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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】複合半透膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20220119BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220119BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220119BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220119BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20220119BHJP
   C08F 220/60 20060101ALI20220119BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20220119BHJP
   C08F 220/34 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
C08G69/26
C08F220/60
C08F220/06
C08F220/34
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018517450
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018014010
(87)【国際公開番号】W WO2018198679
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017089306
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 友哉
(72)【発明者】
【氏名】浜田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】岡部 淳
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴史
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123899(JP,A)
【文献】特開2005-169332(JP,A)
【文献】国際公開第2014/133132(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046582(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003943(WO,A1)
【文献】特開2000-033243(JP,A)
【文献】特開2000-202257(JP,A)
【文献】特開2012-020281(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052669(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/104241(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/0-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
C08G 69/26
C08F 220/60
C08F 220/06
C08F 220/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた多孔性支持層と、
前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層と、
を備える複合半透膜であって、
前記分離機能層は、前記多孔性支持層側から、
多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとの重合体である架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層と、
前記第1層上に存在し、多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である脂肪族ポリアミドと、
を含有する複合半透膜。
【請求項2】
前記分離機能層の表面と純水との接触角が35°以下である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記多官能脂肪族カルボン酸が、アクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸からなる群から選択される少なくとも一つの化合物に由来するモノマーユニットを含有する重合体である、請求項1又は2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記多官能脂肪族アミンが、ビニルアミン、アリルアミン、エチレンイミン、グルコサミン、ジアリルアミン、ジアリルモノアルキルアミン及びジアリルジアルキルアミンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物に由来するモノマーユニットを含有する重合体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記分離機能層をアルカリ加水分解することで多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンが得られ、かつ前記多官能脂肪族カルボン酸及び前記多官能脂肪族アミンの分子量はそれぞれ1000以上であり、前記多官能脂肪族カルボン酸及び前記多官能脂肪族アミンの水への溶解度はそれぞれ100g/1L以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【請求項6】
前記脂肪族ポリアミドが分子内又は分子間の少なくとも一方で架橋されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【請求項7】
前記脂肪族ポリアミドが前記架橋芳香族ポリアミドにアミド結合で結合している、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【請求項8】
pH6における前記分離機能層の表面ゼータ電位が±15mV以内であり、pH6における前記分離機能層の表面ゼータ電位がpH11における前記分離機能層の表面ゼータ電位より15mV以上高い、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【請求項9】
基材と、前記基材上に形成される多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に形成される分離機能層とを備える複合半透膜の製造方法であって、
下記工程(a)及び工程(b)をこの順に行うことで前記分離機能層を形成することを含む複合半透膜の製造方法。
(a)多官能芳香族アミンを含有する水溶液と、多官能芳香族酸クロリドを含有する有機溶媒溶液とを用い、前記多孔性支持層上で界面重縮合を行うことにより、架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層を形成する工程
(b)前記第1層上に多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である脂肪族ポリアミドを含有する第2層を配置する工程
【請求項10】
前記工程(b)は、下記工程(b1)及び工程(b2)の少なくとも一方を含む、請求項9に記載の製造方法。
(b1)多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンとを重合させることで脂肪族ポリアミドを形成すること、及び前記脂肪族ポリアミドを前記架橋芳香族ポリアミドの層に接触させること
(b2)前記架橋芳香族ポリアミドの層上で、多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンとを縮合させること
【請求項11】
前記工程(b)は、さらに、下記工程(c)を含む、請求項9又は10に記載の複合半透膜の製造方法。
(c)前記架橋芳香族ポリアミドと前記脂肪族ポリアミドとの間にアミド結合を形成する工程
【請求項12】
前記工程(c)は、アミド化促進剤により前記架橋芳香族ポリアミドと前記脂肪族ポリアミドとの間のアミド結合の形成を促進することを含む、請求項11に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜汚染物質に対する高い付着抑制能を持つ複合半透膜に関するものである。本発明によって得られる複合半透膜は、例えばかん水や海水の淡水化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがある。近年、省エネルギー及び省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがある。これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、廃水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜及びナノろ過膜の大部分は複合半透膜である。複合半透膜としては、多孔性支持膜上にゲル層と架橋されたポリマーである活性層とを有するものと、多孔性支持膜上でモノマーを重縮合することで形成される活性層を有するものとの2種類がある。特に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドを分離機能層として備える複合半透膜は、高い透過性及び選択分離性を有する分離膜として広く用いられている。
【0004】
このような分離膜を用いた膜分離技術における課題の1つにファウリング現象がある。ファウリング現象とは、被処理水中に含まれる物質が分離膜の表面又は内孔に吸着することにより、溶液の透過が阻害され、分離膜の分離性能が低下する現象である。ファウリング現象は、付着する物質の種類により分類され、有機物の吸着によるケミカルファウリング、微生物の吸着によるバイオファウリング等がある。
【0005】
ケミカルファウリングは、排水等の被処理水中に含まれるフミン質や界面活性剤等の有機物が分離膜の表面に堆積したり分離膜の内部に吸着したりすることで、分離膜が目詰まりを起こし、被処理水の透過水量が減少することにより分離性能が低下する現象である。
【0006】
一方、バイオファウリングは、被処理水中に含まれる微生物が前述のケミカルファウリングにより分離膜に吸着した有機物を栄養源として分離膜の表面や内部で繁殖することで、分離膜が目詰まりを起こし、被処理水の透過水量が減少することにより分離性能が低下する現象である。
【0007】
これらのファウリングに伴う透過水量の低下を改善する方法として、ファウリングした逆浸透膜に対して、酸やアルカリといった薬品を用いて洗浄することで、透過水量を回復させる方法(特許文献1)が提案されている。また、ポリビニルアルコールを分離機能層表面にコーティングすることでファウリングを抑制する方法(特許文献2、3)などが提案されている。同様に、酸性基を有する親水性高分子をアミド結合で分離機能層表面に導入することでファウリングを抑制する方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開平10-66972号公報
【文献】国際公開第1997/34686号
【文献】国際公開第2014/133132号
【文献】国際公開第2015/46582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、分離膜に要求される性能には、塩除去性能や透過水量だけでなく、耐ファウリング性が存在する。ここで、耐ファウリング性とは、ファウリングを抑制することと、ファウリングが起きたとしても性能低下を小さく抑えることとのいずれをも含み得る。特許文献1に記載の、薬品洗浄により透過水量が低下した逆浸透膜の透過水量を回復させる方法では、薬品接触による分離膜の劣化が引き起こされ、除去率の低下などが起こる。つまり薬品接触前後での膜性能変化がおこるため、長期間にわたって安定な運転を継続するのが困難となる。
