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特許7009440ディスク形のレーザ活性媒質を備えた光学システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】ディスク形のレーザ活性媒質を備えた光学システム
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20220118BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
H01S3/10 D
G02B5/08 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019503732
(86)(22)【出願日】2017-07-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2017068199
(87)【国際公開番号】W WO2018019674
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】102016213561.9
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504035571
【氏名又は名称】トルンプフ レーザー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TRUMPF Laser GmbH
【住所又は居所原語表記】Aichhalder Strasse 39, D-78713 Schramberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク バウアー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー キリ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン-シルヴィウス シャート
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0059991(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02284965(EP,A1)
【文献】特表2005-517291(JP,A)
【文献】国際公開第2015/074244(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0116081(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0155503(US,A1)
【文献】特表2013-514639(JP,A)
【文献】実開平02-119633(JP,U)
【文献】国際公開第2012/013512(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0280221(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02816386(EP,A1)
【文献】特表2014-509079(JP,A)
【文献】特表2003-529919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/098 - 3/102
H01S 3/105 - 3/131
H01S 3/136 - 3/213
H01S 3/23 - 4/00
G02B 5/08 - 5/10
G02B 7/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学システム(1)であって、
ディスク形のレーザ活性媒質(2)と、
レーザビーム(5)を偏向するための鏡面(Fが形成されている複数のミラー要素(6)、及び、基体(7)を備えた偏向装置(3)と、
を備えており、
前記基体(7)に前記ミラー要素(6)が取り付けられており、
前記ミラー要素(6)の前記鏡面(Fは、前記レーザビーム(5)を各鏡面(Fから前記ディスク形のレーザ活性媒質(2)を介して他の鏡面(Fへ偏向する向きにされている、光学システム(1)において、
前記ミラー要素(6)は、一体に構成されており、又は、モノリシックに接合されており、
前記ミラー要素(6)は、心軸(11)に対して回転対称的に構成された結合部分(12)を有し、
前記結合部分(12)は、素材結合又は直接結合によって前記基体(7)に固定的に結合されており
前記基体(7)に凹部(16)が形成されており、
前記凹部(16)はそれぞれ、各ミラー要素(6)の前記結合部分(12)に素材結合又は直接結合するための周面(15)を有し、
前記結合部分は、球セグメント(12)によって構成されており、
前記球セグメント(12)は、当該球セグメント(12)の球屋根(14)で、前記基体(7)の凹部(16)の周面(15)に素材結合又は直接結合している、
ことを特徴とする光学システム(1)。
【請求項2】
前記ミラー要素(6)の平坦な前記鏡面(Fの向きは、前記結合部分(12)の中心軸(11)に対して30°乃至60°の間の角度(α)である、
請求項1記載の光学システム(1)
【請求項3】
少なくとも1つの前記ミラー要素(6)では前記鏡面(F)は、前記結合部分(12)の中心軸(11)に対して第1の角度(α)の向きであり、少なくとも1つの他の前記ミラー要素(6)では前記鏡面(F)は、前記結合部分(12)の中心軸(11)に対して、前記第1の角度とは異なる第2の角度(α)の向きである、
請求項1又は2記載の光学システム(1)
【請求項4】
前記凹部(16)は、前記基体(7)の貫通孔である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項5】
前記凹部(16)の周面(15)は、当該周面(15)の各中心軸(17)に対して回転対称的に構成されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項6】
前記凹部(16)の周面(15)は、球面、円錐面又は自由形状面を成す、
請求項からまでのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項7】
少なくとも1つのミラー要素(6)の前記結合部分(12)の中心軸(11)は、前記周面(15)の中心軸(17)に対して傾角(β)の向きである、
請求項又は記載の光学システム(1)
【請求項8】
前記ミラー要素(6)は、前記球セグメント(12)に接続する柱形の区間(13)を有し、
前記区間(13)に前記鏡面(Fが形成されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項9】
前記鏡面(F)は、前記区間(13)の断面を成す、
請求項8記載の光学システム(1)。
【請求項10】
前記球セグメント(12)は、中心点(M)が前記ミラー要素(6)の鏡面(F上にある曲率半径(R)を有する、
請求項1から9までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項11】
