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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20220119BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20220119BHJP
   C08L 47/00 20060101ALI20220119BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L45/00
C08L47/00
B60C1/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017230631
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019099656
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀一朗
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189649(JP,A)
【文献】特開2014-218631(JP,A)
【文献】特開2007-177209(JP,A)
【文献】特開2016-033194(JP,A)
【文献】特開2014-214297(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴムを含有するゴム成分、テルペン系樹脂、および分枝共役ジエン共重合体を含有するトレッド用ゴム組成物であって、
前記ゴム成分100質量部に対し、5~20質量部のテルペン系樹脂および1~50質量部の分枝共役ジエン共重合体を含有し、
前記分枝共役ジエン共重合体は、
一般式(1)
【化1】
(式中、R1は、炭素数6~11の脂肪族炭化水素を表す。)
で示される分枝共役ジエン化合物と、一般式(2)
【化2】
(式中、R2およびR3は、同一もしくは異なって、水素原子、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、またはハロゲン原子を表す。)
で示される共役ジエン化合物とを共重合して得られ、
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比が10~99重量%、共役ジエン化合物(2)の共重合比が1~90重量%であるトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記分枝共役ジエン共重合体のガラス転移温度が-80℃~-15℃である、請求項1に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
テルペン系樹脂が、テルペンフェノール樹脂およびテルペンスチレン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
ゴム成分100質量部に対し、1~20質量部の前記分枝共役ジエン共重合体を含有し、分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比が20~99重量%、共役ジエン化合物(2)の共重合比が1~80重量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
分枝共役ジエン化合物(1)が、ミルセンおよび/またはファルネセンである、請求項1~のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
共役ジエン化合物(2)が、1,3-ブタジエンおよび/またはイソプレンである、請求項1~のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物および当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤに要求される重要な性能の1つとして、例えば、氷上での制動性能が挙げられる。タイヤの氷上性能に影響を与える、トレッドゴムと路面との摩擦を支配する因子としては、粘着摩擦、ヒステリシス摩擦、ひっかき(掘り起こし)摩擦等が知られている。
【0003】
従来、トレッドゴムと氷上路面との摩擦力を向上させる手法として、粘着摩擦に着目して低温でのゴムの硬度を低くし、路面との接触面積を増大する手法や、ヒステリシス摩擦に着目してゴムのヒステリシスロスを上げる手法、また、ひっかき摩擦に着目して、モース硬度が氷よりも高い素材を配合する等して、ゴム自体の摩擦力を向上させる手法等が検討されてきた。
【0004】
一方、氷はドライ路面とは異なり、温度の違い等によってさまざまな摩擦係数になり、そのモードに応じて各摩擦の寄与具合が異なることが知られている。このような状況下、できるだけさまざまな環境下で幅広く高い摩擦力を発現できるスタッドレスタイヤの開発が求められている。
【0005】
スタッドレスタイヤでは、氷雪路面におけるグリップ性能が最優先されるため、スチレンブタジエンゴムよりも低温環境下での柔軟性に優れるブタジエンゴムと天然ゴムを用いる技術が主流となっている。そのため、非降雪時の湿潤路面でのグリップ性能(ウェットグリップ性能)を確保することが困難である。そこで、乗用車タイヤでは、補強剤として含有するカーボンブラックをシリカに変更することで、耐摩耗性を維持しながらウェットグリップ性能を確保する技術が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-51484号公報
【文献】特開平9-87427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粘着摩擦を向上させるために、オイルの量を増やす等して低温でのゴムの硬度を低くすると、ヒステリシス摩擦も低下する傾向にある。そのため、-10℃付近のあまり水の発生しない温度領域では、粘着摩擦の向上により氷上制動性能が向上するが、比較的温度の高い0℃付近では、ヒステリシス摩擦の低下により氷上制動性能が低下するとともに、ウェット性能も同時に低下してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、低温でのゴムの硬度を低く維持しつつ、かつヒステリシスロスの低下を抑制
することにより、氷上性能の温度依存性が少なく、かつ優れたウェットグリップ性能を有するトレッド用ゴム組成物、および当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するスタッドレスタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、イソプレン系ゴム、テルペン系樹脂、および所定の分枝共役ジエン共重合体を配合することで、氷上性能の温度依存性が少なく、かつ優れたウェットグリップ性能を有するトレッド用ゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕イソプレン系ゴムを含有するゴム成分、テルペン系樹脂、および
一般式(1)
【化1】
(式中、R1は、炭素数6~11の脂肪族炭化水素を表す。)
で示される分枝共役ジエン化合物と、一般式(2)
【化2】
(式中、R2およびR3は、同一もしくは異なって、水素原子、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、またはハロゲン原子を表す。)
で示される共役ジエン化合物とを共重合して得られる分枝共役ジエン共重合体であって、
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比が1~99重量%、共役ジエン化合物(2)の共重合比が1~99重量%である分枝共役ジエン共重合体を含有するトレッド用ゴム組成物、
〔2〕テルペン系樹脂が、テルペンフェノール樹脂およびテルペンスチレン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕に記載のトレッド用ゴム組成物、
〔3〕ゴム成分100質量部に対し、1~20質量部のテルペン系樹脂および1~20質量部の分枝共役ジエン共重合体を含有する、〔1〕または〔2〕に記載のトレッド用ゴム組成物、
〔4〕分枝共役ジエン化合物(1)が、ミルセンおよび/またはファルネセンである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物、
〔5〕共役ジエン化合物(2)が、1,3-ブタジエンおよび/またはイソプレンである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物、
