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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】キチンナノファイバーを含む魚肉練製品
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20220203BHJP
   A23L 17/40 20160101ALI20220203BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALN20220203BHJP
【FI】
A23L17/00 101C
A23L17/00 101Z
A23L17/40 Z
B82Y30/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018007387
(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公開番号】P2019122349
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000132172
【氏名又は名称】株式会社スギヨ
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517154339
【氏名又は名称】株式会社マリンナノファイバー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】伊福 伸介
(72)【発明者】
【氏名】小原 涼太
(72)【発明者】
【氏名】野田 文雄
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-165665(JP,A)
【文献】特開平03-139238(JP,A)
【文献】特開2010-180309(JP,A)
【文献】特開平06-296475(JP,A)
【文献】国際公開第96/027300(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/036283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L17
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/CABA(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉すり身およびキチンナノファイバーを含む魚肉練製品であって、
ここで、原料として使用するキチンナノファイバーが石臼式磨砕機を用いて製造されたキチンナノファイバーであり、
ここで、前記原料として使用するキチンナノファイバーのpHが6~11である、魚肉練製品
【請求項2】
請求項1に記載の魚肉練製品であって、キチンナノファイバーを0.2重量%以上含む、魚肉練製品。
【請求項3】
請求項1に記載の魚肉練製品であって、原料として使用するキチンナノファイバーのpHが8~10である、魚肉練製品。
【請求項4】
請求項1に記載の魚肉練製品であって、前記石臼式磨砕機を用いて製造されたキチンナノファイバーが、石臼式摩砕機で2回処理したキチンナノファイバーである、魚肉練製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キチンナノファイバーを含む魚肉練製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒲鉾などの魚肉練製品の主原材料はすり身であり、主に白身魚のすり身である。世界各国で水産資源の管理が強化される中、スケソウダラなどの白身魚の漁獲枠が減少する一方、欧州でのすり身製品の需要拡大や、欧米での白身魚フィレーの需要拡大による世界的な「白身魚」の価値の高まりに伴い、「魚肉すり身」の価格が世界的に上昇している。そのため、魚肉練製品の製造に使用されるすり身を低減することが重要である。
【0003】
また、カニカマのように魚肉練製品の嗜好品化にともない、魚肉練製品に求められる特徴も多様化しており、それに対応すべく魚肉練製品の食感などの特性を改善することが求められている。
【0004】
キチン素材は、従来より食品に利用されている。例えば、特許文献1(特開2016-027795)は、キチンナノファイバーを穀物粉生地(例えば、パン生地)に添加して、強度を向上させることを記載している。しかしながら、キチンナノファイバーを魚肉練製品に添加すること、添加する条件、および添加による効果は、教示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-027795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、魚肉練製品の製造に使用されるすり身を低減すること、および/または、魚肉練製品の食感などの特性を改善することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
