(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】給紙搬送用ロール
(51)【国際特許分類】
B65H 5/06 20060101AFI20220118BHJP
B65H 3/06 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B65H5/06 C
B65H3/06 330E
(21)【出願番号】P 2019522073
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2018018337
(87)【国際公開番号】W WO2018221165
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2017110409
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313015030
【氏名又は名称】シンジーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 大貴
(72)【発明者】
【氏名】柴田 優一
【審査官】沖 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-165635(JP,A)
【文献】特開2000-120655(JP,A)
【文献】特開平11-095544(JP,A)
【文献】特開2015-151246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/00- 3/68
B65H 5/06
B65H 27/00
B41J 13/076
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、前記芯材の外周面に形成された内層と外層とからなる二層構造のロール材とを有する給紙搬送用ロールであって、
前記内層として前記芯材の外周面に形成される発泡弾性層と、前記外層として前記発泡弾性層の外周面に形成される弾性層とを有し、
前記発泡弾性層は、シリコーン変性EPDMの発泡弾性体からな
り、
前記弾性層がEPDMを含むことを特徴とする給紙搬送用ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ、各種プリンター等の各種OA機器、印刷機、金融端末、自動改札機等の給紙や搬送に用いられる給紙搬送用ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、ファクシミリ、各種プリンター等の各種OA機器、印刷機、金融端末、自動改札機等の給紙や搬送に用いられる給紙搬送用ロールは、搬送力が大きく、耐摩耗性に優れていることが求められている。このような理由から、給紙搬送用ロールのゴム材質として、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、塩素化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム等の機械的強度に優れ、高い摩擦係数を有する材料が用いられている。
【0003】
給紙搬送用ロールとして、例えばEPDMを用いて形成された二層構造を有するロール(以下、「二層ロール」という)が提案されている(例えば特許文献1~3参照)。二層ロールは、芯材(シャフト)の外周面に内層と外層とからなる二層構造のロール材(以下、「二層ロール材」という)が装着されたものである。二層ロール材は、例えば芯材の外周面に内層として発泡EPDMからなる発泡弾性層を配し、発泡弾性層の外周面に外層としてEPDMからなる弾性層を配して形成される。
【0004】
このような二層ロールを、例えば各種OA機器の給紙搬送用のロールに適用した場合には、所定の押圧荷重における二層ロール材の変形量(潰れ量、ニップ量)の増加に伴い、周方向に隣接する相手材(例えば単層ロールや二層ロール)との接触幅(ニップ幅)が大きくなる。これにより、紙種を選ばず給紙や搬送を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-292187号公報
【文献】特許第3932255号公報