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するスタッドレスタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトレッド用ゴム組成物、ならびに当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するスタッドレスタイヤは、低温でのゴムの硬度を低く維持しつつ、かつヒステリシスロスの低下が抑制されていることから、氷上性能の温度依存性が少なく、かつ優れたウェットグリップ性能を有する。すなわち、本発明のスタッドレスタイヤは、水のあまり発生しない低温環境下のみならず、比較的温度の高い0℃付近や、非降雪時の湿潤路面においても優れたグリップ性能を発現し、汎用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態は、イソプレン系ゴム、テルペン系樹脂、および所定の分枝共役ジエン共重合体を含有するトレッド用ゴム組成物である。
【0013】
タイヤ用ゴム材料のヒステリシスロスに関する設計指標として損失正接(tanδ)、硬度に関する設計指標として複素弾性率(E*)が挙げられる。ウェットグリップ性能を向上させるためには、tanδを大きくし、発熱等によるエネルギーの散逸を大きくする必要がある。
【0014】
イソプレン系ゴム、テルペン系樹脂、および本実施形態に係る分枝共役ジエン共重合体は、いずれもその部分構造にイソプレン、あるいはイソプレノイドを有しており、互いに馴染みが良く、相溶性が良好である。特にテルペン系樹脂は、他の粘着樹脂に比べSP値が低く、天然ゴム等のイソプレン系ゴムとの相溶性が高い。そのため、例えば、天然ゴム(NR)を配合した場合に、NRに由来するtanδの温度分散曲線が0℃付近で上昇することから、低いE*を維持しながら、比較的温度の高い0℃付近のtanδを向上させることができる。すなわち、スタッドレスタイヤ用トレッドゴムを、従来より低E*設計にしても、基準対比でtanδの低下の度合いが少なくなるため、低E*と高tanδの両立度を従来よりも向上させることができる。
【0015】
<ゴム成分>
本実施形態において使用されるゴム成分としては、氷上性能に優れ、かつ雪氷上走行時のゴムの柔軟性を担保する観点から、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴム(BR)が好適に用いられる。
【0016】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0018】
イソプレン系ゴムのゴム成分中の含有量は、ゴムの混練り加工性、押出し加工性において優れるという点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、イソプレン系ゴムの含有量は、低温特性において優れるという点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0019】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率が50%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでも、ハイシスBR、ローシスBRおよびローシス変性BRからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0020】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR150L、JSR(株)製のBR730等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のBUNA-CB25等が挙げられる。
【0021】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617等が挙げられる。
【0022】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性)、住友化学工業(株)製のS変性ポリマー(シリカ用変性)等が挙げられる。
【0023】
変性BRとしては、シス含量50質量%以下の変性BR(以下、変性ローシスBRともいう)が好適に用いられる。変性ローシスBRを配合することで、シリカ分散性を高め、ウェットグリップ性能と低燃費性能を改善することができる。
【0024】
変性ローシスBRとしては、窒素、酸素およびケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を含む官能基を有する化合物により変性された低シス含量のBR等が挙げられる。例えば、BRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ローシスBRや、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ローシスBRや、主鎖および末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ローシスBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ローシスBR)等が挙げられるが、末端変性ローシスBRが好ましい。
【0025】
上記官能基としては、例えばアミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、低燃費性の向上効果が高いという理由から、1,2,3級アミノ基(特に、グリシジルアミノ基)、エポキシ基、水酸基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0026】
末端変性ローシスBRとしては、下記式(I)で表される化合物により変性された低シス含量の変性ブタジエンゴム(S変性ローシスBR)が好ましい。
【化3】
(式(I)中、R1、R2およびR3は、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(-COOH)、メルカプト基(-SH)またはこれらの誘導体を表す。R4およびR5は、同一若しくは異なって、水素原子またはアルキル基を表す。R4およびR5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。)
【0027】
上記S変性ローシスBRとしては、特開2010-111753号公報等に記載されているものが挙げられる。
【0028】
式(I)において、優れた低燃費性、耐久性が得られるという点から、R1、R2およびR3としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)。R4およびR5としてはアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1~5、より好ましくは2~4、更に好ましくは3である。また、R4およびR5が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4~8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。好ましい化合物を使用することにより、本発明の効果が良好に得られる。
【0029】
式(I)で表される化合物の具体例としては、2-ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。なかでも、前述の性能を良好に改善できる点から、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
式(I)で表される化合物(変性剤)によるブタジエンゴムの変性方法としては、特公平6-53768号公報、特公平6-57767号公報等に記載されている方法等、従来公知の手法を使用できる。例えば、ブタジエンゴムと該化合物とを接触させることで変性でき、具体的には、アニオン重合によるブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に該化合物を所定量添加し、ブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と該化合物とを反応させる方法等が挙げられる。
【0031】
末端変性ローシスBRとしては、また、分子中にグリシジルアミノ基を含む低分子化合物により変性された低シス含量の変性ブタジエンゴムが好ましい。例えば、下記式で示される低分子化合物で変性された低シス含量の変性ブタジエンゴムを好適に使用できる。
