(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】車両用樹脂パネル
(51)【国際特許分類】
B60J 1/18 20060101AFI20220203BHJP
B60J 1/10 20060101ALI20220203BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B60J1/18 F
B60J1/18 Z
B60J1/10 Z
B32B27/08
(21)【出願番号】P 2019233050
(22)【出願日】2019-12-24
(62)【分割の表示】P 2016142886の分割
【原出願日】2016-07-21
【審査請求日】2020-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】磯部 元成
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-100833(JP,A)
【文献】特開2014-193687(JP,A)
【文献】特開2009-067360(JP,A)
【文献】特開2011-020504(JP,A)
【文献】特開2014-040132(JP,A)
【文献】特開2014-100835(JP,A)
【文献】特開2014-124548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/18
B60J 1/10
B32B 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル面を有する第1樹脂層と、
前記パネル面の一部に積層され、前記第1樹脂層と一体化された第2樹脂層と、を備え、
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層との境界が形成された車両用樹脂パネルにおいて、
前記第2樹脂層は、
厚さがほぼ一定に形成された本体部と、
前記本体部から延在し、前記境界へ向かうにつれて厚さが薄くなっている境界部と、を備え、
前記境界部は、前記境界部の表面から突出し、液状塗料が前記境界に沿って塗布された後、前記境界に留まることができない液状塗料を前記パネル面に垂らさずに落下させる突起部を備え、
前記突起部は、棒状であり、前記境界部において前記境界から離れて位置するとともに前記パネル面に対して傾斜している軸であ
り、
前記第2樹脂層は、前記境界部が凸状に前記パネル面に張り出す張出領域を有し、
前記突起部は、前記張出領域における前記境界部に備えられたことを特徴とする車両用樹脂パネル。
【請求項2】
前記境界部の表面は、前記パネル面との間の角度が鈍角αを成すように前記パネル面に対して傾斜し、
前記突起部は、前記突起部の軸心と前記パネル面との成す角度および軸心と前記境界部の表面との成す角度が、それぞれα/2になるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用樹脂パネル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用樹脂パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用樹脂パネルに関係する従来技術としては、例えば、特許文献1に開示された自動車用ピラー構造を挙げることができる。特許文献1における従来技術の欄には、リヤピラーにおける下側フランジのエッジ部分にクリップ状の治具を挟んで固定する点が開示されている。特許文献1では、ルーフとリヤピラーの継ぎ目の隙間から液状塗料が流れることがあったとしても、液状塗料がクリップ状の治具の部分で方向変換するようにし、クリップ状の治具を伝わって流れた後、鉛直方向に流下し、液状塗料が外板の部分に流れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1におけるクリップ状の治具は、リヤピラーと別体であって、リヤピラーとクリップ状の治具をそれぞれ用意する必要があるほか、液状塗料の塗布前にリヤピラーに固定しなくてはならないという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、車両樹脂パネルと別体の治具を用意することなく、液状塗料のパネル面への垂れを防止することが可能な車両用樹脂パネルの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、パネル面を有する第1樹脂層と、前記パネル面の一部に積層され、前記第1樹脂層と一体化された第2樹脂層と、