(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】円筒体表面検査装置および円筒体表面検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/952 20060101AFI20220119BHJP
G01N 21/892 20060101ALI20220119BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20220119BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220119BHJP
G06T 7/70 20170101ALI20220119BHJP
【FI】
G01N21/952
G01N21/892 C
G01B11/30 A
G06T7/00 300G
G06T7/70 A
(21)【出願番号】P 2018512346
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2018007917
(87)【国際公開番号】W WO2018168510
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017052310
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 洋樹
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-195169(JP,A)
【文献】特開2004-108828(JP,A)
【文献】特開2007-71562(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0192243(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/952
G01N 21/892
G01B 11/30
G06T 7/00
G06T 7/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
前記円筒体の表面に線状の光を照射するとともに、前記円筒体の中心軸の方向、前記線状の光の長手方向、および前記2次元で撮像する際の主走査方向を、互いに平行となるようにする、請求項3に記載の円筒体表面検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物体を製造する工程において使用される円筒体の表面を検査する円筒体表面検査装置、および円筒体表面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムなどのシート状物体の製造工程では、搬送、延伸などのために円筒体の搬送ロールが複数使用されている。それら搬送ロールのロール表面の表面変形や異物の付着などにより、シート状物体の表面にロール表面の凹凸形状が転写され、ロール径の周期で連続的に欠点(周期欠点)が発生することがある。この周期欠点は、製造工程内や製品出荷前に、ヒトや欠点検出装置による検査で発見し、品質保証や工程改善に繋げている。
【0003】
しかし近年、フィルムなどのシート状物体への品質要求は厳しさを増しており、単に周期欠点の有無を判定するのみならず、欠点の強度が非常に小さなレベルまでを保証することを求められている。これに伴い、欠点検出装置の設定を厳しくして、シート状物体の欠点を数多く検出し、それらに対して周期判定を実施することが進められている。
【0004】
また、欠点の発生源となる搬送ロールについては、異物の付着に対しては異物を除去するためのロール表面全面の清掃作業を行うことで発生源対策を実施している。しかし、ロール表面の変形に対しては清掃作業では対処できないため、ロール表面の変形箇所を特定し、局所的な凹凸除去作業として研磨作業や膜形成作業を実施することで対処している。よって、表面変形の対処にはその変形箇所を確実に特定したうえで凹凸除去作業を実施する必要がある。
【0005】
この表面変形箇所の特定はヒトによる目視検査を実施するのが一般的である。しかし、近年の品質要求の厳しさから、より小さくかつ変化の少ないロール表面の変形を検出する必要があり、作業の難易度から検出には自動検査装置を用いることがある。
【0006】
自動検査装置は目視検出に比べて高精度かつ高感度な検出を安定的に実現することが期待できるが、様々な理由、例えば検査対象ロールが複数存在するのに対し、自動検査装置の台数が検査対象ロールの本数に対応する台数より少ないなどの理由により、自動検査装置の検査対象ロールへの常設は困難な場合がある。
【0007】
