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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】鉄筋継手用カプラー
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/18 20060101AFI20220119BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
E04C5/18 102
E04G21/12 105E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017173360
(22)【出願日】2017-09-08
(65)【公開番号】P2019049125
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克也
(72)【発明者】
【氏名】川上 季伸
(72)【発明者】
【氏名】武田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】片野 啓三郎
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0036049(US,A1)
【文献】特開2017-043898(JP,A)
【文献】特開平08-135092(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117384(WO,A1)
【文献】特開昭53-004318(JP,A)
【文献】特開2013-147923(JP,A)
【文献】特開平01-165856(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103216044(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/16-5/18
E04G 21/12
F16B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管よりなり、その中空部に、鉄筋が端部開口より挿入されるとともに、グラウト材が充填される鉄筋継手用カプラーであって、
外周面及び前記中空部を形成する内周面にそれぞれ、該内周面及び前記外周面を被覆する接着剤と、該接着剤にて保持された粒状体よりなる粗面を備え、
前記接着剤に防錆被膜として機能する膜厚を確保することを特徴とする鉄筋継手用カプラー。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄筋継手用カプラーにおいて、
前記粒状体が、珪砂であることを特徴とする鉄筋継手用カプラー。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄筋継手用カプラーにおいて、
前記中空部の断面径が、中空軸方向に異なることを特徴とする鉄筋継手用カプラー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄筋継手用カプラーにおいて、
前記接着剤が、ポリビニルブチラールを主成分とするポリビニルブチラール樹脂であることを特徴とする鉄筋継手用カプラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋どうしをモルタル充填型機械式継手にて接合する際に用いる鉄筋継手用カプラーに関する。
【背景技術】
【0002】
カプラーを用いて鉄筋同士を接合する機械式継手のなかでも、モルタル充填型機械式継手は、鉄筋どうしの軸芯に施工誤差による位置ズレが生じていても、現場にてこれを容易に吸収できる継手として、一般に広く用いられている。このようなモルタル充填型機械式継手に採用されるカプラーには、その中空部に充填されるモルタルに対するカプラーの付着性能を高めるための凹凸が、中空部を形成する内周面に設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セメント質充填物が充填される接合鋼管を用いて異形鉄筋を接合するにあたり、通常の鋼管をロールによりプレスして内外面に凹凸を備えた接合鋼管を製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、ダクタイル鋳鉄から鋳造され、内部に複数の内周突起を備えた円筒状のスリーブ本体よりなる、モルタル充填式鉄筋継手スリーブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭50-146317号公報
