(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220118BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220118BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220118BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220118BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20220118BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220118BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220118BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
H01M10/0585
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2018558965
(86)(22)【出願日】2017-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2017043748
(87)【国際公開番号】W WO2018123479
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2016252792
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017102754
(32)【優先日】2017-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊広
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/020654(WO,A1)
【文献】特開2013-140762(JP,A)
【文献】特開2012-209256(JP,A)
【文献】国際公開第2015/128982(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/175993(WO,A1)
【文献】特開2016-154140(JP,A)
【文献】特開2016-066570(JP,A)
【文献】特開2015-185290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/13- 4/62
H01B 1/06
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、
負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記固体電解質層は、主成分である第1固体電解質と、副成分である第2固体電解質とを含有し、
前記固体電解質層の平均気孔率は、9%以下であり、
前記正極層及び前記負極層の一方は、複数の活物質結晶粒が結合されることによって構成される焼結板であ
り、
前記第2固体電解質は、Li
3
AlF
6
及びNaI-LiBH
4
の少なくとも一方である、
リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記固体電解質層における前記第2固体電解質の平均含有率は、4wt%以上30wt%以下である、
請求項
1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記固体電解質層は、実質的に硫黄を含有しない、
請求項1
又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記正極層が前記焼結板であり、
前記活物質結晶粒は、リチウム複合酸化物によって構成される、
請求項1乃至
3のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記負極層が前記焼結板であり、
前記負極活物質結晶粒は、リチウム複合酸化物によって構成される、
請求項1乃至
3のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記正極層と前記固体電解質層との間に介挿される第1中間層を備え、
前記第1中間層は、酸化物系セラミックス材料、可塑性材料、又はこれらの組み合わせによって構成される、
請求項1乃至
3のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記負極層と前記固体電解質層との間に介挿される第2中間層を備え、
前記第2中間層は、酸化物系セラミックス材料、可塑性材料、又はこれらの組み合わせによって構成される、
請求項
6に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
正極層と負極層との間に配置された固体電解質層を備えるリチウムイオン電池の製造方法であって、
主成分である第1固体電解質と副成分である第2固体電解質とを含有する前記固体電解質層の成形体を形成する工程と、
前記成形体を緻密化することによって、平均気孔率が9%以下である前記固体電解質層を形成する工程と、
を備え、
前記正極層及び前記負極層の一方は、複数の活物質結晶粒が結合されることによって構成される焼結板であ
り、
前記第2固体電解質は、Li
3
AlF
6
及びNaI-LiBH
4
の少なくとも一方である、リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項9】
前記固体電解質層を形成する工程では、前記成形体を加圧して前記第2固体電解質を塑性変形させることによって前記成形体を緻密化する、
請求項
8に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項10】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記第1電極は、活物質と第1固体電解質と第2固体電解質とを含有し、
前記第1電極の平均気孔率は、9%以下であり、
前記第2電極は、複数の活物質結晶粒が結合されることによって構成される焼結板であ
り、
前記第2固体電解質は、Li
3
AlF
6
及びNaI-LiBH
4
の少なくとも一方である、
リチウムイオン電池。
【請求項11】
前記第1電極は、正極層であり、
前記正極層における前記第1固体電解質と前記第2固体電解質との合計含有率は、30wt%以上であり、
前記正極層における前記第2固体電解質の平均含有率は、4wt%以上20wt%以下である、
請求項
10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記第1電極は、負極層であり、
前記負極層における前記第1固体電解質と前記第2固体電解質との合計含有率は、30wt%以上であり、
前記負極層における前記第2固体電解質の平均含有率は、4wt%以上20wt%以下である、
