(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】腐食防止コーティング
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20220203BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20220203BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20220203BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20220203BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20220203BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20220203BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20220203BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220203BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20220203BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20220203BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220203BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/18
H01M8/0206
H01M8/0213
H01M8/0221
H01B1/24 A
H01B5/02 A
H01M4/66 A
C23C28/00 A
H01G11/68
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018564842
(86)(22)【出願日】2017-06-09
(86)【国際出願番号】 GB2017051697
(87)【国際公開番号】W WO2017212295
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2019-12-20
(32)【優先日】2016-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】505167543
【氏名又は名称】アイピー2アイピーオー イノベ-ションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】クサーナク、アンソニー ロバート ジョン
(72)【発明者】
【氏名】リピンスキー、ヤツェク
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-044233(JP,A)
【文献】特開2012-153800(JP,A)
【文献】特開2012-082383(JP,A)
【文献】特開2006-127939(JP,A)
【文献】特開2005-166442(JP,A)
【文献】国際公開第2015/104999(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0061184(US,A1)
【文献】特開平07-262822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0228
H01M 8/18
H01M 8/0206
H01M 8/0213
H01M 8/0221
H01B 1/24
H01B 5/02
H01M 4/66
C23C 28/00
H01G 11/68
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
元素炭素とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層と、スズの層、あるいはニッケル、アンチモン、インジウムまたはガリウムの1つ以上とスズとの二元もしくは三元スズ合金の層、あるいはスズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層とを含む導電性複合コーティングと、
を含む被覆した物品を含み、
前記スズの層、あるいは前記二元もしくは三元スズ合金の層、あるいは前記スズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層は、前記基板と直接接触しており、
前記導電性コーティング材料を含む層は、前記スズの層、あるいは前記二元もしくは三元スズ合金の層、あるいは前記スズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層の上にあ
り、
a)前記導電性コーティング材料を含む層が1~50μm厚さであり、かつ/または
b)前記スズの層、あるいは前記二元もしくは三元スズ合金の層、あるいは前記スズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層が1~20μm厚さであることを特徴とする電気化学的装置。
【請求項2】
前記導電性複合コーティングが、
元素炭素とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む2層以上の層と、
スズの層、あるいはニッケル、アンチモン、インジウムまたはガリウムの1つ以上とスズとの二元もしくは三元スズ合金の層、あるいはスズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層の2層以上の層と、
を含む請求項1に記載の電気化学的装置。
【請求項3】
