(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】マイコプラズマ・ヒオリニス感染を予防治療する組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20220203BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220203BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220203BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220203BHJP
C07K 14/30 20060101ALN20220203BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61K39/00 J
A61P31/00
A61K39/39
A61P37/04
C07K14/30 ZNA
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2019507081
(86)(22)【出願日】2016-08-09
(86)【国際出願番号】 CN2016094104
(87)【国際公開番号】W WO2018027526
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2019-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】515212437
【氏名又は名称】アグリカルチュラル テクノロジー リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】リン、ジウン-ホーン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ゼン-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジー-ペルン
(72)【発明者】
【氏名】スー、チュン-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ウェン-ゼン
(72)【発明者】
【氏名】シェ、ミン-ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ペン、ズー-ティン
(72)【発明者】
【氏名】シュアン、シー-リン
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514086(JP,A)
【文献】国際公開第2015/074213(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0104185(US,A1)
【文献】46kDa surface antigen [Mycoplasma hyorhinis HUB-1], GenBank:ADM21634, 30-JAN-2014, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/ADM21634.1/
【文献】L-arabinose-binding periplasmic protein precursor AraF [Mycoplasma hyorhinis SK76], GenBank:AFX74115, 07-JAN-2015, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/afx74115
【文献】Chaperone protein DnaK [Mycoplasma hyorhinis SK76],GenBank:AFX74617, 07-JAN-2015, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/afx74617
【文献】Hsp70-like protein [Mycoplasma hyorhinis HUB-1],GenBank:ADM22064, 30-JAN-2014, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/adm22064
【文献】putative lipoprotein [Mycoplasma hyorhinis SK76],GenBank:AFX74239, 07-JAN-2015, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/afx74239
【文献】Lipoprotein [Mycoplasma hyorhinis HUB-1],GenBank:ADM21744, 30-JAN-2014, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/adm21744
【文献】J Bacteriol., 2011, Vol.193 No.17, p.4543-44
【文献】J Jinling Ins Tech., 2011, Vol.27 No.4, p.79-84
【文献】Prog Modern Biomed., 2008, Vol.8 No.11, p.2143-2165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコプラズマ・ヒオリニス(Mycoplasma hyorhinis)感染により引き起こされる病徴を回避するための組成物であって、
XylFを含む活性成分と、
アジュバントとを含み、
前記XylFが、配列番号1で示される配列を含み、
前記病徴が、腹膜炎又は胸膜炎である、組成物。
【請求項2】