そのような場合、自動検査装置は必要に応じて検査対象ロールの近傍に一時的に設置することとなるが、あらかじめ定める設定に従って高精度に自動検査装置を設置する必要がある。特に、シート状物体の製造工程など連続搬送プロセスで一般的に用いられるラインセンサーカメラを採用した自動検査装置では、自動検査装置の照明、センサーおよび検査対象ロール相互の距離、角度、平行度などを高精度に調整する必要がある。また、単純な正反射光学系では搬送ロールの表面変形が凹状なのか凸状なのか判別することが困難であるので、一般的には照明とカメラの光軸とを正反射から幾分ずらした軸ずらし正反射もしくは反射屈折と呼ばれる光学系条件で検査するのが望ましい。
【0008】
しかし、自動検査装置の調整に必要な光学技術に関する知見を有さない者では光学系の調整は非常に困難であるので、仮設する自動検査装置では、自動検査装置に期待する検査性能を安定して発現させることは困難であった。
【0009】
この自動検査装置の調整が難しいという問題に対して、従来からエリアセンサーを用いた自動検査装置でこの課題を対処する方法が提案されている。ここでエリアセンサーを用いた検査方法の手法について、特許文献1を用いて説明する。
【0010】
特許文献1の技術では、以下に説明する手順の画像入力方法により、エリアセンサーカメラを用いながらも、あたかもラインセンサーカメラで撮像を行うかのような効果を得ている。
(i) 相対的に移動する被測定物表面に照明手段により一方向から照明光を照射する。
(ii) 照射光が被測定物表面で反射した反射光を、部分読み出し可能な2次元光学素子による撮像手段を用いて撮像する。
(iii) 撮像手段により撮像して取得した2次元画像の被測定物の移動方向に相当する副走査方向の画素列毎の反射光分布に基づいて、副走査方向の画素列で最も明るくなる輝線が位置する画素を特定する。
(iv) 上記(iii)で特定した画素から規定のオフセット位置に存在する画素とその画素に隣接する画素とを含む複数画素を選択する。
(v) 上記(iv)で選択した複数画素の光量の和または平均値により、副走査方向と直交する主走査方向のライン画像を求める。
(vi) 上記(v)で求めたライン画像を主走査画像とし、連続して複数回撮像することにより副走査を行ない、被測定物表面の2次元画像を得る。
【0011】
特許文献1の技術では、上記(iii)~(v)の手順でライン画像を求めることで、被測定物体表面、光源および撮像系の相対位置を一定に保つことなく、被測定物体表面を検査できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示されているような手法では、自動検査装置の位置の調整が不足しているときに、凹凸欠点を検出することは困難であった。
【0014】
図15は、従来技術において、被検出物体表面と、光源および撮像系との相対位置が平行方向にずれた場合の2次元撮像部と照明部との位置関係を示す説明図である。
図16は、従来技術において、被検出物体表面と、光源および撮像系との相対位置が垂線方向にずれた場合の2次元撮像部と照明部との位置関係を示す説明図である。
図17Aは、従来技術において、被検出物体表面の輝線幅に変化が生じる場合であって、輝線幅が想定太さの場合の走査位置の例を示す説明図である。
図17Bは、従来技術において、被検出物体表面の輝線幅に変化が生じる場合であって、輝線幅が想定太さよりも細い場合の走査位置の例を示す説明図である。特許文献1の技術では、被検出物体100の表面の副走査方向の最も明るくなる輝線位置(輝線中心)を走査方向毎に検出し、その輝線位置から一定のオフセット位置に存在する画素とその画素に隣接する画素とを含む複数画素を選択している。そのため、例えば
図15に示すように、被検出物体100の表面と照明部101および2次元撮像部102の相対位置が接線L方向にずれた場合、すなわち撮像した被検出物体100の表面からの反射光による輝線が相対位置のずれに応じて平行移動する場合には有効である。なお、ここでいう接線とは、撮像光学系の光軸と被検出物体表面との交点における接線である。ところが、
図16に示すように、被検出物体100の表面と、照明部101および2次元撮像部102との間の距離が被検出物体100の表面からみて垂線N方向に変化すると、
図17A、
図17Bに示すように輝線の幅に変化が生じる。例えば輝線が細くなるような状況(
図17B参照)に対しては、上記(iv)の手順での画素の選択位置(走査位置)が輝線の外にはみ出す場合があると考えられ、この場合は被検出物体表面の高低差を検知できず、凹凸を検知することは困難である。
【0015】
以上に鑑みて、本発明の目的は、円筒体の表面を検査する円筒体表面欠点検査において、円筒体の表面と検査装置との相対位置が変化したとしても、安定かつ高精度に検査することが可能な円筒体表面検査方法と、それを実現する円筒体表面検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を達成する本発明の円筒体表面検査装置は、検査位置において一方向に相対的に移動する円筒体の表面を検査する円筒体表面検査装置であって、
