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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/059 20060101AFI20220203BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20220203BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20220203BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B22D11/059 110B
B22D11/059 110H
B22D11/059 110A
C22C19/03 L
C22C19/07 L
C22C19/03 G
C22C9/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018003992
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2019122973
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000155470
【氏名又は名称】株式会社野村鍍金
(74)【代理人】
【識別番号】100085615
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 利幸
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-254317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金基体表面に、膜厚30~500μmのニッケルとコバルトとからなる電気めっき層を形成し、電気めっき層表面にニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・固化して肉盛り形成した厚み0.1~10mmのニッケル基合金被覆層を持つ連続鋳造用鋳型を製造する方法であって、前記ニッケル基合金被覆層のレーザー肉盛りにおいて、金属粉末の供給量と照射レーザーエネルギーを制御することにより、ニッケルとコバルトとからなる電気めっき層の表面部が肉盛り溶融層中に一部固溶したレーザー肉盛り層とすることを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項2】
レーザー肉盛り層形成を2回以上の多数回繰り返すことにより、電気めっき層からのニッケル-コバルトの拡散を内部から表面に傾斜的に減少させた多層レーザー肉盛り層とすることを特徴とする請求項1記載の連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項3】
電気めっき層が、ニッケルが7重量%以上で残部コバルトからなる組成を有することを特徴とする請求項1または2記載の連続鋳造用鋳型の製造方法
【請求項4】
ニッケル基耐熱合金粉末が、ハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(47.9Ni23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(80Ni20Cr)、ワスパロイ(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)の一種からなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の連続鋳造用鋳型の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱、耐摩耗性に優れかつ高強度な連続鋳造用鋳型製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を冷却しながら固化・成型する製鋼工程で使用される連続鋳造用鋳型用材料には、冷却効果の観点から熱伝導性に優れる銅や銅合金が使用されることが多い。しかし、銅や銅合金は硬度が低く耐摩耗性に劣ることから、鋳型の長寿命化を目的に、銅や銅合金よりなる鋳型基体の表面に、より高耐摩耗で耐熱性に優れるニッケルめっき層や溶射による金属層やセラミック層を形成した連続鋳造用鋳型が知られている。
【0003】
