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特許7009371バイオポリマーを脱アセチル化するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】バイオポリマーを脱アセチル化するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/08 20060101AFI20220118BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20220118BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61L27/20
A61L27/52
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018534174
(86)(22)【出願日】2016-12-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2016082774
(87)【国際公開番号】W WO2017114861
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-11-08
(31)【優先権主張番号】15202944.3
(32)【優先日】2015-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16172254.1
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16172225.1
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16172241.8
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505143927
【氏名又は名称】ガルデルマ エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨーアン・オルソン
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ・スティーヴン・ハリス
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-507588(JP,A)
【文献】特表2002-519481(JP,A)
【文献】特表2004-511588(JP,A)
【文献】国際公開第02/081739(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/021092(WO,A1)
【文献】国際公開第02/082078(WO,A2)
【文献】特開昭62-265998(JP,A)
【文献】特開平11-152234(JP,A)
【文献】特表2009-507103(JP,A)
【文献】国際公開第2014/072330(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル基を含むグリコサミノグリカンを少なくとも部分的に脱アセチル化するための方法であって、
a1)アセチル基を含むグリコサミノグリカンを用意する工程、
a2)前記アセチル基を含むグリコサミノグリカンを、ヒドロキシルアミン(NH2OH)又はその塩と、100℃以下の温度で2~200時間にわたって反応させて、少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンを形成する工程、及び
a3)前記少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンを回収する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンの重量平均分子量が、a1)の前記アセチル基を含むグリコサミノグリカンの重量平均分子量の少なくとも10%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
a1)の前記アセチル基を含むグリコサミノグリカンが、98~100%の範囲のアセチル化度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンが、a1)の前記アセチル基を含むグリコサミノグリカンのアセチル化度よりも、少なくとも1%小さいアセチル化度を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
a2)が、前記アセチル基を含むグリコサミノグリカンを、前記ヒドロキシルアミン又はその塩と、100℃以下の温度で反応させる工程を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a2)が、前記アセチル基を含むグリコサミノグリカンを、前記ヒドロキシルアミン又はその塩と、2~200時間にわたって反応させる工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
a2)が、前記アセチル基を含むグリコサミノグリカンを、ヒドロキシルアミンと、水中で反応させる工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a2)のヒドロキシルアミンのモル濃度が、5~20Mの範囲である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
a2)が、前記アセチル基を含むグリコサミノグリカンを、ヒドロキシルアミン塩と、反応させる工程を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
a2)のヒドロキシルアミン塩の濃度が、0.1~5Mの範囲である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
a2)の反応を、4~12の範囲のpH値で実施する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋した多糖を含有するハイドロゲル及びそのようなハイドロゲルの医学的及び/又は美容的用途における使用の分野に関する。より詳細には、本発明は、架橋したグリコサミノグリカン、特に、架橋したヒアルロン酸、コンドロイチン又はコンドロイチン硫酸からできているハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
吸水ゲル又はハイドロゲルは、生物医学的分野において広く使用されている。これらは、一般に、ポリマーを化学的に架橋させて無限の網目構造にすることによって調製される。多くの多糖は、それらが完全に溶解するまで水を吸収するが、同じ多糖の架橋したゲルは、一般には、それらが飽和するまで、ある特定の量の水を吸収することが可能である、すなわち有限の液体収容能力又は膨潤度を有する。
【0003】
ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸は、周知の生体適合性ポリマーである。これらは、グリコサミノグリカン(GAG)のグループに属する、天然に存在する多糖である。GAGは全て、大量の水を吸収する能力を有する、負に荷電した複合多糖鎖である。
【0004】
ヒアルロン酸(HA)は、医学的使用及び美容的使用のために最も広く使用されている生体適合性ポリマーの1つである。HAは、グリコサミノグリカン(GAG)のグループに属する、天然に存在する多糖である。ヒアルロン酸及びヒアルロン酸に由来する生成物は、生物医学分野及び美容分野において、例えば、粘弾性手術(viscosurgery)中に、及び皮膚充填剤として広く使用されている。
【0005】
コンドロイチン硫酸(CS)は、哺乳動物の結合組織において見いだされる極めて豊富なGAGであり、結合組織において、他の硫酸化GAGと共に、プロテオグリカンの一部としてタンパク質と結合している。CSを含有するハイドロゲルは、天然の細胞外マトリックスとの類似点に起因して、生物医学的用途に首尾よく使用することができることが以前に示されている(Lauder、R.M.、Complement Ther Med 17: 56-62、2009)。コンドロイチン硫酸は、変形性関節症の治療においても、例えば、栄養補助食品として使用される。
【0006】
グリコサミノグリカンの架橋により、網目構造を構成する分解性ポリマーの持続時間が延長され、これは、多くの用途において有用である。しかし、架橋により、グリコサミノグリカンの天然の特性も低減し得る。したがって、一般には、天然の特性及びグリコサミノグリカン自体の効果を保持するために、効率的な架橋によって低い程度の修飾を維持することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Lauder、R.M.、Complement Ther Med 17: 56-62、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、グリコサミノグリカン(GAG)を有するハイドロゲルを膨潤性ポリマーとして提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、GAG分子を架橋させ、その結果、完全に炭水化物型構造ベースのハイドロゲル生成物を生じさせるための方法を提供することである。
【0010】
GAG分子のハイドロゲルを温和で効率的な経路によって調製するための方法を提供することも本発明の目的である。
【0011】
N-アセチル基を含むバイオポリマーを温和で効率的な経路によって少なくとも部分的に脱アセチル化する方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書に例示されている態様によると、アセチル基を含むバイオポリマーを少なくとも部分的に脱アセチル化するための方法であって、
a1)アセチル基を含むバイオポリマーを用意する工程、
a2)アセチル基を含むバイオポリマーを、ヒドロキシルアミン(NH2OH)又はその塩と、100℃以下の温度で2~200時間にわたって反応させて、少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーを形成する工程、及び
a3)少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーを回収する工程
を含む方法が提供される。
【0013】
「バイオポリマー」という用語は、本明細書で使用される場合、生きている生物体によって産生されるポリマーを指す。バイオポリマーは、ポリヌクレオチド、ポリペプチド及び多糖の3つの主要なクラスに分類される。
【0014】
本発明は、ヒドロキシルアミン(NH2OH)及びその塩を、N-アセチル基を含むバイオポリマーを温和な反応条件下で脱アセチル化するために有利に使用することができるという本発明の理解に基づく。したがって、複数の実施形態によると、バイオポリマーはN-アセチル基を含み、工程a2)において形成される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、少なくとも部分的にN-脱アセチル化されたバイオポリマーである。
【0015】
「少なくとも部分的な脱アセチル化」という用語は、本明細書でバイオポリマーを参照して使用される場合、N-アセチル基を含むバイオポリマーのN-アセチル基の少なくとも一部が切断され、その結果、バイオポリマー内に遊離のアミン基が形成されることを意味する。「少なくとも部分的な脱アセチル化」という用語は、本明細書で使用される場合、バイオポリマーのN-アセチル基のかなりの部分、具体的には、バイオポリマーのN-アセチル基の少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%が遊離のアミン基に変換されることを意味する。
【0016】
「少なくとも部分的に脱アセチル化された」という用語は、本明細書でバイオポリマーを参照して使用される場合、N-アセチル基の少なくとも一部が切断され、その結果、バイオポリマー内に遊離のアミン基が形成されたN-アセチル基を含むバイオポリマーを意味する。「少なくとも部分的に脱アセチル化された」とは、本明細書で使用される場合、バイオポリマーのN-アセチル基のかなりの部分、具体的には、バイオポリマーのN-アセチル基の少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%が遊離のアミン基に変換されていることを意味する。
【0017】
脱アセチル化されたバイオポリマーは、遊離のアミン基を含み、種々の用途、例えば、遊離のアミン基の存在が必要とされる架橋、コンジュゲーション又は移植反応に有用であり得る。特に、脱アセチル化されたバイオポリマー、例えば、脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、架橋したグリコサミノグリカン等の架橋したバイオポリマーを、グリコサミノグリカンの天然の特性を低減させる可能性がある追加的な架橋剤を使用せずに調製するために有用であり得る。言い換えれば、脱アセチル化されたバイオポリマーは、追加的な非バイオポリマー架橋剤を用いずに完全にバイオポリマー構造ベースの架橋したバイオポリマーを調製するために使用することができる。
【0018】
本発明の脱アセチル化方法は、ヒドロキシルアミノリシス反応を伴う。脱アセチル化のためにヒドロキシルアミン又はその塩を使用することにより、温和な条件下でのN-脱アセチル化が可能になり、その結果、HA等の影響を受けやすい多糖のポリマー骨格の分解はほんの軽微なものになることが見いだされている。したがって、脱アセチル化のためにヒドロキシルアミン又はその塩を使用することにより、高分子量が保持された脱アセチル化HAを作製することが可能になる。これは、程度の高い脱アセチル化にポリマー骨格の重度の分解が必然的に伴う、脱アセチル化剤としてヒドラジン又はNaOHを使用する脱アセチル化等の以前より公知の方法とは対照的である。
【0019】
