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特許7009868スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびスタッドレスタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびスタッドレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20220119BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20220119BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220119BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L71/02
B60C1/00 A
B60C11/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017181709
(22)【出願日】2017-09-21
(65)【公開番号】P2018123298
(43)【公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2017015040
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】三原 諭
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-309976(JP,A)
【文献】米国特許第08883884(US,B2)
【文献】特開2016-216658(JP,A)
【文献】特開2015-085864(JP,A)
【文献】特表2011-513559(JP,A)
【文献】特開2010-215855(JP,A)
【文献】特開2012-036351(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0184387(US,A1)
【文献】特開平11-158293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/MARPAT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対する接触角が40°以上100°未満であるトレッド部を有し、該トレッド部を構成するゴム組成物が、ジエン系ゴム100質量部、以下の式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルを1~25質量部を含むことを特徴とするスタッドレスタイヤ。
【化1】
(式(1)において、R 1 ~R 8 は互いに独立して水素または炭素数4~25のアシル基であり、R 1 ~R 8 のうち、水素およびアシル基がそれぞれ1つ以上である。AOは炭素数2~6のアルキレンオキシド、nは2~10の整数である。)
【請求項2】
ジエン系ゴム100質量部、以下の式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルを1~25質量部を含み、かつ水に対する接触角が40°以上100°未満であることを特徴とするスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【化2】
(式(1)において、R1~R8は互いに独立して水素または炭素数4~25のアシル基であり、R 1 ~R 8 のうち、水素およびアシル基がそれぞれ1つ以上である。AOは炭素数2~6のアルキレンオキシド、nは2~10の整数である。)
【請求項3】
前記式(1)中のR1~R8が、互いに独立して水素または炭素数6~22のアシル基であり、R 1 ~R 8 のうち、水素およびアシル基がそれぞれ複数であることを特徴とする請求項2に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記式(1)中のAOが、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドであることを特徴とする請求項2または3に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項2~3のいずれかに記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物からなるトレッド部を有するスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷上性能を改良するスタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの氷上性能を向上するには、タイヤを構成するゴムの貯蔵弾性率(E′)や損失正接(tanδ)などの物理的特性を改質し摩擦係数を大きくしたり、親水性/撥水性などの化学的特性を改質し水膜除去性や排水性を改良したりすることがある。近年ゴムの化学的特性の改質に用いる物質をゴム表面に塗布したり、表面に化学的な処理を施したり、ゴムに添加剤を配合するなどの手法が提案されている。
【0003】
特許文献1は、ゴム組成物にフッ素およびケイ素含有界面活性剤を配合することにより、撥水性を発揮させ、氷上性能およびウェット性能を改良することを提案している。特許文献2は、ゴム成分に、粒状体物質およびグルコースに第1級アルコールを反応させてなるアルキル基変性糖誘導体を配合することにより、氷上性能、耐摩耗性および耐カットチップ性を改良することを提案している。しかし、氷上性能を高くすることを求める需要者の期待はより大きく、氷上性能を一層改善することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-35727号公報
【文献】特開2010-215855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、氷上性能を改良するスタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびスタッドレスタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のスタッドレスタイヤは、水に対する接触角が40°以上100°未満であるトレッド部を有し、該トレッド部を構成するゴム組成物が、ジエン系ゴム100質量部、以下の式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルを1~25質量部を含むことを特徴とする。
【化1】
(式(1)において、R 1 ~R 8 は互いに独立して水素または炭素数4~25のアシル基であり、R 1 ~R 8 のうち、水素およびアシル基がそれぞれ1つ以上である。AOは炭素数2~6のアルキレンオキシド、nは2~10の整数である。)
【0007】
上記目的を達成する本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部、以下の式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルを1~25質量部を含み、かつ水に対する接触角が40°以上100°未満であることを特徴とする。
【化2】
(式(1)において、R1~R8は互いに独立して水素または炭素数4~25のアシル基であり、R 1 ~R 8 のうち、水素およびアシル基がそれぞれ1つ以上である。AOは炭素数2~6のアルキレンオキシド、nは2~10の整数である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のスタッドレスタイヤは、トレッド部における水に対する接触角を40°以上100°未満にしたので、水に対する濡れ性を良化し氷上の水膜除去を容易にし、氷上性能を向上することができる。
