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特許7009521複合材料、熱吸収性構成部分および該複合材料の製造方法
<図1>
  • 特許-複合材料、熱吸収性構成部分および該複合材料の製造方法 図1
  • 特許-複合材料、熱吸収性構成部分および該複合材料の製造方法 図2
  • 特許-複合材料、熱吸収性構成部分および該複合材料の製造方法 図3
  • 特許-複合材料、熱吸収性構成部分および該複合材料の製造方法 図4
  • 特許-複合材料、熱吸収性構成部分および該複合材料の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】複合材料、熱吸収性構成部分および該複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
C03B20/00 C
C03B20/00 E
C03B20/00 H
C03B20/00 J
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020002055
(22)【出願日】2020-01-09
(62)【分割の表示】P 2016530950の分割
【原出願日】2014-11-06
(65)【公開番号】P2020073440
(43)【公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-02-10
(31)【優先権主張番号】14/077,182
(32)【優先日】2013-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Heraeusstr.12-14, 63450 Hanau, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】516139182
【氏名又は名称】ヘレーウス クオーツ アメリカ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quartz America LLC
【住所又は居所原語表記】15705 Long Vista Drive, Austin, Texas 78728, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ゲリト シャイヒ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン シェンク
(72)【発明者】
【氏名】フランク ウェスリー
(72)【発明者】
【氏名】ナディーヌ チョリッチュ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ノイマン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン モーリッツ
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ミヒェル
(72)【発明者】
【氏名】アーシュア アタノス
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04033780(US,A)
【文献】特開2001-316174(JP,A)
【文献】特表2003-508334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00-5/44
C03B 8/00-8/04
C03B 19/12-20/00
C03C 1/00-14/00
C04B 35/00-35/047
C04B 35/053-35/106
C04B 35/109-35/22
C04B 35/45-35/457
C04B 35/547-35/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素ケイ素含有相 -「Si相」- の領域が埋め込まれたフューズドシリカのマトリックスを有する複合材料であって、該複合材料が、ガス不透過性であり、かつ、0.5%未満の閉気孔率、および少なくとも2.19g/cm3の比密度、および1000℃の温度で2~8μmの波長に対して少なくとも0.7の分光放射率を有し、Si相の質量分率が少なくとも0.1%であり、マトリックスが、30質量ppm以下のヒドロキシル基含分を有するフューズドシリカからなり、Si相が、平均で3μm超であり、かつ、20μm未満である最大寸法を有する非球形の形態を示すことを特徴とする、前記複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料であって、マトリックスが10μm未満の最大孔寸法を有する気孔を含むことを特徴とする、前記複合材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合材料であって、Si相の質量分率が5%以下であることを特徴とする、前記複合材料。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の複合材料であって、Si相が少なくとも99.99%の金属純度を有するケイ素からなること、および、マトリックスが少なくとも99.99%のSiO2の化学的純度と1%以下のクリストバライト含分とを有することを特徴とする、前記複合材料。
【請求項5】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の複合材料から形成される少なくとも1つの表面を有する熱吸収性構成部分であって、ここで、該複合材料は、元素ケイ素含有相 -「Si相」- の領域が埋め込まれたフューズドシリカのマトリックスからなり、ガス不透過性であり、かつ、0.5%未満の閉気孔率、および少なくとも2.19g/cm3の比密度、および1000℃の温度で2~8μmの波長に対して少なくとも0.7の分光放射率を有し、Si相の質量分率が少なくとも0.1%であり、マトリックスが、30質量ppm以下のヒドロキシル基含分を有するフューズドシリカからなるものとし、Si相が、平均で3μm超であり、かつ、20μm未満である最大寸法を有する非球形の形態を示す、前記熱吸収性構成部分。
【請求項6】
請求項に記載の構成部分であって、該構成部分が、酸化若しくは熱処理操作において、エピタキシー法において、または化学蒸着法において使用するための、リアクタ、取付部品または構成部分として設計されることを特徴とする、前記構成部分。