前記導電性コーティング材料が、カーボンブラック、石炭、木炭、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンまたはそれらの混合物を含む元素炭素を含む請求項1または2に記載の電気化学的装置。
【請求項4】
前記導電性コーティング材料が有機バインダーをさらに含む請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学的装置。
【請求項5】
前記導電性コーティング材料が、前記元素炭素と前記有機バインダーとを含むカーボンインクを含む請求項4に記載の電気化学的装置。
【請求項6】
前記導電性コーティング材料が、前記元素炭素を50wt%~90wt%含む請求項1~5のいずれか1項に記載の電気化学的装置。
【請求項7】
前記アゾール含有腐食防止剤が、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、5-フェニルテトラゾール、ビス[4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,2,4-トリアゾール-3-イル]メタン、ビス[4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,2,4-トリアゾール-3-イル]ブタン、またはそれらの混合物である請求項1~6のいずれか1項に記載の電気化学的装置。
【請求項8】
前記導電性コーティング材料中の前記アゾール含有腐食防止剤の存在量が、前記元素炭素および前記有機バインダーの量の10wt%以下である請求項4または5に記載の電気化学的装置。
【請求項9】
前記導電性複合コーティングの面積固有電気抵抗(area specific electrical resistance)が10mΩcm
2未満である請求項1~
8のいずれか1項に記載の電気化学的装置
【請求項10】
前記基板が、金属基板、好ましくは銅、鉄、チタン、アルミニウム、ニッケルまたはステンレス鋼板基板である請求項1~
9のいずれか1項に記載の電気化学的装置。
【請求項11】
前記基板が、燃料電池アセンブリ、バッテリー、レドックスフロー電池、電解槽またはスーパーキャパシタの部品である請求項1~
10のいずれか1項に記載の電気化学的装置。
【請求項12】
基板を用意するステップと;
前記基板の表面上に、スズの層、あるいはニッケル、アンチモン、インジウムまたはガリウムの1つ以上とスズとの二元もしくは三元スズ合金の層、あるいはスズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層を堆積させるステップと、
前記スズの層、前記二元もしくは三元スズ合金の層、あるいは前記スズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層上に元素炭素とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層を堆積させるステップと、
を含むことを特徴とする電気化学的装置用の被覆した物品を提供する方法。
【請求項13】
前記元素炭素とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層上に、スズのさらなる層、あるいはニッケル、アンチモン、インジウムまたはガリウムの1つ以上とスズとの二元もしくは三元スズ合金のさらなる層、あるいはスズおよび前記二元もしくは三元スズ合金のさらなる層を堆積させるステップと、
前記スズのさらなる層、あるいは前記二元もしくは三元スズ合金のさらなる層、あるいは前記スズおよび前記二元もしくは三元スズ合金のさらなる層上に元素炭素とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含むさらなる層を前記基板の前記表面上に堆積させるステップと、
をさらに含む請求項
12に記載の電気化学的装置用の被覆した物品を提供する方法。
【請求項14】
電気化学的装置の基板または部品用の耐食コーティングとしての、元素炭素とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層と、スズの層、あるいはニッケル、アンチモン、インジウムまたはガリウムの1つ以上とスズとの二元もしくは三元スズ合金の層、あるいはスズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層とを含み、前記スズの層、あるいは前記二元もしくは三元スズ合金の層、あるいは前記スズおよび前記二元もしくは三元スズ合金の層が前記基板上に直接堆積されている導電性複合コーティングの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的装置の部品のための耐食コーティングの提供に使用する導電性複合コーティング、およびそれによる部品の被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、特に可塑平面(flexi-planar)プロトン交換膜(PEM)燃料電池の環境において、銅またはステンレス鋼板などの金属は、比較的短期間で急速に腐食するように見え、結果として、燃料電池の全体の稼働寿命が短い。しかしながら、これらの金属は、いくつかの利点があり、例えば、導電性および熱伝導性が高く、プリント回路基板(PCB)産業にて実施されているように、導体として銅を使用する複雑な構造を製造するのが容易である。腐食は、多くの理由から燃料電池の動作にとって有害であり、例えば、触媒を失活させ、電解質の動作を損なう可溶な金属イオンを放出するか、または腐食生成物が適切な電流フローを妨げる絶縁バリアをもたらす。
【0003】
可塑平面PEM燃料電池技術は、燃料電池の製造にPCBを採用する。構成要素の1つは、電流収集器として一般に知られている平板である。概して、電流収集器は、金属構造、例えば、具体的には成形したステンレス鋼板または複合板上の単一金属層(例えば銅)を有し得る。