前記複数のミラー要素(6)は、前記基体(7)上に、複数の円環形(R1,R2,R3)に、又は、複数の正多角形(S1,S2,S3)に配置されている、
請求項1から10までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項12】
前記ミラー要素(6)のうち半分より多くのミラー要素(6)において、各2つのり合ったミラー要素(6)の鏡面(F間の直接的な偏向は、1つの共通の偏向方向(Y)に行われる、
請求項1から11までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項13】
前記光学システムは、さらにエンドミラー(9)を備えており、
前記エンドミラー(9)の鏡面(Fの向きは、前記レーザビーム(5)を前記ディスク形のレーザ活性媒質(2)へ反射し戻すために、当該エンドミラー(9)の鏡面(Fに入射する前記レーザビーム(5)に対して垂直である、
請求項1から12までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項14】
前記偏向装置(3)の前記基体(7)は、少なくとも80重量%が前記ミラー要素(6)の材料と一致する材料から構成されている、
請求項1から13までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項15】
前記基体(7)及び/又は前記ミラー要素(6)は、ガラス、ラスセラミック又は金属材料から成されている、
請求項1から14までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【請求項16】
前記素材結合は、接着接合及び/又ははんだ接合により形成され、又は、
前記直接結合は、溶接接合及び/又はボンディング接合により形成されている、
請求項1から15までのいずれか1項記載の光学システム(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学システム、たとえば光学増幅システム等、特に(線形)ディスクレーザ増幅器に関し、当該光学システムは、ディスク形のレーザ活性媒質と、レーザビームを偏向するための鏡面が形成されている複数のミラー要素を備えた偏向装置と、ミラー要素が固定されている基体とを備えており、ミラー要素の鏡面の向きは、各鏡面からディスク形のレーザ活性媒質を介して他の鏡面へレーザビームを偏向する向きになっている。よって、ミラー要素は、各自の鏡面間でディスク形のレーザ活性媒質を介してレーザビームを偏向する対で配置されている。
【背景技術】
【0002】
A. Antognini et al. の論文“Thin-Disk Yb:YAG Oscillator-Amplifier Laser, ASE, and Effective Yb:YAG Lifetime”(IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 45, No. 5,2009年8月)に、マルチパスディスクレーザ増幅器が記載されており、このマルチパスディスクレーザ増幅器においては、レーザビームをレーザディスクへ偏向するために、24個の平面ミラーから成るアレイが使用される。これらのミラーは1つの共通の基板上に配置されており、レーザビームがレーザディスク内を通過する毎にレーザビームのビーム推移を個別に適合するため、どの各ミラーの向きも個別に変化させることができる。J. Tuemmler et al. による論文“High-repetition-rate chirped-pulse-amplification thin-disk laser system with joule-level pulse energy”(Optics Letters, Vol. 34, No. 9,2009年5月1日)にもマルチパス増幅器が記載されており、このマルチパス増幅器においては、レーザビームを偏向するために7×4個のミラーのアレイが使用され、これらのミラーも1つの共通の基板上に配置されており、個別にアライメントすることができる。
【0003】
米国特許第7463667号明細書(US 7,463,667 B2)から、固体レーザ増幅材料モジュール(LGMモジュール)とマルチパス共振器とを備えたレーザシステムが公知となっており、このマルチパス共振器は、それぞれ第1のミラーと第2のミラーとを含むリレーミラーの複数の対を有する。レーザビームは、LGMモジュールの同一場所とリレーミラーの複数の各対との間で往復反射される。LGMモジュールと共振器とは1つの共振器筐体内に収容されており、複数のミラーは保持システムに保持されており、この保持システムは、レーザビームが正確にミラー対とLGMモジュールとの間で往復反射されるように、ミラーの相互間の相対的な向き及び位置決めと、LGMモジュールに対する相対的な向き及び位置決めとを維持する。
【0004】
ディスクレーザ増幅器又はディスクレーザの形態の光学増幅システムは、厚さが薄いディスク形のレーザ活性媒質(レーザディスク)を備えている。線形ディスクレーザ増幅器の形態、すなわち、たとえば再生増幅器のように共振器を介しての帰還が行われないレーザ増幅器の形態のかかる光学システムにおいては、レーザビームをより高いパワーに増幅しなければならず、パルス放射の場合には、より高いパルスエネルギーに増幅しなければならない。レーザディスクを通過する際の比較的低い増幅率は、典型的には、レーザディスクを多数回通過する必要がある。このような多数回の通過は、しばしば、比較的長い光路によって実現されることが多い。線形ディスク増幅器は、高出力領域及び短パルス領域乃至超短パルス領域においてスケーリングするために特に適している。というのも、ディスクレーザ増幅器全体におけるビーム径が大きいことにより、低い強度と非線形性とを達成することができ、かつ、光学収差をごく僅かにすることができるからである。しかし、レーザディスクの複数回通過を実現するための光路が長く、光学部品の数が比較的多いので、ディスクレーザ増幅器の形態の光学増幅システムはアライメント誤差の影響を受けやすい。
【0005】
米国特許第7817704号明細書(US 7,817,704 B2)にはモノブロックレーザが記載されており、このモノブロックレーザは、自己の軸に沿って延在する載置部を有し、この載置部に、当該軸まわりに回転可能であるアライメント可能な部品が載置される。このアライメント可能な部品は、Vブロックとして構成された載置部に回転可能に取り付けることができる。これに代えて、たとえばミラーの形態のアライメント可能な部品は、球面形状の底部を有することができ、載置部の基板は、このアライメント可能な部品を受けるための球面形状の凹部を有することができる。
【0006】
欧州特許出願公開第2816386号明細書(EP 2 816 386 A1)から、少なくとも1つの保持部品を介して基体に接着された光学部品を備えている光学系システムが公知となっており、この光学部品は、光学部品側で湾曲している接合側及び/又は保持部品側で湾曲している接合側を介して、接触線に沿って互いに直接接触しており、接触線の隣において両接合側間に存在する少なくとも1つの継目に入れられる接着剤を用いて接着される。
