに移動可能である。ヘッド31は、インク滴を吐出するノズル孔315が複数形成されたノズル面310を有する。ヘッド31のノズル面310は、図示しない印刷媒体に対向するように配置される。ノズル孔315からは印刷媒体に向けてインク滴が吐出される。
【0005】
ここで、
図10の(b)に示すように、ノズル面310にはインクQが付着する。ノズル面310に付着したインクQを除去するために、インクジェット印刷装置100は、インクQを除去するワイピング機構6を備える。ワイピング機構6は、主走査方向Xにおけるノズル面310の一側縁311から他側縁312に向かってワイパ600を相対的に移動させて、ノズル面310に付着したインクQを掻き取る(図中、矢印参照)。ワイパ600は板状の弾性部材である。
【0006】
インクQの掻き取りの際は、ワイパ600は、ノズル面310上を摺動する先端601側が、基端602側よりも移動方向の後側に傾いた状態で弾性変形している。
弾性変形によるワイパ600のひずみエネルギーは、ワイパ600の先端601がノズル面310の他側縁312から離れた瞬間に解放される。これにより、ワイパ600が掻き取ったインクQは弾き飛ばされる。
【0007】
例えば、複数のヘッド31が主走査方向Xに沿ってキャリッジ300に並設された場合、1つのヘッド31から弾き飛ばされたインクQが、隣接するヘッド31のノズル面310にかかって悪影響を及ぼす。これを避けるためには、隣接するヘッド31同士の間隔を所定の長さだけ離間させる必要がある。よって、キャリッジ300が大型化している。
【0008】
そこで、キャリッジの大型化を抑制することが求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
印刷媒体との対向面に、複数のノズル孔が形成されたノズル面を有するヘッドと、
前記ヘッドを保持するヘッド保持部材と、
前記ノズル面を払拭する払拭部材と、
前記払拭部材による前記ノズル面の払拭を制御する制御部と、を有し、
前記制御部が、前記ヘッド保持部材と前記払拭部材とを相対的に移動させて、前記ノズル面に付着したインクを払拭するインクジェット印刷装置であって、
前記ヘッド保持部材において前記ヘッドは、前記ヘッド保持部材と前記払拭部材との相対移動方向で、間隔をあけて並んでおり、
前記制御部は、
前記払拭部材を、前記相対移動方向で並んだ前記ヘッドの間から、前記相対移動方向に移動させて、前記相対移動方向における一方側に位置する前記ヘッドのノズル面の払拭と、他方側に位置する前記ヘッドのノズル面の払拭を行い、
前記払拭部材は、前記相対移動方向における一方側と他方側に、前記インクの掻取面を有しており、
前記払拭部材は、前記相対移動方向における一方側の前記掻取面で、前記相対移動方向における一方側に位置する前記ヘッドのノズル面を払拭し、前記相対移動方向における他方側の前記掻取面で、前記相対移動方向における他方側に位置する前記ヘッドのノズル面を払拭し、
前記ヘッド保持部材では、前記相対移動方向で並んだ前記ヘッドの間に、前記ノズル面から離れる方向に窪んだ凹部が設けられており、
前記払拭部材は、板状の弾性体であり、
前記凹部は、前記払拭部材との干渉を避ける深さで設けられている構成のインクジェット印刷装置とした。
【0010】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記払拭部材は、前記相対移動方向における一方側と他方側に、前記インクの掻取面を有しており、
前記払拭部材は、前記相対移動方向における一方側の前記掻取面で、前記相対移動方向における一方側に位置する前記ヘッドのノズル面を払拭し、前記相対移動方向における他方側の前記掻取面で、前記相対移動方向における他方側に位置する前記ヘッドのノズル面を払拭する。
【0011】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記ヘッド保持部材では、前記相対移動方向で並んだ前記ヘッドの間に、前記ノズル面から離れる方向に窪んだ凹部が設けられており、
前記払拭部材は、板状の弾性体であり、
前記凹部は、前記払拭部材との干渉を避ける深さで設けられている。
【0012】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記払拭部材は、前記ノズル面を払拭する一端側が、当該一端に近づくにつれて前記相対移動方向の厚みが厚くなっている。
【0013】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記払拭部材では、前記一方側の掻取面と前記他方側の掻取面に、円弧状に窪んだすくい面領域が形成されている。
【0014】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記ヘッド保持部材では、前記印刷媒体との対向面から突出する突起部を有しており、
前記突起部は、前記相対移動方向で並んだ前記ヘッドにおける前記凹部とは反対側の側縁に沿って、前記相対移動方向に交差する向きで設けられており、
前記突起部は、前記相対移動方向で前記ノズル面に隣接する位置を、前記ノズル面の前記相対移動方向に交差する方向に所定長さで設けられており、
前記突起部の突出方向における先端面は、前記ノズル面よりも前記ヘッド保持部材側に位置しており、
前記突起部の先端面は、前記相対移動方向の幅が、前記相対移動方向に交差する方向の一方側から他方側に向かうにつれて狭くなっている。
【0015】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記突起部に、前記相対移動方向で前記ヘッドから離れるにつれて、前記払拭部材からの離間距離が大きくなる向きの傾斜面を有している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、キャリッジの大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】インクジェット印刷装置を説明する図である。
【
図2】インクジェット印刷装置の要部拡大図である。
【
図3】インクジェット印刷装置のキャリッジを説明する図である。
【
図6】ワイピング機構によるインクの掻き取りを説明する図である。
【
図7】ワイピング機構によるインクの掻き取りを説明する図である。
【
図8】ワイピング機構によるインクの掻き取りを説明する図である。
