(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】定着ベルト、定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
G03G15/20 515
(21)【出願番号】P 2017197593
(22)【出願日】2017-10-11
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】向山 泉
(72)【発明者】
【氏名】植村 直子
(72)【発明者】
【氏名】松島 朝夫
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-084651(JP,A)
【文献】特開2012-108545(JP,A)
【文献】特開2016-142898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/20
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂製の基層と、前記基層の上に配置された耐熱性の弾性材料製の中間層と、前記中間層の上に配置されたフッ素樹脂製の表層と、を有する定着ベルトであって、
前記表層の表面には、周期的に形成された複数の凸部が配置されており、
前記複数の凸部は、以下の式(1)および式(2)を満たす、
定着ベルト。
0.3≦a≦5.0 (1)
1.5≦b/a≦5.0 (2)
(式(1)において、aは、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)であり、bは、頂点の高さ(μm)である。)
【請求項2】
周期的に形成された前記複数の凸部は、さらに、以下の式(3)および式(4)を満たす、請求項1に記載の定着ベルト。
0.5≦a≦2.0 (3)
2.0≦b/a≦3.5 (4)
【請求項3】
前記耐熱性樹脂は、ポリイミドであり、
前記弾性材料は、シリコーンゴムであり、
前記複数の凸部は、前記表層の表面の全体に配置されている、
請求項1または請求項2に記載の定着ベルト。
【請求項4】
前記フッ素樹脂は、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の定着ベルト。
【請求項5】
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを軸支する二以上のローラと、
前記定着ベルトを加熱するための加熱装置と、
前記定着ベルトを介して前記二以上のローラのうちの一つに対して相対的に付勢されるように配置される加圧ローラと、を有し、
前記加圧ロー
ラの外径は、50mm以上であり、
前記定着ベルトは、請求項1~4のいずれか一項に記載の定着ベルトである、
定着装置。
【請求項6】
前記定着ベルトは、前記二以上のローラによって、張力が45N以下となるように軸支されている、請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
記録媒体上に電子写真方式によって形成された未定着のトナー画像を加熱および加圧によって前記記録媒体に定着させる定着装置を有する画像形成装置であって、
前記定着装置は、請求項5または6に記載の定着装置である、
画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着ベルト、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やレーザービームプリンターなどを含む電子写真方式の画像形成装置には、加熱された定着ベルトを、未定着のトナー画像を担持している転写材に当接させて、トナー画像を転写材に定着させる定着装置が採用されている。このような定着装置として、定着ベルトと、加熱ローラを含み、定着ベルトを軸支する二以上のローラと、を有するものが知られている。定着ベルトは、熱容量が比較的小さいため、トナー画像を転写材に定着させることに優れており、画像形成の高速化に寄与する。
【0003】
このような定着装置では、上加圧部材(ローラ)および下加圧部材(ローラ)上の定着ベルトが作るニップの出口曲率を大きくしたり、定着ベルト表面に対する記録媒体の離型性を向上させることにより、定着ベルトと、記録媒体との分離性を向上させている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、基材層と、弾性層と、表面層と、を含む3層構造の定着ベルトが記載されている。また、表面層の材料として、離型性の観点から、フッ素樹脂が最も好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像形成装置における印刷速度を速めるには、連続して印刷することによる熱損失の補填のため、上加圧部材および下加圧部材を大型化して熱容量を増加させる必要である。上加圧部材および下加圧部材の大型化は、出口側の曲率の低下を意味する。また、定着ベルトの表面層に使用している離型効果を促すフッ素樹脂材料中の不純物の割合は、非常に小さいため、さらなる不純物の低減による離型性の向上は困難と考えられる。