【0007】
国際公開第2012/013512号(WO 2012/013512 A1)に、基板を備えた光学系システムが記載されており、この光学系システムは、載置領域を有する壁を備えた凹部と、光学部品を保持する光学系ホルダとを備えており、光学系ホルダは、接触領域を含む下面を有する。光学系ホルダの下面と凹部の底部との間に空洞が形成されており、この空洞内に、光学系ホルダを固定するために供される硬化可能な接着剤が充填されている。
【0008】
追加的にはんだ付け又はスポット溶接乃至スポットレーザ溶接を行うことにより、光学系ホルダの固定の改善を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第7463667号明細書
【文献】米国特許第7817704号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2816386号明細書
【文献】国際公開第2012/013512号
【非特許文献】
【0010】
【文献】A. Antognini et al. の論文“Thin-Disk Yb:YAG Oscillator-Amplifier Laser, ASE, and Effective Yb:YAG Lifetime”(IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 45, No. 5,2009年8月)
【文献】J. Tuemmler et al. による論文“High-repetition-rate chirped-pulse-amplification thin-disk laser system with joule-level pulse energy”(Optics Letters, Vol. 34, No. 9,2009年5月1日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題
本発明の基礎となる課題は、アライメント誤差に係るリスクが小さい光学システム、特に(線形)ディスクレーザ増幅器の形態の光学システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の対象
前記課題は、本発明においては、冒頭に述べた分野の光学システム、たとえば光学増幅システムの形態等、特にディスクレーザ増幅器の形態の光学システムであって、複数のミラー要素が一体に構成され、又はモノリシックに接合されており、有利には中心軸に対して回転対称的に構成された結合部分を有し、結合部分は素材結合又は直接結合によって基体に固定的すなわち永久的に結合されている、光学システムによって解決される。
【0013】
「モノリシックに接合されたミラー要素」とは、本願においては、複数の部品から構成されているミラー要素であって、当該複数の部品が互いに固定的かつ永久的に結合しており、ミラー要素の部品間の結合も素材結合又は直接結合によって行われているミラー要素をいう。
【0014】
典型的には複数のミラー要素は、調整可能な揺動板を備えたミラーホルダに保持される。これによって、各ミラー要素の向き、具体的にいうと鏡面の向きを、たとえば約10μrad前後の精度で高精度に調整することができる。しかし、上記にて引用した2つの論文のような、ディスクマルチパス増幅器を実現するために使用することができる、複数の上述のミラーホルダを備えた偏向装置は、多数のアライメント自由度を提供し、これは著しいアライメント誤差及び取付リスクを伴う。
【0015】
本発明においては、かかるリスクは、複数のミラー要素をたとえば基板の形態等の基体に固定的すなわち永久的に結合することによって最小になる。このような永久的な結合により、アライメント誤差自由度を最小限に低下することができ、光学システムの動作中のアライメント誤差を実用上排除することができる。アライメント誤差自由度を最小にするためには、素材結合的な接合技術によって、たとえば接着、はんだ付け又は溶接等によって、又は直接的な永久結合によって、たとえばボンディング又はガラス溶接等によって、ミラー要素を基体に固定し、又は、これに結合する。さらに、ミラー要素は一体に構成されており、又はモノリシックに接合されている。ミラー要素、具体的にいうとミラー要素の鏡面は、典型的には、約10μradの精度で基体に長期間安定的に取り付けなければならず、又は、基体に対する相対的な向きを調整しなければならない。基体は有利には一体に構成されるが、場合によっては基体もモノリシックに接合することができることもある。
【0016】
一実施形態においては、ミラー要素の(平坦な)鏡面の向きは、結合部分の中心軸に対して30°乃至60°の間の角度、有利には35°乃至55°の間の角度、特に40°乃至50°の間の角度である。偏向装置のミラー要素の鏡面の法線方向は、それぞれ他の鏡面へ直接偏向を行えるように、かつ、レーザディスクの典型的には中央にレーザビームが当たるように選択しなければならない。こうするためには、各ミラー要素を基体に取り付ける際に、各結合部分の中心軸の向きを(プレート形の)基体に対して適切な角度にすることができる。特に、こうするためには、複数の異なるミラー要素の結合部分の中心軸を、基体を基準としてそれぞれ異なる向きにすることができる。かかる場合、偏向装置において必要なミラー要素の種類が一種類のみとなり、これによって偏向装置の製造が簡素化するように、偏向装置の円環形(下記参照)に配置された全てのミラー要素を、結合部分の中心軸に対して同一の角度の向きにすることができる場合がある。かかる場合、各結合部分に対する法線方向の(画一的な)角度は、典型的には45°付近である。というのも、厳密に45°での偏向は典型的には、基体の中心軸が通過する当該基体の中心でしか行えないからである。
【0017】
他の一実施形態においては、第1のミラー要素では鏡面は、結合部分の中心軸に対して第1の角度の向きにされており、第2のミラー要素では鏡面は、結合部分の中心軸に対して、第1の角度とは異なる第2の角度の向きにされている。かかる場合、偏向装置においてミラー要素の2つ以上の異なる角度、通常は多数、たとえば10以上の異なる角度が使用され、ひいては10以上の異なる種類のミラー要素が使用され、異なるミラー要素の鏡面の向きの間の偏差は、典型的には比較的小さく、この偏差は典型的には、45°の角度から10°未満、有利には5°未満偏差する。もちろん、複数の異なる種類のミラー要素を使用する他にさらに、基体を基準とする各結合部分の中心軸の向きも変えることができる。
【0018】
他の一実施形態においては、基体に凹部が形成されており、この凹部はそれぞれ、各ミラー要素の結合部分に素材結合又は直接結合するための周面を有する。本実施形態においては、ミラー要素、具体的にいうとその結合部分は、各凹部の周面に点接触、線接触、又は場合によっては面接触するように、凹部に入れられる。凹部は、基板の形態の基体に、実質的に一定の厚さで形成することができる。また、凹部を基体の隆起部乃至肉厚部に形成することもできる。すなわち、必ずしも、凹部がたとえば基板の形態等の基体の他の部分より凹んでいることを要しない。
【0019】
