IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッドの特許一覧 ▶ ウニベルシタット ポリテクニカ デ カタルーニャの特許一覧 ▶ ウニベルシタット、デ、バルセロナの特許一覧

特許7009468バロカロリック材料の使用及びバロカロリック装置
<>
  • 特許-バロカロリック材料の使用及びバロカロリック装置 図1
  • 特許-バロカロリック材料の使用及びバロカロリック装置 図2
  • 特許-バロカロリック材料の使用及びバロカロリック装置 図3
  • 特許-バロカロリック材料の使用及びバロカロリック装置 図4
  • 特許-バロカロリック材料の使用及びバロカロリック装置 図5
  • 特許-バロカロリック材料の使用及びバロカロリック装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】バロカロリック材料の使用及びバロカロリック装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
C09K5/06 J
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2019520438
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2017076203
(87)【国際公開番号】W WO2018069506
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】1617508.5
(32)【優先日】2016-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(73)【特許権者】
【識別番号】518224831
【氏名又は名称】ウニベルシタット ポリテクニカ デ カタルーニャ
(73)【特許権者】
【識別番号】315018842
【氏名又は名称】ウニベルシタット、デ、バルセロナ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT DE BARCELONA
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル・エドゥアルド・モジャ・ラポソ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・アブラメンコ
(72)【発明者】
【氏名】リュイス・マニョサ・カルレラ
(72)【発明者】
【氏名】ホセ・リュイス・タマリット・ムール
(72)【発明者】
【氏名】ポル・マルセル・ジョベラス・ムンターネ
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】Efectes barocalorics en cristalls plastics,Grau en Enginyeria en Tecnologies Industrials,2016年,Pag.1(Resum)
【文献】Efectes barocalorics colossals en cristalls plastics derivats del neopenta,Grau d'Enginyeria en Tecnologies Industrials,2016年,p.1(Resum)
【文献】Demonstration of liquid crystal for barocaloric cooling application,arXiv,2016年,p.1-3
【文献】Phase Transition in Hydrogen-Bonded 1-Adamantane-methanol,CRYSTAL GROWTH DESIGN,2015年,pp.4149-4155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バロカロリック冷却剤又は加熱剤としての有機材料の使用であって、
前記有機材料が:
シクロアルキル基を含む柔粘性結晶;
アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される1以上の官能基を含む液晶;並びに
アルキルカルボン酸又はアルキルカルボン酸塩;
から選択される、使用
【請求項2】
前記有機材料が、有機化合物又はその塩である
前記有機材料が、最大で2,000の分子量を有する;
前記有機材料が、少なくとも50の分子量を有する;
前記有機材料が、有機化合物又はその塩であり、前記有機化合物が、2以上の炭素-炭素結合を有する;及び
前記有機材料が、有機化合物又はその塩であり、前記有機化合物が、2以上の炭素-水素結合を有する;
のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記有機材料が、柔粘性結晶であり、前記柔粘性結晶が、アダマンタンチル基を含む、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記アダマンタンチル基が、アルキル、ハロ、ヒドロキシル及びオキソから成る群から選択される1以上の官能基によって置換される、請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記有機材料が、アルキルカルボン酸又はアルキルカルボン酸塩であり、前記アルキル基が、3以上の炭素原子を有する、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項6】
前記有機材料が、炭化水素である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項7】
前記有機材料が、200から450Kの範囲内の温度で相転移を有する
前記有機材料が、一次相転移を有する;
前記有機材料が、少なくとも10JK -1 kg -1 の相転移でのエントロピー変化、|ΔS |、を有する;
前記有機材料における相転移が、少なくとも1kJkg -1 である潜熱、|Q |、を示す;及び
前記有機材料が、少なくとも1.0mm -1 の相転移での体積変化を有する;
のうちの少なくとも1つである、請求項1からの何れか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記有機材料が、圧力伝達媒体内に提供される、請求項1からの何れか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記有機材料が、リオトロピックではない、請求項1から8の何れか一項に記載の使用。
【請求項10】
静水圧が、前記有機材料の相転移温度の、50K内である温度で前記有機材料へ印加され、前記相転移温度が、前記静水圧がない場合の相転移に関する温度である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項11】
前記印加静水圧が、最大で1.0GPaである;及び
前記印加静水圧が、少なくとも0.1MPaである;
のうちの少なくとも1つである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
バロカロリック冷却又は加熱の方法であって、本方法が:
(i)有機材料へ静水圧を印加するステップと;
(ii)前記有機材料から又はそこへの熱流を許可するステップと;
(iii)印加圧力下である有機材料から静水圧を解放するステップと;
(iv)前記有機材料へ又はそこからの熱流を許可するステップと、を含み、
前記有機材料が:
シクロアルキル基を含む柔粘性結晶;
アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される1以上の官能基を含む液晶;並びに
アルキルカルボン酸又はアルキルカルボン酸塩;
から選択される、方法。
【請求項13】
前記有機材料が、有機化合物又はその塩である;
前記有機材料が、最大で2,000の分子量を有する;
前記有機材料が、少なくとも50の分子量を有する;
前記有機材料が、有機化合物又はその塩であり、前記有機化合物が、2以上の炭素-炭素結合を有する;及び
前記有機材料が、有機化合物又はその塩であり、前記有機化合物が、2以上の炭素-水素結合を有する;
のうちの少なくとも1つである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有機材料が、柔粘性結晶であり、前記柔粘性結晶が、アダマンタンチル基を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記アダマンタンチル基が、アルキル、ハロ、ヒドロキシル及びオキソから成る群から選択される1以上の官能基によって置換される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記有機材料が、アルキルカルボン酸又はアルキルカルボン酸塩であり、前記アルキル基が、3以上の炭素原子を有する、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項17】
前記有機材料が、炭化水素である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項18】
前記有機材料が、200から450Kの範囲内の温度で相転移を有する;
前記有機材料が、一次相転移を有する;
前記有機材料が、少なくとも10JK -1 kg -1 の相転移でのエントロピー変化、|ΔS |、を有する;
