(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】異常診断装置および異常診断方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220119BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G05B23/02 T
G01H17/00 A
(21)【出願番号】P 2017232293
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】林 孝則
(72)【発明者】
【氏名】外山 達斎
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122292(WO,A1)
【文献】特開2013-175108(JP,A)
【文献】特許第3382240(JP,B1)
【文献】特開2017-198620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ異常診断の診断対象から測定した時系列データに基づく学習サンプルの学習により診断用パラメータを作成する診断用パラメータ作成手段と、
新たに前記診断対象から測定した時系列データに対して、前記診断用パラメータを用いて前記診断対象の異常を診断する診断手段と、
を備えた異常診断装置であって、
前記診断用パラメータ作成手段は、前記時系列データに紐づけられた運転情報により前記学習サンプルをレベル分けし、該レベルごとに学習して診断用パラメータを作成し、
前記診断手段は、前記時系列データに紐づけられた運転情報に基づくレベルを算出し、該レベルに応じた前記診断用パラメータを用いて前記診断対象の異常を診断し、
前記
診断用パラメータを作成する際、前記学習の対象を前記レベルの隣接範囲まで拡張し、
前記学習の対象を重複させたことを特徴とすることを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
コンピュータが実行する異常診断方法であって、
あらかじめ異常診断の診断対象から測定した時系列データに基づく学習サンプルの学習により診断用パラメータを作成する診断用パラメータ作成ステップと、
新たに前記診断対象から測定した時系列データに対して、前記診断用パラメータを用いて前記診断対象の異常を診断する診断ステップと、を有し、
前記診断用パラメータ作成ステップにおいて、前記時系列データに紐づけられた運転情報により前記学習サンプルをレベル分けし、該レベルごとに学習して診断用パラメータを作成し、
前記診断ステップにおいて、前記時系列データに紐づけられた運転情報に基づくレベルを算出し、該レベルに応じた前記診断用パラメータを用いて前記診断対象の異常を診断し、
前記診断用パラメータを作成する際、前記学習の対象を前記レベルの隣接範囲まで拡張し、
前記学習の対象を重複させたことを特徴とすることを特徴とする異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断対象(機器・設備など)の動作時における振動・音響などの波形データ(時系列データ)を解析して異常の診断を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の異常診断方法は、時系列の波形データを短い時間ごとに分割し、フーリエ変換して周波数成分の多変量データのサンプルを多数作り、機器が正常と考えられる期間に予め計測した多数の多変量サンプルを主成分分析して主成分得点を求めるための固有ベクトル(ローテーション行列ともいう)を用意する。
【0003】
診断の際には、計測データを前記同様にフーリエ変換して周波数成分の多変量データ・サンプルを作り、これを用意しておいたローテーション行列で変換して主成分得点を求め、それを正常時の主成分得点と比較することで異常診断を行っている。換言すれば、診断毎に独立に主成分分析するのではなく、予め主成分分析しておいた結果を利用して、診断時には同じ基準で変換することにより比較を容易にする。
【0004】
ところが、フーリエ変換を基にした多変量サンプルで予め作成したローテーション行列によって長期にわたって診断しようとすると、事前の解析に多くのデータを必要とする。例えば回転機の診断においては、少なくとも低い周波数領域では1Hz程度の周波数解像度が必要とされる。
【0005】
