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  • 特許-繊維状セルロース 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】繊維状セルロース
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/16 20060101AFI20220119BHJP
   C08B 15/04 20060101ALI20220119BHJP
   C08B 15/05 20060101ALI20220119BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
B28C7/16
C08B15/04
C08B15/05
C09K3/00 Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018247161
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020094163
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018232042
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100142295
【弁理士】
【氏名又は名称】深海 明子
(72)【発明者】
【氏名】田中 利奈
(72)【発明者】
【氏名】堤 ▲祥▼行
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩己
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-34461(JP,A)
【文献】特開2012-96530(JP,A)
【文献】特開平11-10630(JP,A)
【文献】特開2017-25235(JP,A)
【文献】特開2019-123793(JP,A)
【文献】特開2019-82101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C08B 15/04
C08B 15/05
B28C 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム粉末と混合してコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造するために用いられる繊維状セルロースであって、
該繊維状セルロースが、イオン性基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下である微細繊維状変性セルロースを含む、繊維状セルロース。
【請求項2】
前記繊維状セルロースの粘度(固形分濃度0.4%分散液、23℃)が、500mPa・s以上である、請求項1に記載の繊維状セルロース。
【請求項3】
前記繊維状セルロースの下記式(1)で表されるチクソトロピックインデックス(TI値)が30以上である、請求項1または2に記載の繊維状セルロース。
TI値
=(せん断速度1/sにおける粘度)/(せん断速度1000/sにおける粘度) (1)
上記粘度は、23℃、固形分濃度0.4%分散液での粘度である。
【請求項4】
前記コンクリートポンプ圧送用先行剤の固形分中の炭酸カルシウム粉末の含有量が、50質量%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の繊維状セルロース。
【請求項5】
前記炭酸カルシウム粉末100質量部に対する繊維状セルロースの混合量が0.0001質量部以上100質量部以下である、請求項1~4のいずれかに記載の繊維状セルロース。
【請求項6】
前記炭酸カルシウム粉末が、多孔質炭酸カルシウム粉末を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の繊維状セルロース。
【請求項7】
さらに顔料、酸化防止剤、およびpH調整剤から選択される少なくとも1つと混合する、請求項1~6のいずれかに記載の繊維状セルロース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セルロース、とくに、炭酸カルシウム粉末と混合してコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造するために用いられる繊維状セルロースに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の基礎工事やコンクリート製建築物の建設工事では、コンクリートを所定の場所に打ち込む作業が実施される。
近年では、コンクリートポンプ車を用いて、ホッパーに供給されたコンクリートを所定の打設場所に搬送する方法が広く採用されている。この方法では、コンクリートポンプ車を用いてホッパー内のコンクリートを配管内に圧送し、配管を通してコンクリートを目的の打設場所に搬送する。そして、コンクリートポンプと配管を用いてコンクリートを圧送する場合、ホッパー内に水と圧送用先行剤としてのセメントと混ぜたセメントペーストやモルタルを圧送用先行剤として予め充填しておき、この圧送用先行剤を最初に配管内に送り込み、その後、ホッパー内に生コンクリートを流し込みながら生コンクリートを連続的に配管内に送り込んで圧送する。このように、圧送用先行剤を先に送り込むのは、何も処理せずに硬化前の生コンクリート(流動コンクリート)を導入すると、コンクリートを構成する成分のうち、モルタル分(セメントペースト)だけがポンプや配管内部の表面に付着し、それとともにモルタル分を失ったコンクリートの先端部が次第に分離して配管を閉塞させてしまうことがあるからである。
【0003】
セメントペーストやモルタルを圧送用先行剤として用いる方法では、輸送中やコンクリート打ち込み先での待機中にその硬化反応が進行するため、コンクリート打ち込み作業の綿密な管理計画を立てる必要がある。また、この方法は圧送用先行剤であるセメントペーストやモルタルなどによる所要の効果を得るためにその使用量を多く設定する必要があり、さらに、圧送用先行剤に使用したセメントペーストやモルタルは廃棄の必要があるため、経済性に欠くだけではなく、セメントペーストやモルタルがコンクリートの品質に悪影響を与える可能性が高い。
【0004】
特許文献1には、少量の使用でコンクリートの圧送をなめらかに開始することができるコンクリートポンプ用圧送開始剤を実現することを目的として、吸水性樹脂を含むコンクリートポンプ用圧送開始剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-34461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された圧送用先行剤では、吸水性樹脂を使用するなど、経済性に劣り、また、使用条件によっては、吸水性樹脂の吸水が十分に行われないなど、問題があった。
本発明は、分散安定性および圧送性に優れた、炭酸カルシウム粉末を含有するコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造するために使用される繊維状セルロースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、イオン性基で置換され、かつ繊維幅が1000nm以下である微細繊維状変性セルロースを含有する繊維状セルロースを採用することにより、上記の課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の<1>~<7>に関する。
