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特許7009463細胞、組織、および器官の生存能および機能を向上させるための試薬、組成物、および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】細胞、組織、および器官の生存能および機能を向上させるための試薬、組成物、および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/165 20060101AFI20220118BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/366 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220118BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220118BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20220118BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220118BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
A61K31/165
A61K31/192
A61K31/05
A61K31/12
A61K31/353
A61K31/366
A61K35/12
A61P43/00 105
A61P43/00 121
C12N5/02
A61L27/38 300
A61L27/54
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019518343
(86)(22)【出願日】2017-06-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 CA2017000151
(87)【国際公開番号】W WO2017214709
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】62/350,258
(32)【優先日】2016-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518445654
【氏名又は名称】シャント・デル・サルキシアン
(73)【特許権者】
【識別番号】518445665
【氏名又は名称】ニコラ・ノワジュー
(73)【特許権者】
【識別番号】507013855
【氏名又は名称】ヴァル-シュム・エス・ウ・セ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シャント・デル・サルキシアン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ノワジュー
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0218143(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0311508(US,A1)
【文献】British Journal of Pharmacology,2014年,171,5265-5279
【文献】Canadian Journal of Cardiology,2012年,28(5):Suppl,S297,doi:10.1016/j.cjca.2012.07.485
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2004年,279(53),56053-56060
【文献】ACS Chemical Biology,2012年,7,928-937
【文献】Journal of the American Chemical Society,2011年,133,19634-19637
【文献】Trends in Pharmacological Sciences,2015年,36(1),6-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 - 31/80
A61K 35/00 - 35/768
A61P 1/00 - 43/00
A61L 27/38
C12N 5/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アナログ1、アナログ2、アナログ3、アナログ4、及びジヒドロセラストロールからなる群から選択される1種以上の化合物
【化1】
その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、または互変異性体と
b)tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)、ビス(2-ヒドロキシベンジリデン)アセトン(2HBA)、エピガロカテキンガレート(EGCG)、カルノソール、及びクルクミンから成る群から選択される1種以上の補助剤と、
c)担体または薬学的に許容される担体と、
を含む、
VEGF、SDF1、HGF、HO-1、HSP、及びFGF2からなる群から選択される1種以上の遺伝子の発現を促進し、又はTNFαの発現をダウンレギュレートするための、組成物または医薬組成物。
【請求項2】
前記化合物が
【化2】
である、請求項1に記載の組成物または医薬組成物。
【請求項3】
低酸素誘導細胞死に対する生存能、または低酸素/再酸素化ストレスに対する耐性を増加させるようにまたは保存するように、細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官の状態をモジュレートするin vitroまたはex vivo方法であって、前記細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官と
a)請求項1又は2に記載の組成物とを接触させることを含む、in vitroまたはex vivo方法。
【請求項4】
低酸素誘導細胞死に対する生存能、または低酸素/再酸素化ストレスに対する耐性を増加させるようにまたは保存するように、細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官の状態をモジュレートするin vitroまたはex vivo方法であって、
前記細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官と、
b)アナログ1、アナログ2、アナログ3、アナログ4、およびジヒドロセラストロールからなる群から選択される1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、もしくは互変異性体と、tBHQ、2HBA、EGCG、カルノソール、およびクルクミンから成る群から選択される補助剤と、
を含む組合せ物とを接触させることを含む、in vitroまたはex vivo方法。
【請求項5】
低酸素誘導細胞死に対する生存能、または低酸素/再酸素化ストレスに対する耐性を増加させるようにまたは保存するように、細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官の状態をモジュレートするin vitroまたはex vivo方法であって、
前記細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官と、
c)アナログ1、アナログ2、アナログ3、アナログ4およびジヒドロセラストロールからなる群から選択される1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、もしくは互変異性体またはそれらの組合せに接触させた個別細胞調製物、及び、tBHQ、2HBA、EGCG、カルノソール、及びクルクミンから成る群から選択される補助剤と
を接触させることを含む、in vitroまたはex vivo方法。
【請求項6】
低酸素誘導細胞死に対する生存能、または低酸素/再酸素化ストレスに対する耐性を増加させるようにまたは保存するように、細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官の状態をモジュレートするin vitroまたはex vivo方法であって、
前記細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官と、
d)アナログ1、アナログ2、アナログ3、アナログ4、ジヒドロセラストロールからなる群から選択される1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、もしくは互変異性体またはそれらの組合せに接触させた個別細胞調製物のセクレトーム、及び、tBHQ、2HBA、EGCG、カルノソール、及びクルクミンから成る群から選択される補助剤と
を接触させることを含む、in vitroまたはex vivo方法
【請求項7】
前記細胞調製物が、細胞または幹細胞を含み、細胞または幹細胞が、間葉幹細胞、CD34細胞、CD133細胞もしくは幹細胞、多能性細胞、前駆細胞、もしくは成人分化細胞である、または、細胞調製物、組織、もしくは器官が、哺乳動物における自己移植若しくは同種異系移植予定である、請求項2から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、凍結前またはコンディショニング、凍結/解凍サイクル、細胞のカプセル化、培養、ならびに精製時に、細胞においてin vitroで実施される、請求項2から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
低酸素/再酸素化ストレス、障害、疾患または損傷から細胞、組織、移植片、または器官を保護する、in vitroまたはex vivo方法であって、前記方法が、前記細胞、組織、移植片、または器官と、請求項1または2に記載の組成物、または前記組成物に接触させた細胞調製物のセクレトームと、を接触させることを含む、方法。
【請求項10】
低酸素/再酸素化ストレスまたは損傷から細胞、組織、移植片、もしくは器官を保護する、または、幹細胞、組織、移植片、または器官の移植時の細胞損傷を低減するin vitroまたはex vivo方法であって、前記細胞、幹細胞、組織、移植片、または器官と、請求項1または2に記載の組成物、ならびに、前記組成物に接触させた細胞調製物を含む細胞培地とを接触させる工程を含み、
前記方法が、幹細胞、組織、移植片、または器官の移植時の細胞損傷を低減するためのものである場合、前記細胞培地は、移植の前、および/もしくは移植中および/もしくは移植後に前記組成物でコンディショニングされている、
方法。
【請求項11】
前記細胞が、幹細胞、分化細胞、前駆細胞、または成体細胞であり、前記細胞、組織、移植片、または器官が、使用前に少なくとも5~180分間の継続時間にわたり、前記化合物に接触され、前記化合物が10-6M~10-10Mの濃度で使用され、前記組成物が1種以上の補助剤をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年6月15日出願の米国仮特許出願第62/350,258号明細書(その全内容が参照により本明細書に組み込まれる)に基づく利益を主張する。
【0002】
本発明は、in vitro、ex vivo、またはin vivoで細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官の状態をモジュレートするための試薬、組成物、および方法を提供する。本発明はまた、細胞の生存能および/もしくは機能を向上させるための、またはin vitro、ex vivo、もしくはin vivoで細胞、組織、移植片、もしくは器官を各種損傷から保護するための、試薬、組成物、および方法に関する。試薬および組成物は、セラストロールやセラストロールアナログなどのHSP90補因子阻害剤を単独または補助剤(たとえば、NRF-2アクチベーター、抗酸化剤など)との組合せのいずれかで含みうる。
【0003】
本発明はとくに、虚血傷害および関連ストレッサー(低酸素症、酸化ストレス、炎症、ショックなど)の治療または予防に関する。本発明はまたとくに、細胞ベースおよび組織ベースの療法(たとえば、再生医学、移植片、移植など)に関する。
【背景技術】
【0004】
過去何十年もの間の心臓学の多くの技術的進歩にもかかわらず、虚血性心疾患は、依然として世界的に罹患および死亡の主な原因となっている。心筋梗塞(MI)後、虚血心の再灌流を行うと、フリーラジカル産生の大幅増加、炎症細胞浸潤、および局所pHの変化が原因でさらなるストレスが誘発される。心保護手段を所定の位置に配置すれば、最終梗塞サイズを有意に低減可能である。機械技術(冠脈クランピングによる虚血/再灌流(I/R)の繰返しショートサイクル)をはじめとする心臓のプレおよびポストコンディショニングが研究されてきたが、最も簡単かつより臨床移行可能な技術は薬理学的コンディショニングであろう。こうした状況では、心保護は、ミトコンドリア透過性遷移孔(mPTP)開口の阻害および酸化ストレスの低下によりI/R誘導細胞死を低減して梗塞領域の低減および心室機能の保持をもたらすことを含むであろう。
【0005】
本出願人らは、H9c2ラット心筋芽細胞の低酸素培養物およびMIのラットモデルでセラストロール(植物トリテルペン)の効果を調べ、エコーカルジオグラフィーおよび組織学的解析により治療有効性を評価した。本出願人は、H9c2細胞においてセラストロールが何分か以内に反応性酸素種(ROS)形成をトリガーし、転写因子である熱ショック因子1(HSF1)の核移行を誘導して熱ショック反応(HSR)を引き起こすことにより、HSP70さらにはHSP32(ヘムオキシゲナーゼ-1、HO-1)をはじめとする熱ショックタンパク質(HSP)の発現の増加をもたらすことを発見した。セラストロールは、低酸素ストレス下でH9c2の生存性を向上させた。またセラストロールにより誘導された主要なエフェクターとしてのHSF1およびHO-1は、細胞および組織の保護を促進することが機能解析から明らかにされた。ラット虚血心筋において、セラストロール治療を毎日行ったところ、心機能が向上し、かつ14日目に有害な左心室リモデリングが低減した。セラストロールは、心保護HO-1の発現をトリガーし、かつ線維症および梗塞サイズを抑制した。梗塞周囲領域では、セラストロールは、筋線維芽細胞およびマクロファージの浸潤を低減するとともに、TGF-βおよびコラーゲンのアップレギュレーションを減衰させた。
【0006】
本出願人らは、セラストロール治療が、心筋細胞の生存、傷害および有害なリモデリングの低減を促進して心機能を保持する、ことを初めて報告し、かつセラストロールが、心筋梗塞の治療に有益な影響を及ぼしうる虚血コンディショニングをミミックする新規な強力薬理学的心保護剤になりうる、と結論した(非特許文献1)。
【0007】
本出願人はまた、傷害心筋を再増殖するためにin vitroおよびex vivoで幹細胞保護に及ぼすセラストロールの影響を調べた。実際には、各種疾患状態に対する組織工学および再生医学のための新規な治療法として幹細胞移植が提案されてきた。幹細胞ベースの療法は、虚血障害および虚血疾患の前臨床動物モデルで探究され、脳卒中、MI、末梢動脈疾患(PAD)などの虚血障害の早期臨床試験に使用されてきた。
【0008】
炎症は、MI後に非常に急速に発生し、かつ常在細胞および循環白血球による高レベルのROSおよび壊死細胞デブリの検出により引き起こされる。これらの細胞は、傷害組織に向かって移動し、さらにROS、タンパク質分解酵素、炎症誘発性および細胞傷害性の拡散性因子を放出し、かつ壊死細胞の貪食および細胞外マトリックス(ECM)成分の破壊に関与する。障害細胞組織およびデブリの排除に重要であるが、過剰または慢性になる炎症は、梗塞拡大、有害なリモデリング、および患者のアウトカム不良を招く(非特許文献2)、(非特許文献3)、(非特許文献4)、(非特許文献5)。
【0009】
心筋は一般に非常に限られた再生能しか有していないので、心筋細胞死により空いた空間は、心機能に悪影響を及ぼす線維性瘢痕により置き換えられる。したがって、幹細胞移植などの細胞ベースの治療戦略を用いた心筋再生の促進に関する研究に高い関心が寄せられている。これまでのところ、幹細胞の好影響のほとんどは、病変部位内における幹細胞の分化でも取込みでも細胞融合でもなく既存の組織へのパラクリン作用から生じるように思われる。移植細胞のパラクリンシグナリングは、アポトーシス、炎症、および線維症を低減することにより作用しうるとともに、血管新生および他の修復プロセスの発生を刺激しうる(非特許文献2)、(非特許文献3)。
【0010】
幹細胞療法は、虚血心の治癒を改善し、傷害心筋を再増殖し、かつ心機能を回復する可能性を有する。それは従来の治療の限界を超える治療解決策を提供し、治癒剤を送達することが見込まれる。幹細胞療法に対する非常に大きな期待およびその可能性は十分に理解されており、動物モデルおよび臨床試験、たとえば、心不全治療のための自己CD133幹細胞移植片のIMPACT-CABGおよびCOMPARE-AMIでは、実現可能性および安全性が実証されている(非特許文献6)、(非特許文献7)。とはいえ、心血管疾患に対する細胞療法を含む最近の試験では、一貫性のないデータを有するさまざまな結果が得られており、幹細胞の治療有効性を担う機序に関する未解決の問題への関心が再喚起されている。実際には、細胞療法の臨床有効性を低減する最も大きな障害は、とくに虚血組織の移植細胞の生存能および保持の不良である。細胞型にかかわらず、移植の何日か後の虚血心筋で生存しているのは移植細胞の1%未満である(非特許文献8)、(非特許文献9)。
【0011】
本出願人は、セラストロールが迅速かつ強力に内因性細胞保護性を活性化するとともに虚血移植片マイクロ環境をミミックする低酸素条件および酸化条件に対する幹細胞の生存性を向上させることを発見した。本出願人は、細胞の保護および生存に関与するエフェクターおよび重要遺伝子:Hif1a、HO-1(HSP32)、HSP27、HSP70、およびVEGFのアップレギュレーションを伴うPI3K/Akt経路およびp44/42MAPK(ERK1/2)経路の劇的かつ迅速な活性化、さらには細胞質から核へのHsf1移行の増加を観察した。本出願人は、セラストロールによる幹細胞のプレコンディショニングが虚血性心血管疾患などの臨床用途の安全かつ効率的な療法でありうると結論した(非特許文献10)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】S.Der Sarkissian et al.,British J.Pharmacol.,2014,171:5265-5279
【文献】Steffens,S.,et al.Thrombosis and Haemostasis,(2009),102(2),240-247.
【文献】Jiang,B.et al.Journal of Cardiovascular Translational Research,(2010),3(4),410-416.
【文献】Sun,Y.et al.Cardiovascular Research,(2009),81(3),482-490.
【文献】Dobaczewski,M.,et al.Journal of Molecular and Cellular Cardiology,(2010),48(3),504-511.
【文献】Forcillo,J.et al.,The Canadian journal of cardiology.2013;29:441-7.
【文献】Mansour S et al.,Bone Marrow Res.2011;2011:385124.
【文献】Pagani FD.et al.,J Am Coll Cardiol.2003;41:879-88.
【文献】Toma C.et al.,Circulation.2002;105:93-8.
