(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】自動車の冷却回路に冷媒を充填するための方法
(51)【国際特許分類】
F25B 45/00 20060101AFI20220118BHJP
F28F 19/00 20060101ALI20220118BHJP
F28G 9/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
F25B45/00 C
F28F19/00 511A
F28G9/00 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021022317
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】10 2020 201 925.8
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ペーター エングラート
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ヒンデラー
(72)【発明者】
【氏名】ラース カミンスキ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー マンバー
(72)【発明者】
【氏名】ニック ザウター
【審査官】西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102017206940(DE,A1)
【文献】特開2018-185133(JP,A)
【文献】特表2010-535324(JP,A)
【文献】特開平8-105674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 45/00
F28F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車(3)の冷却回路(2)に冷媒(4)を充填するための方法であって、
水充填工程(23)において、前記冷却回路(2)にイオン不含の水(13)を充填するステップと、
水作用工程(24)において、前記水(13)を、水作用期間の間、前記冷却回路(2)内に放置するステップと、
不動態化工程(25)において、前記冷却回路(2)に不動態化剤(16)を充填して、該不動態化剤(16)によって、前記冷却回路(2)から前記水(13)を押し退けるステップと、
フラッシング工程(26)において、前記冷却回路(2)をイオン不含の水(13)でフラッシングして、該水(13)によって前記冷却回路(2)内の前記不動態化剤(16)を少なくとも希釈し、かつ前記冷却回路(2)内に、水(13)および/または不動態化剤(16)から成る液体を残すステップと、
冷媒充填工程(28)において、前記冷却回路(2)に前記冷媒(4)を充填して、該冷媒(4)によって、水(13)および/または不動態化剤(16)から成る前記液体を前記冷却回路(2)から押し退けるステップと、
密封工程(30)において、前記冷媒(4)が充填された前記冷却回路(2)を外部に対して流体密に密封するステップと
を有する方法。
【請求項2】
前記水充填工程(23)および/または前記フラッシング工程(26)において、前記冷却回路(2)内に、少なくとも80℃、特に少なくとも90℃の温度を有するイオン不含の水(13)を供給することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記水充填工程(23)および/または前記フラッシング工程(26)において、前記冷却回路(2)内に、蒸留された水(14)を供給することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記水充填工程(23)および/または前記フラッシング工程(26)において、5μS/cm未満の導電率を有するイオン不含の水(13)を使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記工程(23,25,26,28)のうちの少なくとも1つの工程において、前記循環路(2)内に供給される流体を、前記循環路(2)の下流側に負圧を発生させることによって前記循環路(2)内に吸い込むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記水作用工程(24)において、前記水(13)を、30秒~15分、特に1分~10分の水作用期間の間、前記冷却回路(2)内に放置することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記不動態化工程(25)よりは後で前記冷媒充填工程(28)よりは前に、不動態化作用工程(27)において、不動態化剤(16)および/または水(13)から成る前記液体を、不動態化作用期間の間、前記冷却回路(2)内に放置することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記不動態化工程(25)において、少なくとも80℃、特に少なくとも90℃の温度を有する不動態化剤(16)を使用することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記冷媒充填工程(28)において、80℃を下回る温度、特に常温を有する冷媒(4)を前記冷却回路(2)内に供給することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記冷媒充填工程(28)において、冷媒(4)を前記冷却回路(2)内に供給し、該冷却回路(2)から流出させ、その後、流出させられた前記冷媒(4)が、予め設定された限界値を下回る導電率を有していることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記水充填工程(23)の前に前記冷却回路(2)内に真空を発生させ、前記水充填工程(23)において、真空化された前記冷却回路(2)内に前記水を充填することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
自動車(3)の冷却回路(2)に冷媒(4)を充填するためのシステム(1)であって、
前記冷却回路(2)内に流体を流入させるための流入接続手段(5)であって、前記冷却回路(2)への充填時に該冷却回路(2)の入口(6)に解離可能に接続されている、流入接続手段(5)と、
前記冷却回路(2)から流体を流出させるための流出接続手段(7)であって、前記冷却回路(2)への充填時に該冷却回路(2)の出口(8)に解離可能に接続されている流出接続手段(7)と、
前記流出接続手段(7)の下流側に配置されたサクションポンプ(9)であって、作動中に流体を前記流入接続手段(5)および前記流出接続手段(7)ひいては前記冷却回路(2)を通じて吸引するサクションポンプ(9)と、
前記流入接続手段(5)の上流側に配置され、イオン不含の水(13)を蓄えるための水容器(12)と、
前記流入接続手段(5)の上流側に配置され、不動態化剤(16)を蓄えるための不動態化剤容器(15)と、
前記流入接続手段(5)の上流側に配置され、冷媒(4)を蓄えるための冷媒容器(11)と、
前記流入接続手段(5)と前記容器(11,12,15)との間に配置され、それぞれの該容器(11,12,15)を個別に前記流入接続手段(5)に流通可能に接続しかつ該流入接続手段(5)から切り離すように構成された弁装置(17)と、
前記弁装置(17)と前記サクションポンプ(9)とに通信接続されていて、前記システム(1)に接続された冷却回路(2)を、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法により充填するように構成された制御装置(22)と
を備えるシステム(1)。
【請求項13】
前記流入接続手段(5)と、前記容器(11,12,15)のうちの少なくとも1つの容器との間に加熱装置(18)が配置されており、該加熱装置(18)は、該加熱装置(18)の作動中、該加熱装置(18)を通って流れる前記流体を加熱することを特徴とする、請求項12記載のシステム。
【請求項14】
システム(1)は、前記流入接続手段(5)の上流側に、水(13)と不動態化剤(16)とを供給するための第1の供給路(19)と、冷媒(4)を供給するための第2の供給路(20)とを有し、
前記第1の供給路(19)は、前記加熱装置(18)を通って延在しており、前記第2の供給路(20)は、前記加熱装置(18)の外側で延在していることを特徴とする、請求項13記載のシステム。