【0007】
また、特許文献1のように、表面層の材料にフッ素樹脂を使用した場合、表面層の非粘着性は、表面層の表面に配置されたフルオロ基の数によって決まる。しかし、上述したように、フッ素樹脂中には、フルオロ基以外の不純物はほぼ含まれていないため、フッ素樹脂の改質による非粘着化は困難であると考えられる。
【0008】
本発明は、高い分離性を有する定着ベルトおよびこの定着ベルトを備えた定着装置および画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するための一手段としての定着ベルトは、耐熱性樹脂製の基層と、前記基層の上に配置された耐熱性の弾性材料製の中間層と、前記中間層の上に配置されたテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体製の表層と、を有する定着ベルトであって、
前記表層の表面には、周期的に形成された複数の凸部が配置されており、
前記複数の凸部は、以下の式(1)および式(2)を満たす。
0.3≦a≦5.0 (1)
1.5≦b/aB≦5.0 (2)
(式(1)において、aは、隣接する2つの頂点の頂点間距離(μm)であり、bは、頂点の高さ(μm)である。)
【0010】
また、本発明は、上記の課題を解決するための他の手段としての定着装置は、無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトを軸支する二以上のローラと、前記定着ベルトを加熱するための加熱装置と、前記定着ベルトを介して前記二以上のローラのうちの一つに対して相対的に付勢されるように配置される加圧ローラと、を有し、前記加圧ローラに付勢される前記ローラの外径は、50mm以上であり、前記定着ベルトは、本発明に係る定着ベルトである。
【0011】
また、本発明は、上記の課題を解決するための他の手段としての画像形成装置は、記録媒体上に電子写真方式によって形成された未定着のトナー画像を加熱および加圧によって前記記録媒体に定着させる定着装置を有する画像形成装置であって、前記定着装置は、本発明に係る定着装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い分離性を有する定着ベルトおよびこの定着ベルトを備えた定着装置および画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態における画像形成装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態における定着装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3A、Bは、本発明の実施の形態における定着ベルトの構成を示す図である。
【
図4】
図4A、Bは、凸部の配置の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、添付した図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(画像形成装置の構成)
図1は、画像形成装置10の構成を示す図である。
図2は、定着装置60の構成を示す図である。
【0016】
図1に示されるように、画像形成装置10は、画像読み取り部20と、画像形成部30と、中間転写部40と、定着装置60と、記録媒体搬送部80と、を有する。
【0017】
画像読み取り部20は、原稿Dから画像を読み取り、静電潜像を形成するための画像データを得る。画像読み取り部20は、給紙装置21と、スキャナー22と、CCDセンサー23と、画像処理部24と、を有する。
【0018】
画像形成部30は、例えば、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの各色に対応する四つの画像形成ユニット31を含む。画像形成ユニット31は、感光体ドラム32と、帯電装置33と、露光装置34と、現像装置35と、クリーニング装置36と、を有する。
【0019】