前記有機材料における相転移が、少なくとも1kJkg -1 である潜熱、|Q |、を示す;及び
前記有機材料が、少なくとも1.0mm -1 の相転移での体積変化を有する;
のうちの少なくとも1つである、請求項12から17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記有機材料が、圧力伝達媒体内に提供される、請求項12から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記有機材料が、リオトロピックではない、請求項12から19の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
静水圧が、前記有機材料の相転移温度の、50K内である温度で前記有機材料へ印加され、前記相転移温度が、前記静水圧がない場合の相転移に関する温度である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項22】
前記印加静水圧が、最大で1.0GPaである;及び
前記印加静水圧が、少なくとも0.1MPaである;
のうちの少なくとも1つである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
バロカロリック冷却剤又は加熱剤としての有機材料、並びに、前記有機材料へ及びそこから熱を移動させるための手段を含む冷却又は加熱装置であって、
前記有機材料が:
シクロアルキル基を含む柔粘性結晶;
アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される1以上の官能基を含む液晶;並びに
アルキルカルボン酸又はアルキルカルボン酸塩;
から選択され、
前記有機材料へ及びそこから熱を移動させるための前記手段が、少なくとも25kJkg -1 である潜熱、|Q |、でのバロカロリック転移のための熱伝達に適している、装置。
【請求項24】
前記有機材料が、有機化合物又はその塩である;
前記有機材料が、最大で2,000の分子量を有する;
前記有機材料が、少なくとも50の分子量を有する;
前記有機材料が、有機化合物又はその塩であり、前記有機化合物が、2以上の炭素-炭素結合を有する;及び
前記有機材料が、有機化合物又はその塩であり、前記有機化合物が、2以上の炭素-水素結合を有する;
のうちの少なくとも1つである、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記有機材料が、柔粘性結晶であり、前記柔粘性結晶が、アダマンタンチル基を含む、請求項23又は24に記載の装置。
【請求項26】
前記アダマンタンチル基が、アルキル、ハロ、ヒドロキシル及びオキソから成る群から選択される1以上の官能基によって置換される、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記有機材料が、アルキルカルボン酸又はアルキルカルボン酸塩であり、前記アルキル基が、3以上の炭素原子を有する、請求項23又は24に記載の装置。
【請求項28】
前記有機材料が、炭化水素である、請求項23又は24に記載の装置。
【請求項29】
前記有機材料が、200から450Kの範囲内の温度で相転移を有する;
前記有機材料が、一次相転移を有する;
前記有機材料が、少なくとも10JK -1 kg -1 の相転移でのエントロピー変化、|ΔS |、を有する;
前記有機材料における相転移が、少なくとも1kJkg -1 である潜熱、|Q |、を示す;及び
前記有機材料が、少なくとも1.0mm -1 の相転移での体積変化を有する;
のうちの少なくとも1つである、請求項23から28の何れか一項に記載の装置。
【請求項30】
前記有機材料が、圧力伝達媒体内に提供される、請求項23から29の何れか一項に記載の装置。
【請求項31】
前記有機材料が、リオトロピックではない、請求項23から30の何れか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年10月14日に出願されたGB1617508.5の優先権及び利益を主張し、その内容はそれらの全体において参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
基金
この出願につながるプロジェクトは、欧州連合のホライズン2020研究及び革新プログラムの下で欧州研究評議会(ERC)から資金提供を受けている(助成契約番号680032)。
【0003】
発明の分野
本発明は、バロカロリック冷却の方法における有機材料の使用を提供する。本発明はまた、例えば冷却の方法における、バロカロリック冷却効果を達成するための有機材料の使用を提供する。また、バロカロリック冷却剤としての使用のための有機材料を含む冷却装置が提供される。
【背景技術】
【0004】
背景
食料品、飲料、衣料製品及び医療用サンプル、電子機器、並びにオフィス等の密集空間はすべて冷却を必要とする。現在の冷却及び空調ユニットは主に、環境に有害な流体の圧縮及び膨張に依存しており、このような流体を回避する冷却システムを開発することにおいて強い関心が存在する。分野における最近の開発は、室温付近で磁気的に、電気的に及び機械的に駆動される相転移を示す固体材料に着目している。これらの材料は、それらが安価であり、且つ、生成が容易である印加場によって駆動される大きな可逆的熱変化を示すことが可能であると示される場合に、商業的な受け入れを得るのみであろう。
【0005】
熱効果(Caloric effects)は現在、環境にやさしい冷却用途の見込みに起因して熱心な研究下にある。今日までこの領域における研究は、大きな磁気熱量効果及び大きな電気熱量効果を開発することに焦点が当てられてきたが、前者は、経済的に生成することが難しい大きな磁場を必要とし、後者は、薄いサンプルにおいてのみ破壊無しで典型的には印加され得る大きな電場を必要とする。これらの理由に関して、最近の研究は、効果が印加一軸応力によって駆動される機械熱量効果、例えば弾性熱量効果、及び、等方性応力(静水圧)によって駆動されるバロカロリック効果(barocaloric effects)に向けられている。これらの効果は、機械的応力が発生するのに容易であり、大きな機械熱量効果が、比較的低い印加応力で観測されているという理由で魅力的である。しかしながら、これらの材料は、金属材料に関してMPa範囲において発展する塑性流動を示すので、弾性熱量の使用は限定的である。バロカロリック材料に関して、塑性変形に関連したエネルギー損失又は機械的破壊が存在しない。
【0006】
相転移付近で静水圧によって駆動される大きなバロカロリック効果(BC効果とも呼ばれる)が観測されているが、一般的に、少量の比較的高価な磁性材料においてのみである。ここで、磁化の変化は、結晶対称性における変化の有無にかかわらず、体積における変化を伴う。
【0007】
一次相転移が潜熱を解放又は吸収することが知られている。この潜熱は、特定の場の印加によって解放又は解放され得、バロカロリック材料の場合では、機械的応力の印加、より正確には、静水圧の印加である。大きなバロカロリック効果は、一次相転移が印加等方性応力によって誘起されるとき、相転移温度付近で観測される。
【0008】
例えば、Matsunami等は、MnGaNにおける反強磁性相のフラストレーションによって強化される大きなバロカロリック効果を記載している。ここで、大きなバロカロリック効果は、ネール温度の圧力係数に対する体積変化の比率の強化によって引き起こされる。相転移は約290Kで生じる。材料は、(周囲圧力に対して)0.09GPaの静水圧における変化に起因して約21JK-1kg-1の圧力駆動等温エントロピー変化を示し、232JK-1kg-1GPa-1のバロカロリック強度(|ΔS|を最大化することに対応した最も小さい|Δp|によって最大化される|ΔS|/|Δp|)及び125Jkg-1の冷媒容量を提供する。
【0009】
最近、本発明者は、フェリ誘電性硫酸アンモニウムにおいて低い圧力での、より大きなバロカロリック効果を記載している(Lloveras等を参照)。ここで、硫酸アンモニウムは、約220Kで中心対称性斜方晶系構造と斜方晶系極性構造との間の一次転移を受ける。大きなバロカロリック効果は、イオンの秩序における圧力駆動変化と関連があり、これは、フェルミ準位付近の電子状態の密度における圧力駆動変化とつながりがある磁性材料において観測される、より小さな効果とは対照的である。
【0010】
硫酸アンモニウムは、(周囲圧力に対して)0.10GPaの静水圧における変化に起因して約60JK-1kg-1の圧力駆動等温エントロピー変化を示し、600JK-1kg-1GPa-1のバロカロリック強度及び276Jkg-1の冷媒容量を提供する。
【0011】
大きなバロカロリック効果を示す材料を識別するための要望が存在し、最も具体的には、比較的低い圧力で大きな等温エントロピー変化を示す材料を識別することが望ましい。印加等方性応力に応じて大きな断熱温度変化を示すそれらの材料、及び、相対的な大きな潜熱を有するそれらの材料を識別することが有用である。相転移が周囲温度付近で生じる材料を識別するための実用的な必要性も存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明のまとめ
一般的な態様では、本発明は、バロカロリック冷却剤としての、有機材料、例えば2,000以下の分子量を有する有機材料の使用を提供し、例えば有機材料は、非定積相転移、例えば非定積一次相転移付近で用いられる。冷却剤としての有機材料の使用を許可する方法は、加熱剤としての有機材料の使用に関して適合され得る。
