(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ポット精紡機
(51)【国際特許分類】
D01H 1/08 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
D01H1/08
(21)【出願番号】P 2018056036
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2020-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【氏名又は名称】金山 明日香
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】宮田 康広
(72)【発明者】
【氏名】槌田 大輔
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-081634(JP,A)
【文献】特開平07-048734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト装置から供給される糸を吸い込む吸篠管と、
筒状のポットと、
前記吸篠管を通して供給される糸を前記ポット内に導く導糸管と、
を備え、
前記導糸管から排出した糸を前記ポットの内壁に巻き付けてケークを形成するポット精紡機であって、
前記ドラフト装置から前記吸篠管に至る糸経路において糸の
引き戻し又は詰まりを検知する検知センサと、
前記ドラフト装置から前記吸篠管と前記導糸管を経由して前記ポットの内壁に至る糸経路の途中で糸を切断する切断機構と、
前記検知センサの検知結果を基に前記糸の
引き戻し又は詰まりが発生したと判断した場合に、前記切断機構を駆動するように制御する制御部と、
を具備するポット精紡機。
【請求項2】
前記検知センサは
、前記吸篠管に吸い込まれる糸のバルーニングを検知する
請求項1に記載のポット精紡機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポット精紡機に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡機の1つとして、円筒形のポットを用いるポット精紡機が知られている。ポット精紡機では、ポットを所定の回転数で回転させるとともに、所定の細さに引き伸ばされた糸を導糸管を通してポット内に導くことにより、ポットの内壁に糸を巻き付けてケークを形成する。また、ケークの形成を終えたら導糸管よりも上流側で糸を切り、その後、ポット内にボビンを挿入してポットの内壁からボビンへと糸を巻き返す。
【0003】
ポット精紡機においては、ケークの形成中に導糸管に糸が巻き付いてしまうことがある。導糸管に糸が巻き付くと、導糸管とボビンとの接触を避けるために導糸管を移動させたときに、導糸管に巻き付いている糸がポットに接触するおそれがある。また、導糸管に巻き付いている糸がポットに接触すると、導糸管が曲がってしまうなどの部品の破損を招くおそれがある。
【0004】
ここで、特許文献1には、ポット精紡機に関する技術が記載されている。特許文献1に記載の技術では、導糸管の外側に、導糸管と同軸に円筒形のボビンを配置するとともに、ボビンの一端部に切り欠き部を形成している。そして、ケークの形成中に糸切れを検知した場合はボビンを落下させてボビンの切り欠き部に糸を引っ掛けることにより、ボビンへの巻き返しを開始する構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、特殊な構造のボビンと複雑な駆動機構が必要になる。
具体的には、特許文献1に記載の技術で使用するボビンは、ボビンの一端部が裾状に広く形成され、そこに切り欠き部が形成された特殊な構造になっている。また、特許文献1に記載の技術では、ボビンの上部にフランジ部を形成し、このフランジ部に係止手段を係止して、糸切れを検知したときに係止手段を駆動する構成になっている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、特殊な構造のボビンや係止手段を用いることなく、導糸管への糸の巻き付きを抑制し、部品の破損を避けることができるポット精紡機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ドラフト装置から供給される糸を吸い込む吸篠管と、筒状のポットと、前記吸篠管を通して供給される糸を前記ポット内に導く導糸管と、を備え、前記導糸管から排出した糸を前記ポットの内壁に巻き付けてケークを形成するポット精紡機であって、前記ドラフト装置から前記吸篠管に至る糸経路において糸の引き戻し又は詰まりを検知する検知センサと、前記ドラフト装置から前記吸篠管と前記導糸管を経由して前記ポットの内壁に至る糸経路の途中で糸を切断する切断機構と、前記検知センサの検知結果を基に前記糸の引き戻し又は詰まりが発生したと判断した場合に、前記切断機構を駆動するように制御する制御部と、を具備する。