感光体ドラム32は、例えば、光導電性を有する負帯電型の有機感光体である。帯電装置33は、感光体ドラム32を帯電させる。帯電装置33は、例えば、コロナ帯電器である。帯電装置33は、帯電ローラや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム32に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置34は、帯電した感光体ドラム32に光を照射して静電潜像を形成する。露光装置34は、例えば、半導体レーザーである。現像装置35は、静電潜像が形成された感光体ドラム32にトナーを供給して静電潜像に応じたトナー画像を形成する。現像装置35は、例えば、電子写真方式の画像形成装置における公知の現像装置である。クリーニング装置36は、感光体ドラム32の残留トナーを除去する。ここで、「トナー画像」とは、トナーが画像状に集合した状態を言う。
【0020】
トナーは、公知のトナーを用いることができる。トナーは、一成分現像剤であってもよいし、二成分現像剤であってもよい。一成分現像剤は、トナー粒子から構成される。また、二成分現像剤は、トナー粒子およびキャリア粒子から構成される。トナー粒子は、トナー母体粒子およびその表面に付着したシリカなどの外添剤から構成される。トナー母体粒子は、例えば、結着樹脂、着色剤およびワックスから構成される。
【0021】
中間転写部40は、一次転写ユニット41と、二次転写ユニット42と、を含む。
【0022】
一次転写ユニット41は、中間転写ベルト43と、一次転写ローラ44と、バックアップローラ45と、複数の第1支持ローラ46と、クリーニング装置47と、を有する。中間転写ベルト43は、無端状のベルトである。中間転写ベルト43は、バックアップローラ45および第1支持ローラ46によって張架される。中間転写ベルト43は、バックアップローラ45および第1支持ローラ46の少なくとも一つのローラが回転駆動することにより、無端軌道上を一方向に一定速度で走行する。
【0023】
二次転写ユニット42は、二次転写ベルト48と、二次転写ローラ49と、複数の第2支持ローラ50と、を有する。二次転写ベルト48は、無端状のベルトである。二次転写ベルト48は、二次転写ローラ49および第2支持ローラ50によって張架される。
【0024】
図2に示されるように、定着装置60は、定着ベルト61と、ローラ(加熱ローラ62および第1加圧ローラ63)と、第2加圧ローラ(加圧ローラ)64と、ヒータ(加熱装置)65、66と、第1温度センサー67と、第2温度センサー68と、気流分離装置69と、案内板70と、案内ローラ71と、を有する。
【0025】
定着ベルト61は、基層61aと、弾性層61bと、表層61cとがこの順番で積層されている(
図3参照)。定着ベルト61は、基層61aを内側とし、表層61cを外側にした状態で、二以上のローラに軸支されている。本実施の形態では、定着ベルト61は、加熱ローラ62と第1加圧ローラ63とによって軸支される。定着ベルト61の張力は、45N以下であることが好ましい。定着ベルト61の張力が45N超の場合、第1加圧ローラ63が破損してしまうおそれがある。定着ベルト61の張力は、例えば43Nである。本実施の形態の特徴の一つは、定着ベルト61であるため、定着ベルト61の詳細な説明は後述する。
【0026】
加熱ローラ62は、回転自在なアルミニウム製のスリーブと、その内部に配置されたヒータ65と、を有する。第1加圧ローラ63は、例えば、回転自在な芯金と、その外周面上に配置された弾性層と、を有する。
【0027】
第2加圧ローラ64は、定着ベルト61を介して第1加圧ローラ63に対向して配置されている。第2加圧ローラ64は、例えば、回転自在なアルミニウム製のスリーブと、当該スリーブ内に配置されるヒータ66と、を有する。第2加圧ローラ64は、第1加圧ローラ63に対して接近、離間自在に配置されており、第1加圧ローラ63に対して接近したときに、定着ベルト61を介して第1加圧ローラ63の弾性層を押圧し、定着ベルト61との接触部である定着ニップ部を形成する。第2加圧ローラ64の外径は、50mm以上であること好ましい。第2加圧ローラ64の外径が50mm未満である場合、ローラの熱容量を確保することができず、画像形成装置10の印刷速度を高めることができない。
【0028】
第1温度センサー67は、加熱ローラ62によって加熱された定着ベルト61の温度を検出するための装置である。また、第2温度センサー68は、第2加圧ローラ64の外周面の温度を検出するための装置である。
【0029】
気流分離装置69は、定着ベルト61の移動方向の下流側から定着ニップ部に向けて気流を生じさせて、定着ベルト61からの記録媒体Sの分離を促すための装置である。
【0030】
案内板70は、未定着のトナー画像を有する記録媒体Sを定着ニップ部に案内するための部材である。案内ローラ71は、トナー画像が定着された記録媒体を定着ニップ部から画像形成装置10外へ案内するための部材である。
【0031】
