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特許7010141エンジンの燃焼制御方法及び燃焼制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】エンジンの燃焼制御方法及び燃焼制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/01 20060101AFI20220119BHJP
   F02P 3/00 20060101ALI20220119BHJP
   F02B 23/02 20060101ALI20220119BHJP
   F02P 15/10 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
F02P3/01 A
F02P3/00 A
F02B23/02 N
F02P15/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018097340
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019203401
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】沖濱 圭佑
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-064387(JP,A)
【文献】特開2016-130512(JP,A)
【文献】特開2013-238129(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115707(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102004039259(DE,A1)
【文献】国際公開第2018/056278(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0232602(US,A1)
【文献】特開2009-121406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 3/01
F02D 41/00 ー 45/00
H05H 1/24
F02B 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室が形成された気筒と、該気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトと、上記燃焼室内に臨むように配置され、電極間に電圧を印加することによる放電により上記燃焼室内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、上記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給手段とを備え、上記燃料供給手段により供給された燃料によって形成される混合気を上記燃焼室内で圧縮着火燃焼させるエンジンの燃焼制御方法であって、
圧縮行程後期において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第1パルス電圧を周期的に印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成工程と、
上記熱平衡プラズマ生成工程の終了直後に、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、上記第1パルス電圧と同じ電圧である第2パルス電圧を周期的に印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する第1非平衡プラズマ生成工程とを含むことを特徴とするエンジンの燃焼制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの燃焼制御方法において、
上記第1パルス電圧は、パルス幅が第1所定値以上パルス電圧であり、
上記第2パルス電圧は、パルス幅が上記第1所定値よりも小さい第2所定値以上でかつ上記第1所定値未満のパルス電圧であることを特徴とするエンジンの燃焼制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジンの燃焼制御方法において、
圧縮行程における上記熱平衡プラズマ生成工程よりも前の期間において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、上記第2パルス電圧を繰り返し印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する第2非平衡プラズマ生成工程をさらに含むことを特徴とするエンジンの燃焼制御方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のエンジンの燃焼制御方法において、
上記第1非平衡プラズマ生成工程は、上記熱平衡プラズマ生成工程の終了後、クランク角度で5°以内に実行する工程であることを特徴とするエンジンの燃焼制御方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載のエンジンの燃焼制御方法において、
上記エンジンは、幾何学的圧縮比が15以上のエンジンであることを特徴とするエンジンの燃焼制御方法。
【請求項6】
燃焼室が形成された気筒と、該気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトと、上記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給手段とを備え、上記燃料供給手段により供給された燃料によって形成される混合気を上記燃焼室内で圧縮着火燃焼させるエンジンの燃焼制御装置であって、
上記燃焼室内に臨むように配置され、電極間に電圧を印加することによる放電により上記燃焼室内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、
上記プラズマ生成手段の作動を制御する制御手段とを更に備え、
上記制御手段は、圧縮行程後期において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第1パルス電圧を周期的に印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成制御を実行するとともに、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了直後に、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、上記第1パルス電圧と同じ電圧である第2パルス電圧を周期的に印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する第1非平衡プラズマ生成制御とを実行するように構成されていることを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
