(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】コロイドの粒度分布を決定するシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 15/02 20060101AFI20220118BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20220118BHJP
G01N 21/47 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G01N15/02 A
G02B21/00
G01N21/47 Z
(21)【出願番号】P 2018568348
(86)(22)【出願日】2017-06-28
(86)【国際出願番号】 US2017039819
(87)【国際公開番号】W WO2018005687
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-04-16
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592096443
【氏名又は名称】ホリバ インスツルメンツ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】HORIBA INSTRUMENTS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】タタールキエヴィッチ、ジャン ジェイ.
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06836559(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2009/0244356(US,A1)
【文献】米国特許第05650847(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0214489(US,A1)
【文献】特開2009-210584(JP,A)
【文献】特表2017-500549(JP,A)
【文献】国際公開第2015/075424(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
G02B 21/00
G01N 21/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイドの粒度分布を決定するシステムであって、
試料チャンバにおいて電磁放射ビームを放出するように構成された光源であって、前記試料チャンバが、前記コロイドを保持するとともに、前記コロイドに含まれる粒子からの前記ビームの一部の散乱を可能にする、光源と、
前記ビームの散乱部を観測するように位置決めされたセンサであって、前記電磁放射を検出するように構成された、センサと、
散乱光強度、粒子サイズ、および校正・調査済体積間の所定の関係を格納するように構成されたデータベースと、
前記光源、前記センサ、および前記データベースに接続され、
a.前記光源を起動するステップと、
b.前記センサから一連の画像を取得するステップと、
c.前記画像中の前記粒子のサイズを決定するステップであって、各サイズについて、
i.前記画像中の粒子数を決定することと、
ii.前記画像中の前記粒子の前記散乱光強度を個別に決定することと、
を含む、決定するステップと、
d.ステップ(c)からの情報および前記所定の関係に基づいて、前記コロイドの前記粒度分布を計算するステップと、
を実行するように構成されたプロセッサと、
を備える、システム。
【請求項2】
前記所定の関係が、前記電磁放射の波長にさらに依存し、前記光源が、複数の波長で電磁放射を生成するように調整可能であって、前記プロセッサが、複数の波長を生成するように前記光源を調整するようにさらに構成されている、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルビデオカメラを備えた顕微鏡を用いた、液体サンプル中のナノ粒子の測定および観測に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子は、地球上の自然環境の至る所に存在し、間違いなく最も豊富な粒子状実体であるとともに、人間の活動と関連付けられた多くの用途に広がっている。多くの種類の自然発生ナノ粒子および人工的(工学的)ナノ粒子が存在する。ナノ粒子は、空気中、水域環境中、雨水中、飲用水中、生物流体中、薬剤中、薬物送達および治療薬中、ならびに広範な多くの工業製品中に発生する。ナノ粒子は通例、サイズの異なる粒子の共起を特徴とする多分散集団内で発生する。
