(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】案内機構
(51)【国際特許分類】
G01N 3/02 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
G01N3/02 A
(21)【出願番号】P 2018132926
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【氏名又は名称】大坪 隆司
(72)【発明者】
【氏名】瀧井 忠興
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-210887(JP,A)
【文献】特開昭61-099837(JP,A)
【文献】特開2001-201303(JP,A)
【文献】米国特許第04478086(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00- 3/62
G01B 5/00- 5/30
G01L 1/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を軸に沿って移動させる案内機構であって、
前記軸を挿入可能な孔部と、この孔部から端部に至る割溝とが形成された移動体と、
前記割溝を締め付けることにより、前記移動体を前記軸に固定するためのクランプと、
前記軸と接触して摺動可能な軸受部材と、
前記移動体と前記軸受部材とを弾性力をもって接続する支持部材と、
を備えたことを特徴とする案内機構。
【請求項2】
請求項1に記載の案内機構において、
前記支持部材は、前記軸に対して前記移動体の割溝とは逆側の領域で前記移動体に接続される案内機構。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の案内機構において、
前記支持部材は、前記軸受部材のうちの前記移動体とは逆側の一部の領域において前記軸受部材を前記移動体と接続する案内機構。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の案内機構において、
前記移動体は材料試験機におけるクロスヘッドであり、前記軸はクロスヘッドを支持する支柱である案内機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体を軸に沿って移動させる案内機構に関する。
【背景技術】
【0002】
材料試験機においては、移動体としてのクロスヘッドを、このクロスヘッドを支持する一対の支柱に沿って移動させるとともに、クランプ機構によりクロスヘッドを所定の高さ位置で支柱に対して固定する構成を有する。
【0003】
図4は、このような従来の支柱14およびクロスヘッド15等の部分縦断面図であり、
図5は、
図4におけるA-A矢視領域の断面図である。
【0004】
クロスヘッド15には、支柱14を挿入可能な孔部が形成されており、支柱14はこの孔部に挿入される。クロスヘッド15に形成された孔部の内径は支柱14の外径より僅かに大きくなっており、クロスヘッド15と支柱14との間には軸受隙間が形成される。また、クロスヘッド15には、支柱14が挿入される孔部から端部に至る割溝23が形成されている。さらに、クロスヘッド15の端部には、連結ネジ17を備え、割溝23を締め付けるクランプ22が配設されている。このクランプ22は、油圧シリンダ機構により割溝23を締め付けることにより、クロスヘッド15を所定の高さ位置で支柱14に固定するためのものである。このような構成を有するクロスヘッド15は、支柱14に対する摺動部材としての機能と、支柱14に対する固定部材としての機能とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、クロスヘッド15と支柱14との間に形成される軸受隙間の大きさは、軸受隙間としての機能とクランプ時の機能を考慮して決定される。この隙間が大きすぎたときには、クロスヘッド15による支柱14のガイド機能が低下し、また、クランプ22により割溝23を締め付けても十分な締め付け力が得られない。一方、この隙間が小さすぎたときには、摩擦抵抗が大きくなり焼き付きが生じる等の現象が発生し、適正なガイド機能を得ることができない。
【0006】
図6は、従来の他の実施形態に係る支柱14およびクロスヘッド15等の部分断面図である。
【0007】
図4および
図5に示すクロスヘッド15は、支柱14に対する摺動部材としての機能と、支柱14に対する固定部材としての機能とを備えているが、クロスヘッド15と支柱14の寸法や、使用材料等の制約により、摺動機能が不十分となると焼き付きなどの問題が発生する。このため、クロスヘッド15だけでは摺動部材としての機能が不十分であった場合には、
図6に示すようにクロスヘッド15の上下に摺動部21を追加して対応している。なお、この場合においても、クロスヘッド15および摺動部21に形成された孔部の内径は支柱14の外径より僅かに大きくなっており、クロスヘッド15および摺動部21と支柱14との間には軸受隙間が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図4から
図6に示す従来の実施形態においては、クロスヘッド15に対して、支柱14に対する摺動部材としての機能と、支柱14に対する固定部材としての機能とをもたせている。一方、この摺動性能をより効果的なものとするため、固定部材としての機能はクロスヘッドが担当し、クロスヘッドとは別に摺動部材として機能する摺動性に優れた軸受部材を使用することが考えられる。
【0010】
図7は、このような構成を有する支柱14およびクロスヘッド15等の部分断面図である。
【0011】