前記円筒体に対して光を照射する光照射部、
前記光照射部から照射されて前記円筒体の表面で反射した光を受光する位置に配置された2次元撮像部、
前記2次元撮像部によって得られた2次元画像データに対して、あらかじめ定められた周期で前記2次元画像データの第1の方向の走査位置であって、前記円筒体の周方向に対応する走査位置を決定する走査位置決定部、
前記2次元画像データのうち、前記走査位置決定部において決定された走査位置における前記第1の方向と垂直な第2の方向の画像データの取り出しを、前記2次元撮像部が得た複数の前記2次元画像データに対して行い、取り出した前記第2の方向の各画像データを時系列順に、前記第1の方向に並べて時系列走査画像を生成する時系列走査画像生成部、および、前記時系列走査画像を検査して欠点を検出する検査部、で構成され、
前記走査位置決定部が、
前記2次元撮像部で得られた2次元画像データから、前記第1の方向の各位置における前記第2の方向の各画素の輝度の積算値を算出し、それらを前記第1の方向に並べた輝度のプロファイルを作成する輝度プロファイル作成部、
前記輝度プロファイル作成部が作成した前記輝度のプロファイルから、輝度の最も高いピーク位置を算出する輝度ピーク位置算出部、
前記輝度ピーク位置算出部が算出した輝度のピーク位置の輝度を計測する輝度計測部、
前記輝度プロファイル作成部が作成した輝度のプロファイルから、前記輝度計測部が計測したピーク位置の輝度にあらかじめ定めた1未満の係数倍値を掛けた輝度に対応する前記第1の方向の位置を算出する輝度低下位置算出部、
および、前記輝度低下位置算出部が算出した位置を、前記走査位置として保持する走査位置保持部、で構成される。
【0017】
本発明の円筒体表面検査装置は、前記光照射部は線状の光源であり、前記円筒体の中心軸の方向、前記線状の光源の長手方向、および前記2次元撮像部の前記第2の方向が、互いに平行に配置されることが好ましい。
【0018】
また、上記課題を達成する本発明の円筒体表面検査方法は、円筒体の表面を検査する円筒体表面検査方法であって、
検査位置において一方向に円筒体を相対的に移動させながら、円筒体に対して光を照射し、
前記照射した光が円筒体の表面で反射した光を2次元で撮像し、
あらかじめ定めた周期でのみ2次元画像データの第1の方向の走査位置であって、前記円筒体の周方向に対応する走査位置を決定し、
前記2次元画像データのうち、前記決定した前記第1の方向の各位置における前記第1の方向と垂直な第2の方向の画像データの取り出しを、複数の前記2次元画像データに対して行い、取り出した前記第1の方向の各画像データを時系列順に、前記第1の方向に並べて時系列走査画像を生成し、
前記時系列走査画像を検査して欠点を検出する手順を含み、
前記走査位置を、
前記2次元画像データから前記第1の方向の各位置における前記第2の方向の各画素の輝度の積算値を算出し、それらを前記第1の方向に並べて輝度のプロファイルを求め、
前記輝度のプロファイルから、輝度の最も高いピーク位置の輝度にあらかじめ定めた1未満の係数倍値を掛けた輝度に対応する前記第1の方向の位置とする。
【0019】
本発明の円筒体表面検査方法は、前記円筒体の表面に線状の光を照射するとともに、前記円筒体の中心軸の方向、前記線状の光の長手方向、および前記2次元で撮像する際の主走査方向を、互いに平行となるようにすることが好ましい。
【0020】
本発明における「一方向に相対的に移動する円筒体」とは、検査位置においてあらかじめ定められた一方向に連続移動する円筒体を指す。例えばフィルムの搬送に用いられる搬送ロールのような一方向に回転する対象でもよいし、フィルムなどのシート製品を巻いた製品ロールでもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、自動検査装置を構成する光学系の調整が簡便な、一方向に相対的に移動する円筒体の表面を検査できる円筒体表面検査装置及び円筒体表面検査方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態における、搬送ロールの構成を示す説明図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態における、検査構成の説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態における、検査構成の要部の説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態における、時系列走査画像の取得方法の説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態における、走査位置の決定フローの説明図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