【文献】特開平08-218556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、通常の鋼管を外周面から押し込んで塑性変形させることにより内周面に凹凸形状を設けて付着性能を高めた接合鋼管を製造する場合、その凹凸形状は緩やかでかつ大きな起伏形状に成形される。このため、接合鋼管に用いる凹凸形状を設ける前の鋼管には、起伏の大きさを考慮して断面径の大きいものを採用せざるを得ず、材料コストが増大するとともに、施工性に劣る。また、凹凸形状の起伏が緩やかであることに伴い、中空部に充填されるモルタルに対して接合鋼管の付着性能が劣る場合が多い。
【0006】
一方、特許文献2のように、鋳造にて内周突起を備えたスリーブを製造する場合、これら内周突起に対応する凹部を表面に設けた中子を用意する必要があり、製造コストが増大しやすい。また、鋳造品は最小部材厚に制限があることから、細径鉄筋を接合するためのスリーブであっても、太径鉄筋を接合するためのスリーブと同程度の鋼材量を必要とするため、接合しようとする鉄筋径によっては不経済となりやすい。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、経済的かつ簡略な構成で、接合しようとする鉄筋に適した大きさの鉄筋継手用カプラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の鉄筋継手用カプラーは、鋼管よりなり、その中空部に、鉄筋が端部開口より挿入されるとともに、グラウト材が充填される鉄筋継手用カプラーであって、外周面及び前記中空部を形成する内周面にそれぞれ、該内周面及び前記外周面を被覆する接着剤と、該接着剤にて保持された粒状体よりなる粗面を備え、前記接着剤に防錆被膜として機能する膜厚を確保することを特徴とする。
【0009】
上述する本発明の鉄筋継手用カプラーによれば、内周面に備えた粗面を介して、中空部に充填されたグラウト材を鉄筋継手用カプラーに対して強固に付着させることができる。これにより、グラウト材に対する付着性能を高めるべく、鋼管に塑性変形を生じさせるような加工を施したり鋳造で製作するなどして、内周面に形成していた凹凸形状やリブを省略できる。したがって、鉄筋継手用カプラーに、中空軸方向に一様な筒状体を採用することができるとともに、大幅な小径化を図ることが可能となる。
【0010】
このように小径化された鉄筋継手用カプラーを用いて鉄筋を接合し、これを鉄筋コンクリート造の躯体に採用すると、鉄筋からコンクリート表面に至るコンクリートのかぶり厚を小さくできる。これにより、鉄筋コンクリート造の躯体に対して、経済的な断面設計を行うことができ、施工費や材料費を大幅に削減することが可能となる。
【0011】
さらに、内周面に形成していた凹凸形状やリブを省略し、中空軸方向に一様な筒状体を採用できることから、一般市場に流通している鋼管を適用することも可能となる。したがって、接合しようとする鉄筋の節径に応じて、必要最小限の中空部断面径を有する鋼管を適宜選択し、これを鉄筋継手用カプラーに採用すればよく、無駄な材料費を投じることなくコストを大幅に低減することが可能となるだけでなく、鉄筋継手用カプラーの少量調達も可能となる。また、外周面に粗面を備える鉄筋継手用カプラーにて接合した鉄筋を、鉄筋コンクリート造の躯体に採用することにより、鉄筋と同程度のコンクリートに対する付着性能を、鉄筋継手用カプラーにも確保することが可能となる。
【0012】
また、本発明の鉄筋継手用カプラーは、前記粒状体が、珪砂であることを特徴とする。
【0013】
上述する本発明の鉄筋継手用カプラーによれば、前記粒状体に珪砂を用いることから、安価で安定的に入手しやすいとともに、適した粒度分布の珪砂を選択することにより、接着剤に粒状体を吹き付けて粗面を形成する際に、接着剤の内側に入り込む部分と外側に突出する部分とをバランスよく分布させて、粗面の表面に適切な高さの微細突起を設けることが可能となる。
【0014】
本発明の鉄筋継手用カプラーは、前記中空部の断面径が、中空軸方向に異なることを特徴とする。
【0015】
上述する本発明の鉄筋継手用カプラーによれば、内周面に粗面を備えるとともに、中空部の断面径を中空軸方向に異ならせるような凹凸形状やリブ等を内周面に備えることにより、両者が相まって中空部に充填されたグラウト材に対する付着性能をより向上させることが可能となる。また、中空部の断面径を中空軸方向に異ならせるような凹凸形状やリブは、その起伏量を小さくできるため、鉄筋を端部開口から中空部へ挿入しやすくでき、施工性を大幅に向上することも可能となる。
【0018】
本発明の鉄筋継手用カプラーは、前記接着剤が、ポリビニルブチラールを主成分とするポリビニルブチラール樹脂であることを特徴とする。
【0019】