【文献】Der Sarkissian et al.,Pre-Conditioning of Stem Cells With Celastrol to Enhance their Therapeutic Potential,Circulation 2011;124:A14198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
それにもかかわらず、虚血部位に化合物または組成物を投与することによりまたはプレコンディショニングされた細胞を介してin vitro、ex vivo、またはin vivoの状況で細胞の生存性および機能を向上させるための強力な化合物、組成物、および方法の重要な必要性が依然として存在する。
【0014】
本明細書は、いくつかの文書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、その第1の態様では、熱ショック反応および抗酸化反応を活性化する1種以上の化合物、熱ショックタンパク質90(HSP90)阻害およびケルヒ様ECH関連タンパク質1(KEAP-1)阻害を活性化する1種以上の化合物、熱ショック因子タンパク質1(HSF1)経路および核因子(エリスロイド由来2)様2(NRF2)経路を活性化する1種以上の化合物、熱ショックタンパク質(HSP)および抗酸化剤エフェクターを活性化する1種以上の化合物を含みうる組成物または医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明は、より特定の態様では、天然トリテルペン、合成トリテルペンアナログ、および/または補助剤からなる群から選択される1種以上の化合物を含みうる組成物または医薬組成物を提供する。
【0017】
本発明を遂行するために使用しうる化合物としては、たとえば、セラストロール、セラストロールアナログ、ウィタノライドファミリーの化合物もしくはそのアナログ、リモノイドファミリーの化合物(たとえばゲデュニン)もしくはそのアナログ、バルドキソロン/CDDO化合物もしくはそのアナログ(たとえばCDDO-メチル)、クルクミノイド(たとえばクルクミン)もしくはそのアナログ、カルノソールもしくはそのアナログ、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)もしくはそのアナログ、ビス(2-ヒドロキシベンジリデン)アセトン(2HBA)もしくはそのアナログ、アセチレン系三環式ビス(シアノエノン)(TBE-31)もしくはそのアナログ、エピガロカテキンガレート(EGCG)もしくはそのアナログ、ガンボギン酸もしくはそのアナログ、ノボビオシンもしくはそのアナログ、ロニダミンもしくはそのアナログ、アンドログラホリドもしくはそのアナログ、エダラボンもしくはそのアナログ、アスコルビン酸もしくはそのアナログ、またはそれらの任意の組合せが挙げられうる。
【0018】
より特定的には、本発明は、式I
【化1】
(式中、
R1は、たとえば、-H、-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-アリール、アルキル、イミダゾール、-ORa、-NRbRc、-(CHOH、および-(CHNHからなる群から選択しうるし、
Raは、H、1~6個の炭素原子の置換または非置換の直線状アルキル基、3~6個の炭素原子の置換または非置換の分岐状アルキル基、および保護基からなる群から選択しうるし、
RbおよびRcは、-H、-OH、-OCH、1~6個の炭素原子の置換(たとえば-CHCHOHなど)または非置換の直線状アルキル基、3~6個の炭素原子の置換または非置換の分岐状アルキル基、および保護基からなる群から独立して選択しうるし、
nは、0、1、2、3、または4でありうるし、
R2およびR3は、-H、-ORd、=O、-C(=O)OH、-C(=O)ORx、および-C(=O)Rxからなる群から独立して選択しうるし、
Rdは、Hまたは1~3個の炭素原子の低級アルキル基でありうるし、
Rxは、Hまたは1~3個の炭素原子の低級アルキル基でありうるし、
R4は、-H、-OH、および1~3個の炭素原子の低級アルキル基からなる群から選択しうる)
の1種以上の化合物を用いて行いうる。
【0019】
本発明によれば、化合物としては、たとえば、式Ia
【化2】
(式中、
R1は、たとえば、-H、-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-アリール、アルキル、イミダゾール、-ORa、-NRbRc、-(CHOH、および-(CHNHからなる群から選択しうるし、
Raは、H、1~6個の炭素原子の置換または非置換の直線状アルキル基、3~6個の炭素原子の置換または非置換の分岐状アルキル基、および保護基からなる群から選択しうるし、
RbおよびRcは、-H、-OH、-OCH、1~6個の炭素原子の置換または非置換の直線状アルキル基、3~6個の炭素原子の置換または非置換の分岐状アルキル基、および保護基からなる群から独立して選択しうるし、
nは、0、1、2、3、または4でありうるし、
R2およびR3は、-H、-ORd、=O、-C(=O)OH、-C(=O)ORx、および-C(=O)Rxからなる群から独立して選択しうるし、
Rdは、Hまたは1~3個の炭素原子の低級アルキル基でありうるし、
Rxは、Hまたは1~3個の炭素原子の低級アルキル基でありうるし、
R4は、-H、-OH、および1~3個の炭素原子の低級アルキル基からなる群から選択しうる)
の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグが挙げられうる。
【0020】
本発明によれば、式IまたはIaの化合物は、R1が、より特定的には、-ORaおよび-NRbRcからなる群から選択しうる、Raが、H、1~6個の炭素原子の置換もしくは非置換の直線状アルキル基、3~6個の炭素原子の置換もしくは非置換の分岐状アルキル基、および保護基からなる群から選択しうる、RbおよびRcが、-H、-OH、-OCH、1~6個の炭素原子の置換もしくは非置換の直線状アルキル基、3~6個の炭素原子の置換もしくは非置換の分岐状アルキル基、および保護基からなる群から独立して選択しうる、R2およびR3が、-H、-ORd、および=Oからなる群から独立して選択しうる、Rdが、Hもしくは1~3個の炭素原子の低級アルキル基でありうる、ならびに/またはR4が、-HもしくはCHでありうる、ものを包含する。
【0021】
さらに、本発明によれば、式IまたはIaの化合物は、R1が、より特定的には、-ORaおよび-NRbRcからなる群から選択しうる、Raが、Hおよび1~3個の炭素原子の低級アルキル基からなる群から選択しうる、RbおよびRcが、-H、-OH、および-CHCHOHからなる群から独立して選択しうる、R2およびR3が、-H、-OH、-OCH、および=Oからなる群から独立して選択しうる、ならびに/またはR4が、-HもしくはCHでありうる、ものを包含する。
【0022】
そのうえさらに、本発明によれば、式IまたはIaの化合物は、R1が、より特定的には、-ORaおよび-NRbRcからなる群から選択しうる、Raが、Hおよび-CHからなる群から選択しうる、RbおよびRcが、-H、-OH、および-CHCHOHからなる群から独立して選択しうる、R2およびR3が、-OHおよび=Oからなる群から独立して選択しうる、ならびに/またはR4が-Hでありうる、ものを包含する。
【0023】
本発明に包含される化合物の例示的な実施形態は、R1がNRbRcである式IまたはIaのものを含む。
【0024】
化合物の例示的な実施形態は、図23に提供され、たとえば、アナログ1、アナログ2、アナログ3、アナログ4、アナログ5、アナログ6、またはジヒドロセラストロールとして同定されるセラストロールアナログを含みうる。
【0025】
本発明によりとくに企図されるセラストロールアナログとしては、アナログ1、アナログ2、アナログ3、アナログ4、およびジヒドロセラストロールが挙げられる。より特定的には、アナログ1が企図される。
【0026】
いくつかの場合には、セラストロールはとくに、本発明のいくつかの態様から除外しうる。たとえば、心虚血治療または幹細胞保護の方法におけるセラストロール単独の組成物または単独化合物としてのその使用は、文献に開示されている(Der Sarkissian et al.,Pre-Conditioning of Stem Cells With Celastrol to Enhance their Therapeutic Potential, Circulation 2011;124:A14198、S.Der Sarkissian et al.,British J.Pharmacol.,2014,171:5265-5279)。
【0027】
したがって、組成物、方法、および使用がセラストロールを含む場合、それは、好ましくは、セラストロール以外の式Iもしくは式Iaの化合物でありうるか、あるいは他の化合物、すなわち、式Iもしくは式Iaの化合物および/または補助剤との組合せで使用しうる。
【0028】
代替的に、本発明は、セラストロールの対応するR1、R2、R3、もしくはR4基のものとは異なる本明細書に定義されるR1、R2、R3、もしくはR4基を有する式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグを用いて行いうる。
【0029】
本発明の実施形態によれば、補助剤は、たとえば、2HBA、アンドログラホリド、アスコルビン酸、カフェストール、カルノソールバルドキソロン-イミダゾール(CDDO-im)、カルコン、N6-[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]-3-ニトロ-2,6-ピリジンジアミン(CHIR98014)、コングロバチン、クルクミン、シクロアストラゲノール、1,2-ジチオール-3-チオン(D3T)、ドラマピモド、エダラボン、EGCG、ガンボギン酸、ガネテスピブ、ゲデュニン、IQ-1、リモニン、ロニダミン、メラトニン、ベンズアミドテトラヒドロインドロン、N886、アルキルアミノビフェニルアミド、ノボビオシン、ピリドキサール5’-リン酸(P5’-P)、ピリチオン、ケルセチン、ラディシコール、レスベラトロール、N-(2-シアノ-3,12-ジオキソ-28-ノルオレアナ-1,9(11)-ジエン-17-イル)-2,2-ジフルオロ-プロパンアミドまたはオマベロキソロン(RTA-408)、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール(SB202190)、3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(SB216763)、SNX-5422(PF-04929113)、ナトリウムブチレート、スルホラン、テトラブロモベンゾトリアゾール(TBB)、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)、バルプロ酸(valporic acid)、ウィタフェリンA、ウィタノライド、エルゴステロール、ルペノン、および任意のかかる補助剤のアナログでありうる。
【0030】
より特定的には、補助剤としては、たとえば、tBHQ、カルノソール、クルクミン、2HBA、もしくはEGCG、またはそれらのアナログが挙げられうる。
【0031】
本発明は、その追加の態様では、たとえば、a)単独または1種以上の補助剤との組合せのいずれかで式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグと、b)担体または薬学的に許容可能な担体もしくは賦形剤と、を含みうる組成物または医薬組成物を提供する。
【0032】
本発明は、細胞(単離された細胞)、細胞調製物、組織(単離された組織)、移植片(単離された移植片)、または器官(単離された器官)の状態をモジュレートする方法を提供する。かかるモジュレーションは、生存能、または死、損傷、および/もしくはストレスに対する耐性、さらには機能、を向上させるようにまたは保持するように行いうる。かかるモジュレーションは、細胞死に対する回復力プロファイルを向上させるように、酸化および/もしくは低酸素ストレッサーに対する耐性をより向上させるように、ならびに/または限定されるものではないが熱ショックタンパク質、抗酸化タンパク質、成長因子をはじめとする各種タンパク質の分泌増強および/もしくは細胞老化に関連するペプチドメディエーターの有害発現の低減を含みうるタンパク質発現のプロファイルを向上させるように行いうる。
【0033】
本方法は、細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官と、a)式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグを含みうる組成物、b)式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグと補助剤とを含みうる組合せ物、c)式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、もしくはプロドラッグまたはそれらの組合せ物に接触させるまたは接触させた個別細胞調製物、あるいはd)式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、もしくはプロドラッグまたはそれらの組合せ物に接触させた個別細胞調製物のセクレトームまたは細胞培地と、を接触させることを含みうる。
【0034】
本発明は、追加の態様では、各種病理学的病態(たとえば、虚血、虚血/再灌流、ショック、敗血)または操作手順(たとえば、凍結/解凍サイクル、細胞のカプセル化、拡大、富化、および精製の工程、移植片の調製/製造など)で発生しうる損傷またはストレッサー(たとえば、酸化、低酸素、炎症、熱、浸透圧、機械的作用)から細胞、組織、移植片、または器官を保護する方法を提供する。
【0035】
本方法は、細胞、組織、移植片、または器官と、熱ショック反応および抗酸化反応を活性化する1種以上の化合物、HSP90阻害およびKEAP-1阻害の経路を活性化する1種以上の化合物、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する1種以上の化合物、HSPおよび抗酸化剤を活性化する1種以上の化合物を含む組成物と、を接触させることを含みうる。
【0036】
本方法はまた、細胞、組織、移植片、または器官と、天然トリテルペン、合成トリテルペンアナログ、および/または補助剤からなる群から選択される1種以上の化合物を含む組成物と、を接触させることを含みうる。
【0037】
本方法は、より特定的には、細胞、組織、移植片、または器官と、式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグを含む組成物と、を接触させることを含みうる。本発明によれば、本方法は、in vitro、ex vivo、in vivoで行いうる。
【0038】
したがって、本発明によれば、本方法は、細胞調製物、組織、または器官で実施されるex vivo法でありうる。こうしてコンディショニングされた細胞調製物、組織、または器官は、続いて、必要とする哺乳動物(たとえばヒト哺乳動物)に投与/移植しうる。本方法はまた、必要とする哺乳動物(たとえば、虚血疾患に罹患しているもしくは罹患しやすい、手術もしくは医学的介入を受けている、または細胞および組織の損失を伴う変性疾患を有している哺乳動物)に、組成物、組合せ物、個別細胞調製物、またはセクレトームを投与することにより実施されるin vivo法でありうる。
【0039】
変性疾患は、心筋症、肝疾患、たとえば、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎(NAFLD/NASH)、肝硬変、肺疾患たとえば慢性閉塞性肺疾患(COPD)、骨関節炎、膵障害たとえば糖尿病、神経変性たとえばアルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)疾患などを含みうる。
【0040】
組成物、組合せ物、個別細胞調製物、またはセクレトームは、手術または医学的介入の直前、実施時、または直後に投与しうるとともに、たとえば全身的にまたは局所的に投与しうる。
【0041】
本方法はまた、培養下または凍結前に細胞で実施されるin vitro法でありうる。
【0042】
細胞、細胞調製物、組織、移植片、または器官は、それらの使用前に、たとえば少なくとも5~180分間の継続時間にわたり、化合物、組合せ物、個別細胞調製物、またはセクレトームに接触させうる。
【0043】
本発明の実施形態によれば、式Iまたは式Iaの化合物は、10-6M~10-10Mの濃度で使用しうる。
【0044】
本方法は、化合物、組合せ物、細胞調製物、またはセクレトームを局所的にまたは全身的に投与することを含みうる。たとえば、化合物、組合せ物、またはセクレトームを投与する場合、それらは、全身的に(たとえば静脈内に)または局所的に(たとえば外用として損傷部位に)投与しうる。細胞調製物を投与する場合、それは、好ましくは局所的に(たとえば、虚血が疑われる部位、細胞保護を必要とする部位などに)投与しうる。
【0045】
細胞は、不死化細胞または初代細胞でありうる。細胞は、たとえば、幹細胞、心筋細胞、心筋芽細胞、筋細胞、腎細胞、膵細胞、肝細胞、ニューロン、内皮細胞、上皮細胞でありうる。
【0046】
幹細胞は、胚性、複能性、または多能性の幹細胞でありうる。幹細胞の例示的な実施形態としては、間葉幹細胞、造血幹細胞、誘導多能性幹細胞が挙げられうる。本発明によれば、細胞は非癌細胞である。
【0047】
細胞は、好ましくは、たとえばヒトなどの哺乳動物由来である。細胞は、同種異系幹細胞移植または自己幹細胞移植に好適でありうる。細胞は、供給業者から入手しうるかまたはドナーもしくは宿主から単離しうる。細胞は、特異的な望ましいマーカーに基づいて選択しうる。
【0048】
本発明によれば、本方法は、細胞、組織、移植片、または器官と1種以上の補助剤とをさらに接触させることを含みうる。そのため、細胞、組織、移植片、または器官は、a)式Iもしくは式Iaの化合物(またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、もしくはプロドラッグ)およびb)補助剤の両方を混合一体化して含む組成物に接触させうるか、あるいは化合物および補助剤を交互に添加しうる。
【0049】
細胞、組織、移植片、または器官はまた、式I、式Iaの化合物(またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、もしくはプロドラッグ)と補助剤とを逐次的に接触させうる。
【0050】
本発明はさらに、その態様では、虚血疾患、たとえば、虚血性心血管疾患、脳卒中、心筋梗塞(MI)、末梢動脈疾患(PAD)など、または細胞および組織の損失または変性が起こる疾患、たとえば、糖尿病、肝疾患、肺疾患など、を予防または治療する方法を提供する。
【0051】