前記活性成分が、DnaK又はP72をさらに含み、前記DnaKが、配列番号2で示される配列を含み、前記P72が、配列番号3で示される配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記活性成分が、XylF、DnaK、及びP72の組み合わせであり、前記病徴が、腹膜炎、胸膜炎、心膜炎、及び関節腫脹から選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記活性成分の濃度が、前記組成物の総体積を基に、50~300μg/mLである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アジュバントが、フロイント完全又は不完全アジュバント、アルミゲル、界面活性剤、アニオン性ポリマー、ペプチド、油エマルジョン又はそれらの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記活性成分がDnaKである場合、前記病徴は腹膜炎である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記活性成分がP72である場合、前記病徴は胸膜炎である、請求項2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ヒオリニス感染を予防治療する組成物に関し、特にマイコプラズマ・ヒオリニス感染を予防治療するサブユニットワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマ・ヒオプニューモニアエ(Mycoplasm hyopneumoniae)とマイコプラズマ・ヒオリニス(Mycoplasma hyorhinis)は、豚マイコプラズマ性肺炎(swine enzootic pneumonia、SEP)を引き起こす主要な病原である。マイコプラズマ・ヒオリニスは、多発性漿膜炎(polyserositis)又は関節炎(arthritis)の発生にも関する。豚がマイコプラズマ・ヒオプニューモニアエ又はマイコプラズマ・ヒオリニスに感染すると、飼料要求率が低下し、成長が遅くなり、かつ他のウイルス性又は細菌性病原の二次感染を引き起こし、更に養豚業者に経済的損失をもたらす。全世界動物用ワクチンメーカーは、養豚産業で使用するためにマイコプラズマ・ヒオプニューモニアエ不活化死菌ワクチンを開発したが、未だマイコプラズマ・ヒオリニスワクチンは市販されていない。マイコプラズマ・ヒオプニューモニアエ不活化死菌ワクチンの投与は、マイコプラズマ・ヒオプニューモニアエの感染を防ぐことしかできず、マイコプラズマ・ヒオリニスの感染を回避することができない。
【0003】
ワクチン保護範囲が不足する問題を解決するために、マイコプラズマ・ヒオリニスワクチンを開発する必要がある。従来のワクチンの開発は、主に不活化死菌ワクチンを主とするが、マイコプラズマは、培養が困難であり、使用する培地が高価であり、培養した菌体の濃度が高くないため、マイコプラズマ・ヒオリニス不活化死菌ワクチンの製造コストが高くなる可能性がある。従って、生産が容易で安全性が高いサブユニットワクチンは、ワクチン開発のもう1つの選択肢である。これまでに、この分野では未だマイコプラズマ・ヒオリニスサブユニットワクチンに適用する抗原を完全に提示する研究報告がない。そこで、本発明の主たる目的は、養豚産業の防疫作業全体をより完備させるために、低コストで効果的なマイコプラズマ・ヒオリニスサブユニットワクチンを開発することにある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の1つの目的は、養豚産業の疾病予防治療を完備させるために、マイコプラズマ・ヒオリニス感染を予防治療するサブユニットワクチンを提供することである。
本発明のもう1つの目的は、サブユニットワクチンを生産するコストを低下させるために、抗原発現ベクター、及び原核細胞発現系で上記発現ベクター中の抗原遺伝子を発現させることによりサブユニットワクチンを生産する方法を提供することである。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、マイコプラズマ・ヒオリニス感染により引き起こされる病徴を回避するための組成物であって、XylF、DnaK、P72、又はそれらの組み合わせを含む活性成分と、アジュバントとを含み、上記XylFが、配列番号1で示される配列を含み、上記DnaKが、配列番号2で示される配列を含み、上記P72が、配列番号3で示される配列を含み、上記病徴が、腹膜炎、胸膜炎、心膜炎、及び関節腫脹から選択される少なくとも一種である、組成物を提供する。
【0006】
好ましくは、上記活性成分が、XylF、DnaK、及びP72からなる群から選択される少なくとも2種である。より好ましくは、上記活性成分が、XylF、DnaK、及びP72の組み合わせである。
【0007】
好ましくは、上記活性成分の濃度が、上記組成物の総体積を基に、50~300μg/mLである。
好ましくは、上記アジュバントが、フロイント完全又は不完全アジュバント、アルミゲル、界面活性剤、アニオン性ポリマー、ペプチド、油エマルジョン又はそれらの組み合わせを含む。
【0008】
好ましくは、上記活性成分がXylFである場合、上記病徴は腹膜炎、胸膜炎、又はそれらの組み合わせである。
好ましくは、上記活性成分がDnaKである場合、上記病徴は腹膜炎である。
【0009】
好ましくは、上記活性成分がP72である場合、上記病徴は胸膜炎である。
好ましくは、上記組成物の制限条件として、上記病徴が腹膜炎、胸膜炎、心膜炎、及び関節腫脹である場合、上記活性成分はXylF、DnaK、及びP72の組み合わせである。
【0010】
本発明は、原核細胞発現系で上記組成物中の上記活性成分を生産するための発現ベクターであって、上記発現ベクターは、プロモーター及びリボソーム結合部位を含む発現エレメントと、上記XylF、上記DnaK、上記P72、又はそれらの組み合わせにエンコードされるヌクレオチド配列と、融合パートナー配列とを含み、上記ヌクレオチド配列は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又はそれらの組み合わせで示される配列を含む、発現ベクターを更に提供する。
【0011】
好ましくは、融合パートナーは、大腸菌DsbC、大腸菌MsyB、大腸菌FklB、又はそれらの組み合わせである。より好ましくは、上記ヌクレオチド配列がXylFにエンコードされる場合、上記融合パートナーは大腸菌DsbCであり、上記ヌクレオチド配列がDnaKにエンコードされる場合、上記融合パートナーは大腸菌MsyBであり、又は上記ヌクレオチド配列がP72にエンコードされる場合、上記融合パートナーは大腸菌FklBである。
【0012】