請求項
10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項13】
第1電極と第2電極との間に配置された固体電解質層を備えるリチウムイオン電池の製造方法であって、
活物質と第1固体電解質と第2固体電解質とを含有する前記第1電極の成形体を形成する工程と、
前記第1電極の成形体を緻密化することによって、平均気孔率が9%以下である前記第1電極を形成する工程と、
を備え、
前記第2電極は、複数の活物質結晶粒が結合されることによって構成される焼結板であ
り、
前記第2固体電解質は、Li
3
AlF
6
及びNaI-LiBH
4
の少なくとも一方である、
リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体電解質を用いたリチウムイオン電池の研究開発が盛んである。リチウムイオン電池は、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、イオン伝導体を含む固体電解質層とを備える。
【0003】
このようなリチウムイオン電池を焼結法で作製する場合、焼成温度が高いと、正極層中又は負極層中の活物質と固体電解質層中のイオン伝導体とが反応して高抵抗層が形成されるおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1では、焼成温度を700℃まで低下させるために、粒径比が制御されたイオン伝導体と焼結助剤とを含む固体電解質層用材料を用いることが提案されている。特許文献1では、イオン伝導の主体であるイオン伝導体の含有率を多くしてイオン伝導度を向上させるために、イオン伝導体に対する焼結助剤の含有率が3.5wt%以下に抑えられている。
【0005】
また、特許文献2では、電極(正極層又は負極層)と固体電解質層との間におけるイオン伝導性を向上させるために、固体電解質層を構成する固体電解質を電極に含有させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-18634号公報
【文献】特開2007-258165号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2のリチウムイオン電池では、期待されたほどリチウムイオン電池の内部抵抗を低減できなかった。
【0008】
本発明者等が鋭意検討した結果、特許文献1では固体電解質層におけるイオン伝導体の含有率を多くすることでイオン伝導度の向上を図っているが、イオン伝導度を向上させて内部抵抗を低減させるには、イオン伝導体の含有率を高めるよりも、固体電解質層の気孔率を低くしてイオン伝導可能な領域を広げた方が有利であるという新たな知見を得た。
【0009】
同様に、本発明者等が鋭意検討した結果、特許文献2のように電極に固体電解質を含有させる場合には、電極の気孔率を低くすることによってリチウムイオン電池の内部抵抗を低減できるという新たな知見を得た。
【0010】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであり、内部抵抗を低減可能なリチウムイオン電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るリチウムイオン電池は、正極層と、負極層と、正極層と負極層との間に配置される固体電解質層とを備える。固体電解質層は、主成分である第1固体電解質と、副成分である第2固体電解質とを含有する。固体電解質層の平均気孔率は、9%以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内部抵抗を低減可能なリチウムイオン電池及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】リチウムイオン電池の構成を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(リチウムイオン電池100)
図1は、リチウムイオン電池100の構成を模式的に示す断面図である。板片状に構成されたチップ型のリチウムイオン電池100は、充放電によって繰り返し使用可能な二次電池(充電式電池)である。
【0015】
リチウムイオン電池100は、正極側集電層101、負極側集電層102、外装材103,104、集電接続層105、正極層106、固体電解質層107及び負極層108を含む。
【0016】
正極側集電層101、集電接続層105、正極層106、固体電解質層107、負極層108及び負極側集電層102は、積層方向Xにおいて順次積層されている。正極側集電層101、集電接続層105及び正極層106によって正極部110が構成される。負極側集電層102及び負極層108によって負極部120が構成される。
【0017】
1.正極側集電層101
正極側集電層101は、正極層106の外側に配置される。正極側集電層101は、集電接続層105を介して正極層106と機械的かつ電気的に接続される。正極側集電層101は、正極集電体として機能する。
【0018】
正極側集電層101は、金属によって構成することができる。正極側集電層101を構成する金属としては、ステンレス、アルミニウム、銅、白金、ニッケルなどが挙げられ、特にアルミニウム、ニッケル及びステンレスが好適である。正極側集電層101は、板状又は箔状に形成することができ、特に箔状が好ましい。従って、正極側集電層101としてアルミニウム箔、ニッケル箔、又は、ステンレス箔を用いることが特に好ましい。正極側集電層101が箔状に形成される場合、正極側集電層101の厚さは1μm以上30μm以下とすることができ、5μm以上25μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0019】
2.負極側集電層102
負極側集電層102は、負極層108の外側に配置される。負極側集電層102は、負極層108と機械的かつ電気的に接続される。負極側集電層102は、負極集電体として機能する。負極側集電層102は、金属によって構成することができる。負極側集電層102は、正極側集電層101と同様の材料によって構成することができる。従って、負極側集電層102としては、アルミニウム箔、ニッケル箔、又は、ステンレス箔を用いることが特に好ましい。負極側集電層102が箔状に形成される場合、負極側集電層102の厚さは1μm以上30μm以下とすることができ、5μm以上25μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0020】
3.外装材103,104
外装材103,104は、正極側集電層101と負極側集電層102の隙間を封止する。外装材103,104は、正極層106、固体電解質層107及び負極層108によって構成される単電池の側方を取り囲む。外装材103,104は、リチウムイオン電池100内への水分の侵入を抑制する。
【0021】