【0013】
いままで、十分なバロカロリック効果を提供することが知られる材料は、無機材料、例えばMnGaN及び硫酸アンモニウムに一般的に限定されてきた。本発明者は、一次相転移に起因して体積変化を示す有機材料が、バロカロリック効果を提供するために用いられ得ることを見出した。これらの有機材料は典型的には、相転移温度において非常に大きな圧力駆動シフトを示す。実際、静水圧における小さな変化は、これらの材料において相転移で又はその付近で巨大なバロカロリック効果を駆動することが見られる。
【0014】
有機材料に関するバロカロリック効果は、無機材料、例えば磁性、強誘電体及びフェリ誘電性無機材料に関して以前観測されたものに匹敵する又はそれらを超える。したがって、有機材料は、バロカロリック冷却法及び冷却装置における使用に関して適切である。例えば、有機材料、例えば柔粘性結晶に関する圧力駆動等温エントロピー変化値は、MnGaN又は硫酸アンモニウムに関して報告されるものに匹敵する又はそれらを超える。有機材料、例えば柔粘性結晶に関する潜熱値及び断熱温度変化は、MnGaN又は硫酸アンモニウムに関して報告されるものに匹敵する又はそれらを超える。さらに、有機材料に関する相転移温度は、硫酸アンモニウム等の材料と比較して周囲温度へ、より近くに存在し得る。
【0015】
有機材料における相転移を駆動するのに必要とされる圧力はまた、無機材料に関して必要とされる圧力と比較して小さいことがある。有機材料における相転移はまた、冷蔵庫及び空調ユニットにおいて現在用いられる材料に関して報告されるものに匹敵する潜熱値を有する。
【0016】
有機材料は、それらが幅広く利用可能であり、且つ、多くの材料が、低コストで、大規模に得られ得、且つ、材料が低い毒性を有し、且つ使用後簡易に且つ容易に処分できるという理由で魅力的である。これらの態様では、有機材料の使用は、磁性材料を用いる、以前に報告されたバロカロリック方法に対する優位点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様では、バロカロリック冷却剤としての有機材料の使用が提供される。ここで、典型的には大きなバロカロリック効果であるバロカロリック効果は、比較的低い印加静水圧から開発され得る。
【0018】
本発明の第2態様では、冷却の方法、例えばバロカロリック冷却法が提供され、本方法は:
(i)有機材料へ静水圧を印加するステップと;
(ii)有機材料から又はそこへの、例えば有機材料から又はそこへの熱流を許可するステップと;
(iii)印加圧力下である有機材料から静水圧を解放するステップと;
(iv)有機材料へ又はそこから、例えば有機材料へ又はそこから熱流を許可するステップと、を含む。
【0019】
本発明の方法は、ステップ(i)から(iv)を繰り返すステップを含み得、例えば持続冷却を提供する。ステップは、所望の冷却効果を提供するのに必要とされるごとに繰り返され得る。
【0020】
バロカロリック有機材料は、炭素原子を有し、且つ任意に、1以上の炭素-炭素結合及び/又は1以上の炭素-水素結合を有する、化合物、又はその化合物の塩である。
【0021】
バロカロリック有機材料は、観測可能な一次相転移を有する材料であり得る。そのため、有機材料の相転移は、一次相転移を含み得る、又は、相転移は、一次相転移である。
【0022】
バロカロリック有機材料は、2,000以下、例えば1,000以下の分子量を有し得る。ここで、有機材料は、ポリマーではない。
【0023】
バロカロリック有機材料は、柔粘性結晶であり得る。
【0024】
バロカロリック有機材料は、液晶であり得る。
【0025】
バロカロリック有機材料は、アルキルカルボン酸塩であり得る。
【0026】
本発明の方法では、静水圧は、(従来のバロカロリック材料に関して)転移温度付近及びそれより上の、又は、(逆バロカロリック材料に関して)転移温度付近及びそれより下の温度等の、有機材料の転移温度付近で、印加される。ここで、大きなバロカロリック効果が観測される。例えば、静水圧は、転移温度の50K内、例えば20K内、例えば15K内、例えば10K内、例えば5K内、例えば2K内、例えば1K内、例えば0.5K内である温度で印加され、印加静水圧がないときの有機材料の転移温度(例えば、周囲圧力下の転移温度)である。
【0027】
本発明の方法では、静水圧は、相転移を誘起するのに十分なレベルで印加され得る。
【0028】
本発明の他の1つの態様では、冷却装置が提供され、装置はバロカロリック冷却剤としての有機材料を含む。
【0029】
装置はまた、有機材料へ静水圧を印加するための手段を含み得る。
【0030】
装置はまた、有機材料へ及びそこから熱を移動させるための手段を含み得る。
【0031】
有機材料は、圧力伝達媒体、例えば圧力伝達流体において提供され得る。
【0032】
本発明のこれらの及び他の態様並びに実施形態は、以下で詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】有機材料上の静水圧の印加及び解放によるバリウム二カルシウムプロピオネート(BDP)に関する温度(K)における変化によるエントロピー(JK-1kg-1)における変化を示し、グラフの下部(負のエントロピー変化)は、印加圧力なしから特定の印加圧力(GPa)への圧力の印加に関するデータを示し、グラフの上部(正のエントロピー変化)は、特定の印加圧力(GPa)から印加圧力なしへの圧力の解放に関するデータを示す。
図2】有機材料上の圧力の印加及び解放によるバリウム二カルシウムブチラート(BDB)に関する温度(K)における変化によるエントロピー(JK-1kg-1)における変化を示し、グラフの下部(負のエントロピー変化)は、印加圧力なしから特定の印加圧力(GPa)への圧力の印加に関するデータを示し、グラフの上部(正のエントロピー変化)は、特定の印加圧力(GPa)から印加圧力なしへの圧力の解放に関するデータを示す。
図3】有機材料上の圧力の印加及び解放による液晶4-(トランス-4-ペンチルシクロヘキシル)ベンゾニトリル(PCH5)に関する温度(K)における変化によるエントロピー(JK-1kg-1)における変化を示し、グラフの下部は、印加圧力なしから特定の印加圧力(GPa)への圧力の印加に関するデータを示し、グラフの上部は、特定の印加圧力(GPa)から印加圧力なしへの圧力の解放に関するデータを示す。
図4】有機材料上の圧力の印加及び解放による柔粘性結晶ネオペンチルグリコール(NPG)に関する温度(K)における変化によるエントロピー(JK-1kg-1)における変化を示し、グラフの下部は、印加圧力なしから特定の印加圧力(GPa)への圧力の印加に関するデータを示し、グラフの上部は、特定の印加圧力(GPa)から印加圧力なしへの圧力の解放に関するデータを示す。
図5】有機材料上の圧力の印加及び解放による柔粘性結晶1-アダマンタノールに関する温度(K)における変化によるエントロピー(JK-1kg-1)における変化を示し、グラフの下部は、印加圧力なしから特定の印加圧力(GPa)への圧力の印加に関するデータを示し、グラフの上部は、特定の印加圧力(GPa)から印加圧力なしへの圧力の解放に関するデータを示す。
図6】(上部から底部へ)有機材料1-アダマンタノール、PCH5、NPG、BDP及びBDBに関する静水圧|Δp|における変化による冷媒容量、RC、(Jkg-1)における変化を示す。実線は、データへの線形フィットである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
前述したように、一次相転移付近の静水圧によって駆動される大きなバロカロリック効果は、少量の比較的高価な磁性材料において実験的に観測されてきており、磁化の変化は、結晶対称性における変化の有無にかかわらず、体積における変化を伴う。
【0035】
本発明者からの最近の実験結果は、大きなバロカロリック効果が、この無機材料の一次フェリ誘電性相転移付近で硫酸アンモニウムにおいて観測されることを示している。
【0036】
本発明者は、有機材料、例えば、非定積相転移、特に非定積一次相転移を示すものが、大きなバロカロリック効果を提供し得ることをここで立証している。これらの有機材料は、バロカロリック冷却における使用のための以前に記載された無機材料に対する代替品として用いられ得る。
【0037】
Rodriguez等は、高印加静水圧下でポリ(メチルメタクリレート)のバロカロリック温度変化を説明している。しかしながら、静水圧は、ポリマーの一次相転移に近い温度で明らかに印加されていない。
【0038】
Patel等は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ポリマーにおける弾性熱量、及び、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン(PVDF-TrFE-CTFE)ポリマーにおけるバロカロリック効果を説明している。著者は、その一次強誘電体相転移付近の強誘電体ポリマーのバロカロリック応答を推定する。推定は、Roland等によって元々報告された体積対温度データに基づく。
【0039】
Mikhaleva等は、二次強誘電体相転移付近の硫酸トリグリシン(TGS)における非常に小さなバロカロリック効果を説明している。著者は、重要でないとしてこれらの効果を説明しており、彼らは、冷却用途におけるTGSの使用を提案しなかった。
【0040】