【0004】
燃料電池の条件も、時間とともに変化し得、例えば、pHは1~6で変化し(より極端にはイオン伝導性膜と接触した際に)、膜の溶解によりイオンの濃度(例えばF-または有機種)も変化し得る。また、温度の変化は、特に燃料電池の起動、動作および停止の際に不可避なプロセスである。結果として、燃料電池の構成要素のいずれもむしろ不安定な条件に曝されている。
【0005】
したがって、これらの不安定な条件に耐え、構成要素を腐食から保護する保護コーティングを提供する必要がある。また、コーティングの緊密さは最重要である。
【0006】
それに加えて、コーティングは、燃料電池の動作中のIR降下を最小限にするために非常に良好な電気伝導性を有さなければならない。米国エネルギー省(DoE)は、燃料電池の被覆したバイポーラ板の最適な性能を、カソードおよびアノード側での腐食電流が1μAcm-2未満である耐食性および100Scm-1超の伝導率を有するものと特定する。さらに、PEM燃料電池用途の接触抵抗の目標を、2015年では、140N/cm2の圧密圧力にて10mΩcm2未満と設定する(Wind J,Spah R,Kaiser W,Bohm G.,Metallic bipolar plates for PEM fuel cells.J Power Sources 2002;105:256-260,その内容全体を参照により本明細書に援用する)。これらの要件は、コーティングの性能に対するかなり大きな需要をもたらす。
【0007】
したがって、燃料電池に使用される基板および部品のためのコーティングの改善が必要とされている。同様に、例えば、バッテリー、レドックスフロー電池、電解槽およびスーパーキャパシタの腐食保護コーティングの改善が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
使用される反応物質から生じる燃料電池の腐食電位は、適切なコーティングを燃料電池の部品に適用することによって顕著に減少し得る。本発明は、基板に塗布して腐食速度を最小限に減少させ、高い電気伝導および低い接触抵抗を維持することができるコーティングを提供する。
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、導電性複合コーティングを提供する。該導電性複合コーティングは、
炭素ベースの材料とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層と、
スズを含む層と、を含む。
【0010】
本発明の第1の態様に関しての導電性コーティング材料を含む層、炭素ベースの材料、アゾール含有腐食防止剤、およびスズを含む層についての以下の説明は、後述する本発明の第2~第8の態様に準用する。
【0011】
炭素ベースの材料としては、カーボンブラック、石炭、木炭、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブまたはグラフェンまたはそれらの混合物が挙げられ得る。
【0012】
導電性コーティング材料は、有機バインダーをさらに含み得る。好ましくは、有機バインダーは有機モノマーおよび/またはオリゴマーポリマー前駆体化合物を含む。導電性コーティング材料は、炭素ベースの材料と有機バインダーとを含むカーボンインクを含み得、それ故に炭素ベースの材料および有機バインダーがカーボンインクの成分である。導電性コーティング材料は炭素ベースの材料を、約50wt%~約90wt%、好ましくは約70~約90wt%または約80wt%含み得る。
【0013】
アゾール含有腐食防止剤は、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、5-フェニルテトラゾール、ビス[4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,2,4-トリアゾール-3-イル]メタンまたはビス[4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,2,4-トリアゾール-3-イル]ブタン、またはそれらの混合物であり得、好ましくはアゾール含有腐食防止剤はベンゾトリアゾールである。導電性コーティング材料中のアゾール含有腐食防止剤の存在量は、炭素ベースの材料および有機バインダーの量の約10wt%以下、好ましくは約5wt%以下、好ましくは約1wt%であり得る。炭素ベースの材料および有機バインダーがカーボンインクの成分として提供される場合、導電性コーティング材料中のアゾール含有腐食防止剤の存在量は、カーボンインクの量の約10wt%以下、好ましくは約5wt%以下、好ましくは約1wt%であり得る。
【0014】
スズを含む層は、スズ金属および/またはスズ合金、例えば、スズ-ニッケル合金、スズ-アンチモン合金、スズ-インジウム合金、スズ-ガリウム合金、スズ-インジウム-アンチモン合金またはスズ-ニッケル-アンチモン合金またはそれらの混合物を含み得る。
【0015】
導電性コーティング材料を含む層は、約1~約100μm厚さ、好ましくは約1~約50μm厚さ、好ましくは約1~約40μm厚さ、約5~約30μm厚さ、約5~約25μm厚さ、約10~約20μm厚さ、または約15~約20μm厚さであり得る。スズを含む層は、約1~約20μm厚さ、好ましくは約2~約15μm厚さ、または約5~約10μm厚さであり得る。
【0016】
導電性複合コーティングの面積固有電気抵抗(area specific electrical resistance)が約10mΩcm2未満であり得る。
【0017】
本明細書に記載の導電性複合コーティング材料は、コーティング基板、例えば、金属基板、好ましくは銅、鉄、チタン、アルミニウム、ニッケルまたはステンレス鋼板基板のコーティングに使用され得る。基板は、燃料電池アセンブリ、バッテリー、レドックスフロー電池、電解槽またはスーパーキャパシタなどの電気化学的装置の部品であり得る。
【0018】