一改良形態においては、凹部は基体の貫通孔である。これは、各ミラー要素の取付中乃至アライメント中に各凹部の周面と結合部分との間の結合部を作製するときに好適である。たとえば素材結合の場合には、たとえば接着剤等の接合材を、基体の、各結合部分とは反対側の下面から、周面と各結合部分の表面との間に挿入することができる。ここには、基体の上面からよりも下面からの方が容易に接近することができる。
【0020】
他の一実施形態においては、凹部の周面は周面の各中心軸に対して回転対称的に構成されている。かかる場合、典型的には、各ミラー要素を素材結合又は直接結合によって凹部内の各ミラー要素の位置に固定する前に、各ミラー要素を凹部内において回転させることにより、基体に対する各ミラー要素の相対的な向きを変えることができる。
【0021】
一改良形態においては、凹部の周面は球面、円錐面又は自由形状面を成す。ミラー要素の結合部分が、径方向に研磨乃至ポリッシュされた表面を有する場合、この表面を、球面、円錐面又は自由形状面の形態の周面、たとえばアキシコンの形態の周面等と、線接触乃至円接触させることができる。かかる場合、ミラー要素を周面に沿って並進乃至回転させることにより、ミラー要素を3つの角度でアライメントすることができる。すなわち、ミラー要素を基体に固定的に結合する前に、凹部の周面の中心軸を基準とするミラー要素の1つの回転角及び結合部分の中心軸とミラー要素の中心軸との間の2つの傾角の双方を調整することができる。
【0022】
一改良形態においては、少なくとも1つのミラー要素の結合部分の中心軸は、周面の中心軸に対して傾角の向きである。上記にて記載しているように、このようにして、基体に対する各ミラー要素の鏡面の相対的な向きを変化することができ、これによって、レーザ活性媒質に対する各ミラー要素の鏡面の相対的な向きも変化することができる。このことによって、典型的には、結合部分の中心軸と鏡面との角度がそれぞれ異なるミラー要素の数を削減することができる。各ミラー要素の傾角は、特に、各鏡面から基体の中心軸までの径方向の距離に依存し、基体の中心軸上には、基体から離隔しているディスク形のレーザ活性媒質も配置されている。通常、凹部の周面の中心軸の向きは、通常はプレート形の基体の中心軸に対して平行又は実質的に平行である。場合によっては、凹部乃至その中心軸を、プレート形の基体の中心軸に対して(場合によっては著しく大きい)角度を成して、斜めに乃至傾斜することができることもある。
【0023】
一改良形態においては、結合部分は球セグメントによって構成されており、球セグメントは当該球セグメントの球屋根で、すなわち当該球セグメントの球面の曲面で、基体の凹部の周面に素材結合又は直接結合している。球形の結合部分を使用することは有利であることが判明している。というのも、かかる結合部分は凹部内におけるミラー要素のアライメント乃至向き調整を大きく簡素化し、周面が適切に回転対称的に構成されている場合、線接触乃至円接触を達成することができるからである。
【0024】
他の一実施形態においては、ミラー要素は、球セグメントに接続する、有利には円柱形の区間を有し、この円柱形の区間に鏡面が形成されている。この円柱形の区間の(平坦な)鏡面は、たとえばエンドミラーの場合、円柱軸に対して垂直の向きであり、かつ、円形の幾何形状を有することができるが、通常は、鏡面の向きは円柱軸に対して約45°付近の角度であるから、楕円形の幾何形状を有する。鏡面乃至鏡面の縁部は、結合部分に直接接続することができるが、結合部分と鏡面との間に中心軸の方向に、通常は円柱形の中間区間が延在し、この中間区間に、鏡面を有するプリズムの円柱形区間が接続することも可能である。ミラー要素がモノリシックに接合されている場合、その接合箇所乃至接合面は典型的には、各区間間の移行部に、たとえば、(たとえば球形の)結合部分と、鏡面が形成されている円柱形区間との間の移行部に位置する。
【0025】
他の一実施形態においては、結合部分の球セグメントは、中心点がミラー要素の鏡面上にある曲率半径を有し、しかも、この曲率半径の中心点は典型的には鏡面の中央にあり、典型的にはこの鏡面の中央に、当該鏡面を通過する結合部分の中心軸が当たる。そうである場合、すなわち、球セグメントの半径が鏡面高さと一致する場合には、横方向オフセットの無いミラー要素のアライメントが可能になる。すなわち、かかる場合において結合部分の中心軸と凹部の中心軸との間の傾角が変化する場合、鏡面の中心点の横方向オフセットは生じない。
【0026】
代替的な一実施形態においては、ミラー要素の結合部分は円柱形であり、有利には平坦な底面を有する。かかる場合、円柱形の結合部分はたとえば、基体の同様に円柱形の凹部に入れることができ、この凹部は、平坦な底面を載置するための段部を有する。このようにして、鏡面の高さ乃至鏡面から基体までの距離が決定され、また、傾角がアライメントの際に通常は変化することもなくなる。というのも、結合部分の中心軸の向きは典型的には、円柱形の凹部の中心軸に対して平行であるからである。凹部の中心軸に対する鏡面の向きだけが、ミラー要素の中心軸まわりの当該ミラー要素の回転によって調整することができる。
【0027】
基体の凹部を使用する代わりに、結合部分の平坦な底面を基体のたとえば平坦な表面上に載置することができ、たとえば円形の開口を有するステンシルを用いて、中心軸に対する鏡面の回転角を定めるために、ミラー要素が当該ミラー要素の中心軸まわりにしか回転することができなくなるように、基体の表面上にミラー要素の位置を固定することができる。かかる場合には、ミラー要素を基体の表面と接触させる前に、たとえば接着剤等の接合材を基体の表面上のステンシルの開口の領域に付着することができ、接合材が未だ硬化しない間は、中心軸まわりの回転によるアライメントを行うことができる。代替的又は追加的に、アライメントの後にミラー要素の固定を、たとえばはんだ付け又は(ガラス)溶接によって行うこともできる。上記にて記載されているように、円柱形の結合部分を有するミラー要素を使用する場合、傾角の変化が不可能になるので、通常は光学システムにおいて、鏡面と結合部分の中心軸との間の角度がそれぞれ異なる、複数の異なる種類のミラー要素を使用する必要がある。
【0028】
他の一実施形態においては、複数のミラー要素は基体上に当該基体の中心軸まわりに同心で複数の円環形又は複数の正多角形に、たとえば複数の正六角形に配置され、典型的には、基体の中心軸上にはディスク形のレーザ活性媒質の中心も位置する。ミラー要素を可能な限り均等乃至規則的に配置することにより、使用するミラー要素の異なる種類の数を少数のみとすることができる。
【0029】
典型的には、各2つのミラー要素の鏡面間で直接的な偏向が行われる。すなわち、両ミラー要素の鏡面間の光路には他の光学部品が配置されていない。各2つの、特に隣り合ったミラー要素間で(それぞれ実質的に約2×90°で)直接的に偏向することにより、偏向に必要とされるミラー要素の数が少なくなり、また、このことにより光路の複雑性も低減することができる。相互間で直接的な偏向が行われるミラー要素は、典型的には隣り合って配置されており、同一の円環形乃至同一の多角形にあり、又は典型的には隣り合う円環形乃至多角形にあることができる。2つのそれぞれ隣り合ったミラー要素間の直接的な偏向は、ミラー要素のうち半分より多くのミラー要素において、それぞれ実質的に周方向に行うことができる。すなわち、回転パターンで行うことができる。かかる回転パターンでの偏向は通常、非点収差が生じた場合にこれを補正するために好適である。