このためには各サンプルは少なくとも1秒程度の測定が必要であり、時間を重複してサンプル数を増やしても本質的には類似サンプルとなって多様性が不足するため、それを基に診断すると、長期的には異常と単なる時間経過による変化の区別がつけられなくなる。
【0006】
そこで、フーリエ変換ではなく、定Q変換を用いた特許文献2の異常診断方法が提案されている。この異常診断方法によれば、準備フェーズと診断フェーズとが実行される。この準備フェーズによれば、あらかじめ異常診断の診断対象から測定された時系列データを定Q変換して多変量のサンプルが作成され、作成された多変量サンプルを基に診断用パラメータが作成される。
【0007】
また、診断フェーズによれば、新たに異常診断の診断対象から測定された時系列データを定Q変換して多変量サンプルが作成され、作成された多変量サンプルについて前記診断用パラメータを用いて異常が診断される。なお、定Q変換の成分演算方法としては、例えば非特許文献1~4に記載された手法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3382240号公報
【文献】特開2017-198620号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】judith c.brown:calculation of a constant q spectral transform,j.acoust.soc.am.89(1):425-434,1991
【文献】Judith C.Brown and Miller S.Puckette:An efficient algorithm for the calculation of a constant Q transform,J.Acoust.Soc.Am.92(5):2698-2701,1992
【文献】yukara_13:[Python]Constant-Q変換(対数周波数スペクトログラム)、音楽プログラミングの超入門(仮) in Hatena Blog,2013-12-01,2013、インターネット<URL:http://yukara-13.hatenablog.com/entry/2013/12/01/222742>.[2016-02-22 アクセス]
【文献】yukara_13:[Python] 高速なConstant-Q変換(with FFT)、音楽プログラミングの超入門(仮) in Hatena Blog,2014-01-05,2014、インターネット<URL:http://yukara-13.hatenablog.com/entry/2014/01/05/062414>.[2016-02-22 アクセス]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の異常診断方法は、準備フェーズの学習期間内において診断対象が運転しているすべての時系列データを同列に取り扱っている。確かに診断対象の運転が一様であれば、すべての時系列データを同列に扱っても問題はないが、実際はそのような診断対象は少ない。
【0011】
図1は、ある発電機を診断対象として1時間ごとの発電電力をプロットしたグラフを示し、該グラフによれば時刻によって倍以上の出力差が生じていることが分かる。
【0012】
これほど運転レベルが異なると、そのときに計測する時系列データ(振動・音響・電流など)の波形に大きな相違が生じる場合がある。したがって、それらの時系列データをまとめて学習してしまうと、正常な範囲が広くなりすぎて異常の早期検出が難しくなるおそれがある。
【0013】
図2(a)~(j)は、
図1の発電電力を持つ発電機において、発電している時刻の1時間ごとの振動データ(時系列データ)中、最初の一週間分を学習期間Lとして定Q周波数成分を取って主成分分析を実施し、「第一主成分×第二主成分」の散布図(主成分分布:主成分得点の1つ目をX軸,2つ目をY軸に示す。)を示している。
【0014】
図2(a)~(j)中の「P」は全体の主成分分布を示し、
図2(b)~(j)中の「Q」は発電機のレベル別の主成分分布Qを示している。ここでは発電機のレベルは、発電電力「0.8」以上から「0.2」ごとに「Lv1,Lv2・・・」とレベル分けし、発電電力「2.4」以上を「Lv9」としている。このとき
図2(a)~(j)によれば、全体の主成分分布Pはハート状を呈しているが、発電電力のレベル別の主成分分布Qはレベルが上がるごとに右から左に推移している。
【0015】
このような分布で発電電力のレベルが「Lv1」のときに