【化4】
(式中、R11およびR12は、同一または異なって、炭素数1~10の炭化水素基を表し、該炭化水素基は、エーテル、および3級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有してもよい。R13およびR14は、同一若しくは異なって、水素原子、または炭素数1~20の炭化水素基を表し、該炭化水素基は、エーテル、および3級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有してもよい。R15は、炭素数1~20の炭化水素基を表し、該炭化水素基は、エーテル、3級アミン、エポキシ、カルボニル、およびハロゲンからなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有してもよい。mは1~6の整数を表す。)
【0032】
11およびR12は、炭素数1~10のアルキレン基(好ましくは炭素数1~3)が好ましい。R13およびR14は、水素原子が好ましい。R15は、炭素数3~20の炭化水素基(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数8)が挙げられ、下記式等で表されるシクロアルキル基、シクロアルキレン基が好ましく、シクロアルキレン基がより好ましい。
【化5】
【0033】
また、mは2~3であることが好ましい。上記式で表される化合物としては、例えば、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等が好適に用いられる。
【0034】
末端変性ローシスBRとしては、分子中にグリシジルアミノ基を含む低分子化合物と、この低分子化合物の2量体以上のオリゴマーとの混合物により変性された低シス含量の変性ブタジエンゴム(A変性ローシスBR)がより好ましい。上記A変性ローシスBRとしては、特開2009-275178号公報等に記載されているものが挙げられる。
【0035】
BRは、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
ゴム成分中のBRの総含有量は、耐摩耗性能の観点から、35質量%以上が好ましく、37質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、BRの含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0037】
変性BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、氷上制動性能の観点から、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。また、該含有量は、加工性および氷上制動性能の観点から、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0038】
(その他のゴム成分)
本実施形態においてイソプレン系ゴムおよびBR以外に使用されるゴム成分としては、ゴム工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらの架橋可能なゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
<分枝共役ジエン共重合体>
本実施形態に係る分枝共役ジエン共重合体とは、分枝共役ジエン化合物(1)と、共役ジエン化合物(2)を共重合して得られる共重合体をいう。なお、分枝共役ジエン共重合体は、従来配合されているオイル等の軟化剤に置き換えて配合することが好ましい。これにより、本発明の効果がより好適に得られる。なかでも、ファルネセン-ビニルモノマー共重合体は、常温で液状であり、タイヤ用軟化剤として好適に使用できる。
【0040】
分枝共役ジエン共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-15℃以下、より好ましくは-30℃以下であり、好ましくは-80℃以上、より好ましくは-70℃以上である。上記範囲内であれば、タイヤ用軟化剤として好適に使用できる。なお、Tgは、JIS K 7121:1987に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0041】
分枝共役ジエン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、ハンドリング性能および耐摩耗性の観点から、好ましくは3000以上、より好ましくは5000以上、さらに好ましくは8000以上である。また、分枝共役ジエン重合体のMwは、氷上グリップ性能の観点から、好ましくは500000以下、より好ましくは300000以下、さらに好ましくは150000以下である。
【0042】
分枝共役ジエン共重合体の溶融粘度は、好ましくは1000Pa・s以下、より好ましくは650Pa・s以下、さらに好ましくは200Pa・s以下である。また、好ましくは1Pa・s以上、より好ましくは5Pa・s以上である。上記範囲内であれば、タイヤ用軟化剤として好適に使用でき、かつ耐ブルーム性にも優れる。なお、溶融粘度は、ブルックフィールド型粘度計(BROOKFIELD ENGINEERING LABS.INC.製)を用いて、38℃で測定した値である。
【0043】
分枝共役ジエン化合物(1)において、炭素数6~11の脂肪族炭化水素基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基等のノルマル構造のもの、それらの異性体かつ/または不飽和体、並びに、それらの誘導体(例えば、ハロゲン化物および水酸基化物等)が挙げられる。そのうち、特に、4-メチル-3-ペンテニル基、4,8-ジメチル-ノナ-3,7-ジエニル基等、および、それらの誘導体が好ましい。
【0044】
分枝共役ジエン化合物(1)の具体例としては、例えば、ファルネセン、ミルセン等が挙げられる。
【0045】
本明細書において、「ファルネセン」とは、α-ファルネセン((3E,7E)-3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン)やβ-ファルネセン等いずれの異性体も含むものであるが、このうち、以下の化学構造を有する(E)-β-ファルネセン(7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン)が好ましい。
【0046】
【化6】
【0047】
ファルネセンは、石油資源から化学合成によって調製されたものであってもよいし、アリマキ等の昆虫やリンゴ等の植物から抽出したものであってもよいが、糖から誘導される炭素源を用いて微生物を培養することによって調製されたものであることが好ましい。
【0048】
本明細書において、「ミルセン」とは、α-ミルセン(2-メチル-6-メチレンオクタ-1,7-ジエン)とβ-ミルセンのいずれをも含むものであるが、このうち、以下の化学構造を有するβ-ミルセン(7-メチル-3-メチレンオクタ-1,6-ジエン)が好ましい。
【0049】
【化7】
【0050】
分枝共役ジエン化合物(1)としては、1種または2種以上のものを使用することができる。
【0051】
共役ジエン化合物(2)において、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、このうちメチル基がこのましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、このうち、塩素原子が好ましい。
【0052】
共役ジエン化合物(2)のR2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。共役ジエン化合物(2)の具体例としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が好ましく、このうち、1,3-ブタジエン、イソプレン等が好ましい。
【0053】
共役ジエン化合物(2)としては、1種または2種以上のものを使用することができる。
【0054】
分枝共役ジエン重合体は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態では、分枝共役ジエン重合体は市販品が用いられてもよい。例えば、ファルネセン-ブタジエン共重合体としては(株)クラレ等によって製造販売されるものが例示される。
【0055】