【0030】
他の一実施形態においては、ミラー要素のうち半分より多くのミラー要素において、各2つの有利には隣り合ったミラー要素の鏡面間の直接的な偏向は、1つの共通(すなわち同一)の偏向方向に行われる。ミラー要素の総数の半分より多くのミラー要素においてレーザビームをそれぞれ平行に偏向するかかる偏向は、1つの空間方向において熱に起因して生じるレーザビームのアライメント誤差に関して有利な影響を及ぼす。ここで記載されている実施形態においては、ミラー要素を複数の正多角形に配置すること、たとえば複数の正六角形に配置することは、通常は、特に有利である。というのも、かかる場合、多角形の一辺に相当する1つの共通の線に沿って複数の鏡面が配置されるからである。
【0031】
典型的には異なる入射角で入射される複数の鏡面において上述のように直接的な90°偏向がなされる場合、通常は、反射コーティングの偏光特性が入射角に依存することにより、レーザビームの偏光状態が変化する。レーザビームの偏光状態の変化の補償はたとえば、位相補償を行う特殊な鏡面乃至反射コーティングによって、又はたとえば1/4波長板及び/又は1/8波長板等の位相シフトを行う複数の光学部品の適切な組み合わせによって行うことができ、これらはレーザビームの光路上に配置されて光学システムの一部を構成する。
【0032】
他の一実施形態においては、光学システム、通常では偏向装置は、エンドミラーを備えており、エンドミラーの鏡面の向きは、レーザビームをディスク形のレーザ活性媒質へ反射し戻すために、当該エンドミラーの鏡面に入射するレーザビームに対して垂直にされている。かかるエンドミラーを使用することにより、レーザビームは2回目に逆方向で偏向装置を通過することができ、これによって、ディスク形のレーザ活性媒質の通過回数が2倍になる。こうするために、エンドミラーの鏡面の向きは、入射する(そして反射される)レーザビームに対して垂直にされている。
【0033】
もちろん、偏向装置乃至光学システムは、必ずしもエンドミラーを要するとは限らない。たとえば、このことは典型的には、たとえばシードレーザビームの入力パワーが既に比較的大きいために高い増幅率を必要としない場合に当てはまる。かかる場合、レーザビームはたとえば基体の貫通口を通過して、又は他の態様で、光学システムから出射することができ、偏向装置を2回通過しない。光学システムへのレーザビームの入射も、基体の貫通口を通過して、又は場合によっては適切な偏向要素によって行うことができる。
【0034】
有利には、偏向装置の基体は、少なくとも80重量%がミラー要素の材料と一致する材料から構成されている。かかる場合、典型的には、使用される両材料の熱膨張係数は十分に類似する。化学組成が少なくとも80重量%一致する両材料は、たとえば(通常の)石英ガラス及びドープされた石英ガラス、たとえばチタンドープされた石英ガラス(ULE(登録商標))とすることができ、これは通常、約20重量%未満の割合のTiOを含む。
【0035】
他の一実施形態においては、基体及び/又はミラー要素はガラス、有利には石英ガラス、ガラスセラミック又は金属材料から、有利には合金から構成されている。基体及び/又はミラー要素が、レーザ光に対して(実質的に)透過性である材料から構成されると、好適であることが判明している。というのもこれにより、ミラー要素によってたとえば散乱光等の形態の漏れ光が発生した場合に、これによってアライメント上重要な部品において加熱が生じることがないからである。ガラスとしては、たとえばホウケイ酸クラウンガラス(BK7)又は石英ガラスを使用することができ、ガラスセラミックとしてはたとえばZerodur(ゼロジュア、登録商標)を使用することができる。Zerodur(登録商標)及びULE(登録商標)は双方とも、比較的広い温度領域にわたって、特に低い熱膨張係数を示し、これは本願において有利であることが判明している。金属材料、特に、いわゆるインバー現象が生じる特定の合金(インバー合金)も、非常に低い熱膨張係数を示す。かかるインバー合金の一例は、約36%の割合のニッケルを含む鉄‐ニッケル合金である。
【0036】
有利には、偏向装置の基体及びミラー要素は、熱膨張係数(長さ膨張係数)が実質的に等しい大きさである材料から構成されている。両熱膨張係数の差は、たとえば2×10-6 1/K未満とすることができ、しかも、本発明に関連する約-30℃乃至約200℃の間の温度領域全体にわたってかかる値とすることができる。光学システムの動作中にレーザ光による加熱時にミラー要素と偏向装置の基体との間に応力が生じるのを回避するため、全ての支持構成要素、具体的に、典型的には基体と、通常はミラー要素とが、十分に類似する熱膨張係数、理想的には等しい熱膨張係数を有する材料から作製されている。
【0037】
他の一実施形態においては、素材結合は接着接合及び/又ははんだ接合により形成され、又は直接結合は溶接接合及び/又はボンディング接合により形成されている。ミラー要素と基体とのモノリシック接合、具体的にいうとミラー要素の結合部分と基体とのモノリシック接合を行うためには、複数の手段が存在する。たとえば、素材結合は接合材を用いて、たとえば接着剤を用いて行うことができる。これに代えて、又はこれと共に、(ガラス)はんだの形態の接合材を用いてはんだ接合を行うこともできる。代替的に、各ミラー要素と基体との間の直接結合を、たとえばガラス溶接法によって行うこともできる。直接結合は、典型的にはシリコンを含む、結合される両材料の結合される各表面を、両者間に永久接合部が形成される程度に加熱する、いわゆる(直接)ボンディング法によって行うこともできる。金属材料とガラス材料との間にも、永久結合部、たとえば素材結合部を形成することもできるが、たとえば溶接接合等の直接結合も可能である。
【0038】
ここで記載されている直接結合技術の場合、これらが高い表面品質を有すると好適である。高い表面品質は、たとえば各部品の材料を研磨又はポリッシュすることによって達成することができる。高い表面品質はたとえば、各部品を所要の精度で相互に移動できるようにするために好適である。しかし、表面品質が過度に高いと部品間に付着が生じることがあり、これによって、部品相互の移動が困難になる。よって、表面品質の選択の際には妥協線を見出すことが必要となる。
【0039】
明細書及び図面から、本発明の他の利点が明らかである。また、上記構成及びさらに詳細に記載する構成は、それ自体で単独で、又は複数で任意の組み合わせで使用することも可能である。図示及び記載された実施形態は限定列挙と解すべきものではなく、むしろ、本発明を説明するための例示的な性質を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】レーザディスクと、複数のミラー要素を有する偏向装置とを備えた、一実施例のディスクレーザ増幅器の概略図である。
図2】3つの円環形乃至3つの六角形に配置されたミラー要素の鏡面の概略的な平面図である。
図3a】偏向ミラーの形態のミラー要素の概略図である。