の一実施形態において、被検出物体表面の輝線幅に変化が生じた場合の走査位置の例を示す説明図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の一実施形態において、被検出物体表面の輝線幅に変化が生じた場合の走査位置の例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態における、2次元画像の撮像結果の例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態における、2次元画像からの垂直方向プロファイルの取得結果の例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態における、最大輝度ピーク位置の算出方法の説明図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態における、時系列走査画像の生成結果の例を示す説明図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態における、明閾値による2値化処理の結果の例を示す説明図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態における、暗閾値による2値化処理の結果の例を示す説明図である。
【
図13】
図13は、本発明の一実施形態における、2値化処理画像の論理和演算結果の例を示す説明図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施形態における、膨張収縮処理結果の例を示す説明図である。
【
図15】
図15は、従来技術において、被検出物体表面と、光源および撮像系との相対位置が平行方向にずれた場合の2次元撮像部と照明部との位置関係を示す説明図である。
【
図16】
図16は、従来技術において、被検出物体表面と、光源および撮像系との相対位置が垂線方向にずれた場合の2次元撮像部と照明部との位置関係を示す説明図である。
【
図17A】
図17Aは、従来技術において、被検出物体表面の輝線幅に変化が生じる場合の走査位置の例を示す説明図である。
【
図17B】
図17Bは、従来技術において、被検出物体表面の輝線幅に変化が生じる場合の走査位置の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
以下、本発明の最良の実施形態を、フィルムなどのシート状物を搬送する搬送ロール(以下、単に「ロール」ともいう)を検査するロール表面検査装置に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明は以下の説明に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施例は改変することができる。
【0025】
最初に、フィルムなどのシート状物を搬送する搬送ロール設備を
図1に示す。
図1は、搬送ロールの構成を示す説明図である。符号1は円筒体のロール本体であり、表面にフィルムなどシート状物を接触させながら一方向に回転することで搬送する。符号2はロール本体1の芯で、符号3はロールの軸受けである。なお、ロール本体1の表面には、凹形状をなす表面欠点4が存在している。自動検査においては、ロール本体1は電気モータなどから伝達された動力で等速に回転するのが好ましいが、ロール本体1を手動で回転させてシャフトエンコーダやロータリーエンコーダなどを用いてロール本体1の回転量を監視することで適切な撮像タイミング制御を行ってもよいし、電気モータなどの外部動力で等速回転させながらシャフトエンコーダやロータリーエンコーダなどを用いてロール本体1の回転速度を監視することで適切な撮像タイミング制御を行ってもよい。
【0026】
次に、ロール本体1の検査構成を
図2に示す。
図2はロール本体1表面を検査するロール表面欠点検査装置の構成を説明する図である。
図2において、ロール本体1は、ロール本体1の長手方向と直交し、かつ表面欠点4を通過する平面を切断面とする断面を示している。符号5は光照射部で、ロール本体1に光を照射している。光照射部5は、蛍光灯、ハロゲン光源、メタルハライド光源、キセノン光源、またはLED光源のいずれであってもよい。また、特定の波長特性を有している光源や、特定の指向性を有する光源であってもよい。好ましくは、一方向に長い投光部位を有しており、また投光部位から照射される光量が略均一な線状の光源である。ここでは、LED照明を使用し、複数のLED光源を横一列(
図2の紙面と直交する方向)に配置して一方向への高い指向性を持つ略均一な光として照射する光源で説明する。また、LED照明の長手方向は、検査幅方向と略平行としている。このLED照明の長手方向は、ロール本体1の回転軸に平行な面を考え、その面内で回転させてもよい。