好ましくは、上記発現ベクターが、ヒスチジンタグ(His-tag)の配列、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Glutathione S-transferase、GST)タグの配列、又はそれらの組み合わせを更に含む。
【0013】
好ましくは、上記発現ベクターが、配列番号7、配列番号8、又は配列番号9で示される配列を含む。
好ましくは、上記原核細胞発現系が大腸菌発現系である。
【0014】
本発明は、可溶性タンパク質を生産する方法であって、上記可溶性タンパク質は、XylF、DnaK、P72、又はそれらの組み合わせであり、上記方法は、(1)原核細胞発現系を提供する工程と、(2)上記原核細胞発現系で上記発現ベクターの抗原遺伝子を発現させる工程とを含む方法を更に提供する。
【0015】
好ましくは、上記方法は、上記工程(2)で得られた生成物をニッケルイオンアフィニティーカラム又はグルタチオンSアフィニティーカラムに通して上記可溶性タンパク質を取得する工程を更に含む。
【0016】
上述したとおり、本発明は、マイコプラズマ・ヒオリニス感染により引き起こされる病徴を回避する目的を達成するために、マイコプラズマ・ヒオリニス感染を予防治療する組成物を提供する。本発明は、上記組成物の生産コストを低下させるために、原核細胞発現系で上記組成物の活性成分を生産するのに必要な抗原発現ベクター及び方法を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】タンパク質電気泳動によって実施例3における本発明の組換え抗原の可溶性を観察した結果である(Tは、全細胞溶解物(total cell lysates)を表し、Sは、全細胞溶解物において可溶性を有する部分を表す)。
【
図2】タンパク質電気泳動によって実施例3における本発明の組換え抗原の精製を観察した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
産業においてマイコプラズマ・ヒオリニス(M. hyorhinis)感染を予防治療する組成物が欠乏することに鑑み、本発明の研究では、XylF、DnaK及びP72の単体又はそれらの組み合わせがマイコプラズマ・ヒオリニス感染により引き起こされる病徴を回避する組成物の活性成分として用いることができることが実証されている。本文に記載の「マイコプラズマ・ヒオリニス感染により引き起こされる病徴」は、腹膜炎、胸膜炎、心膜炎、及び関節腫脹から選択される少なくとも一種である。実施可能な一つの実施例において、上記「マイコプラズマ・ヒオリニス感染により引き起こされる病徴を回避する」とは、Magnussonらが提案した方法(Vet.Immunol.Immunopathol.,61:83~96,1998)で評価する。
【0019】
一つの実施例において、本発明の実験結果は、XylFを本発明の組成物の活性成分とすることが、腹膜炎、胸膜炎又はそれらの組み合わせの病徴を軽減するのに特に有用であることを示している。別の実施例において、本発明の実験結果は、DnaKを本発明の組成物の活性成分とすることが、腹膜炎の病徴を軽減するのに特に有用であることを示している。更に別の実施例において、本発明の実験結果は、P72を本発明の組成物の活性成分とすることが、胸膜炎の病徴を軽減するのに特に有用であることを示している。更に別の実施例において、本発明の実験結果は、軽減したい病徴が腹膜炎、胸膜炎、心膜炎、及び関節腫脹である場合、XylF、DnaK、及びP72の組み合わせを活性成分とすることが特に有用であることを示している。
【0020】
本発明の一つの態様は、マイコプラズマ・ヒオリニス感染により引き起こされる病徴を回避するための組成物を提供する。上記組成物は、活性成分とアジュバントとを含む。上記活性成分とは、主に上記組成物の応用目的を提供する成分である。上記活性成分は、XylF、DnaK、P72、又はそれらの組み合わせを含み、かつ上記XylFは、配列番号1で示される配列を含み、上記DnaKは、配列番号2で示される配列を含み、上記P72は、配列番号3で示される配列を含む。
【0021】
実施可能な一つの実施例において、上記活性成分は、XylF、DnaK、及びP72からなる群から選択される1つである。実施可能な一つの実施例において、上記活性成分は、XylF、DnaK、及びP72からなる群から選択される2つである。好ましい実施例において、上記活性成分は、XylF、DnaK、及びP72の組み合わせである。当業者は、上記XylF、DnaK、又はP72のエピトープの構造に影響を与えない前提で、上記活性成分が、同時に上記XylF、DnaK、及びP72からなる群から選択される少なくとも2種のタンパク質のアミノ酸配列を含む組換えタンパク質であってもよいことを理解すべきである。別の実施可能な一つの実施例において、上記組成物は、上記XylF、DnaK、及びP72からなる群から選択される少なくとも2種のタンパク質を混合した活性成分混合物を含んでもよい。
【0022】
当業者は、1つのワクチンに2種以上の活性成分を使用する場合、特に上記2種以上の活性成分が同種病原の感染を予防治療するためのものである場合、上記2種以上の活性成分が相互干渉の不具合を引き起こす可能性があるため、その効果は予期できないことを理解すべきである。逆に、上記2種以上の活性成分の組み合わせが相互干渉の不具合を引き起こさなくても、上記2種以上の活性成分の組み合わせがより好ましい効果(例えば、より良い免疫誘導効果)を提供できない場合、経済的な考慮から、上記2種以上の活性成分を1つのワクチンに混合する動機がない。これにより、1つのワクチンに2種以上の活性成分を使用することは、上記2種以上の活性成分の組み合わせがより好ましい効果を提供できる限り、産業上の利益がある。どのような種類の潜在的な活性成分を組み合わせるべきであるか、又は組み合わせた後により好ましい効果を生じることができるか否かは、いずれも試験の前に予期できるものではない。
【0023】
実施可能な一つの実施例において、上記組成物中の上記活性成分の濃度は、上記組成物の総体積を基に、50~300μg/mLである。好ましい一つの実施例において、上記組成物中の上記活性成分は、XylF、DnaK、及びP72の組み合わせであり、かつ上記XylF、DnaK、及びP72の濃度は、それぞれ上記組成物の総体積を基に、100μg/mLである。当業者は、上記濃度が使用目的に応じて変更できるものであることを理解すべきである。例えば、輸送及び貯蔵を容易にするために、当業者は、高濃度の活性成分を有する上記組成物を調製し、実際に使用する前に希釈することができる。