図3b】エンドミラーの形態のミラー要素の概略図である。
図3c】エンドミラーの形態のミラー要素の概略図である。
図4】円錐面、球面及び自由形状面の形態の周面を有する、偏向装置の基体の凹部の概略図である。
図5】基体の貫通孔である凹部によるミラー要素のアライメント乃至固定の概略図である。
図6】基体の平坦な底面に固定され、乃至、基体の円柱形の凹部に受容されている円柱形の結合部分を有するミラー要素の概略図である。
【0041】
以下の図面の説明において、同一の、又は、同一機能の構成部分には、同一の符号を使用している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、(線形)ディスクレーザ増幅器1の形態の光学システム、具体的にいうと光学増幅システムの一例を示しており、このディスクレーザ増幅器1は、ディスク形のレーザ活性媒質(以下「レーザディスク2」という)と偏向装置3とを備えている。レーザディスク2はヒートシンク4に固定されており、当該レーザディスク2をレーザビーム5が複数回通過して増幅されるように、偏向装置3からレーザディスク2に入射した増幅すべきレーザビーム5を、当該偏向装置3へ反射し戻すため、レーザディスク2のヒートシンク4側の面は鏡面加工されている。
【0043】
レーザディスク2を上述のように複数回通過することができるようにするため、レーザビーム5を、偏向装置3に形成された偏向ミラーの形態のミラー要素6によって、具体的にいうとミラー要素6の鏡面F2乃至F35(図2a,図2b参照)において偏向する。ミラー要素6は、下記にて詳細に説明するように、モノリシック構造技術を用いて偏向装置3のプレート形の基体7に取り付けられている。もちろん、偏向装置3が有するミラー要素6の数をより多く又はより少なくすることもできる。プレート形の基体7の向きは、図示の実施例においては、XYZ座標系のXY平面に対して平行、かつ、レーザディスク2に対して平行である。しかし、もちろん、ミラー要素6の向きが適切である場合、プレート形の基体7を、場合によってはXY平面に対して(小さい)角度を成す向きとすることもできることがある。
【0044】
図2a,図2bにおいて分かるように、図示されていないレーザ光源によって生成されたレーザビーム5は、たとえば貫通口8を介してプレート形の基体7を通過し、ここでは、レーザビーム5がレーザディスク2の中央に入射して、当該レーザディスク2において、具体的にいうと当該レーザディスク2の鏡面加工された裏面において第2の鏡面F2へ反射されるように、レーザビーム5の向きが調整されている。レーザディスク2から出射したレーザビーム5は、第2の鏡面F2において、隣り合った第3の鏡面F3へ直接偏向乃至反射される。第3の鏡面F3のレーザディスク2を基準とする向きは、レーザビーム5が第3の鏡面F3によって再びレーザディスク2へ偏向乃至反射される向きにされている。レーザディスク2においてレーザビーム5は第4の鏡面F4へ偏向され、この第4の鏡面F4によって第5の鏡面F5へ直接反射され、以下同様である。
【0045】
よって、図2a,図2bに示されている偏向装置3においては、レーザビーム5の偏向は、レーザディスク2と、図示の実施例では隣り合って配置された鏡面F2,F3;F4,F5;F5,F6;・・・F34,F35の各対との間で交互に行われる。レーザディスク2と鏡面F2,F3;F4,F5;F5,F6;・・・F34,F35との間のレーザビーム5の光路、具体的にいうとXY平面におけるその投影も、図2a,図2bに示されている。図2a,図2bに示されている実施例においては、各偏向装置3はそれぞれエンドミラー9を有し、エンドミラー9の鏡面F36の向きは、レーザビーム5がディスク形のレーザ活性媒質2へ(すなわちそれ自体に)反射し戻されて、偏向装置3を通る光路を2回目は逆の伝搬方向で通過するように、当該エンドミラー9の鏡面F36に入射するレーザビーム5に対して垂直にされている。もちろん、レーザビーム5が偏向装置3を再度通過することなくレーザビーム5をディスクレーザ増幅器1から出射させるために、エンドミラー9に代えて偏向装置3に他の貫通口を設けることができ、又はレーザビームをディスクレーザ増幅器1から出射させる偏向ミラーを設けることができる。
【0046】
図2a,図2bに示されている偏向装置3の本質的な相違点は、図2aに示されている偏向装置3ではミラー要素6は円形パターンに、具体的にいうと、プレート形の基体7のZ方向に延在する中心軸10まわりに同心で3つの円環形R1,R2,R3に配置されているのに対し、図2bに示されている偏向装置3ではミラー要素6は、プレート形の基体7の中心軸10まわりに3つの同心で配置された正六角形S1,S2,S3に配置されていることである。図2bに示されている六角形パターンのミラー要素6の配置は、特にコンパクトである。
【0047】
図2aに示されている実施例においては、隣り合ったミラー要素6の鏡面F2,F3;F4,F5;F6,F7;・・・間の直接偏向は回転方向に、すなわち実質的にアジマス方向乃至周方向に行われる。環形領域R1,R2,R3間の切り替えのためにのみ、径方向に偏向が行われる。これに対して図2bに示されている偏向装置3においては、各2つの隣り合ったミラー要素6の鏡面F2,F3;F4,F5;F6,F7;・・・間の偏向はミラー要素6のうち半分より多くのミラー要素6において同一方向に、図示の実施例においては、Y方向に行われ、特に、全部で34個のミラー要素6のうちちょうど28個において、かかる偏向が行われる。
【0048】
もちろん、たとえば結像誤差の補正を最大限にするため、図2aを参照して示した回転方向の偏向と、図2bに示されている共通のY方向での偏向とを、同一の偏向装置3に組み合わせることもできる。また、図2bに示されているミラー要素6の複数の六角形S1,S2,S3での配置の場合、実質的に回転方向での偏向を行うこともでき、図2aに示されているミラー要素6の複数の円環形R1,R2,R3での配置の場合、実質的に1つの共通の方向においてなされる偏向を行うこともできる。
【0049】
ディスクレーザ増幅器1の最大可能な安定性を保証するため、モノリシック構造技術による偏向装置3の製造時に、これとプレート形の基体7とを結合する際にミラー要素6乃至鏡面F2,F3・・・の動き自由度の数を最小にする。これについては以下詳細に説明する。
【0050】
図3aは、ミラー要素6のうち1つを例示しており、これは、中心軸11に対して回転対称的に構成された球セグメントの形態の結合部分12を有する。結合部分12には、中心軸11に沿った方向に円柱形の区間13が接しており、この区間13は、第1の完全円柱形の区間13aと、第2のプリズムの区間13bとに分かれる。プリズムの区間13bもその周囲に沿って円柱形であり、平坦な鏡面Fは、円柱形の区間13の楕円形の面の形態の断面を成す。平坦な鏡面Fに代えて、集束作用又は集束ずれ作用を達成するため、場合によっては曲面の鏡面Fを使用すること、たとえば放物面状の曲面の鏡面Fを使用することもできることがある。
【0051】
