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特許7009366テラヘルツレーザー、テラヘルツ源、及びそのようなテラヘルツレーザーの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】テラヘルツレーザー、テラヘルツ源、及びそのようなテラヘルツレーザーの使用
(51)【国際特許分類】
   H01S 1/06 20060101AFI20220204BHJP
   H01S 3/0941 20060101ALI20220204BHJP
   H01S 3/14 20060101ALI20220204BHJP
   H01S 5/34 20060101ALI20220204BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALN20220204BHJP
【FI】
H01S1/06
H01S3/0941
H01S3/14
H01S5/34
G01N21/3581
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018528384
(86)(22)【出願日】2016-08-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-10-18
(86)【国際出願番号】 EP2016069622
(87)【国際公開番号】W WO2017029363
(87)【国際公開日】2017-02-23
【審査請求日】2019-08-07
(31)【優先権主張番号】1557827
(32)【優先日】2015-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フランソワ・ランパン
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ・パジワ
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-098252(JP,A)
【文献】米国特許第04318057(US,A)
【文献】米国特許第06331993(US,B1)
【文献】特開平10-104171(JP,A)
【文献】特開2014-236076(JP,A)
【文献】特開昭60-231376(JP,A)
【文献】米国特許第04196403(US,A)
【文献】米国特許第04322693(US,A)
【文献】国際公開第2014/119199(WO,A1)
【文献】CHANG et al.,cw LASER ACTION AT 81.5 AND 263.4 μm IN OPTICALLY PUMPED AMMONIA GAS,Applied Physics Letters,米国,The American Institute of Physics,1970年11月,Vol.17, No.9,pp.357-358
【文献】SAYKALLY, R.J. et al.,Molecular Interactions and Hydrogen Bond Tunneling Dynamics: Some New Perspectives,SCINECE,米国,1993年03月,VOL.259,pp.1570-1575
【文献】LETELIER, J.R. et al,A numerical molecular potential for the umbrella inversion in ammonia,Spectrochimica Acta Part A,1997年,Vol.53,pp.247-252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 1/00-3/30
H01S 5/00-5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その第1放射周波数が700GHzと1200GHzの間である第1電磁放射を少なくとも放出するように適合されたテラヘルツレーザー(1)であって、
-赤外線レーザー源(10)と、
-前記赤外線レーザー源(10)によって光学的にポンピングされるように配置された共振空洞(20)であって、増幅媒体としてアンモニアガスを含み、前記共振空洞(20)が前記第1放射周波数における共振空洞である少なくとも1つの構成を有する、共振空洞(20)と、
を含み、
前記赤外線レーザー源(10)は、前記増幅媒体の分子を初期エネルギー準位から少なくとも第1励起エネルギー準位に励起することができる連続半導体レーザー源であり、この第1励起エネルギー準位に配置された前記増幅媒体の前記分子は、その脱励起エネルギーが前記第1放射周波数に対応するアンモニア分子の傘型反転モードに関連する純粋な反転遷移によって脱励起されやすく、
前記アンモニアガスが、その窒素原子が同位体14であるアンモニア( 14 NH )とその窒素原子が同位体15であるアンモニア( 15 NH )との混合物であることを特徴とする、テラヘルツレーザー(1)。
【請求項2】
前記赤外線レーザー源(10)は、量子カスケードレーザーである、請求項1に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項3】
その第2放射周波数が700GHzと1200GHzの間である第2電磁放射を少なくとも放出するように適合され、前記赤外線レーザー源(10)は、前記初期エネルギー準位からそれぞれ前記第1励起エネルギー準位及び第2励起エネルギー準位に前記増幅媒体の前記分子を励起することができる少なくとも2つの波長を含む波長範囲に同調可能な量子カスケードレーザーであり、この第2励起エネルギー準位に配置された前記増幅媒体の前記分子は、その脱励起エネルギーが前記第2放射周波数に対応するアンモニア分子の傘型反転モードに関連する純粋な反転遷移によって脱励起されやすく、
前記共振空洞(20)は、前記共振空洞(20)が前記第2放射周波数における共振空洞である少なくとも1つの構成を有する、請求項2に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項4】
前記赤外線レーザー源(10)によって励起される前記第1エネルギー準位は、10よりも低い量子数Jを有するQ枝の遷移によって利用可能な振動エネルギー準位ν=1である、請求項1から3の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項5】
その窒素が同位体14であるアンモニア及びその窒素が同位体15であるアンモニアのうちの1つの前記増幅媒体における相対体積比率は、90%より高い、請求項1から4の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項6】
その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアの前記増幅媒体における相対体積比率は、ともに40と60%の間である、請求項1から4の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項7】
前記共振空洞(20)は、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアの前記増幅媒体における相対体積比率を変更することができるように構成される、請求項1から4の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項8】
第1端部及び第2端部を備える中空光ファイバなどの少なくとも1つの赤外線光ファイバ(31)を含み、前記第1端部は前記赤外線レーザー源(10)の出口に接続され、前記第2端部は前記共振空洞(20)に接続され、前記赤外線レーザー源(10)と前記共振空洞(20)との間の光学的接続を提供する、請求項1から7の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項9】
前記赤外線レーザー源(10)は、前記共振空洞(20)を光学的にポンピングするポンプ放射を放出するように適合され、