少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーを回収する工程は、脱アセチル化されたバイオポリマーが得られたらそれを単に維持又は使用することを伴ってよい。少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーを回収する工程は、これだけに限定されないが、洗浄及び精製を含めた、脱アセチル化されたバイオポリマーに対する任意のさらなる処理を伴ってもよい。
【0020】
バイオポリマーは、修飾された、例えば、分枝又は架橋したバイオポリマーであってよい。ある特定の実施形態によると、バイオポリマーは、架橋したバイオポリマーである。特定の実施形態によると、バイオポリマーは、バイオポリマーゲルである。バイオポリマーは、例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)によって架橋したヒアルロン酸ゲルであってよい。
【0021】
一部の実施形態によると、脱アセチル化方法における出発材料として使用される、アセチル基を含むバイオポリマーは、多糖である。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、グリコサミノグリカンである。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、ヒアルロナン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸(chondroitin sulphate)、ヘパラン硫酸、ヘパロサン、ヘパリン、デルマタン硫酸及びケラタン硫酸、好ましくはヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸等の硫酸化又は非硫酸化グリコサミノグリカン、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、ヒアルロン酸である。
【0022】
ヒアルロン酸は、医学的使用に関して最も広く使用されている生体適合性ポリマーの1つである。ヒアルロン酸及び他のGAGは、大量の水を吸収する能力を有する、負に荷電した複合多糖鎖である。ヒアルロン酸及びヒアルロン酸に由来する生成物は、生物医学分野及び美容分野において、例えば、粘弾性手術中に、及び皮膚充填剤として広く使用されている。
【0023】
吸水ゲル、又はハイドロゲルは、生物医学的分野において広く使用されている。これらは、一般に、ポリマーを化学的に架橋させて無限の網目構造にすることによって調製される。天然のヒアルロン酸及びある特定の架橋したヒアルロン酸生成物は、それらが完全に溶解するまで水を吸収するが、架橋したヒアルロン酸ゲルは、一般には、それらが飽和するまである特定の量の水を吸収する、すなわち、有限の液体収容能力又は膨潤度を有する。
【0024】
ヒアルロン酸は、大多数の生きている生物体において、その分子量以外は同一の化学構造で存在するので、それにより生じる異物反応は最小限のものであり、進歩した医学的使用が可能になる。ヒアルロン酸分子の架橋及び/又は他の修飾は、一般には、そのin vivoにおける持続時間を改善するために必要である。さらに、そのような修飾は、ヒアルロン酸分子の液体収容能力に影響を及ぼす。その結果として、ヒアルロン酸は、多くの修飾の試みの対象となっている。
【0025】
好ましい実施形態では、グリコサミノグリカンは、天然のグリコサミノグリカンである。本発明に関連して使用されるグリコサミノグリカンは、天然に存在するグリコサミノグリカンであることが好ましい。グリコサミノグリカンは、その天然の状態で使用されることが好ましい。すなわち、グリコサミノグリカンの化学構造は、官能基等を付加することによって変更又は修飾されていないことが好ましい。グリコサミノグリカンをその天然の状態で使用することは、それにより、天然の特性及びグリコサミノグリカン自体の効果が保存された、天然の分子とより酷似した架橋構造がもたらされ、架橋したグリコサミノグリカンが体内に導入された際の免疫応答が最小限になり得るので、好ましい。
【0026】
多糖、特に、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸等のグリコサミノグリカンは、多くの場合、厳しい反応条件(例えば、非常に高い又は低pH、又は高温)の下では骨格の分解を起こしやすい。したがって、本発明の方法は、そのような多糖の脱アセチル化に特に有用である。
【0027】
本発明の脱アセチル化方法は、出発材料の分子量のかなりの部分が保持されている少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーを得るために有用である。
【0028】
一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーの重量平均分子量は、工程a1)のアセチル基を含むバイオポリマーの重量平均分子量の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも25%である。回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーの重量平均分子量は、より大きくてよく、例えば、工程a1)のアセチル基を含むバイオポリマーの重量平均分子量の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%等であってよい。
【0029】
一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、少なくとも10kDaの重量平均分子量を有する。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、少なくとも100kDa、少なくとも500kDa、少なくとも750kDa、又は少なくとも1MDaの重量平均分子量を有する。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、1~5MDaの範囲、好ましくは2~4MDaの範囲の重量平均分子量を有する。
【0030】
一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、少なくとも10kDaの重量平均分子量を有する。一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、少なくとも100kDa、少なくとも500kDa、少なくとも750kDa、又は少なくとも1MDaの重量平均分子量を有する。一部の実施形態によると、アセチル基を含む回収されるバイオポリマーは、0.1~5MDaの範囲、好ましくは0.5~5MDa又は0.5~3MDaの範囲の重量平均分子量を有する。
【0031】
本開示の脱アセチル化方法は、より短いバイオポリマー、又はバイオオリゴマー(biooligomer)、例えば、二量体、三量体、四量体等にも適用可能である。
【0032】
一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、0.3~10kDaの範囲の重量平均分子量を有するオリゴバイオポリマー(oligobiopolymer)である。
【0033】
一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたオリゴバイオポリマーは、0.3~10kDaの範囲の重量平均分子量を有する。
【0034】
脱アセチル化方法における出発材料として使用される、アセチル基を含むバイオポリマーは、一般には、完全に又はほぼ完全にアセチル化されたものである。「完全にアセチル化された」という用語は、本明細書でバイオポリマーを参照して使用される場合、遊離のアミン基の全て又は実質的に全てがN-アセチル基に変換されているバイオポリマーを意味する。言い換えれば、「完全にアセチル化された」バイオポリマーは、遊離のアミン基を含まない又は実質的に含まない。一部の実施形態によると、工程a1)における出発材料として使用されるアセチル基を含むバイオポリマーは、98~100%の範囲のアセチル化度(degree of acetylation)を有する。
【0035】
一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、工程a1)のアセチル基を含むバイオポリマーのアセチル化度よりも、少なくとも1%小さい、好ましくは少なくとも2%小さい、好ましくは少なくとも3%小さい、好ましくは少なくとも4%小さい、好ましくは少なくとも5%小さいアセチル化度を有する。言い換えれば、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、99%未満、好ましくは98%未満、97%未満、97%未満、96%未満、95%未満、94%未満又は93%未満のアセチル化度を有し得る。回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーはまた、工程a1)のアセチル基を含むバイオポリマーのアセチル化度よりも、少なくとも10%小さい、少なくとも15%小さい、少なくとも20%小さい、少なくとも30%小さい、少なくとも40%小さい、又は少なくとも50%小さいアセチル化度を有し得る。好ましい実施形態では、少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、97%未満のアセチル化程度を有する。
【0036】
脱アセチル化は、ヒドロキシルアミン又はその塩を使用して実現することができる。ヒドロキシルアミン塩は、ヒドロキシルアミンと酸とによって形成される塩を指す。ヒドロキシルアミン塩は、例えば、ヒドロキシルアミンと、鉱酸及び有機酸又はそれらの混合物からなる群から選択される酸とによって形成される塩であってよい。
【0037】
複数の実施形態によると、ヒドロキシルアミン塩は、ヒドロキシルアミンと鉱酸とによって形成される塩である。複数の実施形態によると、酸は、硫酸、塩酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸及びリン酸、及びこれらの組合せからなる群から選択される。好ましい鉱酸としては、塩酸、ヨウ化水素酸及び臭化水素酸が挙げられる。特に好ましい鉱酸は、ヨウ化水素酸である。
【0038】
複数の実施形態によると、ヒドロキシルアミン塩は、ヒドロキシルアミンと有機酸とによって形成される塩である。複数の実施形態によると、酸は、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸、安息香酸、及びトリフルオロ酢酸(TFA)及びトリクロロ酢酸等のハロゲン化カルボン酸、並びにこれらの組合せからなる群から選択される。
【0039】
複数の実施形態によると、酸は、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、及びハロゲン化カルボン酸、好ましくはトリフルオロ酢酸、及びこれらの組合せからなる群から選択される。複数の実施形態によると、酸は、ハロゲン化カルボン酸、好ましくはトリフルオロ酢酸である。
【0040】
複数の実施形態によると、ヒドロキシルアミン塩は、ヒドロキシルアミンと、塩酸、ヨウ化水素酸及び臭化水素酸、プロピオン酸、ピバル酸及びトリフルオロ酢酸、好ましくはヨウ化水素酸又はトリフルオロ酢酸からなる群から選択される酸とによって形成される塩である。
【0041】
工程a2における反応は、アセチル基を含むバイオポリマーとヒドロキシルアミン又はその塩の両方を少なくとも部分的に溶解させることが可能な溶媒中で実施することが好ましい。溶媒は、例えば、水又は有機溶媒又はこれらの混合物であってよい。好ましい溶媒の非限定的な例としては、水又は水とエタノール等の低級アルコールの混合物が挙げられる。しかし、切断されるアミド基を含む特定の分子及びヒドロキシルアミン又はその塩の選択に応じて、多くの他の溶媒が有用であると思われる。有用な有機溶媒の1つの例は、テトラヒドロフラン(THF)である。
【0042】
複数の実施形態によると、工程a2)の反応は、アミド基を含む分子とヒドロキシルアミンを水中で反応させることを含む。
【0043】
脱アセチル化方法は、任意選択でエタノール等の別の溶媒をさらに含む水又は水溶液中で実施することが好ましい場合がある。したがって、一部の実施形態によると、工程a1)は、アセチル基を含むバイオポリマーとヒドロキシルアミンを水中で接触させ、その結果、バイオポリマーとヒドロキシルアミンの水性混合物又は溶液を形成することを含む。一部の実施形態では、ヒドロキシルアミンの濃度は、水性混合物又は溶液の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%である。ヒドロキシルアミンの濃度が高いほど反応速度が増大し得る。
【0044】
ヒドロキシルアミンは、多くの場合、水溶液の形態で、一般には、50重量%の濃度で用意される。一部の実施形態では、バイオポリマーをヒドロキシルアミン又はその塩の水溶液中に直接混合し、溶解させ、任意選択で希釈することができる。あるいは、ヒドロキシルアミンの固体塩、例えば、塩酸ヒドロキシルアミン又は硫酸ヒドロキシルアミンをバイオポリマーの水溶液中に溶解させることができる。ヒドロキシルアミンの塩の添加、及び塩のヒドロキシルアミンへの変換は、アセチル基を含むバイオポリマーをヒドロキシルアミンの水溶液中に溶解させることの代替として又は補足として行うことができる。
【0045】
反応混合物中のヒドロキシルアミンのモル濃度は、5~20Mの範囲であることが好ましい。例えば、ヒドロキシルアミンの濃度50重量%は、大まかにモル濃度16Mに対応する。
【0046】
本発明者らは、驚いたことに、ヒドロキシルアミン塩をヒドロキシルアミン自体の代わりに使用した場合、顕著に低いモル濃度で同じ反応速度を実現することができることを見いだした。したがって、反応混合物中のヒドロキシルアミンのモル濃度塩は、0.01~10Mの範囲、好ましくは0.1~5Mの範囲であることが好ましい。
【0047】