図2(b)の左側に分布する時系列データを得ても、統計的異常診断の観点では明らかに異常と認識すべきものが、特許文献1の手法では運転状態がすべて同列に取り扱われるので正常と認識される問題があった。
【0016】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、運転レベルが大きく変わる診断対象に対して、診断対象の運転レベルを示す指標を用いることでレベル分けして学習・診断することを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)本発明の一態様は、
あらかじめ異常診断の診断対象から測定した時系列データに基づく学習サンプルの学習により診断用パラメータを作成する診断用パラメータ作成手段と、
新たに前記診断対象から測定した時系列データに対して、前記診断用パラメータを用いて前記診断対象の異常を診断する診断手段と、
を備えた異常診断装置であって、
前記診断用パラメータ作成手段は、前記時系列データに紐づけられた運転情報により前記学習サンプルをレベル分けし、該レベルごとに学習して診断用パラメータを作成し、
前記診断手段は、前記時系列データに紐づけられた運転情報に基づくレベルを算出し、該レベルに応じた前記診断用パラメータを用いて前記診断対象の異常を診断する。
【0018】
(2)本発明の他の態様は、
コンピュータが実行する異常診断方法であって、
あらかじめ異常診断の診断対象から測定した時系列データに基づく学習サンプルの学習により診断用パラメータを作成する診断用パラメータ作成ステップと、
新たに前記診断対象から測定した時系列データに対して、前記診断用パラメータを用いて前記診断対象の異常を診断する診断ステップと、を有し、
前記診断用パラメータ作成において、前記時系列データに紐づけられた運転情報により前記学習サンプルをレベル分けし、該レベルごとに学習して診断用パラメータを作成し、
前記診断ステップにおいて、前記時系列データに紐づけられた運転情報に基づくレベルを算出し、該レベルに応じた前記診断用パラメータを用いて前記診断対象の異常を診断する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、運転レベルが大きく変わる診断対象に対して、診断対象の運転レベルを示す指標を用いてレベル分けして学習・診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ある発電機の1時間ごとの発電量を示すグラフ。
【
図2】(a)は
図1中の発電機について最初の1週間分を学習期間として定Q周波数成分を取って運転レベル(Lv)全体の主成分分布を示すグラフ、(b)は同Lv1の主成分分布を示すグラフ、(c)は同Lv2の主成分分布を示すグラフ、(d)は同Lv3の主成分分布を示すグラフ、(e)は同Lv4の主成分分布を示すグラフ、(f)は同Lv5の主成分分布を示すグラフ、(g)は同Lv6の主成分分布を示すグラフ、(h)は同Lv7の主成分分布を示すグラフ、(i)は同Lv8の主成分分布を示すグラフ、(j)同Lv9の主成分分布を示すグラフ。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る異常診断装置の構成図。
【
図4】同 運転情報のレベル分けとレベルごとの学習データの範囲を示す概略図。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る異常診断装置の構成図。
【
図6】ある発電機についてレベル分けしない場合の診断結果例を示すグラフ。
【
図7】同 レベル分けした場合の診断結果例を示すグラフ。
【
図8】同 レベル分けして学習範囲を重複させた場合の診断結果例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る異常診断装置を説明する。この異常診断装置は、異常診断の診断対象(例えば発電機など)の時系列データから周波数成分の多変量サンプルを生成する際に特許文献1と同様に定Q変換を使用する。
【0022】
この定Q変換(Constant Q transform)は、フーリエ変換のように全ての周波数帯域で同じ期間のデータを解析するのではなく、全ての周波数帯域で同じ周期数になるように、周波数毎に参照するデータ数を変えて解析する。
【0023】
