(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】食道の炎症状態を治療するための最適化された医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/58 20060101AFI20220118BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220118BHJP
A61K 9/46 20060101ALI20220118BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220118BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220118BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20220118BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220118BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220118BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220118BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220118BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
A61K31/58
A61K9/20
A61K9/46
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/20
A61K47/32
A61K47/10
A61K47/12
A61P1/04
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2020144070
(22)【出願日】2020-08-28
(62)【分割の表示】P 2019082802の分割
【原出願日】2014-12-18
【審査請求日】2020-09-04
(32)【優先日】2013-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509274005
【氏名又は名称】ドクトル ファルク ファルマ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】グレインウォルド,ロランド
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】プレルス,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルヘルム,ルドルフ
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-142931(JP,A)
【文献】特表2011-528679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0097401(US,A1)
【文献】特表2005-523256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0181099(US,A1)
【文献】改訂 医薬品添加物ハンドブック,第1刷,2007年02月28日,p.14-17、p.455-457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内でブデソニドを1.5~2分間放出するために調製された口腔内分散性発泡錠であって、
a. 0.25~5mgのブデソニド、ならびに
b. (i)弱酸またはその塩、および(ii)さらなる酸と組み合わせて、唾液との接触時にガスを放出して発泡反応を生じさせることができる
炭酸の塩を含むガス生成系
を含有し、前記発泡反応は、食道粘膜の1つ以上の炎症領域を直接標的
として高濃度のブデソニド
を移行させ、体循環および/または口腔粘膜からのブデソニドの望ましくない吸収を最小限にする、口腔内分散性発泡錠。
【請求項2】
さらに0.1重量%~1.0重量%のスクラロースを含む、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項3】
さらに0.01重量%~0.2重量%のドクサートナトリウムを含む、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項4】