【文献】特許第4562072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、給紙や搬送の条件(特に荷重や速度)が過酷になることで、内層の発泡弾性層に負荷がかかって破損が生じ、芯材と二層ロール材との間に隙間ができることで空転が生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて提案するものであり、過酷な給紙や搬送の条件下の使用にも耐え得る強度を有し、高耐久化を図ることが可能な給紙搬送用ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様は、芯材と、前記芯材の外周面に形成された内層と外層とからなる二層構造のロール材とを有する給紙搬送用ロールであって、前記内層として前記芯材の外周面に形成される発泡弾性層と、前記外層として前記発泡弾性層の外周面に形成される弾性層とを有し、前記発泡弾性層は、シリコーン変性EPDMの発泡弾性体からなることを特徴とする給紙搬送用ロールにある。
【0009】
本発明の第2の態様は、前記弾性層がEPDMを含むことを特徴とする第1の態様の給紙搬送用ロールにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過酷な給紙や搬送の条件下の使用にも耐え得る強度を有し、高耐久化を図ることが可能な給紙搬送用ロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る給紙搬送用ロールの構成例を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る給紙搬送用ロールの製造例を示す斜視図である。
【
図4】本実施形態に係る給紙搬送用ロールの製造例を示す軸方向の断面図である。
【
図5】試験例1の試験方法を説明するための図である。
【
図6】試験例2の試験方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更可能である。また、各図面において示す構成要素、即ち、各部の形状や大きさ、層の厚さ、相対的な位置関係等は、本発明を説明する上で誇張して示されている場合がある。更に、本明細書の「上」という用語は、構成要素の位置関係が「直上」であることを限定するものではない。例えば、「芯材上の発泡弾性層」や「発泡弾性層上の弾性層」という表現は、芯材と発泡弾性層との間や、発泡弾性層と弾性層との間に、他の構成要素を含むものを除外しない。
【0013】
(給紙搬送用ロール)
本発明の実施形態に係る給紙搬送用ロールは、複写機、ファクシミリ、各種プリンター等の各種OA機器、印刷機、金融端末、自動改札機等の給紙や搬送に用いることができ、特に各種OA機器等のOA機器用ロール、具体的には給紙ロール、搬送ロール、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、加圧ロール等に用いて好適なものである。本実施形態では、各種OA機器の給紙や搬送に用いられる給紙搬送用ロールを例示している。
【0014】
図1は、本実施形態に係る給紙搬送用ロールの構成例を示す斜視図であり、
図2は、
図1のA-A′線断面図である。図示するように、給紙搬送用ロール1は、芯材10の外周面に内層21と外層22とからなる二層構造のロール材20が装着されたものである。二層構造のロール材20は、内層21として芯材10の外周面に形成される発泡弾性層21Aと、外層22として発泡弾性層21Aの外周面に形成される弾性層22Aとを有している。即ち、給紙搬送用ロール1は、内側から芯材10、発泡弾性層21A及び弾性層22Aが順次積層されたものである。なお、給紙搬送用ロール1は、芯材10と発泡弾性層21Aとの間、或いは発泡弾性層21Aと弾性層22Aとの間に、必要に応じて更に1層以上設けてもよい。
【0015】
芯材10は、熱伝導性及び機械的強度に優れた金属材料又は樹脂材料からなる。芯材10の材質に何ら制限はなく、例えば、SUS合金、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、鉄(Fe)、磁性ステンレス、コバルト-ニッケル(Co-Ni)合金等の金属材料や、ポリイミド(PI)樹脂等の樹脂材料を用いることができる。また、芯材10の形状に何ら制限はなく、中空であっても中空でなくてもよい。
【0016】