Xie及びZhuは、過剰の水において用いられる、ジヘキサデシルホスファチジルエタノールアミン(DHPE)がバロカロリック効果を示すであろうことを提案している。彼らの提案は、材料が(20から60MPaへ)圧力ジャンプを受けたときにラメラ液晶からラメラゲルへのリン脂質の転移を説明するMencke等による、より早く報告された仕事に基づく。Mencke等は、この転移とおよそ同じときに生じた温度変化を検出したが、この温度変化は、彼らのオリジナルペーパーにおいて著者によって認識されるように、及び、水を用いた基本熱力学計算を介して示されるように、任意の転移から離れた水における圧力駆動温度変化に起因して生じた可能性が高かった。
【0041】
Mencke等の仕事は、静的及び振動圧力並びに圧力ジャンプを用いた時間分解X線回折研究に関する新しい装置を例示することを意図している。このペーパーには、有機材料が一般的に、冷却装置内でのバロカロリック冷却を提供することにおいて有用であろうとの提案は存在しない。
【0042】
今回の場合における使用に関する有機材料はまた、好ましくは、より小さい分子化合物及びその塩である。さらに、本発明の方法は、有機材料の相転移温度に近い、例えばその50K内、例えば10K内、で圧力を印加する。
【0043】
有機材料
本発明における使用に関する有機材料は、有機化合物又はその塩であり得る。有機化合物への参照は、必要に応じて、化合物のイオン型への参照を含み得る。一般的に、有機材料は、2,000以下である分子量を有する。そのため、今回の場合における使用に関する有機材料は、好ましくは、小さい分子化合物及びその塩である。
【0044】
有機化合物、又は化合物のイオン型は、1以上の炭素原子、及び最も典型的には2以上の炭素原子を有する。有機化合物は、通常、1以上の炭素-炭素結合、例えば2以上の炭素-炭素結合を所有するであろう。有機材料はしたがって、炭素原子を含まない無機材料と対比され得る。
【0045】
有機化合物、又は化合物のイオン型は、典型的には水素も含むであろう。材料は通常、1以上の炭素-水素結合、例えば2以上の炭素-水素結合を有するであろう。
【0046】
有機化合物は、ヘテロ原子、例えば窒素、酸素、硫黄及び/又はフッ素原子を追加的に含み得る。従って、有機化合物は、1以上の炭素-ヘテロ原子結合、例えば炭素-酸素結合を含み得る。
【0047】
有機化合物は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクシル、カルボアリール及びヘテロアリールを含むアリールから選択される1以上の基を含み得る。
【0048】
同じタイプの複数の基が、有機化合物に存在し得る。例えば、有機材料は、複数のシクロアルキル、ヘテロシクシル又はアリール基を含み得る。
【0049】
有機化合物が、環系、例えばシクロアルキル、ヘテロシクシル又はアリール基を含む場合、これらの基は、縮合環系を含み得る。例えば、本明細書で例示される有機材料はアダマンタンであり、縮合シクロアルキル基を有すると見なされ得る。
【0050】
加えて、有機化合物は、ハロ、ヒドロキシル、カルボキシル、オキソ例えばケト及びアシル、エステル、炭酸塩、アミノ、アミド、カルバミン酸塩、カルバミド(尿素)、シアノ、ニトリル並びにニトロから選択される1以上の基を含み得る。
【0051】
カルボキシル基は、適切な対カチオンと一緒にカルボン酸塩としてイオン型であり得る。
【0052】
アミノ基は、適切な対アニオンと一緒に第4級アミンとしてイオン型であり得る。
【0053】
有機化合物は、アルキル基、例えばC1-12アルキル基を含み得る。
【0054】
有機化合物は、それ自身で炭化水素であり得る。有機化合物は、直鎖及び分岐アルカンを含むアルカン、又はシクロアルカン、例えば縮合炭素環を有するもの、例えば4以上、例えば5以上、例えば10以上の炭素原子を有するアルカン又はシクロアルカン、であり得る。例えば、1,3-ジメチルアダマンタンは、本事例の方法において有機材料として用いられ得る。
【0055】
有機化合物は、アリール基、例えばカルボアリール又はヘテロアリール基を含み得る。カルボアリール基は、フェニル又はナフチルであり得る。
【0056】
一実施形態では、有機化合物は塩ではない。
【0057】
一実施形態では、有機材料は、有機化合物の塩である。ここで、有機化合物のイオン型に対する対イオンは、金属イオン又は有機イオンであり得る。金属対イオンが存在し得るが、材料はそれでもなお、有機化合物のイオン型の有機的特徴のおかげで有機材料と呼ばれ得る。
【0058】
金属イオンは、混合金属イオンであり得る。例えば、本事例の研究例では、混合Ba及びCa対イオンは、プロピオネート塩及びブチラート塩に存在し、混合ストロンチウム及びカルシウム対イオンは、プロピオネート塩に存在する。
【0059】
一実施形態では、有機材料は金属を含まない。
【0060】
一実施形態では、有機材料は、族3から16の金属、例えば族3から12の金属から成る群から選択される金属を含まない。
【0061】
他の実施形態では、有機材料は金属を含む。典型的には、金属が存在する場合、それは、有機化合物のイオン型に対する対イオンである。そのため、金属は典型的にはカチオン種である。金属が存在する場合、それは、族1及び/又は族2の金属であり得る。本事例における例は、族2の金属カチオン、例えばバリウム、カルシウム及びストロンチウムカチオンと一緒に有機化合物のアニオン型を含む。
【0062】
一実施形態では、有機材料は、アルキルカルボン酸又はアルキルカルボン酸塩、及び好ましくはアルキルカルボン酸塩である。アルキル基は、3以上の炭素原子、例えば(酸性基によって提供される炭素原子を含む)3又は4個の炭素原子を有し得る。本事例における研究例は、プロピオネート及びブチラート塩によって提供されるバロカロリック効果を示す。
【0063】
一実施形態では、有機材料は、アルキルカルボン酸又はアルキルカルボン酸塩であり得、1以上の、例えば1個又は2個の水素原子がフッ素によって置換され得る。本発明者は、アルキルカルボン酸塩が本発明の方法において用いられ得、アルキルカルボン酸塩のフッ素化バージョンが周囲温度及びそれ以下付近で多数の相転移を有することが知られること見出した。例えば、Yano等は、アルキルカルボン酸塩及びフッ素化アルキルカルボン酸塩の相転移を記載する。
【0064】
いくつかの実施形態では、有機材料は、アミノ酸塩等のアミノカルボン酸塩、例えばトリグリシン塩ではない。特に、有機材料は、アミノ酸硫酸塩ではない。好ましくは、有機材料は、トリグリシン硫酸塩(TGS)ではない。トリグリシン硫酸塩は、グリシン硫酸塩としても知られる。
【0065】
一実施形態では、有機材料はソフトマター材料、例えば柔粘性結晶又は液晶である。
【0066】
柔粘性結晶は典型的には、例えば、材料に関するX線回折パターンにおいて見られ得る長い範囲の並進秩序を有し、鋭いブラッグピークが見えるが、配向秩序は存在しない。
【0067】
液晶は、長い範囲の並進秩序をほとんど有さない又は全く有さないが、配向秩序が存在する。そのため、ブラッグピークは、材料のX線回折パターンにおいて見えない。さらに、柔粘性結晶が球状モチーフを有するのに対して、液晶は非球状モチーフを有する。
【0068】
結晶の配向秩序が存在しない柔粘性結晶相を有する有機材料は、例えば温度における変化によって、配向秩序が存在する相へ又はそこから変換され得る。このような相転移は、発明の方法において用いられ得る。
【0069】
柔粘性結晶特性を有する有機材料の記載は、Timmermansによって提供され、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。柔粘性結晶又は液晶特性を有する有機材料の記載は、Wunderlich等によって提供され、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0070】
本事例における研究例は、柔粘性結晶特性を有する有機材料の使用を記載する。例は、ネオペンタン及びアダマンタン誘導体、例えば1-アダマンタノールを含む。
【0071】
柔粘性結晶は、アルキル基又はシクロアルキル基を含み得る。
【0072】
シクロアルキル基は、アダマンチル基であり得る。アダマンチル基は、アルキル、ハロ、ヒドロキシル及びオキソから成る群から選択される1以上の基によって任意に置換され得る。
【0073】
アルキル基は、C4-20アルキル基、例えばC4-5アルキル基であり得る。アルキル基は、ヒドロキシル、アミノ及びニトロから成る群から選択される1以上の基によって任意に置換される。
【0074】
本事例における研究例は、液晶特性を有する有機材料の使用を記載する。例は、液晶PCH5を含む。
【0075】
液晶は、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される1以上の基を含み得、例えば液晶は、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基を有する。
【0076】
一実施形態では、有機材料は、リオトロピックではない。そのため、有機材料は、リン脂質でないことがある。典型的には、有機材料は、溶媒、例えば水内で、例えば分散して、提供されない。
【0077】
有機材料は、1以上の異なる有機化合物又はその塩を含み得、これらの化合物又は塩の各々は、本明細書で記載されるようなものであり得る。個別の化合物又はそれらの塩は、異なる転移温度を有し得る。このような複合材料は、動作の温度範囲を向上するために、並行又はカスケードモードにおいて動作され得る。
