(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】時系列パターンモデルを用いて主要パフォーマンス指標(KPI)を監視するコンピュータシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2019500310
(86)(22)【出願日】2017-07-07
(86)【国際出願番号】 US2017041003
(87)【国際公開番号】W WO2018009733
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-07-01
(32)【優先日】2016-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500204511
【氏名又は名称】アスペン テクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】マ・ジアン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ラオ・アショック
(72)【発明者】
【氏名】ルイ・アンドリュー・エル
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ウィリー・ケー・シー
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-099071(JP,A)
【文献】特開2014-096050(JP,A)
【文献】特開2000-259222(JP,A)
【文献】特開2010-122912(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051101(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0082125(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0351642(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに実装され、産業プロセスにおける動作イベントを検出する方法であって、
産業プロセスにおける動作イベントのシグネチャであって、前記動作イベントに関連する
KPI(主要パフォーマンス指標)についての時系列パターンを含むシグネチャを定義する定義過程と、
前記産業プロセスのオンライン実行中に、前記KPIの動きのトレンドを監視する過程であって、動きの当該トレンドは、前記KPIの時系列として監視される、監視過程と、
(i)前記KPIの監視対象時系列の
特定の範囲と、(ii)前記定義されたシグネチャに含まれる、前記KPIについての前記時系列パターンの間の距離スコアを、リアルタイムで決定する決定過程
であって、(a)前記監視対象時系列の特定の範囲と前記時系列パターンとにZ正規化を実行する副過程、(b)Z正規化された前記監視対象時系列の特定の範囲とZ正規化された前記時系列パターンの間のユークリッド距離を、動的時間伸縮法(DTW)を用いて算出する副過程、(c)ゼロのベクトルと前記Z正規化された時系列パターンの間のゼロラインユークリッド距離を算出する副過程、ならびに(d)動的時間伸縮法を用いて算出された前記ユークリッド距離および算出された前記ゼロラインユークリッド距離に基づき、前記監視対象時系列の特定の範囲が前記時系列パターンに合致する確率を示す前記距離スコアを決定する副過程を含む、決定過程と、
決定された前記距離スコアに基づき、実行されている前記産業プロセスにおいて、前記定義されたシグネチャに関連する前記動作イベントを検出する検出過程と、
前記動作イベントの検出に応答して、前記産業プロセスのパラメータを、検出された前記動作イベントを阻止するように調節する調節過程と、
を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記シグネチャを定義する過程が、さらに、
データサーバを介してプラントヒストリアンデータベースから、履歴プラントデータをロードする副過程、
ロードされた前記履歴プラントデータにおいて、前記KPIの時系列パターンを特定する副過
程は、
(i)自動パターン検索識別手法、
(ii)動作ログの適用、および
(iii)ドメイン専門家による閲覧の少なくとも1つにより行われ
、前記特定された時系列パターンは前記動作イベントに関連する、副過程、
前記シグネチャの時系列範囲を選択する副過程、ならびに
選択された前記時系列範囲に対応する特定された時系列パターンを完全に含むように、前記シグネチャを設定する副過程、
を含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記自動パターン検索識別手法が、
異常な動作状況のパターン特性を表す少なくとも1つのパターン形状を定義し、定義された当該パターン形状は、形状ライブラリに記憶されること、
前記形状ライブラリから、前記動作イベントについてのパターン形状を選択することであって、当該選択は、時系列パターンを特定するときに当該選択されたパターン形状を含めるか又は除外するかを指定すること、
(i)前記選択されたパターン形状と、(ii)前記ロードされた履歴プラントデータからの前記KPIの時系列の間の距離プロファイルを決定
すること、
決定された当該距離プロファイルに基づいて検索プロファイルを生成すること、および
生成された前記検索プロファイルを用いて、前記動作イベントに関連する前記特定された時系列パターンを含む、少なくとも1つのパターンクラスタを決定すること、
を含む教師ありパターン発見手法である、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記KPIについての前記距離スコアをリアルタイムで決定する過程が、
さらに、振幅フィルタを、Z正規化された前記監視対象時系列の
特定の範囲に適用する副過
程を含む、方法。
【請求項5】
請求項
1に記載の方法において、さらに、
前記距離スコアを決定するときに、前記監視対象時系列の
特定の範囲と前記時系列パターンの間の一定の違いをなくすようにフィルタを適用する過程、
を備える、方法。
【請求項6】
請求項
1に記載の方法において、前記距離スコアが0~1の数値であり、1は前記動作イベントの最も高い発生確率を示し、0は前記動作イベントの最も低い発生確率を示す、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、さらに、
前記KPIの複数のシグネチャに関する、前記定義過程、前記監視過程、前記決定過程及び前記検出過程を、パラレルで実行する過程と、
前記KPIの定義された前記複数のシグネチャのそれぞれについて決定された前記距離スコアを、当該KPIについての統合距離スコアに組み合わせる過程と、
当該KPIについての前記統合距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出する過程と、
を備える、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記定義された複数のシグネチャに含まれる前記時系列パターンが、振幅、オフセット、形状および時間のうちの少なくとも1つによって変動する、方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法において、さらに、
前記定義された複数のシグネチャを記憶するシグネチャライブラリを構成する過程、
を備える、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、さらに、
複数のKPIに関する、前記定義過程、前記監視過程、前記決定過程及び前記検出過程を、パラレルで実行する過程と、
前記複数のKPIのそれぞれに対応する重み係数を定義する過程と、
各KPIについて決定された前記距離スコアを、前記対応する重み係数に基づいて重み付けする過程と、
前記複数のKPIそれぞれについての重み付けられた前記距離スコアを、トータル距離スコアに組み合わせる過程と、
前記トータル距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出する過程と、
を備える、方法。
【請求項11】
産業プロセスにおける動作イベントを検出するコンピュータシステムであって、
プロセッサと、
コンピュータコード命令が記憶されたメモリと、
を備え、前記メモリは、前記プロセッサにより実行されると前記コンピュータコード命令が、
産業プロセスにおける動作イベントのシグネチャであって、前記動作イベントに関連する
KPI(主要パフォーマンス指標)についての時系列パターンを含むシグネチャを定義するように構成されたモデラエンジン、
分析エンジンであって、
前記産業プロセスのオンライン実行中に、前記KPIの動きのトレンドを前記KPIの時系列として監視するように、かつ、
(i)前記KPIの監視対象時系列の
特定の範囲と、(ii)前記定義されたシグネチャに含まれる、前記KPIについての前記時系列パターンの間の距離スコアを、リアルタイムで決定
し、この決定において、(a)前記監視対象時系列の特定の範囲と前記時系列パターンとにZ正規化を実行するように、かつ、(b)Z正規化された前記監視対象時系列の特定の範囲とZ正規化された前記時系列パターンの間のユークリッド距離を、動的時間伸縮法(DTW)を用いて算出するように、かつ、(c)ゼロのベクトルと前記Z正規化された時系列パターンの間のゼロラインユークリッド距離を算出するように、かつ、(d)動的時間伸縮法を用いて算出された前記ユークリッド距離および算出された前記ゼロラインユークリッド距離に基づき、前記監視対象時系列の特定の範囲が前記時系列パターンに合致する確率を示す前記距離スコアを決定するように、
かつ、
決定された前記距離スコアに基づき、実行されている前記産業プロセスにおいて、前記定義されたシグネチャに関連する前記動作イベントを検出するように構成された分析エンジン、および
検出された前記動作イベントに関する情報の受取りに応答して、前記産業プロセスのパラメータを、検出された前記動作イベントを阻止するように調節するように構成されたプロセス制御システム、
を当該コンピュータシステムに実装させるように、前記プロセッサに作動的に接続されている、システム。
【請求項12】
請求項11に記載のシステムにおいて、前記モデラエンジンが、さらに、
データサーバから履歴プラントデータをロードし、
ロードされた前記履歴プラントデータにおいて、前記KPIの時系列パター
ンを、
(i)自動パターン検索識別手法、(ii)動作ログの適用、および(iii)ドメイン専門家による閲覧の少なくとも1つにより特定し、
前記シグネチャの時系列範囲を選択し、
選択された前記時系列範囲に対応する特定された時系列パターンを完全に含むように、前記シグネチャを設定する
ように構成されており、
前記特定された時系列パターンは前記動作イベントに関連する、システム。
【請求項13】
請求項12に記載のシステムにおいて、前記自動パターン検索識別手法が、
異常な動作状況のパターン特性を表す少なくとも1つのパターン形状を定義し、定義された当該パターン形状は、形状ライブラリに記憶されること、
前記形状ライブラリから、前記動作イベントについてのパターン形状を選択することであって、当該選択は、時系列パターンを特定するときに当該選択されたパターン形状を含めるか又は除外するかを指定すること、
(i)前記選択されたパターン形状と、(ii)前記ロードされた履歴プラントデータからの前記KPIの時系列の間の距離プロファイルを決定
すること、
決定された当該距離プロファイルに基づいて検索プロファイルを生成すること、および
生成された前記検索プロファイルを用いて、前記動作イベントに関連する前記特定された時系列パターンを含む、少なくとも1つのパターンクラスタを決定すること、
を含む教師ありパターン発見手法である、システム。
【請求項14】
請求項11に記載のシステムにおいて、前記分析エンジンが、前記KPIについての前記距離スコアを、
振幅フィルタをZ正規化された前記監視対象時系列の特定の範囲に適用することによってリアルタイムで決定するように構成されている、システム。
【請求項15】
請求項
11に記載のシステムにおいて、前記分析エンジンが、さらに、
前記距離スコアを決定するときに、前記監視対象時系列の
特定の範囲と前記時系列パターンの間の一定の違いをなくすようにフィルタを適用する
ように構成されている、システム。
【請求項16】
請求項14に記載のシステムにおいて、前記距離スコアが0~1の数値であり、1は前記動作イベントの最も高い発生確率を示し、0は前記動作イベントの最も低い発生確率を示す、システム。
【請求項17】
請求項16に記載のシステムにおいて、前記分析エンジンが、さらに、
前記距離スコアを決定するときに、前記監視対象時系列の範囲と前記時系列パターンの間の一定の違いをなくすようにフィルタを適用する
ように構成されている、システム。
【請求項18】
請求項
11に記載のシステムにおいて、前記距離スコアが0から1までの数値であり、1は前記定義されたシグネチャの最も高い発生確率を示し、0は前記定義されたシグネチャの最も低い発生確率を示す、システム。
【請求項19】
請求項11に記載のシステムにおいて、前記モデラエンジンが、さらに、
前記動作イベントの複数のシグネチャに関する前記定義をパラレルで実行するように構成されており、
前記分析エンジンが、さらに、
前記KPIの複数のシグネチャに関する、前記監視、前記決定及び前記検出をパラレルで実行し、
前記KPIの定義された前記複数のシグネチャのそれぞれについて決定された前記距離スコアを、当該KPIについての統合距離スコアに組み合わせ、
当該KPIについての前記統合距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出するように構成されている、システム。
【請求項20】
請求項19に記載のシステムにおいて、前記定義された複数のシグネチャに含まれる前記時系列パターンが、振幅、オフセット、形状および時間のうちの少なくとも1つによって変動する、システム。
【請求項21】
請求項19に記載のシステムにおいて、前記モデラエンジンが、さらに、前記定義された複数のシグネチャを記憶するシグネチャライブラリを生成するように構成されている、システム。
【請求項22】
請求項11に記載のシステムにおいて、前記モデラエンジンが、さらに、
複数のKPIに関する前記定義をパラレルで実行するように構成されており、
前記分析エンジンが、さらに、
複数のKPIに関する、前記監視、前記決定及び前記検出をパラレルで実行し、
前記複数のKPIのそれぞれに対応する重み係数を定義し、
各KPIについて決定された前記距離スコアを、前記対応する重み係数に基づいて重み付けし、
前記複数のKPIそれぞれについての重み付けられた前記距離スコアを、トータル距離スコアに組み合わせ、
前記トータル距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出するように構成されている、システム。
【請求項23】
コード命令が記憶された非過渡的なコンピュータ読取り可能記憶媒体、
を備える、
産業プロセスでの動作イベントを検出するコンピュータプログラムプロダクトであって、
前記記憶媒体は
、プロセッサにより実行されると前記コード命令が、当該プロセッサに:
産業プロセスにおける動作イベントのシグネチャであって、前記動作イベントに関連する
KPI(主要パフォーマンス指標)についての時系列パターンを含むシグネチャを定義する手順、
前記産業プロセスのオンライン実行中に、前記KPIの動きのトレンドを監視する手順であって、動きの当該トレンドは、前記KPIの時系列として監視される、手順、
(i)前記KPIの監視対象時系列の
特定の範囲と、(ii) 前記定義されたシグネチャに含まれる、前記KPIについての前記時系列パターンの間の距離スコアを、リアルタイムで決定する手順
であって、(a)前記監視対象時系列の特定の範囲と前記時系列パターンとにZ正規化を実行する副手順、(b)Z正規化された前記監視対象時系列の特定の範囲とZ正規化された前記時系列パターンの間のユークリッド距離を、動的時間伸縮法(DTW)を用いて算出する副手順、(c)ゼロのベクトルと前記Z正規化された時系列パターンの間のゼロラインユークリッド距離を算出する副手順、ならびに(d)動的時間伸縮法を用いて算出された前記ユークリッド距離および算出された前記ゼロラインユークリッド距離に基づき、前記監視対象時系列の特定の範囲が前記時系列パターンに合致する確率を示す前記距離スコアを決定する副手順を含む、決定する手順、
決定された前記距離スコアに基づき、実行されている前記産業プロセスにおいて、前記定義されたシグネチャに関連する前記動作イベントを検出する手順、
前記動作イベントの検出に応答して、前記産業プロセスのパラメータを、検出された前記動作イベントを阻止するように調節する手順
を実行させるように、当該プロセッサに作動的に接続されている、コンピュータプログラムプロダクト。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2016年7月7日付出願の米国仮特許出願第62/359,575号の利益を主張する。この仮特許出願の全体は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【背景技術】