【0003】
ナノ粒子の幅広い使用を前提として、それぞれの特性を制御するとともに正確に特性化できれば、多くの用途に有用と考えられる。ナノ粒子の特性を測定する従来の方法は、多くの用途に共通する混合ナノ粒子サイズの多分散サンプルについては不正確となり得る。これらの従来手法の一部では、サンプル内の多数のナノ粒子集合体に対して測定を行う。すべてのナノ粒子から散乱された光が同時に測定されるため、粒子サイズがさまざまな場合は、各ナノ粒子をそれぞれの構成サイズに分解するのが困難となる可能性がある。他の手法では、さまざまなナノ粒子サイズにわたって、サイズの異なるナノ粒子により生成される散乱光の強度の大きな差異を考慮できない。これらの手法においては、小さなナノ粒子からの低散乱信号が検出されない可能性があり、または、より大きなナノ粒子からの高散乱信号がより小さなナノ粒子からの信号を見えにくくする可能性がある。さらに他の手法では、測定において粒子の成長率または溶解率を考慮できないため、短時間後のサイズ分布のスナップショットが不正確となる可能性もある。これらの不備の結果として、任意所与のサイズのナノ粒子の濃度ひいてはサイズ分布全体に未知の誤差が生じる可能性がある。
【0004】
これらのナノ粒子検出方法は一般的に、暗視野顕微鏡法と称する。このような解析を実行する器具設定10を
図1Aおよび
図1Bに示す。この設定には通常、円柱レンズを通過する光線20を生成する光源15と、微小セル(キュベット)35に向けられるライトシート30を構成する光学対物レンズ25とを含む。キュベット35は、希釈剤で作られたコロイド中にナノ粒子を含み、その一部が調査済体積38内で観測される。調査体積38中のナノ粒子は、集束用光学対物レンズ45(拡大用光学対物レンズ、すなわち顕微鏡も含み得る)へと向かう光40を散乱させて、集束光線50をセンサ(たとえば、カメラ)55上に生成する。プロセッサ60がセンサ55および光源15に接続され、これらを制御していてもよい。設定10によれば、通例はライトシート面に対して90°の角度で、厳密に形成された狭隘ライトシートによる任意の液体の照明およびナノ粒子からの散乱光の観測が可能である。言い換えると、観測の方向は、照明面の方向に垂直である。
【0005】
粒子からの反射光画像をキャプチャするカメラによって、サイズの異なる粒子を視覚化可能であるが、このような画像は、粒子のサイズおよびそれぞれの組成(希釈剤の屈折率と異なる屈折率)に基づく異なる強度(画像を構成するさまざまな輝度の画素)を有する。記録ビデオの後続フレーム上で散乱光の画像をトラッキングするとともにブラウン運動の理論(アインシュタインの式)を用いることにより、各観測粒子のサイズを個別に決定することができる(通例、これをナノ粒子トラッキング解析またはNTA(Nanoparticle Tracking Analysis)と称する)。すべての観測粒子のカウントおよびサイズ規定が可能であるため、原理上は、粒度分布(PSD:particle size distribution)についても正確に計算可能である。このような分布を求めるために、通常は、粒子のサイズを分類する。すなわち、特定範囲内の直径サイズを有するすべての粒子の数を合計して、この直径範囲に対応する別個のビンに格納する。PSDを求めるために、各ビンの粒子の数を、対応するビン幅および調査済体積によって除算する。
【0006】
この方法の問題として、トラッキングおよびカウント用に粒子の視覚化に用いられるライトシートの光強度の不均一性がある。
図2に示すように、カメラにより観測されるエリアは、マイクロスケールを用いた校正によって、正しい校正定数すなわちカメラ画素当たりの長さ単位数が容易に見つかる。理想的なライトシートであれば、「トップハット」状の光強度特性65を有することになる。すなわち、
