(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】再帰性反射光学要素を表面に配置した空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/06 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
B29D30/06
(21)【出願番号】P 2017212971
(22)【出願日】2017-11-02
【審査請求日】2020-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】友井 修作
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特公昭51-006192(JP,B1)
【文献】特開2000-185528(JP,A)
【文献】特公昭57-002098(JP,B1)
【文献】特開2004-195899(JP,A)
【文献】特開昭50-039780(JP,A)
【文献】特開平02-214651(JP,A)
【文献】特開平04-202339(JP,A)
【文献】特開昭47-026802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再帰性反射光学要素を表面に配置した空気入りタイヤの製造方法であって、該方法は、
グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に、ゴム成分および前記ゴム成分中に分散した再帰性反射光学要素を含むゴム組成物を配置して、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを作製する工程、
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを加硫して、加硫したタイヤを作製する工程、および
サンドペーパー研磨もしくはやすり研磨によって、または溶剤を使用してゴム成分を溶解することにより、加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させる工程
を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記再帰性反射光学要素が、透明材料からなる直径10~200μmの球と、前記球の表面の30~70%を被覆する連続した金属蒸着層からなる反射層とから構成される、請求項
1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記再帰性反射光学要素含有ゴム組成物がカーボンブラックを含む、請求項1
または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
再帰性反射光学要素を表面に配置した空気入りタイヤの製造方法であって、
前記再帰性反射光学要素が透明材料からなる直径10~200μmの球と前記球の表面の30~70%を被覆する連続した金属蒸着層からなる反射層とから構成され、
該方法は、
グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に、ゴム成分および前記ゴム成分中に分散した再帰性反射光学要素を含むゴム組成物を配置して、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを作製する工程、
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを加硫して、加硫したタイヤを作製する工程、および
加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させる工程
を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再帰性反射光学要素を表面に配置した空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に係る技術分野において、先行する車両とその後に続く車両との距離を検出して、車両同士の衝突を回避する衝突回避システムが実用化されており、カメラで取得された画像を用いて先行する車両とその後に続く車両との距離を推定する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
さらに、カメラで取得された画像を用いて車両間の距離を推定する場合に、カメラによる車両の認識率の低下を抑制し、車両同士の衝突を抑制できるタイヤの技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8164628号明細書
【文献】特開2013-101040号公報
【文献】特開2016-94039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、夜間やトンネル内などで照度が低い場合は、周囲とタイヤのコントラストが低く、タイヤが画像認識の特徴点として機能しないという問題があった。
そこで、本発明では、夜間やトンネル内などで照度が低い場合でも、画像認識の特徴点として機能することができる空気入りタイヤを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に再帰性反射光学要素を分散させたゴム組成物を配置し、加硫後、前記ゴム組成物の表面に対してバフがけ、研磨、溶解などを行い、再帰性反射光学要素を表面に露出させることにより、高い再帰性反射性能を有するタイヤを得ることができることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、再帰性反射光学要素を表面に配置した空気入りタイヤの製造方法であって、該方法は、
グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に、ゴム成分および前記ゴム成分中に分散した再帰性反射光学要素を含むゴム組成物を配置して、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを作製する工程、