凝固・成型時の特に連続鋳造用鋳型上部においては、高熱の溶鋼と冷却された鋳型との温度差により、鋳型表面は厳しい熱衝撃にさらされる。一方、鋳型下部においては冷却され凝固した鋳片に強く擦られ鋳型の摩耗が激しくなる。そこで、耐熱疲労性、耐摩耗性、耐食性などの特性に優れるニッケルと鉄、マンガン、コバルト、クロム、タングステンなどとの合金層をめっき法や溶射法により銅または銅合金製の連続鋳造用鋳型表面に形成させることにより、鋳型を長寿命化させる方法は一般に知られている。
【0004】
特許文献1では、連続鋳造用銅または銅合金基体表面にNiまたはNiにFe、Mn、Coを含む合金からなるめっき層を形成し、また特許文献2では、Niを10wt%から30wt%含むCoめっき層で被覆した連続鋳造用鋳型について記述している。ここでは、Niが10wt%未満ではモールド銅板の腐食損耗が急激に増大し、Niが30wt%を超えるとモールド銅板の摩耗が急激に増大するとしている。
【0005】
特許文献3では、銅または銅合金の表面にNiめっきを施し、その表面に板形状のNi基合金を仮付けした後、レーザーまたは電子ビームを用いて肉盛りし、密着強度が高くかつ耐摩耗性と耐腐食性に優れた皮膜を形成する方法が示されている。また、肉盛り用Ni基合金の板形状材には、ハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(23Co20Cr8.5Al0.6Y残部Ni)、NiCr(50Ni50Cr)を用いている。また、レーザーまたは電子ビームを用いて板形状材を肉盛りする際に、板形状材とNiめっき層の境界が溶融し、かつ隣接する板形状材の溶融部が重ね部を形成する方法も示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭54-46131号公報
【文献】特開2000-263190号公報
【文献】特開平10-85972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3の技術では、レーザーを用いて板形状材を肉盛りする際に、板形状材を溶かすのに十分な熱量の供給を必要とし、また、その供給された熱量の多くは板形状材を伝わって逃げるので、銅あるいは銅合金基体の被熱量が大きくなり、熱変形が少なくないという問題があった。本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、連続鋳造用鋳型のさらなる長寿命化を達成するために、耐熱、耐摩耗かつ高強度の被覆層を銅または銅合金基体表面に形成するべく、耐熱、耐蝕性に優れるニッケル基合金をレーザー肉盛りするに際して、エネルギー効率が良く、また高強度のめっき層をあらかじめ基体表面に形成するとともにニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・固化して肉盛り形成することにより、肉盛りに要する熱エネルギーを小さくし、銅あるいは銅合金基体および被覆層全体の熱ひずみを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、銅または銅合金基体表面に、膜厚30~500μmのニッケルとコバルトとからなる電気めっき層を形成し、電気めっき層表面にニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・固化して肉盛り形成した厚み0.1~10mmのニッケル基合金被覆層を持つ連続鋳造用鋳型を製造する方法であって、前記ニッケル基合金被覆層のレーザー肉盛りにおいて、金属粉末の供給量と照射レーザーエネルギーを制御することにより、ニッケルとコバルトとからなる電気めっき層の表面部が肉盛り溶融層中に一部固溶したレーザー肉盛り層とすることを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法である。
請求項2の発明は、請求項1の連続鋳造用鋳型の製造方法において、レーザー肉盛り層形成を2回以上の多数回繰り返すことにより、電気めっき層からのニッケル-コバルトの拡散を内部から表面に傾斜的に減少させた多層レーザー肉盛り層とすることを特徴とする。
【0009】
請求項の発明は、請求項1または2の連続鋳造用鋳型の製造方法において、電気めっき層が、ニッケルが7重量%以上で残部コバルトからなる組成を有することを特徴とする。
【0010】