上述する本発明の鉄筋継手用カプラーによれば、ポリビニルブチラール樹脂が所定の膜厚を確保することで防錆被膜として機能することから、鉄筋継手用カプラーに高い耐食性能を付与することができる。したがって、例えば臨海部等の塩化物に晒される環境に建設されるコンクリート構造物の鉄筋継手として、使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鉄筋継手用カプラーの内周面に接着剤にて保持された粒状体よりなる粗面を備えるのみの簡略な構成にて、中空部に充填されたグラウト材に対する付着性能を向上できる。これにより、鉄筋継手用カプラーは、その内周面に形成していた凹凸形状やリブを省略して、接合しようとする鉄筋の節径に応じた中空部断面径を備える最小限の形状とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態における鉄筋継手用カプラーを用いたモルタル充填型の機械式継手にて鉄筋を接合した様子を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における鉄筋継手用カプラーの内周面に設けた粗面を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における粗面の製造方法を示す図である(その1)。
図4】本発明の実施の形態における粗面の製造方法を示す図である(その2)。
図5】本発明の実施の形態における鉄筋継手用カプラーの性能を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における鉄筋継手用カプラーの他の実施の形態を示す図である(その1)。
図7】本発明の実施の形態における鉄筋継手用カプラーの他の実施の形態を示す図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明における鉄筋継手用カプラーは、モルタル充填型機械式継手にて、鉄筋を接合する際に用いるものであり、中空部を形成する内周面に粒状体を利用した粗面を設けることで、中空部に充填されるグラウト材に対する鉄筋継手用カプラーの付着性能を確保するものである。以下に、本実施の形態における鉄筋継手用カプラーを、図1図7を参照しつつ説明する。
【0023】
鉄筋継手用カプラー1は、図1で示すように、両端が開口し、中空部の断面径が中空軸方向に変化のない一様な鋳造品や鋼管等の筒状体であり、本実施の形態では、一般市場に流通している鋼管を採用している。そして、鉄筋継手用カプラー1の中空部を形成する内周面には、粗面2が設けられている。
【0024】
粗面2は、図2(a)(b)で示すように、鉄筋継手用カプラー1の内周面を被覆する接着剤3と、この接着剤3にて保持された粒状体4とにより形成される。
【0025】
接着剤3は、鉄筋継手用カプラー1の内周面になじみよく接着し、かつ粒状体4を保持することの可能な材料であれば、例えばエポキシ樹脂等、いずれを採用してもよいが、本実施の形態では、ポリビニルブチラール樹脂を採用している。ポリビニルブチラール樹脂は、金属やガラス等様々な基材に対して高い接着性を有するポリビニルブチラールを主成分とする接着剤であり、金属の表面を被膜する際に、所定量の膜厚を確保することにより、防錆剤としても機能する材料である。
【0026】
一方、粒状体4は、例えばガラスビーズや製鋼スラグ等、粒径が0.3mm未満で硬質な粒状材であれば、いずれを採用することも可能であるが、本実施の形態では、SiO2を主成分とする粒状の鉱物である珪砂を採用している。
【0027】
これら接着剤3と粒状体4とは、いずれの態様にて粗面2を形成するものであってもよいが、本実施の形態では、2種類の態様の粗面2をその製造方法と併せて、以下に例示する。
【0028】
<第1の実施の形態>
図2(a)で示す粗面2は、鉄筋継手用カプラー1の内周面を被覆する接着剤3の表面に、粒状体4を固着してなるものである。その製造方法は、図3(a)で示すように、鉄筋継手用カプラー1を、容器22に貯留させた接着剤3に漬け込み、少なくとも内周面を接着剤3にて被覆する。
【0029】
その後、図3(b)で示すように、接着剤3に粒状体4を固着できる程度の噴射圧力をもって、吹付ノズル21にて粒状体4を噴射させて、接着剤3の表面に粒状体4を吹付ける。この状態で、接着剤3を硬化させることにより、粒状体4を固着させて粗面2を形成する。
【0030】
ここで、発明者らは鋭意検討の結果、粒状体4を接着剤3に対して吹付ノズル21にて吹付ける方法にて粗面2を形成する場合には、粒状体4として8号珪砂を採用することが好適であるとの知見を得ている。
【0031】
これは、8号珪砂が、粒径0.15mm未満であって粒径0.05mm以上の粒子が70%以上占める粒度分布を有するため、接着剤3に対して吹き付けた際に、接着剤3の内側に入り込む部分と接着剤3の外側に突出する部分とを、バランスよく形成することができる。これにより、適切な高さの微細突起を表面に備えた粗面2を形成できるとともに、摩擦が作用した際の粒状体4の離脱を最小限に抑えることができるものである。
【0032】
なお、接着剤3の表面に粒状体4を固着させてなる粗面2の製造方法は、必ずしも上記の方法に限定されるものではない。例えば、図3(c)で示すように、鉄筋継手用カプラー1の内周面に接着剤3を、吹付ノズル21を介して吹付けたりもしくは塗布した後、接着剤3の表面に粒状体4を散布するとともに押圧力を作用させて、粒状体4を接着剤3に固着させてもよい。