【0009】
本発明に係るポット精紡機において、前記検知センサは、前記吸篠管に吸い込まれる糸のバルーニングを検知するものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特殊な構造のボビンや係止手段を用いることなく、導糸管への糸の巻き付きを抑制し、部品の破損を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るポット精紡機の構成例を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るポット精紡機が備える切断機構の構成例を示す概略側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図4】ポット精紡方法の基本的な流れを示す図である。
【
図5】検知センサの配置と糸のバルーニングの様子を示す平面概略図である。
【
図6】糸がバルーニングしているときの検知センサの出力信号を示す図である。
【
図7】巻き返しステップにおけるポット精紡機の動作を説明する概略側面図である。
【
図8】導糸管への糸の巻き付きを説明する図である。
【
図9】導糸管への糸の巻き付きによって起こりうる不具合を説明する図である。
【
図12】ローラ巻き上げ現象が発生したときの糸の挙動を説明する図である。
【
図13】ローラ巻き上げ現象によって糸の挙動が異常となったときの検知センサの出力信号を示す図である。
【
図14】糸詰まり現象が発生したときの糸の挙動を説明する図である。
【
図15】糸詰まり現象によって糸の挙動が異常となったときの検知センサの出力信号を示す図である。
【
図16】本発明の他の実施形態に係るポット精紡機の構成例を示す概略図である。
【
図17】
図16に示す切断機構を駆動したときの動作を説明する側面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
<ポット精紡機>
図1は、本発明の実施形態に係るポット精紡機の構成例を示す概略図である。
図1に示すように、ポット精紡機1は、ドラフト装置10と、検知センサ11と、吸篠管12と、切断機構13と、導糸管14と、ポット15と、ボビン支持部16と、を備えている。なお、これらの構成要素は、紡績の一単位となる1つの紡錘を構成するものである。ポット精紡機1は、複数の紡錘を備えるものであるが、ここではそのうちの1つの紡錘の構成について説明する。
【0014】
(ドラフト装置)
ドラフト装置10は、粗糸などの糸材料を引き伸ばす装置である。ドラフト装置10は、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23からなる複数のローラ対を用いて構成されている。複数のローラ対は、糸の送り方向の上流側から下流側に向かって、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23の順に配置されている。
【0015】
各々のローラ対21,22,23は、後述するドラフト駆動部の駆動に従って回転するものである。各々のローラ対21,22,23の単位時間あたりの回転数(rpm)を比較すると、ミドルローラ対22の回転数はバックローラ対21の回転数よりも高く、フロントローラ対23の回転数はミドルローラ対22の回転数よりも高い。このように各々のローラ対21,22,23の回転数は互いに異なり、この回転数の違い、すなわち回転速度差を利用して、ドラフト装置10は糸材料を細く引き伸ばす。
【0016】
(検知センサ)
検知センサ11は、ドラフト装置10から吸篠管12に至る糸経路において糸の挙動を検知するセンサである。検知センサ11は、糸の送り方向において、ドラフト装置10よりも下流側で、かつ、吸篠管12よりも上流側に配置されている。本実施形態では、一例として、検知センサ11は、糸の挙動として、吸篠管12に吸い込まれる糸のバルーニングを検知するセンサとなっている。糸のバルーニングとは、ポット15の回転によって糸が旋回し、これによって糸がバルーンを形成する現象をいう。
【0017】
糸のバルーニングは、ドラフト装置10よりも下流側で、かつ、導糸管14の糸排出口14bよりも上流側で発生する。具体的には、糸のバルーニングは、ドラフト装置10と吸篠管12との間や、吸篠管12の内部、さらには吸篠管12と導糸管14との間や、導糸管14の内部で発生する。特に、ドラフト装置10と吸篠管12との間では、糸が吸篠管12の中心軸まわりを旋回するようにバルーニングする。吸篠管12の上流側で糸がバルーニングしている状態は、糸の挙動として正常な状態である。