上記第1パルス電圧は、パルス幅が第1所定値以上パルス電圧であり、
上記第2パルス電圧は、パルス幅が上記第1所定値よりも小さい第2所定値以上でかつ上記第1所定値未満のパルス電圧であることを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
上記制御手段は、上記第1非平衡プラズマ生成制御に加えて、圧縮行程における上記熱平衡プラズマ生成制御を実行するよりも前の期間において、上記第2パルス電圧を繰り返し印加して、非平衡プラズマを生成する第2非平衡プラズマ生成制御を実行するように構成されていることを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1つに記載のエンジンの燃焼制御装置において、
上記制御手段は、上記第1非平衡プラズマ生成制御を、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了後、クランク角度で5°以内に実行するように構成されていることを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか1つに記載のエンジンの燃焼制御装置において、
上記エンジンは、幾何学的圧縮比が15以上のエンジンであることを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。
【請求項11】
請求項3に記載のエンジンの燃焼制御方法において、
上記第2非平衡プラズマ生成工程の期間は、上記熱平衡プラズマ生成工程の期間及び上記第1非平衡プラズマ生成工程の期間よりも長いことを特徴とするエンジンの燃焼制御方法。
【請求項12】
請求項8に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
上記第2非平衡プラズマ生成制御の期間は、上記熱平衡プラズマ生成制御の期間及び上記第1非平衡プラズマ生成制御の期間よりも長いことを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、エンジンの燃焼制御方法及び燃焼制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電極間に電圧を印加することにより燃焼室内にプラズマを生成するプラズマ生成手段を備えたエンジンが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、中心電極と接地電極との電極間に放電が生じる点火プラグ(プラズマ生成手段)と、中心電極を流れる電流を計測する第1電流計と、接地電極を流れる電流を計測する第2電流とを備え、電極間に低温プラズマ状態(非平衡プラズマ状態)を形成する短パルスの電界を発生される場合に、第1電流計で計測された電流値と第2電流計で計測された電流値との際から、電極間に流れる気体の流速を計測するエンジン(内燃機関)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-141919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らが鋭意研究したところ、プラズマ生成手段の電極間に、燃焼室内に非平衡プラズマが生じるように電圧を印加すると、電極近傍に混合気の燃焼を促進する物質(例えば、オゾン(O3)やOH)が生成されたり、電極近傍で燃料の分解(低級化)が促進されたりして、エンジンの燃焼安定性が向上することが分かった。特に、混合気の着火性が要求されるときには、圧縮行程後期において非平衡プラズマを発生させれば、混合気が着火しやすくなり、エンジンの着火性が向上する。
【0006】
しかしながら、圧縮行程後期では燃焼室内の圧力が高くなっており、プラズマ生成手段の電極間には、大量のイオンや分子が存在する。電極間に大量のイオンや分子が存在すると、電極間を電子が移動しにくくなって、電極間で放電がされず、非平衡プラズマが生成されにくくなる。このため、圧縮行程後期において、非平衡プラズマを発生させて、エンジンの燃焼安定性を向上させるという観点からは改良の余地がある。
【0007】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧縮行程後期でも非平衡プラズマを効率的に発生させて、エンジンの燃焼安定性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、ここに開示された技術では、燃焼室が形成された気筒と、該気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトと、上記燃焼室内に臨むように配置され、電極間に電圧を印加することによる放電により上記燃焼室内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、上記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給手段とを備え、上記燃料供給手段により供給された燃料によって形成される混合気を上記燃焼室内で圧縮着火燃焼させるエンジンの燃焼制御方法を対象として、圧縮行程後期において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第1パルス電圧を周期的に印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成工程と、上記熱平衡プラズマ生成工程の終了直後に、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、上記第1パルス電圧と同じ電圧である第2パルス電圧を周期的に印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する第1非平衡プラズマ生成工程とを含む、ものとした。
【0009】
この構成によると、圧縮行程後期において、熱平衡プラズマを生成することで、プラズマ生成手段の電極等から熱電子が放出されたり、電極間のイオンや分子から自由電子が乖離したりする。これにより、電極間に存在する自由電子の数が増加するため、電極間に大量のイオンや分子が存在したとしても、電極間で放電をすることができる。このため、熱平衡プラズマ生成工程を実行した後に、第1非平衡プラズマ生成工程を実行することで、圧縮行程後期でも非平衡プラズマを効率的に発生させることができる。これにより、圧縮行程後期に、非平衡プラズマを生成して、電極近傍で燃料の分解(低級化)を促進させたり、燃焼室内に混合気の燃焼を促進する物質(以下、活性種という)を生成したりして、エンジンの燃焼安定性を向上させることができる。