図3に示すように、サンプルの照明領域と暗領域(体積)との間に急峻な境界が存在することになる。ただし、レーザ、レンズ、および対物レンズ等、ライトシートの生成に用いられる光学素子は通常、ガウス状の光強度プロファイル70を生成し(
図3参照)、ガウス分布と比較して、「トップハット」状の光分布65を示す(両曲線下で同じ強度または面積)。所与の希釈剤中の所与の粒子材料の光散乱断面およびカメラ感度(量子効率)に応じて、有効なライトシート厚さひいては調査済体積が大幅に変動し得る(ライトシートの縁部により近い粒子は、受光して散乱する量が少ないため、場合によっては装置により検出されない)。この可変調査体積は、適正に考慮しなければ、コロイド中の粒子のPSDまたは濃度の決定に大きな影響を及ぼすことになる。
【0007】
したがって、さまざまな種類およびさまざまなサイズの粒子に対して、調査済体積を適正に校正することが求められている。そして、このサイズ/種類に応じた調査済体積を使用して、任意のコロイドについて、PSDまたは粒子濃度をより正確に決定することができる。
【発明の概要】
【0008】
以下は、特許請求される主題のいくつかの態様の基礎的理解を与えるための簡単な概要を提示する。この概要は、広範囲に及ぶ概説ではなく、主要/重要な要素の識別を意図したものでもなければ、特許請求される主題の範囲の明確化を意図したものでもない。その目的は、後で提示する、より詳細な説明の前置きとして、いくつかの概念を簡単な形態で提示することである。
【0009】
本明細書に記載の装置、システム、および方法によれば、上掲の問題が的確に解決される。暗視野マイクロコピー設定において調査済体積を校正する方法が開示される。この設定は、試料チャンバにおいて電磁放射ビームを放出するように構成された光源を備え、チャンバが、コロイド粒子を保持するとともに、チャンバに進入するビームと垂直なビームの一部の散乱を可能にするように構成されており、ビームの散乱部がセンサに案内され、センサが、電磁放射を検出するように構成されている。これには、濃度と粒子サイズとが既知の複数の粒子サンプルを準備することであって、上記複数が、2つ以上の粒子サイズ、ならびに、任意選択として2つ以上の屈折率および2つ以上の希釈剤を有する、準備することを含む。上記複数のうちの各サンプルについて、該サンプルを試料チャンバに導入し、光源を起動し、センサにより検出された散乱光強度および粒子数を記録する。上記複数のうちの各粒子サイズについて、散乱光強度と、任意選択として、希釈剤の屈折率に対するサンプルの屈折率との間の関係を決定する。また、サンプルについて測定した粒子数に基づき、上記複数のうちの各粒子サイズについて、校正・調査済体積と、任意選択として、さまざまな希釈剤中のサンプルの屈折率との間の関係を決定する。
【0010】
粒子および希釈剤の散乱光強度対相対屈折率の関係ならびに調査済体積対相対屈折率(RI:refractive index)の関係は、同じ希釈剤中で未知の相対RIを有する粒子サイズについて外挿可能である。この方法は、所与の希釈剤について、散乱光強度、粒子サイズ、および調査済体積間の3次元関係の形成に用いられるようになっていてもよい。
【0011】
この方法は、多様な光源波長で実行可能であり、さまざまな希釈剤について、光源波長、散乱光強度、粒子サイズ、および調査済体積間の4次元関係が決定されるようになっていてもよい。
【0012】
決定した関係(希釈剤中の粒子の散乱光強度対相対屈折率および調査済体積対相対屈折率)に基づいて、未知のサンプルの粒度分布をより正確に計算することができる。既知の希釈剤中の未知のサンプルを試料チャンバに導入して、光源を起動する。未知のサンプル中の複数の粒子サイズそれぞれについて、センサにより記録された画像に対する散乱光強度および粒子数を測定する。また、上記設定の所定の関係に基づき、各粒子サイズについて、校正・調査済体積を決定する。そして、校正・調査済体積に基づく正確な粒度分布を決定可能である。
【0013】
これらの方法は、自動化可能であるとともに、センサに接続されたプロセッサ上で動作し得る。
本明細書においては、当業者に明らかとなるであろう別の態様、選択肢、および変形例についても開示されるとともに、本発明の一部として含まれるものと具体的に考えられる。本発明は、本願または関連出願において特許庁が許可する特許請求の範囲においてのみ明記されるものであり、特定の例に関する以下の概要説明は、法的保護の範囲を何ら制限、規定、あるいは別様に確立するものではない。
