(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】工作機械の数値制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/404 20060101AFI20220118BHJP
B23Q 15/18 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G05B19/404 K
B23Q15/18
(21)【出願番号】P 2018130153
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】沖 忠洋
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-234424(JP,A)
【文献】特開2016-064497(JP,A)
【文献】特開2006-065716(JP,A)
【文献】特開平10-020912(JP,A)
【文献】特開2017-087396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/404
B23Q 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具およびテーブルを備えた工作機械において、予め加工空間を所定個数の格子状に分割して各格子点の理想的な空間座標を設定し、その空間座標に対して、工具およびテーブルの相対位置を修正するための補正量を算出する工作機械の数値制御装置であって、
空間座標の設定時と加工時との温度差に応じて、補正量を算出するための空間座標における格子間隔および/または格子の傾き角度を変化させることを特徴とする工作機械の数値制御装置。
【請求項2】
工作機械に設置された温度センサによって加工空間の温度を検出し、その検出結果に基づいて、補正量を算出するための空間座標における格子間隔を変化させることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の数値制御装置。
【請求項3】
工作機械に設置された温度センサによって加工空間の温度を検出し、その検出結果に基づいて、補正量を算出するための空間座標における格子の傾き角度を変化させることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の数値制御装置。
【請求項4】
空間座標を任意に設定可能であり、その空間座標の所定の格子点を基準として、補正量を算出するための空間座標における格子間隔を変更可能であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の工作機械の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の加工時における工具およびテーブルの相対位置を補正可能な工作機械の数値制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、高付加価値加工を目的として、5軸加工機の精度向上が求められている。当該5軸加工機では、工作物や工具を傾斜させることによって、複雑な形状を効率良く加工することが可能になっているが、そのためには、回転軸や傾斜軸の動きに合わせて直進軸を動作させて、工作物に対する工具の相対位置を変化させる必要がある。それゆえ、5軸加工機は、3軸加工機よりも直進軸の動作範囲が大きくなる傾向にあり、加工空間全域での直進軸の位置決めの精度が、加工精度を高める上で重要なポイントとなる。
【0003】
そこで、加工空間全域での直進軸の位置決め精度を向上させるための方法として、特許文献1の如く、加工空間を格子状に区切り、各格子点における各直進軸の誤差量をマッピングすることによって加工空間における刃先位置を効率良く補正する方法(所謂、空間補正)が知られている。この空間補正においては、6成分の誤差(すなわち、直進軸移動方向の位置決め誤差、水平および垂直方向の真直度誤差、合わせて並進3成分の誤差と、Pitch,Yaw,Rollの姿勢誤差3成分)からなり、それらの直進軸誤差のX軸、Y軸、Z軸に対応したものの合わせて18成分の誤差、および、各直進軸間の直角度誤差3成分を加えた合計21個の誤差成分で生じる各格子点における誤差量のマッピングが行われている。
【0004】
かかる空間補正によれば、直進軸の位置決め誤差を補正するボールネジリード誤差補正、直進軸の真直度誤差を補正する真直度補正、各直進軸間の直角度誤差を補正する幾何誤差補正といった複数の補正方法を合わせた位置補正が可能になるため、位置補正方法を単純化(簡略化)することができる上、補正量を算出するための計測回数・計算回数も低減できる。ところが、この空間補正は、誤差マップの算出時の環境温度と実際の加工時における環境温度との差に起因して工具等の熱変形が生ずると、補正誤差を引き起こして、高精度に加工することができなくなる。そのため、特許文献2の如く、熱変形を別の補正方法によって算出し、その算出された補正量を熱変形を考慮しない補正量と合算し、合算された補正量によって位置補正を行う方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5030653号公報
【文献】特開2012-234424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の如く、熱変形を考慮した補正量と熱変形を考慮しない補正量とを別々に求めて合算する補正方法は、単純化されたはずの補正量の算出が複雑になってしまい計算負荷が増大する、という問題がある。
【0007】