図7に示す構成においては、クロスヘッド15とは別に摺動部材として機能する軸受部材25を配設し、クロスヘッド15には固定部材としての機能を持たせ、軸受部材25には摺動部材としての機能を持たせている。このクロスヘッド15においては、クロスヘッド15に形成された孔部の内径は支柱14の外径より大きくなっており、支柱14とクロスヘッド15とは離隔している。そして、支柱14を案内する軸受部材25は、支持部材26に支持されている。この支持部材26は、支柱14を取り囲むように配設された複数のネジ24により、クロスヘッド15の下面に固定されている。
【0012】
なお、軸受部材25に形成された孔部の内径は支柱14の外径より僅かに大きくなっており、軸受部材25と支柱14との間には軸受隙間が形成される。支柱14とクロスヘッド15との間に形成される隙間の大きさは、軸受部材25と支柱14との間に形成される軸受隙間の大きさより大きなものとなっている。
【0013】
このような構成を採用したときには、軸受部材25として摺動機能に優れたものを使用することにより、クロスヘッド15の摺動性を向上させることが可能となる。しかしながら、このような構成において、クロスヘッド15を支柱14に対して固定するためにクロスヘッド15における割溝23付近の領域をクランプ22により締め付けた場合においては、軸受部材25が大きな力で支柱14に対して押圧されることから、軸受部材25が損傷を受けるという問題が生ずる。
【0014】
すなわち、クロスヘッド15を支柱14に対して固定するためにクロスヘッド15における割溝23付近の領域をクランプ22により締め付けた場合においては、支柱14は割溝23とは逆側(
図7における左側)に押しつけられることにより、支柱14はクロスヘッド15と支柱14との間の隙間分だけ割溝23とは逆側に移動する。これに伴って、軸受部材25も、
図7に示す左側に押圧される。この時には、軸受部材25とクロスヘッド15とが近接配置されていることから、軸受部材25が大きな力で支柱14に対して押圧されることになり、これにより軸受部材25が損傷を受けることになる。また、軸受部材25をクロスヘッド15がクランプされた状態での支柱14位置に固定することでこの損傷をさけることができるが、この場合はクロスヘッド15の移動時に軸受部材25のみでなくクロスヘッド15と支柱14との接触が生じる可能性があり、軸受機能は低下することになる。
【0015】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、軸受部材の作用により移動体の摺動性能を向上させることができるとともに、割溝を利用した固定時にも軸受部材に大きな押圧力を付与することがない案内機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、移動体を軸に沿って移動させる案内機構であって、前記軸を挿入可能な孔部と、この孔部から端部に至る割溝とが形成された移動体と、前記割溝を締め付けることにより、前記移動体を前記軸に固定するためのクランプと、前記軸と接触して摺動可能な軸受部材と、前記移動体と前記軸受部材とを弾性力をもって接続する支持部材と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の案内機構において、前記支持部材は、前記軸に対して前記移動体の割溝とは逆側の領域で前記移動体に接続される。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の案内機構において、前記支持部材は、前記軸受部材のうちの前記移動体とは逆側の一部の領域において前記軸受部材を前記移動体と接続する。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の案内機構において、前記移動体は材料試験機におけるクロスヘッドであり、前記軸はクロスヘッドを支持する支柱である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、軸受部材の作用により移動体の摺動性能を向上させることができるとともに、割溝を利用した移動体の固定時にも軸受部材に大きな押圧力が付与されることを防止することが可能となる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、支持部材が軸に対して割溝とは逆側の領域で移動体に接続されることから、クランプによる割溝を利用した移動体の固定時に、軸受部材に対する締め付け力の影響を小さなものとすることができ、軸受部材に応力が付与されることを防止することが可能となる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、支持部材は軸受部材のうちの移動体とは逆側の一部の領域において軸受部材を移動体と接続することから、割溝を利用した移動体の固定時に、軸受部材が軸からの大きな力を受けることを防止することができ、軸受部材に大きな応力が付与されることを防止することが可能となる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、クロスヘッドを支柱に対して移動させるときに、軸受部材の作用によりクロスヘッドの摺動性能を向上させることができるとともに、割溝を利用したクロスヘッドの固定時にも軸受部材に大きな押圧力が付与されることを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明に係る案内機構を適用した材料試験機の概要図である。
【
図2】支柱14およびクロスヘッド15等の部分縦断面図である。
【
図3】
図2におけるA-A矢視領域の断面図である。
【
図4】従来の支柱14およびクロスヘッド15等の部分縦断面図である。
【
図5】
図4におけるA-A矢視領域の断面図である。
【
図6】従来の他の実施形態に係る支柱14および従来のクロスヘッド15の部分断面図である。
【
図7】支柱14およびクロスヘッド15等の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る案内機構を適用した材料試験機の概要図である。