(項目1)
魚肉すり身およびキチンナノファイバーを含む魚肉練製品。
(項目2)
項目1に記載の魚肉練製品であって、キチンナノファイバーを0.2重量%以上含む、魚肉練製品。
(項目3)
項目1に記載の魚肉練製品であって、原料として使用するキチンナノファイバーのpHが6~11である、魚肉練製品。
(項目4)
項目1に記載の魚肉練製品であって、原料として使用するキチンナノファイバーのpHが8~10である、魚肉練製品。
(項目5)
項目1に記載の魚肉練製品であって、原料として使用するキチンナノファイバーが石臼式磨砕機を用いて製造されたキチンナノファイバーである、魚肉練製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、魚肉練製品の製造に使用される魚肉すり身を低減するという効果、および/または、魚肉練製品の食感などの特性を改善するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、破断強度試験の結果を示すグラフである。
図2図2は、破断ひずみ試験の結果を示すグラフである。
図3図3は、水分保持力試験の結果を示すグラフである。
図4図4は、すり身を減量した魚肉練製品の物性評価の結果を示すグラフである。
図5図5は、種々のpHに調整したキチンナノファイバーを用いて製造した魚肉練製品の破断強度を示す結果である。
図6図6は、種々のpHに調整したキチンナノファイバーを用いて製造した魚肉練製品の圧縮強度を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。また、本明細書において「wt%」は、「重量%」または「質量パーセント濃度」と互換可能に使用される。「%」は、特に明記されない場合、「wt%」または「w/w%」または「質量パーセント濃度」を意味する。
【0011】
本発明は、キチンナノファイバーを含む魚肉練製品を提供する。
【0012】
(キチンナノファイバー)
本発明の魚肉練製品に使用されるキチンナノファイバーは、ファイバーの長さが0.1μ~50μm、好ましくは1μm~20μmであり、平均脱アセチル化度が約5%以下、幅(または径)が比較的揃っており、通常は、幅(または径)が約2nm~約200nm、好ましくは約2nm~約100nm、より好ましくは約2nm~約50nm、例えば、約2nm~約20nm、約5nm~約20nm等である。好ましくは、その繊維は伸びきり鎖微結晶である。本明細書において、例えば、「キチンナノファイバーの幅(または径)は約2nm~約20nm」とは、電子顕微鏡観察にて観察した場合に、幅(または径)が約2nm~約20nm以下であるファイバーが全体の約50%以上、好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上を占める状態をいう。本発明に用いることのできるキチンナノファイバーの一例として、カニ殻ならびにエビ殻由来のキチンナノファイバーが挙げられる。
【0013】
本発明の魚肉練製品に使用されるキチンナノファイバーはいずれの方法・手段にて製造されたものであってもよいが、キチン含有生物由来の材料を、少なくとも1回の脱蛋白工程および少なくとも1回の脱灰工程に付し、次いで、解繊工程に付すことを特徴とする方法によって製造されたものが好ましい。例えば脱蛋白工程を1回、2回または3回行ってもよく、例えば脱灰工程を1回、2回または3回行ってもよい。上記の好ましいキチンナノファイバーの製造方法および該製造方法により得られるキチンナノファイバーについて以下に説明する(国際公開WO2010/073758明細書および国際公開WO2012/036283明細書参照)。
【0014】
本発明のキチンナノファイバーは天然界から、例えばキチン含有生物由来の材料から得ることができる。キチン含有生物としては、エビ、カニなどの甲殻類、昆虫類またはオキアミなどが例示されるが、これらに限定されない。好ましくは、キチン含量の多い生物、例えばエビ、カニなどの甲殻類の殻および外皮から本発明のキチンナノファイバーを得てもよい。ただし、生体中のキチンナノファイバーは、その周囲および間隙に存在する蛋白および炭酸カルシウムを含むマトリクスを有しているので、脱マトリクス処理を行わなければ得ることができない。上で説明した工程によりナノファイバー化されるキチンは、カニ殻やエビ殻由来のキチンなどのα型の結晶構造を有するキチンであってもよく、イカの甲由来のキチンなどのβ型の結晶構造を有するキチンであってもよい。