ミラー要素6の中心軸11は、鏡面Fの中心点Mを通過する。レーザビーム5は鏡面Fに典型的にはセンタリングされて入射する。すなわち、レーザビーム5のビーム断面の中心は理想的には、鏡面Fの中心点Mと一致する。図示の実施例においては、鏡面Fの中心点Mは同時に、球屋根14の曲率半径R(たとえば約15mm)の中心点M、すなわち、ミラー要素6の結合部分12の球面の表面の中心点Mでもあり、このことはアライメントに関して好適である(下記参照)。
【0052】
鏡面Fの向きは、図示の実施例においては、結合部分12の中心軸11に対して45°の角度αである。図1において分かるように、各鏡面F2,F3・・・へのレーザビーム5の入射角乃至反射角は、レーザディスク2を基準とする各ミラー要素6の位置に依存し、特に、偏向装置3の基体7の中心軸11からの径方向距離に依存する。レーザビーム5が各鏡面F2,F3・・・における反射によって、レーザディスク2から又はレーザディスク2へ偏向されるのを保証するために好適なのは、結合部分12の中心軸11に対する鏡面F2,F3・・・の角度αを変えること、すなわち、結合部分12の中心軸11に対する鏡面F2,F3の角度αのみが相異なる複数の種類のミラー要素6を使用することである。
【0053】
レーザビーム5は、通常は隣り合ったミラー要素6へ直接反射されることに基づき、45°からの角度αの偏差は過度に大きく選択してはならない。典型的には、角度αは約30°乃至約60°の間、有利には35°乃至55°の間、特に40°乃至50°の間である。異なる角度αの数、ひいてはミラー要素6の異なる種類の数は、基体7のミラー要素6の配置と、XY平面におけるミラー要素6間の偏向の方向とに依存する。角度αの選択はまた、各結合部分12の中心軸11の向きがXY平面に対して垂直であるか、又は場合によってはXY平面に対して傾角であるかに依存する。これについては、以下詳細に説明する。
【0054】
図3b,図3cは、鏡面Fを有する図2a,図2bのエンドミラー9の構成の2例を示しており、鏡面Fの向きは、図3bに示されている実施例においては、球セグメント12の中心軸11に対して垂直すなわち90°の角度αであり、それに対して図3cに示されている実施例においては、鏡面Fの向きは結合部分12の中心軸11に対して約83°の角度αである。図3b及び図3cのいずれにおいても、球セグメント12の曲率半径Rは、鏡面Fの中心点Mが曲率半径Rの中心点Mと一致するように選択されている。これは、エンドミラー9のアライメントのために好適であるが(下記参照)、必ずしも必須というものではない。
【0055】
鏡面Fは、図3a乃至図3cに示されている全ての各実施例においてポリッシュされており、高反射性のコーティングを有する。このコーティングはレーザビーム5に対して、理想的には約99.98%超の反射率を有する。図示の実施例においては、レーザビーム5は1030nmの波長を有するが、もちろん、反射性コーティングを、他の波長のレーザビーム5にも対応した構成とし、又は、最適化することも可能である。反射性コーティングは、特に、レーザビーム5が45°と異なる種々の入射角で入射することにより生じる、当該レーザビーム5の偏光状態の変化を補償するように構成することもできる。これに代えてかかる変化を、レーザビーム5の光路上に配置された位相シフト要素、たとえば1/4波長板及び/又は1/8波長板等によって生じる位相シフトによって、補償することもできる。
【0056】
球セグメント12の球屋根14乃至球面の表面は、図4a乃至図4cに例示されているようなプレート形の基体7の凹部16の周面15への接触を改善するため、規定通りの粗さを有し、この粗さは典型的には僅かである。周面15はこれら3つの実施例においては、周面15の中心軸17に対して放射対称的に構成されており、この中心軸17は、同様に回転対称的な凹部16の中心軸17と一致する。図4a乃至図4cに示されている3つの実施例の相違点は、周面15の湾曲の態様であり、図4aに示されている実施例においては周面15は円錐面であり、図4bに示されている実施例においては周面15は球面であり、図4cに示されている実施例においては、周面15はアキシコンの態様の自由形状面である。周面15のこの種々の実施形態により、球屋根14との所望の線接触乃至円接触を達成することができる。たとえば、図4aに示されている円錐状の周面15の開口角の選択、図4bに示されている球面の周面15の半径の選択、乃至、図4cに示されている自由形状面の幾何形状の選択によって、Z方向におけるどの高さで周面15と球屋根14との接触がなされるかを調整することができる。図4a乃至図4cにおいて分かるように、凹部16はそれぞれ、周面15に接する円柱形の区間18を有し、この区間18は、プレート形の基体7の、当該基体7の周面15とは反対側の下面まで延在する。すなわち、凹部16は基体7の貫通孔である。アライメントは基体7の上面からでも行うことができるので、凹部16は必ずしも貫通孔であることを要しない。
【0057】
貫通孔として構成された凹部16を用いることにより、凹部16に受容されるミラー要素6の向き調整乃至アライメントを、プレート形の基体7の下面から行うことができる。図5a,図5bは、吸引アーム20を有するアライメント装置19を例示しており、吸引アーム20は、ミラー要素6、具体的にいうと球セグメントの形態の結合部分12を、凹部16の周面15に対して所望の向きに調整するため、ジョイントを介して旋回可能な区間を有する。吸引アーム20はこうするために、図5bにおいて力矢印によって示されているように、ミラー要素6に吸引力を加える。
【0058】
図5aにおいて分かるように、ミラー要素6のアライメントの際には、結合部分12の中心軸11と周面15の中心軸17乃至凹部16の中心軸17との間のXZ平面における傾角βを調整することができ、この傾角βは、図示の実施例においては約10°を超えないが、場合によっては、これより大きくすることができることもある。傾角βはもちろん、図5bに示されているように0°付近とすることもできる。アライメントの際に傾角βを変化させる場合、鏡面Fの中心点Mと球セグメント12の球屋根14の曲率半径Rの中心点Mとを一致させることによって、アライメントの際にこの中心点Mが回転軸上にあり、これによって、中心点Mの横方向オフセットが生じないようにすることが好適である。アライメントを行うために、XY平面における傾角βの他にさらに、YZ平面における(図示されていない)傾角βと、結合部分12の中心軸11まわりの(図示されていない)回転角とを調整することもできる。アライメントの際にミラー要素6を適切な向きにするためには、アライメントの際にレーザビーム5がレーザディスク2の中央に入射するようにミラー要素6を傾け、又は、回転して、レーザビーム5を光源から鏡面のうち2つF2,F3を介してレーザディスク2へ反射し戻すことができる。他のミラー要素6についても同様にアライメントを行うことができる。
【0059】
たとえば吸引アーム20等を用いてミラー要素6がプレート形の基体7に対して所望の相対的向き乃至相対姿勢に配置されると直ちに、このミラー要素6を基体7に永久結合することができる。こうするために図示の実施例においては、図5aに示されているように、周面15とミラー要素6との間の中間スペースに、接合材としての接着剤21を挿入する。
【0060】