【
図9】ワイピング機構によるインクの掻き取りを説明する図である。
【
図10】従来例にかかるインクジェット印刷装置を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態を、ワイピング機構6を備えるインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明する。
【0019】
図1は、インクジェット印刷装置1を説明する模式図である。なお、
図1では、前カバーの記載は省略してある。またガイドレール20の一部を仮想線で記載している。
図2は、インクジェット印刷装置1の要部拡大図であり、印刷部3が待機位置に配置された状態を説明する図である。なお、説明の便宜上、ワイピング機構6は主要部のみ記載してある。また、印刷部3の待機位置に対して、吸引装置7の位置を主走査方向Xにずらして示している。
また、以下の説明では、インクジェット印刷装置1の設置状態を基準とした鉛直線VL方向を、上下方向とも標記する。
【0020】
図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、筐体2と、印刷媒体Mへの画像形成(印刷)を行うための印刷部3と、インクを貯留するインクタンク10と、メンテナンスを行うメンテナンス部5と、印刷媒体Mを搬送する搬送部8と、を備える。印刷媒体Mは、例えば紙や布、塩化ビニルやポリエステル等からなる樹脂シート等である。
【0021】
インクタンク10は、使用するインクの種類に応じた数だけ設けられる。インクタンク10内に貯留されたインクは、図示しないインク供給装置によって、後記する印刷部3のヘッド31に供給される。搬送部8は、印刷媒体Mを副走査方向Yに搬送する。
【0022】
インクジェット印刷装置1は、筐体2に配設された操作パネル90と、図示しない制御装置とを備える制御部9を有する。制御部9は、印刷部3やメンテナンス部5、搬送部8、その他インクジェット印刷装置1の各部と電気的に接続されている。制御部9は、操作パネル90からの入力信号に応じて、インクジェット印刷装置1の各部の作動を制御する。印刷媒体Mへの印刷処理やインク排出処理、後記する印刷部3のメンテナンス処理(ノズル面の払拭)等を実行する。制御部9の制御装置は、具体的にはマイクロコンピュータであり、CPU、RAM、ROM、入力ポート、及び出力ポートを備える。
【0023】
印刷部3は、筐体2内に配置されている。印刷部3は、
図2に示すように、インク滴を印刷媒体Mに向けて吐出するヘッド31、32、33、34と、当該ヘッド31、32、33、34を保持するキャリッジ30と、を備える。4つのヘッド31、32、33、34は主走査方向Xに沿ってキャリッジ30に並設されている。
【0024】
印刷部3のキャリッジ30は、筐体2内に設けられたガイドレール20に係合している。ガイドレール20は、長手方向を主走査方向Xに沿わせて設けられている。キャリッジ30は、ガイドレール20を介して主走査方向Xに往復移動可能である。キャリッジ30の移動は、図示しないキャリッジ移動装置を用いて行われる。
【0025】
ここで、
図1に示すように、ガイドレール20は印刷媒体Mの上方に配置される。主走査方向Xにおいて、ガイドレール20の長さLaは、印刷媒体Mの長さLbよりも長い(La>Lb)。この場合において、ガイドレール20は、長手方向の一端20a側が印刷媒体Mに上下方向で対向し、他端20b側が後記するメンテナンス部5に上下方向で対向する。
【0026】
ガイドレール20は、一端20a側で印刷媒体Mに上下方向で対向する第1ガイド部21と、他端20b側でメンテナンス部5に上下方向で対向する第2ガイド部22と、から構成される。
印刷を行う場合、制御部9からの制御指令に基づいて、印刷部3は第1ガイド部21上を移動し、印刷媒体Mにインク滴を吐出する。
印刷を行わない場合、制御部9からの制御指令に基づいて、印刷部3は第2ガイド部22上の所定位置で待機する(
図2参照。以下、この位置を待機位置とも標記する)。
印刷部3は、第2ガイド部22上の待機位置において、メンテナンス部5によってヘッド31、32、33、34のメンテナンスが行われる。
【0027】
[メンテナンス部5]
図2に示すように、インクジェット印刷装置1のメンテナンス部5は、主走査方向Xにおけるガイドレール20の他端20b側(
図1中、右側)に設けられている。
メンテナンス部5は、後記する各ヘッドのノズル面を払拭するワイピング機構6と、各ヘッド内のインクを吸引する吸引装置7と、を備える。ワイピング機構6と吸引装置7は、それぞれ制御部9からの制御指令に基づいて作動する。詳細は後記する。
【0028】
[ワイピング機構6]
ワイピング機構6は、第2ガイド部22の下方に配置されている。
実施の形態にかかるワイピング機構6は、印刷部3の待機位置において、主走査方向Xにおけるヘッド31とヘッド32の間に配置される。ワイピング機構6は、ヘッドのノズル面に付着したインクQを掻き取る(払拭する)。詳細は後記する。
【0029】
[吸引装置7]
吸引装置7は、第2ガイド部22の下方に配置されている。吸引装置7は、印刷部3の待機位置において当該印刷部3の下方に位置する。吸引装置7は、本体部70と、ヘッド31、32、33、34に対応するキャップ71、72、73、74と、図示しないインク排出管と、図示しない吸引ポンプとを有する。
【0030】
キャップ71、72、73、74は、本体部70に保持されている。印刷部3が待機位置にある場合において、キャップ71、72、73、74は、ヘッド31、32、33、34のそれぞれのノズル面に対向する。本体部70は上下方向に移動可能になっている。
本体部70が上方に移動されると、キャップ71はヘッド31のノズル面310を覆う。キャップ72はヘッド32のノズル面320を覆う。キャップ73はヘッド33のノズル面330を覆う。キャップ74はヘッド34のノズル面340を覆う。
【0031】
これにより、吸引装置7は、例えばキャップ71とヘッド31のノズル面310との間に形成された空間に負圧を発生させ、図示しないヘッド31のノズル内に残存するインクを吸引する。図示しないインク排出管は、吸引ポンプによって吸引されたインクを図示しない廃インクタンクに排出する。
【0032】
ここで、メンテナンス部5によるヘッドのメンテナンスは、以下の手順で行われる。
例えばヘッド31では、