【0026】
この材料試験機は、基台16と、この基台16に立設された一対の支柱14に支持されたクロスヘッド15とを備える。なお、クロスヘッド15はこの発明に係る移動体を構成し、支柱14はこの発明に係る軸を構成する。
【0027】
クロスヘッド15は、油圧または空圧を利用したクランプ22により支柱14の任意の高さ位置に固定される。クロスヘッド15には、上つかみ具11が、軸心調整装置20およびロードセル13を介して付設されている。また、基台16には下つかみ具12が付設されている。試験片10は、その両端をこれらの上つかみ具11および下つかみ具12により把持される。
【0028】
さらに、クロスヘッド15には、油圧シリンダやエアシリンダ等の流体シリンダ18が配設されている。この流体シリンダ18におけるシリンダロッド19は、クロスヘッド15から下方に突出している。流体シリンダ18のシリンダロッド19を移動させることにより、試験片10に対して試験力が付与される。このときの試験力の大きさは、ロードセル13により測定される。
【0029】
次に、この発明に係る案内機構の構成について説明する。
図2は、支柱14およびクロスヘッド15等の部分縦断面図である。また、
図3は、
図2におけるA-A矢視領域の断面図である。
【0030】
クロスヘッド15には、支柱14の外形より内径が大きな孔部37(
図2参照)が形成されており、支柱14はこの孔部37に挿入される。ここで、孔部37の内径が支柱14の外径より大きいことから、クロスヘッド15と支柱14とは直接摺接せず、クロスヘッド15における孔部37の表面と支柱14の表面との間には、わずかな隙間が形成される。なお、
図2においては、この隙間を誇張して表現している。
【0031】
クロスヘッド15には、支柱14が挿入される孔部37から端部に至る割溝23が形成されている。また、クロスヘッド15の端部には、連結ネジ17を備え、クロスヘッド15における割溝23付近の領域を締め付けるクランプ22が配設されている。このクランプ22は、油圧シリンダ機構によりクロスヘッド15における割溝23付近の領域を締め付けてクロスヘッド15の孔部37を支柱14の表面に押しつけることにより、クロスヘッド15を所定の高さ位置で支柱14に固定するためのものである。
【0032】
クロスヘッド15の下面には、支持部材32を介して軸受部材33が付設されている。この軸受部材33は、支柱14の外径よりわずかに大きな内径を有する円筒状の部材である。軸受部材33と支柱14との間には、軸受隙間が形成され、軸受部材33は支柱14に対して摺動可能となっている。なお、軸受部材33と支柱14との間に形成された軸受隙間の大きさは、支柱14とクロスヘッド15との間に形成される隙間の大きさより小さなものとなっている。この軸受部材33は、例えば、固体潤滑剤を埋め込んだ銅合金や自己潤滑ベアリング(オイルレスベアリング)等の軸受性能を有する金属から構成される。
【0033】
支持部材32は、支柱14に対して、クロスヘッド15の割溝23とは逆側の領域で、クロスヘッド15に対してネジ34により固定されている。すなわち、支持部材32は、クロスヘッド15の割溝23とは逆側の領域でクロスヘッド15に接続されている。そして、支持部材32における割溝23側の領域は、クロスヘッド15の下面から離隔しており、支持部材32の上面とクロスヘッド15の下面との間には隙間36が形成されている。
【0034】
支持部材32は、弾性を有する金属から構成されている。このため、クロスヘッド15と軸受部材33とは弾性力を持って接続されることになる。そして、支持部材32は、クロスヘッド15の割溝23とは逆側の領域でクロスヘッド15に接続されており、支持部材32における割溝23側の領域は、クロスヘッド15の下面から離隔している。このため、クランプ22でクロスヘッド15における割溝23付近の領域を締め付けることによりクロスヘッド15を支柱14に固定するときに、クロスヘッド15の変位が支持部材32に伝わることがなく、軸受部材33に対する締め付け力の影響を小さなものとすることが可能となる。
【0035】
また、軸受部材33におけるクロスヘッド15側の領域と支持部材32との間には、隙間35が形成されている。すなわち、支持部材32は、軸受部材33のうちのクロスヘッド15とは逆側(
図2における下側)の一部の領域において軸受部材33をクロスヘッド15と接続している。すなわち、軸受部材33の下部(クロスヘッド15から離れている方の端)が支柱14と支持部材32との間で挟持される構成となっている。これにより、クランプ22で割溝23を締め付けることによりクロスヘッド15を支柱14に固定するときに、支持部材32に応力が付与されても、軸受部材33は隙間35の範囲内で移動が可能であり、軸受部材33が支柱14からの大きな力を受けることを防止することが可能となる。
【0036】
このような構成を有する案内機構においては支柱14に対するクロスヘッド15の移動時には、その摺動機能を軸受部材33により得ることができ、クロスヘッド15の摺動性能を向上することができる。また、クランプ22で割溝23を締め付けることによりクロスヘッド15を支柱14に固定するときには、軸受部材33がその締め付け力の影響を受けることを防止することが可能となる。
【0037】
なお、上述した実施形態においては、材料試験機におけるクロスヘッド15を移動体として、軸を構成する支柱14に沿って移動させているが、この発明を、その他の移動体を軸に沿って移動させる場合の案内機構に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 試験片
11 上つかみ具
12 下つかみ具
13 ロードセル
14 支柱
15 クロスヘッド
16 基台
17 連結ネジ
18 流体シリンダ
19 シリンダロッド
22 クランプ
23 割溝
24 ネジ
25 軸受部材
32 支持部材
33 軸受部材
34 ネジ
35 隙間
36 隙間
37 孔部