一部の実施形態によると、工程a1)において、アセチル基を含むバイオポリマーをヒドロキシルアミン又はその塩の水溶液中に溶解させる。一部の実施形態によると、工程a1)において、ヒドロキシルアミンの塩を、アセチル基を含むバイオポリマーの水溶液中に溶解させる。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーをヒドロキシルアミンの水溶液中に溶解させ、ヒドロキシルアミンの塩を、アセチル基を含むバイオポリマーのヒドロキシルアミン中水溶液中に溶解させる。
【0048】
複数の実施形態によると、工程a2)の反応温度は、100℃以下である。工程a2)の反応温度は、バイオポリマーの過剰な分解が引き起こされないように選択することが好ましい。一部の実施形態によると、工程a2)の温度は、10~90℃、好ましくは20~80℃、好ましくは30~70℃、好ましくは30~50℃の範囲である。複数の実施形態によると、工程a2)の反応は、アミド基を含む分子とヒドロキシルアミン又はその塩を10~100℃、好ましくは20~90℃、好ましくは30~70℃、好ましくは30~50℃の範囲の温度で反応させることを含む。温度は、例えば、70~90℃の範囲、例えば約80℃等、又は30~50℃の範囲、例えば約40℃等であってよい。
【0049】
工程a2)の反応時間は、所望の脱アセチル化度(degree of deacetylation)に依存する。反応時間は、バイオポリマーの過剰な分解が引き起こされないように選択することが好ましく、温度及びpHにも左右される。反応時間は、一般に、5分から200時間以上までの任意の時間であってよい。一部の実施形態によると、工程a2)の反応は、アミド基を含む分子とヒドロキシルアミン又はその塩を2~200時間にわたって反応させることを含む。一部の実施形態によると、工程a2)の反応は、アミド基を含む分子とヒドロキシルアミン又はその塩を2~150時間、好ましくは5~150時間、好ましくは5~100時間にわたって反応させることを含む。他の実施形態では、例えば、より高い温度又はpHを使用する場合、反応時間は、例えば5分~2時間の範囲、30分~2時間の範囲、又は1~2時間の範囲等、はるかに短くてよい。
【0050】
工程a2)のpHは、バイオポリマーの過剰な分解が引き起こされないように選択することが好ましい。一部の実施形態によると、工程a2)の反応を4~12の範囲のpH値で実施する。一部の実施形態によると、工程a2)の反応を9~11の範囲のpH値で実施する。一部の実施形態によると、工程a2)の反応を4~9の範囲、好ましくは6~9の範囲、好ましくは6~8又は7~8の範囲のpH値で実施する。一般には、バイオポリマーの分解を回避するために、より低いpHが好ましい。
【0051】
本発明者らは、広範囲にわたる実験を通じて、特に、ヒドロキシルアミンを使用した場合に、pH低下剤を添加することにより工程a2)の反応の反応速度を顕著に増大させることができることを見いだした。この効果は、驚くべきものであると共に非常に有益なものである。ヒドラジン脱アセチル化反応への対応するpH低下剤の添加では反応速度のいかなる増大ももたらされなかったことが留意される。バイオポリマーの過剰な分解を回避するために、反応中のpH値はより低いことも好ましい。したがって、一部の実施形態によると、pH低下剤を添加することによって反応のpHを4~9の範囲、好ましくは6~9の範囲、好ましくは6~8又は7~8の範囲の値まで低下させる。pH低下剤は、例えば、鉱酸、有機酸及びpH降下塩(pH reducing salt)、及びこれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、pH低下剤は、塩酸ヒドロキシルアミン又は硫酸ヒドロキシルアミン、好ましくは塩酸ヒドロキシルアミンを含む。
【0052】
一部の実施形態によると、工程a2)の反応を不活性雰囲気及び/又は暗所の下で実施する。
【0053】
上記の脱アセチル化方法によって得られる生成物は、他の公知の脱アセチル化方法によって得られる対応する生成物とは顕著に異なる性質を有し得る。本明細書に例示されている他の態様によると、上記の方法によって得られる少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンが提供される。上記の方法によって得られる部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、アセチル化度の低下と高い重量平均分子量の保持の組合せを有する。顕著な脱アセチル化度と高い重量平均分子量の保持の組合せは、化学的脱アセチル化のための先行技術による方法によっては得ることができない。
【0054】
本明細書に例示されている他の態様によると、アセチル化度が99%以下、好ましくは98%以下、好ましくは97%以下、好ましくは96%以下であり、重量平均分子量が0.1MDa以上、好ましくは0.3MDa以上、好ましくは0.5MDa以上である、脱アセチル化されたグリコサミノグリカンが提供される。
【0055】
本発明は、ヒドロキシルアミン(NH2OH)又はその塩を、N-アセチル基を含むバイオポリマーを温和な反応条件下で脱アセチル化するために有利に使用することができるという本発明の理解に基づく。したがって、本明細書に例示されている他の態様によると、アセチル基を含むバイオポリマーを少なくとも部分的に脱アセチル化するための、ヒドロキシルアミン又はその塩の使用が提供される。当該使用は、脱アセチル化方法を参照して上記の通りさらに特徴付けることができる。
【0056】
本明細書に例示されている他の態様によると、架橋したグリコサミノグリカン分子を含むハイドロゲル生成物を調製する方法であって、
a)少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカン及び任意選択で第2のグリコサミノグリカンを含む溶液を用意する工程、
b)少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカン及び/又は任意選択の第2のグリコサミノグリカン上のカルボキシル基を、カップリング剤を用いて活性化して、活性化されたグリコサミノグリカンを形成する工程、
c)活性化されたグリコサミノグリカンを、それらの活性化されたカルボキシル基を介して、少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンのアミノ基を使用して架橋させて、アミド結合によって架橋したグリコサミノグリカンを用意する工程
を含む方法が提供される。
【0057】
一部の実施形態によると、ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、アセチル化度が99%以下、好ましくは98%以下、好ましくは97%以下、好ましくは96%以下であり、重量平均分子量が0.1MDa以上、好ましくは0.3MDa以上、好ましくは0.5MDa以上である、脱アセチル化されたグリコサミノグリカンである。一部の実施形態によると、ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、上記の脱アセチル化方法によって得られる。
【0058】
一部の実施形態によると、ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、脱アセチル化されたヒアルロン酸、脱アセチル化されたコンドロイチン及び脱アセチル化されたコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される脱アセチル化されたグリコサミノグリカンである。ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、脱アセチル化されたヒアルロン酸であることが好ましい。
【0059】
一部の実施形態によると、ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される任意選択の第2のグリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択されるグリコサミノグリカンである。ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される任意選択の第2のグリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸であることが好ましい。
【0060】
ハイドロゲル生成物を調製する方法は、グリコサミノグリカン分子を、一般には、グリコサミノグリカン分子骨格上のカルボキシル基及び少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンのアミノ基に対する活性化剤を使用して、共有結合、好ましくはアミド結合によって架橋させることを伴う。本発明の方法に従った架橋は、温和で効率的な経路によって実現することができ、その結果、グリコサミノグリカン分子の分解は最小限で高収率がもたらされる。
【0061】
グリコサミノグリカン上に存在するアミノ基とカルボキシル基の間のアミド結合の形成を介してグリコサミノグリカンを直接架橋させることにより、完全に炭水化物型構造ベースのハイドロゲル生成物がもたらされる。これにより、架橋によるグリコサミノグリカンの天然の特性に対する妨害が最小限になる。
【0062】
一部の実施形態では、活性化工程b)及び架橋工程c)を同時に行う。他の実施形態では、活性化工程b)は架橋工程c)の前に、別々に行う。
【0063】
好ましい実施形態では、方法は、平均サイズが0.01~5mm、好ましくは0.1~0.8mmの範囲である、架橋したグリコサミノグリカンの粒子を用意する工程をさらに含む。
【0064】
好ましい一実施形態では、工程b)のカップリング剤は、ペプチドカップリング試薬である。ペプチドカップリング試薬は、トリアジンベースのカップリング試薬、カルボジイミドカップリング試薬、イミダゾリウム由来カップリング試薬、Oxyma及びCOMUからなる群から選択することができる。好ましいペプチドカップリング試薬は、4-(4,6-ジメトキシ-1.3.5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)及び2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)からなる群を含めた、トリアジンベースのカップリング試薬、好ましくはDMTMMである。別の好ましいペプチドカップリング試薬は、カルボジイミドカップリング試薬、好ましくはN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の組合せである。別の好ましいペプチドカップリング試薬は、2-クロロ-1-メチルピリジニウムヨージド(CMPI)である。
【0065】
本明細書に例示されている他の態様によると、本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物が提供される。
【0066】
関連する態様によると、本開示は、ハイドロゲル生成物の、軟部組織障害の治療において等、医薬としての使用も提供する。軟部組織障害に罹患している患者を、患者にハイドロゲル生成物を治療有効量で投与することによって治療する方法が提供される。患者にハイドロゲル生成物を治療有効量で投与することによって患者に矯正治療又は美的治療(aesthetic treatment)を提供する方法も提供される。
【0067】
本明細書に例示されている他の態様によると、医薬として使用するための、本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物が提供される。
【0068】
本明細書に例示されている他の態様によると、軟部組織障害の治療において使用するための、本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物が提供される。
【0069】
本明細書に例示されている他の態様によると、軟部組織障害を治療するための医薬の製造のための、本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物の使用が提供される。
【0070】
本明細書に例示されている他の態様によると、軟部組織障害に罹患している患者を、患者に、本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物を治療有効量で投与することによって治療する方法が提供される。
【0071】
本明細書に例示されている他の態様によると、患者に、本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物を治療有効量で投与することによって、患者に矯正治療又は美的治療を提供する方法が提供される。
【0072】
本明細書に例示されている他の態様によると、皮膚を美容的に治療する方法であって、皮膚に、本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物を投与する工程を含む方法が提供される。
【0073】
本発明の他の態様及び好ましい実施形態は、以下の本発明の詳細な開示及び添付の特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】1)ヒアルロン酸を脱アセチル化して部分的に脱アセチル化されたヒアルロン酸を形成する工程、2)部分的に脱アセチル化されたヒアルロン酸をアミド形成によって架橋させる工程、3)遊離のアミン基を再アセチル化し、架橋及び再アセチル化の間に形成されたエステル結合をアルカリ加水分解する工程を含む、架橋したヒアルロン酸の形成を例示する反応スキームである。
図2】1)ヒアルロン酸を脱アセチル化して部分的に脱アセチル化されたヒアルロン酸を形成する工程、2)部分的に脱アセチル化されたヒアルロン酸と脱アセチル化していないヒアルロン酸をアミド形成によって架橋させる工程、3)遊離のアミン基を再アセチル化し、架橋及び再アセチル化の間に形成されたエステル結合をアルカリ加水分解する工程を含む、架橋したヒアルロン酸の形成を例示する反応スキームである。
【発明を実施するための形態】
【0075】
