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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】光電変換素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20220119BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 162
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017195169
(22)【出願日】2017-10-05
(65)【公開番号】P2019068018
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】福西 佐季子
(72)【発明者】
【氏名】南 聡史
(72)【発明者】
【氏名】塚田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 順也
(72)【発明者】
【氏名】奥 健夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 厚志
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0095491(KR,A)
【文献】特開2016-051891(JP,A)
【文献】特開2017-069533(JP,A)
【文献】特開2012-244014(JP,A)
【文献】特開平04-181783(JP,A)
【文献】特開平03-120763(JP,A)
【文献】Yasuhiro Shirahata et al.,"Effects of polysilane-doped spiro-OMeTAD hole transport layers on photovoltaic properties",Physica Status Solidi A,2016年11月21日,Vol.214, No. 3, Article Number 1600591,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42-51/48
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Wiley Online Library
CAplus/REGISTRY(STN)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型構造を有する化合物を含むペロブスカイト層を含む光電変換素子であって、
前記ペロブスカイト層が、ポリシランを含み、
前記ペロブスカイト型構造を有する化合物が、式AMX (式中、Aは有機アンモニウム、Mは2価の原子、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物であり、
前記式において、AがC 1-4 アルキルアンモニウム及びC 1-4 アミジニウムから選択される少なくとも1種の有機アンモニウム、Mが周期表第14族元素及び周期表第2族元素から選択される少なくとも1種の原子、Xがヨウ素I、臭素Br及び塩素Clから選択される少なくとも1種のハロゲン原子であり、
前記ポリシランが、下記式(2a)及び(2b)
【化1】
(式中、R ~R は、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシル基、有機基又はシリル基を示す。)
で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を含み、
前記式(2a)において、R 及びR のうち、少なくとも一方がアリール基含有基であり、前記式(2b)において、R がアリール基含有基であり、
前記ポリシランの重量平均分子量が、300~25000であり、かつ
前記ポリシランの割合が、前記ペロブスカイト型構造を有する化合物100重量部に対して、0.01~10重量部である光電変換素子。
【請求項2】
式(2a)において、R及びRの双方がアリール基含有基である請求項記載の光電変換素子。
【請求項3】
アリール基含有基が、C6-12アリール基、C6-12アリール-C1-6アルキル基、C6-12アリールオキシ基又はC6-12アリール-C1-6アルコキシ基である請求項又は記載の光電変換素子。
【請求項4】
式(2a)で表される構造単位の割合が、ポリシラン全体に対して、50モル%以上である請求項のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
ポリシランが環状ポリシランである請求項1~のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項6】
ペロブスカイト型構造を有する化合物と、ポリシランとを含むペロブスカイト層を形成して請求項1~のいずれかに記載の光電変換素子を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型構造を有する化合物と、ポリシランとを含むペロブスカイト層を有する光電変換素子(例えば、太陽電池など)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池分野において、ペロブスカイト型構造を有する化合物を光吸収層として用いたペロブスカイト型太陽電池が注目を浴びている。ペロブスカイト型太陽電池は、真空プロセスを必要とすることなく塗布などの容易な方法で成形可能であり、原料も比較的安価であることから、従来の太陽電池に比べて製造コストを大幅に低減できる。近年、ペロブスカイト型太陽電池の研究開発が急速に進められ、その変換効率は従来の太陽電池に匹敵する状況にあるため、今後、実用化に向けた研究開発がより一層期待されている。
【0003】
このような状況下、ペロブスカイト型太陽電池の耐久性向上に関して開発が進められている。例えば、特開2017-69533号公報(特許文献1)には、ペロブスカイト型化合物(例えば、CHNHPbIなど)が、光や水分などの影響により低分子成分に分解することが記載され、例えば、下記式に示すように低分子成分に分解し、次いで、生成したヨウ化鉛PbIから金属鉛Pbが生成して、この金属鉛Pbにより、光励起で生成キャリアがトラップされてしまうため、光電変換素子の特性が低下することが記載されている。
【0004】
【化1】
【0005】
そのため、特許文献1では、キノン系化合物とペロブスカイト型化合物とを含有する混合物を用いることにより、キノン系化合物の酸化作用で金属の生成が抑制でき、安定駆動可能な光電変換素子を実現できることが開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1には金属ハロゲン化物の生成を抑制できず、光電変換素子の劣化を十分に抑えることができない。
【0007】
なお、特開2016-51891号公報(特許文献2)には、基板/第1電極/電子輸送層/所定の光電変換層/ペロブスカイト構造の化合物の層/正孔輸送層/第2電極をこの順で積層する太陽電池の製造方法が開示され、ポリシランなどを正孔輸送層として用いてもよいことが記載されている。
【0008】
しかし、特許文献2には、ペロブスカイト層にポリシランを添加することや、光電変換素子の劣化を抑制することについては記載されておらず、素子の耐久性を十分に向上できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-69533号公報(特許請求の範囲、[0005][0006][0014])
【文献】特開2016-51891号公報(請求項7、[0031])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の他の目的は、素子の劣化を有効に抑制できるペロブスカイト型の光電変換素子及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、高い光電変換効率(以下、単に変換効率ともいう)を有するペロブスカイト型の光電変換素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ペロブスカイト型の光電変換素子において、ペロブスカイト型構造を有する化合物とポリシランとを含むペロブスカイト層を形成すると、素子の劣化の原因となるPbIなどのハロゲン化金属の生成を抑制できることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の光電変換素子は、ペロブスカイト型構造を有する化合物を含むペロブスカイト層を含む光電変換素子であって、前記ペロブスカイト層が、ポリシランを含む。
【0014】
前記ポリシランは、下記式(2a)及び(2b)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を含んでいてもよい。
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシル基、有機基又はシリル基を示す。)
【0017】
前記式(2a)において、R及びRのうち、少なくとも一方がアリール基含有基であってもよく、式(2b)において、Rがアリール基含有基であってもよい。また、前記式(2a)において、R及びRの双方がアリール基含有基であってもよい。前記アリール基含有基は、C6-12アリール基、C6-12アリール-C1-6アルキル基、C6-12アリールオキシ基又はC6-12アリール-C1-6アルコキシ基であってもよい。前記式(2a)で表される構造単位の割合は、ポリシラン全体に対して、50モル%以上であってもよい。前記ポリシランは環状ポリシランであってもよい。前記ポリシランの重量平均分子量は、300~25000程度であってもよい。前記ポリシランの割合は、ペロブスカイト型構造を有する化合物100重量部に対して、0.01~10重量部程度であってもよい。
【0018】