外装材103,104の抵抗率は、正極側集電層101と負極側集電層102の間の電気的絶縁性を確保するために1×106Ωcm以上が好ましく、1×107Ωcm以上がより好ましく、1×108Ωcm以上がさらに好ましい。このような外装材103,104は、電気絶縁性の封着材によって構成することができる。封着材としては、樹脂を含む樹脂系封着材を用いることができる。樹脂系封着材を用いることによって、外装材103,104の形成を比較的低温(例えば400℃以下)で行うことができるため、加熱によるリチウムイオン電池100の破壊や変質を抑制できる。
【0022】
外装材103,104は、樹脂フィルムの積層や液状樹脂のディスペンスなどによって形成することができる。
【0023】
4.集電接続層105
集電接続層105は、正極層106と正極側集電層101との間に配置される。集電接続層105は、正極層106を正極側集電層101に機械的に接合するとともに、正極層106を正極側集電層101に電気的に接合する。
【0024】
集電接続層105は、導電性材料と接着剤を含む。導電性材料としては、導電性カーボンなどを用いることができる。接着剤としては、エポキシ系などの樹脂材料を用いることができる。集電接続層105の厚さは特に制限されないが、5μm以上100μm以下とすることができ、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0025】
ただし、集電接続層105は、接着剤を含んでいなくてもよい。この場合、正極層106の裏面に集電接続層105(例えば金やアルミニウム)を直接成膜することで、集電接続層105と正極層106との電気的な接続を得ることができる。
【0026】
5.正極層106
正極層106は、板状に成形される。正極層106は、固体電解質側表面106aと集電接続層側表面106bとを有する。正極層106は、固体電解質側表面106aにおいて固体電解質層107に接続される。正極層106は、集電接続層側表面106bにおいて集電接続層105に接続される。固体電解質側表面106aと集電接続層側表面106bそれぞれは、正極層106の「板面」である。固体電解質側表面106aは、正極層106の断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって観察した場合に、正極層106と固体電解質層107との界面を最小二乗法によって直線近似した線によって規定される。集電接続層側表面106bは、正極層106の断面をSEMによって観察した場合に、正極層106と集電接続層105との界面を最小二乗法によって直線近似した線によって規定される。
【0027】
正極層106の厚みは特に制限されないが、20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。特に、正極層106の厚みを50μm以上にすることによって、単位面積当りの活物質容量を十分に確保してリチウムイオン電池100のエネルギー密度を高めることができる。また、正極層106の厚みの上限値は特に制限されないが、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の上昇)の抑制を考慮すると、200μm未満が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0028】
正極層106の板面に平行な方向(以下、「板面方向」という。)における膨張収縮率は、0.7%以下に抑えられていることが好ましい。このように、正極層106の膨張収縮率が十分に低ければ、リチウムイオン電池100のレート特性の向上を目的として正極層106の厚みを30μm以下にしたとしても、固体電解質層107の欠陥又は/及び正極層106の剥離を抑制することができる。従って、正極層106の厚みは、リチウムイオン電池100の放電容量と正極層106の膨張収縮率を考慮して適宜設定することができる。
【0029】
正極層106は、複数の正極活物質結晶粒(一次粒子)が結合することによって構成された焼結板であることが好ましい。これにより、気相法によって形成される膜に比べて厚みを大きくできるため、リチウムイオン電池100の容量及びエネルギー密度を向上させることができる。また、正極層106の組成を原料の秤量によって調整できるため、気相法によって形成される膜に比べて高精度に組成を制御できる。
【0030】
正極活物質結晶粒は、主に板状に形成されるが、直方体状、立方体状及び球状などに形成されたものが含まれていてもよい。正極活物質結晶粒は、リチウム複合酸化物によって構成される。リチウム複合酸化物とは、LixMO2(0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にCo,Ni,Mnのうちの1種以上を含む。)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は、層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち、酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的には、α-NaFeO2型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。
【0031】
リチウム複合酸化物としては、例えば、LixCoO2(コバルト酸リチウム)、LixNiO2(ニッケル酸リチウム)、LixMnO2(マンガン酸リチウム)、LixNiMnO2(ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixNiCoO2(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LixCoNiMnO2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixCoMnO2(コバルト・マンガン酸リチウム)などが挙げられ、LixCoO2が特に好ましい。
【0032】
なお、リチウム複合酸化物には、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi、Wなどのうち一種以上の元素が含まれていてもよい。
【0033】
正極活物質結晶粒は、リチウムイオンの伝導方向に配向されていることが好ましい。具体的には、正極活物質結晶粒の(003)面が、積層方向Xに配向されていることが好ましい。これによって、リチウムイオンの蓄積時及び放出時における抵抗を低減できるため、高入力時(すなわち、充電時)に多くのリチウムイオンを放出できるとともに、高出力時(すなわち、放電時)に多くのリチウムイオンを蓄積することができる。
【0034】
6.固体電解質層107
固体電解質層107は、主成分である第1固体電解質と、副成分である第2固体電解質とを含有する。固体電解質層107において、第1固体電解質は母材であり、第2固体電解質は添加材であるといってもよい。
【0035】
(1)第1固体電解質
第1固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する酸化物系セラミックス材料である。第1固体電解質としての酸化物系セラミックス材料には、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、リン酸系セラミックス材料、及びゼオライト系材料の群から選択される少なくとも一種を用いることができる。