【0018】
検知センサ11は、たとえば、発光器11aと受光器11bを組み合わせた光センサを用いて構成されている。本実施形態においては、発光器11aが発光ダイオード、受光器11bがフォトダイオードによって構成され、検知センサ11は、発光器11aから発光された光を受光器11bが受光したときの受光量が多いほど、高い電圧または電流の信号、すなわちHiレベルの信号を出力する。
【0019】
(吸篠管)
吸篠管12は、ドラフト装置10から供給される糸18を吸い込むとともに、吸い込んだ糸を導糸管14へと送り出すものである。吸篠管12は、ドラフト装置10で引き伸ばされた糸18を、空気の旋回流を利用して吸篠管12内に吸い込む。
【0020】
(切断機構)
切断機構13は、ドラフト装置10から吸篠管12と導糸管14を順に経由してポット15の内壁27に至る糸経路の途中で糸18を切断するものである。本実施形態では、一例として、糸の送り方向において、吸篠管12と導糸管14の間に切断機構13が配置されている。
【0021】
切断機構13は、たとえば、電動式のカッターによって構成されるもので、その場合の具体的な構成例を
図2に示す。
図示のように、切断機構13は、切断刃131と、アクチュエータ部132と、刃受け部133と、を備えている。切断刃131は、鋭利な刃先131aを有する。アクチュエータ部132は、切断刃131をA方向に素早く移動させる。アクチュエータ部132は、たとえば、ソレノイド等を用いて構成される。刃受け部133は、アクチュエータ部132の作動によって切断刃131が移動したときに刃先131aを受ける部分となる。切断刃131の刃先131aは、糸経路Jを間に挟んで刃受け部133と対向するように配置されている。
【0022】
上記構成からなる切断機構13において、アクチュエータ部132が作動すると、まず、切断刃131は刃受け部133に接近する方向に移動し、この移動によって刃先131aが刃受け部133に突き当たる。これにより、糸経路Jに存在する糸を切断刃131によって切断することができる。その後、切断刃131は刃受け部133から離間する方向に移動する。本実施形態では、吸篠管12から導糸管14に至る糸経路の途中に切断刃131が配置されているため、糸は、吸篠管12と導糸管14との間で切断される。ただし、切断機構13による糸の切断位置は、フロントローラ対23と吸篠管12との間に設定してもよい。
【0023】
(導糸管)
図1に戻って、導糸管14は、ドラフト装置10から吸篠管12を経由して搬送された糸18をポット15内に導くものである。導糸管14は、細長い管状に形成されている。導糸管14を長さ方向と直交する方向に断面したときの形状は円形になっている。導糸管14は、ドラフト装置10よりも下流側に、吸篠管12およびポット15と同軸に配置されている。導糸管14は、ポット15の上部を貫通してポット15内に挿入されている。導糸管14の上端部は糸導入口14aとして開口し、同下端部は糸排出口14bとして開口している。導糸管14の糸導入口14aから導入された糸18は、導糸管14の糸排出口14bから排出される。
【0024】
(ポット)
ポット15は、ケーク24の形成と糸の巻き返しに用いられるものである。ポット15は、円筒形に形成されている。ポット15は、ポット15の中心軸まわりに回転可能に設けられている。ポット15の中心軸Kは、鉛直方向と平行に配置されている。このため、ポット15の中心軸方向の一方は上方、他方は下方となっている。ポット15の上端側には導糸管挿入口25が形成されている。導糸管挿入口25は、ポット15に導糸管14を挿入するための開口である。ポット15の下端部には開口部26が形成されている。開口部26は、ポット内径と同じ直径で下向きに開口している。
【0025】
(ボビン支持部)
ボビン支持部16は、ボビン30を支持するものである。ボビン支持部16は、ボビン台座31と、ボビン装着部32と、を有する。ボビン台座31は板状に形成されている。ボビン装着部32はボビン台座31に固定されている。ボビン装着部32は、柱状に形成されるとともに、ボビン台座31の上面から上方に突出するように配置されている。
【0026】
ボビン装着部32は、ボビン30が着脱自在に装着される部分となる。ボビン装着部32は、ポット15の中心軸方向で導糸管14と対向するように、導糸管14およびポット15と同軸に配置されている。また、ボビン装着部32は、導糸管14よりも下方に配置されている。このため、ボビン装着部32にボビン30を装着すると、ボビン30はポット15の中心軸K上で導糸管14と対向するように配置される。