本開示は、架橋したグリコサミノグリカン(GAG)分子からできている ハイドロゲルを調製するための有利な方法、得られるハイドロゲル生成物及びその使用を提供する。GAGは、大量の水を吸収する能力を有する、負に荷電した複合多糖鎖である。本開示によるハイドロゲル生成物では、架橋したGAG分子は、ゲルの性質をもたらす膨潤性ポリマーである。本明細書に記載の調製方法は、GAG分子に対しては温和であるが、効率的な架橋をもたらすものである。
【0076】
本発明の架橋したグリコサミノグリカン分子を含むハイドロゲル生成物を調製する方法は、
a)少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカン及び任意選択で第2のグリコサミノグリカンを含む溶液を用意する工程、
b)少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカン及び/若しくは任意選択の第2のグリコサミノグリカン上のカルボキシル基を、カップリング剤を用いて活性化して、活性化されたグリコサミノグリカンを形成する工程、
c)活性化されたグリコサミノグリカンを、それらの活性化されたカルボキシル基を介して、少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンのアミノ基を使用して架橋させて、アミド結合によって架橋したグリコサミノグリカンを用意する工程、
任意選択で、
d)工程c)において用意された架橋したグリコサミノグリカンの残留するアミン基をアシル化して、アシル化された架橋したグリコサミノグリカンを形成する工程、
並びに/又は
e)工程c)又はd)において用意された架橋したグリコサミノグリカンをアルカリ処理に供して、工程c)におけるアミド架橋の間に副生成物として形成されたエステル架橋を加水分解する工程
を含む。
【0077】
本明細書で考察されているハイドロゲル生成物は、グリコサミノグリカン分子のアミドカップリングによって得られる。二アミン又は多アミン官能性架橋剤をカップリング剤と共に使用するアミドカップリングは、ハイドロゲル生成物に有用な架橋したグリコサミノグリカン分子を調製するための魅力的な経路である。架橋は、非炭水化物ベースの二求核架橋剤又は多求核架橋剤、例えば、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、又は炭水化物ベースの二求核架橋剤又は多求核架橋剤、例えば、ジアミノトレハロース(DATH)をグリコサミノグリカンと共に使用して実現することができる。架橋は、少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンを、単独で使用して、又は、第2のグリコサミノグリカンと組み合わせて使用し、それにより、脱アセチル化されたグリコサミノグリカン自体を二求核架橋剤又は多求核架橋剤として作用させて実現することもできる。
【0078】
したがって、本開示は、水性媒体中、カップリング剤の使用を伴う反応によってGAG分子のカルボン酸基と直接、共有結合を形成することが可能な少なくとも2つの求核官能基、例えばアミン基を含む架橋剤を使用して架橋させることにより、GAG分子ハイドロゲルを提供する。
【0079】
少なくとも2つの求核官能基を含む架橋剤は、例えば、非炭水化物ベースの二求核架橋剤若しくは多求核架橋剤又は炭水化物ベースの二求核架橋剤若しくは多求核架橋剤であってよい。
【0080】
炭水化物ベースの二求核架橋剤又は多求核架橋剤では、架橋によるグリコサミノグリカンの天然の特性に対する妨害を最小限にする完全に炭水化物型構造ベースのハイドロゲル生成物又はその誘導体がもたらされるので、好ましい。架橋剤自体も、例えば、ヒアルロン酸と相関する構造と架橋させる場合、又は水分貯留性が高い構造と架橋させる場合に、ハイドロゲルの性質の維持又は増大に寄与し得る。
【0081】
炭水化物ベースの二求核架橋剤又は多求核架橋剤は、例えば、二求核官能性又は多求核官能性二糖、三糖、四糖、オリゴ糖、及び多糖からなる群から選択することができる。
【0082】
好ましい実施形態では、二求核架橋剤又は多求核架橋剤は、少なくとも部分的に脱アセチル化された多糖、すなわち、遊離のアミン基を有する多糖がもたらされるように少なくとも部分的に脱アセチル化された、アセチル化された多糖である。少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、単独で架橋させることもでき、第2のグリコサミノグリカンと組み合わせて架橋させ、それにより、脱アセチル化されたグリコサミノグリカン自体を二求核架橋剤又は多求核架橋剤として作用させることもできる。
【0083】
好ましい実施形態では、架橋したGAGは、
1)図1に示されている通り、少なくとも部分的に脱アセチル化されたGAGと部分的に脱アセチル化されたGAGを、少なくとも部分的に脱アセチル化されたGAGに存在する遊離のアミン基及びカルボン酸基を使用して架橋させること、又は
2)図2に示されている通り、少なくとも部分的に脱アセチル化されたGAGと脱アセチル化していないGAGを、少なくとも部分的に脱アセチル化されたGAGに存在する遊離のアミン基とGAGに存在するカルボン酸基を使用して架橋させること
によって得られる。
【0084】
一部の実施形態によると、グリコサミノグリカンは、ヒアルロナン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸(chondroitin sulphate)、ヘパラン硫酸、ヘパロサン、ヘパリン、デルマタン硫酸及びケラタン硫酸等の硫酸化又は非硫酸化グリコサミノグリカンからなる群から選択される。一部の実施形態によると、グリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。一部の実施形態によると、グリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸である。
【0085】
ヒアルロン酸(HA)は、医学的使用及び美容的使用のために最も広く使用されている生体適合性ポリマーの1つである。HAは、グリコサミノグリカン(GAG)のグループに属する、天然に存在する多糖である。ヒアルロン酸は、それぞれβ(1→3)及びβ(1→4)グリコシド結合によって集合した2つの交互の単糖単位、D-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びD-グルクロン酸(GlcA)からなる。ヒアルロン酸及びヒアルロン酸に由来する生成物は、生物医学分野及び美容分野において、例えば、粘弾性手術中に、及び皮膚充填剤として広く使用されている。
【0086】
別段の指定がない限り、「ヒアルロン酸」という用語は、種々の鎖長及び電荷の状態、並びに種々の化学修飾を伴う、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩又はヒアルロナンのバリアント及びバリアントの組合せの全てを包含する。すなわち、この用語は、ヒアルロン酸ナトリウム等の、ヒアルロン酸と種々の対イオンとの種々のヒアルロン酸塩も包含する。ヒアルロン酸は、動物起源及び非動物起源の種々の供給源から得ることができる。非動物起源の供給源としては、酵母及び好ましくは細菌が挙げられる。単一のヒアルロン酸分子の分子量は、一般には0.1~10MDaの範囲であるが、他の分子量も可能である。
【0087】
「コンドロイチン」という用語は、交互の非硫酸化D-グルクロン酸部分とN-アセチル-D-ガラクトサミン部分からなる二糖反復単位を有するGAGを指す。疑義を避けるために、「コンドロイチン」という用語は、いずれの形態のコンドロイチン硫酸も包含しない。
【0088】
「コンドロイチン硫酸」という用語は、交互のD-グルクロン酸部分とN-アセチル-D-ガラクトサミン部分からなる二糖反復単位を有するGAGを指す。硫酸部分は、種々の異なる位置に存在し得る。好ましいコンドロイチン硫酸分子は、コンドロイチン-4-硫酸及びコンドロイチン-6-硫酸である。
【0089】
コンドロイチン分子は、動物及び非動物起源の種々の供給源から入手することができる。非動物起源の供給源としては、酵母及び好ましくは細菌が挙げられる。単一のコンドロイチン分子の分子量は、一般には、1~500kDaの範囲であるが、他の分子量も可能である。
【0090】
一部の実施形態によると、ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、アセチル化度が99%以下、好ましくは98%以下、好ましくは97%以下、好ましくは96%以下であり、重量平均分子量が0.1MDa以上、好ましくは0.5MDa以上である、脱アセチル化されたグリコサミノグリカンである。一部の実施形態によると、ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、上記の脱アセチル化方法によって得られる。
【0091】
一部の実施形態によると、ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、脱アセチル化されたヒアルロナン、脱アセチル化されたコンドロイチン、脱アセチル化されたコンドロイチン硫酸(chondroitin sulphate)、脱アセチル化されたヘパラン硫酸、脱アセチル化されたヘパロサン、脱アセチル化されたヘパリン、脱アセチル化されたデルマタン硫酸及び脱アセチル化されたケラタン硫酸等の、脱アセチル化された硫酸化又は非硫酸化グリコサミノグリカンからなる群から選択される脱アセチル化されたグリコサミノグリカンである。ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、脱アセチル化されたヒアルロン酸、脱アセチル化されたコンドロイチン及び脱アセチル化されたコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択することが好ましい。ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、脱アセチル化されたヒアルロン酸であることが好ましい。
【0092】
一部の実施形態によると、ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される任意選択の第2のグリコサミノグリカンは、ヒアルロナン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸(chondroitin sulphate)、ヘパラン硫酸、ヘパロサン、ヘパリン、デルマタン硫酸及びケラタン硫酸等の硫酸化又は非硫酸化グリコサミノグリカンからなる群から選択されるグリコサミノグリカンである。ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される任意選択の第2のグリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択することが好ましい。ハイドロゲル生成物を調製する方法の工程a)において使用される任意選択の第2のグリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸であることが好ましい。
【0093】
グリコサミノグリカン上に存在するアミノ基とカルボキシル基の間のアミド結合の形成を介してグリコサミノグリカンを直接架橋させることにより、完全に炭水化物型構造ベースのハイドロゲル生成物がもたらされる。これにより、架橋によるグリコサミノグリカンの天然の特性に対する妨害が最小限になる。
【0094】
ハイドロゲル生成物を調製する方法は、グリコサミノグリカン分子を、一般には、グリコサミノグリカン分子骨格上のカルボキシル基及び少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンのアミノ基に対する活性化剤を使用して、共有結合、好ましくはアミド結合によって架橋させることを伴う。本発明の方法に従った架橋は、温和で効率的な経路によって実現することができ、その結果、グリコサミノグリカン分子の分解は最小限で高収率がもたらされる。
【0095】
一部の実施形態によると、活性化工程b)及び架橋工程c)を同時に行う。
【0096】
一部の実施形態によると、工程b)のカップリング剤は、ペプチドカップリング試薬である。ペプチドカップリング剤を使用した架橋は、中性pHで、グリコサミノグリカン分子の分解は最小限にして架橋を実施することが可能であるので、多くの他の一般的な架橋方法(例えば、BDDE架橋)よりも有利である。
【0097】
一部の実施形態によると、ペプチドカップリング試薬は、トリアジンベースのカップリング試薬、カルボジイミドカップリング試薬、イミダゾリウム由来カップリング試薬、Oxyma及びCOMUからなる群から選択される。
【0098】
一部の実施形態によると、ペプチドカップリング試薬は、トリアジンベースのカップリング試薬である。一部の実施形態によると、トリアジンベースのカップリング試薬は、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)及び2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)からなる群から選択される。一部の実施形態によると、トリアジンベースのカップリング試薬は、DMTMMである。
【0099】
一部の実施形態によると、ペプチドカップリング試薬は、カルボジイミドカップリング試薬である。一部の実施形態によると、カルボジイミドカップリング試薬は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と組み合わせたN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)である。
【0100】
「架橋したグリコサミノグリカン」又は「架橋したグリコサミノグリカン分子」という用語は、本明細書では、架橋によって共に保持されたグリコサミノグリカン分子の連続的な網目構造を創出する、グリコサミノグリカン分子鎖間の一般には共有結合性の架橋を含むグリコサミノグリカンを指す。
【0101】