【0014】
本発明は、以下の図面を参照して、よりよく理解可能である。図面内の構成要素は、必ずしも縮尺通りではなく、代わりに、本発明の例示的な態様を明確に示すことに重点を置いている。図面中、異なる図および実施形態または図もしくは実施形態を通して、参照番号は対応する部分を指す。図面中、本発明のより明確な説明に役立つように、特定の構成要素および詳細が見えない場合もあることが了解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1B】入射光および散乱光の調査体積および偏光を詳細化した、暗視野顕微鏡設定の一部を示した図である。
【
図2】センサ校正用のマイクロスケール格子を示した図である。
【
図3】ガウス光分布と比較したトップハット状光分布のグラフである。
【
図4】特に(観測線に対して45°の角度で配置された)被写界深度を決定する、センサ校正用のマイクロスケール格子を示した図である。
【
図5】ポリスチレンサイズ標準に対するサンプル希釈剤の表を示した図である。
【
図6】水中のポリスチレンおよびシリカに対して計算されたMie散乱断面を示した図である。
【
図7A】光源波長450nmで水中の直径175nmの粒子の屈折率に対してプロットされた観測平均強度のグラフである。
【
図7B】横軸をレイリー散乱比例パラメータに変更した、光源波長450nmで水中の直径175nmの粒子の屈折率に対してプロットされた観測平均強度のグラフである。
【
図7C】光源波長450nmで水中の直径435nmの粒子の屈折率に対してプロットされた観測平均強度のグラフである。
【
図8A】光源波長450nmで水中の直径175nmの粒子の屈折率に対してプロットされた校正・調査済体積のグラフである。
【
図8B】光源波長450nmで水中の直径435nmの粒子の屈折率に対してプロットされた校正・調査済体積のグラフである。
【
図9】校正・調査済体積V
1およびV
2が結果的にそれぞれ異なる、水中の(未知の)粒子の2つの異なるサイズd
1およびd
2(大円)に関する複合表示を模式的に示した図である。
【
図10】水中のさまざまな屈折率の材料に対して計算されたMie散乱断面を示した図である。
【
図11】所与の希釈剤の調査済体積参照面を生じる3次元グラフを模式的に示した図である。
【
図12】2つの異なる波長で水中のポリスチレンおよびシリカに対して計算されたMie散乱断面の比較を示した図である。
【
図13】トラッキング・カウント済粒子の濃度を正確に計算するために使用可能なライトシートの有効厚さを推定する方法を示したフローチャートである。
【
図14】校正・調査済体積を用いて既知の希釈剤中の未知の多分散サンプルの粒度分布を求める方法を示したフローチャートである。
【
図15】所定の関係を含むデータベースを備えた暗視野顕微鏡設定を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書においては、本発明を実施するために本発明者が考える任意の最良の形態を含めて、本発明のいくつかの具体例を参照する。これらの具体的な実施形態の例を添付の図面に示す。本発明は、これらの具体的な実施形態と併せて説明するが、説明または図示する実施形態に本発明が限定されるものではないことが了解される。逆に、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の主旨および範囲に含まれ得る選択肢、改良、および同等物を網羅することが意図される。
【0017】