前記ペロブスカイト型構造を有する化合物は、式AMX(式中、Aは有機アンモニウム、Mは2価の原子、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物であって、AがC1-4アルキルアンモニウム及びC1-4アミジニウムから選択される少なくとも1種の有機アンモニウム、Mが周期表第14族元素及び周期表第2族元素から選択される少なくとも1種の原子、Xがヨウ素I、臭素Br及び塩素Clから選択される少なくとも1種のハロゲン原子であってもよい。
【0019】
また、本発明は、前記ペロブスカイト型構造を有する化合物と、前記ポリシランとを含むペロブスカイト層を形成して前記光電変換素子を製造する方法も包含する。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ペロブスカイト型の光電変換素子において、ペロブスカイト型構造を有する化合物とポリシランとを含むペロブスカイト層を形成するため、素子の劣化を有効に抑制できる。また、高い光電変換効率(以下、単に変換効率ともいう)を有するペロブスカイト型の光電変換素子を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は実施例で作製した光電変換素子の概略図である。
図2図2は実施例1~3及び比較例1で作製した光電変換素子のX線回折測定の結果である。
図3図3は実施例1~3及び比較例1で作製した光電変換素子の光学顕微鏡による表面観察画像である。
図4図4は実施例1~3及び比較例1で作製した光電変換素子の電流密度-電圧曲線である。
図5図5は実施例1~3及び比較例1で作製した光電変換素子の外部量子効率(IPCE)の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[光電変換素子の構成]
本発明の光電変換素子は、ペロブスカイト型構造を有する化合物(単にペロブスカイト化合物ともいう)を含むペロブスカイト層を含む光電変換素子であって、前記ペロブスカイト層が、ポリシランを含んでいる。ペロブスカイト型の光電変換素子は、ペロブスカイト層に加えて、例えば、第1の電極(透明電極)、電子輸送層(ETL)、正孔(又はホール)輸送層(HTL)、第2の電極(金属又は炭素電極)などを含んでいてもよい。
【0023】
前記光電変換素子の代表的な構造としては、例えば、第1の電極/電子輸送層(ETL)/ペロブスカイト層/正孔輸送層/第2の電極がこの順に積層された平面ヘテロ接合型;前記平面ヘテロ接合型に対して、第1の電極と第2の電極との順序を入れ替えた逆構造型;前記平面ヘテロ接合型におけるペロブスカイト層の電子輸送層との界面近傍において、電子輸送層に隣接して多孔質酸化物を含む多孔質部が形成され、この多孔質部にペロブスカイト型構造を有する化合物が浸入(又は含浸)した層(後述する第1のペロブスカイト層)を含むナノ構造型などが挙げられる。光電変換素子の構造は、いずれの構造であってもよく、表面積が大きく、変換効率などの特性を向上しやすい観点から、通常、ナノ構造型、すなわち、図1に示すように、第1の電極1/電子輸送層2/多孔質部及びペロブスカイト化合物を含む第1のペロブスカイト層3a/ペロブスカイト化合物を含む第2のペロブスカイト層3b/正孔輸送層4/第2の電極5がこの順に積層された構造である場合が多い。
【0024】
(ペロブスカイト層)
ペロブスカイト層(又は第1のペロブスカイト層3a及び/又は第2のペロブスカイト層3b)は、ペロブスカイト型構造を有する化合物及びポリシランを含んでいる。
【0025】
(1)ペロブスカイト化合物
ペロブスカイト化合物は特に制限されず、通常、式AMX(1)(式中、Aは有機アンモニウム、Mは2価の原子、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物などの有機無機ペロブスカイト化合物が使用される場合が多い。
【0026】
式(1)において、Aで表される有機アンモニウムとしては、例えば、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、n-プロピルアンモニウム、i-プロピルアンモニウム、n-ブチルアンモニウム、i-ブチルアンモニウム、s-ブチルアンモニウム、t-ブチルアンモニウムなどのC1-6アルキルアンモニウム;アニリニウムなどのC6-10アリールアンモニウム;ベンジルアンモニウム、フェネチルアンモニウムなどのC6-10アリールC1-6アルキルアンモニウム;ホルムアミジニウム、アセトアミジニウムなどのC1-6アミジニウムなどが挙げられる。
【0027】
これらの有機アンモニウムは単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの有機アンモニウムのうち、C1-4アルキルアンモニウム、C1-4アミジニウムなどが好ましく、なかでも、メチルアンモニウムなどのC1-2アルキルアンモニウム、ホルムアミジニウムなどのC1-2アミジニウム(特に、メチルアンモニウム)が好ましい。
【0028】
式(1)において、Mで表される2価の原子としては、例えば、Pb、Sn、Geなどの周期表第14族元素;Ra、Ba、Sr、Ca、Mgなどの周期表第2族元素(又はアルカリ土類金属)などが挙げられる。これらの2価の原子は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの2価の原子のうち、Pb、Sn、Geなどのなどの周期表第14族元素、Ba、Sr、Ca、Mgなどのなどの周期表第2族元素などが好ましく、なかでも、Pb、Snなどのなどの周期表第14族元素(特にPb)が好ましい。
【0029】
式(1)において、Xで表されるハロゲン原子としては、例えば、ヨウ素I、臭素Br、塩素Clなどが挙げられる。これらのハロゲン原子は単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのハロゲン原子のうち、ヨウ素I、塩素Cl(特にヨウ素I)が好ましい。
【0030】
代表的な式(1)で表される化合物としては、例えば、Aがメチルアンモニウム、MがPbである化合物、CHNHPbI、CHNHPbBr、CHNHPbCl、CHNHPbI3-nBr、CHNHPbI3-nCl、CHNHPbBr3-nClなど;Aがメチルアンモニウム、MがSnである化合物、CHNHSnI、CHNHSnBr、CHNHSnCl、CHNHSnI3-nBr、CHNHSnI3-nCl、CHNHSnBr3-nClなどが挙げられる。なお、nはハロゲン原子Xのドーピング量(又は割合)を表し、例えば、0.01~2、好ましくは0.03~1.5、さらに好ましくは0.05~1(例えば、0.1~0.5)程度であってもよい。nが大きすぎると、光電変換効率が低下するおそれがある。
【0031】
これらのペロブスカイト化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのペロブスカイト化合物のうち、式(1)において、Aがメチルアンモニウム、MがPbである化合物が好ましく、なかでも、CHNHPbI、CHNHPbI3-nBr、CHNHPbI3-nClなどのXが少なくともヨウ素Iを含む化合物(特に、CHNHPbI)が好ましい。
【0032】
(2)ポリシラン
ポリシランは、Si-Si結合を有する直鎖状、環状、分岐鎖状、及び/又は網目状(又はネットワーク状)の化合物であれば特に限定されないが、通常、下記式(2a)及び(2b)で表される構造単位のうち少なくとも1種の構造単位を有する場合が多い。
【0033】
【化3】
【0034】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシル基、有機基又はシリル基を示す)。
【0035】
前記式(2a)及び(2b)において、基(又は側鎖)R~Rで表される有機基としては、炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基)、これらの炭化水素基に対応するエーテル基(アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基など)などが挙げられる。通常、前記有機基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基である場合が多い。また、水素原子やヒドロキシル基、アルコキシ基、シリル基などは末端に置換している場合が多い。
【0036】
前記式(2a)及び(2b)のR~Rにおいて、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのC1-14アルキル基(好ましくはC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-6アルキル基など)などが挙げられる。
【0037】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基などのC1-14アルコキシ基などが挙げられる。
【0038】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などのC2-14アルケニル基などが挙げられる。
【0039】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基などのC5-14シクロアルキル基などが挙げられる。
【0040】
シクロアルキルオキシ基としては、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などのC5-14シクロアルキルオキシ基などが挙げられる。
【0041】
シクロアルケニル基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などのC5-14シクロアルケニル基などが挙げられる。
【0042】
アリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)、ナフチル基などのC6-20アリール基(好ましくはC6-15アリール基、さらに好ましくはC6-12アリール基(例えば、フェニル基などのC6-10アリール基)など)などが挙げられる。
【0043】
アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基などのC6-20アリールオキシ基などが挙げられる。
【0044】
アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基などのC6-20アリール-C1-6アルキル基などが挙げられる。
【0045】
アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、フェニルプロピルオキシ基などのC6-20アリール-C1-6アルキルオキシ基などが挙げられる。
【0046】
シリル基としては、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基などのSi1-10シラニル基(好ましくはSi1-6シラニル基)などが挙げられる。
【0047】
また、R~Rが、前記有機基(アルキル基、アリール基など)又はシリル基である場合には、その水素原子の少なくとも1つが、置換基(又は官能基)により置換されていてもよい。このような置換基(又は官能基)は、例えば、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基などの前記例示の基と同様であってもよい。
【0048】
また、式(2a)において、R及びRの種類は、互いに異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。
【0049】
これらのR~Rうち、通常、アルキル基(例えば、メチル基などのC1-4アルキル基)、アリール基含有基[アリール基(例えば、フェニル基などのC6-20アリール基)など]などである場合が多く、電荷分離後の正孔(ホール)輸送効率を向上し易い観点から、少なくともアリール基含有基を含むのが好ましい。すなわち、前記式(2a)において、R及びRのうち、少なくとも一方がアリール基含有基(特に、R及びRの双方がアリール基含有基)であり、前記式(2b)において、Rがアリール基含有基であるのが好ましい。
【0050】
アリール基含有基としては、例えば、前記有機基として例示したアリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基と同様の基が挙げられる。好ましいアリール基含有基としては、C6-12アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基など)、C6-12アリール-C1-6アルキル基(例えば、C6-10アリール-C1-4アルキル基)、C6-12アリールオキシ基(例えば、C6-10アリールオキシ基)、C6-12アリール-C1-6アルコキシ基(例えば、C6-10アリール-C1-4アルコキシ基)などが挙げられ、特に、アリール基(例えば、C6-10アリール基、特に、フェニル基)が好ましい。
【0051】
好ましい構造単位として、代表的には、式(2a)において、R及びRのうち、一方がアリール基含有基、他方がアルキル基である構造単位[例えば、アルキル-アリール-シラン単位(例えば、メチル-フェニル-シラン単位などのC1-6アルキル-C6-10アリール-シラン単位など)など];R及びRの双方がアリール基含有基である構造単位[例えば、ジアリール-シラン単位(例えば、ジフェニル-シラン単位などのジC6-10アリール-シラン単位など)など];前記式(2b)において、Rがアリール基含有基である構造単位[例えば、アリール-シラン単位(例えば、フェニル-シラン単位などのC6-10アリール-シラン単位など)など]などが挙げられ、なかでも、式(2a)において、R及びRの双方がアリール基含有基である構造単位(特に、ジフェニル-シラン単位)が特に好ましい。これらの構造単位は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0052】
ポリシランの側鎖におけるアリール基含有基の割合は、ポリシランの側鎖全体(例えば、R~Rの総量)に対して、例えば、10モル%以上(例えば、30~100モル%)程度の範囲から選択でき、例えば、50モル%以上(例えば、60~99.9モル%)、好ましくは70モル%以上(例えば、80~99モル%)、さらに好ましくは90モル%以上(例えば、90~95モル%)程度であってもよく、95モル%以上(例えば、実質的に100モル%)程度であってもよい。アリール基含有基の割合が少なすぎると、光電変換効率が低下するおそれがある。
【0053】
なお、ポリシランが非環状構造(直鎖状、分岐鎖状、網目状)である場合、末端は、封止されていてもよく、封止されていなくてもよい。末端が封止されていないポリシランにおいて、末端のケイ素原子は、通常、前記有機基(メチル基、フェニル基など)に加えて、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(塩素原子など)など(特にヒドロキシル基)を有している場合が多い。また、ポリシランは、反応性基(例えば、ラジカル重合性基など)を含んでいてもよく、実質的に含んでいなくてもよい。
【0054】
代表的なポリシランとしては、例えば、前記式(2a)で表される構造単位を有する直鎖状又は環状ポリシラン、前記式(2b)で表される構造単位を有するポリシラン(網目状ポリシラン)、前記式(2a)及び(2b)で表される構造単位を組み合わせて有するポリシラン(分岐鎖状又は網目状ポリシラン)などが挙げられる。これらのポリシランにおいて、前記式(2a)及び(2b)で表される構造単位は、それぞれ、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、分岐鎖状又は網目状ポリシランは、下記式(2c)で表される構造単位をさらに含んでいてもよい。
【0055】
【化4】
【0056】
ポリシランの形状は特に制限されず、直鎖状、環状、分岐鎖状、網目状のいずれであってもよいが、通常、直鎖状、環状又は網目状であることが多く、直鎖状又は環状(特に、環状)であると、変換効率を向上し易い場合が多いようである。そのため、ポリシランは、式(2a)及び(2b)で表される構造単位のうち、少なくとも式(2a)で表される構造単位を含むのが好ましい。
【0057】
ポリシランが式(2a)で表される構造単位を含む場合、式(2a)で表される構造単位の割合は、ポリシランの構造単位全体に対して、例えば、10モル%以上(例えば、30~100モル%)程度の範囲から選択でき、例えば、50モル%以上(例えば、60~99モル%)、好ましくは70モル%以上(例えば、80~97モル%)、さらに好ましくは90モル%以上(例えば、実質的に100モル%程度)であってもよい。式(2a)で表される構造単位の割合が少なすぎると、光電変換効率が向上できないおそれがある。
【0058】
前記式(2a)で表される構造単位を有する具体的な鎖状又は環状ポリシランとしては、例えば、ポリジアルキルシラン[例えば、ポリジメチルシラン、ポリメチルプロピルシラン、ポリメチルブチルシラン、ポリメチルペンチルシラン、ポリジブチルシラン、ポリジヘキシルシラン、ジメチルシラン-メチルへキシルシラン共重合体など];ポリアルキルアリールシラン[例えば、ポリメチルフェニルシラン、メチルフェニルシラン-フェニルヘキシルシラン共重合体など];ポリジアリールシラン(例えば、ポリジフェニルシランなど);ジアルキルシラン-アルキルアリールシラン共重合体(例えば、ジメチルシラン-メチルフェニルシラン共重合体、ジメチルシラン-フェニルヘキシルシラン共重合体、ジメチルシラン-メチルナフチルシラン共重合体など);アルキルアリールシラン-ジアリールシラン共重合体(例えば、メチルフェニルシラン-ジフェニルシラン共重合体など)などが挙げられる。
【0059】
前記式(2b)で表される構造単位を有する網目状ポリシランとしては、例えば、ポリアルキルシラン(例えば、ポリメチルシラン、ポリプロピルシラン、ポリブチルシラン、ポリヘキシルシランなど);ポリアリールシラン(例えば、ポリフェニルシランなど)などが挙げられる。
【0060】
これらのポリシランは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリシランのうち、直鎖状又は環状ポリアルキルアリールシラン(例えば、ポリメチルフェニルシランなどの直鎖状又は環状ポリC1-6アルキル-C6-12アリールシランなど)、直鎖状又は環状ポリジアリールシラン(例えば、ポリジフェニルシランなどの直鎖状又は環状ポリジC6-12アリールシランなど)、直鎖状又は環状アルキルアリールシラン-ジアリールシラン共重合体(例えば、直鎖状又は環状メチルフェニルシラン-ジフェニルシラン共重合体などの直鎖状又は環状C1-6アルキル-C6-12アリールシラン-ジC6-12アリールシラン共重合体)、網目状ポリアリールシラン(例えば、網目状ポリフェニルシランなどの網目状ポリC6-12アリールシラン)が好ましく、なかでも、直鎖状又は環状ポリジアリールシラン(例えば、ポリジフェニルシランなどの直鎖状又は環状ポリジC6-10アリールシランなど、特に、デカフェニルシクロペンタシランなどの環状ポリジC6-10アリールシランなど)が特に好ましい。
【0061】
ポリシランの重量平均分子量Mwは、GPC(ポリスチレン換算)による測定方法において、例えば、300以上(例えば、300~50000程度)の範囲から選択でき、例えば、300~25000(例えば、350~20000)、好ましくは400~14000(例えば、450~10000)、さらに好ましくは500~3000(例えば、500~1000、特に700~1000)程度であってもよい。重量平均分子量が小さすぎると、光電変換素子の劣化を有効に抑制できないおそれがあり、大きすぎると、溶媒に対する溶解性(又は分散性)が低下して、光電変換素子の作製が困難になるおそれがある。
【0062】
ポリシランの平均重合度は、ケイ素原子換算(すなわち、一分子当たりのケイ素原子の平均数)で、例えば、3~500(好ましくは3~100)程度の広い範囲から選択でき、例えば、3~50、好ましくは4~10、さらに好ましくは5~7(例えば、5~6、特に5)程度であってもよい。
【0063】
ポリシランは、室温(例えば、20℃程度)で、液体状であってもよく、固体状であってもよい。
【0064】