請求項の発明は、請求項1~3のいずれかに記載の連続鋳造用鋳型の製造方法において、ニッケル基耐熱合金粉末が、ハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(47.9Ni23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(80Ni20Cr)、ワスパロイ(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)の一種からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、銅または銅合金よりもレーザーエネルギーの吸収が良いニッケルとコバルトとからなる電気めっき層の表面にニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射して肉盛り層を形成しているから、板形状のニッケル基合金を仮付けした後、レーザーを用いて肉盛り溶接する従来例に比べると、供給した粉末を効率よく溶融することができ、したがって、銅あるいは銅合金基体および被覆層全体の熱ひずみを抑制することができる。また、電気めっき層は膜厚が30~500μmであるので、銅または銅合金基体からレーザー肉盛り層への銅の溶け出しを抑制でき、ニッケル基耐熱合金の本来の耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性を発揮できる。
また、請求項1の発明によれば、ニッケル基合金のレーザー肉盛りにおいて、金属粉末の供給量と照射レーザーエネルギーを制御することにより、めっき層と肉盛り層の界面に空孔を生じさせることが無く、高強度の積層構造を得ることができる。また、レーザー肉盛り層に電気めっき層の表面の一部が溶け出して固溶するほど強固に密着性よく電気めっき層の表面に肉盛り層を接合することができる。
請求項2の発明によれば、レーザー肉盛り層形成を2回以上の多数回繰り返すことにより、めっき層からのニッケルおよびコバルトの拡散を内部から表面に傾斜的に減少させた多層レーザー肉盛り層を形成できるから、溶鋼に接する肉盛り層の表面は、粉末で供給されたニッケル基合金の組成に近似した組成を持たせることができるという効果がある。
【0014】
請求項の発明によれば、電気めっき層が、ニッケルが7重量%以上で残部コバルトからなる組成を有することにより、熱衝撃に対する耐クラック性が優れている。
【0015】
請求項の発明によれば、耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性に優れていることが既知の合金を、その組成をほとんど変化させることなく、且つ密着性良く、銅あるいは銅合金基体表面に被覆することができるから、合金めっき法や溶射法により表面保護皮膜を形成した連続鋳造用鋳型に比べると、優れた耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に対する比較例3の断面構造を示す写真である。
図2】本発明の実施例1の断面構造を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
連続鋳造用鋳型では、型に溶鋼を流し込むと同時に、背面を冷却水で冷やした鋳型表面で、溶鋼を抜熱し凝固させることにより連続的に鋼を鋳込み成型していく。鋳型上部のメニスカス部付近は、溶鋼と鋳型が直接接触する部分であり高い耐熱性と耐蝕性が求められる。同時に、冷却水との温度差から最も強い熱応力を受け、熱クラックも発生しやすく耐熱衝撃性と高強度が求められる。また、銅や銅合金鋳型基体表面に、耐熱性や耐蝕性に優れる被覆層を有する表面被覆鋳型では、基体と被覆層間に強い密着強度が求められる。
【0020】
一方、溶鋼が冷却され凝固した状態の鋳型下部では、モールドパウダーに含まれるガラス質のセラミックパウダーの擦り摩耗や、溶鋼が凝固し体積収縮した後の密度上昇した鋼自身の重量増により鋳型面を強く擦ることによる鋳型摩耗から寿命に至ることもある。さらに、溶鋼中の硫黄成分による化学的腐食や鋳型通過後の鋼冷却用吹付け水の蒸気による鋳型下部の腐食摩耗にも対策が必要である。
【0021】