【請求項7】
請求項5または6に記載の構成部分であって、該構成部分が、プレート、リング、フランジ、ドーム、るつぼ、または中実若しくは中空の円筒体として設計されることを特徴とする、前記構成部分。
【請求項8】
非晶質フューズドシリカ粉末とケイ素含有粉末 -「Si粉末」- とを含有する粉末混合物から、および/または、元素ケイ素含有相が散在した非晶質フューズドシリカを含む混合粉末 -「Si-SiO2粉末」- から、多孔質成形体を形成すること、並びに、該成形体を圧縮することにより複合材料を得ることによる、請求項1からまでのいずれか1項に記載の複合材料の製造方法であって、該成形体の形成がスリップキャスト法を含み、その際、液体中の該粉末混合物および/または混合粉末を含む懸濁液を製造し、該懸濁液を液体の除去により固化させてグリーン体を形成し、かつ該グリーン体から乾燥により該成形体を形成し、成形体を、ケイ素の溶融温度未満の焼結温度に加熱することを特徴とする、前記方法。
【請求項9】
請求項に記載の方法であって、懸濁液が、フューズドシリカ粉末とSi粉末との粉末混合物を含み、ここで、該Si粉末は、少なくとも99.99%の金属純度を有するケイ素からなり、1~20μmのD97値および2μmのD10値により特徴付けられる粒径分布を有し、かつ粉末混合物中での5%以下の体積分率を有することを特徴とする、前記方法。
【請求項10】
請求項に記載の方法であって、>3μmのD97値により特徴付けられる粒径分布を有することを特徴とする、前記方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、Si粉末を、フューズドシリカ粉末を含む液体に混入することを特徴とする、前記方法。
【請求項12】
請求項8から11までのいずれか1項に記載の方法であって、フューズドシリカ粉末が、200μm以下までの範囲内の粒径を有する非晶質粒子を含み、ここで、1μm~60μmの範囲内の粒径を有するSiO2粒子が、該フューズドシリカ粉末の最大の体積分率を占めることを特徴とする、前記方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、フューズドシリカ粉末が、100μm以下までの範囲内の粒径を有する非晶質粒子を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法であって、フューズドシリカ粉末粒子が、50μm未満のD50値により特徴付けられる粒径分布を有し、かつ少なくとも99.99質量%のSiO2含分を有することを特徴とする、前記方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、フューズドシリカ粉末粒子が、40μm未満のD50値により特徴付けられる粒径分布を有することを特徴とする、前記方法。
【請求項16】
請求項8から15までのいずれか1項に記載の方法であって、フューズドシリカ粉末粒子を、初期の粒状SiO2の湿式粉砕により製造することを特徴とする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術的背景
本発明は、ケイ素含有相 -「Si相」- の領域が埋め込まれたフューズドシリカのマトリックスを有する複合材料に関する。
【0002】
本発明はさらに、該複合材料を構成要素とする熱吸収性構成部分に関し、かつさらには、非晶質フューズドシリカ粉末とケイ素含有粉末 -「Si粉末」- とを含有する粉末混合物から、および/または、ケイ素含有相が散在した非晶質フューズドシリカの混合粉末 -「Si-SiO2粉末」- から、多孔質成形体を形成すること、並びに該成形体を圧縮することにより該複合材料を得ることによる、該複合材料の製造方法に関する。
【0003】
従来技術
半導体部品や光学ディスプレイの製造プロセスでは、多数の機器、例えばリアクタ、装置、キャリアトレイ、ベル、るつぼ、保護シールド、あるいはより単純な構成部分、例えばチューブ、ロッド、プレート、フランジ、リングまたはブロックが使用されている。これらには、純度、化学的および熱的安定性、並びに機械的強度の点で厳しい要求を満たすことが求められる。これらは例えばステンレス鋼からなることができるが、フューズドシリカから作製されることが次第に増えてきている。その理由は、高純度の場合に、二酸化ケイ素材料は通常の半導体材料に対して不活性に挙動するという点にある。さらに、フューズドシリカは多数のプロセス媒体に対する高い化学的安定性、またさらには温度変動に対する高い安定性が顕著である。
【0004】
DE69527918T2から、個々の半導体ウェーハを熱処理するための装置が知られている。該装置は、天井部分にドーム状のリアクタ容器と該リアクタ容器の外側に設置されたヒーターとを含む。該リアクタ容器は、溶接部なしの一体型のフューズドシリカ体として製造されており、熱に曝される天井部分は透明なフューズドシリカから作製されており、かつ他の部分は不透明なフューズドシリカから作製されている。
【0005】
しかし、フューズドシリカは脆く、かつ例えば金属と同様に容易に機械加工を行うことはできない。機械加工は、US6486084B2によれば、フューズドシリカマトリックスにケイ素、SiC、窒化ケイ素、窒化チタンまたは炭化チタンを含む第二の相がインターカレートした、冒頭に記載した一般的なタイプの複合材料により改善される。複合材料がケイ素とフューズドシリカとを含む場合には、フューズドシリカ相の質量分率は約60%~85%である。Si-SiO2複合材料は、0.9μmの平均粒径および99.99%の純度を有するケイ素粉末と、0.6μmの平均粒径を有するフューズドシリカ粉末とを混合し、該粉末混合物を高温圧縮して成形体を形成し、その後、該成形体を1400℃で減圧下に焼結して該複合材料を得ることにより製造される。該複合材料は、1%の開気孔率を有する。
【0006】
この種のSi-SiO2複合材料は、JP02283015Aにも記載されている。元素状ケイ素相 -以下「Si相」ともいう- が5質量%以下を占め、かつ100μm以下の粒径を有するケイ素粉末をベースとして提供される。該複合材料は、湿潤雰囲気中であっても高温耐久性および寸法安定性を示すことを特徴とする。
【0007】
熱吸収性の黒色フューズドシリカを含む複合材料は、例えばランプ支援RTP(Rapid Thermal Processing)システムの場合のように、急激な温度変化が生じる用途でも使用される。ここでの特有な課題の一つに、処理されるべき半導体ウェーハ上に均一な温度分布を再現性よく確立することが挙げられる。処理温度が不均一であることによって、例えば粒径やドーパントの濃度といった物理的特性が不均一となることがあり、これによって電子回路の破壊や歩留まりの低下が生じことがある。
