(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】転がり軸受及び保持器
(51)【国際特許分類】
F16C 33/48 20060101AFI20220119BHJP
F16C 19/28 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
F16C33/48
F16C19/28
(21)【出願番号】P 2017150922
(22)【出願日】2017-08-03
【審査請求日】2020-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】室 昂佑
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-84733(JP,A)
【文献】特開2009-293730(JP,A)
【文献】特開2009-281399(JP,A)
【文献】特開2008-163991(JP,A)
【文献】特開昭57-54719(JP,A)
【文献】特開2007-198583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/48
F16C 19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一環状体及び当該第一環状体から軸方向一方側に延在している複数の柱を有する保持器本体と、複数の前記柱の軸方向一方側に設けられている第二環状体と、前記柱の数よりも少なく前記保持器本体と前記第二環状体とを軸方向に貫通して連結するための軸部材と、を備え、前記第一環状体と前記第二環状体との間であって周方向で隣り合う前記柱の間の空間が転動体を保持するポケットとなる保持器であって、
前記複数の柱には、前記軸部材を挿通させる第一の貫通孔が形成されている第一柱と、軸方向一方側の端部に爪を有する第二柱と、が含まれ、
前記第二環状体のうち前記第一柱と連結される部分に前記軸部材を挿通させる第二の貫通孔が形成され、
前記第二環状体のうち前記第二柱と連結される部分に、前記爪を収容する凹部が形成されており、当該凹部の一部に前記爪と係合する突起が設けられ、
前記凹部において、前記突起の周方向一方側の隣りに、前記爪を軸方向に挿入可能とするスペースが設けられ、
前記凹部において、前記突起の周方向他方側の隣りに、前記第二環状体の壁面があり、
前記爪は、周方向一方側の第六面と、周方向他方側の第七面と、を有し、
前記壁面に前記第七面が当接する一方、前記スペースに前記第六面が露出し、
前記軸部材が前記第一の貫通孔と前記第二の貫通孔とに挿通され
、
前記凹部は、径方向外側又は内側、及び、軸方向他方側に向かって開口しており、
前記突起は、軸方向一方側に向く第一面と、径方向に向く第二面と、軸方向他方側に向く第三面と、を有し、
前記爪は、前記第一面に対向する第四面と、前記第二面に対向する第五面と、を有し、
前記第二柱の軸方向一方側の端面が、前記第三面に対向すると共に、当該端面から前記爪が突出している、
保持器。
【請求項2】
前記複数の柱には、更に、軸方向一方側の端面が前記第二環状体の軸方向他方側の面に対して接触可能であって当該第二環状体と非連結状態にある第三柱が含まれている、請求項1に記載の保持器。
【請求項3】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられている複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する環状の保持器と、を備え、
前記保持器が、請求項1
又は請求項2に記載の保持器である、転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、及び転がり軸受の転動体を保持する保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、軸を支持するために様々な分野で広く用いられており、一般的に、内輪、外輪、これら内輪と外輪との間に設けられている複数の転動体、及びこれら転動体を保持する環状の保持器を備えている。
【0003】
このような転がり軸受が備えている保持器として、例えば黄銅製であって、