本方法は、それを必要とする哺乳動物に、熱ショック反応活性化および抗酸化反応活性化を活性化する1種以上の化合物、HSP90阻害およびKEAP-1阻害の経路を活性化する1種以上の化合物、HSF1活性化およびNRF2経路を活性化する1種以上の化合物、HSPおよび抗酸化剤を活性化する1種以上の化合物を含む組成物、またはかかる組成物でコンディショニングされた細胞調製物のセクレトームを、投与することを含みうる。
【0052】
本方法はまた、それを必要とする哺乳動物に、熱ショック反応活性化および抗酸化反応活性化を活性化する1種以上の化合物、HSP90阻害およびKEAP-1阻害の経路を活性化する1種以上の化合物、HSF1およびNRF2の経路を活性化する1種以上の化合物、HSPおよび抗酸化剤を活性化する1種以上の化合物を含む組成物でプレコンディショニングされた幹細胞調製物を、投与することを含みうる。
【0053】
そのほか、本方法は、必要とする哺乳動物に、天然トリテルペン、合成トリテルペンアナログ、および/または補助剤からなる群から選択される1種以上の化合物を含む組成物を、投与することを含みうる。
【0054】
本方法はまた、必要とする哺乳動物に、天然トリテルペン、合成トリテルペンアナログ、および/または補助剤からなる群から選択される1種以上の化合物を含む組成物でプレコンディショニングされた幹細胞調製物を、投与することを含みうる。
【0055】
本方法はまた、必要とする哺乳動物に、本明細書に記載の1種以上の化合物および/または補助剤を含む組成物で処理された幹細胞調製物のセクレトームまたは培養培地を、投与することを含みうる。
【0056】
本方法は、より特定的には、それを必要とする哺乳動物に、a)式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、もしくはプロドラッグを含む組成物、b)式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、もしくはプロドラッグでプレコンディショニングされた幹細胞調製物、またはc)かかる組成物でコンディショニングされた細胞調製物のセクレトームを、投与することを含みうる。
【0057】
本発明によれば、本方法は、a)式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、もしくはプロドラッグと、b)補助剤と、の組合せを含む組成物の投与、かかる組合せを含む組成物でプレコンディショニングされた幹細胞の投与、またはかかる組合せでコンディショニングされた細胞調製物のセクレトームの投与を包含する。
【0058】
本発明の実施形態によれば、幹細胞調製物は、必要とする哺乳動物から単離された自己幹細胞調製物でありうる。本発明のさらなる実施形態によれば、幹細胞調製物は、哺乳動物ドナーから単離された同種異系幹細胞調製物でありうる。哺乳動物への投与に好適であるために、同種異系幹細胞調製物は、好ましくはHLA型が一致する。幹細胞調製物はまた、免疫特権性、低免疫原性、または免疫回避性でありうる。
【0059】
本発明はまた、その追加の態様では、熱ショック反応活性化および抗酸化反応活性化を活性化する1種以上の化合物、HSP90阻害およびKEAP-1阻害の経路を活性化する1種以上の化合物、HSF1活性化およびNRF2経路を活性化する1種以上の化合物、HSP活性化および抗酸化反応活性化を活性化する1種以上の化合物を含む組成物により、あるいはかかる組成物でコンディショニングされた個別細胞調製物のセクレトームにより、プレコンディショニングされた細胞調製物または単離された細胞、組織、移植片、もしくは器官調製物を提供する。
【0060】
本発明は、そのさらなる態様では、天然トリテルペン、合成トリテルペンアナログ、および/または補助剤からなる群から選択される1種以上の化合物を含む組成物でプレコンディショニングされた単離された細胞、組織、移植片、または器官調製物を提供する。
【0061】
より特定的には、本発明は、そのさらなる追加の態様では、式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、もしくはプロドラッグを含む組成物により、またはかかる組成物でコンディショニングされた個別細胞調製物のセクレトームにより、プレコンディショニングされた細胞調製物または単離された細胞、組織、移植片、または器官調製物を提供する。
【0062】
本発明によれば、単離された細胞、組織、移植片、または器官調製物は、a)式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグと、b)補助剤と、の組合せを含む組成物でプレコンディショニングしうる。
【0063】
本発明によれば、単離された細胞、組織、移植片、または器官調製物は、a)式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグと、b)補助剤と、の組合せを含む組成物でプレコンディショニングされた細胞のセクレトームによりコンディショニングしうる。
【0064】
本発明の実施形態によれば、組成物は、使用前に調製物から洗浄除去しうるか、または調製物の一部として残留しうる。
【0065】
例示的な実施形態によれば、細胞調製物は、幹細胞調製物、たとえば、in vitroで処理された幹細胞または以前に全身治療を受けたドナーから採取された幹細胞でありうる。
【0066】
本発明の他の実施形態によれば、細胞調製物は細胞懸濁液でありうる。本発明のさらなる実施形態によれば、細胞調製物は三次元スキャフォールドの形態でありうる。三次元スキャフォールドを得るために、細胞は、細胞凝集体として、マイクロ担体の存在下で、アルギネートマイクロカプセル化物上で、ヒドロゲル(たとえば、熱可逆ヒドロゲル、キトサン系ヒドロゲルなど)中で、自己集合ペプチドで構成されたナノ構造スキャフォールド(Meng,X.et al.,SpringerPlus,2014,3:80)中で培養しうる。
【0067】
本発明はさらに、幹細胞、組織、移植片、または器官の移植時の細胞損傷を低減する方法に関する。本方法は、幹細胞、組織、移植片、または器官と、熱ショック反応活性化および抗酸化反応活性化を活性化する1種以上の化合物、HSP90阻害およびKEAP-1阻害の経路を活性化する1種以上の化合物、HSF1活性化およびNRF2経路を活性化する1種以上の化合物、HSP活性化および抗酸化反応活性化を活性化する1種以上の化合物を含む組成物、またはかかる組成物でコンディショニングされた細胞調製物のセクレトームと、を接触させることを含みうる。
【0068】
本発明はさらに、幹細胞、組織、移植片、または器官の移植時の細胞損傷を低減する方法に関する。本方法は、幹細胞、組織、移植片、または器官と、天然トリテルペン、合成トリテルペンアナログ、および/または補助剤からなる群から選択される1種以上の化合物を含む組成物と、を接触させることを含みうる。
【0069】
より特定的には、本発明はさらに、幹細胞、組織、移植片、または器官の移植時の細胞損傷を低減する方法を提供する。本方法は、移植前および/または移植時および/または移植後に、幹細胞、組織、移植片、または器官と、式I、式Iaの少なくとも1種の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグを含む組成物、またはかかる組成物でコンディショニングされた細胞調製物のセクレトームと、を接触させることを含む。
【0070】
本発明の実施形態によれば、本方法は、a)式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグと、b)補助剤と、の組合せを投与することを含みうる。
【0071】
さらなる態様では、本発明は、細胞、組織、移植片、または器官をストレスまたは損傷から保護するための、熱ショック反応活性化および抗酸化反応活性化を活性化する1種以上の化合物、HSP90阻害およびKEAP-1阻害の経路を活性化する1種以上の化合物、HSF1活性化およびNRF2経路を活性化する1種以上の化合物、HSP活性化および抗酸化反応活性化を活性化する1種以上の化合物の使用に関する。
【0072】
他のさらなる態様では、本発明は、細胞、組織、移植片、または器官をストレスまたは損傷から保護するための、天然トリテルペン、合成トリテルペンアナログ、および/または補助剤からなる群から選択される1種以上の化合物の使用に関する。
【0073】
より特定の態様では、本発明は、細胞、組織、移植片、または器官をストレスまたは損傷から保護するための、式I、式Iaの1種以上の化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグの使用に関する。
【0074】
本発明の追加の態様によれば、本発明は、a)式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグと、b)補助剤と、の組合せの使用に関する。
【0075】
さらなる追加の態様では、本発明は、手術または医学的介入を必要とするまたは細胞ストレスもしくは細胞損傷を受けやすい患者を治療する方法を提供する。
【0076】
本発明の実施形態によれば、本方法は、本明細書に定義される1種以上の化合物を含む組成物を投与することを含みうる。
【0077】
本発明のより特定的な実施形態によれば、本方法は、手術または医学的介入の前および/または実施時に、式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグを含む組成物を投与することを含みうる。
【0078】
その本発明のさらなる実施形態では、本方法は、a)式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグと、b)補助剤と、の組合せを投与することを含みうる。
【0079】
本発明によれば、組成物は、局所的に、たとえば、手術または医学的介入の部位に投与しうる。本発明の他の実施形態によれば、組成物は全身投与しうる。
【0080】
本発明によれば、化合物または組成物は、必要とする哺乳動物の細胞損傷を受けやすい部位に直接投与しうる。そのため、化合物または組成物は、細胞損傷を予防または治療するために投与しうる。
【0081】
本発明はまた、式I、式Iaの化合物、その薬学的に許容可能な塩、立体異性体、互変異性体、またはプロドラッグを含む第1のバイアルと、細胞を含む第2のバイアルと、を含みうるキットに関する。
【0082】
本発明のさらなる実施形態によれば、キットは、補助剤の入った第3のバイアルを含みうる。本発明の実施形態によれば、細胞は幹細胞でありうる。
【0083】
本発明はまた、異なる成分がプレ混合されているキットに関する。
【0084】
本発明はまた、必要とする哺乳動物に組成物、組合せ物、個別細胞調製物、またはセクレトームをin vivo投与するのに好適なデバイスを提供する。デバイスは、たとえば、プレ充填されたシリンジ、または組成物、組合せ物、個別細胞調製物、もしくはセクレトームを収容しうるコンパートメントを有するシリンジでありうる。
【0085】
本発明はまた、細胞、組織の調製に好適なデバイスを提供する。デバイスは、たとえば、組成物、組合せ物、個別細胞調製物、またはセクレトームを収容しうる細胞の選別用または細胞の培養もしくは拡大用のデバイスたとえばバイオリアクターでありうる。
【0086】
本発明の追加の態様はまた、以下の項目1~31に提供される。
【0087】
1. 細胞死に対する細胞の耐性を向上させる方法であって、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する有効量の1種以上の化合物と細胞とを接触させる工程を含む前記方法。
【0088】
2. 細胞死に対する回復力プロファイルが向上した、酸化および/または低酸素ストレッサーに対する耐性がより向上した、ならびに/あるいは熱ショックタンパク質、抗酸化タンパク質、および/もしくは成長因子、抗炎症性サイトカイン、ケモカインの少なくとも1つの分泌増強および/または老化関連タンパク質などの有害ペプチドメディエーターの発現低減を含むタンパク質発現のプロファイルが向上した、コンディショニングされた細胞集団を生成する方法であって、細胞と、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する有効量の1種以上の化合物と、を接触させる工程を含む前記方法。
【0089】
3. 移植または輸液された細胞の生存能および保持性を向上させる方法であって、移植または輸液の前および/または後に、細胞と、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する有効量の1種以上の化合物と、を接触させる工程を含む前記方法。
【0090】
4. 前記方法が移植または輸液の前にex vivoまたはin vitroで細胞に接触させることを含む、本明細書に示される項目に記載の方法。前記方法がin vivoで細胞に接触させることを含む、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0091】
5. 前記方法が移植または輸液の前/後にin vivoで細胞に接触させることを含む、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0092】
6. 細胞の移植または輸液を必要とする被験体を治療する方法であって、(a)移植される細胞と、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する有効量の1種以上の化合物と、を接触させることと、(b)前記被験体において(a)の細胞を移植または輸液することと、を含む前記方法。
【0093】
7. 移植後に、移植または輸液された細胞と、有効量の前記1種以上の化合物と、を接触させることをさらに含む、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0094】
8. 前記被験体が器官または組織の虚血または変性に罹患している、および/または前記器官または組織の虚血が心虚血である、本明細書に示される項目に記載の方法。変性は、膵細胞、心細胞、筋細胞、ニューロン、腎細胞、肝細胞などの損失を含む。
【0095】
10. 前記被験体が心筋梗塞(MI)に罹患している、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0096】
11. 1種以上の化合物の少なくとも1つがHSP90阻害剤である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0097】
12. HSP90阻害剤がHSP90のN末端またはC末端の阻害剤、より特定的にはHSP90補因子阻害剤である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0098】
13. 1種以上の化合物の少なくとも1つがNRF2誘導活性または抗酸化活性を有する、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0099】
14. 前記1種以上の化合物が、セラストロールもしくはそのアナログ、ウィタノライドファミリーの化合物もしくはそのアナログ、リモノイドファミリーの化合物(たとえばゲデュニン)もしくはそのアナログ、バルドキソロン/CDDO化合物もしくはそのアナログ(たとえばCDDO-メチル)、クルクミノイド(たとえばクルクミン)もしくはそのアナログ、カルノソールもしくはそのアナログ、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)もしくはそのアナログ、ビス(2-ヒドロキシベンジリデン)アセトン(2HBA)もしくはそのアナログ、アセチレン系三環式ビス(シアノエノン)(TBE-31)もしくはそのアナログ、エピガロカテキンガレート(EGCG)もしくはそのアナログ、ガンボギン酸もしくはそのアナログ、ノボビオシンもしくはそのアナログ、ロニダミンもしくはそのアナログ、アンドログラホリドもしくはそのアナログ、エダラボンもしくはそのアナログ、アスコルビン酸もしくはそのアナログ、ガメンダゾールもしくはそのアナログ、スルフォラファンもしくはそのアナログ、スルホキシチオカルバメートアルキン(STCA)もしくはそのアナログ、またはそれらの任意の組合せを含む、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0100】
15. 前記1種以上の化合物が、(i)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)EGCGもしくはそのアナログ、(ii)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)tBHQもしくはそのアナログ、(iii)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)2HBAもしくはそのアナログ、(iv)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)クルクミンもしくはそのアナログ、(v)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)カルノソールもしくはそのアナログ、(vi)(a)ゲデュニンもしくはそのアナログ、および(b)EGCGもしくはそのアナログ、または(vii)(a)ゲデュニンもしくはそのアナログ、および(b)tBHQもしくはそのアナログ、(viii)(a)ゲデュニンもしくはそのアナログ、および(b)2HBAもしくはそのアナログ、(ix)(a)ゲデュニンもしくはそのアナログ、および(b)クルクミンもしくはそのアナログ、(x)(a)ゲデュニンもしくはそのアナログ、および(b)カルノソールもしくはそのアナログを含む、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0101】
16. 細胞が幹/多能性/前駆細胞または分化細胞である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0102】
17. 幹/多能性/前駆細胞が間葉幹細胞、CD34細胞、またはCD133細胞である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0103】
18. 細胞が分化細胞である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0104】
19. 細胞が組織または器官に存在する、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0105】
20. 前記接触させることが、培養培地中への単回用量または複数回用量の1種以上の化合物の添加を含む、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0106】
21. 前記接触させることが、被験体に単回用量または複数回用量の1種以上の化合物を投与することを含む、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0107】