架橋したGAG生成物は、生体適合性であることが好ましい。これは、処置を受けた個体において免疫応答が起こらない又は非常に軽度の免疫応答のみが起こることを意味する。すなわち、処置を受けた個体において望ましくない局所的又は全身性の影響は起こらない又は非常に温和なもののみが起こる。
【0102】
本開示による架橋した生成物は、ゲル、又はハイドロゲルである。すなわち、水不溶性とみなすことができるが、GAG分子の架橋系は、液体、一般には水溶液中に供されると実質的に希釈される。
【0103】
架橋したGAG分子は、ゲル粒子の形態で存在することが好ましい。ゲル粒子の平均サイズは0.01~5mm、好ましくは0.1~0.8mm、例えば0.2~0.5mm又は0.5~0.8mm等の範囲であることが好ましい。一部の実施形態によると、工程c)は、平均サイズが0.01~5mm、好ましくは0.1~0.8mm、例えば0.2~0.5mm又は0.5~0.8mm等の範囲である、架橋したグリコサミノグリカンの粒子を用意する工程をさらに含む。
【0104】
ゲルは、重量でほとんど液体を含有し、例えば、90~99.9%の水を含有し得るが、液体内の3次元の架橋したGAG分子網目構造に起因して固体のように挙動する。液体含有量がかなり多いことに起因して、ゲルは、構造的に柔軟であり、天然の組織と類似しており、それにより、組織工学における足場として、及び組織増強のために非常に有用なものになる。ゲルは、軟部組織障害の治療、及び矯正治療又は美的治療にも有用である。ゲルは、注射用製剤として使用されることが好ましい。
【0105】
ハイドロゲル生成物は、架橋していない、すなわち、3次元の架橋したGAG分子網目構造に結合していないGAG分子の一部も含み得る。しかし、ゲル組成物中のGAG分子の少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、及び最も好ましくは少なくとも80重量%が、架橋したGAG分子網目構造の一部を形成することが好ましい。
【0106】
ハイドロゲル生成物は、水溶液中に存在してよいが、乾燥した形態又は沈殿した形態で、例えばエタノール中に存在してもよい。ハイドロゲル生成物は、注射可能であることが好ましい。
【0107】
複数の実施形態によると、少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンは、バイオポリマーを少なくとも部分的に脱アセチル化するための新規の方法によって得られ、ここで、バイオポリマーはグリコサミノグリカンであり、方法は、
a1)アセチル基を含むバイオポリマーを用意する工程、
a2)アセチル基を含むバイオポリマーとヒドロキシルアミン(NH2OH)又はその塩を100℃以下の温度で2~200時間にわたって反応させて、少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーを形成する工程、及び
a3)少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーを回収する工程
を含む。
【0108】
ヒドロキシルアミン(NH2OH)及びその塩は、アセチル基を含むバイオポリマーを温和な反応条件下で脱アセチル化するために有利に使用することができることが見いだされている。脱アセチル化されたバイオポリマーは、種々の用途、例えば、遊離のアミン基の存在が必要とされる架橋、コンジュゲーション又は移植反応に有用であり得る。
【0109】
本発明の脱アセチル化方法は、ヒドロキシルアミノリシス反応を伴う。脱アセチル化のためにヒドロキシルアミン又はその塩を使用することにより、温和な条件下でのN-脱アセチル化が可能になり、その結果、影響を受けやすいHA等の多糖のポリマー骨格の分解はほんの軽微なものになることが見いだされている。したがって、脱アセチル化のためにヒドロキシルアミン又はその塩を使用することにより、高分子量が保持された脱アセチル化HAを作製することが可能になる。これは、程度の高い脱アセチル化にポリマー骨格の重度の分解が必然的に伴う、脱アセチル化剤としてヒドラジン又はNaOHを使用する脱アセチル化等の以前より公知の方法とは対照的である。
【0110】
複数の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択することが好ましいグリコサミノグリカンである。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、ヒアルロン酸である。
【0111】
ヒアルロン酸は、動物及び非動物起源の種々の供給源から得ることができる。非動物起源の供給源としては、酵母及び好ましくは細菌が挙げられる。単一のヒアルロン酸分子の分子量は、一般には0.1~10MDaの範囲であるが、他の分子量も可能である。
【0112】
ある特定の実施形態では、前記ヒアルロン酸の濃度は、1~100mg/mlの範囲である。一部の実施形態では、前記ヒアルロン酸の濃度は、2~50mg/mlの範囲である。特定の実施形態では、前記ヒアルロン酸の濃度は、5~30mg/mlの範囲又は10~30mg/mlの範囲である。ある特定の実施形態では、ヒアルロン酸は、架橋している。架橋したヒアルロン酸は、共有結合性の架橋、ヒアルロン酸鎖の物理的絡み合い、並びに静電相互作用、水素結合及びファンデルワールス力等の種々の相互作用によって共に保持されたヒアルロン酸分子の連続的な網目構造を創出する、ヒアルロン酸鎖間の架橋を含む。
【0113】
ヒアルロン酸の架橋は、化学的架橋剤を用いた修飾によって実現することができる。化学的架橋剤は、例えば、ジビニルスルホン、マルチエポキシド及びジエポキシドからなる群から選択することができる。ある実施形態によると、ヒアルロン酸は、2つ以上のグリシジルエーテル官能基を含む二官能性又は多機能性架橋剤によって架橋している。複数の実施形態によると、化学的架橋剤は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、1,2-エタンジオールジグリシジルエーテル(EDDE)及びジエポキシオクタンからなる群から選択される。好ましい実施形態によると、化学的架橋剤は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である。
【0114】
多糖、特に、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸等のグリコサミノグリカンは、多くの場合、厳しい反応条件(例えば、非常に高い又は低pH、又は高温)の下では骨格の分解を起こしやすい。したがって、本発明の方法は、そのような多糖の脱アセチル化に特に有用である。
【0115】
本発明の脱アセチル化方法は、出発材料の分子量のかなりの部分が保持されている少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーを得るために有用である。
【0116】
一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーの重量平均分子量は、工程a1)のアセチル基を含むバイオポリマーの重量平均分子量の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも25%である。回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーの重量平均分子量は、例えば、工程a1)のアセチル基を含むバイオポリマーの重量平均分子量の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%等、より大きくてもよい。
【0117】
一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、少なくとも10kDaの重量平均分子量を有する。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、少なくとも100kDa、少なくとも500kDa、少なくとも750kDa、又は少なくとも1MDaの重量平均分子量を有する。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、1~5MDaの範囲、好ましくは2~4MDaの範囲の重量平均分子量を有する。
【0118】
一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、少なくとも10kDaの重量平均分子量を有する。一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、少なくとも100kDa、少なくとも500kDa、少なくとも750kDa、又は少なくとも1MDaの重量平均分子量を有する。一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、0.1~5MDaの範囲、好ましくは0.5~5MDa又は0.5~3MDaの範囲の重量平均分子量を有する。
【0119】
本開示の脱アセチル化方法は、より短いバイオポリマー、又はバイオオリゴマー、例えば二量体、三量体、四量体等にも適用可能である。
【0120】
一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーは、重量平均分子量が0.3~10kDaの範囲のオリゴバイオポリマーである。
【0121】
一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたオリゴバイオポリマーは、0.3~10kDaの範囲の重量平均分子量を有する。
【0122】
脱アセチル化方法における出発材料として使用される、アセチル基を含むバイオポリマーは、一般には、完全に又はほぼ完全にアセチル化されたものである。「完全にアセチル化された」という用語は、本明細書でバイオポリマーを参照して使用される場合、遊離のアミン基の全て又は実質的に全てがN-アセチル基に変換されているバイオポリマーを意味する。言い換えれば、「完全にアセチル化された」バイオポリマーは、遊離のアミン基を含まない又は実質的に含まない。一部の実施形態によると、工程a1)における出発材料として使用される、アセチル基を含むバイオポリマーは98~100%の範囲のアセチル化度を有する。
【0123】
一部の実施形態によると、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、工程a1)のアセチル基を含むバイオポリマーのアセチル化度よりも、少なくとも1%小さい、好ましくは少なくとも2%小さい、好ましくは少なくとも3%小さい、好ましくは少なくとも4%小さい、好ましくは少なくとも5%小さいアセチル化度を有する。言い換えれば、回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーは、99%未満、好ましくは98%未満、97%未満、97%未満、96%未満、95%未満、94%未満又は93%未満のアセチル化度を有し得る。回収される少なくとも部分的に脱アセチル化されたバイオポリマーはまた、工程a1)のアセチル基を含むバイオポリマーのアセチル化度よりも、少なくとも10%未満小さい、少なくとも15%小さい、少なくとも20%小さい、少なくとも30%小さい、少なくとも40%小さい、又は少なくとも50%小さいアセチル化度を有し得る。
【0124】
脱アセチル化は、ヒドロキシルアミン又はその塩を使用して実現することができる。ヒドロキシルアミン塩は、ヒドロキシルアミンと酸とによって形成される塩を指す。ヒドロキシルアミン塩は、例えば、ヒドロキシルアミンと、鉱酸及び有機酸又はそれらの混合物からなる群から選択される酸とによって形成される塩であってよい。
【0125】
複数の実施形態によると、ヒドロキシルアミン塩は、ヒドロキシルアミンと鉱酸とによって形成される塩である。複数の実施形態によると、酸は、硫酸、塩酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸及びリン酸、及びこれらの組合せからなる群から選択される。好ましい鉱酸としては、塩酸、ヨウ化水素酸及び臭化水素酸が挙げられる。特に好ましい鉱酸は、ヨウ化水素酸である。
【0126】
複数の実施形態によると、ヒドロキシルアミン塩は、ヒドロキシルアミンと有機酸とによって形成される塩である。複数の実施形態によると、酸は、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸、安息香酸、及びトリフルオロ酢酸(TFA)及びトリクロロ酢酸等のハロゲン化カルボン酸、並びにこれらの組合せからなる群から選択される。
【0127】
複数の実施形態によると、酸は、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、及びハロゲン化カルボン酸、好ましくはトリフルオロ酢酸、及びこれらの組合せからなる群から選択される。複数の実施形態によると、酸は、ハロゲン化カルボン酸、好ましくはトリフルオロ酢酸である。
【0128】
複数の実施形態によると、ヒドロキシルアミン塩は、塩酸、ヨウ化水素酸及び臭化水素酸、プロピオン酸、ピバル酸及びトリフルオロ酢酸からなる群から選択される、ヒドロキシルアミンと酸とによって形成される塩である。
【0129】
工程a2における反応は、アセチル基を含むバイオポリマーとヒドロキシルアミン又はその塩の両方を少なくとも部分的に溶解させることが可能な溶媒中で実施することが好ましい。溶媒は、例えば、水又は有機溶媒又はこれらの混合物であってよい。好ましい溶媒の非限定的な例としては、水又は水とエタノール等の低級アルコールの混合物が挙げられる。しかし、特定のバイオポリマー、及びヒドロキシルアミン又はその塩の選択に応じて、多くの他の溶媒が有用であると思われる。有用な有機溶媒の1つの例は、テトラヒドロフラン(THF)である。
【0130】
複数の実施形態によると、工程a2)の反応は、アミド基を含む分子とヒドロキシルアミンを水中で反応させることを含む。
【0131】
脱アセチル化方法は、任意選択でエタノール等の別の溶媒をさらに含む水又は水溶液中で実施することが好ましい場合がある。したがって、一部の実施形態によると、工程a1)は、アセチル基を含むバイオポリマーとヒドロキシルアミンを水中で接触させ、その結果、バイオポリマーとヒドロキシルアミンの水性混合物又は溶液を形成することを含む。一部の実施形態では、ヒドロキシルアミンの濃度は、水性混合物又は溶液の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%である。ヒドロキシルアミンの濃度が高いほど反応速度が増大し得る。