【0036】
ガーネット系セラミックス材料としては、Li-La-Zr-O材料(具体的には、Li7La3Zr2O12など)及びLi-La-Ta-O材料(具体的には、Li7La3Ta2O12など)が挙げられる。
【0037】
窒化物系セラミックス材料の例としては、Li3N、LiPON(具体的には、LixPOyNz(2≦x≦4、3≦y≦5、0.1≦z≦0.9))などが挙げられる。
【0038】
ペロブスカイト系セラミックス材料の例としては、Li-La-Ti-O材料(具体的には、LiLa1-xTixO3(0.04≦x≦0.14))などが挙げられる。
【0039】
リン酸系セラミックス材料の例としては、Li-Al-Ti-P-O材料(具体的には、Li(Al,Ti)2(PO4)3),Li-Al-Ge-P-O材料(具体的には、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3など)、及びLi-Al-Ti-Si-P-O材料(具体的には、Li1+x+yAlxTi2-xSiyP3―yO12(0≦x≦0.4、0<y≦0.6)など)が挙げられる。
【0040】
固体電解質層107における第1固体電解質の平均含有率は、70wt%以上96wt%以下とすることができる。第1固体電解質の平均含有率は、固体電解質層107の断面において、厚み方向(積層方向Xと同じ)に固体電解質層107を5等分する4箇所で第1固体電解質の含有率を測定し、それを算術平均することによって得られる。各箇所における第1固体電解質の含有率は、エネルギー分散型X線分光分析装置(EDS)を用いた元素分析によって測定される。
【0041】
(2)第2固体電解質
第2固体電解質は、酸化物系セラミックス材料、可塑性材料、又はこれらの組み合わせである。第2固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有していてもよいし、リチウムイオン伝導性を有していなくてもよい。第2固体電解質がリチウムイオン伝導性を有する場合、第2固体電解質のリチウムイオン伝導度は、第1固体電解質のリチウムイオン伝導度より低くてもよい。
【0042】
a.酸化物系セラミックス材料
第2固体電解質としての酸化物系セラミックス材料には、一般式LixAOy(ただし、Aは、B、C、Cl、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、又は、Wであり、x及びyは正の整数である。)で表されるものを用いることができる。具体的には、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3ClO、LiPO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4の群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0043】
第2固体電解質として酸化物系セラミックス材料を用いる場合、焼結法によって固体電解質層107を作製することができる。この場合、第2固体電解質は、第1固体電解質の液相焼結を促進させる焼結助剤として機能する。第2固体電解質である酸化物系セラミックス材料の融点は、600℃以下であることが好ましい。これによって、比較的低温で焼成できるため、正極層106中又は負極層108中の活物質と第1又は第2固体電解質とが反応して高抵抗層が形成されてしまうことを抑制できる。その結果、リチウムイオン電池100の容量低下を抑えることができる。
【0044】
第2固体電解質として酸化物系セラミックス材料を用いる場合、固体電解質層107における第2固体電解質の平均含有率は、4wt%以上が好ましく、10wt%以上がより好ましく、15wt%以上が特に好ましい。これによって、液相焼結した第1固体電解質の隙間に第2固体電解質を十分に充填させることができるため、後述するように、固体電解質層107を緻密化することができる。
【0045】
また、第2固体電解質として酸化物系セラミックス材料を用いる場合、固体電解質層107における第2固体電解質の平均含有率は、30wt%以下が好ましく、25wt%以下がより好ましく、20wt%以下が特に好ましい。これによって、第2固体電解質のリチウムイオン伝導度が低い場合であっても、固体電解質層107全体としてのリチウムイオン伝導度を維持することができる。
【0046】
固体電解質層107における第2固体電解質としての酸化物系セラミックス材料の平均含有率は、固体電解質層107の断面において、厚み方向に固体電解質層107を5等分する4箇所で酸化物系セラミックス材料の含有率を測定し、それを算術平均することによって得られる。各箇所における酸化物系セラミックス材料の含有率は、エネルギー分散型X線分光分析装置(EDS)を用いた元素分析によって測定される。
【0047】
b.可塑性材料
第2固体電解質としての可塑性材料には、ガラス材料、六フッ化アルミニウムリチウム(Li3AlF6)、NaI-LiBH4などを用いることができる。
【0048】
ガラス材料としては、Bi2O3、B2O3、又はこれらの混合物を用いることができる。第2固体電解質としてガラス材料を用いる場合、第1固体電解質と第2固体電解質との混合物を第2固体電解質の軟化点以上に加熱することによって、固体電解質層107を作製することができる。この場合、第2固体電解質であるガラス材料は、塑性変形することによって第1固体電解質の隙間に広がる。第2固体電解質の軟化点は、600℃以下であることが好ましい。これによって、正極層106中又は負極層108中の活物質と第1又は第2固体電解質とが反応して高抵抗層が形成されることを抑制できる。
【0049】
第2固体電解質としてLi3AlF6及び/又はNaI-LiBH4を用いる場合には、電気泳動堆積(EPD:Electrophoretic Deposition)法を用いて第1固体電解質と第2固体電解質との混合物を堆積させた後に加圧することによって、固体電解質層107を作製することができる。この場合、第2固体電解質であるLi3AlF6及びNaI-LiBH4は、塑性変形することによって第1固体電解質の隙間に広がる。Li3AlF6及びNaI-LiBH4は、20℃以上で可塑性を有するため、加熱することなく固体電解質層107を作製することができる。そのため、正極層106中又は負極層108中の活物質と第1又は第2固体電解質とが反応して高抵抗層が形成されることを抑制できる。
【0050】
また、第2固体電解質が潮解性を有する場合には、第1固体電解質と第2固体電解質との混合物を加圧する際の雰囲気湿度を高めることが有効である。これによって、正極層106と固体電解質層107との間に良好な界面を形成することができる。
【0051】
第2固体電解質として可塑性材料を用いる場合、固体電解質層107における第2固体電解質の平均含有率は、4wt%以上が好ましく、10wt%以上がより好ましく、15wt%以上が特に好ましい。これによって、第1固体電解質の隙間に第2固体電解質を十分に充填させることができるため、固体電解質層107を緻密化することができる。