さらにポリビニルピロリドンを含む、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項5】
さらにマンニトールを含む、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項6】
さらにマクロゴール6000を含む、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項7】
さらにステアリン酸マグネシウムを含む、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項8】
直径が5~10mmである、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項9】
高さが1.5~3.0mmである、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項10】
質量が100mg~200mgである、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項11】
破壊強度が10~100Nである、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項12】
摩損度が最大で5%である、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項13】
(b)(i)が、水溶液中のpH値を低下させる薬理学的に許容可能な弱酸またはその塩を
含む、請求項1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項14】
(b)(i)が、酒石酸、酢酸、乳酸、およびクエン酸からなる群から選ばれる、請求項13記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項15】
(b)(i)が、酒石酸、酢酸、乳酸、またはクエン酸の、ナトリウム塩、マグネシウム塩、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる、請求項13記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項16】
(b)(i)が、クエン酸二ナトリウム、クエン酸一ナトリウム、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項13記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項17】
(b)(ii)が、炭酸塩および炭酸水素塩からなる群から選ばれる、請求項
1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項18】
(b)(ii)が、NaHCO
3、Na
2CO
3、KHCO
3、K
2CO
3、CaCO
3、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項
1記載の
口腔内分散性発泡錠。
【請求項19】
ブデソニドを必要とする対象の食道粘膜に直接送達するために調製された口腔内分散性発泡錠であって、
a. 0.25~5mgのブデソニド、ならびに
b. (i)弱酸またはその塩、および(ii)さらなる酸と組み合わせて、ガスを放出することができる
炭酸の塩を含むガス生成系
を含有し、前記ガス生成系が、唾液との接触時に発泡反応を生じさせることにより、
前記口腔内分散性発泡錠が複数のブデソニド含有小粒子に崩壊され、次に、唾液に溶解され、
さらに、前記小粒子含有唾液は、嚥下されると、
比較的均一に対象の食道に移行してブデソニド含有付着
物を形
成し、対象の食道粘膜の炎症領域を直接標的
として高濃度のブデソニド
を移行させ、対象の口腔粘膜からの吸収を最小限にする、口腔内分散性発泡錠。
【請求項20】
ブデソニド
を1.5~2分間
にわたって連続的に放出する、請求項
19記載の
口腔内分散性発泡錠。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