以下の説明においては、本発明の完全な理解が得られるように、多くの具体的詳細を示す。本発明の特定の例示的な実施形態は、これらの具体的詳細の一部または全部なく実施される場合がある。他の例においては、本発明を無用に分かりにくくすることがないよう、当業者に周知のプロセス動作は詳しく説明していない。明瞭化のために、本発明のさまざまな技術および機構については、単数形で説明する場合がある。ただし、いくつかの実施形態は、特に断りのない限り、技術の複数回の反復または複数の機構を含むことに留意するものとする。同様に、本明細書に図示および記載の方法のさまざまなステップは、必ずしも示された順序で実行されず、特定の実施形態においては、一切実行されない。したがって、本明細書に記載の方法のいくつかの実施態様においては、図示または記載のステップよりも、ステップ数が多くてもよいし、少なくてもよい。さらに、本発明の技術および機構は、2つ以上の実体間の接続、関係、または連通を表す場合がある。実体間の接続または関係は、必ずしも直接的かつ無制限の接続を意味しないことに留意するものとする。これは、いかなる2つの実体間においても、多様な他の実体またはプロセスが存在または発生し得るためである。結果として、示された接続は、特に断りのない限り、必ずしも直接的かつ無制限の接続を意味しない。
【0018】
以下の例示的な特徴の一覧は、
図1~
図12に対応し、参照の容易化のために示している。本明細書および図面を通して、同様の参照番号は対応する特徴を指す。
器具設定10
光源15
光線20
光学対物レンズ25
ライトシート30
微小セル、試料チャンバ(キュベット)35
調査済体積38
散乱光40
集束用光学対物レンズ45
集束光線50
センサ(たとえば、カメラ)55
プロセッサ60
「トップハット」状の光強度特性65
ガウス状プロファイル70
データベース75
トラッキング・カウント済粒子の濃度を正確に計算するために使用可能なライトシートの有効厚さを推定する方法1300(ステップ1305~1360で構成される)
校正・調査済体積を用いて未知の多分散サンプルの粒度分布を求める方法1400(ステップ1405~1435で構成される)
本明細書に記載の、視覚化を可能にするライトシート30の模式図を
図1Aに示す。これは、(試料チャンバとしても知られる)透明キュベット35の内側で非常に狭いライトシート30を生成する光源15(光学対物レンズ等のビーム形成素子25を通過可能なビーム色/波長の異なる1つまたは複数のレーザ)で構成される。キュベット35に含まれる所与のコロイド中で照射された粒子による散乱光40は通常、光をセンサ55(デジタルビデオカメラ)上に集める顕微鏡(対物レンズ)45によって、90°の角度で観測される。ナノ粒子の通常サイズ(1ミクロンを下回る直径)が可視光の波長と同程度であることから、顕微鏡45は、光散乱ナノ粒子の詳細を識別できず、各粒子により散乱された光の強度のみを記録して、センサ55上の複数の画素を覆う円形のブロブまたはディスクに見える画像を投影する。センサ55により観測されたライトシート30の面積を校正するために、キュベット30の代わりに、マイクロスケール格子の画像が対物レンズ45の前に置かれる。このようなマイクロスケール格子を
図2に示す。この例では、センサ画像の1161個の画素が260ミクロンの距離を覆うため、校正定数は、およそ224nm/画素である。ここに示す1280画素×720画素の画像の場合、面積は、46,242平方マイクロメートルすなわち0.000462cm
2である。通常のデジタルセンサは正方形の画素を有するため、いかなる方向においても校正は均一であるが、長方形の画素が用いられる場合は、画素の行に沿った各垂直方向において、同じ手順を適用することができる。
【0019】
装置により記録された画像に、光を散乱する粒子が寄与する体積を計算するには、光学系の被写界深度(DOF:depth of field)を考慮しなければならず、ライトシート30の厚さ全体を網羅するのに十分な大きさであるべきである。
図4は、システムの校正に用いられる同じマイクロスケール格子の画像を示すが、この場合の格子は、光軸から45°回転している。鮮明な画像対ぼやけた画像の境界の厳密な決定は主観的なものであるが、本例においては、このような距離が数十ミクロン(約60ミクロン)の範囲であることが明らかである。マイクロスケールの回転(光軸に沿って√2の係数だけ短い距離)のほか、希釈剤(最も有名な希釈剤である水の場合、空気に対する屈折率がおよそ1.33であり、これは、見掛けの認識深さに対するおよそ4/3の係数による拡張である)で充填されたキュベットの内側でトラッキングおよびカウントが行われる事実を考慮して、