【0015】
脱蛋白により、キチンナノファイバーを囲んでマトリックスを形成している蛋白が除去される。脱蛋白処理には、アルカリ処理法、プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素法などがあるが、アルカリ処理法が好適である。アルカリ処理による脱蛋白において、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリの水溶液が好ましく用いられ、その濃度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約2~約10%(w/v)、好ましくは約3~約7%(w/v)、例えば約5%(w/v)である。アルカリ処理による脱蛋白の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約80℃以上、好ましくは約90℃以上、さらに好ましくはアルカリ水溶液を還流しながら行う。処理時間も、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は数時間~約3日間、好ましくは数時間~約2日間行ってもよい。
【0016】
脱灰により、キチンナノファイバーを囲んでいる灰分、主に炭酸カルシウムが除去される。脱灰処理には、酸処理法、エチレンジアミン4酢酸処理法などがあるが、酸処理法が好適である。酸処理による脱灰において、塩酸の酸の水溶液が好ましく用いられ、その濃度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約4~約12%(w/v)、好ましくは約5~約10%(w/v)である。酸処理による脱蛋白の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約10~約50℃、好ましくは約20~約30℃、例えば室温であってもよい。酸処理による脱灰時間も、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は数時間~数日間、好ましくは約1~約3日、例えば2日間行ってもよい。
【0017】
次いで、上記工程で得られた外皮(ほとんどがキチンナノファイバーとなっている)を解繊処理し、目的のキチンナノファイバーを得る。キチンナノファイバーは乾燥すると水素結合して強固に凝集するため、本発明のキチンナノファイバーの製造方法の各工程を、材料を常に乾燥させずに行うことが好ましい。酸の添加により解繊処理には、石臼式摩砕器、高圧ホモジナイザー、凍結粉砕装置などの装置を用いることができ、好ましくは石臼式磨砕機などによりグラインダー処理を行う。石臼式磨砕機などのような、より強い負荷をかけることができる装置を用いれば、カニやエビなどの殻由来のアルファキチンでも速やかに解繊することができる。
【0018】
上記のキチンナノファイバーの製造方法において、必要ならば、あるいは所望により、脱色工程を行ってもよい。脱色工程は、上記方法のいずれの段階において行ってもよいが、好ましくは、脱蛋白および脱灰処理が終わった後に行う。脱色はいずれの方法で行ってもよいが、アルコール等の有機溶剤による抽出、塩素系漂白剤や酸素系漂白剤、還元系漂白剤の使用が好ましく、例えば、酢酸緩衝液などの緩衝液中約1~約2%の次亜塩素酸ナトリウムを用いて、約70~約90℃で数時間行ってもよい。
【0019】
さらに、脱蛋白工程、脱灰処理工程、脱色工程、解繊工程および以下に説明する酸性試薬での処理を効率よく行うために、粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程は、上記方法のいずれの段階において行ってもよいが、好ましくは、解繊工程の直前に行う。粉砕工程はいずれの方法で行ってもよいが、ホモジナイザー処理やミキサー処理などの方法が好ましく、例えば、家庭用フードプロセッサーにより行ってもよい。
【0020】
上記の脱蛋白工程、脱灰処理工程、脱色工程、粉砕工程などの工程は、繰り返し、複数回、あるいは交互に行ってもよい。また、それぞれの行程は順序を問わない。
【0021】
