(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220119BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2018212107
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山根 和貴
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031031(WO,A1)
【文献】特開2010-081660(JP,A)
【文献】特開2001-292589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負の母線間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作に伴い直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータ回路と、
d,q軸電圧指令値を変調率に変換する変調率計算部と、
演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に対し最新値に更新した位相角に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を生成する第1信号生成部と、
演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に続いて回転速度を積分していった位相角に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を生成する第2信号生成部と、
回転角速度指令値に基づいて過渡状態であるか定常状態であるかを判定する状態判定部と、
前記状態判定部により過渡状態時においては前記第1信号生成部において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択し、定常状態時においては前記第2信号生成部において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択する切替部と、
前記変調率計算部において変換した変調率をモジュレーション電圧に制御周期毎に変換するモジュレーション電圧生成部と、
前記切替部により選択されたu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号と前記モジュレーション電圧生成部において変換したモジュレーション電圧とを比較して前記インバータ回路における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力するコンパレータと、
を備えたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記第1信号生成部及び前記第2信号生成部において生成するu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号は、三角波であることを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記状態判定部は、取得した回転角速度と回転角速度指令値との差が閾値以上であると過渡状態であると判定するとともに、前記差が閾値未満であると定常状態であると判定することを特徴とする請求項1または2に記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の電力変換器制御装置は、特許文献1での
図1を用いて示されているようにパルスパターン演算部とゲートパルス出力部を備える。パルスパターン演算部は、第1、第2・・第nの高調波抑制パルスパターン部及び選択回路を備える。第1、第2・・第nの高調波抑制パルスパターン部は、電圧指令部からの電圧指令に基づき変調率演算部で算出された変調率と速度演算部で算出された回転速度信号とに基づき、回転速度信号に応じて予め設定された互いに異なる次数の高調波成分を抑制するためのパルスパターンを演算する。選択回路は、回転速度信号に基づき、第1、第2・・第nの高調波抑制パルスパターン部のいずれかを選択してそのパルスパターンをゲートパルス出力部に出力する。パルスパターン演算部におけるパルスパターンの演算は、パルス位相データを予め計算して保存したパルス位相テーブル(特許文献1での
図7に示す変調率と速度によるパルス情報のマップ)を参照して行うか、あるいは近似式を用いて行う。ゲートパルス出力部は特許文献1での
図6のように演算した電圧位相θとパルス位相θ
1~θ
nとを比較してゲートパルスを出力する。このようにして、
図18に示すような電圧指令に対するパルスパターンが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、定常状態において角度を取得して位相角を演算する場合、
図12に示すように各演算タイミングT
0,T
1,T
2,T
3,・・・の間はセンシングできないので次の演算タイミングまでの位相角を予測する。
図12に示す負荷一定の場合には時間と共に位相角は単調に増加していくが
図13に示す負荷変動があると単調増加でなくなる。単調増加ではなくなり演算の位相角と実際の位相角との差異が生じると、以下のような問題が生じる。
【0005】
定常状態において
図14に示すように演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に対し最新値に更新する方式を用いることが考えられる。
加減速していない定常状態において、