本発明の目的は、特許文献2の如き従来の補正方法における問題点を解消し、補正量の算出が単純であるにも拘わらず、工具およびテーブルの相対位置の誤差を精度良く補正することができ、工作機械の加工精度をきわめて良好なものとすることができる位置補正方法を提供するとともに、そのような位置補正を実行可能な工作機械用の数値制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、工具およびテーブルを備えた工作機械において、予め加工空間を所定個数の格子状に分割して各格子点の理想的な空間座標を設定し、その空間座標に対して、工具およびテーブルの相対位置を修正するための補正量を算出する工作機械の数値制御装置であって、空間座標の設定時と加工時との温度差に応じて、補正量を算出するための空間座標における格子間隔および/または格子の傾き角度を変化させることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の工作機械の数値制御装置において、工作機械に設置された温度センサによって加工空間の温度を検出し、その検出結果に基づいて、補正量を算出するための空間座標における格子間隔を変化させることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の工作機械の数値制御装置において、工作機械に設置された温度センサによって加工空間の温度を検出し、その検出結果に基づいて、補正量を算出するための空間座標における格子の傾き角度を変化させることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれかに記載の工作機械の数値制御装置において、空間座標を任意に設定可能であり、その空間座標の所定の格子点を基準として、補正量を算出するための空間座標における格子間隔を変更可能であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の工作機械の数値制御装置は、空間補正の誤差マップを熱変形で変化させる(すなわち、空間補正における誤差マップに加工時に発生する熱による変形を直接的に反映させる)ことによって、単純な方法により補正量を算出するにも拘わらず、工具およびテーブルの相対位置の誤差を精度良く補正することができ、工作機械の加工精度をきわめて良好なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】数値制御装置を搭載した工作機械(立形マシニングセンタ)を示す説明図(斜視図)である。
【
図2】数値制御装置の制御機構を示すブロック図である。
【
図4】数値制御装置による補正処理の内容を示すフローチャートである。
【
図5】加工空間のYZ軸方向における変形状態を示す説明図である(aは理想的な状態を示したものであり、bは傾きが生じた状態を示したものである)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る数値制御装置の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
<工作機械および数値制御装置の構成>
図1は、本発明に係る数値制御装置を搭載した工作機械(3軸マシニングセンタ)を示したものであり、
図2は、数値制御装置の制御機構を示すブロック図である。工作機械Mは、基台であるベッド4、ベッド4に固定されたクロスレール(コラム)3、切削工具15を装着可能な主軸1、主軸1を固定するための主軸頭2、ベッド4の前側上部にスライド可能に設置されたサドル5、サドル5の上部にスライド可能に設置された工作物(被加工物)を載置するためのテーブル6等によって構成されており、接続された数値制御装置C(
図2参照)によって作動が制御される。また、工作機械Mのベッド4には、加工空間の雰囲気温度を測定するための温度センサ7、および、主軸1とテーブル6の相対変位を測定するための測定器(レーザートラッカー等)8が設置されている。
【0015】
かかる工作機械Mにおいては、主軸1を固定する主軸頭2が、内蔵された第一駆動装置(モータ)9によってクロスレール3に対して上下方向(Z軸方向)に移動可能になっており、サドル5が、内蔵された第二駆動装置(モータ)10によってベッド4に対して前後方向(Y軸方向)に移動可能になっている。さらに、テーブル6が、内蔵された第三駆動装置(モータ)11によってサドル5に対して左右方向(X軸方向)に移動可能になっている。そして、工作機械Mは、上記の如く主軸1に装着された切削工具15と工作物との相対位置を変化させるように制御することによって、工作物を所望の形状に加工することができるようになっている。
【0016】
また、
図2のブロック図の如く、数値制御装置Cは、CPU12、記憶手段13、タイマー(図示せず)、入力手段(キーボード、タッチパネル等)、出力手段(モニタ等)、それらの入力手段や出力手段とCPU12とを繋ぐインターフェイス14等を備えている。また、数値制御装置Cは、主軸頭2を上下動させるための第一駆動装置9、サドル5を前後動させるための第二駆動装置10、テーブル6を左右動させるための第三駆動装置11、温度センサ7、測定器8等とインターフェイス14を介して接続されている。そして、工作機械Mは、数値制御装置Cの記憶手段13に記憶されているプログラムにしたがって、温度センサ7による検出温度、測定器8による測定値を利用して補正量を算出し、その補正量に基づいて、第一駆動装置9、第二駆動装置10、第三駆動装置11を駆動制御するようになっている。
【0017】
<数値制御装置による位置補正>
数値制御装置Cによって位置補正を行う際には、工作機械Mの加工空間(主軸1に装着された工具の可動領域)を、所定の間隔の格子状に区切り、各格子点の理想的な空間座標を設定する(
