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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】水性美爪料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/86 20060101AFI20220118BHJP
   A61Q 3/02 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
A61K8/86
A61Q3/02
A61K8/81
A61K8/34
A61K8/37
A61K8/39
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018006042
(22)【出願日】2018-01-18
(65)【公開番号】P2019081745
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2017211376
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】麻生 知裕
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 清子
(72)【発明者】
【氏名】福尾 英敏
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-190995(JP,A)
【文献】特開2016-141639(JP,A)
【文献】特開2002-363031(JP,A)
【文献】特開昭57-056410(JP,A)
【文献】国際公開第2005/032500(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0010617(US,A1)
【文献】特開2014-224082(JP,A)
【文献】特開平09-071512(JP,A)
【文献】特開平06-211631(JP,A)
【文献】特開2002-114641(JP,A)
【文献】特開平04-103516(JP,A)
【文献】特開2014-118395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記a~cを含有する水性美爪料組成物。
a.80nm以下の粒子径においてピークを有する粒子径分布を示し、かつガラス転移温度が20~45℃であるアクリル樹脂系エマルジョン、
b.水性美爪料組成物中0.60~4.50重量%の、1,2-オクタンジオール、
c.水性美爪料組成物中0.03重量%以上0.80重量%以下の、脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤。
【請求項2】
c.脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤がソルビタン脂肪酸エステル及び/又はPOEソルビタン脂肪酸エステルである請求項1に記載の水性美爪料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性美爪料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
手や足の自爪に装飾を施したり、人工爪を接着してこれに装飾を施すというネイルアートの人気が高まっている。また、装飾や、外力による爪の割れ・剥がれを防止するための補強の目的で、いわゆるマニキュア、ペディキュア、スカルプチュアと呼ばれる樹脂含有の材料を爪に塗布することもなされている。
【0003】
装飾又は補強のために使用される爪装飾材料としては、ニトロセルロース系のラッカーを有機溶剤に溶解し、これに各種色調の顔料を加えたものがある。これらは、爪や人工爪に塗布した後、有機溶剤を揮発させて、光沢に優れた被膜を形成するものである。そして、この被膜はアセトン等の有機溶剤を用いて容易に拭き取ることができる。
しかし、この種の爪装飾材料は、有機溶剤を含むため、使用時に揮発する有機溶剤を、使用者が直接吸引する恐れがある。また、形成される被膜は強靭な被膜とはなり得ず、擦れ、衝撃等の刺激により容易に剥離してしまう恐れがある。
【0004】
またアクリル樹脂系エマルジョンを含有する水性の美爪料組成物であって、保存時の経時安定性に優れるものや酸化チタンの経時沈降安定性に優れるものは、例えば特許文献1及び2に記載されているように公知である。
さらに、エマルジョンポリマーと薄片状シリカゾルを含有し、成膜性、耐久性及び耐水性に優れるとされる美爪料組成物も特許文献3に記載されているように公知である。
