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▶ メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエルの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】免疫疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20220203BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20220203BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P3/10
A61P13/12
A61P19/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P43/00 101
A61P43/00 107
C12N5/0775
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020195123
(22)【出願日】2020-11-25
(62)【分割の表示】P 2016572424の分割
【原出願日】2015-06-01
(65)【公開番号】P2021028337
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】AU2014902194
(32)【優先日】2014-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】AU2014902257
(32)【優先日】2014-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
(72)【発明者】
【氏名】ポール・シモンズ
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-514188(JP,A)
【文献】特開2011-067175(JP,A)
【文献】国際公開第2012/051210(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/155187(WO,A1)
【文献】Angiogenesis,2014,17(4),p.851-856,Epub:2014-ARP-13
【文献】Int.J.Mol.Sci.,2013,14(9),p.17986-18001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/28
A61P 3/10
A61P 13/12
A61P 19/02
A61P 29/00
A61P 43/00
C12N 5/0775
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象において、抗炎症性細胞の産生及び/または機能を増加させるための組成物であって、アンジオポエチン-1(Ang1)と血管内皮増殖因子(VEGF)とを、2:1から30:1の間の[Ang1:VEGF]比で発現する遺伝的に変更されていない間葉系前駆細胞を含む、組成物
【請求項2】
前記抗炎症性細胞がTh2細胞、TReg細胞またはM2型マクロファージである、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記対象において、M2型マクロファージの数を増加させるための、請求項1または2に記載の組成物
【請求項4】
前記対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも10%まで増加させるための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項5】
前記対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも80%まで増加させるための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項6】
前記M2型マクロファージがCD14++CD16+である、請求項2~のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
M1からM2表現型へのマクロファージの分極を促進するための、及び/又は炎症誘発性ヘルパーT細胞のTh2細胞またはTReg細胞への分化を促進するための、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
前記炎症誘発性ヘルパーT細胞がTh17細胞である、請求項に記載の組成物
【請求項9】
前記対象における前記抗炎症性細胞の産生及び/または機能の増加が、
・前記対象おけるIL-6レベルの減少;
・前記対象におけるTNF-アルファレベルの減少;及び/または
・前記対象おけるIL-10レベルの増加
をもたらす、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
前記対象において、抗炎症性サイトカインのレベルを増加させる
前記対象において、IL-10のレベルを増加させる;
前記対象において、炎症誘発性サイトカインのレベルを減少させる;
前記対象において、IL-6、TNF-アルファ及び/またはIL-17のうちのいずれか1つのレベルを減少させる;及び/又は
Th17細胞またはM1型マクロファージといった炎症誘発性細胞の産生及び/または機能も阻害する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
対象の炎症を減少するための組成物であって、アンジオポエチン-1(Ang1)と血管内皮増殖因子(VEGF)とを、2:1から30:1の間の[Ang1:VEGF]比で発現する遺伝的に変更されていない間葉系前駆細胞を含む、組成物
【請求項12】
前記遺伝的に変更されていない幹細胞が少なくとも約20:1の比率でAng1:VEGFを発現する、請求項1に記載の組成物
【請求項13】
前記遺伝的に変更されていない幹細胞が間葉系前駆細胞である、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物
【請求項14】
前記幹細胞が間葉系幹細胞である、請求項13に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高レベルのアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する幹細胞ならびにTNF-α及び/またはIL-6の放出を阻害し、糖尿病などの炎症性疾患を治療する際におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオポエチンは、初期及び出生後の血管新生に関与する脈管増殖因子のファミリーの一部である。Ang1は、内皮細胞及び平滑筋細胞などのいくつかの非内皮細胞の遊走を促進する。Ang1はまた、尿細管内に内皮細胞の発芽や再編も誘導する。Ang1は内皮細胞の強力な抗炎症効果を発揮し、E-セレクチン、ICAM-1及びVCAM-1の上方制御を誘導する血管内皮増殖因子(VEGF)を抑制し、VEGF及びTNF-αに反応して白血球の接着及び遊出を阻害する(Kimら、Circ Res.,89(6),477-479,2001)。
【0003】
I型糖尿病患者の大部分に対する現在の治療法は、速効型と持続型のインスリン製剤の混合物の定期的な皮下注射に基づいている。より持続性のある作用プロファイルを有する中間型及び持続型成分を与える、サイズの異なる可溶性インスリン粒子の懸濁液を投与してホルモンの一定の基礎レベルを達成する(Heineら、Br Med J(Clin Res Ed)290:204-205,1985)。
【0004】
この現在の治療法の欠点は、徐放性製剤が一般に滑らかなインスリンのバックグラウンドレベルを生じないことであり、結果として高血糖症または低血糖症のいずれかになる。高血糖は、糖尿病患者にて、更なる合併症につながり得るという点で問題である。たとえば、慢性高血糖は、重度の微小血管性(網膜症及び腎症)、大血管性(脳卒中、心筋梗塞)及び神経性合併症につながる。これらの激しい合併症は、血糖レベルの標準化によって防ぐことができる。
【0005】
近年、糖尿病を治療できる可能性のあるアプローチとして、幹細胞に基づく技術が現れた。しかしながら、生涯にわたる免疫制御を要し得る、根本的な自己免疫疾患に関する問題に加えて、これらの技術は、実行可能な治療選択肢としていまだ明らかにされていない。
【0006】
したがって、新しい治療選択肢を要する糖尿病及び/またはその関連状態もしくは症状を患う患者において、治療上の必要性は満たされていないままである。
本出願中のあらゆる文献の引用または特定は、当該文献が本開示の先行技術として利用可能であることを自認するものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kimら、Circ Res.,89(6),477-479,2001
【文献】Heineら、Br Med J(Clin Res Ed)290:204-205,1985
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、Ang1を高レベルで発現する遺伝的に変更されていない幹細胞を用いて、Ang1を発現する核酸で細胞をトランスフェクションする必要なく、ヒト対象にて抗炎症性細胞の産生を増加させることができることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、ヒト対象にて、TNF-アルファレベルの減少、IL-6レベルの減少及び/またはIL-10レベルの増加が可能であることも見出した。これらの所見は、こうした高レベルのAng1を発現する遺伝的に変更されていない幹細胞が、糖尿病ならびにその関連状態及び症状などの炎症性疾患を治療するのに適し得ることを示唆している。
【0010】
事実、本発明者らは、Ang1を高レベルで発現する遺伝的に変更されていない幹細胞を用いて、Ang1を発現する核酸で細胞をトランスフェクションする必要なく、糖尿病を患うヒト対象にてHbA1cの減少、空腹時インスリンレベルの減少及び/またはアディポネクチンレベルの増加が可能であることを見出した。
【0011】
他の実施例にて、本発明者らはまた、Ang1を高レベルで発現する遺伝的に変更されていない幹細胞を用いて、Ang1を発現する核酸で細胞をトランスフェクションする必要なく、ヒト対象にて関節リウマチ及び糖尿病性腎症の症状を改善することができることも示した。
【0012】
したがって、1つの実施例では、本開示は、必要とする対象において、抗炎症性細胞の産生及び/または機能を増加させる方法を提供し、この方法は、遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、当該遺伝的に変更されていない幹細胞は、少なくとも0.1μg/10細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。
【0013】
1つの実施例では、抗炎症性細胞は、Th2細胞、TReg細胞またはM2型マクロファージである。
【0014】
別の実施例では、方法は、対象において、M2型マクロファージの数を増加させる。
【0015】
別の実施例では、方法は、対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも10%まで増加させる。
【0016】
別の実施例では、方法は、対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも20%まで増加させる。
【0017】
別の実施例では、方法は、対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも40%まで増加させる。
【0018】
別の実施例では、方法は、対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも80%まで増加させる。
【0019】
別の実施例では、方法は、対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも90%まで増加させる。
【0020】
別の実施例では、M2型マクロファージは、CD14+CD16+である。
【0021】
別の実施例では、M2型マクロファージは、CD14+CD16+CD163+である。
【0022】
別の実施例では、M2型マクロファージは、CD14+CD16+CD206+である。
【0023】
別の実施例では、M2型マクロファージは、CD14+CD16+CD163+CD206+である。
【0024】
別の実施例では、M2型マクロファージは、CD14++CD16+である。
【0025】
別の実施例では、M2型マクロファージは、CD14++CD16+CD163+である。
【0026】
別の実施例では、M2型マクロファージは、CD14++CD16+CD206+である。
【0027】
別の実施例では、M2型マクロファージは、CD14++CD16+CD163+CD206+である。
【0028】
別の実施例では、方法は、M1からM2表現型へのマクロファージの分極を促進する。
【0029】
別の実施例では、方法は、炎症誘発性ヘルパーT細胞のTh2細胞またはTReg細胞への分化を促進する。
【0030】
1つの実施例では、炎症誘発性ヘルパーT細胞は、Th17細胞である。
【0031】
一実施例では、対象における抗炎症性細胞の産生及び/または機能の増加が、
・対象おけるIL-6レベルの減少;
・対象におけるTNF-アルファレベルの減少;及び/または
・対象おけるIL-10レベルの増加をもたらす。
【0032】
一実施例では、方法は、対象において、抗炎症性サイトカインのレベルを増加させる。
【0033】
一実施例では、方法は、対象において、IL-10のレベルを増加させる。
【0034】
一実施例では、方法は、対象において、炎症誘発性サイトカインのレベルを減少させる。
【0035】
一実施例では、方法は、対象において、IL-6、TNF-アルファ及び/またはIL-17のうちのいずれか1つのレベルを減少させる。
【0036】
一実施例では、方法はまた、炎症誘発性細胞の産生及び/または機能を阻害する。
【0037】
一実施例では、炎症誘発性細胞は、Th17細胞またはM1型マクロファージである。
【0038】
別の実施例では、本開示は、M1型マクロファージ分極を阻害する方法を提供する。
【0039】
別の実施例では、本開示は、M1からM2表現型へのマクロファージの分極を促進する方法を提供する。
【0040】
別の実施例では、本開示は、M1型マクロファージに由来するサイトカイン放出を阻害する方法を提供する。
【0041】
別の実施例では、本開示は、阻害されるM1型マクロファージ由来サイトカインがTNF-アルファ及び/またはIL-6である方法を提供する。
【0042】
別の実施例では、本開示は、炎症性疾患を治療する方法を提供し、この方法は、遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、当該遺伝的に変更されていない幹細胞は、少なくとも0.1μg/10細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。
【0043】
別の実施例では、炎症性疾患は、糖尿病であるか、または異常な創傷治癒、心臓発作の症状、脳卒中の症状、末梢血管疾患の症状、切断、腎臓疾患の症状、腎不全、失明、神経障害、腎症、網膜症、炎症、性交不能症もしくは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)からなる群から選択される糖尿病に関連する状態もしくは症状である。
【0044】
たとえば、本開示は、関節リウマチを治療する方法を提供する。
【0045】
たとえば、本開示は、糖尿病性網膜症を治療する方法を提供する。
【0046】