【0010】
このため、長期間にわたって安定な運転を継続するには、分離膜へのファウリングそのものを抑制することが重要となる。分離膜のファウリングの原因として挙げられるのが、分離膜表面の荷電と疎水性の高さである。分離膜表面の荷電が、正か負のいずれかに大きく偏ると、静電相互作用によって、表面の荷電と逆の荷電をもつ汚染物質が吸着される。また、分離膜表面の疎水性が高い場合、疎水性相互作用によって疎水性の汚染物質が吸着される。特許文献2、3に記載の膜は、ポリビニルアルコールを分離機能層表面にコーティングすることで荷電状態を中性にして、各種イオンの汚染物質によるファウリングを抑制することができるが、透過水量低下の抑制能は未だ満足できるものではなかった。特許文献4に記載の膜は、親水性の高い酸性基をもつ高分子を分離機能層表面に導入することでファウリングを抑制することができるが、透過水量低下の抑制能は未だ満足できるものではなかった。
【0011】
本発明の目的は、膜汚染物質に対する高い付着抑制能持つことで、長期にわたり優れた耐ファウリング性を実現する複合半透膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の(1)~(12)のいずれかの構成を有する。
(1)基材と、前記基材上に設けられた多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層と、を備える複合半透膜であって、
前記分離機能層は、前記多孔性支持層側から、
多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとの重合体である架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層と、
前記第1層上に存在し、多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である脂肪族ポリアミドと、
を含有する複合半透膜。
(2)前記分離機能層の表面と純水との接触角が35°以下である、前記(1)に記載の複合半透膜。
(3)前記多官能脂肪族カルボン酸が、アクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸からなる群から選択される少なくとも一つの化合物に由来するモノマーユニットを含有する重合体である、前記(1)又は(2)に記載の複合半透膜。
(4)前記多官能脂肪族アミンが、ビニルアミン、アリルアミン、エチレンイミン、グルコサミン、ジアリルアミン、ジアリルモノアルキルアミン及びジアリルジアルキルアミンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物に由来するモノマーユニットを含有する重合体である、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
(5)前記分離機能層をアルカリ加水分解することで多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンが得られ、かつ前記多官能脂肪族カルボン酸及び前記多官能脂肪族アミンの分子量はそれぞれ1,000以上であり、前記多官能脂肪族カルボン酸及び前記多官能脂肪族アミンの水への溶解度はそれぞれ100g/1L以上である、前記(1)~(4)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
(6)前記脂肪族ポリアミドが分子内又は分子間の少なくとも一方で架橋されている、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
(7)前記脂肪族ポリアミドが前記架橋芳香族ポリアミドにアミド結合で結合している、前記(1)~(6)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
(8)pH6における前記分離機能層の表面ゼータ電位が±15mV以内であり、pH6における前記分離機能層の表面ゼータ電位がpH11における前記分離機能層の表面ゼータ電位より15mV以上高い、前記(1)~(7)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
【0013】
(9)基材と、前記基材上に形成される多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に形成される分離機能層とを備える複合半透膜の製造方法であって、下記工程(a)及び工程(b)をこの順に行うことで前記分離機能層を形成することを含む複合半透膜の製造方法。
(a)多官能芳香族アミンを含有する水溶液と、多官能芳香族酸クロリドを含有する有機溶媒溶液とを用い、前記多孔性支持層上で界面重縮合を行うことにより、架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層を形成する工程
(b)前記第1層上に多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である脂肪族ポリアミドを含有する第2層を配置する工程
(10)前記工程(b)は、下記工程(b1)及び工程(b2)の少なくとも一方を含む、前記(9)に記載の製造方法。
(b1)多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンとを重合させることで脂肪族ポリアミドを形成すること、及び前記脂肪族ポリアミドを前記架橋芳香族ポリアミドの層に接触させること
(b2)前記架橋芳香族ポリアミドの層上で、多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンとを縮合させること
(11)前記工程(b)は、さらに、下記工程(c)を含む、前記(9)又は(10)に記載の複合半透膜の製造方法。
(c)前記架橋芳香族ポリアミドと前記脂肪族ポリアミドとの間にアミド結合を形成する工程
(12)前記工程(c)は、アミド化促進剤により前記架橋芳香族ポリアミドと前記脂肪族ポリアミドとの間のアミド結合の形成を促進することを含む、前記(11)に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合半透膜の分離機能層が、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとの重合体である架橋芳香族ポリアミドを含むことで高い塩除去率を達成することができ、架橋芳香族ポリアミドを被覆し、多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である脂肪族ポリアミドを含有することによって、運転時における分離膜の汚染を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.複合半透膜
本発明の複合半透膜は、基材及び多孔性支持層を含む支持膜と、多孔性支持層上に設けられた架橋芳香族ポリアミドを含む分離機能層とを備える。
【0016】
(1-1)分離機能層
(1-1-1)概要
分離機能層は、複合半透膜において溶質の分離機能を担う層である。
分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層と、第1層の上に存在する脂肪族ポリアミドとを備える。
【0017】
(1-1-2)組成
分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを主成分として含有することが好ましい。主成分とは分離機能層の成分のうち、50重量%以上を占める成分を指す。分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを50重量%以上含むことにより、高い除去性能を発現することができる。また、分離機能層における架橋芳香族ポリアミドの含有率は80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0018】
また、第1層において、架橋芳香族ポリアミドが占める割合は、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。第1層は架橋芳香族ポリアミドのみで形成されていてもよい。
【0019】
第1層は、多孔性支持層の上(基材と接するのとは逆の面)に、接するように配置される。
【0020】
架橋芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとを化学反応させることにより形成できる。ここで、多官能芳香族アミン及び多官能芳香族酸クロリドの少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。これにより、剛直な分子鎖が得られ、水和イオンやホウ素などの微細な溶質を除去するための良好な孔構造が形成される。
【0021】
多官能芳香族アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有し、かつ、アミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基である芳香族アミンを意味する。多官能芳香族アミンとしては、例えば、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、o-ジアミノピリジン、m-ジアミノピリジン、p-ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能芳香族アミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミンなどが挙げられる。特に、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及び1,3,5-トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDAとも記す。)を用いることがより好ましい。これらの多官能芳香族アミンは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
多官能芳香族酸クロリドとは、一分子中に少なくとも2個のクロロカルボニル基を有する芳香族酸クロリドをいう。例えば、3官能酸クロリドでは、トリメシン酸クロリドなどを挙げることができ、2官能酸クロリドでは、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどを挙げることができる。膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸クロリドであることが好ましい。特に経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応性の容易さ等の点から、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸クロリドであるトリメシン酸クロリド(以下、TMCという。)が好ましい。上記多官能芳香族酸クロリドは1種を単独で用いても、2種類以上を混合物として用いてもよい。
【0023】
架橋芳香族ポリアミドを構成する多官能芳香族アミン及び多官能芳香族酸クロリドのそれぞれの90重量%以上を分子量1,000未満の化合物が占めることが好ましく、500未満の化合物が占めることがより好ましい。多官能芳香族アミン及び多官能酸芳香族クロリドのそれぞれの90重量%以上を分子量1,000未満の化合物が占めることで、多官能芳香族アミン及び多官能酸芳香族クロリドの溶媒への溶解性が高くなるので、高効率で界面重縮合が起こる。その結果、得られる架橋芳香族ポリアミドの薄膜は、高い溶質分離機能を有する。
【0024】
上記架橋芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドの重合反応に由来するアミド基、未反応末端官能基に由来するアミノ基及びカルボキシ基を有する。これらの官能基量は、複合半透膜の透水性能や塩除去率に影響を与える。
