(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】振幅検出方法および材料試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 3/30 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
G01N3/30 P
(21)【出願番号】P 2018016578
(22)【出願日】2018-02-01
【審査請求日】2020-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【氏名又は名称】大坪 隆司
(72)【発明者】
【氏名】松浦 融
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-109528(JP,A)
【文献】特開平08-062032(JP,A)
【文献】HUH, H. et al.,Standard Uncertainty Evaluation for Dynamics Tensile Properties of Auto-Body Steel-Sheets,Experimental Mechanics,ドイツ,Springer AG,2014年03月04日,vol.54, Issue 6,943-956
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷機構を駆動して試験対象に試験力を与える材料試験において、力検出器が検出した信号に基づく試験データに重畳する
材料試験機の固有振動の振幅を検出する振幅検出方法であって、
前記固有振動の周波数を取得する周波数取得工程と、
前記試験データにおける試験対象に試験力が与えられている状態の時間域のデータにおいて、
前記周波数取得工程により取得された固有振動周波数を用いて、前記試験データに重畳する
前記固有振動の最大値と最小値を求める最大値・最小値算出工程と、
前記最大値・最小値算出工程により得られた最大値と最小値の差に基づいて
前記固有振動の振幅を決定する振幅決定工程と、
を含むことを特徴とする振幅検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振幅検出方法において、
前記
周波数取得工程で取得された固有振動周波数の逆数から、固有振動波形の1周期を求める周期決定工程をさらに含み、
前記最大値・最小値算出工程は、前記周期決定工程で得た1周期の時間幅単位で最大値と最小値を求める振幅検出方法。
【請求項3】
請求項1に記載の振動振幅検出方法において、
前記周波数取得工程で取得された固有振動周波数に基づいて、前記試験データに重畳した固有振動を前記試験データから除去する振動ノイズ除去工程と、
試験対象に試験力が与えられている状態の時間域において、前記振動ノイズ除去工程により得られた振動ノイズ除去データを前記試験データから減算する減算工程と、
をさらに含み、
前記最大値・最小値算出工程は、前記減算工程により得られた減算データの最大値と最小値を求める振幅検出方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の振幅検出方法において、
前記
周波数取得工程が、試験対象が試験力により破断した後の時間域において前記試験データをフーリエ変換することにより固有振動周波数を
取得する振幅検出方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の振幅検出方法において、
前記周波数取得工程が、試験を実行していない状態で前記材料試験機をハンマーで打撃することにより固有振動周波数を取得する振幅検出方法。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれかに記載の振幅検出方法において、
前記力検出器の計測ノイズを除去する計測ノイズ除去工程をさらに含み、
前記計測ノイズ除去工程により計測ノイズが除去された計測ノイズ除去データを前記試験データとする振幅検出方法。
【請求項7】
負荷機構を駆動して試験対象に試験力を与える材料試験において、力検出器が検出した信号を処理する制御装置を備える材料試験機であって、
前記制御装置は、
前記材料試験機の固有振動の周波数を取得する周波数取得部と、
前記力検出器が検出した信号に基づく試験データにおける試験対象に試験力が与えられている状態の時間域のデータにおいて、
前記周波数取得部により取得された固有振動周波数を用いて、前記試験データに重畳する
前記固有振動の最大値と最小値を求める最大値・最小値算出部と、