前記共振空洞(20)は、その寸法がc/1.706f(cは光の速さであり、fは前記第1放射周波数である)未満であるポンプ放射を注入するための入口を含む、請求項1から8の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項10】
前記赤外線レーザー源(10)の出口は、前記共振空洞(20)の入口に配置される、請求項1から9の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項11】
前記共振空洞(20)は、前記入口の窓の出口でポンプ放射の発散を減少するように配置された収束レンズ(21c)を含む、請求項9又は10に記載のテラヘルツレーザー(1)。
【請求項12】
その第3放射周波数が700GHzと1200GHzの間である第3電磁放射を少なくとも放出するように適合されたテラヘルツ源(100)であって、
-請求項1から11の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)と、
-その放射周波数が1GHzと200GHzの間である超高周波数放射を放出することができる超高周波数源と、
-前記テラヘルツレーザー(1)によって提供される第1テラヘルツ放射と前記超高周波数放射とを混ぜ合わせて前記第3放射を提供するように配置された、非線形媒体又はデバイスと、
を含む、テラヘルツ源(100)。
【請求項13】
テラヘルツ範囲内でイメージング、分光学、データ伝送、又は障害物検出を実施するための、請求項1から11の何れか1項に記載のテラヘルツレーザー(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ測定及びイメージングの分野に関し、より詳細には、テラヘルツ周波数範囲で放射し、そのような測定及びそのようなイメージングを可能にする電磁波源に関する。これらの電磁波源は、本明細書の残りの部分において、便利に「テラヘルツ源」と呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
それらが提供し得る強い可能性にもかかわらず、テラヘルツ周波数範囲内に適切な光源が存在しないため、テラヘルツ測定及びイメージングはあまり普及していない。実際、700と1200GHzの間のこれらの放射周波数において、連続電磁波源は比較的稀であり、依然として比較的複雑な状態である。
【0003】
実際、これらのテラヘルツ源は、例えば、マイクロ波源の高調波の非線形効果を用いて、又は2つの光周波数の周波数差によって発生させることにより提供することができる。しかしながら、これらの方法の変換効率は依然として低い。テラヘルツ場で直接放射するこれらの源は、カルシノトロンである。これらのテラヘルツ源は、使用が複雑であり、従って、研究室を除いてほとんど使用されていない。実際には、高真空、高電圧及び強い磁場が必要であり、そのことが、それらと工業的又は商業的使用との適合性を低くしている。
【0004】
テラヘルツ源を提供するために使用される別の方法は、ガスとして増幅媒体が配置された共振空洞の光ポンピングである。光ポンピングは、いわゆるポンプレーザー源によって達成される。
【0005】
このような構成において、テラヘルツ放射を達成するためには、ポンプレーザー源及び増幅媒体が多数の基準を満たすことが必要である。ポンプレーザー源の放射波長は、初期状態から励起状態への増幅媒体の分子の励起エネルギーと少なくとも部分的に適合しなければならない。この励起状態は、そのエネルギーが700と1200GHzの間の放射周波数に対応する遷移によって増幅媒体の分子が脱励起されやすい状態でなければならない。このようにして、かつ適切な寸法を有する共振空洞を用いて、ポンプレーザー源は、増幅媒体の分子の一部を励起状態に置くことによって、共振空洞においてレーザー効果を発生させるために提供され得る反転分布を可能にする。
【0006】
単一のポンプレーザー源を用い、かつ光ポンピング以外で増幅媒体に負荷をかけない光ポンピングを使用する従来の構成では、テラヘルツ周波数範囲の近傍に光源がほとんど存在しない。例えば、エジンバラインスツルメント(登録商標)によって提供される商業的源が挙げられるが、それは、それぞれテラヘルツ周波数範囲に含まれない1627GHz及び693GHzの周波数での放射を提供するジフルオロメタン及びギ酸などの増幅媒体を使用することができる共振空洞を使用する。しかしながら、これらの源のうちの幾つかがテラヘルツ源であったとしても、それらは、ポンプ源の発光線と、従来のCOレーザーと、増幅媒体の励起されるエネルギー準位との間の低波長同調に関連して、一般に効率が低い。
【0007】
テラヘルツ周波数範囲では、非特許文献1に掲載された研究においてChang及び共著者によって記載されたテラヘルツ源が知られており、それは、ポンプ源と励起されるエネルギー準位との間の良好な波長同調を有することを可能にする。
【0008】
このテラヘルツ源は、亜酸化窒素レーザーを用いて光学的にポンピングされる空洞を含み、その空洞の増幅媒体はアンモニアガスである。亜酸化窒素レーザーのポンプ放射は、回転遷移によって中間状態に脱励起されやすい励起状態にアンモニア分子が配置されることを可能にする。この回転遷移のエネルギーは、3.68THzの放射周波数に対応する。従って、この中間状態のアンモニア分子は、1.14THzの放射周波数に対応するいわゆるエネルギー「反転」遷移(「遷移カスケード」として知られている現象)によって脱励起される可能性がある。この反転遷移は、窒素原子が3つの水素原子によって形成された三角形を通過することを可能にするトンネル効果(ピラミッド形分子NHは傘として逆にされる)により可能となる。従って、Chang及び共著者によって提案された空洞では、そのようなテラヘルツ源は、その放射周波数のうちの1つがテラヘルツ周波数範囲に含まれる二重放射を提供することができる。しかしながら、この源は、遷移カスケードを使用しており、またテラヘルツ範囲内で1.14THzの単一放射周波数しか利用できないため、効率が低い。
【0009】
ポンプ源と増幅媒体の励起されるエネルギー準位との間の波長同調のこの問題を克服するために、あまり従来的ではない構成を有し、シュタルク効果又は2光子の光ポンピングなどの現象を利用するテラヘルツ周波数範囲の光源もまた存在する。これらの光源が、Chang及び共著者によって提案された従来の構成の場合のようなテラヘルツ範囲の単一放射周波数に限定されない場合、それらは比較的複雑である。実際、2光子の光ポンピングは2つの別個の源を必要とし、単一光子ポンピングに関して比較的低い効率を有する一方、シュタルク効果を利用することは、増幅媒体に強い電場を印加するために両方を必要とする。
【0010】
さらに、非特許文献2に掲載されたBelkin及び共著者の研究、あるいは非特許文献3に掲載されたQ.Y.Lu及び共著者の研究などの最近の研究が、2つの量子カスケードレーザーの空洞内周波数差による発生を用いてその放射周波数がテラヘルツ範囲にある光源を提供する可能性を実証しているとすると、これらの光源は1~5THzの放射周波数で放射する。しかしながら、これらの源は、テラヘルツ範囲で大きく低下する変換効率を有し、従って、利用可能性がないか又は低い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Changら、the scientific review「Applied Physic Letters」、1970年、第17巻、357~358頁
【文献】Belkinら、the scientific review「nature photonics」、第1巻、288~292頁