を備え、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層との境界が形成された車両用樹脂パネルにおいて、前記第2樹脂層は、厚さがほぼ一定に形成された本体部と、前記本体部から延在し、前記境界へ向かうにつれて厚さが薄くなっている境界部と、を備え、前記境界部は、前記境界部の表面から突出し、液状塗料が前記境界に沿って塗布された後、前記境界に留まることができない液状塗料を前記パネル面に垂らさずに落下させる突起部を備え、前記突起部は、棒状であり、前記境界部において前記境界から離れて位置するとともに前記パネル面に対して傾斜している軸であり、前記第2樹脂層は、前記境界部が凸状に前記パネル面に張り出す張出領域を有し、前記突起部は、前記張出領域における前記境界部に備えられたことを特徴とする。
【0007】
本発明では、突起部が第2樹脂層における境界部の表面から突出している。このため、突起部の先端が下方となるように車両用樹脂パネルの姿勢を保ち、液状塗料を第1樹脂層と第2樹脂層との境界に塗布しても、この境界に留まることができない液状塗料は、棒状であって境界部において境界から離れて位置するとともに前記パネル面に対して傾斜している軸である突起部を介して落下する。このため、境界には表面張力により留まることができる液状塗料が残り、液状塗料の境界からパネル面への垂れを防止することができる。突起部は第2樹脂層と一体形成されており、液状塗料の塗布のために別部材を用意する必要がない。
【0008】
また、第2樹脂層の張出領域は、液状塗料の塗布の際、第1樹脂層と第2樹脂層との境界に留まることができない液状塗料を生じやすい。境界に留まることができない液状塗料は張出領域における境界部に設けた突起部を介して落下する。その結果、液状塗料の張出領域からパネル面への垂れを防止することができる。
【0009】
また、上記の車両用樹脂パネルにおいて、前記境界部の表面は、前記パネル面との間の角度が鈍角αを成すように前記パネル面に対して傾斜し、前記突起部は、前記突起部の軸心と前記パネル面との成す角度および軸心と前記境界部の表面との成す角度が、それぞれα/2になるように形成されている構成であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両樹脂パネルと別体の治具を用意することなく、液状塗料のパネル面への垂れを防止することが可能な車両用樹脂パネルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る車両用樹脂パネルを適用した車両の背面図である。
【
図2】(a)は車両用樹脂パネルを適用した樹脂ウインドウを車外側となるパネル面から見た斜視図であり、(b)は同樹脂ウインドウの車室側となるパネル面から見た斜視図である。
【
図3】(a)は樹脂ウインドウの要部を拡大した斜視図であり、(b)は
図2(b)における樹脂ウインドウのS-S線矢視図である。
【0012】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る車両用樹脂パネルについて図面を参照して説明する。本実施形態は、車両のバックドアが備える樹脂ウインドウに本発明の車両用樹脂パネルが適用された例である。
【0013】
図1に示す車両10は開閉可能なバックドア11を備えている。バックドア11は金属製のドアパネル12と樹脂ウインドウ13を有する。車両10にはバックドア11を開閉可能とするヒンジ機構(図示せず)が設けられている。
図1に示すバックドア11は閉じた状態にある。ドアパネル12は樹脂ウインドウ13を保持する。バックドア11には樹脂ウインドウ13を払拭するリヤワイパ14が備えられている。
【0014】
図2、
図3に示すように、バックドア11に備えられる樹脂ウインドウ13は、一対のパネル面16A、16Bを有する第1樹脂層15と、パネル面16Bの一部に積層され、第1樹脂層15と一体化された第2樹脂層20と、を備えている。第1樹脂層15は無色透明な透過樹脂により形成されている。パネル面16Aは車外に面するパネル面であり、パネル面16Bはパネル面16Aと反対側であって車室に面するパネル面である。なお、
図2(a)~
図3(b)において、X軸は前後方向を示す座標軸であり、Y軸は左右方向を示す座標軸であり、Z軸は鉛直方向を示す座標軸である。
【0015】
図2(a)、