この方法では、高周波帯域ほど短い期間のデータで解析するため、低周波帯域での周波数解像度を高く(例えば1Hz程度)するために長い期間(1秒以上)の測定を必要とする際に、期間を重複させ多数のサンプルをとっても高周波帯域では期間が重複しないため、多変量サンプルとしては多様性が確保される。なお、定Q変換の成分演算方法としては、特許文献2と同じく、非特許文献1~4に記載された手法を用いることができる。
【0024】
≪実施例1≫
図3に基づき前記異常診断装置の実施例1を説明する。この異常診断装置1は、コンピュータにより構成され、通常のコンピュータのハードウェアリソース(例えばCPUやROM,RAMなどの主記憶装置、HDDやSSDなどの補助記憶装置など)を備えている。このハードウェアリソースとソフトウェアリソース(OS、アプリケーションなど)との協働の結果、準備フェーズを実行するパラメータ作成手段100と診断フェーズを実行する診断手段200とを実装する。
【0025】
このパラメータ作成手段100と診断手段200とは、基本的に特許文献2と同様に構成され、かつ特許文献2と同様な処理動作を実行する。すなわち、パラメータ作成手段100は、あらかじめ異常診断の診断対象から測定(計測)して収集した時系列データD1を定Q変換して学習の対象となる多変量サンプル(学習サンプル)を作成する定Q変換部101と、作成された多変量サンプルを主成分分析して変換行列を得るとともに各多変量サンプルの主成分得点を計算する主成分分析部102と、前記主成分得点を基に多変量サンプルの指標となる統計量を得る統計値計算部103と、前記統計量を正規化して異常度とする正規化部104と、を備えている。
【0026】
また、診断手段200も、新たに測定された時系列データD2を定Q変換して多変量サンプルを作成する定Q変換部201と、作成された多変量サンプルから前記主成分分析部102で得られた変換行列を使って主成分得点を得る主成分計算部202と、前記主成分得点を基に統計量を得る第2の統計値計算部203と、前記統計量を正規化部104で使用した正規化係数によって正規化して異常度を計算する正規化部204と、を備え、前記異常度に基づいて異常診断対象の異常を診断する。
【0027】
ただし、前記異常診断装置1は、時系列データD1,D2ごとに運転レベルを判断するための運転情報が付加されている。ここでは準備フェーズと診断フェーズのそれぞれを運転情報に基づき分類される運転レベルにレベル分けして実施する点で特許文献2と相違する。
【0028】
(1)準備フェーズ
前記異常診断装置1の準備フェーズでは、定Q変換部101により時系列データD1を定Q変換して多変量サンプルを作成するが、その多変量サンプルに運転情報でタグ付け(紐付け)し、その後の処理を運転情報に基づく運転レベルごとに分けて実施して学習する。
【0029】
このレベル分けは、時系列データD1とタグ付けられた運転情報の値を基準に行うものとする。この運転情報としては、例えば発電機を軸受で計測した振動の時系列データD2を診断手段200で診断する場合には、同じタイミングで計測した発電電力を用いることができる。また、レベル分けの一例としては、
図1の「Lv01~Lv18」が発電機の発電電力によるレベル分けを示している。
【0030】
さらに排水ポンプなら排水量,送風機なら送風量などその時刻における運転レベルを判別できる計測量があれば、その計測量を運転情報として用いることができる。なお、計測した振動波形の時系列データから診断する際の運転情報として、その計測した振動波形の時系列データの実効値など時系列データ自体から算出した数値を使う方法でもよい。
【0031】
そして、運転レベルごとに分けられた多変量サンプルに対して特許文献2と同様な手法により診断用パラメータを作成する。すなわち、主成分分析部102において、多変量サンプルを運転レベルごとに主成分分析して変換行列を得て各多変量サンプルの主成分得点を計算する。また、統計値計算部103においては、運転レベルごとに計算された主成分得点を基にホテリングT2/Q統計量のような指標となる統計量を取得し、該統計量を正規化部104において正規化して異常度とする。
【0032】
その結果、前記異常診断装置1の準備フェーズによれば、診断用パラメータ(変換行列と正規化係数)は、運転レベルごとに作成される。ここで作成された各診断用パラメータは前記記憶装置などに記憶される。
【0033】
(2)診断フェーズ
前記異常診断装置1の診断フェーズでは、まず定Q変換部201において時系列データD2を定Q変換して多変量サンプルを作成する。つぎに時系列データD2にタグ付けられた運転情報の値に基づき運転レベルを算出する。