別の実施例では、本開示の方法は、遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、当該遺伝的に変更されていない幹細胞は、少なくとも0.1μg/10細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも0.5μg/10細胞の量でAng1を発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも0.7μg/10細胞の量でAng1を発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも1μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0047】
別の実施例では、幹細胞は、約0.1μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、約0.05μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、約0.04μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、約0.03μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、約0.02μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、約0.01μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。
【0048】
別の実施例では、幹細胞は、少なくとも約2:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも約10:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも約20:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも約30:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも約50:1の比率でAng1:VEGFを発現する。
【0049】
別の実施例では、幹細胞は、間葉系幹細胞である。別の実施例では、幹細胞は、間葉系前駆細胞である。別の実施例では、幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)である。
【0050】
別の実施例では、組成物は、許容される医薬担体をさらに含む。
【0051】
別の実施例では、組成物は、以下に記載されるインビトロ法に従って、遺伝的に変更されていない幹細胞を培養することによって製造される。
【0052】
一実施例では、幹細胞は、任意の哺乳動物から得ることができる。たとえば、幹細胞は、霊長類、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、またはヤギに由来しても良い。別の実施例では、幹細胞はヒト幹細胞である。
【0053】
別の実施例では、炎症性疾患はII型糖尿病である。
【0054】
1つの実施例では、II型糖尿病を治療する方法は、1kgあたり約0.1×10個~約3×10個の幹細胞を対象に投与することを含み得る。
【0055】
1つの実施例では、II型糖尿病を治療する方法は、1kgあたり約0.3×10個~約2×10個の幹細胞を対象に投与することを含み得る。
【0056】
1つの実施例では、II型糖尿病を治療する方法は、1kgあたり約1×10個~約2×10個の幹細胞を対象に投与することを含み得る。
【0057】
1つの実施例では、II型糖尿病を治療する方法は、1kgあたり約2×10個の幹細胞を対象に投与することを含み得る。
【0058】
1つの実施例では、糖尿病または糖尿病に関連する状態もしくは症状が対象にて治療されたことが次のうちのいずれか1つにより示される。
・HbA1c値(総ヘモグロビンのパーセンテージ)の減少;
・空腹時インスリンレベルの減少;
・IL-6レベルの減少;
・TNF-αレベルの減少;及び/または
・アディポネクチンレベルの増加
【0059】
1つの実施例では、対象は、II型糖尿病を患っており、対象のブドウ糖レベルが十分にコントロールされていない。
【0060】
1つの実施例では、対象のブドウ糖レベルが、メトホルミンにより十分にコントロールされていない。
【0061】
1つの実施例では、対象は、7.5%を超えるベースラインのHbA1c値を有する。
【0062】
1つの実施例では、対象は、8%以上のベースラインのHbA1c値を有する。
【0063】
1つの実施例では、炎症性疾患は関節リウマチである。
【0064】
1つの実施例では、関節リウマチを治療する方法は、1kgあたり約0.5×10個~約3.0×10個の幹細胞を対象に投与することを含み得る。
【0065】
1つの実施例では、関節リウマチを治療する方法は、1kgあたり約1.0×10個~約2.0×10個の幹細胞を対象に投与することを含み得る。
【0066】
1つの実施例では、関節リウマチが治療されたことが、次のうちのいずれか1つにより示される。
・ACR20;
・ACR50
・ACR70
・IL-6レベルの減少;及び/または
・疾患活動性スコアの減少
【0067】
別の実施例では、炎症性疾患は糖尿病性神経障害である。
【0068】
1つの実施例では、関節リウマチを治療する方法は、約1.0×10個~約4.0×10個の幹細胞を対象に投与することを含み得る。
【0069】
1つの実施例では、関節リウマチを治療する方法は、約1.5×10個~約3.0×10個の幹細胞を対象に投与することを含み得る。
【0070】
1つの実施例では、糖尿病性腎症が治療されたことが、次のうちのいずれか1つにより示される。
・eGFR及び/もしくはmGFRの減少の阻害;
・eGFR及び/もしくはmGFRの改善;ならびに/または
・IL-6レベルの減少
【0071】
1つの実施例では、対象のベースラインのeGFRは、約35ml/分/1.73mよりも大きい。
【0072】
1つの実施例では、対象のベースラインのeGFRは、30ml/分/1.73mよりも大きい。
【0073】
1つの実施例では、対象のベースラインのeGFRは、28ml/分/1.73mよりも大きい。
【0074】
1つの実施例では、対象のベースラインのeGFRは、25ml/分/1.73mよりも大きい。
【0075】
1つの実施例では、幹細胞は全身投与される。
【0076】
1つの実施例では、幹細胞は静脈投与される。
【0077】
別の実施例では、本開示は、炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における、遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物の使用に関し、当該遺伝的に変更されていない幹細胞は、高レベルのアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。
【0078】
別の実施例では、本開示は、炎症性疾患の治療にて使用するための遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物に関し、当該遺伝的に変更されていない幹細胞は、高レベルのアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。
【0079】
別の実施例では、本開示は、遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物に関し、当該遺伝的に変更されていない幹細胞は、炎症性疾患を治療するために使用すると、高レベルのアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】現在培養培地(プロセスA)及び再配合培養培地(プロセスB)でのMPC増殖。Y軸は細胞数を示し、X軸は日単位の時間である。対照培地はプロセスAで用いた培養培地であり、再配合培地はプロセスBで用いた培養培地である。
図2】現在培地(プロセスA)及び再配合培地(プロセスB)でのMPC倍加時間。MPCを現在アルファMEM培養(プロセスA)または改変アルファMEMの再配合培養(プロセスB)にて増殖させた。細胞は、P3からP5まで継代させた。
図3】MPCの集団倍加時間(PDL)。現在アルファMEM培養培地(プロセスA)と再配合アルファMEM(プロセスB)中で、MPCをP3からP5まで増殖させた。現在培地(プロセスA)で増殖させたMPCは8PDLとなり、再配合培養培地(プロセスB)で増殖させたMPCは7.33PDLになった。
図4】免疫選択したCD14+単核細胞とMPCとの共培養により、M2マクロファージの表現型特性を示すCD14+16+マクロファージが生じる。
図5】MPCとの共培養は、マクロファージによるTNFαの炎症誘発性(LPS)分泌を阻止する。
図6】LPS存在下におけるMPCとの共培養によって、マクロファージによる抗炎症性サイトカインIL-10の産生が向上した。
図7】MPCは、マクロファージ分極を制御する役割を果たす。
図8】PGE2の分泌:IL-1βとTNFαの相加作用。
図9】MPC投与後の炎症誘発性及び抗炎症性サイトカインのレベルの変化。
図10-1】後期疾患(42日)の確立時におけるMPC投与は、関節の炎症性サイトカインのレベル減少をもたらす。
図10-2】後期疾患(42日)の確立時におけるMPC投与は、関節の炎症性サイトカインのレベル減少をもたらす。
図10-3】後期疾患(42日)の確立時におけるMPC投与は、関節の炎症性サイトカインのレベル減少をもたらす。
図11】コホート1~3に関するMPC用量。
図12】12週時のアディポネクチンレベル(ベースラインからの変化)。
図13】12週時のTNF-アルファレベル(ベースラインからの変化)。
図14】12週時のIL-6レベル(ベースラインからの変化)。
図15-1】ベースラインHbA1cのサブグループ<8%または≧8%別のHbA1c変化
図15-2】ベースラインHbA1cのサブグループ<8%または≧8%別のHbA1c変化
図16】12週時に目標HbA1c(<7.0%)に達した被験者
図17-1】IL-6中央値の経時変化
図17-2】IL-6中央値の経時変化
図18】生物学的製剤不応性RAのACR20応答:1MMPC/kg
図19】生物学的製剤不応性RAのACR50応答:1MMPC/kg
図20】生物学的製剤不応性RAのACR70応答:1MMPC/kg
図21】構成要素別のACRの経時応答;週ごとの圧痛関節(TJC;左)及び腫脹関節(SJC;右)の数
図22】構成要素別のACRの経時応答;週ごとの疾病活動性の主観的包括的評価(SGADA)(左);週ごとの疾病活動性の医師による包括的評価(IGADA)(右)
図23】12週時におけるDASCRPレスポンダー分析
図24】健康評価質問票の障害指数(HAQ-DI):MCID到達率(-0.22)
図25】12週のmGFR[99Tc DTPA]及びeGFR[MDRDのベースラインからの変化(ml/分/1.73m
図26】12週時におけるIL-6中央値のベースラインからの変化
図27】MPC治療患者における12週時の血清クレアチニン改善との相関を示したベースラインIL-6
図28】12週時におけるmGFR及びeGFRのベースラインからの変化(ベースラインeGFR>30ml/分/1.73mを有する被験者)
【発明を実施するための形態】
【0081】
一般的技術及び定義
本明細書を通じて、特に明記がないまたは文脈上必要とされない限り、単一の工程への参照、物質の組成物、工程の群または物質の組成物の群は、これらの工程、物質の組成物、工程の群または物質の組成物の群の複数(すなわち1つまたは複数)を包含すると解釈すべきである。
【0082】
当業者は、本明細書に記載の開示が、特に記載した以外の変形及び修正に影響されやすいことを理解するであろう。本開示がそのようなすべての変形及び修正を含むことを理解すべきである。本開示は、本明細書に個々または集合的に参照または示された、工程、特徴、組成物及び化合物のすべて、及び任意の組み合わせ及びすべての組み合わせまたは任意の2つ以上の前記工程または特徴も含む。
【0083】
本開示は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲を限定されるものではなく、例示の目的だけが意図される。機能的に等価な生産物、組成物及び方法は、明らかに、本明細書に記載される本開示の範囲内である。
【0084】
特に記載のない限り、本明細書に開示される、いかなる実施例も、他のいかなる実施例に準用するものと解釈すべきである。
【0085】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、(たとえば、細胞培養、分子遺伝学、幹細胞分化、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学及び生化学の)当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有するものと解釈すべきである。
【0086】
特に記載のない限り、本開示で利用される幹細胞、細胞培養、及び免疫学的技術は、当業者に周知の標準的な手順である。このような技術は、J. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley及びSons(1984)、J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown(編)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、1巻及び2巻、IRL Press(1991)、D.M. Glover及びB.D. Hames(編)、及びF.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates及びWiley-Interscience(1988、 including all updates until present)、Ed Harlow及びDavid Lane(編)Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory、(1988)、及びJ.E. Coliganら(編)Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons(現在に至るまで、すべての更新を含む)などの出典の文献を通じて記載及び説明される。
【0087】
用語「and/or」は、たとえば、「X and/or Y」は「X及びY」または「XまたはY」のいずれかを意味すると理解され、両方の意味またはいずれかの意味を明示的にサポートするものと解釈すべきである。
【0088】
本明細書で使用するとき、「約」という用語は、反対の記載がない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%を意味する。
【0089】
体積%(v/v%)の定義は、[(溶質の体積)/(溶液の体積)]×100%である。体積%は、溶液の体積に比例する。たとえば、細胞培養培地を、5%(v/v)FCSで補充するとは、細胞培養培地の100mlごとに約5ml FCSがあることを意味する。
【0090】
本明細書を通じて、単語「comprise」、または「comprises」もしくは「comprising」などの変形は、既定された要素、整数または工程、または要素群、整数群または工程群を包含するが、いかなる他の要素、整数または工程、または要素群、整数群または工程群をも排除することを意味するものではないことを理解されるだろう。
【0091】
幹細胞
本明細書で使用するとき、「幹細胞」の用語は、表現型的及び遺伝子型的に同一の娘及び少なくとも1つの他の最終的な細胞種(たとえば、最終的に分化した細胞)を生じさせ得る自己再生細胞を意味する。「幹細胞」の用語は、全能性、多能性及び多分化能の細胞ならびにそれらの分化由来の前駆細胞及び/または前駆体を含む。幹細胞は、成体または胚性幹細胞であっても良い。
【0092】