【0033】
<第2の実施の形態>
図2(b)で示す粗面2は、鉄筋継手用カプラー1の内周面に、粒状体4を混入させた接着剤3を被覆してなるものである。その製造方法もいずれでもよいが、例えば、図4(a)で示すように、接着剤3に粒状体4を混入して混合撹拌した混合物5を容器22に貯留させておき、この容器22内に鉄筋継手用カプラー1を漬け込んで、少なくとも内周面に混合物5を付着させる。
【0034】
この後、混合物5を硬化させて、鉄筋継手用カプラー1の内周面に粗面2を形成する。この場合、鉄筋継手用カプラー1の外周面に付着した混合物5は、付着させたまま放置してもよいし、洗浄してもよい。
【0035】
他の製造方法としては、例えば、図4(b)で示すように、あらかじめ接着剤3に粒状体4を混合撹拌して製作した混合物5を、鉄筋継手用カプラー1の内周面に吹付ノズル21を介して、混合物5が鉄筋継手用カプラー1の内周面に付着できる程度の噴射圧力をもって吹き付けた後、硬化させてもよい。
【0036】
上記のように製作された鉄筋継手用カプラー1には、図1で示すように、接合しようとする2本の鉄筋7それぞれの端部が、端部開口から中空部に挿入されるとともに、これら端部開口と鉄筋7との間の隙間がゴムキャップや間詰め材等の閉塞材(図示せず)により閉塞される。また、端部開口が閉塞された鉄筋継手用カプラー1の中空部には、鉄筋継手用カプラー1の側面に設けたグラウト充填孔11からグラウト材6が注入される。この後、鉄筋継手用カプラー1の中空部を充填したグラウト材6が硬化すると、2本の鉄筋7が、鉄筋継手用カプラー1を用いたモルタル充填型機械式継手にて接合される。
【0037】
なお、鉄筋継手用カプラー1を用いたモルタル充填型機械式継手にて接合することの可能な鉄筋7は、外周面に例えば節状等の凹凸が形成された鉄筋であれば、異形鉄筋やねじ節鉄筋等、いずれの鉄筋でもよい。また、鉄筋継手用カプラー1の中空部に充填されるグラウト材6についても、一般にモルタル充填型機械式継手に採用されているセメント系硬化材であれば、無収縮モルタルや膨張モルタル等、いずれを採用することも可能である。
【0038】
このような、粗面2が設けられた鉄筋継手用カプラー1を用いて、モルタル充填型機械式継手により接合された鉄筋7の一方に、例えば図5(a)で示すような、引張方向の外力が作用すると、その外力は、まず、鉄筋7の節部71を介してグラウト材6に支圧力として伝達される。次に、グラウト材6から鉄筋継手用カプラー1に伝達されて、この後、グラウト材6を介して他方の鉄筋7に伝達される。
【0039】
このとき、鉄筋継手用カプラー1には、その内周面に粗面2が形成されており、グラウト材6に対する付着性能が高められている。これにより、接続された鉄筋7の一方に作用された外力を、鉄筋継手用カプラー1を介してスムーズに他方の鉄筋7に伝達することが可能となる。
【0040】
したがって、鉄筋継手用カプラー1に対して、従来のように、塑性変形を生じさせるような加工を施して鋼管に凹凸形状を設けたり、鋳造で製作して内周面にリブを設ける必要がない。このため、鉄筋継手用カプラー1は、図5(a)で示すように、中空部断面径L1として少なくとも必要最小限の径長、つまり、鉄筋7の節部71の径L2に製造誤差を加算した数量と粗面2の層厚L3とを足し合わせた長さを確保すればよい。
【0041】
また、一般に鉄筋7の節部71を介してグラウト材6に支圧力が伝達されると、グラウト材6は、鉄筋継手用カプラー1に向かう横膨張変形を生じるが、このとき、鉄筋継手用カプラー1による拘束効果が機能し、グラウト材6に対する付着強度が向上することが知られている。
【0042】
そして、本実施の形態では、鉄筋継手用カプラー1を構成する鋼管として上記のとおり、接合しようとする鉄筋7の節径L2に応じた必要最小限の中空部断面径L1を有する鋼管を採用している。すると、粗面2と鉄筋7の節部71との隙間も短小化されるため、鉄筋継手用カプラー1によるグラウト材6の拘束効果がより効率よく機能し、グラウト材6に対する付着強度をさらに高めることが可能となる。
【0043】
このように、鉄筋継手用カプラー1は、接合しようとする鉄筋7の節径L2に応じて、必要最小限の中空部断面径L1を有する筒状体であればよく、その形状は製造方法に制限を受けることもないため、モルタル充填型機械式継手に用いられている従来のカプラーと比較して、大幅な小径化を図ることが可能となる。
【0044】
また、鉄筋継手用カプラー1の内周面に対して凹凸形状やリブを省略できることにより、一般市場に流通している鋼管の中から、接合しようとする鉄筋7の節径L2に応じて必要最小限の中空部断面径L1を有する鋼管を選択し、これを鉄筋継手用カプラー1に採用することができる。これにより、無駄な材料費を投じることなくコストを大幅に低減することが可能となるだけでなく、鉄筋継手用カプラー1の少量調達も可能となる。
【0045】