【0027】
ボビン30は、ボビン外周径がボビン中心軸方向の一端側から他端側に向かって連続的に変化するテーパー構造になっている。ボビン30は、リング精紡などでも用いられる汎用のボビンに相当する。ボビン30は、少なくとも一端側が中空の構造になっている。ボビン30は、一端側の中空の部分をボビン装着部32に嵌合させることにより、ボビン台座31から垂直に起立して支持されるようになっている。ボビン30の外周径は、ポット15の内壁27に形成されるケーク24の最小径よりも小さく設定されている。これにより、ポット15の開口部26を通してポット15内にボビン30を挿入して配置するときに、ボビン30とケーク24の接触を避けることができる。
【0028】
また、ボビン台座31には、糸ほぐし部材33が取り付けられている。糸ほぐし部材33は、ケーク24の巻き終わり側の端部24bに接触することにより、巻き返しの起点となる糸をケーク24からほぐすものである。ケーク24は、後述する導糸管14およびポット15の動作によってポット15の内壁27に形成される糸の積層体である。
【0029】
図3は、本発明の実施形態に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、ポット精紡機1は、制御部50と、ドラフト駆動部51と、カッター駆動部52と、導糸管駆動部53と、ポット駆動部54と、ボビン駆動部55と、を備えている。
【0030】
(制御部)
制御部50は、ポット精紡機1全体の動作を統括的に制御するものである。制御部50には、動作制御の対象として、ドラフト駆動部51、カッター駆動部52、導糸管駆動部53、ポット駆動部54およびボビン駆動部55が電気的に接続されている。また、制御部50には、検知センサ11が電気的に接続されている。
【0031】
(ドラフト駆動部)
ドラフト駆動部51は、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23をそれぞれ所定の回転数で回転させるものである。ドラフト駆動部51は、制御部50からドラフト駆動部51に与えられるドラフト駆動信号に基づいて駆動することにより、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23を回転させる。
【0032】
(カッター駆動部)
カッター駆動部52は、アクチュエータ部132を作動させて切断刃131をA方向に移動させるものである。カッター駆動部52は、制御部50からカッター駆動部52に与えられるカッター駆動信号に基づいて駆動することにより、切断刃131を移動させる。
【0033】
(導糸管駆動部)
導糸管駆動部53は、導糸管14を上下方向に移動させるものである。導糸管駆動部53は、制御部50から導糸管駆動部53に与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管14を上下方向に移動させる。
【0034】
(ポット駆動部)
ポット駆動部54は、ポット15を回転させるものである。ポット駆動部54は、制御部50から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット15の中心軸Kを回転中心としてポット15を回転させる。
【0035】
(ボビン駆動部)
ボビン駆動部55は、ボビン30を上下方向に移動させるものである。ボビン駆動部55は、制御部50から与えられるボビン駆動信号に基づいて駆動することにより、ボビン台座31を上下方向に移動させる。ボビン装着部32にボビン30を装着してボビン台座31を上下方向に移動させると、ボビン台座31と一体にボビン30および糸ほぐし部材33が上下方向に移動する。
【0036】
<ポット精紡方法>
図4は、ポット精紡方法の基本的な流れを示す図である。
図4示すように、ポット精紡方法は、引き伸ばしステップS1と、ケーク形成ステップS2と、巻き返しステップS3と、を有する。
【0037】
引き伸ばしステップS1は、粗糸などの糸材料を引き伸ばすステップである。ケーク形成ステップS2は、引き伸ばしステップS1で引き伸ばされた糸をポット15の内壁27に巻き付けてケーク24を形成するステップである。巻き返しステップS3は、ケーク24を形成する糸をボビン30に巻き返すステップである。以下、各ステップに基づくポット精紡機1の動作について説明する。
【0038】
(引き伸ばしステップ)
引き伸ばしステップS1は、ドラフト装置10を用いて行われる。ドラフト駆動部51は、制御部50から与えられるドラフト駆動信号に基づいて駆動することにより、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23をそれぞれ所定の回転速度で回転させる。これにより、粗糸などの糸材料は、各々のローラ対21,22,23の回転に従って搬送される。