<1> 炭酸カルシウム粉末と混合してコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造するために用いられる繊維状セルロースであって、該繊維状セルロースが、イオン性基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下である微細繊維状変性セルロースを含む、繊維状セルロース。
<2> 前記繊維状セルロースの粘度(固形分濃度0.4%分散液、23℃)が、500mPa・s以上である、<1>に記載の繊維状セルロース。
<3> 前記繊維状セルロースの下記式(1)で表されるチクソトロピックインデックス(TI値)が30以上である、<1>または<2>に記載の繊維状セルロース。
TI値
=(せん断速度1/sにおける粘度)/(せん断速度1000/sにおける粘度) (1)
上記粘度は、23℃、固形分濃度0.4%分散液での粘度である。
<4> 前記コンクリートポンプ圧送用先行剤の固形分中の炭酸カルシウム粉末の含有量が、50質量%以上である、<1>~<3>のいずれかに記載の繊維状セルロース。
<5> 前記炭酸カルシウム粉末100質量部に対する繊維状セルロースの混合量が0.0001質量部以上100質量部以下である、<1>~<4>のいずれかに記載の繊維状セルロース。
<6> 前記炭酸カルシウム粉末が、多孔質炭酸カルシウム粉末を含有する、<1>~<5>のいずれかに記載の繊維状セルロース。
<7> さらに顔料、酸化防止剤、およびpH調整剤から選択される少なくとも1つと混合する、<1>~<6>のいずれかに記載の繊維状セルロース。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分散安定性および圧送性に優れた、炭酸カルシウム粉末を含有するコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造するために使用される繊維状セルロースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、リン酸基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度との関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[繊維状セルロース]
本発明の繊維状セルロースは、炭酸カルシウム粉末と混合してコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造するために用いられ、該繊維状セルロースが、イオン性基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下である微細繊維状変性セルロース(以下、単に「微細繊維状変性セルロース」ともいう)を含有する。
本発明の繊維状セルロースを、炭酸カルシウムを含有する圧送用先行剤に添加することにより、分散安定性に優れ、かつ、圧送性に優れるコンクリートポンプ圧送用先行剤(以下、「圧送用先行剤」または「先行剤」ともいう)が得られる。
上記の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように推定される。
微細繊維状変性セルロースを含有する繊維状セルロースは、水に添加してスラリー状とすることによって、高い増粘効果および高い粒子分散効果を発揮する。一方で、該スラリーは、チクソトロピー性を有し、せん断応力を受けた場合に粘度が低下する。
炭酸カルシウムと混合してコンクリートポンプ圧送用先行剤とすると、先行剤として実際に配管内に圧送する場合には圧送用先行剤は水を含有するため、これにより、炭酸カルシウムに対して高い分散安定性を付与するとともに、優れた圧送性が得られるものと考えられる。とくに、微細繊維状セルロースがイオン性基を有することにより、炭酸カルシウムに対する高い分散安定性と、優れた圧送性が得られたものと考えられる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0011】
<微細繊維状変性セルロース>
本発明の繊維状セルロースは、微細繊維状変性セルロースを含有し、該微細繊維状変性セルロースは、繊維幅が1,000nm以下の繊維状セルロースであり、かつ、イオン性基で置換されている。なお、繊維状セルロースおよび微細繊維状変性セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
繊維状セルロースは、微細繊維状変性セルロースを含有し、さらに、繊維幅が1,000nm以下の未変性微細繊維状セルロース、繊維幅が1,000nmを超える未変性繊維状セルロース、繊維幅が1,000nmを超え、イオン性基で置換されている繊維状変性セルロースを含有してもよい。
繊維状セルロース中の微細繊維状変性セルロースの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。なお、本発明において、繊維状セルロースとして、微細繊維状変性セルロースと、繊維幅が1000nmを超える未変性繊維状セルロースとを混合して用いる態様や、繊維状セルロースが微細繊維状変性セルロースに加えて、少量の未変性微細繊維状セルロースや、繊維幅が1000nmを超える変性または未変性セルロースを含有する態様を含むものである。
【0012】
微細繊維状変性セルロースの繊維幅は、100nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、8nm以下であることがさらに好ましい。また、繊維幅は2nm以上であることが好ましい。
微細繊維状変性セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。微細繊維状変性セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがとくに好ましい。微細繊維状変性セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状変性セルロースによる分散安定性や圧送性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、微細繊維状変性セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0013】
微細繊維状変性セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状変性セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、微細繊維状変性セルロースの平均繊維幅とする。
【0014】
微細繊維状変性セルロースの繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状変性セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状変性セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0015】