(i)ヘッド31のノズル内に残存するインクQを吸引装置7で吸引する。
(ii)吸引によって、ノズル面310からはインクQが膨出する。ノズル面310から膨出した(付着した)インクQをワイピング機構6で掻き取る。
(iii)膨出したインクQの掻き取り後、ヘッド31からインク滴を吐出してノズル内のフラッシングを行う。
【0033】
[キャリッジ30]
図3は、キャリッジ30を説明する模式図である。(a)は、
図2おけるA-A矢視方向から見たキャリッジ30の斜視図である。(b)は、(a)におけるA領域の拡大図である。なお、
図3の(b)では、ヘッド32の一部を切り欠いて示すことで、ヘッド32を収容する開口部350を示している。(c)は、(b)におけるC-C断面図である。
【0034】
インクジェット印刷装置1においてキャリッジ30は、主走査方向Xに移動可能に設けられている。
図2、
図3の(a)に示すように、キャリッジ30では、複数のヘッド31、32、33、34が、主走査方向Xに並んでいる。
ヘッド31、32、33、34の各々は、キャリッジ30の下面に固定されたヘッド保持部35で、下端31a、32a、33a、34aが保持される。
なお、各ヘッド31、32、33、34の構成は同じであるので、ここでは、主としてヘッド31、32を例に挙げて説明する。
【0035】
図3の(b)に示すように、ヘッド31、32の下端31a、32aでは、主走査方向Xにおける略中央部に、ノズル孔315が並んだ領域(ノズル面310、320)が設けられている。
ノズル面310、320は、鉛直線VLに直交する平坦面であり、ノズル面310、320では、複数のノズル孔315が直列に並んだノズル列316が、主走査方向Xに等間隔で複数設けられている。
【0036】
各ノズル列316においてノズル孔315は、副走査方向Yに等間隔で直列に並んでいる。ヘッド31では、ノズル列316ごとに異なる色のインク滴が吐出される。
なお、
図3の(b)に示したノズル面310、320の位置、ノズル列316の配置、ノズル列316を構成するノズル孔315は、一例であり、
図3の(b)に示した態様にのみ限定されない。
【0037】
キャリッジ30のヘッド保持部35には、ヘッド31、32、33、34に対応した形状の開口部350が設けられている。各ヘッド31、32、33、34は、対応する開口部350にノズル面側が挿入された状態で、キャリッジ30に保持されている。
【0038】
この状態において、ヘッド31、32のノズル面310、320は、ヘッド保持部35の底面35aよりも下方に配置される(
図6の(b)参照)。
本実施の形態では、ノズル面310、320は、底面35aから所定高さT2だけ下方に突出している。ヘッド保持部35では、ヘッド31に対応する開口部350と、ヘッド32に対応する開口部350の間の領域には、ノズル面310、320から離れる方向(
図6の(b)における上方向)に窪んだ凹部Rが設けられている。この凹部Rは、後記するワイパーブレード61との干渉を避けるために設けられている。
【0039】
図3に示すように、ヘッド保持部35では、主走査方向Xで隣接する2つの開口部350、350の間に、凹部Rが設けられている。本実施の形態にかかるヘッド保持部35では、2つの開口部350、350と、これらの間の凹部Rとの組み合わせが、主走査方向Xに2つ並んでいる。
【0040】
[突起部4]
図3の(b)に示すように、開口部350は、主走査方向Xに沿う向きで互いに平行に配置された一対の側縁351、352と、側縁351、352の端部同士を接続する一対の側縁353、354と、を有する。
一対の側縁353、354は、副走査方向Yに沿う向きで、互いに平行に設けられている。開口部350は、ヘッド31、32、33、34の外形と整合する矩形形状を成している。
【0041】
ヘッド保持部35では、ヘッド31に対応する開口部350の側縁353に沿って、突起部4が設けられている。突起部4は、ヘッド保持部35の底面35aから下方に突出しており、キャリッジ30と一体に形成されている(
図6の(b)参照)。
【0042】
図3の(b)に示すように、突起部4は、副走査方向Yにおける側縁353の全長に亘って延びる基部40と、当該基部40から側縁352に沿って延びる延出部41と、を有する。
延出部41は、副走査方向Yにおける基部40の端部から、主走査方向Xに延出している。主走査方向Xの延出部41の延出長さΔtは、開口部350とヘッド31との隙間の長さΔdよりも長い(Δt>Δd)。
【0043】
図3の(b)に示すように、基部40は、主走査方向Xで開口部350から離れるほど、副走査方向Yにおける幅W1が狭くなっている。また、基部40は主走査方向Xにおける長さL1が副走査方向Yにおける側縁352から側縁351に向かうにつれて短くなっている。つまり、基部40は、
図3の(b)における下側から上側に向かうにつれて、主走査方向Xの幅が狭くなっており、下方から見た基部40の形状は、略直角三角形形状となっている。
【0044】
図6の(b)に示すように、基部40及び延出部41の底面35aからの突出高さT1は、前記したノズル面310の底面35aからの突出高さT2より僅かに低い(T1<T2)。上下方向における基部40の先端面40aは、ヘッド31の下端31a(ノズル面310)と平行であり、この先端面40aは、前記した延出部41の先端面41aと、同じ高さで設けられている(
図3の(c)参照)。
【0045】
基部40では、延出部41とは反対側(
図3の(c)における左側)に傾斜面40bが設けられている。傾斜面40bは、ヘッド31から主走査方向Xに離れるにつれて(
図3の(c)における左側に向かうにつれて)、底面35aからの突出高さT1が低くなる傾斜面である。
【0046】
図3の(b)に示すように、傾斜面40bの主走査方向Xの幅は、は副走査方向Yの略全長に亘って略同じとなっている。そのため、先端面40aは、傾斜面40bが設けられていることにより、
図3の(b)における下側から上側に向かうにつれて、主走査方向Xの幅が狭くなっている。
主走査方向Xにおける基部40の開口部350側の側面40c(
図6の(b)参照)は、上下方向で開口部350の側縁353と面一である。
【0047】
[突起部4’]
図3の(b)に示すように、凹部Rを挟んで、ヘッド31の開口部350とは反対側に位置する開口部350には、ヘッド32が設けられている。