二層構造のロール材20の内層21である発泡弾性層21Aは、過酷な給紙や搬送の条件(特に荷重や速度)下の使用にも耐え得る強度を有し、高耐久化を図ることが可能な、シリコーン変性エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)を含む発泡弾性体からなる。この発泡弾性体を形成する未加硫ゴム組成物には、少なくともシリコーン変性EPDM、発泡剤及び加硫剤が含まれているが、これらの他に、発泡助剤、加硫助剤、加硫促進剤、ゴム補強剤、無機充填剤、軟化剤、老化防止剤、加工助剤、有機過酸化物、架橋助剤、着色剤、分散剤、難燃剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。なお、本実施形態の加硫の方法は限定されず、加硫剤を添加する方法の他、加硫剤を添加せず電子線の照射により架橋する方法(電子線架橋)等を適用してもよい。
【0017】
ここで、シリコーン変性EPDMとは、ケイ素化合物のSiH基がEPDMの分子内にある多重結合部に反応(ハイドロシリレーション反応、ヒドロシリル化反応)し、ケイ素化合物を媒介とした分子間結合(シロキサン結合)が形成された付加反応物である。シリコーン変性EPDMの作製時に、付加反応を促進させるための触媒や反応促進剤等を用いてもよいし、必要に応じてその他の添加剤を用いてもよい。
【0018】
EPDMは、エチレンとプロピレンとジエンとのランダム共重合体である。ジエンとしては、1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン;メチルテトラヒドロインデン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の環状非共役ジエン;2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン等のトリエン等が挙げられる。
【0019】
ケイ素化合物は、ケイ素原子に直結した水素原子、即ちSiH基を含有する化合物であればよく、その分子構造に特に制限はない。例えば、線状、環状、分岐状構造、或いは三次元網目状構造の樹脂状物等を用いてもよいし、1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のSiH基を含んでいる化合物を用いてもよい。
【0020】
そのようなケイ素化合物としては、トリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン等のハロゲン化シラン類;トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、ビス(メチルエチルケトキシメート)メチルシラン等のアルコキシシラン類;トリアセトキシシラン、メチルジアセトキシシラン等のアシロキシシラン類;トリス(アセトキシメート)シラン、ビス(ジメチルケトキシメート)メチルシラン、ビス(シクロヘキシルケトキシメート)メチルシラン等のケトキシメートシラン類等が挙げられる。
【0021】
また、ケイ素化合物として、1分子中のケイ素原子数が、好ましくは2個から1000個、特に好ましくは2個から300個、最も好ましくは4個から200個のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることもできる。そのようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン、1,3,5,7,8-ペンタメチルペンタシクロシロキサン等のシロキサンオリゴマー;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、シリコーンレジン等が挙げられる。
【0022】
シリコーン変性EPDMにおいて、ケイ素化合物は、EPDM100重量部に対して、0.1重量部から100重量部、好ましくは0.1重量部から75重量部、より好ましくは0.1重量部から50重量部、更に好ましくは0.2重量部から30重量部、更により好ましくは0.2重量部から20重量部、特に好ましくは0.5重量部から10重量部、最も好ましくは0.5重量部から5重量部の割合で用いられている。上記範囲内の割合でケイ素化合物を用いると、耐圧縮永久歪性に優れると共に、架橋密度が適度で強度特性及び伸び特性に優れた発泡弾性体を形成することが可能な未加硫ゴム組成物を得ることができる。一方、0.1重量部未満の割合でケイ素化合物を用いると、適度な架橋密度を得ることができないので好ましくない。また、100重量部を超える割合でケイ素化合物を用いると、コスト高になるので好ましくない。
【0023】