【0008】
黒色の合成フューズドシリカの製造は、EP1580170A1に記載されている。そこでは、多孔質のSiO2材料が、炭素を含有する還元性媒体、例えば一酸化炭素により約100~800℃の高められた温度で処理され、その後、約1300~1900℃の温度でガラス化される。炭素含分は、10~10000質量ppmの範囲内である。
【0009】
しかしながら、この種の構成部分が酸化性条件下で使用される場合には、例えば純粋なSiO2の保護層の形態で、炭素を酸化から保護する必要がある。しかし、この種の保護層によって構成部分の反射性が強くなることがある。
【0010】
技術的目標
微粒子状粉末はケーキングを生じ易いため、公知の複合材料の製造に際して、フューズドシリカの微細粉末と金属または半金属の微細粉末とを均一に混合することは困難である。その結果、複合材料内での相の分布が不均一となり、これにより、今度はフューズドシリカ相の失透傾向が助長される。高温プロセスにおいて配置される場合には、複合材料を含む構成部分は、結晶化および割れが生じる結果、機能しなくなることがある。
【0011】
公知の複合材料は開気孔性を示し、従って高純度やガス不透過性が重要な因子となる用途には適さない。配置されている間中、汚染物質が開気孔内に集まり、処理されるべき物質に到達することがある。
【0012】
従って本発明の一目的は、ガス不透過性と純度とに対して厳しい要求が課される場合であっても熱処理の高温プロセスにおいて使用するための構成部分の製造に適している複合材料を提供することである。
【0013】
本発明のもう1つの目的は、この種の複合材料の再現性のある製造を可能にする方法を規定することである。
【0014】
発明の概要
材料に関して、本目的は、冒頭に記載した一般的なタイプの複合材料から出発して、本発明によれば、ガス不透過性であり、かつ、0.5%未満の閉気孔率、および少なくとも2.19g/cm3の比密度、および1000℃の温度で2~8μmの波長に対して少なくとも0.7の分光放射率を有する複合材料により達成される。
【0015】
本発明の複合材料のマトリックスは、不透明、または好ましくは半透明、または透明のいずれかである。このマトリックスには、元素の形態のケイ素(Si)を含みかつ本明細書において「Si相」と呼ばれる相の領域が、極めて微細にインターカレートしている。このSi相は、Si系合金、ドープされたケイ素、またはドープされていないケイ素からなる。簡単に言えば、これは多結晶質ではあるが、単結晶質であっても非晶質であってもよい。
【0016】
Si相の微細領域は、マトリックス内でまず第一に光学欠陥部位として作用し、かつ -層の厚さに応じて- 室温で黒色または帯黒色の灰色の外観を複合材料に与える。第二に、この欠陥部位は、複合材料全体による熱吸収に対しても影響を及ぼす。このことは実質的には半導体元素状ケイ素の特性に起因するものであり、それによって、一方では価電子帯と伝導帯との間のエネルギー(バンドギャップエネルギー)が温度と共に減少し、かつ他方では、十分に高い活性化エネルギーが与えられることにより電子が価電子帯から伝導帯へと上がり、これは吸収係数の大幅な上昇を伴うプロセスである。伝導帯の熱的に活性化された占有とは、半導体ケイ素(以下「元素状ケイ素」ともいう)が、室温で(例えば、約1000nm超の)特定の波長をある程度透過し、かつ高温では透過しないことを意味する。この効果は、例えば構造(非晶質/結晶質)やケイ素のドーピングといった因子に依存し、かつ約600℃超で顕著であり、かつ約1000℃超で飽和に達する。
【0017】
キルヒホッフ放射法則によれば、熱平衡にある実物体の分光吸収率αλと分光放射率ελとは、互いに一致する。
【0018】
【数1】
【0019】
既知の指向性半球分光反射率Rdhおよび透過率Tdhから、分光放射率ελを次のように計算することができる:
【数2】
【0020】
本発明の複合材料の場合には、放射率は少なくとも0.7であり、好ましくはさらには0.75超である。従って、透過率が無視できるほど低いと仮定した場合に、1000℃超の温度での2~8μmの波長に対する反射率は、0.3以下である。本発明の複合材料は、600℃超、より具体的には800℃超、極めて好ましくは1000℃以上の高温での熱処理における運転のための熱放射の吸収体および拡散体として予定される。
【0021】
このことは、一見驚くべきことであるように思われる。実際には、フューズドシリカ製の不透明な構成部分は、その熱伝導率が低いために、しばしば断熱材として -例えば遮熱体として- 使用される。遮熱体の機能は、その後ろに位置する部材を熱源から遮ることである。従って遮熱体は、熱放射を可能な限り吸収しないようにするのに適している必要があり、かつ/または熱放射を可能な限り多く反射するのに適している必要があり、このことは、低い放射容量と高い反射容量とに顕れる。
【0022】
対照的に、本発明の複合材料は、2μm~8μmの、すなわち赤外線の波長範囲内での熱放射に対して高い吸収容量および放射容量を示す。熱放射に対する吸収容量が高いことによって、複合材料の表面でのその反射が低減される。このようにして、熱放射が反射されることにより生じる再現性のない局所的な加熱の事例が回避され、かつ複合材料の周囲で均一な温度分布が得られる。
【0023】
本明細書でいう「分光放射率」とは、「垂直分光放射率」である。この量は、”Black-Body Boundary Conditions”(BBC)という名称で知られておりかつ”DETERMINING THE TRANSMITTANCE AND EMITTANCE OF TRANSPARENT AND SEMITRANSPARENT MATERIALS AT ELEVATED TEMPERATURES”; J. Manara, M. Keller, D. Kraus, M. Arduini-Schuster; 5th European Thermal-Sciences Conference, The Netherlands (2008)において公開されている測定原理に基づいて決定される。
【0024】
Si相は、フューズドシリカマトリックス内に極めて微細にかつ均一に分配されている。これは表面に直に当接しているが、酸化から保護するためのコーティングは不要である。さもなくば、コーティングは複合材料との界面で付加的な望ましくない反射をもたらすものと考えられる。