図12に示す負荷一定の場合に比べ
図13に示す負荷が変動した場合には、パルス出力のベースとなる位相角θが不連続となり、パルスが欠落してしまい、思い通りの効果を得られない(上記特許文献1では高調波低減できない、若しくは、低損失駆動ができない)。その理由を以下に述べる。なお、
図12及び
図13のθ
nは演算周期ごとの位相角を表し、特許文献1での
図6のパルス位相θ
n(
図18のスイッチングタイミング)とは異なる。
【0006】
図12に示す負荷一定(速度変動なし)の場合において、マイコン使用を前提として、演算開始と角度取得タイミングが一緒と仮定する。一般的にはそれぞれのタイミングは異なる場合があるが、1演算周期に1度角度を取得するので上記仮定は問題ない。ある時間T
0の演算について説明する。時間T
0で取得した位相角θ
0とその時の回転速度ω
0(もしくは前回の位相角θ
-1)から次の演算時間T
1の位相角を推定する。θ
0から推定した位相角までの間のパルスパターンをセットする。これらが繰り返し演算される。例として、
図16(a)に出力したいパルスパターンを示すとともに
図16(b)にT
0時の演算結果及びT
1時の演算結果を示す。
【0007】
一方、
図13に示す負荷変動(速度変動あり)の場合においては、負荷変動の影響で演算周期ごとの位相角の変化量が変化している。そのことが原因でパルスパターンの情報が欠落してしまう例を説明する。同様にある時間T
0の演算について説明する。時間T
0で取得した位相角θ
0とその時の回転速度ω
0(もしくは前回の位相角θ
-1)から次の演算時間T
1の位相角θ
1´を推定する。θ
0から推定した位相角θ
1´までの間のパルスパターンをセットする。負荷変動により位相角の変化量が一定でないため、次の演算時間T
1での位相角θ
1は推定した位相角θ
1´と異なってしまう可能性がある。よって、推定した位相角θ
1´と次の演算時間T
1での位相角θ
1との間にパルスが存在すれば、そのパルスは欠落してしまう。その例を図示する。
図17(a)に示すように出力したいパルスパターンに対し
図17(b)に示すようにT
0時の演算に対しT
1時の実際の位相角が演算の位相角より進んでしまった場合には演算では位相角が不連続になるためパルスが欠落してしまう。
【0008】
また、過渡状態において、
図15に示すように演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に続いて回転速度を積分していく方式を用いることが考えられる。
加速中もしくは減速中の過渡状態では
図15に示す方式を用いた場合には実際の位相角と演算で使用する位相角との乖離幅Wがどんどん増加していく傾向があり、損失低減効果の減少を招く虞がある。
【0009】
本発明の目的は、定常状態において負荷変動が生じた場合にパルスの欠落を防止することができるとともに過渡状態において損失低減の向上を図ることができるインバータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するためのインバータ装置は、正負の母線間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作に伴い直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータ回路と、d,q軸電圧指令値を変調率に変換する変調率計算部と、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に対し最新値に更新した位相角に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を生成する第1信号生成部と、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に続いて回転速度を積分していった位相角に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を生成する第2信号生成部と、回転角速度指令値に基づいて過渡状態であるか定常状態であるかを判定する状態判定部と、前記状態判定部により過渡状態時においては前記第1信号生成部において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択し、定常状態時においては前記第2信号生成部において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択する切替部と、前記変調率計算部において変換した変調率をモジュレーション電圧に制御周期毎に変換するモジュレーション電圧生成部と、前記切替部により選択されたu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号と前記モジュレーション電圧生成部において変換したモジュレーション電圧とを比較して前記インバータ回路における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力するコンパレータと、を備えたことを要旨とする。
【0011】
これによれば、過渡状態時においては第1信号生成部において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号が選択され、定常状態時においては第2信号生成部において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号が選択される。そして、選択されたu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号とモジュレーション電圧とが比較されてインバータ回路における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンが出力される。