【0002】
プロセス産業では、プロセスのパフォーマンスを持続及び維持することが、産業プラント又は化学プラントの高度プロセス制御や資産最適化における重要な要素となっている。プロセスのパフォーマンスを持続及び維持することにより、プラントにおいて効率的かつ安全な操業(運転)および低い保守コストを長期にわたって提供することができる。プラントプロセスのパフォーマンスを持続及び維持するために、主要パフォーマンス指標(KPI)のセットが、プラントプロセスでの問題や非効率を検出するように監視される可能性がある。具体的に述べると、KPIの動き(変化)のトレンドを(例えば、時系列として)監視することで、プラントプロセス操業に見通しをもたらし、当該プラントプロセスのパフォーマンスに悪影響を及ぼす不所望のイベント(例えば、障害等)がやがて発生することを知らせる。しかし、従来のプラントモデルは、このようなタスク(例えば、これらの不所望な動作イベント(動作事象)を検出及び診断するようにKPIの時系列を監視すること等)に適していない。これらの従来のプラントモデルが適していない理由のいくつかは、当該従来のプラントモデルの範疇外である極端な条件下でプラントプロセスが操業しているときに上記不所望のイベントがしばしばランダムに発生し、それぞれランダムに発生する当該不所望のイベントの根本的原因が多種多様であるためである。
【0003】
第一に、従来の第一原理モデルは、オンラインのプラントプロセスにおけるKPI時系列を監視するのに必要な詳細動的予測を行うように開発するには複雑かつ高価過ぎる。さらに、第一原理モデルは正常な動作状況によって典型的に校正されるが、不所望の(極端な)イベントはしばしば、正常な動作状況のみで校正された当該モデルには含まれない極端な動作状況により引き起こされる。第二に、従来の経験モデルを構築するのであれば、当該モデル(例えば、相関モデル及び回帰モデル等)を訓練及び検証するために、繰返し可能なプロセスイベントのデータが必要となる。しかしながら、不所望のイベントのデータは希少であり、同じ製品を製造する同じプラントプロセスからのKPIの時系列読出し(例えば、振幅及び形状等)も、時間が経つにつれて変動することが多い。つまり、経験モデルを十分に訓練及び検証するための、繰返し発生するプロセスイベントの、KPIの時系列についてのデータを入手することができない。第三に、(単変量又は多変量の)統計モデルは、正常条件に対する異常条件を検出すること(例えば、異常の発生を知らせること等)しか可能でなく、KPI時系列監視や障害特定(例えば、何が発生したかの報告等)の機能は限られている。さらに、統計モデルから提示された結果を理解及び説明するには統計学の専門知識が必要となるので、プラントオペレータのようなプラント従事者ではしばしば直感的に理解することができない。
【0004】
その上、時系列に関する従来の多変量統計アプローチは、不所望の動作イベント(障害)の監視及び検出を実現するのに、主成分分析(PCA)、部分的最小二乗回帰(PLSR)、非線形ニューラルネットワークなどの手法を用いる可能性がある。これらの従来の多変量統計アプローチは、モデルが新規の正常な操業状態を外れ値として分類する(及び誤警告を発行する)ことがないように定期的な再校正及び再訓練を必要とする。また、ファジィ推論アプローチは、障害検出にも用いられてきたものであるが、KPIトレンド処理のための複雑なイベントシグネチャ推論システムを必要とする。この複雑なイベントシグネチャ推論には、時系列パターンをプリミティブに分解すること、当該プリミティブを再構築すること、及び類似度行列を適用することなどが求められる。
【0005】
近年、時系列及び形状データマイニングアプローチ(手法)での機械学習が、急速に進歩している(例えば、非特許文献1「動的時間伸縮法による何兆もの部分時系列の検索及びマイニング」等)。このような典型的な分析手法及び当該分析手法の用途は、新規性検出、モチーフ発見、クラスタリング、分類、大量のデータセットのインデクシング及び可視化などを含む。これらの新しい手法は、画像認識、医療データ解析、記号集約近似、DNA種の画像比較などに適用されてきた。しかしながら、プロセス産業では、時系列及び形状データマイニングに関して既知の適切な手法が適用されたことがなく、また、適用の成功が報告されたこともない。プロセス産業では、前述したような新しい手法を適用するのに幾つかの困難が存在する。第一に、一般的な時系列データ分析アルゴリズム単独では、問題特化型システムや方法を持たない、データ収集・作成、及びパターンモデル開発・管理などのプロセスアプリケーションに適していない。第二に、モデル及び結果は、プラントオペレータやエンジニアのドメイン知識に沿ったものである必要があり、システムは多くの場合、彼らのドメイン知識をモデル化プロセス内において受け付けることが可能なものである(例えば、ユーザがモデル化及び監視プロセスに参加することを可能にする)のが望ましい。第三に、システム及び方法は、ユーザが少なくとも1つのモデルを作成して当該少なくとも1つのモデルを毎日(例えば、週7日24時間等)の連続操業においてオンライン環境で実行することを可能にするものである必要がある。これまでに言及したどの技術も、プロセス産業のこれらの要件を満たすことができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Thanawin Rakthanmanon et. al. "Searching and Mining Trillions of Time Series Subsequences under Dynamic Time Warping," the 18th ACM SIGKDD Conference on Knowledge discovery and Data Mining, August 12-16, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、オンラインのプラントプロセスにおける動作イベントを検出及び予測するのに適したモデル化アプローチに向けられている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの実施形態は、複雑な第一原理モデル、経験モデル又は統計モデルの構築や、これらのモデルを訓練/検証するためのデータセットのコストのかかる作成を必要としない。むしろ、これらの実施形態は、動作イベントに関連するKPIについての時系列のイベントシグネチャのセットを含む、イベントパターンモデルを構築する。各イベントシグネチャは、前記KPIについての完全な時系列パターンであって、プラントプロセスにおける前記動作イベントを示す時系列パターンを含む。実施形態は、変動する、振幅、オフセット、広がり、形状、時間範囲などの時系列パターンを含む、前記KPIについての前記イベントシグネチャを設定してもよい。
【0009】
これらの実施形態は、プロセスオペレータやエンジニアやシステムがイベントパターンモデルのイベントシグネチャを定義することを、例えば:(i)過去のイベントからの既知の時系列イベントパターンを用いること;(ii)姉妹動作ユニット又は姉妹操業プラントから得られたシグネチャパターンを用いること;(iii)他のリソースから時系列パターンをインポートすること;(iv)イベントシグネチャライブラリからパターンを選択すること;等の幾つかの方法で可能にする。シグネチャパターンが利用できない場合や、存在するシグネチャパターンがユーザの基準を満たさない場合には、ユーザが:(i)教師なし(案内なし)パターン発見;(ii)教師あり(案内あり)パターン発見;および(iii)これらを組み合わせて反復的に行うパターン発見;のいずれかを用いることによってプラントヒストリアンからイベントパターンを検索してもよい。実施形態は、さらに、構築されたイベントパターンモデルのライブラリをユーザが構築することを可能にする。
【0010】
前述したように、イベントパターンモデルのためのイベントパターンの検索及び割出しは、時系列のパターン特性についてのユーザの指定に従って実行されてもよく、またはパターン発見アプローチを用いることによって自動的に実行されてもよい。教師なし(例えば、「データオンリー」等)パターン発見アプローチでは実施形態が、パターン発見アルゴリズムをKPI(例えば、KPI測定値等)についての所与の長さ(有限)の時系列に適用し、かつ、当該時系列のうちのある時間窓において、所与の長さの類似点を有するクラスタを割り出す。教師あり(ユーザの案内あり)パターン発見アプローチでは実施形態が、さらに、ユーザが選択したプリミティブ形状を前記パターン発見アルゴリズムに組み合わせて、パターン検索プロセスを高速化し、非イベントのパターンの数を減らし、オンライン配備用の最も有意義なパターンモデルを得る。教師あり(ユーザの案内あり)パターン発見アルゴリズムは、ユーザがデフォルトのプリミティブ形状ライブラリ(例えば、釣鐘状ピーク、上昇、及び降下等)を適用すること、ユーザがアドホックな描画ペイン上で動的に(その場で)描画することなどを可能にする。当該教師あり(ユーザの案内あり)パターン発見アプローチは、パターン発見プロセス時にどのパターン特性がパターンクラスタに含められるのが望ましいか又は除外されるのが望ましいのかに影響を加えることができる。当該教師ありパターン発見アプローチは、パターンクラスタを構築する前に不所望のパターンクラスタをトリミング/スキップするので、所望のパターンクラスタを構築するのにかかる時間が短縮される。
【0011】
オンライン環境では、これらの実施形態は、さらに、オンラインのプラントプロセスの実行中に、動作イベントに関連するKPIの(時系列)動きのトレンドを、構築されたイベントパターンモデルのライブラリを用いて監視する。実施形態は、当該ライブラリからの少なくとも1つのパターンモデルを、プラントプロセスのオンライン実行に反復的に配備する。パターンモデルを反復的に配備する際にこれらの実施形態は、イベントシグネチャの対応するセットを、前記オンラインのプラントプロセスにおけるKPIの動きの前記トレンド(時系列)に適用する。適用される各イベントシグネチャごとに実施形態は、当該イベントシグネチャに含まれる完全なKPI時系列パターンをオンラインのKPI時系列の範囲と比較して、類似度を決定する。実施形態は、当該オンラインのKPI時系列の範囲と時系列パターンモデルとの類似度を、振幅、オフセット、形状及び時間の偏差を考慮して決定する。実施形態はこの比較に基づいて距離(類似度)スコアを算出する。距離(類似度)スコアは、前記オンラインのプラントプロセスでの前記動作イベントの発生を前記オンラインのKPI時系列が示す確率を定量化したものである。これを行うために一部の実施形態は、パターンライブラリモデルに対する所与の長さの時系列の類似度を測定する、AspenTech距離(ATD)と称される新しい距離尺度を提供する。ATDは、従来のユークリッド距離(ED)に似た数学的性質を有しているが、プロセス産業用途ではEDに比べて幾つかの利点を奏する。
【0012】
これらの実施形態のパターンモデルは、対象プラントの変動する毎日の操業を監視するのに利用されることができるように作成されて(フォーミュレート)されている。当該パターンモデルは、同様の操業を同様又は異なる規模で行う関連(姉妹)プラントを監視するのに利用されることもできる。当該パターンモデルは、さらに、対象プラントのプロセス操業が変更された場合(例えば、異なる製品を製造するように変更された場合等)の変化する動作状況にも、単にイベントシグネチャを取り替えるだけで順応可能であるように作成されている。当該パターンモデルは、さらに、分解された時系列プリミティブを類似度行列を用いて適用するのではなく、完全な時系列パターンを適用するように作成されている。当該パターンモデルは、さらに、イベントシグネチャのKPI時系列パターン及びオンラインのプラントプロセスのKPI時系列を測定するのに用いられたデータサンプリングレートの影響を受けないように作成されている。当該パターンモデルは、さらに、プラントオペレータや他のプラント従事者が直感的に理解できる結果(例えば、グラフィック、理解可能なフルレンジ(例えば、0~1の数値等)での前記距離スコア等)を実施形態が提示することを可能にする。
【0013】
本発明の例示的な実施形態は、産業プロセスでの動作イベントを検出する、コンピュータに実装される方法、コンピュータシステムおよびコンピュータプログラムプロダクトに向けられている。前記動作イベントは、前記産業プロセスにおいて発生する不所望又は異常な動作イベントであってもよい。前記コンピュータシステムは、プロセッサと、コンピュータコード命令が記憶されたメモリとを備える。当該メモリは、前記プロセッサにより実行されると前記コンピュータコード命令がモデラエンジンおよび分析エンジンを前記コンピュータシステムに実装させるように、前記プロセッサに作動的に接続されている。前記コンピュータプログラムプロダクトは、コード命令が記憶された非過渡的なコンピュータ読取り可能記憶媒体を備える。当該記憶媒体は、プロセッサにより実行されると前記コンピュータコード命令が当該プロセッサに産業プロセスにおける動作イベントを検出させるように、当該プロセッサに作動的に接続される。
【0014】
例示的な実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、データサーバ、ヒストリアンデータベース、ウェブユーザインターフェース(UI)およびアプリケーションサーバを少なくとも備える。実施形態はアプリケーションサーバに存在する。アプリケーションサーバは、前記データサーバを介してヒストリアンデータベースからプラント履歴データをロードしてもよい。当該履歴データは、センサから計測系により収集されたデータ、または算出されたKPIを含んでもよい。また、実施形態は、前記ウェブUIを介してユーザと対話してもよい。例えば、パターンシグネチャについてのユーザの指定、既存のパターンモデルの選択等を受け付ける。そして、実施形態は、パターン発見、パターンモデル構築、オンラインKPI時系列監視などのタスクを前記アプリケーションサーバで実行してもよく、かつ、結果をウェブUIに送信して表示させてもよい。
【0015】
前記コンピュータ方法、(前記モデラエンジンによる)システム、およびプログラムプロダクトは、産業プロセスでの動作イベントのシグネチャを定義する。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、前記シグネチャを、前記動作イベントに関連するKPIについての時系列パターンを含むように定義する(決定する)。一部の実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが前記シグネチャを、コンピュータメモリ(例えば、データサーバを介してプラントヒストリアンデータベース等)から履歴プラントデータをロードすることによって定義する(決定する)。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、ロードされた前記履歴プラントデータにおいて、前記動作イベントに関連する前記KPIの時系列パターンを特定する。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、前記ロードされた履歴プラントデータにおいて前記時系列パターンを、自動パターン検索識別手法、動作ログの適用、およびドメイン専門家による閲覧の少なくとも1つにより特定する。そして、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、前記シグネチャの時系列範囲を選択し、当該時系列範囲に対応する特定された時系列パターンを含むように、前記シグネチャを設定する。
【0016】
一部の実施形態において、前記自動パターン検索識別手法は、教師ありパターン発見手法を含む。これらの実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、前記教師ありパターン発見手法を実行する。前記教師ありパターン発見手法は、異常な動作状況のパターン特性を表す少なくとも1つのパターン形状を定義する(決定する)。定義された当該パターン形状は、形状ライブラリに記憶される。前記教師ありパターン発見手法は、当該形状ライブラリから、前記動作イベントについてのパターン形状を選択する。前記教師ありパターン発見手法は、この選択の一部として、時系列パターンを特定するときに当該選択されたパターン形状を含めるか又は除外するかを指定する。前記教師ありパターン発見手法は、(i)前記選択されたパターン形状と、(ii)前記ロードされた履歴プラントデータからの前記KPIの時系列の間の距離プロファイルを決定し、決定された当該距離プロファイルに基づいて検索プロファイルを生成する。前記教師ありパターン発見手法は、生成された当該検索プロファイルを用いて、前記動作イベントに関連する前記特定された時系列パターンを含む、少なくとも1つのパターンクラスタを決定する。
【0017】
そして、前記コンピュータ方法、(前記分析エンジンによって)システム、およびプログラムプロダクトは、前記産業プロセスのオンライン実行中に、前記KPIの動きのトレンドを前記KPIの時系列として監視する。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、この監視に基づいて、(i)前記KPIの監視対象時系列の範囲と、(ii)定義された前記シグネチャに含まれる、前記KPIについての前記時系列パターンの間の距離スコアをリアルタイムで決定する。