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを加硫して、加硫したタイヤを作製する工程、および
加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させる工程
を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明は、次の実施態様を含む。
[1]再帰性反射光学要素を表面に配置した空気入りタイヤの製造方法であって、該方法は、
グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に、ゴム成分および前記ゴム成分中に分散した再帰性反射光学要素を含むゴム組成物を配置して、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを作製する工程、
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを加硫して、加硫したタイヤを作製する工程、および
加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させる工程
を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
[2]バフがけまたは研磨によって、加硫したタイヤの前記再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去する、[1]に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[3]前記研磨がサンドペーパー研磨またはやすり研磨である、[2]に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[4]溶剤を使用してゴム成分を溶解することにより、加硫したタイヤの前記再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去する、[1]に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[5]前記再帰性反射光学要素が、透明材料からなる直径10~200μmの球と、前記球の表面の30~70%を被覆する連続した金属蒸着層からなる反射層とから構成される、[1]~[4]のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
[6]前記再帰性反射光学要素含有ゴム組成物がカーボンブラックを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により製造される空気入りタイヤは、夜間やトンネル内などで照度が低い場合でも、画像認識の特徴点として機能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の方法により製造された空気入りタイヤの一例の断面図である。
【
図2】
図2は、再帰性反射光学要素の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、再帰性反射光学要素を表面に配置した空気入りタイヤの製造方法に関する。
図1は、本発明の方法により製造される空気入りタイヤの一例の断面図である。空気入りタイヤ1は、その外表面3の少なくとも一部に再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の層2を有する。
図1では、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の層2はトレッド部4の溝5の底6、ショルダー部7およびサイドウォール部8に配置されているが、本発明はその態様に限定されない。再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の層2は、好ましくは、非接地部に配置される。非接地部とは空気入りタイヤの外表面のうち路面と接触しない部分をいう。非接地部としては、トレッド部4の溝5の底6、ショルダー部7、サイドウォール部8、ビード部9の各々の外表面が挙げられるが、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の層2は、より好ましくは、トレッド部の溝の底6、ショルダー部7およびサイドウォール部8の少なくとも1つの外表面に配置され、さらに好ましくは、トレッド部の溝の底6、ショルダー部7およびサイドウォール部8のすべての外表面に配置される。
【0012】
再帰性反射光学要素とは、入射した光を反射して光源の方向に戻す機能(再帰性反射機能)を有する部材をいう。再帰性反射光学要素は、再帰性反射機能を有する限り限定されないが、好ましくは、透明材料からなる球の表面の一部に反射層を有するものであり、より好ましくは、透明材料からなる直径10~200μmの球と、前記球の表面の30~70%を被覆する連続した金属蒸着層からなる反射層とから構成されるものである。
【0013】
図2は、再帰性反射光学要素の一例を示す図である。再帰性反射光学要素11は球12と反射層13とから構成されている。再帰性反射光学要素11に光源からの光を照射すると、入射光14は球の表面を通過するときに屈折し、裏側の反射面15で反射して、再び球の表面を通過するときに屈折して、反射光16は光源に戻る。
【0014】
透明材料は、光を照射したときにその光の少なくとも一部を通す限り、限定されないが、好ましくは、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート等を例示することができ、より好ましくはガラスである。透明材料は、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート等を主成分とする場合、本発明の効果を阻害しない範囲において、主成分以外の添加剤を含有してもよい。
【0015】
透明材料の隠ぺい率は、再帰性反射機能を有する限り限定されないが、好ましくは70%以下であり、より好ましくは0~50%であり、さらに好ましくは0~30%である。隠ぺい率は、JIS K 5600-4-1の方法B(隠ぺい率試験紙)により測定する。透明材料の隠ぺい率が高すぎると、球に光が入射したときに、光が透明材料に吸収されるため、反射光が弱くなる。