図1の説明に戻る。記録媒体搬送部80は、三つの給紙トレイユニット81および複数のレジストローラ対82を有する。給紙トレイユニット81には、坪量やサイズなどに基づいて識別された記録媒体(本実施の形態では規格紙、特殊紙など)Sが予め設定された種類ごとに収容される。レジストローラ対82は、所期の搬送経路を形成するように配置されている。
【0032】
このような画像形成装置10では、記録媒体搬送部80により送られてきた記録媒体Sに、画像読み取り部20で取得された画像データに基づいて、中間転写部40で記録媒体Sにトナー画像が形成される。中間転写部40でトナー画像が形成された記録媒体Sは、定着装置60に送られる。
【0033】
定着装置60における定着ベルト61は、所定の速度で回転駆動し、例えば、第1温度センサー67によるフィードバック制御によりヒータ65によって所望の温度(例えば190℃)に加熱される。第2加圧ローラ64は、例えば第2温度センサー68によるフィードバック制御によりヒータ66によって所望の温度(例えば180℃)に加熱される。そして、第2加圧ローラ64は、記録媒体Sの到着に合わせて、定着ベルト61を介して第1加圧ローラ63の外周面を付勢し、定着ニップ部を形成する。
【0034】
一方で、未定着のトナー画像を担持する記録媒体Sは、案内板70に案内されながらニップ部に案内される。そして、定着ベルト61が記録媒体Sに密着することによって、未定着のトナー画像は、速やかに記録媒体Sに定着される。また、記録媒体Sは、定着ニップ部の下流端で、気流分離装置69からの気流を受ける。このため、記録媒体Sの定着ベルト61からの分離が促進される。定着ベルト61から分離した記録媒体は、案内ローラ71により、画像形成装置10外に向けて案内される。
【0035】
(定着ベルトの構成)
次に、定着ベルト61について詳細に説明する。
図3Aは、定着ベルト61の斜視図であり、
図3Bは、
図3Aに示される領域Aの拡大図である。
【0036】
図3A、Bに示されるように、定着ベルト61は、基層61aと、弾性層61bと、表層61cと、を有する。また、定着ベルト61において、基層61aは内側に位置し、表層61cは外側に位置する。
【0037】
基層61aは、耐熱性樹脂製である。耐熱性樹脂は、定着ベルト61の使用温度の範囲内において変性および変形を生じない樹脂から適宜に選択できる。耐熱性樹脂の例には、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミドおよびポリエーテルエーテルケトンが含まれる。耐熱性樹脂は、耐熱性の点から、ポリイミドが好ましい。耐熱性樹脂は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0038】
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミド酸を200℃以上温度で加熱すること、または触媒を用いて、ポリアミド酸を脱水・環化(イミド化)反応を進めることによって得ることができる。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを溶媒に溶解し、混合・加熱による重縮合反応によって製造してもよいし、市販品を用いてもよい。ジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の例には、特開2013-25120号公報の段落0123~0130に記載の化合物が含まれる。
【0039】
基層61aは、本実施の形態の効果が得られる範囲において、耐熱性樹脂以外の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、基層61aの材料は、他の樹脂成分をさらに含んでいてもよい。基層61aの材料における耐熱性樹脂の含有量は、成形性などの観点から、40~100体積%であることが好ましい。
【0040】
弾性層61bは、弾性材料製である。弾性層61bの材料(弾性材料)の例には、シリコーンゴムや熱可塑性エラストマー、ゴム材料などの弾性樹脂材料が含まれる。弾性材料は、シリコーンゴムが好ましい。
【0041】
シリコーンゴムの例には、ポリオルガノシロキサンまたはその加熱硬化物、および、特開2009-122317号公報に記載された付加反応型シリコーンゴムが含まれる。ポリオルガノシロキサンの例には、特開2008-255283号公報の段落0029に記載された両末端がトリメチルシロキサン基で封鎖され、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサンが含まれる。シリコーンゴムは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
弾性層61bの厚さは、例えば、伝熱性および弾性を十分に発現させる観点から、30~400μmであることが好ましく、50~300μmであることがより好ましく、100~250μmであることがさらに好ましい。