第2の態様では、本発明は、被覆した物品を提供する。該物品は、
本明細書に記載の基板と、
炭素ベースの材料とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層と、スズを含む層とを含む導電性複合コーティングと、を含む。
【0019】
被覆した物品は、
炭素ベースの材料とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む2層以上の層と、
スズを含む2層以上の層と、を含む導電性複合コーティングを含み得る。
【0020】
導電性複合コーティングは、本発明の第1の態様に関して説明した特徴のいずれかを含み得る。
【0021】
基板は、金属基板、好ましくは銅、鉄、チタン、アルミニウム、ニッケルまたはステンレス鋼板基板であり得る。基板は、特に、燃料電池アセンブリ、バッテリー、レドックスフロー電池、電解槽またはスーパーキャパシタなどの電気化学的装置のための部品であり得る。
【0022】
第3の態様では、本発明は、導電性コーティング材料を提供する。該導電性コーティング材料は、
本明細書に記載のカーボンインクと、
アゾール含有腐食防止剤と、を含む。
【0023】
第4の態様では、本発明は、導電性コーティング材料を提供する。該導電性コーティング材料は、
本明細書に記載の炭素ベースの材料と、
本明細書に記載のアゾール含有腐食防止剤と、を含み、アゾール含有腐食防止剤は、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、5-フェニルテトラゾール、ビス[4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,2,4-トリアゾール-3-イル]メタンまたはビス[4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,2,4-トリアゾール-3-イル]ブタン、またはそれらの混合物であり、好ましくは、アゾール含有腐食防止剤はベンゾトリアゾールである。
【0024】
第5の態様では、本発明は、導電性複合コーティングでの基板の被覆方法を提供する。該方法は、
基板を用意するステップと、
基板の表面上にスズを含む層を堆積させるステップと、
炭素ベースの材料とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層を前記基板の表面上の層として堆積させるステップと、を含む。
【0025】
該方法は、
被覆した基板の表面上にスズを含むさらなる層を堆積させるステップと、
炭素ベースの材料とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含むさらなる層を前記基板の表面上に堆積させるステップと、
をさらに含み得る。
【0026】
該方法は、導電性コーティング材料を含む層の堆積後に被覆した基板を熱処理するステップをさらに含み得、好ましくは、熱処理は、少なくとも約100℃、少なくとも約125℃または少なくとも約150℃に、少なくとも約30分間、少なくとも約45分間または少なくとも約1時間加熱することを含む。
【0027】
スズを含む層を堆積させるステップは、基板上へのスズおよび/またはスズ合金の電着を含み得る。導電性コーティング材料を含む層を堆積させるステップは、導電性コーティング材料を、スズを含む層の上の層としてスクリーン印刷するステップを含み得る。
【0028】
第6の態様では、本発明は、本明細書に記載の導電性コーティングによる基板の被覆方法によって得ることができるか、または得られる被覆した物品を提供することにある。
【0029】
第7の態様では、本発明は、本明細書に記載の被覆した物品を含む、燃料電池アセンブリ、バッテリー、レドックスフロー電池、電解槽またはスーパーキャパシタなどの電気化学的装置を提供する。
【0030】
第8の態様では、本発明は、
電気化学的装置の部品の耐食コーティングとしての、
炭素ベースの材料とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層と、スズを含む層とを含む導電性複合コーティングの使用を提供する。
【0031】
本発明の第1および第2の態様に関連して説明した実施形態は本発明の第3~第8の態様に準用する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1aは、基板(100)、並びに少なくとも基板の表面上に設けられたスズを含む層(101)と、スズを含む層上に設けられた導電性コーティング材料を含む層(102)とを含む導電性複合コーティングを含む本発明に従う被覆した物品の断面を示す。
図1bは、基板(100)と、導電性コーティング材料を含む2層(102)と、スズを含む2層(101)とを含む本発明に従う被覆した物品の断面を示す。
【
図2】
図2aは、導電性コーティング材料層(実線曲線)および導電性複合コーティング(破線曲線)を示す。
図2bは、スズを含む層の腐食電流を示す。バイポーラ板の腐食での1000nAcm
-2のDoE目標を破線として示す。
【
図3】長期腐食促進試験の一環としての腐食環境における導電性コーティング材料層の挙動を示す。溶液の温度は24hごとに室温(R.T.)~80℃の間で循環させた。バイポーラ板の腐食での1000nAcm-
2のDoE目標を破線として示す。
【
図4】長期腐食促進試験の一環としての腐食媒体中の導電性複合コーティングの挙動を示す。溶液の温度は、2hごとにR.T.~80℃の間で循環させた。バイポーラ板の腐食での1000nAcm-
2のDoE目標を破線として示す。
【
図5】長期腐食促進試験の一環としての腐食媒体中の多層導電性複合コーティングの挙動を示す。コーティングは4層から構成され、第1の層はスズを含む層、第2の層は導電性コーティング材料層、第3の層はSn-Sb合金を含む層、第4の層は導電性コーティング材料層である。バイポーラ板の腐食での1000nAcm