【0018】
一部の実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトがそのKPIについての前記距離スコアを、前記監視対象時系列の範囲と前記時系列パターンとの両方にZ正規化を実行することによってリアルタイムで算出する。そして、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、Z正規化された前記監視対象時系列の範囲とZ正規化された前記時系列パターンの間のATD距離を、ある程度の動的時間伸縮法(DTW)を許容しながら算出する。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、さらに、ゼロのベクトル(すなわち、ゼロライン(基線))と前記Z正規化された時系列パターンとの間のゼロラインユークリッド距離を算出する。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、DTWを用いて算出された前記ユークリッド距離および算出された前記ゼロラインATD距離に基づき、前記距離スコアを決定する。決定された当該距離スコアは、前記監視対象時系列の範囲が前記時系列パターンに合致する確率を示す。
【0019】
一部の実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、さらに、前記距離スコアを決定するときに、前記監視対象時系列の範囲と前記時系列パターンの間の一定の違いをなくすようにフィルタを適用する。例示的な実施形態において、決定された前記距離スコアは、1が前記動作イベントの最も高い発生確率を示し且つ0が前記動作イベントの最も低い発生確率を示すように、0~1の数値にスケール変更されている。
【0020】
前記コンピュータ方法、(分析エンジンによる)システム、およびプログラムプロダクトは、算出された前記距離スコアに基づき、実行されている前記産業プロセスにおいて、定義された前記シグネチャに関連する前記動作イベントを検出する。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、前記動作イベントの検出に応答して、オペレータにイベント警告を送信してもよく、当該イベント警告がオペレータに、不所望の動作イベントを阻止するように前記産業プロセスのパラメータを調節することを提案する。一部の実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが検出された前記動作イベントに関する情報をプロセス制御システムに送信し、当該プロセス制御システムが前記産業プロセスの前記パラメータを、そのような不所望の動作イベントを自動的に(例えば、人間の介入なしで)阻止するように自動的に調節してもよい。
【0021】
一部の実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、KPIの複数のシグネチャに関する、前記定義、前記監視、前記算出及び動作イベントの前記検出を、パラレルで実行する。これらの実施形態のうちの一部の実施形態では、定義された前記複数のシグネチャに含まれる前記時系列パターンが、振幅、オフセット、形状および時間のうちの少なくとも1つによって変動する。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、次に、前記KPIの前記定義された複数のシグネチャのそれぞれについて算出された前記距離スコアを統合距離スコアに組み合わせる。これらの実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、そのKPIについての前記統合距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出する。これらの実施形態のうちの一部の実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、前記定義された複数のシグネチャを今後のオンライン監視のために記憶するシグネチャライブラリを構成する。
【0022】
一部の実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、さらに、複数のKPIに関する、前記定義、前記監視、前記算出及び動作の前記検出を、パラレルで実行する。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトは、前記複数のKPIのそれぞれに対応する重み係数のセットを定義し、各KPIについて算出された前記距離スコアを、前記対応する重み係数に基づいて重み付けする。前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、前記複数のKPIそれぞれについての重み付けられた前記距離スコアを、トータル距離スコアに組み合わせる。これらの実施形態では、前記コンピュータ方法、システムおよびプログラムプロダクトが、当該トータル距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出する。前述のようにして実施形態は、プロセス監視技術についてのコンピュータベースの自動型改良、および持続的なプロセスパフォーマンスを提供する。
【0023】
前述の内容は、添付の図面に示す、本発明の例示的な実施形態についての以下のより詳細な説明から明らかになる。異なる図をとおして、同一の参照符号は同一の構成/構成要素を指すものとする。図面は必ずしも縮尺どおりではなく、むしろ、本発明の実施形態を図示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態においてパターンモデルを構築する例示的な方法を示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施形態におけるオンライン監視及び時系列パターンの反復処理の例示的な方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の実施形態において
図1のパターンモデルを
図2のオンライン監視に配備する例示的な方法を示すフロー図である。
【
図4】本発明の実施形態において
図1~
図3の手法を用いてパターンモデルを配備する例示的なコンピュータシステムを示すブロック図である。
【
図5A】本発明の実施形態における例示的な案内ありパターン発見手法を示す図である。
【
図5B】本発明の実施形態における例示的な案内ありパターン発見手法を示す他の図である。
【
図5C】本発明の実施形態における例示的な案内ありパターン発見手法を示すさらなる他の図である。
【
図5D】本発明の実施形態における例示的な案内ありパターン発見手法を示すさらなる他の図である。
【
図5E】本発明の実施形態における例示的な案内ありパターン発見手法を示すさらなる他の図である。
【
図6A】本発明の実施形態において採用される例示的な距離計算を示すグラフである。
【
図6B】本発明の実施形態において採用される例示的な距離計算を示す他のグラフである。
【
図6C】本発明の実施形態において採用される例示的な距離計算を示すさらなる他のグラフである。
【
図6D】本発明の実施形態において採用される例示的な距離計算を示すさらなる他のグラフである。
【
図7】本発明の実施形態が実現され得る例示的なコンピュータネットワークの模式図である。
【
図8】
図7のコンピュータネットワークにおける例示的なコンピュータノードのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の例示的な実施形態について説明する。
[概要]
本発明の実施形態は、プラントプロセスのパフォーマンスを持続及び維持するためのモデル化アプローチ(ツール)を提供する。オンラインのプラントプロセスでは、異常な(又は不所望の)ランダムな動作イベントが、様々な根本的原因に基づいて発生し、そのオンラインのプラントプロセスのパフォーマンスに悪影響を及ぼす。これらの実施形態は、KPI(時系列)の動きのトレンドを監視してオンラインのプラントプロセスでの一定の不所望の動作イベントを検出するのに用いられるパターンモデルを構築して配備する。配備された当該パターンモデルによって、プラント従事者(例えば、プラントオペレータ、及び保守員等)やプラント操業システムは、前記不所望の動作イベント(つまり制限のない任意のプラントイベント)を迅速に割り出して、特定して、監視して、且つ検出/予測して、このような不所望のイベントが発生するのを阻止するための行動を取ることができる。
【0026】
過去のモデル化アプローチは、オンラインのプラントプロセスでの、不所望の動作イベントに関連するKPI(時系列)の動きのトレンドを監視及び検出するのに適していない。第一に、従来の第一原理モデルは、オンラインのプラントプロセスにおけるKPI時系列の読出しを監視するのに必要な詳細動的予測を行うように開発及び校正するには複雑かつ高価過ぎる。さらに、第一原理モデルは正常な動作状況によって典型的に校正されるが、不所望のイベントはしばしば、正常な動作状況のみで校正された当該モデルには含まれない極端な動作状況により引き起こされる。
【0027】
第二に、従来の経験モデルは、当該モデルを訓練及び検証するのに、繰返し可能なプロセスイベントのデータが必要となる。しかしながら、同じ製品を製造する同じ対象プラントからのKPIの時系列読出し(例えば、振幅及び形状等)でも、時間が経つにつれて変動し得る。この変動は、同じ製品を製造する場合であっても期間が異なれば、地域的な/世界的な市場の需要及び供給に基づいて、その対象プラントの操業規模が変動することに起因し得る。例えば、プラントAは、1月には100トン/時のエチレンを製造し、2月には150トン/時のエチレンを製造するかもしれない。さらに、同様の製品を製造する他の(姉妹)プラントが、前記対象プラントとは全く異なるプロセス規模で常に操業していることが多い。例えば、プラントB(対象プラント)が30トン/時のエチレンを製造するのに対し、プラントC(姉妹プラント)は100トン/時のエチレンを製造するかもしれない。このようにKPIの時系列は期間やプラントで大幅に異なり得るので、経験モデルを十分に訓練及び検証するための、繰返し可能なプロセスイベントの、KPIの時系列についてのデータは、入手することができない可能性が高い。
【0028】
第三に、(単変量又は多変量)統計モデルは、KPI監視やイベント(障害)検出の能力が限られている。統計モデルでは、良好な訓練データセット及び検証データセットの作成が、時間はかかるものの当該モデルの成功に欠かせない。統計モデルは、統計的基準(統計的ノルム)外の動作状況が外れ値として扱われて誤警報をトリガする可能性があるので、頻繁な再校正が必要となる。例えば、再校正なしでは、プラントプロセスの新規の正常な動作状況が誤って外れ値として分類されると、プラントプロセスでのイベント(障害)誤検出につながり得る。また、対象プラント(プラントA)から構築された統計モデルが姉妹プラント(プラントB)にとって極めて有用となる可能性は、これら2つのプラントでの製品/動作状況がほぼ同一でない限り低い。さらに、統計モデルは、オンラインプロセスに構築及び配備するには複雑かつ高価であるだけでなく、当該モデルを構築したプラントの訓練/検証条件内でしか十分に機能することができない。しかも、統計モデルから提示された結果を理解及び説明するには統計学の専門知識が必要となるので、プラントオペレータのようなプラント従事者ではしばしば直感的に理解することができない。
【0029】
近年、時系列及び形状データマイニング手法での機械学習が、急速に進歩している(例えば、非特許文献1、Eamonn Keoghによる"Machine Learning in Time Series Databases (and Everything Is a Time Series!),"(「時系列データベースの機械学習(あらゆるものは時系列である!)」)Tutorial in AAAI 2011, 7th August 2011等を参照のこと(この全体は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする)。これには、新規性検出、モチーフ発見、クラスタリング、分類、大量のデータセットのインデクシング及び可視化などにおける動的時間伸縮法(DTW)やユークリッド距離(ED)を含む、新しい典型的な分析手法が記載されている。これらの新しい分析手法及び当該分析手法の用途は、画像認識、医療データ解析、記号集約近似、DNA種の画像比較などに適用されてきた。しかしながら、プロセス産業では、時系列及び形状データマイニングに関して既知の適切な手法が適用されたことがなく、また、適用の成功が報告されたこともない。プロセス産業では、前述したような新しい手法を適用するのに幾つかの困難が存在する。第一に、一般的な時系列データ分析アルゴリズム単独では、問題特化型システムや方法を持たない、データ収集・作成、及びパターンモデル開発・管理などのプロセスアプリケーションに適していない。第二に、これらの分析アルゴリズムは、プラントオペレータやエンジニアのドメイン知識に沿ったモデル及び結果を提供せず、プラントオペレータやエンジニアは、彼らのドメイン知識をモデル化プロセスに適用できない。第三に、これらの分析アルゴリズムでは、ユーザは、少なくとも1つのモデルを作成して当該少なくとも1つのモデルを毎日(例えば、週7日24時間等)の連続操業においてオンライン環境で実行することができない(プロセス産業では、可能であることが要求される)。これまでに言及したどの技術も、これらの要件を満たすことができない。
【0030】
これらの従来のモデル及び時系列分析アプローチとは対照的に、本発明の実施形態のパターンモデルは、構築が複雑でなく、訓練及び検証データのコストのかかる作成が必要でなく、かつ、KPIの動きのトレンドを監視するのに特に適している。実施形態は、各動作イベントのKPIについて、イベントシグネチャのセットを定義することにより、パターンモデルを構築できる。イベントシグネチャの各セットは、前記動作イベントに関連するKPIの時系列パターンを含む。KPIのKPI時系列パターンは、履歴プラントデータから、ドメイン専門家により、オペレータログとの比較により、またはパターン検索発見手法により、特定されてもよい。実施形態は各イベントシグネチャを、前記KPIの、一定の振幅、オフセット、形状、及び時間範囲などを有する時系列パターンを含むように設定してもよい。実施形態は、オンラインプロセスの実行中に、(前記イベントシグネチャに含まれる)前記KPIの時系列パターンを前記KPIの動きのオンライントレンド(時系列)と照合して、距離(類似度)スコアを生成する。当該距離スコアはプラント従事者やプラント操業システムに対して、前記KPIの動きのトレンドが動作イベントを示す確率を提示する。
【0031】
前記パターンモデルは、対象プラントの変動する毎日の操業を監視するのに利用されることができるように、かつ、同様の又は異なる規模で操業する同様の設計の関連(姉妹)プラントを監視するのに利用されることができるように作られて(フォーミュレート)されている。例えば、前記パターンモデルは、プラントのプロセス操業が変更された場合(例えば、異なる製品を製造するように変更された場合等)の最新の動作状況に、単にイベントシグネチャを取り替えるだけで順応させられてもよい。前記距離スコアは、前記イベントシグネチャのKPI時系列パターン及びオンラインのプラントプロセスのKPI時系列を測定するのに用いられたデータサンプリングレートの影響を受けないように算出される。前記パターンモデルによって、さらに、プラントオペレータのようなプラント従事者が直感的に理解できる結果(例えば、理解可能なフルレンジ(例えば、0~1の数値等)での前記距離(類似度)スコア等)を実施形態が提示できる。
【0032】
一般的に言って、パターン識別は、ウェブ、医療、及びスマートフォンなどでの音声、画像及び時系列識別に適用されてきた特別な手法である。本発明の例示的な実施形態とは対照的に、監視及び障害診断技術を実現する際の時系列に関してプロセス産業は、主成分分析(PCA)、部分的最小二乗回帰(PLSR)モデル、非線形ニューラルネットワークなどの多変量統計アプローチに注目してきた。例えば、Guo達による“A hybrid process monitoring and fault diagnosis approach for chemical plants”(「化学プラントのためのハイブリッド型プロセス監視・障害診断アプローチ」)、Dash 達による“Fuzzy-logic based trend classification for fault diagnosis of chemical processes”(「化学プロセスの障害診断のためのファジィ論理ベースのトレンド分類」)、Chiang達による“Fault diagnosis in chemical processes using Fisher discriminant analysis, discriminant partial least squares, and principal component analysis”(「フィッシャー判別分析、判別部分的最小二乗及び主成分分析を用いた、化学プロセスの障害診断」)、Westad による“Monitoring chemical processes for early fault detection using multivariate data analysis methods”(「早期の障害検出のための、多変量データ分析手法を用いた化学プロセスの監視」)等を参照のこと。例えば、時系列パターンを用いたファジィ推論アプローチが、化学プロセスの障害診断に試みられたことがある。例えば、Dash 達による“Fuzzy-logic based trend classification for fault diagnosis of chemical processes”等を参照のこと。