【0052】
また、第2固体電解質として可塑性材料を用いる場合、固体電解質層107における第2固体電解質の平均含有率は、30wt%以下が好ましく、25wt%以下がより好ましく、20wt%以下が特に好ましい。これによって、第2固体電解質である可塑性材料がリチウムイオン伝導性を有さない場合であっても、固体電解質層107全体としてのリチウムイオン伝導性が低下することを抑制できる。
【0053】
固体電解質層107における可塑性材料の平均含有率は、固体電解質層107の断面において、厚み方向に固体電解質層107を5等分する4箇所で可塑性材料の含有率を測定し、それを算術平均することによって得られる。各箇所における可塑性材料の含有率は、エネルギー分散型X線分光分析装置(EDS)を用いた元素分析によって測定される。
【0054】
(3)固体電解質層107の構成
固体電解質層107の平均気孔率は、9%以下である。すなわち、固体電解質層107の平均緻密度は、91%以上である。このように、固体電解質層107の平均気孔率を十分低くしてイオン伝導可能な領域を広げることによって、イオン伝導体の含有率を高める以上に、固体電解質層107のイオン伝導度を向上させることができるため、リチウムイオン電池100の内部抵抗を低減させることができる。固体電解質層107の平均気孔率は、7%以下が好ましく、5%以下が特に好ましい。
【0055】
固体電解質層107の平均気孔率は、固体電解質層107の断面において、厚み方向に固体電解質層107を5等分する4箇所で気孔率を測定し、それを算術平均することによって得られる。気孔率は、各測定箇所において20000倍率のSEM(電子顕微鏡)画像を取得し、固体電解質層107内における気孔の合計面積を固体電解質層107全体の面積で除することによって算出される。
【0056】
固体電解質層107は、実質的に硫黄を含有しないことが好ましい。実質的に硫黄を含有しないとは、固体電解質層107における硫黄の平均含有率が0.1wt%以下であることを意味する。これによって、リチウムイオン電池100の外部から水分が侵入した場合に、固体電解質層107から有毒ガスが発生することを抑制できる。
【0057】
固体電解質層107における硫黄の平均含有率は、0.01wt%以下がより好ましく、0.001wt%以下が特に好ましい。固体電解質層107における硫黄の平均含有率は、固体電解質層107の断面において、厚み方向に固体電解質層107を5等分する4箇所で硫黄の含有率を測定し、それを算術平均することによって得られる。各箇所における硫黄の含有率は、エネルギー分散型X線分光分析装置(EDS)を用いた元素分析によって測定される。
【0058】
固体電解質層107の厚さは、リチウムイオン伝導性の向上という観点からは薄いことが好ましいが、充放電時の信頼性(欠陥及びクラックの抑制、セパレータとしての機能など)を考慮して適宜設定することができる。固体電解質層107の厚さは、例えば1μm以上1000μm以下とすることができる。固体電解質層107の厚さは、10μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下が特に好ましい。
【0059】
7.負極層108
負極層108は、固体電解質層107上に配置される。負極層108は、負極活物質を含有する。負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出できるものであればよい。負極活物質としては、例えば、炭素質材料やリチウム吸蔵物質などを用いることができる。
【0060】
炭素質材料としては、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、及び活性炭などが挙げられる。なお、黒鉛の一部は、リチウムと合金化し得る金属や酸化物などと置き換えられてもいよい。負極活物質として炭素質材料を用いる場合、負極層108の厚みは、10μm以上500μm以下とすることができる。
【0061】
リチウム吸蔵物質としては、金属リチウム、金属リチウムと他の元素(ケイ素、スズ、インジウム等)とを含む合金、リチウムに近い低電位で充放電できるケイ素又はスズ等の酸化物、Li4Ti5O12(LTO)のようなリチウムとチタンとの酸化物、Li2.6Co0.4Nのようなリチウムとコバルトとの窒化物、及びTiO2(チタニア)などが挙げられる。リチウム吸蔵物質としてLTO又はTiO2を用いる場合、負極層108は、複数の負極活物質結晶粒(一次粒子)が結合することによって構成される焼結板であってもよい。なお、リチウム吸蔵物質の組成式は、リチウムイオンの吸蔵及び放出に応じて変わることは当然である。負極活物質としてリチウム吸蔵物質を用いる場合、負極層108の厚みは、10μm以上500μm以下とすることができる。
【0062】
負極活物質として炭素質材料やリチウム吸蔵物質を用いる場合、負極層108は、EPD法で作製することが好ましい。これによって、スパッタリング法やCVD法などに比べて低温で負極層108を作製できるため、負極層108中の活物質と固体電解質層107中の第1又は第2固体電解質とが反応して高抵抗層が形成されることを抑制できる。
【0063】
なお、負極層108の形成には、負極層108の材料に応じて、テープ成形法、印刷法、スピンコート法などを用いてもよい。
【0064】
また、負極層108には、箔状のリチウム吸蔵部材(Sn箔やLi箔など)を用いることができる。この場合、固体電解質層107上に箔状のリチウム吸蔵部材をプレス成形することによって、負極層108を作製することができる。この場合においても、負極層108中の活物質と固体電解質層107中の第1又は第2固体電解質とが反応して高抵抗層が形成されることを抑制できる。
【0065】
(他の実施形態)
(1)上記実施形態において、正極層106(第1電極の一例)は、正極活物質結晶粒によって構成されることとしたが、正極活物質に加えて、上述した固体電解質層107の構成物質(第1固体電解質と第2固体電解質)を含有していることが好ましい。これによって、正極層106と固体電解質層107との間におけるイオン伝導性を向上させることができるため、リチウムイオン電池100の内部抵抗を低減させることができる。この場合、正極層106における第1固体電解質と第2固体電解質との合計含有率は30wt%以上が好ましく、正極層106における第2固体電解質の平均含有率は4wt%以上20wt%以下が好ましい。これによって、正極層106の気孔率を、9%以下にすることができる。
【0066】
正極層106における第1固体電解質と第2固体電解質との合計含有率は、40wt%以上がより好ましく、50wt%以上が特に好ましい。正極層106における第2固体電解質の平均含有率は、5wt%以上15wt%以下がより好ましく、7wt%以上12wt%以下が特に好ましい。固体電解質層107の構成物質(第1固体電解質と第2固体電解質)を含有する正極層106は、固体電解質層107と同様の手法で作製することができる。
【0067】