分枝共役ジエン重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。1質量部未満では、氷雪上性能および耐摩耗性の改善効果、並びに、硬度変化およびタイヤ表面の変色を抑制する効果が十分に得られない傾向がある。また、分枝共役ジエン重合体の含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。50質量部を超えると、ハンドリング性能、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0056】
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比は、1~99重量%であれば特に限定されない。分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比の下限値としては、ゴム組成物の加工性の観点から、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましい。一方、上限値としては、90重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましく、70重量%以下がさらに好ましい。
【0057】
共役ジエン化合物(2)の共重合比は、1~99重量%であれば特に限定されない。分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比の下限値としては、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましい。一方、上限値としては、95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましく、80重量%以下がさらに好ましい。
【0058】
なお、分枝共役ジエン共重合体における、分枝共役ジエン化合物(1)の重合比および共役ジエン化合物(2)の重合比の合計は100重量%である。
【0059】
分枝共役ジエン化合物(1)と、共役ジエン化合物(2)とを共重合させる順序は特に制限されず、例えば、すべてのモノマーを一度にランダム共重合させてもよいし、あるいは、あらかじめ特定のモノマー(例えば、分枝共役ジエン化合物(1)モノマーのみ、共役ジエン化合物(2)モノマーのみ、あるいは、これらから選ばれる任意のモノマーの組合せ等)を共重合させた後に、残りのモノマーを加えて共重合させたり、特定のモノマーごとにあらかじめ共重合させたものをブロック共重合させてもよい。
【0060】
かかる共重合は、いずれも常法により実施することができ、例えば、アニオン重合反応、配位重合等により実施することができる。
【0061】
重合方法については特に制限はなく、溶液重合法、乳化重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれをも用いることができるが、このうち、溶液重合法が好ましい。また、重合形式は、バッチ式および連続式のいずれであってもよい。
【0062】
アニオン重合は、アニオン重合開始剤の存在下、適当な溶媒中で実施することができる。アニオン重合開始剤としては、慣用のものをいずれも好適に使用することができ、そのようなアニオン重合開始剤としては、例えば、一般式RLix(但し、Rは1個またはそれ以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族または脂環式基であり、xは1~20の整数である。)を有する有機リチウム化合物が挙げられる。適当な有機リチウム化合物としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、フェニルリチウムおよびナフチルリチウムが挙げられる。好ましい有機リチウム化合物はn-ブチルリチウムおよびsec-ブチルリチウムである。アニオン重合開始剤は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。アニオン重合を行う際の重合開始剤の使用量は特に限定はないが、例えば、重合に供する全モノマー100g当り、約0.05~35mmol用いるのが好ましく、約0.05~0.2mmol用いるのがより好ましい。重合開始剤の使用量が0.05mmol未満では共重合体がゴム状とならず樹脂状となる傾向があり、35mmolより多い場合には、共重合体が軟らかく加工性に対して分枝共役ジエン化合物(1)を共重合させることによる効果が小さくなる傾向がある。
【0063】
また、アニオン重合に用いる溶媒としては、アニオン重合開始剤を失活させたり、重合反応を停止させたりしないものであれば、いずれも好適に用いることができ、極性溶媒または非極性溶媒のいずれも使用することができる。極性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が挙げられ、非極性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ペンタン等の鎖式炭化水素、シクロヘキサン等の環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。これら溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0064】
アニオン重合は、さらに極性化合物の存在下に実施するのが好ましい。極性化合物としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジフェニルエーテル、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)等が挙げられる。極性化合物は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。この極性化合物は、ブタジエン部のミクロ構造の制御に関し、1,2-構造の含量を減少させるのに有用である。極性化合物の使用量は、極性化合物の種類および重合条件により異なるが、アニオン重合開始剤とのモル比(極性化合物/アニオン重合開始剤)として0.1以上であることが好ましい。アニオン重合開始剤とのモル比(極性化合物/アニオン重合開始剤)が0.1未満ではミクロ構造を制御することに対する極性物質の効果が十分でない傾向がある。
【0065】
アニオン重合の際の反応温度は、好適に反応が進行する限り特に限定はないが、通常-10℃~100℃であることが好ましく、25℃~70℃であることがより好ましい。また、反応時間は、仕込み量、反応温度、その他条件により異なるが、通常、例えば、3時間程度行えば十分である。
【0066】
アニオン重合は、この分野で通常使用する反応停止剤の添加により、停止させることができる。そのような反応停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールまたは酢酸等の活性プロトンを有する極性溶媒およびこれらの混液、またはそれらの極性溶媒とヘキサン、シクロヘキサン等の無極性溶媒との混液が挙げられる。反応停止剤の添加量は、通常、アニオン重合開始剤に対し、同モル量もしくは2倍モル量程度で十分である。
【0067】
重合反応停止後、分枝共役ジエン共重合体は、重合溶液から常法により溶媒を除去することにより、または、重合溶液をその1倍量以上のアルコールに注ぎ、分枝共役ジエン共重合体を沈殿させることにより、容易に単離することができる。
【0068】
配位重合は、上記アニオン重合におけるアニオン重合開始剤に代えて、配位重合開始剤を用いることにより、実施することができる。配位重合開始剤としては、慣用のものをいずれも好適に用いることができ、そのような配位重合開始剤としては、例えば、ランタノイド化合物、チタン化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物等の遷移金属含有化合物である触媒が挙げられる。また、所望により、さらにアルミニウム化合物、ホウ素化合物を助触媒として使用することができる。
【0069】
ランタノイド化合物は、原子番号57~71の元素(ランタノイド)のいずれかを含むものであれば特に限定されない。ランタノイドとしてはネオジウムが好ましい。ランタノイド化合物としては、例えば、これら元素のカルボン酸塩、β-ジケトン錯体、アルコキサイド、リン酸塩または亜リン酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。これらのうち、取り扱いの容易性から、カルボン酸塩、アルコキサイド、β-ジケトン錯体が好ましい。
【0070】
チタン化合物としては、例えば、シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換シクロペンタジエニル基または置換インデニル基を1つを含み、かつハロゲン、アルコキシル基、アルキル基の中から選ばれる置換基を3つ有するチタン含有化合物等が挙げられるが、触媒性能の点から、アルコキシシリル基を1つ有する化合物が好ましい。