【0027】
符号6は2次元撮像部であり、光照射部5から照射されて、ロール本体1の表面で反射した反射光および散乱光を受光するように配置されている。2次元撮像部6はエリアセンサーカメラ6aとレンズ6bから構成されている。エリアセンサーカメラ6aは、2次元に構成された複数の光電変換素子を有する。各光電変換素子は、感度がよく、ノイズに強く、素子間の感度の差異が小さいことが好ましい。また、すべての光電変換素子が同時に露光制御できることが好ましい。ここでは全光電変換素子の同時露光制御が可能なグローバルシャッタ方式のエリアセンサーカメラを用い、その光電変換素子の水平方向、すなわち主走査方向(第2の方向)の並び方向が、光照射部5(線状の光源)の長手方向と略平行である。
【0028】
2次元撮像部6は、光照射部5がロール本体1に光を照射する角度と、2次元撮像部6がロール本体1からの反射または散乱光を受光する角度とが同じであること、すなわち正反射条件が成立する範囲に配置する。
【0029】
また、2次元撮像部6は、欠点種類によって光量分布や何かしらの光学的差異を得るために、偏光フィルタや、波長選択フィルタなどの光学的補助手段を用いてもよい。
【0030】
図3は、本発明の一実施形態における、検査構成の要部の説明図である。
図3は、
図2の矢視Q方向に対応する構成図に対応する。
図3に示す平面P
Nは、2次元撮像部6の光軸と平行、かつロール本体1の長手軸と垂直な平面を示している。光照射部5が出射する発光面5aの形状は矩形をなす。発光面5aの長手方向はロール本体1の長手軸に平行である。また、発光面5aは、ロール本体1の検査面を通じて2次元撮像部6との正反射光軸に対して直交するように配置されている。発光面5aの長手方向の長さは、計測上は無限遠と見なせるように、2次元撮像部6の撮像する画角αで規定される広がり角度よりも十分に広い幅を持つように設定される。具体的に、発光面5aの長手方向の長さ(照明長さ)をL
1、2次元撮像部6の主走査方向(ロール本体1の長手軸方向)の受光範囲において必要な長さ(必要長さ)をL
2としたとき、L
1>L
2とすることで、主走査方向で一様な明るさの光照射が可能となる。なお、必要長さと、発光面5aからロール本体1の表面までの距離とは比例関係にあるため、一般的には、光照射部5の設置位置(ロール本体1の表面までの距離)を2次元撮像部6と同程度の位置に配置して、照明長さを確保する。
【0031】
符号7は画像処理部であり、2次元撮像部6と接続されている。2次元撮像部6が受光した光の情報は光電変換されて、画像処理部7で2次元画像データとして受信される。画像処理部7は2次元画像データから欠点箇所を抽出し、その情報を記録・表示する。搬送方向の欠点発生位置については、搬送距離測長用エンコーダ(図示しない)からの信号に基づいて決めてもよいし、検査開始からの経過時間を元に欠点発生位置を決めてもよい。また、ロール本体1の搬送方向原点を検知できるように用意した位置検出センサー(図示しない)からの情報を基に検査の原点位置を定めてもよい。ロール本体1の幅方向の欠点発生位置については、2次元撮像部6のエリアセンサーカメラ6aの光電変換素子の主走査方向のどの素子位置で検出したかに基づいて決めてもよい。ロール本体1の幅方向が2次元撮像部6の検査幅と比べて大きい場合は、2次元撮像部6をロール本体1の長手方向と略平行な方向に移動可能なスライダ(図示しない)上に設置して、スライダの移動量とエリアセンサーカメラ6aの光電変換素子の主走査方向のどの素子位置で検出したかを足し込んだ値でロール本体1の幅方向の欠点発生位置を管理してもよい。このとき、光照射部5は2次元撮像部6と同じくスライダ上に設置してもよいし、独立してロール本体1の長手方向全域を略均一な明るさで照射可能な長さで配置してもよい。
【0032】
画像処理部7は、あらかじめ定める周期でのみ実行される2次元画像データの副走査方向(第1の方向)の走査位置(例えば走査位置PAとする)を決定する走査位置決定部7aと、走査位置決定部7aにおいて決定した走査位置PAにおける主走査方向(第2の方向)の画像データを取り出し、これを2次元撮像部6が2次元画像データを得る毎に行うことで、取り出された主走査方向の画像データを時系列順に、副走査方向に並べて時系列走査画像を生成する時系列走査画像生成部7bと、時系列走査画像を検査して欠点像を検出する検査部7cとで構成される。走査位置決定部7aは、図示しないバッファ等のメモリを有し、このメモリに決定した走査位置PAを保持する。ここで、副走査方向は被検出物の移動(回転)方向(ロール本体1の周方向)に相当し、主走査方向と副走査方向とは互いに垂直である。
【0033】