未加硫ゴム組成物は、発泡弾性体を製造するための発泡剤を含んでいる。このような発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム等の無機発泡剤;N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソテレフタルアミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物;アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ化合物;ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド化合物;カルシウムアジド、4,4-ジフェニルジスルホニルアジド、p-トルエンスルホルニルアジド等のアジド化合物等が挙げられる。
【0024】
本実施形態では、発泡剤の種別や配合量により発泡倍率や発泡弾性体の気泡の大きさ(平均セル径)等を調整する。発泡剤の配合量は、未加硫ゴム組成物の全量に対して25重量%以下であればよい。このような割合で発泡剤を用いることで、発泡弾性体の比重を0.20から0.95とすることができ、発泡倍率を1.5倍から5.0倍とすることができる。また、発泡弾性体は連続気泡でも独立気泡でもよいが、振動吸収性能の観点から平均セル径が10μm以上のものを用いることが好ましい。
【0025】
未加硫ゴム組成物は、必要に応じて発泡剤と共に発泡助剤を使用してもよい。発泡助剤は、発泡剤の分解温度の低下、分解促進、気泡の均一化等に作用する。このような発泡助剤としては、サリチル酸、フタル酸、ステアリン酸、シュウ酸等の有機酸、尿素又はその誘導体等が挙げられる。
【0026】
未加硫ゴム組成物中の加硫剤としては、硫黄の他、過酸化物等が挙げられる。添加する加硫剤の種別により、作製される発泡弾性体に対して、様々な特性を付与することができる。
【0027】
未加硫ゴム組成物は、加硫剤の働きを促進させる目的で、無機系の酸化亜鉛や酸化マグネシウム等、有機系のステアリン酸やアミン類等の加硫助剤が添加されてもよい。また、加硫時間の短縮等の目的で、チアゾール系を中心とした加硫促進剤が添加されてもよい。
【0028】
未加硫ゴム組成物は、シリコーン変性EPDMに対し、本発明の目的を損なわない範囲で他のゴム材質をブレンドしてもよい。このような他のゴム材質としては、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、エチレン・プロピレンランダム共重合体(EPR)等のエチレン・α-オレフィン系共重合体ゴム;天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)等のイソプレン系ゴム;ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等の共役ジエン系ゴムを挙げることができる。
【0029】
例えば、シリコーン変性EPDMに他のゴム材質としてEPDMをブレンドして未加硫ゴム組成物とする場合には、ブレンド成分(EPDM)の配合量は、未加硫ゴム組成物の全量に対して40重量%以下であればよい。
【0030】
シリコーン変性EPDMは、市販されているものを用いてもよい。シリコーン変性EPDMの市販品としては、例えば信越化学工業株式会社製のSEPラバーを用いることができ、具体的には製品名SEP-1411-U、SEP-1711-U、SEP-1421-U、SEP-1421-U、SEP-1431-U、SEP-363-U、SEPX-719-U、SEPX-910-U等を挙げることができる。
【0031】
上述した未加硫ゴム組成物を用いて作製された発泡弾性体からなる発泡弾性層21Aは、所定の押圧荷重における変形量(潰れ量、ニップ量)を確保して給紙搬送用ロール1に対して給紙搬送特性を付与することが可能な範囲のゴム強度(Asker C)や厚さを有していることが好ましい。例えば、10°から50°のゴム強度を有していればよい。また、2.0mm以上の厚さを有していればよい。
【0032】
このような発泡弾性層21Aを設けることで、給紙搬送用ロール1について、過酷な給紙や搬送の条件下の使用にも耐え得る強度を有し、高耐久化を図ることができる。
【0033】
一方、二層構造のロール材20の外層22である弾性層22Aは、給紙や搬送用のロール全般に用いられる公知のゴム材質を含む未加硫ゴム組成物を加硫して得られる加硫物からなるものである。そのようなゴム材質としては、EPDM、塩素化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリウレタンゴム等が挙げられる。
【0034】