連続鋳造用鋳型の寿命要因である熱負荷による熱衝撃、こすり摩耗と化学的腐食などに対して、優れた耐性を発揮する鋳型が必要である。鋳型基体には、熱伝導性に優れ冷却効果の高い銅あるいは銅合金が使用されるが、耐熱、耐蝕、耐摩耗性と強度を併せ持つ基体保護層が不可欠である。本発明者らは、その基体保護層としてニッケルおよびコバルトめっき層表面に、ニッケル基合金粉末の供給量と照射レーザーエネルギーを制御したレーザー肉盛り法によるニッケル基溶融合金層を形成することによって、課題の解決ができることを見出した。すなわち、本発明の連続鋳造用鋳型では、銅または銅合金基体表面に、膜厚30~500μmのニッケルとコバルトとからなる電気めっき層を形成し、めっき層表面にニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、供給した粉末を効率よく溶融するとともに、この粉末供給とレーザー照射をめっき層表面で直線状に走査することで肉盛り層を形成する。このレーザー肉盛り層を一層または多層形成し、厚み0.1~10mmのニッケル基合金被覆層を持つ連続鋳造用鋳型とすることで、耐熱、耐摩耗性に優れかつ高強度な連続鋳造用鋳型を実現できる。
【0022】
肉盛りしたニッケル基合金層が合金本来の特性を発揮するためには、合金層内に空孔などの欠陥がなく、合金本来の密度に到達していることが必要である。合金層が空孔のない真密度を得るためには、肉盛りに寄与する合金部を一度完全に溶融することが求められる。合金部を完全溶融するためのエネルギーは外部から供給するが、熱伝導性の良い銅基体などから熱伝導により逃げていく。そのため、良質な合金層を得るためには、エネルギーの供給量、金属粉末の溶融熱量、熱拡散量のすべてを制御できることが重要である。
【0023】
銅基体とレーザー肉盛り層の中間層として、熱伝導率が純銅の約1/4であるニッケルおよびコバルトめっき層を配することは、レーザー肉盛り時の熱制御に有利である。また、工業的にレーザー肉盛り用に使用できる波長1000nm前後のレーザーエネルギー吸収率は、ニッケルが銅の約3倍であり、銅基体表面にニッケルおよびコバルトめっき層を設けることで、効率よく金属溶融プールを形成でき、熱効率および熱制御の観点から極めて有利である。
【0024】
レーザーを使った金属肉盛り法には、溶接棒を使う方法や合金板を溶解していく手法があるが、これらの方法は粉末を使う方法に比較し、溶接棒や未溶解合金板から熱伝導により逃げていく熱エネルギーが大きいため、熱量の制御が困難になるだけでなく、溶接棒や合金板の厚み全体を溶融させなければ、基体との接着強度も含めて高強度を得ることが困難であり、過大なエネルギーを外部より供給する必要がある。レーザーエネルギーが過大になると、鋳型銅基体にまで大きな影響を与え、同時に大きな熱ひずみが発生する要因となっている。また、過大なエネルギーは、めっき層が薄い場合には、めっき層の全厚みが溶解し、鋳型銅基体の一部がレーザー肉盛り層に固溶するなど、肉盛り層自身の特性にも大きな影響を与える危険がある。
【0025】
本発明のように、レーザー照射ノズルからレーザー光と共に、使用する合金粉末を供給しながら、基体表面にノズルを走査させレーザー肉盛りする方法では、供給する合金粉末のみの溶融目的にレーザーエネルギーを使用でき最も効率的である。具体的には、粉末の溶融によりできる溶融プールのサイズと溶融プールの温度を管理しながら、必要レーザーエネルギーを制御することが可能である。このように必要レーザーエネルギーの制御により、めっき下地層を過度に溶解することなく、めっき層の表面部の一部を上記合金粉末から生成された溶融プールに固溶させることも容易になり、下地層との間に欠陥がなく密着性に優れる強固な肉盛り層を形成することが可能となった。同時に、めっき層からの固溶量も低く抑えることが可能となり、合金肉盛り層の組成変化も0~10重量%と低くできた。
【0026】
本発明では、ニッケルおよびコバルトめっき中間層表面に、ニッケル基耐熱合金肉盛り層を溶融・固化により形成させる。ニッケルおよびコバルトめっき層成分は、ニッケル基耐熱合金にも含まれる成分であることから、めっき層成分が肉盛り層に固溶拡散しても合金組成を大きく損なうことがなく、合金の耐熱性、耐蝕性を高レベルに維持できる。さらに、肉盛り層を2層以上繰り返した場合、ニッケルおよびコバルトめっき成分の固溶量は段階的傾斜的に減少し、2層目以上の表面では、使用したニッケル基合金粉末とほぼ同じ組成の肉盛り層を形成することができた。
【0027】
ニッケルおよびコバルト電気めっき中間層の膜厚は30~500μmが好ましい。膜厚が30μm未満では、レーザー肉盛り時に形成する溶融プールにめっき層全体が溶融する恐れがある。また万一、めっき層の下すなわち銅あるいは銅合金基体の一部も固溶した場合、固溶合金の融点が大きく低下し、被覆層全体の強度が低下する。ニッケルおよびコバルト電気めっき層は、銅あるいは銅合金基体とレーザー肉盛り層の中間にあり、肉盛り時の熱ひずみを緩和する役割も持っており、膜厚は30μm以上が好ましい。一方、膜厚を500μm以上にすることは可能であるが、500μm以上では、さらなる熱ひずみ緩和効果の向上が少なくなる。