【0132】
ヒドロキシルアミンは、多くの場合、水溶液の形態で、一般には、50重量%の濃度で用意される。一部の実施形態では、バイオポリマーは、ヒドロキシルアミンの水溶液中に直接混合し、溶解し、任意選択で希釈することができる。あるいは、ヒドロキシルアミンの固体塩、例えば塩酸ヒドロキシルアミン又は硫酸ヒドロキシルアミンをバイオポリマーの水溶液中に溶解させることができる。ヒドロキシルアミンの塩の添加、及び塩のヒドロキシルアミンへの変換は、アセチル基を含むバイオポリマーをヒドロキシルアミンの水溶液中に溶解させることの代替として又は補足として行うことができる。
【0133】
反応混合物中のヒドロキシルアミンのモル濃度は、5~20Mの範囲であることが好ましい。例えば、ヒドロキシルアミンの濃度50重量%は、大まかにモル濃度16Mに対応する。
【0134】
本発明者らは、驚いたことに、ヒドロキシルアミン塩をヒドロキシルアミン自体の代わりに使用した場合、顕著に低いモル濃度で同じ反応速度を実現することができることを見いだした。したがって、反応混合物中のヒドロキシルアミンのモル濃度塩は、0.01~10Mの範囲、好ましくは0.1~5Mの範囲であることが好ましい。
【0135】
一部の実施形態によると、工程a1)において、アセチル基を含むバイオポリマーをヒドロキシルアミン又はその塩の水溶液中に溶解させる。一部の実施形態によると、工程a1)において、ヒドロキシルアミンの塩を、アセチル基を含むバイオポリマーの水溶液中に溶解させる。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーをヒドロキシルアミンの水溶液中に溶解させ、ヒドロキシルアミンの塩を、アセチル基を含むバイオポリマーのヒドロキシルアミン中水溶液中に溶解させる。
【0136】
本発明者らは、驚いたことに、ヒドロキシルアミン塩をヒドロキシルアミン自体の代わりに使用した場合、顕著に低いモル濃度で同じ反応速度を実現することができることを見いだした。したがって、反応混合物中のヒドロキシルアミンのモル濃度塩は、0.01~10Mの範囲、好ましくは0.1~5Mの範囲であることが好ましい。
【0137】
一部の実施形態によると、工程a1)において、アセチル基を含むバイオポリマーをヒドロキシルアミン又はその塩の水溶液中に溶解させる。一部の実施形態によると、工程a1)において、ヒドロキシルアミンの塩を、アセチル基を含むバイオポリマーの水溶液中に溶解させる。一部の実施形態によると、アセチル基を含むバイオポリマーをヒドロキシルアミンの水溶液中に溶解させ、ヒドロキシルアミンの塩を、アセチル基を含むバイオポリマーのヒドロキシルアミン中水溶液中に溶解させる。
【0138】
工程a2)の反応温度は、100℃以下であることが好ましい。工程a2)の反応温度は、バイオポリマーの過剰な分解が引き起こされないように選択する。一部の実施形態によると、工程a2)の温度は、10~90℃、好ましくは20~80℃、好ましくは30~70℃、好ましくは30~50℃の範囲である。複数の実施形態によると、工程a2)の反応は、アミド基を含む分子とヒドロキシルアミン又はその塩を10~100℃、好ましくは20~90℃、好ましくは30~70℃、好ましくは30~50℃の範囲の温度で反応させることを含む。温度は、例えば、70~90℃の範囲、例えば約80℃等、又は30~50℃の範囲、例えば約40℃等であってよい。
【0139】
工程a2)の反応時間は、所望の脱アセチル化度に依存する。反応時間は、バイオポリマーの過剰な分解が引き起こされないように選択することが好ましく、温度及びpHにも左右される。反応時間は、一般に、5分から200時間以上までの任意の時間であってよい。一部の実施形態によると、工程a2)の反応は、アミド基を含む分子とヒドロキシルアミン又はその塩を2~200時間にわたって反応させることを含む。一部の実施形態によると、工程a2)の反応は、アミド基を含む分子とヒドロキシルアミン又はその塩を2~150時間、好ましくは5~150時間、好ましくは5~100時間にわたって反応させることを含む。他の実施形態では、例えば、より高い温度又はpHを使用する場合、反応時間は、例えば5分~2時間の範囲、30分~2時間の範囲、又は1~2時間の範囲等、はるかに短くてよい。
【0140】
工程a2)のpHは、バイオポリマーの過剰な分解が引き起こされないように選択することが好ましい。一部の実施形態によると、工程a2)の反応を4~12の範囲のpH値で実施する。一部の実施形態によると、工程a2)の反応を9~11の範囲のpH値で実施する。一部の実施形態によると、工程a2)の反応を4~9の範囲、好ましくは6~9の範囲、好ましくは6~8又は7~8の範囲のpH値で実施する。一般には、バイオポリマーの分解を回避するために、より低いpH(例えば、約中性pH)、例えば6~8又は7~8の範囲等が好ましい。
【0141】
本発明者らは、広範囲にわたる実験を通じて、特に、ヒドロキシルアミンを使用した場合に、pH低下剤の添加により、工程a2)の反応の反応速度を顕著に増大することができることを見いだした。この効果は、驚くべきものであると共に非常に有益なものである。ヒドラジン脱アセチル化反応への対応するpH低下剤の添加では、反応速度の増大はもたらされなかったことが留意される。バイオポリマーの過剰な分解を回避するために、反応中のpH値はより低いことも好ましい。したがって、一部の実施形態によると、pH低下剤を添加することによって反応のpHを4~9の範囲、好ましくは6~9の範囲、好ましくは6~8又は7~8の範囲の値まで低下させる。pH低下剤は、例えば、鉱酸、有機酸及びpH降下塩、及び混合物又はこれらの組合せからなる群から選択することができる。有用な鉱酸の例としては、これだけに限定されないが、硫酸、塩酸及びヨウ化水素酸、臭化水素酸及びリン酸が挙げられる。有用な有機酸の例としては、これだけに限定されないが、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸、安息香酸、並びに、トリフルオロ酢酸及びトリクロロ酢酸等のハロゲン化カルボン酸が挙げられる。有用なpH降下塩の例としては、これだけに限定されないが、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、塩酸ヒドロキシルアミン及び硫酸ヒドロキシルアミンが挙げられる。好ましい実施形態では、pH低下剤は、塩酸ヒドロキシルアミン又は硫酸ヒドロキシルアミン、最も好ましくは塩酸ヒドロキシルアミンを含む。一部の実施形態では、pH低下剤は、ヨウ化水素酸(HI)である。一部の実施形態では、pH低下剤は、トリフルオロ酢酸(TFA)である。
【0142】
一部の実施形態によると、工程a2)の反応を不活性雰囲気及び/又は暗所の下で実施する。
【0143】
上記の脱アセチル化方法によって得られる生成物は、他の公知の脱アセチル化方法によって得られる対応する生成物とは顕著に異なる性質を有し得る。
【0144】
本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物は、任意選択で、工程c)において用意された架橋したグリコサミノグリカンの残留するアミン基をアシル化して、アシル化された架橋したグリコサミノグリカンを形成する工程である、工程d)に供することができる。この方法は、本明細書では、再アシル化、又は再アセチル化とも称される。
【0145】
アシル化、例えば、アミド架橋したグリコサミノグリカン分子を含むハイドロゲル生成物中に残留する遊離のアミン基のアセチル化を使用して、ハイドロゲル生成物の機械的性質を改変することができることが見いだされている。いかなる特定の科学的説明にも縛られることを望むものではなく、遊離のアミン基のアシル化により、ハイドロゲル生成物において追加的な架橋として作用する両性イオン性複合体の形成を低減し、それにより、より柔軟なゲルの形成をもたらすことができることが予想される。
【0146】
一部の実施形態によると、工程d)は、工程c)において用意された架橋したグリコサミノグリカンの残留するアミン基をアセチル化して、アセチル化された架橋したグリコサミノグリカンを形成することを含む。天然の形態のグリコサミノグリカンは、n-アセチル化されている。したがって、ハイドロゲル生成物中の遊離のアミン基のアセチル化により、天然のグリコサミノグリカンにより類似したハイドロゲル生成物が生成されることが予測される。
【0147】
一部の実施形態によると、工程d)は、工程c)において用意された架橋したグリコサミノグリカンを、アセチル化剤と、アセチル化された架橋したグリコサミノグリカンが形成されるのに適した反応条件下で反応させることを含む。
【0148】
一部の実施形態によると、アセチル化剤は、無水酢酸、酢酸イソプロペニル及び予備活性化した酢酸エステルからなる群から選択される。
【0149】
再アセチル化は、標準のプロトコールに従って、例えば、無水酢酸、酢酸イソプロペニル又は予備活性化した酢酸エステルを、一般には水溶液若しくはアルコール溶液若しくはそれらの混合物中で又は無希釈条件下で使用して実施することができる。好ましくは、再アセチル化方法は、アルコール、好ましくはメタノール又はエタノール、アセチル化剤、及び所望であれば有機塩又は無機塩基を使用して、固相反応で実施することができる。
【0150】
過アセチル化、O-アセチル化、エステル形成及び/又は無水物形成の潜在的な問題は、架橋後にアルカリ処理工程を含めることによって対応することができる。所望であれば、両性イオン性ハイドロゲルを送達するために、再アセチル化工程を方法から排除することができる。
【0151】
本発明の方法によって得られるハイドロゲル生成物を、任意選択で、工程c)又はd)において用意された架橋したグリコサミノグリカンをアルカリ処理に供して、工程c)におけるアミド架橋の間に副生成物として形成されたエステル架橋を加水分解する、工程e)に供する。
【0152】
二アミン又は多アミン官能性架橋剤をカップリング剤と共に使用するアミドカップリングは、ハイドロゲル生成物に有用な架橋したグリコサミノグリカン分子を調製するための魅力的な経路である。架橋は、非炭水化物ベースの二求核架橋剤又は多求核架橋剤、例えば、ヘキサメチレン二アミン(HMDA)、又は炭水化物ベースの二求核架橋剤又は多求核架橋剤、例えば、ジアミノトレハロース(DATH)をグリコサミノグリカンと共に使用して実現することができる。架橋は、少なくとも部分的に脱アセチル化されたグリコサミノグリカンを、単独で使用して、又は、第2のグリコサミノグリカンと組み合わせて使用し、それにより、脱アセチル化されたグリコサミノグリカン自体を二求核架橋剤又は多求核架橋剤として作用させて実現することもできる。
【0153】
アミド結合を形成するためのカップリング剤を使用したカップリング反応又はグリコサミノグリカンの架橋には、多くの場合、ある割合のエステル結合の同時形成が伴うことが見いだされている。エステル結合割合のサイズは、反応条件、濃度及び使用されるカップリング剤に応じて変動し得る。エステル結合は、アミド結合と比較して、ハイドロゲル生成物の取扱い及び保管、例えば、高温滅菌(オートクレーブ処理)の間に分解されやすい。これは、エステル結合、又はエステル結合及びアミド結合の組合せを含むハイドロゲル生成物の性質が、エステル結合が分解されるにしたがって経時的に変化することを意味する。元の性質がより長い期間にわたって維持されるハイドロゲルを得るために、グリコサミノグリカンはアミド結合によって架橋していることが好ましい。
【0154】
本発明者らは、今や、アミド架橋及びエステル架橋の両方を有する架橋したグリコサミノグリカンをアルカリ処理に供することにより、アミド架橋の間に副生成物として形成されたエステル架橋を、同時にアミド結合を分解することなく加水分解することができることを見いだした。適切な反応条件の選択に基づいて、グリコサミノグリカン骨格の過度な分解を伴わずにエステル結合の加水分解を実現することができることも見いだされている。
【0155】
ハイドロゲル生成物を調製する方法は、任意選択で、工程c)において用意された架橋したグリコサミノグリカンの残留するアミン基をアシル化して、アシル化された架橋したグリコサミノグリカンを形成する、工程d)を含む。
【0156】
アシル化、例えば、アミド架橋したグリコサミノグリカン分子を含むハイドロゲル生成物中に残留する遊離のアミン基のアセチル化を使用して、ハイドロゲル生成物の機械的性質を改変することができる。いかなる特定の科学的説明にも縛られることを望むものではなく、遊離のアミン基のアシル化により、ハイドロゲル生成物において追加的な架橋として作用する両性イオン性複合体の形成を低減し、それにより、より柔軟なゲルの形成をもたらすことができることが予想される。
【0157】
一部の実施形態によると、工程d)は、工程c)において用意された架橋したグリコサミノグリカンの残留するアミン基をアセチル化して、アセチル化された架橋したグリコサミノグリカンを形成することを含む。天然の形態のグリコサミノグリカンは、N-アセチル化されている。したがって、ハイドロゲル生成物中の遊離のアミン基のアセチル化により、天然のグリコサミノグリカンにより類似したハイドロゲル生成物が生成されることが予測される。
【0158】
アミド結合を形成するための、アシル化剤を使用したグリコサミノグリカンのアシル化には、多くの場合、ある割合のエステル結合の同時形成が伴う。エステル結合割合のサイズは、反応条件、濃度及び使用するアシル化剤に応じて変動し得る。エステル結合は、アミド結合と比較して、ハイドロゲル生成物の取扱い及び保管、例えば、高温滅菌(オートクレーブ処理)の間に分解されやすい。これは、エステル結合、又はエステル結合及びアミド結合の組合せを含むハイドロゲル生成物の性質が、エステル結合が分解されるにしたがって経時的に変化することを意味する。元の性質をより長い期間にわたって維持するハイドロゲルを得るために、グリコサミノグリカンはアミド結合によってアシル化されていることが好ましい。