微細繊維状変性セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状変性セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状変性セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、分散安定性および圧送性の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0016】
微細繊維状変性セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状変性セルロースの水分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0017】
本実施形態における微細繊維状変性セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。とくに、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状変性セルロースは、後述する微細繊維状変性セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0018】
本実施形態における微細繊維状変性セルロースは、イオン性基を有する。微細繊維状変性セルロースがイオン性基を有することで、分散媒(水)中における繊維の分散性を向上させ、解繊処理における解繊効率を高めることができる。また、炭酸カルシウム粉末と混合してコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造した場合に、炭酸カルシウムの水中での分散性を向上させるとともに、圧送性の向上に寄与する。
イオン性基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。本実施形態においては、イオン性基としてアニオン性基を有することがとくに好ましい。
また、微細繊維状変性セルロースは、イオン性基に加え、非イオン性基が導入されていてもよく、非イオン性基としては、アルキル基およびアシル基が例示される。
【0019】
イオン性基としてのアニオン性基としては、たとえばリン酸基またはリン酸基に由来する基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する基(単にカルボキシ基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基およびカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることがとくに好ましい。
【0020】
リン酸基またはリン酸基に由来する基は、たとえば下記式(1)で表される基であり、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸に由来する基として一般化される。
リン酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リン酸基に由来する基には、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの基が含まれる。なお、リン酸基に由来する基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として微細繊維状変性セルロースに含まれていてもよい。また、リン酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リン酸基に由来する基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
【0021】
【化1】
【0022】
式(1)中、a、bおよびnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α,α,・・・,αおよびα’のうちa個がOであり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αおよびα’の全てがOであっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはn-ブチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、またはt-ブチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基等が挙げられるが、とくに限定されない。
不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、またはアリル基等が挙げられるが、とくに限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、または3-ブテニル基等が挙げられるが、とくに限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、とくに限定されない。芳香族基としては、フェニル基、またはナフチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。
【0023】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖または側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、またはアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加または置換した状態の官能基が挙げられるが、とくに限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数はとくに限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
【0024】
βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、または芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、または水素イオン等が挙げられるが、とくに限定されない。これらは1種または2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、とくに限定されない。
【0025】
繊維状セルロースにおけるイオン性基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維状セルロースにおけるイオン性基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、3.00mmol/g以下であることがよりさらに好ましい。イオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、微細繊維状変性セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、イオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースが分散安定性や圧送性の向上に対して良好な特性を発揮することができる。
ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。
【0026】