好酸球性食道炎などの食道における炎症過程および炎症状態の治療には、経口で使用した際に有効成分であるブデソニドが十分に高濃度で炎症病巣に局所利用される投与剤形が必要とされる。このような治療コンセプトは食道の標的化と呼ばれるが、単純に有効成分溶液を経口適用しても、大部分の有効成分は胃へと急速に嚥下されてしまう可能性が高いため、このような方法では食道の標的化を行うことはできない。したがって、食道の標的化を達成するためには、有効成分が食道の粘膜に沿ってゆっくりと下降しながら、食道粘膜の表面全体を湿潤させるとともに有効成分が該粘膜表面に付着するような方法を採用することが好ましい。このような使用方法によって、有効成分を選択的に標的部位へと送達することができる。さらに、理想的な食道の治療方法では、治療対象となる患者集団に応じて剤形を変える必要があると考えられる。本発明は、成人患者において容易かつ確実に使用することが可能な、年齢に応じた剤形を提供することに特に適しており、したがって、1日の処方量のコンプライアンスを高めることができる。
【0002】
好酸球性食道炎は、食道の機能低下を伴う慢性炎症性食道疾患であり、食道上皮への好酸性顆粒球の浸潤を特徴とする。好酸球性食道炎は、1970年代の後半以降にはいくつかの事例が報告されており、1990年代の後半以降から診断が増加している。空中浮遊アレルゲンや食物アレルゲンに対するTh2細胞媒介性応答が起こることによってIL-13やIL-5が分泌され、それによってエオタキシン-3の産生が増加すると考えられている。このエオタキシン-3によって好酸性顆粒球が誘引される。臨床では、長期にわたり頻発する嚥下障害や、食塊による食道閉塞は、早急な治療を要するものとして重要視されている。診断基準に基づいた診断では、食道機能不全の症状を有する患者の食道において高倍率1視野当たり15個以上の好酸球を検出する必要がある。患者によっては粘膜変化しか観察されず、このような粘膜変化は容易に見落とされることがある。好酸球性食道炎は主に男性に発症し、小児や若年者にしばしば見られる。
【0003】
国際公開第2009/064417号パンフレットには、胃腸の炎症を治療するための組成物が開示されている。この特許文献に記載の組成物は、コルチコステロイドと少なくとも1つの他の炎症治療用薬剤とを含む。前記国際公開第2009/064457号パンフレットには、胃腸管の炎症の治療に適したコルチコステロイド含有組成物が開示されている。
【0004】
米国特許出願公開第2007/0111978号明細書には、胃腸管における炎症性疾患を軽減するための方法が記載されている。この特許文献では、スクラロースを非常に高濃度で含む、高粘度ブデソニド懸濁液を調製することが提案されている。また、米国特許出願公開第2009/0264392号明細書には、好酸球性食道炎の治療に適した方法および組成物が記載されている。この治療方法においては、ステロイドと粘膜に付着する薬剤とが使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有利に使用できるとともに、保存安定性を有する形態に容易に調製でき、かつそのような形態で提供可能な医薬製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、医薬製剤に関し、具体的には、医薬品有効成分としてブデソニドまたはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体を含み、好ましくは食道の炎症性疾患の治療を目的として成人において使用される、口腔内分散性発泡錠に関する。
【0007】
発泡錠は、水に溶解してから飲料液または洗浄液として使用されることが一般に知られている。有効成分のこのような使用には、上記の症状の治療に対して様々な問題点があり、例えば、大量の水の使用(一般に250mL)、それに伴う有効成分の希釈や口腔全体への有効成分の移行、一般に経験されるような胃内への急速な嚥下が挙げられる。また、好酸球性食道炎にブデソニドを使用することも知られている(Straumann et al., Gastroenterology, 2010. p. 1526-1537)。しかしながら、この研究では、「Respules」と呼ばれる液体アンプルが使用されており、この液体アンプルは通常、吸入剤として使用される。すなわち、このアンプルの内容物を予め噴霧器に充填してから吸入する。この文献におけるこのような通常の使用以外に、該アンプル中ブデソニド懸濁液は飲料液としても使用されている。
【0008】
しかしながら、本発明の発泡錠は使用前に水で希釈する必要がなく、この点で、発泡錠の通常の使用方法とは大きく異なる。本発明の発泡錠は、飲料液を調製するために使用するのではなく、経口的に使用され、例えば、舌上、好ましくは舌の先端に載せ、口内の唾液でゆっくりと溶解される。したがって、本発明の口腔内分散性発泡錠は、組成および形態の点で公知の製剤とは大きく異なる。
【0009】
本発明の口腔内分散性発泡錠は、使用に際して舌と接触することが好ましいことから、舌上発泡錠(lingual effervescent tablet)とも呼ばれる。また、本発明の製剤形態は、BUL(ブデソニド含有舌上発泡錠(budesonide-containing lingual effervescent tablet))とも略される。