22. 細胞死に対する細胞の耐性の向上ならびに/または移植もしくは輸液された細胞の生存能および保持性の向上に有用でありうる1種以上の化合物を同定する方法であって、(i)細胞と前記1種以上の化合物とを接触させることと、(ii)前記細胞においてHSF1経路およびNRF2経路が活性化されるかを決定することであって、前記経路の活性化が、前記1種以上の化合物が細胞死に対する細胞の耐性の向上および/もしくは接触させた細胞の生存能および保持性の向上に有用でありうる指標となる、ならびに/または前記1種以上の化合物が細胞の機能の向上および/もしくは接触させた細胞のパラクリンセクレトームの改善に有用でありうる指標となる、決定することと、を含む前記方法。
【0108】
23. 細胞が幹/前駆細胞または分化細胞である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0109】
24. 幹/前駆細胞が間葉幹細胞、CD34細胞、またはCD133細胞である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0110】
25. 細胞が分化細胞である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0111】
26. 細胞が組織または器官に存在する、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0112】
27. 前記細胞においてHSF1およびNRF2の経路が活性化されるかを決定する工程が、HSF1および/またはNRF2の転写制御下で1つ以上の遺伝子の発現を測定することを含み、前記1つ以上の遺伝子の発現の増加が、HSF1および/またはNRF2の経路が活性化される指標となる、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0113】
28. HSF1またはNRF2の活性化後に発現された前記1つ以上の遺伝子が、熱ショックタンパク質(HSP)(たとえば、HSP90、HSP70)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、NADPH-キノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)、成長因子(たとえば、VEGF、FGF2、HGF、IGF)、ヘムオキシゲナーゼ1(HO1)、スーパーオキシドジスムターゼ1~3(SOD1~3)、チオレドキシン(TRX)、カタラーゼ(CAT)、および/またはグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)である、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0114】
29. 前記細胞においてNRF2経路が活性化されるかを決定する工程が、1つ以上の炎症誘発性遺伝子の発現を測定することを含み、前記1つ以上の遺伝子の発現の減少が、HSF1および/またはNRF2の経路が活性化される指標となる、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0115】
30. 前記1つ以上の炎症性遺伝子がIL-1βおよび/またはTNFαである、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0116】
31. 前記方法が、低酸素および/または酸化、低酸素/再酸素化のストレス条件下で前記細胞の死を測定することを含む、本明細書に示される項目に記載の方法。
【0117】
本発明によれば、HSP90阻害剤の代表的な実施形態は、たとえば、セラストロールまたは式Iのアナログを含みうる。
【0118】
他の態様では、本発明は、1種以上の保護化合物との組合せでセラストロールまたは式Iのアナログを含む組成物に関する。
【0119】
本発明によれば、1種以上の保護化合物は、NRF2アクチベーターや抗酸化剤などの補助剤でありうるとともに、たとえば、セラストロール、2HBA、アンドログラホリド、アスコルビン酸、カフェストール、カルノソールバルドキソロン-イミダゾール(CDDO-im)、カルコン、N6-[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]-3-ニトロ-2,6-ピリジンジアミン(CHIR98014)、コングロバチン、クルクミン、シクロアストラゲノール、1,2-ジチオール-3-チオン(D3T)、ドラマピモド、エダラボン、EGCG、ガンボギン酸、ガネテスピブ、ゲデュニン、IQ-1、リモニン、ロニダミン、メラトニンベンズアミドテトラヒドロインドロン、N886、アルキルアミノビフェニルアミド、ノボビオシン、ピリドキサール5’-リン酸(P5’-P)、ピリチオン、ケルセチン、ラディシコール、レスベラトロール、N-(2-シアノ-3,12-ジオキソ-28-ノルオレアナ-1,9(11)-ジエン-17-イル)-2,2-ジフルオロ-プロパンアミドまたはオマベロキソロン(RTA-408)、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール(SB202190)、3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(SB216763)、SNX-5422(PF-04929113)、ナトリウムブチレート、スルホラン、テトラブロモベンゾトリアゾール(TBB)、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)、バルプロ酸(valporic acid)、ウィタフェリンA、ウィタノライド、エルゴステロール、ルペノン、および任意のかかる補助剤のアナログを含みうる。
【0120】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載の組成物との接触後に向上した特性を有しうる生細胞を含有する細胞調製物に関する。向上した特性としては、向上した機能、細胞保護に関連する遺伝子の発現の増加、向上した生存能、向上した生存性、各種病理学的病態(たとえば、虚血、虚血/再灌流、敗血症性ショック)または操作手順(たとえば、凍結/解凍サイクル、細胞のカプセル化、拡大、富化、および精製の工程、移植片の調製/製造など)で発生しうるストレッサー(たとえば、酸化、低酸素、炎症、熱、浸透圧、機械的作用)による細胞損傷に対する耐性の増加が挙げられうる。
【0121】
細胞調製物は、幹細胞、たとえば、虚血による損傷の予防または修復に好適なものを含みうる。幹細胞は、供給業者から入手しうるか、治療を必要とする個体(すなわち自己)または適合ドナー(すなわち同種異系)から単離しうる。
【0122】
本発明の実施形態によれば、細胞調製物または組織調製物は、本明細書に記載の組成物または試薬でプレコンディショニングしうる。本発明のさらなる実施形態によれば、本明細書に記載の組成物または試薬を含有する細胞調製物は、培地を含みうる。
【0123】
本発明の他の目的、利点、および特徴は、添付の図面を参照して単なる例として与えられたその具体的な実施形態の以下の非制限的な説明を読めば、より明確になるであろう。
【0124】
添付の図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0125】
図1図1は、各種HSP90阻害剤およびセラストロール様化合物の生存能スクリーニング(A、B)およびレポーターベースのスクリーニング(C)の例を示す。Perkin Elmer Operetta(登録商標)ハイコンテントスクリーニングシステムは、各種フルオロフォアおよび細胞モルフォロジー変化の検出を可能にする。Perkin Elmer VictorマルチラベルカウンターまたはEnVision(登録商標)マルチラベルリーダー(ルミノメーター)は、ルシフェリン代謝の検出を可能にする。それはまた、各種レポーター細胞系を用いてEC50および最大誘導倍率を定量的に特徴付け可能である。
図2図2Aおよび2Bは、セラストロールプレコンディショニングがMSCのin vivo生存能/保持性を向上させることを示す。MSCは、コンディショニング化合物または媒体で60分間処理した。次いで、細胞を洗浄し、蛍光セルトラッカーで標識し、そしてt=0でラット虚血左後肢に注射した。Optix(登録商標)を用いて9日目まで移植細胞をin vivoで撮像した。Optix in vivoイメージングシステムを用いて、t=0で左四頭筋に注射した300万MSCを9日目まで追跡した。(logスケール)。
図3図3は、セラストロールプレコンディショニングが幹細胞治療効果を向上させることを示す。セラストロールでプレコンディショニングされたMSCは、レーザードップラースキャニングから分かるように後肢虚血モデルで血流をより効率的に再建する。
図4図4は、セラストロール(10-6M)処理の1時間後におけるヒト間葉幹細胞(hMSC)により放出された細胞保護タンパク質、成長/生存因子、および抗酸化タンパク質を示す。コンディショニングされた細胞培地を捕集し、濃縮し、ゲル電気泳動によりタンパク質を分離し、そして質量分析により分析してデータベース検索を介して同定した。
図5図5は、本明細書に記載の実験(図6~22)で使用したいくつかの化合物を示す。
図6図6は、HSP90阻害剤(セラストロール、ゲデュニン、ラディシコール)によるラット間葉幹細胞(rMSC)の1時間処理では48時間低酸素誘導細胞死からrMSCが保護されるがNRF2アクチベーター単独(EGCG、tBHQ)では保護されないことを示す。EGCGはセラストロール媒介保護を増強する。
図7図7は、HSP90補因子阻害剤(セラストロール、ゲデュニン高用量)で処理したrMSCの培地によるH9c2の48時間プレコンディショニングが48時間低酸素誘導細胞死からH9c2を保護することを示す。
図8A図8Aは、NRF2活性化化合物(セラストロール、EGCG)によるrMSCの1時間処理では酸化ストレス誘導死からrMSCが保護されるがHSF1アクチベーター(ゲルダナマイシン、ラディシコール)では本質的に保護されないことを示す。EGCGはセラストロール誘導保護を増強する。
図8B図8Bは、2HBA、tBHQ、またはEGCGのいずれかと組み合わせたセラストロールによるH9c2心筋芽細胞の1時間処理が酸化チャレンジ(1mM H中での1時間インキュベーション)後における細胞の生存能の相乗的向上をもたらすことを示す。
図9図9は、NRF2アクチベーター(ゲデュニン、EGCG、tBHQ)で処理したrMSCの培地による24時間プレコンディショニングが酸化ストレス誘導死からH9c2細胞を保護することを示す。強力なHSF1アクチベーター単独(ラディシコール、セラストロール)では保護を示さない。
図10図10は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のHSP70mRNA発現を示す。EGCGおよびtBHQは、セラストロール誘導HSP70発現の相乗的増加をもたらす。
図11図11は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のHSP32(HO-1)mRNA発現を示す。EGCGおよびtBHQは、セラストロール誘導HSP32発現の相乗的増加をもたらす。
図12図12は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるヒトMSC(hMSC)内のHSP70mRNA発現を示す。EGCGは、セラストロール誘導HSP70発現の相乗的増加をもたらす。
図13図13は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるヒトMSC(hMSC)内のHSP32(HO-1)mRNA発現を示す。EGCGは、セラストロール誘導HSP32発現の相乗的増加をもたらす。
図14図14は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のFGF2mRNA発現を示す。EGCGおよびtBHQは、セラストロール誘導FGF2発現の相乗的増加をもたらす。TBHQとゲデュニンとの組合せはまた、FGF2mRNA発現を増加させた。
図15図15は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のVEGFαmRNA発現を示す。EGCGは、セラストロール誘導VEGF発現の相乗的増加をもたらす。
図16図16は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のカタラーゼ(CAT)mRNA発現を示す。EGCGおよびtBHQは、セラストロール誘導CAT発現の相乗的増加をもたらす。
図17図17は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)mRNA発現を示す。EGCGおよびtBHQは、セラストロール誘導GPx発現の相乗的増加をもたらす。
図18図18は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のグルタチオンレダクターゼ(GR)mRNA発現を示す。EGCGは、セラストロール誘導GR発現の相乗的増加をもたらす。tBHQは、低用量でのみ相乗効果を示す。
図19図19は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)mRNA発現を示す。EGCGは、セラストロール誘導SOD1発現の相乗的増加をもたらす。
図20図20は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のIL-1βmRNA発現を示す。セラストロールおよびゲデュニンは、EGCGおよびtBHQにより誘導されるIL-1β発現をダウンレギュレートする。
図21図21は、1時間処理および3時間ウォッシュアウトの後におけるrMSC内のTNFαmRNA発現を示す。EGCGおよびtBHQは、TNFαのセラストロール誘導およびゲデュニン誘導ダウンレギュレーションを相乗的に亢進する。
図22A図22Aは、rMSCの生存能および発現の結果の編集マップを示す(チェックマークは活性化レベルを示し、xは阻害効果レベルを示し、≠は効果欠如を示し、空のセルは実験を実施しなかったことを示す)。
図22B図22Bは、H9c2細胞のパラクリン生存能の編集マップを示す(チェックマークは活性化レベルを示し、xは阻害効果レベルを示し、≠は効果欠如を示し、空のセルは実験を実施しなかったことを示す)。
図23図23は、試験したセラストロールアナログを示す。
図24図24は、試験した潜在的補助剤のリストを示す。
図25A図25Aは、セラストロール単独または選択された補助剤との組合せでコンディショニングされたヒト間葉幹細胞(hMSC)内でリアルタイムPCRによる測定された選択された遺伝子のmRNA発現を表す表である。結果は、媒体処理細胞に対する変化倍率として表される。
図25B図25Bは、選択されたセラストロールアナログ単独または選択された補助剤との組合せでコンディショニングされたヒト間葉幹細胞(hMSC)内でリアルタイムPCRによる測定された選択された遺伝子のmRNA発現を表す表である。結果は、媒体処理細胞に対する変化倍率として表される。
図26-1】図26A~26Cは、リアルタイムPCRにより測定されたヒト間葉幹細胞(hMSC)内の細胞保護遺伝子のmRNA発現に関するセラストロールまたはセラストロールアナログと選択された補助NRF2アクチベーターとの共処理の結果を示す。媒体処理細胞と比較してVEGF、FGF2、HO1、およびSDF1遺伝子の発現に関して≧1,5倍の優れた処理組合せのみが保持される。結果は、媒体処理細胞に対する変化倍率として表される。(任意の血管新生指数:(VEGFa+FGF2+SDF1)×2)(A=相加効果、S=相乗効果)。
図26-2】図26-1の続きである。
図26-3】図26Dは、セラストロール(1μM)単独または2HBA(1μM)との組合せによるヒト間葉幹細胞(hMSC)の1時間処理ならびに続いて梗塞マイクロ環境で観察されうる正常酸素または低酸素(<1%O)のいずれかおよび低血清(0,2%FBS)の条件の24時間インキュベーションの後における抗酸化剤、成長因子、およびマトリックスリモデリングのmRNA遺伝子発現のTaqManパネル(Thermo Fisher)を示す。結果は、媒体処理hMSCに対する変化倍率として表される。
図26-4】図26Eは、セラストロール(1μM)単独または補助処理剤(2HBA 1μM、EGCG 10μM、またはクルクミン5μM)との組合せのいずれかによるH9c2心筋芽細胞の1時間処理ならびに続いて梗塞マイクロ環境で観察されうる正常酸素または低酸素(<1%O)のいずれかおよび低血清(0,2%FBS)および低グルコースの条件の3時間インキュベーションの後におけるHO-1(上側パネル)およびVEGFa(下側パネル)の遺伝子mRNAのリアルタイムPCR発現を示す。結果は、媒体処理H9c2に対する変化倍率として表される。
図26-5】図26Fは、セラストロール(1μM)および選択された補助化合物(1μM)の1時間共処理ならびに続いて梗塞マイクロ環境で観察されうる正常酸素または低酸素(<1%O)のいずれかおよび低い血清(1%FBS)の条件の48時間インキュベーションの後におけるヒト間葉幹細胞(hMSC)により培養培地中に分泌されたVEGFaタンパク質含有量の測定結果(Thermo Fisher;Bio Plex 200,Bio Rad)を示す。
図27A図27Aは、凍結保存前のセラストロールによる1時間プレコンディショニングが細胞解凍後にrMSC生存能を向上させることを示す。
図27B図27Bは、in vivoセラストロール処理が酸化ストレス誘導死に耐えるようにrMSCを用量依存的にコンディショニングすることを示す。
図28図28は、共焦点顕微鏡法(Olympus、FV1000MPE/BK61WF)実験から得られた写真であり、(A)セラストロールを含まないまたは(B)セラストロール(1μM)を含むHBSS培地中で一晩コンディショニングされたブタ細動脈を示す。血管セクションは、LIIVE/DEADキットを用いて染色した。矢印は、媒体を含有する培地中の死細胞および分解内皮層の領域を指し、一方、代表的な血管画像は、セラストロール追加培地を用いて内皮層の生存能および健全性の維持を示す。
図29A図29Aおよび29Bは、セラストロール(1μM)による5~120分間刺激および続いて0~24時間回復を行った異なる細胞型における全細胞抽出物または核および細胞質画分のいずれかのタンパク質発現を示すウェスタンブロットである。
図29B図29Aの続きである。
図29C図29Cは、6時間低酸素チャレンジ後に0,25μMまたは0,50μMの濃度のセラストロールまたはラディシコール(Radiciol)で30分間プレコンディショニングされたインスリン分泌INS-1細胞の生存能指数を表すヒストグラムである。結果は媒体処理細胞と比較される。
図30図30は、10mg/kg用量のLPSを摂取したラットにおいてセラストロール1mg/kgが致死的血圧低下を予防することを示すグラフである。