繊維状セルロースに対するイオン性基の導入量は、たとえば伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。
図1は、リン酸基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
繊維状セルロースに対するリン酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図1に示すような滴定曲線を得る。図1に示すように、最初は急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このように、滴定曲線には、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。このため、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。従って、上記で得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リン酸基導入量(mmol/g)となる。
【0027】
なお、上述のリン酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリン酸基量(以降、リン酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リン酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリン酸基量(以降、リン酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リン酸基量(C型)=リン酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリン酸基由来の総アニオン量(リン酸基の強酸性基量と弱酸性基量を足した値)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0028】
図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図2に示すような滴定曲線を得る。なお、必要に応じて、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。滴定曲線は、図2に示すように、電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでの第1領域と、その後に伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、カルボキシ基の導入量(mmol/g)となる。
【0029】
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量であることから、酸型の繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)
=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0030】
なお、滴定法によるイオン性基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液の滴定間隔が短すぎる場合、本来より低い置換基量となることがあるため、適切な滴定間隔、たとえば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を30秒に50μLずつ滴定するなどが望ましい。
【0031】
<微細繊維状変性セルロースの製造方法>
(セルロースを含む繊維原料)
微細繊維状変性セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。
セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状変性セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状変性セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状変性セルロースを用いると、該微細繊維状変性セルロースを含有するスラリーの粘度が高くなる傾向がある。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0032】
上述のようなイオン性基を導入した微細繊維状変性セルロースを得るためには、上述したセルロースを含む繊維原料にイオン性基を導入するイオン性基導入工程、洗浄工程、アルカリ処理工程(中和工程)、解繊処理工程をこの順で有することが好ましく、洗浄工程の代わりに、または洗浄工程に加えて、酸処理工程を有していてもよい。イオン性基導入工程としては、リン酸基導入工程およびカルボキシ基導入工程が例示される。以下、それぞれについて説明する。
【0033】
(イオン性基導入工程)
〔リン酸基導入工程〕
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)をセルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リン酸基導入繊維が得られることとなる。
【0034】
本実施形態に係るリン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、とくに乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、とくに水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0035】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが、とくに限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、たとえばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
【0036】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、とくに限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0037】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、とくにトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0039】