ここで、弾性層22Aのゴム材質は、発泡弾性層21Aと弾性層22Aとが接合し易いゴム材質、即ち同種の又は互いに相溶し易いゴム材質を選択することが好ましい。同種のゴム材質を選択した場合には、発泡弾性層21Aと弾性層22Aとを接合するための、例えば接着剤等を用いる必要がなくなり、製造工程を簡略化してコストを下げることができる。従って、発泡弾性層21Aにはシリコーン変性EPDMが含まれていることから、弾性層22Aのゴム材質としては、同種のEPDMを用いることが好ましい。
【0035】
弾性層22Aは、発泡弾性層21Aの押圧荷重における変形を阻害することなく給紙搬送用ロール1に対して給紙搬送特性を付与することが可能な範囲のゴム強度(JIS A硬度)を有していればよく、例えば、15°から60°が好ましい。また、発泡弾性層21Aを保護して耐久性を維持することが可能な範囲の厚さを有していればよく、例えば、0.5mmから2.0mmが好ましい。更に、給紙搬送用ロール1に対して給紙搬送特性を低下させない範囲のロール表面を有していればよく、例えば、50μmから140μmの表面粗さRzが好ましい。
【0036】
(給紙搬送用ロールの製造方法)
次に、
図3及び
図4を参照して、
図1及び
図2に示した給紙搬送用ロール1の製造方法について説明するが、以下の製法は一例であって、これに限定されない。本実施形態では、弾性層22Aとなるチューブ部材の内径を規定した状態で予め成形した後、このチューブ部材を芯材10の外側に配置すると共に、芯材10の外周面に発泡弾性層21Aとなる発泡弾性体を製造するための未加硫ゴム組成物を設置し、これを加硫・発泡させて発泡弾性層21Aを形成して給紙搬送用ロール1を製造する場合について例示する。この製造方法によれば、発泡弾性層21A及び弾性層22Aが芯材10を中心に同芯状に設けられた給紙搬送用ロール1を製造することができる。
【0037】
なお、弾性層22Aとなるチューブ部材を芯材10の外側に配置して、その間に発泡弾性層21Aとなる発泡弾性体を製造するための未加硫ゴム組成物を充填し、これを加硫・発泡させて発泡弾性層21Aを形成して給紙搬送用ロール1を製造してもよい。
【0038】
図3は、本実施形態に係る給紙搬送用ロールの製造例を示す斜視図である。
図3に示すように、弾性層22Aとなるチューブ部材22Bを予め押し出し成形し、所定の径の径出し芯金100に被覆し、熱処理により半加硫し、このチューブ部材22Bを脱型する。
【0039】
図4は、本実施形態に係る給紙搬送用ロールの製造例を示す軸方向の断面図である。
図4に示すように、円筒状の第1の金型200にその底面201を塞ぐ第2の金型210をセットし、第1の金型200の内周面にチューブ部材22Bをセットする。次いで、第1の金型200の内方に、外周面に未発泡弾性層21B(未加硫ゴム組成物)を巻いた芯材10をセットし、第1の金型200の上端部202を第3の金型220で塞ぎ、この状態で熱処理を行う。これにより、未発泡弾性層21Bを加硫・発泡させて発泡弾性層21Aを形成すると共に、チューブ部材22Bを完全に加硫して弾性層22Aを形成し、両者を一体成形する。
【0040】
その後、第1の金型200から第2の金型210及び第3の金型220を取外し、一体成形した成形品を脱型し、その成形品の弾性層22Aの外周面を研磨して表面粗さ、外径及び芯ぶれを調整し、給紙搬送用ロール1(
図1及び
図2参照)を得る。
【0041】
(給紙搬送用ロールの変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、各種OA機器、印刷機、金融端末、自動改札機等の給紙や搬送に用いられる給紙搬送用ロールであるが、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、加圧ロール等のOA機器用ロールにも適用することができる。そのような場合には、二層構造のロール材の外層である弾性層に用いるゴム材質を、用途に応じて変更すればよい。なお、発泡弾性層及び弾性層のゴム材質を異なるものとするときは、発泡弾性層の外周面に接合層を形成し、この接合層を介して弾性層を設けることにより、両者を接合することが好ましい。接合の際には、給紙搬送用ロールの給紙搬送特性や耐久性に影響を及ぼさない接着剤等を選択すればよい。
【0042】
本発明の給紙搬送用ロールは、二層構造のロール材の内層である発泡弾性層を芯材の外周面に直接設けずに、芯材の外周面に例えば薄肉のゴム状弾性層を設けて当該ゴム状弾性層を介して発泡弾性層を設けてもよい。このような薄肉のゴム状弾性層を設けることで、発泡弾性層と芯材との間のスリップを防止することができる。なお、芯材の外周面に薄肉のゴム状弾性層を設ける場合には、ゴム材質を溶剤に溶解した溶液を芯材の外周面に塗布した後に、ゴム状弾性層を形成することが好ましい。