【0024】
本文に記載のアジュバントは、医薬分野/ワクチン分野で熟知されている定義である。例えば、上記アジュバントは、上記活性成分の免疫誘導効果を向上させるため及び/又は上記活性成分を安定化させるためのものである。上記アジュバントは、例えば、フロイント完全又は不完全アジュバント、アルミゲル、界面活性剤、アニオン性ポリマー、ペプチド、油エマルジョン又はそれらの組み合わせであるが、これに限らない。実施可能な一つの実施例において、上記アジュバントは、アルミゲルである。
【0025】
本発明の別の態様は、抗原発現ベクターを提供する。組換え抗原を大量に生成すべきであるというニーズを満たすために、上記抗原発現ベクターを構築する目的は、原核細胞発現系で本発明の組成物の上記活性成分を発現させるためである。この分野では、原核細胞発現系によって所望のタンパク質を発現させる経験が多いが、生物分野の多変性により、異なるタンパク質が異なる発現条件を必要とする可能性があるので、依然として大量の試験によって抗原発現テストを行う必要がある。これにより、本発明の研究は、原核細胞発現系で組換え抗原を発現可能な発現ベクターを構築することに成功し、好ましくは、大腸菌発現系で組換え抗原を発現可能な発現ベクターである。本発明の大腸菌発現系で組換え抗原を発現可能な発現ベクターに基づき、当業者は、本発明の発現ベクターを修飾して他の原核細胞発現系で組換え抗原を発現させることができる。
【0026】
一方、原核細胞発現系で上記活性成分を発現させる上での1つの支障は、上記原核細胞発現系から発現した上記活性成分を精製することである。原核細胞発現系において発現した組換えタンパク質は、通常可溶性を有しないため、精製工程の難しさ及びコストが増加する。これに鑑み、本発明の抗原発現ベクターの1つの特徴は、可溶性を有する組換え抗原を発現することにあり、これにより、精製工程を簡略化し、且つそのコストを下げることができる。
【0027】
本発明の発現ベクターは、発現エレメントと、ヌクレオチド配列と、融合パートナー配列とを含み、上記ヌクレオチド配列は、上記XylF、上記DnaK、上記P72、又はそれらの組み合わせのタンパク質にエンコードされることができる。実施可能な一つの実施例において、上記ヌクレオチド配列は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又はそれらの組み合わせで示される配列を含む。選択された原核細胞発現系のコドン選好に基づき、上記ヌクレオチド配列が依然として上記XylF、上記DnaK、上記P72、又はそれらの組み合わせのタンパク質にエンコードされる限り、当業者は上記ヌクレオチド配列を変更することもできる。
【0028】
好ましい一つの実施例において、原核細胞発現系で取得した組換えタンパク質に可溶性を持たせるために、本発明の研究は、大腸菌DsbC、大腸菌MsyB、大腸菌FklB、又はそれらの組み合わせが、本発明の上記XylF、上記DnaK、上記P72、又はそれらの組み合わせのタンパク質を発現させるための好ましい融合パートナーであることを実証した。好ましい一つの実施例において、精製工程を容易にするために、上記発現ベクターは、ヒスチジンタグ(His-tag)の配列、グルタチオンS-トランスフェラーゼタグ(GST-tag)の配列、又はそれらの組み合わせを更に含んでもよく、これによりニッケルイオンアフィニティーカラム又はグルタチオンSアフィニティーカラムを介して得られた組換えタンパク質を精製することができる。
【0029】
実施可能な一つの実施例において、上記発現エレメントは、転写及び/又は翻訳を行うために、少なくともプロモーター及びリボソーム結合部位を含む。別の実施可能な一つの実施例において、遺伝子工学上の操作を容易にするために、上記発現ベクターは、制限酵素切断部位からなる多重クローニング部位、スクリーニングマーカー、又はそれらの組み合わせを更に含んでもよい。上記スクリーニングマーカーは、抗生物質耐性遺伝子又は栄養要求性スクリーニング遺伝子であってもよい。
【0030】
本発明の別の態様は、上記XylF、DnaK、P72、又はそれらの組み合わせである可溶性タンパク質を生産する方法を提供する。本発明の方法は、(1)原核細胞発現系を提供する工程と、(2)上記原核細胞発現系で本発明の発現ベクターの抗原遺伝子を発現させる工程とを含む。本文に記載の「可溶性」とは、上記タンパク質が水溶液に溶ける傾向がある特性である。本文に記載の「発現」とは、上記原核細胞発現系で、いずれかの手段によって上記発現ベクターで発現したい遺伝子の転写及び翻訳を誘導するものである。上記手段は、例えば、イソプロピル-β-D-チオガラクトシド(isopropyl-β-D-thiogalactoside、IPTG)を上記原核細胞発現系に添加するものであるが、これに限らない。
【0031】
実施例1:本発明の組成物の活性成分として適切なタンパク質を探す。
(1)マイコプラズマ・ヒオリニス不活化ワクチンの調製:
この分野で熟知されているFriis培地でマイコプラズマ・ヒオリニス(ATIT-7)を培養し、中国台湾発明専利第I238721号に開示された方法でマイコプラズマ・ヒオリニス不活化ワクチンを調製した。
【0032】
(2)マイコプラズマ・ヒオリニス抗血清の調製:
農業科学技術研究所の動物科学技術研究所の第2世代SPF豚舎から4週齢のSPF豚を3匹購入した。全ての豚を同じ飼育条件でSPF実験豚舎に飼育して使用に備える。実験豚を32、46及び60日齢飼育した時に、上記マイコプラズマ・ヒオリニス不活化ワクチン2mLを筋肉注射により注射した。その後、実験豚を74日齢まで飼育し続け、更に頚静脈から採血し、採取した血液を室温(約25℃)で1時間置く。次に、上記血液を4℃で置く。翌日に1,107×gの条件で30分間遠心分離し、上澄液(即ち、抗血清)を清潔な遠心管に入れ、-20℃で保存して使用に備える。
【0033】
(3)マイコプラズマ・ヒオリニスの全タンパク質の抽出:
タンパク質抽出キット(ReadyPrep(商標)protein extraction kit;Bio-Rad、米国)でマイコプラズマ・ヒオリニスの全タンパク質の抽出を行う。まず、Friis培地で培養したマイコプラズマ・ヒオリニスを遠心分離(10,000×g、20分)することにより菌体部分を収集した。次に、低塩緩衝液(100mM Trisベース、250mMショ糖、pH8.0)で菌体を三回洗浄した後、菌体を1mLのサンプル緩衝液(complete 2-D rehydration/sample buffer 1)に懸濁し、10μLのTBP還元試薬(ReadyPrep(商標)TBP reducing agent)、適量のBio-Lyte 3/10両性電解質(ampholyte;最終濃度0.2%)及び適量のプロテアーゼ阻害剤を加えた。そして、超音波破砕機で菌体を破砕した後、遠心分離により細胞破砕物を除去し、マイコプラズマ・ヒオリニスの全タンパク質を含有する上澄液を保留する。
【0034】
次に、タンパク質分析キット(RC DC(商標)Protein Assay Kit;Bio-Rad、米国)で菌体の全タンパク質の濃度を測定した。100μLの上記全タンパク質を含有する上澄液と500μLのRC試薬I(RC reagent I)とを均一に混合した後、室温(約25℃)で置いて1分間反応させた。次に、500μLのRC試薬II(RC reagent II)を加えて均一に混合した後、遠心分離(15,000×g、5分間)して沈殿物部分を収集した。そして、沈殿物と510μLの試薬A’を均一に混合した後、沈殿物が完全に溶解するまで室温(約25℃)で置いて5分間反応させた。その後、4mLの試薬Bを加え、更に室温(約25℃)で置いて15分間反応させた。そして、分光光度計で波長750nmでの溶液の吸光度を測定した。ウシ血清タンパク質(bovine serum albumin、BSA)を標準品としてタンパク質濃度の標準曲線を作成した。サンプルの吸光度と標準曲線とを比較することにより、上記上澄液中の全タンパク質の濃度を換算して取得し、後続のタンパク質電気泳動に供することができる。
【0035】
(4)タンパク質二次元電気泳動:
タンパク質二次元電気泳動は、等電点電気泳動(isoelectric focusing、IEF)とドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis、SDS-PAGE)の2つの操作工程に分かれる。操作工程は、後述する段落で説明する。
【0036】
等電点電気泳動
等電点電気泳動は、タンパク質の等電点が異なる特性を利用してタンパク質を分離する技術である。まず、マイコプラズマ・ヒオリニスの全タンパク質を含有する上澄液1mgと適量の水和緩衝液(hydration buffer)とを混合して総体積が400μL混合物となる。次に、この混合物をフォーカシングトレイ(focusing tray)(Bio-Rad、米国)のサンプルセルに入れた。再蒸留水で湿潤された濾紙2枚を正及び負の電極の上方に置いた。上記濾紙は、サンプル中の不純物及び塩類を吸着することができ、これにより不純物及び塩類が後続の実験に影響を及ぼすこと、及び電極を損壊することを回避する。そして、ReadyStrip(商標)IPG stripストリップ(pH5-8/17cm)を緩やかにフォーカシングトレイに入れた。サンプルが蒸発して後続の実験に影響を与えることを回避するように、2.5mLの鉱油を均一にIPGストリップに加えた。フォーカシングトレイの上カバーを覆い、PROTEAN IEF cellなどの電気フォーカシング電気泳動装置(Bio-Rad、米国)に置いた。PROTEAN IEF cell内のプログラムの設定が完了した後、5段階で一次元電気泳動を行った。第1段階は、水和反応(hydration)であり、その目的はサンプルをIPG stripストリップに吸入させることであり、その設定条件は50Vで12時間行うことである。第2段階の目的は塩類イオン及び不純物を除去することであり、その設定条件は250Vで15分間行うことである。第3段階は、電圧上昇の段階であり、その設定条件は4時間であり、リニアモードによって電圧をフォーカシング電圧10,000Vまで上昇させる。第4段階は、等電点フォーカシングの工程であり、その設定条件は50,000V*hrである。第5段階は、電圧維持の段階であり、その設定条件は500Vであり、これにより過剰な反応を回避する。一次元電気泳動が終了した後、IPGストリップを-80℃で保存して使用に備えるか又は平衡処理(equilibration)した後にSDS-PAGEを行うことができる。
【0037】
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は、タンパク質の分子量が異なる特性を利用してタンパク質を分離する技術である。まず、IPGストリップを脱イオン水で洗い流した後、濾紙で接着面の鉱油及び水を吸引除去し、そしてIPGストリップを使い捨て式水和トレイに置いた。次に、6mLの平衡緩衝液I(6M尿素、2% SDS、0.375M Tris、20%グリセロール、130mM DTT、pH8.8)を加え、室温で20分間振とうした。その後、IPGストリップを取り出し、濾紙で接着面の平衡緩衝液Iを吸引除去し、更にIPG stripストリップを使い捨て式水和トレイに置いた。そして、6mLの平衡緩衝液II(6M尿素、2% SDS、0.375M Tris、20%グリセロール、135mMヨードアセトアミド、pH8.8)を加え、室温で20分間振とうした。上記のIPGストリップの平衡処理を完成した後、SDS-PAGEを行うことができる。
【0038】
まず、12.5%の分離ゲル(separation gel)を調製した。更に、IPGストリップを分離ゲルの上縁に置き、適量の溶解したアガロース(ReadyPrep(商標)Overlay Agarose、Bio-Rad、米国)を加えた。タンパク質の分子量の判定を容易にするために、タンパク質分子量標準品が滴下された濾紙をIPGストリップの隣に置いた。アガロースが凝固した後、ストリップとタンパク質分子量標準品付きの濾紙を分離ゲルの上方に固定することができる。そして、電気泳動フィルムを電気泳動セル機器(Bio-Rad、米国)に入れ、電気泳動緩衝液(25mM Tris、192mMグリシン、0.1% SDS、pH8.3)を注入した。26mAの電流で15時間電気泳動を行い、分子量が異なるタンパク質を分離した。
【0039】