【0010】
上記エンジンの燃焼制御方法の一実施形態では、上記第1パルス電圧は、パルス幅が第1所定値以上パルス電圧であり、上記第2パルス電圧は、パルス幅が上記第1所定値よりも小さい第2所定値以上でかつ上記第1所定値未満のパルス電圧である。
【0011】
すなわち、一般に、非平衡プラズマと熱平衡プラズマとは、プラズマ生成手段の電極間に印加するパルス電圧のパルス幅を制御することにより、それぞれ切り分けて生成することができる。よって、上記の構成により、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマを、目的に合わせて効率的に生成することができる。この結果、エンジンの燃焼安定性をより向上させることができる。
【0012】
上記エンジンの燃焼制御方法において、圧縮行程における上記熱平衡プラズマ生成工程よりも前の期間において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、上記第2パルス電圧を繰り返し印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する第2非平衡プラズマ生成工程をさらに含んでもよい。
【0013】
すなわち、例えば、圧縮行程前期であれば、筒内圧はあまり高くなく、熱平衡プラズマを生成した後でなくとも非平衡プラズマを生成することが可能である。よって、熱平衡プラズマを生成する前でかつ非平衡プラズマを生成可能な時期にも、非平衡プラズマを生成することで、燃焼室内に活性種を生成することができる。これにより、燃焼室内で混合気がより燃焼しやすくなり、エンジンの燃焼安定性を一層向上させることができる。
【0014】
上記エンジンの燃焼制御方法において、上記第1非平衡プラズマ生成工程は、上記熱平衡プラズマ生成工程の終了後、クランク角度で5°以内に実行する工程であってもよい。
【0015】
すなわち、圧縮行程では、燃焼室内では混合気が流動しているため、熱平衡プラズマ生成工程で放出された電子は、上記混合気の流れによって、プラズマ生成手段の電極間から移動してしまう。そこで、熱平衡プラズマ生成工程後、クランク角度で5°以内に第1非平衡プラズマ生成工程を実行して、電子が電極間からあまり移動していないうちに非平衡プラズマを生成する。これにより、圧縮行程後期において、非平衡プラズマを効率良く生成することができ、燃焼室内での混合気の燃焼を促進させることができる。この結果、エンジンの燃焼安定性をより一層向上させることができる。
【0016】
上記エンジンの燃焼制御方法において、上記エンジンは、幾何学的圧縮比が15以上のエンジンであってもよい。
【0017】
すなわち、エンジンの幾何学的圧縮比が15以上である場合には、ピストンの圧縮行程後期において、筒内圧が高くなりやすい。このため、圧縮行程後期において、燃焼室内に
おいて非平衡プラズマを生成しにくい。したがって、エンジンの幾何学的圧縮比が15以上であれば、第1非平衡プラズマ生成工程を実行する前に、熱平衡プラズマ生成工程を実行することにより、圧縮行程後期において、非平衡プラズマを生成しやすくして、エンジンの燃焼安定性を向上させるという効果をより適切に発揮することができる。
【0018】
本開示に係る技術の別の態様は、上記エンジンの燃焼制御装置に係る技術である。具体的には、燃焼室が形成された気筒と、該気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトと、上記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給手段とを備え、上記燃料供給手段により供給された燃料によって形成される混合気を上記燃焼室内で圧縮着火燃焼させるエンジンの燃焼制御装置を対象として、上記燃焼室内に臨むように配置され、電極間に電圧を印加することによる放電により上記燃焼室内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、上記プラズマ生成手段の作動を制御する制御手段とを更に備え、上記制御手段は、圧縮行程後期において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第1パルス電圧を周期的に印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成制御を実行するとともに、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了直後に、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、上記第1パルス電圧と同じ電圧である第2パルス電圧を周期的に印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する第1非平衡プラズマ生成制御とを実行するように構成されている、ものとした。
【0019】
この構成でも、圧縮行程後期において、熱平衡プラズマを生成することで、プラズマ生成手段の電極等から熱電子が放出されたり、電極間のイオンや分子から自由電子が乖離したりする。これにより、圧縮行程後期でも非平衡プラズマを効率的に発生させることができる。この結果、エンジンの燃焼安定性を向上させることができる。
【0020】
上記エンジンの燃焼制御装置の一実施形態では、上記第1パルス電圧は、パルス幅が第1所定値以上パルス電圧であり、上記第2パルス電圧は、パルス幅が上記第1所定値よりも小さい第2所定値以上でかつ上記第1所定値未満のパルス電圧である。
【0021】
この構成によると、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマを、目的に合わせて効率的に生成することができる。この結果、エンジンの燃焼安定性をより向上させることができる。
【0022】
上記エンジンの燃焼制御装置において、上記制御手段は、上記第1非平衡プラズマ生成制御に加えて、圧縮行程における上記熱平衡プラズマ生成制御を実行するよりも前の期間において、上記第2パルス電圧を繰り返し印加して、非平衡プラズマを生成する第2非平衡プラズマ生成制御を実行するように構成されていてもよい。
【0023】
この構成によると、熱平衡プラズマを生成する前でかつ非平衡プラズマを生成可能な時期にも、非平衡プラズマを生成することで、燃焼室内に、混合気の燃焼を促進する活性種を生成することができる。これにより、燃焼室内で混合気がより燃焼しやすくなり、エンジンの燃焼安定性を一層向上させることができる。
【0024】