さらに特許文献4には、水性の美爪料組成物に1,2-オクタンジオール等の1,2-アルカンジオールが、顔料の分散性及び塗膜の光沢を向上させる目的で添加されることも記載されている。さらに特許文献5には、粒子径分布が80nm以下においてピークを有し、かつガラス転移温度が20~45℃のアクリル樹脂系エマルジョンと、1,2-オクタンジオールを0.15~4.50重量%含有する水性美爪料組成物が記載されているが、界面活性剤を含有せず、さらに脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤も記載されていない。その結果、45℃の温水に浸漬しても剥離しないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-074023号公報
【文献】特開2011-140449号公報
【文献】特開2005-289969号公報
【文献】特開2009-190995号公報
【文献】特開2016-141639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記各特許文献には水性の美爪料組成物が記載されており、塗り感(レベリング性)、成膜性、塗膜耐久性、塗膜強度、付着性及び塗膜の光沢性に優れるものがあるものの、同時に爪を温水に浸漬することにより剥離可能とすることまでを達成できていない。
本発明は、塗布後の塗膜強度、付着性及び塗膜の光沢性が全て優れることに加えて、爪を温水に浸漬することにより剥離を容易とした水性美爪料組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の組成物からなる水性美爪料組成物とすることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には以下の通りである。
1.下記a~cを含有する水性美爪料組成物。
a.80nm以下の粒子径においてピークを有する粒子径分布を示し、かつガラス転移温度が20~45℃であるアクリル樹脂系エマルジョン、
b.1,2-オクタンジオール、
c.水性美爪料組成物中0.03重量%以上の、脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤。
2.c.脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル及び/又はPOEソルビタン脂肪酸エステルである1に記載の水性美爪料組成物。
3.b.1,2-オクタンジオールを、水性美爪料組成物に0.60~4.50重量%含有する1又は2に記載の水性美爪料組成物。
4.水性美爪料用顔料分散液中に、脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を0.1重量%以上、及びd.顔料を含有する水性美爪料用顔料分散液。
5.d.顔料の粒子径のD50が2.0μm以下である4に記載の水性美爪料用顔料分散液。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗布後の塗膜強度、付着性及び塗膜の光沢性が全て優れることに加えて、爪を温水に浸漬することにより剥離を容易とした水性美爪料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水性美爪料組成物は、いわゆる一般のマニキュアやペディキュアのように爪の表面に被覆を行うための組成物であり、使用者自身の爪の表面を必要に応じてサンディングする等して凹凸がある表面に被覆してもよく、また必要に応じて、着色剤等を添加して下塗りして得た下塗り層の上に被覆しても良く、さらに本発明の水性美爪料組成物から形成してなる層の上に上塗り層を形成してもよい。また本発明の美爪料組成物自体を下塗り用や上塗り用の美爪料組成物とすることもできる。
下塗り層用として使用するときには、一般的には透明又は僅かに黄色、場合により微量の紫や青の色素を配合して、経時劣化による色調の変化を防止することがある。
本発明の水性美爪料組成物に着色剤を含有させて、ソリッドカラーやラメ調、金属光沢調、暗色や明色等多彩に着色されるカラーコートとすることもできる。
本発明の水性美爪料組成物を上塗り層とするときには、ベースコートと同様に、透明又は僅かに黄色、場合により微量の紫や青の色素を配合して、経時劣化による色調の変化を防止してもよい。最上層であるため、爪表面の美観のために艶を発揮させることが必要である。いずれの層用として使用する場合であっても、乾燥後少なくとも3日間、欠けたり、剥がれたりすることなく、また下層や使用者の爪に対して浮きが発生しないことが必要である。
【0010】
以下に本発明の水性美爪料組成物の具体的組成について説明する。
本発明の水性美爪料組成物は、a.80nm以下の粒子径においてピークを有する粒子径分布を示し、かつガラス転移温度が20~45℃であるアクリル樹脂系エマルジョン、b.1,2-オクタンジオール、c.脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を含有することを基本とする。
【0011】
(a.アクリル樹脂系エマルジョン)