このヘッド32が設けられた開口部350では、凹部Rとは反対側の側縁354に沿って、突起部4'が設けられている。
【0048】
突起部4'は、前記した突起部4と同一の形状を有しており、下方から見て突起部4'は、突起部4を、交点Cxを中心として向きを180°回転させた配置で設けられている。
ここで、交点Cxは、開口部350の副走査方向Yの中間点を通る直線C1と、主走査方向Xで隣接する開口部350、350の中間点を通る直線C2との交点である。
なお、突起部4’は、凹部R(直線C2)を挟んで突起部4と線対称の形状であっても良い。
突起部4’は、底面35aから下向きに突出し、キャリッジ30と一体に形成されている(
図3の(c)参照)。
【0049】
[ワイピング機構6]
図4、5を用いてワイピング機構6について説明する。
図4は、ワイピング機構6を説明する図である。(a)は、ワイピング機構6の斜視図であり、ワイピング機構6の主要構成を示した図である。(b)は、リンク機構が展開された状態を示す図である。(c)は、リンク機構が折り畳まれた状態を示す図である。
図5は、ワイパ部60を説明する図である。(a)は、ワイパ部60の斜視図である。(b)は、ワイパ部60の平面図である。(c)は、(b)のワイパ部60のA-A断面図である。
【0050】
[ワイパ部60]
図5の(a)に示すように、ワイパ部60は、板状のワイパーブレード61と、当該ワイパーブレード61を保持する保持部材62と、を有する。ワイパーブレード61は、例えばプロピレン等の樹脂材料や、EPDM等の弾性材料から構成される。
【0051】
図5の(b)に示すように、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の幅W2は、ノズル面310の幅W3(
図3参照)以上の大きさになっている(W2≧W3)。詳細は後記するが、インクQの払拭において、ノズル面310の全体を略均一に払拭するためである。
【0052】
図5に示すように、ワイパーブレード61は、板状の基部610を有している。
図5の(b)に示すように、基部610は長方形形状で形成されており、この基部610の基端610d側は、保持部材62のスリット621に挿入されている。
【0053】
基部610の上端610u側は、保持部材62から上方に突出しており、基部610のスリット621から突出した領域では、厚み方向における一方の面と他方の面が、ノズル面に付着したインクの払拭面610a、610aとなっている。
【0054】
払拭面610a、610aは、基部610の厚み方向の中心線Ctを挟んで対称となる形状を有している。
基部610の上端610u側は、上端610uに向かうにつれて厚みが厚くなる先広がりの形状で形成されており、払拭面610a、610aの上端610b、610b側は、
互いに離れる方向に円弧状に湾曲している。払拭面610a、610aの上端610b、610bは、基部610の基端610d側よりも、基部610の厚み方向における外側に位置している。
払拭面610a、610aの上端610b、610b側は、基部610の厚み方向の外側が、弧状に窪んだすくい面領域610c、610cとなっている。
【0055】
ワイパーブレード61は、保持部材62で片持ち支持されており、基部610の上端610u側(すくい面領域610c、610c側)は、基部610の厚み方向(中心線Ctに直交する方向)に弾性的に変位可能となっている。
【0056】
なお、基部610の上端610u側に中心線Ctに沿うスリットを設けて、基部610の上端610u側をより弾性変形しやすくするようにしても良い。
【0057】
[保持部材62]
図5の(c)に示すように、ワイパーブレード61の基部610を保持する保持部材62は、断面視において矩形形状を成す基部620の中央に、スリット621を有している。
スリット621は、インクジェット印刷装置1の設置状態を基準とした鉛直線VL方向で、上方を向いて開口している。
【0058】
保持部材62においてワイパーブレード61は、当該ワイパーブレード61の基部610を上方側からスリット621に挿入した状態で、保持部材62に支持されている。
この状態において、ワイパーブレード61の上端610uは、水平線HL方向に沿わせた向きで設けられている(
図5の(b)参照)。
【0059】
ワイパーブレード61は、保持部材62の上端62aから上端610uまでの突出高さhbが、略一定の高さとなるように、保持部材62で支持されている。
保持部材62の基部620では、ワイパーブレード61の厚み方向における一方の面620aに、係合突起64が設けられており、他方の面620bに、係止部63が設けられている。
【0060】
係合突起64は、基部620の一方の面620aから、水平線HL方向に突出した円柱形状の部材であり、この係合突起64には、後記する第2リンク部材69の一端691が回動可能に連結される(
図4参照)。
【0061】
係止部63は、基部620の他方の面620bから、水平線HL方向に延びる腕部631と、当該腕部631の先端から下方に延びる係止片632と、を有している。
係止片632は、基部620の他方の面620bとの間に間隔をあけて、他方の面620bに対して平行に設けられており、他方の面620bと係止片632との間の領域に、ガイドレール65が挿入されるようになっている。
この状態において係止片632は、ガイドレール65の長手方向に移動可能となっている。
【0062】
図2に示すように、ガイドレール65は、キャリッジ30の下方で、主走査方向Xに直交する向きで設けられており、ガイドレール65に係止部63を介して支持された保持部材62は、主走査方向Xに直交する副走査方向Yに移動可能となっている。
【0063】
ワイパ部60は、ワイパーブレード61の幅方向を副走査方向Yに沿わせた向きで保持部材62に設けられている。ワイパーブレード61は、保持部材62の副走査方向Yへの移動に連動して、副走査方向Yに移動するようになっている。
【0064】
図4に示すように、ワイピング機構6には、ワイパ部60を副走査方向Yで進退移動させる駆動機構66が設けられている。
駆動機構66は、モータ67と、モータ67の出力軸に連結された第1リンク部材68と、第1リンク部材68と保持部材62とを接続する第2リンク部材69と、を有している。モータ67は、制御部9からの制御指令に基づいて作動する。
【0065】