【0159】
本発明者らは、今や、アシル化されたアミド架橋及びエステル架橋の両方を有する架橋したグリコサミノグリカンをアルカリ処理に供することにより、アシル化の間に形成されたエステル結合を、同時にアミド結合を分解することなく加水分解することができることを見いだした。適切な反応条件の選択に基づいて、グリコサミノグリカン骨格の過度な分解を伴わずにエステル結合の加水分解を実現することができることも見いだされている。
【0160】
アルカリ処理により、架橋方法から安定性の低いエステル結合、又は再アセチル化方法からO-アセチル化及び無水物形成が選択的に加水分解され、その結果、材料中のアミド結合/エステル結合の比が増大する。
【0161】
得られたハイドロゲル生成物の典型的な用途は、これだけに限定されないが、矯正治療及び美的治療を含めた、軟部組織障害の治療のための注射製剤の調製を伴う。
【0162】
「分子量」という用語は、本明細書で種々のポリマー、例えば多糖と関連して使用される場合、科学文献において明確に定義されているポリマーの重量平均分子量、Mwを指す。重量平均分子量は、例えば、静的光散乱、小角中性子散乱、X線散乱、及び沈降速度によって決定することができる。分子量の単位は、Da又はg/molである。
【0163】
本発明は、本明細書に記載されている好ましい実施形態に決して限定されないことが当業者には理解される。反対に、添付の特許請求の範囲の範囲内で多くの改変及び変形が可能である。さらに、当業者は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の試験から、特許請求された発明の実施において開示されている実施形態の変形を理解し、実行することができる。特許請求の範囲において、「含むこと(comprising)」という単語は、他の要素又は工程を排除するものではなく、また、不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、複数を排除するものではない。ある特定の手段が相互に異なる従属請求項において列挙されているという事実だけで、これらの手段の組合せを使用して利益を得ることができないことが示されるものではない。
【実施例
【0164】
それに限定されることを望むものではなく、本発明を以下に例として例示する。
【0165】
定義及び分析
Mw-質量平均分子量
SwF-生理食塩水中での膨潤因子分析、最大まで膨潤したゲル1gに対する体積(mL/g)
SwC-生理食塩水中での膨潤能、PS 1グラム当たりの総液体取り込み(mL/g)
SWCCPS-補正した膨潤度、GelPに対して補正した、PS 1グラムに対する総液体取り込み(mL/g)
【0166】
【数1】
【0167】
[PS]-多糖濃度(mg/g)
GelP-ゲル部分は、ゲル網目構造の一部であるPSの百分率についての記載である。90%という数字は、多糖の10%がゲル網目構造の一部ではないことを意味する。
CrDアミド-SEC-MSで分析し、以下の通り定義されたアミド架橋の程度(%)
【0168】
【数2】
【0169】
DoA-アセチル化度。アセチル化度(DoA)は、ヒアルロン酸二糖と比較したアセチル基のモル比である。DoAは、NMRスペクトルから、ヒアルロナン二糖残基のアセチルシグナルの積分と脱アセチル化グルコサミン残基のC2-Hシグナルの積分を以下の方程式に従って比較することによって算出することができる。
【0170】
【数3】
【0171】
NMR-BRUKER Biospin AVANCE 400分光計で記録された1H NMRスペクトル。化学シフトが、適切な有機溶液中での内部TMSから低磁場のδ値として報告されている。生成物の純度及び構造をWaters 2690フォトダイオードアレイ検出器システムで以下の条件:カラム、Symmetry C-18;溶媒A、水0.1%ギ酸;溶媒B、CH3CN;流速、毎分2.5ml;実行時間、4.5分;勾配、0~100%溶媒B;質量検出器、微量質量ZMDを使用して、LCMS(254nm)によって確認した。精製を直接的に質量トリガー分取LCMS Waters X-Terra逆相カラム(C-18、5ミクロンシリカ、直径19mm、長さ100mm、流速毎分40ml)により、水(0.1%ギ酸を含有する)及びアセトニトリルの漸減的極性混合物を溶離液として行った。所望の化合物を含有する画分を蒸発させて乾燥状態にして、最終的な化合物を通常は固体としてもたらした。
【0172】
(実施例1)
ヒドロキシルアミノリシスによるヒアルロン酸の脱アセチル化
0.2g又は20gのHA(Mw 2500kDa、DoA 100%)を、Table1(表1)に記載されている通り、ヒドロキシルアミン(Sigma-Aldrich 50体積%溶液)又はヒドロキシルアミン/水の混合物中に可溶化した。溶液を、暗所中及びアルゴン下、30~70℃で5~353時間インキュベートした。インキュベート後、混合物をエタノールによって沈殿させた。得られた沈殿物を濾過し、エタノールで洗浄し、次いで、水中に再溶解させた。溶液を、限外濾過によって精製し、その後、凍結乾燥させて、脱アセチル化HA(de-Ac HA)を白色固体として得た。実施例1-1~1-14は、およそ0.2gのHAを使用して実施し、実施例1-15~1-16は、20gのHAを使用して実施した。ヒドロキシルアミノリシスによる脱アセチル化は、ヒドラジン分解(実施例2)及びアルカリ法(実施例3及び4)と比較して、より効率的であり、HA骨格のMwがより良好に保存される。
【0173】
【表1】
【0174】
(実施例2)
ヒドラジン分解によるヒアルロン酸の脱アセチル化-比較例
0.2gのHA(Mw 2500kDa、DoA 100%)を、Table 2(表2)に記載されている通りヒドラジン一水和物中硫酸ヒドラジンの1%溶液10mL中に可溶化した。反応は、暗所中及びアルゴン下、30~55℃で24~120時間にわたって行った。混合物をエタノールによって沈殿させた。得られた沈殿物を濾過し、エタノールで洗浄し、次いで、水中に再溶解させた。限外濾過後に最終的な脱アセチル化HA生成物を得、フリーズドライ処理した。ヒドラジン分解による脱アセチル化では、ヒドロキシルアミノリシス(実施例1)と比較して、HA骨格の分解がより多く生じる、すなわち、より低いMwの脱アセチル化生成物が生じる。
【0175】
【表2】
【0176】
(実施例3)
均一なアルカリ加水分解によるヒアルロン酸の脱アセチル化-比較例
HA(1000kDa)を秤量して反応槽に入れ、NaOH溶液を添加し、反応物を均一な溶液が得られるまで混合した。混合物をTable 3(表3)に記載されている通り、撹拌せずにインキュベートし、その後、水及びEtOHを用いて希釈した。混合物を、1.2M HClを添加することによって中和し、EtOHを添加することによって沈殿させた。沈殿物をエタノール(70w/w%)で洗浄し、その後、エタノールで洗浄し、真空中で終夜乾燥させて固体を得た。均一なアルカリ加水分解による脱アセチル化では、ヒドロキシルアミノリシス(実施例1)と比較して、HA骨格の分解がより多く生じる、すなわち、より低いMwの脱アセチル化生成物が生じる。
【0177】
【表3】
【0178】
(実施例4)
不均一なアルカリ加水分解によるヒアルロン酸の脱アセチル化-比較例
HA(1000kDa)を秤量して反応槽に入れ、Table 4(表4)に記載されている通りEtOH中NaOH(70% w/w%)を添加した。不均一な混合物をインキュベートし、その後、1.2M HClを添加することによって中和した。沈殿物をエタノール(75w/w%)で洗浄し、その後、エタノールで洗浄し、真空中で終夜乾燥させて固体を得た。
【0179】
不均一なアルカリ加水分解による脱アセチル化では、ヒドロキシルアミノリシス(実施例1)と比較して、HA骨格の分解がより多く生じる、すなわち、より低いMwの脱アセチル化生成物が生じる。
【0180】
【表4】
【0181】
(実施例5)
脱アセチル化HAの架橋
カップリング剤DMTMMをNa-リン酸緩衝液(pH7.4)中に溶解させ、必要であれば、DMTMM混合物のpHを調整し、その後、溶液を脱アセチル化HAに添加した。反応混合物を3.5分間振とうすることによってホモジナイズし、へらを用いて又はフィルターを通して混合物を圧縮することによって混合した。反応混合物をウォーターバス中に35℃で24時間置いた。ウォーターバスから取り出すことによって反応を停止させ、ゲルを、へらを用いて小片に切った又はフィルターを通して圧縮した。反応混合物を、0.25M NaOHを用いてpH>13に調整し、およそ60分間撹拌し、その後、1.2M HClを用いて中和した。中和後、ゲルをエタノール中に沈殿させ、エタノール(70w/w%)で洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。乾燥したゲルを、0.7% NaCl中リン酸緩衝液中、少なくとも2時間にわたって膨潤させた。pHを制御し、必要であれば7.4に調整した。ゲル粒子のサイズを、微細フィルターを用いて縮小した。ゲルをシリンジに充填し、シリンジをオートクレーブ処理によって滅菌した。Table 5(表5)に示されている結果は、Mw及びDoAが異なる脱アセチル化HAを、DMTMMを使用して架橋することによるハイドロゲルの形成を示す。
【0182】
【表5】
【0183】
(実施例6)
脱アセチル化HAとHAの混合物の架橋
HA及び脱アセチル化HAを、50mL-Falconチューブ中の水(Milli-Q)40mL中に、回転させて撹拌しながら24時間にわたって溶解させた。完全に溶解させた後、試料をフリーズドライ処理した。カップリング剤DMTMMをNa-リン酸緩衝液(pH7.4)中に溶解させ、DMTMM混合物のpHを測定し、その後、フリーズドライ処理した混合物に添加した。反応混合物をホモジナイズし、ウォーターバス中に35℃で24時間置いた。ウォーターバスから取り出すことによって反応を停止させ、ゲルを、へらを用いて小片に切った。反応混合物を、0.25M NaOHを用いて約60分にわたってpH>13に調整した。ゲルを、1.2M HClを用いて中和した。中和後、ゲルを、エタノールを用いて沈澱させ、エタノール(70%)で洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。乾燥したゲルを、0.7% NaCl中リン酸緩衝液中、少なくとも2時間にわたって膨潤させた。pHを制御し、必要であれば7.4に調整した。ゲル粒子サイズのサイズを、微細フィルターを用いて縮小した。ゲルをシリンジに充填し、シリンジをオートクレーブ処理によって滅菌した。Table 5(表5)に示されている結果は、脱アセチル化HAとHAをDMTMMを使用して架橋することによるハイドロゲルの形成を示す。
【0184】
【表6】
【0185】
(実施例7)
HMW脱アセチル化HAとLMW脱アセチル化HAの混合物の架橋
2つの異なるMwの脱アセチル化HAを共に混合した。カップリング剤DMTMMをNa-リン酸緩衝液(pH7.4)中に溶解させ、必要であれば、DMTMM混合物のpHを調整し、その後、溶液を脱アセチル化HAに添加した。反応混合物を、へらを用いて混合することによって又はフィルターを通して混合物を圧縮することによってホモジナイズした。反応混合物を、インキュベーター中に23℃で24時間置いた。インキュベーターから取り出すことによって反応を停止させ、ゲルを、へらを用いて小片に切った又はフィルターを通して圧縮した。反応混合物を、0.25M NaOHを用いてpH>13に調整し、およそ60分間撹拌し、その後、1.2M HClを用いてpH7.4まで中和した。
【0186】
【表7】
【0187】
(実施例8)
ハイドロゲルの不均一な再アセチル化
カップリング剤DMTMMをNa-リン酸緩衝液(pH7.4)中に溶解させ、必要であれば、DMTMM混合物のpHを調整し、その後、溶液を脱アセチル化HAに添加した。反応混合物を3.5分間振とうすることによってホモジナイズし、へらを用いて又はフィルターを通して混合物を圧縮することによって混合した。反応混合物をウォーターバス中に35℃で24時間置いた。ウォーターバスから取り出すことによって反応を停止させ、ゲルを、へらを用いて小片に切った又はフィルターを通して圧縮した。反応混合物を、0.25M NaOHを用いてpH>13に調整し、60分間撹拌し、その後、1.2M HClを用いて中和した。中和後、ゲルをエタノール中に沈殿させ、エタノール(70w/w%)で洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。
【0188】
沈殿したゲルをMeOHに懸濁させ、Ac2O(20当量/HA二糖)を添加した。懸濁液を40℃で24時間インキュベートし、その後、濾過し、得られた固体を70w/w% EtOHで洗浄し、EtOHで洗浄し、その後、真空中で終夜乾燥させた。アセチル化されたゲルを0.25M NaOH中に溶解させ、60分間撹拌し、その後、1.2M HClを用いて中和した。中和後、ゲルをエタノール中に沈殿させ、エタノール(70w/w%)で洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。乾燥したゲルを、0.7% NaCl中リン酸緩衝液中、少なくとも2時間にわたって膨潤させた。
【0189】
対照実験として(実施例8-3)、HA(310kDa)をMeOHに懸濁させ、Ac2O(20当量/HA二糖)を添加した。懸濁液を40℃で24時間インキュベートし、その後、濾過し、得られた固体を70w/w% EtOHで洗浄し、EtOHで洗浄し、その後、真空中で終夜乾燥させた。生成物を0.25M NaOH中に溶解させ、60分間撹拌し、その後、1.2M HClを用いて中和した。中和後、ゲルをエタノール中に沈殿させ、エタノール(70w/w%)で洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。得られた生成物のMwを分析した。結果がTable 8(表8)に要約されている。
【0190】
【表8】
【0191】
(実施例9)
ハイドロゲルの均一な再アセチル化