【文献】Q.Y.Luら、the scientific review「Applied Physic Letters」、2012年、第101巻、251121(1-4)頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、現在、テラヘルツ周波数範囲でテラヘルツ測定及びイメージングを行うために、ともに単純であり、故にシュタルク効果又は2光子ポンピングなどの効果を使用せず、低温を必要とし、かつこの周波数範囲で幾つかの放射周波数を利用できる連続光源型はなく、Chang及び共著者のテラヘルツ源は例えば、1.14THzの放射周波数しか利用できない。Chang及び共著者のテラヘルツ源は、それらが0.5dB/mより低いため、大気損失が比較的含まれている約850、940、及び1040GHzの周波数範囲において放射を達成できないことに、さらに留意されたい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、これらの欠点を克服することを目的としており、従って、単純でかつテラヘルツ周波数範囲において幾つかの離散した放射周波数を利用できるテラヘルツ源を提供するという目的を有する。
【0014】
本発明はまた、単純で、かつ1060GHzより低い周波数のテラヘルツ周波数範囲、特に約850、940GHz及び1040GHzの周波数範囲での放射を利用できるテラヘルツ源を提供するという目的を有する。
【0015】
本明細書の上記及び残りにおいて、約850GHz、940GHz及び1040GHzの周波数範囲とは、その周波数が20GHz以下の前記周波数値の周波数差を有する周波数範囲を意味する。従って、例えば、約850GHzの周波数範囲は、以下の不等式に関する周波数νに対応する:830GHz≦ν≦870GHz。
【0016】
この目的のために、本発明は、その第1放射周波数が700GHzと1200GHzの間である第1電磁放射を少なくとも放出するように適合されたテラヘルツレーザーに関し、前記レーザーは、
-赤外線レーザー源と、
-赤外線レーザー源によって光学的にポンピングされるように配置された共振空洞であって、増幅媒体としてアンモニアガスを含み、その共振空洞が第1放射周波数における共振空洞である少なくとも1つの構成を有する、共振空洞と、
を含み、
赤外線レーザー源は、初期エネルギー準位から少なくとも第1励起エネルギー準位に増幅媒体の分子を励起することができる連続半導体レーザー源であり、この第1励起エネルギー準位に配置された増幅媒体の分子は、アンモニア分子の傘型反転モードに関連する純粋な反転遷移によって脱励起されやすく、その脱励起エネルギーは第1放射周波数に対応する。
【0017】
アンモニア分子の反転遷移を直接使用するこのようなテラヘルツレーザーは、テラヘルツ周波数範囲全体に分布する多くの放射周波数を利用できる。実際、Q枝による単一振動モードνの励起の場合、アンモニア反転遷移は、本発明によるレーザーに対して、それぞれ1GHz及び480GHzである互いに続く2つの利用可能線の間の平均及び最大周波数差を有する85を超える発光線を利用することができる。さらに、ガス赤外線レーザー源とは異なり、特定の波数で放射することができるか、あるいは波数を同調することができるという利点を有する半導体レーザー源の使用は、具体的に選択され得る共振空洞で励起される反転遷移を可能にする。
【0018】
従って、本発明によるレーザーは、テラヘルツ周波数範囲に提供されるテラヘルツ源を可能にし、それは、その共振空洞及びその赤外線レーザー源を適切に選択することによって、その周波数がテラヘルツ周波数範囲において多数の離散した放射周波数から選択され得る放射を得ることを可能にする。従って、このようなレーザーは、テラヘルツ測定及びイメージングなどのテラヘルツ範囲における多くの光学的用途を予期可能にする。
【0019】
アンモニアの純粋な反転遷移によって発生したテラヘルツ範囲における放射は、1060GHzよりも低い、特に約850、940及び1040GHzの周波数範囲の放射周波数に対応する発光線の利用を可能にすることに、さらに留意されたい。このような発光線は、それらの大気吸収が低いことにより、従ってそれらが提供する大気測定の可能性に関して特に有利である。
【0020】
その基底状態にあるアンモニア分子NHは、4つの利用可能な振動モードを有し、そのうちの2つは縮退していることに留意されたい:
-結合NHの対称振動伸長(A1)に対応するモードν
-結合NHの対称角変形(A1)に対応するモードν
-結合NHの二重縮退逆対称伸長(E)に対応するモードν3a及びν3b
-結合NH間の二重縮退角変形(E)に対応するモードν4a及びν4b
【0021】
各振動モードは、J及びKである2つのパラメータによって規定されるアンモニア分子に対して利用可能な対応する数の回転状態を有する。これらの状態は、2つの可能な対称性:対称状態(s)及び逆対称状態(a)へのトンネル効果によって、それ自体二重になる。従って、振動モードν=1の振動状態は、それが対称であればν=1s(J,K)、それが逆対称であればν=1a(J,K)とそれぞれ記載され、ここで、Jは、分子の回転角運動量を規定する量子数であり、Kは、分子の主対称軸に沿った回転角運動量のベクトル成分を規定する量子数である。Jは正の量子数なので、負でない整数である。Kは分子の対称軸上でのJの投影であるため、-Jと+Jの間の整数である。各振動-回転-対称状態は、エネルギー準位に対応する。従って、アンモニア分子の状態を量子化すると、分子の振動-回転-対称状態、並びにそれが位置するエネルギー準位の両方に言及することができる。
【0022】
また、アンモニア分子の振動-回転-対称モードの、平行帯に対するアンモニア分子の別の振動-回転-対称モードへのνとしての赤外線光学遷移が、以下の条件(選択規則)を満たさなければならないことにも留意されたい:Δν=-1又は+1、ΔK=0、ΔJ=-1、0又は+1、及びa←s又はs←a。これらの3つの型の遷移又は枝は、それぞれ、ΔJ=-1の場合はP枝の遷移、ΔJ=0の場合はQ枝の遷移、ΔJ=+1の場合はR枝の遷移と呼ばれる。
【0023】
所与の振動-回転-対称モードでは、アンモニア分子は、異なる遷移によって脱励起されやすい。従って、本発明の場合、いわゆる「純粋な」反転転移によって脱励起されやすい分子は、a(J,K)、故に逆対称型の振動から、s(J,K)、故に対称の振動状態に脱励起されやすい分子であり、ここで、振動及び回転状態は変化しない(Δν=0、ΔK=0、ΔJ=0)。従って、本発明の範囲内で、レーザー源は、初期状態ν=0s(J,K)(xは1、2、3a、3b、4a、4bから選択される)から型ν=1a(J,K)の励起振動状態にアンモニア分子を励起することができ、このような遷移は故に、Q枝の遷移である。この励起振動状態において、アンモニア分子は、純粋な反転遷移によって振動状態ν=1s(J,K)に脱励起されやすい。このような遷移は直接遷移であり、すなわち、反転遷移によって振動状態ν=1s(J,K)に分子が直接脱励起されやすい。この脱励起の間、分子は、中間振動状態を通過することなく、純粋な反転遷移によって、分子が光ポンピングによって励起されている振動状態から低エネルギーを有する振動状態に切り替わる。
【0024】
増幅媒体中のアンモニアガスは2つの同位体型、その窒素が同位体14であるアンモニア14NH及びその窒素が同位体15であるアンモニア15NHであり得ることにも留意されたい。もちろん、アンモニアのこれらの同位体型のそれぞれは、それ自体の振動状態エネルギーを含む。従って、このようなアンモニア分子の同位は、本発明によるレーザーによって利用可能な発光線の数をテラヘルツ範囲において2倍にすることができる。
【0025】
赤外線レーザー源は、量子カスケードレーザーであり得る。
【0026】
このような半導体レーザー源は、レーザー源と増幅媒体の励起されるエネルギー準位との間の良好な波長同調を用いて増幅媒体の分子を励起することができる効果的なポンプ放射を赤外線波長において提供するのに、特に適している。実際、そのような量子カスケードレーザーは、このような波長同調を保証するために、容易に波長同調され得る。このような源を利用でき、さらに互いに組み合わせられ得る強い出力が加えられる場合、それらは共振空洞の良好な光ポンピングを可能にし、従って、効率的なテラヘルツ放射を保証することができる。
【0027】