【0078】
本事例における使用に関する有機材料は典型的には、小さい分子量化合物である。
【0079】
有機材料は、少なくとも50、少なくとも65、少なくとも70、少なくとも100又は少なくとも150である分子量を有し得る。
【0080】
有機材料は、最大で500、最大で700、最大で1,000、最大で2,000、最大で5,000又は最大で10,000である分子量を有し得る。
【0081】
有機材料は、上で与えられた下限及び上限から選択される範囲である分子量を有し得る。例えば、有機材料は、範囲50から1,000、例えば100から500である分子量を有し得る。
【0082】
典型的には、有機化合物は、高分子量化合物、例えばポリマーではない。
【0083】
Patel等の研究は、530,000の分子量を有するPVDFを用いることに留意すべきである。著者によって用いられるPVDF-TrFE-CTFEポリマーの分子量は報告されていない。Rodriguez等は、ポリ(メチルメタクリレート)における熱弾性変化を調査する。著者は、彼らがポリマーの分子量又はそのサイズ分布を決定しなかったことを認める。
【0084】
有機材料は、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリフッ化ビニリデン含有ポリマー、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)若しくはPVDF-TrFE-CTFE、又はリン脂質、例えばジヘキサデシルホスファチジルエタノールアミン(DHPE)でないことがある。
【0085】
有機材料が塩である場合、分子量は、有機化合物のイオン型の分子量、又は、その対イオンと一緒の有機化合物のイオン型の分子量であり得る。
【0086】
有機材料は通常、流体又は固体材料であり得る圧力伝達媒体内に提供され、このようなものは、発明の方法の詳細な説明において以下でさらに詳細に記載される。有機材料は典型的には、水において提供されない。
【0087】
有機材料は、特定の熱力学特性を示し、これらは以下で記載される。
【0088】
有機材料特性
本事例における使用に関する有機材料は、印加等方性応力下でバロカロリック効果を示す。従来のバロカロリック効果を示す有機材料への参照はまた、逆バロカロリック効果を示す有機材料への参照である。
【0089】
有機材料は一般的に、印加等方性応力下で従来のバロカロリック効果を示すことが予想され、材料は、相転移にわたって、より低い温度での減少した体積を有する。しかしながら、逆バロカロリック効果は、有機材料において観測され得、このような材料は、発明の方法において等しく有用である。有機材料の特性への参照は一般的に、従来のバロカロリック効果を示すものに関して為される。しかしながら、これらの参照は、逆の効果を示す材料への参照として解釈され得、当業者は、それらの材料の挙動が従来の材料のものと反対であると理解する。
【0090】
有機材料は固体である、又は、それは、中間相の特徴を有し得、例えば有機化合物は、例えば、周囲温度、例えば270、280若しくは300Kで、又は、より低い温度、例えば100、150、200若しくは250Kで、且つ周囲圧力で、例えば101.3kPaで決定されるような、液晶又は柔粘性結晶であり得る。
【0091】
本発明における使用に関する有機材料は、範囲100から450K、例えば200から450Kにある温度で、例えば周囲圧力で、例えば101.3kPaで可逆の相転移を有する材料であり得る。
【0092】
相転移は、固体、プラスチック、及び液晶相間の転移であり得る。相転移はまた、固相間の転移、又は液晶相間の転移、又は柔粘性結晶相間の転移、又は液相と固相との間の転移であり得る。本事例では、バロカロリック効果に基づく冷却の方法は、範囲100から450K内で、例えば範囲200から450K内で生じるこれらの転移の使用をし、最も好ましくは発明の方法は、固体及び柔粘性結晶相間の又はそれらの中での転移を使用する。
【0093】
いくつかの実施形態では、相転移は、一次相転移、例えば中間相、例えば、液晶又は柔粘性結晶相と、固体又は液相との間の転移である、又はそれらを含む。好ましくは、転移は、一次相転移である。
【0094】
理論によって縛られることを望むものではないが、理想的な一次相転移は、共存し得る且つ場変数、例えば圧力、温度、磁性又は電場における変化によって互いに変換され得る2つの異なる相に関して、2つの相のモルギブスエネルギー又はモルヘルムホルツエネルギー(又は2つの相におけるすべての成分の化学ポテンシャル)が転移温度で等しいが、温度及び圧力に関するそれらの第1の誘導体(例えば、転移の比エンタルピー及び比体積)が転移点で不連続である、転移である。
【0095】
本発明者は、硫酸アンモニウムが、約220Kで中心対称性斜方晶系構造と斜方晶系極性構造との間の転移を受けることを以前見出した。
【0096】
有機材料は、変位型又は秩序-無秩序相転移を受け得る。
【0097】
本事例における使用に関する有機材料は、アルキルカルボン酸塩、例えばBDP及びBDBを含む。これらの材料によって観測される相転移は、立方対称から斜方対称への構造的相転移であり、有機材料の体積における大きな変化につながる。
【0098】
発明の他の実施形態では、柔粘性結晶相を有する有機材料が提供される。これらの材料における相転移は、柔粘性結晶相と固相との間であり得る。例えば、冷却時等の相転移は、配向的に無秩序な結晶相と配向的に秩序的な結晶相との間であり得る。
【0099】
発明の他の実施形態では、液晶相を有する有機材料が提供される。例えば冷却時などの、これらの材料における相転移は、配向的に無秩序な液相と配向的に秩序的な液相との間であり得る。追加的に又は代替的に、相転移は、液相と固相との間であり得る。
【0100】
他のタイプの相転移は、発明の方法において利用され得る。
【0101】
他のタイプの転移の例は、固相と液相との間の相転移を含む。例えば、このような転移は、アルカン化合物によって利用され得る。さらなる例では、このような転移は、液晶によって利用され得る。
【0102】
有機材料は典型的には、温度範囲100から450Kにおいて、例えば範囲200から450K内で、例えば周囲圧力で、例えば101.3kPaで、気相に存在しない。発明の方法は、気相へ又はそこからの転移を使用しない。
【0103】
例えば、有機材料は、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも210、少なくとも220、少なくとも230、少なくとも240、少なくとも245、少なくとも250、少なくとも260、少なくとも270又は少なくとも280Kの温度であり得る可逆の相転移を有する。例えば、可逆の相転移は、最大で310、最大で315、最大で320、最大で330、最大で340、最大で350、最大で360、最大で370、最大で380、最大で390、最大で400又は最大で450Kの温度であり得る。
【0104】
一実施形態では、有機材料は、上で与えられた最小及び最大温度から選択される温度範囲にある可逆の相転移を有する。例えば、有機材料は、温度範囲245から340K、例えば245から315K又は280から330Kにある可逆の相転移を有する。
【0105】
最も好ましくは、相転移は、周囲温度に近い、又は周囲温度である温度である。そのため、上述のように、可逆の相転移は、範囲245から340K、例えば245から315K又は280から330Kにおける温度であり得る。
【0106】
より好ましくは、従来のバロカロリック効果を示す材料に関する相転移は、周囲温度未満、例えば250K未満である温度である。静水圧が有機材料へ印加されるとき、転移温度は、周囲範囲又はそれより上の内、例えば範囲250から340K内、例えば270から340K、例えば280から330Kである温度へシフトされ得る。
【0107】
より好ましくは、逆バロカロリック効果を示す材料に関する相転移は、周囲温度より上、例えば350Kより上である温度である。静水圧が有機材料へ印加されるとき、転移温度は、周囲範囲又はそれより下の内、例えば範囲250から340K内、例えば270から340K、例えば280から330Kである温度へシフトされ得る。
【0108】
転移温度に関して与えられる温度は、一定速度の温度変化で冷却又は加熱サイクルにおける転移の開始を指すことがある、転移に関する開始温度と呼ぶことがある。
【0109】
本発明における使用に関する多数の有機材料は、好ましい温度範囲にある可逆の相転移を有する。例えば、BDBは、320K付近の相転移を有し、BDPは、265K付近の相転移を有する。硫酸アンモニウムは、220K付近の可逆の相転移を有し、この材料が逆バロカロリック効果を示すことを留意すべきであるが、一方で、本事例において例示される有機材料は従来のバロカロリック効果を示す。
【0110】
有機材料は、複数の可逆の相転移を有し得、1つ又は各々の相転移は、上で与えられた限界内の温度で生じ得る。有機材料が複数の可逆の相転移を有する場合、発明の方法は、これらの転移の内の1以上、及び典型的にはこれらの転移の内の1つを使用し得る。発明の方法は、周囲温度に最も近い、例えば270、280又は300Kに最も近い転移を使用し得る。
【0111】