-2のDoE目標を破線として示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
使用される反応物質から生じる燃料電池、バッテリー、レドックスフロー電池、電解槽およびスーパーキャパシタの腐食電位は、適切なコーティングを燃料電池、バッテリー、レドックスフロー電+池、電解槽またはスーパーキャパシタの部品に適用することによって、顕著に低減できる。したがって、第1の態様では、本発明は、炭素ベースの材料とアゾール含有腐食防止剤とを含む導電性コーティング材料を含む層と、スズを含む層と、を含む導電性複合コーティングを提供する。この導電性コーティング複合材を基板の表面に塗布して耐食層を提供し得る一方で、基板の伝導性を維持する。この複合コーティングは、燃料電池の部品に適用し得る。このアプローチを用いて、部品の安定性が顕著に増加するのと同時に、低い接触抵抗が維持されることが見出された。
【0034】
本発明のコーティング複合材および材料を基板に塗布して、耐食保護コーティングを提供し得る。基板は、腐食保護が必要な金属基板、好ましくは銅、鉄、チタン、アルミニウム、ニッケルまたはステンレス鋼板基板であり得る。基板は、例えば寿命が5,000時間以上であるデバイスの動作中に条件が厳しく、可変であり得る燃料電池、バッテリー、レドックスフロー電池、電解槽またはスーパーキャパシタの部品であり得る。例えば、基板は、国際公開第2013/164639号(その内容全体を参照により本明細書に援用する)にて説明されている、可塑平面(flexi-planar)プロトン交換膜(PEM)燃料電池の平板であり得る。可塑平面(flexi-planar)技術は、燃料電池の製造のためにプリント回路基板(PCB)を採用する。本発明の複合コーティングまたはコーティング材料を適用し得る典型的な部品は、電流収集器として一般に知られている平板である。
【0035】
本発明のコーティング複合体および材料は、基板全体または基板の一部に塗布し得る。基板は、多数の面を有し得る。コーティングを単一の面を完全に、または2以上の面を完全に被覆するのに適用し得る。別の方法として、基板のすべての面を、基板全体が被覆されるように完全に被覆し得る。
【0036】
本発明は、導電性複合コーティングおよびコーティング材料に関する。これらのコーティング複合体および材料を使用して、燃料電池、バッテリー、レドックスフロー電池、電解槽またはスーパーキャパシタの部品を被覆し得る。良好な電気伝導性は、燃料電池の動作中の電圧降下(IR-降下)を最小限にするのに有益である。電気伝導性は、電流を伝導する材料の能力の尺度である。抵抗率は、伝導率の逆数であり、所与の材料が電流をどれほど強く妨害するかを定量化する。低い抵抗率は、電荷の移動を容易に可能にする材料を示す。導電性複合コーティングの面積固有電気抵抗(接触抵抗を含む)は約10mΩcm2未満であり得、面積固有電気抵抗は、コーティングの抵抗率と厚さの積である。例えば、導電性複合材は、約100μmの厚さを有し得、その場合、コーティングは、約1Ωcm未満の抵抗率を有し得る。導電性複合コーティングは、約100μm未満、好ましくは約5~約50μm、約5~約40μm、約10~約30μm、約10~約20μmの厚さであり得る。導電性コーティング材料を含む層は、約1~約50μm厚さ、好ましくは約5~約25μm厚さ、好ましくは、約10~約20μm厚さであり得る。スズを含む層は、約1~約20μm厚さ、好ましくは約5~約10μm厚さであり得る。
【0037】
本発明のコーティング複合体および材料の抵抗率(Ωcm)は、下記等式にしたがって、試料の接触面積(cm
2)、試料厚さ(cm)、および抵抗(Ω)から計算できる:
【数1】
【0038】
抵抗は、電流源を試料に印加し、生じた電圧を測定し、抵抗をオームの法則(V=IR)で計算することによって決定される。試料の抵抗は、約140N/cm2(約1.4MPa)の圧力で測定し得、該圧力は、燃料電池で発揮される圧力でのDoE目標に従う。その後、抵抗を使用して、試料の接触面積および厚さを用いて上記等式に従って抵抗率を計算し、次いで面積固有電気抵抗を、抵抗率と試料厚さの積を決定することによって計算する。被覆した基板の抵抗および抵抗率の測定は、L. Landis et al.,Making Better Fuel Cells: Through-Plane Resistivity Measurement of Graphite-Filled Bipolar Plates,2002,Keithly Instruments,Inc. White Paper (https://www.keithley.co.uk/data?asset=10382)にて説明されており、その内容全体を参照により本明細書に援用する。
【0039】
本発明の炭素ベースの材料は、炭素の元素形態を含む材料である。炭素の元素形態は、質量%として計算される少なくとも90%純粋な炭素、好ましくは少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、または少なくとも98%純粋な炭素である炭素である。炭素の元素形態の例としては、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、炭素ナノ繊維、木炭、石炭およびカーボンブラック、またはそれらの混合物が挙げられる。本発明の炭素ベースの材料は、炭素の元素形態から本質的になり得る。したがって、炭素ベースの材料は、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、炭素ナノ繊維、木炭、石炭およびカーボンブラックまたはそれらの混合物から本質的になり得、材料は、それ故に、少なくとも90wt%炭素、好ましくは少なくとも92wt%、少なくとも94wt%、少なくとも96wt%、または少なくとも98wt%炭素であり得る。本発明の炭素ベースの材料は、元素炭素材料の粒子を含み得る。
【0040】