【0025】
さらに、従来の不透明なフューズドシリカと比較して、本発明の複合材料は驚くべき構造的特性を示す。本発明の複合材料はガス不透過性であり -つまり、本発明の複合材料は開気孔性を有しておらず- 、かつ該複合材料内の閉気孔の体積分率 -0.5%未満- は、比較的低い。このこともまた、少なくとも2.19g/cm3という驚くほど高い密度の理由の一つである。ドープされていない透明なフューズドシリカの比密度と元素状ケイ素の比密度とは類似しており、かつ約2.2g/cm3または2.33g/cm3(ケイ素)に位置している。
【0026】
複合材料内の大きな気孔は、望ましくない拡散反射に寄与しうる。複合材料の気孔率が低いことによってすでに、この効果は制限されている。さらに、マトリックスは、好ましくは10μm未満の最大孔寸法を有する小さな気孔を含む。これらの気孔は主に焼結されたSiO2粒子間で形成され、かつ総じて非円形の形態を有する。
【0027】
気孔率が低くかつ孔径が小さいために、マトリックスのフューズドシリカは広い波長範囲にわたってそれほど不透明には見えず、比較的半透明であるかあるいはさらには透明に見える。結果として、熱放射が材料中に深く侵入することができ、このようにして、Si相を構成要素とする領域の形態の、下方にある吸収中心に到達する。従って、このことはより大きな熱吸収に寄与する。
【0028】
標準分光計の空間分解能は、散在したSi相に影響を受けずにマトリックスの透過率を測定することを許容するものではない。しかし、マトリックスの透明性または半透明性は、顕微鏡下で視認可能な気泡が存在しないことから明らかである。気泡のないフューズドシリカでは、600nm~2650nmの波長範囲内での1mmの経路長での直接分光透過率は、少なくとも0.3である。
【0029】
本発明の複合材料は全く開気孔性を有しないため、アルキメデスの原理に従って単純な密度測定が可能である。気孔率は、複合材料の特定の組成と、フューズドシリカマトリックスおよびSi相の比密度とを考慮した密度測定により決定される。
【0030】
複合材料による熱の吸収は、Si相の割合に依存する。この相の割合が大きいほど、吸収容量および放射容量は高くなる。従って、Si相の質量分率は、好ましくは少なくとも0.1%であるべきである。一方で、Si相の体積分率が高い場合には、複合材料の製造が妨げられることがある。これを踏まえて、Si相の質量分率は5%以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の複合材料のマトリックスは、好ましくは30質量ppm以下のヒドロキシル基含分を有するフューズドシリカからなる。
【0032】
ヒドロキシル基の作用は、フューズドシリカの粘度を低下させることである。従って、ヒドロキシル基は、熱負荷下での高い寸法安定性の点では好ましくない。
【0033】
透明フューズドシリカのヒドロキシル基含分は、通常は赤外透過率測定により決定される。しかし、熱吸収性複合材料に関しては、この測定方法はあまり適していない。この理由のために、複合材料のヒドロキシル基含分は、ヒドロキシル基含分が既知である標準物質との比較により、フューズドシリカ中のヒドロキシル基の吸収波長(2.72μm)の範囲内での放射率測定に基づき決定される。
【0034】
マトリックスは、ドープされていないまたはドープされたフューズドシリカからなる。本発明の意味でのドープされたフューズドシリカには、SiO2以外に他の酸化物成分、窒化物成分または炭化物成分が、20質量%の最大値までの量で含まれていてもよい。Si相はケイ素以外に他の半金属または金属を含んでもよいが、最高で50質量%以下であり、より好ましくは20%質量以下である。好ましい実施形態の場合には、複合材料に由来する汚染のリスクを回避するために、Si相が少なくとも99.99%の金属純度を有するケイ素からなること、およびマトリックスが少なくとも99.99%のSiO2の化学的純度と1%以下のクリストバライト含分とを有すること、という規定が設けられる。
【0035】
複合材料の製造の間に、Si相中のケイ素が、酸素、窒素または炭素を取り込むことがある。金属純度とは、例えば酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物などといったいかなる非金属成分をも考慮しない、相の金属成分および/または半金属成分のみの化学的純度を意味する。
【0036】
マトリックス中のクリストバライト含分が1%以下と低いことによって、低い失透傾向、ひいては運転時の割れの低いリスクが保証される。
【0037】
Si相が、平均で20μm未満であるが好ましくは3μm超である最大寸法を有する非球形の形態を示す場合に、特に高い放射率が達成されうる。
【0038】
このSi相の非球形の形態は、高い機械的強度、および複合材料の低い割れ傾向にも寄与する。「最大寸法」とは、断面において見られるSi相を有する分離領域の最長延在部に関する。上記で規定した平均値を構成しているのは、断面画像におけるすべての最長延在部のメディアン値である。
【0039】
複合材料を含む熱吸収性構成部分に関して、上述の目的は、本発明によれば、ケイ素含有相 -「Si相」- の領域が埋め込まれたフューズドシリカのマトリックスからなり、ガス不透過性であり、かつ、0.5%未満の閉気孔率、および少なくとも2.19g/cm3の比密度、および1000℃の温度で2~8μmの波長に対して少なくとも0.7の分光放射率を有する複合材料から形成される少なくとも1つの表面を有する構成部分により達成される。
【0040】
本発明の構成部分は、全体または部分的に本発明による複合材料からなる。この構成部分が部分的にのみ複合材料からなる場合には、該複合材料は表面の少なくとも一部を成す。その化学組成のため、複合材料を含むコーティングは、フューズドシリカへの適用に、換言すれば、フューズドシリカ/複合材料集成体の製造に、特に適している。構成部分、または少なくとも構成部分の表面は、本発明の複合材料について上記で説明した光学的および構造的特性を有しており、特に、1000℃の温度での2~10μmの波長での、少なくとも0.7 -好ましくは少なくとも0.75- の高い放射率および0.3以下の低い反射率に関する特性を有する。
【0041】