基体7の材料及びミラー要素6の材料は双方とも、たとえばガラス又はガラスセラミックとすることができ、この材料は理想的には、レーザビーム5の波長に対して透過性乃至実質的に透過性である。基体7の材料とミラー要素6の材料とは、可能な限り類似する熱膨張係数を有するべきであり、たとえば、両材料の(長さ変化の場合の)熱膨張係数の差は2×10-6 1/K未満とすることができる。よって、両材料の少なくとも80重量%が同一の材料から構成されており、特に、完全同一の材料から構成されていると好適である。このことはたとえば、基体7がチタンドープされた石英ガラス(ULE(登録商標))から構成されており、ミラー要素6が通常の石英ガラスから構成されている場合に該当する。これに代えて、基体7をガラスセラミックから、たとえばZerodur(登録商標)から構成し、ミラー要素6を石英ガラスから構成することもでき、又はその逆も可能である。これに代えて、基体7の材料と、場合によってはミラー要素6の材料も、金属材料とすることができ、たとえばインバー合金とすることができる。インバー合金から成る基体7は、ガラス又はガラスセラミックから成るミラー要素6に溶接することができ、また、たとえばはんだ付け又は接着等によって素材結合を行うこともできる。
【0061】
特に、ガラスを含む材料乃至ガラスから成る材料を使用する場合には、ミラー要素6、具体的にいうと球セグメント12の球屋根14と、周面15との間の素材結合は、他の接合材を用いて、たとえば(ガラス)はんだ材を用いて行うことができる。
【0062】
素材結合に代えて、ミラー要素6を直接結合によって基体7に結合することもでき、たとえば(ガラス)溶接又はボンディングによって、すなわち典型的には、凹部16の周面15と球屋根14との間に固定的な永久結合部が形成されるまで基体7とミラー要素6とを(場合によっては局所的に)加熱することにより、結合することもできる。
【0063】
また図5a,図5bにおいては、図5aに示されているミラー要素6では、鏡面Fは結合部分12の中心軸11に対して45°未満の第1の角度αの向きにされており、図5bに示されているミラー要素6では、鏡面Fは結合部分12の中心軸11に対して45°超の第2の角度αの向きにされていることも分かる。このようにして、XY平面乃至レーザディスク2に対する鏡面Fの相対的な向きを、傾角β,βの選択の他にさらに調整することができる。このことは、特に、基体7の中心軸11から比較的遠距離に配置されているミラー要素6であって、レーザビーム5の入射角及び反射角が通常は45°から最も大きく偏差するミラー要素6の場合に好適である。傾角β,βを調整することにより、ミラー要素6の向きの微調整アライメントを行うことができる。
【0064】
典型的には、結合部分12の中心軸の向きがz方向に対して平行である図5bに示されている実施例においては、結合部分12の中心軸11に対する第2の角度αは45°とは異なる。かかる場合、典型的には、ミラー要素6が同一の環形領域R1,R2,R3に配置されているので中心軸11までの径方向距離が等しい(0ではない)全てのミラー要素6において、第2の角度αは45°より大きいか、又は45°より小さい。複数の環形領域R1,R2,R3間での偏向の場合、たとえば第1の環形領域R1から第2の環形領域R2への偏向の場合にのみ、典型的には他方の方向への偏差(45°未満又は45°超)が生じる。
【0065】
図6a,図6bは、平坦な底面22を有する円柱形の結合部分12をそれぞれ有するミラー要素6の、基体7への取付の例を示す。図6aに示されている実施例においては、ミラー要素6は平坦な底面22で、基体7のレーザディスク2側の面に取り付けられ、溶接接合によってこれに直接結合されているのに対し、図6bに示されている実施例においては、円柱形の結合部分12は基体7の凹部16に入れられており、この凹部16は、段部を有する円柱形の周面15を有し、この段部に結合部分12の平坦な底面22の外縁部が載置される。図6a,図6bに示されている実施例においては、円柱形の結合部分12の中心軸11の向きは常に、プレート形の基体7に対して垂直であり、図6bに示されている実施例においては凹部16の中心軸17と一致する。よって、図6a,図6bに示されている実施例においては傾角βの調整を行うことはできず、各ミラー要素6が基体7に永久結合される前に円柱形の結合部分12の中心軸11まわりの回転角を調整することしかできない。かかる場合、鏡面Fと結合部分12の中心軸11との間の適切な角度α,αは、ミラー要素6の作製時に既に定まる。
【0066】
図6bに示されている実施例においては、ミラー要素6を凹部16内で回転させることにより、中心軸11まわりの回転角を調整することができる。図6aに示されている実施例においてはこうするために、基体7の上面に、各ミラー要素6に対応する円形の貫通口を有する(図示されていない)ステンシルを載置することができる。かかる場合、ミラー要素6をこの貫通口内で各中心軸11まわりに、所望の回転角に達するまで回転させることができる。また、ミラー要素6を自動的に機械によって所望の角度で基体7の上面に取り付けることも可能である。回転角の調整後、ミラー要素6をプレート形の基体7に素材結合又は直接結合することができる。場合によっては、たとえば接着剤等の接合材を回転角の調整前に既に、平坦な底面22とプレート形の基体7の上面との間に挿入することができることもある。かかる場合には、接着剤が硬化するまでに各ミラー要素6の回転角の調整を完了しなければならない。もちろん、図6bに示されている実施例においては、円柱形の結合部分12は必ずしも平坦な底面22を有する必要はない。というのも、重要なことは、結合部分12の外縁部の幾何形状のみだからである。もちろん、階段状の段部に代えて、場合によっては凹部16に円錐状の段部を形成することも可能であり、かかる段部は、下面乃至縁部がこれに対応する形状であるミラー要素6に対する載置部として供される。
【0067】
上記にて記載されている実施例においては、複数のミラー要素6は一体に構成されている。しかし、もちろん、複数のミラー要素6を複数部品で構成することも可能であり、その際には、ミラー要素6の複数の部品をモノリシックに接合する。すなわち、ミラー要素6の部品も互いに素材結合又は直接結合により結合する。たとえばかかる場合、ミラー要素6の結合部分12と円柱形の区間13とは2つの部品であり、これらを互いに素材結合又は直接結合することができる。
【0068】
上記にて記載されている取付技術乃至固定技術を用いることにより、適切な基体7を使用して、少数の自由度でレーザディスク2に対する向きを調整することができる準モノリシックのミラーアレイを製造することができ、これによってディスクレーザ増幅器1の全体安定性が向上する。特に、その際には、約10μradのオーダの精度でミラー要素6の高精度の向き調整を達成することができる。上記にて記載されている偏向技術により、必要な光学部品の数とレーザビーム5の光路の複雑性とを同時に最小限に低減することができる。使用される光学部品及び機械的部品を可能な限り少なくすることにより、ディスクレーザ増幅器1を低コストで、かつ、特にロバストに実現することができる。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図6a
図6b