走査位置決定部7aは、2次元撮像部6で得られた2次元画像データから、副走査方向の各位置における主走査方向の各画素の輝度の積算値を算出し、それらを副走査方向に並べた輝度のプロファイルを作成する輝度プロファイル作成部71と、輝度プロファイル作成部71が作成した輝度のプロファイルから、輝度の最も高いピーク位置を算出する輝度ピーク位置算出部72と、輝度ピーク位置算出部72が算出した輝度のピーク位置の輝度を計測する輝度計測部73と、輝度プロファイル作成部71が作成した輝度のプロファイルから、輝度計測部73が計測したピーク位置の輝度にあらかじめ定めた1未満の係数倍値を掛けた輝度となる位置を算出する輝度低下位置算出部74と、輝度低下位置算出部74が算出した位置を、走査位置PAとして保持する走査位置保持部75と、を有する。
【0034】
この時系列走査画像を生成する方法の理解を助けるため、
図4を使って詳しく説明する。
図4は時系列走査画像の取得方法についての説明図である。
図4の(a)は、副走査方向の各位置の画像を示している。
図4の(b)は、時間ごとの各位置における輝度プロファイルを示す図である。
【0035】
2次元画像データ8は、一方向に相対的に移動するロール本体1の表面を、撮像位置を少しずつ動かしながら2次元撮像部6によって撮像された画像データであり、光照射部5からの反射像が映り込む部分は明るくなり、映りこまない部分は暗くなる像を画像化した画像データである(
図4の(a)参照)。2次元撮像部6がロール本体1の表面に焦点を合わせた状態で撮像を行うため、ロール本体1による光照射部5の鏡像である反射像は、そのエッジ部分が焦点ボケにより不明瞭な状態となるが、反射像の中心に近づくと明るく、反射像のエッジ部分から遠ざかると暗くなる。よって、明るさはその撮像部位における光照射手段からの光の反射強度(輝度)の分布を示すものとなる。また、光照射部5は一方向に長く、かつ略均一な明るさの投光部位を有しているため、エッジ部分の不明瞭領域は副走査方向に限定される。よって、2次元画像データ8は副走査方向に対して明るさの起伏を持つ、主走査方向に延びる直線状の輝線として撮像される。
【0036】
輝度のプロファイル9はこれをわかりやすく抽象化したもので、副走査方向の輝度値変化をプロファイル波形で示したものである(
図4の(b)参照)。輝度のプロファイル9の輝度ピーク位置10が、2次元画像データ8の最も明るくなる副走査位置に対応し、この位置が正反射条件、すなわち光照射部5とロール本体1のなす光入射角度と、2次元撮像部6とロール本体1とがなす受光角度とが同じになる条件での撮像位置に対応する。また位置11は、輝度のプロファイル9のピーク位置10の輝度に対してあらかじめ定めた1未満の係数倍値を掛けた輝度となる、輝度のプロファイル9上の位置に対応する。よって、ロール本体1に凹凸の表面変形が発生すると反射像に歪みが生じるため、2次元画像データ8において位置11を通過した凹凸変形部位(例えば
図2の表面欠点4)は明暗いずれかに輝度が変動する。
【0037】
続いて、画像処理部7の各部の詳細について説明する。走査位置決定部7aは、2次元撮像部6から受信する2次元画像データに基づいて走査位置PA、すなわち2次元画像データの垂直方向の検査位置を決定する。走査位置決定部7aが走査位置PAを決定する流れを、
図5を用いて説明する。
図5は、本発明における走査位置PAの決定フローの説明図である。
【0038】
ステップS101は、走査位置PAの決定フローを開始するステップであって、以降のフローを実行するか否かを判断するステップである。画像処理部7は、走査位置の決定フローを実行すると判断した場合(ステップS101:Yes)、ステップS102に移行する。画像処理部7は、例えば、図示しない入力手段を介してユーザから実行指示が入力されている場合、決定フローを実行すると判断する。一方、画像処理部7は、走査位置PAの決定フローを実行しないと判断した場合(ステップS101:No)、ステップS106に移行する。実行するか否かはあらかじめ定める周期に従うものとし、例えば、検査開始のタイミングのみで実行するのでもよいし、一定距離もしくは一定時間を検査する度に実行するのでもよいし、2次元撮像部6から受信する2次元画像データを取得するタイミングで毎回実施してもよい。
【0039】
ステップS102は、輝度プロファイル作成部71が、2次元画像データから副走査方向の輝度プロファイルを取得するステップである。輝度プロファイルの取得は、2次元画像データの主走査方向すべての画素情報を用いてもよいし、あらかじめ定める主走査方向の一部の領域のみを用いてもよい。また、副走査方向の各位置におけるプロファイル値は、主走査方向の各画素の輝度値の積算値、主走査方向の各画素の輝度値の平均値、主走査方向の演算対象の全ての画素の輝度値から求まる中央値、主走査方向の演算対象の全ての画素の輝度値から作成したヒストグラムから求まる最頻値、または輝度のばらつきがガウス分布のように分布するという前提から、ガウス関数によるモデルフィッティングによって求まる平均値のいずれを用いてもよい。
【0040】