【0010】
本発明に係る発泡錠の口腔内分散による使用は、該錠剤を経口使用することによる特定の使用形態であり、例えば、舌上、好ましくは舌の先端に錠剤を載せ、口を閉じた後、口蓋に錠剤を軽く押し付ける。このような使用方法により、発泡反応が起こり、唾液分泌が約5~15秒間刺激され、該錠剤の成分が唾液中に溶け始める。その後、自然に誘発される嚥下反射によって唾液が数回に分けて嚥下され、持続的に食道が湿った状態になり、このようにしてブデソニドが粘膜に付着する。本発明の発泡錠が分散する際、患者は平均5~10回嚥下を行い、それによって、有効成分を含んだ唾液により食道が常に湿った状態になる。本発明の発泡錠は完全に崩壊し、目に見える断片は残らない。飲料摂取を促すような刺激が存在しないため、発泡錠の投与後に液体を摂取する必要はない。すなわち、本発明の最適化された製剤は、該製剤の投与後に液体を摂取する必要がないため、治療活性成分であるブデソニドを食道の患部に十分に長い時間にわたって保持することが可能となるという利点を有する。本発明の発泡錠の使用は1.5~2分間で終了し、このような使用方法によって、高濃度のブデソニドを食道に移行させることが可能となる。本発明の発泡錠の使用において、食道内における食道粘膜への有効成分の移行は唾液のみによってなされる。また、口腔内に投与されたブデソニドが様々な部位に移行することを防ぐこともできる。本発明の口腔内分散性発泡錠は、患者自身によって非常に簡便に適時摂取することができるものである。
【0011】
本発明の口腔内分散性発泡錠は、使用にあたって、患者の口腔内に含ませると、直ちに崩壊して複数の小粒子になる。本発明の口腔内分散性発泡錠は、少量の液体が存在する場合に直ちに崩壊可能であり、好ましくは、該発泡錠の投与後に液体を摂取しなくても直ちに崩壊可能であるという利点がある。さらに、本発明の発泡錠は、使用に際して許容可能な風味および良好な食感を有するという利点がある。また、本発明の発泡錠は、高温高湿度の条件下でも十分な破壊強度と高い保存安定性とを示し、有効成分であるブデソニドの含有量を多くすることができるという利点がある。本発明の口腔内分散性発泡錠は、高い機械的安定性を有しており、したがって、さらなる加工、包装および輸送を問題なく行うことができる。特に注目すべきは、本発明の口腔内分散性発泡錠は、公知の医薬製剤に比べて優れた長期安定性を有しており、このことは、例えば表2および表3に示されている。
【0012】
本発明の発泡錠を使用することによって、望ましくない体循環へのブデソニドの吸収の恐れを著しく減少させることができる。したがって、本発明の発泡錠は、頬側投与や舌下投与では使用されない。また、通常の使用において、臨床的に影響を及ぼす量のブデソニドが口腔粘膜から吸収されることはない。口腔内で分散させる用法もある口腔内崩壊錠とは異なり、本発明の発泡錠は、分散が起こると1.5~2分間にわたって有効成分が連続的に放出され、それによって食道粘膜に有効成分を局所適用することが可能となる。一方、口腔内崩壊錠は、使用の際に直ちに崩壊し、1回の嚥下のみで摂取されてしまうという欠点がある。さらに、本発明の発泡錠は、口腔内崩壊錠と比較して、産業的に非常に簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】各食道部位における好酸球の浸潤の平均値を示す。
【
図2】内視鏡所見強度スコアの合計の平均値を示す。
【
図3】好酸球カチオン性タンパク質(ECP)の変化の平均を示す。
【
図4】嚥下障害スコアにおける最終治療(EOT)時から追跡調査(FU)終了時までの変化の平均を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ブデソニドを0.25~5mg、好ましくは0.3~4mg、より好ましくは0.4~3mg、最も好ましくは0.5~2.0mg含有する口腔内分散性発泡錠を提供することを目的とする。使用するブデソニドは、薬学的に許容できる形態であればどのような形態のものであってもよい。上記の含有量は、口腔内分散性発泡錠中に含まれる有効成分ブデソニドの総量である。好ましい一実施形態において、本発明の口腔内分散性発泡錠は、ブデソニド以外の医薬品有効成分を含まない。
【0015】