前記最大値・最小値算出部により得られた最大値と最小値の差に基づいて固有振動の振幅を決定する振幅決定部と、
を有する振幅検出部を備えることを特徴とする材料試験機。
【請求項8】
請求項
7に記載の材料試験機において、
前記振幅検出部は、前記
周波数取得部で取得された固有振動周波数の逆数から、固有振動波形の1周期を求める周期決定部をさらに有し、
前記最大値・最小値算出部は、前記周期決定部で得た1周期の時間幅単位で最大値と最小値を求める材料試験機。
【請求項9】
請求項
7に記載の材料試験機において、
前記制御装置は、
前記周波数取得部で取得された固有振動周波数に基づいて、前記試験データに重畳した固有振動を前記試験データから除去する振動ノイズ除去部を備え、
前記振幅検出部は、試験対象に試験力が与えられている状態の時間域において、前記振動ノイズ除去部により得られた振動ノイズ除去データを前記試験データから減算する減算部をさらに有し、
前記最大値・最小値算出部は、前記減算部により得られた減算データの最大値と最小値を求める材料試験機。
【請求項10】
請求項
7から請求項
9のいずれかに記載の材料試験機において、
前記
周波数取得部が、試験対象が試験力により破断した後の時間域における前記試験データをフーリエ変換することにより前記固有振動周波数を
取得する材料試験機。
【請求項11】
請求項
7から請求項
10のいずれかに記載の材料試験機において、
前記振幅検出部は、前記力検出器の計測ノイズを除去する計測ノイズ除去部をさらに有し、
前記計測ノイズ除去部により計測ノイズが除去された計測ノイズ除去データを前記試験データとする材料試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験対象に試験力を負荷する材料試験における固有振動の振幅検出方法および材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の特性を評価するために、材料の種別や性質に応じた各種材料試験が行われている。材料試験を実行する材料試験機は、試験対象である試験片に試験力を与える負荷機構と、実際に試験片にかかった力を検出するための力検出器を備えている(特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-333221号公報
【文献】特開2004-333143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高速引張試験や打ち抜き試験においては、試験片の破断や破壊の衝撃が試験機全体(治具や力検出器を含む系)に及び、力検出器の検出に基づく試験データの波形に、試験機本体の固有振動による振幅が重畳することがある。特に、試験が開始されてから試験片が破断するまでの間の試験データに固有振動による過大な振幅が重畳している場合は、その波形が試験片に実際にかかっている力を表すものでもあることから、試験結果の信頼性を損なうことにもなる。
【0005】
図9は、従来の高速引張試験の試験データから、試験開始点から破断点までの間のデータに重畳している固有振動の振幅を求める手法を説明する試験力―時間グラフである。
図9のグラフの縦軸は試験力(kN:キロニュートン)であり、横軸は時間(ms:ミリ秒)である。
【0006】
試験の信頼性の観点から、試験データに重畳している固有振動の振幅の程度を知る必要がある。高速引張試験(例えば、試験速度20m/s)を実行したときには、力検出器によって得られる試験データは、試験片に試験力が実際に与えられている時間の前後を含めて、所定の時間分、収集される。
図9に示すように、力検出器が検出した試験データは、A:試験片への試験力の付与が開始される試験開始点より前、B:試験片に試験力が与えられている状態であって試験開始点から試験片が破断する破断点までの間、C:試験片破断点から後、の3つのデータ域A、B、Cに分けることができる。材料特性の評価に用いられるデータ域は、データ域Bである。従来は、ユーザがデータ域Bに重畳している固有振動の振幅を知るには、試験結果として材料試験機の記憶装置に記憶させている生データを取り出し、
図9に示すような試験力―時間グラフを印刷し、その印刷物上でデータ域Bの波形の上下に手で直線を引き、その幅から振幅の程度を目視により推測していた。この場合は、ユーザの個別の判断に拠るため、判断に個人差が生じるとともに、データの取り出しや印刷物への記入などの手作業を介することから、手間がかかる。
【0007】
図10は、フーリエ変換で求めた固有振動の振幅と、高速引張試験の試験開始点から破断点までの間の試験データの振幅を説明するグラフであり、試験片に試験力が与えられている状態のデータ域(