【請求項15】
前記システム(1)は、前記流出接続手段(7)の下流側に、前記冷却回路(2)から流出した前記流体を中和するように構成された中和装置(32)を有することを特徴とする、請求項12から14までのいずれか1項記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の冷却回路に冷媒を充填するための方法に関する。さらに、本発明は、自動車の冷却回路に冷媒を充填するためのシステムに関する。
【0002】
自動車には、この自動車の構成要素を温度調整する、特に冷却するために、冷媒が通流する冷却回路が使用される。少なくとも一部電気運転される自動車には、例えば、熱伝達接続によって自動車の電気的なエネルギ蓄え器および/または自動車の電気的な駆動装置を温度調整する、つまり、特に冷却しかつ/または加熱するために、冷却回路を用いることができる。冷却回路自体および特に冷媒は、構成要素の運転ひいては車両全体の運転を保証する、特に危険にさらさないために、ある程度の周辺条件を満たさなければならない。電気的な構成要素を冷却回路によって温度調整する少なくとも一部電気運転される自動車では、例えば、冷媒が、予め設定された導電率を上回らないことが重要となる。このことは、例えば、冷却回路によって自動車の電気的なエネルギ蓄え器、例えばバッテリを温度調整する事例に当てはまる。特に燃料電池を有する自動車では、冷媒の導電率が特に重要となる。なぜならば、燃料電池では、冷却回路および特に冷媒を、通電される構成部材、例えば電極および/またはバイポーラプレートに接触させることができ、これによって、これらを温度調整するからである。
【0003】
冷媒自体が、冷却回路への充填時に、懸念のない範囲内にある導電率、つまり、予め設定された値を上回っていない導電率を有している場合でも、冷却回路の作動中には、冷媒と冷却回路の構成部材との相互作用によって冷媒の導電率が上昇してしまう。その原因として、例えば、冷却回路の冷媒を案内する構成部材、例えば管状体、ポンプ、弁およびこれに類するものからの金属製の部分の剥離が挙げられる。その上、冷却回路の前述した構成部材は、塩含有のかつ/またはイオン含有の成分を冷媒内に放出し、この成分も同じく冷却回路の導電率を上昇させてしまう。作動中に冷媒の導電率が上昇することによって、冷却回路内に望ましくない電気量が生じてしまい、この電気量が冷却回路全体に分配されてしまう。このことは、特に短絡および電気的なフラッシオーバに繋がってしまう。自動車の電気的な構成要素に高い電流および/または電圧が与えられると、さらに、電気分解によって酸水素ガスが発生してしまう。この酸水素ガスは相応の危険をはらんでいる。
【0004】
冷却回路の作動中の冷却回路内の冷媒の導電率の上昇を抑えるために、独国特許出願公開第102017206940号明細書に基づき、冷却回路の製作前に、軽金属ベースで製造された、冷却回路の冷媒を案内する個々の構成部材の、作動中に冷媒に接触する表面を不動態化することが公知である。
【0005】
本発明が取り組む課題は、自動車の冷却回路に冷媒を充填するための方法ならびにこのような冷却回路に冷媒を充填するためのシステムのために、特に冷却回路への冷媒の簡単な充填および/または運転安全性の向上の点で優れた改善された実施形態または少なくとも別の実施形態を提供することである。
【0006】
この課題は、本発明によれば、独立請求項の対象によって解決される。有利な実施形態は従属請求項の対象である。
【0007】
本発明は、自動車の冷却回路への充填のために、冷媒の充填前に冷却回路全体を、冷却回路の作動中の冷媒の導電率の上昇を阻止するかまたは少なくとも抑える処理に供するという一般的な思想に基づいている。つまり、冷却回路の個々の構成部材が別個に処理されるのではなく、まず、冷却回路が組み立てられ、次いで、全体的に処理される。その結果、処理によって、冷却回路の全ての構成部材が、作動中の冷媒の導電率の上昇に対して全く影響を与えないかまたは少なくとも抑制された影響しか与えない。したがって、さらに、処理直後に冷媒を冷却回路内に供給することが可能となり、これによって、冷却回路の、作動中に冷媒に接触する構成部材と、周辺、例えば空気との相互作用によって、処理の作用の低下が阻止されるかまたは少なくとも抑えられる。これによって、冷却回路の処理と冷却回路への充填とが簡単になると共に効率よくなる。さらに、こうして、作動中の冷媒の導電率の上昇を阻止するかまたは少なくとも抑えることによって、冷却回路と、対応する自動車との運転安全性が向上させられる。