リン酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加または混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物A等を含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物A等を混練または撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物A等の濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物A等が表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分および化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、たとえば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0040】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0041】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えばよいが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリン酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリン酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リン酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0042】
繊維原料に対するリン酸基の量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維原料に対するリン酸基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状変性セルロースの安定性を高めることができる。
【0043】
〔カルボキシ基導入工程〕
カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
【0044】
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、とくに限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、とくに限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、とくに限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、とくに限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、とくに限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0045】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、たとえばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。
また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
【0046】
繊維原料に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、2.5mmol/g以下であることが好ましく、2.20mmol/g以下であることがより好ましく、2.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。
【0047】
(洗浄工程)
本実施形態における微細繊維状変性セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりイオン性基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
【0048】
(アルカリ処理工程)
微細繊維状変性セルロースを製造する場合、イオン性基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、イオン性基導入繊維に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、とくに限定されないが、たとえばアルカリ溶液中に、イオン性基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、とくに限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0049】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるイオン性基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、とくに限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、とくに限定されないが、たとえばイオン性基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、イオン性基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、イオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったイオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0051】
(酸処理工程)
微細繊維状変性セルロースを製造する場合、イオン性基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、イオン性基導入繊維に対して酸処理を行ってもよい。たとえば、イオン性基導入工程、酸処理、アルカリ処理および解繊処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、とくに限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中にイオン性基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、とくに限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、とくに限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。
酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることがとくに好ましい。
【0052】
酸処理における酸溶液の温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、とくに限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、とくに限定されないが、たとえばイオン性基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
(解繊処理工程)
イオン性基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。
解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、とくに限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0054】
解繊処理工程においては、たとえばイオン性基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状変性セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、イオン性基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、たとえば水素結合性のある尿素などのイオン性基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0055】
