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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20220203BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20220203BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B60C11/13 A
B60C11/00 H
B60C11/12 A
B60C11/13 B
B60C11/13 C
B60C11/00 D
B60C11/12 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017171869
(22)【出願日】2017-09-07
(65)【公開番号】P2019043492
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】本田 稔彦
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-296769(JP,A)
【文献】特開2011-251650(JP,A)
【文献】特開2009-274669(JP,A)
【文献】特開2017-088146(JP,A)
【文献】特開2007-062690(JP,A)
【文献】特開平07-186633(JP,A)
【文献】特開2017-052427(JP,A)
【文献】特開2006-298057(JP,A)
【文献】国際公開第2009/077233(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170673(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00-11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部に複数の陸部が区画され、各陸部の踏面に溝幅が0.1mm~2.0mmで溝深さが0.1mm~2.0mmの範囲にある複数本の細溝が形成され、各細溝の溝深さが一定である一方で各細溝の溝幅が該細溝の長手方向の中央側から両端側に向かって大きくなっており、それによって各細溝の断面積が該細溝の長手方向の中央側から両端側に向かって大きくなっており、各細溝の断面積の最小値に対する最大値の比が2.0~10の範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記細溝のタイヤ周方向に対する角度θが0°~60°の範囲にあることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ赤道からタイヤ幅方向外側に向かって接地半幅の50%の位置を中間位置とし、前記タイヤ赤道と前記中間位置との間に規定される領域をセンター領域とし、前記中間位置と接地端との間に規定される領域をショルダー領域としたとき、前記センター領域に帰属する陸部に形成された細溝のタイヤ周方向に対する角度θ1と前記ショルダー領域に帰属する陸部に形成された細溝のタイヤ周方向に対する角度θ2とがθ1<θ2の関係を満足することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部を構成するトレッドゴムのJIS硬度が40~60の範囲にあり、前記トレッド部に形成された各陸部に複数本のサイプを有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
下記式(1)で示されるスノートラクションインデックスSTIが180以上であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
STI=-6.8+2202ρg+672ρs+7.6Dg・・・(1)
但し、ρg:溝密度(mm/mm2)=溝のタイヤ幅方向の延長成分の総長さ(mm)
/接地領域の総面積(mm2
ρs:サイプ密度(mm/mm2)=サイプのタイヤ幅方向の延長成分の総長さ
(mm)/接地領域の総面積(mm2
Dg:平均溝深さ(mm)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷雪路用として好適な空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、トレッド部の陸部の踏面に形成された細溝(マイクログルーブ)の構造を工夫することにより、氷雪路での初期性能を改善することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤに代表される氷雪路用の空気入りタイヤにおいては、一般に、トレッド部にタイヤ周方向に延在する複数本の周方向溝とタイヤ幅方向に延在する複数本のラグ溝とが形成され、これら周方向溝及びラグ溝により多数のブロックが区画されている。更に、各ブロックには複数本のサイプが形成されている。
【0003】
また、氷雪路用の空気入りタイヤでは、トレッド部を構成するゴム組成物に発泡剤や吸水性充填剤等の特殊配合剤が配合されており、トレッド部の摩耗に伴って特殊配合剤が露出することにより、所望の吸水性能やエッジ効果を発揮するようになっている。しかしながら、金型内で成形された新品時のタイヤの表面には特殊配合剤が露出していないため、氷雪路での初期性能を十分に発揮することができない。
【0004】