図8に示すように、リベット91により組み立てられるものがある(例えば、特許文献1参照)。
図8は、このような保持器99の一部を示す斜視図である。この保持器99は、円環状である第一環状体98及びこの第一環状体98から軸方向に延在している複数の柱97を有する保持器本体96と、複数の柱97の軸方向一方側に設けられている円環状の第二環状体95とを備えている。第一環状体98と第二環状体95との間であって周方向で隣り合う柱97,97の間の空間94が、図示していない転動体を保持するポケットとなる。
【0004】
保持器本体96において、全ての柱97、及び第一環状体98のうち柱97が繋がる部分98aには、リベット91の軸部91bを挿通させる軸方向に長い第一孔93が形成されている。また、第二環状体95において、柱97と同じ周方向ピッチで軸方向に貫通する第二孔92が形成されている。これら第一孔93及び第二孔92に対してリベット91の軸部91bを挿通し、リベット端部91aをかしめることで、保持器本体96と第二環状体95とが一体とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リベット91の軸部91bの直径は、例えば2ミリメートル程度であり、保持器本体96に形成されている第一孔93の直径、及び第二環状体95に形成されている第二孔92の直径は、軸部91bの直径よりも僅かに大きい。保持器本体96に第一孔93を形成するためには、柱97及び第一環状体98に対して工具を軸方向に貫通させる必要があるが、形成する第一孔93は直径が小さく軸方向に長いことから、その加工が難しく、工具が細くて折れる場合がある。しかも、このような孔加工を、全ての柱97に対して行う必要があり、保持器99の製造は困難であるという問題点がある。また、前記のような孔加工を終えても、柱97と同数のリベット91を一つずつハンマー等を用いてかしめる作業が必要であり、組み立てに手間を要するという問題点がある。
【0007】
保持器99は(型番によって異なるが)例えば12~20本程度の柱97を備えており、柱97の数が多くなるほど、その製造(孔加工)や組み立て作業に多くの工数を要するという問題点がある。
そこで、本発明は、保持器本体と第二環状体とを連結するための孔加工や連結作業の手間が削減され、製造及び組み立て工数を低減することが可能となる保持器、及びこのような保持器を備えている転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第一環状体及び当該第一環状体から軸方向一方側に延在している複数の柱を有する保持器本体と、複数の前記柱の軸方向一方側に設けられている第二環状体と、前記柱の数よりも少なく前記保持器本体と前記第二環状体とを軸方向に貫通して連結するための軸部材と、を備え、前記第一環状体と前記第二環状体との間であって周方向で隣り合う前記柱の間の空間が転動体を保持するポケットとなる保持器であって、前記複数の柱には、前記軸部材を挿通させる貫通孔が形成されている第一柱と、軸方向一方側の端部に爪を有する第二柱と、が含まれ、前記第二環状体のうち前記第二柱と連結される部分に、前記爪を収容する凹部が形成されており、当該凹部に前記爪と係合する突起が設けられている。
【0009】
この保持器によれば、複数の柱には、軸部材が貫通することで第二環状体と連結される第一柱と、爪と突起との係合によって第二環状体と連結される第二柱とが含まれる構成となる。つまり、保持器本体と第二環状体とを連結するために、全ての柱に対して軸部材を挿通させる必要がなく、複数の柱のうちの一部である第一柱において軸部材を挿通させ、別の第二柱において爪と突起とを係合させればよい。よって、全ての柱、及びこれら全ての柱に対応する第一環状体及び第二環状体それぞれの部分に、軸部材を挿通させる貫通孔を形成する必要がない。このため、軸部材によって保持器本体と第二環状体とを連結するための孔加工や軸部材による連結作業の手間が削減され、保持器の製造及び組み立て工数を低減することが可能となる。なお、前記「軸部材による連結作業」の例としては、例えば、軸部材がリベットである場合、かしめ作業である。
【0010】