本発明にて使用するアクリル樹脂系エマルジョンとしては、1種類のアクリル樹脂系エマルジョンを使用してもよく、ガラス転移温度と平均粒子径が互いに異なる2種以上のアクリル樹脂系エマルジョンを使用してもよい。このようなアクリル樹脂系エマルジョンは、アクリル酸やアクリル酸のエステルを主な共重合成分としてなる樹脂のエマルジョンである点において共通する。そのようなアクリル樹脂を構成する単量体としては以下の親水性単量体及び疎水性単量体からなるものが挙げられる。
親水性単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート等のヒドロキシ基又はグリシジル基含有エチレン性単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-ダイアセトンアクリルアミド等のエチレン性アミド;アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N, N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N, N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N, N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N, N, N-トリメチルアミノエチルアクリレート、N, N, N-トリメチルアミノエチルメタクリレート等のエチレン性アミン又はその塩などが挙げられる。
【0012】
また、疎水性単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、アルキルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族モノ及びジビニル化合物;メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ターシャリーブチルアクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等のアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロブチルメタクリレート、パーフルオロオクチルメタクリレート、パーフルオロオクチルアクリレート等のフッ素系単量体、シリコーンマクロモノマーなどが挙げられる。
【0013】
上記のアクリル樹脂系エマルジョンのなかでも、特に、本発明では、ガラス転移温度や平均粒子径が互いに異なる2種以上のアクリル樹脂系エマルジョンを使用することもできる。少なくとも1種としては、アクリル酸アルキル共重合体エマルジョン、アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体エマルジョン、アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルジョンなどが好ましく、より好ましくは、硬度や光沢の点から、アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルジョンである。
その中でも、粒子径分布が80nm以下においてピークを有し、かつガラス転移温度が20~45℃のアクリル樹脂系エマルジョンを使用することが必要であり、中でもガラス転移温度が35℃以下のアクリル樹脂系エマルジョンを使用することが好ましい。また粒子径分布が55nm以下においてピークを有することがさらに好ましい。
なお、このとき、80nmを超える粒子径においてもピークを有するようなアクリル樹脂系エマルジョンを併用する組成とすることもできる。なお、粒子径分布が80nm以下とは、アクリル樹脂系エマルジョンの樹脂粒子の粒子径毎の含有量の分布を作成したときに、その含有量が最大の粒子径が80nm以下であることを指す。
このようなアクリル樹脂系エマルジョンとしては、ジュリマーET-410やTOCRYL BCX-3101が好ましく、これらを併用することがより好ましい。
【0014】
本発明において2種以上のアクリル樹脂系エマルジョンが使用される場合には、好ましくはガラス転移温度が最も高い、高Tgアクリル樹脂系エマルジョンのガラス転移温度は35~45℃、さらに好ましくは37~44℃であり、平均粒子径は40~55nm、好ましくは45~52nmである。
ガラス転移温度が最も低い、低Tgアクリル樹脂系エマルジョンのガラス転移温度は20~35℃、好ましくは22~30℃であり、平均粒子径は80~100nm、好ましくは85~95nmである。このように、2種のアクリル樹脂系エマルジョンを採用するときには、一方はガラス転移温度が高く平均粒子径が小さいアクリル樹脂系エマルジョンであり、他方はガラス転移温度が低く平均粒子径が大きいアクリル樹脂系エマルジョンである。
【0015】