【0034】
この運転レベルに応じた診断用パラメータ(変換行列と正規化係数)を前記記憶装置から取得し、取得した診断用パラメータを用いて時系列データD2に対する診断が実施される。この診断方法としては、例えば特許文献2の手法を用いることができる。
【0035】
概略を説明すれば、主成分計算部202にて運転レベルに対応する変換行列を使って主成分得点を計算し、これを基に統計値計算部203が準備フェーズと同様の計算で統計値を取得する。最後に正規化部204が、運転レベルに対応する正規化係数を使って異常度を計算し、計算結果の値により診断対象が異常か否かを診断する。
【0036】
≪実施例2≫
図4に基づき前記異常診断装置の実施例2を説明する。ここで実施例2の装置構成は、実施例1と同様とする。
【0037】
(1)実施例1の準備フェーズでは、運転レベルの学習に使用する多変量サンプルは、該運転レベルに属する時系列データD1から得られたものに限られるため、各運転レベルが排他的に独立している。これに対して実施例2の準備フェーズでは、運転情報の値を利用して学習に使う多変量サンプルの範囲を拡張する点で相違する。
【0038】
すなわち、実施例1の前記異常診断装置1は、診断対象の時系列データの多変量サンプルを運転レベル情報でレベル分けして診断しているものの、そのレベル分けは、排他的であり、一つの多変量サンプルが複数のレベルに属することはできない。
【0039】
そのため、同じ多変量サンプルのサンプルセットを学習に使用する場合、レベルを細分化するほど各レベルに属する多変量サンプルの個数が少なくなり、細分化が過ぎると適切な学習が困難となるため、レベルの細分化には限界がある。
【0040】
例えば
図1に示すように、発電電力を「0.8」から「0.1」刻みで「Lv01~Lv18」にレベル分けすると、学習期間において一つ二つの多変量サンプルだけのレベルが幾つか出てきてしまう。そこで、実施例2では、このように細分化したレベル分けにおいて、各運転レベルの学習サンプル(多変量サンプル)の範囲を拡張して学習サンプルの個数を確保する。
【0041】
(2)ここでは運転情報は一つの数値情報であるから、レベル分けは各運転レベルの閾値を設けて運転情報の数値の大小で各運転レベルが決定される。このレベル分けは、診断フェーズ時に一意にレベルを決定するために排他的でなければならない。
【0042】
ただし、実施例2では、
図4に示すように、各運転レベルにおける学習の対象(多変量サンプル)の範囲について、運転情報の値が各運転レベルの範囲よりも少し広くなるように決定する。例えば運転レベル3(Lv3)の学習対象を、運転情報から定める運転レベル3(Lv3)範囲だけではなく、該運転レベル3と連続する運転レベル2(Lv2),4(Lv4)の範囲まで拡張する。
【0043】
これにより学習対象の範囲が各運転レベルで重複するものの、非運転の範囲との境界は学習対象には含まれないものとする。なお、
図4では、同じ多変量サンプルが隣接しないレベル(例えばLv1とLv3)の学習対象に含まれないように範囲が示しされているが、そのような制限を必ずしも設ける必要はない。
【0044】
≪実施例3≫
図5に基づき前記異常診断装置の実施例3を説明する。ここでは学習対象の範囲を実施例2と同様に拡張するものの、その範囲を隣接する運転レベルの範囲に固定する。
【0045】
すなわち、実施例2では、診断には排他的な運転レベルを用いる一方、学習範囲の抽出には運転レベルの重複を許容している。ところが、実施例2によれば、運転レベルごとのレベル分けだけでなく、学習に使う多変量サンプルの抽出時に運転情報の値が各レベルの範囲よりも少し広くなるように再構成する必要が生じ、処理が煩雑化するおそれがある。
【0046】
そこで、実施例3では、学習対象の範囲の抽出を簡略するため、該学習対象の範囲を隣接する運転レベルの範囲に固定する。例えば運転レベル「Lv1」の学習対象は「Lv1」および「Lv2」の多変量サンプル,運転レベル「Lv2」の学習対象は、「Lv1」~「Lv3」の多変量サンプル,運転レベル「Lv3」の学習対象は「Lv2」~「Lv4」の多変量サンプルのように進め、最後の運転レベル「Lvn」の学習対象は「Lv(n-1)」および「Lvn」とする。
【0047】
これにより多変量サンプルへのタグ付けを運転情報ではなく、