【0039】
その際、制御部50は、バックローラ対21の回転速度をミドルローラ対22の回転速度よりも低速に設定するとともに、ミドルローラ対22の回転速度をフロントローラ対23の回転速度よりも低速に設定する。これにより、バックローラ対21とミドルローラ対22との間では、それらのローラ対の回転速度差によって糸が引き伸ばされる。同様に、ミドルローラ対22とフロントローラ対23との間でも、それらのローラ対の回転速度差によって糸が引き伸ばされる。
【0040】
その結果、粗糸などの糸材料は、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23を順に通過しながら所定の細さに引き伸ばされる。こうして引き伸ばされた糸18は、その後、空気の旋回流などを利用して吸篠管12に吸い込まれた後、糸導入口14aから導糸管14に導入される。
【0041】
また、ポット駆動部54は、引き伸ばしステップS1の開始に先立って、制御部50から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット15を所定の回転数で回転させる。
【0042】
(ケーク形成ステップ)
ケーク形成ステップS2は、導糸管14とポット15を用いて行われる。導糸管駆動部53は、制御部50から与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管14を吸篠管12から離間する方向、すなわち下方に所定量だけ移動させる。また、ポット駆動部54は、制御部50から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット15の回転を継続する。
【0043】
なお、吸篠管12から導糸管14に導入された糸18は、導糸管14の糸排出口14bから排出される。また、フロントローラ対23によって送り出された糸18は、吸篠管12の上流側でポット15の回転に従ってバルーニングする。その様子を
図5に示す。
図5は、吸篠管12を上方から見た様子を示している。図示のように、吸篠管12の上流側では、糸18が吸篠管12の中心軸まわりを旋回するようにバルーニングする。このとき、糸18は、発光器11aと受光器11bからなる検知センサ11のセンサ光軸Hを周期的に横切る。このため、検知センサ11の出力信号は、
図6に示すように、糸18のバルーニングを反映したパルス信号となる。具体的には、糸18がセンサ光軸Hを外れたときにHiレベル、糸18がセンサ光軸Hを遮ったときにLowレベルとなるパルス信号が、検知センサ11から出力されるものとなっている。
【0044】
なお、検知センサ11の発光器11aが発光する光の強度は、その光路径の中心となるセンサ光軸H上が最も強い。このため、糸18の直径が検知センサ11の光路径よりも小さい場合、糸18がバルーニングしているときに受光器11bが出力する信号は波形になる。ただし、本実施形態においては、発明内容の理解を容易にするために、糸18がバルーニングしているときに検知センサ11が出力する信号を矩形のパルス信号とする。このパルス信号は、たとえば、受光器11bが出力する波形の信号を、予め設定された閾値と比較して矩形の信号に変換することにより得られる。
【0045】
ケーク形成ステップS2において、導糸管14の糸排出口14bから排出される糸18には、ポット15の回転による遠心力が働き、この遠心力によって糸18がポット15の内壁27に押し付けられる。また、導糸管14の糸排出口14bから排出される糸18は、ポット15の回転によって撚りを加えられた状態でポット15の内壁27に巻き付けられる。
【0046】
また、ケーク形成ステップS2において、導糸管駆動部53は、上記導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管14を所定の周期で繰り返し上下方向に往復移動させながら、導糸管14の位置を相対的に下方に変位させる。これにより、ポット15の内壁27に糸18が巻き付けられるとともに、その巻き付け位置をずらしながら糸18が積層され、ケーク24が形成される。ケーク24の形成は、糸切りが行われた段階で終了となる。糸切りは、制御部50の制御下で行われる。具体的には、制御部50は、フロントローラ対23の回転を継続したまま、バックローラ対21およびミドルローラ対22の回転を共に停止するように、ドラフト駆動部51の駆動を制御する。そうすると、ミドルローラ対22の下流側で糸18が強制的に切られる。
【0047】