ポリシランは、慣用の方法、例えば、マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「マグネシウム還元法」、WO98/29476号公報など)、アルカリ金属の存在下でハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「キッピング法」、J.Am.Chem.Soc.,110,124(1988)、Macromolecules,23,3423(1990)など)、電極還元によりハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1161(1990)、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,897(1992)など)、金属触媒の存在下にヒドロシラン類を脱水素縮重合させる方法(特開平4-334551号公報など)、ビフェニルなどで架橋されたジシレンのアニオン重合による方法(Macromolecules,23,4494(1990)など)、環状シラン類の開環重合による方法などにより得ることができる。
【0065】
ポリシランの割合は、ペロブスカイト型構造を有する化合物100重量部に対して、例えば、0.01~10重量部(例えば、0.05~5重量部)、好ましくは0.1~2重量部(例えば、0.3~1.5重量部)、さらに好ましくは0.5~1重量部(例えば、0.6~0.9重量部)程度であってもよい。ポリシランの割合が少なすぎると、ヨウ化鉛PbIなどのハロゲン化金属の生成を有効に抑制できなかったり、ペロブスカイト結晶の成長を促進できないおそれがある。ポリシランの割合が多すぎると、ポリシランが溶解し難くペロブスカイト層の形成が困難になったり、変換効率が低下するおそれがある。
【0066】
光電変換素子が前記ナノ構造型である場合、ペロブスカイト層は、電子輸送層に隣接して多孔質酸化物を含む多孔質部、及びこの多孔質部に浸入(又は含浸)したペロブスカイト化合物で形成された第1のペロブスカイト層と、この第1のペロブスカイト層及び正孔輸送層の間に介在し、ペロブスカイト化合物を有する第2のペロブスカイト層とを含んでいてもよい。
【0067】
第1のペロブスカイト層において、多孔質部を構成する多孔質酸化物として代表的には、例えば、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化スズ(IV)、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム(IV)などの金属酸化物が挙げられる。これらの金属酸化物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの金属酸化物のうち、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化スズ(IV)などの光活性能を有する(電荷輸送に関与する)金属酸化物(特に、酸化チタン(IV))が好ましい。多孔質酸化物は、後述する電子輸送層を形成する電子輸送材料と異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
【0068】
第1のペロブスカイト層の平均厚みは、例えば、100~1000nm程度の範囲から選択でき、例えば、150~980nm、好ましくは200~950nm、さらに好ましくは300~900nm程度であってもよい。第1のペロブスカイト層の平均厚みが大きすぎると、製造効率が低下するおそれがあり、小さすぎると変換効率が低下するおそれがある。なお、第1のペロブスカイト層(又は多孔質部)の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)や原子間力顕微鏡(AFM)などにより測定してもよい。
【0069】
第2のペロブスカイト層は、多孔質部を含むことなく、ペロブスカイト化合物を含んでいいる。また、第2のペロブスカイト層に用いるペロブスカイト化合物の種類は、第1のペロブスカイト層に用いるペロブスカイト化合物の種類と互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一である。
【0070】
第2のペロブスカイト層の平均厚み(光電変換素子が平面ヘテロ接合型又は逆構造型の場合は、ペロブスカイト層の平均厚み)は、例えば、5~1000nm程度の範囲から選択でき、例えば、10~500nm、好ましくは30~300nm、さらに好ましくは50~200nm程度であってもよい。第2のペロブスカイト層の平均厚みが大きすぎると、製造効率及び変換効率が低下するおそれがある。
【0071】
(第1の電極)
第1の電極は、透明基板(例えば、ガラスなどの無機材料、メタクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などの透明樹脂など)の一方の面の少なくとも一部に、例えば、FTO(Fluorine-doped Tin Oxide)、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnO(Zinc Oxide)などの透明導電性金属酸化物を塗布又はコーティング(例えば、真空蒸着など)することにより形成された透明電極である。前記金属酸化物のうち、耐熱性の観点から、FTOが好ましい。
【0072】
また、前記金属酸化物は、エッチングなどにより、所望のパターンを形成してもよい。さらに、透明基板の他方の面には、反射防止層、ハードコート層などの機能層を形成してもよい。第1の電極は、陽極であってもよいが、通常、陰極である場合が多い。
【0073】
第1の電極における透明導電性金属酸化物の塗布膜の平均厚みは、例えば、5~2000nm程度の範囲から選択でき、例えば、100~1500nm、好ましくは500~1200nm、さらに好ましくは800~1000nm程度であってもよい。平均厚みが大きすぎると、光電変換素子の重量が増加するおそれがあり、小さすぎると耐久性が低下するおそれがある。また、第1の電極における透明基板の平均厚みは、材質に応じて選択でき、例えば、0.1~3mm、好ましくは1~2mm程度であってもよい。
【0074】
(電子輸送層(ETL))
電子輸送層は、電子を効率的に移動させて、変換効率などの特性を向上し、ペロブスカイト層や正孔輸送層が陰極に接触して短絡するのを抑制できる。電子輸送層は、通常、第1の電極の金属酸化物が塗布された面(逆構造型の場合は第2の電極の一方の面)に、電子輸送材料が緻密に(多孔質ではなく)堆積され形成されている。
【0075】
前記電子輸送材料としては、例えば、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化スズ(IV)などの金属酸化物、[6,6]-フェニル-C61-ブチリックアシッドメチルエステル([60]PCBM)などのフラーレン類などが挙げられる。これらの電子輸送材料は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの電子輸送材料のうち、金属酸化物が好ましく、なかでも、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)[特に、酸化チタン(IV)]が好ましい。
【0076】
電子輸送層には、他の原子をドーピングしてもよい。電子輸送材料が金属酸化物である場合、金属酸化物中の金属原子より価数が大きい原子をドーピングしてもよく、例えば、酸化チタン(IV)では、5価の原子(例えば、Nb、V、Taなど)をドーピングしてもよく、酸化亜鉛(II)では、3価の原子(例えば、Ga、In、Alなど)をドーピングしてもよい。
【0077】
電子輸送層の平均厚みは、例えば、5~100nm程度の範囲から選択でき、例えば、10~80nm、好ましくは20~60nm、さらに好ましくは30~50nm程度であってもよい。平均厚みが大きすぎると、電気抵抗が増加するおそれがあり、小さすぎると電子を効率よく移動できないおそれがある。
【0078】
(正孔(ホール)輸送層)
正孔(ホール)輸送層は、正孔(ホール)輸送材料を含んでいる。正孔輸送材料としては、慣用の正孔輸送材料、例えば、金属塩[例えば、チオシアン酸銅(I)など]、金属酸化物[例えば、酸化ニッケル(II)、酸化バナジウム(V)、酸化銅アルミニウム(CuAlO)など]、金属ヨウ化物[例えば、ヨウ化銅(I)、ヨウ化セシウムスズ(CsSnI)など]、炭素材(例えば、酸化グラフェンなど)、ポリシラン(例えば、前記ペロブスカイト層において例示したポリシランなど)の無機化合物;フタロシアニン類(例えば、フタロシアニン、ナフタロシアニン、サブフタロシアニンなど)、カルバゾール類[例えば、1,3,5-トリス[2,7-(N,N-(p-メトキシフェニル)アミノ)-9H-カルバゾール-9-イル]ベンゼン(SGT405)など]、チオフェン類[例えば、2,5-ビス[4-(N,N-ビス(p-メトキシフェニル)アミノ)フェニル]-3,4-エチレンジオキシチオフェン(H101)、2,3,4,5-テトラキス[4-(N,N-ビス(p-メトキシフェニル)アミノ)フェニル]チオフェン(H111)など]、トリプチセン類[例えば、2,6,14-トリス[5’-(4-(N,N-ビス(p-メトキシフェニル)アミノ)フェニル)-チオフェン-2’-イル]トリプチセン(T103)など]、スピロビフルオレン類(例えば、後述する下記式(3)で表される化合物など)などの低分子化合物;ポリチオフェン類[例えば、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)、ポリ[N-9’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-5,5-(4’,7’-ジ-2-チエニル-2’,1’,3’-ベンゾチアジアゾール)](PCDTBT)、ポリ[N-9’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-3,6-ビス(チオフェン-5-イル)-2,5-ジオクチル-2,5-ジヒドロピロロ[3,4]ピロール-1,4-ジオン](PCBTDPP)、ポリ[2,6-(4,4-ビス-(2-エチルヘキシル)-4H-シクロペンタ[2,1-b;3,4-b’]ジチオフェン)-alt-4,7-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)など]、ポリトリアリールアミン類[例えば、ポリ[ビス(フェニル-4-イル)-(2,4,6-トリメチルフェニル)-アミン](PTAA)、ポリ[ビス(フェニル-4-イル)-(4-ブチルフェニル)-アミン](PolyTPD)など]、ポリフルオレン類[例えば、ポリ[9,9-ジオクチルフルオレン-co-ビス-N,N’-(4-ブチルフェニル)-ビス-N,N’-フェニル-1,4-フェニレンジアミン](PFB)など]などの高分子化合物などが挙げられる。