【0043】
本発明の給紙搬送用ロールは、二層構造のロール材の内層である発泡弾性層を芯材の外周面に設けた後に、外層である弾性層を設けるようにしてもよい。また、給紙搬送特性や耐久性を低下させなければ、必要に応じて弾性層や発泡弾性層をそれぞれ2層以上設けてもよい。
【0044】
本発明の給紙搬送用ロールは、必要に応じて二層構造のロール材の発泡弾性層及び弾性層に絶縁性又は導電性を付与してもよい。導電性を付与することにより、給紙搬送時の静電気の発生を防止することができる。導電性を付与する場合には、上述した弾性材料に、カーボンや金属等からなる導電性粒子やイオン導電剤を混合すればよい。なお、必要に応じて、1種又は2種以上の導電性粒子やイオン導電剤を混合して添加してもよい。
【0045】
添加するカーボンの態様としては、発泡弾性層及び弾性層に導電性を付与することができれば特に限定されず、例えば、粉末状、繊維状、糸状、針状、棒状等が挙げられる。このようなカーボンとしては、カーボンブラック、炭素繊維、炭素原子クラスター等又はこれらの混合物等が挙げられる。炭素繊維としては、アクリル繊維系炭素繊維(PAN)、ピッチ系炭素繊維(PITCH)、炭素繊維強化プラスチック(FRP)等又はこれらの混合物等が挙げられ、炭素原子クラスターとしては、カーボンナノチューブ等又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0046】
金属としては、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、リン(P)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、金(Au)等又はこれらの合金若しくはこれらの酸化物を、粉末状、繊維状、糸状、針状、棒状等の態様に形成したものが挙げられる。或いは、上記金属を、シリカ等の無機フィラーにコーティングして添加してもよい。
【0047】
イオン導電剤としては、有機塩類、無機塩類、金属錯体、イオン液体等が挙げられる。有機塩類としては、三フッ化酢酸ナトリウム等が挙げられ、無機塩類としては、過塩素酸リチウム等が挙げられる。また、金属錯体としては、ハロゲン化第二鉄-エチレングリコール等が挙げられ、具体的には、特許第3655364号公報に記載されたものを挙げることができる。一方、イオン液体は、室温で液体である溶融塩(常温溶融塩)であり、特に、融点が70℃以下、好ましくは30℃以下のものをいう。具体的には、特開2003-202722号公報に記載されたものを挙げることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0049】
(実施例1)
実施例1では、
図1及び
図2に示した給紙搬送用ロール1を、
図3及び
図4に示した製造方法により作製した。まず、弾性層22Aとなるチューブ部材22Bの未加硫ゴム組成物C
1を作製した。チューブ部材22Bの未加硫ゴム組成物C
1には、ゴム材質として2種類のEPDM1,2、加硫剤(沈降イオウ)の他、複数の添加剤が含まれている。EPDM1は製品名「JSR EP-98」(JSR株式会社製)であり、EPDM2は製品名「三井 EPT-X-3042EH」(三井化学株式会社製)である。
【0050】
次いで、
図3に示すように、作製した未加硫ゴム組成物C
1を用いたチューブ部材22Bを予め押し出し成形し、所定の径の径出し芯金100に被覆し、熱処理により半加硫し、このチューブ部材22Bを脱型した。
【0051】
次いで、発泡弾性層21Aとなる未発泡弾性層21Bの未加硫ゴム組成物C2を作製した。未発泡弾性層21Bの未加硫ゴム組成物C2には、ゴム材質としてシリコーン変性EPDM、発泡剤、加硫剤(沈降イオウ)の他、複数の添加剤が含まれている。シリコーン変性EPDMは製品名「SEPX-719-U」(信越化学工業株式会社製)であり、発泡剤は製品名「ビニホールAC#R」(永和化成工業株式会社製)である。未加硫ゴム組成物C2の全量(111.43重量部)に対して、シリコーン変性EPDMは100重量部(89.74重量%)、発泡剤は3重量部(2.69重量%)、加硫剤は0.72重量部(0.65重量%)含まれている。
【0052】
次いで、