【0033】
ファジィ推論アプローチでの典型的なイベントシグネチャ推論システムは、トレンドの表現と、トレンド識別手法と、トレンドを動作状況にマッピングする手法という3つの主要な構成要素を有する。また、当該推論システムは、区間二分法を用いてトレンドプリミティブを抽出し、当該トレンドプリミティブ間の類似度を定量化するためにプリミティブ類似度行列を定義する。そして、当該推論システムはトレンドパターンを、一連のトレンドプリミティブ(すなわち、文字列)として記述する。当該推論システムは、所与のKPIについてのイベントのプロトタイプを生成するために、前記トレンドプリミティブおよび類似度行列を含むライブラリを構築する。当該推論システムは、未知のパターンを表すトレンドとプロトタイプパターンを記述した列との類似度を算出し、その未知のパターンが当該プロトタイプパターンのうちの一つであるか否かを識別する。当該推論システムはIF-THENルールライブラリを用いて、トレンドをプロセス状態に関連付ける。
【0034】
対照的に、本発明の実施形態は、トレンド表現と識別とマッピングという3つの構成要素が求められる、前記推論システムの複雑なイベントシグネチャシステムを必要としない。むしろ、実施形態では、KPIの、動作状況に関連する完全な時系列パターンを含むイベントシグネチャの定義及び照合が複雑でない。実施形態は、KPI時系列パターンをプリミティブに分解すること、当該プリミティブを再構築すること、類似度行列を適用することなどを行わずに、KPI時系列と完全なKPI時系列パターンとの類似度を決定してもよい。さらに、実施形態は、構築される前記推論システムとは異なり、同じプラントや他の同様のプラントのばらつきに関わらず、共通の(同一の)完全なKPI時系列パターンの適用によって動作状況を検出してもよい。
【0035】
[パターンモデルを構築する方法]
図1に、本発明の実施形態においてパターンモデルを構築する、コンピュータベースの例示的な方法100を示す。方法100は、前記パターンモデルを構築するための様々なワークフロー(ステップ)を含む。例示的な方法100によって、プロセスオペレータやエンジニアやシステムは、(イベントパターンモデルを構築するための)時系列のイベントシグネチャを幾つかのやり方で定義できる。これらのやり方には:(i)過去のイベントからの既知の時系列イベントパターンを用いること;(ii)姉妹動作ユニット又は姉妹操業プラントから得られたシグネチャパターンを用いること;(iii)他のリソースから時系列パターンをインポートすること;および(iv)イベントシグネチャライブラリからパターンを選択すること;がある。シグネチャパターンが利用できない場合や、利用できるシグネチャパターンがユーザの基準を満たさない場合には、ユーザが:(i)教師なし(案内なし)パターン発見;(ii)教師あり(案内あり)パターン発見;および(iii)これらを組み合わせて反復的に行うパターン発見;のいずれかを用いることによってプラントヒストリアンにおいてイベントパターンを検索してもよい。方法100によって、さらに、割り出されたイベントパターン(シグネチャパターン)のライブラリをユーザは構築できる。
【0036】
方法100はステップ110にて、人間又はシステムユーザが対象プラント(例えば、製油所、又はエチレンプラント等)での産業プロセス又は化学プロセスの少なくとも1つの主要パフォーマンス指標(KPI)を選択することを可能にすることによって開始する。方法100(ステップ110)によって、ユーザは、プラントプロセスについての利用可能なプロセス変数から少なくとも1つのKPIを選択できる。一部の実施形態においてステップ110は、ユーザが前記プラントプロセスについての前記利用可能なプロセス変数から前記少なくとも1つのKPIを選択するためのユーザインターフェースを提供してもよい。ユーザは少なくとも1つのKPIを、前記プラントプロセスに関する例えば塔フラッディング、熱交換器ファウリング、圧縮機故障、及びポンプ停止等の不所望の(つまり異常な)動作イベントの指標として選択する。この不所望の動作イベントは、当該ユーザの関心の対象である、例えば、ユーザはフラッディングリスク率変数(例えば、塔の塔頂と塔底との間の塔圧力差等)を、当該ユーザの関心の対象である前記プラントプロセスに関する蒸留塔フラッディングイベントのKPIとして選択してもよい。前記少なくとも1つのKPI(時系列)の動きは、対象の前記動作イベントが、前記プラントプロセスにおいて現在発生しているか又は前記プラントプロセスにおいて今後発生すると予測されることを知らせ得る。
【0037】
方法100は、次に、ステップ120にて、プラントヒストリアンデータベースから、前記プラントプロセスの、選択された前記少なくとも1つのKPI(1つまたは複数の最適なKPI)についての履歴データを自動的にロードする。ロードされる当該履歴データは、選択された前記KPIに特化したデータを含む。当該履歴データは、前記少なくとも1つのKPIの、1つのプロセス変数測定値を含んでもよく、あるいは、前記KPIの少なくとも1つのプロセス変数測定値の、プロセス式又はモデルを用いて算出された指数であってもよい。方法100はステップ130~ステップ157にて、前記履歴データにおいて、対象の前記動作イベント又は同様の動作イベントの前記少なくとも1つのKPIについての主な時系列パターン(KPI時系列パターン)を特定する。方法100は、このようなKPI時系列パターンを特定するために、ステップ130~ステップ157のうちの少なくとも1つを実行してもよい。方法100によって、プロセスオペレータやエンジニアやシステムは、前記プラントヒストリアン内のKPI時系列パターンを検索し、当該検索で割り出されたKPI時系列パターンからパターンモデルを構築すること(すなわち、前記プラントヒストリアンのデータの時系列において)イベントシグネチャを定義すること)ができる。方法100(ステップ130~ステップ157)は、パターン特性についてのユーザの指定に従ってKPI時系列パターンの検索及び割出しを実行し得るか、またはパターン発見アプローチを用いるなどして自動的なやり方でそのような検索及び割出しを実行し得る。ステップ130~ステップ157で特定されたKPI時系列パターンは、変動する、期間(長さ又は範囲)、振幅、オフセット、形状、時間などのパターンであってもよい。
【0038】
方法100はステップ130にて、ドメイン専門家が前記履歴データを分析し、対象の前記動作イベントに関係するKPI時系列パターンを特定する(予め定める)ことを可能にする。例えば、ステップ130は、ユーザ(例えば、ドメイン専門家等)が、前記履歴データを時系列として(例えば、グラフのような形式等で)閲覧し、当該履歴データにおいて対象の前記動作イベントに関係するKPI時系列パターンを特定できるようにするユーザインターフェースを提供してもよい。前記履歴データは、対象の前記動作イベントの過去の発生からの既知の時系列イベントパターンを含んでもよい。方法100はステップ140にて、対象プラント、他の(姉妹)プラントもしくは(姉妹)動作ユニット、または同様の構造、原料、処理能力などを有する他のプラントリソースからのオペレータログに基づいて、KPI時系列パターンの特定を自動的に行う。当該動作ログは、不所望のイベントの記録及び一定期間にわたる前記選択されたKPIとの関連付けを含む。前記動作ログは、対象の前記動作イベント(又は同様もしくは関連の動作イベント)時にプラントオペレータにより記録されたものである。一部の実施形態では、ユーザが、対象プラント、姉妹プラントもしくは(姉妹)動作ユニットなどのプラントリソースの前記動作ログからシグネチャパターンを選択する。他の実施形態では、ステップ140が、オペレータログに従って前記履歴データ同士を比較して、前記KPIについての、対象の前記動作イベント時の時系列パターンを自動的に特定する。
【0039】
方法100はステップ150にて、パターン検索識別手法を前記KPIの前記履歴データに対して自動的に実行する。例示的な一部の実施形態では、方法100(ステップ150)がパターン検索識別手法を、対象プラントでのオンライン実行時の前記プラントプロセスからのKPIデータに対して自動的に実行してもよい。ステップ150の前記パターン検索識別手法は、教師なしパターン発見手法(例えば、モチーフパターン検索発見手法等)である。この手法は、パターン発見アルゴリズムを所与の長さ(有限)の時間窓のKPI時系列(例えば、前記プラントヒストリアンから入手したKPI測定値等)に適用し、当該時間窓において、対象の前記動作イベントとの類似点を有するパターンクラスタを検索する/割り出す。すなわち、前記パターン発見アルゴリズムが、前記時間窓をトラバース(巡行)して、繰返し可能なKPI時系列パターン(「イベントのよう」なパターン)を含むパターンクラスタを構築する。特定されたクラスタは、対象の前記動作イベントと特性が近いパターンのクラスタを含んでもよい。
【0040】
方法100はステップ155にて、教師あり(案内あり)パターン発見を自動的に実行する。当該教師ありパターン発見手法によって、ユーザは、プリミティブ形状を、ステップ150の前記パターン発見アルゴリズムの一部として選択することができる。これにより、パターンクラスタ検索プロセスが高速化し、当該アルゴリズムで割り出される非イベントのパターンクラスタの数が低減し、オンライン配備用の最も有意義なパターンモデルが得られる。当該教師ありパターン発見では、前記パターン発見アルゴリズムが前記時間窓をトラバースして前記パターンクラスタを構築している際に当該手法が、前記繰返し発生したKPI時系列パターンから候補を特定する。当該教師あり手法は、KPI時系列パターンの特定された当該候補に対して、デフォルトのプリミティブ形状ライブラリからユーザにより選択されたプリミティブ形状(例えば、釣鐘状ピーク、上昇、及び降下等)又はユーザによりアドホックな描画ペイン(描画ウィンドウ)上で動的に(その場で)描画されたプリミティブ形状を適用して、対象の前記動作イベントの特性を最も有するパターンを特定する。当該教師あり手法は、対象の前記動作イベントの特性を最も有するパターンとして特定されたパターンを含むパターンクラスタを構築して返す)。前記パターン候補に対して前記プリミティブ形状を適用することにより、パターンクラスタを構築する前に不所望のパターンクラスタをトリミング/スキップするので、所望のパターンクラスタを構築するのにかかる時間が短縮される。
【0041】
方法100はステップ150及びステップ155にて、さらに、特定されたKPI時系列パターンおよび/またはパターンクラスタが対象の前記動作イベントに関するものであることを確定するために、ユーザ(例えば、プラントオペレータ、他のプラント従事者等)と対話してもよい。例えば、ステップ150及びステップ155は、特定された各KPI時系列パターン又は各パターンクラスタをユーザに提示し、当該パターン/クラスタが対象の前記動作イベントに関係するKPI時系列であることをユーザが確定するのを可能にするユーザインターフェースを提供してもよい。ステップ150及びステップ155は、特定された時系列パターン/クラスタをプラント従事者に提示することによって、プラントの知見及び専門知識を前記自動検索識別手法のパフォーマンスに組み込む。方法100は、さらに、ステップ157にて、シグネチャライブラリからKPI時系列パターンを選択してもよい。
【0042】
方法100はステップ160にて、ステップ130~ステップ157で特定されたKPI時系列パターン/パターンクラスタに基づいて、対象の前記動作イベントのシグネチャを(すなわち、タグ又は算出されたタグとして)自動的に定義及び確定する。方法100はステップ160にて、当該イベントシグネチャを、少なくとも1つの時系列範囲(時間窓)を含むように、又は振幅、広がり(スプレッド)、オフセット、形状、及び動的時間伸縮法(DTW)などが変動するように定義してもよい。ステップ160は、時系列範囲、オフセット、及び形状等のそれぞれに対して、ステップ130~ステップ157で特定された(見つかった)少なくとも1つの対応する(例えば、前記パターンクラスタに含まれる)KPI時系列パターンを組み込む。ステップ160は、KPI時系列パターンをプリミティブ要素に分解するのではなく、特定された完全なKPI時系列パターンを前記イベントシグネチャに含める。他の実施形態では、ユーザが前記イベントシグネチャを対話的に定義するためのユーザインターフェースが設けられてもよい。当該ユーザインターフェースは、前記イベントシグネチャの時系列範囲、振幅、オフセット、及び形状などを設定するためのオプション、および少なくとも1つの対応する(例えば、前記パターンクラスタに含まれる)KPI時系列パターンを選択するためのオプションを含んでもよい。
【0043】
方法100はステップ170にて、対象の前記動作イベントについてのパターンモデルを構築し、定義された前記イベントシグネチャを当該パターンモデルに追加する。当該パターンモデルは、対象プラントでの前記プラントプロセスのオンライン実行時に前記イベントシグネチャを監視するのに用いられてもよい。また、方法100は当該パターンモデルを同様のプラントに送信してもよい。この場合、当該同様のプラントでの前記プラントプロセスのオンライン実行時に前記イベントシグネチャを監視するのにも、そのパターンが用いられてもよい。方法100はステップ175にて、ステップ130~ステップ157で特定されたKPI時系列パターンを含むさらなるイベントシグネチャを追加する。当該さらなるイベントシグネチャも前記パターンモデルに保存される。方法100は、これらのステップを繰り返すことによって前記パターンモデルを、対象の前記動作イベントに関連するKPI時系列範囲の様々な側面を考慮した様々なイベントシグネチャで構築する。例えば、これらのイベントシグネチャは、対象の前記動作イベントに関連するKPI時系列範囲における様々な、振幅、オフセット、形状、及び時間などに出現するKPI時系列パターンを含んでもよい。振幅、オフセット、形状、及び時間などの変動(偏差)は、対象の前記動作イベントに関連する不所望の又は異常な条件を示唆するものであり得る。また、方法100は前記パターンモデルに、対象の前記動作イベントが今後発生することを予測する際の前兆となるKPI時系列パターン(例えば、C2スプリッターについてのKPIが、エチレン漏洩が今後発生することを示唆している等)を含むイベントシグネチャを含めてもよい。方法100は同じ前記パターンモデルに、対象の前記動作イベントが現在発生していることを検出するKPI時系列パターンを含むイベントシグネチャを含んでもよい。
【0044】
方法100は、さらに、対象の前記動作イベントの別の選択されたKPIに基づいてイベントシグネチャを定義するように、ステップ130~ステップ175を繰り返してもよい。当該イベントシグネチャは、同じ又は異なるパターンモデルに含められてもよい。また、方法100は、さらなる不所望の動作イベントに関してイベントシグネチャを定義するように繰り返してもよい。当該イベントシグネチャは、他のパターンモデルに含められてもよい。また、プラントのプロセス操業方式が(例えば、別の製品を製造する等のために)変化した(再編された)ときには、以前のプロセス操業方式からの構築モデルと取り替えるための新しいパターンモデルを構築するように、ステップ110~ステップ170が繰り返されてもよい。方法100は、ステップ180にて終了する。
【0045】
一部の実施形態では、定義された前記イベントシグネチャのそれぞれが、(ステップ170にて)イベントシグネチャライブラリに収集、保存、分類及びドキュメント化されてもよい。当該イベントシグネチャライブラリでは前記イベントシグネチャが、対象の動作イベント、及び対象の動作イベントに関連するKPIなどに従って編成されてもよい。方法100(ステップ170)は、ユーザが前記イベントシグネチャライブラリに対して前記イベントシグネチャを追加、削除及び編集(調整)することを可能にするユーザインターフェースを提供してもよい。例えば、イベントシグネチャのKPI時系列パターンを微調整することにより、反応器用の特別設計の触媒に切り替えるなどといった、軽微な構造変更又はカスタマイズされた動作状況に対処することができる。また、当該ユーザインターフェースは、ユーザが前記イベントシグネチャライブラリからのイベントシグネチャを用いてパターンモデルを生成及び更新することを可能にしてもよい。これらの実施形態では、前記イベントシグネチャライブラリ及びパターンモデルが、前記プラントヒストリアンデータベースのようなサーバコンピュータにおける場所に記憶されてもよい。また、当該ユーザインターフェースは、記憶された当該パターンモデルをユーザがオフライン又はオンラインのプラントプロセスにおいてシミュレーション及びテストすることを可能にしてもよい。
