(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】養殖設備の衛生管理に用いる超音波照射装置および超音波照射方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/13 20170101AFI20220119BHJP
A01K 61/60 20170101ALI20220119BHJP
A01K 75/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
A01K61/13
A01K61/60 324
A01K75/00 H
(21)【出願番号】P 2017157356
(22)【出願日】2017-08-17
【審査請求日】2020-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】須藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】赤嶺 健一
【審査官】佐藤 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-180757(JP,A)
【文献】特開2000-000563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0094950(US,A1)
【文献】国際公開第2013/051725(WO,A3)
【文献】実開昭63-092562(JP,U)
【文献】実開昭48-024963(JP,U)
【文献】特開2007-289880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/13
A01K 61/60
A01K 75/00
B08B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に設置された養殖設備に、周波数20~28kHz、単位面積あたりの出力電力量1.3W/cm
2以上の超音波を5分以上照射して、前記養殖設備に付着した寄生虫の卵殻を破壊する超音波発振器を備え
、
前記超音波発振器の超音波発振面の外周に設置された、超音波発振方向に所定長の高さを有し、前記養殖設備に接続される拡散防護壁を有する
ことを特徴とする養殖設備の衛生管理に用いる超音波照射装置。
【請求項2】
前記超音波発振器は、前記養殖設備に、周波数20~28kHz、単位面積あたりの出力電力量1.3W/cm
2以上の超音波を10分以上照射する
ことを特徴とする請求項1に記載の養殖設備の衛生管理に用いる超音波照射装置。
【請求項3】
前記拡散防護壁は、金属製である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の養殖設備の衛生管理に用いる超音波照射装置。
【請求項4】
2台の超音波発振器を備え、
一方の超音波発振器は、前記養殖設備の内側から前記養殖設備に超音波を照射し、他方の超音波発振器は、前記養殖設備の外側から前記養殖設備に超音波を照射する
ことを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載の養殖設備の衛生管理に用いる超音波照射装置。
【請求項5】
前記超音波発振器は、前記養殖設備の上端縁に沿って設置されたレール上の走行体に吊り下げられ、前記走行体の走行により移動して、前記養殖設備の異なる位置に順次超音波を照射する
ことを特徴とする請求項1~4いずれか1項に記載の養殖設備の衛生管理に用いる超音波照射装置。
【請求項6】
海中に設置された養殖設備に、周波数20~28kHz、単位面積あたりの出力電力量1.3W/cm
2
以上の超音波を5分以上照射して、前記養殖設備に付着した寄生虫の卵殻を破壊することを特徴とする超音波照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖設備に付着したハダムシの卵殻を破壊するための超音波照射装置および超音波照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海中に設置された生簀では、養殖魚の体表にハダムシが寄生する。ハダムシが養殖魚に寄生すると、養殖魚がハダムシを落とそうとして体を網に擦る等の挙動によって体を傷つけてしまい、養殖魚の製品価値が低下するという問題がある。
【0003】
生簀内のハダムシを駆除するため、過酸化水素水剤による薬浴が一般的に行われている。薬浴は、生簀中の養殖魚をビニールシート等で囲い、所定濃度の薬液中で所定時間遊泳させ、その後生簀に戻すものである。この薬浴は、養殖魚に負担がかかるとともに、作業員にとっても大変な重労働になる。特に、寄生頻度が高くなる夏場は処理回数を増やす必要があり、多くの人手と時間を要していた。