本発明の導電性コーティング材料は、有機バインダーをさらに含み得る。有機バインダーは、元素炭素の粒子を保持する賦形剤として機能し、樹脂または有機モノマーおよび/またはオリゴマーポリマー前駆体化合物から形成され得る。そのような樹脂および前駆体化合物の例としては、アクリル酸類、アルキド、セルロース誘導体、ゴム樹脂、ケトン、マレイン酸類、ホルムアルデヒド、フェノール類、エポキシ類、フマル酸類、炭化水素、イソシアネートフリーポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリアミド、セラック、およびポリカーボネートが挙げられる。
【0041】
オリゴマーポリマー前駆体化合物は、2個以上、好ましくは2~5個のモノマー繰り返し単位を含む有機化合物を指し得る。ポリマーは、多数の繰り返し単位、好ましくは少なくとも6個の繰り返し単位からなり得、ホモポリマー、コポリマー、またはそれらの混合物であり得る。
【0042】
炭素ベースの材料は、カーボンインクの成分として提供され得る。カーボンインクは、炭素ベースの材料と有機バインダーとを含む材料である。本明細書に記載のカーボンインクは、好ましくは導電性カーボンインクであり得る。本明細書に記載のカーボンインクは当分野の一般的な理解に従うものである。一般に、カーボンインクは、容易にスクリーン印刷し得、バインダーと共に顔料として炭素を含むインクである。カーボンインクは、20℃、1気圧で計算した際に約2.9P~約7Pの動的粘度を有し得る。したがって、カーボンインクは、粘着性物質であり得る。動的粘度は、20℃、1気圧の蒸留水の粘度(0.01P)に較正された粘度計によって測定され得る。
【0043】
炭素ベースの材料がカーボンインクの成分として提供される場合、有機バインダーは、カーボンインク形成にも使用される樹脂を含む。典型的なカーボンインクとしては、PCB1 Sunchemicalインク2sp、PCB3 Sunchemicalインク2sp(revisited)およびPCB4 Sunchemicalインク(last)2spが挙げられる。
【0044】
本発明のアゾール含有腐食防止剤は、1個以上置換または非置換の、縮合または非縮合のアゾール環を含有する化合物である。アゾールは、窒素、硫黄、または酸素のいずれかの少なくとも1個の他の非炭素環原子を含む5員窒素含有複素環化合物の一種である。典型的なアゾールとしては、1個以上のハロ、脂肪族基(例えばアルキル、アルケニルまたはアルキニル)、脂環式環、ヘテロ脂環式環、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、アミノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アセチル、ニトロ、シアノ、スルホニルおよびチオールまたはそれらの組み合わせで任意選択的に置換されている、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ペンタゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、およびイソチアゾールが挙げられる。これらのアゾール環は、別の環と縮合して2個以上の環を含む環系を形成し得る。例えば、アゾールは、アリール環(例えば、フェニル環)と縮合し得る。本発明のアゾール含有腐食防止剤は材料の腐食速度を減少させる化合物である。典型的なアゾール含有腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、5-フィニル(phynyl)テトラゾール、ビス[4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,2,4-トリアゾール-3-イル]メタンまたはビス[4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,2,4-トリアゾール-3-イル]ブタン、またはそれらの混合物が挙げられ、好ましくは、アゾール含有腐食防止剤はベンゾトリアゾールである。
【0045】
アゾール含有腐食防止剤は、導電性コーティング材料中、炭素ベースの材料および有機バインダーの量の約10質量%(wt%)以下の量で、好ましくは約5wt%以下、好ましくは約1wt%の量で存在し得る。すなわち、腐食防止剤のwt%は、導電性コーティング材料中の炭素ベースの材料および有機バインダーの合計質量のパーセンテージとして計算される。
【0046】
本発明の導電性コーティング材料は、炭素ベースの材料、有機バインダーおよびアゾール含有腐食防止剤から本質的になり得る。
【0047】
本発明の導電性コーティング材料は、炭素ベースの材料を約50質量%(wt%)~約90wt%、好ましくは約60~約90wt%、好ましくは約70~約90wt%、約75~約85wt%または約80wt%含み得る。導電性コーティング材料の残りの部分は、有機バインダーおよびアゾール含有腐食防止剤を含み得る(または本質的になる)。
【0048】
本明細書でスズは、純金属および/またはスズ合金としてスズを含む材料を指す。例えば、スズ合金は、スズと、ニッケル、アンチモン、インジウムまたはガリウムの1つ以上とを含む二元スズ合金または三元スズ合金であり得る。スズ合金は、好ましくはスズ-ニッケル合金、スズ-アンチモン合金、スズ-インジウム合金、スズ-ガリウム合金、スズ-インジウム-アンチモン合金またはスズ-ニッケル-アンチモン合金またはそれらの混合物である。本明細書に記載のスズを含む層は、本明細書に記載のスズ金属および/またはスズ合金から本質的になり得る。
【0049】
別の態様では、本発明は、導電性複合コーティングでの基板の被覆方法を提供する。該方法は、
本明細書に記載の基板を用意するステップと、
基板の表面上にスズを含む層を堆積させるステップと、
本明細書に記載の導電性コーティング材料を含む層を前記基板の表面上に堆積させるステップと、を含む。
【0050】