【0043】
弾性層61bは、本実施の形態の効果が得られる範囲において、弾性樹脂材料以外の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、弾性材料は、弾性層の伝熱性を高めるための伝熱性のフィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーの材料の例には、シリカ、金属シリカ、アルミナ、亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボンおよび黒鉛が含まれる。フィラーの形態は、限定されず、例えば、球状粉末、不定形粉末、扁平粉末または繊維である。
【0044】
弾性材料における弾性樹脂材料の含有量は、60~100体積%であることが好ましく、75~100体積%であることがより好ましく、80~100体積%であることがさらに好ましい。
【0045】
表層61cは、トナーに対する適度な離型性を有する。表層61cは、定着時に記録媒体Sに当接する定着ベルト61の外表面に位置する。表層61cの材料は、フッ素樹脂である。より具体的には、表層61cの材料は、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)が好ましい。
【0046】
表層61cの表面には、複数の凸部が周期的に配置されている。本実施の形態に係る定着ベルト61は、表層61cの表面に配置された複数の凸部により、記録媒体Sとの高い分離性を実現する。凸部の形状は、表層61cに離型性を付与できれば適宜設計できる。凸部の形状は、四角錐であってもよいし、三角錐であってもよいし、円錐であってもよい。本実施の形態では、凸部の形状は、生産性の観点から、四角錐が好ましい。
【0047】
複数の凸部は、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)をaとし、頂点の高さ(μm)をbとした場合に、以下の式(1)および式(2)を満たす。
0.3≦a≦5.0 (1)
1.5≦b/a≦5.0 (2)
【0048】
ここで、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aが0.3μm未満の場合、記録媒体Sと表層61cとの接触面積が大きくなってしまい、高い分離性が得られない。一方、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aが5.0μm超の場合、隣接する凸部間に記録媒体Sが入り込んでしまい、高い分離性が得られない。
【0049】
また、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aに対する頂点の高さ(μm)bが1.5未満の場合、隣接する凸部間に記録媒体Sが入り込んでしまい、高い分離性が得られない。一方、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aに対する頂点の高さ(μm)bが5.0超bの場合、凸部の形状が保持しづらくなり、高い分離性が得られない。
【0050】
また、複数の凸部は、さらに、以下の式(3)および式(4)を満たすことが好ましい。
0.5≦a≦2.0 (3)
2.0≦b/a≦3.5 (4)
【0051】
複数の凸部が上記式(3)および式(4)を満たすことにより、さらに表層61cと、記録媒体Sとの分離性を高めることができる。
【0052】
隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aおよび頂点の高さ(μm)bは、表層61cの1mm2あたりで50%の割合で、上記(1)~(4)を満たせば良く、表層61cの1mm2あたりで80%の割合で、上記(1)~(4)を満たせばより好ましい。隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aは、まずSEMで10000倍のSEM画像データを準備する。次いで、表層61cの1mm2に含まれる複数の凸部を検出する。次いで、隣接する2つの凸部の頂点間距離を求めた。また、頂点の高さ(μm)bは、まずSEMで10000倍のSEM画像データを準備する。次いで、表層61cの1mm2に含まれる複数の凸部を検出する。次いで、各凸部について、表層61cの表面と、凸部の頂点を2本の平行線で挟み、その2本の平行線間の距離として求めた。
【0053】
表層61cの表面に対して複数の凸部は、50%以上の領域に形成されていることが好ましく、80%以上の領域に形成されていることがより好ましく、100%の領域(表層61cの表面全体)に形成されていることが好ましい。
【0054】
図4A、Bは、定着ベルト61を平面視したときの表層61cにおける複数の凸部の配置の例を示している。なお、