有機材料における相転移の存在は、上述した温度を含む温度範囲にわたる材料の熱流性能の分析から立証され得る。例えば、熱流の測定は、例えば10K分-1の温度スキャン速度を用いる、示差走査熱量測定によって為され得る。Lloveras等は例えば、大気圧で転移温度を決定するための典型的な実験を記載する(図1(b)と一緒に第5頁でのthe Methods section, Calorimetry at Atmospheric Pressureを参照)。
【0112】
相転移温度は、加熱、冷却時に観測される転移温度として、又は加熱及び冷却転移の平均として表され得る。
【0113】
有機材料は、転移点を通って加熱するときに吸熱性転移を示し得る(そのため潜熱Qは>0である)。それは続いてその後、有機材料が、転移点を通って冷却するときに発熱性転移を示すであろう(そのためQは<0である)。
【0114】
転移でのエントロピー変化、|ΔS|は、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも110、少なくとも120又は少なくとも130JK-1kg-1であり得、変化の大きさであり、この変化は、転移を通る加熱及び冷却の間に必要に応じて正又は負であり得る。
【0115】
しかしながら、本発明者によって試験される多数の有機材料は、相転移に関連してかなり大きいエントロピー変化|ΔS|を有する。そのため、転移でのエントロピー変化は、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300又は少なくとも350、少なくとも400、又は少なくとも450JK-1kg-1であり得、変化の大きさであり、この変化は、転移を通る冷却及び加熱の間に必要に応じて正又は負であり得る。これらのエントロピー変化は、Lloveras等の研究における硫酸アンモニウムに関して記録されたものよりもかなり大きく、また、金属合金に関して報告された値よりもかなり大きい(例えば、Lloveras等の表1を参照)。
【0116】
エントロピー変化は、全体の転移に関するエントロピー変化を指し得る。代わりに、転移が、他次転移を任意で備える一次転移を含む場合、エントロピー変化は、一次転移のみに関するエントロピー変化を指し得る。全体の転移の一部である一次転移が存在する場合、一次転移に関するエントロピー変化は、全体の転移のエントロピー変化の少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%であり得る。
【0117】
エントロピー変化は、加熱、冷却時に観測されるエントロピー変化として、又は加熱及び冷却転移の平均として表され得る。
【0118】
転移でのエントロピー変化は、上述したように、示差走査熱量測定によって決定され得る。
【0119】
相転移は、材料の単位格子体積における変化を伴い、例えば単位格子体積は、相転移を通る加熱時に増加し得る。これは、従来のバロカロリック材料に関して観測される変化である。単位格子体積における減少は、逆バロカロリック材料に関して観測され得る。
【0120】
転移での体積変化は、少なくとも1.0、少なくとも5.0、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40又は少なくとも50mm-1であり得る。
【0121】
転移での体積変化は、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.5%又は少なくとも1.0%の変化であり得る。
【0122】
上で与えられた図面は、変化の大きさに関連し、この変化は、転移を通る加熱及び冷却の間に必要に応じて正又は負であり得る。例えば、体積変化は、体積における増加(正の)変化を指し得、それ自体は相転移を通る加熱時に観測され得る。
【0123】
体積変化は、全体の転移に関する体積変化を指し得る。代わりに、転移が、他次転移を任意で備える一次転移を含む場合、体積変化は、一次転移のみに関する体積変化を指し得る。全体の転移の一部である一次転移が存在する場合、一次転移に関する体積における変化は、全体の転移に関する体積変化の少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%であり得る。
【0124】
転移での体積における変化は、(転移が典型的には温度範囲にわたって生じる)相転移にわたる温度掃引の間に有機材料のX線回折分析から決定され得る。Lloveras等は例えば、大気圧で体積変化を決定するための典型的な実験を記載する(図1(d)と一緒に第5頁でのthe Methods section, X-Ray Diffractionを参照)。X線回折測定は、本事例において記載されるBDP及びBDB有機材料に関する体積における変化を決定するために用いられた。転移での体積における変化は、体積熱膨張測定から、又は様々な温度での体積等温圧縮率測定から決定され得る。
【0125】
有機材料における相転移は、少なくとも1.0、少なくとも2.0少なくとも3.0、少なくとも4.0、少なくとも5.0、少なくとも7.0、少なくとも9.0又は少なくとも10.0kJkg-1である潜熱、|Q|、を示し得る。
【0126】
いくつかの有機材料、例えば柔粘性結晶は、非常に高い潜熱、|Q|、を示す相転移を有する。そのため、いくつかの実施形態では、有機材料は、少なくとも25、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも150又は少なくとも200kJkg-1である潜熱、|Q|を有し得る。
【0127】
バロカロリック冷却に関する当該技術分野において以前用いられてきた無機材料は典型的には、範囲2.0から13.2kJkg-1における潜熱を有する(例えば、Lloveras等の表1を参照)。
【0128】
潜熱値は、材料の示差走査熱量測定分析から決定され得る。
【0129】
有機材料は、印加圧力下で大きなバロカロリック効果を示す。特に、有機材料は、相転移温度における強い、圧力で誘起されたシフトを示す。
【0130】
印加圧力による転移温度におけるシフトdT/dpは、本明細書で用いられる有機成分に関して比較的高い。そのため、小さい又は中程度の圧力が、比較的大きな温度変化を駆動するために用いられ得る。
【0131】
一実施形態では、転移温度における変化は、例えば0.15GPaの印加圧力における変化に関して測定されるように、少なくとも1K、少なくとも2K、少なくとも3K、少なくとも4K、少なくとも5K又は少なくとも10Kである。本明細書で与えられる図面は、変化の大きさに関連し、(従来のバロカロリック効果を示す材料に関する)正の変化、又は(逆バロカロリック効果を示す材料に関する)負の変化であり得る。本事例の研究例では、有機材料は、従来のものであるので、それらは、転移温度における正の変化を示す。転移温度における負の変化が必要とされる、代替材料が用いられ得ることが理解されるであろう。一実施形態では、温度変化は、印加圧力下での転移温度における増加である。
【0132】
温度変化は、断熱温度変化を指す。温度変化は、ゼロ圧力比熱容量c、等温エントロピー変化ΔS及び操作の温度、Tを用いてTΔS=Qに近づく-cΔTに由来する温度変化であり得る(Qは等温熱である)。圧力による転移温度における大きな変化は、常に大きな断熱温度変化に対応するわけではないが、場合によってはそのようであり得ることが理解される。
【0133】
断熱温度変化は、熱容量及び等温エントロピー変化の値を用いて計算され得、大部分の材料に関して知られる基本量である。断熱温度変化はまた、例えばRodriguez等によって記載された実験セットアップを用いて、実験的に測定され得る。
【0134】
一実施形態では、印加圧力における変化の関数としての転移温度における変化、dT/dpは、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも400又は少なくとも500KGPa-1である。本明細書で与えられる図面は、変化の大きさに関連し、例えば正であり得る。印加圧力における変化の関数としての転移温度における変化は、例えば一定圧力で、加熱ステップ又は冷却ステップの間に、熱流実験において決定され得る。本事例において説明される液晶実験では、dT/dpの値は210KGPa-1である。
【0135】
有機材料は典型的には、大きな冷媒容量、RCを有する。
【0136】
一実施形態では、冷媒容量、RCは、少なくとも100、少なくとも、150、少なくとも200又は少なくとも250Jkg-1である。RC値は、0.1、0.2又は0.3GPaの印加静水圧で決定された値であり得る。RC値は、0.075、0.01、0.03又は0.1GPaの印加静水圧で決定された値であり得る。
【0137】
冷媒容量は、絶対値として、温度による等温エントロピーピークの半値全幅(FWHM)と等温エントロピー変化の最大値の積から決定され得る。そのため、RCの値は、ΔS(T)におけるピークの半値全幅と最大等温エントロピー変化の積、そのため、RC=|ΔS×(ΔS(T)のFWHM)|として決定され得る。
【0138】
本事例では、BDPは、0.0075GPaで77.6Jkg-1のRC値を有し、BDBは、0.1029GPaで560Jkg-1のRC値を有し、PCH5は、0.104GPaで8,765Jkg-1のRC値を有する。
【0139】
方法及び使用
本発明は、本明細書で記載される有機材料のバロカロリック効果を用いる冷却の方法を提供する。そのため、有機材料は、例えば冷却装置内で、冷却剤としての使用を見出す。有機材料は、冷媒として呼ばれ得る。
【0140】
発明の方法は、印加圧力下での有機材料の熱的挙動における変化を使用する。有機材料への静水圧の印加は、転移温度における変化を誘起する。バロカロリック効果は有利には、加熱又は冷却をそれぞれ提供するためにヒートポンプサイクル又は冷却サイクル内で用いられ得る。