そこで、このような氷雪路用の空気入りタイヤにおいて、トレッド部に区画された陸部の踏面に細溝(マイクログルーブ)を形成し、これら細溝により氷雪路での初期性能を補完することが提案されている(例えば、特許文献1~5参照)。
【0005】
しかしながら、氷雪路を走行する際にトレッド部の陸部の踏面に形成された細溝内に氷や雪が詰まった状態になると、氷雪路での初期性能の改善効果を必ずしも十分に発揮することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-151221号公報
【文献】特開2006-151237号公報
【文献】特許第4519141号公報
【文献】特許第4557693号公報
【文献】特許第4621011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、トレッド部の陸部に形成された細溝(マイクログルーブ)の構造を工夫することにより、氷雪路での初期性能を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部に複数の陸部が区画され、各陸部の踏面に溝幅が0.1mm~2.0mmで溝深さが0.1mm~2.0mmの範囲にある複数本の細溝が形成され、各細溝の溝深さが一定である一方で各細溝の溝幅が該細溝の長手方向の中央側から両端側に向かって大きくなっており、それによって各細溝の断面積が該細溝の長手方向の中央側から両端側に向かって大きくなっており、各細溝の断面積の最小値に対する最大値の比が2.0~10の範囲にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、トレッド部の各陸部の踏面に溝幅が0.1mm~2.0mmで溝深さが0.1mm~2.0mmの範囲にある複数本の細溝が形成されているので、これら細溝に基づいて氷雪路での初期性能を改善することができる。しかも、各細溝の断面積が該細溝の長手方向の中央側から両端側に向かって大きくなっているので、トレッド部の陸部の表面に滑りが生じた際や、トレッド部の陸部に負荷が掛かって変形する際に、細溝内に入り込んだ氷や雪が細溝の長手方向の中央側から両端側に向かって移動し易くなり、細溝内から氷や雪を効果的に排出することができる。そのため、氷雪路での初期性能の改善効果を十分に発揮することができる。
【0010】
本発明において、各細溝の断面積を変化させる手法として、各細溝の溝幅が該細溝の長手方向の中央側から両端側に向かって大きくなっていることが好ましい
【0011】
細溝のタイヤ周方向に対する角度θは0°~60°の範囲にあることが好ましい。細溝のタイヤ周方向に対する角度θが上記範囲に設定されることにより、氷や雪が細溝内から排出される挙動が妨げられることはない。
【0012】
また、タイヤ赤道からタイヤ幅方向外側に向かって接地半幅の50%の位置を中間位置とし、タイヤ赤道と中間位置との間に規定される領域をセンター領域とし、中間位置と接地端との間に規定される領域をショルダー領域としたとき、センター領域に帰属する陸部に形成された細溝のタイヤ周方向に対する角度θ1とショルダー領域に帰属する陸部に形成された細溝のタイヤ周方向に対する角度θ2とがθ1<θ2の関係を満足することが好ましい。空気入りタイヤが接地する際にトレッド部にはタイヤ幅方向の滑りが生じるが、その滑りはセンター領域よりもショルダー領域で相対的に大きくなるので、ショルダー領域での角度θ2を相対的に大きくすることにより、細溝内から氷や雪を排出する効果を高めることができる。
【0013】
なお、「センター領域に帰属する陸部」とは踏面での面積の50%超がセンター領域に含まれる陸部を意味し、「ショルダー領域に帰属する陸部」とは踏面での面積の50%超がショルダー領域に含まれる陸部を意味する。踏面での面積の50%がセンター領域に含まれ、残りの50%がショルダー領域に含まれる陸部は、いずれか一方の領域に帰属するものとして解釈することができる。
【0014】
本発明において、氷雪路用の空気入りタイヤとしての要求特性を満足するために、トレッド部を構成するトレッドゴムのJIS硬度は40~60の範囲にあり、トレッド部に形成された各陸部には複数本のサイプを有することが好ましい。
【0015】
また、氷雪路用の空気入りタイヤとしての要求特性を満足するために、下記式(1)で示されるスノートラクションインデックスSTIが180以上であることが好ましい。
STI=-6.8+2202ρg+672ρs+7.6Dg・・・(1)
但し、ρg:溝密度(mm/mm2)=溝のタイヤ幅方向の延長成分の総長さ(mm)
/接地領域の総面積(mm2
ρs:サイプ密度(mm/mm2)=サイプのタイヤ幅方向の延長成分の総長さ
(mm)/接地領域の総面積(mm2
Dg:平均溝深さ(mm)
【0016】
本発明において、JIS硬度は、JIS K-6253に準拠して、Aタイプのデュロメータを用いて温度20℃の条件にて測定されるデュロメータ硬さである。また、トレッド部の接地領域は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに測定されるタイヤ軸方向の接地幅に基づいて特定される領域である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2図1の空気入りタイヤのトレッドパターンの要部を示す展開図である。
図3】陸部の踏面に形成された細溝を示す平面図である。
図4】陸部の踏面に形成された細溝(参考例)を示す断面図である。