【0071】
コバルト化合物としては、例えば、コバルトのハロゲン化物、カルボン酸塩、β-ジケトン錯体、有機塩基錯体、有機ホスフィン錯体等が挙げられる。
【0072】
ニッケル化合物としては、例えば、ニッケルのハロゲン化物、カルボン酸塩、β-ジケトン錯体、有機塩基錯体等が挙げられる。
【0073】
配位重合開始剤として用いる触媒は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。配位重合を行う際の重合開始剤としての触媒の使用量は特に限定はないが、例えば、好ましい使用量としては、アニオン重合の場合の触媒の使用量と同様である。
【0074】
助触媒として用いるアルミニウム化合物としては、例えば、有機アルミノキサン類、ハロゲン化有機アルミニウム化合物、有機アルミニウム化合物、水素化有機アルミニウム化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。有機アルミノキサン類としては、例えば、アルキルアルミノキサン類(メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、プロピルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、オクチルアルミノキサン、へキシルアルミノキサン等)が挙げられる。ハロゲン化有機アルミニウム化合物としては、例えば、ハロゲン化アルキルアルミニウム化合物(ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド等)が挙げられる。有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルキルアルミニウム化合物(トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等)が挙げられる。水素化有機アルミニウム化合物としては、例えば、水素化アルキルアルミニウム化合物(ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等)が挙げられる。ホウ素化合物としては、例えば、テトラフェニルボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、(3,5-ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート等のアニオン種を含む化合物が挙げられる。これら助触媒も、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
配位重合における溶媒および極性化合物としては、アニオン重合と同様のものを使用することができる。重合反応の停止および分枝共役ジエン共重合体の単離も、アニオン重合の場合と同様にして行うことができる。また、反応時間および反応温度もアニオン重合で説明したものと同様である。
【0076】
<樹脂成分>
本実施形態において使用される樹脂成分としては、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンスチレン樹脂等のテルペン系樹脂が好適に用いられ、テルペンフェノール樹脂およびテルペンスチレン樹脂がより好ましい。
【0077】
(テルペン系樹脂)
テルペン系樹脂は、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、ロジン系樹脂等の他の粘着性樹脂よりもSP値が低く、その値がNR(SP値:8.1)と近いことから、本実施形態に係るゴム成分との相溶性に優れる。なお、テルペン系樹脂のSP値は、ゴム組成物の撥水性をより向上させることができるという理由から、8.6以下が好ましく、8.5以下がより好ましい。また、テルペン系樹脂のSP値は、ゴム成分との相溶性の観点から7.5以上が好ましい。
【0078】
ポリテルペン樹脂は、テルペン化合物から選ばれる少なくとも1種を原料とする樹脂である。テルペン化合物の具体例としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、3-カレン(δ-3-カレン)、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール等が挙げられる。なかでも、グリップ性能、耐久性をバランスよく改善できる点から、α-ピネン、β-ピネン、3-カレン(δ-3-カレン)、ジペンテン、リモネンが好ましく、α-ピネン、リモネンがより好ましい。ここでリモネンとは、d体、l体、d/l体のいずれをも含むものであってよい。これらテルペン化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
テルペンフェノール樹脂は、前記テルペン化合物およびフェノール系化合物を原料とする樹脂である。テルペンスチレン樹脂は、前記テルペン化合物およびスチレンを原料とする樹脂である。なお、ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、これらに水素添加処理を行った樹脂(水添ポリテルペン樹脂、水添テルペンスチレン樹脂)であってもよい。
【0080】
テルペン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また市販の水添樹脂を使用することもできる。二重結合の水素添加率は、グリップ性能の観点から5%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましく、15%以上が特に好ましい。また、二重結合の水素添加率は、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましく、30%以下が特に好ましい。なお、該水素添加率(水添率)は、1H-NMR(プロトンNMR)による二重結合由来ピークの各積分値から、下記式により、算出される値である。本明細書において、水素添加率(水添率)とは、二重結合の水素添加率を意味する。
(水添率〔%〕)={(A-B)/A}×100
A:水素添加前の二重結合のピークの積分値
B:水素添加後の二重結合のピークの積分値
【0081】
テルペン系樹脂の軟化点は、グリップ性能の観点から0℃以上が好ましい。また、粘着樹脂の軟化点は、170℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましく、145℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。本発明における樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0082】
テルペン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ゴム成分との相溶性の観点から、-35℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。また、粘着樹脂のTgは、ゴム成分との相溶性の観点から、110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0083】
テルペン系樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は、本発明の効果が良好に得られるという理由から1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、8質量部以上がさらに好ましい。また、テルペン系樹脂の含有量は、ゴム組成物の硬度、成形加工性、粘度を適切に確保できるという観点から、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
【0084】
テルペン系樹脂は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態におけるテルペン系樹脂は市販品が用いられてもよい。このような市販品は、アリゾナケミカル社、ヤスハラケミカル(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0085】
(テルペン系樹脂以外の樹脂)