(2)上記実施形態において、負極層108(第1電極の一例)は、炭素質材料やリチウム吸蔵物質などの負極活物質によって構成できることとしたが、負極活物質に加えて、上述した固体電解質層107の構成物質(第1固体電解質と第2固体電解質)を含有していることが好ましい。これによって、負極層108と固体電解質層107との間におけるイオン伝導性を向上させることができるため、リチウムイオン電池100の内部抵抗を低減させることができる。この場合、負極層108における第1固体電解質と第2固体電解質との合計含有率は30wt%以上が好ましく、負極層108における第2固体電解質の平均含有率は4wt%以上20wt%以下が好ましい。これによって、負極層108の気孔率を、9%以下にすることができる。
【0068】
負極層108における第1固体電解質と第2固体電解質との合計含有率は、40wt%以上がより好ましく、50wt%以上が特に好ましい。負極層108における第2固体電解質の平均含有率は、10wt%以上15wt%以下が特に好ましい。固体電解質層107の構成物質(第1固体電解質と第2固体電解質)を含有する負極層108は、固体電解質層107と同様の手法で作製することができる。
【0069】
(3)上記実施形態では、正極層106と固体電解質層107とが直接接触することとしたが、これに限られるものではない。正極層106と固体電解質層107との間には、固体電解質層107の第2固体電解質として用いることのできる固体電解質(酸化物系セラミックス材料、可塑性材料、又はこれらの組み合わせ)によって構成される第1中間層が介挿されていてもよい。第1中間層を構成する固体電解質は、固体電解質層107が副成分として含有する第2固体電解質と異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。第1中間層の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上5μm以下とすることができる。このような第1中間層を介挿することによって、正極層106と固体電解質層107との密着性が向上するため、正極層106と固体電解質層107との間の抵抗を低減させることができる。
【0070】
(4)上記実施形態では、負極層108と固体電解質層107とが直接接触することとしたが、これに限られるものではない。負極層108と固体電解質層107との間には、固体電解質層107の第2固体電解質として用いることのできる固体電解質(酸化物系セラミックス材料、可塑性材料、又はこれらの組み合わせ)によって構成される第2中間層が介挿されていてもよい。第2中間層を構成する固体電解質は、固体電解質層107が副成分として含有する第2固体電解質と異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。第2中間層の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上5μm以下とすることができる。このような第2中間層を介挿することによって、負極層108と固体電解質層107との密着性が向上するため、負極層108と固体電解質層107との間の抵抗を低減させることができる。
【0071】
(5)上記実施形態では特に触れていないが、正極層106と固体電解質層107との間には、公知の有機電解液が介挿されていてもよい。これによって、正極層106と固体電解質層107との接合性を向上させることができる。同様に、負極層108と固体電解質層107との間には、公知の有機電解液が介挿されていてもよい。これによって、負極層108と固体電解質層107との接合性を向上させることができる。
【0072】
(6)上記実施形態では特に触れていないが、正極層106、固体電解質層107及び負極層108の少なくとも1つは、公知の有機電解液を含有していてもよい。これによって、有機電解液を含有する層を構成する粒子どうしの接合性を向上させることができる。有機電解液を含有する層における有機電解液の含有率は特に制限されないが、9%以下とした場合には、気孔内に有機電解液を配置することができるため好ましい。有機電解液を含有する層における有機電解液の含有率は、各層の断面において、厚み方向に各層を5等分する4箇所で有機電解液の含有率を測定し、それを算術平均することによって得られる。有機電解液の含有率は、各測定箇所において20000倍率のSEM画像を取得し、当該SEM画像内における有機電解液の合計面積を層全体の面積で除することによって算出される。
【実施例】
【0073】
以下において本発明に係るリチウムイオン電池の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0074】
1.固体電解質層の緻密化試験
(実施例1~8)
以下のようにして、実施例1~8に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0075】
1.正極層の作製
Co3O4原料粉末(体積基準D50粒径0.8μm、正同化学工業株式会社製)とLi2CO3原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル製)を混合し、800℃で5時間焼成することでLiCoO2原料粉末を合成した。
【0076】
次に、得られたLiCoO2粉末を粉砕することによって板状LiCoO2粒子(LCOテンプレート粒子)を得た。また、マトリックス粒子として、Co3O4(CoO)原料粉末(正同化学工業株式会社製)を準備した。
【0077】
次に、LCOテンプレート粒子とCoOマトリックス粒子の混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに粘度を400010000cPに調整することによってスラリーを調製した。
【0078】
次に、PETフィルムから剥がしたグリーンシートをジルコニア製セッターに載置して一次焼成することによってCo3O4焼結板を得た。そして、Co3O4焼結板をリチウムシートで上下挟み込んだ状態でジルコニアセッター上に載せて二次焼成することによって、正極層としてのLiCoO2(LCO)焼結板を得た。LCO焼結板の厚みは50μmであった。
【0079】
2.固体電解質層の成形体の作製
表1に示す主成分(第1固体電解質)と副成分(第2固体電解質)との混合物を得た。実施例1~5では、主成分としてLi(Al,Ti)2(PO4)3(LATP)を用い、副成分としてLi4SiO4-Li3BO3(30wt%:70wt%)を用いた。実施例6では、主成分としてLi7La3Ta2O12(LLT)を用い、副成分としてLi4SiO4-Li3BO3(30wt%:70wt%)を用いた。実施例7では、主成分としてLATPを用い、副成分としてLiPO3を用いた。実施例8では、主成分としてLATPを用い、副成分としてLi3BO3を用いた。実施例1~8の副成分は、酸化物系セラミックス材料である。なお、副成分の混合割合は、表1に記載のとおり、3~40wt%の間で変更した。
【0080】
次に、得られた混合物をLiCoO2焼結板の表面に印刷することによって、固体電解質層の成形体を作製した。
【0081】
3.負極層の成形体の作製
活物質としてのLi4Ti5O12(LTO)粉末と固体電解質層の主成分と固体電解質層の副成分との混合物を得た。なお、副成分の混合割合は、表1に記載のとおり、4~20wt%の間で変更した。