図4に示す例においては、システムの有効DOFが約56ミクロンと推定される。合理的に設計された器具の場合、このDOFでは、同様におよそ56ミクロンまたは56ミクロン未満の平均厚さを有すべきライトシートの形成が必要となる。20倍の拡大用対物レンズ45を備えたセンサ55の前述の例において、調査済体積は、およそ260万立方ミクロンすなわちおよそ2.6nLとなる。
【0020】
本特許に記載の方法により所与のコロイド中の粒子を効率的に検出、トラッキング、およびカウントするために、記録ビデオの各フレーム内で視認可能な粒子画像の数を制限すべきである。これは、存在する粒子が多すぎると、数百フレームの通常動作中に、トラッキングが最終的に重なる可能性が高くなり、正確なトラッキングが不可能となるためである。記載の実施形態で依然として検出およびトラッキング可能な通常の粒子数は、およそ250であるため、検査サンプルの有用な濃度/密度は、およそ108粒子/mLを下回るように制限される。
【0021】
図13は、トラッキング・カウント済粒子の濃度を正確に計算するために使用可能なライトシートの有効厚さを推定する方法1300を示している。
校正を開始するために、既知の粒子密度を有する既知の希釈剤中のコロイドサンプルを準備して使用すべきである(ステップ1305)。前述の通り、ビデオ画像中の粒子が多すぎると、粒子のトラッキングが難しくなり、不可能にすらなってしまう。したがって、有用な濃度/密度は、10
8粒子/mLを下回る。サイズの異なる粒子は吸光および受光も異なるため、濃度/密度が既知の複数の粒径を使用すべきである。試験サンプルは既知の粒子濃度を有するべきであり、これは、たとえば重量法により求めることができる。通常、サイズ規定標準には、1重量%の粒子を含む。これにより、有用な濃度への到達に必要なこのような標準の後続の希釈により得られる濃度を正確に推定可能となる。
図5に提示の表は、ミリポア社(Millipore Corporation)の設備により得られる超清浄水中のさまざまなサイズのポリスチレン(PSL:polystyrene)粒子の粒子密度がおよそ2×10
7粒子/mLに到達するサンプル希釈を示している。
【0022】
その後、ステップ1310において、これらのサンプルを暗視野顕微鏡設定10のキュベット35に導入し(すなわち、
図1Aおよび
図1Bの設定を参照)、設定10により検出された粒子数を記録して、希釈により把握されている数(すなわち、
図5の表)と比較する。このデータは、体積校正の作成に用いられることになる。また、設定10で用いられる標準的な固定レーザ出力およびカメラゲインに対して、既知の希釈剤中のさまざまな粒径についての計算平均散乱光強度も記録する(ステップ1315)。
【0023】
好適な一実施形態において、粒径が異なる既知の希釈物の準備は、異なる希釈剤中の屈折率が異なる材料(たとえば、シリカ、ポリスチレン、および金)に対して繰り返されるべきであり、測定粒子濃度は、各材料の既知についての濃度との比較(1325)により、材料の種類(すなわち、希釈剤に対して異なる屈折率)および直径を外挿するのに十分であるべきである(ステップ1320)。サンプル数は、少なくとも2つの異なる材料、少なくとも2つの異なる希釈剤、および少なくとも2つの異なる直径に対するものであるべきであるが、任意選択としては、4つ以上の材料、複数の希釈剤、および関心範囲(たとえば、1000nmを下回って10nmまで下がるほか、RIの範囲が1.4~2.0の材料)を網羅する多くの直径である。また同様に、設定10で用いられる標準的な固定レーザ出力およびカメラゲインに対して、(相対屈折率対同じ希釈剤中で観測された同サイズの粒子の多くのトラッキング間で計算される希釈剤平均のRIの異なる各材料について)さまざまな粒径についての平均散乱光強度を記録する。これは、他のレーザ出力設定およびカメラゲインに対する繰り返しまたはこれら設定の出力およびゲインの比を把握することによる外挿が可能である。
【0024】
既知の相対屈折率に対して計算されたMie散乱断面に散乱光強度の結果が従うかを確認するのがさらに好都合である(ステップ1330)(水中のPSLおよびシリカナノ粒子の散乱断面の比較については
図6を参照(ファン・デル・ポール(van der Pol)ら「Refractive index determination of nanoparticles in suspension using NTA」(2014年)参照))。
【0025】