さらに、必要ならば、あるいは所望により、脱灰処理されたキチン含有材料を酸性試薬にて処理することにより、キチンナノファイバーの水分散性を向上させてもよい。酸性試薬にて処理を行うことによって、解繊工程で得られるキチンナノファイバー繊維が細く均一なものとなるので、キチンナノファイバーの水分散性が向上する。繊維が細くなり、水分散性が向上すると、皮膚に塗布した場合に形成される膜が均一なものとなり、保湿効果などの有利な効果が発揮される。酸性試薬はキチン繊維表面に正の電荷を生じさせるため、強固に凝集したキチン繊維を効率的にほぐすために都合がよい。よって、酸性試薬を用いることにより、上記の脱蛋白工程、脱灰処理工程、脱色工程を行った後、乾燥して得られるキチン凝集体も容易に解すことが可能である。酸性試薬での処理方法は特に限定されず、材料に酸性試薬を浸透させる方法であればよい。酸性試薬での処理は、典型的には酸の水溶液に脱灰処理されたキチン含有材料を浸漬することにより行うことができる。この工程では、水分散性の向上のみならず、キチンナノファイバーの繊維の幅(または径)のばらつきを抑えることもできる。この工程に使用できる酸はいずれの酸であってもよく特に限定されないが、弱酸が好ましい。弱酸としては、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、フルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、クエン酸、マロン酸、アスコルビン酸などが挙げられるがこれらに限らない。この工程に使用される好ましい弱酸は酢酸である。この工程において弱酸の水溶液のpHを通常は約2~約5、好ましくは約2.5~約4.5、例えば、約3~約4に調節する。この工程の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約10~約50℃、好ましくは約20~約30℃、例えば、室温であってもよい。この工程の処理時間も、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は1時間~約1日、好ましくは約3~約12時間、例えば、一晩であってもよい。この酸による処理工程は、解繊工程の前であればいずれの段階で行ってもよいが、脱蛋白および脱灰の後、キチンナノファイバーの精製がある程度進んだ段階で行うことが好ましく、例えば、解繊工程の直前に行ってもよい。
【0022】
上記方法により得ることのできるキチンナノファイバーは、細くて均質であり、しかも極めて長く、繊維が伸びきり鎖結晶である。さらに、上記方法により得ることのできるキチンナノファイバーは、水性媒体に対する分散性が極めて良好であるため分散液が均質となる。本発明により得られるキチンナノファイバーの幅(または径)は比較的揃っており、通常は、幅(または径)が約2nm~約200nm、好ましくは約2nm~約100nm、より好ましくは約2nm~約50nm、例えば、約2nm~約20nm、約5nm~約20nm等である。
【0023】
本発明に用いるキチンナノファイバーは修飾または誘導体化されていてもよい。例えば、糖の3位の水酸基、6位の水酸基、または糖鎖の末端の水酸基の水素が、アルキル基などの他の基に置換されていてもよい。あるいはキチンの糖の2位のアセチル基が一部離脱していてもよい。あるいはキチンの糖の2位のアセチル基中のメチル基が、エチル基などの他の基に置換されていてもよい。あるいはキトサンの糖の2位のアミノ基の水素はアルキル基などの他の基で置換されていてもよく、ハロゲン化物イオンなどの陰イオンとの間で塩を形成してもよい。これらの修飾体、誘導体および塩はあくまでも例示であり、限定的なものではない。本明細書では、これらの修飾体、誘導体および塩もキチンナノファイバーに包含されるものとする。このような誘導体および修飾体は当業者に知られており、それらの製造方法も公知である
キチンナノファイバーを魚肉練製品に用いた場合には、その好ましい性質、例えば、色調に影響を与えない、破断強度を増強する、圧縮距離を増加するなどにより、魚肉練製品中のすり身の割合を低減しつつ、かつ、物性を損なうことなく、必要に応じて好ましい食感を提供するという様々な好ましい効果がもたらされる。
【0024】
加えて、本発明に用いられるキチンナノファイバーは、天然由来素材であるため、ヒトを含む動物に対して害がなく、本発明の魚肉練製品は安全なものである。
【0025】
(魚肉練製品の製造)
キチンナノファイバーを添加した魚肉練り製品は、冷凍すり身に食塩、澱粉、調味料、キチンナノファイバーを加え高速回転カッターや擂潰機などで撹拌して製造した。キチンナノファイバーを入れるタイミングは撹拌の前や途中どちらでもよい。摺りあがった塩ずり肉は粘ちょうなゾル状となり、これを板付蒲鉾なら板に盛り付け、竹輪なら串に巻きつけ、カニカマのならシート状に形成し加熱後、細い繊維になるよう細断してから束ねるなど、製品に応じて成形した。これを蒸し、焼成、油揚げ、湯煮などの方法で加熱してキチンナノファイバー入りの魚肉練り製品を製造した。
【0026】