テラヘルツレーザーは、その第2放射周波数が700GHzと1200GHzの間である第2電磁放射を少なくとも放射するように適合させることができ、ここで、赤外線レーザー源は、初期エネルギー準位からそれぞれ第1及び第2励起エネルギー準位に増幅媒体の分子を励起することができる少なくとも2つの波長を含む波長範囲に同調可能な量子カスケードレーザーであり、この第2励起エネルギー準位に配置された増幅媒体の分子は、その脱励起エネルギーが第2放射周波数に対応するアンモニア分子の傘型反転モードに関連する純粋な反転遷移によって脱励起されやすく、
共振空洞は、その共振空洞が第2放射周波数における共振空洞である少なくとも1つの構成を有する。
【0028】
このようなテラヘルツレーザーは、単一の構成でテラヘルツ範囲において少なくとも2つの放射周波数を提供することができるので、調節可能なテラヘルツ源を提供することを可能にする。実際に、空洞と赤外線レーザー源はともに同調可能であり、従って、これらの周波数の両方でのレーザー放射は、ともに良好な効率を有する。このことは、通常単一の放射周波数で放射するように適合される先行技術のテラヘルツ源に対して特に有利であることに留意されたい。
【0029】
赤外線レーザー源によって励起される第1エネルギー準位は、10よりも低い量子数Jを有するQ枝の遷移によって利用可能な振動エネルギー準位ν=1であり得る。
【0030】
このようなエネルギー準位は、良好な放射効率でテラヘルツ範囲に含まれる多数の放射周波数を利用できるため、特に有利である。従って、及び図4a及び図4bに示すように、単一のアンモニア型であっても、その窒素が同位体14であるアンモニアかその窒素が同位体15であるアンモニアかにかかわらず、テラヘルツ範囲で選択された放射周波数を有する本発明によるテラヘルツレーザーを、この周波数を選択するように実際に制限することなく提供することができる。実際、2つの連続した利用可能な放射周波数は、30GHzより低く平均で15GHzに等しい差を有する。
【0031】
アンモニアガスは、その窒素原子が同位体14であるアンモニア、その窒素原子が同位体15であるアンモニア、及びその混合物を含む群から選択され、
ここで、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアのうちの1つの増幅媒体における相対体積比率は、90%より高く、優先的には95%よりも高い。
【0032】
このようなガス混合物を増幅媒体として用いると、放射は特に効率的であるが、なぜなら、増幅媒体の分子の多くが放射に関与しやすいからである。
【0033】
アンモニアガスは、その窒素原子が同位体14であるアンモニアとその窒素原子が同位体15であるアンモニアとの混合物であってもよく、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアの増幅媒体における相対体積比率は、ともに40と60%の間である。
【0034】
このようなガス混合物では、レーザー源は多数の放射周波数を利用できるが、なぜなら、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアの放射周波数を利用できるからである。
【0035】
アンモニアガスは、その窒素原子が同位体14であるアンモニアとその窒素原子が同位体15であるアンモニアとの混合物であってもよく、その共振空洞は、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアの増幅媒体における相対体積比率を変更できるように構成されている。
【0036】
このようなレーザー源は、増幅媒体の組成を変更する可能性を提供することによって、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアによって提供される周波数からの放射周波数を容易に選択しながら、一方でその放射効率をそのままの状態で維持することを可能にする。
【0037】
テラヘルツレーザーは、第1及び第2端部を備える中空光ファイバなどの少なくとも1つの赤外線光ファイバを含むことができ、第1端部は赤外線レーザー源の出口に接続され、第2端部は共振空洞に接続され、赤外線レーザー源と共振空洞との間の光学的接続を提供する。
【0038】
赤外線光ファイバとは、本明細書の上記及び残りにおいて、赤外線範囲に含まれる電磁放射を伝送するように適合された光ファイバを意味する。従って、赤外線光ファイバは、中空光ファイバ、カルコゲナイドガラス光ファイバ、又は微細構造化光ファイバであり得ることに留意されたい。
【0039】
赤外線レーザー源は、ポンプ放射を放出して共振空洞を光学的にポンピングするように適合することができ、
ここで、共振空洞は、その寸法がc/1.706f(cは光の速さであり、fは第1放射周波数である)未満であるポンプ放射を注入するための入口を含み、ポンプ放射を注入するための入口の寸法は、優先的にはc/2f未満である。
【0040】
ポンプ放射を注入するための入口は、176μm未満の寸法を有することができる。
【0041】
赤外線レーザー源の出口は、共振空洞の入口に配置することができる。
【0042】
このような構成は、本発明によるレーザーが最適化された光結合を備えることを可能にする。
【0043】
「共振空洞の入口に」配置された赤外線源の出口とは、本明細書の上記及び残りにおいて、前記出口が前記入口に対して、その入口が赤外線レーザー源の出口を出る赤外線放射の放射円錐全体を隔てるように配置されることを意味する。より一般的には、このような特徴は、1cmよりも小さい共振空洞の入口からの距離で共振空洞の光学軸と位置合わせされた赤外線レーザー源の出口に対応する。
【0044】
共振空洞は、入口の窓の出口でポンプ放射の発散を減少させるように配置された収束レンズを含むことができる。
【0045】
このようなレンズは、増幅媒体の良好な光ポンピングを保証することができる。
【0046】
本発明はさらに、その第3放射周波数が700GHzと1200GHzの間である第3電磁放射を少なくとも放出するように適合されたテラヘルツ源に関し、テラヘルツ源は、
-本発明によるテラヘルツレーザーと、
-その放射周波数が1GHzと200GHzとの間である超高周波数放射を放出することができる超高周波数源と、
-テラヘルツレーザーによって提供される第1テラヘルツ放射と超高周波数放射とを混ぜ合わせて第3放射を提供するように配置された、非線形媒体又はデバイスと、
を含む。
【0047】
このような源は、非線形媒体又はデバイスの使用によって提供された周波数オフセットにより、その放射周波数がテラヘルツ範囲で正確に選択され得る第3放射を提供することができる。
【0048】
本発明はさらに、テラヘルツ範囲でイメージング、分光法、データ伝送又は障害物検出を行うための、本発明によるレーザーの使用に関する。
【0049】
このような使用は、本発明によるレーザーによって提供される同調性及び良い効率の可能性からの利益を得る。
【0050】
本発明は、添付の図面を参照して、純粋に例示の目的であり限定する目的ではなく示された例示的な実施形態の説明を読むことで、さらに良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の第1実施形態によるレーザーを概略的に示す図である。
図2】本発明によるレーザーで使用される可能性の高いアンモニア分子の2つのエネルギー遷移のエネルギー線図である。
図3】本発明によるレーザーの共振空洞の例示的構成を示す図である。
図4a】両方のアンモニア同位体に対する、共振空洞をポンピングするのに採用される赤外線レーザー源の波数の関数としての、本発明によるレーザーによって利用可能な反転遷移による放射周波数のグラフである。
図4b】両方のアンモニア同位体に対する、反転遷移を用いて利用可能な異なる放射周波数を表す周波数チャートである。
図5】アンモニア分子の2つの振動-回転モードに対して共振空洞をポンピングする赤外線レーザー源の出力の関数としての、本発明によるレーザーの放射出力を実験的に示すグラフである。
図6】第2実施形態による、光ファイバを用いた共振空洞とポンプレーザーとの間の光結合の例を示す図である。
図7】共振空洞が収束レンズを含む第3実施形態による、光ファイバを用いた共振空洞とポンプレーザーとの間の光結合の別の例を示す図である。