(5)ウェスタンブロット法
タンパク質の電気泳動後の上記フィルムを転写緩衝液[25mM Trisベース、192mM glycine、10%(v/v)methanol、pH8.3]に浸漬した。適切なサイズのPVDF膜を切り出し、メタノールに数秒間浸漬した後、脱イオン水で1回洗い流し、更に転写緩衝液に浸漬した。上記ゲルと上記PVDF膜を転写緩衝液に15分間浸漬した後、濾紙、フィルム、PVDF膜、濾紙をこの順にトランスブロットセルに入れ、1,300mAの電流で1.5時間転写した。
【0040】
転写が完了した後、室温で上記PVDF膜をブロッキング緩衝液[blocking buffer;20mM Trisベース、150mM NaCl、5%(w/v)スキムミルク、pH7.4]に1時間浸漬した。そして、適量の上記実験で調製されたマイコプラズマ・ヒオリニス抗血清(1,000倍希釈)を加え、室温で1時間振とうした。その後、ブロッキング緩衝液を除去し、適量のTBST緩衝液[20mM Trisベース、150mM NaCl、0.05%(v/v)Tween(登録商標)-20、pH7.4]で上記PVDF膜を3回(5分間/回)洗浄した後、アルカリ性ホスファターゼ結合ヤギ抗豚抗体[alkaline phosphatase-conjugated goat anti-pig IgG(H+L)、(2,000倍希釈)]を含有するブロッキング緩衝液を加えた。暗所で1時間振とうした後、TBST緩衝液で上記PVDF膜を三回洗浄し、NBT/BCIP溶液(Thermo Fisher Scientific、米国)を加えて呈色反応を行うことができる。
【0041】
(6)タンパク質のアイデンティティの同定:
上記ウェスタンブロット法の呈色反応の結果に呈色した点(合計17個の呈色点、図示せず)があり、これらの点は、マイコプラズマ・ヒオリニスにおける上記マイコプラズマ・ヒオリニス抗血清と反応したタンパク質である。上記呈色反応結果とタンパク質電気泳動が行われた上記フィルムの相対位置とを比較すると、マイクロピペットで当該相対位置でのフィルムを切り出して質量分析を行った。そして、得られたアミノ酸配列をタンパク質配列ライブラリーで検索して比較することにより、タンパク質のアイデンティティを同定した。上記17個の呈色点で表されるタンパク質のアミノ酸配列をタンパク質配列ライブラリーで比較した後、そのうちの3つのタンパク質はそれぞれXylF、DnaK及びP72であり、それぞれ配列番号1、配列番号2、及び配列番号3で示される配列を有することが確認された。本発明は、この3つのタンパク質を使用して後続の研究を行う。
【0042】
実施例2:本発明の発現ベクターを構築する。
(1)部位特異的突然変異及びクローニング:
米・国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information、NCBI)の資料によると、上記XylF、DnaK及びP72の遺伝子配列は、それぞれ4個、1個、及び8個のTGAコドンを有する。TGAコドンは、大腸菌発現系で終止コドン(stop codon)と見なされる。大腸菌発現系で全長タンパク質を生産することができないことを回避するために、更にポリメラーゼ連鎖反応で抗原遺伝子配列中のTGAをTGGに突然変異させる。
【0043】
マイコプラズマ・ヒオリニスゲノムの抽出
DNA精製キット(Tissue&Cell Genomic DNA Purification kit;GMbiolab、台湾)でマイコプラズマ・ヒオリニスゲノムを抽出した。まず、4.5mLの培養菌液を遠心管に取り、遠心分離(5,870×g、5分間)した後、上澄液を除去し、菌体部分を収集した。次に、20μLのプロテイナーゼK(proteinase K;10mg/mL)及び200μLの抽出試薬を加え、56℃で3時間作用させた。その後、200μLの結合試薬(binding solution)を加え、70℃で10分間作用させた。反応終了後、200μLの無水アルコールをマイクロ遠心管に加えて均一に混合し、全ての溶液(沈殿物を含む)をスピンカラム(spin column)に吸い込み、スピンカラムを収集チューブ(collection tube)の中に置いた。2分間遠心分離(17,970×g)した後、流出液を除去し、更に300μLの結合試薬をスピンカラムに加えた。2分間遠心分離(17,970×g)した後、流出液を除去した。その後、700μLの洗浄試薬(wash solution)をスピンカラムに加え、2分間遠心分離(17,970×g)した後、流出液を除去し、上記の工程を1回繰り返した。最後に17,970×gの条件で5分間遠心分離し、残留アルコールを除去した。スピンカラムを滅菌されたマイクロ遠心管に入れ、適量の無菌脱イオン水を加えてゲノムDNAを排出させた。
【0044】
XylF抗原遺伝子の部位特異的突然変異
まず、XylF抗原遺伝子に対して増幅プライマーXylF/XylR及び変異プライマーXylM1~XylM8を設計し、プライマー配列は、以下の表1で示される。
【0045】
【0046】
マイコプラズマ・ヒオリニスゲノムをテンプレートとして、XylF/XylM2、XylM1/XylM4、XylM3/XylM6、XylM5/XylM8、XylM7/XylRなどのプライマー群でそれぞれDNA断片の増幅を行った。50μLのPCR反応混合物には、1倍のGDP-HiFi PCR緩衝液B、200μMのdNTP(dATP、dTTP、dGTP及びdCTP)、1μM増幅プライマー、200ngマイコプラズマ・ヒオリニスゲノム及び1U GDP-HiFi DNAポリメラーゼを含有する。PCR反応条件は、96℃で5分間反応し(1工程)、94℃で30秒間反応し、55℃で30秒間反応し、68℃で30秒間反応し(35サイクル)、68℃で5分間反応する(1工程)ことである。
【0047】
PCR反応終了後、アガロースゲル電気泳動によって予測サイズのDNA断片の有無が確認された。ゲル抽出キット(Gel-M(商標)gel extraction system kit)でPCR生成物を回収した。更に、回収した5つのPCR生成物をテンプレートとして、XylF/XylRプライマーの組み合わせで遺伝子の増幅を行った。PCR反応条件は、96℃で2分間反応し(1工程)、94℃で30秒間反応し、55℃で30秒間反応し、68℃で45秒間反応し(35サイクル)、68℃で5分間反応する(1工程)ことである。このPCR反応は、部位特異的突然変異のXylF遺伝子を得ることができる。最後に、PCR-M(商標)Clean Up system kitでPCR生成物を回収した。シーケンシング結果によれば、本発明のXylF遺伝子は、配列番号4で示される配列を有する。