図2(b)に示すように、第2樹脂層20は、第1樹脂層15のパネル面16Bの外周付近に積層されている。また、第2樹脂層20は、第1樹脂層15のパネル面16Bの外周にわたって積層されて環状に形成されている。第2樹脂層20は、不透明又は半透明の着色樹脂により形成されている。つまり、本実施形態の樹脂ウインドウ13は透明樹脂と着色樹脂との二色成形により一体形成されている。本実施形態では、第2樹脂層20において樹脂ウインドウ13の上辺側となる部位を上辺部20Aとし、樹脂ウインドウ13の下辺側となる部位を下辺部20Bとし、上辺部20Aと下辺部20Bとを繋ぐ一対の部位をそれぞれ横辺部20Cとする。
【0016】
樹脂ウインドウ13には、第1樹脂層15と第2樹脂層20との境界Bが形成されている。
図3(b)に示すように、第2樹脂層20は、厚さがほぼ一定に形成された本体部21と、第1樹脂層15との境界Bを形成する境界部22とを備えている。境界部22は、本体部21から延在し、境界Bへ向かうにつれて第2樹脂層20の厚さが薄くなっている部位である。本体部21の表面21Aは、第1樹脂層15のパネル面16Bとほぼ平行な面である。境界部22の表面22Aは、表面22Aと露出されているパネル面16Bとの間の角度が鈍角αを成すように、表面21Aおよびパネル面16Bに対して傾斜している。表面21Aおよび表面22Aは第2樹脂層20の表面を構成する。
【0017】
樹脂ウインドウ13には、リヤワイパ14の取り付けのための孔23が設けられている。孔23は樹脂ウインドウ13の下辺付近の中央にて第1樹脂層15と第2樹脂層20を貫通するように設けられている。孔23は樹脂ウインドウ13の二色成形後に孔開け加工により形成される。第2樹脂層20は孔23の周囲を囲むように形成されている。
図3(a)に示すように、孔23付近では、第1樹脂層15と第2樹脂層20との境界Bがパネル面16Bの中心へ向けて張り出している。従って、第2樹脂層20は、本体部21および境界部22が凸状にパネル面16Bに張り出す張出領域24を有する。第2樹脂層20における張出領域24を除く領域(非張出領域)での境界Bは、樹脂ウインドウ13の外周縁にほぼ倣う緩やかに湾曲したラインを描くが、張出領域24における境界部22では境界Bが山形状に膨らむラインを描いている。なお、本実施形態では、下辺部20Bにおいて張出領域24を除く帯状領域と、上辺部20Aおよび横辺部20Cによる帯状領域とが、第2樹脂層20における張出領域24を除く非張出領域に相当する。
【0018】
本実施形態では、張出領域24における境界部22には丸棒の突起部25が形成されている。突起部25は、樹脂ウインドウ13の二色成形時に形成され、
図3(b)に示すように、境界部22の表面22Aから突出するように第2樹脂層20と一体形成されている。突起部25は、液状塗料Pが境界Bに沿って塗布された後、境界Bに留まることができない液状塗料Pをパネル面16Bに垂らさずに鉛直下方へ落下させるためのものである。
図3(a)に示すように、突起部25は、張出領域24において最も張り出している頂点付近に設けられている。
【0019】
図3(b)に示すように、突起部25の軸心Cとパネル面16Bとの成す角度および軸心Cと表面22Aとの成す角度が、それぞれα/2になるように、突起部25は形成されている。突起部25の軸心C方向は、樹脂ウインドウ13の二色成形時において成形型(図示せず)から突起部25の抜き出しを可能とする方向である。なお、本実施形態では、突起部25の軸心Cとパネル面16Bとの成す角度および軸心Cと表面22Aとの成す角度が、それぞれα/2になるとしたがこの限りではない。パネル面16Bに液状塗料Pが流れないように、液状塗料Pを境界Bから突起部25へ誘導できるのであればこれらの角度は自由である。
【0020】
次に、樹脂ウインドウ13への液状塗料Pの塗布方法について説明する。樹脂ウインドウ13のパネル面16Bにおける境界BにはノズルNを用いることによって液状塗料Pが塗布される。本実施形態の液状塗料Pは、樹脂ウインドウ13に耐候性、耐摩耗性等を付与するためのハードコート剤であり、水と同程度の表面張力を有する。
【0021】
本実施形態では、
図2(b)に示すように、樹脂ウインドウ13のパネル面16Bを下方へ向けるとともに、下辺部20Bが上辺部20Aよりも上方に位置するように、樹脂ウインドウ13を保持する。樹脂ウインドウ13を保持する手段としては、例えば、支持台(図示せず)である。支持台により保持された樹脂ウインドウ13では、張出領域24の頂点は下辺部20Bの境界Bにおいて最も低い位置となり、突起部25の先端は第2樹脂層20よりも下方となる。そして、支持台に保持された樹脂ウインドウ13では、境界Bにおいて張出領域24を除く範囲では、張出領域24における境界Bよりも液状塗料Pを表面張力によって保持し易い状態である。
【0022】
ノズルNは、