また、前記複数の柱には、更に、軸方向一方側の端面が前記第二環状体の軸方向他方側の面に対して接触可能であって当該第二環状体と非連結状態にある第三柱が含まれているのが好ましい。この構成によれば、複数の柱には、第一柱及び第二柱の他に、第三柱が含まれ、軸部材を用いて保持器本体と第二環状体とを連結する箇所を更に減らし、保持器の製造及び組み立て工数をより一層低減することが可能となる。
【0011】
また、前記凹部において、前記突起の周方向一方側の隣りに、前記爪を軸方向に挿入可能とするスペースが設けられているのが好ましい。この構成によれば、保持器本体と第二環状体とを組み合わせる際、第二環状体の凹部に設けられている前記スペースに対して、保持器本体の第二柱の爪を、軸方向から挿入させ、その後、保持器本体に対して第二環状体を周方向一方側に回転させると、爪を突起に係合させることが可能となる構成が得られる。そして、爪と突起とが係合した状態で、第一柱を貫通する軸部材によって保持器本体と第二環状体とを連結すれば、保持器本体と第二環状体とは周方向に回転不能となり、爪と突起との係合が解けない。よって、前記構成によれば、爪と突起との係合による保持器の組み立てが容易となり、しかも、組み立てが完了すると、爪と突起との係合によって保持器本体と第二環状体とは機構的に結合され、保持器の剛性が高まる。
【0012】
また、前記凹部は、径方向外側又は内側、及び、軸方向他方側に向かって開口しており、前記突起は、軸方向一方側に向く第一面と、径方向に向く第二面と、軸方向他方側に向く第三面と、を有し、前記爪は、前記第一面に対向する第四面と、前記第二面に対向する第五面と、を有し、前記第二柱の軸方向一方側の端面が、前記第三面に対向すると共に、当該端面から前記爪が突出しているのが好ましい。この構成によれば、突起が有する各面に対して爪が有する各面が対向することで、突起と爪とが係合し、保持器本体と第二環状体とが軸方向について分離不能となる。
【0013】
本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられている複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する環状の保持器と、を備え、前記保持器が、前記の各構成を備えている。
この転がり軸受によれば、保持器の製造及び組み立てにおいて、軸部材によって保持器本体と第二環状体とを連結するための孔加工や軸部材による連結作業の手間が削減され、工数を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保持器の製造及び組み立てにおいて、軸部材によって保持器本体と第二環状体とを連結するための孔加工や軸部材による連結作業の手間が削減され、工数を低減することが可能となる。この結果、保持器のコスト低下(転がり軸受のコスト低下)に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】環状である保持器を平面的に展開した状態の図であり、径方向外側から見た場合の図である。
【
図3】保持器本体を軸方向一方側から見た図である。
【
図4】第二柱及び第二環状体の一部を示す斜視図である。
【
図5】保持器の一部を周方向に沿って見た断面図であり、(A)は爪と突起とが係合する前の状態(非係合状態)を示し、(B)は爪と突起とが係合した状態を示している。
【
図6】保持器の一部を軸方向一方側から見た図である。
【
図7】第二柱の爪、及び第二環状体の凹部の突起の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は転がり軸受の断面図である。この転がり軸受10は、内輪11と、外輪12と、これら内輪11と外輪12との間に設けられている複数の転動体と、これら複数の転動体を保持する環状の保持器14とを備えている。本実施形態の転動体は円筒ころ13であり、転がり軸受10は円筒ころ軸受である。
【0017】
本実施形態の内輪11は、円筒状の内輪本体15と、環状の鍔輪16とを有しており、内輪本体15の軸方向一方側に鍔輪16を並べた状態とし、これらを組み合わせることで内輪11が構成される。内輪本体15の外周側に円筒ころ13が転がり接触する内輪軌道面17が形成されており、内輪本体15の軸方向他方側に径方向外方へ突出している内鍔部18が設けられている。本実施形態の外輪12は、円筒状であり、内周側に円筒ころ13が転がり接触する外輪軌道面19が形成されている。外輪12の軸方向一方側及び他方側に径方向内方へ突出している外鍔部19a,19bが設けられている。本実施形態では、円筒ころ13が軸方向に二列並んで設けられている。二列の円筒ころ13が、一つの保持器14によって保持されている。内輪11、外輪12、及び円筒ころ13は、例えば軸受鋼製である。