【0082】
次に、得られた混合物を固体電解質層の成形体の表面に印刷することによって、負極層の成形体を作製した。
【0083】
4.焼成
正極層、固体電解質層の成形体及び負極層の成形体の積層体を一括して焼成することによって、固体電解質層及び負極層を形成した。正極層の厚みは50μmであった。固体電解質層の厚みは20μmであった。
【0084】
実施例1~6では、副成分であるLi4SiO4-Li3BO3の融点が550℃であるため、焼成温度を600℃とした。実施例7では、副成分であるLiPO3の融点が660℃であるため、焼成温度を700℃とした。実施例8では、副成分であるLi3BO3の融点が715℃であるため、焼成温度を750℃とした。
【0085】
(実施例9,10)
正極層と固体電解質層の成形体との積層体を焼成して固体電解質層を形成した後に、箔状の負極層を固体電解質層上にプレス成形した以外は、実施例1~6と同様の工程により実施例9,10に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0086】
実施例9では、固体電解質層の主成分にLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3(LAGP)を用い、副成分にLi4SiO4-Li3BO3を用いた。実施例9では、主成分と副成分とを70wt%:30wt%の割合で混合した。実施例10では、固体電解質層の主成分にLi7La3Zr2O12(LLZ)を用い、副成分にLi3ClOを用いた。実施例10では、主成分と副成分とを90wt%:10wt%の割合で混合した。Li3ClOの融点は350℃であるため、実施例10における焼成温度は350℃とした。
【0087】
(実施例11)
カーボン粉末と固体電解質層の主成分及び副成分との混合物を固体電解質層上に印刷することによって負極層を形成した以外は、実施例10と同様の工程により実施例11に係るリチウムイオン電池を作製した。実施例11の負極層では、カーボン粉と固体電解質層の主成分であるLLZと副成分であるLi3ClOとを50wt%:40wt%:10wt%の割合で混合した。
【0088】
(実施例12)
正極層、固体電解質層の成形体及び負極層の成形体の積層体を一括して一軸プレス(室温、200MPa)することによって固体電解質層及び負極層を形成した以外は、実施例1~8と同様の工程により実施例12に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0089】
実施例12では、固体電解質層の主成分としてLAGPを用い、副成分としてLi3AlF6を用いた。実施例12では、主成分と副成分とを90wt%:10wt%の割合で混合した。実施例12の副成分は、可塑性材料である。
【0090】
実施例12では、LAGPとLi3AlF6との混合物を、正極層上にEPD法を用いて堆積させることによって、固体電解質層の成形体を形成した。また、LTO粉末とLAGPとLi3AlF6との混合物を、固体電解質層の成形体上にEPD法を用いて堆積させることによって、負極層の成形体を形成した。実施例12の負極層では、LTO粉末と固体電解質層の主成分であるLAGPと副成分であるLi3AlF6とを50wt%:45wt%:5wt%の割合にした。
【0091】
(実施例13)
固体電解質層の副成分としてBi2O3-B2O3(90wt%:10wt%)を用いた以外は、実施例9と同様の工程により実施例13に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0092】
副成分として用いたBi2O3-B2O3は、可塑性材料である。Bi2O3-B2O3の軟化点は389℃であるため、加熱温度は400℃とした。
【0093】
(実施例14~18)
固体電解質層の主成分としてLAGPを用い、副成分としてNaI-LiBH4(99wt%:1wt%)を用いた以外は、実施例12と同様の工程により実施例14~18に係るリチウムイオン電池を作製した。副成分として用いたNaI-LiBH4は、可塑性材料である。
【0094】
実施例14~18では、LAGPとNaI-LiBH4との混合物を、正極層上にEPD法を用いて堆積させることによって、固体電解質層の成形体を形成した。また、LTO粉末とLAGPとNaI-LiBH4との混合物を、固体電解質層の成形体上にEPD法を用いて堆積させることによって、負極層の成形体を形成した。実施例14~18の負極層では、LTO粉末と固体電解質層の主成分であるLAGPと副成分であるNaI-LiBH4とを50wt%:45wt%:5wt%の割合にした。
【0095】
(実施例19)
正極層と固体電解質層との間に、固体電解質層の副成分であるLi4SiO4-Li3BO3(30wt%:70wt%)によって構成される第1中間層(厚み1μm)を介挿し、負極層と固体電解質層との間に、固体電解質層の副成分であるLi4SiO4-Li3BO3(30wt%:70wt%)によって構成される第2中間層(厚み1μm)を介挿した以外は、実施例2と同様の工程により実施例19に係るリチウムイオン電池を作製した。ただし、実施例19では、LTO焼結板を負極層として用いた。
【0096】
(実施例20)
正極層と固体電解質層との間に、固体電解質層の副成分であるLi3AlF6によって構成される第1中間層(厚み2μm)を介挿し、負極層と固体電解質層との間に、固体電解質層の副成分であるLi3AlF6によって構成される第2中間層(厚み2μm)を介挿した以外は、実施例12と同様の工程により実施例20に係るリチウムイオン電池を作製した。ただし、実施例20では、主成分と副成分とを70wt%:30wt%の割合で混合し、LTO焼結板を負極層として用いた。
【0097】
(比較例1,2)
固体電解質層に副成分を添加しなかった以外は、実施例1と同様の工程により比較例1,2に係るリチウムイオン電池を作製した。ただし、比較例1では焼成温度を500℃とし、比較例2では焼成温度を900℃とした。
【0098】
(固体電解質層の平均気孔率の測定)
CP研磨した固体電解質層の断面において、厚み方向に固体電解質層を5等分する4箇所で気孔率を測定し、それを算術平均することによって、実施例1~20及び比較例1~2それぞれの固体電解質層における平均気孔率を得た。固体電解質層の平均気孔率を表1にまとめて示す。
【0099】
なお、気孔率は、各測定箇所における20000倍率のSEM画像を取得し、固体電解質層内における気孔の合計面積を全体面積で除することによって算出した。
【0100】
(電池内部抵抗の測定)
交流インピーダンス法を用いて、実施例1~20及び比較例1~2それぞれの電池内部抵抗を室温にて測定した。電池内部抵抗の測定には、バイオロジック社製マルチポテンショガルバノスタットにバイオロジック社製周波数応答アナライザを接続したものを用いた。測定結果を表1にまとめて示す。
【0101】
【0102】