【0009】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に特定のショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルを1~25質量部配合すると共に、水に対する接触角を40°以上100°未満にしたので、氷上性能を従来レベル以上に向上することができる。
【0010】
また前記式(1)において、R1~R8は互いに独立して水素または炭素数6~22のアシル基であることが好ましく、AOが、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドであることが好ましい。
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物からなるトレッド部を有するスタッドレスタイヤは、氷上性能を従来レベル以上に向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のスタッドレスタイヤは、水に対する接触角が40°以上100°未満であるトレッド部を有する。トレッド部の水に対する接触角が40°未満であると、氷上性能が却って悪化する。またトレッド部の水に対する接触角が100°以上であると、氷上性能を改良することができない。
【0012】
このトレッド部は、水に対する接触角が40°以上100°未満であるタイヤ用ゴム組成物により形成することができる。タイヤ用ゴム組成物の水に対する接触角が40°以上100°未満にするには、後述する式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルや、アクリル系液状ポリマー、等を配合することにより調整することができる。式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルついて後述する。
【0013】
アクリル系液状ポリマーは、アクリル系モノマーだけから(共)重合された室温で液状であり、ジエン系ゴムに相溶しない低分子ポリマーをいう。アクリル系モノマーとしては、メチルアクリレート、アルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレート、アクリル酸、アクリル酸グリシジル、アルコキシシリルアクリレート、アミノアルキルアクリレート、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸ビニル、等を例示することができる。またアクリル系液状ポリマーのガラス転移温度は好ましくは-30℃以下、より好ましくは-100~-30℃であるとよい。
【0014】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を組成するジエン系ゴムは、特に限定されるものではなく、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム等が挙げられる。なかでも天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムが好ましく、天然ゴム、ブタジエンゴムがより好ましい。これらジエン系ゴムは、その分子鎖の末端および/または側鎖がエポキシ基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シリル基、アミド基等により、変性された変性ジエン系ゴムでもよい。
【0015】
上述したジエン系ゴムの平均ガラス転移温度は-50℃以下であることが好ましく、更に好ましくは-60℃~-100℃であると良い。ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度を-50℃以下にすることにより、低温下でのゴムコンパウンドのしなやかさを維持し、氷面に対する凝着力を高くするので、スタッドレスタイヤのトレッド部に好適に使用することができる。なお本明細書においてガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度とする。また、ジエン系ゴムが油展品であるときは、油展成分(オイル)を含まない状態におけるジエン系ゴムのガラス転移温度とする。また、平均ガラス転移温度とは、各ジエン系ゴムのガラス転移温度に各ジエン系ゴムの質量分率を乗じた合計(ガラス転移温度の加重平均値)である。なお、すべてのジエン系ゴムの質量分率の合計を1とする。
【0016】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、以下の式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルを含有する。
【化2】
(式(1)において、R1~R8は互いに独立して水素または炭素数4~25のアシル基、AOは炭素数2~6のアルキレンオキシド、nは2~10の整数である。)
【0017】
式(1)において、R1~R8は互いに独立して水素または炭素数4~25のアシル基である。式(1)中のR1~R8は、水素およびアシル基がそれぞれ1つ以上であり、それぞれ複数であることが好ましい、より好ましくはR1~R8のうち2~4個のRが炭素数4~25のアシル基であるとよい。R1~R8が水素であることにより、シリカとの親和性を良好にすることができる。またR1~R8が比較的大きな炭素数のアシル基であることにより、ジエン系ゴムに対する親和性を確保し、ショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルを配合したとき、ゴム表面にブリードアウトするのを抑制する。R1~R8の炭素数が4未満であると、ショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルがゴム表面にブリードアウトし、氷上性能が却って低下する。
【0018】
アシル基としてのR1~R8は、炭素数3~24のアルキル基(R′)を有するカルボン酸(R′COOH)に由来するアシル基(R′CO-)と記載することができる。炭素数3~24のアルキル基(R′)として、例えばプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコセン、トリイコシル、テトタイコシル、ペンタイコシル、ヘキサイコシル、ヘプタイコシル、オクタイコシル、ノナコセン、トリアコンテンを例示することができる。好ましくはウンデシル、ヘプタデシル、ドデシル、オクタデシル、等が挙げられる。
【0019】
式(1)において、AOは炭素数2~6のアルキレンオキシドであり、その炭素数は2~4が好ましく、より好ましくは2~3である。AOは、好ましくはエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド、より好ましくはエチレンオキシドである。また、nは2~10の整数であり、好ましくは3~8、より好ましくは3~5の整数である。AOおよびnをこのような範囲内にすることにより、ショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルの親水性およびジエン系ゴムへの親和性を両立することができる。
【0020】