ステップS103は、輝度ピーク位置算出部72が、輝度プロファイルから輝度ピーク位置を算出するステップである。輝度ピーク位置は輝度プロファイルの最大値を有する副走査方向の位置としてもよいし、光照射部5の面積形状とロール本体1との距離、および2次元撮像部6とロール本体1との距離から定められる反射像モデル関数からモデルフィッティングによってピーク位置を求めてもよい。
【0041】
ステップS104は、輝度計測部73が、輝度ピーク値の輝度計測を行うステップである。輝度ピーク値は、輝度プロファイルの輝度ピーク位置のプロファイル値を用いるのでもよいし、光照射部5の発光面(例えば
図2に示す発光面5a)とロール本体1との距離、および2次元撮像部6(素子の光受光面)とロール本体1との距離から定められる反射像モデル関数からモデルフィッティングによって求められたピーク位置のモデルプロファイル値を用いてもよい。
【0042】
ステップS105は、輝度低下位置算出部74が、輝度低下位置を算出するステップである。上述のステップまでのフローで計測したピーク位置の輝度に、あらかじめ定めた1未満の輝度低下係数を掛けた算出値の輝度に対応する位置を輝度低下位置としてもよい。あるいは、光照射部5の発光面とロール本体1との距離、および2次元撮像部6(素子の光受光面)とロール本体1との距離から定められる反射像モデル関数からモデルフィッティングによって求められた輝度プロファイルモデル関数から求まる輝度ピーク位置の輝度値に、あらかじめ定める1未満の輝度低下係数を掛けた算出値の輝度に対応する位置を輝度低下位置としてもよい。
【0043】
また、輝度低下位置は、上述のステップまでのフローで計測したピーク位置を挟んで副走査方向の上下に2点存在するため、そのどちらかを輝度低下位置として採用してもよいし、ピーク位置からの距離を負の方向の輝度低下位置と正の方向の輝度低下位置それぞれ求めて距離の平均値を算出し、ピーク位置から負の方向もしくは正の方向のいずれか一方向に距離の平均値だけ離れた位置を輝度低下位置として採用してもよい。好ましくは輝度低下位置の算出方向をピーク位置に対して負の方向か正の方向のどちらか一方向に常に限定することである。
【0044】
ステップS106は、走査位置保持部75が、走査位置PAを保持するステップである。副走査位置PAとして、ステップS105で算出された輝度低下位置を保持するが、走査位置PAの決定フローが実行されなかった場合は、最後に実行されたときの輝度低下位置を走査位置PAとして保持し続ける。
【0045】
ステップS101~S106を経て、2次元画像部6から取得される2次元画像データ8内の直線状に明るさを有する輝線において、輝度のピーク値にあらかじめ定めた1未満の輝度低下係数を掛けた輝度値に対応する位置を走査位置PAとする。
図6Aは、被検出物体表面の輝線幅に変化が生じる場合であって、輝線幅が想定太さの場合の走査位置の例を示す説明図である。
図6Bは、被検出物体表面の輝線幅に変化が生じる場合であって、輝線幅が想定太さよりも細い場合の走査位置の例を示す説明図である。
図6A、
図6Bに示すように、輝線の幅が想定通りの太さでの場合であっても(
図6A参照)、輝線の幅が想定より細い場合であっても(
図6B参照)、走査位置PAは輝線の幅の範囲内におさまる。前述の特許文献1の技術では、輝線の幅が想定よりも細い場合には、画素の選択位置が輝線の幅の外側となってしまうことがあるが(
図17B参照)、本発明の方法であればそのような問題は生じない。
【0046】
時系列走査画像生成部7bは、2次元撮像部6から受信した2次元画像データから、走査位置決定部7aが保持している走査位置PAに対応する主走査方向の1行のみの画像データを取出し、これをあらかじめ定めた行数(すなわち、あらかじめ定める撮像回数)の分だけ副走査方向(すなわち、水平方向)に時系列に並べて結合することで、時系列走査画像を生成する。
【0047】
検査部7cは、生成された時系列走査画像を処理して、欠点像を検出する。欠点像の検出方法は特に指定しないが、時系列走査画像の局所的な輝度変化を捉えて検出するのが望ましい。この際に用いる各種パラメータは時系列走査画像における欠点像位置の輝度値に対して設定する閾値であってもよいし、時系列走査画像を処理する信号・画像処理フィルタであってもよいし、閾値を満たす欠点候補の形状特徴量や欠点候補領域に含まれる輝度情報特徴量に対して設定される閾値でもよい。これらのパラメータは、非検査時に予め最適化していてもよいし、検査中に逐次最適化されていてもよい。好ましくは、予め最適化しておくことである。更に好ましくは、この最適化に用いるデータ量が多いことである。この検査部7cにおけるパラメータの最適化とは、そのパラメータによって抽出される欠点箇所が、その欠点像をヒトが確認して欠点箇所と判定した箇所と同じになることである。実際には、抽出される欠点箇所とヒトの判定する欠点箇所とが全く一致することは困難であるが、このような最適化を図ることで、検出の精度が向上する。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって、さらに本発明の詳細を説明する。しかし、本実施例により本発明が限定して解釈されるわけではない。