【0012】
第1信号生成部において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号は、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に対し最新値に更新した位相角に基づくものである。これにより、過渡状態時に実際の位相角と演算で使用する位相角との乖離幅が増加していくことなく、過渡状態において損失低減の向上を図ることができる。
【0013】
第2信号生成部において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号は、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に続いて回転速度を積分していった位相角である。これにより、定常状態時に負荷変動が生じても制御周期で位相角が不連続になることなく、定常状態において負荷変動が生じた場合にパルスの欠落を防止することができる。
【0014】
また、インバータ装置において、前記第1信号生成部及び前記第2信号生成部において生成するu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号は、三角波であるとよい。
また、インバータ装置において、前記状態判定部は、取得した回転角速度と回転角速度指令値との差が閾値以上であると過渡状態であると判定するとともに、前記差が閾値未満であると定常状態であると判定するとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、定常状態において負荷変動が生じた場合にパルスの欠落を防止することができるとともに過渡状態において損失低減の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態におけるインバータ装置の構成を示すブロック図。
【
図2】d,q/u,v,w変換回路の構成を示すブロック図。
【
図4】変調率とモジュレーション電圧の関係を示す図。
【
図5】過渡状態で負荷変動がある場合の演算周期毎の位相角の変化を示す図。
【
図7】定常状態で負荷変動がある場合の演算周期毎の位相角の変化を示す図。
【
図8】三角波生成部から生成される三角波を示す図。
【
図9】(a)はコンパレータでの比較処理を示す図、(b)は上アーム用スイッチング素子のパルスパターンを示す図、(c)は下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを示す図。
【
図12】定常状態において負荷一定の場合の演算周期毎の位相角の変化を示す図。
【
図13】定常状態において負荷変動の場合の演算周期毎の位相角の変化を示す図。
【
図16】(a)は定常状態において負荷一定の場合の出力したいパルスパターンを示す図、(b)はT
0時の演算結果及びT
1時の演算結果を示す図。
【
図17】(a)は定常状態において負荷変動の場合の出力したいパルスパターンを示す図、(b)はT
0時の演算結果及びT
1時の演算結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、インバータ装置10は、インバータ回路20とインバータ制御装置30を備えている。インバータ制御装置30は、ドライブ回路31と制御部32とを備えている。
【0018】
インバータ回路20は、6つのスイッチング素子Q1~Q6と6つのダイオードD1~D6を有する。スイッチング素子Q1~Q6としてIGBTを用いている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、u相上アームを構成するスイッチング素子Q1と、u相下アームを構成するスイッチング素子Q2が直列接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、v相上アームを構成するスイッチング素子Q3と、v相下アームを構成するスイッチング素子Q4が直列接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、w相上アームを構成するスイッチング素子Q5と、w相下アームを構成するスイッチング素子Q6が直列接続されている。スイッチング素子Q1~Q6にはダイオードD1~D6が逆並列接続されている。正極母線Lp、負極母線Lnには平滑コンデンサCを介して直流電源としてのバッテリBが接続されている。
【0019】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2の間がモータ60のu相端子に接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4の間がモータ60のv相端子に接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6の間がモータ60のw相端子に接続されている。上下のアームを構成するスイッチング素子Q1~Q6を有するインバータ回路20は、スイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作に伴いバッテリBの電圧である直流電圧を交流電圧に変換してモータ60に供給することができるようになっている。モータ60は車両駆動用モータである。
【0020】