【0141】
発明の方法は、従来のバロカロリック効果及び逆バロカロリック効果を示す有機材料の使用を可能にする。
【0142】
発明の方法は、有機材料へ静水圧を印加する、又は有機材料から静水圧を解放するステップを含む。静水圧は、等方性応力を指す。これは、弾性熱量冷却における使用に関する材料へ印加される一軸応力と対比されることになる。バロカロリック材料は、典型的には高い印加圧力で生じる(典型的には数百MPa)、塑性流動の開始によってそれらが制限されないという弾性熱量材料に対する優位点を有する。
【0143】
発明の方法は、周囲温度、例えば(273.15から308.15K、例えば278.15から308.15K、例えば283.15から303.15Kに対応する)0から35℃、例えば5から35℃、例えば10から30℃の温度で環境において実施され得る。発明の方法は、バロカロリック冷却プロセスの一部として環境内で、より涼しい局所領域及びより暖かい局所領域の生成を可能にする。例えば、有機材料は、発明の方法において周囲環境よりも暖かく又は涼しくなり得る。
【0144】
発明の方法は、有機材料へ加圧力を印加して、それによって相転移温度における変化を引き起こす、例えば(本事例の研究例に示されるように)転移温度を増加させるステップを含む。逆バロカロリック効果を示す有機材料は、圧力の印加下で転移温度における減少を示すであろう。
【0145】
一実施形態では、十分な加圧力は、周囲温度、例えば(273.15から308.15K、例えば278.15から308.15K、例えば283.15から303.15Kに対応する)0から35℃、例えば5から35℃、例えば10から30℃、である温度へ転移温度を移動するために印加される。
【0146】
本事例における使用に関する有機材料は、比較的小さい印加圧力によって転移温度における大きな変化を提供する。そのため、dT/dpの値は、前述した多数の無機材料と比較して比較的高い。
【0147】
発明の方法は、従来の材料の代わりに従来の加熱及び冷却サイクル内で有機材料を用い得、加熱及び冷却サイクルは、有機材料のバロカロリック効果を利用するように適合される。
【0148】
そのため、有機材料は、例えば、ブレイトンサイクル、エリクソンサイクル又はカルノーサイクル内で用いられ得て、必要に応じて加熱又は冷却を提供する。有機材料は、特定の環境に関する加熱又は冷却を提供するために代替の熱力学的サイクルにおいても用いられ得る。
【0149】
発明の方法は:
(i)有機材料へ静水圧を印加するステップと;
(ii)前記有機材料から又はそこへの熱流を許可するステップと;を含み得る。
【0150】
有機材料が静水圧の印加時に従来のバロカロリック効果を示す場合、ステップ(ii)は、有機材料からの熱流を提供する。有機材料が逆バロカロリック効果を示す場合、ステップ(ii)は、有機材料へ熱流を提供する。
【0151】
発明の方法は:
(iii)印加圧力下である有機材料から静水圧を解放するステップと;
(iv)前記有機材料へ又はそこから熱流を許可するステップと、を含み得る。
【0152】
ステップ(iii)は、脱圧ステップと呼ばれ得る。
【0153】
有機材料が静水圧の解放時に従来のバロカロリック効果を示す場合、ステップ(iv)は、有機材料への熱流を提供する。有機材料が逆バロカロリック効果を示す場合、ステップ(iv)は、有機材料からの熱流を提供する。
【0154】
発明の方法は、完全な加熱及び冷却サイクルにおいてステップ(i)から(iv)のすべてを追加的に含み得る。典型的にはステップ(i)及び(ii)は、ステップ(iii)及び(iv)の前に着手される。方法は、冷却方法であり得る。
【0155】
方法がブレイトンサイクルの一部である場合、例えば、圧力は、例えば、結果として生じる有機材料の加熱によって、断熱的に印加され得る。ステップ(ii)では、例えば有機材料からの、後続の熱流が存在し、有機材料がその元々の温度へ戻ることを可能にする。サイクルステップのさらなる一部では、圧力は、例えば、結果的に生じる有機材料の冷却によって、断熱的に解放され得る。ステップ(iv)では、例えば有機材料への、後続の熱流が存在し、有機材料がその元々の温度へ戻ることを可能にする。
【0156】
方法がエリクソンサイクルの一部である場合、例えば加圧及び脱圧ステップは等温的に実施される。そのため、有機材料は、実質的に一定温度で維持され、熱伝達を生じ、加圧及び脱圧ステップの後ではない。
【0157】
発明の方法は、印加圧力における変化によって有機材料への及びそこからの熱流を可能にする。圧力で誘起された相転移に応じて、環境から熱を吸収し、それによって環境を冷却するための有機材料の能力は、冷却装置における冷却剤として有機材料が用いられることを可能にする。
【0158】
発明の方法では、有機材料は、そこへ及びそこから熱が移動し得る熱伝達流体と共に用いられ得る。熱伝達流体は典型的には液体である。
【0159】
熱伝達流体は、有機材料へ熱を移動させ得、それによって熱伝達流体の相対的な冷却をもたらす。冷却された熱伝達流体はその後、有機材料から取られ得、冷却が望まれる場所へ送達され得る。
【0160】
熱伝達流体は、有機材料から熱伝達を受け入れ得、それによって有機材料の相対的な冷却をもたらす。加熱された熱伝達流体はその後、有機材料から取られ得、例えば周囲温度への冷却に関する、放熱器又は他の1つのこのような熱交換器等の、冷却に関する場所へ送達され得る。
【0161】
直接的に有機材料と接触することは熱伝達流体にとって必要不可欠ではなく、熱伝達は、熱交換器を介して起こり得る。
【0162】
熱交換器は、熱スイッチ、例えば熱電気の熱スイッチ、電気機械の熱スイッチ、固体熱ダイオード又はヒートパイプを用い得る。これらのタイプのコンパクトなスイッチの使用は、冷却装置のデザイン、それらのエネルギー効率を改善し得る。
【0163】
有機材料はまた、動作の温度範囲を変更する又は増加するために再生器と一緒に用いられ得る。有機材料はそれ自身、再生器として用いられ得る。
【0164】
有機材料によって観測されるバロカロリック効果は、比較的低い圧力で達成され得る。従って、有機材料へ印加される加圧力は、発明の方法において比較的低いことがある。
【0165】
発明の方法では、静水圧は、有機材料の転移温度付近でステップ(i)において印加される。大きなバロカロリック効果が観測されるのはここである。例えば、静水圧は、転移温度の50K内、20K内、15K内、10K内、例えば5K内、例えば2K内、例えば1K内、例えば0.5K内である温度で印加され、印加静水圧がないときの有機材料の転移温度(例えば、周囲圧力下の転移温度)である。
【0166】
本発明の方法では、静水圧は、相転移を誘起するのに十分なレベルで印加され得る。
【0167】
静水加圧力が印加されるとき、圧力は、最大で1.0GPa、最大で0.5GPa、最大で0.2GPa、最大で0.15GPa、最大で0.10GPa、最大で0.09GPa、最大で0.07GPa、最大で0.06GPa、最大で0.05GPa、最大で0.04GPa、最大で0.03GPa、最大で0.02GPa又は最大で0.01GPaであり得る。
加圧力が印加されるとき、圧力は、少なくとも0.1MPa、少なくとも0.5MPa、少なくとも1.0MPa又は少なくとも5.0MPaであり得る。
【0168】
印加された圧力は、上で与えられた値から選択される下限及び上限を有する圧力における静水圧であり得る。例えば、静水圧は、範囲1.0MPaから0.1GPaにおける圧力であり得る。
【0169】
加圧力は、有機材料へ印加される圧力における変化である。典型的には圧力における変化は、周囲(大気)圧力へ又はそこから、例えば約101kPaへ又はそこからである。
【0170】
静水圧がステップ(i)において印加される場合、圧力における急激な増加が存在し得る。静水圧がステップ(iii)において解放される場合、圧力は、急激な解放であり得る。これは、断熱条件を達成するために、ブレイトンサイクルの一部又は全体として動作するシステムに関して好まれる。
【0171】
静水圧がステップ(i)において印加される場合、圧力における遅い増加が存在し得る。静水圧がステップ(iii)において解放される場合、圧力は、遅い解放であり得る。これは、等温条件を達成するために、エリクソンサイクルの一部又は全体として動作するシステムに関して好まれる。
【0172】
一定印加圧力(一定静水圧)下での転移温度の値は、例えば1-4k分-1の加熱又は冷却速度で静水圧下で動作する示差熱分析装置を用いて、決定され得る。
【0173】
静水圧の印加は、圧力伝達媒体内で提供される含まれる有機材料へ圧力を印加することによって達成され得る。圧力伝達媒体は、当該技術分野において良く知られ、液体及び固体材料を含む。典型的には、圧力伝達媒体は水ではない。
【0174】
圧力伝達液体の例は、Huber Kaltemaschinenbau GmbHから入手可能な、DW-Therm等の、アルコキシシラン材料を含む。
圧力伝達固体の例は、アルミナ粉末である。
【0175】
発明の方法は、食品又は飲料の冷却における使用に関することがある。
発明の方法は、薬の冷却における使用に関することがある。
発明の方法は、組織等の生体サンプルの冷却における使用に関することがある。
発明の方法は、分析測定に関するデバイス等の電子デバイスの冷却における使用に関することがある。
【0176】
本発明の方法は、空気、例えば建物及び乗り物内の空気、を冷却するために用いられ得る。