図3(a)に示す経路Rを移動して境界Bに液状塗料Pを塗布する。ノズルNの移動手段としては、例えば、多軸制御ロボットを用いる。ノズルNにより塗布された液状塗料Pは表面張力により境界Bに留まろうとするが、下辺部20Bの境界Bにおいて最も下方の位置となる張出領域24の頂点へ向けて集まる。張出領域24の頂点に集まった液状塗料Pが境界Bに留まることができなくなると、突起部25へ流れ込み、突起部25の先端から鉛直下方へ落下する。因みに、突起部25を備えない樹脂ウインドウでは、境界Bに留まることができなくなった液状塗料Pはパネル面16Bを流れて垂れとなる。パネル面16Bに垂れた液状塗料Pは、第1樹脂層15の透過性能を低下させることになり、パネル面16Bに垂れた液状塗料Pを除去する作業が必要となる。本実施形態の樹脂ウインドウ13では、液状塗料Pが突起部25の先端から鉛直下方へ落下するため、境界Bには表面張力により留まることができる液状塗料Pが残り、張出領域24からパネル面16Bへ液状塗料Pが流れて垂れることはない。
【0023】
本実施形態では、樹脂ウインドウ13において境界Bに留まることができなった液状塗料Pが突起部25を通じて除去されると、樹脂ウインドウ13は次工程へ向けて移送される。最終的に突起部25は根元からの切除、あるいは切削により、樹脂ウインドウ13から除去される。なお、
図3(a)では孔23を示しているが、孔23は液状塗料Pの塗布後の後工程において形成される。なお、本実施形態では、突起部25を除去したが、場合によっては、突起部25は樹脂ウインドウ13から除去せずに残すようにしてもよい。
【0024】
本実施形態に係る樹脂ウインドウ13によれば以下の作用効果を奏する。
(1)第2樹脂層20に備えられた突起部25が第2樹脂層20における境界部22の表面から突出している。このため、突起部25の先端が第2樹脂層20よりも下方となるように樹脂ウインドウ13の姿勢を保ち、液状塗料Pを第1樹脂層15と第2樹脂層20との境界Bに塗布しても、境界Bに留まることができない液状塗料Pは突起部25を介して鉛直下方へ落下する。その結果、境界Bには表面張力により留まることができる液状塗料Pが残り、液状塗料Pの境界Bからパネル面16Bへの垂れを防止することができる。突起部25は第2樹脂層20と一体形成されており、液状塗料Pの塗布のために別部材を用意する必要がない。
【0025】
(2)第2樹脂層20の張出領域24は、液状塗料Pを第1樹脂層15と第2樹脂層20との境界Bに留まることができない液状塗料Pを生じやすい。境界Bに留まることができない液状塗料Pは張出領域24における境界部22に設けた突起部25を介して鉛直下方へ落下する。その結果、張出領域24における境界Bには表面張力により留まることができる液状塗料Pが残り、液状塗料Pの張出領域24からパネル面16Bへの垂れを防止することができる。
【0026】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0027】
○ 上記の実施形態では、車両用樹脂パネルとしての樹脂ウインドウについて例示したが、車両用樹脂パネルは樹脂ウインドウに限定されない。車両用樹脂パネルは、機能面・意匠面としてのパネル面を有する第1樹脂層と、パネル面の一部に積層され、第1樹脂層と一体化された第2樹脂層と、を備える構成であればよい。
○ 上記の実施形態では、バックドアにおいてドアパネルに保持される樹脂ウインドウの例について説明したがこの限りではない。バックドア全体が車両用樹脂パネルであって、バックドアの一部がウインドウの機能を果たす構成であってもよい。また、車両用樹脂パネルはバックドア以外のドアに適用してもよいし、ドア以外に用いる車両用樹脂パネルであってもよい。
○ 上記の実施形態では、突起部は境界部にのみ備えられるとしたが、この限りではない。例えば、突起部が境界部だけでなく第2樹脂層の本体部へ延在してもよい。突起部は少なくとも境界部に備えられていればよい。
○ 上記の実施形態では、単一のノズルを移動させて液状塗料を第1樹脂層と第2樹脂層との境界に塗布するとしたが、複数のノズルを用いて液状塗料を第1樹脂層と第2樹脂層との境界に塗布してもよい。また、液状塗料の塗布は、液状塗料を吐出するノズルに限らず、例えば、噴霧によるミスト状の塗布、あるいは刷毛塗りによる塗布であってもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 車両
13 樹脂ウインドウ
15 第1樹脂層
16A、16B パネル面
20 第2樹脂層
21 本体部
21A 表面(本体部)
22 境界部
22A 表面(境界部)
24 張出領域
25 突起部
B 境界
N ノズル
P 液状塗料