各スイッチング素子Q1~Q6のゲート端子にはドライブ回路31が接続されている。ドライブ回路31は、制御信号であるパルスパターンに基づいてインバータ回路20のスイッチング素子Q1~Q6をスイッチング動作させる。
【0021】
モータ60に位置検出部61が設けられ、位置検出部61によりモータ60の回転位置としての電気角θが検出される。電流センサ62によりモータ60のu相電流Iuが検出される。また、電流センサ63によりモータ60のv相電流Ivが検出される。
【0022】
制御部32はマイクロコンピュータにより構成され、制御部32は、減算部33と、トルク制御部34、トルク/電流指令値変換部35と、減算部36,37と、電流制御部38と、d,q/u,v,w変換回路39と、座標変換部40と、速度演算部41を備えている。
【0023】
速度演算部41は、位置検出部61により検出される電気角θから回転角速度ωを演算する。減算部33は、回転角速度指令値(指令速度)ω*と速度演算部41により演算された回転角速度ωとの差分Δωを算出する。トルク制御部34は、速度ωの差分Δωからトルク指令値T*を演算する。
【0024】
トルク/電流指令値変換部35は、トルク指令値T*を、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に変換する。例えば、トルク/電流指令値変換部35は、記憶部(図示略)に予め記憶される目標トルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが対応付けられたテーブルを用いてトルク/電流指令値変換を行う。
【0025】
座標変換部40は、電流センサ62,63によるu相電流Iu及びv相電流Ivからモータ60のw相電流Iwを求め、位置検出部61により検出される電気角θに基づいて、u相電流Iu、v相電流Iv及びw相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。なお、d軸電流Idはモータ60に流れる電流において、界磁を発生させるための電流ベクトル成分であり、q軸電流Iqはモータ60に流れる電流において、トルクを発生させるための電流ベクトル成分である。
【0026】
減算部36は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの差分ΔIdを算出する。減算部37は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの差分ΔIqを算出する。電流制御部38は、差分ΔId及び差分ΔIqに基づいてd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。
【0027】
電圧センサ42によりバッテリBの電圧(直流電圧)Vdcが検出される。この検出結果がd,q/u,v,w変換回路39に送られる。
d,q/u,v,w変換回路39は、角度情報である電気角θと回転角速度ωとd軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*と回転角速度指令値(指令速度)ω*と直流電圧Vdcを入力して各相の上下アーム用のスイッチング素子Q1~Q6のパルスパターンをドライブ回路31に出力する。つまり、位置検出部61により検出される電気角θと回転角速度ωに基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*からインバータ回路20の各スイッチング素子Q1~Q6をオン、オフさせるためのパルスパターンを出力する。即ち、d,q/u,v,w変換回路39は、モータ60に流れるu,v,wの各相の電流Iu,Iv,Iwに基づいてモータ60におけるd軸電流とq軸電流が目標値となるようにモータ60の電流経路に設けられたスイッチング素子Q1~Q6を制御する。
【0028】
d,q/u,v,w変換回路39は、
図2に示す構成となっている。
図2において、d,q/u,v,w変換回路39は、状態判定部50、第1三角波生成部51と、第2三角波生成部52と、コンパレータ53と、変調率計算部54と、モジュレーション電圧生成部55と、切替部56とを備える。
【0029】
変調率計算部54は、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を、変調率Mに換算する。詳しくは、次の式(1)により変調率Mを算出する。
【0030】
【数1】
・・・(1)
モジュレーション電圧生成部55は、
図4に示すマップを用いて変調率Mを事前に算出したデータをもとに、モジュレーション電圧Vmを生成する。
図4において、横軸に変調率Mをとり、縦軸にモジュレーション電圧Vmをとっている。特性線L100は、事前に算出されたデータであり、このデータはマップデータであり、他にもテーブルデータ、近似式等でも構わない。このモジュレーション電圧Vmがパルス幅を決定する要素となる。
図9(a)に示すように、モジュレーション電圧Vmはプラスの値とマイナスの値の両方がコンパレータ53に入力される。
【0031】
このように、モジュレーション電圧生成部55は、変調率計算部54において変換した変調率Mをモジュレーション電圧Vmに制御周期毎に変換する。
図2の状態判定部50は、回転角速度指令値(指令速度)ω*に基づいて過渡状態であるか定常状態であるかを判定する。具体的には、判定式として、回転角速度ωと回転角速度指令値(指令速度)ω*と閾値Kから、(ω-ω*)≧Kが成立するか否か判定して、成立すると過渡状態(加減速時)と判定し、不成立ならば定常状態であると判定する。このようにして、状態判定部50は、取得した回転角速度ωと回転角速度指令値(指令速度)ω*との差(ω-ω*)が閾値K以上であると過渡状態であると判定するとともに、差(ω-ω*)が閾値K未満であると定常状態であると判定する。