カップリング剤DMTMMをNa-リン酸緩衝液(pH7.4)中に溶解させ、pHを制御し、必要であれば調整した。その後、DMTMM溶液を脱アセチル化HAに添加した。懸濁液を3.5分間振とうすることによってホモジナイズし、へらを用いて又はフィルターを通して混合物を圧縮することによって混合した。反応混合物を、インキュベーター中に23℃で24時間置いた。インキュベーターから取り出すことによって反応を停止させ、ゲルを、へらを用いて混合した又は1mmのスチールメッシュに2回通して圧縮した。その後、得られた材料(pH>13)に0.25M NaOHを添加し、60分にわたって混合し、その後、1.2M HClを用いて中和した。中和後、ゲル粒子のサイズを、微細フィルターを通して縮小した。次いで、ゲルをEtOH中に沈殿させ、70w/w% EtOH及びEtOHで洗浄した。得られた材料を真空中で終夜乾燥させた。
【0192】
沈殿したゲル粉末を脱イオン水に添加し、60分放置して混合させた。トリエタノールアミン(1.5当量/HA二糖)及びAc2O(1当量/HA二糖)をゲル懸濁液に添加した。反応混合物を23℃で60分にわたって混合した。その後、アセチル化されたゲルに0.25M NaOHを添加し(pH>13)、45分にわたって混合し、その後、1.2M HClを用いて中和した。中和後、ゲルをEtOH中に沈殿させ、70w/w% EtOH+100mm NaCl、70w/w% EtOH、その後、EtOHで洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。乾燥したゲルを、Na-リン酸緩衝液中、室温で少なくとも2時間にわたって膨潤させ、次いで、粒子サイズを、微細フィルターを通して縮小した。
【0193】
対照実験として(実施例9-3)、脱アセチル化HA(1700kDa)を脱イオン水に添加し、60分放置して混合させた。トリエタノールアミン(1.2当量/HA二糖)及びAc2O(1当量/HA二糖)をHA混合物に添加した。反応混合物を23℃で60分にわたって混合し、その後、0.25M NaOHを添加し(pH>13)、40分にわたって混合し、その後、1.2M HClを用いて中和した。中和後、混合物をEtOH中に沈殿させ、70w/w% EtOH+100mm NaCl、70w/w% EtOH、その後、EtOHで洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。得られた生成物のMw及びDoAを分析した。結果がTable 9(表9)に要約されている。
【0194】
【表9】
【0195】
(実施例10)
架橋したHAゲルのアルカリ加水分解
カップリング剤DMTMMをNa-リン酸緩衝液(pH7.4)中に溶解させ、必要であれば、DMTMM混合物のpHを調整し、その後、溶液を脱アセチル化HAに添加した。反応混合物を3.5分間振とうすることによってホモジナイズし、へらを用いて又はフィルターを通して混合物を圧縮することによって混合した。反応混合物をウォーターバス中に35℃で24時間置いた。ウォーターバスから取り出すことによって反応を停止させ、ゲルを、へらを用いて小片に切った又はフィルターを通して圧縮した。
【0196】
ゲルを2つの部分に分割し、ゲルの一方の部分については、0.25M NaOHを用いてpH>13に調整し、約60分撹拌し、その後、1.2M HClを用いて中和した。中和後、ゲルをエタノール中に沈殿させ、エタノール(70w/w%)で洗浄し、その後、エタノールで洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。決定された場合、乾燥したゲルを、0.7% NaCl中リン酸緩衝液中、室温で少なくとも2時間にわたって膨潤させ、次いで、粒子サイズを、微細フィルターを通して縮小した。ゲルのpHを制御し、必要であれば7.2~7.5に調整した。
【0197】
ゲルの第2の部分は、水で希釈し、pHを6.5~7.5に調整した。中和後、ゲルを、エタノールを用いて沈澱させ、エタノール(70w/w%)で洗浄し、その後、エタノールで洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。決定された場合、乾燥したゲルを、0.7% NaCl中リン酸緩衝液中、室温で少なくとも2時間にわたって膨潤させ、次いで、粒子サイズを、微細フィルターを通して縮小した。ゲルのpHを制御し、必要であれば7.2~7.5に調整した。アルカリ処理を行って、架橋工程中にHA鎖間に形成された分子間エステル結合及び分子内エステル結合及び再アセチル化工程中に形成された潜在的なO-アセテート及び無水物、並びにカップリング試薬によって形成された残留する活性エステルを加水分解する。アルカリ加水分解により、材料においてアミド結合が排他的にもたらされる。
【0198】
対照実験として(実施例10-13~10-15、表10.3)、HAをNa-リン酸緩衝液(pH7.4)に添加した。反応混合物を3.5分間振とうすることによってホモジナイズし、フィルターを通して混合物を圧縮した。反応混合物を、ウォーターバス中に5℃、35℃又は50℃で24時間置いた。ウォーターバスから取り出すことによって反応を停止させ、フィルターを通して混合物を圧縮した。混合物を、0.25M NaOHを用いて60~100分にわたってpH>13に調整した。混合物を、1.2M HClを用いて中和した。中和後、HAをエタノールで沈殿させ、エタノール(70%)で洗浄し、エタノールで洗浄し、真空中で終夜乾燥させた。得られた生成物のMwを分析した。Table 10.1~10.3(表10~表12)に要約されている結果から、架橋後のアルカリ処理により、ゲルの膨潤性が増大し、CrDが低下することが示される。
【0199】
【表10】
【0200】
【表11】
【0201】
【表12】
【0202】
(実施例11)
N-((2R,3R,4S)-1,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-(トリチルオキシ)ヘキサン-2-イル)アセトアミドの調製
【0203】
【化1】
【0204】
室温のN-((2R,3S,5S)-2,4,5-トリヒドロキシ-6-トリチロキシメチル-テトラヒドロ-ピラン-3-イル)-アセトアミド(556mg、1.20mol、1.00当量)のTHF-H2O(20ml、4:1)混合物中溶液を固体水素化ホウ素ナトリウム(49.92mg、1.32mol、1.10当量)で処理した[ガス発生]。反応混合物を室温で2時間撹拌し、乾燥状態まで濃縮して、N-((2R,3R,4S)-1,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-(トリチルオキシ)ヘキサン-2-イル)アセトアミド(500mg、89.54%)を白色固体としてもたらし、それを、さらなる精製を伴わずに使用した。
LCMS: tR= 1.01分、純度= 100%; ES+、464.26(M-H)-
【0205】
(実施例12)
N-((2R,3R,4S)-1,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-(トリチルオキシ)ヘキサン-2-イル)アセトアミドの脱アセチル化
N-((2R,3R,4S)-1,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-(トリチルオキシ)ヘキサン-2-イル)アセトアミド(1当量)のヒドロキシルアミン(10体積)中懸濁液を、Table 11(表13)、実施例12-1~12-9に記載されている通り、酸添加剤で処理してpHを7まで低下させたか、又はその処理を行わなかった。混合物を80℃で脱アセチル化の完全な変換に到達するまで加熱した。N-((2R,3R,4S)-1,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-(トリチルオキシ)ヘキサン-2-イル)アセトアミドのヒドラジン(pH13)を実施例2と同じ条件で用いた脱アセチル化も実施例13-10として包含される。
【0206】
結果がTable 11(表13)に示されている。結果から、脱アセチル化手順が、ヒドロキシルアミンを用いるとヒドラジンを用いるよりも相当速く進行し、pH低下剤を添加することによって顕著に早く進行することが示される。
【0207】
【表13】
【0208】
反応混合物を、分取LCMSによって直接精製して、(2R,3R,4S)-2-アミノ-6-(トリチルオキシ)ヘキサン-1,3,4,5-テトラオールを白色固体としてもたらした。
LCMS: tR = 0.88分, 純度 = 99%; ES+, 422.11 (M-H)-.
1H NMR (DMSO-d6) δ: 7.47-7.37 (m, 6H), 7.30 (dd, J = 8.3, 6.7 Hz, 6H), 7.26-7.15 (m, 3H), 3.92 (m, 1H), 3.83-3.74 (m, 1H), 3.62-3.53 (m, 1H), 3.52-3.41 (m, 1H), 3.34-3.27 (m, 1H), 3.22-3.16 (m, 1H), 3.13-3.04 (m, 1H), 3.01-2.91 (m, 1H)
【0209】
(実施例13)
N-(4-アミノフェネチル)アセトアミドの調製
【0210】
【化2】
【0211】
4-(2-アミノエチル)アニリン(1.50g; 11.01mmol; 1.00当量)を無希釈p-酢酸クレシル(1.65g、11.0mmol、1.00当量)に添加し、反応混合物を室温で30時間にわたって撹拌した。得られたオレンジ色の溶液を直接シリカゲルに吸収させ、フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、DCM/MeOH 0~5%)によって精製して、N-(4-アミノフェネチル)アセトアミドをもたらした(1.76g、収率89.7%)
LCMS: tR = 0.58分, 純度 = 99.5%; ES+, 179.5 (M+H)+.
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 1.78 (s, 3H), 2.50 (m, 2H DMSOシグナルに隠れている) 3.14 (m, 2H), 4.83 (s, 2H), 6.49 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 6.84 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.82 (s, 1 H).
【0212】
(実施例14)
tert-ブチル(4-(2-アセトアミドエチル)フェニル)カルバメートの調製
【0213】
【化3】
【0214】
室温のN-[2-(4-アミノ-フェニル)-エチル]-アセトアミド(500mg、2.81mmol、1.00当量)のDCM(20ml)中撹拌溶液に、トリエチルアミン(0.51ml、3.65mmol、1.30当量)を添加し、その後、二炭酸ジ-tert-ブチル(673.48mg、3.09mmol、1.10当量)を添加した。反応混合物を室温で1時間撹拌し、水(5ml)、NaHSO4(水溶液)の飽和溶液(5ml)及び水(3×5ml)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、乾燥状態まで濃縮して、terf-ブチル(4-(2-アセトアミドエチル)フェニル)カルバメート(496mg、収率63%)を薄いオレンジ色の固体としてもたらした。
LCMS: tR = 1.11分, 純度 = 100%; ES+, 279.5 (M+H).
1H-NMR (DMSO-d6) δ 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 1.57 (s, 9H), 1.87 (s, 3H), 2.75-2.64 (m, 2H), 3.36-3.20 (m, 2H), 7.27-7.07 (m, 2H), 7.45 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.94 (t, J = 5.6 Hz, 1 H), 9.31 (s, 1 H).
【0215】
(実施例15)
NH2OH.HIの調製
0℃の50% NH2OH(水溶液)(9.28ml、0.15mol、1.00当量)の撹拌溶液に、57% HI(水溶液)を5分にわたり、pH7が実現されるまで慎重に滴下添加した。高密度の白色結晶固体が形成され、それを、濾過によって収集し、氷冷水で慎重に洗浄して、ヨウ化水素ヒドロキシルアミンをもたらした(6.80g、28%)。
【0216】
(実施例16)
NH2OH.TFAの調製
0℃の50% NH2OH(水溶液)(9.28ml、0.15mol、1.00当量)の撹拌溶液に、TFAを5分にわたりpH7が実現されるまで慎重に滴下添加した。反応混合物を窒素スパージング下で濃縮してトリフルオロ酢酸ヒドロキシルアミン(11.0g、98%)を透明な無色の油としてもたらした。
【0217】
(実施例17)
NH2OH及びその塩と、NH2NH2.H2O及びNaOH等の一般に使用されるアミド基転移剤の比較試験
【0218】
【化4】
【0219】
tert-ブチル(4-(2-アセトアミドエチル)フェニル)-カルバメート(50mg、0.18mmol)の選択された溶媒(5体積)中撹拌溶液/懸濁液に塩(5当量)を添加し、得られた混合物を80℃で完全な反応に必要な時間にわたって加熱した。結果がTable 12(表14)に要約されている。
LCMS: tR = 0.81分, 純度 = 100%; ES+, 237.51 (M+H)+.
1H-NMR (DMSO-d6) δ 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.26 (s, 1 H), 8.40 (s, 1 H), 7.38 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.11 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 2.89 (m, 2H), 2.80-2.63 (m, 2H), 1.47 (s, 9H) (ギ酸塩として単離).
【0220】
【表14】
図1
図2