ここで、「糸切り」と「糸切れ」の違いについて説明する。糸切りは、ポット15の内壁27に予め決められた所定量の糸18が巻かれた段階、すなわちケーク24の形成を終了するときに制御部50によって意図的に行われるものである。糸切れは、ポット15の内壁27に所定量の糸18が巻かれる前、すなわちケーク24を形成している途中で何らかの理由により糸18が切れてしまう現象である。
【0048】
(巻き返しステップ)
巻き返しステップS3は、ポット15とボビン30と糸ほぐし部材33を用いて行われる。巻き返しステップS3では、
図7に示すように、導糸管駆動部53の駆動により、導糸管14を上方に移動するとともに、ポット駆動部54の駆動により、ポット15の回転を継続する。また、巻き返しステップS3では、ボビン駆動部55の駆動により、開口部26を通してポット15内にボビン30と糸ほぐし部材33を配置する。このとき、制御部50は、導糸管14にボビン30が接触しないよう、導糸管駆動部53とボビン駆動部55の駆動タイミングを調整する。
【0049】
また、ボビン駆動部55は、ボビン台座31を上方に移動させる。これにより、ボビン装着部32に装着されているボビン30と、ボビン台座31に取り付けられている糸ほぐし部材33が、共に上方に移動する。その際、糸ほぐし部材33の上端部は、ケーク24の巻き終わり側の端部24bに接触する。そうすると、糸ほぐし部材33が接触した箇所では、ケーク24を形成している糸がほぐれるとともに、ほぐれた糸がポット15の内壁27から離れてボビン30に巻き付く。これにより、ほぐれた糸を巻き返し起点として、ポット15からボビン30への糸の巻き返しが開始される。
【0050】
その後、ケーク24を形成しているすべての糸がボビン30に巻き返されると、制御部50は、ボビン駆動部55の駆動により、ボビン台座31を下方に移動させる。これにより、ボビン30と糸ほぐし部材33が共に下方に移動し、巻き返しステップS3が終了となる。その後は、巻き返し済みのボビン30がボビン装着部32から取り外され、空のボビン30がボビン装着部32に装着された後、上記同様の動作が行われる。
【0051】
<導糸管への糸の巻き付きについて>
次に、ケークの形成中に起こりうる導糸管への糸の巻き付きについて説明する。
まず、ケーク24の形成中に何らかの理由によって導糸管14の外周面に糸18が接触すると、それをきっかけに導糸管14に糸18が巻き付き始めることがある。そうすると、
図8に示すように、それまでケーク24を形成していた糸18が、ポット15の回転によって導糸管14に巻き付く。このため、巻き返しステップS3で導糸管14を上方に退避させるときに、
図9に示すように、導糸管14に巻き付いた糸18がポット15に接触し、これによって導糸管14が曲がってしまうなどの部品の破損を招くおそれがある。
【0052】
導糸管14への糸18の巻き付きは、ローラ巻き上げ現象や糸詰まり現象が発生した場合に起こりやすい。ローラ巻き上げ現象は、フロントローラ対23によって糸18が巻き上げられる現象である。糸詰まり現象は、吸篠管12に糸18が詰まる現象である。以下、各々の現象について説明する。
【0053】
(ローラ巻き上げ現象)
ドラフト装置10のフロントローラ対23は吸篠管12に向けて糸18を送り出すように回転している。その際、フロントローラ対23のローラ表面に突起があると、この突起に糸18が引っ掛かり、そのローラによって
図10に示すように糸18が巻き上げられることがある。これにより、導糸管14内の糸18は通常の方向とは逆方向に引き戻される。そうすると、導糸管14内の糸18が、それまでケーク24を形成していた別層の糸18aを巻き込みながら上方に移動する。その結果、別層の糸18aが導糸管14の外周面に接触し、これをきっかけに導糸管14に糸18が巻き付くことがある。
【0054】
なお、フロントローラ対23のローラ表面に形成される突起は、たとえば、粘着性物質の付着によるものである。ドラフト装置10に供給される糸材料には粘着性物質が混ぜられており、フロントローラ対23の間を糸18が通過するときに、この粘着性物質がローラ表面に付着して突起を形成することがある。
【0055】
(糸詰まり現象)
ドラフト装置10から供給される糸18は所定の細さに引き伸ばされる。ただし、
図11に示すように、糸18の一部に他の部分よりも太い部分18bが存在すると、その太い部分18bが吸篠管12に引っ掛かって糸詰まりを起こすことがある。糸詰まりが発生すると、吸篠管12から導糸管14に糸18が送られなくなる。このため、吸篠管12よりも下流側に停滞する糸18には、ポット15の回転によって過剰な撚りが加えられる。これにより、吸篠管12よりも下流側では過剰な撚りによって糸18が縮むため、糸排出口14bを通して導糸管14内に糸18が引き込まれる。そうすると、導糸管14内の糸18は、それまでケーク24を形成していた別層の糸18を巻き込みながら縮む。その結果、別層の糸18が導糸管14の外周面に接触し、これをきっかけに導糸管14に糸18が巻き付くことがある。