本発明の口腔内分散性発泡錠における必須要素の1つは、唾液の存在下でガスを生成することによって発泡効果を得るための系である。このガス生成系は、薬学的に許容されるものでなければならない。一方、このようなガス生成系は、弱酸または弱酸の塩を含む。水の存在下においてこのガス生成系から遊離の弱酸が生じる。しかしながら、この酸は、健康に害を及ぼさないように、強すぎる酸であってはならない。前記酸は、酒石酸、酢酸、または乳酸であってもよく、より好ましくはクエン酸である。通常、これらの酸の塩、すなわち、例えばナトリウム塩、マグネシウム塩、またはカルシウム塩が使用される。前記ガス生成系のもう一方の要素は、別の酸と共にガスを放出することができる酸の塩で構成される。このような酸の塩は、炭酸の塩であることが好ましく、炭酸塩または炭酸水素塩、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、これらの塩の混合物などであってもよい。本発明の発泡錠の使用に際しては、健康に全く害を及ぼさないガス、すなわちCO2が、少量だけ放出される必要がある。このガスは、前記ガス生成要素と唾液とが相互作用することによって放出される。
【0016】
本発明の口腔内分散性発泡錠の質量は、100~200mgであり、好ましくは120~160mgである。最も好ましい実施形態において、本発明の口腔内分散性発泡錠の質量は133~147mgである。
【0017】
また、本発明の発泡錠の大きさも極めて重要である。本発明の発泡錠の直径は、5~10mmであることが好ましい。本発明の発泡錠は、円形であることが好ましいが、必ずしも正円形である必要はない。また、円形を変形させた形状を選択してもよい。本発明の発泡錠は、二分割線入りの錠剤であることが好ましく、錠剤の直径は、好ましくは6.0~8.0mm、より好ましくは6.9~7.3mmである。本発明の口腔内分散性発泡錠の高さは、好ましくは1.5~3.0mm、より好ましくは1.6~2.8mm、最も好ましくは1.8~2.6mmである。
【0018】
本発明の口腔内分散性発泡錠においては、機械的性質も極めて重要である。本発明の発泡錠の破壊強度は、好ましくは10~100Nの範囲の値、より好ましくは20~70Nの範囲の値であり、ヨーロッパ薬局方の2.9.8モノグラフに準じて測定されることが好ましい。
【0019】
錠剤の機械的強度について試験を行う際、固体試料を2つのプランジャーの間、またはプランジャーとアンビルとの間に固定する。前記試料(錠剤)に力を加え、錠剤を破壊するのに必要な力を測定する。本発明の口腔内分散性発泡錠の破壊強度は、例えば完全自動試験装置で測定することができる。このような試験システムは、例えば、Pharmatest社からWHT 3MEの名称で提供されている。同等の試験装置を使用することもできることは言うまでもない。
【0020】
破壊強度を好ましいものとすることによって、良好かつ再現可能な工業生産が可能となるとともに、十分な機械的安定性を付与することができる。本発明によると、本発明の口腔内分散性発泡錠の摩損度(摩耗強度)は、最大で5%、好ましくは最大で1%である。摩損度(摩耗強度)は、ヨーロッパ薬局方の2.9.7モノグラフに準じて測定されることが好ましい。
【0021】
本発明の口腔内分散性発泡錠は、上述したような大きさおよび形状を有することから、唾液の存在下での継続的かつ比較的均一な分散が可能となるため、該発泡錠の形状、均一性、および機械的性質は極めて重要である。また、該発泡錠の形状、均一性、および機械的性質によって十分な機械的安定性を得ることができ、その結果、本発明の発泡錠は、通常の使用において投与前に粉々に砕けることなく、本発明に記載の使用を実施することが可能となる。本発明の口腔内分散性発泡錠の特性として、口内に異物感が広がらないという効果があり、したがって、本発明の発泡錠の使用によって、患者は不快感を覚えることがないことが分かった。
【0022】
上記の特に好ましい一実施形態において述べた本発明の発泡錠は、上記特性を有することから様々な用量でブデソニドを単回投与することができ、その用量は0.5~3mgであることが好ましい。有効成分の用量を変更しても、本発明の使用に関連する前記品質パラメータ、例えば大きさ、形状、機械的安定性などは影響を受けない。また、1つの錠剤が1回使用量に相当し、本発明の錠剤を分割する必要はない。
【0023】
本発明の発泡錠中のブデソニドの量が少ないほど、該発泡錠を十分に長期にわたって安定させるために適切な添加剤を選択する必要性が高くなる。有効成分の投与量が少ない場合、有効成分の望ましくない分解は特に避けるべきである。これは、分解が起こると薬学的に十分な量の有効成分が錠剤中に存在しなくなるためである。驚いたことに、本発明の発泡錠におけるブデソニドの物理化学的安定性は、本発明の組成によってのみ達成することができることが分かった。各種添加剤の処方が先行技術による発泡錠と部分的に同じであったとしても、好ましくは本発明の組成と質的にも量的にも厳密に同じでなければ、どのような剤形強度を有する口腔内分散性ブデソニド発泡錠であっても最大36ヶ月間にわたって長期的に安定させることはできない。本発明の発泡錠は、室温で保存することができる。