第1リンク部材68は、長手方向の一端681が、モータ67の出力軸671に連結されており、第1リンク部材68の長手方向の他端682は、モータ67の出力回転で、回転軸X1周りの周方向に変位する。
【0066】
第2リンク部材69は、長手方向の一端691が、保持部材62の係合突起64に相対回転可能に連結されており、他端692が、第1リンク部材68の他端682に相対回転可能に連結されている。
【0067】
そのため、
図4に示すように、モータ67の出力軸671が時計回り方向CWに回動すると、第1リンク部材68の他端682と、第2リンク部材69の他端692との連結点X2が、回転軸X1周りの周方向に変位する。
【0068】
そうすると、第2リンク部材69の一端691が、モータ67に近づく方向に引き寄せられて、第2リンク部材69の一端691が連結された保持部材62が、ワイパーブレード61と共に、モータ67側に移動するようになっている。
この際に、保持部材62に設けた係止部63が、ガイドレール65の正面を摺動することで、ワイパーブレード61が、当該ワイパーブレード61の上端610uを水平線HLに沿わせたままの状態で、副走査方向Yに移動するようになっている。
【0069】
[ワイピング機構6の動作]
ワイピング機構6では、リンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)が、モータ67の出力軸671の回転軸X1回りの回動に連動して、副走査方向Yで展開または折り畳まれることで、ワイパーブレード61を保持する保持部材62が、ガイドレール65に沿って副走査方向Yで進退移動する(
図4の(b)、(c)参照)。
【0070】
前記したように、キャリッジ30のヘッド保持部35では、主走査方向Xで隣接する開口部350、350の間に、上方に窪んだ凹部Rが形成されている。
実施の形態にかかるワイピング機構6は、ワイパーブレード61を保持する保持部材62を、ワイパーブレード61を凹部R内に配置した払拭位置(
図6の(b)参照)と、凹部Rから退避させた退避位置(
図6の(c)参照)との間で進退移動させる。
【0071】
インクQの掻き取りを行わない場合(例えば印刷中など)、ワイピング機構6のリンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)は、折り畳まれる。
この状態では、ワイパーブレード61が退避位置に配置される。退避位置は、副走査方向Yにおけるガイドレール65の他方側(
図2における紙面奥側、
図4の(c)参照)に設定されている。
【0072】
インクQの掻き取りを行う際には、ワイピング機構6のリンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)は副走査方向Yに展開される。
そうすると、ワイパーブレード61は副走査方向Yにおける一方側に位置決めされる(
図2における紙面手前側、
図4の(b)参照)。
この状態では、ワイパーブレード61が払拭位置に配置される。払拭位置は、副走査方向Yにおけるガイドレール65の一方側(
図2における紙面手前側、
図4の(b)参照)に設定されている。
【0073】
図6の(b)に示すように、ワイパーブレード61が払拭位置に配置されると、ワイパーブレード61の厚み方向における一方のすくい面領域610cは、ヘッド31側を向いて配置され、他方のすくい面領域610cは、ヘッド32側を向いて配置される。
【0074】
すなわち、すくい面領域610c、610cは、主走査方向Xに直交する向きで配置される。
そのため、ワイパーブレード61を払拭位置に配置した状態で、キャリッジ30(ヘッド31、32)を主走査方向Xに移動させると、すくい面領域610c、610cが、ヘッド31のノズル面310と、ヘッド32のノズル面320を、それぞれ摺動するようになっている。
【0075】
[インク掻き取り]
ワイピング機構6によるインクQの掻き取りについて説明する。
図6、
図7は、ワイピング機構6による、ノズル面310のインクQの掻き取りを説明する図である。
図6の(a)は、ノズル面310に対するワイパーブレード61の位置関係を説明する図である。
図6の(b)は、ワイパーブレード61がノズル面310に対して、(P0)アプローチ位置に配置された状態を実線で示すと共に、ワイパーブレード61が、(P1)掻き取り開始位置、(P2)掻き取り途中位置、(P3)掻き取り終了位置、にそれぞれある場合を仮想線で示してある。
図7の(a)~(c)は、
図6の(a)におけるA-A断面を示す図である。
(a)は、ワイパーブレード61が、(P1)掻き取り開始位置にある場合を示している。(b)は、ワイパーブレード61が、(P2)掻き取り途中位置にある場合を示している。(c)は、ワイパーブレード61が、(P3)掻き取り終了位置にある場合を示している。
図7の(d)~(f)は、
図6の(a)におけるB-B断面を示す図である。
(d)は、ワイパーブレード61が、(P1)掻き取り開始位置にある場合を示している。(e)は、ワイパーブレード61が、(P2)掻き取り途中位置にある場合を示している。(f)は、ワイパーブレード61が、(P3)掻き取り終了位置にある場合を示している。なお、
図7では、ワイピング機構6はワイパーブレード61と保持部材62のみ記載してある。
【0076】
ワイピング機構6によるインクQの掻き取りは、制御部9からの制御指令に基づいて行われる。
具体的には、ワイパーブレード61を(P0)アプローチ位置に配置したのち、印刷部3(
図2参照)を主走査方向X(ヘッド31をワイパーブレード61に近づける方向:
図6の(b)における右方向)に変位させる。
そうすると、ワイパーブレード61が、(P1)掻き取り開始位置に到達した時点で、ワイパーブレード61が弾性的に変形しながらノズル面310に乗り上げることになる(
図7の(a)参照)。
【0077】
この際に、ワイパーブレード61が弾性的に変形して、キャリッジ30の移動側(図中、右側)に傾くことになる。
これにより、ワイパーブレード61の払拭面610aが、ノズル面310に対して傾斜した状態となり、ワイパーブレード61にはひずみエネルギーが溜まる。
【0078】
その後、ワイパーブレード61は、(P2)掻き取り途中位置を経て、(P3)掻き取り終了位置に向けて移動する。この過程で、一方の払拭面610aがノズル面310を摺動することで、すくい面領域610cによってノズル面310のインクQが掻き取られる。
【0079】