図1に示す転がり軸受10は、鉄鋼圧延機におけるワークロールスラスト用の軸受として用いられる。
【0018】
図2は、環状である保持器14を平面的に展開した状態の図であり、径方向外側から見た場合の図である。
図1及び
図2に示すように、保持器14は、二分割構造を有している。つまり、保持器14は、第一環状体(第一環状部)21及びこの第一環状体21から軸方向一方側に延在している複数の柱(柱部)22を有する保持器本体20と、複数の柱22の軸方向一方側に設けられている第二環状体30とを備えている。第一環状体21は円環状であり、この第一環状体21の軸方向一方側から更に軸方向一方側に向けて柱22が直線状に延びて設けられている。第二環状体30は円環状の部材である。本実施形態の保持器本体20及び第二環状体30は、銅合金(黄銅)製であるが、その他の金属材料であってもよい。保持器本体20と第二環状体30とは、別部材により構成されており、後にも説明するがリベット23(
図2参照)及び爪31と突起34との係合によって連結され一体となっている。
【0019】
図2において、保持器14は、保持器本体20と第二環状体30とを軸方向に貫通して連結するための軸部材として前記リベット23を備えている。リベット23は、直線状の軸部24と、この軸部24の軸方向一方側に設けられている直径が拡大した頭部25とを有している。軸部24を、第二環状体30に設けられている貫通孔28及び保持器本体20に設けられている貫通孔27に挿通し、軸方向他方側の端部をかしめる(塑性変形させる)ことで直径が拡大したかしめ部26が形成され、これにより、保持器本体20と第二環状体30とが分離不能となる。なお、リベット23の代わりに、図示しないが、他の軸部材として細長いボルトを採用することができ、このボルトを前記貫通孔27,28に挿通させ、軸方向一方側のボルト頭部と、軸方向他方側においてこのボルトに螺合するナットとによって、保持器本体20と第二環状体30とを連結する構成としてもよい。
【0020】
保持器本体20の第一の貫通孔27は、第一環状体21及び柱22を軸方向に貫通している。後にも説明するが、本実施形態では、第一の貫通孔27はリベット23と同数である三箇所に設けられている(
図3参照)。
第二の貫通孔28は第二環状体30を軸方向に貫通している。第二環状体30において、第二の貫通孔28は、第一の貫通孔27と同数であって第一の貫通孔27と周方向について同じ位置に設けられている。
これら貫通孔27,28はリベット23の軸部24の直径よりも僅かに大きな直径の孔である。リベット23の軸部24が貫通している柱22を第一柱22aと呼ぶ。
図2に示すように、保持器14は、第一柱22a以外に、第二柱22b及び第三柱22cを有している。第二柱22b及び第三柱22cの構成については、後で説明する。
【0021】
図3は、保持器本体20を軸方向一方側から見た図である。本実施形態の保持器本体20は、15本の柱22を有しており、このうち、貫通孔27が形成されている第一柱22aは3本である。第一柱22aは周方向に沿って均等に(本実施形態では120度離れて)配置されている。そして、15本の柱22のうち6本が第二柱22bであり、残りの6本が第三柱22cである。一つの第一柱22aと他の第一柱22aとの間に、第二柱22b及び第三柱22cが設けられている。本実施形態では、一つの第一柱22aと他の第一柱22aとの間に、2本の第二柱22b及び2本の第三柱22cが設けられている。なお、柱22の数は、転がり軸受10の型番(大きさ)によって様々であり、また、第一柱22a、第二柱22b、及び第三柱22cのそれぞれの数及び周方向の配置は、
図3に示す形態以外であってもよい。ただし、第一柱22a及び第二柱22bについては、それぞれを周方向に分散させる(均等に配置する)のがよく、
図3に示す形態のように、複数本(2本)の第二柱22bを一組として、その組を周方向に分散させてもよい(均等に配置してもよい)。
【0022】
図2及び
図3に示すように、第二柱22bは、軸方向一方側の端部に爪31を有している。