【0028】
レーザー肉盛り層は、1層または繰り返しによる多層化により形成し、全体の膜厚は0.1~10mmが好ましい。厚みを0.1mmより薄くする場合には、粉末粒度も小さくする必要がある。微粉末は飛散しやすくかつ空気中に長時間浮遊するので、その使用は作業環境と収率の点から好ましくない。
【0029】
一方、レーザー肉盛り1層の膜厚を3mmより厚くすることはあまり好ましくない。3mmより厚くするためには、合金溶融プールサイズおよびレーザーエネルギーが大きくなり、レーザー肉盛り制御や下地層の固溶量制御が困難になる。このことから、鋳型の長寿命の目的でレーザー肉盛り層を厚膜化するためには、レーザー肉盛り層の多層化により実現する。
【0030】
多層化法により全体の膜厚を10mm以上にすることは可能であるが、被覆層以外の原因で生じる鋳型全体の寿命を考慮すると10mm以上の厚みは必要でないと判断された。なお、レーザー肉盛り層は、鋳型内面下部のほか鋳型内面上部のメニスカス部付近に形成しても良い。
【0031】
ニッケルおよびコバルト電気めっき層の組成は、ニッケルが7重量%以上、好ましくはニッケルが7~75重量%が良い。100%ニッケルめっき層は耐クラック性、耐蝕性に優れている。一方、100%コバルトめっき層の硬度はニッケルと同等であるが脆い性質を有している。ニッケルとコバルトの好適な組成範囲は、耐クラック性、耐蝕性および強度の観点から決定した。すなわち、ニッケル成分が多いほど耐クラック性、耐蝕性に優れるが、ニッケル含有量が7重量%以下になるとめっき層の耐クラック性の低下が大きく、レーザー肉盛り層を含めた被覆層全体の耐クラック性の低下を招き好ましくない。またニッケル含有量が76重量%以上となると、被熱時の強度低下を招く場合がある(連続鋳造鋳型として使用できない程では無く、熱負荷の小さい鋳型下端部等には適用できる。)。このことから、ニッケル含有量は7~75重量%が好ましく、コバルトはその残部で93~25重量%が好ましい。なお、電気めっきのプロセスに付随して不可避的不純物が含まれる場合があることは言うまでもない。
【0032】
ニッケル基合金肉盛り層は、耐熱、耐蝕性に優れる合金組成のものを選択し、これらの合金粉末を供給しながらレーザー照射する方法で作製した。耐熱、耐蝕性に優れるニッケル基合金として、ハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(47.9Ni23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(80Ni20Cr)、ワスパロイ(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)の一種を選択し、いずれも市販されている合金粉末を使用した。合金粉末の組成は重量%であり、100%に満たない部分は他の成分または不可避的不純物である。
【0033】
なお、使用できる合金粉末は、これらに限定されるものではなく、重量%で、Ni:30%以上93%以下、Co:1%以上、Cr:8%以上、Mo:1%以上、W:0.5%以上、Al:0.2%以上、Ti:0.4~6%、Nb:0.4~6%、Ta:0.1~4%、Y:0.1%以上の一種以上、残部、不可避的不純物からなるもの、などが使用できる。
【0034】
また、鋳型基体に用いられる銅合金は、特に限定されず、従来この技術分野で使用されているものが適宜使用される。例えばクロム・ジルコニウム添加析出硬化型鋳型用銅材(好ましくはCr:0.5~1.5重量%、Zr:0.08~0.30重量%)、電磁攪拌用クロム・ジルコニウム・アルミニウム添加鋳型用銅材(好ましくはCr:0.50~1.50重量%、Zr:0.08~0.30重量%、Al:0.7~1.1重量%)等が用いられる。これらの銅合金に代えて純銅を鋳型基体に用いる場合もある。
【0035】
肉盛り層が厚くなると、肉盛り層表面の粗さが悪くなる。このため、レーザー肉盛り層の形成後、その表面を研磨加工し、表面粗さをRy10μm以下に平坦化することにより、肉盛り層の異常摩耗発生を抑制することができる。
以下、本発明の試験結果に基づき、本発明を詳しく説明する。
【実施例1】
【0036】