図6に示すように、ノズル面310を下側から見ると、ワイパーブレード61は、主走査方向Xにおける(P0)アプローチ位置側から、(P3)掻き取り終了位置側に向かって相対的に移動する(図中、矢印参照)。
よって、
図6の(a)では、図中右側が、ワイパーブレード61の移動方向の上流となり、左側が下流となる。
【0080】
図7の(a)、(d)に示すように、ワイパーブレード61が(P0)アプローチ位置に配置されたのち、下流側(左側)に移動すると、(P1)掻き取り開始位置でワイパーブレード61の払拭面610aの上端610b側がノズル面310に当接する。
【0081】
図7の(b)、(e)に示すように、さらにワイパーブレード61が下流側に移動すると、ワイパーブレード61は弾性変形しながらノズル面310上を摺動する((P2)掻き取り途中位置)。この摺動により、すくい面領域610cはノズル面310に付着したインクQを掻き取る。
【0082】
ここで、すくい面領域610cはノズル面320に対して略45度傾斜する。この角度は、インクQを掻き取るすくい角となる。そして、インクQの掻き取りはこのすくい角が大きい方が好ましい。
図7の(b)に示すように、実施の形態では、すくい面領域610cを設けることで、ノズル面310と払拭面610aとのなす角度θ1よりもすくい角を大きくしている。
これにより、ノズル面310に付着したインクQは、確実に掻き取られる。
【0083】
なお、前記したように、ワイパーブレード61の幅W2は1つのノズル面310の幅W3以上の大きさになっている(W2≧W3)。よって、ワイパーブレード61の一回の主走査方向Xの移動で、1つのヘッド31のノズル面310のインクの掻き取りが可能である。
【0084】
図7の(c)、(f)に示すように、さらにワイパーブレード61が下流側に移動すると、ノズル面310でのインクQの掻き取りが終わった後に、ワイパーブレード61は突起部4に乗り上げる((P3)掻き取り終了位置)。
ワイパーブレード61が突起部4に乗り上げると、当該ワイパーブレード61は基部40の先端面40a上を摺動する。
【0085】
ここで、ヘッド31と開口部350との間には主走査方向Xに僅かに隙間があるが、ワイパーブレード61は、この隙間を通過する前に突起部4の延出部41に乗り上げる。前記したとおり、隙間の長さΔdよりも延出部41の延出長さΔtの方が長いからである(Δt>Δd)。これにより、ワイパーブレード61がヘッド31と開口部350との隙間に挟まることを防止している。
【0086】
突起部4の基部40は、上下方向から見て略直角三角形形状を成している。
ワイパーブレード61が基部40上を主走査方向Xに移動すると、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の一方側(
図6の(a)における上側)は、基部40の先端面40aを摺動しなくなる(
図7の(c)参照)。つまり、ワイパーブレード61が弾性変形した状態が解除される。
この場合において、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の他方側(
図6における下側)は、基部40の先端面40a上を摺動している(
図7の(f)参照)。つまり、ワイパーブレード61が弾性変形した状態が維持されている。
【0087】
よって、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の一方側のひずみエネルギーが最初に解放される。そして、ワイパーブレード61が主走査方向Xに移動するにつれて、ワイパーブレード61は、副走査方向Yにおける一方(開口部350の側縁351)側から他方(開口部350の側縁352)側に向かって順番にひずみエネルギーが解放されていく。よって、ひずみエネルギーを少しずつ解放させることが出来る。これにより、掻き取られたインクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
これにより、ワイパーブレード61は副走査方向Yにおける全長に亘ってひずみエネルギーが一気に解放されることを防止している。
【0088】
ここで、主走査方向Xにおける突起部4のヘッド31と反対側は、傾斜面40bとなっている(
図3の(c)参照)。ワイパーブレード61はひずみエネルギーを解放する際、ワイパーブレード61が傾斜面40bを摺動する。よってワイパーブレード61が傾斜面40bを摺動する際の摩擦によって、解放されるひずみエネルギーは軽減される。
【0089】
図示は省略するが、さらにワイパーブレード61を主走査方向Xに移動させると、ワイパーブレード61は突起部4から離れる。
【0090】
図8、
図9は、ワイピング機構6によるノズル面320のインクQを掻き取る場合を説明する図である。
図8では、ワイパーブレード61がノズル面320に対して(P0)アプローチ位置、(P1’)掻き取り開始位置、(P2’)掻き取り途中位置、(P3’)掻き取り終了位置、にそれぞれある場合を仮想線で示してある。
図9の(a)~(c)は、
図8におけるA-A断面を示す図である。
(a)は、ワイパーブレード61が、(P1’)掻き取り開始位置にある場合を示している。(b)は、ワイパーブレード61が、(P2’)掻き取り途中位置にある場合を示している。(c)は、ワイパーブレード61が、(P3’)掻き取り終了位置にある場合を示している。
図9の(d)~(f)は、
図8におけるB-B断面を示す図である。
(d)は、ワイパーブレード61が、(P1’)掻き取り開始位置にある場合を示している。(e)は、ワイパーブレード61が、(P2’)掻き取り途中位置にある場合を示している。(f)は、ワイパーブレード61が、(P3’)掻き取り終了位置にある場合を示している。なお、
図9では、ワイピング機構6はワイパーブレード61と保持部材62のみ記載してある。
【0091】
ヘッド31のノズル面310についてインクQの掻き取りが終了すると、次にヘッド32のノズル面320のインクQを掻き取る。ワイパーブレード61がノズル面310と突起部4を下流側に通り抜けると、リンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)は折り畳まれ(
図4の(c)参照)、印刷部3(
図2参照)は元の待機位置に配置される。
そして、再度リンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)が展開され(