図9のデータ域B)の時間軸を拡大して示すものである。
図11は、
図10の試験力の波形をフーリエ変換したグラフである。
図10のグラフの縦軸は試験力(kN:キロニュートン)であり、横軸は時間(ms:ミリ秒)である。また、
図11のグラフの縦軸は振幅であり、横軸は周波数(kHz:キロヘルツ)である。
【0008】
図10の試験データをフーリエ変換すると、
図11に示す周波数スペクトルが得られる。
図11では、最大ピークとなる周波数での振幅は、0.34である。すなわち、フーリエ変換で最大ピーク値となる周波数を固有振動周波数とし、このときの試験力の振幅を固有振動の振幅としている。この手法は、
図9を参照して説明した手法と比較して、手作業が低減される分、ユーザ間の個人差は生じにくい。しかしながら、
図10に破線で示すように、フーリエ変換により求めた固有振動の振幅が0.34(kN)であるのに対し、実データの最大振幅は、
図10に太線で示すように、0.7(kN)ある。フーリエ変換は、時間的な情報がなくなり周波数ごとの情報となるため、フーリエ変換の結果から、期待する固有振動振幅の最大値(
図10の例では、振幅0.7)を求めることは困難である。また、
図11では、周波数軸で1点のピークを得ることができているが、フーリエ変換の結果、幅のある複数のピークが出現した場合には、固有振動周波数を決めることも難しくなり、さらに振幅を求めることは困難となる。
【0009】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、試験データに重畳する固有振動の振幅を定量的に求めることが可能な振幅検出方法および材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、負荷機構を駆動して試験対象に試験力を与える材料試験において、力検出器が検出した信号に基づく試験データに重畳する固有振動の振幅を検出する振幅検出方法であって、前記試験データにおける試験対象に試験力が与えられている状態の時間域のデータにおいて、試験データに重畳する固有振動の最大値と最小値を求める最大値・最小値算出工程と、前記最大値・最小値算出工程により得られた最大値と最小値の差に基づいて固有振動の振幅を決定する振幅決定工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の振幅検出方法において、前記試験データに重畳する固有振動周波数の逆数から、固有振動波形の1周期を求める周期決定工程をさらに含み、前記最大値・最小値算出工程は、前記周期決定工程で得た1周期の時間幅単位で最大値と最小値を求める。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の振動振幅検出方法において、試験データに重畳した固有振動を前記試験データから除去する振動ノイズ除去工程と、試験対象に試験力が与えられている状態の時間域において、前記振動ノイズ除去工程により得られた振動ノイズ除去データを前記試験データから減算する減算工程と、をさらに含み、前記最大値・最小値算出工程は、前記減算工程により得られた減算データの最大値と最小値を求める。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の振幅検出方法において、前記試験データから固有振動周波数を求める固有振動周波数算出工程をさらに含む。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の振幅検出方法において、前記力検出器の計測ノイズを除去する計測ノイズ除去工程をさらに含み、前記計測ノイズ除去工程により計測ノイズが除去された計測ノイズ除去データを前記試験データとする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、負荷機構を駆動して試験対象に試験力を与える材料試験において、力検出器が検出した信号を処理する制御装置を備える材料試験機であって、前記制御装置は、前記力検出器が検出した信号に基づく試験データにおける試験対象に試験力が与えられている状態の時間域のデータにおいて、試験データに重畳する固有振動の最大値と最小値を求める最大値・最小値算出部と、前記最大値・最小値算出部により得られた最大値と最小値の差に基づいて固有振動の振幅を決定する振幅決定部と、を有する振幅検出部を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の材料試験機において、前記振幅検出部は、前記試験データに重畳する固有振動周波数の逆数から、固有振動波形の1周期を求める周期決定部をさらに有し、前記最大値・最小値算出部は、前記周期決定部で得た1周期の時間幅単位で最大値と最小値を求める。