Cr-Zr-Cuの鋳型基体(サイズ230mm×900mm×50mm)の表面にCo-Ni合金めっきを被覆した。表1に、めっき浴の構成および条件を示す。めっき浴は硫酸浴を使用し、めっき皮膜中のNiおよびCo含有量は、表1に示すそれぞれの金属イオン濃度を変えて調整した。まためっき施工後、機械加工により膜厚を調整し200μmとした。めっき皮膜組成は、本発明範囲内の組成の試料と本発明範囲外の組成の比較試料を表2に示した。また、めっき層のない鋳型基板も直接レーザー肉盛り用に用意した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示す各Co-Niめっき層を表面に有したCu基体にNi-Cr系材(80Ni20Cr)のレーザー肉盛り層を1.0mm形成した。レーザー肉盛り条件は、Ni-Cr系材粉体の平均粒度65μm、粉末供給速度7.2g/min、ノズルスキャン速度600mm/min、半導体レーザー波長950~1070nm、レーザー出力2000Wで行った。また比較例として、めっき層の薄い比較例2およびめっき層を有しない比較例3を用意した。比較例2、3のCu基体へのレーザー肉盛り条件は、レーザー出力を2500Wに上昇させて行った。各試料の肉盛り層組成はEPMAにより分析を行い、その結果を表3に示した。各試料の肉盛り層に固溶するめっき層成分は、ほぼ一定の割合を示したが、めっき層の薄い比較例2ではめっき層は肉盛り層内に拡散してしまった。めっき層のない比較例3では、図1の写真に示すように、Cuの固溶が確認され肉盛り層との界面に欠陥も観測された。図1において、1は欠陥、2はNi-Crレーザー肉盛り層、3はCu基体である。
【0040】
また、各試料の熱衝撃試験を行い、その試験結果を同じく表3に示した。熱衝撃試験は、大気雰囲気中、800℃で20分間加熱し、その後水冷を1サイクルとし、拡大鏡で表面にクラックが確認されるまでの試験回数で評価を行った。めっき層が薄い比較例2、およびめっき層の無い比較例3では、熱衝撃回数1回でクラックが確認された。一方、Niを含まない100%Coめっき層の比較例1でも、熱衝撃回数は2回に留まった。
【0041】
【表3】
【0042】
Niが7~75重量%で残部Coの組成からなるNiおよびCo電気めっき層を有する試料では、Ni-Cr系合金レーザー肉盛り層は欠陥もなく緻密な組織であり、熱衝撃試験も10回以上を示した。一方、めっき層が薄い、あるいは無い場合には、レーザー条件を精密に制御すれば、肉盛り層を改善可能と考えるが、肉盛り条件制御の困難さ、および品質の安定性に課題が残る。また、めっき層のCo含有量が25重量%以下では、加熱によるめっき層の急激な強度の低下が生じるが、熱負荷の小さい連続鋳造用鋳型の下端部では使用可能と判断された。一方、めっき層のNi含有量が7重量%以下では、耐クラック性、および耐蝕性が大きく低下することから、連続鋳造用鋳型用途には適していないと考えられる。
【実施例2】
【0043】
実施例1の16wt%Ni-84wt%Coめっき層(膜厚:200μm)上に、ワスパロイ(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)の合金粉末を供給しながらレーザーを照射して肉盛り層(膜厚:0.5mm)の積層を3回行い、合計膜厚1.5mmの肉盛り層を形成した。レーザー肉盛り条件は、ワスパロイ合金粉末の平均粒度65μm、粉末供給速度7.2g/min、ノズルスキャン速度600mm/min、半導体レーザー波長950~1070nm、レーザー出力2000Wで1層目を施工し、2層目以降はレーザー出力を1600Wへ変更させて行った。各肉盛り層の組成をEPMAで分析した結果を表4に、レーザー肉盛り層とCu基体界面の写真を図2に示す。図中、2はワスパロイ合金のレーザー肉盛り層、3はCu基体、4はNi-Coめっき層である。
【0044】
【表4】
【0045】
表4によると、肉盛り層は、外層ほど本来のワスパロイ組成(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti他)に近い値を示しているが、2層目でも本来の組成に近いことが確認できた。表4のレーザー肉盛り層組成分布において、「残部」とあるのはワスパロイが含有するCr、Mo、Tiの合計重量%を示す。また、図2によると、レーザー肉盛り層内や肉盛り層とめっき層の界面に空孔などの欠陥がなく、緻密な膜が形成されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明による連続鋳造用鋳型は、溶鋼からの製鋼用鋳型として、優れた耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性を有しているが、その高温における長寿命性や高い精度維持性は、高温や腐食性環境における高品質の成形品製造金型の用途にも活用できる。
図1
図2