【0025】
架橋芳香族ポリアミド形成後に化学処理を行うと、架橋芳香族ポリアミド中の官能基を変換したり、架橋芳香族ポリアミドに新たな官能基を導入したりすることができ、これによって複合半透膜の透過水量や塩除去率を向上させることができる。導入する官能基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、アルデヒド基、ニトロ基、ニトロソ基、ニトリル基、アゾ基等が挙げられる。
【0026】
例えば、架橋芳香族ポリアミドにアゾ基を導入すると、塩除去率が向上するため好ましい。アゾ基は、架橋芳香族ポリアミド中の(アゾ基のモル当量)/(アミド基のモル当量)の比が0.1以上1.0以下になるように導入されることが好ましい。この比が0.1以上1.0以下であることで、高い塩除去率を得ることができる。
【0027】
脂肪族ポリアミドは、第1層の表面、つまり多孔性支持層と接するのとは逆の面に存在する。脂肪族ポリアミドは第1層を完全に被覆していてもよいし、第1層の一部が露出していてもよい。説明の便宜上、第1層の一部が露出している場合も含めて、第1層上に位置し、かつ脂肪族ポリアミドを含む部分を「第2層」と呼ぶ。分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層と、第1層上に設けられ、脂肪族ポリアミドを含有する第2層とを有する。つまり、基材、多孔性支持層、第1層及び第2層がこの順に配置される。
【0028】
脂肪族ポリアミドが分離機能層表面に存在することで、仮に汚染物質が分離機能層表面に付着しても、汚染物質が架橋芳香族ポリアミドに付着することが抑制される。その結果、分離機能を実質的に担う架橋芳香族ポリアミドの汚染が抑制され、分離膜の性能低下が抑制される。
【0029】
以下にファウリングの抑制について、詳細に説明する。
ファウリング抑制のために特に重要なのは、以下の3点である。1点目は膜表面の荷電であり、2点目は膜表面の水和水の量であり、3点目は膜表面の水和水の運動性である。
【0030】
1点目の荷電について、脂肪族ポリアミドはアミノ基及びカルボキシ基を有し、アミノ基は正荷電を持ち、カルボキシ基は負荷電を持つ。つまり、分離機能層表面は脂肪族ポリアミドを持つことで正と負の両方の荷電を帯びる。特に、脂肪族ポリアミドにおいてアミノ基の数がカルボキシ基の数より多い場合、脂肪族ポリアミド全体の荷電の正になるので同じく正荷電を持つ汚染物質の吸着を抑制できる。また、脂肪族ポリアミドにおいてカルボキシ基の数がアミノ基の数よりも多い場合、脂肪族ポリアミド全体の荷電は負になるので同じく負荷電を持つ汚染物質の吸着を抑制できる。正負どちらの荷電を多く持つ脂肪族ポリアミドを膜に適用するかは、対象とする汚染物質に応じて選択すればよい。
【0031】
2点目及び3点目について説明する。水中において親水性の高い化合物の表面には水和水と呼ばれる水が存在することが知られており、この水和水の層によって汚染物質の吸着が抑制されると考えられる。この水和水の量が多いほど汚染物質が膜面に近づきにくくなり、水和水の運動性が高くなることで膜面付近の汚染物質が水和水により押しのけられる。多官能脂肪族アミンと多官能脂肪族カルボン酸とからなる脂肪族ポリアミドは、水中にてプロトン化、又は脱プロトン化して荷電をもつことにより、親水性が非常に高くなるため、分離機能層表面の水和水の量が多くなり、これらの水和水が汚染物質の吸着を抑制すると考えられる。
【0032】
脂肪族ポリアミドに含まれる多官能脂肪族カルボン酸に由来するカルボキシ基又は多官能脂肪族アミンに由来するアミノ基が多いほど、第2層の荷電量が大きくなるため、分離機能層表面の水和水の量が多くなり、汚染物質の吸着が抑制される。さらに、脂肪族カルボン酸と脂肪族アミンはいずれも弱い電解質であり、それぞれが互いに静電気的に相互作用するため、水和水との間に働く相互作用が弱く、水和水の運動性が高まることで、汚染物質の吸着抑制能が向上すると考えられる。加えて、脂肪族ポリアミドは剛直な芳香族ポリアミドよりも分子運動性が高いため、水和水の運動性も高くなることで汚染物質の吸着抑制能が向上すると考えられる。
【0033】
なお、「多官能脂肪族カルボン酸に由来するカルボキシ基又は多官能脂肪族アミンに由来するアミノ基を多く含む脂肪族ポリアミド」としては、具体的には、一分子内に3つ以上のアミノ基を有する多官能脂肪族アミンまたは一分子内に3つ以上のカルボキシ基を有する多官能脂肪族カルボン酸から合成されるポリアミドであることが望ましい。
【0034】
こうして、脂肪族ポリアミドによってケミカルファウリングが抑制されることで、結果的にバイオファウリングも抑制される。
【0035】
分離機能層の表面における脂肪族ポリアミドの存在は、分離機能層の表面の組成を分析し、その後エッチングし、さらに組成を分析する、という一連の測定操作を繰り返すことで確認できる。例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて分離機能層表面の元素組成及び化学結合状態を測定することができる。このとき、測定深さが深いと分離機能層中の架橋芳香族ポリアミドの組成の影響を受けるため、試料を傾斜させる角度分解法により、最表面の測定を行うことが好ましい。
【0036】
第2層は、脂肪族ポリアミドを主成分として含有することが好ましい。第2層において脂肪族ポリアミドが占める割合は、70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0037】
第2層中に含まれる化合物には上記脂肪族ポリアミド以外に芳香族ポリアミドが含まれてもよいが、その際、脂肪族ポリアミドに対する芳香族ポリアミドの量は30重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。この条件を満たすと、芳香族ポリアミドと汚染物質との疎水性相互作用及びπ-π相互作用による吸着が抑制される。
【0038】
第2層に含まれる脂肪族ポリアミドの重量平均分子量は2,000以上であることが望ましい。第2層に含まれる脂肪族ポリアミドの重量平均分子量が2,000以上であれば、仮に汚染物質が第2層に付着したとしても、分離機能を実質的に担う架橋芳香族ポリアミドから離れた位置で付着するので、分離膜の性能低下を低く抑えることができる。脂肪族ポリアミドの重量平均分子量は2,000以上がより好ましく、また上限は特に限定されないが、ポリマー溶液の取り扱いの容易さの観点から、2,000,000以下であることが好ましい。
【0039】
脂肪族ポリアミド中に含まれるアミノ基数に対するカルボキシ基数の比率(官能基比率)は0.01~100であることが好ましい。官能基比率がこの範囲を満たすことで、正荷電と負荷電のバランスがとれ、それぞれの官能基間の静電相互作用により、官能基周辺の水和水の運動性が高まり、各種の汚染物質の吸着を効率よく抑制できると考えられる。
【0040】
なお、分離機能層中の官能基量は、例えば、13C固体NMR測定で求めることができる。具体的には、複合半透膜から基材を剥離し、分離機能層と多孔性支持層を得た後、多孔性支持層を溶解・除去し、分離機能層を得る。得られた分離機能層をDD/MAS-13C固体NMR測定を行い、各官能基が結合している炭素原子のピークの積分値を算出する。この積分値から各官能基量を同定できる。
【0041】
次に、脂肪族ポリアミドを構成するモノマーについて説明する。
多官能脂肪族アミンは1分子中に2つ以上のアミノ基を有する脂肪族化合物であり、多官能脂肪族カルボン酸は、1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する脂肪族化合物である。2つ以上のカルボキシ基と2つ以上のアミノ基とを同一分子内に有する化合物は、多官能脂肪族アミンであり多官能脂肪族カルボン酸でもある。
【0042】
つまり、「多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である脂肪族ポリアミド」を構成するモノマーは、脂肪族ポリアミドが、多官能脂肪族アミンでありかつ多官能脂肪族カルボン酸である化合物(A)、多官能脂肪族カルボン酸ではない多官能脂肪族アミン(B)、多官能脂肪族アミンではない多官能脂肪族カルボン酸(C)から選択され、モノマーは、(A)-(A)、(A)-(B)、(A)-(C)、(B)-(C)のように組み合わせられる。モノマーの組み合わせが(A)-(A)の場合は、一方の化合物(A)を多官能脂肪族カルボン酸、他方の化合物(A)を多官能脂肪族アミンとみなして組み合せて重合体を得ることができ、モノマーの組み合わせが(A)-(B)又は(A)-(C)の場合は、化合物(A)は化合物(B)と組み合わせる場合は多官能脂肪族カルボン酸とみなされ、化合物(C)と組み合わせる場合は多官能脂肪族アミンとみなされる。また、脂肪族ポリアミドは、(A)-(B)-(C)のように、3成分以上の重合体であってもよい。
【0043】
本発明においては、脂肪族ポリアミドが多官能脂肪族アミンでありかつ多官能カルボン酸である化合物(A)に由来するモノマーユニットを含み、かつ、化合物(A)が重量平均分子量1,000以上の多官能脂肪族アミンと重量平均分子量1,000以上の多官能カルボン酸からなるポリアミドであることが好ましい。
【0044】
また、脂肪族ポリアミドを構成する多官能脂肪族アミン及び脂肪族カルボン酸の水への溶解度は、それぞれ100g/1L以上であることが好ましい。モノマーの水への溶解度が100g/L以上であるということは、脂肪族ポリアミドが親水性の高い化合物から構成されることを意味する。つまり、脂肪族ポリアミドが多くの水和水を保持することで、汚染物質の吸着を抑制することができると考えられる。なお、水への溶解度とは大気圧下、25℃の純水への溶解度を指す。
【0045】
多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンの重量平均分子量は、それぞれ1,000以上であることが好ましい。この条件を満たすことで、脂肪族ポリアミドによりファウラントから架橋芳香族ポリアミドを保護する効果が高まる。
【0046】
多官能脂肪族カルボン酸としては、汎用性、合成のしやすさという点でカルボキシ基を有するモノマーの重合体が好ましく、重合体の化学的安定性の高さからエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合体であることがより好ましい。この重合体は、単独重合体でもよいが、目的に応じ、二種類以上のモノマーの共重合でもよく、モノマーの共重合比は特に限定されない。共重合の形式にはブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体などが挙げられるが特に限定されるものではない。
【0047】
多官能脂肪族カルボン酸は、エチレン性不飽和基とカルボキシ基を有するモノマーに由来するモノマーユニットを含有する重合体であることが好ましく、より具体的には、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸及び10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物に由来するモノマーユニットを含有する重合体であることが好ましい。多官能脂肪族カルボン酸は、汎用性、共重合性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸から選択される少なくとも1種の化合物に由来するモノマーユニットを含有することが好ましい。
【0048】
多官能脂肪族アミンは、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリアミノ酸、ポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリジアリルアルキルアミン、ポリジアリルアミン及びキトサン、ならびにこれらの塩が好ましい。これらの中でも特に汎用性、合成のしやすさという点から、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリジアリルアルキルアミン、ポリジアリルアミン及びキトサン、ならびにこれらの塩が好ましい。特に、多官能脂肪族アミンは、ビニルアミン、アリルアミン、エチレンイミン、グルコサミン、ジアリルアミン、ジアリルモノアルキルアミン及びジアリルジアルキルアミンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物に由来するモノマーユニットを含有することが好ましい。