【0024】
好ましい一実施形態において、本発明の口腔内分散性発泡錠は、ポリビニルピロリドンを含む。ポリビニルピロリドンは、ビニルピロリドンの重合生成物である。分子量の低いポリビニルピロリドンは吸湿性を有し、本発明によると、ポビドンK25を使用することが特に好ましい。また、当技術分野で知られているポリビニルピロリドンの誘導体を使用することも可能である。最終製品である錠剤中のポリビニルピロリドン(例えばポビドンK25)の含有量は、好ましくは1~10重量%、より好ましくは1.5~3.5重量%である。
【0025】
本発明の口腔内分散性発泡錠は、良好な風味を備えている必要がある。したがって、好ましい一実施形態においては、口腔内で溶解した後に甘味が残る成分を添加する。スクロースを使用すると健康を損なう恐れがあるため、別の甘味料を使用することが好ましい。好ましい一実施形態においては、スクラロースを使用する。スクラロースは、スクロースの水酸基を塩素原子で置換したものである。スクラロースは、スクロースよりも甘味が顕著に強い。しかしながら、スクラロースが分散して望ましくない変色が起こらないように、本発明の口腔内分散性発泡錠の製造条件および他の成分を調整する必要がある。最終製品としての本発明の口腔内分散性発泡錠におけるスクラロースの割合は、好ましくは0.1~1.0重量%、より好ましくは0.2~0.6重量%である。
【0026】
本発明の口腔内分散性発泡錠のさらなる成分として、ドクサートナトリウムを使用することが好ましい。ドクサートナトリウムは、ワックス状の白色物質であり、特に有効成分ブデソニドに対して溶解補助剤および乳化剤として使用される。最終製品である錠剤におけるドクサートナトリウムの含有量は、好ましくは0.01~0.2重量%、より好ましくは0.02~0.15重量%である。
【0027】
さらなる添加剤として、マンニトールを使用することが好ましい。好ましい実施形態において、本発明にしたがって使用されるマンニトールは、多形性結晶固体である。最もよく特性が知られている結晶変態として、β型マンニトールおよびα型マンニトールの2種があり、これらはそれぞれ結晶変態Iおよび結晶変態IIとも呼ばれている。また、さらなる結晶変態として、δマンニトールも存在する。本発明の口腔内分散性発泡錠を製造するにあたり、前記添加剤の中でも特にマンニトールの特性は特定の要件を満たす必要がある。本発明の口腔内分散性発泡錠の製造において粉末混合物は、良好な流動性を有している必要があるとともに、最適な圧縮性を有すること、すなわち、低い圧縮力で高い強度を有する錠剤を形成できることが極めて重要である。このような特性には、個々のマンニトール結晶の粒径分布が大きく関与している。本発明によると、最終製品である錠剤中のマンニトール含有量は、好ましくは2.0~10.0重量%、より好ましくは4.0~7.0重量%である。
【0028】
本発明によれば、さらなる重要な添加剤としてポリエチレングリコールを使用することが好ましい。好ましい一実施形態において、最終製品である錠剤は、マクロゴール6000を1.0~10重量%、好ましくは2.0~7.0重量%含む。
【0029】
さらなる好ましい添加成分として、好ましくは0.01~0.5重量%、より好ましくは0.05~0.15重量%のステアリン酸マグネシウムを使用する。
【0030】
本発明の口腔内分散性発泡錠の重量は、発泡効果を発揮する成分で主に構成される。好ましい一実施形態において、前記発泡効果を発揮する成分は、クエン酸二ナトリウム、クエン酸一ナトリウム、および炭酸水素ナトリウムの混合物である。この発泡性混合物は、最終製品である口腔内分散性発泡錠の約70~95重量%、好ましくは85~92重量%の割合を占める。本発明の口腔内分散性発泡錠の機械的性質にとりわけ関連するものは、前記発泡性混合物の成分の粒子形状である。したがって、最終製品である口腔内分散性発泡錠の特性、特に所望の破壊強度および摩損度を達成できるように、他の添加剤および医薬品有効成分であるブデソニドとともに圧縮することが可能な成分を、入手可能な様々な品質の各種成分から選択する必要がある。
【0031】
当然のことながら、本発明の口腔内分散性発泡錠の成分すべてを合計すると100重量%となる。
【0032】
本発明の口腔内分散性発泡錠は、食道の炎症状態の治療だけでなく、食道の炎症状態の予防にも使用することが好ましい。本発明の製剤により、患者が不快感を覚えることなく、かつ比較的均一に食道に移行するように有効成分を持続的に送達することが可能となる。したがって、有効成分であるブデソニドは、食道の炎症領域へと標的化されて効率的に局所送達される。本発明の口腔内分散性発泡錠は、好酸球性食道炎の治療に使用することが特に好ましい。