【0004】
そこで、人手を要さず、また養殖魚に負担を掛けることなく、養殖魚に寄生するハダムシを除去するため、生簀内に超音波を発振する技術がある。生簀内に超音波を発振することで、超音波によって発生するキャビテーションの作用で養殖魚に寄生したハダムシを除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-92562号公報
【文献】特開平2-48211号公報
【文献】特開2002-119号公報
【文献】WO2013/051725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した技術を用いても、養殖魚にハダムシが寄生した時点で養殖魚にダメージを与える確率は高くなるため、根本的に養殖魚にハダムシを寄生させない技術が望まれていた。ハダムシを養殖魚に寄生させないようにするためには、生簀内のハダムシの卵殻を破壊することが有用であるが、従来養殖魚に寄生したハダムシの除去に用いていた超音波等では卵殻を破壊することができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、養殖設備に付着したハダムシの卵殻を破壊することで養殖設備の衛生を管理するための超音波照射装置および超音波照射方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の養殖設備の衛生管理に用いる超音波照射装置は、海中に設置された養殖設備に、周波数20~28kHz、単位面積あたりの出力電力量1.3W/cm2以上の超音波を5分以上、好ましくは10分以上照射して、前記養殖設備に付着した寄生虫の卵殻を破壊する超音波発振器を備え、前記超音波発振器の超音波発振面の外周に設置された、超音波発振方向に所定長の高さを有し、前記養殖設備に接続される拡散防護壁を有することを特徴とする。
【0009】
この超音波照射装置の拡散防護壁は、金属製であってもよい。
【0010】
また、この超音波照射装置は、2台の超音波発振器を備え、一方の超音波発振器は、前記養殖設備の内側から前記養殖設備に超音波を照射し、他方の超音波発振器は、前記養殖設備の外側から前記養殖設備に超音波を照射するようにしてもよい。
【0011】
また、この超音波照射装置の超音波発振器は、前記養殖設備の上端縁に沿って設置されたレール上の走行体に吊り下げられ、前記走行体の走行により移動して、前記養殖設備の異なる位置に順次超音波を照射するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明の超音波発振方法は、海中に設置された養殖設備に、周波数20~28kHz、単位面積あたりの出力電力量1.3W/cm2以上の超音波を5分以上照射して、前記養殖設備に付着した寄生虫の卵殻を破壊することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の養殖設備の衛生管理に用いる超音波照射装置および超音波照射方法によれば、養殖設備に付着したハダムシの卵殻を破壊することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態による超音波照射装置で海中の生簀に超音波を照射する実施例を示す全体図である。
【
図2】本発明の第2実施形態による超音波照射装置の超音波発振器を示す外観斜視図である。
【
図3】本発明の第2実施形態による超音波照射装置で海中の生簀に超音波を照射する実施例を示す全体図である。
【
図4】本発明の第3実施形態による超音波照射装置で海中の生簀に超音波を照射する実施例を示す全体図である。
【
図5】本発明の第4実施形態による超音波照射装置の移動手段を設けた超音波発振器の実施例を示す外観斜視図である。
【
図6】(a)~(e)は、本発明の第1実施形態による超音波照射装置を用いてガラス製容器で行った実験のサンプルを撮影した撮像情報である。
【
図7】(a)~(e)は、本発明の第1実施形態による超音波照射装置を用いてステンレス製容器で行った実験のサンプルを撮影した撮像情報である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一般的に、養殖魚の寄生虫であるハダムシは、海中でカキ殻やフジツボ等が付着した養殖網等に卵を産み付ける。そして、卵の繊毛がカキ殻やフジツボに絡み付いて、卵が孵化する。
【0016】
以下、本発明の実施形態として、養殖網に産み付けられたハダムシの卵殻を、超音波を照射して破壊することで、養殖設備である生簀の衛生管理を行う場合について説明する。
【0017】
《第1実施形態》
本発明の第1実施形態による超音波照射装置10Aは、