【0032】
第1三角波生成部51は、
図3に示すように、フィードホワード制御を用いており、出力切替部51aと、バッファ51bと、加算部51cと、積分部51dと、加算部51eと、加算部51fと、電圧位相角演算部51gと、三角波生成部51hを有する。バッファ51bと積分部51dとは、次の演算周期まで位相角を予測するために用いられる。
【0033】
第1三角波生成部51においては、
図14で示した演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に対し最新値に更新する方式を用いている。
図3の出力切替部51aは、取得した電気角θを入力して過渡状態に切り替わったときの初回のみ出力を切り替えて加算部51cに出力する。バッファ51bは、回転角速度ωを入力して所定時間Δtごとに回転角速度ωを加算部51cに出力する。加算部51cは、初回の電気角θと所定時間Δtごとの回転角速度ωを加算して位相角の変化量を積分部51dに出力する。積分部51dは次の演算周期までの位相角の予測値の算出用であり、所定時間Δtごとの位相角の変化量(速度ω)を積分する。
【0034】
電圧位相角演算部51gは、出力したい電圧位相にするためのものであり、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を入力して次の式(2)により電圧位相角δを算出する。
【0035】
【数2】
・・・(2)
加算部51eは、積分部51dからの回転角速度ωの積分値と電圧位相角演算部51gからの電圧位相角δを加算する。加算部51fは、位相角を更新すべく加算部51eの出力値と電気角θとを加算して位相角を三角波生成部51hに出力する。三角波生成部51hは、単調増加する位相角を2πになると0にして三角波を生成して出力する。つまり、時間に比例する角度は2πでリセットしてこれを成形して三角波を出力する。u相に対し位相を±2/3π加算し、v相、w相も同様にして算出する(三角波を出力する)。第1三角波生成部51は、
図5に示すように、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に対し最新値に更新した位相角に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号(三角波)を生成する。
【0036】
図2の第2三角波生成部52は、
図6に示すように、出力切替部52aと、バッファ52bと、加算部52cと、積分部52dと、加算部52eと、電圧位相角演算部52fと、三角波生成部52gを有する。
【0037】
第2三角波生成部52においては、
図15で示した演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に続いて回転速度を積分していく方式を用いている。
出力切替部52aは、取得した電気角θを入力して定常状態に切り替わったときの初回のみ出力を切り替えて加算部52cに出力する。バッファ52bは、回転角速度ωを入力して所定時間Δtごとに回転角速度ωを加算部52cに出力する。加算部52cは、初回の電気角θと所定時間Δtごとの回転角速度ωを加算して位相角の変化量を積分部52dに出力する。積分部52dは次の演算周期までの位相角の予測値の算出用であり、所定時間Δtごとの位相角の変化量(速度ω)を積分する。電圧位相角演算部52fは、出力したい電圧位相にするためのものであり、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を入力して前述の式(2)により電圧位相角δを算出する。加算部52eは、積分部52dからの回転角速度ωの積分値と電圧位相角演算部52fからの電圧位相角δを加算して位相角を三角波生成部52gに出力する。三角波生成部52gは、単調増加する位相角を2πになると0にして三角波を生成して出力する。つまり、時間に比例する角度は2πでリセットしてこれを成形して三角波を出力する。u相に対し位相を±2/3π加算し、v相、w相も同様にして算出する(三角波を出力する)。
【0038】
第2三角波生成部52は、
図7に示すように、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に続いて回転速度を積分していった位相角に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号(三角波)を生成する。そのため、制御周期で位相角が不連続になることはない。
【0039】
図2の三角波生成部51,52は、角度情報としての電気角θと回転角速度ωとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*から、
図8に示すようにu,v,w相の三角波を生成する。三角波の振幅は1とする。三角波の周波数は回転数(電気角θの時間的変化割合)に応じて変化する。電流1周期に対して三角波1周期である。三角波はコンパレータ53に入力される。
【0040】
図2の切替部56は、状態判定部50により過渡状態時においては第1三角波生成部51において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択してその信号をコンパレータ53に出力する。定常状態時においては第2三角波生成部52において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択してその信号をコンパレータ53に出力する。
【0041】
コンパレータ53は
図9(a)に示すように、入力されたu相の三角波と±Vmの値を比較する。そして、コンパレータ53は、