図5に示すように、運転情報から算出した運転レベルによるタグ付けですませることができ、多変量サンプルを運転レベルごとにまとめておくように実装することができる。したがって、準備フェーズの学習の際には隣接する2つないし3つの運転レベルの多変量サンプル群を合併し、主成分分析部102・統計値計算部103・正規化部104の処理を実行すればよい。
【0048】
≪作用効果≫
実施例1~3によれば、準備フェーズの学習と診断フェーズの診断とを運転レベルごとに分割して実行することにより、準備フェーズの主成分分布の広がりが運転レベルごとに分割されてコンパクトにまとまり、異常検知の感度を向上させることができる。この点を
図6~
図8に基づき説明する。
【0049】
図6は、
図1に示す発電電力の発電機において、発電している時刻の1時間ごとの振動データ(時系列データ)中の最初の一週間分を学習期間Lとした診断結果を示している。ここでは
図1中、発電電力(Y軸)「0.8」以上を運転としてレベル分けせずに学習・診断した結果、即ち特許文献2で学習・診断した結果が示されている。なお、
図1の振動データを取得した発電機は、運転開始の21日目(X軸参照)から暫く発電を停止し、25日目に発電を再開した後2時間ほどで故障により緊急停止している。
【0050】
図7は、前記振動データを前記学習期間Lにおいて発電電力でレベル分けし、かつレベルを重複させず学習した診断結果、即ち実施例1の診断結果を示している。ここでは
図6と同じく、発電電力「0.8」以上を運転として「0.2」刻みで学習・診断した結果が示されている。
【0051】
図8は、前記振動データを前記学習期間Lにおいて発電電力でレベル分けし、かつ実施例3の方法で学習した診断結果を示している。ここでは発電電力「0.8」以上を運転として「0.1」刻みでレベル分けし、実施例3の隣接レベルまで学習の対象に拡張して重複させて学習・診断した結果が示されている。
【0052】
このような
図6~
図8の診断結果によれば、
図6のレベル分けをしない場合には、前記学習期間Lのバラつきが大きいことなどから、故障当日(運転開始の25日目)まで注意ラインを越えることは無かった。
【0053】
一方、
図7および
図8のレベル分けした場合には、前記学習期間Lのバラつきが
図6よりも抑制され、運転開始の9日目に注意ラインを越えている。したがって、実施例1,3のレベル分けによれば、故障の二週間以上前から異常兆侯を検出することができる。特に実施例3によれば、注意ラインを越えた時刻を除いて全体的にレベルを細分化しない場合(
図6)よりもバラつきが抑制される。
【0054】
したがって、実施例1~3のレベル分けした学習によれば、正常状態の範囲を限定できるため、異常検知の感度が向上し、さらに実施例3の学習対象の重複によりレベル分けを細分化すればさらに効果が高まっている。
【0055】
≪その他・他例≫
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲で変形して実施することができる。以下に一例を説明する。
【0056】
(1)実施例1~3において運転情報は、一つの数値情報であり、その大小でレベル分けを行っている。しかしながら、レベル分けは学習対象の多変量サンプルを適切に分類できればよいので、必ずしも一つの数値だけからレベル分けする必要はない。例えば診断対象が風車発電機であれば、発電電力のほかにそのときの風速を使ってそれらを組み合わせた二次元のレベル分けをしてもよい。
【0057】
このような複数数値の運転情報によるレベル分けでは、
図4と同様な学習対象の範囲の拡大を運転情報の数値ごとに行って多変量サンプルを作成する。ここで実施例3と同様な隣接レベルを利用する場合には、合併する隣接レベルの多変量サンプル群は2つないし3つではなく、
図9に示す二次元レベル分けであれば、4つ(隅の場合),6つ(端の場合),9つ(隅と端を除く。)になる。
【0058】
(2)また、本発明は、学習対象の多変量サンプルを運転レベルごとに分けて学習して診断すればよく、学習対象は定Q変換により作成された多変量サンプルには限定されず、フーリエ変換などによる多変量サンプルであってもよい。
【0059】
(3)さらに本発明の学習方法も、主成分分析には限定されず、「One Class SVM」などの各種の機械学習アルゴリズムを適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…異常診断装置
100…準備フェーズ
101,201…定Q変換部
102,202…主成分分析部
103,203…統計値計算部
104,204…正規化部
200…診断フェーズ