図3参照)。当該空間座標においては、各格子点[Xi,Yi,Zi]において誤差量[EXi,EYi,EZi]を設定することができる。なお、ここでは、設定した空間座標における各格子点間の距離を[Lx,Ly,Lz]とする。
【0018】
補正量は、測定器8によって計測した主軸1とテーブル6との相対変位に基づいて算出する。上記の如く設定された空間座標の各格子点の座標に工作機械Mを位置決めすると、直進軸の位置決め誤差、真直度誤差や、姿勢誤差等によって、主軸1とテーブル6との相対関係に目標からの誤差が生じる。誤差は、各軸方向で得ることができ、それらの誤差を補正量とする。
【0019】
以下、
図4のフローチャートにしたがって、数値制御装置Cによる位置補正の一例について説明する。位置補正を行う際には、まず、補正量の設定基準となっている基準温度Toを参照する(S1)。この基準温度Toとしては、設定されている補正量測定時の環境温度や、測定器8の物体温度補正を考慮した温度(たとえば、20℃)等、誤差マップ作成時の基準となる温度を採用することができる。ここでは、測定器8の物体温度補正を考慮して誤差マップを設定したものとして、To=20℃とする。
【0020】
次に、工作機械Mの各部および/または加工空間以外の部分の現在の温度情報を取得する(S2)。ここでは、ベッド4に設置された温度センサ7が検知した温度を、工作機械Mの代表温度Tとして取得する。そして、その取得した温度情報を用い、誤差マップを修正する(S3)。ここでいう誤差マップの修正とは、誤差マップ作成時の各格子点間の距離[Lx,Ly,Lz]が、補正量の測定時からの温度変化ΔT=(T-To)によって変化したと考え、温度変化による膨張分あるいは収縮分を修正することである。たとえば、鋳物の線膨張係数αを用いると、修正された誤差マップ[Xi’,Yi’,Zi’]は、以下の式1となる。
【0021】
【0022】
あるいは、温度変化による誤差マップの膨張あるいは収縮の他に、
図5(b)に示すように空間座標に傾きが生じる場合がある。当該傾きは、補正量の測定時からの温度変化、たとえばクロスレール3が倒れることや、補正量の測定時から工作機械Mの水平度が変化すること等によって生じる。そのように空間座標に傾きが生じた場合においても、誤差マップの膨張あるいは収縮と同様に、誤差マップの修正を実施する。
【0023】
図5(b)のように空間座標に傾きが生じた場合(YZ平面に直角度誤差φが生じた場合)における誤差マップの修正例を示す。ここでは、直角度誤差φが十分小さいものとし、形状創成理論を用いると、修正された誤差マップ[Xi’,Yi’,Zi’]は、以下の式2となる。
【0024】
【0025】
そして、各格子点に設定されている補正量[EXi,EYi,EZi]を修正する(S4)。
【0027】
上記したような一連の処理により、加工時に生じた熱による変形や直角度変化も考慮した空間補正が実施可能となり、単純な補正方法でありながら、工作物を高精度に加工することが可能になる。
【0028】
<数値制御装置の効果>
数値制御装置Cは、上記の如く、補正量の算出時に、空間座標の設定時と加工時との温度差に応じて、補正量を算出するための空間座標における格子間隔および格子の傾き角度を変化させるものであり、空間補正の誤差マップを熱変形で変化させて(すなわち、空間補正における誤差マップに加工時に発生する熱による変形を直接的に反映させて)補正量を算出するため、単純な方法により補正量を算出するにも拘わらず、工具1およびテーブル6の相対位置の誤差を精度良く補正することができ、工作機械Mの加工精度をきわめて良好なものとすることができる。
【0029】
<数値制御装置の変更例>
本発明に係る数値制御装置の構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、処理装置(CPU等)、記憶手段、温度センサ、測定器等の形状・構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。また、数値制御装置を搭載する工作機械も、上記実施形態の如き3軸(立形)マシニングセンタに限定されず、5軸加工機や旋盤等の他の工作機械に変更することも可能である。
【0030】
たとえば、本発明に係る数値制御装置は、上記実施形態の如く、温度センサによって取得する工作機械の各部の検知温度を代表温度の一つとして補正量を算出するものに限定されず、各直進軸の測定器の近くに温度センサを設置し、それらの温度センサによって取得する検知温度に基づいて各軸方向の成分毎の温度変化を求め、それらの各軸方向の成分毎の温度変化を各誤差マップおよび補正量の修正に用いるもの等でも良い。
【0031】
また、本発明に係る数値制御装置は、上記実施形態の如く、工作機械の加工空間のみを補正するものに限定されず、工作物の線膨張係数等を加味した任意の係数を用いて工作物を含めた空間を補正するもの等に変更することも可能である。さらに、本発明に係る数値制御装置は、上記実施形態の如く、加工空間の隅に誤差マップの原点を設定して補正量を算出するものに限定されず、工作機械の熱変形挙動に合わせて加工空間の任意の格子ポイントを基準として誤差マップを修正するもの等に変更することも可能である。加えて、本発明に係る数値制御装置は、上記実施形態の如く、直角度誤差の算出に形状創成理論を用いるものに限定されず、直角度誤差を幾何学的に算出するもの等に変更することも可能である。また、各格子点に設定されている補正量「EXi,EYi,EZi」の修正(S4)は、誤差マップの修正と同様に行うことも可能である。
【符号の説明】
【0032】
M・・工作機械(3軸マシニングセンタ)
C・・数値制御装置
1・・主軸
6・・テーブル
7・・温度センサ
8・・測定器