図4は、第二柱22b及び第二環状体30の一部を示す斜視図である。第二環状体30のうち第二柱22bと連結される部分32に、爪31を収容する凹部33が形成されており、この凹部33の一部に爪31と係合する突起34が設けられている。凹部33(及び突起34)は、第二柱22bと同数であって第二柱22bと周方向について同じ位置に設けられている。保持器本体20が有する第二柱22bの爪31が、第二環状体30の凹部33に形成されている突起34に係合することで、これら保持器本体20と第二環状体30とは連結され、軸方向について分離不能となる。
【0023】
図4に示すように、第二環状体30において、凹部33は、少なくとも径方向外側及び軸方向他方側に向かって開口しており、本実施形態では、更に、軸方向一方側に向かって開口している。つまり、凹部33は、第二環状体30をその内周側を残して軸方向に貫通している。この凹部33の周方向の一部に突起34が設けられている。また、本実施形態では、凹部33において、周方向一方側に軸方向に貫通しているスペース(空間部)35が設けられており、その周方向他方側に軸方向の障壁となる突起34が設けられている。
【0024】
図5は、保持器14の一部(第二柱22b及びその周囲)を周方向に沿って見た拡大断面図であり、(A)は爪31と突起34とが係合する前の状態(非係合状態)を示しており、(B)は爪31と突起34とが係合した状態を示している。
突起34は、直方体乃至立方体形状を備えており、軸方向一方側に向く第一面36と、径方向外側に向く第二面37と、軸方向他方側に向く第三面38とを有している。
これに対して、爪31は、第二柱22bの軸方向一方側の端面41から軸方向一方側に突出している軸方向突出部42と、この軸方向突出部42の軸方向一方側の先部から径方向内方側へ突出している径方向突出部43とを有している。これにより、爪31が突起34に係合した状態において(
図5(B)参照)、爪31は、第一面36に対向する第四面39と、第二面37に対向する第五面40とを有する構成となる。そして、第二柱22bの軸方向一方側の端面41が、第三面38に対向する。第四面39は、径方向突出部43の軸方向他方側の面であり、第五面40は、軸方向突出部42の径方向内側の面である。
【0025】
図5(B)に示すように、爪31が突起34に係合した状態で、第一面36と第四面39とが面接触可能であり、第二面37と第五面40とが面接触可能であり、第二柱22bの軸方向一方側の端面41と第三面38とが面接触可能となる。第四面39と第二柱22bの端面41との間に突起34が介在することで、第二柱22bと第二環状体30とは軸方向に分離不能となって連結され、第五面40と第二面37とが接触することで、柱22bと第二環状体30との相互の径方向の位置決めがされる。
【0026】
図2及び
図3に示すように、第三柱22cは、軸方向一方側に、第二柱22bが有する爪31が設けられておらず、また、第一柱22aのようにリベット22用の貫通孔27が形成されておらず、第三柱22cの軸方向一方側の端面44は、環状である保持器14の中心軸C1(
図3参照)に直行する平面に沿った平滑面となっている。そして、第二環状体30の軸方向他方側の側面のうち、第三柱22cの前記端面44と対向する面45(
図2参照)も、前記中心軸C1に直行する平面に沿った平滑面となっている。保持器本体20と第二環状体30とが前記リベット23及び前記爪31と前記突起34との係合により連結された状態で、第三柱22cの軸方向一方側の前記端面44と、第二環状体30の軸方向他方側の前記面45とは接触した状態であって、第三柱22cと第二環状体30とは連結されていない。第三柱22cは、第一環状体21から軸方向一方側に延びる片持梁状となっている。なお、第三柱22c及び第一環状体21の剛性は高く、例えば円筒ころ13が第三柱22cに接触しても、その接触による力に抗することができる。
【0027】
リベット23及び爪31と突起34との係合によって保持器本体20と第二環状体30とが連結された状態で、第一環状体21と第二環状体30との間であって周方向で隣り合う柱22,22の間の空間29が、転動体である円筒ころ13(
図1参照)を保持するポケットとなる。
【0028】