また、本発明の水性美爪料組成物において、これらのアクリル樹脂系エマルジョンの樹脂分の含有量としては、20~40重量%、好ましくは25~35重量%である。40重量%を超えると水性美爪料組成物の粘度が高くなりすぎて塗り感が悪化し、20重量%未満であると十分に被膜を形成できず成膜性が悪化する。
さらに2種以上のアクリル樹脂系エマルジョンを含む場合、その樹脂分全体に対する平均粒子径が最も小さいアクリル樹脂系エマルジョン由来のアクリル樹脂の含有比率は30~90重量%であり、平均粒子径が最も大きいアクリル樹脂系エマルジョン由来のアクリル樹脂の含有比率は10~70重量%である。
【0016】
(b.1,2-オクタンジオール)
本発明では1,2-オクタンジオールを含有する。その水性美爪料組成物中での含有量は0.60~4.50重量%であり、好ましくは1.00~3.00重量%である。0.60重量%未満であると、常温での水性美爪料組成物の均一な塗膜形成性及び光沢性に劣り、かつ2種以上のアクリル樹脂系エマルジョンのアクリル樹脂の相溶性が悪化する。4.50重量%を超えると水性美爪料組成物の粘度が高くなりすぎて、保存安定性、塗り感及び耐温水性、耐水性が悪化する。
また、該アクリル樹脂系エマルジョンの固形分に対して1,2-オクタンジオールを2.00~20.00重量%含有することもでき、好ましくは該アクリル樹脂系エマルジョンの固形分に対して1,2-オクタンジオールを3.00~17.50重量%とすることができる。
1,2-オクタンジオールの含有量としては、上記のいずれかを満たしてもよく、あるいは両方を満たしてもよい。1,2-オクタンジオールを美爪料組成物に含有させることによって、爪表面に形成された本発明の水性美爪料組成物の被膜は、特に成膜性及び透明性や光沢性に優れる。また1,2-オクタンジオールは成膜助剤としての性質を備えながら、2種以上のアクリル樹脂系エマルジョンの樹脂同士の相溶性を向上させることができるため、本発明において高いガラス転移温度を有するアクリル樹脂系エマルジョンを採用することができた。
【0017】
また1,2-オクタンジオールと成膜助剤を併用してもよい。併用可能な成膜助剤としては、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどの少なくとも1種が挙げられる。
好ましくは1,2-オクタンジオール以外の成膜助剤及び可塑剤を含有しない場合であり、このときには得られる被膜が十分な成膜性を備えた上で、透明性やタック性に優れた被膜を得ることができる。
【0018】
(c.脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤)
c.脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤としては、ヤシ油脂肪酸ソルビタン、ソルビタン脂肪酸エステル及び/又はPOEソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。中でもPOE(20)ステアリン酸ソルビタン(例えばNIKKOL TS-10MV、日光ケミカルズ社製)、POE(20)ミリスチン酸ソルビタン、POE(20)パルミチン酸ソルビタン(例えばNIKKOL TP-10EX、日光ケミカルズ社製)、POE(20)オレイン酸ソルビタン(例えばNIKKOL TO-10MV、日光ケミカルズ社製)、POE(20)ヤシ油脂肪酸ソルビタンもしくはPOE(20)ラウリン酸ソルビタン(例えばNIKKOL TL-10、日光ケミカルズ社製)、POE(6)ステアリン酸ソルビタン(例えばNIKKOL TS-106V、日光ケミカルズ社製)、POE(6)ミリスチン酸ソルビタン、POE(6)パルミチン酸ソルビタン等が好ましい。
特に好ましいは、POE(20)ヤシ油脂肪酸ソルビタン(ポリオキシエチレン(20)ヤシ油脂肪酸ソルビタンエステル)、イオネットS-20、イオネットT-20C(ヤシ油脂肪酸ソルビタン)(三洋化成社製)である。
その水性美爪料組成物中での脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤の含有量は0.03重量%以上であり、好ましくは0.05~1.0重量%である。0.03重量%未満であると、常温での水性美爪料組成物の分散安定性が劣り、均一な塗膜形成性及び光沢性に劣り、かつ2種以上のアクリル樹脂系エマルジョンのアクリル樹脂の相溶性が悪化する。1.0重量%を超えると耐水性が悪化する。
また本発明の効果を毀損しない範囲において、他の公知の界面活性剤を添加することができる。
【0019】
着色剤としては公知のd.顔料を使用できる。また、光輝材、染料を使用することができる。特に爪被覆用として使用されている無機顔料、光輝材有機顔料や染料を使用することができる。また、これらの着色剤を添加しない場合や、透明となる程度の量で添加した場合、若しくは染料を添加することにより透明性がある人工爪組成物とすることもできる。また、水性美爪料組成物には、顔料等のみではなく樹脂粒子や、公知の水性美爪料組成物に含有させることができる装飾用材料等を含有しておくことも可能である。好ましくは酸化チタン、カーボンブラック又は有機顔料である。