図5】トレッド部にサイプを備えた空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図4は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。図2において、Tcはタイヤ周方向であり、Twはタイヤ幅方向であり、CLはタイヤ赤道である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0020】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0021】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0022】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0023】
図2に示すように、トレッド部1のタイヤ赤道CLを境とする少なくとも片側の領域には、タイヤ周方向Tcに沿って延在する3本の周方向溝11と、タイヤ幅方向Twに沿って延在する複数本のラグ溝12とが形成されている。これら周方向溝11及びラグ溝12により、トレッド部1には複数の陸部13が区画されている。タイヤ赤道CL上に位置する陸部13はタイヤ周方向に連なったリブ構造を有しているが、それ以外の陸部13はタイヤ周方向に分断されたブロック構造を有している。
【0024】
各陸部13の踏面には、溝幅Wが0.1mm~2.0mmで溝深さDが0.1mm~2.0mmの範囲にある複数本の細溝14(マイクログルーブ)が並列に形成されている。細溝14のピッチは例えば0.3mm~2.2mmの範囲に設定されている。これら細溝14は、氷雪路での初期性能を改善することを目的として、陸部13の表層のみに形成されたものである。図2においては、陸部13の踏面の一部に細溝14が配設された状態が描写されているが、これら細溝14は原則として各細溝13の全域にわたって形成されている。
【0025】
各細溝14の断面積(即ち、細溝14の長手方向と直交する断面における各細溝14の断面積)は、細溝14の長手方向の中央側から両端側に向かって徐々に大きくなっている。各細溝14の断面積を変化させるための手法として、図3に示すように、各細溝14の溝幅Wを細溝14の長手方向の中央側から両端側に向かって徐々に大きくすることができる。この場合、細溝14の長手方向の両端位置で溝幅Wが最大値W1となり、細溝14の長手方向の中央側の位置で溝幅Wが最小値W2となる。また、各細溝14の断面積を変化させるための手法として、図4に示すように、各細溝14の溝深さDを細溝14の長手方向の中央側から両端側に向かって徐々に大きくすることができる。この場合、細溝14の長手方向の両端位置で溝深さDが最大値D1となり、細溝14の長手方向の中央側の位置で溝深さDが最小値D2となる。細溝14の溝幅Wと溝深さDは単独で変化させても良く、或いは、同時に変化させても良い。細溝14の溝幅Wを単独で変化させる場合、細溝14の溝深さDは一定とする。細溝14の溝深さDを単独で変化させる場合、細溝14の溝幅Wは一定とする。
【0026】
上述した空気入りタイヤでは、トレッド部1の各陸部13の踏面に溝幅Wが0.1mm~2.0mmで溝深さDが0.1mm~2.0mmの範囲にある複数本の細溝14が形成されているので、これら細溝14に基づいて氷雪路での初期性能を改善することができる。しかも、各細溝14の断面積が該細溝14の長手方向の中央側から両端側に向かって徐々に大きくなっているので、トレッド部1の陸部13の表面に滑りが生じた際や、トレッド部1の陸部13に負荷が掛かって変形する際に、細溝14内に入り込んだ氷や雪が細溝14の長手方向の中央側から両端側に向かって移動し易くなる。つまり、細溝14内に入り込んだ氷や雪が細溝14の断面積の大きい方に向かって変位し易くなる。これにより、細溝14内から氷や雪を効果的に排出することができる。そのため、細溝14の目詰まりを防止して氷雪路での初期性能の改善効果を十分に発揮することが可能となる。
【0027】
ここで、細溝14の溝幅W又は溝深さDが上記範囲から外れると氷雪路での初期性能を改善する効果が不十分になる。特に、細溝14の溝幅Wは0.5mm~1.5mmの範囲にあり、細溝14の溝深さDは0.5mm~1.5mmの範囲にあると良い。各細溝14の断面積は溝幅W及び溝深さDの少なくとも一方を変化させることで細溝14の長手方向に沿って変化しているが、その際、各細溝14の断面積の最小値に対する最大値の比は、1.1~20の範囲、より好ましくは1.5~10の範囲にあると良い。これにより、細溝14内に詰まった氷や雪を円滑に排出することができる。
【0028】
上記空気入りタイヤにおいて、細溝14のタイヤ周方向Tcに対する角度θ(θ1,θ2)は0°~60°の範囲にあると良い。細溝14のタイヤ周方向Tcに対する角度θが上記範囲に設定されることにより、氷や雪が細溝14内から排出される挙動が妨げられることはない。細溝14のタイヤ周方向Tcに対する角度θが60°よりも大きいと氷や雪が細溝14内から排出され難くなるため、氷雪路での初期性能の改善効果が低下する。
【0029】
上記空気入りタイヤにおいて、図1に示すように、接地幅がTCWであるとき、タイヤ赤道CLにより区分される接地半幅はTCW/2となる。図2に示すように、タイヤ赤道CLからタイヤ幅方向Twの外側に向かって接地半幅TCW/2の50%の位置を中間位置Pmとし、タイヤ赤道CLと中間位置Pmとの間に規定される領域をセンター領域Aceとし、中間位置Pmと接地端Eとの間に規定される領域をショルダー領域Ashとしたとき、センター領域Aceに帰属する陸部13に形成された細溝14のタイヤ周方向Tcに対する角度θ1とショルダー領域Ashに帰属する陸部13に形成された細溝14のタイヤ周方向Tcに対する角度θ2とがθ1<θ2の関係を満足することが好ましい。空気入りタイヤが接地する際にトレッド部1には路面に対してタイヤ幅方向Twの滑りが生じるが、その滑りはセンター領域Aceよりもショルダー領域Ashで相対的に大きくなる。そのため、ショルダー領域Ashでの角度θ2を相対的に大きくすることにより、細溝14内から氷や雪を排出する効果を高めることができる。