図4A、Bにおける網掛け部分は、凸部が形成されている領域を示している。
【0055】
図4Aに示されるように、複数の凸部は、定着ベルト61の回転方向に沿う方向に複数列となるように配置されていてもよい。この場合、複数の凸部が配置された領域の幅は、凸部が配置されていない領域の幅以上の長さである。これにより、表層61cの表面に対して複数の凸部の領域を50%以上にしている。
【0056】
図4Bに示されるように、複数の凸部は、定着ベルト61の回転方向に沿う方向に直交する方向に沿う方向(定着ベルト61の幅方向)に複数列となるように配置されていてもよい。この場合も、複数の凸部が配置された領域の幅は、凸部が配置されていない領域の幅以上の長さである。これにより、表層61cの表面に対して複数の凸部の領域を50%以上にしている。
【0057】
複数の凸部を形成する方法は、公知の技術により適宜に選択できる。例えば、複数の凸部は、形成された表層61cの表面に対してレーザーマーカーを用いることにより形成できる。レーザーマーカーによる複数の凸部を形成する方法は、生産性の観点から好ましい。なお、表層61cをブラストなどにより加工しても、凸部がランダムになってしまうため、本実施の形態のような凸部を形成できない。
【0058】
表層61cの厚さは、例えば、熱の伝達、弾性層の変形への追従および離型性の発現の観点から、5~40μmであることが好ましく、10~35μmであることがより好ましく、15~30μmであることがさらに好ましい。
【0059】
表層61cは、本実施の形態の効果が得られる範囲において、フッ素樹脂以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、表層61cは、潤滑材粒子をさらに含んでいてもよい。潤滑材粒子の例には、シリコーン樹脂粒子およびシリカ粒子が含まれる。
【0060】
表層61cの材料におけるフッ素樹脂の含有量は、伝熱性、および、弾性層の変形に十分に追従する柔軟性の観点から、70~100体積%であることが好ましい。
【0061】
定着ベルト61は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、前述した基層61a、弾性層61bおよび表層61c以外の他の層をさらに有していてもよい。他の層の例には、補強層が含まれる。
【0062】
補強層は、定着ベルト61の機械的強度を高めるための層であり、例えば、定着ベルト61における弾性層61bおよび表層61cとは反対側の表面(基層61aの内周面)に配置される。当該補強層は、前述した耐熱性樹脂で構成することができ、その厚さは、適宜に決めることができる。
【0063】
定着ベルト61は、積層型の定着ベルトを作製する公知の方法を利用して作製できる。例えば、定着ベルト61は、基層61aとなる耐熱性樹脂製の無端状の成形体の外表面に、表層61cとなるチューブを被せる工程と、成形体とチューブとの間に弾性材料またはその前駆体を注入する工程と、必要に応じて弾性材料または前駆体を加熱硬化させる工程と、を含む方法によって作製できる。
【0064】
以上のように、本実施の形態に係る定着ベルトは、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aと、頂点の高さ(μm)bと、の関係は、0.3≦a≦5.0および1.5≦b/a≦5.0を満たすため、表層61cは記録媒体Sと適切な面積で接触する。よって、定着ベルトは、高い離型性を有する。
【実施例】
【0065】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明する。以下、特記しない限り、各操作は、室温(20℃)で行った。なお、本発明は、以下の実施例などに限定されない。
【0066】
[実施例1]
内径99mm、長さ360mm、厚み70μmの熱硬化性ポリイミド樹脂からなるベルト基材の内側に、外径60mmのステンレス製の円筒状の芯金を密着させた。次いで、当該ベルト基材の外側に、厚さ30μmのPFAチューブを内周面上に保持する円筒金型を被せ、このようにして芯金と円筒金型を同軸で保持するとともに、両者の間にキャビティを形成した。次いで、キャビティにシリコーンゴム材料を注入し、加熱硬化して、厚さ200μmのシリコーンゴムによる弾性層を作製した。最後に、ベルトをレーザーマーカー(MD-T1010W:株式会社キーエンス)に固定し、ドット間隔5μm、レーザーパワー20%、200kHzで表層の表面全体に四角錐形状の複数の凸部を形成した。このようにして、ベルト基材、シリコーンゴムの弾性層およびフッ素樹脂製の表層をこの順で重ねてなる定着ベルト1を作製した。また、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aと、頂点の高さ(μm)bは、レーザー顕微鏡(Vk-X250:株式会社キーエンス)を使用して測定した。