魚肉練製品におけるキチンナノファイバーの好ましい配合割合は、0.20重量%以上、0.25重量%以上、0.30重量%以上、0.35重量%以上、または、0.40重量%以上である。魚肉練製品におけるキチンナノファイバーの好ましい配合割合は、好ましくは、0.2~0.4重量%、例えば、0.20重量%、0.25重量%、0.30重量%、0.35重量%、または、0.40重量%である。
【0027】
魚肉練製品の製造のための原料として使用するキチンナノファイバーのpHは、好ましくは6~11、より好ましくは7~11、さらに好ましくは8~10、さらにより好ましくは約9である。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。本発明は本実施例により限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
キチンナノファイバーの製造
新鮮なブラックタイガーの殻(10g)を5% KOH水溶液に加え、6時間還流し、エビ殻中のタンパク質を除去した。処理したエビ殻を濾過した後、中性になるまで水でよく洗浄した。エビ殻を7% HCl水溶液で室温下、2日間撹拌し、エビ殻中の灰分を除いた。再びエビ殻を濾過して中性になるまで水でよく洗浄した。95%エタノールに処理カニ殻を加え、6時間還流し、エビ殻に含まれる色素分および脂質分を除去した。再びエビ殻を濾過して中性になるまで水でよく洗浄した。エビ殻にアスコルビン酸を添加してpHを約5に調製した水に分散させ、分散液を家庭用ミキサーで砕いた後、エビ殻を石臼式摩砕機(スーパーマスコロイダー(MKCA 6-2))に供し、キチンナノファイバーに解繊させた。キチンナノファイバーの収率は16.7%であった。得られたキチンナノファイバーを走査電子顕微鏡(FE-SEM)(JSM-6700F、JEOL)にて観察した。繊維の大部分は幅約約2nm~約20nmで、幅10nm程度の非常に細くて長い均質なナノファイバーが多く認められた(結果示さず)。得られたキチンナノファイバーの平均脱アセチル化度は5%以下であった。
【0030】
カニ殻を原料として上と同様の方法を適用したところ、エビ殻由来のキチンナノファイバーと類似のキチンナノファイバーを得ることができた。
【0031】
(実施例2:色調試験)
実施例1で製造したキチンナノファイバーについて、分光色彩計を用いてL値を測定し、白色度とΔEを算出した。結果を以下の表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
キチンナノファイバーを添加しても蒲鉾の色調に影響を与えなかったことが示された。pHを調整することでpHの低下を抑えることができた。
【0034】
(実施例3:破断強度試験、破断ひずみ試験、水分保持力試験)
魚肉すり身およびキチンナノファイバーを含む魚肉練製品を製造し、破断強度試験、破断ひずみ試験、および、水分保持力試験を以下のとおり行った。
【0035】
(1)キチンナノファイバーの製造方法
紅ズワイガニの殻由来のキチン粉末に蒸留水を加水し、粉砕装置で所定回数、処理を行い、キチンナノファイバー分散液を得た。濃度は1wt%になるよう調整した。粉砕装置は石臼式摩砕機(スーパーマスコロイダー(増幸産業))で2回処理したものならびに高圧湿式粉砕装置(スターバーストシステム(スギノマシン))で20回処理したものを用いた。
【0036】
(2)キチンナノファイバー配合魚肉練製品の製造方法
・すり身400グラム、食塩12グラム、キチンナノファイバー分散液、および水を配合しフードプロセッサーですり身を擂潰した。なお、全体の重量が662グラム、キチンナノファイバーの濃度が0wt%、0.1wt%、0.2wt%、および0.4wt%になるよう、キチンナノファイバー分散液および水の量を調整した。
・擂潰したすり身をケーシングに充填した。
・90℃、20分蒸気加熱した。
・流水で冷却後、一晩冷蔵庫で保管した。
【0037】
(3)破断強度、破断距離の測定
キチンナノファイバー配合魚肉練り製品を直径3cm、高さ3cmの円柱形となるようにカットした。この試料に対して先端に5mmの球体を有するプランジャーで練り製品を押し込み、破断した際の強度(破断強度)ならびに距離(破断距離)を測定した。押し込み速度は6mm/minとし、小型卓上試験機(EZ-SX(島津製作所))を使用した。
【0038】
(4)水分保持率の測定
キチンナノファイバー配合魚肉練り製品を3gにカットして、キムワイプで上下を挟み、遠沈管に入れた。卓上高速遠心分離機を使用して、10000xgで5分間遠心を行った。遠心後の重量を測定し、遠心前後の重量差から水分保持率を算出した。各試料の試験回数は6であり、その平均値を水分保持率とした。
【0039】
その結果を図1~2に示す。実施例1で製造したキチンナノファイバーを0.2wt%以上含む魚肉練製品は、優れた破断強度および破断ひずみ強度を示した。図1および図2中の*は、コントロールと比較して有意差を示す(p<0.05)。