<繊維状セルロースの物性>
(粘度)
本発明において、繊維状セルロースを固形分濃度が0.4%(0.4質量%)に調整した分散液(スラリー)の23℃における粘度は、炭酸カルシウム粉末の分散安定性をより向上させる観点から、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは1.0×10mPa・s以上であり、さらに好ましくは3×10mPa・s以上、よりさらに好ましくは5.0×10mPa・s以上であり、同様の観点から、好ましくは1×10mPa・s以下、より好ましくは7×10mPa・s以下、さらに好ましくは5×10mPa・s以下、よりさらに好ましくは3.5×10mPa・s以下、よりさらに好ましくは2.5×10mPa・s以下、よりさらに好ましくは1.5×10mPa・s以下である。
上記の粘度は、繊維状セルロースの固形分濃度を0.4%に調整したスラリーを1500rpmで5分間、ディスパーサーにて撹拌した後、測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後、B型粘度計を用いて23℃、回転数3rpmの条件で測定する。より具体的には、たとえばB型粘度計であるBLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVTを用いることができる。測定条件は、たとえば液温23℃にて、粘度計の回転数は3rpmにて測定を行い、測定開始から3分のときの粘度値を当該分散液の粘度とする。なお、上記分散液は、繊維状セルロースが完全に溶解していてもよく、分散状態であってもよい。
【0056】
(TI値)
本発明において、繊維状セルロースの下記式(1)で表されるチクソトロピックインデックス(TI値)は、より圧送性に優れる先行剤を得る観点から、好ましくは30以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは60以上、よりさらに好ましくは75以上、よりさらに好ましくは90以上である。
そして、上限はとくに限定されないが、繊維状セルロースの入手容易性および先行剤の分散安定性の観点から、好ましくは600以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは400以下、よりさらに好ましくは350以下である。
TI値
=(せん断速度1/sにおける粘度)/(せん断速度1000/sにおける粘度) (1)
上記粘度は、23℃、固形分濃度0.4%分散液での粘度である。
TI値は、実施例に記載の方法により測定される。
【0057】
[コンクリートポンプ圧送用先行剤]
本発明の繊維状セルロースは、炭酸カルシウム粉末と混合してコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造するために使用される。
本発明において、コンクリートポンプ圧送用先行剤は、通常粉末状またはペースト状であり、使用前に水を加えて分散し、これにより得られる分散液として、コンクリートポンプのホッパー内に投入される。なお、「コンクリートポンプ圧送用先行剤」は、粉末状の状態のみを意味するものではなく、水中に分散された分散液となっているものをも意味する。
従って、本発明において、繊維状セルロースがウェットパウダー状等の粉末状であり、炭酸カルシウムと混合して、全体として粉末状である圧送用先行剤として存在するものであってもよく、繊維状セルロースが分散液の状態(スラリー状)であり、炭酸カルシウムを含む粉末を水分散液とする際に、繊維状セルロースを含有する分散液(スラリー)を添加して、炭酸カルシウムと混合して、先行剤(分散液)としてもよい。
【0058】
本発明において、炭酸カルシウム粉末100質量部に対する繊維状セルロースの混合量は、分散安定性および圧送性に優れる先行剤を得る観点から、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、よりさらに好ましくは0.1質量部以下である。
なお、繊維状セルロースの混合量は、乾燥した繊維状セルロースとしての混合量を意味する。
【0059】
本発明において、先行剤は、少なくとも炭酸カルシウムを含有する。
先行剤の固形分中の炭酸カルシウムの含有量は、分散性および圧送性に優れる観点、並びにコンクリート配管の閉塞を抑制する観点から、好ましくは50質量%、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは99.9質量%以下である。
【0060】
炭酸カルシウムとしては、沈降性炭酸カルシウムのような軽質炭酸カルシウムであってもよく、また、石灰石を粉砕した重質炭酸カルシウムであってもよく、とくに限定されないが、先行剤として優れた性能を得る観点から、粒子径が小さな炭酸カルシウム粉末であることが好ましい。また、粒度調整や成分調整を行った炭酸カルシウム粉末を使用してもよい。
これらの中でも、先行剤として優れた性能を発揮する観点から、多孔質炭酸カルシウム粉末を含有することが好ましい。多孔質炭酸カルシウムとしては、たとえば、生コンスラッジを粒度調整および成分調整して得られた多孔質炭酸カルシウムが挙げられる。
さらに、炭酸カルシウム粉末として、沈降性炭酸カルシウムのように、粒子形状が均一な微粉末炭酸カルシウムを含有してもよい。
【0061】
本発明において、先行剤は、炭酸カルシウム粉末および繊維状セルロースに加えて、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、炭酸カルシウム以外の無機粉体、吸水性樹脂、水溶性樹脂、顔料、酸化防止剤、pH調整剤などが例示される。本発明において、繊維状セルロースは、顔料、酸化防止剤、およびpH調整剤からなる群から選択される少なくとも1つと混合することがより好ましい。
上記炭酸カルシウム以外の無機粉体としては、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイト、酸化カルシウムなどが例示される。また、顔料としては、無機顔料および有機顔料のいずれでもよい。顔料を含有することにより、排出される先行剤の視認性を向上させ、先行剤の排出終了をモニターすることが容易となる。有機顔料としては、視認性の観点から、有機系蛍光顔料がとくに好ましい。
また、酸化防止やpH調整を目的として、エリソルビン酸等の酸化防止剤やpH調整剤を添加してもよい。酸化防止剤、pH調整剤等を添加することにより、先行剤の分散性をより改善するとともに、配管中の腐食や、コンクリートに混入した時の影響が低減される。
【実施例
【0062】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0063】
各実施例および比較例で使用した繊維状セルロースは次の製造例により、製造したものを用いた。
(製造例1)
(リン酸基導入パルプの作製)
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸基導入パルプ(以下、「リン酸化パルプ」ともいう)を得た。次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(強酸性基量)は、1.45mmol/gだった。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0064】