図8】共振空洞が、それを介して赤外線レーザー源によって放出されたポンプ放射が導入される入口として作用する開口部を含み、レーザー源の出口がその入口に配置される、第4実施形態によるレーザーを示す図である。
図9】本発明によるテラヘルツレーザーと、その各放射が非線形媒体又はデバイスによって組み合わせられる超高周波数源と、を含むテラヘルツ源を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
異なる図面の同一、類似、又は等価の部分には、1つの図面から他の図面への切り替えを手助けするように、同一の参照番号が付される。
【0053】
図面に示された異なる部分は、図面をより理解しやすくするため、必ずしも均一のスケールで描かれてはいない。
【0054】
異なる可能性(代替形態及び実施形態)は、互いに排除しないと理解されるべきであり、また、互いに組み合わせられ得る。
【0055】
図1は、本発明によるテラヘルツレーザー1を概略的に示す。このようなテラヘルツレーザー1は、その第1放射周波数が700GHzと1200GHzの間のテラヘルツ周波数範囲に含まれる第1電磁放射を少なくとも放出するように適合される。このテラヘルツレーザー1は、より詳細には、テラヘルツレーザー放射を受ける試料40と、この受けたTHz放射を検出するためのTHz検出器50とが示された図1に示すように、テラヘルツ測定及び/又はイメージング専用である。
【0056】
テラヘルツレーザー1は、
-赤外線レーザー源10と、
-赤外線レーザー源10によって光学的にポンピングされるように配置された共振空洞20であって、前記共振空洞は増幅媒体としてアンモニアガスNHを含む、共振空洞20と、
を含む。
【0057】
赤外線レーザー源10は、増幅媒体の分子を初期エネルギー準位から少なくとも第1励起エネルギー準位に励起することができる半導体連続レーザー源であり、この第1励起エネルギー準位に配置された増幅媒体の分子は、その脱励起エネルギーが第1放射周波数に対応する純粋な反転遷移によって脱励起されやすい。
【0058】
第1励起エネルギー準位は、そこに配置され反転遷移によって自発的に脱励起されやすい分子の場合、そこから分子がs(J,K)型対称振動状態に対応するエネルギー準位に脱励起されやすいa(J,K)型逆対称振動状態に対応するエネルギー準位である。
【0059】
本発明の通常の適用では、赤外線レーザー源10によって励起される第1エネルギー準位は、Jを有するQ枝の遷移によって利用可能なエネルギー準位であるが、ここで、Jは分子の回転角運動量を規定する量子数であり、10より小さい。本発明のこの通常の適用でアンモニア分子が励起される振動モードは、振動モードνである。
【0060】
このような赤外線レーザー源10の適合の原理を図2に示すが、ここでは、共振空洞はその窒素が同位体14であるアンモニアを含む。従って、図2の左側の例を参照すると、赤外線レーザー源10は、その放射波数が967.4067cm-1に等しい少なくとも1つの構成を有する赤外線レーザーであり得る。このような波数により、赤外線レーザー源10によって放出されるポンプ放射は、共振空洞のアンモニア分子を基底状態ν=0s(3.2)から励起準位ν=1a(3.2)に励起することができる。このエネルギー準位におけるアンモニア分子は、純粋な反転遷移によって励起準位ν=1s(3.2)に脱励起されやすい。この脱励起の間、この純粋な反転遷移のエネルギーに対応する光子が放出される。第1周波数に対応するこの光子の放射周波数は、1.036THzであり、テラヘルツ範囲に含まれる。
【0061】
同様に、図2の右側の例を参照すると、レーザー源は、その放射波数が967.3463cm-1に等しい少なくとも1つの構成を有する赤外線レーザー源であり得る。このような波数により、赤外線レーザー源10によって放出されるポンプ放射は、共振空洞のアンモニア分子を基底状態ν=0s(3.3)から励起準位ν=1a(3.3)に励起することができる。このエネルギー準位におけるアンモニア分子は、純粋な反転遷移によって励起準位ν=1s(3.3)に脱励起されやすい。この脱励起の間、この純粋な反転遷移のエネルギーに対応する光子が放出される。第1周波数に対応するこの光子の放射周波数は、1.073THzであり、テラヘルツ範囲に含まれる。
【0062】
このような適合を提供するために、本発明の第1の可能性によると、レーザー源は、少なくとも部分的に赤外線範囲に含まれる波長範囲で放射するように適合された、同調可能なレーザー源であり得る。この波長範囲は、増幅媒体の分子を初期エネルギー準位から第1励起エネルギー準位に励起する放射波数を含む。従って、図2の例によると、赤外線レーザー源10は、それぞれ967.4067cm-1及び967.3463cm-1の放射波数を含む波長範囲で同調可能である。
【0063】
このような可能性を許容するために、赤外線レーザー源10は、赤外線で、特に955から970cm-1の範囲の放射波数に対応する波長範囲に少なくとも部分的に含まれる波長範囲で同調可能な量子カスケードレーザーであり得る。
【0064】
第2の可能性によると、赤外線レーザー源10は、赤外線範囲内で単一波長を放射するように適合されたレーザーであってもよく、この波長は、増幅媒体の分子を初期エネルギー準位から第1励起エネルギー準位に励起する放射波数に対応する。従って、図2の例によると、赤外線レーザー源は、この第2の可能性によると、967.4067cm-1又は967.3463cm-1の放射波数で放射する。
【0065】
これらの可能性両方に適用可能な本発明の代替形態によると、赤外線レーザー源はまた、少なくとも1つの放射波長が955と970cm-1の間の放射波数に対応する波長である非線形変換システムが続く、例えば鉛塩レーザーなどのダイオード型半導体レーザー、又は1つ以上の近赤外線ダイオード型半導体レーザーであってもよい。換言すれば、波長は、10.309μmから10.471μmの波長範囲に含まれる。
【0066】
赤外線レーザー源10の出口は、共振空洞20に光学的に結合され、それを光学的にポンピングすることを可能にする。第1実施形態では、図1に示すように、赤外線レーザー源10の出口と共振空洞20との間の光結合は、レーザー源によって放出されるポンピング放射を共振空洞20に導く2つのミラー30を用いて行われる。
【0067】
共振空洞20は、第1放射周波数における共振空洞である。図3は、第1実施形態による共振空洞20の構成の一例を示す。
【0068】
共振空洞20は、
-共振空洞20の内部を画定し、テラヘルツ導波路範囲内で導波路を形成する管状側壁23と、
-その端部の一方で側壁を閉じる第1ミラー21であって、ポンピング放射を共振空洞20に導入するための開口部21aを含み、前記開口部21aは共振空洞20においてポンプ放射のための入口として作用する、第1ミラー21と、
-その端部の他方で側壁23を閉じる第2ミラー22であって、増幅媒体の分子の脱励起からの光子の一部を引き抜く開口部22aを含む、第2ミラー22と、
を含む。
【0069】
第1及び第2ミラー21、22は、テラヘルツ波長範囲で、有利には赤外線レーザー源の放射波長を含む赤外線範囲の部分で少なくとも部分的に反射するミラーである。励起遷移、空洞の損失及びポンプ放射の出力に応じて、第2ミラー22は、75と98%の間で選択される反射係数を有する。第1ミラー21は、優先的に高い反射係数を有し、従って典型的には、第1ミラー21の反射率は、95%より高く、さらには98%より高い。
【0070】
従って、第1ミラー21は優先的には、テラヘルツ範囲内で最も高い反射率を有するミラーである。このような最も高い率は特に、第1ミラー21の開口部21aの適切な直径によって達成することができる。実際、円筒状の伝導性導波路を形成するこのような開口部では、基底モードTE11のカットオフ周波数は、
=c/1.706d
によって与えられ、ここで、cは光の速さであり、dは開口部の直径である。従って、176μm未満の直径により、1THz未満の周波数の伝播を回避することができる。従って、ポンプ放射を注入するための入口を形成する第1ミラーの開口部21aは、c/1.706f未満の寸法を有し、その開口部21aの寸法は、優先的にはc/2f未満である。