上記エンジンの燃焼制御装置において、上記制御手段は、上記第1非平衡プラズマ生成制御を、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了後、クランク角度で5°以内に実行するように構成されていてもよい。
【0025】
この構成によると、電子がプラズマ生成手段の電極間からあまり移動していないうちに非平衡プラズマを生成することができる。これにより、圧縮行程後期において、非平衡プラズマを適切に生成することができ、燃焼室内での混合気の燃焼を促進させることができる。この結果、エンジンの燃焼安定性をより一層向上させることができる。
【0026】
上記エンジンの燃焼制御装置において、上記エンジンは、幾何学的圧縮比が15以上のエンジンであってもよい。
【0027】
この構成によると、非平衡プラズマ生成工程を実行する前に、熱平衡プラズマ生成工程を実行することにより、圧縮行程後期において、非平衡プラズマを生成しやすくして、エンジンの燃焼安定性を向上させるという効果をより適切に発揮することができる。
【0028】
第2非平衡プラズマ生成工程を含む上記エンジンの燃焼制御方法において、上記第2非平衡プラズマ生成工程の期間は、上記熱平衡プラズマ生成工程の期間及び上記第1非平衡プラズマ生成工程の期間よりも長い、という構成でもよい。
【0029】
第2非平衡プラズマ生成制御を実行する上記エンジンの燃焼制御装置において、上記第2非平衡プラズマ生成制御の期間は、上記熱平衡プラズマ生成制御の期間及び上記第1非平衡プラズマ生成制御の期間よりも長い、という構成でもよい。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、熱平衡プラズマを生成した後に、非平衡プラズマを生成することで、圧縮行程後期でも非平衡プラズマを発生させやすくなる。これにより、圧縮行程後期に非平衡プラズマを生成して、エンジンの燃焼安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】例示的な実施形態に係る燃焼制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
図2】放電プラグの電極周辺を示す概略図である。
図3】エンジンの制御系統を示すブロック図である。
図4】非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマの生成条件を示すマップである。
図5】非平衡プラズマを生成する際のパルス電圧の波形の一例を示すグラフである。
図6】熱平衡プラズマを生成する際のパルス電圧の波形の一例を示すグラフである。
図7】圧縮行程後期において、放電プラグの電極間におけるイオン、分子及び電子の分布を模式的に示す図であって、熱平衡プラズマ生成前の状態を示す。
図8】圧縮行程後期において、放電プラグの電極間におけるイオン、分子及び電子の分布を模式的に示す図であって、熱平衡プラズマ生成後の状態を示す。
図9】熱平衡プラズマ生成後に、非平衡プラズマを生成したときの燃焼室内の状態を模式的に示す概念図である。
図10】非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマの生成時期の一例を示す概念図である。
図11】非平衡プラズマ生成制御及び熱平衡プラズマ生成制御を実行する際のPCMの処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
図1には、本実施形態に係る燃焼制御装置が適用されたエンジン1の構成を示す。本実施形態のエンジン1は車両の搭載されるエンジンである。このエンジン1は、エンジン本体1aと、エンジン本体1aに燃焼用の空気を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1aで生成された排気を排出するための排気通路30とを備える。
【0034】
エンジン本体1aは、直列4気筒式であって、4つの気筒2が図1の紙面と直交する方向に直列に配置されている。エンジン本体1aは上記車両の駆動源として利用される。
【0035】
エンジン本体1aは、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復動(ここでは上下動)可能に嵌装されたピストン5とを有する。
【0036】
気筒2は燃焼室6が形成された気筒である。詳しくは、気筒2内におけるピストン5の上方に燃焼室6が形成されている。燃焼室6はいわゆるペントルーフ型であり、シリンダ
ヘッド4の下面で構成される燃焼室6の天井面は吸気側および排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。この燃焼室6内では、エンジン1の燃焼サイクル、すなわち、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程の各行程がこの順で繰り返される。以下の説明では、ピストン5の位置や混合気の燃焼状態によらず気筒2の内側空間のうちピストン5の上面と燃焼室6の天井面との間に形成される空間を燃焼室6という。
【0037】
シリンダブロック3における気筒2の周囲には、エンジン冷却水が流通するウォータジャケット3aが形成されている。ウォータジャケット3aは、4つの気筒2を囲むように、シリンダブロック3内に形成されている。
【0038】
ピストン5は、シリンダブロック3内においてコンロッド8を介してクランクシャフト7と連結されている。クランクシャフト7は、ピストン5の往復動により回転駆動される。ピストン5の上面には、その中心部を含む領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹ませたキャビティが形成されている。
【0039】
エンジン本体1aの幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、本実施形態では15以上、特に、15~25(例えば17程度)に設定されている。
【0040】
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を気筒2(燃焼室6)内に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6内で、燃料と空気との混合気が燃焼することにより生成された排気を排気通路30に導出するための排気ポート10とが形成されている。これら吸気ポート9と排気ポート10とは、気筒2毎にそれぞれ2つずつ形成されている。
【0041】
シリンダヘッド4には、各吸気ポート9の燃焼室6側の開口をそれぞれ開閉する吸気弁11と、各排気ポート10の燃焼室6側の開口をそれぞれ開閉する排気弁12とが設けられている。
【0042】