【0008】
本発明の思想に相応して、相応の方法では、まず、以下で水充填工程とも呼ぶ工程において、冷却回路にイオン不含の水が充填される。冷却回路へのイオン不含の水の充填後、このイオン不含の水が、以下で水作用期間とも呼ぶ作用期間の間、作用のために冷却回路内に放置される。この工程は以下で水作用工程とも呼ぶ。後続の不動態化工程では、冷却回路に不動態化剤が充填されて、この冷却回路へ不動態化剤の充填時に同時に、水が冷却回路から押し退けられるようになっている。後続のフラッシング工程では、冷却回路がイオン不含の水でフラッシングされて、このイオン不含の水が不動態化剤を少なくとも部分的にやはり冷却回路から押し退けるようになっている。つまり、フラッシング工程では、不動態化剤を全てイオン不含の水によって冷却回路から押し退けることができるかまたは不動態化剤をイオン不含の水によって少なくとも希釈することができる。つまり、フラッシング工程後、冷却回路内には、水および/または不動態化剤から成る液体が残されている。後続の冷媒充填工程では、冷却回路に冷媒が充填されて、この冷媒が、水および/または不動態化剤から成る液体を冷却回路から押し退けるようになっている。引き続き、冷却回路に冷媒が充填されているように、冷却回路が密封される。
【0009】
水充填工程および水作用工程では、冷却回路の内面が洗浄され、かつ/または成分、汚染物およびこれに類するものが除去される。後続の不動態化工程では、冷却回路の内面が不動態化される。つまり、特に冷却回路の内面に保護層が設けられる。後続のフラッシング工程によって、不動態化剤のイオン負荷分(Ionenfracht)が冷却回路から押し退けられるかまたは少なくとも減少させられる。つまり、後続の冷媒充填工程において、以下で当初導電率とも呼ぶ冷却回路の初期の導電率が上昇させられないかまたは少なくとも著しく抑えられた範囲内で上昇させられる。後続の冷却回路の密封は、冷却回路内への、冷媒の当初導電率の相応の上昇を招いてしまう流体、特にガスの侵入を阻止する。
【0010】
本明細書において、充填とは、好ましくは、冷却回路への完全な充填、つまり、冷却回路の作動中に冷媒に接触し得る全ての構成要素を含めた充填を意味している。つまり、各充填時には、管状体、ホースおよびこれに類するもののほかに、ポンプ、弁およびこれに類するものへの充填も行われる。相応のことが、有利には、冷却回路全体がイオン不含の水によってフラッシングされるフラッシング工程にも当てはまる。
【0011】
冷媒は、自動車の冷却回路での使用に適している限り、原則的に任意の冷媒であってよい。特に冷媒は水ベースのものである。
【0012】
フラッシング工程は、好適には、不動態化剤が単に希釈されるように行われる。つまり、液体が水と不動態化剤とを含んでいる。したがって、冷却回路を簡単にかつ効率よく不動態化することができる。
【0013】
不動態化剤は、冷却回路の少なくとも幾つかの構成要素を不動態化することができる限り、原則的に任意のものであってよい。
【0014】
不動態化剤は、特にジカルボン酸、有利にはアミン系の湿潤剤および/またはジルコン含有の溶液を含むジカルボン酸である。このジカルボン酸は、例えば酒石酸である。不動態化剤中のジカルボン酸の濃度は、有利には1%~10%である。ジルコン溶液は、有利には0.1%~5%の濃度を有しており、例えばトリエタノールアミンとして存在してよいアミン系の湿潤剤は、不動態化剤中に0.3%~5%の濃度を有している。したがって、冷却回路全体の内面を簡単にかつ効率よく不動態化することができる。
【0015】
イオン不含の水が、対応する複数の工程のうちの少なくとも1つの工程、つまり、水充填工程および/またはフラッシング工程において、高められた温度で冷却回路内に供給される実施形態が好適である。これによって、イオン不含の水による冷却回路の処理の効率が改善されていると共に向上させられている。この目的のために、有利には、イオン不含の水が少なくとも80℃、有利には少なくとも90℃の温度を有している。
【0016】