本明細書で使用するとき、「全能性細胞(totipotent cell)」または「全能性細胞(totipotential cell)」の用語は、完全な胚(たとえば、胞胚)を形成可能な細胞を意味する。
【0093】
本明細書で使用するとき、「多能性細胞(pluripotent cell)」または「多能性細胞(pluripotential cell)」の用語は、完全に分化した万能性、すなわち、哺乳類の身体のおおよそ260の細胞種のいずれかに成長する能力を有する細胞を意味する。多能性細胞は、自己再生することができ、組織内で休止または静止したままであることができる。
【0094】
「多分化能細胞(multipotential cell)」または「多分化能細胞(multipotent cell)」は、複数の成熟細胞種を生じ得る細胞を意味する。本明細書で使用するとき、この表現は、成体性前駆細胞及びこれらの細胞の多分化能子孫を包含する。多能性細胞と異なり、多分化能細胞は、細胞種のすべてを形成する能力を有していない。
【0095】
本明細書で使用するとき、「間葉系統前駆または幹細胞」の用語は、間葉系細胞種に分化することができる細胞を意味する。たとえば、間葉系統前駆細胞及び間葉前駆細胞は、骨組織、軟骨組織、筋肉組織及び脂肪細胞、及び線維性結合組織に分化することができる。
【0096】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、STRO-1+間葉系前駆細胞である。
【0097】
STRO-1+多分化細胞は、骨髄、血液、歯髄、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛嚢、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靱帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜に見られる細胞である。したがって、STRO-1+多分化細胞は、これらに限定されないが、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織及び繊維性結合組織を含む多数の細胞種に分化することができる。特定の分化系列決定及びこれらの細胞が入る分化経路は、機械的影響及び/または内在的生体活性因子、たとえば、増殖因子、サイトカイン及び/または宿主組織により確立された局所微小環境条件からの種々の影響により決まる。一実施形態では、STRO-1+多分化細胞は、表現型細胞を生じさせるのに不可逆的に分化するであろうタイミングで、幹細胞または前駆細胞のいずれかである娘細胞を生じさせるのに分割される非造血前駆細胞である。
【0098】
1つの実施例では、STRO-1+細胞は、対象、たとえば、処置する対象または関連する対象または無関係の対象(同じ種または異なる種かどうかを問わない)から取得された試料から濃縮される。「濃縮される(enriched)」、「濃縮(enrichment)」の用語またはそれらの変形例は、本明細書において、細胞(たとえば、自身の生来の環境にある細胞)の未処置の集合と比較して、1つの特定の細胞種の比率または数多くの特定の細胞種の比率が増加する細胞集合を説明するのに使用される。1つの実施例では、STRO-1+細胞の濃縮された集団は、少なくとも約0.1%または0.5%または1%または2%または5%または10%または15%または20%または25%または30%または50%または75%または85%または95%または99%のSTRO-1+細胞を含む。これに関連して、「STRO-1+細胞の濃縮された集団」の用語は、「X%のSTRO-1+細胞を含む細胞の集団」(ここで、X%は本明細書で記載される百分率である)の用語を明示的にサポートするものと解釈されるだろう。STRO-1+細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニー、たとえば、CFU-F(線維芽細胞)を形成することができ、またはそれらのサブセット(たとえば、50%または60%または70%または80%または90%または95%)はこの活性を有することができる。
【0099】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、選択可能な形式でSTRO-1+細胞を含む細胞標品から濃縮される。これに関連して、「選択可能な形式」の用語は、細胞がSTRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(たとえば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解されるであろう。マーカーは、STRO-1とすることができるが、する必要はない。たとえば、本明細書に記載及び/または例示されるように、STRO-2及び/またはSTRO-3(TNAP)及び/またはSTRO-4及び/またはVCAM-1及び/またはCD146及び/または3G5を発現する細胞(たとえば、MPC)は、STRO-1も発現する(及びSTRO-1brightでも良い)。したがって、細胞がSTRO-1+であることを示すことは、細胞がSTRO-1の発現により選択されていることを意味するものではない。1つの実施例では、細胞は、少なくともSTRO-3の発現に基づいて選択される。たとえば、STRO-3+(TNAP+)などである。1つの実施例では、細胞は、少なくともSTRO-4の発現に基づいて選択される。たとえば、STRO-4+などである。
【0100】
細胞またはその集合の選択の参照は、特定の組織源からの選択を必ずしも必要とはしない。本明細書に記載するようにSTRO-1+細胞は、多種多様なソースから選択するか、単離するか濃縮することができる。それによると、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(たとえば、MPC)を含む組織、または血管化した組織、または周皮細胞(たとえば、STRO-1+周皮細胞)を含む組織のいずれかから、または本明細書に記載される任意の1つ以上の組織から選択するためのサポートを提供する。
【0101】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、STRO-1+、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+、CC9またはそれらの任意の組み合わせから構成される群から個々にまたは集合的に選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0102】
「個々に(individually)」とは、本開示が、列挙されたマーカーまたはマーカー群を個別に包含すること、及び個々のマーカーまたはマーカー群が本明細書に個別に列挙されていなくても良いにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、かかるマーカーまたはマーカー群を互いに個別かつ可分的に定義して良いことを意味する。
【0103】
「集合的に(collectively)」とは、本開示が、列挙されたマーカーまたはペプチド群の任意の数または組み合わせを包含すること、及びかかるマーカーまたはマーカー群の数または組み合わせが本明細書に具体的に列挙されていなくても良いにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、かかる組み合わせまたは部分的組み合わせ(sub-combinations)を、マーカーまたはマーカー群の任意の他の組み合わせから個別かつ可分的に定義して良いことを意味する。
【0104】
1つの実施例では、STRO-1+細胞は、STRO-1bright(syn.STRO-1bri)である。1つの実施例では、STRO-1bri細胞は、STRO-1dimまたはSTRO-1intermediate細胞と比較して優先的に濃縮されている。
【0105】
1つの実施例では、STRO-1bright細胞は、さらに1つまたは複数のTNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)及び/またはCD146+である。たとえば、細胞は、前述のマーカーの1つまたは複数のために選択され、及び/またはこれらのマーカーの1つまたは複数の発現を示す。これに関して、マーカーを発現することが示された細胞は、特にテストする必要はなく、逆に、以前に濃縮または単離された細胞を試験し、その後、使用することができる。また、単離または濃縮された細胞は、合理的に、同じマーカーを発現すると仮定することもできる。
【0106】
1つの実施例では、STRO-1brightは、免疫選択により単離される。1つの実施例では、STRO-1bright細胞は、TNAPを発現する細胞の免疫的選択によって単離される。本明細書で使用する用語「TNAP」は、組織非特異的アルカリホスファターゼのすべてのアイソフォームを包含することを意図する。たとえば、この用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。1つの実施例では、TNAPはBAPである。1つの実施例では、本明細書中で使用されるTNAPは、2005年12月19日にATCCに寄託された、ブダペスト条約の条項に基づいた寄託アクセッション番号PTA-7282に基づく、ハイブリドーマ細胞系統により産生されるSTRO-3抗体と結合し得る分子を意味する。
【0107】
1つの実施例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、CD29+、CD54+、CD73+、CD90+、CD102+、CD105+、CD106+、CD166+、MHC1+間葉系幹細胞(たとえば、remestemcel-L)である。
【0108】
1つの実施例では、間葉系前駆細胞は、WO2004/85630で定義される血管周囲間葉系前駆細胞である。たとえば、間葉系前駆細胞は、血管周囲細胞のマーカーを発現する細胞である。たとえば、STRO-1+またはSTRO-1bright及び/または3G5+などである。1つの実施例では、細胞は、あるか以前にあったか、血管組織またはそれらの器官または部分から単離された細胞の子孫である。
【0109】
所定のマーカーについて「陽性」である細胞を意味する場合、そのマーカーが細胞表面上に存在する度合いに応じて、そのマーカーの低い(loもしくはdim)または高い(bright、bri)レベルのいずれかであり得、その用語は、細胞の選別プロセスに使用される蛍光強度またはその他のマーカーに関する。lo(またはdimもしくはdull)及びbriの区別は、選別される特定の細胞集合に使用されるマーカーの関連において理解されるであろう。所定のマーカーについて「陰性」である細胞を意味する場合、マーカーがその細胞によって全く発現していないことを意味するわけではない。この用語は、マーカーがその細胞によって相対的に非常に低いレベルで発現されること、及び検出可能に標識された場合、非常に低い信号を生成すること、またはバックグラウンドレベルを超えて検出されないことを意味する。たとえば、レベルは、アイソタイプ対照抗体を用いて検出する。
【0110】
本明細書で使用する用語「bright」は、検出可能に標識された場合の比較的高い信号を生成する細胞表面上のマーカーを意味する。理論によって限定されることは望まないが、「bright」細胞は、試料中の他の細胞よりも標的マーカー タンパク質(たとえば、STRO-1によって認識される抗原)を多く発現することが提案される。たとえば、STRO-1bri細胞は、非bright細胞(STRO-1dull/dim)より、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析によって測定されるようなFITCコンジュゲートSTRO-1抗体で標識されている場合、より大きな蛍光シグナルを生じる。1つの実施例では、「bright」細胞は、出発試料に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%を構成する。他の実施例では、「bright」細胞は、出発試料に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、または少なくとも約2%を構成する。1つの実施例では、STRO-1bright細胞は、「バックグラウンド」、すなわち、STRO-1-である細胞と比較して、STRO-1表面発現が2ログマグニチュード(2log magnitude)高い発現を有する。比較した場合、STRO-1dim及び/またはSTRO-1intermediate細胞は、STRO-1表面発現が2ログマグニチュード未満の発現を有し、典型的には約1ログ未満または「バックグラウンド」未満である。
【0111】
1つの実施例では、STRO-1+多分化細胞のかなりの割合が、少なくとも2つの異なる生殖細胞系に分化することができる。多分化細胞が決定され得る系列の非限定的な例として、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞に対して多能性である肝細胞前駆細胞;乏突起膠細胞及び星状膠細胞へと進行するグリア細胞前駆細胞を生じることができる神経限定細胞;ニューロンへと進行する神経前駆細胞;心筋及び心筋細胞の前駆細胞、グルコース応答性インスリン分泌膵β細胞株が挙げられる。他の系列として、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、ならびに以下の前駆細胞:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎管上皮細胞、平滑筋細胞及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄基質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経細胞、星状膠細胞及び乏突起膠細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
別の実施例では、STRO-1+細胞は、培養に際して、造血細胞を生じさせることができない。
【0113】
1つの実施例では、本明細書に記載の幹細胞は、間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞(MSC)は、均一な組成物であっても良いし、MSCが濃縮された混合細胞集団であっても良い。均一な間葉系幹細胞組成物は、接着性の骨髄または骨膜細胞を培養することによって得られても良いし、間葉系幹細胞は、固有のモノクローナル抗体を用いて同定される特定の細胞表面マーカーによって同定しても良い。間葉系幹細胞中で濃縮された細胞集団を得るための方法は、たとえば、米国特許第5,486,359号に記載されている。間葉系幹細胞の代替供給源としては、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、及び軟骨膜が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0114】
上述の細胞表面マーカーを運んでいる幹細胞の認識、選択及び精製は、多数の異なる方法によって達成することができる。たとえば、関係するマーカーに結合剤を適用し、それに続いて、高レベル結合、または低レベル結合、または結合なしのいずれかの結合を示すこれらの細胞を分離する。
【0115】
たとえば、結合剤は、モノクローナル抗体または抗体ベースの分子のような抗体を含むことができる。
【0116】
抗体及びその他の結合分子は、特定の細胞表面マーカーを発現する幹細胞を選択し、精製するために様々な技術に用いることができる。
【0117】
選択及び精製のための技術は、抗体コーティング磁気ビーズを用いた磁気分離、アフィニティー クロマトグラフィー、及び固体マトリックスに結合した抗体での「パニング」、蛍光活性化細胞選別(FACS)を含んでも良いが、これらに限定されない。
【0118】