【0046】
[パターンモデルのオンライン監視の方法]
図2に、本発明の実施形態において時系列パターンのオンライン監視及び反復処理の、コンピュータベースの例示的な方法200を示す。方法200の開始に先立って、プラント操業システムが対象プラント(例えば、製油所、又はエチレンプラント等)においてプラントプロセスをオンラインで実行しているものとする。当該プラント操業システムは、さらに、そのオンラインのプラントプロセスに関する対象の不所望の(異常な)動作イベントの、記憶されたパターンモデルをロードする。一部の実施形態において当該プラント操業システムは、1つ以上の対象の動作イベントを監視及び予測する当該システムの信頼性を高めるために、複数のイベントパターンモデルを一緒にオンラインにロードしてもよい。前記記憶されたモデルは、対象の前記動作イベントの第1のKPIについての第1のセットのイベントシグネチャを含む。当該第1のセットの各イベントシグネチャは、前記第1のKPIの、対象の前記動作イベントに関連する時系列パターンを含む。前記記憶されたモデルは、さらに、対象の前記動作イベントの第2のKPIについての第2のセットのイベントシグネチャを含む。当該第2のセットの各イベントシグネチャは、前記第2のKPIの、対象の前記動作イベントに関連する時系列パターンを含む。前記記憶されたモデルは、さらに、対象の前記動作イベントの第mのKPIについての(最大で)第mのセットのイベントシグネチャを含む。当該第mのセットの各イベントシグネチャは、前記第mのKPIの、対象の前記動作イベントに関連する時系列パターンを含む。例示的な一部の実施形態において、前記パターンモデルは、
図1の方法100に従って構築されたものである。
【0047】
方法200はステップ210にて、前記オンラインのプラントプロセスの指定された時間範囲(例えば、短い履歴期間、又は現時点までの部分等)に対して(
図1から得られた)前記パターンモデルを適用する反復処理を開始する。当該反復処理は、ユーザにより計画された一定の時間間隔で繰り返されてもよい。一部の実施形態では、前記指定された範囲がユーザによりユーザインターフェースを介して予め定められてもよく、他の実施形態では、前記指定された範囲が前記プラントプロセスの特徴(フィーチャ)に基づいて自動的に決定されてもよい。前記反復処理において、方法200はステップ220にて、前記オンラインのプラントプロセスの前記指定された範囲にわたって前記第1のKPIの動き(例えば、直近2時間にわたるKPI値の動き等)のトレンドを監視する第1のコンピュータプロセスを実行する。ステップ220は、前記指定された範囲の前記第1のKPIの動きのトレンドを(時系列として)監視する。これは、「第1の監視対象KPI時系列」と称される。具体的に述べると、前記第1のコンピュータプロセスは(ステップ220にて)、(前記第1のKPIについての)前記第1のセットのイベントシグネチャから、前記第1の監視対象KPI時系列に対応する時系列パターンを含む関連イベントシグネチャを選択する。前記第1のコンピュータプロセスは、選択された各イベントシグネチャごとに、当該選択されたイベントシグネチャに含まれる、そのKPIについての時系列パターンを、前記第1の監視対象KPI時系列と比較する。前記第1のコンピュータプロセスは、これらの比較に基づいて、前記選択されたイベントシグネチャと前記第1の監視対象KPI時系列との類似度のレベルを決定し、当該類似度のレベルが距離スコアとして出力される。
【0048】
方法200はステップ230にて、第mのコンピュータプロセスを、前記第1のコンピュータプロセスと同時に(パラレルで)実行する。前記第mのコンピュータプロセスは、前記オンラインのプラントプロセスの前記指定された範囲にわたって前記第mのKPIの動きのトレンドを(時系列として)監視する。これは、「第mの監視対象KPI時系列」と称される。具体的に述べると、前記第mのコンピュータプロセスは(ステップ230にて)、(前記第mのKPIについての)前記第mのセットのイベントシグネチャから、前記第mの監視対象KPI時系列に対応する時系列パターンを含む関連イベントシグネチャを選択する。前記第mのコンピュータプロセスは、選択された各イベントシグネチャごとに、当該選択されたイベントシグネチャに含まれる、そのKPIについての時系列パターンを、前記第mの監視対象KPI時系列と比較する。前記第mのコンピュータプロセスは、これらの比較に基づいて、前記選択されたイベントシグネチャと前記第mの監視対象KPI時系列との類似度のレベルを決定し、当該類似度のレベルが距離スコアとして出力される。方法200は、(第1のプロセス220と第mのプロセス230の間の印から分かるように)任意の数の他のコンピュータプロセスも同様に実行して、対応する監視対象KPI時系列と選択された関連イベントシグネチャとの類似度のレベルを決定してもよい。
【0049】
方法200はステップ240にて、前記第1のコンピュータ監視プロセス(ステップ220)から、前記第1のKPIについての前記距離スコアを受け取る。方法200はステップ240にて、さらに、(最大で)前記第mのコンピュータ監視プロセス(ステップ230)のそれぞれから前記距離スコアを受け取る。他の実施形態では、ステップ240が、(単一のコンピュータ監視プロセスから)1つのKPIのみについての距離スコアを受け取ってもよい。さらなる他の実施形態では、ステップ240が、任意の数の複数のKPIについての(例えば、対応する連続の監視プロセスからの)距離スコアを受け取ってもよい。
【0050】
ステップ240は、各監視対象KPIごとの前記距離スコアに、重み係数を振り当てる。例えば、ステップ240は、前記第1の監視対象KPIについての前記距離スコアに第1の重み係数を振り当て、前記第mまでの監視対象KPIについての前記距離スコアに第mまでの重み係数を振り当ててもよい。振り当てられる前記重み係数は、対応するKPIの、対象の前記動作イベントを検出するうえでの重要性又は影響を示す。例えば、蒸留塔の塔頂と塔底との間の塔圧力差KPIは、塔蒸留フラッディングイベントを決定するうえで塔圧力KPIよりも重要であり得る。例示的な実施形態では、各距離スコアに同じ重み係数である「1」がデフォルト(初期設定)で振り当てられており、対象の前記動作イベントを検出するうえでの対応するKPIの重要性が互いに同程度であることを示している。一部の実施形態では、ユーザ(例えば、プラントオペレータ等)が、各KPIについての前記重み係数をユーザインターフェースを介して設定してもよい。このようにして、プラント従事者はプロセスドメイン知識を、総合的な統合距離スコアに対するKPIの影響を増減させる異なる係数を振り当てることによって適用することができる。
【0051】
ステップ240は、次に、各監視対象KPIの重み付けられた前記距離スコアを統合距離スコアに計算するリアルタイム処理を実行する。方法200は、次に、ステップ250にて、前記統合距離スコアを対象の前記動作イベントについてのイベント類似度閾値と比較するリアルタイム処理を実行する。一部の実施形態において、方法200は、ユーザ(例えば、プラントオペレータ等)が対象の前記動作イベントについての前記イベント類似度閾値を定義するためのユーザインターフェースを提供する。前記統合距離スコアが前記イベント類似度閾値を満たした場合には、方法200がステップ260にて、対象の前記動作イベントが現在発生していることを検出するか又は対象の前記動作イベントが今後発生すると予測する。そして、ステップ260は、前記オンラインプロセスシステム又は操業従事者に対象の前記動作イベントの発生を、方法200により収集された前記統合距離スコア及び関連情報に基づいて停止又は防止するように報知する。例えば、方法200(ステップ260)は、シャットダウンを回避するように又は対象の前記動作イベントの発生を阻止するように、前記オンラインのプラントプロセスのパラメータ(変数)又は当該オンラインのプラントプロセスのプラント機器のパラメータ(変数)を調節する(プロセス/プラントの動作状況の変化に順応させる)ことをオペレータに報知して提案してもよい。
【0052】
また、ステップ260は、ユーザ(例えば、プラント操業等)に対して対象の前記動作イベントが発生していること又は発生が予測されること(やがて発生することの報知(警告)のみを行ってもよい。また、前記統合距離(類似度)スコア、イベントシグネチャおよびパターンモデルが、利用可能なプロセス変数測定値との相関に基づくイベント根本的原因分析に適用されることができる。イベントKPIからの根本的原因分析についての例示的な実施形態の詳細は、本願と同じ出願人による米国特許出願第15/141,701号(参照をもって本明細書に取り入れたものとする)に記載されている。
【0053】
方法200はステップ270にて、前記パターンモデルを前記オンラインのプラントプロセスに適用する前記反復処理の終了をもって完了する。方法200は、さらに、一定の時間間隔で(例えば、10分間ごとに)計画されているとおり、前記パターンモデルを前記オンラインのプラントプロセスに適用する次の反復処理を実行するように、ステップ210~ステップ270を繰り返してもよい。
【0054】
[パターンモデルを配備する方法]
図3に、本発明の実施形態においてパターンモデルを配備する、コンピュータベースの例示的な方法300を示す。方法300は、方法200(
図2)のステップ220又はステップ230の詳細な一実施形態である。方法300は、ステップ305にて開始する。方法300はステップ310にて、オンラインのプラントプロセスについての最適なKPIであって、指定された範囲からのKPIの時系列を受け取る。これは、「監視対象KPI時系列」と称される。方法300がステップ220の実施形態を実行している場合、そのKPIは前記「第1のKPI」であり、その監視対象KPI時系列は前記「第1の監視対象KPI時系列」である。方法300がステップ230の実施形態を実行している場合、そのKPIは前記「第mのKPI」であり、その監視対象KPI時系列は前記「第mの監視対象KPI時系列」である。他についても同様である。
【0055】
方法300はステップ310にて、さらに、パターンモデルにおける、上記KPIについてのイベントシグネチャのセットを受け取る。方法300がステップ220の実施形態を実行している場合、イベントシグネチャのそのセットは前記「第1のセットのイベントシグネチャ」であり、方法300がステップ230の実施形態を実行している場合、イベントシグネチャのそのセットは前記「第mのセットのイベントシグネチャ」である。他についても同様である。方法300はステップ310にて、イベントシグネチャの前記セットからイベントシグネチャを選択する。イベントシグネチャはそれぞれ、上記KPIについての、前記監視対象KPI時系列と範囲が対応する時系列パターンを含む。具体的に述べると、
図3の実施形態において方法300は、イベントシグネチャの前記セットから、第1のイベントシグネチャおよび第nのイベントシグネチャを選択する。前記第1のイベントシグネチャは、前記第nのイベントシグネチャにおける、上記KPIについての時系列パターンから、振幅、オフセット、形状および時間の少なくとも1つが変動する、上記KPIについての時系列パターンを含む。前記第1のイベントシグネチャからの、上記KPIについての時系列パターンは「第1のKPI時系列パターン」と称され、前記第nのイベントシグネチャからの、上記KPIについての時系列パターンは「第nのKPI時系列パターン」と称される。方法300は、前記第1の及び前記第nのイベントシグネチャの両方を前記監視対象KPI時系列に同時に適用することにより、前記オンラインのプラントプロセスでの対象の前記動作イベントの様々な兆候(マニフェステーション)をリアルタイムで監視することができる。
【0056】
以下の説明では、Z正規化と称されるデータ変換が繰返し適用される。Z正規化は、「ゼロ平均及び単位エネルギーへの正規化」としても知られており、Goldin及びKanellakによる“On Similarity Queries for Time Series Data: Constraint Specification and Implementation”(「時系列データの類似度スコアに関して:制約仕様及び実装」)(1995)で言及されている。この全体は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。この手法は、標準偏差の範囲が略1になるようにしながら入力ベクトルの全ての要素が平均約0の出力ベクトルに変換されることを確実に行う。以下に、その変換に用いられる式(式1)を示す:
【0057】
【0058】
(式中、i∈Nとする。)
【0059】
まず、元の数値から時系列平均が減算されて、次に、その差分が標準偏差値で除算される。時系列の構造パターンマイニングに関する最近の大半の研究によれば、Z正規化は、マイニングアルゴリズムが大きさによる類似性/非類似性ではなく構造的な類似性/非類似性に着目することを可能にする不可欠な前処理過程である。
【0060】
方法300は、ステップ320へと続く。方法300はステップ320にて、前記第1および前記第nのイベントシグネチャと前記監視対象KPI時系列とにZ正規化を実行する。Z正規化は、(i)前記第1のイベントシグネチャの前記第1のKPI時系列パターンと、前記第nのイベントシグネチャの前記第nのKPI時系列パターンと、前記監視対象KPI時系列とを共通のスケールに変換する。例えば、前記Z正規化は、前記第1のKPI時系列パターン、前記第nの時系列パターンおよび前記監視対象KPI時系列から、振幅、オフセット、及び形状などの影響を取り除く。前記KPI時系列パターン及び前記監視対象KPI時系列のその変換後、方法300はステップ325にて、フォールスポジティブを除外するように前記第1のイベントシグネチャに供された独自のフィルタ(例えば、振幅分布等)を前記監視対象KPI時系列の範囲が満足するか否かを確認する。満足する場合、前記方法がステップ325にて、そのイベントシグネチャを前記監視対象KPI時系列と共に、異なるコンピュータプロセスに送る。
【0061】
具体的に述べると、前記変換後にステップ325が、前記第1のイベントシグネチャを前記監視対象KPI時系列と共に、第1のコンピュータプロセス330に送る。当該第1のコンピュータプロセス(ステップ330)は、前記第1のKPI時系列パターンと前記監視対象KPI時系列との間のユークリッド距離を、動的時間伸縮法(DTW)を用いて算出する。前記第1のコンピュータプロセスがこの距離をリアルタイムで算出できるために、そのDTWに用いられる典型的な上界は10%とされる。これは、上界が高くなると、前記距離の計算が大幅に遅くなるからである。DTWを適用のユークリッド距離を用いることによる方法300は、当該距離の計算の継続時間のばらつきが小さいため適応が可能である。
【0062】
前記ユークリッド距離を、DTWを用いて算出するために、ステップ330は前記第1のKPI時系列パターンと監視対象KPI時系列とを、DTW適用ユークリッド距離(ED)関数(例えば、次の式2等)に入力する。他の実施形態では、標準のユークリッド距離関数が用いられてもよい。
【0063】
【0064】
式2では、Aが、Z正規化により変換された後の前記第1のKPI時系列パターンであり、aiが、変換された前記第1のKPI時系列パターンの第iのオブジェクトであり、Bが、Z正規化により変換された後の前記監視対象KPI時系列であり、biが、変換された前記監視対象KPI時系列の第iのオブジェクトであり、nが、A及びBの長さである。実際には、A及びBの時間が十分に揃っていない場合があり、DTWアルゴリズムによって補正が施されてもよい。DTW適用ユークリッド距離関数を用いて距離を算出する例示的な過程は、E. Keogh達による“Exact indexing of dynamic time warping”(「動的時間伸縮法の正確なインデクシング」), Knowledge and Information Systems (2004)(参照をもって本明細書に取り入れたものとする)に開示されている。
【0065】
一部の実施形態は新しい距離尺度を提供する。この距離尺度は、AspenTech距離(ATD)と称され得る。ATDは、パターンライブラリモデルに対する所与の長さの時系列の類似度を測定するものである。ATDは、従来のユークリッド距離に似た数学的性質を有しているが、プロセス産業用途ではユークリッド距離に比べて幾つかの利点を有する。当該ATDの一部として、式2が、前記第1のKPI時系列パターンと前記監視対象KPI時系列との間のユークリッド距離(ED(A,B))をDTWを用いて算出する。他の実施形態では、標準のユークリッド距離が用いられてもよい。ユークリッド距離をDTWを用いて算出することによって方法300は、前記第1のKPI時系列パターンをプリミティブに分解すること、及び類似度行列を適用することなどではなく、(完全な)当該第1のKPI時系列パターンと前記監視対象KPI時系列との間の距離を直接決定する。
【0066】