図31図31は、1回のセラストロール(1mg/kg)注射がラットの腎臓において60分以内にHsp32(HO-1)の発現を誘導することを示すウェスタンブロットの写真である(aを参照されたい)。セラストロールは、腎虚血を起こしているラットの非結紮対照腎臓においてHsp70の発現を増加させることから、全身感受性および細胞保護反応の増加が示唆される(bを参照されたい)。
図32図32は、低酸素ストレス時、酸化ストレス時、および低酸素/再酸素化ストレス時におけるH9c2細胞の生存能に対するセラストロール(供給業者から購入したセラストロール1c、合成アナログを生成するために使用したセラストロール2および3)およびセラストロールアナログの効果をまとめた表である。
図33-1】図33A~Hは、全心温虚血後の再灌流による媒体(DMSO)処理と比較したA、B)+/-dP/dt、C)発生圧(最大圧-最低圧)、D)拡張末期圧(EDP)、およびE)収縮指数の変化より示されるように、セラストロール(10-7mol/L最良用量)およびアナログ1(10-8mol/L用量)がI/R誘導収縮期機能不全から心臓を保護したことを示唆する。
図33-2】F)冠脈予備血流(CRF)は処理で維持され、G)高感度トロポニンT(TNT-hs)放出およびH)TTC染色により測定される梗塞領域は、I/R傷害後の媒体(DMSO)処理心臓と比較してセラストロールおよびアナログの処理群では有意に低減した。
図34図34A~Dは、媒体(DMSO)処置動物と比較してA)駆出率(EF)、B)心拍出量(CO)、C)内径短縮率(FS)、およびD)心拍出量(SV)を維持することによりセラストロール(1mg/Kg)およびアナログ1(1mg/Kg)がI/R傷害後の心機能を保護することを示唆する。
図35図35は、ルシフェラーゼレポーターアッセイにより測定される熱ショック反応(HSR)および抗酸化反応(AR)に対するセラストロール(供給業者から購入したセラストロール1c、合成アナログを生成するために使用したセラストロール2および3)およびセラストロールアナログの効果をまとめた表である。1μMの固定用量におけるEC50、最大誘導倍率、および反応活性化が報告される。化合物は、HSR経路およびAR経路の刺激の有効性および効力の編集結果に基づいてランク付けされる。
図36図36は、細胞保護遺伝子のアップレギュレーションをもたらすHSRおよびARの誘導の提案されたセラストロール機序を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0126】
本出願では、本出願人は、セラストロールが、さまざまな損傷から細胞および組織を保護するのに有用でありうるとともに、移植片や器官などの複合組織の一部である細胞の生存性を向上させうることを示した。たとえば、セラストロール単独または補助剤との組合せでプレコンディショニングされた幹細胞は、ストレスおよび/または損傷から細胞を保護するとともに、パラクリンメディエーターおよび成長因子の分泌を刺激して細胞の治療プロファイルを向上させる。
【0127】
本出願人はまた、類似または増加した細胞保護効果を有するセラストロール(Celastol)アナログを同定するとともに、セラストロールおよび/またはセラストロールアナログとの併用で相乗的または相加的な細胞保護効果を有するいくつか治療剤の組合せを同定した。
【0128】
細胞保護HPSのアップレギュレーションをもたらすHSRおよび抗酸化反応の誘導のセラストロール機序は、図37に模式化される。
【0129】
より特定的には、セラストロールの作用機序は、1)迅速かつ一過性の細胞防衛機序の活性化を含む。より特定的には、セラストロールは、転写因子核因子エリスロイド2関連因子2(NRF2)のリプレッサーKEAP1の活性をモジュレートすることにより、核へのNRF2の移行を可能にするとともに、ARE(抗酸化反応エレメント)に結合して保護抗酸化メディエーターおよびHO1(HSP32)などの酵素の転写を活性化する。
【0130】
セラストロールの作用機序はまた、2)長期の保護および生存を保証する細胞経路の活性化を含む。すなわち、セラストロールは、HSP90の本質的なコシャペロンすなわちCdc37をアンタゴナイズすることにより、HSF1をそのシャペロンリプレッサーHSP90から解離させる。こうしてHSF1のリン酸化、三量体化、核移行、およびHSE(熱ショックエレメント)への結合が起こり、それによりHSP27、HSP32、およびHSP70をはじめとする細胞保護熱ショックタンパク質(HSP)のde novo転写が誘導される。
【0131】
セラストロールの作用機序は、3)保護シグナリングの誘導/増幅をさらに含みうる。すなわち、セラストロールは、ROSの産生を刺激することにより上記の機序を活性化しうるとともに、それにより保護シグナリング経路の活性化を引き起こす。
【0132】
本発明の記載に関連した(とくに特許請求の範囲に関連した)「a」および「an」および「the」という用語ならびに類似の参照語の使用は、とくに本明細書に指定がない限りまたは文脈上明らかな矛盾がない限り、単数形および複数形の両方を包含するものと解釈すべきである。
【0133】
「comprising(~を含む)」、「having(~を有する)」、「including(~を含む)」および「containing(~を含有する)」という用語は、とくに断りのない限り、オープンエンドの用語として解釈すべきである(すなわち、「including,but not limited to(限定されるものではないが、~を含む)」を意味する)。
【0134】
本明細書における値の範囲の列挙は、とくに本明細書に指定がない限り、この範囲内に含まれる個々の各値を個別に参照する簡略表記法として機能することが単に意図され、個々の各値は、あたかも本明細書に個別に列挙されたがごとく本明細書に組み込まれる。範囲内の値のサブセットもすべて、あたかも本明細書に個別に列挙されたがごとく本明細書に組み込まれる。
【0135】
同様に、本明細書では、各種置換基およびこれらの置換基に対して挙げられた各種基を有する一般化学構造は、任意の置換基に対する任意の基の組合せにより得られるあらゆる分子を個別に参照する簡略表記法として機能することが意図される。各個別分子は、あたかも本明細書に個別に列挙されたがごとく本明細書に組み込まれる。さらに、一般化学構造内の分子のサブセットはすべて、および同一の化合物ファミリーに属する構造/分子もすべて、あたかも本明細書に個別に列挙されたがごとく本明細書に組み込まれる。
【0136】
本明細書に開示される実施形態および特徴のいずれの組合せおよび部分的組合せもすべて、本発明に包含される。
【0137】
本明細書では、「about(約)」という用語はその通常の意味を有する。「about(約)」という用語は、値がその値を決定するために利用されるデバイスもしくは方法に固有の誤差の変動を含むことまたは列挙された値に近い値、たとえば、列挙された値(もしくは値の範囲)の10%以内もしくは5%以内の値を包含することを示唆するために用いられる。
【0138】
本明細書に記載の方法はすべて、とくに本明細書に指定がない限りまたは文脈上明らかな矛盾がない限り、任意の好適な順序で実施可能である。
【0139】
本明細書に提供されるいずれの例または例示的表現(たとえば、「such as(~などの)」)の使用もすべて、単に本発明をより良く例示することが意図されたものであり、とくに特許請求されない限り本発明の範囲に限定を課すものではない。
【0140】
とくに定義がない限り、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されているものと同一の意味を有する。
【0141】
本発明は、細胞死に対する細胞の耐性(たとえば、酸化および/または低酸素ストレス誘導死、熱、酸化、H、低酸素、カプセル化などをはじめとする他の物理的または化学的または機械的なストレッサーに対する耐性)を向上させる方法を提供する。前記方法は、細胞と、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する有効量の1種以上の化合物と、を接触させる工程を含む。本発明は、細胞死に対する細胞の耐性を向上させるためのおよび細胞の機能を向上させるための、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する1種以上の化合物の使用を提供する。
【0142】
本発明はまた、移植または輸液された細胞の生存能および保持性を向上させる方法を提供する。前記方法は、移植または輸液の前および/または後に、細胞と、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する有効量の1種以上の化合物と、を接触させる工程を含む。
【0143】
本発明はまた、幹細胞の治療プロファイルおよび機能を向上させる方法(移植片マイクロ環境のパラクリン寛解のための、成長因子、抗酸化酵素、熱ショックタンパク質、ケモカイン、および抗炎症性サイトカインをはじめとする有益なタンパク質の活性化)を提供する。前記方法は、幹細胞と、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する有効量の1種以上の化合物と、を接触させる工程を含む。
【0144】
本発明はまた、細胞死(たとえば、低酸素および/もしくは酸化および/もしくは低酸素/再酸素化のストレスにより誘導される細胞死)に対する細胞の耐性の向上ならびに/または移植もしくは輸液された細胞の生存能および保持性の向上に有用でありうる1種以上の化合物を同定する方法を提供する。前記方法は、(i)細胞と前記1種以上の化合物とを接触させることと、(ii)HSF1経路およびNRF2経路が前記細胞において活性化されるかを決定することと、を含み、前記経路の活性化は、前記1種以上の化合物が細胞死に対する細胞の耐性の向上ならびに/または移植もしくは輸液された細胞の生存能および保持性の向上に有用でありうる指標となる。
【0145】
本発明はまた、細胞の移植または輸液を必要とする被験体を治療する方法を提供する。前記方法は、(a)移植される細胞と、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する有効量の1種以上の化合物と、を接触させることと、(b)前記被験体において(a)の細胞を移植または輸液することと、を含む。
【0146】
「熱ショック因子タンパク質1(HSF1)経路を活性化する化合物」という表現は、シャペロンリプレッサーHSP90複合体からのHSF1の放出の直接的もしくは間接的な増加および/またはその核への移行の活性化またはその細胞内含有量の増加によりHSF1媒介転写を増加させることが可能な任意の作用剤(低分子、ペプチド、タンパク質、抗体、オリゴマーなど)を意味する。それは、HSP90のコシャペロン、たとえば、Cdc37およびp23をアンタゴナイズして、HSF1の解離/活性化またはHSF1タンパク質自体をもたらす作用剤を含む。
【0147】
「核因子(エリスロイド由来2)様2(NRF2)経路を活性化する化合物」という表現は、リプレッサーのケルヒ様ECH関連タンパク質1(KEAP1)からのNRF2の放出の直接的もしくは間接的な増加および/またはその核への移行の活性化またはその細胞内含有量の増加によりNRF2媒介転写を増加させることが可能な任意の作用剤(低分子、ペプチド、抗体、オリゴマーなど)を意味する。KEAP1は、NRF2との相互作用を媒介する6つのケルヒリピート(残基327~372、373~423、424~470、471~517、518~564、および565~611)を含む。NRF2の残基69~84、より特定的には残基76~84(保存ETGEモチーフを包含する)は、KEAP1との相互作用に関与する。NRF2経路を活性化する化合物の例としては、セラストロール、tBHQ、CDDO、カルノソール、アンドログラホリド、カフェストール、スルフォラファン、クルクミン、EGCG、ピリチオン、レスベラトロール、ゲデュニン、ケルセチン、ビス(2-ヒドロキシベンジリデン)アセトン(2-HBA)またはHBB2、1,2-ジチオール-3-チオン(D3T)、アセチレン系三環式ビス(シアノエノン)(TBE31)、アントテコール、ウィタノライド(Whitanolides)、およびそれらのアナログまたはアルカロイドのメンバー、キノンおよびキノンメチド、ガンボギン酸、リモノイド、ロテノイド、テルペノイド、フラノイド、カテキン、アルケニル、炭水化物、フラボノイド、または芳香族ファミリーが挙げられる。
【0148】
実施形態では、本方法は、HSF1経路およびNRF2経路の両方を活性化する1種の化合物の使用を含む。他の実施形態では、本方法は、HSF1経路およびNRF2経路を活性化する2種以上の分子、たとえば、HSF1経路を活性化する第1の化合物とNRF2経路を活性化する第2の化合物、またはHSF1およびNRF2の経路を活性化する第1の化合物とNRF2経路のみを活性化する第2の化合物などの使用を含む。
【0149】
実施形態では、1種以上の化合物は、セラストロールもしくはそのアナログ、ウィタノライドファミリーの化合物(たとえば、ウィタノライドA、ウィタフェリンA)もしくはそのアナログ、リモノイドファミリーの化合物(たとえばゲデュニン)もしくはそのアナログ、クルクミノイド(たとえばクルクミン)もしくはそのアナログ、スルフォラファンもしくはそのアナログ、スルホキシチオカルバメートアルキン(STCA)もしくはそのアナログ、ノボビオシンもしくはそのアナログ、ロニダミンもしくはそのアナログ、ガメンダゾールもしくはそのアナログ、バルドキソロン/CDDO化合物(たとえば、CDDO-im)もしくはそのアナログ、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)もしくはそのアナログ、(1E,4E)-1,5-ビス(2-ヒドロキシフェニル)-1,4-ペンタジエン-3-オン(HBB2)またはそのアナログ、アセチレン系三環式ビス(シアノエノン)(TBE-31)もしくはそのアナログ、エピガロカテキンガレート(EGCG)もしくはそのアナログ、またはそれらの任意の組合せを含む。本明細書で用いられる「アナログ」という用語は、参照化合物の基本構造または骨格構造を有するがHSF1経路および/またはNRF2経路の生物学的活性を消失しない1つ以上の修飾(たとえば、結合次数、1つ以上の原子および/または原子団の不在または存在、ならびにそれらの組合せ)を含む化合物を意味する。たとえば、セラストロールアナログ(五環式トリテルペン化合物)は、Klaic et al.,ACS Chem Biol.2012 May 18;7(5):928-937およびPCT国際公開第2015/148802号パンフレットに記載されている。
【0150】
実施形態では、1種以上の化合物の少なくとも1つは、HSP90阻害剤、HSP90のN末端またはC末端の阻害剤、好ましくはHSP90補因子阻害剤である。
【0151】
実施形態では、1種以上の化合物の少なくとも1つは、NRF2誘導活性を有する。
【0152】
実施形態では、単独で使用される化合物の活性と比べて向上した(たとえば相乗的)活性を示す化合物の組合せが使用される。化合物の組合せの例としては、(i)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)EGCGもしくはそのアナログ、(ii)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)tBHQもしくはそのアナログ、(iii)(a)ゲデュニンもしくはそのアナログ、および(b)EGCGもしくはそのアナログ、(iv)(a)ゲデュニンもしくはそのアナログ、および(b)tBHQもしくはそのアナログ、(v)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)2HBAもしくはそのアナログ、(vi)(a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)クルクミンもしくはそのアナログ、または(vii)a)セラストロールもしくはそのアナログ、および(b)カルノソールもしくはそのアナログが挙げられる。
【0153】
本明細書で用いられる場合、「補助剤」という用語は、細胞の生存性、生存能、またはストレスもしくは損傷に対する耐性を向上させうる作用剤を意味する。「補助剤」は、たとえば細胞表現型をモジュレートしうるとともに、抗酸化剤およびNRF2アクチベーターを含みうる。補助剤としては、たとえば、2HBA、アンドログラホリド、アスコルビン酸、カフェストール、カルノソールバルドキソロン-イミダゾール(CDDO-im)、カルコン、N6-[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]-3-ニトロ-2,6-ピリジンジアミン(CHIR98014)、コングロバチン、クルクミン、シクロアストラゲノール、1,2-ジチオール-3-チオン(D3T)、ドラマピモド、エダラボン、EGCG、ガンボギン酸、ガネテスピブ、ゲデュニン、IQ-1、リモニン、ロニダミド、メラトニン、ベンズアミドテトラヒドロインドロン、N886、アルキルアミノビフェニルアミド、ノボビオシン、ピリドキサール5’-リン酸(P5’-P)、ピリチオン、ケルセチン、ラディシコール、レスベラトロール、N-(2-シアノ-3,12-ジオキソ-28-ノルオレアナ-1,9(11)-ジエン-17-イル)-2,2-ジフルオロ-プロパンアミドまたはオマベロキソロン(RTA-408)、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール(SB202190)、3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(SB216763)、SNX-5422(PF-04929113)、ナトリウムブチレート、スルホラン、テトラブロモベンゾトリアゾール(TBB)、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)、バルプロ酸(valporic acid)、ウィタフェリンA、エルゴステロール、ルペノン、および任意のかかる補助剤のアナログが挙げられる。
【0154】
本明細書で用いられる場合、「セクレトーム」という用語は、生物細胞、組織、器官、および生物により分泌される有機分子および/または無機元素を意味する。
【0155】
本明細書で用いられる場合、「細胞の状態をモジュレートする」という表現は、細胞表現型、ある特定の遺伝子の発現パターン、またはある特定のタンパク質の分泌パターンの変化を意味する。
【0156】
本明細書で用いられる1~6個の炭素原子の直線状アルキル基(すなわち、C1~C6アルキル)という表現は、直線状または分岐状の部分を有するかつ1~6個の炭素原子を含有する飽和1価炭化水素基を意味する。「分岐状アルキル基」という用語は、1つ以上の第3級または第4級炭素原子を含むアルキル基を意味する。アルキル基は、置換(OH、NH、I、F、Cl、Br、CN)または非置換でありうる。かかる基の例としては、限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、およびtert-ブチルが挙げられる。