【0071】
より一般的には、所与の第1放射周波数fに対して、ポンプ放射を注入するための入口を形成する開口部21aは、優先的にはc/1.706f未満の寸法を有する。長方形又は正方形の第1ミラーの開口部21aに対して、ポンプ放射を注入するための入口を形成する開口部21aの入口の寸法は、特にその対角線において、優先的にはc/2f未満である。
【0072】
従って、例えば、直径150μmの円形開口部(カットオフ周波数:1.17THz)により、ポンプ赤外線ビームの伝送を可能にしながら、テラヘルツ範囲の伝播を妨げることができる。
【0073】
図3において、空洞はまた、第1ミラーの上流に赤外線透過窓21bを含む。この窓21bは、臭化カリウム(KBr)、又は塩化ナトリウムNaCl、セレン化亜鉛ZnSe、シリコンSi又はゲルマニウムGeなどのポンプ放射範囲内の他の任意の透過材料で作られる。共振空洞の光軸に対する窓21bの角度βは、前記窓21bにおけるポンプ放射の部分反射を相殺するようにブルースター入射となるように選択される。
【0074】
第2ミラー22の形状は、その窓の出口でのテラヘルツ放射ビームの発散を制限するように適合される。実際に、適切な反射率を有する第2ミラーを提供するために、第2ミラーの開口部22aは、テラヘルツ範囲に対応する波長程度、すなわち0.3mm程度である。レーザーの放射を部分的に収束させることができる適切な形状がなければ、第2ミラー22の開口部22aの低い寸法は出口ビームを発散させる。第2ミラー22は、ビーム発散を制限するこのような適合を提供するために、開口部22aの出口において、共振空洞20の光軸に沿って均一に、優先的には単調に増加する外径を有する円錐の横断面を有することができる。本発明の代替形態によると、レーザーはまた、第2ミラー22の開口部22の下流に収束レンズを含むこともできる。本発明の代替形態によると、ミラー22はまた、自己収容型であってもよいし、誘電体支持体の表面に配置されていてもよい金属格子で構成することもできる。この場合、結合はミラー表面全体で行われ、ビーム発散を最小限にすることができる。先行技術によれば、この格子は容量性又は誘導性型であってもよい。
【0075】
共振空洞20は、アンモニアの漏れを回避し、故に、テラヘルツレーザー1の出力及びレーザーを取り扱わなければならない技術者の両方にとって有害であり得るアンモニアの損失を制限するように、密封された形状である。
【0076】
管状側壁23は、円形横断面を有する長手方向の管状の形状を有する。もちろん、側壁23はまた、本発明の範囲から逸脱することなく別の管状の形状を有することもでき、例えば、本発明の範囲から逸脱することなく、長方形又はより一般的に多角形又は楕円形の横断面を有することもできる。側壁23は、銅などの金属で作ることができる。本発明の1つの可能性によると、共振空洞20内部の銅表面はまた、例えばポリマーなどの誘電体で覆われ得る。本発明の別の可能性によると、側壁23は、溶融シリカ又はガラスなどの誘電体で作ることができる。
【0077】
図3に示すこの第1実施形態では、第2ミラー22は、第1ミラー21に対して可動的に取り付けられている。このような取り付けにより、共振空洞20の共振周波数を容易に変更することができる。
【0078】
第2ミラー22の可動的な取り付けは、第2ミラー22を側壁23内部に翻訳的に自由に配置することによって、そこから突出している第2ミラー22の部分及び側壁23の第2端部付近に配置された密閉チャンバ24とともに提供される。この密閉チャンバ24は、側壁23から突出している第2ミラー22の部分に接続された、金属膜などの可撓性材料の隔壁24aを含む。このように、可撓性隔壁24aによって提供される可撓性により、第2ミラー22を移動させることができ、また、同調可能な赤外線レーザー源10において、アンモニアの幾つかの反転遷移を利用することができる。
【0079】
図3に示すこの可動的な取り付けは、例示の目的で与えられたものであり、もちろん本発明を限定するものではない。本発明は、第2ミラー22が第1ミラー21に対して可動的である、第1及び第2ミラー21、22のあらゆる取り付けタイプを包含する。従って、例えば、本発明はまた、側壁23が一部分上に、その長さを延長できるような金属蛇腹を含み、第2ミラー22がそれによって側壁23の第2端部に取り付けられるような図示されていない可能性も包含する。この可能性によると、第2ミラー22が第1ミラー21に対して移動することを可能にするのは、金属蛇腹によって許容される側壁23の延長である。本発明の別の図示されていない可能性によると、側壁23及び第2ミラー22に対して可動的に取り付けられるのは第1ミラー21であるということも考えられる。この可能性では、第2ミラー22もまた、共振空洞20の共振周波数が変化でき、故に選択された第1周波数の関数として同調できるように、第1ミラーに対して可動的である。
【0080】
第1ミラー21に対する第2ミラー22の可動的な取り付けは故に、第1ミラー21に対して第2ミラー22を適切に配置することによって、共振空洞20の共振周波数を変更することができる。従って、このような共振空洞20は、その共振空洞20が第1放射周波数における共振空洞である第1の構成と、その共振空洞20が第2放射周波数における共振空洞である第2の構成と、を有することができる。
【0081】
この第1実施形態では、共振空洞の雰囲気は、組成及び圧力の両方で変更することができる。これを行うために、密閉チャンバ24には、ガス入口24bとポンピング出口24cとが設けられている。従って、この第1実施形態による共振空洞20では、その窒素原子が同位体14であるアンモニア、その窒素原子が同位体15であるアンモニア、及びその混合物を含む群から選択されたアンモニアガスを増幅媒体として含むことができる。
【0082】
アンモニアの単一同位体が必要とされる場合、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアのうちの1つの増幅媒体における相対体積比率は、90%より高く、優先的には95%よりも高い。
【0083】
一方、アンモニアの両方の同位体の混合物を有することが好ましい場合、特にその窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアの許容可能な放射周波数の両方を利用できるように、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアの増幅媒体における相対体積比率は、ともに40と60%の間である。
【0084】
もちろん、これらの2つのタイプの相対体積比率によって提供される特性の中間である特性が求められる場合、その窒素原子が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアのうちの1つの増幅媒体における相対体積比率は、本発明から逸脱することなく、これらの2つのタイプの体積比率の中間であり得る。
【0085】
共振空洞内のアンモニア圧力は、優先的には1μbarと1mbarの間、優先的には10μbarと500μbarの間である。従って、共振空洞内のアンモニア圧力は、例えば50μbarに等しくてもよい。
【0086】
ガス入口及びこのガス出口24b、24cは、それぞれアンモニアガス源とポンピングシステムに接続され、アンモニア雰囲気を共振空洞20内に画定することができる。このように、その窒素が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアの相対比率を共振空洞20内で変更することができる。
【0087】
共振空洞20の増幅媒体を変更するこのような可能性は、ポンプ放射及び光学空洞の共振周波数を同調する可能性と組み合わせて、その窒素が同位体14であるアンモニアのテラヘルツ発光線及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアのテラヘルツ発光線の両方を利用できる点で、特に有利である。