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の材料試験機において、前記制御装置は、試験データに重畳した固有振動を前記試験データから除去する振動ノイズ除去部を備え、前記振幅検出部は、試験対象に試験力が与えられている状態の時間域において、前記振動ノイズ除去部により得られた振動ノイズ除去データを前記試験データから減算する減算部をさらに有し、前記最大値・最小値算出部は、前記減算部により得られた減算データの最大値と最小値を求める。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項6から請求項8のいずれかに記載の材料試験機において、前記制御装置は、前記試験データから固有振動周波数を求める固有振動周波数算出部をさらに備える。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項6から請求項8のいずれかに記載の材料試験機において、前記振幅検出部は、前記力検出器の計測ノイズを除去する計測ノイズ除去部をさらに有し、前記計測ノイズ除去部により計測ノイズが除去された計測ノイズ除去データを前記試験データとする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1から請求項10に記載の発明によれば、試験データにおける試験対象に試験力が与えられている状態の時間域のデータにおいて、当該データに重畳する固有振動の振幅を検出することから、試験データに重畳する固有振動の振幅を定量的に求めることができる。これにより、試験の信頼性を客観的に評価できる情報をユーザに提供することが可能となる。
【0021】
請求項4および請求項9に記載の発明によれば、試験データから固有振動周波数を求めることができることから、予め、他の振動検出装置を使って試験機本体の力検出器と治具を含む系の固有振動数を調べていなくても、固有振動周波数を利用する振幅検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】この発明に係る材料試験機の主要な制御系を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係る振幅検出方法を説明するフロー図である。
【
図4】第1実施形態に係る振幅検出方法を説明する試験力―時間グラフである。
【
図5】第2実施形態に係る振幅検出方法を説明するフロー図である。
【
図6】第2実施形態に係る振幅検出方法を説明する試験力―時間グラフである。
【
図7】第2実施形態に係る振幅検出方法を説明する試験力―時間グラフである。
【
図8】第2実施形態に係る振幅検出方法を説明する試験力―時間グラフである。
【
図9】従来の高速引張試験の試験データから、試験開始点から破断点までの間のデータに重畳している固有振動の振幅を求める手法を説明する試験力―時間グラフである。
【
図10】フーリエ変換で求めた固有振動の振幅と、高速引張試験の試験開始点から破断点までの間の試験データの振幅を説明するグラフである。
【0023】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る材料試験機の概要図である。
図2は、この発明に係る材料試験機の主要な制御系を示すブロック図である。
【0024】
この材料試験機は、試験片TPに急速に衝撃的な引張力を与える高速引張試験を実行するものであり、試験機本体10と、制御装置40を備える。試験機本体10は、テーブル11と、テーブル11に立設された一対の支柱12と、一対の支柱12に架け渡されたクロスヨーク13と、クロスヨーク13に固定された油圧シリンダ31を備える。
【0025】
油圧シリンダ31は、サーボバルブ34を介してテーブル11内に配置された油圧源(図示せず)と接続されており、この油圧源から供給される作動油によって動作する。油圧シリンダ31のピストンロッド32には、助走治具25およびジョイント26を介して上つかみ具21が接続されている。一方で、テーブル11には、力検出器であるロードセル27を介して、下つかみ具22が接続されている。このように、この試験機本体10の構成は、助走治具25により引張方向に助走区間を設け、ピストンロッド32を0.1~20m/sの高速で引き上げることにより、試験片TPの両端部を把持する一対のつかみ具を急激に離間させる引張試験を実行するための構成となっている。引張試験を実行したときの負荷機構の変位(ストローク)、すなわち、ピストンロッド32の移動量は、ストロークセンサ33により検出され、その時の試験力はロードセル27により検出される。