従って、少なくとも領域内では構成部分は次のようなフューズドシリカマトリックスを有し、すなわち、気孔含分が低く、かつその中に微細に但し封入された形態で組み込まれた元素状Si相を有するフューズドシリカマトリックスを有する。 -約1mm超の- 薄い層の場合であっても、構成部分は可視波長範囲内では不透明であるものの、それ以外では概ねフューズドシリカに典型的な化学的および機械的特性を有する。
【0042】
従って、高い熱吸収および均一な温度分布が要求される用途でのその使用に加えて、構成部分は、高い熱的および化学的安定性や腐食性のガスおよび液体に対する高い耐久性が重要な因子となる用途にも特に適している。このような要求は、しばしば半導体の製造における、光工学における、および化学工学における構成部分に関して存在する。さらに、構成部分は外観上の魅力を有するため、芸術的または審美的な観点からの使用も考慮される。
【0043】
しかし、複合材料の高い放射率は、より詳細には、再現性がありかつ均一である温度分布が重要な因子となる熱処理に関連して使用するための構成部分を予定したものである。
【0044】
集積回路の製造に使用するためのそのような多数の構成部分は、書籍“Technology of integrated circuits”, D. Widmann, H. Mader, H. Friedrich著, Springer Verlag(2000),ISBN-10:3-540-66199-9、および特にその第3章“Film Technology”に開示されている。
【0045】
半導体素子の主要な成分は、多くの場合ケイ素である。本発明の構成部分を使用する場合、このような半導体素子の熱処理時に生じる特定の特徴の一つに、構成部分の放射特性が、半導体素子の放射特性に大きく従うかまたはそれに一致することが挙げられる。その理由は、複合材料の放射挙動が、組み込まれたSi相によって実質的に決定されるという点にある。
【0046】
本発明の構成部分は、例えば、酸化若しくは熱処理操作において、エピタキシー法において、または化学蒸着法において使用するための、リアクタ、取付部品またはウェーハホルダーとして設計される。
【0047】
構成部分は、例えば、伸張した形態または湾曲した形態での中実体や中空体としての、容器、皿状物、筐体の形をとる。単純なケースでは、構成部分は、プレート、リング、フランジ、ドーム、るつぼ、または中実若しくは中空の円筒体として構成される。複合材料は、中実体または層の形態で存在することができる。後者の場合、例えば複数の同軸層を構成要素とする中空円筒壁を有する中空円筒体としてのフューズドシリカ/複合材料集成体の形態において、該複数の同軸層のうちの1つが複合材料からなるものとする。
【0048】
複合材料を製造するための本発明の方法に関して、上記の目的は、冒頭に記載した一般的なタイプの方法から出発して、本発明によれば次のように達成され、すなわち、成形体の形成がスリップキャスト法を含み、その際、液体中の粉末混合物および/または混合粉末を含む懸濁液を製造し、該懸濁液を液体の除去により固化させてグリーン体を形成し、かつ該グリーン体から乾燥により該成形体を形成することにより達成される。
【0049】
一般的なタイプの方法においては、成形体は粉末混合物の高温圧縮により成形される。これとは対照的に、本発明の方法はスリップキャスト法を含み、その際、成形体が形成される前に、グリーン体の形態で中間体が製造される。スリップキャスト法自体と、グリーン体での中間体の状態との双方によって、最終的な複合材料により影響を受ける特性の設定および変更のための措置が可能となる。
【0050】
例えば、懸濁液中で初期の粉末を処理することにより、相互の均質な混合と、グリーン体における均一な分配の確立とが促進される。液体は、固体成分間の結合剤または活性剤の機能をも有する。長時間にわたる均質化操作の間に、液体によって粉末粒子の表面が変質し、かつ特にこれらの粉末粒子間に相互作用が生じることがある。これは、その後の焼結に際して、より不透過性が高くかつより安定性が高い結合に寄与しうる。
【0051】
懸濁液は、有機溶剤系であることができ、好ましくはアルコール系であることができ、より好ましくは水性であることができる。水相の極性の性質は、フューズドシリカ粒子同士の、およびフューズドシリカ粒子とSi粉末粒子との上述の相互作用にとって有益であることがあり、それにより、グリーン体の乾燥および焼結が促進される。
【0052】
グリーン体の状態において、フューズドシリカ相とSi相との集成体は多孔質であり、かつ気相を介して変性されることができ、ここで特にドーピングと反応性の乾燥とが挙げられる。
【0053】
グリーン体は、総じてすでに、製造されるべき構成部分の最終的な輪郭に近い形状を有している。この形状とは、例えば、中実体、中空体または基体上の層である。グリーン体は、懸濁液を金型に流し込むことにより得ることができる。しかし、懸濁液のための他の処理方法も適しており、例えば吸引下での金型への導入、または浸漬、吹付け、刷毛塗り、こて塗り、トランスファー成形、堆積、ナイフコーティングなども適している。
【0054】
グリーン体を乾燥させ、かつ概ね水を含まない成形体がそれから得られる。しかしグリーン体は、その製造の必然的な結果としてヒドロキシル基を多量に含む。これを焼結することによって、複合材料を含む、ガス不透過性でかつ機械的に安定な構成部分が形成される。ここで、焼結温度は次のように選択されるべきであり、すなわち、Si相は溶融しないものの、焼結された複合材料について達成される密度ができるだけ高くなるように選択されるべきである。焼結に適したパラメーター(焼結温度、焼結時間、雰囲気)は、簡単な実験をもとに決定することができる。
【0055】
グリーン体の熱乾燥にもかかわらず、成形体は製造プロセスの必然的な結果としてなおもヒドロキシル基を含む。それにもかかわらず、ヒドロキシル基含分が、焼結の間に、Si相が存在しないこと以外は同一である製造パラメーターを用いてSi相を有しない成形体を焼結した後に典型的に存在するヒドロキシル基含分未満へと、予想外にも著しく減少することが明らかとなった。従って、このヒドロキシル基含分の減少は、成形体中のSi相の存在に起因する。
【0056】
高温では、Si相は、例えば次の反応式により、存在するヒドロキシル基および/または水と表面上で反応しうる:
【化1】
【0057】
成形体の焼結の間のこの反応を、本発明の複合材料の以下の特性の基礎ととらえることができる:
・焼結時に、存在する水およびヒドロキシル基が使い果たされてSiO2へ転化される。スリップキャスト法による製造技術では、焼結された構成部分のヒドロキシル基含分は驚くほど低く、好ましくは30質量ppm未満である。この結果の一つとして、複合材料の粘度が比較的高いことが挙げられる。