図4の(b)参照)、ワイパーブレード61が(P0)アプローチ位置に配置される。ワイパーブレード61のすくい面領域610cは、主走査方向Xにおけるノズル面320の移動経路と交差する。
【0092】
ヘッド32のノズル面320のインクQの掻き取りは、ワイパーブレード61を(P0)アプローチ位置に配置したのち、印刷部3(
図2参照)を主走査方向X(ヘッド32をワイパーブレード61に近づける方向:
図8における左方向)に変位させることで行われる。
【0093】
図8に示すように、ノズル面320を下側から見ると、ワイパーブレード61は、主走査方向Xにおける(P0)アプローチ位置側から、(P3’)掻き取り終了位置側に向かって相対的に移動する(図中、矢印参照)。
図8では、図中左側がワイパーブレード61の移動方向の上流となり、右側が下流となる。
【0094】
図9の(a)、(d)に示すように、ワイパーブレード61が(P0)アプローチ位置に配置されたのち、下流側(右側)に移動すると、(P1)掻き取り開始位置でワイパーブレード61の払拭面610aの上端610b側がノズル面320に当接する。
【0095】
図9の(b)、(e)に示すように、さらにワイパーブレード61が下流側に移動すると、ワイパーブレード61は、移動方向の後ろ側(図中、左側)に傾いた状態で弾性変形しながらノズル面320上を摺動する((P2’)掻き取り途中位置)。この摺動により、すくい面領域610cはノズル面320に付着したインクQを掻き取る。
【0096】
ここで、すくい面領域610cはノズル面320に対して略45度傾斜する。この角度は、インクQを掻き取るすくい角となる。前記したとおり、インクQの掻き取りはこのすくい角が大きい方が好ましい。
図9の(b)に示すように、実施の形態では、すくい面領域610cを設けることで、ノズル面320と払拭面610aとのなす角度θ2よりもすくい角を大きくしている。
これにより、ノズル面320に付着したインクQは、確実に掻き取られる。
【0097】
図9の(c)、(f)に示すように、さらにワイパーブレード61が下流側に移動すると、ノズル面320でのインクQの掻き取りが終わった後に、ワイパーブレード61は突起部4’に乗り上げる((P3’)掻き取り終了位置)。
ワイパーブレード61が突起部4’に乗り上げると、当該ワイパーブレード61は基部40’の先端面40a’上を摺動する。
【0098】
突起部4’の基部40’は、上下方向から見て略直角三角形形状を成している。
ワイパーブレード61が基部40’上を主走査方向Xに移動すると、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の他方側(
図8における下側)は、基部40’の先端面40a’を摺動しなくなる(
図9の(f)参照)。つまり、ワイパーブレード61が弾性変形した状態が解除される。
この場合において、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の一方側(
図8における上側)は、基部40’の先端面40a’上を摺動している(
図9の(c)参照)。つまり、ワイパーブレード61が弾性変形した状態が維持されている。
【0099】
よって、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の他方側のひずみエネルギーが最初に解放される。そして、ワイパーブレード61が主走査方向Xに移動するにつれて、ワイパーブレード61は、副走査方向Yにおける他方(開口部350の側縁352)側から一方(開口部350の側縁351)側に向かって順番にひずみエネルギーが解放されていく。よって、ひずみエネルギーを少しずつ解放させることが出来る。これにより、掻き取られたインクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
これにより、ワイパーブレード61は副走査方向Yにおける全長に亘ってひずみエネルギーが一気に解放されることを防止している。
【0100】
ここで、主走査方向Xにおける突起部4’のヘッド32と反対側は、傾斜面40b’となっている(
図3の(c)参照)。ワイパーブレード61はひずみエネルギーを解放する際、ワイパーブレード61が傾斜面40b’を摺動する。よってワイパーブレード61が傾斜面40b’を摺動する際の摩擦によって、解放されるひずみエネルギーは軽減される。
【0101】
図示は省略するが、さらにワイパーブレード61を主走査方向Xに移動させると、ワイパーブレード61は突起部4’から離れる。
【0102】
このように、ヘッド32のノズル面320についてのインクQの掻き取りを行う場合でも、ヘッド31の場合と同様にして、ワイパーブレード61のひずみエネルギーが一気に解放されることを防止している。
【0103】
以上の通り、実施の形態では以下の構成を有する。
(1)インクジェット印刷装置1は、
印刷媒体Mとの対向面に複数のノズル孔315が形成されたノズル面310を有するヘッド31と、
印刷媒体Mとの対向面に複数のノズル孔315が形成されたノズル面320を有するヘッド32と、
ヘッド31、32を保持するキャリッジ30(ヘッド保持部材)と、
ノズル面310、320を払拭するワイパーブレード61(払拭部材)と、
ワイパーブレード61によるノズル面310、320の払拭を制御する制御部9と、を有する。
制御部9が、キャリッジ30とワイパーブレード61とを相対的に移動させて、ノズル面310、320に付着したインクQを払拭する。
キャリッジ30においてヘッド31、32は、キャリッジ30とワイパーブレード61との主走査方向X(相対移動方向)で、間隔をあけて並んでいる。
制御部9は、
ワイパーブレード61を、主走査方向Xで並んだヘッド31、32の間から、主走査方向Xに移動させて、主走査方向Xにおける一方側に位置するヘッド31のノズル面310のインクQの掻き取り(払拭)と、他方側に位置するヘッド32のノズル面320のインクQの掻き取りを行う。
【0104】
このように構成すると、ワイパーブレード61を、ヘッド31とヘッド32の間に配置できるので、弾かれたインクQが隣接するヘッドに悪影響を与えることはない。よって、キャリッジ30の大型化を抑制することができる。
【0105】
(2)ワイパーブレード61は、主走査方向Xにおける一方側と他方側に、インクQの払拭面610a、610a(掻取面)を有している。