シリンダヘッド4には、燃焼室6内に燃料を供給(噴射)するインジェクタ(燃料供給手段)14が設けられている。インジェクタ14は、噴射口が形成された先端部が燃焼室6の天井面の中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように取り付けられている。インジェクタ14は、その先端に複数の噴口を有し、燃焼室の天井面の中央付近からピストン5の冠面に向かって、気筒2の中心軸を中心としたコーン状(詳しくはホローコーン状)に燃料を噴射するように構成されている。コーンのテーパ角(噴霧角)は、例えば90°~100°である。なお、インジェクタ14の具体的な構成はこれに限らず、単噴口のものであってもよい。
【0043】
インジェクタ14は、不図示の高圧ポンプから圧送された燃料を燃焼室6内に噴射する。インジェクタ14の噴射圧は、最大で70MPa程度まで高められる。
【0044】
シリンダヘッド4には、燃焼室6内に臨むように配設されかつ該燃焼室6内にプラズマを生成するための放電プラグ13が設けられている。図2に示すように、放電プラグ13の先端には中心電極13aと接地電極13bとが形成されている。中心電極13aは、棒状をなしていて、先端を除く部分は碍子13cによって覆われている。接地電極13bは中心電極13aと同心の円筒状をなしている。中心電極13aは電源(図示省略)に接続されており、該電源から電圧が印加されると、中心電極13aと接地電極13bとの間で放電するようになっている。そして、中心電極13aと接地電極13bとの間で放電したときには、放電のエネルギーにより、燃焼室6内にプラズマが生成される。このことから、放電プラグ13は、電極13a,13b間に電圧を印加することによる放電により燃焼
室6内にプラズマを生成するプラズマ生成手段に相当する。
【0045】
上記吸気通路20には、上流側から順に、エアクリーナ21と、吸気通路20を開閉するためのスロットルバルブ22とが設けられている。本実施形態では、エンジン1の運転中、スロットルバルブ22は基本的に全開もしくはこれに近い開度に維持されており、エンジン1の停止時等の限られた運転条件のときにのみ閉弁されて吸気通路20を遮断する。
【0046】
上記排気通路30には、排気を浄化するための浄化装置31が設けられている。浄化装置31は、例えば、三元触媒を内蔵している。
【0047】
排気通路30には、排気通路30を通過する排気の一部をEGRガスとして吸気通路20に還流するためのEGR装置40が設けられている。EGR装置40は、吸気通路20のうちスロットルバルブ22よりも下流側の部分と排気通路30のうち浄化装置31よりも上流側の部分とを連通するEGR通路41、および、EGR通路41を開閉するEGRバルブ42を有する。
【0048】
尚、本実施形態に係るエンジン1は、過給機を備えていない。但し、本開示に係る技術は、過給機を備えたエンジンに適用することを排除しない。
【0049】
図3は、エンジン1の制御系統を示す。本実施形態に係るエンジン1は、制御装置としてのパワートレイン・コントロール・モジュール100(以下、PCM100という)によって統括的に制御される。PCM100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。
【0050】
車両には各種センサが設けられている。PCM100はこれらセンサと電気的に接続されており、PCM100には、各センサからの検出信号が入力される。例えば、エンジン1には、エンジン本体1aの温度を検出するエンジン温度センサSN1と、吸気通路20に流入する吸気流量を検出するエアフローセンサSN2と、燃焼室6に供給される吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN3と、クランクシャフト7の回転角度を検出するクランク角センサSN4と、運転者により操作される不図示のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN5と、各気筒2にそれぞれ1つずつ設けられ、各気筒2内の圧力をそれぞれ検出する筒内圧センサSN6が設けられている。
【0051】
エンジン温度センサSN1は、例えば、ウォータジャケット3aを流通するエンジン冷却水の温度を検出することで、エンジン本体1aの温度を検出する。尚、エンジン温度センサSN1は、排気温度を検出することで、エンジン本体1aの温度を検出するセンサであってもよく、エンジンオイルの油温を検出することで、エンジン本体1aの温度を検出するセンサであってもよい。
【0052】
PCM100は、クランク角センサSN4の検出結果からエンジン本体1aの回転数(エンジン回転数)を算出する。PCM100は、アクセル開度センサSN5の検出結果からエンジン負荷を算出する。PCM100は、筒内圧センサSN6の検出結果から、燃焼室6内の熱発生率を算出する。
【0053】
PCM100は、これらセンサSN1~SN6等からの入力信号に基づいて種々の演算を実行して、放電プラグ13、インジェクタ14、スロットルバルブ22、EGRバルブ42等のエンジン1の各部を制御する。
【0054】
〈プラズマの生成〉
本実施形態では、エンジン1の燃焼サイクルにおいて、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマを生成することにより、エンジン1の燃焼安定性を確保するようにしている。尚、非平衡プラズマとは、燃焼室6内のガス温度の上昇を伴わず、燃焼室6内の電子と、燃焼室6内のガスのイオンや分子とが熱平衡状態にないプラズマのことをいう。また、熱平衡プラズマとは、燃焼室6内のガス温度の上昇を伴い、燃焼室6内の電子と、燃焼室6内のガスのイオンや分子とが熱平衡状態にあるようなプラズマのことをいう。
【0055】
本実施形態では、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマは、放電プラグ13の電極13a,13b間に印加するパルス電圧を制御することにより、特に、パルス電圧のパルス幅を制御することにより、目的に合わせて、それぞれ生成する。図4図6は、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマの生成条件を示す。図4の横軸は、パルス幅であり、対数スケールで示している。一方、図4の縦軸は印加電圧のピーク値であり、対数スケールで示している。図4に示すように、パルス幅を短くすると非平衡プラズマが生成され、パルス幅を長くすると熱平衡プラズマが生成されることが分かる。イオンや分子は電子と比較するとかなり大きいため、パルス幅の短いパルス電圧では、電子のみが反応して、イオンや分子はほとんど反応しないためである。
【0056】