イオン不含の水は、有利には蒸留された水および/または5マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm)未満の導電率を有する水である。したがって、冷却回路を冷媒の充填前に効率よく確実に洗浄することが達成される。
【0017】
当然ながら、イオン不含の水として冷却回路内に供給された水は、冷却回路からの流出時にイオンを含んでいてよい。
【0018】
好適には、冷媒は、5μS/cm未満である当初導電率を有している。
【0019】
好適には、複数の工程のうちの少なくとも1つの工程、有利には各工程において、冷却回路内への供給すべき流体の吸込みによって、対応する流体の供給と、別の流体の押退けとが行われる。つまり、これは、不動態化工程の場合、例えば、不動態化剤が冷却回路内に吸い込まれると同時に、水充填工程の水が冷却回路から吸い出されることを意味している。これによって、特に各工程の際に外来の流体、例えばガス、特に空気が冷却回路内に侵入してしまい、特に沈殿物ならびに構成要素および/または冷却回路内に既存の流体との化学的な反応物により、引き続き冷却回路内に供給される冷媒の導電率を上昇させ得ないか、または相応の危険が少なくとも低減される。
【0020】
特に好適には、各流体を冷却回路内に吸い込むために、この冷却回路の下流側で負圧が発生させられ、冷却回路内に供給すべき流体が上流側で冷却回路内に流入させられる。つまり、充填は、好ましくはフラッシングも、存在する流体の吸出しと同時に、新たな流体、つまり、不動態化剤もしくはイオン不含の水もしくは冷媒の吸込みとによって行われる。結果として、冷却回路内への望ましくない流体および/またはパーティクルの侵入が阻止されるかまたは少なくとも低減される。
【0021】
水作用工程中の水作用期間は、原則的に任意の長さであってよい。この場合、30秒~15分、特に1分~10分の水作用期間が有利であると共に効率よいと判っている。
【0022】
不動態化工程よりは後で冷媒充填工程よりは前に、不動態化作用工程において、不動態化剤および/または水から成る液体が、不動態化作用期間の間、冷却回路内に放置される実施形態が有利である。この場合、液体は、好適には不動態化剤を含んでいる。これによって、冷却回路が効率よく不動態化され、不動態化剤の消費量が削減される。
【0023】
不動態化作用期間は任意であってよい。この不動態化作用期間が30秒~15分、特に1分~10分である実施形態が有利であると判っている。
【0024】
不動態化工程において、不動態化剤が、高められた温度で冷却回路内に供給される実施形態が有利である。つまり、不動態化工程では、高められた温度の不動態化剤が冷却回路に充填される。これによって、不動態化の効率が向上させられ、かつ/または不動態化剤の消費量が削減される。
【0025】
少なくとも80℃、好ましくは少なくとも90℃の温度の不動態化剤が冷却回路に充填される実施形態が有利であると判っている。
【0026】
有利には、不動態化剤および/またはイオン不含の水の高められた温度よりも低い温度を有する冷媒が冷却回路内に供給される。これによって、充填時に冷却回路が冷媒によって冷却される。この場合、冷媒充填工程において、80℃を下回る温度、特に常温を有する冷媒が冷却回路内に供給されると好適である。
【0027】
原則的には、冷媒充填工程において冷媒を冷却回路内に供給することができ、その後初めて冷却回路に冷媒が充填されている。
【0028】
冷媒充填工程では、冷媒が冷却回路内に供給されると同時に、冷媒が冷却回路から流出させられる、つまり、冷却回路が少なくとも部分的に冷媒によってフラッシングされると好適である。有利には、冷却回路から流出させられた冷媒の導電率が監視され、この流出させられた冷媒の導電率が、予め設定された値、例えば5μS/cmを下回るまで、冷媒が冷却回路内に供給される。したがって、要するに、冷媒が同じく冷却回路の十分なフラッシングのために使用され、かつ/または冷却回路内に、予め設定された導電率を有する冷媒が少なくとも主に存在することが確保される。こうして、特に冷却回路の作動中の冷媒の当初導電率の続く上昇が阻止されるかまたは少なくとも抑えられる。
【0029】
水充填工程の前に冷却回路内に真空が発生させられる実施形態が有利である。したがって、真空の発生によって、ガスおよび/またはパーティクルに対する冷却回路の最初の清浄化が行われる。したがって、さらに、続く水充填工程における効率の向上および/またはイオン不含の水の消費量の削減が行われる。これに相応して、水充填工程において、イオン不含の水が、真空化された冷却回路に充填されると好適である。