【0040】
図3は、上記(1)のとおりに製造した魚肉練製品について、上記(4)にしたがい水分保持率を測定した結果を示す。
【0041】
(実施例4:すり身を減量した魚肉練製品の物性評価)
キチンナノファイバー配合魚肉練製品の製造方法は、以下のとおりである。
・下記表2に記載の割合で各成分を配合しフードプロセッサーですり身を擂潰した。
A=キチンナノファイバー配合率0.378wt%、すり身削減率0%、
B=キチンナノファイバー配合率0.415wt%、すり身削減率6.25%、
C=キチンナノファイバー配合率0.453wt%、すり身削減率12.5%
・擂潰したすり身をケーシングに充填した。
・90℃、20分蒸気加熱した。
・流水で冷却後、一晩冷蔵庫で保管した。
【0042】
【表2】
【0043】
魚肉練製品の製造においてキチンナノファイバーを用いた場合、すり身を減量しても物性が劣化しなかったことが示された。結果を図4に示す。キチンナノファイバー配合率を0.415wt%とし、すり身削減率を6.25%とした場合(「B」の場合)であっても、破断強度および圧縮強度は低減しなかったことが示された。
【0044】
(実施例5:キチンナノファイバーpHの影響)
魚肉練製品の原料として使用するキチンナノファイバーとして、種々の異なるpHを有するキチンナノファイバーを用いて魚肉練製品の製造を行い、破断強度と圧縮強度を測定した。具体的には、以下のとおりである。
【0045】
5~0.1NのNaOHを用いて、キチンナノファイバーのpHを4~11に調整した。次に、pHを調整したキチンナノファイバーを以下の表3のとおり配合して魚肉練製品の製造を行った。数値は、グラム(g)である。製造された魚肉練製品はキチン0.38wt%を含む。
【0046】
【表3】
【0047】
魚肉練製品の製造手順は、以下のとおりである。
(1)上記配合に従い、フードプロセッサーですり身を擂潰した。
(2)擂潰したすり身をケーシングに充填した。
(3)90℃、20分蒸気加熱した。
(4)流水で冷却後、一晩冷蔵庫で保管した。
【0048】
上記のとおり製造した魚肉練製品を、以下のとおり試験した。
(A)物性測定
・ケーシングフィルムを剥ぎ、円柱状になるよう3cm幅にカットした。
・5mm球プランジャーを用いて60mm/分の速度で破断荷重と圧縮距離を測定した。
(B)離水率の測定
・検体を約3gの断片にカットし重量を記録した。
・検体を遠沈管にキムワイプで上下を挟むように入れた。
・2000xgで遠心した。
・遠心分離後の重量を記録し、遠心前後の重量から離水率を算出した。
【0049】
破断試験の結果を図5に示す。*はp<0.05を示す。**は、p<0.01を示す。圧縮強度試験の結果を図6に示す。*はp<0.01を示す。
【0050】
(実施例6:官能試験)
カニカマにキチンナノファイバーを添加し、どのような効果があるかを試験した。具体的には、以下の試験方法を用いた。
1)検体
キチンナノファイバー1%液(pH未調整品)
2)添加製品
ロイヤルカリブ
3)添加量
キチンとして0.35wt%
4)物性測定
・レオメータにピアノ線プランジャーを取り付け、60mm/分の速度で破断荷重と圧縮距離を測定した。
5)離水率の測定
・検体を約3gの断片にカットし重量を記録した。
・検体を遠沈管にキムワイプで上下を挟むように入れた。
・2000xgで遠心した。
・遠心分離後の重量を記録し、遠心前後の重量から離水率を算出した。
6)官能試験
・CNFの無添加・添加サンプルをそれぞれAおよびBと標識した。
・検食を実施後、AおよびBのいずれがカニの食感に近いとして投票してもらった。その結果を、以下の表4に示す。*はp<0.05を示す。
【0051】
【表4】
【0052】
CNF(キチンナノファイバー)無添加の場合の離水率は、7.78%、CNF(キチンナノファイバー)添加の場合の離水率は4.16%(p<0.01)であった。なお、キチンナノファイバーをカニカマに添加した場合であっても、破断強度も圧縮強度も有意に変化はしなかった。この結果は、キチンナノファイバーの添加によって、カニカマの食感が、カニに近くなったことを示す。
【0053】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみ、その範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によって、魚肉練製品の製造に使用される魚肉すり身を低減することが可能になる。また、本発明によって、魚肉練製品の食感などの特性を改善するという効果、例えば、カニカマの食感をカニのようにすることが可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6