図1に示すように、海中に生簀1を設けるために設置された養殖網2への超音波照射を行う。本実施形態による超音波照射装置10Aは、超音波発振のためのエネルギーを供給する発振装置11と、発振装置11に接続されたケーブル12により海中に吊り下げられた超音波発振器13とを備える。超音波発振器13は、例えば縦30cm×横20cm程度の超音波発振面13aを有する箱体で構成され、内部に複数の振動子131を有している。これらの振動子131は、発振装置11から供給されるエネルギーにより、超音波発振面13aから海中に超音波を発振する。超音波発振器13は、超音波発振面13aが養殖網2に向かうように、生簀1外側の養殖網2近傍位置に吊り下げられる。
【0018】
超音波発振器13は、周波数が20~28kHz、超音波発振面13aの単位面積あたりの出力電力量が1.3W/cm2以上の超音波を、5分以上、好ましくは10分以上、養殖網2の所定箇所に照射する。
【0019】
超音波発振器13から発振される超音波の出力電力量について説明する。本実施形態においては、超音波発振器13は15個の振動子131を有しており、各振動子131に対応する超音波発振面13aの面積は20.25cm2である。本実施形態では発振装置11から超音波発振器13に400W以上の出力電力を供給するため、これに対応する超音波発振面13aの単位面積あたりの出力電力量は、下記式(1)により「1.3W/cm2以上」と算出される。
【0020】
[数1]
400W/(20.25cm2×15個)=1.3W/cm2・・・(1)
以上の第1実施形態によれば、養殖網2に付着したハダムシの卵殻を効果的に破壊することで、ハダムシの孵化を防止して養殖魚への寄生を抑えることができる。
【0021】
《第2実施形態》
本発明の第2実施形態による超音波照射装置10Bは、超音波発振器13の超音波発振面13aの外周に、
図2に示すように、超音波発振方向に所定長の高さを有する金属製の拡散防護壁132が設置されている。拡散防護壁132は、例えばステンレスで形成される。これ以外の構成に関しては、第1実施形態で説明した超音波照射装置10Aと同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0022】
金属製の拡散防護壁132が設置された超音波発振器13を用いて、
図3に示すように養殖網2に超音波を照射することにより、超音波発振器13から発振される超音波の拡散が防止されるとともに減衰が抑えられる。これにより、効率良くハダムシの卵殻破壊処理を行うことができる。
【0023】
上述した第1実施形態および第2実施形態においては、超音波発振器13を生簀1の外側に設置して、生簀1の外側から養殖網2に超音波を照射する場合について説明したが、生簀1の内側から養殖網2に超音波を照射するように構成してもよい。
【0024】
《第3実施形態》
本発明の第3実施形態による超音波照射装置10Cは、
図4に示すように、第1超音波照射手段101および第2超音波照射手段102の2つの超音波照射手段を備え、養殖網2の内側と外側との両側から養殖網2対して超音波を照射する。第1超音波照射手段101は、発振装置11-1と、これにケーブル12-1を介して接続された超音波発振器13-1とにより構成される。第2超音波照射手段102は、発振装置11-2と、これにケーブル12-2を介して接続された超音波発振器13-2とにより構成される。第1超音波照射手段101および第2超音波照射手段102それぞれの構成は、第1実施形態で説明した超音波照射装置10Aまたは第2実施形態で説明した超音波照射装置10Bのいずれかと同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
第1超音波照射手段101の超音波発振器13-1は、生簀1内側の養殖網2近傍位置に吊り下げられ、生簀1内側から養殖網2に超音波を照射する。第2超音波照射手段102の超音波発振器13-2は、生簀1外側の養殖網2近傍位置に吊り下げられ、生簀1外側から養殖網2に超音波を照射する。
【0026】
このように、2台の超音波発振器を用いて、養殖網2の外側と内側との両側から養殖網2に超音波を照射することにより、さらに高い精度で、養殖網2に付着したハダムシの卵殻を破壊することができる。
【0027】
《第4実施形態》
本発明の第4実施形態による超音波照射装置10Dは、
図5に示すように、超音波発振器13を、生簀1の養殖網2の上端縁に沿って設置されたレール21上を走行する走行体22から海中に吊り下げるように、設置する。そして、走行体22をレール21上で走行させることで、適宜超音波発振器13を移動させる。
【0028】
このように構成することで、限られた超音波発振面13aの面積を有する超音波発振器13により、養殖網2の異なる位置に順次超音波を照射させることができる。走行体22は、作業員により手動で走行させてもよいし、自動で走行するように構成してもよい。