前記第1のKPI時系列パターンと前記監視対象KPI時系列との類似度が近ければ近いほど、算出される前記距離(ED(A,B))は短くなる。例えば、前記第1のKPI時系列パターンが前記監視対象KPI時系列と完全に合致する場合(すなわち、考えられ得るなかで最も近い類似度)には、式2が距離「0」を算出する。なお、式2では、前記KPI時系列パターンおよび前記監視対象KPI時系列を元々測定するのに用いられたデータサンプリングレートが、算出される前記距離の数値に悪影響を与える。例えば、同じ前記第1のKPI時系列パターンが高いデータサンプリングレート及び低いデータサンプリングレートでそれぞれ測定された場合、式2が出力する前記第1のKPI時系列パターンと前記監視対象KPI時系列との間の距離は、高いデータサンプリングレートのときのほうが低いデータサンプリングレートのときよりも大きくなる。
【0067】
方法300はステップ340にて、算出された前記距離(ED(A,B))をATD距離スコア算出関数に入力する。当該ATDスコア算出関数は、算出された前記距離に基づいて前記第1のKPI時系列パターンと前記監視対象KPI時系列との類似度を測定して、第1の距離スコアを算出する。当該ATD距離スコア関数は、以下のように式3で定義される。
【0068】
【0069】
式3では、ED(A,B)が、ステップ330で式2から算出されたユークリッド距離である。Aは、Z正規化により変換された後の前記第1のKPI時系列パターンである。Bは、Z正規化により変換された後の前記監視対象KPI時系列である。ゼロラインは、前記監視対象KPI時系列と同じ長さのゼロの定数ベクトルであり、ED(A,ゼロライン)は、Aとゼロラインとの間で算出されるユークリッド距離である。EDの代わりにATD距離スコアを用いることには:(i)当該距離スコアが、大抵の工学測定スケールと合致する、プロセス操業従事者にとって理解し易いゼロ(最小の類似度)から1(最大の類似度)までにスケール変更されるという利点と;(ii)当該ATD距離スコアが、パターンサンプリングレートに影響され難い(例えば、サンプリング間隔が変わることにより、サンプリングレートが相異なる2つの時系列パターン同士の比較になっても、前記ATD距離スコアは依然として有効である)という利点と;の2つの利点が存在する。
【0070】
ステップ340は、式3を用いて、0~1の範囲内の数値を有する距離スコア(ATD(A,B))を算出する。すなわち、ステップ340が大きいデータセットにおける各オブジェクトiに対してATD(A,Oi)を適用した場合のその距離スコアATD(A,Oi)の分布は、[0.95~0.97]などの短い範囲に制限されるのではなく「0,1」のフルレンジに及ぶ。監視対象KPI時系列(B)が第1のKPI時系列パターン(A)に類似しているほど、距離スコアATD(A,B)は1に近くなる。一方で、監視対象KPI時系列(B)が第1のKPI時系列パターン(A)に類似していないほど、距離スコアATD(A,B)は0に近くなる。また、式3が算出するATD(A,B)は、A及びBを測定するのに用いられたデータサンプリングレートとは本質的に無関係である(影響されない)。すなわち、同じ前記第1のKPI時系列パターン(A)及び前記監視対象KPI時系列(B)であれば、A及びBが高いデータサンプリングレートで測定されたものであるのか又は低いデータサンプリングレートで測定されたものであるのかに関わらず、式3はおおよそ同じ距離スコアを算出する。したがって、式2により算出された距離(ED(A,B))へのデータサンプリングレートの影響は、当該算出された距離を距離スコア(ATD(A,B))に変換する際に本質的に無くなる。
【0071】
さらに、式3の距離スコア算出関数の公式化は、距離スコア(ATD(A,B))のリアルタイム計算を可能にする。すなわち、前記ATD距離関数は、ユークリッド距離とDTWとに基づいて公式化されていることによりATD距離スコアを、中央演算処理装置(CPU)のオーバーヘッドが無視可能な程度になり、コンピュータメモリの使用量も無視可能な程度になる程高速に算出する。つまり、前記ATD距離スコア算出関数を用いることにより方法300は、前記第1のイベントシグネチャに含まれる前記第1のKPI時系列パターンと比較する際に、前記KPI時系列の分析をリアルタイムで実行できる。
【0072】
同様に、方法300はステップ345にて、フォールスポジティブを除外するように前記第nのイベントシグネチャに供された独自のフィルタ(例えば、振幅分布等)を前記監視対象KPI時系列の範囲が満足するか否かを確認する。満足する場合、前記方法がステップ345にて、そのイベントシグネチャを前記監視対象KPI時系列と共に、第nのコンピュータプロセスに送る。ステップ345~ステップ360では、当該第nのコンピュータ監視プロセスが、前記第nのイベントシグネチャの前記第nのKPI時系列パターンと前記監視対象KPI時系列との類似度を示す第nの距離スコアを同時に(並行して)算出する。ステップ350~ステップ360は、ステップ330~ステップ340が前記第1の距離スコアを算出した前述の様式と同じ様式によって前記第nの距離スコアを(第1から第nまでの他のイベントシグネチャと前記監視対象KPI時系列とについても)算出する。前記方法は、第nまでのイベントシグネチャと前記監視対象KPI時系列とについての距離スコアも同様に算出する。
【0073】
方法300はステップ370にて、前記第1のコンピュータ監視プロセス(ステップ340)から前記第1の距離スコアを受け取る。方法300はステップ370にて、さらに、それぞれの前記コンピュータ監視プロセス(ステップ360)から前記第nまでの距離スコアを受け取る。他の実施形態では、ステップ370が、(単一のイベントシグネチャについての)単一のコンピュータ監視プロセスから又は(同じもしくは異なる数のイベントシグネチャについての)任意の数の複数の監視プロセスから距離スコアを受け取ってもよい。ステップ370は、各コンピュータ監視プロセスから受け取った前記距離スコアに、対応する前記イベントシグネチャに基づいた相異なる重み係数を振り当ててもよい。ステップ370により振り当てられる当該重み係数は、対象の前記動作イベントを検出するうえでの前記対応するイベントシグネチャの重要性を示す。一部の実施形態では、受け取られる各距離スコアに同じ重み係数である「1」がデフォルト(初期設定)で振り当てられており、前記動作イベントを検出するうえでの対応するイベントシグネチャの重要性が互いに同程度であることを示している。
【0074】
方法300はステップ370にて、次に、重み付けられた前記距離スコアを前記監視対象時系列についての統合距離スコアへと計算するリアルタイム処理を実行する。この処理は、リアルタイムで実行される。また、ステップ370は、当該統合距離スコアを算出するときに動作イベントの誤検出を引き起こす可能性のある一定の類似点を除外するように、それぞれの前記イベントシグネチャのフィルタ(例えば、独自のフィルタ等)を適用してもよい。例えば、ステップ370は、KPI時系列パターンと監視対象KPI時系列との間の完全な形状合致をフィルタリング除去してもよい。完全な形状合致は、監視期間中の振幅偏差が無視可能な程度である。ステップ370は、前記KPIについての時系列パターンを、反応器用の特別設計の触媒に切り替えるなどといった軽微な構造変更又はカスタマイズされた動作状況に対処するように調整してもよい。ステップ370からの前記統合距離スコアが高ければ高いほど、前記第1および第nのイベントシグネチャに関連する対象の前記動作イベントの発生確率が高くなる。方法300は、ステップ380にて終了する。
【0075】
[パターンモデルを構築及び配備するシステム]
図4に、本発明の実施形態においてパターンモデルを構築及び配備する例示的なシステム400を示す。システム400は、化学プラント又は産業プラント(例えば、製油所等)のコンピュータネットワークの一部として構成されてもよい。一部の実施形態では、システム400が
図1~
図3の方法を実行してパターンモデルを構築、監視及び配備する。
【0076】
システム400は、モデラエンジンとして構成された第1のアプリケーションサーバ402を備える。第1のアプリケーションサーバ402は、ユーザインターフェース401に通信可能に接続されている。ユーザインターフェース401から、ユーザ(例えば、ドメイン専門家、又はプラントオペレータなどのプラント従事者等)がパターンモデルの構築を開始してもよい。前記パターンモデルを構築する一過程としてユーザは、ユーザインターフェース401を介して、KPIについての、対象の動作イベントのイベントシグネチャのセットを定義する。これを行うためにユーザは、まず、プラントプロセスについての利用可能な変数から前記KPIを選択してもよい。ユーザは、次に、ユーザインターフェース401を介して、各イベントシグネチャを定義するのに用いられる、前記KPIの時系列パターンを設定してもよい。モデラエンジン402は、ユーザインターフェース401上でのユーザによる選択に基づいて、データサーバ411を介してヒストリアンデータベース412から履歴プラントデータをロードしてもよい。当該履歴データは、センサ(406~407を含む)から分散制御システム(DCS)404の計測制御操業コンピュータ405により収集されたデータを含んでもよい。
【0077】
モデラエンジン402は、前記履歴データをユーザインターフェース401上でユーザ(例えば、ドメイン専門家等)に提示してもよい。ユーザインターフェース401は、ユーザが前記履歴データを時系列として(例えば、グラフのような形式等で)閲覧し、対象の前記動作イベントに関連する前記KPIについての時系列パターンを特定できるように構成されてもよい。また、ユーザインターフェース401は、ユーザがオペレータログをロードし、モデラエンジン402との通信状態において当該オペレータログを前記ロードされた履歴データと比較して対象の前記動作イベントに関連する前記KPIについての時系列パターンを特定できるように構成されてもよい。また、ユーザインターフェース401は、ユーザが前記ロードされた履歴データに対するパターン検索識別手法(例えば、モチーフパターン検索発見手法等)の実行を開始できるように構成されてもよい。この手法は、後述する教師なしパターン発見手法又は教師あり(ユーザの案内あり)パターン発見手法であってもよい。モデラエンジン402が、当該手法を実行して、対象の前記動作イベントに関連する繰返し発生する時系列パターンを特定してもよい。モデラエンジン402は、特定された当該繰返し発生する時系列パターンをユーザに対して、当該パターンが対象の前記動作イベントに関連する時系列であることを確定するように提示してもよい。
【0078】
特定されたパターンに基づいてユーザは、ユーザインターフェース401を介して、選択された前記KPIについてのイベントシグネチャの前記セットを設定してもよい。ユーザは、選択された前記KPIについての時系列範囲を設定し、前記特定されたKPI時系列パターンのうちのその設定された時系列範囲に対応する一つのKPI時系列パターンを選択することにより、イベントシグネチャを定義してもよい。一部の実施形態では、それに代えてモデラエンジン402が、KPI時系列範囲を設定すること及び対応する特定されたKPI時系列パターンを前記イベントシグネチャ用に選択することを自動的に(例えば、人間の介入なしで)行ってもよい。モデラエンジン402は、特定されたKPI時系列パターンをプリミティブに分解するのではなく、完全な当該KPI時系列パターンを前記イベントシグネチャに含める。KPIについてのイベントシグネチャの前記セットは、選択された前記KPI時系列パターンにおける変動する、振幅、オフセット、形状及び時間などを考慮するように構成されてもよい。モデラエンジン402は、イベントシグネチャの当該構成されたセットを前記パターンモデルに保存する。また、モデラエンジン402はイベントシグネチャの当該セットを、ヒストリアンデータベース412にて構成されたイベントシグネチャライブラリへと、別のパターンモデルを構成する際に利用できるようにデータサーバ411を介して保存してもよい。同様に、ユーザは、対象の前記動作イベントの他のKPIについての追加のセットのイベントシグネチャを設定して当該追加のセットを前記パターンモデルに保存してもよい。
【0079】
システム400は、さらに、パラレルなモデラエンジン(又は分析エンジン)として構成された第2のアプリケーションサーバ403を備える。第2のアプリケーションサーバ403は、ユーザインターフェース401に通信可能に接続されている。ユーザは、ユーザインターフェース401を介して、オンラインのプラントプロセスにおけるKPI(時系列)の動きのトレンドを監視するための配備用に前記パターンモデルを選択してもよい。計測制御操業コンピュータ405は、物理的なセンサ406~409から収集された測定値に基づいて、前記KPIの前記時系列を含むデータを、分析エンジン403にリアルタイムで供給してもよい。所与のKPIごとにコンピュータ監視プロセスが、対応するセットのイベントシグネチャを、前記オンラインのプラントプロセスの指定された範囲(例えば、持続期間またはその一部等)の間、そのKPIの時系列を監視するように適用する。当該コンピュータ監視プロセスは、前記セットから、前記オンラインのプラントプロセスの前記指定された範囲に対応する第1のイベントシグネチャを選択する。当該コンピュータ監視プロセスは、その第1のイベントシグネチャに含まれる前記KPI時系列パターンを、前記監視対象KPI時系列と比較する。この比較を実行する際に前記分析エンジンは、前記KPI時系列パターンと前記監視対象KPI時系列とにZ正規化を実行する。当該コンピュータ監視プロセスは、前述した式2を利用し、前記KPI時系列パターンと監視対象KPI時系列との間のユークリッド距離をDTWを用いて算出する。当該コンピュータ監視プロセスは、さらに、式3に示すように当該算出されたユークリッド距離とゼロラインを用いて算出されたユークリッド距離とに基づいて、距離スコアを決定する。
【0080】
前記コンピュータ監視プロセスは、そのKPIに関連する1つ以上のさらなるイベントシグネチャについての距離スコアも、同様に(例えば、サブプロセスをパラレルで実行すること等により)算出する。前記コンピュータ監視プロセスは、これらの距離スコアを、そのKPIについての統合距離スコアに組み合わせる。同様に、1つ以上の他のコンピュータ監視プロセスが、1つ以上の他のKPIについての統合距離スコアを、対応するセットのイベントシグネチャを適用することによって算出する。各KPIには、重み係数が、ユーザによりユーザインターフェース401を介して振り当てられてもよい。各KPIは、そのKPIについての前記統合距離スコアを重み付けするために適用される。重み付けられた前記統合距離スコアが、さらに、対象の前記動作イベントについてのトータル距離スコアへと組み合わせられる。
【0081】
分析エンジン403は前記トータル距離スコアを、対象の前記動作イベントの発生確率を示すものとして、ユーザインターフェース401上でユーザ(例えば、プラントオペレータのようなプラント従事者等)に対して表示してもよい。前記トータル距離スコアが閾値イベントレベルを満たす場合には、パラレルなモデラエンジン403が、ユーザインターフェース401を介してユーザに、対象の前記動作イベントが現在発生している確率が高いこと又は対象の前記動作イベントが今後発生すると予測される確率が高いことを知らせる報知(警告)を自動的に提示してもよい。また、前記トータル距離スコアが前記閾値イベントレベルを満たした場合には、モデラエンジン403が、対象の前記動作イベントの発生に応答して、分散制御システム(DCS)404における計測制御操業コンピュータ405に自動的に入力を供給(パラメータ/変数/制約を調節)してもよい。そして、計測制御操業コンピュータ405はこの入力に基づいて、物理的なバルブ、アクチュエータ、及びヒータなど409A~409Iを、対象の前記動作イベントを防止、停止又は改善するように(ネットワーク408を介して)自動的に調節してもよい。このようにして、実施形態は、従前の技術によりこれまで洗練化されてきたプロセス制御技術を改良(且つさらに自動化)させる。
【0082】
[教師あり(ユーザの案内あり)パターン発見]
本発明の実施形態は、プラントヒストリアンデータにおけるKPI時系列パターンを自動的に割り出すための、ユーザの案内ありパターン発見手法を提供する。
【0083】
自動パターン発見の従前のアプローチは、案内なしパターン発見手法を用いる。所与の時系列に関して、案内なしパターン発見手法により実行される自動クエリは、典型的には、当該手法に規定されたイベント期間のような制約を満たす、繰返し可能な「イベントのよう」な上位N個のパターンクラスタを返す。この手法から返される各パターンクラスタは、自動的に特定された少なくとも1つの時系列パターンを含む。特定されたこれらの時系列パターンは、ユーザ(プラント/プロセスエンジン又はシステム)がイベントパターンモデル用に割り出したいと考える特定の時系列パターンを含まない可能性がある。これらの特定の時系列パターンが割り出されない可能性がある理由は、前記案内なしパターン発見手法を実装した場合、時系列に含まれるパターンクラスタの組合せの可能性の数が膨大になるため実用上の理由から、上位N個の(類似度が最も高い)クラスタしか返さないからである。このパターン発見アルゴリズムは、さらに、正常操業/取るに足らないパターン及びより単純なパターン(直線及び傾斜など)の特定に有利である。したがって、前記案内なしパターン発見手法を用いるとユーザは:(1)発見過程時に特定される時系列トレンド/パターンに対して入力(影響)を加えず;(2)パターン発見の実行後の行為として当該時系列トレンド/パターンの評価及び確定を行う必要がある。
【0084】
例えば、