使用できる顔料及び染料の種類、及びそれらの含有量としては、目的とする美観を満足させるために必要な程度のものとすることが必要である。
その水性美爪料組成物中での含有量は0.05~8.0重量%であり、好ましくは0.5~6.5重量%である。0.05重量%未満であると、着色が十分でない可能性があり、8.0重量%を超えると光沢を損なう可能性がる。
また顔料を使用したときに、そのD50(メジアン径)の値を2.0μm以下とすることができ、さらに好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下である。この2.0μm以下の場合には、さらに発色性を向上させることができる。
なおD50は、顔料の粒度分布をとったときに、その累積体積が全体の50%となるときの粒径である。
【0020】
(吸水性樹脂)
本発明においては吸水性樹脂を含有させることができ、このような吸水性樹脂としては、カルボキシビニルポリマー等を使用できる。
カルボキシビニルポリマーとしては、カーボポール940等を使用することが好ましい。水性美爪料組成物中の吸水性樹脂の含有量は0.01~0.5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.03~0.2重量%である。0.01重量%未満であると、顔料の分散性が低下する可能性があり、0.5重量%を超えると粘度が高くなりすぎて塗り感を損なう可能性がある。
【0021】
(増粘剤)
増粘剤としてヒドロキシエチルセルロースを含有することができる。
【0022】
(pH調整剤)
本発明においてはpH調整剤を含有させることができ、このようなpH調整剤としては、水性美爪料組成物を塗布・乾燥した後に塗膜中に残存しない化合物が好ましい。このような化合物としては10%濃度のアンモニアが適している。特にpH調整剤を添加する際の、水性美爪料組成物中のpH調整剤の含有量としては0.00~1.00重量%、つまり、pH調整剤を含有しなくてもよく、含有するとしても10%アンモニア類の添加量として、1.00重量%までとすることが好ましい。仮に1.00重量%を超えると塗り感が悪化するおそれがある。
本発明においては、pH調整剤は被膜とした後の耐水性や表面光沢を損なわない状態で、水性美爪組成物を増粘させることができる。そのため、pH調整剤の含有量が0.01重量%未満であると十分に増粘をさせることができない可能性があり、1.00重量%を超えるとpHを的確な範囲に調整することが困難になる。
【0023】
(溶媒)
本発明の水性美爪料組成物には使用するエマルジョンに由来する水に加えて、さらに水を加えても良く、エタノール等の水溶性有機溶媒を添加することもできる。エタノールを添加する際には、本発明の水性美爪料組成物中0.5~10重量%となるように添加することが好ましく、1.0~3.0重量%とすることがさらに好ましい。10重量%を超えると塗布後の水性美爪料組成物にタック性が表れる可能性があり、0.5重量%未満であると、1,2オクタンジオールやフェノキシアルコールを溶解できない可能性がある。
【0024】
(湿潤剤)
本発明において湿潤剤を添加することができる。湿潤剤としてはプロピレングリコールを添加することが好ましい。プロピレングリコールを添加する際には、本発明の水性美爪料組成物中0.5~10重量%となるように添加することが好ましく、1.0~3.0重量%とすることがさらに好ましい。湿潤剤の含有量が10重量%を超えると塗布後の水性美爪料組成物にタック性が表れる可能性があり、0.5重量%未満であると顔料の分散安定性が低下する可能性がある。
【0025】
(消泡剤)
本発明において消泡剤を添加できる。消泡剤としてはシリコーン系やフッ素系の消泡剤が好ましく、さらに好ましくはジメチコン、より好ましくはKM-72である。消泡剤は本発明の水性美爪料組成物中0.01~0.05重量%となるように含有することが好ましく、0.01~0.03重量%とすることがさらに好ましい。0.05重量%を超えると塗布後の水性美爪料組成物にピンホールが表れる可能性があり、0.01重量%未満であると、水性美爪料組成物が泡立つ可能性がある。
【0026】
本発明の水性美爪料組成物には、粘度や使用性、塗膜の耐久性などに悪影響を与えない範囲で各種の添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、例えば、香料、ポリオール類、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、充填剤、表面張力調整剤、重合禁止剤、難燃剤、酸化防止剤、イオン吸着体、低応力化剤、防腐剤、抗菌剤、可撓性付与剤、ワックス類、ハロゲントラップ剤、レベリング剤、濡れ改良剤等の、これまでに慣用されている各種の添加剤を含むことができる。