【0033】
本発明の好ましい実施形態を以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0034】
実施例1:
驚くべきことに、表1に示す成分および組成で調製した本発明のブデソニド発泡錠が、最大36ヶ月間にわたって物理化学的に安定であり、本発明の発泡錠の使用に関連する品質パラメータ、例えば大きさ、形状、機械的安定性などを達成できることが分かった。
【0035】
表1に、本発明において使用することが好ましい成分の特に好ましい濃度に関する情報を示す。この表に示した数値に厳密に従う必要はない。しかしながら、前記必須成分およびこれらの各成分の相対的な割合は、本発明の口腔内分散性ブデソニド発泡錠における有利な特性を決定づけるものである。
【0036】
【0037】
実施例2:
様々な保存条件下でブデソニド1mg含有発泡錠の耐久性試験を行った結果を表2にまとめる。初期値と比較したところ、負荷試験条件下で保存後も耐久性に関して何ら変化は見られなかった。
【0038】
【0039】
実施例3:
初期値と比較したところ、とりわけ気候区域IIの条件下での保存後において、耐久性に関して何ら変化は見られなかった。これとは対照的に、本発明の配合からわずかに逸脱した場合(例えばスクラロース0.40mgをアスパルテーム1.0mgに変更した場合)、ブデソニド1mg含有発泡錠は長期安定性を示さないことが表3の結果から分かった。長期安定性が示されなかった前記試験の結果から、興味深いことに、配合を変更したことによって、同期間にわたって長期保存した後のブデソニドの分解量が約7倍増加することが明らかになった。この分解は、1mg未満の用量のブデソニドを用いた場合にさらに顕著であるため、表1に示した成分および組成で調製することによって本発明の発泡錠の物理化学的安定性を達成することが好ましい。口腔内分散性発泡錠1錠当たりのブデソニド含有量が1mg未満である場合、口腔内分散性発泡錠はさらに顕著に不安定なものとなる。
【0040】
【0041】
実施例4:
臨床データ
多施設共同4群第II相無作為化プラセボ対照二重盲検試験での活動性好酸球性食道炎の治療において、ブデソニド発泡錠による1mg/日の2回投与または2mg/日の2回投与と、ブデソニド粘性経口懸濁液による2mg/日の2回投与またはプラセボとを比較した。盲検を維持するため「ダブルダミー」法を用いた。この試験は、プラセボよりも本発明のブデソニド製剤が優れていることを示すことを目的として行われた。この試験における複数のプライマリーエンドポイントのうち、第1のプライマリーエンドポイントは組織学的寛解率とし、治療2週間後に、寛解状態にある患者の平均好酸球数(eos)が16個/mm2 hpf(「高倍率視野」すなわち400倍の顕微鏡視野)を下回ることとした。第2のプライマリーエンドポイントとして、本試験の開始時と治療終了時における1mm2 hpf当たりの平均好酸球数の差を測定した。これら2つの効果パラメータは閉検定法により確認試験を行い、3つの有効成分投与群(verum群)とプラセボ群とを比較した。前記エンドポイントの設定を含む本試験のデザインは、前掲のStraumann, 2010による試験と実質的に同一である。
【0042】
驚いたことに、3つの試験製剤はいずれもプラセボよりも有意に優れた結果を示したのみならず、前掲のStraumann, 2010に記載のブデソニド含有製剤の1mg/日での2回投与に対しても有意に優れた結果を示した。この結果は意義深いものである。
【0043】
表4は、平均好酸球数16個/mm2 hpf未満と定義された組織学的寛解の結果を示す。2回目の組織学的検査を実施することなく本試験の途中で脱落した患者は、寛解しなかった患者として分析を行った。感度分析においては、試験を完了した患者のみを分析した。
【0044】
【0045】
また、もう一方のプライマリーエンドポイントに関する分析においても、プラセボよりも優れていることが示された(表5)。(このエンドポイントについてはStraumannにおいて試験されていないため、Straumannと比較することはできない。)
【0046】
【0047】
さらに、すべての有効成分投与群において、好酸球の浸潤がいずれの食道部位からもほぼ完全に取り除かれたことが示された(0.2~2.7個/mm
2 hpfの範囲)。この結果から、本発明の医薬製剤を使用することによって、食道全体にわたって有効成分を食道選択的に移行させることができることが分かった。この結果を
図1に示す。
【0048】
図1は、各食道部位における好酸球の浸潤の平均値を示す。食道を、近位部、中央部、および遠位部に分割した。1mm