【0048】
DnaK抗原遺伝子の部位特異的突然変異
まず、DnaK抗原遺伝子に対して増幅プライマーDnaKF/DnaKR及び変異プライマーDnaKM1~DnaKM2を設計し、プライマー配列は、以下の表2で示される。
【0049】
【0050】
マイコプラズマ・ヒオリニスゲノムをテンプレートとして、DnaKF/DnaKM2及びDnaKM1/DnaKRなどのプライマー群でそれぞれDNA断片の増幅を行った。50μLのPCR反応混合物に、1倍のGDP-HiFi PCR緩衝液B、200μMのdNTP(dATP、dTTP、dGTP及びdCTP)、1μM増幅プライマー、200ngマイコプラズマ・ヒオリニスゲノム及び1U GDP-HiFi DNAポリメラーゼを含有する。PCR反応条件は、96℃で5分間反応し(1工程)、94℃で30秒間反応し、55℃で30秒間反応し、68℃で30秒間反応し(35サイクル)、68℃で5分間反応する(1工程)ことである。
【0051】
PCR反応終了後、アガロースゲル電気泳動によって予測サイズのDNA断片の有無が確認された。Gel-M(商標)gel extraction system kitでPCR生成物を回収した。その後、回収した2つのPCR生成物をテンプレートとして、DnaKF/DnaKRプライマーの組み合わせで遺伝子の増幅を行った。PCR反応条件は、96℃で2分間反応し(1工程)、94℃で30秒間反応し、55℃で30秒間反応し、68℃で45秒間反応し(35サイクル)、68℃で5分間反応する(1工程)ことである。このPCR反応は、部位特異的突然変異のDnaK遺伝子を得ることができる。最後に、PCR-M(商標)Clean Up system kitでPCR生成物を回収した。シーケンシング結果によれば、本発明のDnaK遺伝子は、配列番号5で示される配列を有する。
【0052】
P72抗原遺伝子の部位特異的突然変異
まず、P72抗原遺伝子に対して増幅プライマーP72F/P72R及び変異プライマーP72M1~P72M16を設計し、プライマー配列は、以下の表3で示される。
【0053】
【0054】
マイコプラズマ・ヒオリニスゲノムをテンプレートとして、P72F/P72M2、P72M1/P72M4、P72M3/P72M6、P72M5/P72M8、P72M7/P72M10、P72M9/P72M12、P72M11/P72M14、P72M13/P72M16、P72M15/P72Rなどのプライマー群でそれぞれDNA断片の増幅を行った。50μLのPCR反応混合物に、1倍のGDP-HiFi PCR緩衝液B、200μMのdNTP(dATP、dTTP、dGTP及びdCTP)、1μM増幅プライマー、200ngマイコプラズマ・ヒオリニスゲノム及び1U GDP-HiFi DNAポリメラーゼを含有する。PCR反応条件は、96℃で5分間反応し(1工程)、94℃で30秒間反応し、55℃で30秒間反応し、68℃で30秒間反応し(35サイクル)、68℃で5分間反応する(1工程)ことである。
【0055】
PCR反応終了後、アガロースゲル電気泳動によって予測サイズのDNA断片の有無が確認された。Gel-M(商標)gel extraction system kitでPCR生成物を回収した。その後、回収した9つのPCR生成物をテンプレートとして、P72F/P72Rプライマーの組み合わせで遺伝子の増幅を行った。PCR反応条件は、96℃で2分間反応し(1工程)、94℃で30秒間反応し、55℃で30秒間反応し、68℃で1分間反応し(35サイクル)、68℃で5分間反応する(1工程)ことである。このPCR反応は、部位特異的突然変異のP72遺伝子を得ることができる。最後に、PCR-M(商標)Clean Up system kitでPCR生成物を回収した。シーケンシング結果によれば、本発明のP72遺伝子は、配列番号6で示される配列を有する。
【0056】
(2)本発明のマイコプラズマ・ヒオリニス抗原発現プラスミドの構築:
異なる融合パートナー(fusion partner)遺伝子を含有するプラスミドを骨格としてマイコプラズマ・ヒオリニス抗原発現プラスミドの構築を行った。融合パートナー遺伝子は、それぞれ大腸菌DsbC、MsyB及びFklBのDNA配列である。発現プラスミドの構築の流れは、以下のとおりである。
【0057】
BamHI及びSalIでそれぞれ上記実験で調製された本発明のXylF遺伝子、DanK遺伝子、及びP72遺伝子を切り出し、更にそれぞれT4 DNA ligaseでDNA断片を同じ制限酵素で切り出したDsbC融合発現プラスミド、MsyB融合発現プラスミド、及びFklB融合発現プラスミドに結合した。そして、結合生成物を大腸菌ECOS 9-5に形質転換した。コロニーポリメラーゼ連鎖反応で形質転換体をスクリーニングした。DNA電気泳動によって予測サイズのDNA断片の有無が確認された。形質転換体中の組換えプラスミドが外挿したDNAを有することが確認された後、形質転換体中のプラスミドを抽出してDNAシーケンシングを行った。DNA配列が正しいプラスミドをそれぞれpET-DsbC-XylF(配列番号7)、pET-MysB-DnaK(配列番号8)、及びpET-FklB-P72(配列番号9)と命名した。
【0058】
実施例3:本発明のサブユニットワクチンの調製及び応用。
(1)本発明の発現ベクターで組換え抗原を発現させる:
マイコプラズマ・ヒオリニス抗原発現プラスミドをE.coli BL21(DE3)に形質転換した。菌株を発現させる単一のコロニーを選択し、カナマイシン(kanamycin)(最終濃度30μg/mL)を含有するLB培地12mLに接種し、37℃及び180rpmの条件で一晩培養した。そして、この培養菌液10mLを取り出してカナマイシン(最終濃度30μg/mL)を含有するLB培地1Lに加え、OD600が約0.4~0.6程度になるまで振とう培養(37℃、180rpm)した。次に、28℃下で0.1mMのイソプロピル-β-D-チオガラクトシドを加えて発現を誘導した。4時間誘導した後、遠心分離(10,000×g、10分間、4℃)して菌体部分を収集した。更に、菌体を10mLのリン酸緩衝溶液(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH7.4)に懸濁し、超音波破砕機で菌体を破砕した後、遠心分離(30,966×g、30分間)して上澄液部分を収集した。最後に、0.22μmの濾過膜で収集した上澄液を濾過した。タンパク質電気泳動によって組換え抗原の発現状況及び可溶性を観察した。実験結果を