特定のマーカーを発現する、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、陽性免疫選択を介して、細胞集団から選択または精製されても良い。たとえば、間葉系前駆細胞は、STRO-1抗体の細胞表面発現に基づいて細胞集団から単離及び濃縮することができる(たとえば、Gronthos及びSimmons1995を参照)。
【0119】
本開示によれば、単離された幹細胞を培養することによりインビトロで拡大することができる。当業者によって理解されるように、幹細胞は、凍結保存し解凍し、続いて培養することによりインビトロで拡大することができる。1つの実施例では、幹細胞は、増殖培地中に播種し、37℃、20%Oで一晩培養容器に付着させる。その後、増殖培地を交換し、37℃、5%Oでさらに68~72時間、細胞を培養する。
【0120】
一実施例では、単離された幹細胞は、血清を補充した増殖培地中に50,000細胞/cmで播種し、37℃、20%Oで一晩培養容器に付着させる。その後、増殖培地を、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を補充した軟骨基礎培地(CBM;Lonza社、メリーランド州ウォーカーズビル)と交換し、37℃、5%Oでさらに68~72時間、細胞を培養する。
【0121】
主要な幹細胞培養の様々なその他の方法は、当該分野で周知である。たとえば、主要な幹細胞培養は、Gronthos及びSimmons 1995に記載された方法を用いて行うことができる。
【0122】
培養された幹細胞は、インビボでの細胞と表現型的に異なる。たとえば、これらは、CD44を発現することができる。
【0123】
一実施形態では、培養幹細胞は、インビボでの細胞と生物学的に異なり、より速い再生速度を有する。
【0124】
培養幹細胞は、対象への投与前に凍結保存されても良い。たとえば、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、対象への投与前に凍結保存される。
【0125】
遺伝的に変更されていない細胞
本明細書で使用される場合、「遺伝的に変更されていない」という用語は、Ang1を発現またはコード化する核酸でトランスフェクションすることにより変更されていない細胞を指す。誤解を避けるために言及すると、本開示の文脈でのAng1をコード化する核酸でトランスフェクションされた幹細胞は、遺伝的に変更されたと考えられる。本開示の文脈では、「遺伝的に変更されていない」細胞は、ある程度までAng1を自然発現する。
【0126】
Ang1及び/またはVEGFの発現
高レベルのAng1を発現する幹細胞は、遺伝的に変更されておらず、少なくとも0.1μg/10細胞の量でAng1を発現する。しかしながら、様々な実施形態では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.2μg/10細胞、0.3μg/10細胞、0.4μg/10細胞、0.5μg/10細胞、0.6μg/10細胞、0.7μg/10細胞、0.8μg/10細胞、0.9μg/10細胞、1μg/10細胞、1.1μg/10細胞、1.2μg/10細胞、1.3μg/10細胞、1.4μg/10細胞、1.5μg/10細胞の量でAng1を発現し得ることが想定される。
【0127】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.2μg/10細胞~約1.5μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0128】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.3μg/10細胞~約1.4μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0129】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.4μg/10細胞~約1.3μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0130】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.5μg/10細胞~約1.2μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0131】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.55μg/10細胞~約1.1μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0132】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.6μg/10細胞~約1.0μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0133】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.65μg/10細胞~約0.9μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0134】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.7μg/10細胞~約0.8μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0135】
別の態様では、高レベルのAng1を発現する遺伝的に変更されていない幹細胞は、約0.01μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。
【0136】
別の態様では、高レベルのAng1を発現する遺伝的に変更されていない幹細胞は、約0.05μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。しかしながら、様々な実施形態では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、約0.05μg/10細胞、0.04μg/10細胞、0.03μg/10細胞、0.02μg/10細胞、0.01μg/10細胞、0.009μg/10細胞、0.008μg/10細胞、0.007μg/10細胞、0.006μg/10細胞、0.005μg/10細胞、0.004μg/10細胞、0.003μg/10細胞、0.002μg/10細胞、0.001μg/10細胞未満の量でVEGFを発現し得ることが想定される。
【0137】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.001μg/10細胞~約0.1μg/10細胞の量でVEGFを発現する。
【0138】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.0025μg/10細胞~約0.09μg/10細胞の量でVEGFを発現する。
【0139】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.0075μg/10細胞~約0.08μg/10細胞の量でVEGFを発現する。
【0140】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.01μg/10細胞~約0.07μg/10細胞の量でVEGFを発現する。
【0141】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.02μg/10細胞~約0.06μg/10細胞の量でVEGFを発現する。
【0142】
1つの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも0.02μg/10細胞~約0.05μg/10細胞の量でVEGFを発現する。
【0143】
組成物または幹細胞の培養で発現する細胞のAng1及び/またはVEGFの量は、当業者に周知の方法によって決定しても良い。このような方法には、たとえば、定量的ELISAアッセイなどの定量的なアッセイが含まれるが、これらに限定されない。しかし、本開示の範囲が、高レベルのAng1を発現する幹細胞で発現するAng1またはVEGFの量またはレベルを決定するための任意の特定の方法に限定されるものではないことが理解されるべきである。
【0144】
1つの実施例では、組成物または幹細胞の培養によって発現するAng1またはVEGFのレベルは、ELISAアッセイによって決定される。このようなアッセイでは、幹細胞の培養からの細胞溶解物をELISAプレートのウェルに添加する。ウェルは、Ang1またはVEGFに対して、モノクローナルまたはポリクローナル抗体(複数可)のいずれかの一次抗体で被覆されても良い。次いで、ウェルを洗浄した後、一次抗体に対して、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体(複数可)のいずれかの二次抗体と接触させる。二次抗体は、たとえば、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの適切な酵素にコンジュゲートされる。次いで、ウェルをインキュベートしても良く、一定時間インキュベーションした後に洗浄する。次いで、ウェルを、1つまたは複数の色原体などの、二次抗体にコンジュゲートした酵素に適した基質と接触させる。使用することができる色原体は、過酸化水素及びテトラメチルベンジジンを含むが、これらに限定されない。基質(複数可)を添加した後、ウェルを適切な一定時間インキュベートする。インキュベーションが完了したら、基質(複数可)と酵素の反応を停止させるために「停止」溶液をウェルに添加する。次いで、試料の光学密度(OD)を測定する。試料の光学密度は、試験される幹細胞の培養によって発現するAng1またはVEGFの量を決定するために、Ang1またはVEGFの既知量を含む試料の光学密度と相関している。
【0145】
別の態様では、高レベルのAng1を発現する遺伝的に変更されていない幹細胞は、少なくとも約2:1の比率でAng1:VEGFを発現する。しかしながら、様々な実施形態では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、少なくとも約10:1、15:1、20:1、21:1、22:1、23:1、24:1、25:1、26:1、27:1、28:1、29:1、30:1、31:1、32:1、33:1、34:1、35:1、50:1の比率でAng1:VEGFを発現し得ることが想定される。
【0146】
Ang1:VEGFの発現比率を決定するための方法は、当業者には明らかであろう。Ang1及びVEGFの発現の比率を決定する方法の実施例では、上述のようにAng1及びVEGFの発現レベルは量的ELISAを介して定量される。このような例では、Ang1及びVEGFのレベルを定量した後、Ang1及びVEGFの定量レベルに基づいた比率を次のように表すことができる。(Ang1のレベル/VEGFのレベル)=Ang1:VEGFの比率。
【0147】
細胞組成物
本開示の1つの実施例では、幹細胞は組成物の形態で投与される。1つの実施例では、そのような組成物は、薬学的に許容される担体及び/または賦形剤を含む。
【0148】
用語「担体」及び「賦形剤」は、貯蔵、投与及び/または活性化合物の生物学的活性を促進にするために、当該技術分野で従来使用されている物質の組成物を指す(たとえば、レミントンの薬学、第16版、Mac Publishing Company(1980)参照)。担体はまた、活性化合物のあらゆる望ましくない副作用を低下させ得る。適切な担体は、たとえば、安定であり、たとえば、担体中の他の成分と反応することができない。1つの実施例では、担体は、治療に使用される投与量及び濃度において、重大な局所的または全身的な有害作用をレシピエントにもたらさない。
【0149】
本開示のための適切な担体には、従来使用されるものが含まれる。たとえば、水、生理食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンゲル液、緩衝液、ヒアルロン酸及びグリコールは、特に液剤用(等張の場合)に、例示的な液体担体である。適切な医薬担体及び賦形剤には、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノール、などが挙げられる。
【0150】
別の実施例では、担体は、たとえば、細胞が成長または懸濁している、培地組成物である。たとえば、培地組成は、それが投与される対象におけるいかなる有害な作用も誘発しない。
【0151】
例示的な担体及び賦形剤は、代謝症候群及び/または肥満を減らす、防止または遅延させる細胞の生存能及び/または細胞の能力に悪影響を与えることはない。
【0152】
1つの実施例では、担体または賦形剤は、たとえば、適切なpHで細胞及び/または可溶性因子を維持するための緩衝作用を提供し、それによって生物学的活性を発揮する。たとえば、担体または賦形剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、魅力的な担体または賦形剤であるが、その理由は、本開示の組成物が、血流中、または組織中もしくは組織の周辺もしくは隣接する領域中へと直接適用(たえば、注入により)するための液体として製造されて良いような場合に、PBSは細胞及び因子と最小限しか相互作用せず、細胞及び因子の迅速な放出を可能とするからである。
【0153】
幹細胞及び/またはその子孫細胞はまた、レシピエント適合性があり、レシピエントに対して有害ではない産物に分解される足場に組み込まれるか、または包埋され得る。これらの足場は、レシピエント対象に移植される細胞のための支持及び保護を提供する。天然及び/または合成の生分解性足場は、このような足場の例である。
【0154】
様々な異なる足場が、本発明の実施において首尾良く使用されても良い。例示的な足場として、生物学的な、分解性の足場が挙げられるが、これに限定されない。天然の生分解性足場として、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニンの足場が挙げられる。細胞移植の足場のための適切な合成材料は、広範な細胞増殖及び細胞機能をサポートできるべきである。そのような足場は吸収性であっても良い。適切な足場として、ポリグリコール酸足場、たとえば、Vacantiら J.P版 Surg.23:3-9 1988;Cimaら Biotechnol.Bioeng.38:145 1991;Vacantiら Plast.Reconstr.Surg.88:753-9 1991に記載されるようなもの、または、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの合成ポリマーが挙げられる。
【0155】
別の実施例では、細胞は(Upjohn CompanyのGelfoamなどの)ゲル状足場中で投与されても良い。
【0156】
本明細書に記載の細胞組成物は、単独で、または他の細胞との混合物として投与されても良い。異なるタイプの細胞を、本開示の組成物と、投与の直前または投与の少し前に混合しても良く、または投与前にある一定期間、一緒に共培養しても良い。
【0157】
1つの実施例では、組成物は、有効量、または治療上もしくは予防上有効量の細胞を含む。たとえば、組成物は、高いAng1レベルを伴う約1×10個の幹細胞胞/kg~高いAng1レベルを伴う約1×10個の幹細胞/kg、または高いAng1レベルを伴う約1×10個の幹細胞/kg~高いAng1レベルを伴う約5×10個の幹細胞/kgを含む。
【0158】
投与されるべき幹細胞の正確な用量は、限定されないが、患者の年齢、体重及び性別、治療される疾患または障害、ならびにその程度及び重症度を含む様々な因子に応じて決定される。
【0159】
1つの実施例では、低用量の細胞が対象に投与される。例示的な投与量は、1kgあたり約0.1×10~約0.5×10個の間の細胞、たとえば、1kgあたり約0.1×10~約0.5×10個の間の細胞、たとえば、1kgあたり約0.5×10~約0.5×10個の間の細胞、たとえば、1kgあたり約0.1×10~約0.5×10個の間の細胞、たとえば、1kgあたり約0.2×10個または0.3×10個または0.4×10個の細胞を含む。