本実施形態では、主にパルス幅を変更することにより、非平衡プラズマと熱平衡プラズマとを、目的に合わせて、それぞれ生成するようにしている。具体的には、図5に示すように、PCM100は、熱平衡プラズマを生成するときには、ピーク電圧が10kV、パルス幅が上記第1所定値以上の第1パルス電圧を、放電プラグ13の電極13a,13b間に印加させる。また、PCM100は、熱平衡プラズマを生成するときには、パルス幅が10μsec以下のパルス電圧については、100kHzの周波数で、パルス幅が10μsecを超えるパルス電圧については、出来る限り大きな周波数で繰り返し放電させる。図4及び図5に示すように、第1所定値は、例えば、1μsecである。より具体的には、PCM100は、後述する熱平衡プラズマ生成制御を実行するときには、基本的には、ピーク電圧が10kV、パルス幅が1μsecの第1パルス電圧を放電プラグ13の電極13a,13b間に印加させるようにしている。尚、放電プラグ13の寿命を長くするという観点からは、第1パルス電圧のパルス幅は出来る限り短くすることが好ましい。
【0057】
一方で、図6に示すように、PCM100は、非平衡プラズマを生成するときには、ピーク電圧が10kV、パルス幅が第1所定値よりも小さい第2所定値以上かつ第1所定値未満の第2パルス電圧を、放電プラグ13の電極13a,13b間に印加させる。また、PCM100は、非平衡プラズマを生成するときには、上記のパルス電圧を100kHzの周波数で繰り返し放電させる。図4及び図6に示すように、第2所定値は、例えば、0.01μsecである。より具体的には、PCM100は、後述する第1及び第2非平衡プラズマ生成制御を実行するときには、基本的には、ピーク電圧が10kV、パルス幅が0.1μsecの第2パルス電圧を放電プラグ13の電極13a,13b間に印加させるようにしている。
【0058】
尚、上記熱平衡プラズマ生成制御における第1パルス電圧、並びに、上記第1及び第2非平衡プラズマ生成制御における第2パルス電圧におけるピーク電圧は、図4に示すように、1kV以上かつ30kV以下の範囲で、筒内圧等に基づいて変更してもよい。
【0059】
〈燃焼制御〉
本実施形態では、エンジン1の全運転領域において、圧縮着火燃焼(CI燃焼)が実施される。具体的には、圧縮上死点よりも前にインジェクタ14から燃焼室6内に燃料が噴射され、この燃料と空気との混合気を燃焼室6内で圧縮することで昇温させ、圧縮上死点付近で混合気を自着火させる。
【0060】
ここで、エンジン負荷が所定負荷以下の低負荷運転領域など、吸気に対する燃料の供給量が少ないとき(リーンなとき)、特に、燃焼室6内の混合気におけるガスと燃料との質量比であるG/Fが25以上の運転状況や、燃焼室6内の全ガス量に対する該ガス中のEGRガス(排気)の量の比であるEGR率が20%以上の運転状況などは、混合気が自着火しにくく、燃焼安定性が低下しやすい。そこで、本実施形態では、圧縮行程後期において、非平衡プラズマを生成することによって、エンジン1の燃焼安定性を向上させるようにしている。尚、本明細書においては、圧縮行程前期及び後期とは、圧縮行程における実施期間(クランク角度での期間)を均等に2分割したときの、前半の期間(進角側の期間)が前期に相当し、後半の期間(遅角側の期間)がそれぞれ後期に相当する。
【0061】
すなわち、非平衡プラズマを生成させると、燃焼室6内で燃料の分解(低級化)が促進される(低温酸化反応が進む)。これにより、燃焼室6内の混合気の昇温が促進され、着火、燃焼しやすくなり、エンジン1の燃焼安定性が向上する。また、非平衡プラズマを生成させると、燃焼室6内に、該燃焼室6内での混合気の燃焼を促進する物質(例えば、オゾン(O3)やOHなど。以下、活性種という)が生成される。これにより、燃焼室6内で混合気に着火した後、火炎伝播しやすくなり、混合気が燃焼しやすくなる。
【0062】
しかしながら、圧縮行程後期は、筒内圧が高く非平衡プラズマが生成されにくい。そこで、本実施形態では、PCM100は、非平衡プラズマを生成する非平衡プラズマ生成制御を実行する前に、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成制御を実行するようにしている。詳しくは、PCM100は、圧縮行程後期において、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に熱平衡プラズマが生じるような第1パルス電圧を印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成制御を実行し、該熱平衡プラズマ生成制御の終了直後に、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に非平衡プラズマが生じるような第2パルス電圧を印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する第1非平衡プラズマ生成制御とを実行する。
【0063】
図7は、熱平衡プラズマを生成する前の、放電プラグ13の電極13a,13b間におけるイオン、分子及び自由電子の分布を模式的に示す。図7に示すように、圧縮上死点近傍の時期には、筒内圧が高く、放電プラグ13の中心電極13aと接地電極13bとの間には、混合気を形成するイオンや分子が大量に存在する。このため、電極13a,13b間に電圧を印加したとしても、自由電子が電極13a,13b間を移動しにくく、放電されにくい。このため、非平衡プラズマが生成されにくい。
【0064】
この図7の状態から、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行すると、図8に示すように、電極13a,13b間の自由電子の数が増加する。これは、上記熱平衡プラズマ生成制御により、放電プラグ13の電極13a,13b等から熱電子が放出されたり、電極13a,13b間のイオンや分子から自由電子が乖離したりするためである。電極13a,13b間の自由電子の数が増加して自由電子の数密度が増加すれば、電極13a,13b間にイオンや分子が大量に存在したとしても、電極13a,13b間で放電させることが可能となる。これにより、非平衡プラズマを生成することができるようになる。
【0065】
図9には、圧縮行程後期に上記熱平衡プラズマ生成制御を実行した場合の燃焼室6内の状態を模式的に示している。図9では、圧縮上死点のクランク角を0°としており、これに対して進角側(圧縮上死点よりも早い時期)をマイナスで表し、遅角側(圧縮上死点よりも遅い時期)をプラスで表している。尚、圧縮行程は-180°~0°の期間である。
【0066】
図9に示すように、圧縮行程後期に上記熱平衡プラズマ生成制御を実行すると、放電プラグ13の電極13a,13b周辺に自由電子の数密度が高い領域Sが形成される。そし
て、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了直後、上記第1非平衡プラズマ生成制御を実行すれば、上記領域Sにおいて、燃料の分解が促進される(低温酸化反応が進む)とともに、上記活性種が形成される。これにより、電極13a,13b周辺から火炎が伝播して、燃焼室6内で混合気が燃焼するようになる。よって、エンジン1の燃焼安定性が向上する。