このような構成の鉄筋継手用カプラー1を用いて鉄筋7を接合し、これを例えば、図5(b)で示すような、鉄筋コンクリート造の躯体24に用いると、モルタル充填型機械式継手に用いられている従来のカプラーを用いる場合と比較して、鉄筋7からコンクリート23の打設面に至るコンクリート23のかぶり厚L4を小さくできる。これにより、鉄筋コンクリート造の躯体24に対して、経済的な断面設計を行うことができ、施工費や材料費を大幅に削減することが可能となる。
【0046】
本発明のモルタル充填型の機械式継手に用いる鉄筋継手用カプラー1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0047】
例えば、本実施の形態では、鉄筋継手用カプラー1の内周面にのみ粗面2を設けたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、図6(a)で示すように、内周面と外周面の両者を、第2の実施の形態で例示したような、粒状体4を混入させた接着剤3にて被覆し、粗面2を設けてもよい。
【0048】
この場合には、図4(a)を参照して前述したように、粒状体4と接着剤3を混合撹拌させた混合物5を貯留した容器22に、鉄筋継手用カプラー1を漬け込めばよい。その後、外周面の洗浄を行なわずに混合物5を硬化させることにより、鉄筋継手用カプラー1には、その内外周面に粗面2が形成される。もしくは、図4(b)を参照して前述したような、吹付ノズル21による混合物5の吹付け工程を、鉄筋継手用カプラー1の内外周面に行うとよい。
【0049】
このような、外周面にも粗面2を備えた鉄筋継手用カプラー1を用いて接合した鉄筋7を、図5(b)で示すような、鉄筋コンクリート造の躯体24を構築する場合に採用すると、鉄筋継手用カプラー1のコンクリート23に対する付着性能を向上させることが可能となる。
【0050】
なお、鉄筋継手用カプラー1の内外周面に形成される粗面2は、必ずしも図6(a)で示すような、内外周面ともに、粒状体4が混入された接着剤3よりなる粗面2でなくてもよい。つまり、内外周面ともに図2(a)で示すような、接着剤3の表面に粒状体4を固着させた粗面2であってもよいし、内周面に、接着剤3に混入された粒状体4よりなる粗面2が設けられる一方で、外周面には、接着剤3の表面に粒状体4を固着させた粗面2が設けれていてもよい。
【0051】
また、前述したように、接着剤3として使用しているポリビニルブチラール樹脂は、所定の膜厚を確保することにより防錆被膜として機能する。よって、例えば、図6(b)で示すように、鉄筋継手用カプラー1の外周面には粗面2を備えず、接着剤3よりなる防錆被膜を設けてもよい。なお、防錆被膜として機能する膜厚としては、220±40μmを確保することが好ましい。
【0052】
さらには、鉄筋継手用カプラー1の内周面や外周面に設ける粗面2において、接着剤3に防錆被膜として機能する膜厚を確保して、粗面2に耐食性能を付与してもよい。こうすると、鉄筋継手用カプラー1全体に高い耐食性能を付与することができることから、例えば臨海部等の塩化物に晒される環境に建設されるコンクリート構造物の鉄筋継手として、使用することが可能となる。
【0053】
また、本実施の形態では、鉄筋継手用カプラー1に、中空部断面径L1が一様な鋼管を採用したが、必ずしもこれに限定されるものではない。内周面に接着剤3と粒状体4よりなる粗面2を形成でき、かつ中空部に充填されるグラウト材6に対して拘束効果を生じさせる程度の剛性を有する筒状体であれば、中空部断面径L1が中空軸方向に異なる鋼管等、いずれの筒状体を採用してもよい。
【0054】
具体的には、従来より鉄筋継手に用いられている、図7(a)で示すような転造ねじ加工により製造された凹凸形状を備える筒状体や、図7(b)で示すような、中央部近傍に膨出部を備えた筒状体が、事例として挙げられる。
【0055】
なかでも、図7(a)で示すような、緩やかな凹凸形状を有する筒状体の内周面に粗面2を設けて鉄筋継手用カプラー1とすると、粗面2と凹凸形状の両者が相まって中空部に充填されたグラウト材6を、より強固に鉄筋継手用カプラー1に対して付着させることができる。したがって、鉄筋継手用カプラー1における凹凸形状の起伏量を小さくすることも可能であり、こうすると、鉄筋7を端部開口から中空部へ挿入しやすくなり、施工性を大幅に向上することが可能となる。
【0056】
さらに、鉄筋継手用カプラー1の断面形状も円形に限定されるものではなく、角型や多角形等、いずれを採用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 鉄筋継手用カプラー
11 グラウト材注入口
2 粗面
3 接着剤
4 粒状体
5 混合物
6 グラウト材
7 鉄筋
71 節部

21 吹付ノズル
22 容器
23 コンクリート
24 鉄筋コンクリート造の躯体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7