【0160】
たとえば、1kgあたり約0.1×10、約0.2×10、約0.3×10、約0.4×10、約0.5×10個の細胞を対象に投与することができる。
【0161】
他の実施例では、1kgあたり約0.6×10、約0.7×10、約0.8×10、約0.9×10、約1.0×10、約1.1×10、約1.2×10、約1.3×10、約1.4×10個の細胞を対象に投与することができる。
【0162】
1つの実施例では、高用量の細胞が対象に投与される。例示的な投与量は、少なくとも約1.5×10個の細胞/kgを含む。たとえば、高用量は、約1.5×10~約6×10個の間の細胞/kg、たとえば約1.5×10~約5×10個の間の細胞/kg、たとえば、約1.5×10~約4×10個の間の細胞/kg、たとえば、約1.5×10~約3×10個の間の細胞/kgを含む。たとえば、高用量は、約1.5×10個または約2×10個の細胞/kgを含む。たとえば、高用量は、約1.5×10個の細胞/kgを含む。たとえば、高用量は、約2×10個の細胞/kgを含む。たとえば、高用量は、約3×10個の細胞/kgを含む。
【0163】
他の実施例では、1kgあたり約1.5×10、約1.6×10、約1.7×10、約1.8×10、約1.9×10、約2.0×10、約2.1×10、約2.2×10、約2.3×10、約2.4×10、約2.5×10、約2.6×10、約2.7×10、約2.8×10、約2.9×10、約3.0×10、約3.1×10、約3.2×10、約3.3×10、約3.4×10、約3.5×10、約3.6×10、約3.7×10、約3.8×10、約3.9×10、約4.0×10個の細胞が対象に投与される。
【0164】
他の実施例では、約1.0×10、約1.1×10、約1.2×10、約1.3×10、約1.4×10、約1.5×10、約1.6×10、約1.7×10、約1.8×10、約1.9×10、約2.0×10、約2.1×10、約2.2×10、約2.3×10、約2.4×10、約2.5×10、約2.6×10、約2.7×10、約2.8×10、約2.9×10個の細胞、約3.0×10、約3.1×10、約3.2×10、約3.3×10、約3.4×10、約3.5×10、約3.6×10、約3.7×10、約3.8×10、約3.9×10、約4.0×10個の細胞が対象に投与される。
【0165】
間葉系統前駆または幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%を占め得る。他の実施例では、間葉系統前駆または幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%を占め得る。
【0166】
CD44を発現する幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%を占め得る。他の実施例では、CD44を発現する幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、少なくとも約100%を占め得る。
【0167】
いくつかの実施例では、細胞は、該細胞が対象の循環中に出て行くことは不可能であるが、細胞により分泌される因子が循環に進入することは可能であるチャンバー内に含まれる。このような方法では、可溶性因子は、細胞が対象の循環中に因子を分泌することを可能とすることにより、対象に投与されても良い。このようなチャンバーは、対象のある部位に同時に埋め込まれて、可溶性因子の局所レベルを増加させても良い。
【0168】
幹細胞は、たとえば、静脈内、動脈内、または腹腔内投与などにより、全身投与されることができる。
【0169】
間葉系統前駆または幹細胞はまた、経鼻、筋肉内、関節内または心内投与により投与されることができる。
【0170】
たとえば、間葉系統前駆または幹細胞は、痛みのあるまたは腫脹した関節に直接投与されることができる。
【0171】
別の実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、冠動脈内注入により投与される。たとえば、間葉系統前駆または幹細胞は、左前下行枝(LAD)動脈に投与され得る。
【0172】
別の実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、腎内注入により投与される。
【0173】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、単回投与で投与され得る。
【0174】
いくつかの実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、多用量で投与され得る。たとえば、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回の用量である。
【0175】
高レベルのAng1を発現する幹細胞を含む組成物は、凍結保存されても良い。幹細胞の凍結保存は、当技術分野で周知の低速の冷却方法または「高速」凍結手順を使用して行うことができる。一実施例では、凍結保存の方法は、凍結していない細胞と比較して、凍結保存した細胞の類似した表現型、細胞表面マーカー及び成長率を維持する。
【0176】
凍結保存した組成物は、凍結保存溶液を含んでも良い。凍結保存液のpHは、典型的には約6.5~8である。
【0177】
一実施例では、凍結保存液のpHは、約7.4である。
【0178】
凍結保存液は、たとえば、無菌、非発熱性等張液のPlasmalyte A(登録商標)を含んでも良い。Plasmalyte A(登録商標)の100mLは、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl)、502mgのグルコン酸ナトリウム(C11NaO)、368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP(CNaO・3HO)、37mgの塩化カリウム、USP(KCI)、及び30mgの塩化マグネシウム、USP(MgCl・6HO)を含む。抗菌剤は含まれていない。pHは、水酸化ナトリウムで調整される。pHは、7.4(6.5~8.0)である。
【0179】
凍結を促進するために、たとえば、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結防止剤が通常、凍結保存溶液に添加される。理想的には、凍結防止剤は、細胞及び患者のために非毒性であり、化学的に不活性であり、非抗原性であり、解凍した後の高い生存率を提供し、洗浄することなく移植を可能にする必要がある。しかし、最も一般的に使用される凍結防止剤であるDMSOは、いくつかの細胞毒性を示す。ヒドロキシエチルデンプン(HES)は、凍結保存溶液の細胞毒性を減少させるために、代替としてまたはDMSOと組み合わせて使用することができる。
【0180】
凍結保存溶液は、1つまたは複数のDMSO、ヒドロキシエチルデンプン、ヒト血清成分及びその他のタンパク質の増量剤を含むことができる。1つの実施例では、凍結保存溶液は、約5%のヒト血清アルブミン(HSA)及び約10%のDMSOを含む。凍結保存溶液は、1つまたは複数のメチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、及びトレハロースをさらに含んでも良い。
【0181】
凍結保存した組成物を解凍し、対象に直接投与することもできる。また、凍結保存された組成物を解凍し、間葉系統前駆体または幹細胞を投与前に代替溶液に再懸濁しても良い。
【0182】
高レベルのAng1を発現する幹細胞は、動物の疾患または障害を治療するのに有効な量で動物に投与される。動物は哺乳動物でも良く、哺乳動物は、ヒト及び非ヒト霊長類を含む霊長類であっても良い。
【0183】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、ヒトに投与される。
【0184】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、ヒトに投与される。
【0185】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、糖尿病を患う対象に投与される。
【0186】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、II型糖尿病を患う対象に投与される。
【0187】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、II型糖尿病を患っている、ベースラインのHbA1c値が約7%を超える対象に投与される。たとえば、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、II型糖尿病を患っている、ベースラインのHbA1c値が約7.1%、約7.2%、約7.3%、約7.4%、約7.5%、約7.6%、約7.7%、約7.8%、約7.9%、約8.0%、約8.1%、約8.2%、約8.3%、約8.4%、約8.5%、約8.6%、約8.7%、約8.8%、約8.9%、約9.0%を超える対象に投与することができる。
【0188】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、II型糖尿病を患っている、ベースラインのHbA1c値が約8.0%以上の対象に投与することができる。
【0189】
HbA1c値(総ヘモグロビンのパーセンテージ)を決定するための方法は、当業者には明らかであろう。HbA1c値(総ヘモグロビンのパーセンテージ)を決定するために使用される方法の例には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはイムノアッセイが挙げられる。当業者はまた、HbA1c値を他の値、たとえば、mmol/molで表すことができることも認識するであろう。
【0190】
一実施例では、対象のHbA1c値は、HPLCにより決定される。
【0191】
一実施例では、対象のHbA1c値は、イムノアッセイにより決定される。
【0192】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、II型糖尿病を患う患者に投与され、対象のブドウ糖レベルは、十分にコントロールされていない。
【0193】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、II型糖尿病を患う対象に投与され、対象のブドウ糖レベルは、メトホルミンまたはメトホルミンともう1つの他の経口治療薬により十分にコントロールされていない。
【0194】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、慢性腎臓病を患う対象に投与される。
【0195】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、糖尿病性腎症を患う対象に投与される。
【0196】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、II型糖尿病及び慢性腎臓病を患う対象に投与される。
【0197】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、II型糖尿病及び糖尿病性腎症を患う対象に投与される。
【0198】
初期の腎臓損傷を検査及び検出し、腎臓状態をモニターするには、推算糸球体濾過量(eGFR)が使用される。
【0199】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、ベースラインのeGFRが約35ml/分/1.73m、約34ml/分/1.73m、約44ml/分/1.73m、約32ml/分/1.73m、約31ml/分/1.73m、約30ml/分/1.73m、約29ml/分/1.73m、約28ml/分/1.73m、約27ml/分/1.73m、約26ml/分/1.73m、約25ml/分/1.73mを超える対象に投与される。
【0200】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、腎機能ステージが3A、3B、4または5である対象に投与される。
【0201】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、腎臓機能ステージが3Bである対象に投与される。
【0202】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、対象に投与される。
【0203】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、ベースラインのeGFRが30ml/分/1.73m以上である対象に投与される。
【0204】
GFRを推算するための方法は、当業者には明らかであろうが、以下に例を示す。eGFRは、クレアチニン及び/またはシスタチンCレベルを用いて算出することができる。
【0205】
たとえば、次のMDRD式を用いてeGFRを算出することができる。
GFR(mL/分/1.73m)=175×(Scr-1.154×(年齢)-0.203×(女性の場合0.742)×(アフリカンアメリカンの場合1.212)
【0206】
他の実施例では、CKD-EPI式(Leveyら、Ann Intern.Med.150(9),604-12,2009)を用いてeGFRを算出しても良い。
GFR=141×min(Scr/κ、1)α×max(Scr/κ、1)-1.209×0.993年齢×1.018[女性の場合]×1.159[黒人の場合]
式中、
crは、血清クレアチニン(mg/dL)であり、
κは、女性で0.7、男性で0.9であり、
αは、女性で-0.329、男性で-0.411であり、
minは、Scr/κの最小値または1を示し、
maxは、Scr/κの最大値または1を示す。
【0207】
また、eGFRを連続して算出し、経時的にモニターして、eGFRが減少しているか、または改善しているかどうかを決定することができる。eGFRを対照群と治療群とを比較して、eGFRの減少が治療群にて阻害されるかどうかを特定することができる。
【0208】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、関節炎を患う対象に投与される。
【0209】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、関節リウマチを患う対象に投与される。
【0210】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、不十分な抗TNFαレスポンダーに分類される関節リウマチを患っている対象に投与される。
【0211】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、関節リウマチの生物学的療法が奏功しなかった、関節リウマチを患っている対象に投与される。
【0212】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、関節リウマチの2つの生物学的療法が奏功しなかった、関節リウマチを患っている対象に投与される。
【0213】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、関節リウマチの3つの生物学的療法が奏功しなかった、関節リウマチを患っている対象に投与される。
【0214】
TNF-アルファ、IL-6、IL-17の阻害
TNF-アルファ、IL-6及びIL-17は、サイトカインとして知られている化学的メッセンジャーである。これらの分子は、種々のシグナルに応答して細胞から放出される。本発明の文脈では、「阻害する」または「阻害すること」という用語は、タンパク質(たとえば、サイトカイン)などの物質またはプロセス(たとえば、細胞分化または細胞分極)の測定可能なレベルの低減または抑制を指す。
【0215】