【0016】
透明材料の屈折率は、再帰性反射機能を有する限り限定されないが、好ましくは1.2~2.5であり、より好ましくは1.5~2.4であり、さらに好ましくは1.8~2.3である。屈折率が低すぎると、反射光が入射光と同じ方向に帰らず再帰性反射性能が低下し、逆に高すぎても反射光が入射光と同じ方向に帰らず再帰性反射性能が低下する。
【0017】
球は、再帰性反射機能を有する限り真球である必要はないが、真球であることが好ましい。
球の直径は、再帰性反射機能を有する限り限定されないが、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは30~150μmであり、さらに好ましくは30~100μmである。直径が小さすぎると、再帰性反射性能が低下する場合あり、逆に大きすぎると、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の疲労耐久性が低下する場合がある。
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物に含まれる再帰性反射光学要素の球の直径は、均一である必要はなく、むしろ種々の直径の再帰性反射光学要素が混在していることが好ましい。より好ましくは、直径は30~150μmの範囲内に分布している。種々の直径の再帰性反射光学要素が混在していると、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物に含まれる再帰性反射光学要素の充填率を増加させることができるという利点がある。
【0018】
反射層は、再帰性反射機能を有する限り限定されないが、好ましくは金属蒸着層からなる。蒸着層を構成する金属は、反射機能を有する限り限定されないが、好ましくはアルミニウム、銀、クロム、ニッケル、亜鉛、金、プラチナ等であり、より好ましくはアルミニウムである。
【0019】
反射層は連続していることが好ましい。反射層は連続しているとは、反射層に分断や欠落がないことをいう。
【0020】
球の表面における反射層の被覆率は、再帰性反射機能を有する限り限定されないが、好ましくは30~70%であり、より好ましくは30~50%であり、さらに好ましくは40~50%であり、最も好ましくは50%である。被覆率が小さすぎると、反射層の面積が少なくなるため再帰性反射性能が低下し、逆に大きすぎると、入射光の入る開口面が少なくなるため再帰性反射性能が低下する。反射層の被覆率とは、球の全表面積に対する反射層の面積の比率をいう。
再帰性反射光学要素含有組成物に含まれる再帰性反射光学要素の反射層の被覆率は、均一である必要はなく、むしろ種々の反射層の被覆率の再帰性反射光学要素が混在していることが好ましい。より好ましくは、被覆率は30~50%の範囲内に分布している。種々の反射層の被覆率の再帰性反射光学要素が混在していると、再帰性反射光学要素が再帰性反射光学要素含有組成物中に不規則に分散している場合に再帰性反射性能の低下を抑制できるという利点がある。
【0021】
再帰性反射光学要素は市販されており、本発明において市販品を使用することができる。再帰性反射光学要素の市販品としては、ユニチカ株式会社製「ユニビーズ」金属蒸着品(UB-24MSJ)等が挙げられる。
【0022】
本発明の方法は、グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に、ゴム成分および前記ゴム成分中に分散した再帰性反射光学要素を含むゴム組成物を配置して、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを作製する工程(以下「再帰性反射光学要素含有ゴム組成物配置工程」ともいう。)を含む。
【0023】
本発明において、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物とは、ゴム成分および前記ゴム成分中に分散した再帰性反射光学要素を含むゴム組成物をいう。
【0024】
ゴム成分としては、空気入りタイヤの製造に通常使用されるゴムを使用することができ、限定するものではないが、たとえば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体などが挙げられ、好ましくは天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ゴムである。ゴム成分は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。
加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させる工程において、溶剤を使用してゴム成分を溶解することにより、加硫したタイヤの前記再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去する場合は、ゴム成分として熱可塑性エラストマーを用いる。熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体などが挙げられる。加硫されたゴムは溶剤を使用して溶解することが困難である。
【0025】
再帰性反射光学要素はゴム成分中に分散している。再帰性反射光学要素は不規則に分散していることが好ましい。不規則とは、再帰性反射光学要素の向き(反射層が存在しない球の表面が向く方向)が一定ではなく、かつ再帰性反射光学要素と再帰性反射光学要素の間隔が一定ではないことをいう。再帰性反射光学要素を向きを揃えて配置してなる再帰性反射シートは、光の入射角が大きい場合は反射率が悪いが、再帰性反射光学要素を向きを揃えずにゴム成分中に分散させることにより、光の入射角が大きくても再帰性反射を行うことができる。
【0026】
再帰性反射光学要素の再帰性反射光学要素含有ゴム組成物における体積分率は、再帰性反射機能を有する限り限定されないが、好ましくは50%未満であり、より好ましくは1%以上50%未満であり、さらに好ましくは15~30%である。再帰性反射光学要素の体積分率が小さすぎると、再帰性反射性能が不十分である場合があり、逆に大きすぎると、ゴム成分が少なくなり疲労耐久性が低下する場合がある。