なお、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートを、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリルをそれぞれ意味する。
【0049】
脂肪族ポリアミドは分子間又は分子内の少なくとも一方で架橋されていることが好ましい。これは架橋構造を有していることで、一箇所切断を受けても機能を保ちつづけることができるため、耐ファウリング性の長期維持という観点から好ましい。架橋構造は、直鎖ポリマーが架橋剤を用いて架橋された構造、3次元の網目状ポリマー、ペンダントポリマーやデンドリマーが複数の点で接続された構造等をあげることができる。
【0050】
また、脂肪族ポリアミドと架橋芳香族ポリアミドとの間に化学結合が形成されていることが好ましい。これによって脂肪族ポリアミドが架橋芳香族ポリアミドに対してより安定的に固定される。脂肪族ポリアミドと架橋芳香族ポリアミドとの間の化学結合は、共有結合であることが好ましく、アミド結合であることがより好ましい。アミド結合は、各々の層を構成するポリマーの保有する官能基を使用でき、かつ耐酸性を高いレベルで保持することができる。
【0051】
(1-1-3)特性
(i)加水分解により得られる多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミン
本発明において、分離機能層をアルカリ加水分解することで多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンが得られ、かつ、アルカリ加水分解で得られる多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンの分子量がそれぞれ1,000以上であり、これら多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンの水への溶解度がそれぞれ100g/1L以上であることが好ましい。
【0052】
アルカリ加水分解によって生じる多官能脂肪族アミン及び多官能脂肪族カルボン酸の分子量が1,000以上であるということは、脂肪族ポリアミドが化学的に安定な化合物であることを意味する。よって、このような脂肪族ポリアミドは、アルカリ接触後も優れた耐ファウリング性を維持することができる。
【0053】
また、加水分解して得られる多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンの水への溶解度が100g/L以上であることは、脂肪族ポリアミドが親水性の高い化合物から構成されていることを示す。つまり、脂肪族ポリアミドが多くの水和水を保持することで、汚染物質の吸着を抑制することができると考えられる。なお、水への溶解度とは大気圧下、25℃の純水への溶解度を指す。
【0054】
なお、脂肪族ポリアミドの加水分解によって得られる多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンは、脂肪族ポリアミドの形成に使用される多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンと同じ化合物であってもよいし、違っていてもよい。
【0055】
アルカリ加水分解とは化合物がアルカリ性の水と反応することによって起こる分解反応である。アルカリ加水分解により、高分子中のエステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合などの化学結合を切断することで、高分子をより低分子の化合物へ分解することができる。アルカリ加水分解の条件は、架橋芳香族ポリアミドを含む分離機能層を効率的に分解するために、強アルカリ性条件下での加水分解が好ましく、加熱又は加圧するのがより好ましい。具体的には、40wt%のNaOH水溶液に分離機能層を溶解させ、100℃で16時間加熱を行うことで、アルカリ加水分解を行えばよい。
こうして得られた多官能カルボン酸及び多官能脂肪族アミンについて、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)又はESI-MSによって重量平均分子量を測定することができる。
【0056】
また、溶解度は、大気圧下、25℃において、pH7の純水を測定対象の化合物に接触させ、24時間撹拌した後に、残存物の有無を目視にて確認し、残存物が確認できない最大濃度を求めることで測定される。少なくとも5回測定を行い、その平均値を算出することで決定する。
【0057】
(ii)分離機能層と純水との接触角
本発明における複合半透膜の分離機能層の表面(具体的に、分離機能層の第2層側の表面)と純水との接触角は38°以下であることが好ましい。ここでの接触角とは、静的接触角を指し、分離機能層表面の濡れやすさ、親水性を意味し、接触角が小さいほど親水性が高いことを意味する。
【0058】
純水を分離機能層表面に滴下すると、「ヤングの式」と呼ばれる、下記式(1)が成り立つ。
γ=γcosθ+γSL (1)
【0059】
ここで、γは分離機能層の表面張力、γは純水の表面張力、γSLは分離機能層と純水の界面張力である。この式を満たすときの純水の接線と分離機能層表面のなす角θを接触角という。接触角は、広く市販されている装置により測定することができ、例えば、Contact Angle meter(協和界面科学株式会社製)により測定することができる。
【0060】
接触角は時間の経過と共に徐々に小さい値へと変化する。純水の分離機能層表面への着滴から接触角を測定するまでの時間は25秒以内であり、好ましくは15秒以内である。
【0061】
分離機能層と純水との接触角が38°以下であるということは、分離機能層が高い親水性を有することを意味する。一般に分離機能層の親水性が高いほど、透水性が高くなるが、ファウラントと分離機能層との接触頻度が増えるため、ファウリングによる透水性低下が大きくなることが知られている。本発明者らは鋭意検討の結果、分離機能層が多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である脂肪族ポリアミドを含む第2層を含むとき、分離機能層と純水との接触角が38°以下であっても、高い透水性と高い耐ファウリング性を両立できることを見出した。接触角は35°以下であることがより好ましく、20°以下であることが更に好ましい。
【0062】
本願発明者らは鋭意検討を行った結果、分離機能層の表面ゼータ電位と、複合半透膜の透過水量及び膜汚染物質の脱離性とに密接な関係があることを見出した。
【0063】
ゼータ電位とは超薄膜層表面の正味の固定電荷の尺度であり、本発明の薄膜層表面のゼータ電位は、電気移動度から、下記式(2)に示すヘルムホルツ・スモルコフスキー(Helmholtz-Smoluchowski)の式によって求めることができる。
【0064】
【数1】
【0065】
(式(2)中、Uは電気移動度、εは溶液の誘電率、ηは溶液の粘度である)。
ここで、溶液の誘電率、粘度は、測定温度での文献値を使用した。
【0066】
ゼータ電位の測定原理について説明する。材料に接した溶液又は水溶液には、材料表面の電荷の影響で、表面の近傍に流動できない静止層が存在する。ゼータ電位は、材料の静止層と流動層の境界面(すべり面)での溶液に対する電位である。
【0067】
ここで、石英ガラスセル中の水溶液を考えると、石英表面は通常マイナスに荷電されているため、セル表面付近にプラス荷電のイオンや粒子が集まる。一方、セル中心部にはマイナス荷電のイオンや粒子が多くなり、セル内でイオン分布が生じている。この状態で電場をかけると、セル内ではイオン分布を反映し、セル内の位置で異なる泳動速度でイオンが動く(電気浸透流という。)。泳動速度はセル表面の電荷を反映したものであるので、この泳動速度分布を求めることにより、セル表面の電荷(表面電位)を評価することができる。
【0068】
通常ゼータ電位の測定は、大きさ20mm×30mmの膜試料を用い、電気泳動させるための標準粒子は表面をヒドロキシプロピルセルロースでコーティングしたポリスチレン粒子(粒径520nm)を所定濃度に調整したNaCl水溶液に分散させて測定することができる。測定装置は例えば大塚電子製電気泳動光散乱光度計ELS-8000などが使用できる。
【0069】
本発明の複合半透膜は、分離機能層の表面ゼータ電位が、pH6、NaCl10mMの条件において測定されたときに±15mV以内に制御されており、NaCl10mMの条件においてpH6における分離機能層の表面ゼータ電位がpH11における分離機能層の表面ゼータ電位よりも15mV以上高いことが望ましい。
【0070】
分離機能層の第1層には、多官能芳香族アミンに由来するアミノ基及び多官能芳香族酸クロリドに由来するカルボキシ基が含まれる。また、第2層には、多官能脂肪族アミンに由来するアミノ基及び多官能カルボン酸に由来するカルボキシ基が含まれる。第1層及び第2層に含まれるこれら官能基の解離度によって表面ゼータ電位の値が変化する。
分離機能層のpH6における表面ゼータ電位は、膜汚染物質の吸着性に関係している。pH6かつNaCl濃度10mMの条件において表面ゼータ電位が±15mV以内に制御されていると、膜汚染物質と膜表面素材との相互作用を抑制することができる。表面ゼータ電位が±15mV以内であるということは膜表面が電気的に中性であることを示しており、膜表面が電気的に中性であると、水中に存在している荷電基を有する膜汚染物質と膜表面との電気的な相互作用を抑制するからである。
【0071】
一方、表面ゼータ電位の絶対値が小さい中性領域からpHを変化させたときに、表面ゼータ電位の変化が大きいと、汚染物質の付着した膜の透過水量回復性が高くなる。これは、pH変化に伴い、表面の荷電バランスが大きく変化し、親水性の変化及び静電反発によって分離機能層表面に付着した汚染物質の脱離が促進されるためと考えられる。pH6における表面ゼータ電位がpH11における表面ゼータ電位よりも15mV以上高ければ分離機能層表面に付着した汚染物質の脱離が十分に促進され、高い透水量回復性を得ることができる。
【0072】
分離機能層表面の自乗平均面粗さは、60nm以上であることが好ましい。自乗平均面粗さが60nm以上であることで、分離機能層の表面積が大きくなり、透過水量が高くなる。
なお、自乗平均面粗さは原子間力顕微鏡(以下、AFMという。)で測定できる。自乗平均面粗さは基準面から指定面までの偏差の自乗を平均した値の平方根である。ここで測定面とは全測定データの示す面をいい、指定面とは粗さ計測の対象となる面で、測定面のうちクリップで指定した特定の部分をいい、基準面とは指定面の高さの平均値をZ0とするとき、Z=Z0で表される平面をいう。AFMは、例えばデジタル・インスツルメンツ社製NanoScope IIIaが使用できる。
【0073】
分離機能層表面の自乗平均面粗さは、界面重縮合によって分離機能層を形成する時のモノマー濃度や温度によって制御できる。例えば、界面重縮合時の温度が低いと自乗平均面粗さは小さくなり、温度が高いと自乗平均面粗さは大きくなる。また、第2層が厚いと自乗平均面粗さは小さくなる。
【0074】
(1-2)支持膜
支持膜は、分離機能層に強度を与えるためのものであり、それ自体は、実質的にイオン等の分離性能を有さない。支持膜は、基材と多孔性支持層からなる。
【0075】
支持膜における孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面における微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような支持膜が好ましい。
【0076】
支持膜は、例えば基材上に高分子重合体を流延することで、基材上に多孔性支持層を形成することにより得ることができる。支持膜に使用する材料やその形状は特に限定されない。