図1(a)は、本明細書に記載の基板の被覆方法に従って被覆した基板の断面を示す。この方法によって形成されたこの被覆した物品は、基板(100)と、スズを含む層(101)および導電性コーティング材料を含む層(102)とを含む導電性複合コーティングと、を含む。
【0051】
スズを含む層を堆積させるステップおよび導電性コーティング材料を含む層を堆積させるステップを1回以上繰り返して、スズを含む少なくとも2層および/または導電性コーティング材料を含む少なくとも2層を含む導電性複合コーティングを含む被覆した基板を形成し得る。
図1(b)は、スズを含む層を堆積させるステップおよび導電性コーティング材料を含む層を堆積させるステップをさらに繰り返した本明細書に記載の基板の被覆方法によって形成された被覆した物品を示す。この被覆した物品は、基板(100)と、導電性コーティング材料を含む2層(102)、およびスズを含む2層(101)を含む導電性複合コーティングとを含む。
【0052】
本明細書に記載の被覆した物品は、基板と、導電性コーティング材料を含む層およびスズを含む層を含む導電性コーティング材料と、を含む。スズを含む層は、基板の表面上に(好ましくは直接接触して)設けられ得る。その後、
図1(a)に示すように、スズを含む層が基板と導電性コーティング材料を含む層との間に入るように、導電性コーティング材料を含む層が、スズを含む層上に(好ましくは直接接触して)設けられ得る。基板と、導電性コーティング材料を含む2以上の層(例えば2層)、およびスズを含む2以上の層(例えば2層)を含む導電性コーティング材料とを含む被覆した物品が、例えば
図1(b)に示すように交互の層として構造化され得る。
【0053】
導電性コーティング材料を含む層の堆積後に、該方法は、被覆した基板を熱処理するステップを含み得、好ましくは、熱処理は、少なくとも約100℃、少なくとも約125℃または少なくとも約150℃に、少なくとも約30分、少なくとも約45分または少なくとも約1時間加熱することを含む。
【0054】
該方法は、スズを含む層の堆積の前に基板を洗浄するステップを含み得る。基板を洗浄するステップは、水および/または有機溶媒に基板を浸漬するステップおよび/または基板を水および/または有機溶媒で濯ぐステップを含み得、好ましくは、基板を洗浄するステップは、有機溶媒に基板を浸漬し、その後、任意選択的に基板を水で濯ぐことを含む。いずれの市販の標準の実験用溶媒も基板の洗浄に使用し得る。好ましくは、有機溶媒はアセトンである。洗浄後、基板を乾燥し得る。
【0055】
その後、スズを含む層を基板の表面上に堆積する。スズを含む層は、金属として、および/またはスズ合金として、スズを含み得る。スズ合金は、好ましくはスズ-ニッケル合金、スズ-アンチモン合金、スズ-インジウム合金、スズ-ガリウム合金、スズ-インジウム-アンチモン合金またはスズ-ニッケル-アンチモン合金またはそれらの混合物である。スズを含む層は、基板上に電着で堆積し得る。スズを含む層の電着は、スズおよび/またはスズ合金の水溶液を調製し、スズ溶液を基板の表面と接触させ、電流をスズ溶液に通すことによって実施し得る。スズおよび/またはスズ合金の水溶液は、スズ塩(例えば、硫酸スズまたは塩化スズ)と、任意選択的にニッケル、アンチモン、インジウムまたはガリウムの1つ以上の塩(例えば、硫酸塩または塩化物)を水溶液に溶解させることによって調製し得る。スズを含む層の電着が完了した後、スズで被覆した基板を水(好ましくは脱イオン水)で洗浄し得(浸漬するか、または濯ぐ)、コーティング上に残存するスズを、軟らかいティッシュペーパーで、きれいかつ金属のコーティングが見られるまで拭き得る。
【0056】
その後、本明細書に記載の導電性コーティング材料を含む層を前記基板の表面上に堆積させ得る。導電性コーティング材料の堆積は、スクリーン印刷によって実施し得る。導電性コーティング材料は、炭素ベースの材料と、有機バインダーと、腐食防止剤とを、均質な混合物が達成されるまで混合することによって調製し得る。次に、このコーティング材料を、スクリーンプリンターを用いて、スズで被覆した基板にスクリーン印刷し得る。これによって、スズを含む層の上へ導電性コーティング材料を含む層が堆積される。
【0057】
コーティングが調製されれば、後の処理は必要ではない。被覆した基板をすぐに使用できる。
【実施例】
【0058】
以下の実施例を参照して説明するが、これらの実施例は本発明を例示するものであって、限定するものではない。
【0059】
実施例1
導電性複合コーティングを塗布する基板は銅クラッド複合板であり、可能なコーティング配置の断面を
図1に示す。
【0060】
基板のクリーニング:
基板をアセトンに5分間浸し、その後、脱イオン水(DI)で濯ぎ、軟らかいティッシュペーパーで乾燥した。
【0061】
基板上へのスズの電着:
市販のSn浴、pH0.5~1を含むか、0.45M SnCl2.2H2Oおよび0.45M K4P2O7を含む電着用のスズめっき溶液を調製した。pHを水性アンモニア溶液で6に調整した。めっき中の浴温度を35℃に維持した。スズ合金用のめっき浴は、錯化剤(塩化物または硫酸塩など)、添加剤および合金化される他の金属イオン、例えばSb、Ga、InまたはNiと共にSn金属イオンを含む。Sn-6wt%Sbのためのめっき浴の例は、
5g/L SnSO4
5g/L Sb(SO4)3
100g/L濃縮H2SO4
1g/L PEG5800または2g/L PEG3000
2g/Lクマリン(7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン)
33g/L K4P2O7
からなる。上記めっき浴のpHは約1であり、浴温度は28℃に維持した。
【0062】
基板は銅クラッド複合板であり、スズ浴に入れ、約5μm厚さのコーティングを堆積させるために、100%電流効率および濃厚Snが100%堆積したと仮定してファラデーの法則から計算した、-10mAcm-2の電流密度を600秒間印加した。
【0063】