【0027】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物は、ゴム成分および再帰性反射光学要素の他に、必要に応じて各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、たとえば、加硫または架橋剤、加硫または架橋促進剤、老化防止剤、カーボンブラックやシリカなどの補強剤(フィラー)、可塑剤、オイル、加工助剤などを挙げることができる。
【0028】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物は、加硫または架橋剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させる工程において、バフがけまたは研磨によって、加硫したタイヤの前記再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去する場合は、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物は加硫または架橋剤を含むことが好ましい。加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させる工程において、溶剤を使用してゴム成分を溶解することにより、加硫したタイヤの前記再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去する場合は、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物は加硫または架橋剤を含まないことが好ましい。
【0029】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物が加硫または架橋剤を含む場合、加硫または架橋剤は、本発明の効果を阻害しない限り限定されず、空気入りタイヤ用ゴム組成物に通常使用される加硫または架橋剤を使用することができ、たとえば、硫黄、過酸化物架橋剤、フェノール樹脂系架橋剤、ポリアミン系架橋剤、亜鉛華、オキシム類を使用することができる。
透明な再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を使用する場合は、加硫または架橋剤として、過酸化物架橋剤を使用することが好ましい。過酸化物架橋剤によって架橋することにより、ゴム組成物の透明性低下が抑制できるという利点がある。過酸化物架橋剤としては、ケトンパーオキサイド系架橋剤、パーオキシケタール系架橋剤、ハイドロパーオキサイド系架橋剤、ジアルキルパーオキサイド系架橋剤、ジアシルパーオキサイド系架橋剤、パーオキシエステル系架橋剤、パーオキシジカーボネート系架橋剤等が挙げられるが、なかでも1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドが好ましい。過酸化物架橋剤を配合する場合、過酸化物架橋剤の配合量は、ゴム成分100質量部を基準として、好ましくは0.1~10.0質量部であり、より好ましくは0.1~5.0質量部であり、さらに好ましくは0.2~3.0質量部である。
【0030】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物は好ましくはシランカップリング剤を含む。シランカップリング剤を含むことにより、再帰性反射光学要素とゴム成分との親和性が向上し疲労耐久性が向上するという利点がある。シランカップリング剤としては、ビニルシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メタクリルシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、サルファーシラン系カップリング剤等が挙げられるが、なかでもビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピル(トリメトキシシラン)、3-メルカプトプロピル(トリエトキシシラン)が好ましい。シランカップリング剤を配合する場合、シランカップリング剤の配合量は、再帰性反射光学要素100質量部を基準として、好ましくは1~30質量部であり、より好ましくは3~25質量部であり、さらに好ましくは5~20質量部である。
【0031】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物はカーボンブラックを含むことができる。本発明の方法によれば、加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させるので、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物は透明である必要はなく、カーボンブラックを含むことができる。カーボンブラックを含むことにより、ゴム組成物の強度を高めることができ、さらにゴム組成物の紫外線劣化も抑制できるという利点がある。
【0032】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物は好ましくはフェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤を含む。フェノール系老化防止剤は、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物が透明の場合、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の透明性を低下させずに老化防止効果を付与することができる。フェノール系老化防止剤としては、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤が挙げられるが、なかでも2,2′-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4′-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-tert-アミルハイドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、モノ(又はジ、又はトリ)(α-メチルベンジル)フェノールが好ましい。アミン系老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミンが挙げられる。キノリン系老化防止剤としては、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンが挙げられる。老化防止剤を配合する場合、老化防止剤の配合量は、ゴム100質量部を基準として、好ましくは0.2~5.0質量部であり、より好ましくは0.5~4.0質量部であり、さらに好ましくは0.5~3.0質量部である。