【0077】
基材としては、ポリエステル及び芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種からなる布帛が例示される。機械的及び熱的に安定性の高いポリエステルを使用するのが特に好ましい。
【0078】
基材に用いられる布帛としては、長繊維不織布や短繊維不織布を好ましく用いることができる。基材上に高分子重合体の溶液を流延した際にそれが過浸透により裏抜けしたり、基材と多孔性支持層が剥離したり、さらには基材の毛羽立ち等により膜の不均一化やピンホール等の欠点が生じたりすることがないような優れた製膜性が要求されることから、長繊維不織布をより好ましく用いることができる。
【0079】
長繊維不織布としては、熱可塑性連続フィラメントより構成される長繊維不織布などが挙げられる。基材が長繊維不織布からなることにより、短繊維不織布を用いたときに起こる、毛羽立ちによって生じる高分子溶液流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。また、複合半透膜を連続製膜する工程においては、基材の製膜方向に張力がかけられることからも、基材としては、寸法安定性に優れる長繊維不織布を用いることが好ましい。
【0080】
特に、基材の多孔性支持層と反対側に配置される繊維の配向が、製膜方向に対して縦配向であることにより、基材の強度を保ち、膜破れ等を防ぐことができるので好ましい。ここで、縦配向とは、繊維の配向方向が製膜方向と平行であることを言う。逆に、繊維の配向方向が製膜方向と直角である場合は、横配向と言う。
【0081】
不織布基材の繊維配向度としては、多孔性支持層と反対側における繊維の配向度が0°以上25°以下であることが好ましい。ここで繊維配向度とは、支持膜を構成する不織布基材の繊維の向きを示す指標であり、連続製膜を行う際の製膜方向を0°とし、製膜方向と直角方向、すなわち不織布基材の幅方向を90°としたときの、不織布基材を構成する繊維の平均の角度のことを言う。よって、繊維配向度が0°に近いほど縦配向であり、90°に近いほど横配向であることを示す。
【0082】
複合半透膜の製造工程やエレメントの製造工程には、加熱工程が含まれるが、加熱により支持膜又は複合半透膜が収縮する現象が起きる。特に連続製膜において、幅方向には張力が付与されていないので、幅方向に収縮しやすい。支持膜又は複合半透膜が収縮することにより、寸法安定性等に問題が生じるため、基材としては熱寸法変化率が小さいものが望まれる。
【0083】
不織布基材において多孔性支持層と反対側に配置される繊維と、多孔性支持層側に配置される繊維との配向度差が10°以上90°以下であると、熱による幅方向の変化を抑制することができ好ましい。
【0084】
基材の通気度は2.0cc/cm/sec以上であることが好ましい。通気度がこの範囲だと、複合半透膜の透過水量が高くなる。これは、支持膜を形成する工程で、基材上に高分子重合体を流延し、凝固浴に浸漬した際に、基材側からの非溶媒置換速度が速くなることで多孔性支持層の内部構造が変化し、その後の分離機能層を形成する工程においてモノマーの保持量や拡散速度に影響を及ぼすためと考えられる。
【0085】
なお、通気度はJIS L1096(2010)に基づき、フラジール形試験機によって測定できる。例えば、200mm×200mmの大きさに基材を切り出し、サンプルとする。このサンプルをフラジール形試験機に取り付け、傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように吸込みファン及び空気孔を調整し、このときの垂直形気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類から基材を通過する空気量、すなわち通気度を算出することができる。フラジール形試験機は、カトーテック株式会社製KES-F8-AP1などが使用できる。
【0086】
また、基材の厚みは、10μm以上200μm以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30μm以上120μm以下の範囲内である。
【0087】
多孔性支持層の素材にはポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマー又はコポリマーが好ましい。より好ましくは酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、又はポリフェニレンスルホンが挙げられ、さらに、これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることからポリスルホンが一般的に使用できる。
【0088】
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、支持膜の孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0089】
【化1】
【0090】
例えば、上記ポリスルホンのN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFという。)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいはポリエステル不織布の上に一定の厚さに流延し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有した支持膜を得ることができる。
【0091】
上記の支持膜の厚みは、得られる複合半透膜の強度及びそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。支持膜の厚みは、十分な機械的強度及び充填密度を得るためには、30μm以上300μm以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは100μm以上220μm以下の範囲内である。
【0092】
多孔性支持層の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から多孔性支持層を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金又は白金-パラジウム又は四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3~15kVの加速電圧で高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR-FE-SEM)によって観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、株式会社日立製作所製S-900型電子顕微鏡などが使用できる。
【0093】
本発明に使用する支持膜は、ミリポア社製”ミリポアフィルターVSWP”(商品名)や、東洋濾紙株式会社製”ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるし、”オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法などに従って製造することもできる。
【0094】
多孔性支持層の厚みは、20μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましい。多孔性支持層の厚みが20μm以上であることで、良好な耐圧性が得られると共に、欠点のない均一な支持膜を得ることができるので、このような多孔性支持層を備える複合半透膜は、良好な塩除去性能を示すことができる。多孔性支持層の厚みが100μmを超えると、製造時の未反応物質の残存量が増加し、それにより透過水量が低下するとともに、耐薬品性が低下する。
【0095】
なお、基材の厚み及び複合半透膜の厚みは、デジタルシックネスゲージによって測定することができる。また、分離機能層の厚みは支持膜と比較して非常に薄いので、複合半透膜の厚みを支持膜の厚みとみなすことができる。従って、複合半透膜の厚みをデジタルシックネスゲージで測定し、複合半透膜の厚みから基材の厚みを引くことで、多孔性支持層の厚みを簡易的に算出することができる。デジタルシックネスゲージとしては、尾崎製作所株式会社製のPEACOCKなどが使用できる。デジタルシックネスゲージを用いる場合は、20箇所について厚みを測定して平均値を算出する。
【0096】
なお、基材の厚みもしくは複合半透膜の厚みをシックネスゲージによって測定することが困難な場合、走査型電子顕微鏡で測定してもよい。1つのサンプルについて任意の5箇所における断面観察の電子顕微鏡写真から厚みを測定し、平均値を算出することで厚みが求められる。
【0097】
2.製造方法
次に、上記複合半透膜の製造方法について説明する。製造方法は、支持膜の形成工程及び分離機能層の形成工程を含む。
【0098】
(2-1)支持膜の形成工程
支持膜の形成工程は、基材に高分子溶液を塗布する工程及び溶液を塗布した前記基材を凝固浴に浸漬させて高分子を凝固させる工程を含む。
【0099】
基材に高分子溶液を塗布する工程において、高分子溶液は、多孔性支持層の成分である高分子を、その高分子の良溶媒に溶解して調製する。
【0100】
高分子溶液塗布時の高分子溶液の温度は、高分子としてポリスルホンを用いる場合、10℃以上60℃以下であることが好ましい。高分子溶液の温度がこの範囲内であれば、高分子が析出することがなく、高分子溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、アンカー効果により多孔性支持層が基材に強固に接合し、良好な支持膜を得ることができる。なお、高分子溶液の好ましい温度範囲は、用いる高分子の種類や、所望の溶液粘度などによって適宜調整することができる。
【0101】
基材上に高分子溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間は、0.1秒以上5秒以下であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、高分子を含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。なお、凝固浴に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる高分子溶液の種類や、所望の溶液粘度などによって適宜調整することができる。
【0102】
凝固浴としては、通常水が使われるが、多孔性支持層の成分である高分子を溶解しないものであればよい。凝固浴の組成によって得られる支持膜の膜形態が変化し、それによって得られる複合半透膜も変化する。凝固浴の温度は、-20℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは10℃以上50℃以下である。凝固浴の温度がこの範囲以内であれば、熱運動による凝固浴面の振動が激しくならず、膜形成後の膜表面の平滑性が保たれる。また温度がこの範囲内であれば凝固速度が適当で、製膜性が良好である。
【0103】
次に、このようにして得られた支持膜を、膜中に残存する溶媒を除去するために熱水洗浄する。このときの熱水の温度は40℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは60℃以上95℃以下である。この範囲内であれば、支持膜の収縮度が大きくならず、透過水量が良好である。また、温度がこの範囲内であれば洗浄効果が十分である。
【0104】
(2-2)分離機能層の形成工程
(2-2-1)概要
次に、複合半透膜を構成する分離機能層の形成工程を説明する。分離機能層の形成工程は、下記工程(a)、(b)をこの順に行うことを含む。
(a)多官能芳香族アミンを含有する水溶液と、多官能芳香族酸クロリドを含有する有機溶媒溶液とを用い、前記多孔性支持層上で界面重縮合を行うことにより、架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層を形成する工程、
(b)前記第1層上に多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である前記脂肪族ポリアミドを含む第2層を配置する工程