【0027】
上記のポリオール類には、希釈剤としての機能に加えて本発明の組成物において付着性を向上させる働きもある。そのようなポリオール類として、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、フェノリックポリオール等が挙げられる。中でも、アクリルポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールが好ましく、特にポリエーテルポリオールが好ましい。付着性を向上させるために用いるときは、組成物中ポリオールを0.1~40重量%、好ましくは2~15重量%で含有する。
【0028】
ポリエステルポリオールとしては、縮合型ポリエステルポリオール、付加重合ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。縮合型ポリエステルポリオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,4-ヘキサンジメタノール、ダイマー酸ジオール、ポリエチレングリコール等のジオール化合物と、アジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸等の有機多塩基酸との縮合反応によって得られた、分子量は100~100,000のものが挙げられる。また、付加重合ポリエステルポリオールとしては、ポリカプロラクトンが挙げられ、分子量は100~100,000が好ましい。ポリカーボネートポリオールはポリオールの直接ホスゲン化、ジフェニルカーボネートによるエステル交換法などによって合成され、分子量は100~100,000が好ましい。
【0029】
以下に本発明の水性美爪料用顔料分散液の具体的組成について説明する。
水性美爪料用顔料分散液は上記の水性美爪料組成物を得るための材料であり、予め顔料を脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤により溶媒中に分散させてなるものである。使用できる顔料及び脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤としては上記のものである。また脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤は、水性美爪料用顔料分散液中に1.0~10.0重量%以上、好ましくは1.5~7.0重量%含有される。
予め水性美爪料用顔料分散液を調製しておくことにより、顔料を確実に溶媒に分散させることができ、同時に脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を採用することによって、水性美爪料組成物としたときの光沢性を向上させたり、お湯により剥離できるお湯でオフ性に優れる効果を発揮できる。1.0重量%未満であると顔料の分散安定性が悪化する可能性があり、10.0重量%を超えると水性美爪料組成物による被膜の耐水性が悪化する可能性がある。
【0030】
水性美爪料用顔料分散液に含有される顔料は上記の顔料を使用できる。水性美爪料用顔料分散液中の顔料の含有量は、5.0~60.0重量%が好ましく、10.0~55.0重量%がより好ましい。5.0重量%未満であると水性美爪料組成物とし、被膜を形成したときの着色が薄くなる可能性があり、60.0重量%を超えると分散安定性が悪くなる可能性がある。
【0031】
水性美爪料用顔料分散液には、増粘剤としてヒドロキシエチルセルロースを含有させることができる。水性美爪料用分散液中にヒドロキシセルロースを0.05~2.0重量%含有させることが好ましく、0.05~1.0重量%とすることがより好ましい。0.05重量%未満であると顔料の分散安定性が悪化する可能性があり、2.0重量%を超えると粘度が高すぎて撹拌に支障をきたす可能性がある。使用するヒドロキシエチルセルロースとしては、HECダイセル850やHECダイセル600等が好ましい。
【0032】
(湿潤剤)
水性美爪料用顔料分散液には、上記の湿潤剤を添加することができる。湿潤剤としてはプロピレングリコールを添加することが好ましい。プロピレングリコールを添加する際には、水性美爪料用分散液中に5.0~30重量%となるように添加することが好ましく、10~20重量%とすることがさらに好ましい。湿潤剤の含有量が5.0重量%未満であると顔料の分散安定性が低下する可能性がある。30重量%を超えると水性美爪料のアクリルエマルジョンの安定性が悪化する可能性がある。
【0033】
(溶媒)
水性美爪料用顔料分散液には、溶媒として水を使用できる。水の含有量は、水性美爪料用分散液中に20~90重量%が好ましく、30~75重量%とすることがさらに好ましい。湿潤剤の含有量が20重量%未満であると分散液の粘度が高くなりすぎて撹拌することが困難になる可能性がある。90重量%を超えると粘度が低くなりすぎて顔料分散性が悪化する可能性がある。
【0034】