(繊維状セルロース分散液の作製)
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて1回処理し、微細繊維状変性セルロースを含む繊維状セルロース分散液1を得た。X線回折により、この微細繊維状変性セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状変性セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。
なお、後述する測定方法で測定される繊維状セルロースのリン酸基量(強酸性基量)は1.45mmol/g、重合度は680であった。
【0065】
(製造例2)
製造例1において、繊維状セルロースの重合度が590となるように湿式微粒化装置で200MPaの圧力にて2回処理した以外は、製造例1と同様に行い繊維状セルロース分散液2を得た。
【0066】
(製造例3)
製造例1において、繊維状セルロースの重合度が499となるように湿式微粒化装置で200MPaの圧力にて4回処理した以外は、製造例1と同様に行い繊維状セルロース分散液3を得た。
【0067】
(製造例4)
製造例1において、繊維状セルロースの重合度が459となるように湿式微粒化装置で200MPaの圧力にて6回処理した以外は、製造例1と同様に行い繊維状セルロース分散液4を得た。
【0068】
(製造例5)
(リン酸基導入パルプの作製)
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸基導入パルプ(リン酸化パルプ)を得た。次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。洗浄後のリン酸化パルプに対して、さらに上記リン酸化処理、上記洗浄処理をこの順に1回ずつ行った。
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(強酸性基量)は、2.00mmol/gだった。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0069】
(繊維状セルロース分散液の作製)
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて1回処理し、微細繊維状変性セルロースを含む繊維状セルロース分散液5を得た。X線回折により、この微細繊維状変性セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状変性セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。
なお、後述する測定方法で測定される繊維状セルロースのリン酸基量(強酸性基量)は2.00mmol/g、重合度は625であった。
【0070】
(製造例6)
製造例5において、繊維状セルロースのリン酸基量が2.00mmol/g、重合度が536となるように湿式微粒化装置で200MPaの圧力にて2回処理した以外は、製造例1と同様に行い繊維状セルロース分散液6を得た。
【0071】
(製造例7)
製造例5において、繊維状セルロースのリン酸基量が2.00mmol/g、重合度が482となるように湿式微粒化装置で200MPaの圧力にて4回処理した以外は、製造例5と同様に行い繊維状セルロース分散液7を得た。
【0072】
(製造例8)
製造例5において、繊維状セルロースのリン酸基量が2.00mmol/g、重合度が444となるように湿式微粒化装置で200MPaの圧力にて6回処理した以外は、製造例5と同様に行い繊維状セルロース分散液8を得た。
【0073】
(製造例9)
(亜リン酸基導入パルプの作製)
リン酸二水素アンモニウムの代わりに亜リン酸(ホスホン酸)33質量部を用いた以外は、製造例1と同様に操作を行い、亜リン酸基導入パルプ(以下、「亜リン酸化パルプ」ともいう。)を得た。
次いで、得られた亜リン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、亜リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するように撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。濾液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
次いで、洗浄後の亜リン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後の亜リン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずる添加することにより、pHが12以上13以下の亜リン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該亜リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施された亜リン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後の亜リン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られた亜リン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。
また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0074】
(繊維状セルロース分散液の作製)
得られた亜リン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状変性セルロースを含む繊維状セルロース分散液9を得た。X線回折により、この微細繊維状変性セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状変性セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。
なお、後述する測定方法で測定される繊維状セルロースの亜リン酸基量(強酸性基量)は1.80mmol/g、重合度は430であった。
【0075】
(製造例10)
(カルボキシ基導入パルプの作製)
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対してTEMPO酸化処理を次のようにして行った。
まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部とを、水10,000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して10mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
次いで、得られたカルボキシ基導入パルプ(以下、「TEMPO酸化パルプ」ともいう)に対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5,000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。濾液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