【0079】
これらの正孔輸送材料は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの正孔輸送材料のうち、スピロビフルオレン類、例えば、下記式(3)で表される化合物が汎用される。
【0080】
【化5】
【0081】
(式中、Zはそれぞれ独立してアレーン環、Rはそれぞれ独立してアルコキシ基、kはそれぞれ独立して0以上の整数を示す)。
【0082】
前記式(3)において、Zで表される芳香族炭化水素環(アレーン環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式芳香族炭化水素環(単環式アレーン環)、多環式芳香族炭化水素環(多環式アレーン環)などが挙げられ、多環式芳香族炭化水素環には、例えば、縮合多環式芳香族炭化水素環(縮合多環式アレーン環)、環集合芳香族炭化水素環(環集合アレーン環)などが含まれる。
【0083】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環(例えば、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン環)、縮合三環式アレーン環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合多環式C10-16アレーン環(好ましくは縮合多環式C10-14アレーン環)が挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
【0084】
環集合アレーン環としては、ビアレーン環(例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(1-フェニルナフタレン環、2-フェニルナフタレン環など)などのビC6-12アレーン環など)、テルアレーン環(例えば、テルフェニレン環などのテルC6-12アレーン環など)などが例示できる。好ましい環集合アレーン環は、ビC6-10アレーン環などが挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
【0085】
これらの環Zのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環が好ましく、特にベンゼン環などのC6-10アレーン環(特に、ベンゼン環)が好ましい。また、8つの環Zの種類は、互いに異なっていてもよく、通常、同一である。なお、環Zが結合する窒素原子の位置は、特に制限されず、任意の位置であってもよい。
【0086】
前記式(3)において、Rで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルコキシ基(好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルコキシ基、さらに好ましくはメトキシ基などのC1-2アルコキシ基)などが挙げられる。
【0087】
基Rの置換数kは、環Zの種類に応じて選択でき、例えば、0~8の整数(例えば、0~6の整数)、好ましくは0~4の整数(例えば、0~2の整数)、さらに好ましくは0又は1(特に、1)程度であってもよい。8つのkは、互いに異なっていてもよく、通常、同一であってもよい。また、kが2以上である場合、同一の環Zに置換する基Rの種類は互いに同一又は異なっていてもよい。
【0088】
基Rの置換位置は、環Zと窒素原子との結合する位置以外の位置である限り、特に制限されない。例えば、環Zがベンゼン環、kが1である場合、基Rの置換位置は、環Zの窒素原子との結合位置に対して、o-位、m-位、p-位のいずれの位置であってもよく、好ましくはm-位又はp-位、さらに好ましくはp-位であってもよい。
【0089】
前記式(3)において、4つの窒素原子が、スピロビフルオレン骨格を形成する4つのベンゼン環それぞれに結合する位置は、特に制限されず、例えば、4つの窒素原子のそれぞれが、スピロビフルオレン環の2-位~4-位のうちいずれか1つの位置、5-位~7-位のうちいずれか1つの位置、2’-位~4’-位のうちいずれか1つの位置及び5’-位~7’-位のうちいずれか1つの位置に結合していてもよい。4つの窒素原子は、好ましくはスピロビフルオレン環の2,2’,7,7’-位に結合していてもよい。
【0090】
前記式(3)で表される化合物として、代表的には、例えば、前記式(3)において、8つの環Zがベンゼン環、8つのkが1であるテトラキス[ビス(アルコキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン類、例えば、2,2’,7,7’-テトラキス-[N,N-ビス(4-メトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD)、2,2’,7,7’-テトラキス-[N-(4-メトキシフェニル)-N-(3-メトキシフェニル)-アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン、2,2’,7,7’-テトラキス-[N-(4-メトキシフェニル)-N-(2-メトキシフェニル)-アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン、2,2’,7,7’-テトラキス-[N,N-ビス(4-エトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレンなどのテトラキス[ビス(C1-4アルコキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレンなどが挙げられる。
【0091】
これらの前記式(3)で表される化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの前記式(3)で表される化合物のうち、Spiro-OMeTADなどのテトラキス[ビス(C1-2アルコキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレンなどが好ましい。なお、これらの前記式(3)で表される化合物は、市販品などを利用してもよい。
【0092】
正孔輸送材料全体に対する前記式(3)で表される化合物の割合は、例えば、10重量%以上(例えば、30~100重量%)、好ましくは50重量%以上(例えば、60~99重量%)、さらに好ましくは70重量%以上(例えば、80~95重量%)であってもよく、90重量%以上(95重量%以上、例えば、実質的に100重量%(前記式(3)で表される化合物のみ)程度)であってもよい。
【0093】
また、正孔輸送材料が前記式(3)で表される化合物を含む場合、さらに、ポリシランを含んでいてもよい。前記式(3)で表される化合物とポリシランとの割合は、例えば、前者/後者(重量比)=10/90~99.9/0.1(例えば、30/70~99.5/0.5)程度の範囲から選択でき、例えば、50/50~99/1(例えば、60/40~97/3)、好ましくは70/30~95/5(例えば、75/25~93/7)、さらに好ましくは80/20~91/9(例えば、85/15~90/10)程度であってもよい。
【0094】
正孔輸送層は、前記正孔輸送材料に加えて、添加剤を必ずしも含んでいなくてもよいが、必要に応じて、慣用の添加剤(例えば、ドーパントなど)をさらに含んでいてもよい。ドーパント(又はp型ドーパント)としては、例えば、金属塩[例えば、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Li-TFSI)など]、金属錯体[例えば、トリス(p-ブロモフェニル)アンモニウムヘキサクロロアンチモネート、トリス(2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン)コバルト(III)トリス[ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド]、モリブデントリス[1,2-ビス(トリフルオロメチル)エタン-1,2-ジチオレン]など]、金属塩化物[例えば、塩化スズ(IV)、塩化アンチモン(V)、塩化鉄(III)など]、金属酸化物[例えば、酸化タングステン(VI)など]などの金属化合物;2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタンなどの非金属化合物などが挙げられる。
【0095】
正孔輸送材料を添加剤と組み合わせる場合、添加剤(例えば、ドーパントなど)の割合は、正孔輸送材料の総量100重量部に対して、例えば、0.1~30重量部、好ましくは1~20重量部、さらに好ましくは5~15重量部程度であってもよい。
【0096】
正孔輸送層の厚み(平均厚み)は、5~50nm程度の範囲から選択でき、例えば、10~50nm、好ましくは20~47nm、さらに好ましくは30~45nm程度であってもよい。正孔輸送層の平均厚みが小さすぎると正孔を効率よく移動できなくなるおそれがあり、大きすぎると電気抵抗が増加するおそれがある。なお、厚みは透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定してもよい。
【0097】
(第2の電極)
第2の電極は、通常、正孔輸送層(逆型構造の場合は電子輸送層)に隣接して、金属(例えば、Au、Ag、Cu、Alなど);Cなどの仕事関数が5.2eV以下の導電体で形成された金属又は炭素電極である。これらの導電体(又は電極形成材料)のうち、Auが好ましい。また、第2の電極は、第1の電極に対応して、陰極であってもよいが、通常、陽極である場合が多い。
【0098】