【0030】
冷却回路内へのイオン不含の水および/または不動態化剤および/または冷媒の供給は、好適には、前述した流体を冷却回路内に吸い込むサクションポンプ、特に好適には真空ポンプによって行われる。さらに、それぞれ対応する工程での冷却回路からの水および/または不動態化剤および/または液体および/または冷媒の流出も同じくサクションポンプ、特に真空ポンプによって行われると有利である。これによって、本発明に係る方法が簡単かつ廉価に実施され、別の望ましくない流体が冷却回路内に達してしまう危険が低減される。
【0031】
当然ながら、本発明に係る方法のほかに、この方法を実現することができるシステムも本発明の範囲に属する。
【0032】
システムは、有利には、サクションポンプのほかに、流入接続手段と流出接続手段とを有している。両接続手段は、冷却回路への充填のために、それぞれ冷却回路に解離可能に流体接続することができる。流入接続手段は、冷却回路の上流側の入口に接続され、流出接続手段は、冷却回路の下流側の出口に接続される。
【0033】
好適には、システムは、各工程において必要となる流体のために、対応する容器を有している。システムは、特に、イオン不含の水を蓄えるための、以下で水容器とも呼ぶ容器と、冷媒を蓄えるための、水容器と別個の冷媒容器と、不動態化剤を蓄えるための、冷媒容器および水容器と別個の不動態化剤容器とを有している。システムは、さらに、流入接続手段と容器との間に弁装置を有している。この弁装置は、各容器を個別にかつ選択的に流入接続手段ひいては冷却回路の入口に接続することができるように構成されている。システムは、さらに、制御装置を含んでいる。この制御装置は、弁装置とサクションポンプとに通信接続されていて、方法を実施するように構成されている。
【0034】
システムは、有利には、加熱装置を有している。この加熱装置によって、イオン不含の水および/または不動態化剤を冷却回路内への流入前に加熱することができる。これに相応して、加熱装置は、好適には、流入接続手段と水容器または不動態化剤容器との間に配置されている。
【0035】
さらに、冷媒が加熱装置から離れて案内されると好適である。したがって、特に加熱装置を通流する際にこの加熱装置が冷媒の導電率を上昇させてしまうことが阻止される。
【0036】
この目的のために、システムは、有利には、流入接続手段の上流側に第1の供給路と第2の供給路とを有している。第1の供給路は、水および不動態化剤を流入接続手段ひいては冷却回路に供給するために用いられ、第2の供給路は、冷媒を流入接続手段ひいては冷却回路に供給するために用いられる。第1の供給路は加熱装置を通って延在しているのに対して、第2の供給路は加熱装置の外側、特に加熱装置から離れて延在している。
【0037】
システムが、冷却回路から流出した流体、特に水および/または不動態化剤および/または液体および/または冷媒を中和するための中和装置を有している実施形態が有利であると認められている。この中和装置は、目的に合わせて流出接続手段の下流側に配置されている。好適には、中和装置は、さらに、サクションポンプの下流側に配置されている。中和装置は、冷却回路から流出した流体を中和するように構成されている。つまり、中和装置は、特に流体からイオンを除去するように構成されている。
【0038】
この目的のために、中和装置は、冷却回路から到来した流体が通流する、カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムおよび/または水酸化マグネシウムから成る鉱物性のばら物を有することができる。したがって、特に冷却回路への充填時に環境バランスが改善される。
【0039】
方法およびシステムは、それぞれ任意の自動車の冷却回路に充填するために使用することができる。この場合、少なくとも一部電気駆動される自動車を想定することができる。この自動車では、冷却回路が、蓄電しかつ/または通電しかつ/または発電する構成部材を温度調整し、特に冷却する。冷却回路は、例えば複数の構成部材のうちの少なくとも1つの構成部材、例えば電気的なエネルギ蓄え器、特にバッテリ、および/または燃料電池もしくは燃料電池スタックを通して案内することができる。