2 hpf当たりの平均好酸球数を示した。「EOT」は、「治療の終了」を意味する。
【0049】
実施例5:
前記した組織学上の効果に加えて、本発明の製剤を用いた2週間の治療によって、統計学的有意かつ臨床的有意義に好酸球性食道炎の改善がもたらされることが内視鏡画像から分かった。この結果を
図2に示す。
【0050】
図2は、内視鏡所見強度スコアの合計の平均値を示す。「BUET」は、口腔内分散性ブデソニド含有発泡錠を意味する。「2×1mg」は、1mgの有効成分を含有する錠剤1錠を1日2回投与したことを意味する。「2×2mg」は、2mgの有効成分を含有する口腔内分散性発泡錠1錠を1日2回投与することを意味する。「ベースライン」とはベースラインを意味し、EOTとは「治療の終了」を意味する。本明細書において、「ベースライン」とは、治療を開始した患者の最初の来院を意味し、EOTとは、治療期間における最後の来院を意味する。LOCF(last observation carried forward)の原理が常に適用されるため、EOTの時期が異なっても、患者の最後の来院時に実施したプロトコルの試験パラメータが常に適用される。
【0051】
実施例6:
1錠当たり2mgのブデソニドを含有する本発明の口腔内分散性発泡錠を20~50歳の患者群に投与した。これらの患者は、2mgのブデソニドを含有する錠剤を1日1錠投与する試験群において処置した。対照群には、有効成分を含まない口腔内分散性発泡錠(プラセボ)を投与した。15日間の治療を通して、本発明の口腔内分散性ブデソニド含有発泡錠が良好な忍容性を示すこと、プラセボ群と比較して本発明の発泡錠を投与した群の組織学的パラメータおよび臨床的パラメータが有意に改善したことが分かった。本発明の口腔内分散性発泡錠は、適用性の点ですべての被験者において良好であると評価された。
【0052】
実施例7:
さらなる試験において、好酸球性食道炎(EoE)の投薬治療に対する応答を監視および確認するための血清/バイオマーカーの同定を行った。この臨床試験では、局所ステロイド治療(前記参考文献の口腔内分散性発泡錠による治療)を受けたEoE患者が含まれていた。本発明の発泡錠の適合性を検討するため、様々な血清マーカーを試験することによって、これらの血清マーカーの変化と、治療に対する応答および治療の成果とがどの程度相関するのかを調べた。血清試料の材料は、本明細書に記載の臨床試験(実施例4)から得た。
【0053】
「好酸球カチオン性タンパク質(ECP)」が、マーカーとして特に適していることが分かった。ECPは、活性化した好酸性顆粒球の顆粒から放出される細胞毒性タンパク質である(Rothenberg, Gastroenterology 2009, 1238-1249)。このタンパク質は、フルチカゾンの局所投与による治療に対する応答を監視するのに適していることが知られている(Schlag et al., J Clin Gastroenterol. 2014, 600-606)。
【0054】
驚くべきことに、ECPは臨床結果を反映するだけではないことが分かった。1mgまたは2mgのブデソニドを含有する口腔内分散性ブデソニド発泡錠を用いた2週間の治療において組織学的寛解と血清中ECP濃度の低下との間に明瞭な相関関係が示されただけでなく、2週間の治療が終了した後も該治療による効果が継続することも示された。この結果を
図3に示す(右図:「追跡調査、FU」(追跡期間:2週間))。
【0055】
これまでに行った実験から、さらなる作用を推測することができる。本発明の製剤は、効果的な治療に加えて、治療後も継続して臨床効果を達成することにも適している。薬物治療が終了した際に頻繁に観察される「反跳作用」は生じない。
【0056】
実施例8:
長時間持続する臨床効果の詳細
長時間持続する臨床効果は、さらに試験を行って、治療を行わない追跡期間における嚥下障害スコアを決定することによって示すことができる。「患者報告アウトカム」と呼ばれるこのような手段では、嚥下障害事象の頻度をゼロ(事象なし)~4(1日当たり数回の事象)で示し、嚥下障害事象の程度をゼロ(嚥下に問題なし)~5(内視鏡的介入を必要とする長時間継続する完全閉塞)で示す。このスコアを得るためのBUU-2試験の結果では、投与群(1mgまたは2mgのブデソニドを投与した群)において、変化の平均値(%)として測定した治療効果が最終治療時から追跡期間終了時まで継続することが分かる。これら2つの投与群において、変化の平均値はマイナスを示し、すなわち、前記スコアは高い値から低い値へと改善された。プラセボ群においては、前記スコアは25.5%増加し、著しく悪化した。これらの試験結果を
図4にまとめる。