【0056】
<導糸管への糸の巻き付きを抑制するための動作>
本発明の実施形態に係るポット精紡機1は、以下のような動作により、導糸管14への糸18の巻き付きを抑制する。
【0057】
まず、制御部50は、少なくともケーク24の形成を開始してから終了するまでの間、吸篠管12に吸い込まれる糸18の挙動が正常であるか異常であるかを、検知センサ11の出力信号に基づいて判断する。このとき、吸篠管12に吸い込まれる糸18がバルーニングしていると、検知センサ11の出力信号は、HiレベルとLowレベルを交互に繰り返す所定周期のパルス信号となる。このため、検知センサ11が所定周期のパルス信号を出力している間は、検知センサ11が糸のバルーニングを検知していることになる。
【0058】
これに対し、前述したようにフロントローラ対23によって糸18が巻き上げられると、フロントローラ対23と吸篠管12との間で糸18が斜めに傾く(
図10参照)。また、糸18が斜めに傾くと、吸篠管12の縁に糸18が接触するため、吸篠管12の上流側で糸18がバルーニングしなくなる。具体的には、
図12に示すように、糸18は、検知センサ11のセンサ光軸Hから大きく外れた、バルーニングの軌道Cよりも外側の位置に寄せられる。このため、発光器11aから発光された光のほとんどが糸18で遮られることなく受光器11bに到達し、受光器11bの受光量が多くなる。したがって、検知センサ11の出力信号は、
図13に示すように、Hi側でレベルが一定の信号となる。
【0059】
また、吸篠管12で糸詰まりが発生した場合は、
図14に示すように、検知センサ11のセンサ光軸Hが糸の太い部分18bで遮られるとともに、吸篠管12の上流側で糸18がバルーニングしなくなる。このため、発光器11aから発光された光の多くが糸の太い部分18bで遮られ、受光器11bの受光量が少なくなる。したがって、検知センサ11の出力信号は、
図15に示すように、Low側でレベルが一定の信号となる。
【0060】
制御部50は、検知センサ11が所定周期のパルス信号(
図6)を出力している場合は、吸篠管12の上流側で糸がバルーニングしている、すなわち糸の挙動は正常であると判断する。また、制御部50は、検知センサ11が一定レベルの信号(
図13または
図15)を出力している場合は、吸篠管12の上流側で糸がバルーニングしていない、すなわち糸の挙動が異常であると判断する。糸の挙動が正常であるか異常であるかを判別する具体的な手法としては、たとえば以下のような手法が考えられる。
【0061】
まず、ケーク24の形成中はポット15が高速で回転する。また、吸篠管12の上流側ではポット15の回転に従って糸18が高速で旋回し、これによって糸18がバルーンを形成する。このため、糸18がバルーニングしている場合は、検知センサ11が非常に短い周期のパルス信号を出力する。このため、制御部50においては、たとえば、検知センサ11が出力するパルス信号のパルス数を所定の時間ごとにカウントし、該カウントしたパルス数が予め設定された閾値以上であれば糸の挙動が正常であると判断し、閾値未満であれば異常であると判断する。
【0062】
制御部50は、糸の挙動が異常であると判断すると、直ちに切断機構13を駆動すべく、カッター駆動部52にカッター駆動信号を出力する。これにより、アクチュエータ部132の作動によって切断刃131がA方向に素早く移動し、糸経路Jに存在する糸18を切断刃131の刃先131aで切断する。このように切断機構13で糸18を切断すると、切断時に導糸管14内に存在していた糸18は、導糸管14の糸排出口14bから排出され、ポット15の内壁27に巻き付けられる。このため、特殊な構造のボビンや係止手段を用いることなく、導糸管14への糸18の巻き付きを抑制し、部品の破損を避けることができる。また、導糸管14への糸18の巻き付きが起こると、その後の復旧処理で導糸管14から糸18を取り除く必要があるが、本実施形態によれば、そうした復旧処理が不要となるためポット精紡の生産性を向上させることができる。
【0063】
なお、ローラ巻き上げ現象に起因した導糸管14への糸18の巻き付きを抑制する場合は、切断機構13による糸の切断位置は、ドラフト装置10からポット15の内壁27に至る糸経路の途中であれば、いずれの位置に設定してもよい。これに対し、糸詰まり現象に起因した導糸管14への糸18の巻き付きを抑制する場合は、吸篠管12に詰まった糸18の太い部分18bよりも下方で糸18を切断する必要がある。このため、切断機構13による糸の切断位置は、ドラフト装置10からポット15の内壁27に至る糸経路の途中で、吸篠管12よりも下流側の位置に設定する必要がある。