図4に示すように、円筒状の第1の金型200にその底面201を塞ぐ第2の金型210をセットし、第1の金型200の内周面にチューブ部材22Bをセットした。次いで、第1の金型200の内方に、未加硫ゴム組成物C
2からなる未発泡弾性層21Bを外周面に巻いた芯材10をセットし、第1の金型200の上端部202を第3の金型220で塞ぎ、この状態で熱処理を行った。これにより、未発泡弾性層21Bを加硫・発泡させて発泡弾性層21Aを形成すると共に、チューブ部材22Bを完全に加硫して弾性層22Aを形成し、両者を一体成形した。
【0053】
その後、第1の金型200から第2の金型210及び第3の金型220を取外し、一体成形した成形品を脱型し、その成形品の弾性層22Aの外周面を研磨して表面粗さ、外径及び芯ぶれを調整して、
図1及び
図2に示した給紙搬送用ロール1を得た。得られた給紙搬送用ロール1の二層構造のロール材20は、それぞれ外径φ16.2mm、内径φ9.0mm及び幅15.0mmであった。また、弾性層22Aのゴム硬度は25°であった。なお、弾性層22Aのゴム硬度はタイプAデュロメーター試験機を用いて測定した。
【0054】
(実施例2)
実施例2では、ゴム材質としてシリコーン変性EPDMとEPDMを用い、異なるシリコーン変性EPDMを用いたこと以外は実施例1と同様にして給紙搬送用ロール1を得た。シリコーン変性EPDMは製品名「SEPX-910-U」(信越化学工業株式会社製)であり、EPDMは製品名「三井 EPT-X-4010M」(三井化学株式会社製)である。未加硫ゴム組成物C2の全量(108.43重量部)に対して、シリコーン変性EPDMは90重量部(83.00重量%)、EPDMは10重量部(9.22重量%)、発泡剤は3重量部(2.77重量%)、加硫剤は0.72重量部(0.66重量%)含まれている。
【0055】
(実施例3)
実施例3では、ゴム材質として異なるシリコーン変性EPDMを用いたこと以外は実施例1と同様にして給紙搬送用ロール1を得た。シリコーン変性EPDMは製品名「SEPX-910-U」(信越化学工業株式会社製)である。未加硫ゴム組成物C2の全量(108.43重量部)に対して、シリコーン変性EPDMは100重量部(92.23重量%)、発泡剤は3重量部(2.77重量%)、加硫剤は0.72重量部(0.66重量%)含まれている。
【0056】
(実施例4)
実施例4では、ゴム材質として異なるシリコーン変性EPDMを用いたこと以外は実施例1と同様にして給紙搬送用ロール1を得た。シリコーン変性EPDMは製品名「SEPX-1411-U」(信越化学工業株式会社製)である。未加硫ゴム組成物C2の全量(111.43重量部)に対して、シリコーン変性EPDMは100重量部(89.74重量%)、発泡剤は3重量部(2.69重量%)、加硫剤は0.72重量部(0.65重量%)含まれている。
【0057】
(比較例1)
比較例1では、ゴム材質として2種類のEPDM1,2を用いたこと以外は実施例1と同様にして給紙搬送用ロール1を得た。EPDM1は製品名「JSR EP-98A」(JSR株式会社製)であり、EPDM2は製品名「三井 EPT-X-3042EH」(三井化学株式会社製)である。未加硫ゴム組成物C2の全量(267.8重量部)に対して、EPDM1は73重量部(27.3重量%)、EPDM2は143重量部(53.4重量%)、発泡剤は6重量部(2.2重量%)、加硫剤は1.5重量部(0.6重量%)含まれている。
【0058】
(比較例2)
比較例2では、ゴム材質としてEPDM1を用いたこと以外は実施例1と同様にして給紙搬送用ロール1を得た。EPDM1は製品名「JSR EP-98A」(JSR株式会社製)である。未加硫ゴム組成物C2の全量(228.9重量部)に対して、EPDM1は187重量部(81.7重量%)、発泡剤は6重量部(2.6重量%)、加硫剤は1.6重量部(0.7重量%)含まれている。
【0059】
(試験例1)
(加速耐久試験)
図5は、試験例1の試験方法を説明するための図である。図示するように、実施例1~4及び比較例1,2で得られた給紙搬送用ロール1を金属板300上に載置して、金属板300を給紙搬送用ロール1側に向かって荷重F
1(800gf)をかけながら、R方向に回転速度200rpmで、給紙搬送用ロール1の発泡弾性層21Aが破損するまで回転させた。そして、破損までの時間(破損時間)を計測して下記表1に示した。なお、試験例1では、回転時間の上限を60分(3600秒)とし、60分間の回転で破損しなかったものについては破損時間を3600秒とし、下記表1に示した。
【0060】
(試験例2)
(潰れ量の測定)