【0177】
冷却装置
本発明は、本明細書で記載されるような有機材料を含む冷却装置を提供し、冷却装置は、有機材料を用いてバロカロリック冷却を提供するように適合される。
【0178】
冷却装置は、有機材料を含む。冷却装置は、有機成分へ圧力を印加するための手段が設けられ得る。冷却装置はまた、有機材料へ及びそこから熱を移動させるための手段が設けられ得る。
【0179】
典型的には、有機材料は、ピストンヘッド空間(又はピストンチャンバー)内に含まれる圧力伝達媒体、例えば圧力伝達流体内に提供される。圧力伝達媒体は必須ではなく、圧力は、有機材料、例えば液相を有する材料、例えば液晶へ直接的に印加され得る。
【0180】
そのため、一態様では本発明は、ヘッド空間内に有機材料を含むピストンを提供する。
【0181】
冷却装置は、食品及び飲料の冷却における使用に関することがあるので、冷却装置は、冷蔵庫又は冷凍庫の構成要素であり得る。
冷却装置は、空気の冷却における一般的な使用を見出すことがあるので、冷却装置は、空気調節ユニットの構成要素であり得る。
【0182】
発明の他の態様では、環境間の熱の移動に関する熱機関が、より一般的に提供されて存在し、熱機関は、バロカロリック作動剤として有機材料を有する。冷媒の主な使用は冷蔵庫及び空気調節ユニットにおいてである一方、環境を冷却するメカニズムの根底にある原理は、例えば空気熱源ヒートポンプ内で、屋内環境を加熱するためにも用いられ得る。
【0183】
ここで、第1の相における冷たい有機材料は、外部の周囲環境によって暖められ得る(熱伝達流体を介して間接的にを含む)。暖められた有機材料はその後、環境から有機材料へと、関連する熱伝達によって(熱伝達流体を介して間接的にを含む)、第2の相へ等温的に連れて行かれ得る。有機材料はその後、屋内環境へ戻され、有機材料から屋内環境へと、関連する熱伝達によって、第2の相へ戻すことが許可される。
【0184】
発明の幅広い態様は、バロカロリック効果を用いた有機材料へ及びそこからの熱伝達の方法を包含する。そのため、発明の方法は、冷却の方法及び加熱の方法に関する。
【0185】
他の好ましいもの
上述された実施形態の各々及びすべての互換性のある組み合わせは、まるで各々及びすべての組み合わせが個別に及び明示的に特定されたかのように、本明細書で明示的に開示される。
【0186】
本発明の様々なさらなる態様及び実施形態は、本開示を考慮して当業者に明らかになるであろう。
【0187】
本明細書で用いられる「及び/又は」は、他を有する又は有さずに2つの特定の特徴又は成分の各々の特定の開示とみなされることになる。例えば「A及び/又はB」は、まるで各々が本明細書で個別に設定されるかのように、(i)A、(ii)B、並びに、(iii)A及びBの各々の特定の開示とみなされることになる。
【0188】
文脈が他に指示しない限り、上記の特徴の説明及び定義は、本発明のいかなる特定の態様または実施形態に限定されず、記載されるすべての態様及び実施形態へ等しく適用される。
【0189】
発明の特定の態様及び実施形態はここで、例として及び上述の図面を参照して説明されるであろう。
【0190】
実験の詳細及び結果
本事例において記載される有機材料の分析は、Lloveras等及びStern-Taulats等において何名かの本発明者によって記載される研究のものに従い、その両方の内容は、それらの全体において参照によって本明細書に組み込まれる。
【0191】
材料
BDP及びBDBが、必要に応じて、標準的な技術を用いて、用意される。BDPに関する例の用意は、以下に設定される。
【0192】
プロピオン酸(1L)、100gのバリウム炭酸塩(100g)及び100gの炭酸カルシウム(100g)がSigma Aldrichから購入された。それらの個別の純度は、99%、99.8%及び99.98%であり、試薬は、さらなる精製無しで直接的に用いられた。
【0193】
BDP(収量約10g)が、プロピオン酸(10mL)、炭酸バリウム(3g)から及び炭酸カルシウム(3g)で合成された。
【0194】
炭酸バリウム又は炭酸カルシウムは、水溶液においてプロピオン酸と組み合わされるとき、対応するプロピオネート水和物塩を生成する。炭酸バリウム及び炭酸カルシウムのモル質量は、2つの炭酸塩が空気から水分を吸収するので、すぐに立証され得る。この理由に関して、プロピオン酸バリウム及びプロピオン酸カルシウムは最初は別々に作製された。プロピオン酸塩水和物の質量は、湿度によって影響を受けない。2つのプロピオン酸塩水和物は、一緒に組み合わせられて、BDPを形成し、再現性のあるモル比を維持する。
【0195】
柔粘性結晶及び液晶、NPG及びPCH5、は、商用サプライヤーから購入された。1-アダマンタノールもまた、商用サプライヤーから購入された。
【0196】
測定
表1は、有機材料BDP及びBDBの分析から決定される、T,|Q|,|ΔS|,dT/dp,及び|ΔV|に関する値を記載する。
【0197】
表2は、様々な柔粘性結晶の分析から決定される、T,|Q|,|ΔS|,dT/dp,及び|ΔV|に関する値を記載する。
【0198】
表3は、液晶PCH5の分析から決定される、T,|Q|,|ΔS|,dT/dp,及び|ΔV|に関する値を記載する。
【0199】
異なる印加圧力下でのBDP、BDB、PCH5及びNPGの性能は、図1から4に示される。追加的に、柔粘性結晶1-アダマンタノールの性能は、図5に示される。
【0200】
,|ΔS|及び|Q|は、周囲圧力で示差走査熱量測定を介して決定された。dT/dpは、印加静水圧下で示差熱分析を介して決定された。|ΔV|は、例えば、周囲圧力で温度依存性X線回折分析から決定された。
【0201】
バロカロリック量は、例えばLloveras等において記載されるような、ペルチェモジュール又は熱電対熱センサーによって、静水圧下で動作する示唆熱分析装置を用いて、準直接的な方法を介して決定された(第5頁のMethodsセクション、及び、図3における報告結果と一緒に、第3頁のBC Effects in ASを参照)。
【0202】
静水圧下での示唆熱分析は、Manosa等によって記載されるように実施された。データは、BDB及びPCH5に関して図2及び4に示される。
【0203】
【表1】
【0204】
表は、転移温度T、潜熱|Q|、エントロピー変化|ΔS|、印加圧力による転移温度のシフトdT/dp、及び、転移にわたる体積変化|ΔV|を示す。有機材料は、有機化合物酪酸及びプロピオン酸のバリウム塩及びカルシウム塩である。
【0205】
【表2】
【0206】
表は、転移温度|T|、潜熱|Q|、エントロピー変化|ΔS|、印加圧力による転移温度のシフトdT/dp、及び、転移にわたる体積変化|ΔV|を示す。PG=ペンタグリセリン;2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオール。NPG=ネオペンチルグリコール;2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール。NPA=ネオペンチルアルコール;2,2-ジメチル-1-プロパノール。MN=2-メチル-2-ニトロプロパン。MNP=2-メチル-2-ニトロ-1-プロパノール。AMP=2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール。TRIS=トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
【表3】
【0207】
表は、転移温度T、潜熱|Q|、エントロピー変化|ΔS|、印加圧力による転移温度のシフトdT/dp、及び、転移にわたる体積変化|ΔV|を示す。
【0208】
図6は、異なる印加静水圧での、有機材料、BDP、BDB及びPCH5に関する冷媒容量、RC、値を示す。
【0209】
参考文献
この明細書で言及されるすべての文献は、それらの全体において参照によって本明細書に組み込まれる。
Crossley et al. AIP Advances 2015, 5, 067153
Lloveras et al. Nature Commun.2015, 6, Article no. 8801
Manosa et al., Nat.Mater.2010, 9, 478
Matsunami et al. Nature Materials 2015, 14, 73
Mencke et al. Review of Scientific Instruments 1993, 64, 383
Mikhaleva et al., Ferroelectrics 2012 430, 78
Patel et al. Appl.Phys.Lett.2016, 108, 072903
Rodriguez et al. J. Appl.Phys.Chem.1982, 53, 6536
Roland et al. Chem.Mater.2004, 16, 857
Stern-Taulats et al. APL Materials 2016, 4, 091102
Timmermans J. Phys.Chem.Solids 1961, 18, 1
Wunderlich et al. Advances in PolymerScience 1984, 60/61, Springer-Verlag, Berlin
Yano et al. J. Phys.Soc.Japan.1989, 58, 577
Xie and Zhu, arXiv: 1609.07939
図1
図2
図3
図4
図5
図6