前記式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルとしては、ショ糖エチレンオキシドラウリン酸エステル、ショ糖エチレンオキシドステアリン酸エステル、等を例示することができる。これらのショ糖エチレンオキシド脂肪酸エステルは、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の水に対する濡れ性を良化し、氷上の水膜の除去を容易にし氷上性能を向上することができる。またジエン系ゴムと適度に親和性を有するため、ゴム表面に過度にブリードアウトすることがない。
【0021】
前記式(1)で表されるショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルは、ジエン系ゴム100質量部に対し1~25質量部、好ましくは2~15質量部、より好ましくは3~10質量部配合する。ショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルの配合量が1質量部未満であると、氷上性能を改良する効果が十分に得られない。またショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルの配合量が25質量部を超えると、氷上性能が低下するときがある。
【0022】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、水に対する接触角が40°以上100°未満であることが必要である。水に対する接触角は、好ましくは50°~98°、より好ましくは60°~95°であるとよい。水に対する接触角が40°未満、または100°を超えると、氷上性能を改良する効果が得られない。
【0023】
本明細書において、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の水に対する接触角は、ゴム組成物を加硫成形したシート状試料を作成し、JIS R3257に準拠し、純水を滴下し形成された水滴における30秒後の接触角をθ/2法により測定するものとする。
【0024】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を含有する。カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび白色充填剤の合計で30~100質量部、好ましくは40~90質量部、より好ましくは45~80質量部である。カーボンブラックおよび白色充填剤の配合量を30質量部以上にすることによりゴム組成物の機械的特性を改良し耐摩耗性を向上することができる。またカーボンブラックおよび白色充填剤の配合量を100質量部以下にすることにより、ゴム組成物のしなやかさを維持し氷上性能を確保することができる。またタイヤにしたとき重量の増加を抑制することができる。
【0025】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラックおよび/またはシリカを配合することができる。カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、HMF、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは70~240m2/g、より好ましくは90~200m2/gであるとよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積を70m2/g以上にすることにより、ゴム組成物の機械的特性および耐摩耗性を確保することができる。またカーボンブラックの窒素吸着比表面積を240m2/g以下にすることにより、氷上性能を良好にすることができる。本明細書において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2に準拠して、測定するものとする。
【0026】
シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。シリカのCTAB吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは80~260m2/g、より好ましくは140~200m2/gであるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積を80m2/g以上にすることにより、ゴム組成物の耐摩耗性を確保することができる。またシリカのCTAB吸着比表面積を200m2/g以下にすることにより、ウェット性能および低転がり抵抗性を良好にすることができる。本明細書において、シリカのCTAB比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0027】
本発明では、シリカと共にシランカップリング剤を配合するとよい。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上し、耐摩耗性および氷上性能のバランスをより高くすることができる。
【0028】
シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。
【0029】
シランカップリング剤の配合量は、シリカの重量に対し、好ましくは3~15質量%を配合すると良く、より好ましくは5~10質量%にすると良い。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の3質量%未満であるとシリカの分散を十分に改良することができない虞がある。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の15質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
【0030】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またかかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0031】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、スタッドレスタイヤのトレッド部を形成するのに好適である。本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物でトレッドゴムを構成したスタッドレスタイヤは、氷上性能を従来レベル以上に向上することができる。
【0032】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0033】
表2に記載の共通組成を有し、表1に記載の化合物を配合した12種類のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物(実施例1~7、標準例1、比較例1~4)、並びに表4に記載の共通組成を有し、表3に記載の化合物を配合した5種類のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物(実施例8~9、標準例2、比較例5~6)を調製するにあたり、硫黄、および加硫促進剤を除く成分を1.7Lのバンバリーミキサーで5分間混練し、145℃に達したとき放出し冷却しマスターバッチとした。得られたマスターバッチに、硫黄、および加硫促進剤を加えて70℃のオープンロールで混練することにより、16種類のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を得た。なお、表1および3に記載の各化合物の配合量は、表2および4に記載のジエン系ゴム100質量部に対する質量部として表されている。
【0034】
得られたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を、所定形状の金型(内寸;長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、スタッドレスタイヤのトレッド部のサンプルを作成した。得られた加硫ゴム試験片を使用して、以下に示す試験方法で水に対する接触角、および氷上摩擦性能を測定した。
【0035】
水に対する接触角
得られたトレッド部のサンプルの水に対する接触角を測定器(協和界面科学社製DM-901)を使用し、JIS R3257に準拠し、2μmlの純水を滴下し水滴を形成し、滴下30秒後の接触角をθ/2法により測定した。
【0036】
氷上摩擦性能
得られたトレッド部のサンプルを偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-1.5℃、荷重5.5kg/cm2、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた氷上摩擦係数を、表1では標準例1の値を100、表3では標準例2の値を100とする指数にして、表1および3「氷上性能」の欄に示した。この指数値が大きいほど氷上摩擦係数が大きく氷上性能が優れることを意味する。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
なお、表1,3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・ショ糖エステルA:ショ糖エチレンオキシラウリン酸エステル、前記式(1)のR1~R8が水素またはラウリン酸由来のアシル基、AOがエチレンオキシド、nが3~5、第一工業製薬社製NH1400‐1
・ショ糖エステルB:ショ糖エチレンオキシステアリン酸エステル、前記式(1)のR1~R8が水素またはステアリン酸由来のアシル基、AOがエチレンオキシド、nが3~5、第一工業製薬社製NH1400‐2
・液状ポリマー:アクリル系液状ポリマー、東亞合成社製ARUFON UP-1021、重量平均分子量が1600、ガラス転移温度が-71℃
・シリコーンオイル:ジメチルポリシロキサン構造のシリコーンオイル、信越化学工業社製KF-96-20CS
【0042】
また、表2,4において使用した原材料の種類を下記に示す。
・天然ゴム:RSS#3
・ブタジエンゴム:日本ゼオン(株)製ポリブタジエンゴムNipol BR1220
・変性ブタジエンゴム:末端にポリオルガノシロキサン基を有する、下記の合成法で調製した変性ブタジエンゴム
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製カーボンブラックシースト6、窒素吸着比表面積が116m2/g
・シリカ:日本シリカ工業(株)製Nipsil AQ、CTAB吸着比表面積が144m2/g
・カップリング剤:硫黄含有シランカップリング剤、デクサ社製Si69
・アロマオイル:富士興産(株)製アロマオイル
・ステアリン酸:NOF社製ビーズステアリン酸
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:フレキシス社製6PPD
・硫黄:鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製ノクセラー CZ-G(CBS)
・加硫促進剤2:住友化学社製ソクシノールD-G(DPG)
【0043】
<変性ブタジエンゴムの合成>
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン5670g、1,3-ブタジエン700gおよび、テトラメチルエチレンジアミン0.17mmolを仕込んだ後、n-ブチルリチウムをシクロヘキサンと1,3-ブタジエンとに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量を添加し、更に、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として8.33mmolを加え、50℃で重合を開始した。重合を開始してから20分経過後、1,3-ブタジエン300gを30分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は80℃であった。連続添加終了後、更に15分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、少量の重合溶液をサンプリングした。サンプリングした少量の重合溶液は、過剰のメタノールを添加して反応停止した後、風乾して、重合体を取得し、GPC分析の試料とした。その試料を用いて、重合体(活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖に該当)のピークトップ分子量および分子量分布を測定したところ、それぞれ、「23万」および「1.04」であった。
【0044】
少量の重合溶液をサンプリングした直後、重合溶液に、1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.288mmol(重合に使用したn-ブチルリチウムの0.0345倍モルに相当)を40重量%シクロヘキサン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。
更に、その後、下記式(6)で表されるポリオルガノシロキサンA(mとkの数値は平均値)0.0382mmol(重合に使用したn-ブチルリチウムの0.00459倍モルに相当)を20重量%キシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。
その後、重合停止剤として、使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加した。これにより、変性ブタジエンゴムを含有する溶液を得た。この溶液に、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.2部を添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の変性ブタジエンゴムを得た。この変性ブタジエンゴムについて、重量平均分子量、分子量分布、カップリング率、ビニル結合含有量、および、ムーニー粘度を測定したところ、それぞれ、「51万」、「1.46」、「28%」、「11質量%」および「46」であった。
【0045】
【化3】
【0046】
表1,3から明らかなように実施例1~9のトレッド部のサンプルは、氷上性能を従来レベル以上に改良することが確認された。
【0047】
比較例1のトレッド部のサンプルは、シリコーンオイルを含有するが、水に対する接触角が100°以上であるので、氷上性能が劣る。
比較例2のトレッド部のサンプルは、ショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルが1質量部未満で、かつ水に対する接触角が100°以上であるので、氷上性能が劣る。
比較例3のトレッド部のサンプルは、ショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルが25質量部であるが、水に対する接触角が40°未満であるので、氷上性能が劣る。
比較例4のトレッド部のサンプルは、ショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルが1質量部未満で、かつ水に対する接触角が100°以上であるので、氷上性能が劣る。
比較例5のトレッド部のサンプルは、シリコーンオイルを含有するが、水に対する接触角が100°以上であるので、氷上性能が劣る。
比較例6のトレッド部のサンプルは、ショ糖アルキレンオキシド脂肪酸エステルが1質量部未満で、かつ水に対する接触角が100°以上であるので、氷上性能が劣る。