【0040】
本発明の重要な更なる特徴および利点は、従属請求項、図面および図面に基づく対応する図説から明らかである。
【0041】
当然ながら、前述した特徴および以下でさらに説明する特徴は、それぞれ記載した組合せだけでなく、本発明の範疇を逸脱することなしに、別の組合せでも単独でも使用可能である。
【0042】
本発明の好適な実施例を図面に示し、以下の説明において詳しく説明する。なお、同一の参照符号は、同一または類似の構成要素もしくは機能的に同一の構成要素に該当する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】冷却回路に冷媒を充填するためのシステムを著しく簡略化した回路図である。
【
図2】冷却回路に冷媒を充填するための方法を説明するためのフローチャートである。
【0044】
例えば
図1に示したようなシステム1では、余計なものの図示を省いた自動車3の冷却回路2に冷媒4が充填される。この目的のために、システム1は、冷却回路2内に流体を流入させるための流入接続手段5を有している。この流入接続手段5は、冷却回路2の入口6に解離可能に接続されている。システム1は、さらに、冷却回路2から流体を流出させる流出接続手段7を有している。この流出接続手段7は、冷却回路2の出口8に解離可能に接続されている。システム1は、さらに、サクションポンプ9、特に真空サクションポンプ10を有している。このサクションポンプ9は、冷却回路2に接続された状態において、作動中に流体を流入接続手段5から流出接続手段7の方向へ吸引し、ひいては、冷却回路2を通して吸引する。サクションポンプ9は流出接続手段7の下流側に配置されている。システム1は、流入接続手段5の上流側に、特に水をベースとする冷媒4を蓄えるための冷媒容器11を有している。システム1は、さらに、流入接続手段5の上流側に、好ましくは5μS/cm未満の導電率を有するイオン不含の水13、特に蒸留された水14を蓄えるための水容器12を有している。冷媒容器11内に蓄えられた冷媒4は、以下で当初導電率とも呼ぶ導電率を有している。冷媒4の当初導電率は、好ましくは5μS/cm未満である。システム1は、さらに、流入接続手段5の上流側に、ジカルボン酸および/またはアミン系の湿潤剤および/またはジルコン含有の溶液を含んでいてよい不動態化剤16を蓄えるための、水容器12とは別個の不動態化剤容器15を有している。不動態化剤16は、例えば、1%~10%の濃度のジカルボン酸、特に酒石酸と、0.1%~5%の濃度のジルコン溶液と、0.3%~5%の濃度のアミン系の湿潤剤、特にトリエタノールアミンとを含んでいてよい。システム1は、さらに、弁装置17を有している。この弁装置17は、流入接続手段5と容器11,12,15との間に配置されていて、各容器11,12,15を個別に流入接続手段5ひいては冷却回路3に接続することができるように形成されており、これによって、各容器11,12,15から、イオン不含の水13、不動態化剤16および冷媒4を個別に冷却回路3内に吸い込むことができる。図示の実施例では、システム1が、さらに、加熱装置18を有している。この加熱装置18によって、水容器12から流入接続手段5の方向に流れるイオン不含の水13と、不動態化剤容器15から流入接続手段5の方向に流れる不動態化剤16とを加熱することができる。システム1は、第1の供給路19を有しており、この第1の供給路19は、加熱装置18を通って延在していて、水容器12および不動態化剤容器15を弁装置17を介して流入接続手段5に接続している。システム1は、さらに、第2の供給路20を有しており、この第2の供給路20は、加熱装置18の外側で延在していて、冷媒容器11を弁装置17を介して流入接続手段5に接続している。システム1は、さらに、冷却回路2から流出する流体の導電率を求めることができる測定装置21を有している。この測定装置21は、図示の例では、サクションポンプ9と流出接続手段7との間に配置されている。システム1は、さらに、制御装置22を有している。この制御装置22は、破線で示したように、弁装置17と、サクションポンプ9と、測定装置21と、加熱装置18とに通信接続されていて、冷却回路2に冷媒4を充填するためのシステム1を作動させるように構成されている。
【0045】
冷却回路2には、