【0026】
また、試験片TPには、伸び計35が配設されている。伸び計35は、試験片TPの伸びを測定するために、試験片TPに直接取り付けられるものであり、例えば、特開2006-10409号公報に記載されているような構造を有する。すなわち、試験片TPに設定されている2箇所の標線にそれぞれに固定された固定具と、一方の固定具に固着される伝導体から成るパイプと、他方の固定具に固着されるパイプ内に移動自在に挿入されるコイルとを備え、パイプに対するコイルの挿入量の変化に基づくコイルのインダクタンスの変化を検出して、試験片TPの標線間の伸びを測定している。なお、試験対象に生じる変位の検出には、ストロークセンサ33の信号を用いてもよく、高速ビデオカメラなどの非接触式の伸び計により測定してもよい。
【0027】
制御装置40は、試験機本体10の動作を制御するための本体制御装置41と、パーソナルコンピュータ42とから構成される。本体制御装置41は、プログラムを格納するメモリ43と、各種演算を実行するMPU(micro processing unit)などの演算装置45と、パーソナルコンピュータ42との通信を行う通信部46とを備える。メモリ43、演算装置45および通信部46は、相互にバス49により接続されている。また、本体制御装置41は、機能的構成として試験制御部44を備える。試験制御部44は、試験制御プログラムとしてメモリ43に格納されている。高速引張試験を実行するときには、試験制御プログラムを実行することにより、サーボバルブ34に制御信号が供給され、油圧シリンダ31が動作する。本体制御装置41には、ロードセル27、ストロークセンサ33、伸び計35の各々に対応する信号入出力ユニットが設けられ、ロードセル27の出力信号、ストロークセンサ33の出力信号、および、伸び計35の出力信号は、デジタル化されて所定の時間間隔で本体制御装置41に取り込まれる。
【0028】
パーソナルコンピュータ42は、データ解析プログラムを記憶するROM、プログラム実行時にプログラムをロードして一時的にデータを記憶するRAMなどから成るメモリ53、各種演算を実行するCPU(central processing unit)などの演算装置55、本体制御装置41などの外部接続機器との通信を行う通信部56、データを記憶する記憶装置57、試験結果が表示される表示装置51および試験条件を入力するための入力装置52を備える。メモリ53には、演算装置55を動作させて機能を実現するプログラムが格納されている。なお、記憶装置57は、HDD(hard disk drive)などの大容量記憶装置から構成され、ロードセル27から入力された試験力の生データである時系列データなどを記憶する。メモリ53、演算装置55、通信部56、記憶装置57、表示装置51および入力装置52は相互にバス59により接続されている。
【0029】
図2においては、パーソナルコンピュータ42にインストールされ、メモリ53に記憶されているプログラムを機能ブロックとして示している。この実施形態では、機能ブロックとして、ロードセル27や伸び計35の検出器の電気的ゆらぎなど検出器由来の計測ノイズを除去する計測ノイズ除去部61と、試験片TPの破断や破壊の衝撃が試験機全体に及び固有振動による慣性力によるものと推測される振動ノイズを除去する振動ノイズ除去部63と、材料特性の評価に用いるデータ域に重畳する固有振動の振幅を検出する振幅検出部64と、固有振動の振幅値や試験結果の表示装置51への表示を制御する表示制御部69を備える。
【0030】
このような構成の材料試験機で高速引張試験を実行したときの試験データから、固有振動の振幅を求めるこの発明の振幅検出方法について説明する。
図3は、第1実施形態に係る振幅検出方法を説明するフロー図であり、
図4は、試験力―時間グラフである。グラフにおいて縦軸は試験力、横軸は時間を示す。
【0031】
高速引張試験(例えば、試験速度20m/s)を実行したときには、ロードセル27によって得られる生データは、試験片TPに試験力が実際に与えられている時間の前後を含めて、所定の時間分、所定のサンプリングレートで収集され、記憶装置57に時系列データとして記憶される。
図4のグラフでは、生データをそのまま試験データとして振幅検出する例を示しているが、振幅検出に用いる試験データは、計測ノイズ除去部61での計測ノイズ除去後のデータであってもよい。なお、計測ノイズ除去部61は、計測ノイズ周波数が消えるようなノイズカットフィルタにより構成される。