したがって、一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞を含む細胞組成物の投与は、対象において、TNF-アルファ、IL-17及び/またはIL-6の測定可能なレベルを減少させることが想定される。本実施例では、細胞からのTNF-アルファ、IL-17及び/またはIL-6放出が阻害される。
【0216】
1つの実施例では、本開示は、高レベルのAng1を発現する幹細胞の投与に対する対象の応答をモニターする方法に関する。本実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞の投与後、そのレベルまたはサイトカインなどの炎症誘発性及び/もしくは抗炎症性マーカーを一定期間にわたってモニターすることができる。
【0217】
一実施例では、本開示は、高レベルのAng1を発現する幹細胞の投与後の対象の応答をモニターする方法に関し、この方法は、高レベルのAng1を発現する幹細胞を投与した対象から得た全血試料などの試料中の炎症マーカー及び/または抗炎症マーカーレベルを評価することと、その対象が高レベルのAng1を発現する幹細胞の投与に対して応答したかどうかを炎症誘発性及び/または抗炎症マーカーレベルに基づいて決定することを含む。
【0218】
一実施例では、抗炎症マーカーレベルの増加及び/または炎症マーカーの減少は、その対象が幹細胞の投与に応答したことを示す。
【0219】
一実施例では、炎症マーカー及び/または抗炎症マーカーは、細胞または細胞集団である。
【0220】
一実施例では、抗炎症性細胞の数の増加及び/または炎症性細胞の数の減少は、その対象が幹細胞の投与に応答したことを示す。
【0221】
一実施例では、抗炎症性細胞は、Th2細胞、Treg細胞及び/またはM2型マクロファージである。
【0222】
一実施例では、炎症性細胞は、Th17細胞及び/またはM1型マクロファージである。
【0223】
炎症性細胞の数が減少したか、及び/または抗炎症性細胞の数が増加したかどうかを判定するために用いることができる種々のアッセイは、当業者に利用可能である。
【0224】
たとえば、蛍光標識細胞分取(FACS)などのフローサイトメトリーに基づく技術を用いて、細胞表面マーカーの発現について、全血試料から単離した細胞集団を評価することができる。
【0225】
1つの実施例では、CD14+単核細胞は、高レベルのAng1を発現する幹細胞を投与した対象から得た全血試料から精製することができる。単核細胞をCD16、CD163及びCD206発現について評価して、M1型とM2型マクロファージの比率を特定することができる。複数の試料を経時的に評価して、M1型マクロファージ数が減少したか、もしくは減少しているか、及び/またはM2型マクロファージレベルが増加したか、もしくは増加しているかどうかを判定することができる。一実施例では、M1及び/またはM2型マクロファージ数は、幹細胞の投与前に対象から得た試料(たとえば、ベースラインまたは処置前の参照試料)中のM1及び/またはM2型マクロファージ数と比較して評価される。
【0226】
別の実施例では、評価される炎症マーカー及び/または抗炎症マーカーは、サイトカインである。
【0227】
一実施例では、炎症マーカーは、TNF-アルファ、IL-17及び/またはIL-6である。
【0228】
一実施例では、抗炎症マーカーは、IL-10である。
【0229】
TNF-アルファ、IL-17及び/もしくはIL-6レベルが減少したか、またはIL-10レベルが増加したかどうかを判定することができる種々のアッセイは、当業者に利用可能である。1つの実施例では、TNF-アルファ、IL-17、IL-10及び/またはIL-6の濃縮レベルは、Immulite化学発光免疫測定法などの分光光度技術を用いて特定することができる。別の実施例では、TNF-アルファ、IL-17、IL-10及び/またはIL-6の濃縮レベルは、市販のキット(Millipore)を使用したLuminexプラットフォームを使用して測定することができる。
【0230】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞を含む細胞組成物の投与は、マクロファージによるTNF-アルファ及び/またはIL-6の放出を阻害する。TNF-アルファ及び/またはIL-6のマクロファージからの放出が減少したかどうかを判定することができる種々のアッセイは、当業者に利用可能である。たとえば、マクロファージをインビトロで培養し、高レベルのAng1を発現する幹細胞を含む組成物または好適な対照のいずれかに曝露する。一定時間後、次いで、上記の例示的方法を用いて、TNF-アルファ及び/またはIL-6放出を評価することができる。次いで、高レベルのAng1を発現する幹細胞を含む細胞組成物に曝された細胞中のTNF-アルファ及び/またはIL-6レベルを、対照細胞中のTNF-α及び/またはIL-6レベルと比較して、TNF-アルファ及び/またはIL-6レベルが減少するかどうかを決定することができる。
【0231】
マクロファージについては、古典的活性化(M1)マクロファージ表現型(すなわち「M1型マクロファージ」)及び選択的活性化(M2)マクロファージ表現型(すなわち「M2型マクロファージ」)の2つの異なる分極状態が特定されている(Gordon及びTaylor.,Nat.Rev.Immunol.5:953-964,2005;Mantovaniら、Trends Immunol.23:549-555,2002)。M1型マクロファージは、「炎症誘発性」サイトカインプロファイル(たとえば、TNF-アルファ、IL-6、IL-1-ベータ、IL-12、IL-23)を有する。これに対して、M2型マクロファージは、「抗炎症性」サイトカインプロファイル(たとえば、IL-10)を有する。一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞を含む細胞組成物の投与は、M1型マクロファージによるサイトカインの放出を阻害することが想定される。別の実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞を含む細胞組成物の投与は、M1型マクロファージによるTNF-アルファ及び/またはIL-6の放出を阻害することが想定される。M1型マクロファージによるTNF-アルファ、IL-6及び/または他のサイトカインの放出が減少したかどうかを判定することができる種々のアッセイは、当業者に利用可能である。たとえば、上述したインビトロアッセイにてM1型マクロファージを用いる。本実施例では、免疫選択により全血試料からCD14+単核細胞を精製することができる。
【0232】
抗炎症性細胞の産生及び/または機能の増加
1つの実施例では、本開示は、高レベルのAng1を発現する幹細胞を投与することによって、対象において、抗炎症性細胞の産生及び/または機能を増加させる方法に関する。
【0233】
「抗炎症性細胞」という用語は、対象にて抗炎症反応を誘発または媒介する細胞を指すために、本開示の文脈にて用いられる。「抗炎症性細胞」は、細胞集団または標的に直接作用して抗炎症反応を誘導し得る。あるいは、本開示によって包含される抗炎症性細胞は、特定の細胞集団または標的に作用して抗炎症反応を誘導するサイトカインなどの因子を発現または分泌し得る。
【0234】
抗炎症性細胞の例には、Th2細胞、Treg細胞及びM2型マクロファージが挙げられる。
【0235】
1つの実施例では、本開示は、高レベルのAng1を発現する幹細胞を投与することによって、対象において、Th2細胞、Treg及び/またはM2型マクロファージの数を増加させる方法に関する。
【0236】
1つの実施例では、本開示は、高レベルのAng1を発現する幹細胞を投与することによって、対象において、M2型マクロファージの数を増加させる方法に関する。
【0237】
1つの実施例では、本開示の方法は、対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%まで増加させる。
【0238】
1つの実施例では、本開示の方法は、対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも約10%まで増加させる。
【0239】
1つの実施例では、本開示の方法は、対象において、M2型マクロファージの数を総単核細胞集団の少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%まで増加させる。
【0240】
当業者であれば、当該技術分野において知られている種々の方法を用いて、対象の総単核細胞集団に対するM2マクロファージのパーセンテージを容易に特定することができるであろう。たとえば、M2マクロファージは、CD14及びCD16ならびにCD163及びCD206などの他のマーカーの発現に基づいて特定することができる。
【0241】
本実施例では、全血試料を対象から得て、CD14の発現に基づいてFACSにより細胞を免疫選択することができる。次いで、CD14+細胞をCD16、CD163及びCD206の発現について評価することができる。CD14+CD16+CD163+CD206+の比率は、試料中の総CD14+細胞集団を基準として算出することができる。
【0242】
1つの実施例では、対象における抗炎症性細胞の産生及び/または機能の増加が、
・対象おけるIL-6レベルの減少;
・対象におけるTNF-アルファレベルの減少;及び/または
・対象おけるIL-10レベルの増加をもたらす。
【0243】
別の実施例では、本開示の方法は、M1からM2表現型へのマクロファージの分極を促進する方法である。
【0244】
たとえば、本開示は、必要とする対象において、M1型マクロファージのM2型マクロファージへの分極を促進する方法を提供し、この方法は、遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、当該遺伝的に変更されていない幹細胞は、少なくとも0.1μg/10細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。
【0245】
本実施例では、CD14+CD16+細胞、CD14++CD16+細胞、CD14+CD16+CD163+細胞、CD14++CD16+CD163+細胞、CD14+CD16+CD206+細胞、CD14++CD16+CD206+細胞、CD14+CD16+CD163+CD206+細胞、CD14++CD16+CD163+CD206+細胞、CD14+CD163+細胞、CD14++CD163+細胞、CD14+CD206+細胞、CD14++CD206+細胞、CD14+CD163+206+細胞、CD14++CD163+CD206+細胞の産生もしくは数の増加、IL-6レベルの減少、TNF-アルファレベルの減少及び/またはIL-10レベルの増加は、M1型マクロファージのM2型マクロファージへの分極が促進されたことを示し得る。
【0246】
逆に、別の実施例では、本開示は、M2型マクロファージのM1型マクロファージへの分極を阻害する方法を提供する。
【0247】
別の実施例では、本開示は、必要とする対象において、M1型マクロファージの産生及び/または機能を阻害する方法を提供し、この方法は、遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、当該遺伝的に変更されていない幹細胞は、高レベルのアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。
【0248】
治療方法
本開示は、炎症性疾患を治療する方法に関する。
【0249】
本明細書で使用するとき、「炎症性疾患」という用語は、限定するものではないが、そう痒症、皮膚炎症、乾癬、多発性硬化症、関節リウマチ、変形性関節症、全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、糖尿病I型またはII型、糖尿病性腎症、喘息、炎症性肺損傷、炎症性肝損傷、炎症性糸球体傷害、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、シェーグレン症候群、角結膜炎、ぶどう膜炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節、皮膚または筋肉の炎症性疾患、急性または慢性特発性炎症性関節炎、筋炎、脱髄疾患、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、間質性腎炎及び慢性活動性肝炎を含む、疾患を包含するとみなすべきである。
【0250】
一実施例では、本開示の方法によって治療される炎症性疾患は、糖尿病である。別の実施例では、炎症性疾患は、糖尿病に関連する状態または症状である。本実施例では、治療することができる症状には、異常な創傷治癒、胸痛などの心臓発作に関連する症状、脳卒中に関連する症状、末梢血管疾患、切断、腎臓疾患、腎不全、失明、神経障害、炎症、性交不能症または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が挙げられる。
【0251】
たとえば、本開示の方法によって治療される炎症性疾患は、関節リウマチである。
【0252】
たとえば、本開示の方法によって治療される炎症性疾患は、糖尿病性網膜症である。
【0253】
一実施例では、本開示は、糖尿病を治療する方法に関する。
【0254】
一実施例では、本開示は、II型糖尿病を治療する方法に関する。
【0255】
一実施例では、本開示は、糖尿病性腎症を治療する方法に関する。
【0256】
一実施例では、本開示は、関節リウマチを治療する方法に関する。
【0257】
本明細書で使用するとき、「治療する」または「治療」または「治療すること」という用語は、治療上有効な量の細胞を投与することを意味するものと理解されたい。本開示の文脈では、「治療上有効な量の細胞」という用語は、炎症性疾患または障害を予防、改善または治療するのに有効である量の細胞を指す。このような有効量は、一般に、炎症性疾患または障害の徴候、症状及び/または他の指標に改善をもたらすであろう。たとえば、糖尿病の場合、有効量の細胞は、HbA1c値の減少、IL-6及び/またはTNF-αなどのサイトカインレベルの減少、空腹時インスリンの減少及び/またはアディポネクチンレベルの増加をもたらすことができる。
【0258】
たとえば、関節リウマチの場合、有効量の細胞は、ACR20、ACR50及び/もしくはACR70の達成、IL-6などのサイトカインレベルの減少ならびに/または疾患活動性スコアの減少をもたらすことができる。
【0259】
たとえば、糖尿病性腎症の場合、有効量の細胞は、eGFRもしくはmGFRの減少の阻害、eGFRもしくはmGFRの改善及び/またはIL-6などのサイトカインレベルの減少をもたらすことができる。
【0260】
糖尿病またはその関連状態もしくは症状の文脈にて、HbA1c値の減少、空腹時インスリンの減少及び/またはアディポネクチンレベルの増加を特定するために使用することができる種々の慣用的臨床分析は、当業者に利用可能である。たとえば、一般に、血液試料を対象から得た後、イムノアッセイにかけてHbA1c、インスリン及びアディポネクチンレベルを検出する。
【0261】
細胞培養方法
一実施形態では、高レベルのAng1を発現する幹細胞を作製する方法は、幹細胞の集団を細胞培養培地で培養することを含み、当該細胞培養培地は、短時間作用型L-アスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型L-アスコルビン酸誘導体の相当量を含まず、及び/または10%(v/v)未満のウシ胎児血清で補充される。
【0262】
細胞培養に関連して使用される用語「培地(media)」または「培地(medium)」は、細胞を取り巻く環境の構成要素を含む。培地は、Ang1発現の発現を誘導するのに十分な条件に寄与する及び/または条件を提供することが想定される。培地は、固体、液体、気体、または相及び物質の混合物であっても良い。培地には、液体増殖培地、及び細胞増殖を維持しない液体培地を含むことができる。培地はまた、寒天、アガロース、ゼラチン及びコラーゲン基質などのゼラチン質の培地も含む。例示的な気体培地は、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体の支持体上で増殖する細胞が暴露される気相を含む。用語「培地」とはまた、それが未だ細胞と接触していない場合であっても、細胞培養での使用を目的とした物質を指す。