以上のように、保持器14では、保持器本体20と第二環状体30とを連結するためのリベット23の数(全数)は、柱22の数(全数)よりも少なく、本実施形態では、柱22が15本であるのに対してリベット23は3本である。そして、これら15本の柱22には、リベット23の軸部24を挿通させる第一の貫通孔27が形成されている第一柱22aと、軸方向一方側の端部に爪31を有する第二柱22bとが含まれている。更に、本実施形態では、総数が15本である柱22には、軸方向一方側の端面44が第二環状体30の軸方向他方側の面45に対して接触可能であるが、第二環状体30と非連結状態にある第三柱22cが含まれている。
【0029】
このように、保持器14が有する15本の柱22には、リベット23が貫通することで第二環状体30と連結される第一柱22aと、爪31と突起34との係合によって第二環状体30と連結される第二柱22bとが含まれている。つまり、保持器本体20と第二環状体30とを連結するために、15本全ての柱22に対してリベット23を挿通させる必要がなく、15本の柱22のうちの一部である第一柱22aにおいてリベット23を挿通させ、別の第二柱22bにおいて爪31と突起34とを係合させればよい。
【0030】
よって、15本全ての柱22、及びこれら全ての柱22に対応する第一環状体21及び第二環状体30それぞれの部分に、リベット23を挿通させる貫通孔27,28を形成する必要がなく、3本の第一柱22a、並びに第一環状体21及び第二環状体30のうち、この3本の第一柱22aの軸方向隣りに位置する部分にのみ、貫通孔27,28を形成すればよい。そして、リベット23が用いられるのは、3本の第一柱22aに対応する3箇所のみである。これにより、リベット23によって保持器本体20と第二環状体30とを連結するための孔加工やかしめ作業の手間が削減され、保持器14の製造及び組み立て工数を低減することが可能となる。この結果、保持器14のコスト低下、更には、この保持器14を備えている転がり軸受10のコスト低下に貢献することができる。
【0031】
特に本実施形態では(
図2及び
図3参照)、第三柱22cにおいて、軸方向一方側の端面44が第二環状体30の軸方向他方側の面45に対して接触可能であるが、第二環状体30と非連結状態にある。このように、15本の柱22の中には、第一柱22a及び第二柱22bの他に、第三柱22cが含まれており、リベット23を用いて保持器本体20と第二環状体30とを連結する箇所を減らしている。すなわち、15本の柱22のうち、一部(6本)が爪31と突起34とにより第二環状体30と連結される第二柱22bであって、その残りの全数(9本)が、リベット23が用いられる第一柱22aである場合よりも、本実施形態のように、第三柱22cが(3本)更に含まれていることで、リベット23が用いられる第一柱22aの数を減らすことができる。よって、保持器14の製造及び組み立て工数をより一層低減することが可能となる。
【0032】
ここで、保持器14と円筒ころ13との組み立てについて説明する。
まず、保持器本体20において、周方向で隣り合う柱22,22の間に、円筒ころ13を配置する。本実施形態では、
図3に示すように、各柱22の周方向に向く側面47は、円筒ころ13よりも僅かに半径が大きい円弧面形状であり、柱22,22の間に設けられた円筒ころ13は、径方向に脱落不能な状態となる。
【0033】
このようにして保持器本体20と円筒ころ13とを組み合わせた状態で、保持器本体20の軸方向一方側に第二環状体30を位置させる。この際、
図6に示すように、第二柱22bの爪31を、第二環状体30の凹部33のうち突起34の周方向一方側の隣りに設けられている前記スペース35に挿入した状態とする。
図6は、保持器14の一部を軸方向一方側から見た図である。そして、保持器本体20(第二柱部22b)に対して第二環状体30を相対的に周方向一方側(
図6の矢印R方向)に回転させると、爪31と突起34とを係合させることができる。
【0034】
この状態で(
図2参照)、保持器本体20側に形成されている第一の貫通孔27と、第二環状体30側に形成されている第二の貫通孔28とは同位相(周方向について同じ位置)となり、リベット23をこれら貫通孔27,28に挿通し、リベット23の端部をかしめ加工して、リベット23が抜けないようにする。これにより、保持器本体20と第二環状体30とは相対回転不能となり、爪31と突起34との係合が解けない状態となる。