【0157】
本明細書で用いられる場合、「置換」という用語は、基の1つ以上の水素原子が、独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、シアノ、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、クロロメチル、トリクロロメチル、トリフルオロメチル、メトキシエチルなどから選択される置換基で置き換えられた基を意味する。
【0158】
本明細書で用いられる場合、「1~3個の炭素原子の低級アルキル基」という用語は、メチル、エチル、プロピルを意味する。
【0159】
実施形態では、1種以上の化合物は、1種以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、および/または希釈剤をさらに含む医薬組成物中に存在する。本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容可能」(または「生物学的に許容可能」)とは、in vivoで毒性のまたは有害な生物学的作用が不在である(または限られる)ことにより特徴付けられる材料を意味する。それは、過剰な毒性、炎症、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴うことなく、妥当な便益/リスク比に見合って、健全な医学的判断の範囲内で、被験体(たとえば、ヒト、動物)の生物学的流体および/または組織および/または器官に接触させて使用するのに好適な化合物、組成物、および/または投与製剤を意味する。
【0160】
「薬学的に許容される担体、賦形剤、および/または希釈剤」という用語は、医薬組成物の調製に通常使用される添加剤を意味し、たとえば、溶媒、分散媒、生理食塩水溶液、界面活性剤、可溶化剤、滑沢剤、乳化剤、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、キレート化剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、還元剤、抗酸化剤、等張化剤、吸収遅延剤などを含む(たとえば、Rowe et al.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,Pharmaceutical Press;6th edition,2009を参照されたい)。
【0161】
実施形態では、1種以上の化合物は、細胞移植/組織工学のためのスキャフォールド材料、たとえば、幹細胞用のスキャフォールドとして通常使用されるバイオ材料、ポリマー、および/またはマトリックスとの組合せ/混合を行いうる。
【0162】
1種以上の化合物は、任意の従来の経路を介した投与、たとえば、静脈内、経口、経真皮、腹腔内、皮下、経粘膜、筋肉内、鼻腔内、肺内、非経口、または局所の投与に供すべく製剤化されうる。かかる製剤の調製は、当技術分野で周知である(たとえば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott Williams & Wilkins;21st edition,2005を参照されたい)。
【0163】
また、以下の実施例に示されるように、1種以上の化合物で処理された細胞の培地(たとえばセクレトーム)は、死からの保護を付与しうるので、実施形態では、本明細書に記載の方法は、1種以上の化合物の存在下で細胞集団(たとえば、間葉幹細胞、CD133細胞、膵細胞、腎細胞、上皮および内皮細胞)を培養することと、前記培養物から培地または上清を捕集することと、前記培地または上清の存在下で細胞を接触させることと、を含む。
【0164】
実施形態では、細胞は、幹/多能性/前駆細胞または分化細胞、たとえば、造血幹細胞(HSC)、造血前駆細胞(HPC)、多能性前駆細胞(MPP)、リンパ球前駆細胞、ミエロイド前駆細胞、間葉幹細胞(MSC)、脂肪由来幹細胞(ADSC)などである。他の実施形態では、細胞は分化細胞である。
【0165】
細胞の出発集団は、好適な細胞を含有する身体または身体の器官から得られうる。捕集された細胞は、当業者に公知の方法により、たとえば、ある特定のマーカー(たとえば、CD34、CD133)の発現に基づいて、ある特定の特性を有する細胞を富化しうる。さらに、出発細胞集団は、直接使用しうるか、またはより後の時点で使用するために凍結貯蔵しうる。そのため、最初に、細胞集団を、プラスチック製品への接着または特異的細胞マーカーに基づく細胞のネガティブ選択および/もしくはポジティブ選択を含む富化工程または精製工程に付して、出発細胞集団の提供、たとえば、MSCが富化された出発細胞集団の提供を行いうる。特異的細胞マーカーに基づいて前記出発細胞集団を単離する方法は、蛍光標示式細胞分取(FACS)技術または特異的細胞表面マーカーと相互作用する抗体もしくはリガンドが結合された固体もしくは不溶性基材を使用しうる。たとえば、抗体を含有する固体基材(たとえば、ビーズカラム、フラスコ、磁気粒子)に細胞を接触させ、そしていずれの非結合細胞も除去する。磁性または常磁性のビーズを含む固体基材を使用する場合、ビーズに結合された細胞は、磁気分離器を用いて容易に単離可能である(たとえば、磁気細胞選別、MACS(登録商標)、Miltenyi Biotec(登録商標)のCliniMacs(登録商標)製品系列)。
【0166】
細胞は、たとえば大規模製造用バイオリアクターの通常の培養条件で、細胞の維持、成長、または増殖のいずれかに好適な培地中で培養しうる。細胞集団の培養条件は、さまざまな因子とくに出発細胞集団に依存して異なるであろう。好適な培養培地および条件は、当技術分野で周知である。本発明の方法は、組成に関連して、天然培地、半合成培地、または合成培地で行いうるとともに、形状に関連して、固形培地、半固形培地、または液状培地でありうる。また、細胞培養に使用される任意の栄養培地または規定培地でありうるとともに、1種以上の好適な因子が追加されうる。かかる培地は、典型的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、アミノ酸、ビタミン、サイトカイン、ホルモン、抗生物質、血清、脂肪酸、糖などを含む。培養時、必要に応じて、他の化学成分または生体成分を単独でまたは組合せで導入しうる。培地に導入されるかかる成分は、ウシ胎仔血清、ヒト血清、ウマ血清、インスリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、2-メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ナトリウムピルベート、ポリエチレングリコール、各種ビタミン、各種アミノ酸、寒天、アガロース、コラーゲン、メチルセルロース、各種サイトカイン、各種成長因子などでありうる。培地は、化学的規定、血清フリー、および/またはゼノフリーでありうる。
【0167】
1種以上の化合物による処理時または処理後、維持、成長、および/または増殖に好適な条件下で、細胞を培養しうる。
【0168】
上記の効果を媒介するために使用される1種以上の化合物の量は、当業者により決定しうる。実施形態では、濃度は、約1nM~約1mM、約10nM~100μM、または約100nM~約10μMである。10-5M~10-10M(1μM~10μM、5μM~10mMを個別に含む)の濃度もまた、本発明により包含される。
【0169】
実施形態では、上記の接触させることは、培養培地に単回用量または複数回用量の1種以上の化合物を添加することを含む。
【0170】
化合物による処理は、in vivoで患者に、および細胞、組織、器官に施しうるとともに、次いで、以上に記載したように捕集しうる。
【0171】
次いで、細胞集団を洗浄して1種以上の化合物および/または細胞培養物の任意の他の成分を取り出し、そして適切な細胞懸濁培地中に再懸濁し、ウォッシュアウトするかまたは短期使用のために接触維持するかまたは凍結保存に好適な培地などの長期貯蔵培地中に維持しうる。
【0172】
細胞、より特定的には幹細胞の移植/輸液が奏効しうる被験体としては、心不全、狭心症、心筋梗塞(たとえば、心臓/心虚血)、不整脈、弁膜性心疾患、心筋/心膜疾患、先天性心疾患(たとえば、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、ファロー四徴症)、動脈疾患(たとえば、動脈硬化症、動脈瘤など)、静脈疾患(たとえば、静脈瘤)、重篤な肢または器官虚血(肝虚血など)、変形性関節疾患、骨関節炎、関節リウマチ、骨障害(たとえば、骨炎、骨粗鬆症、骨関節炎、骨肉腫)、皮膚障害(たとえば、乾癬、湿疹、皮膚癌)、角膜疾患(たとえば、円錐角膜、角膜炎)、肝疾患(たとえば、急性および慢性の肝不全、肝炎、尿素サイクル障害をはじめとする遺伝子欠損)、肺疾患(たとえば、COPD、ARDS、肺炎)、腎疾患(たとえば、CKD)、筋骨格傷害、腱炎、全身性疾患(たとえば、敗血症)、癌、障害、CNS疾患をはじめとする変性疾患(たとえば、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、ALS)、および脊髄傷害に罹患している被験体が挙げられうる。
【0173】
1種以上の化合物は、上述した疾患/障害/病態の治療に使用される他の療法/薬剤と組み合わせて使用しうる。1種以上の化合物は、任意の従来の剤形で投与または共投与しうる(たとえば、逐次的に、同時に、異なる時間に)。本発明との関連での共投与とは、改善された臨床アウトカムを達成するための協調治療の過程における2種以上の治療剤の投与を意味する。かかる共投与はまた、共延性でありうる。すなわち、時間のオーバーラップ期間中に生じうる。たとえば、1種以上の化合物は、追加の活性剤または療法を施す前、施すと同時、施す前かつ施した後、または施した後に被験体に投与しうる。活性剤(たとえば、1種以上の化合物および追加の活性剤)は、実施形態では、単一の組成物で組合せ/製剤化を行いうるので、同時に投与しうる。
【0174】
任意の好適量の1種以上の化合物またはそれを含む医薬組成物は、被験体に投与しうる。投与量および投与頻度は、投与モードをはじめとする多くの因子に依存するであろう。所与の疾患または病態の予防、治療、または重症度低減を行う場合、1種以上の化合物/組成物の適切な投与量は、治療される疾患または病態のタイプ、疾患または病態の重症度および経過、化合物/組成物が予防または治療のいずれの目的で投与されるか、以前の療法、患者の臨床歴および化合物/組成物に対する反応、ならびに担当医の自由裁量に依存するであろう。化合物/組成物は、好適には、一度にまたは一連の処理にわたり患者に投与される。好ましくは、in vitroで用量-反応曲線を決定し、次いで、ヒトで試験する前に有用動物モデルで決定することが望ましい。本発明は、化合物およびそれを含む組成物の投与量を提供する。たとえば、疾患のタイプおよび重症度に依存して、1日当たり約1μg/kg~1000mg/kg体重(mg/kg)である。さらに、有効用量は、約0.1mg/kg、0.2mg/kg、0.3mg/kg、0.4mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、100mg/kg、125mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、または200mg/kgでありうるとともに、25mg/kgの増分で1000mg/kgまで増加させうるか、または上記の値の任意の2つの間の範囲内でありうる。典型的な一日投与量は、以上に挙げた因子に依存して、約1μg/kg~100mg/kgの範囲内でありうる。数日間またはそれ以上にわたり繰返し投与を行う場合、病態に依存して、疾患症状の所望の抑制または臨床エンドポイントが得られるまで、治療を継続する。1種以上の化合物は、適切な頻度で、たとえば、1回、1日1回、1週間に2回、毎週、2週間に1回、毎月投与しうる。しかしながら、他の投与レジメンが有用でありうる。この療法の進行状況は、従来の技術およびアッセイにより容易にモニターされる。実際の用量は、各患者に特有の臨床因子に基づいて、担当医が注意深く選択調整しなければならないので、これらは、単なるガイドラインである。最適用量は、当技術分野で公知の方法により決定されるであろう。また、患者の年齢などの因子および他の臨床関連因子により影響されるであろう。それに加えて、患者は、他の疾患または病態に対する投薬を受けうる。
【0175】
同様に、プレコンディショニングされた細胞を患者に投与する場合、輸液される細胞の数は、性別、年齢、体重、疾患または障害のタイプ、障害のステージ、細胞集団中の所望の細胞のパーセント、治療効果を得るのに必要とする細胞の量などの因子を考慮するであろう。特定の一実施形態では、組成物は、静脈内注入により投与され、少なくとも約1×10細胞/kgまたは少なくとも約1×10細胞/kg、たとえば、約1×10細胞/kg~約1×10細胞/kg、または約1×10細胞/kg~約1×10細胞/kgを含む。
【0176】
本明細書に記載の方法を用いて治療しうる被験体は、限定されるものではないが、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、サル、または他のウシ科動物、ヒツジ科動物、ウマ科動物、イヌ科動物、ネコ科動物、齧歯動物、もしくはネズミ科動物の種、霊長動物をはじめとする哺乳動物、好ましくは男性または女性のヒトである。
【0177】
本明細書に記載の方法の他の用途としては、たとえば、組織、移植片(たとえば、血管移植片)、およびex vivo器官灌流(たとえば、肺灌流(EVLP))の保持が挙げられる。
【実施例
【0178】
本発明を実施するための形態
本発明は、限定されるものではないが以下の実施例によりさらに詳細に例示される。
【0179】
実施例1:細胞コンディショニング剤としてのHSP90コシャペロン阻害剤
in vivo細胞生存能を保証可能であるコンディショニング化合物を同定する試みの中で、セラストロールを用いた予備証拠に基づいて、文献およびSigma-Aldrich(登録商標)構造検索オンラインツールを介して同定された構造類似性を有する12種を超える化合物をスクリーニングした。低酸素ストレスにチャレンジされたヒトMSCの生存能を向上させる化合物の能力を測定した。スクリーニングされた分子は、そのほとんどが天然化合物であり、トリテルペノイド、リモノイド、ウィタノライド、ステロール、イソプレノイド/ジテルペン、およびフラボノイドとして分類可能である。HSP90のNT領域のATP結合ポケットを直接標的とするラディシコール(NT阻害剤)などの古典的HSP90阻害剤もまた、スクリーニングに加えた。スクリーニングは、低酸素ストレス時の細胞の生存能の向上(図1:A、B)およびレポーターベースのアッセイから分かるHSP発現の誘導能(図1C)に関して化合物のさまざまな有効性を示した。セラストロールと構造類似性を共有するウィタノライドおよびゲデュニンをはじめとする上位にスコア付けされた化合物のいくつかでは、これらの効率的コンディショニング化合物の多くは、HSP90コシャペロン相互作用を標的とするHSP90モジュレーターファミリーに属することが、新たな証拠から示される10 11 12
Roe SM.Et al.,J Med Chem 1999 Jan 28;42(2):260-6.
10Patwardhan C.A.et al.,J Biol Chem.2013 Mar 8;288(10):7313-25.
11Sreeramulu S.et al.,Angew Chem Int Ed Engl.2009;48(32):5853-5.
12Gu M.,et al.Invest New Drugs.2014 Feb;32(1):68-74.
【0180】
実施例2:セラストロールはin vivo移植細胞保持性を向上させるとともにパラクリン分泌を増強する
セラストロールは、移植細胞のin vivo生存能および保持性を向上させることが、以下に記載の結果から示される。簡潔に述べると、ラットMSCをコンディショニング化合物によりサスペンジョン状態で60分間処理した。次いで、細胞を洗浄し、蛍光セルトラッカーで標識し、そしてt=0でラット虚血左後肢に注射した。ART製のOptix(商標)MX3分子イメージングシステムを用いて9日目までin vivoで移植細胞を撮像した(図2:A、B)。プレ処理幹細胞のin vivo生存能および保持性の向上が結果から示され、レーザードップラースキャニングから分かる血流再建の向上傾向が説明される(図3)。ヒトMSCのセラストロール処理は、培養培地中で熱ショックタンパク質(HSP90aは7,0倍、HSP90bは2,2倍、HO1は2,2倍、HSP70は1,8倍)、成長因子およびサイトカイン(MCSFは24,4倍、HGFは2,1倍)、ならびに抗酸化反応関連遺伝子(GSHは2,8倍、TRXは2,5倍、CATは1,7倍)のレベルの増加から分かるように、幹細胞機能を維持および向上させることが、プロテオミクス分析から示される(図4)。
【0181】
簡潔に述べると、セラストロール(10E-6M~10E-8M)または媒体(ジメチルスルホキシド(DMSO))のいずれかを含有する低血清培地(αMEM 1×、1%(ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン―ストレプトマイシン(P-S))と共にラットMSCを1時間インキュベートした。次いで、培地を吸引し、培地(αMEM 1×、1%FBS、1%P-S)を3回交換して細胞を洗浄する。細胞をトリプシン処理し、蛍光イメージング(Optix MX2)で検出可能にする製造業者のプロトコルに従ってVybrant CFDA(Thermo Fisher Scientific)で染色する。次いで、Countess II FL自動セルカウンター(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞をカウントし、26G針およびシリンジを用いて全体積200μl中の生存可能な300万MSCをラット虚血後肢モデルの5つの異なる点に注射する。
【0182】
スプラーグ・ドーリーラット(CD CRL:Charles River)を麻酔し(イソフルラン2.5~3.0%(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)、1L/min酸素)、ブピバカイン(bupivicaine)を大腿(2mg/kg sc qd)の切開部位に注射する。左総大腿動脈を透明化し、伏在動脈の遠位部およびすべて側副枝および静脈を切除する。鼡径靭帯と膝との間の動脈の近位部および遠位部を切除する。そのため、大腿動脈の枝はいずれも側副枝を形成できない。各動物の右下肢をインタクトな状態に保持し、対照として機能させる。Vicryl 5-0を用いて創傷を閉じる。動物に塩酸ブプレノルフィン(0.05mg/kg s.c. bid 3日間)を投与し、Diamondソフトリター上のケージに配置する。外科手順の翌日、PBSまたは媒体もしくは実験化合物で前処理されたMSCを注射する。動物を麻酔し(イソフルラン2.5~3.0%(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)、1L/min酸素)、26G針およびシリンジを用いて四頭筋の5つの異なる点に細胞を直接注射する。