本実施形態に係るゴム組成物は、樹脂成分としてテルペン系樹脂以外の粘着性樹脂を1種以上併用することができる。テルペン系樹脂以外の粘着性樹脂としては、タイヤ用ゴム組成物において汎用されている石油系樹脂等を用いることができ、具体的には、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、シクロペンタジエン系樹脂等が挙げられる。なかでも、グリップ性能に優れるという理由から、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン系樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、およびシクロペンタジエン系樹脂を用いることが好ましい。さらにSP値が低くNRとの相溶性に優れるという理由から、シクロペンタジエン系樹脂がより好ましい。
【0086】
シクロペンタジエン系樹脂としては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)、シクロペンタジエン樹脂、メチルシクロペンタジエン樹脂、ならびにこれらのシクロペンタジエン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたシクロペンタジエン系樹脂)が挙げられる。なかでも水素添加されたDCPD樹脂が好ましい。シクロペンタジエン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができる。
【0087】
フェノール系樹脂としては例えばコレシン(BASF社製)、タッキロール(田岡化学工業(株)製)等が挙げられる。クマロンインデン樹脂としては例えばエスクロン(新日鉄住金化学(株)製)、ネオポリマー(JX日鉱日石エネルギー(株)製)等が挙げられる。スチレン樹脂としては例えばSylvatraxx 4401(アリゾナケミカル社製)等が挙げられる。シクロペンタジエン系樹脂としては例えばOppera(エクソンモービル社製)等が挙げられる。これらの粘着性樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
テルペン系樹脂以外の粘着性樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、本発明の効果が良好に得られるという理由から1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、ゴム組成物の硬度、成形加工性、粘度を適切に確保できるという観点から、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
【0089】
<その他の成分>
本実施形態のゴム組成物は、前記成分以外の配合剤を含有することができる。例えば、プロセスオイル、液状ポリマー、補強用充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、加工助剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0090】
プロセスオイルおよび液状ポリマーとしては特に限定されず、タイヤ等のゴム製品に使用されているプロセスオイルおよび液状ポリマーを含有することができる。プロセスオイルおよび液状ポリマーの少なくとも1種を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、低粘度配合となり過密着が発生しやすくなるため本発明の効果がより発揮されるという理由から、9質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また。当該樹脂の含有量は、耐摩耗性能とグリップ性能の両立という観点から、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。
【0091】
プロセスオイル、および液状ポリマーの合計含有量は、低粘度配合となり過密着が発生しやすくなるため本発明の効果がより発揮されるという理由から、20質量部以上が好ましく、22質量部以上がより好ましい。また。当該合計含有量は、耐摩耗性能とグリップ性能の両立という観点から、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。
【0092】
補強用充填剤としては特に限定されず、白色充填剤やカーボンブラック等が挙げられる。
【0093】
白色充填剤としては、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、ハードクレー等が挙げられ、これらの白色充填剤を単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。耐摩耗性能、耐久性、ウェットグリップ性能および低燃費性能に優れるという理由から、シリカおよび水酸化アルミニウムの少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0094】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式シリカ(無水ケイ酸)、湿式シリカ(含水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式シリカが好ましい。
【0095】
シリカのBET比表面積は、耐摩耗性能、ウェットグリップ性能および加工性の観点から、70~300m2/gが好ましく、80~280m2/gがより好ましく、90~250m2/gがさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0096】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましい。また、シリカの含有量は、加硫後の冷却に伴うシュリンクを抑制する、破断抗力(TB)を確保するという理由から、150質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましい。
【0097】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト系(メルカプト基を有するシランカップリング剤)、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン等のニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロ系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、十分なフィラー分散性の改善効果や、粘度低減等の効果が得られるという理由から、4.0質量部以上であることが好ましく、6.0質量部以上であることがより好ましい。また、十分なカップリング効果、シリカ分散効果が得られず、補強性が低下するという理由から、シランカップリング剤の含有量は、12質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0099】
水酸化アルミニウムのBET比表面積は、ウェットグリップ性能の観点から、5m2/g以上が好ましく、10m2/g以上が好ましく、12m2/g以上がより好ましい。また、水酸化アルミニウムのBET比表面積は、水酸化アルミニウムの分散性、再凝集防止、耐摩耗性能の観点から、50m2/g以下が好ましく、45m2/g以下がより好ましく、40m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書における水酸化アルミニウムのBET比表面積は、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0100】
水酸化アルミニウムの平均粒子径(D50)は、水酸化アルミニウムの分散性、再凝集防止、耐摩耗性能の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。また、水酸化アルミニウムの平均粒子径(D50)は、耐摩耗性能の観点から、3.0μm以下が好ましく、2.0μmがより好ましい。なお、本明細書における平均粒子径(D50)とは、粒子径分布測定装置により求めた粒子径分布曲線の積算質量値50%の粒子径である。
【0101】
水酸化アルミニウムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、グリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、水酸化アルミニウムの含有量は、耐摩耗性能の観点から、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
【0102】