図6は、試験例2の試験方法を説明するための図である。図示するように、実施例1~4及び比較例1,2で得られた給紙搬送用ロール1上に金属板400を載せ、金属板400を給紙搬送用ロール1側に向かって所定の荷重F
2(50g、100g、200g、500g、1000g)をかけ、その際の潰れ量(変位量)dを計測して、各荷重F
2に対する潰れ量dを下記表1に示した。
【0061】
【0062】
(試験例3)
(機械特性の測定)
実施例1~4及び比較例1,2で得られた給紙搬送用ロール1の発泡弾性層21Aの未加硫ゴム組成物C2を用いて試験片を作製し、この試験片から各種機械特性を測定し、その結果を下記表2に示した。各種機械特性の測定は、「JIS K 6249:2003」に基づき行い、作製した試験片の熱処理の条件は、一次加硫時に170℃で25分間とし、また、試験例3では二次加硫を行わなかった。ただし、圧縮永久歪を測定する際の熱処理条件は、100℃で22時間とした。なお、試験片のゴム硬度はタイプAデュロメーター試験機を用いて測定した。
【0063】
【0064】
(考察)
実施例1~4の給紙搬送用ロール1は、二層構造のロール材20の内層21として、シリコーン変性EPDMと発泡剤とを含む加硫可能な未加硫ゴム組成物C2の発泡弾性体からなる発泡弾性層21Aを用いた。一方、比較例1,2の給紙搬送用ロール1は、二層構造のロール材20の内層21として、EPDMと発泡剤とを含む加硫可能な未加硫ゴム組成物C2の発泡弾性体からなる発泡弾性層21Aを用いた。その結果、表1に示した通り、実施例1~4と比較例1,2の破損時間を比較すると、実施例1~4は比較例1,2に対して耐久性が良好であった。また、実施例1~4と比較例1,2の各荷重F2における潰れ量dは同程度であった。
【0065】
一方、表2に示した通り、実施例1~4と比較例1,2の給紙搬送用ロール1の各種機械特性を比較すると、反発弾性は比較例1,2の方が優れていたが、引張強度、破断伸び、引裂強度や耐圧縮永久歪特性は実施例1~4の方が優れていた。特に、ゴム硬度が同程度(25°、35°)の実施例2,3と比較例1,2とをそれぞれ比較すると、破断伸びが大きくなり引張強度や引裂強度といった機械的強度が著しく向上していた。このように、破断伸びが大きくなり機械的強度が向上することで、実施例1~4の耐久性が向上したと考えられる。
【0066】
なお、実施例1~4の給紙搬送用ロール1は、脱型時に欠けや割れといった破損が生じることはないが、比較例1,2の給紙搬送用ロール1は、脱型時に破損が生じていた。このことも、実施例1~4の破断伸びの増加及び機械的強度の向上により、耐久性が向上したことを示すと考えられる。
【0067】
また、実施例2の給紙搬送用ロール1は、発泡弾性層21Aを構成する未加硫ゴム組成物C2において、シリコーン変性EPDMとEPDMとの配合比を9:1にしたものを用いたが、上述した通り、他の実施例1,3,4と遜色ない耐久性を有しているという結果となった。
【0068】
従って、シリコーン変性EPDMを含んだ未加硫ゴム組成物C2又は所定の配合比でシリコーン変性EPDMとEPDMとを含んだ未加硫ゴム組成物C2を用いて給紙搬送用ロール1の発泡弾性層21Aを形成することにより、過酷な給紙や搬送の条件下の使用にも耐え得る強度を有し、高耐久化を図ることが可能な給紙搬送用ロール1が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、複写機、ファクシミリ、各種プリンター等の各種OA機器において用いられるOA機器用ロールの他、テレホンカード、プリペイドカード、キャッシュカード等のカード類、紙幣、切符等の紙類等に印刷を行う印刷機、現金自動預払機(Automatic Teller Machine;ATM)や現金自動支払機(Cash Dispenser;CD)等の金融端末、自動改札機等といったカード類や紙類を送るロール全般に適用することができる。これらの中でも、給紙ロール、搬送ロール、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、加圧ロール等のOA機器用ロール、特に給紙や搬送に用いられる給紙搬送用ロールに用いて好適である。
【符号の説明】
【0070】
1 給紙搬送用ロール
10 芯材
20 二層構造のロール材
21 内層
21A 発泡弾性層
21B 未発泡弾性層
22 外層
22A 弾性層
22B チューブ部材
100 径出し芯金
200 第1の金型
201 底面
202 上端部
210 第2の金型
220 第3の金型
300,400 金属板