(水性美爪料組成物を用いた爪への被覆方法)
本発明の水性美爪料組成物は、使用者自身の爪の表面に、必要に応じてサンディングを施した後、さらに必要に応じて下塗りをした後に、公知の手段によって爪表面に塗布することができる。
もちろん、爪表面に本発明の水性美爪料組成物を塗布後、乾燥前に小さな飾りや粉体等を被膜表面に付着させることも可能である。
爪に塗布した後、自然乾燥させたり、赤外線等を当てて加熱乾燥させることができる。 被覆される爪は、人の手の爪と足の爪のいずれでもよく、犬や猫などの動物の爪でも良い。
【実施例
【0035】
(実施例A)
水性美爪料組成物の試験方法
(塗り感(レベリング))
1.ナイロン板に水性美爪料組成物を30μl取る。
2.一般的な水性美爪料組成物用の筆で、一辺が1.5cmの正方形の中を縦に4回、横に4回、再度縦に4回塗り広げる。
3.塗布後、一晩以上室温で乾燥させる。
4.乾燥後の塗膜のレベリング具合を評価する。
○:塗膜がなだらかで筆跡が見えない。
△:塗膜に大きな波が見える。
×:塗膜に細かな波が見える。
【0036】
(成膜性)
1.塩化ビニル樹脂板に、100μmドクター型アプリケータを用いて、12cm/sの速度で水性美爪料組成物を塗布する。
2.乾燥後、塗膜表面を目視で観察する。
○:塗膜がなめらかで透明である。
△:塗膜に小さいひび割れがある。
×:塗膜にひび割れがあり、塗膜全体が白濁して見える。
上記の塗布、乾燥及び観察を、20℃にて行うとき、及び15℃にて行うときの2つの条件にて行った。
【0037】
(光沢)
1.塩化ビニル樹脂板に、100μmドクター型アプリケータを用いて、12cm/sの速度で水性美爪料組成物を塗布する。
2.乾燥後、HORIBAハンディ光沢計グロスチェッカIG-310にて光沢度を測定する。
○:光沢度70以上
×:光沢度70未満
【0038】
(塗膜耐久性(耐水性))
1.ナイロン板に、100μmドクター型アプリケータを用いて、15cmにわたって水性美爪料組成物を塗布する。
2.一晩以上室温で乾燥させた後、ガラス板を20±3℃の水に浸漬する。
3.30分間室温で放置し、取り出して塗膜の状態を観察する。
○:変化なし。
×:指でこすると剥がれる。
【0039】
(お湯でオフ性)
1.ナイロン板に、100μmドクター型アプリケータを用いて、15cmにわたって水性美爪料組成物を塗布する。
2.一晩以上室温で乾燥させた後、ガラス板を43℃の水に浸漬し、30分間水を保温することなく放置し、その後取り出して塗膜の状態を観察する。
○:溶解するか、指で軽くこすると抵抗なく剥がれる。
×:変化なし。
【0040】
【表1】
【0041】
表1中のアクリル樹脂系エマルジョンは、ジュリマーET-410とTOCRYL BCX-3101を、重量比でジュリマーET-410:TOCRYL BCX-3101=64.69:12.20の比率でブレンドしたものである。
表1中のアクリル樹脂系エマルジョンの配合量は固形分の量である。
POEヤシ油脂肪酸ソルビタンは、POE(20)ヤシ油脂肪酸ソルビタンである。
【0042】
本発明の通りの配合である実施例A1~A6によれば、脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を含有するために、塗り感、成膜性、光沢、耐水性及びお湯でオフ性のバランスが優れた硬化被膜を得ることができた。
これに対して、比較例A1及びA2によれば、POEヤシ油脂肪酸ソルビタンの含有量が少なかったために、お湯でオフ性が不良であった。さらに比較例A3によれば、1,2-オクタンジオールの含有量が少ないために光沢に劣り、さらにお湯でオフ性が不良であった。
またヤシ油脂肪酸ソルビタンに代えて、アラビアガム、ヒドロキシプロピル化デンプン、水溶性大豆多糖類を採用した比較例A4~A6によれば、経時安定性に劣る組成物となり、塗り感等の効果を確認することなく、水性美爪料として適切な組成物ではなかった。
【0043】
(実施例BC)
水性美爪料用顔料分散液の試験方法
(発色(目視))
○:色が鮮やかで、発色濃度が高い。
△:色がくすんでいるが、発色濃度が高い。
×:色がくすんでおり、発色濃度も低い。
【0044】
(経時安定性)
水性美爪料組成物を50℃で4週間保管し、その後の水性美爪料組成物の均一性を目視にて確認し経時安定性を評価した。
○:水性美爪料組成物の外観に全く変化はなく、顔料の凝集や分離を確認できなかった。
×:顔料の凝集又は分離を目視にて確認した。
【0045】
【表2】
【0046】
ソルビタン脂肪酸エステル又はPOEソルビタン脂肪酸エステルを含有する実施例B1~B8の水性美爪料用顔料分散液を使用した実施例C1~7によれば、目視でみたときの発色性と、経時安定性にすぐれた水性美爪料組成物を得ることができた。これに対して、別の分散剤を含有する水性美爪料用顔料分散液を使用した比較例C1~3によれば、目視でみたときの発色性が仮に優れるとしても、経時安定性に劣るものであった。