【0088】
代替的に、例えばその窒素が同位体14であるアンモニア及びその窒素原子が同位体15であるアンモニアのうちの1つのテラヘルツ発光線のみが必要とされる場合、共振空洞20は空気を通さないように密閉され得、それによって共振空洞の雰囲気は事前に画定され得ることに留意されたい。
【0089】
側壁の第2端部の密閉を保証するために、共振空洞20は第2ミラーにおいて、少なくとも部分的に、優先的には完全にテラヘルツ周波数に対して透過性である第2ミラー22の窓25を含む。第2ミラー22の窓25は、環状オレフィンコポリマー(COCとして知られている)あるいはポリプロピレン、石英、ポリエチレン又はポリメチルペンテン(PMP又はTPXとしてより良く知られている)の窓であり得る。
【0090】
量子カスケードレーザーなどの同調可能な赤外線レーザー源10と光学的に結合されたこの第1実施形態による共振空洞20は、テラヘルツ範囲内のアンモニアガスの全ての利用可能な発光線を放射することができる本発明の1つの可能性によるテラヘルツレーザー1を形成する。
【0091】
図4a及び図4bは、10以下に留まるJを有するアンモニアの振動モードνのQ枝の励起によって増幅媒体をポンピングする本発明による反転遷移に対する、その窒素が同位体14であるアンモニア及びその窒素が同位体15であるアンモニアの両方の利用可能な発光線を示す。図4(a)は従って、横軸にテラヘルツレーザー1の放射周波数、縦軸に赤外線レーザー源10によって放出されたポンプ放射の波数を伴う、アンモニアの発光線をグラフで示す。このグラフでは、黒点で表されるその窒素が同位体14であるアンモニアの発光線がテラヘルツ範囲の全幅に分布していることが分かる。図4aにおいて円で表されるその窒素が同位体15であるアンモニアの発光線についても、同様の観察を行うことができる。従って、単一のアンモニアタイプであっても、それがその窒素が同位体14であるアンモニアかその窒素が同位体15であるアンモニアかにかかわらず、この周波数に対する選択を実際に制限することなく、テラヘルツ範囲で選択された放射周波数を有する本発明によるテラヘルツレーザーを提供することができる。実際、2つの連続した利用可能な放射周波数は、30GHzよりも低く、平均して15GHzに等しい差を有する。
【0092】
本発明の原理に従う利用可能な発光線全て(Q帯及び振動モードν=1、J<10)を周波数スケール上に表すチャートである図4bに示すように、その周波数が1060GHzよりも低いテラヘルツ周波数範囲の部分において多数の発光線が利用可能であることをさらに観察することができる。このことは特に有利であるが、なぜなら、テラヘルツ領域のこの部分では放射線減衰が比較的低いからである。実際に、50%の相対湿度を考慮すると、減衰は、周波数840~860GHz、940GHz及び1025~1040GHzであるテラヘルツ範囲のそれぞれの周波数に対して、順番に0.1dB/mから0.15dB/m及び0.4dB/mに切り替わる。従って、テラヘルツ範囲のこの部分は、測定及び/又はイメージングを実行するのに特に有利であるが、なぜなら、周囲大気でそれらを作ることが可能であり、故に、乾燥雰囲気又は大気圧よりも低い低圧雰囲気などの特定の雰囲気を必要としないからである。
【0093】
同様に、本発明によるテラヘルツレーザー1は、発光線の密度が高いために、特に窒素同位のために、テラヘルツ範囲において、その放射周波数差が1GHzよりも小さい発光線、故にテラヘルツレーザーの幾つかの二重線の恩恵を受けることができる。本発明によるテラヘルツレーザーは従って、テラヘルツ範囲のヘテロダイン受信機での使用に適合される。このような使用は、例えばショットキーダイオードなどのミキサーを用いて互いに近接した(差が1GHzより小さい)放射周波数を有する2つのテラヘルツレーザーの2つのビームを結合し、故にこの周波数差を発生させることによって行うことができる。次いでこの周波数差を電子的に増幅して、両方のビームの一方を検出することができる。
【0094】
以下の表1に示されているのはこの可能性であり、このような適用に用いることができる発光線の異なる二重線を列挙している。二重線は、テラヘルツ範囲内に位置するもののみであり、その周波数は、本発明の通常の適用、すなわちQ枝及び10よりも小さいJによる励起に対する振動モードν=1に対応して1040GHzよりも低い。
【0095】
【表1】
【0096】
もちろん、本発明の第1実施形態において、共振空洞が、その共振周波数が変更可能な空洞である場合、本発明はまた、その共振空洞20が1つ及び単一の構成を有するテラヘルツレーザーも包含する。この構成では、共振空洞20は、第1放射周波数における共振空洞である。
【0097】
図5は、第1実施形態の構成と類似しており図3に示された構成において本発明者らによって得られた本発明によるレーザーの放射出力を実験的に示す。これらの測定の間、本発明者らは、図2に示すエネルギー図表に対応する2つの放射周波数に対するレーザー効果を実証した。従ってこれらは、Q枝による振動モードにおけるアンモニア分子の励起の2つのケースであり、1つ目は振動状態ν=1a(3.2)(図においてQ(3.2)と記され、黒点で表される)であり、2つ目は振動状態ν=1a(3.2)(図においてQ(3.3)と記され、黒四角で表される)である。
【0098】
これらの実験の間に使用される共振空洞の正確な構成は、以下の1つである:
-側壁23が、銅の円形横断面管状側壁23であり、10mmの内部直径及び50cmの空洞長さを有する、
-第1及び第2ミラー21、22のそれぞれが、それぞれポンプ放射を導入し、レーザー放射を引き抜くために、直径1.2mmの開口部21a、22aを有する真ちゅうミラーである、
-アンモニアガス圧力は、共振空洞において20から100μbarに維持される。
【0099】
図5において、レーザー効果は、2~3mWのポンピング出力で遷移asQ(3.2)及び遷移asQ(3.3)の両方に対して生じ、第1及び第2ミラー21、22における対称的な開口部により生じた出力が2つに分離されることが分かる。実際には、16~18μW程度の出力は、約25mWの赤外線放射でのポンピングに対して達成される。従って、本発明によるレーザーのこの実験の間に達成される効率は比較的重要であり、ポンプ出力閾値は、先行技術のテラヘルツレーザーの閾値と比較して相対的に低い。
【0100】
図6は、第2実施形態による共振空洞20と赤外線レーザー源10との間の光結合を示す。この第2実施形態によるテラヘルツレーザー1は、共振空洞20と赤外線レーザー源とが赤外線光ファイバ31によって互いに光学的に結合されている点で異なる。
【0101】
図6において、赤外線光ファイバ31は中空型の赤外線光ファイバであり、すなわちファイバコアは空気からなる。しかしながら、それが図6に示されているいわゆる中空光ファイバである場合、本発明の範囲から逸脱することなく他の赤外線光ファイバが考えられることに留意されたい。従って、赤外線光ファイバはまた、例えば、カルコゲナイドガラスを有する光ファイバ又は微細構造の光ファイバであってもよい。
【0102】
赤外線レーザー源10をこのようにして赤外光ファイバ31によって共振空洞20に結合することを可能にするために、光ファイバ31は、赤外線レーザー源10の出口及び共振空洞20の第1ミラー21の開口部にそれぞれ結合された第1及び第2端部を含む。赤外線光ファイバ31の第2端部を収容するために、第1ミラー21は、第2ミラー22と反対側の面に収容空洞を含む。このような収容空洞は、第1ミラー21の開口部21aに対して完全に位置合わせされるように赤外線光ファイバ31の第2端部を配置する手助けをすることができる。
【0103】
図6に示す中空型の赤外線光ファイバ31の場合、中空である赤外線光ファイバ31での漏れの危険性を制限するために、第1ミラー21の開口部21aは、例えば臭化カリウムなどの赤外線放射-透過窓21bによって密閉される。同様に、かつ第1実施形態と同じように、第1ミラー21の反射率は、その寸法が176μmよりも小さく40μmよりも大きい第1ミラー21の開口部21aで最適化することができる。第1ミラーのこの開口部21aは故に、その直径が176μmと40μmの間である円形のポートとすることができる。従って、ポート21aは、アンモニア分子の反転遷移からのレーザー放射を通過させないが、一方で、その波長が70μmよりも低いポンプ放射の導入を許容する。