表1に示すように、実施例1~11,19では、固体電解質層に含まれる第2固体電解質(酸化物系セラミックス材料)の融点以上で焼成することによって固体電解質層を緻密化できたため、固体電解質層の平均気孔率を9%以下にすることができた。また、実施例12~18,20では、固体電解質層に含まれる第2固体電解質(可塑性材料)を塑性変形させることによって固体電解質層を緻密化できたため、固体電解質層の平均気孔率を9%以下にすることができた。
【0103】
一方、比較例1,2では、固体電解質層が第2固体電解質を含有しておらず、固体電解質層を緻密化できなかったため、固体電解質層の平均気孔率は30%以上であった。
【0104】
そのため、実施例1~20では、比較例1~2に比べて、固体電解質層のイオン伝導性を向上させることによって電池内部抵抗を低減できた。
【0105】
特に、酸化物系セラミックス材料を固体電解質の第2固体電解質に用いた実施例1~11,19のうち焼成温度を600℃以下にした実施例1~6,9~11,19と、可塑性材料を固体電解質の第2固体電解質に用いた実施例12~18,20では、電池内部抵抗をより低減させることができた。これは、低温プロセスで固体電解質層を形成することによって、正極層又は負極層の活物質と固体電解質とが反応して高抵抗層が形成されることを抑制できたためである。
【0106】
また、酸化物系セラミックス材料を第2固体電解質に用い、かつ、焼成温度を600℃以下にした実施例1~6,9~11,19のうち、第2固体電解質の平均含有率を4wt%以上30wt%以下にした実施例1~3,6,9~11,19では、固体電解質層の平均気孔率を7%以下にすることができた。
【0107】
また、固体電解質層の第2固体電解質に可塑性材料を用いた実施例12~18,20のうち、第2固体電解質の平均含有率を4wt%以上30wt%以下にした実施例12~16,20では、固体電解質層の平均気孔率を7%以下にすることができた。
【0108】
また、固体電解質層の第2固体電解質によって構成される第1及び第2中間層が設けられた実施例19,20では、実施例2に比べて電池内部抵抗を更に低減することができた。これは、第1中間層によって正極層と固体電解質層との密着性を向上させ、また、第2中間層によって負極層と固体電解質層との密着性を向上させることができたためである。
【0109】
2.正極層及び負極層の緻密化試験
(実施例21,22)
LCO粉末と固体電解質層の主成分と固体電解質層の副成分との混合物をテープ成形法で成形することによって正極層の成形体を作製した以外は、実施例1と同様の工程により実施例21,22に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0110】
実施例21,22の正極層では、固体電解質層の主成分にLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3(LAGP)を用い、副成分にLi4SiO4-Li3BO3を用いた。実施例21では、LCO粉と固体電解質層の主成分と副成分とを、50wt%:46wt%:4wt%の割合で混合した。実施例22では、LCO粉と固体電解質層の主成分と副成分とを、70wt%:10wt%:20wt%の割合で混合した。
【0111】
実施例21,22では、正極層、固体電解質層及び負極層それぞれの成形体を積層して一括焼成することによって、正極層、固体電解質層及び負極層を同時に形成した。
【0112】
(実施例23~27)
LTO焼結板を負極層として用いた以外は、実施例21,22と同様の工程により実施例23~27に係るリチウムイオン電池を作製した。なお、正極層における正極活物質と固体電解質(主成分及び副成分)との混合割合は、表2に記載のとおり、実施例ごとに変更した。
【0113】
(実施例28~32)
LCO焼結板を正極層として用いた以外は、実施例21,22と同様の工程により実施例28~32に係るリチウムイオン電池を作製した。なお、負極層における負極活物質と固体電解質(主成分及び副成分)との混合割合は、表2に記載のとおり、実施例ごとに変更した。
【0114】
(比較例3)
LCO粉と固体電解質層の主成分と副成分とを50wt%:48wt%:2wt%の割合で混合することによって正極層の成形体を形成した以外は、実施例21と同様の工程により比較例3に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0115】
(比較例4)
LCO粉と固体電解質層の主成分と副成分とを50wt%:48wt%:2wt%の割合で混合することによって負極層の成形体を形成した以外は、実施例28と同様の工程により比較例4に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0116】
(正極層及び負極層の平均気孔率の測定)
CP研磨した正極層の断面において、厚み方向に正極層を5等分する4箇所で気孔率を測定し、それを算術平均することによって、実施例21~27の正極層における平均気孔率を得た。
【0117】
また、CP研磨した負極層の断面において、厚み方向に負極層を5等分する4箇所で気孔率を測定し、それを算術平均することによって、実施例21,22,28~32の負極層における平均気孔率を得た。
【0118】
なお、気孔率は、各測定箇所における20000倍率のSEM画像を取得し、固体電解質層内における気孔の合計面積を全体面積で除することによって算出した。
【0119】
(電池内部抵抗の測定)
交流インピーダンス法を用いて、実施例21~32及び比較例3~4それぞれの電池内部抵抗を室温にて測定した。電池内部抵抗の測定には、バイオロジック社製マルチポテンショガルバノスタットにバイオロジック社製周波数応答アナライザを接続したものを用いた。
【0120】
【0121】
実施例21~27では、正極活物質に固体電解質層の主成分と副成分を添加することによって正極層を緻密化できたため、正極層の気孔率を9%以下に抑えることができた。一方、比較例3では、正極活物質に対して添加された固体電解質層の副成分が少なく正極層を緻密化できなかったため、正極層の平均気孔率は10%であった。そのため、実施例21~27では、比較例3に比べて電池内部抵抗を低減できた。
【0122】
また、実施例21~27のうち第2固体電解質の平均含有率を4wt%以上20wt%以下にした実施例21~24では、電池内部抵抗を更に低減することができた。
【0123】
実施例21,22,28~32では、負極活物質に固体電解質層の主成分と副成分を添加することによって負極層を緻密化できたため、負極層の気孔率を9%以下に抑えることができた。一方、比較例4では、負極活物質に対して添加された固体電解質層の副成分が少なく負極層を緻密化できなかったため、負極層の平均気孔率は10%であった。そのため、実施例21,22,28~32では、比較例4に比べて電池内部抵抗を低減できた。
【0124】
また、実施例21,22,28~32のうち第2固体電解質の平均含有率を4wt%以上20wt%以下にした実施例21,22,28,29では、気孔率を6%以下に抑えるとともに、電池内部抵抗を更に低減することができた。
【符号の説明】
【0125】
100 リチウムイオン電池
101 正極側集電層
102 負極側集電層
103,104 外装材
105 集電接続層
106 正極層
107 固体電解質層
108 負極層