【0064】
また、ケーク24の形成中に切断機構13を駆動して糸18を切断した場合は、バックローラ対21およびミドルローラ対22の回転停止によって糸切りを行う場合に比べて、巻き終わり側の糸端の位置が上方にずれる。その場合は、巻き返しステップS3でボビン駆動部55を駆動する前に、巻き終わり側の糸端の位置に合わせて糸ほぐし部材33の高さを変更し、その後で、ボビン駆動部55の駆動によりボビン台座31を上昇させる。これにより、ケーク24の形成中に切断機構13を駆動した場合でも、それまでに形成したケーク24の糸端に糸ほぐし部材33を接触させ、ポット15からボビン30に糸を巻き返すことができる。
【0065】
<他の実施形態>
図16は、本発明の他の実施形態に係るポット精紡機の構成例を示す概略図である。
図示したポット精紡機1は、前述した実施形態と比較して、切断機構13の構成が異なり、他の構成は同じである。切断機構13は、カッター135と、導糸管落下機構136と、を備えている。
【0066】
カッター135は、糸排出口14bの近傍で導糸管14に取り付けられている。カッター135は、円盤状に形成されている。カッター135の外周部には全周にわたって刃135aが形成されている。カッター135の刃135aは、導糸管14の中心軸方向から見て円形に形成されている。また、カッター135の刃135aは、糸18を切断できるように鋭利に形成されている。カッター135は、たとえば、超硬合金などの金属材料によって構成することができる。
【0067】
導糸管落下機構136は、導糸管14を落下させるためのもので、導糸管14を把持する開閉式のチャック部136aを有する。チャック部136aは、閉じ状態で導糸管14を把持し、開き状態で導糸管14を解放する。チャック部136aの開閉状態は、前述した制御部50によって制御される。導糸管落下機構136は、導糸管駆動部53の駆動によって導糸管14と一体に上下方向に移動する。また、導糸管落下機構136のチャック部136aは、前述したカッター駆動部52の駆動により開閉動作する。そして、カッター駆動部52の駆動によりチャック部136aが開くと、その瞬間に導糸管14は自重で落下する。その際、導糸管14がポット15の導糸管挿入口25から抜け落ちないよう、導糸管14の上端部には、導糸管挿入口25との引っ掛かりとなるフランジ部(不図示)が形成されている。
【0068】
本実施形態に係るポット精紡機1において、制御部50は、検知センサ11の出力信号を基に糸18の挙動に異常が発生したと判断すると、カッター駆動部52にカッター駆動信号を出力する。これにより、カッター駆動部52の駆動によって導糸管落下機構136のチャック部136aが開くため、導糸管14が落下する。このとき、カッター135は導糸管14と一体に落下する。そうすると、
図17に示すように、カッター135に糸18が接触する。このとき、糸18はポット15の回転によってカッター135の刃135aに擦られる。このため、導糸管14の糸排出口14bの近傍において、糸18をカッター135で切断することができる。したがって、前述した実施形態と同様に、特殊な構造のボビンや係止手段を用いることなく、導糸管14への糸18の巻き付きを抑制することができる。
【0069】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0070】
たとえば、上記実施形態においては、発光器11aと受光器11bからなる検知センサ11を用いて糸の挙動を検知するものとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、吸篠管12の上流側での糸の挙動として、たとえば、フロントローラ対23によって糸が巻き上げられているかどうか、あるいは、吸篠管12で糸詰まりが発生しているかどうかを、図示しない画像センサを用いて検知する構成を採用してもよい。具体的には、フロントローラ対23のローラ表面の画像を画像センサで撮影し、撮影した画像データに基づいて糸の挙動を検知してもよい。また、吸篠管12に吸い込まれる糸の画像を画像センサで撮影し、撮影した画像データに基づいて糸の挙動を検知してもよい。その場合、制御部50は、画像センサで撮影した画像データを取り込んで画像処理し、その画像処理の結果に基づいて、フロントローラ対23が糸18を巻き上げている、あるいは、吸篠管12に糸18が詰まっていると認識したときに、糸の挙動が異常であると判断すればよい。
【符号の説明】
【0071】
1 ポット精紡機、10 ドラフト装置、11 検知センサ、12 吸篠管、13 切断機構、14 導糸管、15 ポット、18 糸、24 ケーク、27 内壁、50 制御部。