【0183】
ART製のOptix(商標)MX3分子イメージングシステムを用いて9日目までin vivoで移植細胞を撮像し、並行的に、ラットの後肢のドップラースキャニング(Moor instruments)を行うことにより、コンディショニングされたrMSCの移植後、ラット下肢の虚血モデル(n=3)で血流(膝下)の回復を調べた。
【0184】
セラストロールでコンディショニングされた細胞は、媒体で処理された細胞と比較して、ラット虚血後肢に移植された幹細胞の生存能および保持性を向上させ、かつ罹患肢の血流の漸進的回復(対数パターンに見られる)を改善する。
【0185】
実施例3:幹細胞ファーマコオプティマイザーの同定
幹細胞ファーマコオプティマイザーの同定基準
幹細胞ファーマコオプティマイザーの同定基準は、以下の2つの主要条件を好ましく満たす処理の能力に依拠する。
1. 細胞の処理は、虚血組織で観測される低酸素および/または酸化マイクロ環境においてとくに幹細胞移植との関連でin vivo生存能および保持プロファイルの向上を好ましくもたらす。
2. 細胞の処理は、正常な細胞表現型および/または機能の維持をできる限り好ましく可能にする。しかしながら、きわめて望ましいファーマコオプティマイザーはまた、有益または治療的な表現型を促進する細胞機能を向上させうる。組織修復がパラクリン活性を含む幹細胞の場合には、ファーマコオプティマイザーは、有益なタンパク質の分泌増強および/または有害なタンパク質の産生低減を好ましく行いうるとともに、それにより、移植片環境に対して有利なバランスおよび効果が得られる。
【0186】
候補幹細胞ファーマコオプティマイザーの試験方法
第1の主要条件を試験するために、MSC(ラットまたはヒトのいずれかの起源)を候補ファーマコオプティマイザーで処理し、洗浄し、虚血移植片マイクロ環境に存在する主要な致死ストレッサーをミミックする低酸素/血清飢餓(<1%O低酸素チャンバー内の低血清培地中に48~72時間)または酸化ストレス(0~2mM Hでスパイクされた培地中で1時間インキュベーション)に付した。LIVE/DEAD生存能/細胞傷害キット(Life Technologies(商標))を用いて細胞の生存状態を評価し、Harmony自動解析ソフトウェア(Perkin Elmer(商標))を備えたOperettaハイコンテントスクリーニング(HCS)機器により結果を定量する。
【0187】
第2の主要条件を試験するために、MSCを候補ファーマコオプティマイザーで1時間処理し、続いて、3時間のウォッシュアウト時間を設けた。細胞mRNAを抽出し、リアルタイムPCRにより対象遺伝子の発現を定量した。追加のMSC培養では、細胞を1時間処理し、洗浄し、低血清培地中で24時間培養した。次いで、MSCにより分泌されたパラクリン因子を含有する培地をH9c2心筋芽細胞細胞系に接触させて配置した。次いで、H9c2細胞を低酸素/血清飢餓(<1%O低酸素チャンバー内の低血清培地中に48時間)または酸化ストレス(0~1mM Hでスパイクされた培地中で1時間インキュベーション)に付した。以上に詳述したLIVE/DEADアッセイを用いてH9c2細胞の生存状態を評価した。
【0188】
コンディショニングされたMSCの保護およびコンディショニングされたMSC培地でインキュベートしたときにパラクリン機序によりH9c2に与えられる保護を担う機序を同定するために、2つの主要な細胞経路、すなわち、HSP90標的化を介する熱ショック経路(HSF1活性化)および/または核因子(エリスロイド由来2)様2(NRF2)経路を標的とするコンディショニング剤として各種分子を選択した。
【0189】
試験化合物(図5):
・セラストロール:強力なHSF1アクチベーター(HSP90補因子阻害)、NRF2アクチベーター
・ゲデュニン:HSF1アクチベーター(HSP90補因子阻害)、NRF2アクチベーター
・ラディシコール:HSF1アクチベーター(HSP90古典的ATP阻害剤)、NRF2活性の報告なし
・EGCG:HSF1活性化の報告なし(HSP90-CT阻害)、NRF2アクチベーター
・tBHQ:HSF1活性化の報告なし、NRF2アクチベーター
【0190】
図6~9に報告されるこれらの実験の結果は、以下のようにまとめうる。
・HSF1誘導可能な化合物(セラストロール、ゲデュニン、ラディシコール)は、低酸素誘導死から細胞を保護する(図6)。
・HSP90補因子阻害剤(セラストロール、ゲデュニン)は、パラクリン有効性のメディエーターを生成する(図6、7)。
・HSP90NT阻害剤(ラディシコール)は、パラクリン有効性のメディエーターを生成しない(図7)。
・HSP90CT阻害剤(EGCG)は、処理された細胞を低酸素から保護しないが、セラストロール誘導保護に関して相加効果を生じる。(図6)。
・NRF2アクチベーター(EGCG、ゲデュニン、セラストロール)は、処理された細胞を酸化ストレス誘導死から保護する。EGCGは、セラストロール誘導保護に関して相加効果を生じる(図8)。
・セラストロール以外のNRF2アクチベーター(EGCG、tBHQ、ゲデュニン)は、酸化ストレス誘導死からの保護のためのパラクリンメディエーターを生成する(図9)。
【0191】
まとめると、細胞生存能の向上に最適なファーマココンディショニング処理は、HSF1誘導可能なHSP90補因子阻害剤の活性(直接的パラクリン効果を介する低酸素誘導死に対する回復力)と抗酸化NRF2経路インデューサーの活性(直接的パラクリン効果を介する酸化ストレス誘導死に対する回復力)とを組み合わせたものであることが、これらの結果から実証される。EGCGは、セラストロール刺激細胞保護を強化するということが発見された。
【0192】
生存能向上(幹細胞ファーマコオプティマイザー選択の第1の基準)に加えて、発現プロファイルの向上(幹細胞ファーマコオプティマイザー選択の第2の基準)を、HSP、成長因子(GF)、抗酸化タンパク質/酵素、および炎症に関与するサイトカインのmRNA発現の定量を介して、評価した。単独および組合せの処理を試験した。
【0193】
試験した組合せ処理-第1の実験:
セラストロール(1μM)またはゲデュニン(1μM)+EGCG(1μM、10μM)またはTBHQ(1μM、5μM)
【0194】
図10~21に報告されるこれらの実験の結果は、以下のようにまとめうる。
【0195】
HSPの発現
・EGCGおよびtBHQは、セラストロール誘導HSP70およびHSP32発現の相乗的増加を生じる(図10、11)。2つの他のrMSC細胞系では、EGCGはまた、セラストロール誘導HSP70発現の相乗的増加を生じたが、tBHQは、セラストロール誘導変化に効果がなかった。
・EGCGは、ヒトMSCにおいてセラストロール誘導HSP70およびHSP32発現の相乗的用量依存増加を生じる(図12、13)。
【0196】
成長因子(GF)の発現
・EGCGは、FGF2およびVEGFのセラストロール刺激発現を相乗的に増強するが、TBHQは、FGF2およびVEGFの両方のセラストロール発現およびゲデュニン発現をそれぞれ増加および減少させる(図14、15)。
【0197】
抗酸化因子の発現
・EGCGは、CAT、GPx、GR、およびSOD1のセラストロール刺激発現を相乗的に増強する(図16、17、18、19)。
・tBHQは、CAT、GPx、GRのセラストロール刺激発現を相乗的に増強し(低用量tBHQ)、SOD1発現に効果がない。
【0198】
炎症性サイトカインの発現
・セラストロールおよびゲデュニンは、EGCGおよびtBHQによるIL1β誘導発現をダウンレギュレートする(図20)。
・EGCGおよびtBHQは、TNFαのセラストロールおよびゲデュニン誘導ダウンレギュレーションを増強する(図21)。
【0199】
まとめると、EGCGは、幹細胞機能に有利な因子のセラストロール刺激発現を相乗的に増強することが、これらの結果から示される。理論により拘束されることを望むものではないが、これは、セラストロール効果の向上のために未知のセラストロール機能リプレッサーまたはHSP90コンフォメーション安定化がEGCGにより阻害されることに起因しうる。相乗効果が少なくとも部分的にはNRF2メディエーターの活性化および/または細胞レドックスバランスの正常化に続いて起こりうることも、除外できない。実際には、HSP90阻害活性をまったく有していないtBHQは、MSCの少なくとも1つのラット系でセラストロール刺激発現に対して相乗効果または相加効果を示す。最後に、セラストロールまたはゲデュニンとのEGCGおよびtBHQの共処理はさらに、炎症性サイトカインをダウンレギュレートする。
【0200】
生存能および発現の結果の編集を図22Aおよび22Bに示す。好適な移植片マイクロ環境を提供する最適なファーマココンディショニング処理は、以下を組み合わせたものであるという証拠が、これらの結果から提供される。
1. 低酸素誘導死に対して細胞生存能を向上させるとともに各種有益なパラクリン因子(HSP、GF、抗酸化分子)の発現増加および炎症性メディエーターの発現低減を促進することが示されたHSP90阻害剤効果(HSF1誘導可能なHSP90補因子阻害)、および
2. 酸化ストレス誘導死に対する耐性を向上させるとともにある特定の有益なパラクリン因子の発現増強(相加的または相乗的)および/または炎症性サイトカインメディエーターのさらなるダウンレギュレーションを行うことが示されたNRF2活性(潜在的HSP90CT阻害を有する)
【0201】
興味深いことに、本出願人は、2HBA、tBHQ、およびEGCGがまた、セラストロールと組み合わせたとき、酸化ストレス(1mM H中で1時間インキュベーション)によりチャレンジされたH9c2心筋芽細胞の生存能を向上させる際に相乗的な向上をもたらすことを見いだした(図8B)。
【0202】
実施例4:幹細胞ファーマコオプティマイザーとしてのセラストロールアナログの同定
実施例3に記載のものに類似した方法を用いて、本出願人は、図23で例証されたものを含めていくつかのセラストロールアナログを試験し、幹細胞ファーマコオプティマイザーとして作用する能力を有するいくつかを同定した(図24、25A、25B、26A~26D)。
【0203】
本出願人はまた、セラストロールまたはセラストロールアナログと潜在的補助剤(たとえば、NRF-2アクチベーターおよび/または抗酸化剤、図24)とのいくつかの組合せ処理を試験し、HSP、成長因子(GF)、抗酸化タンパク質/酵素、サイトカイン、マトリックスリモデリングタンパク質の発現に対して相乗効果(S)または相加効果(A)を有するいくつかの組合せを同定した(図25A、25B、および図26A~26D)。これらのデータから分かるように、アナログ3、アナログ1、ジヒドロセラストロール、およびセラストロールは、最良クラスのHSP90阻害剤であり、2HBA、EGCG、クルクミン、tBHQ、およびカルノソールは、トップクラスの補助剤として同定された。
【0204】
そのほか、セラストロールと2HBA、EGCG、tBHQ、またはクルクミンとの組合せによるヒト間葉幹細胞(hMSC)の1時間処理は、48時間の通常培養後、VEGFタンパク質の相加的~相乗的な増加をもたらすが、梗塞マイクロ環境で見られる低酸素条件での同一細胞の48時間培養は、VEGFタンパク質のさらに多くの発現をもたらす(図26F)。セラストロールと2HBAおよびEGCG補助剤との組合せにより1時間処理してから正常酸素または低酸素の条件で3時間のウォッシュアウト時間を設けたH9c2心筋芽細胞でも、同一の観測結果、すなわち、HO-1抗酸化剤およびVEGFa血管形成因子のmRNA発現の増加が本質的に見られる(図26E)。
【0205】
実施例5:セラストロールは凍結保存後のrMSC生存能を向上させる
適正凍結保存は、凍結保存プロトコルが移植前に許容可能な解凍後生存能(≧70%)をもたらすことを実証する必要がある細胞処理実験室の重要な側面である。たとえば、凍結保存は、解凍肝細胞の著しい変化を誘導し、その生存能、付着、および機能を損なうことが、研究から実証されている。凍結保存前のセラストロールによるrMSCの1時間プレコンディショニングは、解凍後rMSC生存能を向上させることが、図27Aに提示された結果から示される。
【0206】
雄ラット(175~200g)後肢(hidlimb)骨髄から間葉幹細胞(MSC)を単離し、記載のように拡大させる。簡潔に述べると、Ficoll-Paque(Amersham)グラジエント遠心分離により骨髄単核細胞(BMNC)を単離し、10%FBS(Gibco)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(P-S:Invitrogen15140)を有する最少必須培地α1×(αMEM 1×:Gibco12571)中で培養する。48時間後、非付着細胞を廃棄し、新しい培地で細胞を洗浄する。ポリスチレン表面への優先的付着に基づいて造血細胞からMSCを分離する。MSCの複分化能は、特異的培養条件および染色を用いてin vitro脂肪生成および骨形成/軟骨形成分化アッセイにより確認される。免疫表現型の決定は、CD29、CD34、CD45、CD90、CD105(Coulter Immunology,Hialeah,FL,USA)などの表面抗原に対するモノクローナル抗体を用いてマルチパラメーターフローサイトメトリー(FACScan(登録商標)、Becton Dickinson、Mountain View,CA,USA)により実施する。in vitro実験では、MSCは第4~第10継代で使用されよう。
【0207】
細胞生存能プロトコル(凍結/解凍サイクル)
10%血清培地(αMEM 1×、10%FBS、1%P-S)中にMSCを再懸濁させ、マルチチャネルピペットを用いて4000細胞/ウェルの密度で96ウェルプレート中にプレーティングし、そして37Cでインキュベートする。各実験および対照の条件は、トリプリケートでプレーティングされる。翌日、培地を穏やかに吸引し、セラストロール(10E-6M)または媒体(DMSO)のいずれかを含有する低血清培地(αMEM 1×、1%FBS、1%P-S)と1時間交換する。次いで、培地を吸引し、培地(αMEM 1×、1%FBS、1%P-S)を3回交換して細胞を洗浄する。細胞をトリプシン処理し、Countess II FL自動セルカウンター(Thermo Fisher Scientific)を用いてカウントする。
【0208】
細胞凍結:以上に記載のトリプシン処理工程およびカウンティング工程の後、細胞を所望の密度でアリコートし、細胞濃厚液にDMSOを添加し(最終希釈1:10)、そしてあらかじめラベルが付けられたクライオバイアルに移した。凍結容器内にクライオバイアルを配置し、-80℃に一晩移行し、その後、-150℃に移行する。
【0209】
細胞解凍:あらかじめ加温された培養培地を凍結アリコートの上に注加することにより、凍結細胞を再び加温する。バイアルを遠心し(200×g、3min)、上清を吸引し、そしてあらかじめ加温された10%血清培地(αMEM 1×、10%FBS、1%P-S)中に細胞を再懸濁させる。トリパンブルー希釈液を細胞アリコートに添加し、Countess II FL自動セルカウンター(Thermo Fisher Scientific)を用いて生存能を測定する。
【0210】
実施例6:セラストロールはin vivoで酸化ストレス誘導死に対する耐性を向上させる
セラストロールの1または2回のいずれかの腹腔内注射(1mg/kg、12時間インターバル)によるスプラーグ・ドーリーラットのin vivoコンディショニングは、酸化ストレス誘導死(詳細は以下を参照)に耐えるように骨髄細胞を用量依存的にコンディショニングすることが、図27Bに提示された結果から示される。
【0211】
間葉幹細胞(MSC)は実施例5に記載のように単離される。
【0212】
in vivoコンディショニング
スプラーグ・ドーリーラット(CD CRL、Charles River)に12時間のインターバルでセラストロール(1mg/kg)または媒体の1または2回の腹腔内注射を行う。次いで、ラットを屠殺し、以上に記載のようにMSCを単離した。10%血清培地(αMEM 1×、10%FBS、1%P-S)中に再懸濁させることによりMSCを培養下に配置し、マルチチャネルピペットを用いて4000細胞/ウェルの密度で96ウェルプレート中にプレーティングし、そして37Cでインキュベートした。各実験および対照の条件は、トリプリケートでプレーティングされる。
【0213】
次いで、0mM、0,5mM、0,75mM、または1mM過酸化水素(ACP Chemicals、H7000)を含有する1%血清培地を用いたインキュベーションにより、細胞に60分間チャレンジする。次いで、αMEM 1×温培地で細胞を穏やかに2回洗浄し、製造業者のプロトコルに従ってLIVE/DEADキット(Thermo Fisher Scientific)で染色する。Harmonyハイコンテントイメージング・解析ソフトウェアのバージョン4.1が動作するハイコンテントスクリーニング(HCS)システムOperetta(Perkin Elmer,Waltham,MA)を用いて、画像をキャプチャーし解析する。セラストロールの1または2回のいずれかの注射によるスプラーグ・ドーリーラットのin vivo処理は、酸化ストレス誘導死に耐えるように骨髄細胞を用量依存的にコンディショニングすることが、本明細書に提示された結果から示される。
【0214】
実施例7:セラストロールは内皮層の生存能を維持する
ブタ頸動脈を採取し、閉環および半円開環の構造に切除し、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)中または10E-6Mの最終濃度でセラストロールを含有するHBSS中に一晩配置した。製造業者のプロトコルに従ってLIVE/DEADキット(Thermo Fisher Scientific)で頸動脈環を染色した。20×液浸対物レンズを用いて共焦点顕微鏡法(Olympus、FV1000MPE/BK61WF)により組織を撮像した。頸動脈内皮表面のZスタックも得た。図28は、セラストロールを用いない陰性対照と比較してセラストロールを用いたときの内皮層の生存能および健全性の保持を示し、矢印は、死細胞および内皮層健全性損失を指している(図28)。
【0215】
実施例8:セラストロールは細胞保護メディエーターを誘導する
セラストロールは、各種細胞型で同じように細胞保護メディエーター(生存キナーゼ:pAkt/Akt、pERK/ERK、抗酸化HO1、熱ショック反応タンパク質:HSF1、HSP70)およびタンパク質発現動態を誘導する(10-6M用量で5~120minの試験時間の処理、0~24時間のいずれかの回復、および続いて10-6Mセラストロールで1時間処理)。図29Aおよび29Bは、各種ラットおよびヒト細胞系(H9c2ラット心筋芽細胞、ヒトおよびラットMSC、ラット新生仔心筋細胞、INS-1インスリン産生ラットβ細胞系)で実施されたウェスタンブロットおよび生存能アッセイを表す。