第2の電極の平均厚みは、例えば、100~500nm程度の範囲から選択でき、例えば、120~300nm、好ましくは150~250nm、さらに好ましくは180~220nm程度であってもよい。平均厚みが大きすぎると、製造効率が低下するおそれがあり、小さすぎると効率よく集電できないおそれがある。
【0099】
[光電変換素子の製造方法及び特性]
光電変換素子を形成する各層は、慣用の方法(スピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法などの塗布又は印刷法、真空蒸着法などの蒸着法など)により形成(又は積層)でき、特に制限されない。各層の代表的な製造方法としては、下記のような方法が挙げられる。
【0100】
(電子輸送層形成工程)
電子輸送層形成工程では、第1の電極の導電性金属酸化物がコーティングされた面に、前記電子輸送材料又はその前駆体と溶媒(又は分散媒)とを含む電子輸送層前駆体溶液(又は分散液)を塗布(又はコーティング)して、電子輸送層を形成する。
【0101】
第1の電極には、前記前駆体溶液の塗布前に洗浄処理を施してもよい。洗浄処理の方法は、特に制限されず、例えば、ケトン類(アセトンなど)やアルコール類(メタノールなど)に浸漬して超音波洗浄し、不活性ガス(窒素ガス、希ガスなど)下で乾燥する方法;UV-オゾン処理する方法;これらを組み合わせた方法などが挙げられる。
【0102】
電子輸送材料の前駆体としては、前記電子輸送層の項に例示した電子輸送材料に対応する化合物、例えば、酸化チタン(IV)前駆体[例えば、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)などのチタン錯体、テトライソプロポキシチタン(IV)などのチタン酸アルキルなど];酸化亜鉛(II)前駆体[例えば、炭酸亜鉛など]などが挙げられる。
【0103】
溶媒としては、例えば、水;アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールなどのC1-6アルカンモノオール;アルカンジオールなど);エーテル類(テトラヒドロフランなど);グリコールエーテル類[例えば、セロソルブ類、カルビトール類;(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルなど];グリコールエーテルアセテート類[例えば、セロソルブアセテート類、カルビトールアセテート類など)、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートなど];ケトン類(アセトンなど);エステル類(酢酸エチルなどなど);カーボネート類(プロピレンカーボネートなど);カルボン酸類(酢酸など);ニトリル類(アセトニトリルなど);アミド類(N,N-ジメチルホルムアミドなど);スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど);炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンなど);ハロゲン化炭化水素類(例えば、クロロホルム、クロロベンゼンなど);及びこれらの混合溶媒などが挙げられる。これらの溶媒のうち、n-ブタノールなどのC1-5アルカンモノオールなどが好ましい。
【0104】
電子輸送層前駆体溶液における前記電子輸送材料又はその前駆体の濃度は、例えば0.01~1M、好ましくは0.1~0.4M程度であってもよい。なお、電子輸送層を第1の電極に密着して、かつ緻密に形成するために、濃度の異なる2種類以上の溶液を調製し、溶液の濃度が濃くなる順に塗布してもよい。
【0105】
塗布後、溶媒を除去するために熱処理を行ってもよく、その加熱温度は、例えば、80~200℃、好ましくは100~150℃程度であってもよい。また、前記前駆体から金属酸化物を形成するために、さらに高温で熱処理を行ってもよく、その加熱温度は、前記前駆体に応じて選択でき、例えば、300~800℃、好ましくは400~600℃程度であってもよい。
【0106】
(ペロブスカイト層形成工程)
ペロブスカイト層形成工程では、前記電子輸送層形成工程で形成した積層体の電子輸送層の面に、ペロブスカイト化合物前駆体と、ポリシランと、溶媒(又は分散媒)とを含むペロブスカイト層前駆体溶液(又は分散液)を塗布(又はコーティング)し、さらに、熱処理することによりペロブスカイト層を形成する。
【0107】
なお、光電変換素子がナノ構造型である場合、ペロブスカイト層前駆体溶液の塗布前に、ペロブスカイト化合物を広い表面積で接触させるための前記多孔質部(第1のペロブスカイト層の多孔質部)を電子輸送層に形成してもよい。多孔質部は、金属酸化物と、高分子化合物と、水と、有機化合物と、界面活性剤とを含む多孔質部形成溶液を塗布し、さらに、熱処理することにより形成される。
【0108】
金属酸化物としては、前記第1のペロブスカイト層の項において多孔質酸化物として例示した金属酸化物と好ましい態様も含めて同様のものが挙げられる。金属酸化物は粉末状などであってもよい。
【0109】
高分子化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体(例えば、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、ポリ(メタ)アクリルアミドなど)、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルなど)などの水溶性高分子化合物などが挙げられる。高分子化合物の数平均分子量又は重量平均分子量は、例えば、10000~30000、好ましくは15000~25000程度であってもよい。高分子化合物の割合は、金属酸化物100重量部に対して、例えば、1~30重量部、好ましくは5~15重量部程度であってもよい。
【0110】
水は、超純水であるのが好ましい。水の割合は、金属酸化物100重量部に対して、例えば、100~1000重量部、好ましくは300~700重量部程度であってもよい。
【0111】
有機化合物としては、例えば、アセチルアセトンなどの錯体形成性有機化合物などが挙げられる。有機化合物の割合は、水100体積部に対して、例えば、0.1~10体積部、好ましくは1~5体積部程度であってもよい。
【0112】
界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、ノニオン系界面活性剤[例えば、ポリエチレングリコール-(t-オクチルフェニル)エーテルなどのポリオキシエチレン(C6-20アルキル-フェニル)エーテルなど]が好ましい。界面活性剤の割合は、水100体積部に対して、例えば、0.05~5体積部、好ましくは0.1~3体積部程度であってもよい。
【0113】
多孔質部形成溶液の調製は、金属酸化物と高分子化合物とを水と混合して撹拌後、この液に、さらに、有機化合物と界面活性剤とを加えて撹拌して調製してもよい。また、前記溶液から気泡を除去するために、調製後1時間~2日(例えば、12時間~1日)程度静置してもよい。
【0114】
前記多孔質部形成溶液の塗布後の熱処理温度は、例えば、300~800℃、好ましくは400~600℃程度であってもよい。
【0115】
ペロブスカイト層前駆体溶液に含まれるペロブスカイト化合物前駆体としては、前記式(1)に対応する前駆体、すなわち、式AX(1a)(式中、A及びXはそれぞれ前記式(1)に同じ)で表される化合物、及び式MX(1b)(式中、M及びXはそれぞれ前記式(1)に同じ)で表される化合物であってもよい。式(1a)及び(1b)において、A、M及びXは、前記式(1)の項に例示したA、M及びXと好ましい態様も含めて同様である。
【0116】
前記式(1a)で表される代表的な化合物としては、例えば、CHNHI、CHNHBr、CHNHClなどの式(1a)において、AがメチルアンモニウムなどのC1-6アルキルアンモニウムである化合物などが挙げられる。これらの化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの化合物のうち、CHNHIが好ましい。
【0117】
前記式(1b)で表される代表的な化合物としては、例えば、PbI、PbBr、PbClなどの式(1b)において、MがPb、Snなどの第14族元素(特に、Pb)である化合物などが挙げられる。これらの化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの化合物のうち、PbIが好ましい。
【0118】
前記式(1a)で表される化合物と前記式(1b)で表される化合物との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/0.9~1/1.1、好ましくは1/0.95~1/1.05程度であってもよく、実質的に当モル(1/1)程度であるのが好ましい。
【0119】
ポリシランとしては、前記ペロブスカイト層の項に例示したポリシランを利用できる。ポリシランの割合は、前記式(1a)で表される化合物及び前記式(1b)で表される化合物の総量100重量部に対して、例えば、0.01~10重量部(例えば、0.05~5重量部)、好ましくは0.1~2重量部(例えば、0.3~1.5重量部)、さらに好ましくは0.5~1重量部(例えば、0.6~0.9重量部)程度であってもよい。
【0120】
溶媒は、ラクトン類(例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどのC3-7ラクトン類など);アミド類(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)など)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミドが好ましい。溶媒は、通常、ラクトン類(例えば、γ-ブチロラクトン)とアミド類(例えば、DMF)との混合溶媒を用いることが多い。前記混合溶媒を用いる場合、ラクトン類及びアミド類の割合は、例えば、前者/後者(体積比)=1/99~99/1(10/90~90/10)、好ましくは30/70~80/20(50/50~70/30)程度であってもよい。また、溶媒の割合は、前記式(1a)及び(1b)で表される化合物並びにポリシランの合計量100重量部に対して、例えば、50~200重量部、好ましくは100~180重量部(例えば、120~150重量部)程度であってもよい。