ワイパーブレード61は、主走査方向Xにおける一方側の払拭面610aで、主走査方向Xにおける一方側に位置するヘッド31のノズル面310を払拭し、主走査方向Xにおける他方側の払拭面610aで、主走査方向Xにおける他方側に位置するヘッド32のノズル面320を払拭する。
【0106】
このように構成すると、ノズル面310に付着したインクQは、払拭面610aで掻き取られる。ノズル面320に付着したインクQは、払拭面610aで払拭される。よって、それぞれのノズル面310、320に対して、インクQの付着していないきれいな払拭面を使用することが出来る。
例えば一方向のみでの払拭の場合、下流側のヘッドのノズル面は、上流側のノズル面の払拭で先に使用された払拭面で払拭することになる。
このような場合、上流側のノズル面に比べて下流側のノズル面の方が汚れてしまう恐れがあるが、これを防止できる。
【0107】
(3)キャリッジ30では、主走査方向Xで並んだヘッド31、32の間に、ノズル面310、320から離れる方向に窪んだ凹部Rが設けられている。
ワイパーブレード61は、板状の弾性体である。
凹部Rは、ワイパーブレード61との干渉を避ける深さで設けられている。
【0108】
このように構成すると、ワイパーブレード61を凹部R内に収容することができる。
【0109】
(4)ワイパーブレード61は、ノズル面310を払拭する上端610u(一端)側が、当該上端610uに近づくにつれて主走査方向Xの厚みが厚くなっている。
【0110】
このように構成すると、すくい面領域610c、610cが主走査方向Xで、払拭面610a、610aよりも外側にオーバーハングする。そうすると、ワイパーブレード61が弾性変形した際に、オーバーハングしていない場合と比較して大きなすくい角が確保される。よって、確実にインクQを掻き取ることができる。
【0111】
(5)ワイパーブレード61では、厚み方向における一方の払拭面610aと他方の払拭面610aに、円弧状に窪んだすくい面領域610c、610cが設けられている。
【0112】
このように構成すると、すくい面領域610c、610cがそれぞれノズル面310、320に対向する。よって、すくい面領域610c、610cですくい上げるようにしてインクQを掻き取ることが出来る。
【0113】
(6)キャリッジ30は、印刷媒体Mとの対向面から突出する突起部4、4’を有している。
突起部4は、主走査方向Xで並んだヘッド31における凹部Rとは反対側の側縁353に沿って、主走査方向Xに直交(交差)する向きで設けられている。
突起部4は、主走査方向Xでノズル面310に隣接する位置を、ノズル面310の副走査方向Yにおける開口部350の側縁351から側縁352(主走査方向Xに交差する方向の一方から他方)まで及ぶ長さで設けられている。
突起部4の突出方向における先端面40aは、ノズル面310よりもキャリッジ30側に位置している。
突起部4の先端面40aは、主走査方向Xの幅が、副走査方向Y(相対移動方向に交差する方向)の開口部350の側縁352(他方)側から側縁351(一方)側に向かうにつれて狭くなっている。
突起部4’は、主走査方向Xで並んだヘッド32における凹部Rとは反対側の側縁354に沿って、主走査方向Xに交差する向きで設けられている。
突起部4’は、主走査方向Xでノズル面320に隣接する位置を、ノズル面320の副走査方向Yにおける開口部350の側縁351から側縁352(主走査方向Xに交差する方向の一方から他方)まで及ぶ所定長さで設けられている。
突起部4’の突出方向における先端面40a’は、ノズル面320よりもキャリッジ30側に位置している。
突起部4’の先端面40a’は、主走査方向Xの幅が、副走査方向Yの開口部350の側縁351(一方)側から側縁352(他方)側に向かうにつれて狭くなっている。
【0114】
このように構成すると、ワイパーブレード61の弾性変形によるひずみエネルギーは、突起部4では、副走査方向Yにおける一方(開口部350の側縁351)から他方(開口部350の側縁352)に順番に解放される。
突起部4’では、副走査方向Yにおける他方(開口部350の側縁352)から一方(開口部350の側縁351)に順番に解放される。
よって、ひずみエネルギーを少しずつ解放させることが出来、掻き取られたインクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
【0115】
(7)突起部4は、主走査方向Xでヘッド31から離れるにつれて、ワイパーブレード61からの離間距離が大きくなる向きの傾斜面40bを有している。
突起部4’は、主走査方向Xでヘッド32から離れるにつれて、ワイパーブレード61からの離間距離が大きくなる向きの傾斜面40b’を有している。
【0116】
このように構成すると、ワイパーブレード61が突起部4から離れる際に、傾斜面40bを摺動する。ワイパーブレード61が突起部4’から離れる際に、傾斜面40b’を摺動する。
そうすると、弾性変形によるワイパーブレード61のひずみエネルギーは、摺動抵抗を受けつつ解放される(軽減される)。
よって、掻き取られたインクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
【0117】
本願発明は、上記した実施の形態の態様に限定されるものではなく、本願発明の技術的な思想の範囲内で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 インクジェット印刷装置
2 筐体
3 印刷部
4、4’ 突起部
5 メンテナンス部
6 ワイピング機構
7 吸引装置
8 搬送部
9 制御部
10 インクタンク
20 ガイドレール
21 第1ガイド部
22 第2ガイド部
30 キャリッジ
31 ヘッド
32 ヘッド
33 ヘッド
34 ヘッド
310 ノズル面
320 ノズル面
330 ノズル面
340 ノズル面
350 開口部
40、40’ 基部
40b、40b’ 傾斜面
60 ワイパ部
61 ワイパーブレード
610 基部
611u 上端
610a 払拭面
610b 上端
610c すくい面領域
62 保持部
63 係止部
64 係合突起
65 ガイドレール
66 駆動機構
67 モータ
68 第1リンク部材
69 第2リンク部材
70 本体部
71、72、73、74 キャップ
90 操作パネル
M 印刷媒体
Q インク
R 凹部
X 主走査方向
Y 副走査方向
VL 鉛直線