図1に示す。
図1の結果から、本発明の組換え抗原の大腸菌発現系での発現状況が良好であることが観察された。また、本発明の組換え抗原は、いずれも優れた可溶性を有し、本発明が適切な融合パートナーを選択したことを示している。
【0059】
そして、組換え抗原がHis tagを有して、ニッケル又はコバルトイオンと配位共有結合を形成できる特性を利用して、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(immobilized-metal ion affinity chromatography)でタンパク質精製を行った。組換え抗原の精製の方式として、タンパク質液体クロマトグラフィーシステムAEKTA prime plus(GE Healthcare、スウェーデン)で5mL HiTrap(商標)Ni excelカラム(GE Healthcare、スウェーデン)を使用する。まず、25mLのリン酸緩衝溶液でカラムを平衡させた後、上記上澄液をHiTrap(商標)Ni excelカラムに注入した。サンプル注入が完了した後、30mMのイミダゾール(imidazole)を含有する洗浄緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、30mMイミダゾール、pH7.4)100mLで非特異的に結合したタンパク質を洗浄除去した。最後に、250mMのイミダゾールを含有する溶離緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、250mMイミダゾール、pH7.4)150mLで樹脂での組換え抗原を溶離し、その原理は、高濃度のイミダゾールで組換え抗原と樹脂結合部位を競争させることにより、組換え抗原を樹脂から溶離するものである。精製した抗原溶液をAmicon(商標)ultra-15 ultracel-30K遠心管(Merck Millipore、米国)に入れ、4℃、2,600×gで適切な体積に遠心分離した後、4℃で貯蔵して使用に備える。精製結果を
図2に示す。図から、本実験では純度の優れた本発明の組換え抗原が得られたことが分かった。
【0060】
(2)本発明のサブユニットワクチンを調製してその免疫保護効果をテストする:
後続の段落で示される表の調製条件に従って、上記実験で調製された本発明の組換え抗原とアジュバント(アルミゲル)とを均一に混合することで、それぞれ単一抗原を含有する複数種のサブユニットワクチン及び複数種の抗原を含有するカクテルワクチンを調製した。ワクチン1回分の投与量は2mLであり、その含まれる各組換え抗原の含有量は200μgである。
【0061】
試験1:単一抗原の免疫保護効果をテストする
本実験は、家畜衛生試験所動物用薬品検定分所遺伝子改造製品(genetically modified organisms、GMOs)動物舍で行った。マイコプラズマ・ヒオリニス抗体検出結果が陰性である3週齢の豚を12匹選択し、ランダムに群分けし、合計でA~D群に分ける。各群の豚の数は3匹であり、そのうち、A~C群は実験群であり、D群は対照群である。A~C群の豚は、3及び5週齢にそれぞれ筋肉注射によって本実験のワクチン(投与量2mL)を1回注射した。D群には、注射を行っていない。ワクチン成分を以下の表4に示す。
【0062】
【0063】
次に、7週齢(即ち免疫後2週間)の時に、マイコプラズマ・ヒオリニスの野生型分離株ATIT-2の培養液で腹腔誘発試験を行った。豚が10週齢(即ち誘発試験後3週間)になる時に、病理解剖学検査を行った。腹膜炎、胸膜炎、心膜炎及び関節腫脹などの病変を引き起こす豚のパーセンテージを計算した。肉眼病変評価は、Magnussonらが提案した方法に従って行う(Vet.Immunol.Immunopathol.,61:83~96,1998)。
【0064】
実験結果を以下の表5に示す。XylFで調製されたサブユニットワクチンは、豚の腹膜炎及び胸膜炎の発生を減少させることができ、かつ免疫化された豚の平均病変スコアは非免疫化された対照群よりも低いため、XylFは明らかな免疫保護反応を誘導することができることを示している。DnaK及びP72で調製されたサブユニットワクチンは、それぞれ腹膜炎及び胸膜炎の発生を減少させることができる。
【0065】
なお、表5のデータは、XylFで調製されたサブユニットワクチンが腹膜炎及び胸膜炎の軽減にのみ有利であるとは解釈することができず、XylFで調製されたサブユニットワクチンは実験を行う間に他の病徴に対する効果が顕著でないことしか示すことができない。同様に、表5のデータは、DnaK又はP72で調製されたサブユニットワクチンがそれぞれ腹膜炎又は胸膜炎の軽減にのみ有利であると解釈することができず、DnaK又はP72で調製されたサブユニットワクチンが実験を行う間に他の病徴に対する効果が顕著でないことしか示すことができない。
【0066】
【0067】
試験2:カクテルワクチンの免疫保護効果をテストする
本実験は、家畜衛生試験所動物用薬品検定分所遺伝子改造製品動物舍で行った。マイコプラズマ・ヒオリニス抗体検出結果が陰性である4週齢の豚を24匹選択し、ランダムに群分けし、合計で免疫群(E群)及び対照群(F群)2つの群に分ける。各群の豚の数は12匹である。免疫群の豚は、4及び6週齢にそれぞれ筋肉注射によって本実験のワクチン(投与量2mL)を1回注射した。対照群には、免疫処理が行われていない。ワクチン成分を以下の表6に示す。
【0068】
【0069】
実験結果を以下の表7に示す。本発明のカクテルワクチン(この実験で本発明の組換え抗原を3種混合したもの)は、腹膜炎、胸膜炎、心膜炎及び関節腫脹などのマイコプラズマ・ヒオリニス感染の臨床症状を顕著に減少させることができ、その効果は単一抗原サブユニットワクチン(上記表5のような)の効果よりも良い。
【0070】
【配列表】