カーボンブラックとしては、ゴム用として一般的なものを適宜利用することができる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられ、具体的にはN110,N115,N120,N125,N134,N135,N219,N220,N231,N234,N293,N299,N326,N330,N339,N343,N347,N351,N356,N358,N375,N539,N550,N582,N630,N642,N650,N660,N683,N754,N762,N765,N772,N774,N787,N907,N908,N990,N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
カーボンブラックのBET比表面積は、補強性および耐摩耗性能の観点から、70m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましい。また、分散性および発熱性の観点からは、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのBET比表面積は、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0104】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、加工性や発熱性の観点からは、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0105】
補強用充填剤全体のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましく、90質量部以上がさらに好ましい。また、シリカの分散性の観点や加工性の観点からは、150質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましく、130質量部以下がさらに好ましい。
【0106】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0107】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加工性の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0108】
老化防止剤としては、耐熱性老化防止剤、耐候性老化防止剤等でゴム組成物に通常使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、ナフチルアミン系(フェニル-α-ナフチルアミン等)、ジフェニルアミン系(オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等)、p-フェニレンジアミン系(N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等)等のアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;モノフェノール系(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等)、ビス、トリス、ポリフェノール系(テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等)等のフェノール系老化防止剤が挙げられる。なかでも、耐オゾン性に優れるという理由から、アミン系老化防止剤が好ましく、p-フェニレンジアミン系老化防止剤が特に好ましい。
【0109】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐オゾン性および耐亀裂性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤の含有量は、変色防止の観点から10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0110】
加工助剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩等が挙げられる。具体的には、例えば、Schill&Seilacher社製のストラクトールWB16、EF44等の脂肪酸石鹸系加工助剤が挙げられる。加工助剤の配合割合は、ゴム分の総量100質量部あたり0.1質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下、特に3質量部以下であるのが好ましい。
【0111】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0112】
加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄が挙げられる。加硫剤の含有量は本発明の効果が損なわれない限り特に限定されず、通常のゴム組成物における含有量とすることができる。
【0113】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス社製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0114】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、チアゾール系、およびグアニジン系が好ましく、これらを併用することがより好ましい。
【0115】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが好ましい。
【0116】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0117】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジンが好ましい。
【0118】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度が適度となり、十分に加硫できるという理由から、0.5質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、加硫速度が適度となり、スコーチングし難いという理由から、4.0質量部以下が好ましく、3.0質量部以下がより好ましい。
【0119】
<ゴム組成物およびタイヤの製造>
本発明に係るトレッド用ゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機等のゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【0120】
各成分を混練りする混練り工程は、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤をバンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等の混練機で混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤や加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程からなる混練り工程とすることができる。さらに、効率的にシリカを分散させるという観点から、前記ベース練り工程を、ブタジエンゴム、シリカおよび加工性を担保するための最低限のイソプレン系ゴムを含むマスターバッチを製造するX練り工程、および前記マスターバッチに加硫剤および加硫促進剤以外の残りの配合剤および添加剤を添加して混練するY練り工程とに分けることもできる。
【0121】
本発明のスタッドレスタイヤは、前記トレッド用ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。すなわち、未加硫のトレッド用ゴム組成物を、タイヤトレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを成形し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより製造することができる。
【実施例
【0122】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0123】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
非変性BR:JSR(株)製のBR730(非変性BR、シス含量:95%、ML1+4(100℃):55)