【0033】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物は、再帰性反射光学要素を含有する点を除き、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置するグリーンタイヤの外表面の箇所を構成するゴム組成物と同一であってもよいし、同一でなくてもよいが、タイヤ機能維持の観点から、同一であることが好ましい。
【0034】
グリーンタイヤは、インナーライナー、カーカス、トレッドなどのタイヤ部材を成形ドラム上に配置し、常法により積層して、作製することができる。
グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に、ゴム成分および前記ゴム成分中に分散した再帰性反射光学要素を含むゴム組成物を配置する方法は、限定するものではないが、たとえば、ゴム成分、再帰性反射光学要素、必要に応じて加硫または架橋剤、シランカップリング剤、フェノール系老化防止剤、カーボンブラック、その他の添加剤を、慣用の方法により、混合し、混練して、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を調製し、その再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を慣用の方法によりシート状に成形して再帰性反射光学要素含有ゴム組成物シートを作製し、その再帰性反射光学要素含有ゴム組成物シートをグリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に貼り付ける。
【0035】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物シートの厚さは、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは0.05~2.0mmであり、より好ましくは0.05~1.0mmであり、さらに好ましくは0.1~0.5mmである。シートの厚さが薄すぎると、再帰性反射光学要素をゴム組成物が保持できない虞があり、逆に厚すぎると、タイヤに配置した場合にタイヤの走行性能に影響を与える場合がある。
【0036】
再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置する位置は、グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部であるが、好ましくは、非接地部、すなわち、トレッド部の溝の底、ショルダー部、サイドウォール部またはビード部の各々の外表面である。
【0037】
本発明の方法は、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を配置したグリーンタイヤを加硫して、加硫したタイヤを作製する工程(以下「加硫工程」ともいう。)を含む。
グリーンタイヤの加硫は、常法により行うことができる。たとえば、グリーンタイヤを金型に入れ、ブラダーで内側から金型に向け、高温・高圧の蒸気で押し付けることにより、加硫することができる。
【0038】
グリーンタイヤの外表面の少なくとも一部に配置された再帰性反射光学要素含有ゴム組成物に含まれる再帰性反射光学要素は、加硫前に再帰性反射光学要素含有ゴム組成物シートの表面に露出していたとしても、加硫の際に金型で押し付けられるので、再帰性反射光学要素は、加硫後、ゴム組成物の中に埋め込まれてしまう。したがって、再帰性反射光学要素を露出させるために、加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去することが必要である。
【0039】
本発明の方法は、加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去して、再帰性反射光学要素を露出させる工程(以下「表面ゴム成分除去工程」ともいう。)を含む。
加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去する方法は、限定するものではないが、バフがけまたは研磨によって、または溶剤を使用してゴム成分を溶解することにより、加硫したタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面のゴム成分を除去することができる。
【0040】
バフがけとは、布製またはその他の材料で作られた研磨輪(バフ)の周囲(表面)に種々の研磨剤などを付けて回転させて素材を研磨する方法をいう。
【0041】
研磨としては、サンドペーパーを用いて研磨する方法(サンドペーパー研磨)、やすりを用いて研磨する方法(やすり研磨)などを挙げることができる。
サンドペーパーとしては、限定するものではないが、木工用空研ぎペーパー、耐水ペーパー、研磨布サンドクロス、ナイロンタワシなどを挙げられる。サンドペーパーの番手は、限定するものではないが、好ましくは40~400番手であり、より好ましくは60~320であり、さらに好ましくは60~240である。番手が小さすぎる(粒度が粗すぎる)と再帰性反射光学要素を脱落させるおそれがあり、番手が大きすぎる(粒度が細かすぎる)とゴム成分が除去できないおそれがある。
やすりとは、細かな部分を研削する手動工具をいい、サンドペーパーと区別するため、金属やすり、金やすりとも呼ばれ、一般的には棒状のもので、棒やすりとも呼ばれる。やすりとしては、木工やすり、鉄工用やすり、ダイヤモンドヤスリが挙げられるが、いずれを用いてもよい。金属ヤスリの目の形状としては、単目、複目、鬼目、波目、シャリ目、マジカットが挙げられるが、いずれを用いてもよい。