【0105】
(2-2-2)架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層を形成する工程(a)
工程(a)において、多官能芳香族酸クロリドを溶解する有機溶媒としては、水と非混和性のものであって、支持膜を破壊しないものであり、かつ、架橋芳香族ポリアミドの生成反応を阻害しないものであればいずれであってもよい。代表例としては、液状の炭化水素、トリクロロトリフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられる。オゾン層を破壊しない物質であることや入手のしやすさ、取り扱いの容易さ、取り扱い上の安全性を考慮すると、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン、1-オクテン、1-デセンなどの単体あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0106】
多官能芳香族アミンを含有する水溶液(多官能芳香族アミン水溶液)や多官能芳香族酸クロリドを含有する有機溶媒溶液(多官能芳香族酸クロリド含有溶液)には、両成分間の反応を妨害しないものであれば、必要に応じて、アシル化触媒や極性溶媒、酸捕捉剤、界面活性剤、酸化防止剤等の化合物が含まれていてもよい。
【0107】
界面重縮合を支持膜上で行うために、まず、多官能芳香族アミン水溶液で支持膜表面を被覆する。ここで、多官能芳香族アミンを含有する水溶液の濃度は、0.1重量%以上20重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下である。
【0108】
多官能芳香族アミン水溶液で支持膜表面を被覆する方法としては、支持膜の表面がこの水溶液によって均一にかつ連続的に被覆されればよく、公知の塗布手段、例えば、水溶液を支持膜表面にコーティングする方法、支持膜を水溶液に浸漬する方法等で行えばよい。支持膜と多官能芳香族アミン水溶液との接触時間は、5秒以上10分以下の範囲内であることが好ましく、10秒以上3分以下の範囲内であるとさらに好ましい。次いで、過剰に塗布された水溶液を液切り工程により除去することが好ましい。液切りの方法としては、例えば膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法等がある。液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の全部あるいは一部を除去してもよい。
【0109】
その後、多官能芳香族アミン水溶液で被覆した支持膜に、前述の多官能芳香族酸クロリド含有溶液を塗布し、界面重縮合により架橋芳香族ポリアミドを形成させる。界面重縮合を実施する時間は、0.1秒以上3分以下が好ましく、0.1秒以上1分以下であるとより好ましい。
【0110】
多官能芳香族酸クロリド含有溶液における多官能芳香族酸クロリドの濃度は、特に限定されないが、低すぎると活性層である第1層形成が不十分となり欠点になる可能性があり、高すぎるとコスト面から不利になるため、0.01重量%以上1.0重量%以下程度が好ましい。
【0111】
次に、反応後に残留する有機溶媒は、液切り工程により除去することが好ましい。有機溶媒の除去は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1分以上5分以下であることが好ましく、1分以上3分以下であるとより好ましい。把持する時間が1分以上であることで目的の機能を有する架橋芳香族ポリアミドを得やすく、3分以下であることで有機溶媒の過乾燥による欠点の発生を抑制できるので、性能低下を抑制することができる。
【0112】
(2-2-3)第1層上に第2層を配置する工程(b)
工程(b)により第1層の表面に多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンの重合体である脂肪族ポリアミドを含む第2層を配置する。
【0113】
工程(b)は、具体的には、下記工程(b1)及び工程(b2)の少なくとも一方を含む。
(b1)多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンとを重合させることで脂肪族ポリアミドを形成すること、及び前記脂肪族ポリアミドを前記架橋芳香族ポリアミドの層上に付着させること
(b2)前記架橋芳香族ポリアミドの層上で、多官能脂肪族カルボン酸と多官能脂肪族アミンとを縮合させること
【0114】
架橋芳香族ポリアミドは、脂肪族ポリアミド、多官能脂肪族カルボン酸及び多官能脂肪族アミンのいずれもほとんど通過させない。よって、工程(b1)及び工程(b2)の少なくとも一方を第1層上で行うことで、第1層の表面に第2層を形成することができる。
【0115】
上記工程(b1)では、予め合成された脂肪族ポリアミドを含む溶液を架橋芳香族ポリアミド上にコーティングすることで第2層を形成してもよいし、予め合成された脂肪族ポリアミドを含む溶液に架橋芳香族ポリアミドを含む膜を浸漬することで、第2層を形成してもよい。
【0116】
架橋芳香族ポリアミドに接触させる脂肪族ポリアミドは単独であっても数種混合して用いてもよい。脂肪族ポリアミドは、重量濃度で0.001重量%以上1重量%以下の水溶液として使用するのが好ましい。脂肪族ポリアミドの濃度が0.001重量%以上であることで、比較的短時間で効率良く第2層を形成することができる。また、脂肪族ポリアミドの濃度が1重量%以下であることで、適度に薄い脂肪族ポリアミド層が形成されるので、透水量の低下が抑制される。
【0117】
また、工程(b2)では、架橋芳香族ポリアミド表面上で上記多官能脂肪族アミンと多官能脂肪族カルボン酸とを縮合させることで脂肪族ポリアミドを生成する。この方法でも、架橋芳香族ポリアミド上に第2層が形成される。
【0118】
工程(b2)では、多官能脂肪族アミンと多官能脂肪族カルボン酸はそれぞれ重量濃度で0.001重量%以上1重量%以下の水溶液として使用するのが好ましい。それぞれの濃度が0.001重量%以上であれば、効率良く脂肪族ポリアミドを生成し、かつ比較的短時間で効率良く第2層を形成することができる。また、濃度が1重量%以下であることで、適度に薄い脂肪族ポリアミド層が形成されるので、透水量の低下が抑制される。
【0119】
いずれの工程においても、脂肪族ポリアミドの合成には、上記多官能脂肪族アミンと多官能脂肪族カルボン酸との反応を利用することができる。この反応では、多官能脂肪族アミンのアミノ基と多官能脂肪族カルボン酸のカルボキシ基との反応によりアミド結合が形成される。
【0120】
また、工程(b1)で使用する脂肪族ポリアミドの合成、又は工程(b2)での脂肪族ポリアミドの合成において、高効率かつ短時間で反応を進めるために、種々の反応助剤(縮合促進剤)を利用することができる。縮合促進剤として、硫酸、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-カルボニルジイミダゾール、1,1’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、クロロトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸塩、ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン-3-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-(2-オクトキシ-2-オキソエチル)ジメチルアンモニウム、S-(1-オキシド-2-ピリジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルチウロニウムテトラフルオロほう酸塩、O-[2-オキソ-1(2H)-ピリジル]-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、{{[(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデン)アミノ]オキシ}-4-モルホリノメチレン}ジメチルアンモニウムヘキサフルオロりん酸塩、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロりん酸塩、1-(クロロ-1-ピロリジニルメチレン)ピロリジニウムヘキサフルオロりん酸塩、2-フルオロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロりん酸塩、フルオロ-N,N,N’,N’-テトラメチルホルムアミジニウムヘキサフルオロりん酸塩、などが例として挙げられる。
【0121】
脂肪族ポリアミドの合成における反応時間及び化合物の濃度は、使用する溶媒、縮合促進剤及び化合物の化学構造により適宜調整可能であるが、生産性の観点から、反応時間は24時間以内が好ましく、12時間以内がより好ましく、6時間以内がさらに好ましく、1時間以内が特に好ましい。
【0122】
工程(b1)で用いる脂肪族ポリアミドは、合成後に、残渣化合物を除去し、精製しておいてもよい。
【0123】
なお、脂肪族ポリアミドの溶液には必要に応じて他の化合物を混合することもできる。例えば、架橋芳香族ポリアミド中に残存する物質、すなわち、水と非混和性の有機溶媒、多官能酸クロリド及び多官能アミンなどのモノマー、並びにこれらモノマーの反応で生じたオリゴマーなどを除去するために、ドデシル硫酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤を添加することも好ましい。
【0124】
工程(b)は、さらに、架橋芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの間にアミド結合を形成する工程(c)を含んでもよい。
具体的には、脂肪族ポリアミドのアミノ基と架橋芳香族ポリアミドのカルボキシ基との反応によりアミド結合を形成するか、脂肪族ポリアミドのカルボキシ基と架橋芳香族ポリアミドのアミノ基との反応によりアミド結合を形成することで、脂肪族ポリアミドと架橋芳香族ポリアミドとの間にアミド結合を形成することができる。
【0125】
工程(c)におけるアミド結合の形成は、工程(b1)及び/又は工程(b2)の後に行ってもよいし、又は工程(b1)及び/又は工程(b2)と並行して行ってもよい。ただし、工程(c)を工程(b1)及び/又は工程(b2)の後に行うことで、より多くの脂肪族ポリアミドを架橋芳香族ポリアミド上に配置することができる。
【0126】
架橋芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの間にアミド結合を形成するときに、カルボキシ基は、反応活性の高い状態であることが好ましい。反応活性の高い状態のカルボキシ基は、架橋芳香族ポリアミド又は脂肪族ポリアミドを形成するカルボン酸の未反応のカルボキシ基であってもよいし、アミド化促進剤によってカルボキシ基が変換されて得られる活性エステル基等の反応性の高い官能基であってもよい。
【0127】
例えば、架橋芳香族ポリアミド形成に用いられる多官能芳香族酸クロリドは、反応活性の高いカルボキシ基である酸クロリド基を有している。架橋芳香族ポリアミドの形成直後には、酸クロリド基は架橋芳香族ポリアミドに残存している。よって、官能基の活性を高める処理を行わなくても、この酸クロリド基と上記脂肪族ポリアミドの保有するアミノ基とは容易に反応してアミド結合を形成する。また、脂肪族ポリアミド形成に用いる脂肪族カルボン酸が酸フルオリド基を有している場合は、脂肪族ポリアミドの形成直後には、脂肪族ポリアミド中に、反応活性の高いカルボキシ基である酸フルオリド基が残存しているので、この酸フルオリド基は架橋芳香族ポリアミドの保有するアミノ基と反応することで、容易にアミド結合を形成する。また、未反応の脂肪族カルボン酸の有する酸フルオリド基と芳香族ポリアミドの保有するアミノ基とが反応してアミド結合を形成した後、脂肪族カルボン酸に脂肪族アミンが結合することで脂肪族ポリアミドが形成されてもよい。これらの反応を利用することで、高効率かつ短時間で架橋ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの間にアミド結合を形成することができる。