また、得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0076】
(繊維状セルロース分散液の作製)
得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状変性セルロースを含む繊維状セルロース分散液10を得た。
なお、後述する測定方法で測定される繊維状セルロースのカルボキシ基量は1.80mmol/g、重合度は336であった。
【0077】
<測定方法>
(繊維状セルロース分散液のイオン性基量の測定)
繊維状セルロースのイオン性基量は、対象となる微細繊維状変性セルロースを含む繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状変性セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ(株)製、コンディショニング済)を加え、振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。イオン性基量(mmol/g)は、計測結果のうち図1または2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
【0078】
(繊維状セルロースの重合度の測定)
繊維状セルロースの重合度は、Tappi T230に従い測定した。すなわち、測定対象の繊維状セルロースを分散媒に分散させて測定した粘度度(ηとする)、および分散媒体のみで測定したブランク粘度(ηとする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定した。
ηSP=(η/η)-1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の繊維状セルロースの濃度を示す。
さらに、下記式から繊維状セルロースの重合度(DP)を算出した。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
【0079】
(繊維状セルロース分散液の粘度の測定)
繊維状セルロース分散液の粘度は、次のように測定した。まず、繊維状セルロース分散液を固形分濃度が0.4%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて1,500rpmで5分間撹拌した。次いで、これにより得られた分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
【0080】
(レオメーターによる繊維状セルロース分散液の粘度の測定)
繊維状セルロース分散液をイオン交換水で固形分濃度0.4%に希釈した後、レオメーター(HAAKE社製、RheoStress6000)を用いて粘度を測定した。なお、せん断速度については、下記の条件で変化させた。
測定温度:23℃
測定治具:コーンプレート(直径40mm、角度1°)
せん断速度:0.001~1000sec-1
データ点数:100点
データ分布:Log間隔
測定時間:5分
【0081】
(TI値の算出)
粘度をレオメーターにより測定し、せん断速度1sec-1の条件で測定した粘度の値(η)を、せん断速度1,000sec-1の条件で測定した粘度の値(η)で除して得られる値を、チキソトロピックインデックス値(TI値)とした。
すなわち、TI値は下記式で定義した。
TI値=η/η
η1:せん断速度1sec-1の条件で測定した粘度
η2:せん断速度1,000sec-1の条件で測定した粘度
【0082】
(モデル圧送用先行剤の作製)
(実施例1)
多孔質炭酸カルシウム100質量部、水200質量部を混合し、そこへ繊維状セルロース分散液1を固形分として0.015質量部添加し、よく混合し、モデル圧送用先行剤を作製した。
【0083】
(実施例2~10)
繊維状セルロース分散液1の代わりに、上記製造例2~10により得られた繊維状セルロース分散液2~10をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、モデル圧送用先行剤を作製した。
【0084】
(比較例1)
繊維状セルロース分散液1の代わりに、繊維状セルロース分散液11((株)スギノマシン製、IMa-10002)を使用した以外は、実施例1と同様にして、モデル圧送用先行剤を作製した。
【0085】
(比較例2)
グアーガム(東京化成工業(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、モデル圧送用先行剤を作製した。
【0086】
(参考例)
繊維状セルロース分散液1の代わりに、水を使用した以外は実施例1と同様にして、モデル圧送用先行剤を作製した。
【0087】
<評価方法>
(分散安定性評価)
実施例1~10、比較例1および2、並びに参考例のモデル圧送用先行剤を固形分濃度1%となるようにイオン交換水で希釈し、10mLスクリューバイアル瓶(アズワン(株)製)に分取して5分間静置した。バイアル瓶底面から液面までの距離は3cmとした。以下の評価基準で分散安定性を評価した。結果を表1に示す。
A:分離することなく、良好な分散安定性を示す
B:若干の分離はあるものの、使用上問題ない分散安定性を示す
C:著しい分離が見られ、使用できない
また、実施例1および比較例1について、スクリュー瓶内の液面と分離によって生じる水との界面の間の距離を計測した。結果を表2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
[結果]
表1に示すように、実施例1、3、4、7、8のモデル圧送用先行剤の希釈液では経時に伴う炭酸カルシウムの分離が見られず、良好な分散安定性を示した。また、実施例2、5、6、9、10では、若干の分離はあるものの、使用上問題ない分散安定性を示した。一方、比較例および参考例では、著しい分離が見られた。
また、表2に示すように、スクリュー瓶内の液面と分離によって生じる水との境界面の間の距離は、比較例1に比べて実施例1で顕著に少なく、長時間静置しても分離を抑制して、高い分散安定性を示すことが示された。
上記の結果から、イオン性基で置換された微細繊維状変性セルロースを含有する繊維状セルロースを添加した圧送用先行剤では、炭酸カルシウムの分散安定性が向上することが示された。
【0091】
(圧送性評価)
50mLディスポシリンジ(テルモ(株)製)に実施例1、比較例1および2、並びに参考例のモデル圧送用先行剤を10g詰め、全量の押出に要した時間を計測した。このときの押出圧力は約0.1kPaであった。結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
[結果]
実施例1は所要時間が30秒程度とスムーズに押出せたことを示しており、微粒子の分散安定化に効果的に作用していることが示唆された。一方、比較例1および2、並びに参考例1では、実施例1の2倍以上の押出時間が必要であった。
本発明の繊維状セルロースを含有する圧送用先行剤では、分散安定性に優れるとともに、圧送時にはより低い圧力で圧送可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の繊維状セルロースにより、分散安定性および圧送性に優れた、炭酸カルシウム粉末を含有するコンクリートポンプ圧送用先行剤を提供することができ、少量の使用で、配管を通してコンクリートの圧送を円滑に開始することが期待される。
図1
図2