【0042】
溶剤を使用してゴム成分を溶解する方法としては、限定するものではないが、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面を、溶剤を含ませた布を用いて拭く方法を挙げることができる。溶剤としては、ゴム成分を溶解するものである限り、限定されないが、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノン、ゴム揮発油などを挙げることができる。
【0043】
除去されるゴム成分の量は、再帰性反射光学要素が露出する限り、限定されないが、再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の表面から、好ましくは0.02~1.0mmの深さまで、より好ましくは0.05~0.8mmの深さまで、さらに好ましくは0.1~0.5mmの深さまでである。除去されるゴム成分が少なすぎると再帰性反射性能が不十分であり、多すぎると再帰性反射光学要素が脱落するおそれがあるである。
【実施例】
【0044】
(1)原材料
実施例に用いた原材料は次のとおりである。
SBR: 日本ゼオン株式会社製スチレンブタジエンゴム「Nipol」(登録商標)1502
SBS: 旭化成株式会社製スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体「アサプレン」(登録商標)T-411
再帰性反射光学要素: ユニチカ株式会社製金属蒸着ビーズ「ユニビーズ」UB-24MSJ、直径45~63μm
カーボンブラック: 東海カーボン株式会社製GPF「シーストV」
硫黄: 細井化学工業製株式会社製「油処理イオウ」
加硫促進剤: 大内新興化学工業株式会社製「ノクセラー」(登録商標)DM
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製「亜鉛華3号」
ステアリン酸: 新日本理化株式会社製「ステアリン酸50S」
シランカップリング剤: 信越化学工業株式会社製「KBE-846」
オイル: 昭和シェル石油株式会社製「プロセスオイル123」
老化防止剤: 川口化学工業株式会社製「アンテージW-400」
【0045】
(2)再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の調製
表1に示す原料のうち硫黄、加硫促進剤を除く原料を株式会社神戸製鋼所製B型バンバリーミキサー(1.8L)を用いて5分間混合した後、この混合物に硫黄、加硫促進剤を8インチの試験用練りロール機(関西ロール株式会社製)で4分間混練して、実施例1および2ならびに比較例1のゴム組成物を得た。
【0046】
(3)再帰性反射光学要素含有ゴム組成物シートの作製
調製した再帰性反射光学要素含有ゴム組成物を8インチの試験用練りロール機(関西ロール株式会社製)を用いてシートを作製した。再帰性反射光学要素含有ゴム組成物シートの厚みは1mmとした。
【0047】
(4)タイヤの成形
インナーライナー、カーカス、サイドトレッド、キャップトレッドなどのタイヤ部材を成形ドラム上に配置し、常法により積層してグリーンタイヤを作製した。タイヤのサイドウォールからショルダーおよびキャップトレッド溝底となる部分のグリーンタイヤ外表面に、前記(3)で作製した再帰性反射光学要素含有ゴム組成物シートを貼り付け、通常の加硫成形方法により加硫し、サイドウォールからショルダー部およびキャップトレッド溝底部に再帰性反射光学要素含有ゴム組成物が配置された195/65R15サイズの空気入りタイヤを製造した。
【0048】
(5)表面ゴムの除去
作製した空気入りタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物表面を以下のように処理し、表面ゴムの除去を行った。
実施例1の加硫済みタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物表面を#60サンドペーパーを用いて研磨し、表面ゴムを除去して、再帰性反射ビーズを露出させた。
実施例2の加硫済みタイヤの再帰性反射光学要素含有ゴム組成物表面をトルエンを含ませた布を用いて拭くことで、表面ゴムを溶解除去して、再帰性反射ビーズを露出させた。
比較例1の加硫済みタイヤには表面ゴムの除去の処理を行わなかった。
【0049】
(6)再帰性反射性能評価
前記(5)で得られた空気入りタイヤを15×6JJのリムに組み付け、内圧200kPaとなるように空気を充填した。暗所にて空気入りタイヤを直立させ、空気入りタイヤからの距離が10m、入射角が40度となるように投光器を設置し、観測角1度として目視にてサイドウォール部の再帰性反射光を確認した。十分な再帰性反射光が観測された場合は○、再帰性反射をするが反射光が弱い場合を△、再帰性反射を示さない場合は×とした。結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
実施例1および2の金属蒸着ビーズを配合したゴム組成物の表面ゴムの除去を行ったタイヤは良好な再帰性反射性能を示した。一方で比較例1の金属蒸着ビーズを配合したゴム組成物の表面ゴムの除去を行わなかったタイヤは再帰性反射を示さなかった。以上の結果から、タイヤ加硫後に再帰性反射光学要素を分散させたゴム組成物表面のゴム成分を除去して再帰性反射光学要素を露出させることで、良好な再帰性反射性能を有する空気入りタイヤを製造することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の方法により製造された空気入りタイヤは、自動車等への装着用として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 空気入りタイヤ
2 再帰性反射光学要素含有ゴム組成物の層
3 外表面
4 トレッド部
5 溝
6 溝の底
7 ショルダー部
8 サイドウォール部
9 ビード部
11 再帰性反射光学要素
12 球
13 反射層
14 入射光
15 反射面
16 反射光