めっきが完了した後、スズで被覆した基板を脱イオン水で濯ぎ、コーティング上の残りのスズを、きれいなスズコーティングが見られるまで軟らかいティッシュペーパーで拭き取った。
【0064】
半自動スクリーンプリンターを用いる導電性コーティング材料の堆積:
Sunchemicalインクを、均質な混合物を達成するまで、1wt%ベンゾトリアゾールと混合した。導電性コーティング材料の層を堆積させるために、半自動スクリーンプリンターを使用し、被覆する表面上でブレードを4回通過させて約20~25μmの厚さを達成した。
【0065】
加熱処理:
導電性コーティング材料をスクリーン印刷した後、被覆した物品全体を予熱したオーブン内に約150℃で1時間置いた。1時間後、被覆した基板をオーブン内に保持し、室温まで冷却させた。
【0066】
実施例2
種々のコーティングについて検討を行い、腐食促進試験の一部として、コーティングを浸食環境で試験した。80℃で硫酸によってpH3に調整した1M Na2SO4溶液をこれらの試験のために選択した。溶液は脱気しなかった。電位をSHEに対して+0.6Vになるようにし、この電位に1時間維持した。コーティングを連続的に溶液に浸漬し、PEM燃料電池の動作を模倣する電気化学的試験を行った。そのような試験によって、最良のコーティングの選択が可能となる。
【0067】
コーティング選択:
コーティングの3つの主要なグループを試験した。該グループは、導電性コーティング材料のみ(最大35 μm厚さ)、スズ層コーティングのみ(最大約5μm厚さ)、並びに導電性コーティング材料を含む層(最大約35μm厚さ)と、スズを含む層(最大約5 μm厚さ)とを含む導電性複合コーティングである。これらのコーティングを、実施例1に記載の方法に従って調製した。
【0068】
図2は、3種類のコーティングの試験結果を示す。明らかに、腐食電流が、コーティングの種類と関連していた。導電性コーティング材料(実線の曲線、
図2(a))は、1時間以内に局所的な溶解を示し、大きい電流スパイクが見られた。これは、コーティングが時間と共に分解していたことを示唆する。
【0069】
他方で、スズコーティングは、完全に異なる挙動を示した。すなわち、大きい溶解ピークが最初に見られ(
図2(b)の点線の曲線)、約2000秒後に電流が非常に低い値に急激に減少し、その後、「時間」軸を超え、まだより多くの正電流まで増加するが、カソードになった。これは、2000秒以内にほぼ半分のコーティング溶解し、一部酸化物層が形成された明らかな証拠であった。この時間の後、溶解速度は無視できるが、時間とともに依然として増加した。拡張腐食促進試験は、室温(R.T.)と80℃との間の温度サイクルの3.5日後に、腐食電流がnA/cm
-2から、DoE目標をはるかに上回って大きい値まで増加したことを示した。
【0070】
導電性複合コーティング(
図2(a)の破線曲線)は、最適な腐食電流を示し、電流スパイクがまったく存在せず(局所的劣化なし)、曲線の傾きが時間と共に減少した。
【0071】
コーティングの腐食の調査をさらに延長した。試験時間をはるかに長くし、コーティングの不具合が見られる(腐食電流密度がDoE目標約1μAcm-2未満を超える)まで、温度をR.T.と80℃との間で、それぞれの温度で一定時間(24または2時間)保持しながら循環させた。前述と同様に、使用した試験溶液は、1M Na2SO4,pH3であった。溶液は脱気しなかった。電位はSHEに対して+0.6Vになるようにし、この電位で24時間、各温度で保持した。
【0072】
上述したように、金属コーティングは、温度循環の腐食促進試験の下で3.5日のみ持続した。他方で、導電性コーティング材料層では、初期の溶解/酸化物形成を記録せず、腐食電流密度の増加が時間と共に見られた(
図3参照)。120時間後に不具合が見られた。
【0073】
金属と有機コーティングとを一緒に組み合わせて導電性複合コーティングを形成することで、長期腐食促進試験(コーティングをさらにより厳しい条件に曝すために2時間ごとに温度を循環させる)を行った結果が良好であった(
図4)参照。9日後、腐食増加の重大な兆候はなく、腐食電流の大きさがDoE目標よりはるかに下であった(DoE目標は
図4に示される)。負の腐食電流密度は、コーティングのカソード作用、すなわちコーティングがこの電位で腐食していないことを示す。
【0074】
金属と有機コーティングとの組み合わせは、相乗効果を示し、コーティングは腐食促進試験の9日以内に損なわれなかった。当該試験は、正常なPEM燃料電池の動作のほぼ1年に等しく、一方で、単層のコーティングはそのような条件下でむしろ速く劣化した。
【0075】
実施例3-多層コーティング
本実施例では、導電性コーティング材料を含む2層とスズを含む2層とを含む複合コーティングをはるかに良好な性能のために調製した。複合コーティングを
図1(b)に示す。該複合コーティングは、電着したSn層に続いて、導電性コーティング材料層のスクリーン印刷の後、Sn-6wt%Sb合金の電着および最終導電性コーティング材料層を含む。全体の厚さは最大約40μmであった。
【0076】
腐食試験
コーティングの性能を、1M Na
2SO
4,pH3を含む溶液での促進腐食試験で再び試験し、腐食電流がDoE目標を超えるまで、温度をR.T.と80℃との間で2hごとに循環させた。溶液は脱気しなかった。電位をSHEに対して+0.6Vとなるようにし、この電位で1時間保持した。コーティングの挙動を
図5に示す。腐食電流密度は、18日を超えて非常に良好な挙動を示した。電流密度が時間と共に増加したが、DoE目標を超えなかった。
【0077】
明らかに、そのようなコーティングの構造が、低い接触抵抗の維持と同時に非常に良好な腐食バリアを示した。実際、コーティングのそのような群の接触抵抗は約1mΩcm2未満であった。
【0078】
本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例示に過ぎない。当然ながら、説明した実施形態のバリエーションも本発明の範囲内でなし得る。