【0032】
試験データは、A:試験片への試験力の付与が開始される試験開始点より前、B:試験片に試験力が与えられている状態であって試験開始点から試験片が破断する破断点までの間、C:試験片破断点から後、の3つの時間域のデータに分けることができる(
図4参照)。データ域A、B、Cのうち、主に材料特性の評価に用いられるデータは、データ域Bであることから、この振幅検出部64では、データ域Bの試験データに重畳している固有振動の振幅を求める。なお、データ域Aは、計測ノイズ周波数を求めるときに利用することができ、データ域Cは、振動ノイズ、すなわち固有振動周波数の算出に利用することができる。
【0033】
この実施形態においては、振幅検出部64は、周期決定部65と、最大値・最小値算出部67と、振幅決定部68とを有する。データ域Bにおける振幅検出は、演算装置55がメモリ53の振幅検出部64における、周期決定部65、最大値・最小値算出部67、および、振幅決定部68からプログラムを読み込み、周期決定工程、最大値・最小値算出工程、振幅決定工程の各工程を実行することにより実現される。
【0034】
試験データが振幅検出部64に入力されると、周期決定部65は、固有振動周波数の逆数から、固有振動波形の1周期を求める。この実施形態では、固有振動周波数は、試験を実行していない状態で、ロードセル27に接続されている下つかみ具22をハンマーなどで打撃し、図示しない他の振動検出装置によって求めた固有振動周波数を、予め記憶装置57に記憶させておき、周期決定工程の実行時に、記憶装置57から呼び出すようにしている。なお、試験片TPの破断衝撃による振動が大きく表れるデータ域C(
図4参照)のデータを用いてフーリエ変換を実行し、固有振動周波数を得てもよい。
【0035】
周期決定部65により固有振動波形の1周期が求まると、最大値・最小値算出部67では、固有振動波形の1周期の時間幅を基準として、データ域Bのデータ上を所定の時間間隔で移動させながら、その時間幅での最大値・最小値を算出する。データ域Bのデータ上を所定の時間間隔で移動とは、例えば、1周期の時間幅にデータ点が100あるとして、5サンプリング点間隔で時間幅をデータ上でスライドさせていく動作を繰り返し、時間幅を保った状態で、最大値・最小値の算出域を移動させていくことを示す。こうして得られた最大値・最小値を、
図4に破線で示している。
【0036】
振幅決定部68では、
図4に破線で示す最大値と最小値の差(最大値―最小値)を算出する。この最大値と最小値の差の値は、データ域Bの試験データに重畳している固有周期の振動波形の波高に相当し、この値の1/2の値が固有振動の振幅となる。こうして振幅決定部68により決定された振幅値は、表示制御部69の作用により、表示装置51に表示され、ユーザに情報として提供される。
【0037】
次に、振幅検出方法の他の方法について説明する。
図5は、第2実施形態に係る振幅検出方法を説明するフロー図であり、
図6から
図8は、試験力―時間グラフである。グラフにおいて縦軸は試験力、横軸は時間を示す。
【0038】
第1実施形態の説明で参照した
図4のグラフでは、生データをそのまま試験データとして振幅検出する例を示したが、
図6から
図8に示すグラフでは、振幅検出に用いる試験データは、計測ノイズ除去部61において計測ノイズが除去された計測ノイズ除去データとした例を示している。計測ノイズ除去部61においては、計測ノイズ周波数に基づいてノイズカットフィルタが構成される。なお、計測ノイズを除去しない生データをそのまま試験データとしてもよい。
【0039】
計測ノイズ周波数は、
図4に示す、試験開始前のデータ域Aの生データを利用して計測ノイズ周波数算出部71の作用により求めてもよく、試験前に予めロードセル27の状態の検証のために収集したデータを利用して求めたものを記憶装置57に記憶させておき、計測ノイズ除去部61における計測ノイズ除去工程の実行時に読み出すようにしてもよい。なお、計測ノイズ周波数算出部71は、メモリ53に記憶させた測定ノイズ周波数算出工程を実行するプログラムを示す機能ブロックである。
【0040】
この実施形態においては、振幅検出に固有振動を除去した振動ノイズ除去データを使用するため、演算装置55がメモリ53の振動ノイズ除去部63からプログラムを読み込み、試験データから固有振動を除去して振動ノイズ除去データを得る振動ノイズ除去工程を実行する。
図6のグラフにおいては、試験データを実線で示し、振動ノイズ除去データを破線で示している。
【0041】