【0029】
以下に、各種条件でハダムシの卵殻に超音波を照射した実験の結果を示す。
【0030】
[実験例1]
ガラス製の容器内にハダムシの卵殻の塊を投入したサンプルに対し、単位面積あたりの出力電力量が0.7W/cm2(200W/(20.25cm2×15個)=0.7W/cm2)で、周波数40kHz、70kHz、104kHzの超音波をそれぞれ、10秒、1分、5分、10分照射した。また、単位面積あたりの出力電力量が1.3W/cm2(400W/(20.25cm2×15個)=1.3W/cm2)で、周波数28kHz、40kHz、70kHz、104kHzの超音波をそれぞれ、10秒、1分、5分、10分照射した。照射条件ごとに、3個のサンプルを用いた。表1に、照射後の卵殻の破壊状況を目視で確認した結果を示す。
【0031】
表中、○印はほとんどの卵殻の破壊が確認できた場合であり、△印は数個の卵殻の破壊が確認できたかまたは、サンプルによりばらつきがある場合であり、×印は卵殻の破壊がほとんど確認できなかった場合である。
【0032】
【0033】
上記の表1のとおり、ガラス製の容器内では、出力電力量が1.3W/cm2で周波数が28kHzの超音波を10分照射したときにのみ一部の卵殻の破壊が確認できたが、他の条件ではすべて卵殻の破壊がほとんど確認できなかった。
【0034】
図6(a)は、超音波照射前のサンプルの撮像情報であり、(b)はガラス製の容器を用いて、出力電力量1.3W/cm
2で周波数28kHz超音波を10秒照射した後のサンプルの撮像情報である。同様に、(c)は1分照射した後のサンプルの撮像情報であり、(d)は5分照射した後のサンプルの撮像情報であり、(e)は10分照射した後のサンプルの撮像情報である。
図6(e)で示されるサンプルにおいては、
図6(a)の照射前の状態に比べて約25%の卵殻の破壊が確認できた。
【0035】
[実験例2]
ガラス製の容器およびステンレス製の容器内にハダムシの卵殻の塊を投入したサンプルに対し、単位面積あたりの出力電力量が1.3W/cm2で、周波数28kHzの超音波をそれぞれ、10秒、1分、5分、10分照射した。照射条件ごとに、3個のサンプルを用いた。表2に、照射後の卵殻の破壊状況を目視で確認した結果を示す。
【0036】
【0037】
上記表2のとおり、ステンレス製の容器内では、出力電力量が1.3W/cm2で周波数が28kHzの超音波を5分照射したときに一部の卵殻の破壊が確認できた。また、出力電力量が1.3W/cm2で周波数が28kHzの超音波を10分照射したときは、ほとんどの卵殻の破壊が確認できた。
【0038】
図7(a)は、超音波照射前のサンプルの撮像情報であり、(b)はステンレス製の容器を用いて、出力電力量1.3W/cm
2で周波数28kHz超音波を10秒照射した後のサンプルの撮像情報である。同様に、(c)は1分照射した後のサンプルの撮像情報であり、(d)は5分照射した後のサンプルの撮像情報であり、(e)は10分照射した後のサンプルの撮像情報である。これらの撮像情報から、照射の開始後に卵塊の収縮がまず起こり(
図7(b)、(c))、その後照射時間の増加とともに卵殻の破壊が進み(
図7(d))、10分照射後にはほとんどの卵殻が破壊されていることが判る(
図7(e))。
【0039】
以上の実験結果の傾向は、超音波洗浄に関し一般的に周知されている「周波数が低い方が発生するキャビテーションの核が大きく、洗浄強度が強くなる」こと、及び「出力電力量が大きいほうがキャビテーション数が多く、洗浄強度が大きくなる」ことに合致する。
【0040】
また、ガラス製容器よりもステンレス製容器を用いて行った実験のほうが、卵殻に与えるダメージが大きいことが確認された。これは、ステンレス製容器のほうが超音波の反射影響が大きく、減衰されにくいためであると推定される。
【0041】
上述した実験結果から、ハダムシの卵殻の破壊は、出力電力量が1.3W/cm2以上であり、且つ超音波の最低周波数である20kHzから、今回の実験で効果が見いだされた周波数28kHzの範囲の周波数の超音波を、5分以上、好ましくは10分以上照射することで効果が得られることが明らかになった。
【0042】
また、超音波発振器13に設置する拡散防護壁132は、金属製とすることで、超音波の減衰が防止され、より確実に効果が得られることが明らかになった。
【符号の説明】
【0043】
1…生簀
2…養殖網
10A,10B,10C,10D…超音波照射装置
11,11-1,11-2…発振装置
12,12-1,12-2…ケーブル
13…超音波発振器
13a…超音波発振面
21…レール
22…走行体
101…第1超音波照射手段
102…第2超音波照射手段
131…振動子
132…拡散防護壁