【0128】
なお、「架橋芳香族ポリアミドの形成直後」、「脂肪族ポリアミドの形成直後」とは、ポリアミドの形成後、洗浄等の他の工程を行っておらず、かつポリアミド形成後に官能基が失活するほどの長い時間が経過していないことを意味する。
【0129】
架橋芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドの一方又は両方に、アミド化促進剤を含む溶液を接触させる工程について説明する。アミド化促進剤を利用することで、架橋芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの高効率かつ短時間でのアミド結合形成が可能である。アミド化促進剤としては、上述した縮合促進剤と同じ化合物を使用することができる。また、アミド化促進剤としては、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウムなどのアルカリ性金属化合物も例示される。
【0130】
架橋芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの間のアミド結合形成の反応時間及びアミド化促進剤の濃度は、使用する溶媒、並びにアミド化促進剤、脂肪族ポリアミド及び架橋芳香族ポリアミドの化学構造により、適宜調整可能である。具体的には、生産性の観点から、反応時間は24時間以内が好ましく、1時間以内がより好ましく、10分以内がさらに好ましく、3分以内が特に好ましい。反応終了後、水、熱水又は適切な有機溶媒により、得られた複合半透膜を洗浄し、反応性の化合物を除去することが好ましい。
【0131】
(2-2-4)架橋芳香族ポリアミドのアミノ基を他の官能基に変換する工程(d)
複合半透膜の製造方法はさらに、架橋芳香族ポリアミドのアミノ基を他の官能基に変換する工程(d)を備えてもよい。工程(d)は、工程(b)の後に行われる。
工程(d)において、架橋芳香族ポリアミドのアミノ基を官能基変換する試薬と接触させることでアミノ基を他の官能基へと変換する。中でも、アミノ基と反応してジアゾニウム塩又はその誘導体を生成する試薬に接触させ、官能基の変換を行うことが好ましい。アミノ基と反応してジアゾニウム塩又はその誘導体を生成する試薬としては、亜硝酸及びその塩、ニトロシル化合物などの水溶液が挙げられる。亜硝酸やニトロシル化合物の水溶液は気体を発生して分解する性質を持つため、亜硝酸塩と酸性溶液との反応によって亜硝酸を逐次生成するのが好ましい。一般に、亜硝酸塩は水素イオンと反応して亜硝酸(HNO)を生成するが、水溶液のpHが7以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下で効率よく生成する。中でも、取り扱いの簡便性から水溶液中で塩酸又は硫酸と反応させた亜硝酸ナトリウムの水溶液が特に好ましい。
【0132】
アミノ基と反応してジアゾニウム塩又はその誘導体を生成する試薬中の亜硝酸や亜硝酸塩の濃度は、好ましくは0.01重量%以上1重量%以下の範囲であり、より好ましくは0.05重量%以上0.5重量%以下の範囲である。0.01重量%以上の濃度であれば十分な効果が得られ、濃度が1重量%以下であれば溶液の取扱いが容易である。
【0133】
亜硝酸水溶液の温度は15℃以上45℃以下であることが好ましい。15℃以上の温度であれば十分な反応時間が得られ、45℃以下であれば亜硝酸の分解が起こり難いため取り扱いが容易である。
【0134】
亜硝酸水溶液との接触時間は、ジアゾニウム塩及びその誘導体のうち少なくとも一方が生成する時間であればよく、高濃度では短時間で処理が可能であるが、低濃度であると長時間必要である。そのため、上記濃度の溶液では10分間以内であることが好ましく、3分間以内であることがさらに好ましい。また、接触させる方法は特に限定されず、該試薬の溶液を塗布しても、該試薬の溶液に該複合半透膜を浸漬させてもよい。該試薬を溶かす溶媒は該試薬が溶解し、該複合半透膜が侵食されなければ、いかなる溶媒を用いてもかまわない。また、溶液には、アミノ基と試薬との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や酸性化合物、アルカリ性化合物などが含まれていてもよい。
【0135】
次に、生成したジアゾニウム塩又はその誘導体の一部を異なる官能基へ変換する。ジアゾニウム塩又はその誘導体の一部は、例えば、水と反応することによりフェノール性水酸基へと変換される。また、塩化物イオン、臭化物イオン、シアン化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化ホウ素酸、次亜リン酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸イオン、芳香族アミン、硫化水素、チオシアン酸等を含む溶液と接触させると、対応した官能基へ変換される。また、芳香族アミンと接触させることでジアゾカップリング反応が起こり膜面に芳香族基を導入することが可能となる。なお、これらの試薬は単一で用いても、複数混合させて用いてもよく、異なる試薬に複数回接触させてもよい。
【0136】
ジアゾカップリング反応が生じる試薬としては、電子豊富な芳香環又は複素芳香環を持つ化合物が挙げられる。電子豊富な芳香環又は複素芳香環を持つ化合物としては、無置換の複素芳香環化合物、電子供与性置換基を有する芳香族化合物、及び電子供与性置換基を有する複素芳香環化合物が挙げられる。電子供与性の置換基としては、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などが挙げられる。上記化合物の具体的な例としては、例えば、アニリン、オルト位、メタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したメトキシアニリン、2個のアミノ基がオルト位、メタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミン、スルファニル酸、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、1-アミノナフタレン、2-アミノナフタレン、又はこれらの化合物のN-アルキル化物が挙げられる。
【0137】
(2-2-5)脂肪族ポリアミドを架橋する工程
複合半透膜の製造方法はさらに、脂肪族ポリアミドを架橋する工程(e)を備えてもよい。
工程(e)は工程(b)の後に行われてもよいし、予め脂肪族ポリアミドを合成する際に行われてもよい。脂肪族ポリアミドの合成に、上記多官能脂肪族アミンと多官能脂肪族カルボン酸との反応を利用する場合、多官能脂肪族アミンの第一級あるいは第二級アミノ基が3つ以上あるいは、多官能脂肪族カルボン酸中のカルボン酸が3つ以上であれば脂肪族ポリアミドは架橋される。また、上記脂肪族ポリアミドが持つカルボキシ基あるいはアミノ基を反応する官能基を含む試薬を利用してもよい。例えばエポキシ基を複数有する化合物を架橋剤として利用することができる。また、このような架橋を行う方法は特に限定されず、該試薬の溶液を塗布しても、該試薬の溶液に該複合半透膜を浸漬させてもよい。該試薬を溶かす溶媒は該試薬が溶解し、該複合半透膜が侵食されなければ、いかなる溶媒を用いてもかまわない。
【0138】
(2-2-6)その他の工程
複合半透膜の製造方法は、上述した以外のさらなる工程を備えてもよい。
例えば、上述の方法(少なくとも工程(a)、(b)を含む方法)により得られた分離機能層を、25℃以上90℃以下の範囲内で、1分以上60分以下熱水で洗浄処理することで、複合半透膜の溶質阻止性能や透過水量をより一層向上させることができる。この洗浄処理は工程(a)の後であれば、何度行ってもよい。ただし、熱水の温度が高すぎた場合、熱水洗浄処理後に急激に冷却すると耐薬品性が低下する。そのため、熱水洗浄は、25℃以上60℃以下の範囲内で行うことが好ましい。また、61℃以上90℃以下の高温で熱水洗浄処理する際には、熱水洗浄処理後は、緩やかに冷却することが好ましい。例えば、段階的に低い温度の熱水と接触させて室温まで冷却させる方法等がある。
【0139】
また、上記の熱水洗浄する工程において、熱水中に酸又はアルコールが含まれていてもよい。酸又はアルコールを含むことで、架橋芳香族ポリアミドにおける水素結合の形成をより制御しやすくなる。酸としては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸や、クエン酸、シュウ酸などの有機酸などが挙げられる。酸の濃度は、pH2以下となるように調整することが好ましく、pH1以下であるとより好ましい。アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの1価アルコールや、エチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールが挙げられる。アルコールの濃度は、好ましくは10重量%以上100重量%以下であり、より好ましくは10重量%以上50重量%以下である。
【0140】
3.複合半透膜の利用
本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列又は並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0141】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0142】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は0.1MPa以上10MPa以下が好ましい。供給水温度は高くなると塩除去率が低下するが、低くなるに従い膜透過流束も減少するので、5℃以上45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0143】
本発明に係る複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L~100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「重量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5~40.5℃の温度で蒸発させた残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【実施例
【0144】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0145】
[1.特性の測定]
(NaCl除去率)
複合半透膜に、温度25℃、pH7、塩化ナトリウム濃度2,000ppmに調整した評価水を操作圧力1.55MPaで供給して膜ろ過処理を行なった。供給水及び透過水の電気伝導度を東亜電波工業株式会社製電気伝導度計で測定して、それぞれの実用塩分、すなわちNaCl濃度を得た。こうして得られたNaCl濃度及び下記式に基づいて、NaCl除去率を算出した。
NaCl除去率(%)=100×{1-(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
【0146】
(透過水量)
前項の試験において、供給水(NaCl水溶液)の膜透過水量を測定し、膜面1平方メートル当たり、1日の透水量(立方メートル)に換算した値を膜透過流束(m/m/日)とした。
なお、膜性能の測定は以下のように行った。初めに、25℃、pH7、NaCl濃度が2,000mg/Lである水溶液を1.55MPaの圧力で2時間ろ過したときの透過水量を測定し、初期透過水量(F1)とした。続いてポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(POEOPE)を150mg/Lの濃度となるように水溶液に加えて2時間ろ過したときの透過水量をF2とし、F2/F1の値を透過水量持率として算出した。