【0049】
実施例では、表面にハードクロムメッキが施されたフィルムの搬送ロールを検査した。検査では、
図2に示す構成を有する装置を用いた。
【0050】
光照射部5として、65万ルクスの白色LED照明を用いた。光照射部5を、その長手方向がロール回転軸方向に平行となるように、かつその照射軸が、ロール本体1の検査面の法線方向に対して20°の傾きとなるように設置した。
【0051】
2次元撮像部6を構成するエリアセンサーカメラ6aとして、主走査方向に4096画素、副走査方向に3072画素の8ビット階調、フレームレートが180Hzのエリアセンサーカメラを使用した。2次元撮像部6を、その光電変換素子の主走査方向が光照射部5(光源)の長手方向およびロール本体1の回転軸方向に略平行となるように、かつ、その受光中心光軸が、ロール本体1の検査面の法線方向に対して20°の傾きとなるように設置した。なお、2次元画像部6の受光中心光軸は、ロール本体1の検査面の法線に対して光照射部5の照射軸とは反対側に傾いている。
【0052】
画像処理部7は、フレームグラバボードとパーソナルコンピュータとを組み合わせて構成した。画像処理部7は、2次元撮像部6から得られる2次元画像データに画像処理を施して時系列走査画像を生成し、この時系列走査画像から欠点像を検出する。具体的な画像処理の流れは以下(1)~(8)の通りである。
(1)搬送ロールを一定の回転速度で回転させながら、2次元撮像部6から
図7に示す2次元画像を取得した。
(2)
図7に示す2次元画像から、副走査方向の各画素位置で主走査方向の全画素の積算値を取得することで、
図8に示す副走査方向の各位置のプロファイル値を算出した。
(3)
図8に示す輝度プロファイルから、
図9に示す通り輝度プロファイル値の最大値を探索し、探索した輝度最大値の副走査位置を求めることで最大輝度ピーク位置を算出した。
(4)最大輝度ピーク位置におけるプロファイル値をプロファイルの最大輝度値として取得した。
図9に示す輝度プロファイルでは、最大輝度値は787840であった。
(5)プロファイルの最大輝度値に0.3を掛けた値(ここでは236352)を閾値として、最大輝度ピーク位置から副走査方向の正の方向に閾値を下回る位置を探索し、輝度低下位置とした。
(6)輝度低下位置を走査位置PAとして登録した。
(7)2次元撮像部6から受信した2次元画像から登録した走査位置PAの1行分の画像データを取得し、それを4096回の撮像を1サイクルとして撮像毎に行った。そして、取得した4096個の副走査位置PAの画像データを時系列に結合し、
図10に示す時系列走査画像を生成した。なお、
図10に示す時系列走査画像は、説明の理解を容易にするため、4096画素×4096画素の一部で欠点像12を含む領域である50画素×50画素のみを切り出して示している。
(8)得られた
図10に示す時系列走査画像に対して、正常部分(例えば欠点が存在しない部分)の輝度値の20%増分に相当する明側の閾値と、20%減分に相当する暗側の閾値とでそれぞれ2値化処理を行い、
図11および
図12の2枚の2値画像を取得した。その後、2枚の2値画像を論理和演算して
図13に示す結合画像を生成した。さらに膨張・収縮処理を実施して検出した明領域と暗領域とを結合し、面積が100画素を超える領域のみを欠点領域13として
図14に示す画像を取得した。なお、
図11~
図14は、いずれも説明の理解を容易にするため、4096画素×4096画素の一部で欠点像を含む領域である50画素×50画素のみを切り出して示している。
【0053】
上述したようにして、2次元撮像部6が取得した2次元画像データから時系列走査画像を生成し、この時系列走査画像に画像処理を施すことによって、欠点像を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明にかかる円筒体表面検査方法および円筒体表面検査装置は、円筒体の表面を検査する円筒体表面欠点検査において、円筒体の表面と検査装置との相対位置が変化したとしても、安定かつ高精度に検査するのに有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 ロール本体
2 芯
3 軸受け
4 表面欠点
5 光照射部
6 2次元撮像部
6a エリアセンサーカメラ
6b レンズ
7 画像処理部
7a 走査位置決定部
7b 時系列走査画像生成部
7c 検査部
8 2次元画像データ
9 輝度のプロファイル
10 輝度ピーク位置
11 位置
71 輝度プロファイル作成部
72 輝度ピーク位置算出部
73 輝度計測部
74 輝度低下位置算出部
75 走査位置保持部