【0216】
より特定的には、10%FBSを含有する完全培地(濾過溶液:1mM Naピルベート+50μM bメルカプトエタノール、10mM超高純度Hepes、2mM L-グルタミンが追加されたRPMI)中でINS-1細胞を培養した。細胞をトリプシン処理し(0,25%トリプシン-EDTA)、1500RPMで5分間遠心分離し、1%FBSが追加された完全INS培地中に再懸濁させる。血球計を用いて細胞をカウントし、9mlの1%FBS完全INS培地と、DMSO中に再懸濁させた2,5μlまたは5,0μlの1mM Hsp90阻害剤(セラストロール:Cayman Chemical70950、ゲルダナマイシン:Cayman Chemical13355、またはラディシコール:Cayman Chemical13089)と、を含有するSarstedtチューブ内に1~200万細胞を再懸濁させる。同様に対照サンプルを調製するが、Hsp90阻害剤を2,5μlまたは5,0μlのいずれかのDMSO媒体で置き換える。1%FBS完全INS培地を用いて細胞懸濁液の体積を10mlの最終体積になるように仕上げる。数回反転させて懸濁液を穏やかに混合し、チューブを37Cに30分間配置する。15分後、反転を繰り返す。次いで、チューブを1500RPMで5分間遠心し、培地を穏やかに吸引し、12mlの温RPMI溶液で細胞を洗浄する。回転および洗浄サイクルをさらに2回繰り返した後、それぞれ1または2百万細胞を含有するペレットに対して1%FBSを含有する2,5mlまたは5,0mlの完全INS培地を用いて細胞を再懸濁させる。次いで、マルチチャネルピペットを用いて、それぞれ40,000細胞を含有する100μlの細胞懸濁液アリコートを96ウェルプレート中にプレーティングする。各実験および対照条件は、クォドラプルでプレーティングされ、正常酸素または低酸素の条件で6時間インキュベートされる。培養プレートを気密低酸素チャンバー(Billups-Rothenberg)内に配置することにより低酸素(<1%酸素)を達成し、5%COと95%N残部とのガス混合物を用いて15~20リットル/minの流量で10分間フラッシュする。6時間のインキュベーション後、低酸素チャレンジ培養および正常酸素対照培養の培地を90μlの10%FBS完全INS培地と交換し、10μlのPrestoBlue試薬を各ウェルに添加する。60分間のインキュベーション後、プレートリーダーを用いて蛍光取得により生存能を定量する。
【0217】
セラストロールによるINS-1細胞の短時間プレコンディショニングは、致死低酸素ストレスによりチャレンジしたとき、細胞生存能を保護することが、これらのデータから示される(図29C)。
【0218】
実施例9:セラストロールはLPSにより誘導される致死的血圧低下からラットをレスキューする
ラットにおける梗塞サイズの減少および心機能の保持に関するセラストロールの効果に加えて、本出願人は、処置ラットにおいて血圧のモジュレーションを観察した。損傷(すなわち、虚血、酸化、炎症、壊死)に対する器官および組織の保持ならびに全身の圧力/灌流の保持に関する本明細書に記載の化合物および組合せ物の潜在能力を考慮すると、これらの病態に関連する器官不全および死亡の割合が高いことから、それらショックモデル(すなわち、敗血性、心原性)で使用することが望ましいであろう。実際に、米国では、年間750,000件を超える重篤な敗血症の症例が25~30%の死亡率で診断されており(Crit Care Med 29(7):1303Y1310,2001)、危機的な症状の心機能不全を含めて複数の器官の機能不全が原因とされる(Circulation 116(7):793Y802,2007)。我々は、ラットにおいて細菌リポ多糖(LPS)により誘導される敗血症性ショックモデルまたは内毒素モデルのいずれかの追加を提案する(Life Sci.,1997;60(15):1223-30)。
【0219】
簡潔に述べると、イソフルラン2.5~3.0%(Abbott Laboratories,Abbott Park,Ill.)、1L/min酸素でSDラットを麻酔し、低体温症を予防するために加熱ブランケット上に配置する。gelco#20カニューレを左外頸動脈に挿入し、圧力センサーにリレーする。代替的に、サイズに依存して、カニューレを左大腿動脈に挿入する。ラットを2%イソフルラン、1L/min酸素で保持し、基礎圧測定値を収集する。頸静脈を介するLPS(20~50mg/Kg)のi.v.注射およびセラストロール(1mg/Kg)のi.p.注射に反応する圧力動態を決定する。動物においてLPSの用量がさまざまでありうるとともに動物の年齢にも依存しうることは、特筆に値する(Infection and immunity,Mar 1996,Vol.64,no.3,p769)。我々の実験では、両方のラットに10mg/kgでLPSの第1のボーラスを投与した。両方のラットで一過性の血圧(BP)低下が起こった後、BPは安定化し、ベースライン値を取り戻した。次いで、300μlのセラストロール(1mg/Kg)または媒体(10%DMSO、70%Cremophor EL/エタノール(3:1)、20%PBS)のi.p.ボーラス注射のいずれかを個別ラットで実施した(図30の矢印を参照されたい。両方のラットに10mg/kgボーラスLPSの再注射を行う前、媒体処置ラットでは致死的血圧低下を生じるが、1回のセラストロール注射を行ったラットでは血圧が維持される(図30))。
【0220】
実施例10:セラストロールはラットの腎臓においてHsp32(HO-1)の発現を誘導する
本出願人は以前に、ラット虚血心筋においてセラストロールが心筋細胞の生存、傷害および有害なリモデリングの低減を促進して心機能を保持することを示した。本出願人は、この保護効果が他のタイプの虚血疾患で観察可能であるかを調べた。
【0221】
1L/minの酸素中の2.0%~3.0%のイソフルラン(Abbott Laboratories)でラットを麻酔し、加熱パッド上に仰臥位で配置した。外頸静脈を介して1mg/kgの用量で媒体溶液またはセラストロール((Cayman Chemical 70950)0,2μM濾過滅菌媒体:DMSO(Sigma 154938)(全体積の4%)、PBS 1×(全体積の96%)中に再懸濁された50mMストック溶液)の単回ボーラス注射をラットに行う。ラットを剃毛し、眼軟膏剤を角膜に適用し、胸骨の基底から始めて臍までの3~4cmの切開部位にブピバカイン(2mg/kg s.c.)を注射する。開創器を用いて切開部を開状態に維持し、無菌生理食塩水で湿らせたガーゼで腸を包む。左腎臓(K)を分離し、血管クリップで腎動脈を閉塞する。腸を腹腔内に再配置し、一時的3-0縫合糸(Ethicon)で皮膚を閉じる。ラットに塩酸ブプレノルフィン(0.05mg/kg s.c.)を投与し、30分間の虚血の間、1L/minの酸素中1.0%~2.0%イソフルラン(Abbott Laboratories)に維持し、クリップの除去後に追加の45分間の再灌流を行う。40mM KCl追加生理食塩水の灌流によりラットを瀉血し、器官を摘出し、冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS1X)で濯ぎ、PBSで緩衝された10%ホルマリン中に一晩保存し、組織学的/免疫組織学的切片を得るためにパラフィン包埋し、またはウェスタンブロット発現解析のために液体窒素中でスナップ凍結する。
【0222】
セラストロール(1mg/kg)の1回の注射でラットの腎臓において60分以内にHsp32(HO-1)の発現が誘導されることが、本明細書に提示されたウェスタンブロット解析の結果から実証される(図31)。さらに、セラストロールは、腎虚血を起こしているラット(K)の非結紮対照腎臓においてHsp70の発現を増加させることから、感受性および細胞保護反応の増加が示唆される。この現象はとくに興味深い。なぜなら、全身神経液性保護メディエーターが発生する可能性があるリモートコンディショニングに類似して臨床介入時に全身細胞保護が付与される可能性があり、潜在的関連合併症(たとえば、外科手順から発生する脳卒中)が低減することが示唆されるからである。
【0223】
実施例11:細胞生存能ならびにストレスおよび損傷からの保護に対するセラストロールおよびセラストロールアナログの効果
本出願人は、心筋梗塞のラットモデルにおいてH9c2ラット心筋芽細胞の低酸素培養に対するセラストロールまたはセラストロールアナログの効果を試験した。セラストロールまたはセラストロールアナログと補助剤との組合せは、同様に試験しうる。
【0224】
in vitro試験
細胞培養および刺激:
低酸素チャレンジおよび酸化チャレンジに対する生存性に関連して、H9c2心筋芽細胞を低酸素/血清飢餓(<1%O低酸素チャンバー内の低血清培地中に48時間)または酸化ストレス(0~1mM Hでスパイクされた培地中で1時間インキュベーション)に付す。LIVE/DEADアッセイを用いてH9c2細胞の生存状態を評価した。
【0225】
次いで、低酸素/再酸素化チャレンジを実施する。簡潔に述べると、すでに報告したようにラットH9c2心筋芽細胞において生存能解析を実施した。低酸素/再酸素化ストレスでは、血清飢餓状態で低酸素条件(<1%O)に配置されたグルコースなしDMEM(Life Technologies)中で細胞を18時間培養した。再酸素化(正常酸素条件)時、高グルコース1%FBSのDMEM中でセラストロール(10-10~10-6mol/L、Cayman Chemical,Ann Arbor,MI)、セラストロールアナログ、または媒体(ジメチルスルホキシド(DMSO)、Sigma-Aldrich Canada,Oakville,ON、最終濃度<1%v/v)で細胞を1時間処理し、次いで、高グルコースDMEM中で再酸素化をさらに5時間継続した。
【0226】
セラストロール(1μM)(供給業者から購入したセラストロール1c、合成アナログを生成するために使用したセラストロール2および3)ならびにセラストロールアナログアナログ3(1μM)、アナログ1(1μM)、アナログ2(1μM)、およびアナログ4(1μM)は、低酸素ストレスおよび低酸素/再酸素化ストレスからH9c2心筋芽細胞を保護するのに有効であることが、図32に提示された結果から示される。
【0227】
実施例12:虚血疾患の治療に使用されるセラストロールおよびセラストロールアナログ
すべてのex vivoおよびin vivo実験でルイスラット(250~300g、Charles River,St Constant,QC)を使用した。動物はすべて、実験動物管理使用ガイド(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って扱った。
【0228】
ex vivo試験
分離された灌流心臓調製物:
次の群、すなわち、媒体(n=6)、セラストロールまたはセラストロールアナログ10-8、10-7、または10-6mol/L(n=各5)にラットをランダムに帰属した。イソフルラン麻酔下で、ラットにヘパリン(I.P、1000I.U、Novartis,Dorval,QC)を注入し、心臓を摘出し、氷冷クレブス緩衝液(mmol/l単位:NaCl 113、KCl 4.5、NaHPO 1.6、CaCl 1.25、MgCl+6HO 1、D-グルコース 5.5、NaHCO 25)にただちに浸漬した。5%COおよび残部のOでバブリングした37℃のクレブス緩衝液を用いて、60~70mmHgの一定大動脈圧でLangendorffシステム(Radnoti,Monrovia,CA)により、心臓の逆灌流を行った。圧力トランスデューサーに接続されたラテックスバルーンを左心室(LV)に挿入し、15mmHg(LVプレロード)に調整した。心臓を300bpmにペース調整し、20分間安定化させた。
【0229】
Power lab 8/30ポリグラフ(ADinstruments,Colorado Springs,CO)を用いて心室内圧を連続測定し、LabChart pro v.7.3.7(ADinstruments)を用いて記録および解析を行った。
【0230】
セラストロール、セラストロールアナログ、または媒体(DMSO)が再灌流の開始時に心臓に接触することを保証するために、心臓ペースおよび灌流を30分間停止することにより達成される全温虚血の誘導時に系をプライムした。セラストロール(10-8、10-7、または10-6mol/L)または媒体を含むクレブス緩衝液を用いて再灌流を10分間開始し、次いで、120分間の全再灌流時間にわたり継続した(クレブス緩衝液)。
【0231】
安定化の終了時、5分間の再灌流時、次いで、合計60分間にわたり15分ごとに、心臓流出液を5分間捕集した。体積を測定し、解析までサンプルを-80℃に維持した。
【0232】
再灌流の終了時、心臓を横方向にスライスし(1~2mm)、37℃のリン酸緩衝生理食塩水pH7.4(TTC、Sigma-Aldrich Canada)中の5%2,3,5-トリフェニル-テトラゾリウムクロリドで20分間染色した15。スライスを秤量し、次いで、AxioCam ERc 5sカメラに結合されたStemi 508立体顕微鏡を用いて画像を取得し、Zen 2.3イメージングソフトウェア(Carl Zeiss Canada,Toronto,ON)で処理した。ImageJ 1.51hフリーウェア(NIH,Bethesda,MD)を用いて解析を行った。梗塞領域を心臓組織スライスの重量に規格化した。遺伝子およびタンパク質発現のために1スライス/心臓をスナップ凍結した。
【0233】
全心温虚血後の再灌流による媒体(DMSO)処理と比較したA、B)+/-dP/dt、C)発生圧(最大圧-最低圧)、D)拡張末期圧(EDP)、およびE)収縮指数の変化より示されるように、セラストロール(10-7mol/L最良用量)およびアナログ1(10-8mol/L用量)は、I/R誘導収縮期機能不全から心臓を保護することが、図33A~Hに提示された結果から示唆される。F)冠脈予備血流(CRF)は処理で維持され、G)高感度トロポニンT(TNT-hs)放出およびH)TTC染色により測定される梗塞領域は、I/R傷害後の媒体(DMSO)処理心臓と比較してセラストロールおよびアナログの処理群では有意に低減した。
【0234】
in vivo試験
次の群、すなわち、シャム(n=6)、媒体(n=8)、セラストロール1mg/Kg(n=6)、またはセラストロールアナログにラットをランダムに帰属した。2%イソフルラン麻酔下で、12MHzトランスデューサーを備えたSonos 5500イメージングシステム(Philips,Philips Healthcare,Andover,MA,USA)を用いて、ベースラインエコーカルジオグラフィーを記載のように行った12。測定結果はすべて、処理を盲検化して同じ経験を積んだ観測者により取得した。各測定に対して、3~5心周期を解析して平均した。
【0235】
エコーカルジオグラフィー後、動物にチューブを挿入し、機械的にベンチレートし、次いで、ブピバカイン2mg/kgを注射し、そして左胸を開いて心臓を露出させた。5-0絹糸スリップノットを用いて、左前下行枝の閉塞を行った。視覚的ブランチングおよびエレクトロカルジオグラフィー変化により心筋虚血を確認した。シャム動物では、縫合糸で結紮しなかった。30分後、縫合糸閉塞を解除した。セラストロール、セラストロールアナログ、または媒体は、急性全身送達のために心室内に注射し、次いで、胸部を閉じた。手術の終了時、ブプレノルフィン(0,05mg/Kg sc)およびカルプロフェン(5mg/Kg sc)を注射した。回復のために動物を24時間放置し、次いで、第2のエコーカルジオグラフィーを行った。動物を屠殺し、心臓組織をスナップ凍結し、ヘパリン処理されたチューブに血液を採取し、次いで、4℃で遠心分離した。血漿をスナップ凍結で、採取し、解析まで-80℃に維持した。
【0236】
セラストロール(1mg/Kg)およびアナログ1(1mg/Kg)は、媒体(DMSO)処置動物と比較してA)駆出率(EF)、B)心拍出量(CO)、C)内径短縮率(FS)、およびD)心拍出量(SV)を維持することによりI/R傷害後の心機能を保護し、かつセラストロールのこうしたin vivo保護効果は、心保護HSP70およびHO-1の組織発現の著しい向上に関連することが、図34の結果から示唆される。
【0237】
統計解析
データは、平均値±標準誤差または95%信頼区間のメジアンとして表される。繰返しのない測定の群比較には、ANOVA検定を使用した。繰返し測定では、線形混合効果モデルを群比較に使用した(SASソフトウェア、バージョン9.3のMIXED手順、SAS Institute,Cary,NC,USA)。群間差を評価した。指数や比などの非正規分布測定では、測定結果のlog変換を使用した。血行動態測定では、200測定程度/ラット/時間点をモデルで使用したので、それに応じて各単一測定に加重した(すなわち1/200)。すべての解析で、P<0.05を統計的に有意であるとみなした。
【0238】
実施例13:セラストロールおよびセラストロールアナログはHSRおよびAREエレメントの制御下にある遺伝子の発現をモジュレートする
96ウェルプレートのDMEM 10%FBS完全培地中に5,000細胞/ウェルの密度でH9c2ラット心筋芽細胞を播種し、製造業者のプロトコルに従ってリポフェクタミンを用いてCignalレポーターアッセイ熱ショック反応および抗酸化反応キット(SABiosciences、Qiagen)によりトランスフェクトした。翌日、セラストロール、アナログ、および他の各種化合物をDMEM 1%FBS培地中10E-5~10E-10Mの用量範囲でトリプリケートでウェルに4時間添加し、続いて、3時間のウォッシュアウト時間完全培地を設け、その後、デュアルルシフェラーゼアッセイ(Promega)を用いてシグナリング活性を測定した。セラストロール(供給業者から購入したセラストロール1c、合成アナログを生成するために使用したセラストロール2および3)ならびにセラストロールアナログのアナログ1、アナログ3、およびアナログ4は、熱ショック反応エレメント(HSR)または抗酸化反応エレメント(ARE)により部分的に制御されるレポーター遺伝子の発現を刺激する効力および効率が最高クラスの試験化合物であることが、図35にまとめられた結果から示される。
【0239】
本発明をその特定の実施形態により以上で説明してきたが、それは、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の趣旨および性質から逸脱することなく変更可能である。特許請求の範囲では、「comprising(~を含む)」という単語は、「including,but not limited to(限定されるものではないが、~を含む)」という語句と実質的に等価なオープンエンドの用語として用いられる。単数形の「a」、「an」、および「the」は、とくに文脈上明確な規定がない限り、対応する複数形の参照語を含む。
図1
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図33-2】
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