【0067】
尚、筒内圧が4MPa以上になると、熱平衡プラズマの生成自体も困難になるため、上記熱平衡プラズマ生成制御は、圧縮行程後期のうち筒内圧が4MPa未満の期間で実行される。また、上記熱平衡プラズマ生成制御を実施する期間は、上記第1非平衡プラズマ生成制御を実行する期間と比べてかなり短く設定されている。具体的には、本実施形態では、放電プラグ13の電極13a,13b周辺に火炎核が形成されない程度の期間、例えば、クランク角で5°程度の期間だけ熱平衡プラズマ生成制御が実行される
【0068】
本実施形態では、上記第1非平衡プラズマ生成制御の終了時期は、燃焼室6内で低温酸化反応が開始する付近の時期に設定されている。詳しくは、上記第1非平衡プラズマ生成制御の終了時期は、圧縮上死点前10°~30°に設定されている(図9及び図10では、圧縮上死点前30°で終了する場合を例示している)。また、上記第1非平衡プラズマ生成制御を実施する期間は、基本的にはクランク角で15°程度の期間に設定されている。上記第1非平衡プラズマ生成制御を実施する期間や終了する時期は、エンジン負荷やエンジン回転数により変更してもよい。例えば、エンジン負荷が高い程、上記第1非平衡プラズマ生成制御の終了時期を早い時期(進角側の時期)に設定してもよい。
【0069】
ここで、圧縮行程後期においては、燃焼室6内では混合気が流動している。このため、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行した後、上記非平衡プラズマ生成制御を実行するまでの期間が長いと、上記熱平衡プラズマ生成制御で放出された自由電子が、混合気の流れによって、放電プラグ13の電極13a,13b間から移動してしまう。そこで、本実施形態では、PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了後、クランク角度で5°以内に上記第1非平衡プラズマ生成制御を実行するように構成されている。すなわち、上述した「熱平衡プラズマ生成制御の終了直後」とは、クランク角度で5°以内の期間を意味している。尚、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了後、クランク角度で5°以内の期間とは、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了と同時を含む。
【0070】
上記熱平衡プラズマ生成制御の終了後、クランク角度で5°以内の期間に、上記第1非平衡プラズマ生成制御を実行すれば、上記熱平衡プラズマ生成制御により放出された自由電子が電極13a,13b間からあまり移動していないうちに非平衡プラズマを生成することができる。これにより、圧縮行程後期において、非平衡プラズマを効率良く生成することができる。この結果、エンジン1の燃焼安定性をより向上させることができる。
【0071】
本実施形態では、上記熱平衡プラズマ生成制御と上記第1非平衡プラズマ生成制御とが連続していないとき、すなわち、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了と同時に上記第1非平衡プラズマ生成制御を開始していないときには、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了から上記第1非平衡プラズマ生成制御の開始までの間は、放電プラグ13への電圧の印加を停止させないようにしている。具体的には、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了から上記第1非平衡プラズマ生成制御の開始までの間は、非平衡プラズマが生成されない程度のパルス電圧を印加する。これにより、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了後、放電プラグ13の電極13a,13b間の放電状態を維持して、上記第1非平衡プラズマ生成制御にスムーズに移行することができる。
【0072】
ここで、本実施形態では、図10に示すように、PCM100は、上記第1非平衡プラ
ズマ生成制御に加えて、圧縮行程における上記熱平衡プラズマ生成制御を実行するよりも前の期間において、詳しくは、圧縮行程前期において、放電プラグ13の電極13a,13b間に、上記第2パルス電圧を繰り返し印加して放電させて、非平衡プラズマを生成する第2非平衡プラズマ生成制御を実行するように構成されている。すなわち、圧縮行程前期であれば、筒内圧はあまり高くなく、熱平衡プラズマを生成した後でなくとも非平衡プラズマを生成することが可能である。よって、圧縮行程前期に非平衡プラズマを生成することで、燃焼室6内に上記活性種を生成することができる。これにより、燃焼室6内で混合気がより燃焼しやすくなり、エンジン1の燃焼安定性を一層向上させることができる。また、圧縮行程前期に上記活性種を生成することで、生成された上記活性種が混合気の流動によって燃焼室6内に拡散する。これにより、混合気に着火した後、火炎が伝播しやすくなる。このため、エンジン1の燃焼安定性をより一層向上させることができる。
【0073】
エンジン1の燃焼安定性を向上させる観点からは、上記第2非平衡プラズマ生成制御は、出来る限り長い期間行うことが好ましい。このため、本実施形態では、図10に示すように、PCM100は、圧縮行程前期における半分以上の期間(すなわち、圧縮行程全体の1/4以上の期間)に亘って、上記第2非平衡プラズマ生成制御を実行する。より詳しくは、PCM100は、圧縮行程前期の半分よりも前の時期から、圧縮行程後期に入る直前までの期間、上記第2非平衡プラズマ生成制御を実行する。これにより、燃焼室6内で出来る限り多くの上記活性種を生成することができ、エンジン1の燃焼安定性をさらに向上させることができる。
【0074】
次に、上記非平衡プラズマ生成制御及び上記熱平衡プラズマ生成制御を実行する際のPCM100の処理動作について、図11のフローチャートを参照しながら説明する。このフローチャートに基づく処理動作は、エンジン1が作動している間は1燃焼サイクル毎に実行される。
【0075】
まず、ステップS1において、PCM100は、各センサSN1~SN6からの情報を読み込む。
【0076】
次のステップS2では、PCM100は、圧縮行程に入ったか否かを判定する。PCM100は、圧縮行程に入ったYESのときには、ステップS3に進む一方で、未だに圧縮行程に入っていないNOのときには、圧縮行程に入るまでステップS2の判定を繰り返す。
【0077】
上記ステップS3では、PCM100は、上記第2非平衡プラズマ生成制御を開始する。
【0078】