ステップ1335においては、各サイズの粒子について、
図7Aに示すように、平均測定強度に対して相対屈折率をプロットする(光源波長450nmで水中の直径175nmの粒子)。直径がおよそ200nmより小さな粒子については、散乱断面および観測強度がレイリー散乱比例パラメータと線形である(nが散乱材料の屈折率、n
0が希釈剤の屈折率)。
【0026】
【数1】
図7Bは、
図7Aと同じデータを示すが、横軸が式1により導出され、線形関係となっている。直径が200nmより大きな粒子については、
図7Cに示すように、光強度が粒子の屈折率nと線形関係を共有する(光源波長450nmで水中の直径435nmの粒子)。
【0027】
この方法の主要点は、屈折率対希釈剤の屈折率が異なる粒子と同様に、サイズの異なる粒子は光散乱も異なることから、異なる希釈剤中の異なるサイズの粒子について、調査済体積が一定ではないという事実を考慮した校正方法を提供することである。調査済体積を適正に校正しなければ、観測およびカウントされる粒子の数は、コロイド内の実際の粒子数を正しく表さないことになる。
【0028】
図8Aにおいては、屈折率が異なる水中の直径175nmの一連の粒子の測定およびカウントを行い、調査済体積に対して屈折率をプロットしている(ステップ1340)。
図8Aの調査済体積は、サイズと相対屈折率とが異なる粒子の過大/過小カウントを修正する校正係数である。
図8Aは、設定のほか、使用する光源の波長に依存する。ユーザは、特定の設定および光源のグラフ(すなわち、
図7A~
図8B)を作成するとともに、同じ設定および光源を用いて未知のサンプルを試験することも可能である。
【0029】
校正・調査済体積は、調査済体積中の既知粒子の数を観測粒子数と比較することによって決定される。このため、同じ液体中の同じ濃度ながら、1つの屈折率について、より低い屈折率の粒子の2倍もの粒子が観測された場合、前者の校正・調査済体積は、後者の2倍であるべきである。再び
図8Aを参照して、より低い屈折率の粒子は、光散乱の効率がより低くなる傾向にあるため、校正・調査済体積が1nLに近づく一方、より高い屈折率の粒子は、光散乱の効率がより高くなるため、校正済体積が2nLに近づく。粒度分布(PSD)が計算されている場合、i番目のビンに属するすべての粒子(粒子数j)の合計に用いられる式は、以下の通りである。
【0030】
【数2】
ここで、d
iはi番目のビンの幅であり、合計は、上述の通り個別に決定された校正・調査済体積V
jをそれぞれ有する分類されたj個すべての粒子に対して行われる。
【0031】
したがって、高屈折率材料で構成された粒子の数は、より大きな校正・調査済体積により割り引かれることになる。実際、
図8Aは、未校正の調査済体積の問題を完全に示している。校正しなければ、水中に置かれた屈折率1.45で直径175nmの粒子は、水中に置かれた屈折率1.61の同サイズの粒子と比較して、およそ50%だけ少なく見積もられることになる。
図8Bは、水中の直径435nmの粒子について、同じグラフを作成するとともに、同様の効果を示している。
【0032】
図9は、校正済体積V
1およびV
2が結果的にそれぞれ異なる水中の(未知の)粒子の2つの異なるサイズd
1およびd
2(大円)に関する本プロセスの複合表示を模式的に示している。
【0033】
図7A~
図9に示すグラフは、離散型の材料を用いて作成しているが、校正対象の装置の形状(すなわち、使用する対物レンズの開口数NA)に対して散乱断面のMie計算を実行することにより、(より広範な屈折率、粒子サイズ、またはさまざまな希釈剤について)試験粒子を超えて結果を外挿することができる。たとえば、
図10は、水を希釈剤とする(n
0=1.33)さまざまな材料についてのMie計算結果を与えている。
【0034】
図7A~
図9の情報を組み合わせることにより、
図11に示す3次元面グラフが得られる(任意選択的なステップ1350)。システムは、光強度および所与の希釈剤中の粒子の直径を測定可能であるため、該希釈剤の参照面を用いることによって、校正・調査済体積を決定することができる。校正・調査済体積が決まったら、システムは、特定のビンサイズの粒子数をカウントして、該ビンに対応するサイズの各粒子についての校正・調査済体積で上式2を適用する。
【0035】