図5Aは、液体蒸留ストリーム(TOL-PROD)504を有する蒸留塔(REGEN)502を含む、プラントのセクションのフローシートである。蒸留塔(REGEN)502は、フェノールを溶媒として用いて、トルエンからメチルシクロヘキサンを分離する。
図5Bは、液体蒸留ストリーム(TOL-PROD)504の流量を測定するのに用いられるプロセス変数(V00-FI-4002)のトレンドチャートである。当該プロセス変数(V00-FI-4002)は、蒸留塔502の流量に関係する対象の動作イベントについてのKPIとして用いられてもよい。
図5Bには、V00-FI-4002について4週間にわたって捕捉された測定値の時系列が示されている。V00-FI-4002についてのパターンモデルを構築するためにユーザ(例えば、プロセスエンジン、又はシステム等)は、V00-FI-4002について補足された前記測定値において、異常な動作状況を割り出すための繰返し発生する任意のピーク又はディップ(降下)を全て発見する必要があり得る。
【0085】
しかし、液体蒸留ストリーム(TOL-PROD)504の動作状況の異常は稀にしか発生しないので、ユーザは、異常な動作状況を示す繰返し発生する任意のパターンを発見するのに、長い履歴(時系列)を分析する必要があり得る。(
図5Bに示すような)V00-FI-4002について4週間にわたって捕捉された測定値の時系列では、そのような繰返し発生するパターンを発見するのに不十分であるかもしれない。また、時系列においてランダムに分布した繰返し発生する異常パターンを発見するのに、過去十年間のような十分と考えられる期間にわたって捕捉された測定値の時系列を分析すること(例えば、クエリ、又は自ら目を通すこと等)は、このような分析を実行するのに必要な時間が膨大になることから実現可能性のあるものではない。さらに、ユーザが、
図5Bに示すようなV00-FI-4002について4週間(28日)にわたって捕捉された測定値を従来の案内なしパターン発見手法クエリ(パターン長さは4時間に設定)を用いて分析した場合、
図5Cのグラフに示すような、繰返し可能な「イベントのよう」な上位6個のパターンクラスタしか返さなくてもよい。前記上位6個のパターンクラスタは、(68個のパターンを有する)グラフ化されたクラスタ510、(89個のパターンを有する)グラフ化されたクラスタ512、(44個のパターンを有する)グラフ化されたクラスタ514、(20個のパターンを有する)グラフ化されたクラスタ516、(21個のパターンを有する)グラフ化されたクラスタ518、および(10個のパターンを有する)グラフ化されたクラスタ520を含む。
【0086】
しかも、従来の(案内なし)パターン発見手法は、時系列において、(i)取るに足らない動作パターンを含み、(ii)正常な動作状況に対応する動作パターンの特定に有利である。従来のパターン発見手法では、時系列において取るに足らない動作パターンよりも、取るに足らないわけではない(単純な)操業パターンを特定する(割り出す)ことのほうが時間が長くなり、さらには、時系列において正常な動作状況に対応するパターンよりも異常な動作状況に対応するパターンを特定することのほうが時間が長くなる。さらに、実際の産業プロセスは、利益、及び操業効率などを最大化させる安定モードで操業するように意図されていることから、従来のパターン発見手法を用いた場合に発見される上位N個のパターンクラスタは典型的に、正常な動作イベントを大半に含む。例えば、TOL-PROD504の正常な動作の流量は、(
図5Cのグラフ化されたクラスタ512で描かれているように)小さいノイズ振動を除けば約8508Kg/時の安定操業である。プラントプロセスは、異常(ピーク、ディップ、暴走、及び運転停止などの動作パターン)が理想的にはプラント操業時に極めて小さな割合になるように最適化されている。つまり、プラントプロセスでは正常な動作パターン(部分時系列(サブシーケンス))が恐らく何回も繰り返し、従来のパターン発見手法を用いた場合には、当該正常な動作パターンが(
図5Cに示すように)パターン発見結果を独占する。
【0087】
従来の(案内なし)パターン発見手法で発見される前記上位N個のパターンクラスタのパターンにおいて、略直線、傾斜線、及び階段状線などの単純な(取るに足らない)形状が通常有利である理由は、従来の当該手法が単純にユークリッド距離を用いるからである。Z正規化後の、(パターンクラスタ510,512,514,516で描かれているような)単純な形状間のユークリッド距離は、典型的に、(パターンクラスタ520で描かれているような)複雑な形状間のユークリッド距離よりも極めて短い。
【0088】
従来のパターン発見手法を用いた場合、当該手法が取るに足らない/正常な動作パターンを含むパターンクラスタを超えたパターンクラスタを返すには、ユーザが上位のパターンクラスタの前記N個を大きな数に拡張する必要があり得る。例えば
図5Cでは、従来の当該手法が異常なピークパターンクラスタ520を返し始めるのは、N=6のとき(つまり、上位6個のパターンクラスタを生成するように構成されているとき)である。仮に従来の当該手法が上位4個のパターンクラスタしか返さないように構成されていた(N=4)とすれば、返されるパターンクラスタ510,512,514,516が取るに足らない正常な動作状況を大半に含み、パターンクラスタ520の所望のパターンを返さないことになる。なお、所望のパターンは、対象の不所望の(異常な)動作イベントを表す。かといって、従来の当該手法によって上位のパターンクラスタがより多く(N=4に代わるものとしてN=6)発見及び返されるように構成した場合には、パターンクラスタを返すクエリを従来の当該手法が完了するのに必要な時間が長くなり、かつ、返されたパターンクラスタにより表される時系列履歴をユーザ(例えば、プロセスエンジン、又はシステム等)が分析するのに必要な時間も長くなる。つまり、従来の手法を用いると、対象の異常な(不所望の)動作イベントに対応する所望のパターンを割り出すために時系列履歴を返したり分析したりするのに必要と考えられる時間が長くなり、とてつもなく時間を消費するプロセスとなってしまう。
【0089】
本発明の実施形態は、プロセス変数(KPI)の時系列についてのパターンクラスタを構築して対象の不所望の(異常な)動作状況を特定するうえでのパターン発見プロセスにユーザ(例えば、プロセスエンジン、又はシステム等)が影響を加えることを可能にすることにより、従来の(案内なし)手法に比べて向上した、ユーザの案内ありパターン発見手法を提供する。具体的に述べると、ユーザは、パターン発見手法時に特定されるパターンクラスタに対して含めること又は除外することを所望するパターン特性を設定してもよい。ユーザは、正常な動作パターン、及び単純な(取るに足らない)パターンなどを含めないように当該パターン特性を特に設定してもよい。不所望のパターン特性を有するパターンを発見プロセスからスキップ(トリミング)する(あるいは、発見プロセスにおいて不所望のパターン特性を有するパターンに注目する)ことにより、パターンクラスタを構築するのに用いるパターンを前記発見手法が時系列データにおいて特定するのに必要な時間が短縮される。しかも、(特に設定されたパターン特性に基づいて)特定されたパターンは、対象の異常な(不所望の)動作イベントに対応する所望のパターンである可能性が高いので、そのような所望のパターンを割り出すために時系列履歴をユーザが分析するのに必要な時間も短縮される。
【0090】
図5Dに、本発明の実施形態において案内ありパターン発見を実行する方法530を示す。方法530はステップ531にて、パターン発見時に構築されるパターンクラスタに対して含めること又は除外することを所望するパターン特性を表す、釣鐘状ピーク、上昇、及び降下などのパターン形状を含むバイアスプリミティブ形状ライブラリにユーザ(例えば、プロセスエンジン、又はシステム等)がアクセスすることを可能にする。
図5Eに、本発明の実施形態において当該バイアスプリミティブ形状ライブラリに含められてもよい例示的な幾つかのパターン(バイアスプリミティブ)形状を示す。他の実施形態では、前記ライブラリが非プリミティブの(プリミティブではない)パターン形状を含んでもよい。一部の実施形態では、ユーザが、前記ライブラリにパターン形状を追加すること(例えば、ユーザインターフェースの描画面上でパターン形状を描画すること、及び1つ以上のパターン形状を含むドキュメントをロードすること等)、前記ライブラリからパターン形状を削除すること、および前記ライブラリ内のパターン形状を編集することなどを行ってもよい。方法530はステップ532にて、パターン発見を実行するための少なくとも1つの前記パターン形状をユーザが前記形状ライブラリから選択することを可能にする。一部の実施形態では、ユーザは、これに加えて又はこれに代えて、アノテーション範囲からパターン形状を動的に(その場で)選択すること、描画ペイン上でパターン形状をアドホックで描画すること、パターン形状を定義するためにドキュメント(例えば、CSVのような形式等)をロードすることなどを行ってもよい。
【0091】
方法530はステップ534にて、プロセス変数(KPI)の時系列においてパターンクラスタを発見する(割り出す)ときに前記選択された少なくとも1つのパターン(バイアスプリミティブ)形状を含めるのか又は除外するのかをユーザが選択することを可能にする。例示的な一実施形態では、前記プロセス変数(KPI)が
図5BのV00-FI-4002である。前記選択されたパターン形状を含めることをユーザが選択した場合、実行されるパターン発見手法は、前記プロセス変数の時系列において少なくとも1つの当該選択されたパターン形状を発見することを試みる。前記選択されたパターン形状を除外することをユーザが選択した場合、実行されるパターン発見手法は、時系列において少なくとも1つの当該選択されたパターン形状の発見を思いとどまらせるようにパターンペナルティ値を加える。
【0092】
方法530はステップ536にて、前記選択されたパターン形状(および含めるのか又は除外するのかの選択)に基づいて、前記プロセス変数(KPI)の時系列についての元来の行列プロファイルと同じ長さの補正係数プロファイルを決定(作成)する。当該補正係数プロファイルは、前記選択された(含められた又は除外された)パターン形状と前記プロセス変数(KPI)についての完全な時系列との間で算出される距離プロファイルである。一部の実施形態では、ステップ536が、前記選択されたパターン形状と前記プロセス変数についての完全な時系列との間の当該距離を、単純にユークリッド距離を用いるのではなく式3に示すATDを用いて算出する。方法530は、次に、ステップ538にて、(1)時系列についての前記元来の行列プロファイルと(2)前記選択されたパターン形状についての前記補正係数プロファイルとを組み合わせた、前記プロセス変数(KPI)の時系列についての改変行列プロファイルを決定(作成)する。時系列についての元来の行列プロファイルが現在存在していない場合にはステップ538が、可変型時系列順序検索行列プロファイル(STOMP(scalable time series ordered-search matrix profile))、可変型時系列随時行列プロファイル(STAMP(scalable time series anytime matrix profile))などを用いて標準的な(元来の)行列プロファイルを算出する。前記案内ありパターン発見手法は、算出された前記元来の行列プロファイルおよび対応する生データベクトルを、後で利用できるように記憶(キャッシュ)する。
【0093】
方法530はステップ540にて、前記案内ありパターン発見手法を開始して、前記選択されたパターン形状(バイアスされた特性)に基づいて、パターンクラスタリングを前記改変行列プロファイルを用いて実行する。方法530は、さらに、同じ時系列に対してさらなる案内ありパターン発見手法を実行するようにステップ531~ステップ540を繰り返してもよい。方法530は前記元来の行列プロファイルおよび/または改変行列プロファイルを再利用できるようにキャッシュしているので、さらなる案内ありパターン発見手法を当該方法530が実行するのに必要な時間が短くなる。また、方法530は、異なる又は同じプロセス変数(KPI)についての別の時系列に対して案内ありパターン発見手法を実行するようにステップ531~ステップ540を繰り返してもよい。
【0094】
[距離スコアを算出するグラフ例]
図6A~
図6Cに、本発明の実施形態における距離スコアの決定の様子を示す。
図6Aには、パターンモデルのイベントシグネチャに含まれるKPI時系列パターン(A)がグラフ形式で示されている。このKPI時系列パターンは、対象の動作イベントに関連している。
図6Aには、さらに、オンラインのプラントプロセスの特定の範囲の監視対象KPI時系列(B)がグラフ形式で示されている。
図6AのKPI時系列パターン(A)及び監視対象KPI時系列(B)は、既にZ正規化されている。
図6AにおけるAとBとの間の(グラフ中に縦線で描かれた)距離は、式2に示すユークリッド距離式を用いて算出される。
図6BにおけるAとゼロラインとの間の(グラフ中に縦線で描かれた)ゼロライン距離は、式2に示すユークリッド距離式(あるいは、一部の実施形態では標準のユークリッド距離式)を用いて算出される。ゼロラインは、Bと同じ長さのゼロの定数ベクトルである。
図6Cには、DTW適用の式2に示すユークリッド距離式を用いて算出されるAとBとの間の距離が示されている。
【0095】
そして、
図6A又は
図6Cの算出された距離と
図6Bの算出された距離とが、AとBとの間の距離スコアATDを算出するために式3で利用されてもよい。AとBとの間の前記距離スコアATDは、監視対象KPI時系列(B)が対象の前記動作イベントの発生を示す確率を表す。
図6Dに、
図6A~
図6Cに従って算出される、(実線で描かれる)A及び(点線で描かれる)Bの各種数値からの例示的なATD距離を示す。
図6Dの一番上のグラフには、KPI時系列パターン(A)と監視対象KPI時系列(B)との間の理想的な合致が描かれており、ATD距離スコアは「1」である。距離スコア「1」は、監視対象KPI時系列(B)が(KPI時系列パターン(A)で特定される)対象の前記動作イベントの発生を示す確率が最大であることを示す。一方で、
図6Dの一番下のグラフでの距離スコア「0」は、監視対象KPI時系列(B)が(KPI時系列パターン(A)で特定される)対象の前記動作イベントの発生を示す確率がゼロであることを示す。
【0096】
[デジタル処理環境]
図7に、本発明が実装され得るコンピュータネットワーク又は同様のデジタル処理環境を示す。
【0097】
少なくとも1つのクライアントコンピュータ/装置50および少なくとも1つのサーバコンピュータ60は、アプリケーションプログラムなどを実行する処理装置、記憶装置および入出力装置を提供する。少なくとも1つのクライアントコンピュータ/装置50は、さらに、他のコンピューティングデバイス(他のクライアント装置/プロセス50および1つ以上の他のサーバコンピュータ60を含む)へと通信ネットワーク70を介して接続(リンク)されることが可能である。通信ネットワーク70は、リモートアクセスネットワーク、グローバルネットワーク(例えば、インターネット等)、クラウドコンピューティングサーバ又はサービス、世界中のコンピュータの集まり、ローカルアエリア又はワイドエリアネットワーク、および現在それぞれのプロトコル(TCP/IP, Bluetooth(登録商標)など)を用いて互いに通信するゲートウェイの一部であってもよい。それ以外の電子デバイス/コンピュータネットワークアーキテクチャも好適である。
【0098】
例えば、サーバコンピュータ60は、ネットワークアーキテクチャ400において、(パターンモデル構築プロセス100を実行するモデラエンジンを含む)第1のアプリケーションサーバ402や(オンライン反復プロセス200及び時系列監視プロセス300を実行する分析エンジンを含む)第2のアプリケーションサーバ403として構成されてもよい。また、サーバコンピュータ60は、ネットワークアーキテクチャ400において、前記パターンモデルを構築するためにデータベース412から履歴プラントデータを取り出すデータサーバ411として構成されてもよい。また、サーバコンピュータ60は、ネットワークアーキテクチャ400において、分散制御システム(DCS)404の一部として構成された計測制御操業コンピュータ405として構成されてもよい。計測制御操業コンピュータ405は、構築された/配備された前記パターンモデルに基づいてプラントプロセスを調節するために、センサ406~407や他の測定制御装置(バルブ、アクチュエータ、ヒータなど409A~409I)に通信可能に接続されてもよい。
【0099】
図8は、
図7のコンピュータシステムにおけるコンピュータ(例えば、クライアントプロセッサ/装置50、サーバコンピュータ60等)の内部構造を示す図である。それぞれのコンピュータ50,60は、コンピュータ又は処理システムの構成要素間でのデータ伝送に利用される一連のハードウェアラインであるシステムバス79を備える。バス79は、本質的に、コンピュータシステムの相異なる構成要素(例えば、プロセッサ、ディスクストレージ、メモリ、入出力ポート、ネットワークポート等)を接続して当該構成要素間での情報の伝送を可能にする共有の導管である。システムバス79には、様々な入出力装置(例えば、キーボード、マウス、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ等)をコンピュータ50,60に接続するための入出力装置インターフェース82(例えば、