変性BR:旭化成ケミカルズ(株)製のN103(リチウム開始剤を用いて重合し、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、そのオリゴマー成分との混合物によりBRの重合末端が変性された末端変性BR、Mw:55万、Mw/Mn:1.19、ビニル含量:12質量%、シス含量:38質量%、トランス含量:50質量%)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ASTM No.N220、N2SA:114m2/g、DBP:114ml/100g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:15nm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
共重合体1:後述の分枝共役ジエン共重合体の合成により調製したファルネセン-ブタジエン共重合体
テルペン系樹脂1:アリゾナケミカル社製のSYLVATRAXX4202(水素添加されていないテルペンフェノール樹脂、軟化点:115℃、SP値:8.75)
テルペン系樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジン TO125(水素添加されていないテルペンスチレン樹脂、軟化点:125℃、Tg:64℃、SP値:8.73)
テルペン系樹脂3:ヤスハラケミカル(株)製のYSポリスター M125(水素添加されたテルペンスチレン樹脂(水添率:11%)、軟化点:123℃、Tg:69℃、SP値:8.52)
スチレン系樹脂:アリゾナケミカル社製のSYLVATRAXX4401(αメチルスチレン樹脂、軟化点:85℃、Tg:34℃、SP値:9.1)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤1:大内新興化学(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン、6PPD)
老化防止剤2:大内新興化学(株)製のノクラックRD(ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン))
加工助剤:Schill&Seilacher社製のストラクトールWB16(脂肪酸エステルと脂肪酸金属塩の混合物)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄(オイル分5質量%含む可溶性硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(CBS、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーM-P(MBT、2-メルカプトベンゾチアゾール)
加硫促進剤3:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(DPG、1,3-ジフェニルグアニジン)
シクロヘキサン:関東化学(株)製のシクロヘキサン(特級)
イソプロパノール:関東化学(株)製のイソプロパノール(特級)
ブタジエン:高千穂化学工業(株)製の1,3-ブタジエン
ファルネセン:日本テルペン化学(株)の(E)-β-ファルネセン(試薬)
【0124】
<触媒溶液の調製>
(1)50mlガラス容器を窒素置換し、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(2.0mol/L)8ml、2-エチルヘキサン酸ネオジム(III)/シクロヘキサン溶液(0.2mol/L)1ml、PMAO(Al:6.8質量%)8mlを加え撹絆した。5分後、1M-水素化ジイソブチルアルミニウム/ヘキサン溶液5mlを加え、さらに5分後、1M-塩化ジエチルアルミニウム/ヘキサン溶液2mlを加え、攪拌して、触媒溶液(1)を得た。
(2)上記(1)において、ブタジエンをイソプレンに代えた以外は、上記(1)と同様に処理して、触媒溶液(2)を得た。
【0125】
<分枝共役ジエン共重合体の合成>
3Lの耐圧ステンレス容器を窒素置換し、シクロヘキサンを1800ml、ファルネセンを60g、ブタジエンを40g入れ10分間攪拌した後、触媒溶液(1)を2ml添加し、30℃を保ったまま攪拌を行った。3時間後、0.01M-BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)/イソプロパノール溶液を10ml滴下し、反応を終了させた。反応液を、冷却後、別途用意しておいたメタノール3L中に加え、こうして得られた沈殿物を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体1(ファルネセン-ブタジエン共重合体)100gを得た。重合転化率(「乾燥重量/仕込量」の百分率)はほぼ100%であった。
【0126】
(分枝共役ジエンの共重合比)
分枝共役ジエンの共重合比(重量%)は、熱分解ガスクロマトグラフィー(PGC)による定法によって測定した。すなわち、精製したファルネセンについての検量線を作製し、PGCによって得られるファルネセン由来の熱分解物の面積比から共重合体中のファルネセンの重量%を算出した。熱分解クロマトグラフィーは(株)島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計GCMS-QP5050Aと日本分析工業(株)製の熱分解装置JHP-330から構成されるシステムを使用した。共重合体1におけるファルネセンの共重合比は60重量%であった。
【0127】
実施例および比較例
表1に示す配合処方に従い、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150℃で5分間混練りし、混練物を得た。次に、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールで4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃、12分間、25kgf/cm2の圧力で加硫成型することで、試験用ゴム組成物を作製した。
【0128】
また、前記未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15、スタッドレスタイヤ)を製造した。
【0129】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0130】
<複素弾性率(E*)および損失正接(tanδ)測定>
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度0℃、初期歪み5%、動歪み1%、周波数10Hzの条件下で、各加硫ゴム組成物の複素弾性率(E*)および損失正接(tanδ)を測定した。結果は比較例1を100とした指数で示す。
【0131】
<氷上制動性能>
前記試験用タイヤを国産2000ccのFR車に装着して氷上を実車走行し、氷上制動性能を評価した。具体的には、-10℃下および0℃下で前記車両により氷上を走行し、時速30km/hでロックブレーキを踏み、停止させるまでに要した停止距離(氷上制動停止距離、雪上制動停止距離)を測定し、下記式により指数表示した。指数が大きいほど、氷雪上性能(氷雪上でのグリップ性能)が良好である。なお、指数の値が100を超えると、氷雪上性能が改善しているといえる。
(氷上制動性能指数)=
(比較例1の制動停止距離)/(各配合の制動停止距離)×100
(氷上)試験場所:北海道名寄テストコ-ス、気温:-1~-6℃
【0132】
<ウェットグリップ性能>
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求めた。結果は指数で表し、指数が大きいほどウェットグリップ性が良好であることを示す。指数は次の式で求めた。
(ウェットグリップ性指数)=
(比較例1の制動距離)/(各配合例の制動距離)×100
【0133】
【表1】
【0134】
表1の結果より、イソプレン系ゴム、テルペン系樹脂、および所定の分枝共役ジエン共重合体を含有するトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有する本発明のスタッドレスタイヤは、氷上性能の温度依存性が少なく、かつ優れたウェットグリップ性能を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明のトレッド用ゴム組成物、ならびに当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有する本発明のスタッドレスタイヤは、氷上性能の温度依存性が少なく、かつ優れたウェットグリップ性能を有する。