図9(b)に示すようにu相の上アーム用のスイッチング素子Q1のパルスパターン、及び、
図9(c)に示すようにu相の下アーム用のスイッチング素子Q2のパルスパターンを算出する。同様に、コンパレータ53は、入力されたv相の三角波と±Vmの値を比較して、v相の上アーム用のスイッチング素子Q3のパルスパターン、及び、v相の下アーム用のスイッチング素子Q4のパルスパターンを算出する。また、コンパレータ53は、入力されたw相の三角波と±Vmの値を比較して、w相の上アーム用のスイッチング素子Q5のパルスパターン、及び、w相の下アーム用のスイッチング素子Q6のパルスパターンを算出する。このようにして、コンパレータ53は、切替部56により選択されたu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号とモジュレーション電圧生成部55において生成したモジュレーション電圧Vmとを比較する。そして、インバータ回路20における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力する。このパルスパターンは損失低減を考慮したパルスパターンである。
【0042】
次に、インバータ装置10の作用について説明する。
図2において、パルス生成アルゴリズムとして、入力は電気角θ、回転角速度ω、回転角速度指令値(指令速度)ω*、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*、直流電圧Vdcであり、出力は各相上下アーム用スイッチング素子のパルスパターンである。
【0043】
第1三角波生成部51及び第2三角波生成部52において、それぞれ、回転角速度ωと電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*からu,v,w相の三角波が生成される。
状態判定部50において、判定式((ω-ω*)≧K)を用いて、過渡状態もしくは定常状態を判定して、三角波の出力を切り替える。
【0044】
一方、変調率計算部54において、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*と直流電圧Vdcから変調率Mが換算される。つまり、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*と直流電圧Vdcから変調率Mが変換される。
【0045】
モジュレーション電圧生成部55において変調率Mが事前に算出したデータをもとにモジュレーション電圧Vmに変換される。コンパレータ53は、第1三角波生成部51から入力されたu相の三角波または第2三角波生成部52から入力されたu相の三角波と±Vmの値を比較して上アーム用のスイッチング素子Q1のパルスパターン、及び、下アーム用のスイッチング素子Q2のパルスパターンが算出される。
【0046】
v,w相についてはu相の電圧指令値から±2/3πズレた指令値をそれぞれ持つのでその三角波と±Vmとの比較を行う。
その結果、例えば、
図18に示すようなパルスパターンを得ることが可能となる。このパルスパターンは、0~90度の情報を対称性を用いて表現できる。特許文献1に開示の技術を用いて出力しようとすると、0~360度のマップデータを用意するか、0~90度の情報を演算で360度まで拡大する必要がある。本実施形態では、三角波がその対称性を含んでいるので、360度までのマップを持ったり、360度まで拡大する演算は不要である。
【0047】
具体的には、判定式として(ω-ω*)≧Kが成立すれば過渡状態(加減速時)であり、ωは、取得した回転角速度、ω*は回転角速度指令値、Kは閾値であり定数(一定値)である。成立ならば
図5に示すように、取得した位相角θを用いてパルスを生成する。一方、不成立ならば定常状態であるとして、
図7に示す演算周期ごとに速度情報を基に位相角θを連続的につなぎ合わせることで、所望のパルスを出力する。
【0048】
つまり、状態判定部50で過渡状態であるか定常状態であるかを判定し、切替部56において、過渡状態時においては第1三角波生成部51において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択し、定常状態時においては第2三角波生成部52において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択する。そして、コンパレータ53において、選択されたu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号とモジュレーション電圧Vmとを制御周期で比較して上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力する。
【0049】
第1三角波生成部51において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号は、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に対し最新値に更新した位相角に基づくものである。これにより、過渡状態時に実際の位相角と演算で使用する位相角との乖離幅が増加していくことなく、過渡状態において損失低減の向上を図ることができる。詳しくは、加速中もしくは減速中の過渡状態では
図15に示す方式を用いた場合には実際の位相角と演算で使用する位相角との乖離幅Wがどんどん増加していく傾向がある。演算で使用する位相角が不連続になっても理想的なパルスパターンを出力できる点では
図14に示す方式のほうが有利である。