ステップ1355および1360においては、光源の異なる波長を含む外挿を含めることによって、
図11に示す参照面をよりロバストにする。たとえば、
図12は、光の波長がそれぞれ405nmおよび450nmの水中のポリスチレン(PSL)およびシリカ散乱断面のMie計算結果を示している。これは、2Dでのグラフ化が容易ではない4次元マトリクスとなるものの、本質的には、4次元の光源波長の追加軸を有する
図11の面である。このようなマトリクスは、コンピュータプロセッサによる作成および計算も可能である。システムは、波長、直径、および強度を用いることにより、各粒子について、校正・調査済体積を外挿することになる。そして、これらの校正済体積から、正確なPSDを計算することができる。上述の手順においてさまざまな希釈剤を考慮することにより、さらに別の次元が追加される。
【0036】
図14に示すように、校正・調査済体積を用いて未知の多分散サンプルの粒度分布を求める方法1400が開示される。既知の希釈剤中の未知の多分散サンプルをキュベットに投入し(ステップ1405)、光源波長を設定する。ステップ1410においては、直径と同様に、未知の粒子の測定散乱強度を記録する。そして、これら2つの値を用いることにより、所与の希釈剤について、
図12の参照面から校正・調査済体積を決定する(ステップ1415)。あるいは、参照面を使用しない場合は、
図7A~
図9に関して上述したグラフにより校正・調査済体積を求める。ステップ1420においては、特定のビンサイズの粒子数も記録する。ステップ1425においては、各粒子についての校正・調査済体積で上式2を適用することにより、サンプルについてのPSDを計算することができる。このプロセスは、既知の希釈剤中の未知のサンプルの複数の直径(ステップ1430)およびさまざまな波長(ステップ1435)に対して繰り返すことができる。
【0037】
図15に示すように、方法1400は、プロセッサ60上で実施されていてもよい。具体的には、散乱光強度とサンプルの相対屈折率対希釈剤との間の所定の関係のほか、調査済体積とサンプルの相対屈折率との間の所定の関係がプロセッサのデータベース75の一部であってもよい。プロセッサ60は、既知の希釈剤中の未知の粒子による測定散乱強度、粒子サイズ、および粒子数を記録可能である。この情報に基づいて、プロセッサは、カウントされたすべての粒子についての校正・調査済体積を決定するとともに、未知のサンプルについてのPSDを生成することができる。複数の光波長が用いられる場合、プロセッサは、光源波長を用いるとともに、さまざまな波長に基づく散乱光強度対屈折率と校正・調査済体積対屈折率との関係を有し得るデータベースから、これらの決定を実行することができる。
【0038】
以上、校正済の調査体積を決定するロバストな方法を説明してきたが、これらの同じ技術を用いて、(粒子の材料を考慮した場合の)均質なコロイドの校正済の調査体積を決定可能であることに留意するものとする。
図9を参照して、一番上の線は、屈折率が1.466のシリカの校正済の調査体積に対する粒子の直径を表している。均質ながら未知の材料のサンプルが、粒径に対してシリカと同様の散乱強度を有する粒子を同じ希釈剤中に有する場合は(たとえば、
図7A~
図7C参照)、シリカ対該希釈剤の屈折率も同様であるため、該希釈剤に対するシリカの校正済の調査体積が用いられるようになっていてもよい(すなわち、
図9)。これは本質的に、
図11に示す3D面の単一の曲線(断面)である。これは、校正済の調査体積へと到達するために希釈剤に対するサイズと屈折率とが既知の複数のサンプルを必要としない、簡素化されたケースである。
【0039】
本明細書においては、上記説明するとともに添付の例示的な図面に示すように、本発明の例示的な実施形態および用途を説明してきたが、本発明は、これらの例示的な実施形態および用途にも、該例示的な実施形態および用途の運用の方式または本明細書に記載の方式にも限定されるものではない。実際のところ、当業者には明らかなように、例示的な実施形態の多くの変形および改良が可能である。本発明は、本特許出願または任意の関連特許出願に基づいて特許庁が許可する請求項のうちの1つの範囲内、に結果的な機器、システム、または方法が含まれる限り、いかなる機器、構造、方法、または機能を含んでいてもよい。