図2に示したフローチャートにしたがって冷媒4を充填することができる。水充填工程23では、イオン不含の水13が、水容器12から循環路2内に吸い込まれ、これによって、この循環路2に水13が完全に充填されている。イオン不含の水13は、好ましくは、冷却回路2内への供給時に、特に加熱装置18によって少なくとも80℃、好ましくは少なくとも90℃の温度を有している。後続の水作用工程24では、冷却回路2に充填された水13が、予め設定された作用期間の間、例えば1分~10分の間、冷却回路2内に放置される。つまり、水作用工程24の間、水13は冷却回路2の内部と相互作用して、冷却回路2の内部から汚れ、汚染物およびこれに類するものを取り除く。同時に、冷却回路2の内部から、イオンおよび/または塩が水内に取り込まれる。後続の不動態化工程25では、現状イオンを含有してしまっている水13が冷却回路2から取り出され、さらに、不動態化剤16が冷却回路2内に吸い込まれ、これによって、不動態化剤16が、水13を冷却回路2から押し退け、この冷却回路2に不動態化剤16が完全に充填される。好適には、不動態化剤16は、冷却回路2内への供給時に、特に加熱装置18によって少なくとも80℃、好ましくは少なくとも90℃の高められた温度を有している。後続のフラッシング工程26では、イオン不含の水13が、好ましくは少なくとも80℃、好適には少なくとも90℃の温度で冷却回路2内に供給されて、この冷却回路2内に存在する不動態化剤16が、好ましくは希釈されるようになっている。これに相応して、フラッシング工程26では、同時に、不動態化剤16が冷却回路2から吸い出される。この場合、流入したイオン不含の水13が、すでに冷却回路2内に存在する不動態化剤16を部分的に押し退ける。つまり、フラッシング工程26後には、冷却回路2内に、好適には不動態化剤16と水13とから成る液体が充填されている。好適には、フラッシング工程26後、不動態化作用工程27において、冷却回路2内にある液体が、不動態化作用期間の間、冷却回路2内に放置される。この場合、不動態化作用期間は、1分~10分であってよい。後続の冷媒充填工程28では、冷媒4が、好ましくは周辺温度あるいは常温で循環路2内に吸い込まれると同時に、冷却回路2内に吸い込まれた冷媒4が、冷却回路2内にある液体を押し退けるようにして、循環路2内にある液体が吸い出される。
【0046】
冷媒充填工程28は、好適には、監視工程29により監視される。この監視工程29では、冷却回路2から流出する冷媒4の導電率が監視される。つまり、監視工程29では、冷却回路2への冷媒4の完全な充填後、引き続き、冷媒4が冷却回路2内に吸い込まれ、この冷却回路2から吸い出された冷媒4の導電率が、測定装置21によって監視される。冷却回路2から吸い出された冷媒4が、例えば5μS/cmの予め設定された限界を上回る導電率を有していると、引き続き、冷媒4が冷却回路2内に吸い込まれる。これに対して、冷却回路2から吸い出された冷媒4の測定された導電率が、予め設定された導電率を下回っていて、特に5μS/cm未満であると、冷却回路2が密封工程30において流体密に密封され、これによって、冷却回路2は冷媒4で充填されており、流体交換はもはや行われなくなり、特に冷却回路2の入口6と出口8とが流体密に閉鎖される。
【0047】
図2から認めることができるように、水充填工程23前に真空化工程31において、冷却回路2内に負圧、特に真空を発生させることができる。このためには、サクションポンプ9が再び使用される。つまり、水充填工程23において冷却回路2内にイオン不含の水13を供給する前に、流体、特に空気が冷却回路2から吸い出される。好適には、水充填工程23において、イオン不含の水13が、負圧、特に真空を有する冷却回路2内に吸い込まれる。
【0048】
図1から認めることができるように、システム1は、さらに、中和装置32を有することができる。この中和装置32によって、冷却回路2から吸い出された流体、つまり、水および/または不動態化剤および/または液体および/または冷媒が中和される。中和時には、特に流体のイオン濃度が少なくとも減少させられる。
図1に示した実施例では、中和装置32がサクションポンプ9の下流側に配置されている。中和装置32は、特にカルシウムおよび/または炭酸マグネシウムおよび/または水酸化マグネシウムを含むばら物33を有していてよい。