このように、本実施形態では、凹部33において、突起34の周方向一方側の隣りに、爪31を軸方向に挿入可能とするスペース35が設けられていることで、爪31と突起34との係合による保持器14の組み立てが容易となり、しかも、組み立てが完了すると、爪31と突起34との係合によって保持器本体20と第二環状体30とは機構的に結合され、保持器14の剛性が高まる。
【0035】
前記実施形態では(
図4参照)、第二環状体30に形成されている凹部33は、径方向外側に向かって開口しているが、径方向内側に向かって開口していてもよい。この場合、
図2が保持器14を径方向内側から見た場合の図であると考えればよく、この場合においても、前記実施形態と同じ機能を有することができる。
【0036】
図7は、第二柱22bの爪31、及び第二環状体30の凹部33の突起34の変形例を示す図であり、保持器14の一部を径方向外側から見た図である。この
図7に示す形態においても、凹部33の周方向の一部に突起34が設けられている。また、この凹部33において、周方向一方側に軸方向に貫通しているスペース35が設けられており、その周方向他方側に軸方向の障壁となる突起34が設けられている。突起34は、直方体乃至立方体形状を備えており、軸方向一方側に向く第一面36と、周方向一方側に向く第二面37と、軸方向他方側に向く第三面38とを有している。これに対して、爪31は、第二柱22bの軸方向一方側の端面41から軸方向一方側に更に突出している軸方向突出部42と、この軸方向突出部42の軸方向一方側の先部から周方向他方側へ突出している周方向突出部46とを有している。これにより、爪31は、第一面36に対向する第四面39と、第二面37に対向する第五面40とを有する構成となる。そして、第二柱22bの軸方向一方側の端面41が、第三面38に対向する。
【0037】
爪31が突起34に係合した状態で、第一面36と第四面39とが面接触可能であり、第二面37と第五面40とが面接触可能であり、第二柱22bの軸方向一方側の端面41と第三面38とが面接触可能となる。第四面39と第二柱22bの端面41との間に突起34が介在することで、第二柱22bと第二環状体30とは軸方向に分離不能となって連結される。そして、凹部33において、突起34の周方向一方側の隣りに、爪31を軸方向に挿入可能とするスペース35が設けられているので、
図5及び
図6に示す形態の場合と同様に、組み立てが容易となり、また、リベット23で保持器本体20と第二環状体30とを連結すると、爪31と突起34との係合が解けない状態となる。
【0038】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の保持器及び転がり軸受は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、爪31と突起34は、図示した形態(突起34に関して直方体乃至立方体)以外であってもよい。
前記実施形態の保持器14は、第一柱22a及び第二柱22bの他に第三柱22cを有している場合について説明したが、第三柱22cは無くてもよい。つまり、複数の柱22のうちの一部が第一柱22aであり、残りが第二柱22bであってもよい。
図1に示す形態では、転動体である円筒ころ13が軸方向に二列並ぶ構成であるが、一列であってもよい。また、内輪11や外輪12は他の形態であってもよい。保持器14は、円筒ころ13以外に、円すいころや針状ころ等を保持するものであってもよく、また、自動調心ころ軸受用の保持器であってもよい。
また、本発明の保持器を備えている転がり軸受は、鉄鋼圧延機におけるワークロールスラスト用以外であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10:転がり軸受 11:内輪 12:外輪
13:円筒ころ(転動体) 14:保持器 20:保持器本体
21:第一環状体 22:柱 22a:第一柱
22b:第二柱 22c:第三柱 23:リベット(軸部材)
27:第一の貫通孔 28:第二の貫通孔 29:空間
30:第二環状体 31:爪 32:第二柱と連結される部分
33:凹部 34:突起 35:スペース
36:第一面 37:第二面 38:第三面
39:第四面 40:第五面 41:端面
45:面