【0121】
前記式(1a)で表される化合物、前記式(1b)で表される化合物、ポリシラン及び溶媒は、溶媒の沸点以下の温度に加熱しつつ混合してもよく、加熱温度は、例えば、40~80℃、好ましくは50~70℃程度であってもよい。このように調製したペロブスカイト層前駆体溶液は、前記多孔質部(又は電子輸送層)に溶媒の沸点以下の温度に加熱しながら塗布してもよく、加熱温度は、例えば、50~90℃、好ましくは60~80℃程度であってもよい。ペロブスカイト層前駆体溶液は調製分を一度に塗布してもよいが、多孔質部に効率よく含浸又は浸漬させる観点から、複数回に分けて塗布するのが好ましい。
【0122】
ペロブスカイト層前駆体溶液塗布後の熱処理温度は、例えば、80~120℃、好ましくは90~110℃程度であってもよい。熱処理は、通常、大気雰囲気下で行ってもよい。なお、複数回に亘り塗布する場合、塗布する度に熱処理を行ってもよく、複数回の塗布を終えた後に一度に熱処理を行ってもよい。
【0123】
(正孔輸送層形成工程)
正孔輸送層形成工程では、前記ペロブスカイト層形成工程で形成した積層体のペロブスカイト層の面に、前記正孔輸送材料(例えば、前記式(3)で表される化合物、ポリシランなど)と溶媒(又は分散媒)を含む正孔輸送層形成溶液(又は分散液)を塗布(又はコーティング)することにより正孔輸送層を形成する。
【0124】
溶媒は、例えば、炭化水素類(例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など);ハロゲン化炭化水素類(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼンなど);アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールなどのC1-6アルカンモノオール;エチレングリコールなどのC2-4アルカンジオールなど);エーテル類(ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など);グリコールエーテル類[例えば、セロソルブ類(メチルセロソルブなど)、カルビトール類(メチルカルビトールなど)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの(ポリ)C2-4アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどの(ポリ)C2-4アルキレングリコールジC1-4アルキルエーテルなど];グリコールエーテルアセテート類[例えば、セロソルブアセテート類(例えば、メチルセロソルブアセテートなどのC1-4アルキルセロソルブアセテートなど)、カルビトールアセテート類(例えば、メチルカルビトールアセテートなどのC1-4アルキルカルビトールアセテートなど)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの(ポリ)C2-4アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテルアセテートなど];ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン、シクロヘキサノンなどの環状ケトンなど);エステル類(酢酸エチルなどの酢酸エステル、乳酸メチルなどの乳酸エステルなど);カーボネート類(ジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネートなど);カルボン酸類(酢酸、プロピオン酸など);ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリルなど);アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなど);スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど);水;及びこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0125】
これらの溶媒のうち、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類が好ましい。溶媒の割合は、正孔輸送材料の総量100重量部に対して、例えば、500~2000重量部、好ましくは1000~1500重量部程度であってもよい。
【0126】
また、正孔輸送層形成溶液は、必要に応じて、正孔輸送層の項に例示した添加剤(例えば、Li-TFSIなどのドーパントなど)などを含んでいてもよく、これらの添加剤の割合は、前記正孔輸送層の項に記載の割合と好ましい態様を含めて同様であってもよい。ドーパントなどの添加剤は、前記正孔輸送材料と同様の溶媒(例えば、アセトニトリルなどのニトリル類など)に溶解又は分散してから添加してもよい。
【0127】
また、正孔輸送層形成溶液は、擬フェルミ準位の変化により開放電圧を向上できる観点から、必要に応じてアミン類を含んでいてもよい。アミン類としては、例えば、複素環アミン(例えば、4-t-ブチルピリジンなどのC1-6アルキルピリジンなど)、第3級アミン(例えば、トリエチルアミンなどのトリC1-6アルキルアミン、トリエタノールアミンなどのトリC1-6アルカノールアミンなど)などが挙げられる。これらのアミン類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのアミン類のうち、4-t-ブチルピリジンなどの複素環アミンなどが好ましい。アミン類の割合は、溶媒100体積部に対して、例えば、0.1~10体積部、好ましくは1~5体積部程度であってもよい。
【0128】
正孔輸送層形成溶液は加熱しながら調製してもよく、加熱温度は、例えば、50~100℃、好ましくは60~80℃程度であってもよい。なお、正孔輸送層形成溶液は、正孔輸送材料(例えば、前記式(3)で表される化合物など)の分解を抑制する観点から、塗布後に熱処理しなくてもよい。
【0129】
(第2の電極形成工程)
第2の電極形成工程では、前記正孔輸送層形成工程で形成した積層体の正孔輸送層の面に、前記第2の電極の項に例示した導電体(金属又は炭素)を蒸着(例えば、真空蒸着など)することにより第2の電極を形成する。
【0130】
第2の電極形成後、必要に応じて、配線を接続したり、カバーを装着したりして光電変換素子を作製してもよい。
【0131】
(光電変換素子の特性)
本発明で得られる光電変換素子は高い短絡電流密度及び変換効率を有している。照度100mWcm-2、AM1.5、照射面積0.090cm、室温(25℃程度)の条件下で測定した短絡電流密度は、例えば、5~30mAcm-2、好ましくは7~25mAcm-2、さらに好ましくは10~20mAcm-2程度であってもよい。また、変換効率は、例えば、2~20%、好ましくは3~15%、さらに好ましくは5~12%程度であってもよい。
【実施例
【0132】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、使用した原料の調製方法について下記に示す。
【0133】
[原料の調製]
(FTO基板(第1の電極))
フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine-doped tin oxide)にコーティングされたガラス基板(ガラス基板の厚み:1.8mm、FTO塗布膜の厚み:約900nm)をアセトン中で超音波洗浄後、メタノール中で超音波洗浄した。さらに、この基板を窒素ガス下で乾燥後、UV-オゾン処理を20分施したものを用いた。
【0134】
(電子輸送層前駆体溶液(0.15M))
チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)[Titanium diisopropoxide bis(acetyl acetonate)、Sigma-Aldrich社製]0.055mLと1-ブタノール(ナカライテスク(株)製、純度99%)1mLとを混合し、撹拌して調製した。
【0135】
(電子輸送層前駆体溶液(0.30M))
チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)を0.11mLと1-ブタノール1mLとを混合し、撹拌して調製した。
【0136】
(多孔質部形成溶液)
TiO粉末(日本アエロジル(株)製「AEROXIDE TiO2 P25」)100mgとポリエチレングリコール(ナカライテスク(株)製「PEG(♯20000)」)10mgとに超純水0.5mLを加えて撹拌した。さらに、アセチルアセトン(和光純薬工業(株)製、純度99%)10.0μL、4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル-ポリエチレングリコール(Sigma-Aldrich社製「Triton-X-100」)を5.0μL加えて30分撹拌後、12時間静置して調製した。
【0137】
(ペロブスカイト層前駆体溶液)
CHNHI(モノメチルアミンヨウ化水素酸塩、昭和化学工業(株)製、純度95%)98.8mg、PbI(ヨウ化鉛(II)、Sigma-Aldrich社製、純度99.999%)289.3mg、ポリシラン3mg、γ-ブチロラクトン(ナカライテスク(株)製、純度98%)0.3mL、及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Sigma-Aldrich社製)0.2mLを混合し、60℃に加熱して一夜撹拌した。
【0138】
(正孔(ホール)輸送層形成溶液)
2,2’,7,7’-テトラキス-[N,N-ジ(4-メトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン(2,2',7,7'-tetrakis-[N,N-di(4-methoxyphenyl)amino]-