振動ノイズ除去部63において必要となる固有振動周波数は、固有振動周波数算出部73の作用により、試験データにおける試験片TPの破断衝撃による振動が大きく表れるデータ域C(
図4参照)を利用して求めたものを使用してもよく、試験を実行していない状態で、ロードセル27に接続されている下つかみ具22をハンマーなどで打撃し、図示しない他の振動検出装置によって求めた固有振動周波数を、予め記憶装置57に記憶させておき、振動ノイズ除去工程の実行時に、記憶装置57から呼び出すようにしてもよい。なお、固有振動周波数算出部73は、メモリ53に記憶させた固有振動周波数算出工程を実行するプログラムを示す機能ブロックである。また、固有振動周波数を算出に利用するデータは、生データであってもよく、計測ノイズ除去後のデータであってもよい。
【0042】
なお、この実施形態のように、パーソナルコンピュータ42に機能ブロックとして計測ノイズ周波数算出部71と固有振動周波数算出部73を設けることにより、
図4に示す生データから、すなわち、実際の試験により得たデータから、計測ノイズ周波数と固有振動周波数の両方を得られる。したがって、予め、他の振動検出装置を使って試験機本体の力検出器と治具を含む系の固有振動数を調べていない場合でも、固有振動周波数を利用する振幅検出ができるとともに、予め検出器の計測ノイズを調べていない場合でも、試験により得たデータから求めた測定ノイズ周波数から適切なノイズカットフィルタを設定することができる。
【0043】
この実施形態においては、振幅検出部64は、減算部66と、最大値・最小値算出部67と、振幅決定部68とを有する。データ域Bにおける振幅検出は、演算装置55がメモリ53の振幅検出部64における、減算部66、最大値・最小値算出部67、および、振幅決定部68からプログラムを読み込み、減算工程、最大値・最小値算出工程、振幅決定工程の各工程を実行することにより実現される。
【0044】
試験データと振動ノイズ除去データが振幅検出部64に入力されると、減算部66は、データ域Bにおいて、試験データから振動ノイズ除去データを減算する。そうすると、データ域Bにおける試験データは、
図7に示すように、試験力ゼロを中心として上下同幅の振幅を持つ波形に変換される。
【0045】
最大値・最小値算出部67では、減算部66の作用により得られたデータ域Bの減算データについて最大値と最小値を求める。
図7のグラフ中に、最大値・最小値算出部67の作用により求めた最大値と最小値を示す破線で示す。
【0046】
振幅決定部68では、
図7に破線で示す最大値と最小値の差(最大値―最小値)を算出する。この最大値と最小値の差の値は、データ域Bの試験データに重畳している固有周期の振動波形の波高に相当し、この値の1/2の値が固有振動の振幅となる。こうして振幅決定部68により決定された振幅値は、表示制御部69の作用により、表示装置51に表示され、ユーザに情報として提供される。
【0047】
図7のグラフに破線で示す、データ域Bの最大値および最小値に、この時間域の振動ノイズ除去データを加算すると、
図8に示すグラフとなる。振幅決定部68により決定された振幅値を数字として表示装置51に表示するだけでなく、試験データの波形に振幅の上下を示す補助線の描画に、最大値・最小値算出部67で得られた最大値・最小値を利用することもできる。
【0048】
上述したように、この発明の振幅検出方法では、ユーザの目視に拠らず、試験で設定している試験力に重畳して試験片TPに加わっている固有振動の振幅を、定量的に求めることができる。
【0049】
上述した実施形態では、高速引張試験について説明したが、圧縮荷重をコンクリートなどの試験体に与える高速圧縮試験など、試験で設定している試験力に重畳して試験対象に加わっている可能性のある共振による力を確認するために、この発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 試験機本体
11 テーブル
12 支柱
13 クロスヨーク
21 上つかみ具
22 下つかみ具
25 助走治具
26 ジョイント
27 ロードセル
31 油圧シリンダ
32 ピストンロッド
33 ストロークセンサ
34 サーボバルブ
35 伸び計
40 制御装置
41 本体制御装置
42 パーソナルコンピュータ
43 メモリ
44 試験制御部
45 演算装置
46 通信部
51 表示装置
52 入力装置
53 メモリ
55 演算装置
56 通信部
57 記憶装置
61 計測ノイズ除去部
63 振動ノイズ除去部
64 振幅検出部
65 周期決定部
66 減算部
67 最大値・最小値算出部
68 振幅決定部
69 表示制御部
71 計測ノイズ周波数算出部
73 固有振動周波数算出部
TP 試験片