【0104】
図7は、赤外線光ファイバ31による光結合が最適化された第3実施形態によるテラヘルツレーザー1を示す。この第3実施形態によるテラヘルツレーザー1は、第1ミラーが、第1ミラー21の開口部21aによるポンプ光の伝送を向上させるための適合片21dと、第1ミラー21の適合片21dを通過する際のポンプ放射の発散を補うための収束レンズ21cとを含む点で、第2実施形態によるテラヘルツレーザー1とは異なる。
【0105】
第1ミラーは、その開口部21aに、適合片21dのための収容空洞を含み、その適合片は次いで、赤外線光ファイバ31を収容する。適合片21dは、ポンプ放射の赤外線を少なくとも部分的に反射し、優先的にはこの周波数範囲で全反射する材料で作られる。その適合片は、ポンプ放射の注入を可能にする導入ポートを含む。この導入ポートは、第2実施形態による第1ミラー21の開口部21aと同じ寸法要件を有する。適合片21dのポートは、第2ミラー22に向かって176μmと40μmの間の最小直径を有する円形とすることができる。ポートは、ポンプ放射の光空洞内への注入を改善するために、光ファイバのコア、ここでは中空型赤外線光ファイバ31の誘導空洞に実質的に等しい、赤外線光ファイバ31に面する最大直径を有する円錐形の断面を含む。
【0106】
適合片21dのポートは、テラヘルツ放射を通過させない機能を有するため、開口部21aは特定の寸法要件を有しない。第1ミラー21は、開口部21aの出口において、収束レンズ21cを収納する肩部を有する。収束レンズ21cの焦点距離は、共振空洞20内への注入時にポンプ放射の発散を減少させるように、適合片21dのポートの寸法に優先的に依存する。あるいは、ポンプ赤外線ビームを片21dの最小直径内に集中させるために、ファイバ31と片21dの間に1つ以上の収束レンズを配置することもできる。
【0107】
図8は、赤外線レーザー源10の出口が、第1ミラー21の開口部、すなわち共振空洞20の入口に直接配置されている、本発明の第4実施形態を示す。この第4実施形態によるテラヘルツレーザー1は、それが、赤外線レーザー源10と共振空洞20との間にミラー30又は赤外線光ファイバ31などの光結合デバイスを必要とせず、共振空洞20に関して赤外線レーザー源10を配置することによって光結合が直接提供されている点で、第2実施形態によるテラヘルツレーザー1とは異なる。
【0108】
このような実施形態は、このように特定の発散光出口を有する外側共振空洞を含まない半導体赤外線レーザー源に特に適合する。共振空洞20の入口、すなわち図8では第1ミラー21の開口部21aに関する赤外線レーザー源10の出口のこのような配置により、赤外線レーザー源の全放射円錐は、共振空洞20内に注入される。
【0109】
図8に示されているように、空洞及び第1ミラーの延長部における密閉を保証するために、赤外線レーザー源10を受け入れるように適合された密封ハウジングが設けられる。あるいは、第2実施形態と同じように、赤外線透過窓を有する第1ミラー21の開口部21aを設けること、又は赤外線放射を開口部21a内に集中させるレンズの組み合わせを使用することも、もちろん可能である。
【0110】
図9は、テラヘルツ範囲内で放射するように適合されたテラヘルツ源100のブロック図であり、前記テラヘルツ源100は、
-例えば第1から第5実施形態のうちの1つなどの、本発明によるテラヘルツレーザー1と、
-1GHzと200GHzの間、優先的には1と50GHzの間の電磁放射を放出することができる超高周波源50と、
-テラヘルツレーザーのテラヘルツ放射と超高周波放射とを混ぜ合わせて、その放射周波数がテラヘルツ放射の放射周波数に対応する第2テラヘルツ放射であって、超高周波源50によって放出された電磁放射の周波数がそれに加えられるか又はそこから減じられる、第2テラヘルツ放射を提供するように配置された、ショットキーダイオードなどの非線形媒体又はデバイス60と、
を含む。
【0111】
そのようなテラヘルツ源100は、その放射周波数がアンモニアの純粋な反転遷移によって利用可能な発光線の外側にあるテラヘルツ範囲内に電磁放射源を設けることを可能にする。本発明によるテラヘルツレーザー源と周波数が同調可能な超高周波源とを組み合わせることにより、テラヘルツ範囲全体を結果としてカバーすることができる。このようなテラヘルツ源100は、特に出力の点で適合されたテラヘルツ源がないために今まで開発できなかったテラヘルツ分光計などの新しい測定システムの開発を可能にすることができる。
【0112】
図示されていない本発明の可能性によると、増幅媒体の分子の適切な反転分布を保証し、かつ、反転遷移による脱励起後のエネルギー準位における分子の蓄積リスクを制限するために、第2レーザー源を設けることができる。この第2レーザー源は、その波長が赤外線レーザー源によって放出される放射線とテラヘルツレーザーによって放出される放射線との間のエネルギー差に実質的に対応する放射線を放出する少なくとも1つの構成を有する。このようにして、この第2レーザー源は、反転遷移による脱励起後のエネルギー準位から初期準位に、増幅媒体の分子の遷移を刺激することができる。このような可能性により、反転遷移による脱励起後のエネルギー準位における分子の平均寿命を制限することができ、ポンピングにより第1励起準位に配置されやすい分子数を、赤外線レーザー源を用いて増加させることができる。
【0113】
上述の実施形態では、ポンプ放射の注入は、光空洞の長手方向に沿った共振空洞の一端で行われる。しかしながら、本発明の範囲から逸脱することなく、ポンプ放射の注入が異なる幾何学的形状に従って行われることも考えられる。実際に、この注入はまた、長手方向軸に対して傾斜した方向に沿って行うこともできる。これにより側壁に設けられた側面開口部を介して行うことができるこのような構成は、幾つかの赤外線レーザー源によるポンピングを可能にするという利点を有する。
【0114】
従って、同じように、上述の実施形態において単一の赤外線レーザー源が光空洞の光ポンピングのために実装される場合、本発明の範囲から逸脱することなく、テラヘルツレーザーが光空洞をポンピングする2つ以上の赤外線レーザー源を含むことも考えられる。もちろん、これらは、先行技術の幾つかのテラヘルツレーザーの場合のように2つの波長を有するポンピングではなく、共振空洞のより効率的なポンピングを達成するために、同じ波長で放射する幾つかの赤外線レーザー源である。
【0115】
一方、上述の実施形態では、光ポンピングでテラヘルツレーザー放射を変更することができる。
【0116】
本発明によるテラヘルツレーザーが主に連続放射を提供するために専ら使用される場合、そのようなレーザーは、音響光学的、電気光学的又は弾性光学的な変調器などのシャッターを使用し、赤外線レーザー源によって提供されるポンプ放射又はレーザー自身によって放出されるテラヘルツ放射の何れかを均一にシャッターする(shuttering)ことによって、パルス放射を提供するように適合することができる。もちろん、保持される溶液にかかわらず、本発明によるレーザーの赤外線レーザー源は、半導体連続赤外線レーザー源のままである。
【0117】
本発明によるテラヘルツレーザー1は特に、テラヘルツ範囲内でのイメージング、分光学、データ伝送、及び障害物検出であるテラヘルツ光学用途専用である。
【符号の説明】
【0118】
1 テラヘルツレーザー
10 赤外線レーザー源
20 共振空洞
21 第1ミラー
21a 開口部
21b 赤外線透過窓
22 第2ミラー
22a 開口部
23 管状側壁
24 密閉チャンバ
24a 隔壁
24b ガス入口
24c ポンピング出口
25 窓
30 ミラー
40 試料
50 THz検出器
60 非線形媒体又はデバイス
100 テラヘルツ源
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9