図4のネットワークアーキテクチャ400のユーザインターフェース401等)が取り付けられている。ネットワークインターフェース86は、コンピュータが、ネットワーク(例えば、
図7のネットワーク70等)に取り付けられた様々な他の装置へと接続することを可能にする。メモリ90は、本発明の一実施形態(例えば、パターンモデル構築プロセス100、前記パターンモデルのオンライン反復処理200、時系列監視プロセス300、ユーザインターフェースの実装、および先述の支援コード等)を実現するように用いられるコンピュータソフトウェア命令92およびデータ94を記憶する揮発性の記憶部である。ディスクストレージ95は、本発明の一実施形態を実現するように用いられるコンピュータソフトウェア命令92およびデータ94を記憶する不揮発性の記憶部である。システムバス79には、さらに、コンピュータ命令を実行する中央演算処理装置84が取り付けられている。
【0100】
一実施形態において、プロセッサルーチン92及びデータ94は、コンピュータプログラムプロダクト(概して符号92で表す)である。当該コンピュータプログラムプロダクトは、本発明にかかるシステム用のソフトウェア命令の少なくとも一部を提供するコンピュータ読取り可能媒体(例えば、少なくとも1つのDVD-ROM、CD-ROM、ディスケット、テープなどの取外し可能な記憶媒体等)を含む。コンピュータプログラムプロダクト92は、当該技術分野において周知である任意の適切なソフトウェアインストール方法によってインストールされることができる。また、他の実施形態では、前記ソフトウェア命令の少なくとも一部が、ケーブルおよび/または通信および/または無線接続を介してダウンロードされるものであってもよい。他の実施形態において、本発明にかかるプログラムは、伝播媒体における伝播信号(例えば、電波、赤外線波、レーザ波、音波、インターネットなどのグローバルネットワーク又は他の少なくとも1つのネットワークによって伝播される電気波等)に組み込まれた、コンピュータプログラム伝播信号プロダクト107である。このような搬送媒体又は信号が、本発明にかかるルーチン/プログラム92用のソフトウェア命令の少なくとも一部を提供する。
【0101】
代替的な実施形態では、前記伝播信号が、伝播媒体で搬送されるアナログ搬送波又はデジタル信号である。例えば、前記伝播信号は、グローバルネットワーク(例えば、インターネット等)、電気通信網又は他のネットワークによって伝播されるデジタル信号であってもよい。一実施形態では、前記伝播信号が、ある期間に前記伝播媒体によって送信される信号であり、例えば、数ミリ秒、数秒、数分又はそれ以上の期間にネットワークによってパケットで送信される、ソフトウェアアプリケーション用の命令等である。他の実施形態において、コンピュータプログラムプロダクト92の前記コンピュータ読取り可能媒体は、コンピュータシステム50が受け取って読取りできる伝播媒体である。例えば、コンピュータシステム50は、前述したコンピュータプログラム伝播信号プロダクトの場合のように、伝播媒体を受け取ってその伝播媒体に組み込まれた伝播信号を特定する。
【0102】
一般的に言って、「搬送媒体」又は過渡キャリアという用語は、前述した過渡的信号、伝播信号、伝播媒体、記憶媒体などを包含する。
【0103】
他の実施形態では、プログラムプロダクト92が、いわゆるサービスとしてのソフトウェア(Saas:「サース」)、またはエンドユーザをサポートする他のインストールもしくは通信として実装されてもよい。
【0104】
本明細書で引用した全ての特許、特許出願公開公報および刊行物の全教示内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0105】
本発明を例示的な実施形態を参照しながら具体的に図示・説明したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に包含された本発明の範囲を逸脱しない範疇で形態や細部に様々な変更を施せることを理解するであろう。
なお、本発明は、態様として以下の内容を含む。
〔態様1〕
コンピュータに実装され、産業プロセスにおける動作イベントを検出する方法であって、
産業プロセスにおける動作イベントのシグネチャであって、前記動作イベントに関連するKPIについての時系列パターンを含むシグネチャを定義する定義過程と、
前記産業プロセスのオンライン実行中に、前記KPIの動きのトレンドを監視する過程であって、動きの当該トレンドは、前記KPIの時系列として監視される、監視過程と、
(i)前記KPIの監視対象時系列の範囲と、(ii)前記定義されたシグネチャに含まれる、前記KPIについての前記時系列パターンの間の距離スコアを、リアルタイムで決定する決定過程と、
決定された前記距離スコアに基づき、実行されている前記産業プロセスにおいて、前記定義されたシグネチャに関連する前記動作イベントを検出する検出過程と、
前記動作イベントの検出に応答して、前記産業プロセスのパラメータを、検出された前記動作イベントを阻止するように調節する調節過程と、
を備える、方法。
〔態様2〕
態様1に記載の方法において、前記シグネチャを定義する過程が、さらに、
データサーバを介してプラントヒストリアンデータベースから、履歴プラントデータをロードする副過程、
ロードされた前記履歴プラントデータにおいて、前記KPIの時系列パターンであって、前記動作イベントに関連する時系列パターンを特定する副過程であって、前記ロードされた履歴プラントデータにおいて前記時系列パターンを特定する当該副過程は、自動パターン検索識別手法、動作ログの適用、およびドメイン専門家による閲覧の少なくとも1つにより行われる、副過程、
前記シグネチャの時系列範囲を選択する副過程、ならびに
選択された前記時系列範囲に対応する特定された時系列パターンを完全に含むように、前記シグネチャを設定する副過程、
を含む、方法。
〔態様3〕
態様2に記載の方法において、前記自動パターン検索識別手法が、
異常な動作状況のパターン特性を表す少なくとも1つのパターン形状を定義し、定義された当該パターン形状は、形状ライブラリに記憶されること、
前記形状ライブラリから、前記動作イベントについてのパターン形状を選択することであって、当該選択は、時系列パターンを特定するときに当該選択されたパターン形状を含めるか又は除外するかを指定すること、
(i)前記選択されたパターン形状と、(ii)前記ロードされた履歴プラントデータからの前記KPIの時系列の間の距離プロファイルを決定し、決定された当該距離プロファイルに基づいて検索プロファイルを生成すること、および
生成された前記検索プロファイルを用いて、前記動作イベントに関連する前記特定された時系列パターンを含む、少なくとも1つのパターンクラスタを決定すること、
を含む教師ありパターン発見手法である、方法。
〔態様4〕
態様1に記載の方法において、前記KPIについての前記距離スコアをリアルタイムで算出する過程が、
前記監視対象時系列の範囲と前記時系列パターンとにZ正規化を実行する副過程、
独自の振幅フィルタを、Z正規化された前記監視対象時系列の範囲に適用する副過程、
Z正規化された前記監視対象時系列の範囲とZ正規化された前記時系列パターンの間のユークリッド距離を、動的時間伸縮法(DTW)を用いて算出する副過程、
ゼロのベクトルと前記Z正規化された時系列パターンの間のゼロラインユークリッド距離を算出する副過程、ならびに
動的時間伸縮法を用いて算出された前記ユークリッド距離および算出された前記ゼロラインユークリッド距離に基づき、前記監視対象時系列の範囲が前記時系列パターンに合致する確率を示す前記距離スコアを決定する副過程、
を含む、方法。
〔態様5〕
態様4に記載の方法において、さらに、
前記距離スコアを決定するときに、前記監視対象時系列の範囲と前記時系列パターンの間の一定の違いをなくすようにフィルタを適用する過程、
を備える、方法。
〔態様6〕
態様4に記載の方法において、前記距離スコアが0~1の数値であり、1は前記動作イベントの最も高い発生確率を示し、0は前記動作イベントの最も低い発生確率を示す、方法。
〔態様7〕
態様1に記載の方法において、さらに、
前記KPIの複数のシグネチャに関する、前記定義過程、前記監視過程、前記算出過程及び前記検出過程を、パラレルで実行する過程と、
前記KPIの定義された前記複数のシグネチャのそれぞれについて算出された前記距離スコアを、当該KPIについての統合距離スコアに組み合わせる過程と、
当該KPIについての前記統合距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出する過程と、
を備える、方法。
〔態様8〕
態様7に記載の方法において、前記定義された複数のシグネチャに含まれる前記時系列パターンが、振幅、オフセット、形状および時間のうちの少なくとも1つによって変動する、方法。
〔態様9〕
態様7に記載の方法において、さらに、
前記定義された複数のシグネチャを記憶するシグネチャライブラリを構成する過程、
を備える、方法。
〔態様10〕
態様1に記載の方法において、さらに、
複数のKPIに関する、前記定義過程、前記監視過程、前記算出過程及び前記検出過程を、パラレルで実行する過程と、
前記複数のKPIのそれぞれに対応する重み係数を定義する過程と、
各KPIについて算出された前記距離スコアを、前記対応する重み係数に基づいて重み付けする過程と、
前記複数のKPIそれぞれについての重み付けられた前記距離スコアを、トータル距離スコアに組み合わせる過程と、
前記トータル距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出する過程と、
を備える、方法。
〔態様11〕
産業プロセスにおける動作イベントを検出するコンピュータシステムであって、
プロセッサと、
コンピュータコード命令が記憶されたメモリと、
を備え、前記メモリは、前記プロセッサにより実行されると前記コンピュータコード命令が、
産業プロセスにおける動作イベントのシグネチャであって、前記動作イベントに関連するKPIについての時系列パターンを含むシグネチャを定義するように構成されたモデラエンジン、
分析エンジンであって、
前記産業プロセスのオンライン実行中に、前記KPIの動きのトレンドを前記KPIの時系列として監視するように、かつ、
前記KPIの監視対象時系列の範囲と、(ii)前記定義されたシグネチャに含まれる、前記KPIについての前記時系列パターンの間の距離スコアを、リアルタイムで決定するように、かつ、
決定された前記距離スコアに基づき、実行されている前記産業プロセスにおいて、前記定義されたシグネチャに関連する前記動作イベントを検出するように構成された分析エンジン、および
検出された前記動作イベントに関する情報の受取りに応答して、前記産業プロセスのパラメータを、検出された前記動作イベントを阻止するように調節するように構成されたプロセス制御システム、
を当該コンピュータシステムに実装させるように、前記プロセッサに作動的に接続されている、システム。
〔態様12〕
態様11に記載のシステムにおいて、前記モデラエンジンが、さらに、
データサーバから履歴プラントデータをロードし、
ロードされた前記履歴プラントデータにおいて、前記KPIの時系列パターンであって、前記動作イベントに関連する時系列パターンを特定し、
前記シグネチャの時系列範囲を選択し、
選択された前記時系列範囲に対応する特定された時系列パターンを完全に含むように、前記シグネチャを設定する
ように構成されており、
前記ロードされた履歴プラントデータにおいて前記時系列パターンを特定することは、自動パターン検索識別手法、動作ログの適用、およびドメイン専門家による閲覧の少なくとも1つにより行われる、システム。
〔態様13〕
態様12に記載の方法において、前記自動パターン検索識別手法が、
異常な動作状況のパターン特性を表す少なくとも1つのパターン形状を定義し、定義された当該パターン形状は、形状ライブラリに記憶されること、
前記形状ライブラリから、前記動作イベントについてのパターン形状を選択することであって、当該選択は、時系列パターンを特定するときに当該選択されたパターン形状を含めるか又は除外するかを指定すること、
(i)前記選択されたパターン形状と、(ii)前記ロードされた履歴プラントデータからの前記KPIの時系列の間の距離プロファイルを決定し、決定された当該距離プロファイルに基づいて検索プロファイルを生成すること、および
生成された前記検索プロファイルを用いて、前記動作イベントに関連する前記特定された時系列パターンを含む、少なくとも1つのパターンクラスタを決定すること、
を含む教師ありパターン発見手法である、方法。
〔態様14〕
態様11に記載のシステムにおいて、前記分析エンジンが、前記KPIについての前記距離スコアを、
前記監視対象時系列の範囲と前記時系列パターンとにZ正規化を実行し、
Z正規化された前記監視対象時系列の範囲とZ正規化された前記時系列パターンの間のユークリッド距離を、DTWを用いて算出し、
ゼロのベクトルと前記Z正規化された時系列パターンとの間のゼロラインユークリッド距離を算出し、
算出された前記ユークリッド距離および算出された前記ゼロラインユークリッド距離に基づき、前記監視対象時系列の範囲が前記時系列パターンに合致する確率を示す当該距離スコアを決定することによって
リアルタイムで算出するように構成されている、システム。
〔態様15〕
態様14に記載のシステムにおいて、前記分析エンジンが、さらに、
前記距離スコアを決定するときに、前記監視対象時系列の範囲と前記時系列パターンの間の一定の違いをなくすようにフィルタを適用する
ように構成されている、システム。
〔態様16〕
態様14に記載のシステムにおいて、前記距離スコアが0~1の数値であり、1は前記動作イベントの最も高い発生確率を示し、0は前記動作イベントの最も低い発生確率を示す、システム。
〔態様17〕
態様16に記載のシステムにおいて、前記分析エンジンが、さらに、
前記距離スコアを決定するときに、前記監視対象時系列と前記時系列パターンの間の一定の違いをなくすようにフィルタを適用する
ように構成されている、システム。
〔態様18〕
態様16に記載のシステムにおいて、前記距離スコアが0から1までの数値であり、1は前記定義されたシグネチャの最も高い発生確率を示し、0は前記定義されたシグネチャの最も低い発生確率を示す、システム。
〔態様19〕
態様11に記載のシステムにおいて、前記モデラエンジンが、さらに、
前記動作イベントの複数のシグネチャに関する前記定義をパラレルで実行するように構成されており、
前記分析エンジンが、さらに、
前記KPIの複数のシグネチャに関する、前記定義、前記監視、前記算出及び前記検出をパラレルで実行し、
前記KPIの定義された前記複数のシグネチャのそれぞれについて算出された前記距離スコアを、当該KPIについての統合距離スコアに組み合わせ、
当該KPIについての前記統合距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出するように構成されている、システム。
〔態様20〕
態様19に記載のシステムにおいて、前記定義された複数のシグネチャに含まれる前記時系列パターンが、振幅、オフセット、形状および時間のうちの少なくとも1つによって変動する、システム。
〔態様21〕
態様19に記載のシステムにおいて、前記モデラエンジンが、さらに、前記定義された複数のシグネチャを記憶するシグネチャライブラリを生成するように構成されている、システム。
〔態様22〕
態様11に記載のシステムにおいて、前記モデラエンジンが、さらに、
複数のKPIに関する前記定義をパラレルで実行するように構成されており、
前記分析エンジンが、さらに、
複数のKPIに関する、前記監視、前記算出及び前記検出をパラレルで実行し、
前記複数のKPIのそれぞれに対応する重み係数を定義し、
各KPIについて算出された前記距離スコアを、前記対応する重み係数に基づいて重み付けし、
前記複数のKPIそれぞれについての重み付けられた前記距離スコアを、トータル距離スコアに組み合わせ、
前記トータル距離スコアに基づき、前記動作イベントを検出するように構成されている、システム。
〔態様23〕
コード命令が記憶された非過渡的なコンピュータ読取り可能記憶媒体、
を備える、コンピュータプログラムプロダクトであって、
前記記憶媒体は、産業プロセスでの動作イベントを検出するプロセッサにより実行されると前記コード命令が、当該プロセッサに:
産業プロセスにおける動作イベントのシグネチャであって、前記動作イベントに関連するKPIについての時系列パターンを含むシグネチャを定義する手順、
前記産業プロセスのオンライン実行中に、前記KPIの動きのトレンドを監視する手順であって、動きの当該トレンドは、前記KPIの時系列として監視される、手順、
(i)前記KPIの監視対象時系列の範囲と、(ii) 前記定義されたシグネチャに含まれる、前記KPIについての前記時系列パターンの間の距離スコアを、リアルタイムで決定する手順、
決定された前記距離スコアに基づき、実行されている前記産業プロセスにおいて、前記定義されたシグネチャに関連する前記動作イベントを検出する手順、
前記動作イベントの検出に応答して、前記産業プロセスのパラメータを、検出された前記動作イベントを阻止するように調節する手順
を実行させるように、当該プロセッサに作動的に接続されている、コンピュータプログラムプロダクト。