【0067】
[実施例2~8、比較例1~8]
隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aと、頂点の高さ(μm)bとの関係を表1に示されるようにしたこと以外は、実施例1の定着ベルトと同様にして実施例2~8、比較例1~8をそれぞれ作製した。
【0068】
[比較例9]
レーザーマーカーにより複数の凸部を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例9を作製した。このとき、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aに対する頂点の高さ(μm)bは、0であった。
【0069】
[比較例10]
レーザーマーカーにかえて、ブラスト加工したこと以外は、実施例1と同様にして比較例10を作製した。このとき、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aに対する頂点の高さ(μm)bは、0であった。
【0070】
隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aと、隣接する2つの凸部の頂点間距離(μm)aに対する頂点の高さ(μm)bの割合b/aを表1に示す。
【0071】
【0072】
[評価]
定着ベルト1~18を
図2に示されるような二軸ベルト式定着装置を備えた電子写真方式の画像形成装置の定着ベルトとしてそれぞれ設置した。定着ニップ部を構成するローラであって、定着ベルトを支持する側の(加圧ローラに対向して配置される)ローラのローラ径は60mmとした。各定着ベルトについて、定着ベルトの表面温度を180℃とし、A4サイズの普通紙に、当該普通紙の搬送方向に対して垂直方向に5cm幅のマゼンタ色の帯状ベタ画像のトナー画像(トナー付着量:8g/m
2)を転写し、当該普通紙を60枚/分の速度で縦方向に定着ニップ部に通し、上記帯状画像の定着画像を上記普通紙に形成した。
【0073】
(1)分離性
上記の帯状のベタ画像の定着時における各定着ベルトと上記普通紙との分離性を下記の基準により判定した。
A:紙がカールすることなく分離する
B:紙が少しカールするが問題ないレベル
C:分離できない(通紙ジャムする)
【0074】
(2)定着性
上記の帯状のベタ画像を目視にて観察し、定着性を以下の基準により判定した。なお、定着不良による画像欠陥とは、コールドオフセットによる画像欠陥(外観のざらつき)またはホットオフセットによる画像欠陥(通紙ジャムの発生)を意味する。
A:ベタ画像に定着不良による欠陥が見られない
B:細かな欠陥が見られるが問題ないレベル
C:ベタ画像に定着不良による欠陥が見られる
【0075】
【0076】
[結果]
表2に示されるように、0.3≦a≦5.0であり、かつ1.5≦b/a≦5.0である定着ベルト1~8では、低温定着性および分離性に優れていた。特に、0.5≦a≦2.0であり、かつ2.0≦b/a≦3.5である定着ベルト1~4は、分離性がさらに優れていた。
【0077】
一方、aが0.3~5.0の範囲にないか、またはb/aが1.5~5.0の範囲内にない定着ベルト9~18は分離性が特に劣っていた。これは、表層に複数の凸部が形成されていないためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、定着ベルトを有する高速機による電子写真方式の画像形成装置において、良好な定着を実現するとともにペーパージャムの発生を防止することができる。よって、本発明によれば、電子写真方式の画像形成装置におけるさらなる高速化、高性能化および省力化が期待され、画像形成装置のさらなる普及が期待される。
【符号の説明】
【0079】
10 画像形成装置
20 画像読み取り部
21 給紙装置
22 スキャナー
23 CCDセンサー
24 画像処理部
30 画像形成部
31 画像形成ユニット
32 感光体ドラム
33 帯電装置
34 露光装置
35 現像装置
36 クリーニング装置
40 中間転写部
41 一次転写ユニット
42 二次転写ユニット
43 中間転写ベルト
44 一次転写ローラ
45 バックアップローラ
46 第1支持ローラ
47 クリーニング装置
48 二次転写ベルト
49 二次転写ローラ
50 第2支持ローラ
60 定着装置
61 定着ベルト
62 加熱ローラ
63 第1加圧ローラ
64 第2加圧ローラ
65、66 ヒータ
67 第1温度センサー
68 第2温度センサー
69 気流分離装置
70 案内板
71 案内ローラ
80 記録媒体搬送部
81 給紙トレイユニット
82 レジストローラ対
D 原稿
S 紙(記録媒体)