次の、ステップS4では、PCM100は、圧縮行程後期に入ったか否かを判定する。PCM100は、圧縮行程後期に入ったYESのときには、ステップS5に進む一方で、未だに圧縮行程に入っていないNOのときには、圧縮行程後期に入るまで、ステップS2の判定を繰り返し、上記第2非平衡プラズマ生成制御を継続して実行する。
【0079】
上記ステップS5では、PCM100は、上記第2非平衡プラズマ生成制御を終了する。
【0080】
次のステップS6では、PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御及び上記第1非平衡プラズマ生成制御を実行する期間を設定する。このステップS6において、PCM100は、エンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて、上記熱平衡プラズマ生成制御及び上記第1非平衡プラズマ生成制御を実行する期間を設定する。
【0081】
続くステップS7では、PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御を開始する。そして、上記ステップS6で設定した期間(基本的には、クランク角で5°程度)が経過したときに、次のステップS8において、上記熱平衡プラズマ生成制御を終了する。
【0082】
次のステップS9では、上記第1非平衡プラズマ生成制御を開始する。そして、上記ステップS6で設定した期間(基本的には、クランク角で15°程度)が経過したときに、次のステップS10において、上記第1非平衡プラズマ生成制御を終了する。上記ステップS10の後はリターンする。
【0083】
したがって、本実施形態では、圧縮行程後期において、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に第1パルス電圧を印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成制御を実行し、熱平衡プラズマ生成制御の終了直後に、放電プラグ13の電極13a,13b間に、第2パルス電圧を印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する第1非平衡プラズマ生成制御を実行する。これにより、圧縮行程後期においても、燃焼室6内に非平衡プラズマを効率的に生成することができ、エンジン1の燃焼安定性を向上させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、圧縮行程における上記熱平衡プラズマ生成制御よりも前の期間において、上記第2非平衡プラズマ生成制御を実行するため、筒内圧はあまり高くなく非平衡プラズマを生成可能な時期にも、燃焼室6内に上記活性種が生成される。これにより、燃焼室6内で混合気がより燃焼しやすくなり、エンジン1の燃焼安定性を一層向上させることができる。
【0085】
さらに、本実施形態では、上記第1非平衡プラズマ生成制御は、上記熱平衡プラズマ生成制御の終了後、クランク角度で5°以内に実行されるため、燃焼室6内に混合気の流動が生じている状況であっても、上記熱平衡プラズマ生成制御により放出された自由電子が電極13a,13b間からあまり移動していないうちに非平衡プラズマを生成することができる。これにより、圧縮行程後期において、非平衡プラズマを効率良く生成することができ、燃焼室6内での混合気の燃焼を促進させることができる。この結果、エンジン1の燃焼安定性をより一層向上させることができる。
【0086】
ここに開示された技術は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0087】
例えば、上述の実施形態では、第1パルス電圧のパルス幅は、第1所定値以上(1μsec以上)としたが、これに限らず、第1パルス電圧のパルス幅を、第1所定値未満にしてもよい。この場合、第1パルス電圧のピーク電圧を、10kVよりも大きく(例えば、20kV)にするなどすればよい。また、第2パルス電圧のパルス幅は、第1所定値未満(1μsec未満)としたが、これに限らず、第2パルス電圧のパルス幅を、10μsec未満の範囲で、第1所定値以上にしてもよい。この場合、第1パルス電圧のピーク電圧を、10kV未満(例えば、8kV)にするなどすればよい。
【0088】
また、上述の実施形態では、過給機が設けられていなかったが、過給機を備えるエンジンの場合には、該過給機の過給圧に基づいて、上記熱平衡プラズマ生成制御における第1パルス電圧のピーク電圧、並びに、上記第1及び第2非平衡プラズマ生成制御における第2パルス電圧のピーク電圧を変更するようにしてもよい。
【0089】
さらに、上述の実施形態では、上記第1非平衡プラズマ生成制御において、放電プラグ13の電極13a,13b間に印加するパルス電圧と、上記第2非平衡プラズマ生成制御において、放電プラグ13の電極13a,13b間に印加するパルス電圧とを同じパルス
電圧としていたが、パルス幅が0.01μsec以上且つ1μsec未満、ピーク電圧が1kV以上かつ30kV未満の範囲で、それぞれ異なるパルス電圧としてもよい。特に、上記第2非平衡プラズマ生成制御におけるパルス電圧は、圧縮行程前期に実行されるため、パルス幅やピーク電圧を、上記第1非平衡プラズマ生成制御におけるパルス電圧よりも小さくしたとしても、非平衡プラズマを生成することが可能である。
【0090】
また、上記第2非平衡プラズマ生成制御を実行する期間は、圧縮行程前期における半分以上の期間であれば、エンジン回転数及びエンジン負荷に応じて変更してもよい。具体的には、エンジン回転数が高いほど、上記第2非平衡プラズマ生成制御を実行する期間を長く設定してもよい。また、エンジン負荷が低いほど、上記第2非平衡プラズマ生成制御を実行する期間を長く設定してもよい。
【0091】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
ここに開示された技術は、燃焼室が形成された気筒と、該気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトと、上記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給手段とを備え、上記燃料供給手段により供給された燃料によって形成される混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンに有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 エンジン
5 ピストン
6 燃焼室
7 クランクシャフト
13 放電プラグ(プラズマ生成手段)
13a 中心電極(プラズマ生成手段の電極)
13b 接地電極(プラズマ生成手段の電極)
14 インジェクタ(燃焼供給手段)
100 PCM(制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11