図15に示す方式を過渡状態にも適応すると、実際の位相角と演算で使用する位相角との乖離幅Wが増加していき損失低減効果の減少を招く虞がある。本実施形態ではこれを回避することができる。
【0050】
また、第2三角波生成部52において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号は、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に続いて回転速度を積分していった位相角に基づくものである。これにより、定常状態時に負荷変動が生じても制御周期で位相角が不連続になることなく、定常状態において負荷変動が生じた場合にパルスの欠落を防止することができる。
【0051】
また、位相角波形を三角波にすることでマップ情報のデータ数もしくはパルス対称性を考慮して演算を減らすことができる。
その結果、定常状態において負荷変動が生じた場合でもパルスが欠落することなく最適パルスが実現できるとともに過渡状態のときにおいて乖離幅Wを小さくでき損失低減の向上が図られる。
【0052】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)インバータ装置10の構成として、正負の母線Lp,Ln間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子Q1~Q6を有し、スイッチング素子のスイッチング動作に伴い直流電圧を交流電圧に変換してモータ60に供給するインバータ回路20を備える。d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を変調率Mに変換する変調率計算部54と、演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に対し最新値に更新した位相角に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号(三角波)を生成する第1信号生成部としての第1三角波生成部51を備える。演算周期毎に前回から回転速度を積分している位相角に続いて回転速度を積分していった位相角に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号(三角波)を生成する第2信号生成部としての第2三角波生成部52を備える。回転角速度指令値(指令速度)ω*に基づいて過渡状態であるか定常状態であるかを判定する状態判定部50を備える。状態判定部50により過渡状態時においては第1三角波生成部51において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択し、定常状態時においては第2三角波生成部52において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号を選択する切替部56を備える。変調率計算部54において変換した変調率Mをモジュレーション電圧Vmに制御周期毎に変換するモジュレーション電圧生成部55を備える。コンパレータ53を備える。コンパレータ53は、切替部56により選択されたu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号とモジュレーション電圧生成部55において変換したモジュレーション電圧Vmとを比較する。そして、インバータ回路20における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力する。
【0053】
よって、過渡状態と定常状態とで場合分けをして、
図14に示す方式と
図15に示す方式とを使い分ける。これにより、定常状態において負荷変動が生じた場合にパルスの欠落を防止することができるとともに過渡状態において損失低減の向上を図ることができる。
【0054】
(2)第1三角波生成部51及び第2三角波生成部52において生成するu,v,w相の電圧指令値に対応する波形の信号は、三角波である。よって、パルス対称性を利用してパルス演算回数を削減することができる。
【0055】
(3)状態判定部50は、取得した回転角速度ωと回転角速度指令値(指令速度)ω*との差が閾値以上であると過渡状態であると判定するとともに、差が閾値未満であると定常状態であると判定する。よって、過渡状態であるか定常状態であるかの判定を正確に行うことができる。
【0056】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○
図3及び
図6では位相角から三角波を生成したが、これに代わり
図10及び
図11に示すように、第1正弦波生成部51j及び第2正弦波生成部52jを用いて位相角から正弦波を生成してもよい。この場合、第1正弦波生成部51j及び第2正弦波生成部52jはそれぞれ第1信号生成部及び第2信号生成部となる。
【0057】
○ センサ駆動に代わりセンサレス駆動としてもよく、位相角θ、回転角速度ωは推定値でもよい。
○
図2での状態判定部50における判定式は、(ω-ω*)≧Kであったが、これに代わり、回転角速度指令値(指令速度)ω*についての今回値と前回値の差から判定してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…インバータ装置、20…インバータ回路、50…状態判定部、51…第1三角波生成部、52…第2三角波生成部、53…コンパレータ、54…変調率計算部、55…モジュレーション電圧生成部、56…切替部、60…モータ、M…変調率、Lp,Ln…正負の母線、Q1~Q6…スイッチング素子、Vd*,Vq*…d,q軸電圧指令値、Vm…モジュレーション電圧。