【0030】
図5はトレッド部1にサイプ15を備えた空気入りタイヤのトレッドパターンを示すものである。図5において、図2と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。図5に示すように、トレッド部1に形成された各陸部13には複数本のサイプ15が形成されている。サイプ15の構造は特に限定されるものではないが、例えば、踏面においてジグザグ状をなす3次元構造を有するものであると良い。また、図5ではサイプ15の理解を容易にするために細溝14の描写が省略されているが、各陸部13の踏面には複数本の細溝14が形成されている。サイプ15は溝幅が2.0mm以下であって溝深さが4mm~10mmの範囲に設定されている。つまり、サイプ15は表層のみに存在する細溝14に比べて十分に深いものである。このようにトレッド部1に形成された各陸部13に複数本のサイプ15を形成することにより、氷雪路用の空気入りタイヤとしての要求特性を十分に発揮することができる。
【0031】
上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1を構成するトレッドゴムのJIS硬度は40~60の範囲、より好ましくは、45~55の範囲に設定されることが好ましい。トレッド部1を構成するトレッドゴムのJIS硬度を上記のような範囲に設定した場合、トレッド部1が路面に対して柔軟に追従するため氷雪路用(スタッドレスタイヤ)として好適である。また、トレッド部1を構成するゴム組成物には発泡剤や吸水性充填剤等の特殊配合剤が配合されることが好ましい。この場合、トレッド部1の摩耗に伴って特殊配合剤が露出することにより、所望の吸水性能やエッジ効果を発揮することができる。更に、上記空気入りタイヤにおいて、スノートラクションインデックスSTIは180以上、より好ましくは、180~240の範囲に設定されることが好ましい。スノートラクションインデックスSTIを上記のような範囲に設定することにより、氷雪路用の空気入りタイヤとして優れた性能を発揮することができる。
【0032】
上述した実施形態では、タイヤ赤道CLを境とする片側の領域について詳細に説明したが、残りの片側の領域における溝配置は特に限定されるものではない。しかしながら、タイヤ赤道CLの両側で鏡面対称の溝配置、或いは、その鏡面対称の溝配置をタイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向にずらした溝配置を採用することは有効である。
【実施例
【0033】
タイヤサイズ205/55R16 91Tで、トレッド部と一対のサイドウォール部と一対のビード部とを備え、トレッド部を構成するトレッドゴムのJIS硬度が50であり、スノートラクションインデックスSTIが200である空気入りタイヤにおいて、図1図5に示すように、トレッド部に複数の陸部が区画され、各陸部に複数本のサイプが形成されると共に、各陸部の踏面に複数本の細溝が形成され、各細溝の断面積が該細溝の長手方向の中央側から両端側に向かって大きくなっており、各細溝の溝幅の最大値W1と最小値W2と比W1/W2、各細溝の溝深さの最大値D1と最小値D2と比D1/D2、センター領域における細溝のタイヤ周方向に対する角度θ1、ショルダー領域における細溝のタイヤ周方向に対する角度θ2を表1のように設定した実施例1~9及び比較例1,2のタイヤを製作した。本明細書において、実施例2,4,9は参考例である。
【0034】
比較のため、細溝の溝幅及び溝深さを該細溝の長手方向に沿って一定にしたこと以外は実施例1と同じ構造を有する従来例のタイヤを用意した。
【0035】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、氷上制動性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0036】
氷上制動性能:
試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて排気量2000ccの普通乗用車に装着し、ウォームアップ後の空気圧を200kPaとし、氷路面からなるテストコースにおいて速度20km/hでの走行状態からABS制動を行い、その制動距離を測定した。評価結果は、計測値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど氷上制動性能が優れていることを意味する。
【0037】
【表1】
【0038】
この表1から判るように、実施例1~9のタイヤは、従来例との対比において、氷上制動性能を改善することができた。また、比較例1,2のタイヤは、細溝の寸法が大き過ぎるため氷上制動性能の改善効果が十分に得られなかった。
【符号の説明】
【0039】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
11 周方向溝
12 ラグ溝
13 陸部
14 細溝
15 サイプ
CL タイヤ赤道
E 接地端
図1
図2
図3
図4
図5