9,9'-spirobifluorene、Luminescence Technology社製、単にSpiro-OMeTADという)36.1mgをクロロベンゼン(和光純薬工業(株)製)0.5mLに加え、12時間撹拌して溶液Aを調製した。また、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Li-TFSI、東京化成工業(株)製)260mgを、アセトニトリル(和光純薬工業(株)製)0.5mLに加え、12時間撹拌して溶液Bを調製した。前記溶液A全量と前記溶液B 8.8μLと4-t-ブチルピリジン(Sigma-Aldrich社製)14.4μLとを混合し、70℃で30分撹拌して正孔輸送層形成溶液を調製した。
【0139】
[光電変換素子の作製]
(実施例1)
上記原料を用いて、図1に示す光電変換素子を作製した。すなわち、FTO基板上に電子輸送層前駆体溶液(0.15M)を滴下し、スピンコータ―(ミカサ(株)製「MS-A100」)を使用して、スピンコート(3000rpm、30秒)した後に、ホットプレートで熱処理(125℃、5分)した。次いで、電子輸送層前駆体溶液(0.30M)を滴下し、スピンコート(3000rpm、30秒)した。この電子輸送層前駆体溶液(0.30M)のスピンコートを2回した後に、ホットプレートで熱処理(125℃、5分)した。さらに、電気炉(アズワン(株)製「MSF-1」)で熱処理(500℃、30分)して、厚み約40nmの電子輸送層(緻密なTiO層)を形成した。
【0140】
前記電子輸送層の上に、多孔質部形成溶液を滴下し、スピンコート(5000rpm、30秒)した後に、電気炉で熱処理(500℃、30分)して、厚み約300~900nm程度の多孔質部(多孔質TiO部)を形成した。
【0141】
前記多孔質部の内部(又は空隙)に、70℃に加熱したペロブスカイト層前駆体溶液が浸入するように滴下し、スピンコート(2000rpm、60秒)した。この操作を4回行った後、ホットプレートで熱処理(100℃、30分、大気雰囲気下)し、厚み約300~900nm程度の第1のペロブスカイト層(多孔質部の空隙にCHNHPbI及びポリシランが含浸又は浸入した層)及び厚み約100nm程度の第2のペロブスカイト層(CHNHPbI及びポリシランを含む層)を形成した。なお、ペロブスカイト層前駆体溶液の調製において、ポリシランとして、ポリ(メチルフェニルシラン)(大阪ガスケミカル(株)製「OGSOL SI-10-10」、以下、単にPMPSという)を使用した。
【0142】
前記第2のペロブスカイト層の上に、正孔輸送層形成溶液を滴下してスピンコート(4000rpm、30秒)し、厚み約40nmの正孔輸送層を形成した。
【0143】
前記正孔輸送層の上に、真空蒸着装置(アルバック機工(株)製「VPC-260F」)により金Auを蒸着(又は製膜)して、厚み約200nmの第2の電極(金属電極)とした。このようにして、図1記載の光電変換素子を作製した。
【0144】
(実施例2)
ペロブスカイト層前駆体溶液の調製で使用するポリシランを、PMPSに代えて、ポリフェニルシラン(大阪ガスケミカル(株)製「OGSOL SI-20-10」、以下、単にPPSという)を使用する以外は、実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0145】
(実施例3)
ペロブスカイト層前駆体形成溶液の調製で使用するポリシランを、PMPSに代えて、デカフェニルシクロペンタシラン(大阪ガスケミカル(株)製「OGSOL SI-30-10」、以下、単にDPPSという)を使用する以外は、実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0146】
(比較例1)
ポリシランを添加することなく調製したペロブスカイト層前駆体溶液を用いる以外は、実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0147】
[XRD(X-ray diffraction)測定]
実施例1~3及び比較例1で作製した光電変換素子を、X線回折装置(Bruker AXS社製「D2 PHASER」)を用いて測定した。結果を図2及び表1に示す。なお、結晶子サイズDは、下記シェラーの式(Scherrer's equation)により算出した。
【0148】
D=0.9xλ/(βxcosθ)
[式中、Dは結晶子サイズ、λは使用するX線の波長(0.15405nm)、βは半値全幅(FWHM)、θはブラッグ角を示す]。
【0149】
【表1】
【0150】
図2から明らかなように、比較例1では、PbIに由来するピークが見られるのに対して、ポリシランを添加した実施例1~3では前記ピークが消失(又は強度が低下)していることから、PbIの生成が有効に抑制されていることが分かった。また、実施例1~3では(100)面のピーク強度が増大しており、表1の結果からも結晶子サイズDが上昇していることから、ポリシランの添加によりPbIの生成が有効に抑制されるとともに、ペロブスカイト結晶の成長が促進されることが分かった。この理由は定かではないが、ペロブスカイト層前駆体溶液において、γ-ブチロラクトン及びDMFの混合溶媒と、CHNHI(モノメチルアミンヨウ化水素酸塩)、PbI(ヨウ化鉛(II))、及びポリシランとの親和性が影響しているのではないかと推測される。また、実施例では、比較例1に対して面間距離dがやや小さくなっていることから、バンドギャップが若干大きくなることが予想される。
【0151】
[光学顕微鏡による観察]
実施例1~3及び比較例1で作製した光電変換素子を、光学顕微鏡(Nikon(株)製「ECLIPSE E600」)を用いて、Au電極が形成されていない部分の表面を観察した。結果を図3に示す。
【0152】
図3から明らかなように、いずれの例においても、ペロブスカイト結晶の微粒子が均一なサイズで形成されていることが確認された。また、実施例1~2及び比較例1では、微粒子の粒子径が約10μm程度であるのに対して、実施例3では、約20~40μmと大きく成長しており、粒子同士の間隔が狭く、緻密な構造が形成されていることが分かった。
【0153】
[光電変換素子の特性評価]
オートマチックポラリゼーションシステム(北斗電工(株)製「HSV-110」)、ソーラーシミュレータ((株)三永電機製作所製「XES-301S」、光源:キセノンランプ、照度:100mWcm-2)を用い、AM1.5、照射面積0.090cm、室温(25℃程度)の条件下で、実施例1~3及び比較例1で得られた光電変換素子の電流密度-電圧曲線を測定した。なお、光電変換素子のFTO基板側を通して光を照射した。測定結果を表1及び図4に示す。表1において、Jscは短絡電流密度、Vocは解放電圧、FFは曲線因子、η及びηaveは光電変換効率(単に、変換効率ともいう)の最大値及び平均値をそれぞれ示す。詳しくは、η及びηaveは、光電変換素子の異なる4か所で測定した変換効率の最大値及び平均値である。各測定箇所では、Forward(フォワードスキャン、電圧が上がる方向に走査)及びReverse(リバーススキャン、電圧が下がる方向に走査)の条件で各1回ずつ(計2回)測定して、この2回の測定値の平均値を、各測定箇所における変換効率とした。また、図4は、Forward及びReverseの測定を平均したグラフを示している。
【0154】
また、実施例1~3及び比較例1で得られた光電変換素子の外部量子効率(又は光電変換量子収率、IPCE)を、Enli Technology社製「QE-R3011」を使用して、室温(25℃程度)、波長300~800nmの条件下で測定した。結果を図5に示す。
【0155】
【表2】
【0156】
表2及び図4から明らかなように、いずれの実施例においても、開放電圧Vocが向上した。特に、実施例3では、実施例1~2よりも大きく向上していることから、多くのフェニル基を有するDPPSが、キャリアの移動性改善に大きく寄与したためと推測される。一般的な単結晶シリコン太陽電池の開放電圧の値は最高でも0.706V程度であるため、より高い電圧を必要とする分野での利用などが期待される。また、実施例1~2では、比較例1に比べて、変換効率ηがやや低下するものの、実施例3では、短絡電流密度Jscが大きく上昇し、変換効率の最大値ηが10.15%(Reverse条件では最大10.46%)となり、比較例1の約2倍近くに向上した。
【0157】
図5から明らかなように、実施例1~2では、比較例1に対して、ペロブスカイト層の価電子帯のエネルギー値が低下してバンドギャップが0.02eV程度大きくなっている可能性が示唆されており、バンドギャップの変化と前記表2の結果との間に相関性があるように思われる。一方、DPPSを添加した実施例3では、開放電圧が向上するにもかかわらずバンドギャップの変化が少ないことから、ペロブスカイト層の価電子帯及び伝導帯のエネルギー値が同程度低下していることが考えられる。また、400~750nm辺りの広い波長領域において、IPCEが比較例1よりも向上していることから、実施例3の光電変換素子の短絡電流密度Jscが向上したものと考えられる。
【0158】
DPPSの添加により、短絡電流密度Jsc及び変換効率ηが大きく向上したメカニズムは定かではないが、ペロブスカイト結晶の粒成長促進と表面被覆率の向上による緻密な界面構造の形成;PbIの生成抑制によるペロブスカイト結晶の成長促進;DPPSが有する多くのフェニル基による電荷分離後のホール輸送効率の向上などが影響していると推測される。特にペロブスカイト結晶の成長に関して、前述の光学顕微鏡による観察結果から、実施例3ではペロブスカイト結晶粒子が大きく成長し、緻密な構造が形成されたことが、変換効率の向上に寄与したものと推測される。すなわち、結晶粒径が大きくなるにつれて、キャリア(電子やホールなど)の散乱の原因となる結晶粒界の面積が減少し、電気抵抗が低下することにより変換効率が向上したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、高い変換効率を有するペロブスカイト型の光電変換素子(又は太陽電池)として有効に利用できる。
【符号の説明】
【0160】
1…第1の電極
2…電子輸送層(ETL)
3a…第1のペロブスカイト層
3b…第2のペロブスカイト層
4…正孔(又はホール)輸送層(HTL)
5…第2の電極
図1
図2
図3
図4
図5