【0058】
・気孔容積が減少する。全ての含水気孔が塞がれうる。SiからSiO2への転化の結果として、固相の体積が増加する。なぜならば、SiO2の単位格子はSi単位格子の約2倍の体積を有するためである。固体体積の増加は、気孔容積を犠牲にして成り立っている。その結果、フューズドシリカマトリックスは、好ましくは10μm未満の最大孔寸法および0.5%未満の閉気孔率を有する小さな孔を、わずかにのみ含む。これによって、フューズドシリカマトリックスにおいて特定の光学的透明性がもたらされる。このことは、600nm~2650nmの波長範囲内での直接分光透過率が好ましくは少なくとも0.3であるという事実から明らかである。複合材料全体としては、2.19g/cm3以上という驚くほど高い密度を有する。
【0059】
・組み込まれたSi相が表面上で反応することによりSiO2が形成される。これは、マトリックス材料と化学的に同一の反応生成物である。Si相は、SiO2の不透過性シェルにより包囲されたままであり、かつ残りの多孔質マトリックス材料により封入されたままである。このことは、フューズドシリカマトリックス中でのSi相領域の固定化を改善し、かつ複合材料の高い強度と不透過性とに寄与する。さらに、Si相は熱吸収に適しており、かつ高い温度で複合材料は高い分光放射率を示し、これは1000℃で2~8μmの波長に対して少なくとも0.7の値に達する。
【0060】
従って、このようにして得られた材料は、気孔含分が低く、かつその中に微細に但し封入された形態で組み込まれた元素状Si相を有するフューズドシリカマトリックスを有する。この材料を含む構成部分は、部分的にまたは完全に該複合材料からなる中実体または中空体の形をとる。
【0061】
懸濁液は、好ましくはフューズドシリカ粉末とSi粉末との粉末混合物を含み、ここで、該Si粉末は、少なくとも99.99%の金属純度を有するケイ素からなり、1~20μm、好ましくは>3μmのD97および2μmのD10により特徴付けられる粒径分布を有し、かつ該粉末混合物中での5%以下の体積分率を有する。
【0062】
この場合の粒径分布の「D97」とは、ふるい分け画分が1~20μm、好ましくは>3μmのサイズを有するSi粒子を少なくとも97%含むことを意味する。2μmのD10とは、粒子の10%以下が2μm未満の粒径を有する細粒分に割り当てられうることを意味する。特に微細なSi粉末が褐色の着色を招くことがあることが明らかとなり、これはいくつかの用途にとって望ましくない。従って、細粒分は有利には粉末粒子の10%未満に制限され、かつD97は、好ましくは3μm以上(例えば3μm~20μm)である。この制限は、Si-SiO2混合粉末中のいずれの微細Si相にも同様に該当する。
【0063】
一方では熱吸収体の機能を考慮して、他方ではグリーン体および複合材料において、1~20μmの粒径が特に有利であることが判明した。これらによって生じる応力はわずかであるため、光学特性および強度に対してはせいぜい無視できる程度の影響しか及ぼさない。これに関連して、粉末混合物中でのケイ素粉末の体積分率が5%以下であることが特に適していることが判明した。
【0064】
Si粉末とフューズドシリカ粉末との混合は、乾式混合により行われることができ、例えば懸濁液の調製前であっても行われることができる。しかし、Si粉末が非晶質フューズドシリカ粉末を含む液体中に混合される場合には特に有利であることが判明した。
【0065】
そうしたケースでは、Si粉末が添加される場合に、フューズドシリカ粉末粒子の懸濁液が少なくとも部分的に均質化される。Si粉末は、液体が除去される前に混入される。懸濁液中では均質混合の達成が特に容易であり、かつSi粉末が混入された後に、懸濁液は8~96時間にわたって絶えず運動状態で維持されることにより安定化される。
【0066】
純度の要求が厳しい場合には、フューズドシリカ粉末粒子のSiO2含分は、少なくとも99.99質量%である。
【0067】
フューズドシリカ粒子の固形分、粒径および粒径分布は、乾燥時のグリーン体の収縮に影響を与える。従って、乾燥時の収縮は比較的粗いSiO2粒子の使用により低減されることができる。これに関連して、確立されているフューズドシリカ粉末とは、非晶質フューズドシリカ粒子が、200μmの最大値、より好ましくは100μmの最大値までの範囲内の粒径を有する粉末であり、ここで、1μm~60μmの範囲内の粒径を有するフューズドシリカ粒子が、該フューズドシリカ粉末の最大の体積分率を占めるものとする。
【0068】
懸濁液の高い固形分と併せて、このサイズ範囲内のフューズドシリカ粒子は有利な焼結特性と乾燥時の比較的低い収縮とを示し、かつそれに応じてグリーン体の割れを生じない乾燥が促進される。このことは、SiO2粒子同士の相互作用に起因しうる。
【0069】
これに関連して、50μm未満、好ましくは40μm未満のD50により特徴付けられる粒径分布を有するフューズドシリカ粒子が特に有利であることが判明した。
【0070】
またこのことに寄与しているのは、フューズドシリカ粒子を初期の粒状SiO2の湿式粉砕により製造するという処置である。
【0071】
これに関連して、懸濁液の均質化のプロセスにおいて、粉砕時間と非晶質の初期造粒体の添加とに応じて所望の粒径分布が設定される。湿式粉砕の間に、各サイズの非晶質フューズドシリカ粒子が懸濁液内で形成され、この粒子には、互いの相互作用の結果として懸濁液自体の中で上記の相互作用と結合とを生じる粒子が含まれる。
【0072】
非晶質フューズドシリカ粒子のSiO2含分は、好ましくは少なくとも99.99質量%である。そのような粒子を用いて調製された懸濁液の固形分の少なくとも99.99質量%程度がSiO2からなる。その種の結合剤または補助剤は、供給されない。不純物のレベルは、好ましくは1質量ppm未満である。この出発材料は、いかなる汚染リスクも結晶化リスクも生じさせない。乾燥されたグリーン体中のクリストバライト分は、0.1質量%以下であるべきである。なぜならば、さもなくば焼結に付随して結晶化が生じ、従って構成部分が廃棄されることがあるためである。
【0073】
成形体の焼結の間にSi相が溶融するのを回避するために、成形体は、半金属の溶融温度未満の焼結温度に加熱される。ここで、成形体は焼結温度で少なくとも30分間保持される。
【0074】
実施例