アルカリ接触後の透過水量(F3)は、NaCl濃度が500mg/lで、25℃、pH13の水溶液に24時間接触した後に、25℃、pH7の純水で洗浄し、NaCl濃度が2,000mg/Lである25℃、pH7の水溶液を1.55MPaの圧力で2時間ろ過したときの透過水量をF3とし、続いてPOEOPEを150mg/Lの濃度となるように水溶液に加えて2時間ろ過したときの透過水量をF4とし、F4/F3の値をアルカリ接触後の透水量保持率として算出した。
【0147】
(基材の繊維配向度)
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で100~1,000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度を測定し、それらの平均値から小数点以下第一位を四捨五入して繊維配向度を求めた。
【0148】
(通気度)
通気度は、JIS L1096(2010)に基づき、フラジール形試験機によって測定した。基材を200mm×200mmの大きさに切り出し、フラジール形試験機に取り付け、傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように吸込みファン及び空気孔を調整し、このときの垂直形気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類から通気度を求めた。フラジール形試験機は、カトーテック株式会社製KES-F8-AP1を使用した。
【0149】
(接触角)
接触角はContact Angle meter(協和界面科学株式会社製)を使用し、蒸留水1.6mgを複合半透膜の分離機能層表面に滴下し、滴下5秒後の水滴の頂点部と水滴と積層フィルムの接点から接触角を算出した。測定場所を適宜選択し、5点測定を行い、その平均を接触角とした。
【0150】
(加水分解方法)
40wt%のNaOH水溶液に分離機能層を溶解させ、100℃で16時間加熱を行い、アルカリ加水分解を行った。
なお、分離機能層をアルカリ加水分解して得られた化合物の分子量はESI-MS(エレクトロスプレーイオン化質量分析)により算出した。なお、ESI-MSの測定条件は次の通りである。
<ESI-MSの測定条件>
分離機能層をアルカリ加水分解して得られた化合物をジクロロメタンとメタノールの混合液(混合比1mL/1mL)に溶解させ、LTQ Orbitrap(Thermo Scientific社製)に打ち込み、ESI-MSスペクトルを記録した。
【0151】
(分子量測定方法)
各合成例で得られたポリマーを1.0w/v%になるよう20mMリン酸バッファー(pH7.4)で希釈し、この溶液を0.45μmのメンブランフィルターでろ過して試験溶液とし、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により重量平均分子量を測定・算出した。なお、GPC分析の測定条件は次の通りである。
<GPC分析の測定条件>
カラム;TSKgel PWXL-CP(東ソー株式会社製)、溶離溶媒;20mMリン酸バッファー(pH7.4)、標準物質;ポリエチレングリコール(Polymer Laboratories Ltd.製)、検出;示差屈折計RI-8020(東ソー株式会社製)、流速;0.5mL/分、試料溶液使用量;10μL、カラム温度;45℃。
【0152】
[2.複合半透膜の作製]
(2-1.脂肪族ポリアミドの合成)
(合成例1)
N-[3-(アミノエチル)]メタクリルアミド塩酸塩(AEMAm)5重量%とアクリル酸(AA)5重量%のpH3の水溶液となるように調整し、窒素でバブリングを行った後、開始剤である過硫酸ナトリウム3重量%を添加して、70℃で2時間重合反応を行い、重量平均分子量7,100のポリマー(PAA-co-PAEMAm)を得た。
【0153】
(合成例2)
AEMAmの代わりに3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル)]ジメチルアンモニオ]プロピオナート(MOEDMAP)を用いる以外、合成例1に従い重量平均分子量12,000のポリマー(PAA-co-PMOEDMAP)を得た。
【0154】
(合成例3)
コハク酸5重量%、エチレンジアミン10重量%の水溶液となるように調整し、硫酸水溶液でpH10となるように調整した。その調整溶液に縮合促進剤としてDMT-MMを1重量%水溶液となるように混合し、25℃で24時間重合を行い、重量平均分子量3,600の脂肪族ポリアミドを得た。
【0155】
(合成例4)
コハク酸のかわりにエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いる以外、合成例3に従い重量平均分子量4,800の脂肪族ポリアミドを得た。
【0156】
(合成例5)
コハク酸のかわりに重量平均分子量5,000のポリアクリル酸(PAA)を用いる以外、合成例3に従い重量平均分子量38,000の脂肪族ポリアミドを得た。
【0157】
(合成例6)
合成例1で得られたPAA-co-PAEMAmの0.2重量%のpH11の水溶液となるように調整し、その溶液に縮合促進剤としてDMT-MMを0.1重量%水溶液となるように混合し、25℃で24時間重合を行い、重量平均分子量259,000の脂肪族ポリアミドを得た。
【0158】
(合成例7)
分子量5,000のPAA0.05重量%、分子量50,000のキトサン(脱アセチル化度80%)0.01重量%の水溶液となるように調整し、硫酸水溶液でpH11となるように調整した。その調整溶液に縮合促進剤としてDMT-MMを1重量%水溶液となるように混合し、25℃で24時間重合を行い、重量平均分子量124,000の脂肪族ポリアミドを得た。
【0159】
(合成例8)
分子量5,400のポリメタクリル酸(PMA)0.05重量%、分子量3,000のポリアリルアミン(PAAm)0.05重量%の水溶液となるように調整し、硫酸水溶液でpH11となるように調整した。その調整溶液に縮合促進剤としてDMT-MMを1重量%水溶液となるように混合し、25℃で8時間重合を行い、重量平均分子量89,000の脂肪族ポリアミドを得た。
【0160】
(2-2.複合半透膜の作製)
(比較例1)
長繊維からなるポリエステル不織布(通気度2.0cc/cm/sec)上にポリスルホン(PSf)の15.0重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって、多孔性支持層の厚みが40μmである支持膜を作製した。
次に、この支持膜を3.5重量%のm-PDA水溶液に浸漬した後、余分な水溶液を除去し、さらに濃度が0.14重量%となるようにTMCを溶解したn-デカン溶液を多孔性支持層の表面が完全に濡れるように塗布した。次に膜から余分な溶液を除去するために、膜を垂直にして液切りを行って、送風機を使い25℃の空気を吹き付けて乾燥させた後、40℃の純水で洗浄して比較例1の複合半透膜を得た。
【0161】
(比較例2)
比較例1で得られた複合半透膜を、pH3、35℃に調整した0.3重量%の亜硝酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬した。なお、亜硝酸ナトリウムのpHの調整は硫酸で行った。次に20℃の純水で洗浄することで、比較例2の複合半透膜を得た。
【0162】
(比較例3)
比較例1で得られた複合半透膜上に、ケン化度99%、重量平均分子量2,000のポリビニルアルコール(PVA)をイソプロピルアルコールと水の3:7溶液に0.25重量%となるように溶解した溶液を塗布し、130℃で5分間乾燥し、架橋芳香族ポリアミド上にPVAが配置された比較例3の複合半透膜を得た。
【0163】
(比較例4)
比較例1で得られた複合半透膜を用いた純水の通水運転中、供給純水中に重量平均分子量25,000のポリエチレンイミン(PEI)を0.1重量%水溶液となるように添加し、1時間運転して接触させることで、比較例4の複合半透膜を得た。
【0164】
(比較例5)
比較例1で得られた複合半透膜を重量平均分子量が2,000のPAA0.01重量%とDMT-MM0.1重量%を含む水溶液に20℃で24時間接触させた後、水洗することで、比較例5の複合半透膜を得た。
【0165】
(比較例6)
比較例1で得られた複合半透膜を用いた純水の通水運転中、供給純水中に重量平均分子量が2,000のPAAmを0.1重量%水溶液となるように添加し、30分間運転して接触させ、次いで供給純水中に重量平均分子量が2,000のPAAを0.1重量%水溶液となるように添加し、30分間運転することで、比較例6の複合半透膜を得た。
【0166】
(比較例7)
比較例1における送風機での乾燥から40℃の純水での洗浄の間の工程に、合成例1で得たPAA-co-PAEMAmの0.01重量%のpH11水溶液に浸漬させる工程を挟んだ以外は比較例1に従い、比較例7の複合半透膜を得た。
【0167】
(比較例8)
PAAのかわりに合成例2で得られたPAA-co-PMOEDMAPを用いる以外は比較例5に従い、比較例8の複合半透膜を得た。
【0168】
(実施例1)
PEIのかわりに合成例3で得られた脂肪族ポリアミドを用いる以外は比較例4に従い、実施例1の複合半透膜を得た。
【0169】
(実施例2)
PEIのかわりに合成例4で得られた脂肪族ポリアミドを用いる以外は比較例4に従い、実施例2の複合半透膜を得た。
【0170】
(実施例3)
PEIのかわりに合成例5で得られた脂肪族ポリアミドを用いる以外は比較例4に従い、実施例3の複合半透膜を得た。
【0171】
(実施例4)
PAA-co-PAEMAmのかわりに重量平均分子量が25,000のPEIを用いる以外は比較例7に従い、架橋芳香族ポリアミド上にPEIが配置された複合半透膜を得た。この複合半透膜をコハク酸0.1重量%とDMT-MM0.1重量%を含む水溶液に20℃で24時間接触させた後、水洗することで、実施例4の複合半透膜を得た。
【0172】
(実施例5)
比較例1で得られた複合半透膜を合成例6で得られた脂肪族ポリアミド0.01重量%とDMT-MM0.1重量%を含む水溶液に20℃で1時間接触させた後、水洗することで、実施例5の複合半透膜を得た。
【0173】
(実施例6)
比較例1で得られた複合半透膜を合成例7で得られた脂肪族ポリアミド0.01重量%とDMT-MM0.1重量%を含む水溶液に40℃で1時間接触させた後、水洗することで、実施例6の複合半透膜を得た。
【0174】
(実施例7)
比較例5で得られた複合半透膜を重量平均分子量が600のPEI0.01重量%とDMT-MM0.1重量%を含む水溶液に60℃で10分間接触させた後、水洗することで、実施例7の複合半透膜を得た。
【0175】
(実施例8)
PEIのかわりに合成例8で得られた脂肪族ポリアミドを用いる以外は比較例4に従い、実施例8の複合半透膜を得た。
【0176】
(実施例9)
比較例1で得られた複合半透膜を重量平均分子量2,000のPAA0.01重量%と重量平均分子量25,000のPEI0.01重量%とDMT-MM0.1重量%を含む水溶液に20℃で8時間接触させた後、水洗することで、実施例9の複合半透膜を得た。
【0177】
(実施例10)
比較例1で得られた複合半透膜を重量平均分子量10,000のポリアクリル酸-マレイン酸共重合体(PAA-co-PMal)0.01重量%と重量平均分子量25,000のPEI0.01重量%とDMT-MM0.2重量%を含む水溶液に40℃で1時間接触させた後、水洗することで、実施例10の複合半透膜を得た。
【0178】
以上のようにして得られた複合半透膜の分離機能層の化学構造、特性、性能値をそれぞれ表1から表3に示す。
【0179】
【表1】
【0180】
【表2】
【0181】
【表3】
【0182】
以上のように、本発明の複合半透膜は、膜汚染物質に対する高い付着抑制能を持ち、長期間安定して高い性能を維持することができる。
【0183】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2017年4月28日出願の日本特許出願(特願2017-089306)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明の複合半透膜を用いれば、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。本発明の複合半透膜は、特に、かん水又は海水の脱塩に好適に用いることができる。