【0263】
高レベルのAng1を発現する幹細胞を作製する方法に使用される培養培地は、基礎培地として、幹細胞の培養に使用される培地を使用して調製することができる。基礎培地は、たとえば、イーグル最小必須(MEM)培地、α改変MEM培地、及びその混合培養培地を含み、幹細胞の培養のために使用することができるならば、特に制限されるものではない。
【0264】
さらに、培養培地は、脂肪酸または脂質、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、緩衝剤、無機塩などの成分を含むことができる。
【0265】
細胞培養培地は、すべての必須アミノ酸を含むことができ、非必須アミノ酸を含んでも良い。一般に、アミノ酸は、必須アミノ酸(トレオニン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、ヒスチジン)及び非必須アミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、システイン、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸、チロシン、アルギニン、プロリン)に分類される。
【0266】
アスコルビン酸は、培養中の様々な細胞の増殖及び分化に必須のサプリメントである。特定のアスコルビン酸誘導体は、特に、中性pH及び37℃の通常の細胞培養条件下で、溶液中で安定していないため、「短時間作用型」であることが現在では理解されている。これらの短時間作用型誘導体は、急速にシュウ酸またはトレオン酸に酸化する。37℃の培養培地(pH7)では、酸化により、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体のレベルは、24時間後に約80~90%低下する。したがって、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体は、様々な細胞型の従来の細胞培養で、より安定した「長時間作用型」アスコルビン酸誘導体に置き換えられる。
【0267】
本開示の文脈では、用語「短時間作用性」とは、中性pH及び37℃の培養条件下の細胞培養が、24時間後に約80~90%酸化されるアスコルビン酸誘導体を含む。1つの実施例では、短時間作用型のL-アスコルビン酸誘導体は、L-アスコルビン酸塩である。たとえば、本開示の文脈では、L-アスコルビン酸ナトリウム塩は、「短時間作用型」アスコルビン酸誘導体である。
【0268】
対照的に、用語「長時間作用性」とは、中性pH及び37℃の培養条件下の細胞培養が、24時間後に約80~90%酸化されないアスコルビン酸誘導体を含む。1つの実施例では、本開示の文脈では、L-アスコルビン酸2-リン酸は、「長時間作用型」アスコルビン酸誘導体である。長時間作用型のアスコルビン酸誘導体のその他の例には、アスコルビン酸テトラヘキシルデシル、リン酸アスコルビルマグネシウム及び2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸が挙げられる。
【0269】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞を作製する方法に使用される培養培地は、短時間作用型アスコルビン酸誘導体で補充される。たとえば、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.005g/Lを含んでも良い。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.01g/Lを含んでも良い。たとえば、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.02g/Lを含んでも良い。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.03g/Lを含んでも良い。たとえば、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.04g/Lを含んでも良い。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.05g/Lを含んでも良い。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.06g/Lを含んでも良い。この実施形態の1つの実施例では、細胞培養培地は、L-アスコルビン酸のナトリウム塩で補充される。
【0270】
別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の相当量を含まない。たとえば、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.04g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.03g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.02g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.01g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.005g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体は含み得ない。
【0271】
別の実施例では、細胞培養培地は、L-アスコルビン酸ナトリウム塩を含むが、L-アスコルビン酸-2-リン酸の相当量は含まない。
【0272】
高レベルのAng1を発現する幹細胞を作製する方法に使用される細胞培養培地は、血清含有培地または無血清培地であり得る。
【0273】
培養培地は、血清代替を含んでも良いし含まなくても良い。血清代替物は、たとえば、アルブミン(たとえば、脂質リッチアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノールまたは3’-チオールグリセロール、またはそれらを適切に含む血清同等物とすることができる。そのような血清代替物は、たとえば、国際特許出願第93/30679号に記載された方法で調製することができるし、市販品を使用することもできる。
【0274】
一実施例では、高レベルのAng1を発現する幹細胞を作製する方法に使用される細胞培養培地は、少なくとも約9%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約1%(v/v)のFCSで補充される。また、ウシ胎児血清(FCS)及びウシ胎児血清(FBS)の用語は、本発明の文脈では、同じ意味で使用し得ることが想定される。
【0275】
一実施形態では、細胞培養培地は、非胎児血清で補充される。培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の非胎児血清で補充しても良いことが想定される。
【0276】
たとえば、培養培地は、哺乳動物の非胎児血清で補充することができる。
【0277】
たとえば、培養培地は、ヒトの非胎児血清で補充することができる。
【0278】
たとえば、培養培地は、新生児血清で補充することができる。培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の新生児血清で補充しても良いことが想定される。
【0279】
一実施形態では、細胞培養培地は、哺乳動物の新生児血清を補充される。
【0280】
たとえば、培養培地は、新生仔ウシ血清(NBCS)で補充することができる。培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)のNBCSで補充しても良いことが想定される。
【0281】
一実施形態では、細胞培養培地は、ヒトの新生児血清を補充される。
【0282】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%(v/v)のヒト新生児血清で補充することができる。たとえば、ヒト新生児血清は、「臍帯血」から得られる。
【0283】
一実施形態では、培養培地は、成人血清で補充される。培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の成人血清で補充しても良いことが想定される。
【0284】
一実施形態では、細胞培養培地は、哺乳動物の成体血清で補充される。
【0285】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の哺乳動物の成体血清で補充することができる。
【0286】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の成体ウシ血清で補充することができる。
【0287】
一実施形態では、細胞培養培地は、ヒトの成体血清で補充される。
【0288】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%(v/v)のヒト成人血清で補充することができる。
【0289】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%(v/v)のヒトAB血清で補充することができる。
【0290】
1つの実施例では、細胞培養培地は、少なくとも約3%のヒトAB血清で補充される。
【0291】
一実施形態では、培養培地は、FCS及びNBCSの混合物で補充される。
【0292】
たとえば、培養培地は、FCS:NBCSの比率が、少なくとも約0.4:1、少なくとも約0.5:1、少なくとも約0.6:1、少なくとも約0.7:1、少なくとも約0.8:1、少なくとも約0.9:1、少なくとも約1:1、少なくとも約1.5:1、少なくとも約2:1になるようなFCS及びNBCSの混合物で補充することができる。
【0293】
たとえば、FCSとNBCSの混合物は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の細胞培養培地を含み得ることが想定される。しかし、この実施例では、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%(v/v)、10%(v/v)未満のFCSで補充される。
【0294】
一実施形態では、細胞培養培地は、無FCS血清である。
【0295】
一実施形態では、細胞培養培地は、無胎児血清である。
【0296】
一実施形態では、細胞培養培地は、非胎児血清で補充される。
【0297】
一実施形態では、細胞培養培地は無胎児血清であり、非胎児血清で補充される。
【0298】
別の実施例では、細胞培養培地は、lα,25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25D)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキンキン-1β(IL-1β)及び間質由来因子lα(SDF-lα)で構成されるグループから選択される1つまたは複数の刺激因子で補充される。別の実施形態では、細胞は、細胞の増殖を支持するのに十分な量の少なくとも1つのサイトカインの存在下で培養することができる。
【0299】
別の実施形態では、細胞は、細胞の増殖を支持するのに十分な量の血小板細胞溶解物の存在下で培養される。たとえば、細胞は、細胞の増殖を支持するのに十分な量のヒト血小板の細胞溶解物で培養することができる。
【0300】
1つの実施例では、細胞は、細胞の増殖を支持するのに十分な量のヒトAB血清及びヒト血小板の細胞溶解物で培養される。
【0301】
また、当業者であれば、以下に例示する方法を用いて、高レベルのAng1を発現する幹細胞を作製することができる。
【0302】
細胞の治療的/予防的可能性を分析する
疾患の発症または進行を処置し、予防し、または遅延させる、高レベルのAng1を発現する幹細胞の能力を決定するための方法は、当業者には明らかであろう。たとえば、幹細胞は、Ang1のレベルを増加させるその能力について評価することができる。
【0303】
1つの実施例では、少なくとも0.1μg/10細胞の量でAng1を発現する遺伝的に変更されていない幹細胞は、インビトロ及び/またはインビボでのAng1発現を増加させる能力について試験される。これらの実施例では、細胞または組織は、高レベルのAng1を発現する幹細胞の投与後に、Ang1の発現の展開について評価する。
【0304】
本開示はまた、疾患の治療、予防または遅延するための細胞を同定または単離するための以下の方法を提供することも、上記のことから当業者には明らかであろう。
(i)関連疾患に罹患している試験対象に高レベルのAng1を発現する幹細胞を投与し、対象の疾患の症状を評価する。
(ii)(i)の対象の障害の症状と、疾患を罹患しているが幹細胞を投与していない対照被験体の疾患の症状または活性とを比較し、対照被験体と比較した試験対象の症状の改善が、幹細胞が疾患を治療することを示す。細胞は、任意の実施例による、本開示に記載の任意の細胞であっても良い。
【実施例
【0305】
実施例1:STRO-3細胞の選択によるMPCの免疫選択
骨髄(BM)を、健康な正常成人ボランティア(20~35歳)から採取する。簡潔には、40mlのBMを、後腸骨稜から、リチウム-ヘパリン抗凝固剤含有チューブに吸引する。
【0306】
骨髄単核細胞(BMMNC)を、先に記載されているように(Zannettinoら、Blood,92:2613-2628,1998)、Lymphoprep(商標)(Nycomed Pharma,Oslo,Norway)を用いて、密度勾配分離によって調製する。400×g、4℃、30分間の遠心分離後、淡黄色の層をホールピペットで除去し、5%ウシ胎児血清(FCS,CSL Limited,Victoria,Australia)を含有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS;Life Technologies,Gaithersburg,MD)からなる「HHF」中で3回洗浄する。
【0307】
続いて、STRO-3(またはTNAP)細胞を、以前に記載されるように(Gronthosら、Journal of Cell Science 116:1827-1835,2003;Gronthos and Simmons,Blood,85,929-940,1995)、磁気活性化細胞選別により単離した。簡潔には、およそ1~3×10個のBMMNCを、HHF中10%(v/v)正常ウサギ血清からなるブロッキングバッファー中で、20分間、氷上でインキュベートする。細胞を、ブロッキングバッファー中10μg/mlのSTRO-3 mAb溶液(200μl)とともに、氷上で1時間インキュベートする。続いて、細胞を400×gでの遠心分離によってHHF中で2回洗浄する。HHFバッファー中1/50希釈のヤギ抗マウスγ-ビオチン(Southern Biotechnology Associates,Birmingham,UK)を加え、細胞を氷上で1時間インキュベートする。細胞を、上記と同様に、MACSバッファー(1%BSA、5mM EDTA及び0.01%アジ化ナトリウムを補充したCa2+及びMn2+を含まないPBS)中で2回洗浄し、最終体積0.9mlのMACSバッファー中に再懸濁する。
【0308】
100μlのストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec;Bergisch Gladbach,Germany)を細胞懸濁液に添加し、氷上で15分間インキュベートする。細胞懸濁液を0.5mlのMACSバッファーで2回洗浄し、再懸濁した後、ミニMACSカラム(mini MACS column)(MS Columns,Miltenyi Biotec)上にロードし、0.5mlのMACSバッファーで3回洗浄して、STRO-3mAb(2005年12月19日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)にPTA-7282の受託番号で寄託;国際特許出願第2006/108229号を参照)と結合しなかった細胞を回収する。さらに1mlのMACSバッファーを加えた後、カラムを磁石から取り除き、TNAP細胞を陽圧で単離する。各画分からの細胞アリコートをストレプトアビジン-FITCで染色し、純度をフローサイトメトリーで評価することができる。
【0309】
このようにして単離されたMPCは、STRO-1brightMPCである。
【0310】
実施例2:開始培地-プロセスA
一般にイーグルαMEMと称される、アール平衡塩を有するイーグル最小必須培地(MEM)のアルファ改変は、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、及び添付されたビタミンを含む。これらの改変は、マウスとハムスターのハイブリッド細胞(Stannersら、Nat New Biol.,230,52-54,1971)を増殖させる際に使用するために最初に記載された。
【0311】
主要な幹細胞を培養するのに適したイーグルαMEM培地は、Life Technologies及びSigmaなどの様々な供給源から得ることができる。
【0312】
例示のプロセスで使用される必要な増殖因子を含む主要な幹細胞培養物を確立する詳細な方法は、Gronthos and Simmons,Blood,85,929-940,1995に記載されている。
プロセスAでは、10%ウシ胎児血清、L-アスコルビン酸-2-リン酸(100μM)、デキサメタゾン(10-7M)、及び/または無機リン酸塩(3mM)で補充されたイーグルαMEM培地が、幹細胞を培養するために使用された。
【0313】
実施例3:改変培養培地-プロセスB
プロセスBでは、プロセスAで使用したイーグルαMEM培地は、以下によって改変(改変αMEM)された。
・長時間作用型のアスコルビン酸誘導体L-アスコルビン酸-2-リン酸を短期作用型のアスコルビン酸誘導体L-アスコルビン酸ナトリウム(50mg/L)で置換する。
・FCSを10%(v/v)から5%(v/v)まで低減する。
・-非胎児血清(5%v/v)で補充する。
【0314】
【表1】
【0315】
実施例4:細胞培養
間葉系前駆細胞(MPC)を単一のドナーから得て、以下の凍結保存法で保存した。
【0316】
一般に、細胞培養は、以下の工程を含んだ。
【0317】
凍結保存されたMPCを解凍し、10,000個の細胞/cmで播種し、開始培地(プロセスA、n=3)または改変培養培地(プロセスB、n=3)のいずれかで90%のコンフルエンスまで20%のO、37℃で増殖させた。
【0318】
馴化培地を生成するために、増殖培地を200μlの培地/cmの量でFCSを補充したEBM-2基本培地(Lonza)と交換した。細胞はさらに3日間培養し、その後、培地を回収し、任意の細胞を除去するために遠心分離し、生じた上清を回収し、-80℃で保存した。
【0319】
増殖因子の濃度は、市販キット(Millipore)を使用したLuminexプラットフォームを使用して測定した。
【0320】
細胞培養に続いて、MPC増殖ダイナミクスを評価した(図1図3参照)。細胞増殖、MPC倍加時間または集団倍加時間の有意な変化は、細胞培養プロセスA及びBの後、観察されなかった。
【0321】
MPCはまた、STRO-1、CC9及びSTRO-4だけでなく、プロ血管新生増殖因子Ang1及びVEGFの細胞マーカーの発現レベルの点で特徴付けられる。
【0322】
STRO-1、CC9及びSTRO-4のレベルは、細胞培養プロセスA及びB後のMPCと同等だった。
しかし、培養プロセスBは、
・Ang1レベルを増加させ、
・VEGFレベルを減少させ、
・以前に血管新生を増強する上で特に効果があることを示したAng1:VEGF比率と一致するAng1:VEGFの比率を提供する。
プロセスAまたはBで培養したMPCの馴化培地のAng1及びVEGFのレベル(μg/10細胞)の測定値を表2に示す。
【0323】
【表2】
【0324】
実施例5:改変培養条件-プロセスC及びD
長時間作用アスコルビン酸誘導体、L-アスコルビン酸-2-リン酸の短時間作用型のアスコルビン酸誘導体L-アスコルビン酸ナトリウムとの交換を制御するために、3つの異なるドナーからのMPCは、α-MEM+10%FCS+50mg/LのL-アスコルビン酸ナトリウム(プロセスC)またはα-MEM+3%ヒトAB血清+50mg/LのL-アスコルビン酸ナトリウム(プロセスD)とPDGF及びEGFなどの増殖因子で連続的に伝播された。
【0325】
Ang1及びVEGFのレベルは、プロセスC及びDの細胞培養の後に評価した。プロセスCまたはDで培養したMPCの馴化培地のAng1及びVEGFのレベル(ug/10細胞)を表3に示す。
【0326】
プロセスCと比較して、培養プロセスDは、
・Ang1レベルを増加させ、
・VEGFレベルを減少させ、
・VEGF:Ang1の比率を増加させる。
プロセスAと比較して、プロセスC及びDは、Ang1の発現レベルの進行性増加をもたらす。これは、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体及び非胎児血清の存在が、それぞれ独立してAng1の発現の増加をもたらすと共にAng1の発現をさらに増加させる相乗効果を発揮することを示唆している。
【0327】
【表3】
【0328】
実施例6:炎症誘発性M1単核細胞のM2表現型への分極
CD14+単核細胞を全血から免疫選択した。単核細胞集団をCD16発現に基づいて特性評価した。5.2%の細胞がM2型マクロファージの表現型特性(CD14CD16)を示した(図4)。
【0329】
CD14+単核細胞と、高レベルのAng1を発現するMPCとを7日間共培養した。MPCは、2名の異なるドナーから得た(#023及び#009)。
【0330】
共培養の3日後、細胞を以下に関して評価した。
・CD14、CD16発現;及び
・リポ多糖体(LPS)に反応したTNF-αの分泌。LPSは、1ng/mlを24時間添加した(最後の5時間は+伝達阻害薬)。
【0331】
共培養により、以下が生じた。
・M2型マクロファージの表現型特性(CD14CD16CD163CD206)を示すマクロファージの生成(図4
・マクロファージによるTNFαの炎症誘発性(LPS)分泌の阻止(図5
【0332】
共培養の7日後、LPSに応答したIL-10の分泌について、細胞を評価した。LPSは、1ng/mlを24時間添加した(最後の5時間は+伝達阻害薬)。細胞内フローサイトメトリーによりIL-10発現を分析した。マクロファージによるIL-10産生は、LPSの存在下におけるMPCとの共培養によって向上した(図6)。
【0333】
これらのデータは、高レベルのAng1を発現するMPCがM2型マクロファージの産生を促進することを示している(図7)。
【0334】
高レベルのAng1を発現する幹細胞を漸増量のIL-1βのみまたはTNF-αと組み合わせて培養し、PGE2分泌に対するこれらのサイトカインの影響を評価した。
【0335】
PGE2発現に対するIL-1βとTNF-αの相加作用が観察された(図8)。
【0336】
PGE2は、Th17細胞のTh2細胞及びTReg細胞への分化だけでなく、M1型マクロファージのM2型マクロファージへの分極も促進する(図7)。II型糖尿病などの炎症性疾患を患う対象にて、高いIL-1及びTNF-αレベルが観察されている。
【0337】
したがって、TNFα及びIL1βに応じた、高レベルのAng1を発現する幹細胞からのPGE2の分泌増加は、高レベルのAng1を発現する幹細胞が、炎症性疾患を患う対象において、抗炎症性細胞の産生を増加させ得ることを示唆している。特に、高レベルのAng1を発現する幹細胞は、
・M1型マクロファージのM2型マクロファージへの分極を促進することによって、M2型マクロファージ産生を増加させ得;及び/または
・Th17細胞の分化を促進することによって、Th2及びTregの産生を増加させ得る。
【0338】
実施例7:コラーゲン誘発性関節炎のヒツジモデル
高レベルのAng1を発現する幹細胞を関節リウマチのヒツジモデルに投与した(Thorpeら、Clinical&Exp.Rheumatology,10:143-150(1992)。このモデルは、全身及び関節の両方の関節リウマチの炎症性発現を特徴とする。
【0339】
1億5000万個の凍結保存ヒツジMPCを頸静脈から静脈投与した。
【0340】
IL-17及びIL-10レベルを2週にわたって評価した。炎症誘発性及び抗炎症性サイトカインのレベル変化を(図9)に示す。
【0341】
後期疾患の確立時(42日目)にも、高レベルのAng1を発現する幹細胞を投与した。幹細胞の投与は、関節における炎症性サイトカインのレベル減少をもたらした(図10)。
【0342】
実施例8:糖尿病における幹細胞投与
メトホルミンまたはメトホルミンともう1つの経口治療薬により十分にコントロールされていない2型糖尿病であるヒト被験者に、3つの用量の間葉系前駆細胞(MPC)の単回静脈内注射を注入して、プラセボ対照と比較した。HbA1c、IL-6、TNF-アルファ、空腹時インスリン、アディポネクチン、オステオカルシン及びhsCRPのベースラインの変化を12週にわたって評価した。
【0343】
被験者を3つのコホートに分けた(図11)。
コホート1:MPC1用量(30万細胞/kg)[n=15]またはプラセボ[n=5]
コホート2:MPC1用量(100万細胞/kg)[n=15]またはプラセボ[n=5]
コホート3:MPC1用量(200万細胞/kg)[n=15]またはプラセボ[n=5]
【0344】
MPCで治療した被験者では、わずかな増加があったプラセボ対照被験者と比較して、HbA1cのわずかな減少が観察された(表4)。8週のコホート2対プラセボでは、HbA1cのより大きな減少が観察された(表4)。HbA1cの大きな減少傾向は、ベースラインHbA1c値が8%以上である被験者で観察された(図15)。45名中8名(17.8%)の被験者が12週で目標HbA1c(<7.0%)を達成した(図16)。
プラセボ対照被験者と比較して、MPC治療被験者において、空腹時インスリン及びアディポネクチンレベルの改善傾向(図12)が観察された。プラセボ対照被験者と比較して、MPC治療被験者にてTNF-アルファ及びIL-6レベルの減少があり、最も顕著な減少はコホート3で観察された(図13)。コホート3において、TNF-アルファ(図13)及びIL-6(図14)のベースラインからの変化は、それぞれ-0.26pg/ml及び-0.47pg/mlであった(図13)。
【0345】
【表4】
【0346】
実施例9:関節リウマチにおける幹細胞投与
不十分な抗TNFαレスポンダーに分類される関節リウマチを患うヒト被験者または最大2つの別の生物学的製剤が奏功しなかったヒト被験者に、2つの用量の間葉系前駆細胞(MPC)の単回静脈内注射を注入して、プラセボ対照と比較した。
【0347】
試験に含めた48名の被験者は、+RF/抗CCP;>4腫脹/圧痛関節;ESR/CRP>ULNであった。
【0348】
被験者を2つのコホートに分けた。
コホート1:MPC用量(100万細胞/kg)[n=16]またはプラセボ[n=8]
コホート2:MPC用量(200万細胞/kg)[n=16]またはプラセボ[n=8]
【0349】
注入後3ヶ月の評価エンドポイントには、以下を含めた。
・TNFα;IL-6(図17)、IL-17;RANKL;MMP-1、3、9;TIMP-1、2、4及びオステオカルシンの各レベル。0、1、2、4、6、8及び10週にもレベルを評価した。
・ACR20(図18)/50(図19)/70(図20);
・ACR個アセット(図21図22);
・寛解(疾患活動性スコア(DAS28(CRP))<2.6)(図23);
・疾患活動性スコア(DAS28);ESR/CRP;HAQ-DI(図24);SF-36(寛解DAS28(CRP)<2.6);応答DAS28(CRP)<3.2(図23)のベースラインからの変化;
・6ヶ月及び12ヶ月時の手/手首のX線
【0350】
コホート1と関係した治療に関連する重篤な有害事象(SAE)はなかった。早期かつ持続した有効性が3ヶ月にわたって認められた。
【0351】
1~12週にわたって、プラセボと比較してコホート1にて、IL-6レベルがベースラインから減少した(図17)。
【0352】
データにより、他の生物学的製剤よりも高いと思われる約20%の潜在的寛解率の示唆が裏付けられている(図23)。
【0353】
コホート1に関する12週での主要エンドポイントでは、プラセボに勝る応答改善の一貫した傾向が明らかである。
【0354】
追跡中間分析は、経時的なレスポンダー効果の持続性を示している。
【0355】
コホート2は、より多い単回用量での試験が進行中である。
【0356】
実施例10:糖尿病性腎症における幹細胞投与
2型糖尿病及び中程度~重度慢性腎臓疾患であり、糖尿病性腎症向けのACEiまたはARB療法の安定レジメン中であるヒト被験者に、2つの用量の間葉系前駆細胞(MPC)の単回静脈内注射を注入して、プラセボ対照と比較した。
【0357】
被験者を2つのコホートに分けた。
コホート1:MPC1用量(1億5000万細胞/kg)[n=10]またはプラセボ[n=5]
コホート2:MPC1用量(3億細胞/kg)[n=10]またはプラセボ[n=5]
【0358】
注入後3ヶ月及び6ヶ月の評価エンドポイント:
・測定GFR(mGFR[99Tc DTPA])(図25)、推算GFR(eGFR[MDRD])(図25)、IL-6(図26);及び血清クレアチニンの各レベル;
・IL-6と血清クレアチニンレベルとの間の相関関係(図27
【0359】
最初の24週間の調査期間中に、プラセボに対し、MPC治療被験者にて、測定GFRと推算GFRの両方による腎機能の予防または改善の傾向が観察された。
・治療効果は、両方のMPC用量で類似した。
・ベースラインeGFR>30ml/分/1.73mの被験者において、MPCでの治療効果がより顕著であった(図28)。
・ベースラインIL-6レベルが中央値を超える被験者でのより顕著なMPCでの治療効果;
・ベースラインIL-6レベルと血清クレアチニンのMPC関連改善との間の優位な相関関係(図27);
・MPC群対プラセボでは、12週時の血清IL-6レベルに用量依存変化があった(図26)。
【0360】
多数の変形及び/または修正を、広く記載された本開示の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示すように、本開示になされ得ることが当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、すべての点において例示としてみなされるべきであり、限定的とみなされるべきではない。
【0361】
本出願は、2014年6月10日出願のAU2014902194及び2014年6月13日出願のAU2014902257の優先権を主張するものであり、これらの開示を参照により本明細書に援用する。
【0362】
本明細書で考察及び/または参照したすべての刊行物は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0363】
本明細書に含まれている、文書、行為、材料、装置、物品などの考察は、いずれも本発明についての状況を提供することを目的とするのみである。これらの事柄のいずれかまたは全部が、本出願の各特許請求の範囲の優先日前に存在していたので、本発明の関連分野において、先行技術基盤の一部を形成する、またはありふれた一般的な知識であるということの承認として理解すべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11
図12
図13
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図15-1】
図15-2】
図16
図17-1】
図17-2】
図18
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