本発明を、以下に実施例および図面により詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】単一の図面として、図1は、本発明による1つの措置に基づく、半導体製造において使用するための本発明のフューズドシリカ構成部分の一実施形態の製造を説明するためのフロー図を示す。
図2】単一の図面として、図2は、5質量%のSi相を有する試料についての、様々な温度での波長の関数としての垂直放射率を示す線図を示す。
図3】単一の図面として、図3は、2質量%のSi相を有する試料についての、様々な温度での波長の関数としての垂直放射率の線図を示す。
図4】単一の図面として、図4は、1質量%のSi相を有する試料についての、様々な温度での波長の関数としての垂直放射率の線図を示す。
図5】単一の図面として、図5は、比較のための、室温で従来技術からの2種の異なる試料の波長の関数としての垂直放射率の線図を示す。
【0076】
本発明の方法を、以下に例として図1を参照して、ウェーハ処理用RTPリアクタのためのフューズドシリカ製の断熱リングの製造を用いて説明する。
【0077】
試料1
ベーススリップ1(SiO2/水 スリップ)10kgのバッチのために、フューズドシリカライニングと約20Lの容量とを有するドラムミル中で、天然シリカ原材料を溶融することによって得られかつ250μm~650μmの範囲内の粒径を有する非晶質の粒状フューズドシリカ2 8.2kgを、3μS未満の導電率を有する脱イオン水3 1.8kgと混合する。この粒状フューズドシリカ2は、高温の塩素化プロセスで予め精製しておいたものである。クリストバライト含分が1質量%未満であることが保証される。
【0078】
この混合物を、ベーススリップ1が均質となりかつ78%の固形分を有するまで、フューズドシリカ粉砕ボールを用いて23rpmでローラーベッド上で3日間粉砕する。この粉砕措置の間に、SiO2を溶液に通した結果として、pHが約4に低下する。
【0079】
その後、生じたベーススリップ1からこの粉砕ボールをとり除き、かつ99.99%の金属純度を有するケイ素粉末4の形態で、固形分が83質量%となるような量で、混合を行う。
【0080】
ケイ素粉末4は、狭い粒径分布を有する実質的に非球形の粉末の粒子からなり、そのD97は約10μmであり、かつその2μm未満の粒径を有する細粒分は予め除去しておいた。ケイ素粉末4は、連続的な混合によりベーススリップ1中に均一に分散される。
【0081】
このケイ素粉末4が充填されたスリップを、さらに12時間均質化する。このようにして得られた均質なスリップ5は、83%の固形分を有する。全体の固形分に対する割合としてのケイ素粉末の質量分率は5%であり、かつ体積分率は、SiO2の比密度とSiの比密度とが類似しているために同様にほぼ5%であり、より正確には4.88%である。完全に均質化されたスリップ5中のSiO2粒子2は、約8μmのD50および約40μmのD90により特徴付けられる粒径分布を有する。
【0082】
スリップ5を、市販の加圧注型機中の加圧注型用型に流し込み、かつ多孔質ポリマー膜を介して脱水することにより、多孔質グリーン体6を形成する。このグリーン体6は、ウェーハ処理のためのRTPリアクタのためのリング形状を有する。
【0083】
結合水を除去するために、グリーン体6を換気された炉中で約90℃で5日間乾燥させ、冷却後に、生じる多孔質の未完成品7を、製造されるべきフューズドシリカリング8のほぼ最終寸法となるまで機械加工する。
【0084】
未完成品7を焼結するために、これを空気下に焼結炉中で加熱することにより、1時間で1390℃の加熱温度に加熱し、かつこの温度で5時間保持する。1℃/分の冷却勾配で1000℃の炉温度に冷却し、その後、調整なしで炉を閉鎖した。
【0085】
生じるフューズドシリカリング8を表面的に研磨して、約1μmの平均表面粗さRaとする。これは、2.1958g/cm3の密度を有するガス不透過性の複合材料からなり、その際、互いに分離している元素状Si相の非球形領域が、不透明なフューズドシリカのマトリックス中で均一に分配されており、このSi相領域のサイズおよび形態は、使用されるSi粉末のサイズおよび形態に概ね一致している。最大寸法は、平均(メディアン値)で約1~10μmの範囲内である。複合材料は、空気中で約1200℃までの温度に対して安定である。
【0086】
視覚的な観点では、マトリックスは半透明ないし透明である。顕微鏡で見た場合に、これは開気孔を示さず、かつ平均でせいぜい10μm未満の最大寸法を有する閉気孔を示す。理論上のマトリックス密度が2.2g/cm3であり、かつ理論上のSi相の密度が2.33g/cm3であると仮定して、密度に基づいて計算される気孔率は0.37%である。
【0087】
組み込まれたSi相は不透明性に寄与し、かつ複合材料全体の熱的特性に対しても影響を及ぼす。この複合材料は、高温での熱放射の高い吸収を示す。このことは、この材料の放射率のスペクトルプロファイルを示す図2の線図により示されている。
【0088】
室温での放射率は、慣用の方法でウルブリヒト球を用いて測定される。これによって、指向性半球分光反射率Rdhおよび指向性半球分光透過率Tdhの測定が可能となり、これから垂直分光放射率が計算される。
【0089】
2~18μmの波長範囲内での高められた温度での測定は、上記のBBCの測定原理に基づいて、FTIR分光計(Bruker IFS 66v Fourier Transform Infra-red (FTIR))を用いて行われ、該FTIR分光計には追加の光学系を介してBBC試料チャンバが結合されている。この試料チャンバは、載置される試料の前後の半分の空間内に、温度制御可能な黒体包囲体と、検出器を備えたビーム出口開口部とを有する。試料を別個の炉内で所定の温度に加熱し、かつ測定のために所定の温度に設定された黒体包囲体を有する試料チャンバの光路内に移動させる。検出器によって把握される強度は、放射成分と反射成分と透過成分とを構成要素とし、すなわち、試料自体により放射される強度と、前半分の空間から試料に衝突して該試料により反射される強度と、後半分の空間から試料に衝突して該試料を透過する強度とを構成要素とする。放射率、反射率および透過率の個々のパラメータを決定するために、3回の測定を行わなければならない。
【0090】
図2の線図、そしてさらには図3および4の線図の各々は、(μmでかつ対数プロットでの)測定波長λの関数としての垂直放射率εのプロファイルを、2~18μmの波長範囲にわたって、かつ室温~1200℃の試験体の様々な温度について示したものである。
【0091】
図2は、2~約4μmの波長範囲内での5質量%のSi相を有する試料1の放射率が、該試験体の温度に大きく依存していることを示す。試験体を強度に加熱するほどこの波長範囲内での放射は高くなり、もはや1000℃と1200℃との間では実質的な相違は明らかでない。1000℃および1200℃に加熱された試料の場合、2~8μmの波長範囲の全体における垂直放射率は0.75超であり、3μmの波長では0.79である。
【0092】
原則的には放射率は実質的に波長と共に増加するが、約9μmの測定放射に対して顕著な最小値を示す。最小値は、マトリックスのフューズドシリカによる反射に起因しうる。
【0093】
特に以下の現象から、Si相の組み込みとスリップキャスト経路による製造技術との効果が明らかである:
・試験体の温度が上昇するにつれて、2~5μmの波長範囲内の放射は増加する。同様に、1200℃の最高測定温度でこの波長範囲内での最大放射が達成される。1000℃の試験体温度で、2~8μmの全波長範囲内の放射は70%超である。従って、この波長範囲内では、材料は低い反射および低い透過を示す。
【0094】
・フューズドシリカ中のヒドロキシル基の吸収および放射に特徴的である約2.72μmの波長範囲内において、顕著な効果は認められない。このことは特に、(図2中で試料1について示すような)室温での測定試料の分光放射プロファイルと、図5による比較試料の分光放射プロファイルとを比較することにより明らかとなる。 -以下でより詳細に説明される- 比較試料C1の製造は、焼結条件がわずかに異なる(第1表参照)こと以外には主に、ベーススリップが、添加されたSiを含まないという点で異なる。図5の線図は、0.25μm~約3.5μmの波長範囲内での比較試料の材料が、2.72μmで顕著な放射バンドを有することを示し、ここで、これは該材料のヒドロキシル基含分に起因するものである。試料1(またさらには、図3および図4に示すように、試料2および3の場合にも)の複合材料については、この放射バンドは全く存在しない。許容誤差を考慮した室温でのそれぞれの放射測定から、試料1~3についてのヒドロキシル基含分を試料の厚さにわたって平均したものは、20質量ppm以下である。(例えばフッ素や塩素といった乾燥剤を使用しない)グリーン体の非反応性の乾燥にもかかわらず低いヒドロキシル基含分が得られるという事実は、Si相が複合材料の焼結中にヒドロキシル基を消費して高密度となることを示す。
【0095】
上記で説明したスリップキャスト法を用いて、組成および個々のプロセスパラメータを実験的に変化させてさらに複合材料を製造した。第1表に、これらのパラメータと、試料についての測定結果を報告する。
【0096】
図3は、(2質量%のSi相を有する)試料2の放射率のスペクトルプロファイルを示し、かつ図4は、(1質量%のSi相を有する)試料3についてのプロファイルを示す。2~4μmの波長範囲内の放射率のそれぞれの最大値の比較によって、最も低いSi相含分を有する測定試料(試料3、1質量%)が、測定された全ての試料のうちで最も高い放射率を示し、これは3000nmおよび1000℃で0.85であるという驚くべき結果が判明した。このことは、Si相含分が低い場合に、材料の下方の層が、より高いレベルの場合よりも放射により大きく寄与することに起因しうる。従って、Si相含分が1質量%未満である場合には放射率がさらに高くなるということが、原理的には起こりうる。
【0097】
RTPリアクタ内でのその目的となる使用の間に、このようにして製造された複合材料のリングは、処理されるべきウェーハを包囲する。このリングの内径は、ウェーハの外径と一致する。RTP装置の加熱エレメントは、一般的に、ウェーハとリングとの組み合わせ物の上方および/または下方の平面内に配置されたIRエミッターのアレイとして構成されている。複合材料のリングは、ウェーハエッジでの過度に急速な冷却の効果を減少させ、従ってウェーハ表面全体にわたる均一な温度分布に寄与する。
【0098】
原則的に、複合材料は、高い熱吸収と低い熱反射、または特に均一な温度分布が重要な因子とされる用途が予定される。複合材料は広範で多様な幾何学的形態をとることができ、例えばリアクタ、装置、キャリアトレイ、ベル、るつぼ、または保護シールドの形態、あるいはより単純な構成部分の形態、例えばチューブ、ロッド、プレート、フランジ、リングまたはブロックの形態をとることができる。他の例としては、以下のものが含まれる:
・特に短時間の酸化および熱処理プロセスにおけるものを含む、半導体構成部分またはディスプレイの熱的コンディショニングのための蓄熱エレメントとしての使用。
【0099】
・ホモプロセスおよびヘテロプロセスの双方についての高速エピタキシー法に関連するリアクタまたはドームとしての使用。
【0100】
・特に高温での2~8μmのIR放射に対する熱保護およびクラッド要素としての使用。
【0101】
・芸術的用途またはデザイン用途での使用。
【0102】
比較例1(試料C1)
本発明の複合材料の高い密度、低い気孔率および高い放射率は、実質的に、Si相の介在物の性質、サイズおよび分布に起因する。
【0103】
このことは、対応するSi相の介在物を有しない市販の不透明なフューズドシリカリングとの比較により示される。この種の材料およびその製造は、DE4440104A1に記載されている。ベーススリップを製造するためのSi含有出発材料の使用と、焼結条件に関するわずかな相違とを除いて、この材料の製造は実施例1の製造と一致する。この材料は、約2.16g/cm3の密度および2.5%の閉気孔率を有し、かつ主に拡散反射体として作用する。このことは、この材料が1mmの経路長で190~2650nmの波長範囲内で10%未満のほぼ一定の直接分光透過率を有するという事実から明らかである。
【0104】
図5の線図は、室温で0.25μm~18μmの波長範囲内での(2回の測定実行からの)この材料の分光放射率を示す。約2μmまでの可視波長範囲内では放射率は10%未満であり、この事実は、不透明なフューズドシリカの高い反射率に主に起因しうる。約2.7μmの波長では、既に上記で記載した吸収または放射バンドが明らかであり、このバンドはフューズドシリカ中のヒドロキシル基に帰属でき、これはこのフューズドシリカの場合には約300質量ppmに達する。
【0105】
【表1】
【0106】
放射率の数値は、複合材料全体に基づくものである。試料4および5については、これらの値は未測定(n.d.)であった。「C1」の列に、上記比較例のデータを報告する。
図1
図2
図3
図4
図5